説明

電動倍力装置

【課題】入力部材の絶対変位量に応じて、入力部材とアシスト部材との相対変位関係が可変となるように変位量制御することができるようにすることで、所望する種々のブレーキ特性を得ることができ、ブレーキフィーリングの改善を行い得る電動倍力装置を提供する。
【解決手段】ポテンショメータ86(入力絶対変位量検出手段)の検出信号に応じて、入力ピストンとブースタピストンとの相対変位関係が可変となる目標変位量を設定し、両ピストンの相対変位量を検出する相対変位センサ100からの信号に基づき、両ピストンの相対変位量が前記目標変位量となるように変位量制御する。このように入力ピストンとブースタピストンとの相対変位量を制御することでブレーキアシスト制御など種々のブレーキ特性を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のブレーキ機構等に用いられる電動倍力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動アクチュエータによりペダル入力を倍力してマスタシリンダに出力する電動倍力装置がある。このような電動倍力装置として特許文献1〜3に示される電動倍力装置がある。
特許文献1に示される電動倍力装置は、入力ロッドによるマスタシリンダへの伝達力をアシストするように設けたアシスト部材(電磁装置)と、入力ロッド及びアシスト部材の相対変位量を検出する相対変位センサとを備え、入力ロッド及びアシスト部材が一体的に変位するように、すなわち相対変位センサが検出する相対変位量が0となるように、アシスト部材の変位を制御している。
【0003】
特許文献2に示される電動倍力装置は、ペダル入力を受ける入力ロッド及びアシスト部材(ピストン軸)を連結し、入力ロッドが押圧されると、コントローラが電動機の発生力をアシスト部材に付与することによりアシスト部材を入力ロッドと一体に変位、これによりペダル入力を倍力してマスタシリンダに出力するようにしている。
特許文献3に示される電動倍力装置は、ペダル入力を受ける入力ロッドに連動するアシスト部材(主ピストン)について、その一端部がマスタシリンダの圧力室に面しており、入力ロッドが押圧されると、コントローラが電動機の発生力をアシスト部材に付与することによりアシスト部材を変位させ、これによりペダル入力を倍力してマスタシリンダに出力するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−92151号公報
【特許文献2】特開平10−53122号公報
【特許文献3】特開平10−138909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜3に示される装置においては、入力部材とアシスト部材との相対変位量が常に一定となるようにアシスト部材を制御しており、入力部材とアシスト部材との相対変位関係を変化させるようにアシスト部材の変位量を制御することができない。また、入力部材の絶対変位量を検出しこれに応じて、入力部材とアシスト部材との相対変位関係を自由に変位量制御するようにはなっていない。
すなわち、特許文献1に示される装置では、入力部材とアシスト部材との相対変位量を常に0になるように制御しており、入力部材とアシスト部材との相対変位関係を可変に制御することができない。また、特許文献1に示される装置は、入力部材の絶対変位量を検出しておらず、この絶対変位量に応じて上記両部材の相対変位関係を自由に変位量制御する技術を含んでいない。
【0006】
また、特許文献2に示される装置では、入力部材とアシスト部材とが一体的に移動するようになっており、このため、当然に入力部材とアシスト部材との相対変位関係を可変とすることができない。また、特許文献2に示される装置は、入力部材の絶対変位量を検出しておらず、この絶対変位量に応じて上記両部材の相対変位関係を自由に変位量制御する技術を含んでいない。
【0007】
さらに、特許文献3に示される装置では、入力部材とアシスト部材とが相対変位できるようになっているものの、両部材の相対変位量を検知することについては全く考慮されておらず、このため、入力部材とアシスト部材との相対変位関係を可変に制御することはできない。また、特許文献3に示される装置は、入力部材の絶対変位量を検出しておらず、この絶対変位量に応じて上記両部材の相対変位関係を自由に変位量制御する技術を含んでいない。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、入力部材の絶対変位量(推定量も含む)に応じて、入力部材とアシスト部材との相対変位関係が可変となるように変位量制御することができるようにすることで、所望する種々のブレーキ特性を得ることができ、ブレーキフィーリングの改善を行い得る電動倍力装置を提供することにある
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)請求項1記載の発明は、ブレーキペダルの操作により進退移動する入力部材と、該入力部材に相対移動可能に配置されたアシスト部材と、該アシスト部材を進退移動させる電動アクチュエータとを備え、前記ブレーキペダルによる前記入力部材の移動に応じて前記アシスト部材に付与されるアシスト推力によりマスタシリンダ内に倍力されたブレーキ液圧を発生させる電動倍力装置において、前記入力部材の絶対変位量を検出するための入力絶対変位量検出手段と、前記入力部材と前記アシスト部材との相対変位量を検出する相対変位量検出手段または前記アシスト部材の絶対変位量を検出するアシスト絶対変位量検出手段のうちのいずれか1つとを備え、前記入力絶対変位量検出手段の検出信号に応じて、前記入力部材と前記アシスト部材との相対変位関係が可変となる目標変位量を設定し、前記相対変位量検出手段または前記アシスト絶対変位量検出手段からの信号に基づき、前記入力部材と前記アシスト部材との相対変位関係が前記目標変位量となるように前記電動アクチュエータを制御する制御手段が設けられていることを特徴とする。
(2)(1)に記載の電動倍力装置において、前記ブレーキペダルから前記入力部材に付与される入力推力と前記電動アクチュエータから前記アシスト部材に付与されるアシスト推力とにより、マスタシリンダ内にブレーキ液圧を発生させ、前記入力部材と前記アシスト部材とが相対変位したときでも、該ブレーキ液圧による反力の一部を前記入力部材に、他の一部を前記アシスト部材にそれぞれ伝達するようにしたことを特徴とする。
(3)(1)または(2)に記載の電動倍力装置において、前記入力部材と前記アシスト部材との間には、前記アシスト部材に対して前記入力部材を両者の相対変位の中立位置に向けて付勢する付勢手段を設けたことを特徴とする。
(4)(1)乃至(3)のいずれかに記載の電動倍力装置において、前記制御手段は、ブレーキ液圧を増加する方向へ前記入力部材が移動するに従い、前記入力部材の絶対変位量に比べて前記アシスト部材の絶対変位量が大きくまたは小さくなるように前記電動アクチュエータを制御することを特徴とする。
(5)(1)乃至(3)のいずれかに記載の電動倍力装置において、前記制御手段は、前記入力絶対変位量検出手段からの信号に基づき、前記入力部材の絶対変位量が初期位置から所定量移動したことを検出したときに、前記アシスト部材を変位させ始めて、前記アシスト部材の絶対変位量が前記入力部材の絶対変位量と同じかまたはこれよりも大きくなるように前記電動アクチュエータを制御することを特徴とする。
(6)(1)乃至(3)のいずれかに記載の電動倍力装置において、前記制御手段は、前記入力絶対変位量検出手段により検出される前記入力部材の絶対変位量が所定量となったときに、前記入力部材の絶対変位量に比べて前記アシスト部材の絶対変位量が大きくなるように前記電動アクチュエータを制御することを特徴とする。
(7)(1)乃至(3)のいずれかに記載の電動倍力装置において、前記制御手段は、前記入力絶対変位量検出手段により検出される前記入力部材の絶対変位量から前記入力部材の移動速度が所定速度となったと判断したときに、前記入力部材の絶対変位量に比べてアシスト部材の絶対変位量が大きくなるように前記電動アクチュエータを制御することを特徴とする。
(8)(1)乃至(3)のいずれかに記載の電動倍力装置において、前記制御手段は、前記入力絶対変位量検出手段により検出される前記入力部材の絶対変位量から前記入力部材のブレーキ液圧を増加する方向への移動が停止したと判断したときに、前記入力部材に対して前記アシスト部材がブレーキ液圧を増加する方向へ所定量変位するように前記電動アクチュエータを制御することを特徴とする。
(9)(1)乃至(3)のいずれかに記載の電動倍力装置において、前記制御手段は、アクセルペダルの操作を検知するアクセルセンサまたはエンジンスロットルの開閉を検知するスロットルセンサに接続され、アクセルペダルの操作が解除されたことを前記アクセルセンサが検知したときまたは前記エンジンスロットルが閉となったことを前記スロットルセンサが検知したときに、前記マスタシリンダの無効ストローク分を減らすため、前記入力部材に対して前記アシスト部材がブレーキ液圧を増加する方向へ変位するように前記電動アクチュエータを制御することを特徴とする。
(10)(1)乃至(3)のいずれかに記載の電動倍力装置において、前記制御手段は、回生制動システムによる制動作動が行われる場合に、前記アシスト部材が前記入力部材に対してブレーキ液圧を減少する方向へ相対変位した関係となるように前記電動アクチュエータを制御することを特徴とする。
(11)(1)乃至(3)のいずれかに記載の電動倍力装置において、前記入力絶対変位量検出手段は、前記固定部に対する前記入力部材の絶対変位量を検出する変位センサであることを特徴とする。
(12)(1)乃至(3)のいずれかに記載の電動倍力装置において、前記入力絶対変位量検出手段は、前記ブレーキペダルからの踏力を検出する踏力センサ、電動アクチュエータを構成する電動モータヘの電流量を検出する電流センサ、または、マスタシリンダのピストンにより発生する液圧を検出する液圧センサのいずれかの検出信号を演算することで、前記入力部材の絶対変位量を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
(1)から(12)に記載の発明によれば、入力絶対変位量検出手段の検出信号に応じて、前記入力部材と前記アシスト部材との相対変位関係を可変とする変位量制御することにより、例えば、ブレーキアシストの制御など種々のブレーキ特性を得ることができ、しかも、一般に低液圧領域ではストロークに対する液圧の変化が、高液圧領域に比べて小さいという事情があることを考慮すると、ストロークを制御する変位量制御とすることによりブレーキとして多用される低液圧領域での制動を高精度で行うことができるメリットがある。
(2)に記載の発明によれば、入力部材がブレーキ液圧による反力の一部を受けるようになっているので、入力部材とアシスト部材との相対変位関係を変更することにより、入力部材のストロークに対して発生するブレーキ液圧を増減させ、この液圧の増減に応じて入力部材のストロークに対する踏力を変更することができ、これにより、入力部材のストロークとブレーキ液圧及び踏力との関係を所望のものに調整することができる。
請求項3に記載の発明によれば、アシスト部材に対して入力部材を両者の相対変位の中立位置に向けて付勢する付勢手段を設けているので、入力部材とアシスト部材との相対変位関係を変更することにより、倍力比を可変とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電動倍力装置を示す断面図である。
【図2】図1の電動倍力装置における圧力平衡を説明するための模式図である。
【図3】図1の電動倍力装置のコントローラを含む制御系を示すブロック図である。
【図4】図1のコントローラが行い得る一定倍力制御に用いる目標変位量算出特性データ(入力ストローク−相対変位量特性)を(b)に示し、この(b)の目標変位量算出特性データに対応した入力ストローク及びアシストストロークの特性データを(a)に、(b)の目標変位量算出特性データに対応した入力ストローク及び液圧の対応関係を(c)に示した図である。
【図5】図1のコントローラが行う可変倍力制御に用いる目標変位量算出特性データを(b)に示し、(a)、(c)に、図4(a)、(c)に対応した特性データを示した図である。
【図6】図1のコントローラが行うジャンプイン制御に用いる目標変位量算出特性データを(b)に示し、(a)、(c)に、図4(a)、(c)に対応した特性データを示した図である。
【図7】図1のコントローラ92が行うブレーキアシスト制御に用いる目標変位量算出特性データを(b)に示し、(a)、(c)に、図4(a)、(c)に対応した特性データを示した図である。
【図8】図1のコントローラが行うビルドアップ制御に用いる目標変位量算出特性データを(b)に示し、(a)、(c)に、図4(a)、(c)に対応した特性データを示し、かつ(d)に経過時間おける入力ストローク及び液圧の変化を示した図である。
【図9】図1のコントローラが行う回生協調制御に用いる目標変位量算出特性データを(b)に示し、(a)、(c)に、図4(a)、(c)に対応した特性データを示した図である。
【図10】図1のコントローラが行う減倍力制御に用いる目標変位量算出特性データを(b)に示し、(a)、(c)に、図4(a)、(c)に対応した特性データを示した図である。
【図11】図1の電動倍力装置の作用を説明するための基本フローを示すフローチャートである。
【図12】図11の基本フローのステップS2の内容を各種制御に対応させるために変更したフローチャートである。
【図13】図12のステップS101に対応して図12のフローと並行処理される入力速度BAフラグ生成フローを示すフローチャートである。
【図14】図12のステップS103に対応して図12のフローと並行処理されるビルドアップフラグ生成フローを示すフローチャートである。
【図15】図12のステップS105に対応して図12のフローと並行処理される回生協調フラグ生成フローを示すフローチャートである。
【図16】図12のステップS106の内容に相当する回生協調目標変位量設定フローを示すフローチャートである。
【図17】第1実施形態で用いられる無効ストローク低減制御フローを示すフローチャートである。
【図18】本発明の第2実施形態に係る電動倍力装置を示す断面図である。
【図19】図18の電動倍力装置のコントローラを含む制御系を示すブロック図である。
【図20】図18の電動倍力装置の作用を説明するための基本フローを示すフローチャートである。
【図21】第2実施形態の第1変形例を模式的に示す図である。
【図22】図21の第2実施形態の第1変形例における相対変位をずらした時の入力ストロークと出力との関係を示す図である。
【図23】入力絶対変位量検出手段として液圧センサ、踏力センサ又は電流センサを用いることができることを説明するための模式図である。
【図24】マスタシリンダ圧力室2Aの液量Vと液圧Pbとの関係を示した図である。
【図25】本発明の第3実施形態に係る電動倍力装置の制御系を示すブロック図である。
【図26】第3実施形態に係る電動倍力装置の作用を説明するための基本フローを示すフローチャートである。
【図27】図26の基本フローのステップS702の内容を各種制御に対応させるために変更したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の第1実施形態に係る電動倍力装置を図1〜図17に基づいて説明する。
図1において、電動倍力装置50は、タンデムマスタシリンダ2のプライマリピストンとして共用されるピストン組立体51と、ピストン組立体51を構成するブースタピストン(アシスト部材)52に推力(ブースタ推力)を付与する電動アクチュエータ53と、を備えている。ピストン組立体51は、車室壁3に固定したハウジング54の内部に配設され、電動アクチュエータ53はハウジング54の外部に配設されている。
ハウジング54は、リング形状の取付部材55を介して車室壁3の前面に固定された第1筒体56と、第1筒体56に同軸に連結された第2筒体57と、からなっている。第2筒体57の前端にタンデムマスタシリンダ2が連結されている。第1筒体56には支持板63が取付けられている。支持板63に電動アクチュエータ53を構成する電動モータ64が固定されている。なお、取付部材55は、その内径ボス部55aが車室壁3の開口3aに位置するように車室壁3に固定されている。電動モータ64はここではDCブラシレスモータからなっている。
【0013】
タンデムマスタシリンダ2は、有底のシリンダ本体10とリザーバ11とを備えており、シリンダ本体10内の奥側には、前記プライマリピストンとしてのピストン組立体51と対をなすセカンダリピストン12が摺動可能に配設されている。シリンダ本体10内にはまた、ピストン組立体51とセカンダリピストン12とにより2つの圧力室13、14が画成されており、前記両ピストン(ピストン組立体51及びセカンダリピストン12)の前進に応じて各圧力室13、14内に封じ込められているブレーキ液が、対応する系統のホイールシリンダへ圧送されるようになる。
【0014】
また、シリンダ本体10の壁には、各圧力室13、14内とリザーバ11とを連通するリリーフポート15が形成され、さらに、シリンダ本体10の内面には、前記リリーフポート15の前側にそれぞれシール部材16が配設されている。 各圧力室13、14は、前記両ピストン(ピストン組立体51及びセカンダリピストン12)の前進に応じて、前記一対のシール部材16が対応するピストン組立体51のブースタピストン52とセカンダリピストン12の外周面(後述の貫通孔18より後側の外周面)に摺接することで、リリーフポート15に対して閉じられるようになる。なお、各圧力室13、14内には、前記ピストン組立体51のブースタピストン52とセカンダリピストン12とを後方へ付勢する戻しばね17が配設されている。また、ブースタピストン52及びセカンダリピストン12の前端部には、図示したブレーキ非作動時の初期位置においてマスタシリンダ2内のリリーフポート15に連通可能な貫通孔18が穿設されている。
【0015】
ピストン組立体51は、ブースタピストン52にこれと相対移動可能に入力ピストン(入力部材)58を内装している。入力ピストン58は、その後端に設けた大径部58aにブレーキペダル8から延ばしたペダル側軸9を連結させることで、ブレーキペダル8の操作(ペダル操作)により進退移動するようになっている。この場合、ペダル側軸9は、大径部58aに設けられた球面状凹部58bに先端部を嵌合させた状態で連結されており、これによりペダル側軸9の揺動が許容されている。
【0016】
ピストン組立体51を構成するブースタピストン52は、その内部の長手方向中間部位に隔壁59を有しており、入力ピストン58がこの隔壁59を挿通して延ばされている。ブースタピストン52の前端側は、マスタシリンダ2内の圧力室(プライマリ室)13に挿入され、一方、入力ピストン58の前端側は、同じ圧力室13内のブースタピストン52の内側に配置されている。ブースタピストン52と入力ピストン58との間はブースタピストン52の隔壁59の前側に配置したシール部材60により、ブースタピストン52とマスタシリンダ2のシリンダ本体10のガイド10aとの間は前記シール部材16によりそれぞれシールされており、これにより圧力室13からマスタシリンダ2外へのブレーキ液の漏出が防止されている。ブースタピストン52及びセカンダリピストン12の前端部には、図示したブレーキ非作動時の初期位置においてマスタシリンダ2内のリリーフポート15に連通可能な貫通孔18が穿設されている。
【0017】
電動アクチュエータ53は、ハウジング54の第1筒体56と一体の支持板63に固定された電動モータ64と、第1筒体56の内部に入力ピストン58を囲んで配設されたボールねじ機構(回転−直動変換機構)65と、電動モータ64の回転を減速してボールねじ機構65に伝達する回転伝達機構66とから概略構成されている。
ボールねじ機構65は、軸受(アンギュラコンタクト軸受)67を介して第1筒体56に回動自在に支持されたナット部材(回転部材)68とこのナット部材68にボール(符号省略)を介して噛合わされた中空のねじ軸(直動部材)70とからなっている。ねじ軸70の後端部は、ハウジング54の取付部材55に固定したリングガイド71に回動不能にかつ摺動可能に支持されており、これによりナット部材68の回転に応じてねじ軸70が直動するようになる。
【0018】
一方、回転伝達機構66は、電動モータ64の出力軸64aに取付けられた第1プーリ72と、ナット部材68にキー73を介して回動不能に嵌合された第2プーリ74と前記2つのプーリ72、74間に掛け回されたベルト(タイミングベルト)75とからなっている。第2プーリ74は第1プーリ72に比べて大径となっており、これにより電動モータ64の回転は減速してボールねじ機構65のナット部材68に伝達される。また、軸受67には、ナット部材68にねじ込んだナット76により第2プーリ74及びカラー77を介して与圧がかけられている。なお、回転伝達機構66は上記したプーリ、ベルトに限らず、減速歯車機構等であってもよい。
【0019】
ボールねじ機構65を構成する中空のねじ軸70の前端部にはフランジ部材78が、その後端部には筒状ガイド79がそれぞれ嵌合固定されている。フランジ部材78及び筒状ガイド79は入力ピストン58を摺動案内するガイドとして機能するようにそれぞれの内径が設定されている。フランジ部材78は、ねじ軸70の、図1中、左方向への前進に応じてブースタピストン52の後端に当接するようになっており、これに応じてブースタピストン52も前進する。また、ハウジング54を構成する第2筒体57の内部には、該第2筒体57の内面に形成した環状突起80に一端が係止され、他端がフランジ部材78に衝合する戻しばね81が配設されており、ねじ軸70は、ブレーキ非作動時にこの戻しばね81により図示の初期位置に位置決めされる。
【0020】
入力ピストン58とブースタピストン52との相互間には、環状空間82が画成されている。環状空間82には、一対のばね(付勢手段)85(85A、85B)が配設されている。一対のばね85(85A、85B)は、その各一端が入力ピストン58に設けたフランジ部83に係止され、ばね85Aの他端がブースタピストン52の隔壁59に係止され、ばね85Bの他端がブースタピストン52の後端部に嵌着した止め輪84に係止されている。一対のばね85は、ブースタピストン52に対して入力ピストン58を両者の相対変位の中立位置に向けて付勢し、ブレーキ非作動時に入力ピストン58とブースタピストン52とを相対移動の中立位置に保持する役割をなしている。また、上記一対のばね85により、入力ピストン58とブースタピストン52とが中立位置からいずれかの方向に相対変位したとき、ブースタピストン52に対して入力ピストン58を中立位置に戻す付勢力が作用することになる。
【0021】
本第1実施形態において、車室内には、車体に対する入力ピストン58の絶対変位量(適宜、入力絶対変位検出値Aともいう。)を検出する入力絶対変位量検出手段の一例であるポテンショメータ86(変位センサ)が配設されている。このポテンショメータ86は、抵抗体を内蔵した本体部87と、本体部87から入力ピストン58と平行にブレーキペダル8側に延ばされたセンサロッド88とからなっている。ポテンショメータ86は、ハウジング54の取付部材55のボス部55aに固定したブラケット89に入力ピストン58と平行をなすように取付けられている。センサロッド88は、本体部87に内蔵したばねにより、常に伸長方向へ付勢され、入力ピストン58の後端部に固定されたブラケット90に先端を当接させている。
【0022】
入力ピストン58とねじ軸70との間には、入力ピストン58とブースタピストン52との相対変位量(以下、相対変位検出値Bともいう。)を検出する相対変位センサ100(相対変位量検出手段)が介在されており、入力ピストン58とねじ軸70〔ひいてはブースタピストン52〕との相対変位量を検出するようにしている。相対変位センサ100は、物理的に入力ピストン58とブースタピストン52との相対変位量を検出して検出データをコントローラ92に出力するようになっている。
ポテンショメータ86、相対変位センサ100及び電動モータ64の図示しない駆動部にはコントローラ92(制御手段)が接続されている。
また、コントローラ92には、アクセルペダル(図示せず)の操作を検知するアクセルセンサ(図示せず)またはエンジンスロットル(図示せず)の開閉を検知するスロットルセンサ(図示せず)が接続され、アクセルペダルの操作が解除されたことを前記アクセルセンサが検知したとき、または前記エンジンスロットルが閉となったことを前記スロットルセンサが検知したときに、マスタシリンダ2の無効ストローク分を減らすため、入力ピストン58に対してブースタピストン52がブレーキ液圧を増加する方向へ変位するように電動アクチュエータ53を制御するようにしている(無効ストローク低減制御)。
【0023】
コントローラ92は、図3に示すように、メモリ101を有し、このメモリ101に、後述する演算・制御内容〔図11〜17のフローチャート〕を有するプログラム、後述する入力ストロークとこれに対応する相対変位量とを用いて表示される目標変位量算出特性データ〔図4〜10の(b)欄に示す。〕及び図9(d)の入力ストローク−液圧特性データを格納している。
【0024】
コントローラ92は、メモリ101に加え、図3に示すように、微分回路102、目標変位量設定器103、減算回路104及び制御器105を備えている。
微分回路102は、ポテンショメータ86が検出した絶対変位量を微分して速度V(適宜、速度信号Vという。)を算出する。目標変位量設定器103は、微分回路102からの速度信号V及びポテンショメータ86の検出信号(入力絶対変位検出値A)の入力を受け目標変位量C(相対変位量)を設定し、これを減算回路104に入力する。
減算回路104は、目標変位量設定器103が出力する目標変位量Cから相対変位センサ100が検出した相対変位量(相対変位検出値B)を減算〔C−B〕して偏差を求める。
制御器105は、減算回路104が得た偏差の入力を受けて電動モータ64への供給電流を求め、電動モータ64の駆動部を制御する。
【0025】
そして、この実施形態では、コントローラ92により、図3に示すように、電動モータ64及び伝達機構〔回転伝達機構66、ボールねじ機構65(ナット部材68、ねじ軸70)〕が、この順に制御され、ねじ軸70の作動及び戻しばね81のばね力によりブースタピストン52が変位(前進及び後退)する。そして、このブースタピストン52の変位分が入力ピストン58の変位に加算されて、マスタシリンダの液圧が調整されると共に、ブースタピストン52の変位とポテンショメータ86の変位との差分(相対変位検出値B)が相対変位センサ100に検出される。この検出データ(相対変位検出値B)がコントローラ92にフィードバックされて、電動モータ64ひいては前記液圧の制御に用いられる。
【0026】
すなわち、コントローラ92は、ポテンショメータ86の検出信号(入力ストローク。入力絶対変位検出値Aに相当する。)に応じて、入力ピストン58とブースタピストン52との相対変位関係が可変となる目標変位量Cを設定し、相対変位センサ100の検出信号(相対変位検出値B)に基づき、入力ピストン58とブースタピストン52との相対変位関係(相対変位検出値B)が前記目標変位量Cとなるように電動モータ64を制御する。
前記目標変位量Cの設定は、予め求められている図4〜10の(b)欄に示す目標変位量算出特性データを用いて後述するようにして行われる。
【0027】
コントローラ92は、前記プログラムを実行することにより、一定倍力制御、可変倍力制御、ジャンプイン制御、ブレーキアシスト制御、ビルドアップ制御、回生協調制御、減倍力制御、無効ストローク低減制御を行えるようになっている。
一定倍力制御は、背景技術で述べたものと同じく、入力ピストン58及びブースタピストン52を一体的に変位させる(入力ピストン58に対してブースタピストン52が常に上述の中立位置となるように相対変位0で変位させる)ものであり、入力ピストン58のストローク(適宜、入力ストロークという。)を横軸、ブースタピストン(アシスト部材)52のストローク(適宜、アシストストロークという。)を縦軸にするとアシストストロークが図4(a)の実線で示される特性となる制御方法である。そして、このような制御を行うことにより、図4(c)に示されるように、入力ピストン58の前進に伴いマスタシリンダ2で発生する液圧が2次曲線、3次曲線、あるいはこれらにそれ以上の高次曲線等が複合した多次曲線(以下、これらを総称して多次曲線という)状に大きくなる。
【0028】
入力ストロークを横軸、入力ピストン58とブースタピストン52との相対変位量を縦軸にすると、図4(a)に示される特性データ及び図4(c)に示される特性データで示される一定倍力制御の特性を、図4(b)に示す目標変位量算出特性データで表現することができる。図4(b)で実線は入力ピストン58とブースタピストン52との相対変位量である。図4(b)の実線で示すように入力ピストン58とブースタピストン52との相対変位量が常に0であるように電動モータ64を制御すると、図4(c)に示される液圧特性が得られる。
上記一定倍力制御は背景技術で述べたものと同様であるが、次に、本願発明の特長である入力ピストン58とブースタピストン52との相対変位関係を可変とした可変倍力制御、ジャンプイン制御、ブレーキアシスト制御、ビルドアップ制御、回生協調制御、減倍力制御の各制御について説明する。なお、図5〜図10の各(a)(b)(c)における破線は、図4の(a)(b)(c)で入力ピストン58とブースタピストン52との相対変位量が常に0となるように変位させる一定倍力制御の特性を示す。
【0029】
まず、可変倍力制御は、図5(a)実線に示されるように入力ピストン58の前進に対してブースタピストン52の前進をより進め、ブースタピストン52と入力ピストン58との相対変位量が入力ピストン58の前進に伴い大きくなり、これに対応して入力ピストン58の前進に伴うマスタシリンダ2で発生する液圧の増加(多次曲線状に増加する特性)が、図5(c)の実線に示されるように大きくなるようにする制御方法である。
可変倍力制御としては、上記制御〔ブレーキ液圧を増加する方向へ入力ピストン58が移動するに従い、入力ピストン58の絶対変位量に比べてブースタピストン52の絶対変位量が大きくなるように電動アクチュエータ53を制御すること〕に加え、ブレーキ液圧を増加する方向へ入力ピストン58が移動するに従い、入力ピストン58の絶対変位量に比べてブースタピストン52の絶対変位量が小さくなるように電動アクチュエータ53を制御することを含めるようにしてもよい。
【0030】
図5(b)の目標変位量算出特性データは、図5(a)、(c)に対応して検証により得られたものである。そして、例えば入力ストロークの一つの値ns1に対応して相対変位量として一つの値(以下、目標変位量ともいう)X1が定まるように電動モータ64を制御すると、目標変位量X1に対応する大きさの液圧ea1がマスタシリンダ2で発生するようになっている。
【0031】
図5(b)に示されるように、入力ストロークの変化に対応して相対変位量は変化し、かつこの相対変位量が目標変位量として設定されるようになっており、このように目標変位量C(相対変位量)が入力ピストン58のストロークに応じて変えられることが、請求項1の「前記入力部材と前記アシスト部材との相対変位関係が可変となる目標変位量を設定し、」に相当するものになっている。このことは、図5(b)に限らず、図6〜10の各(b)欄についても同様である。
【0032】
ジャンプイン制御は、入力ピストン58の絶対変位量が初期位置から所定量ns2移動したことをポテンショメータ86が検出したときに、ブースタピストン52を変位させ始めて、ブースタピストン52の変位が入力ピストン58の変位と同じ(ブースタピストン52に対して入力ピストン58が中立位置となるように相対変位0で変位させる)か、またはこれよりも大きくなるように電動アクチュエータ53を制御する制御方法である。そして、本実施形態では、上記制御方法の実現のために、図6(a)に示されるように入力ピストン58が所定量ns2変位するまでは、ブースタピストン52は変位せず、前記所定量ns2の変化に伴い、急激に変位し、その後、入力ピストン58と一体に変位する。これにより、図6(c)に示されるように、入力ピストン58が所定量ns2変位するまでは、マスタシリンダ2で液圧が発生せず、入力ピストン58の所定量ns2の変位の後、マスタシリンダ2で液圧が急激に発生し、その液圧を入力ピストン58の前進に伴い多次曲線状に大きくするようにしている。なお、上記説明では、入力ピストン58が所定量ns2変位してブ−スタピストン52を急激に変位させた後に、入力ピストン58に対してブースタピストン52が上述の中立位置となるように制御を行ったが、入力ピストン58に対してブースタピストン52が上述の中立位置よりも前進した位置となるように制御するようにしてもよい。
このようなジャンプイン制御を行うことにより、ブレーキペダル8の踏み込み初期に液圧の上昇に伴う反力により運転者はブレーキが効いているというフィーリングを受けること、ひいては運転者に良好なブレーキフィーリングを与えることができるようになる。
【0033】
ブレーキアシスト制御では、図7(a)に示されるように、入力ピストン58の絶対変位量が所定量ns3(ここで、所定量ns3は上述のジャンプイン制御の際の所定量ns2よりも大きな値となっている。)となる第1条件が成立する(入力ストローク感応型ブレーキアシスト)ときまで、又は、入力ピストン58の移動速度が所定速度となったと判断されるという第2条件が成立する(入力速度感応型ブレーキアシスト)ときまでは、入力ピストン58の前進に伴い、ブースタピストン52が入力ピストン58と一体に変位する。その後第1条件又は第2条件が成立した後、電動モータ64の作動に伴い、ブースタピストン52が電動モータ64の作動分、さらに前進する。これに伴い、図7(c)に示されるように、入力ピストン58の前進に伴ってマスタシリンダ2に供給される液圧が多次曲線状に大きくなる一方、電動モータ64の作動によるブースタピストン52の前進によって、液圧がより大きくなってマスタシリンダ2に供給される。
第1条件又は第2条件が成立した後の図7中実線で示した場合には、ブースタピストン52を瞬時に所定の相対変位量分前進させた後に入力ピストン58の移動と同期させた場合の特性を示している。また、一点鎖線で示した場合には、第1条件又は第2条件が成立した後に上述した可変倍力比制御を行うようにしたものである。このようなブレーキアシスト制御を行った場合、運転者の急ブレーキ操作を察知してより大きな倍力比に変更して緊急制動を行うことが可能になる。なお、上記第1条件又は第2条件はいずれか一方だけでもよく、また、条件成立後のブースタピストン52の移動量を最大量としてフルブレーキとなるように制御してもよい。
【0034】
ビルドアップ制御は、図8に示されるように、入力ピストン58の絶対変位量から入力ピストン58のブレーキ液圧を増加する方向への移動が停止したこと、すなわち、図8(d)に示されるように、入力ピストン58の移動量が所定のストローク幅ns4内にあって、または、図示はしていないが、入力ピストン58の入力速度Vが速度0近辺の値にあって、その状態が所定時間t0経過したと判断したときに、図8(b)に示されるように、入力ピストン58に対してブースタピストン52がブレーキ液圧を増加する方向へ所定の相対変位量分、変位するように電動アクチュエータ53を制御する制御方法である。
このビルドアップ制御を、実現するために、本実施形態では、図8(a)に示されるように、ブレーキペダルの踏み込み停止が検出されると、入力ピストン58に対してブースタピストン52を漸次前進させ、これに伴い、図8(d)に示されるように、マスタシリンダ2で発生する液圧を漸次大きくするようにしている。
このように、ビルドアップ制御を行うことにより、ブレーキペダルの踏み込み停止時に、液圧の上昇に伴う反力により運転者はブレーキが効いているというフィーリングを受けること、ひいては運転者に良好なブレーキフィーリングを与えることができるようになる。
【0035】
回生協調制御は、ハイブリッド自動車の動力モータの回生時に生じる制動(回生制動)力に対応する液圧を減じてマスタシリンダ2の液圧を発生させるものである。図9(a)に示されるように、入力ピストン58の前進に対してブースタピストン52が遅れをもって前進し、すなわち入力ピストン58に対してブースタピストン52が相対的に後退するようにし、これにより、図9(c)に示されるように、マスタシリンダ2で発生する液圧の多次曲線状の増加程度を小さくして回生制動分の減圧を行う制御方法である。
図9(b)に示されるように、入力ストロークの変化に対応して相対変位量は、マイナス側(入力ピストン58の前進に対してブースタピストン52が後退する方向)に変化し、前記ばね85Aが縮み切ったところで一定となるようになっている。すなわち、入力ピストン52の前進に伴ってブースタピストン52が後退するように制御し、前記ばね85Aが縮み切ったところでブースタピストン52が入力ピストン52ともに前進するように制御している。なお、この場合の相対変位量は回生制動力に応じて変化するものであり、図9(b)はあくまでも回生協調制御時の一例を示したものである。
このように、回生協調制御を行うことにより、回生制動力に応じた液圧をマスタシリンダ2で発生させることができ、運転者に違和感のないブレーキフィーリングを与えることができるようになる。
減倍力制御は、図10(a)に示されるように、入力ピストン58に対してブースタピストン52が相対的に後退するようにし、これにより、図10(c)に示されるように、マスタシリンダ2で発生する液圧が入力ピストン58ストロークに正比例して大きくなる特性が得られるようにする制御方法である。図10(b)に示されるように、入力ストロークの変化に対応して相対変位量は、ある程度進んでから徐々にマイナス側(入力ピストン58の前進に対してブースタピストン52が後退する方向)に二次曲線的に変化するようになっている。すなわち、入力ピストン52の前進に伴ってブースタピストン52が入力ピストン52と中立位置を保つようにした後、ある程度進んでから徐々にブースタピストン52が後退するように制御している。
【0036】
コントローラ92は、ポテンショメータ86の検出信号及び相対変位センサ100の検出信号に応じてプログラムを実行し,その実行過程で、図4〜10の(b)欄及び図9(d)欄の特性データを選択利用して後述する図11〜17のフローチャートで示される演算・制御を行う。なお、図5〜10の(b)欄及び図9(d)欄の特性データは一例を示すもので、諸条件に応じて各特性は変化するようになっている。
【0037】
上述したように、ブースタピストン52の変位分(前進及び後退)が入力ピストン58の変位に加算されて、マスタシリンダの液圧が調整されるが、この液圧調整は、式(1)で示される圧力平衡関係をもって行われる。
ここで、圧力平衡式(1)における各要素は、図2にも示されるように、以下のようになっている。
Pb:マスタシリンダ2内の圧力室(プライマリ室)13内のブレーキ液圧、
Fi:入力推力、
Fb :ブースタ推力、
Ai :入力ピストン58の受圧面積、
Ab :ブースタピストン52の受圧面積、
K:ばね85(85A、85B)のばね定数、
ΔX:入力ピストン58とブースタピストン52との相対変位量。
また、相対変位量ΔXは、入力ピストン58の変位をXi、ブースタピストン52の変位をXbとして、ΔX=Xi−Xbと定義している。したがって、ΔXは、相対移動の中立位置では0、入力ピストン58に対してブースタピストン52が後退する方向では正符号、その逆方向では負符号となる。なお、圧力平衡式(1)ではシールの摺動抵抗を無視している。この圧力平衡式(1)において、ブースタ推力Fbは、電動モータ64の電流値から推定できる。
【0038】
Pb=(Fi−K×△X)/Ai=(Fb+K×△X)/Ab …(1)
【0039】
一方、倍力比αは、下記(2)式のように表わされ、したがって、この(2)式に上記圧力平衡式(1)のPbを代入すると、倍力比αは下記(3)式のようになる。
【0040】
α=Pb×(Ab+Ai)/Fi …(2)
α=(1−K×ΔX/Fi)×(Ab/Ai+1) …(3)
この場合、背景技術である一定倍力制御を行う場合には、ポテンショメータ86の検出結果に基づいて相対変位量ΔXが0となるように電動モータ64の回転を制御(フィードバック制御)する。そうすると、倍力比αは、α=Ab/Ai+1となり、真空倍力装置や背景技術と同様にブースタピストン52の受圧面積Abと入力ピストン58の受圧面積Aiとの面積比で一義的に定まる(図4)。
【0041】
これに対して、相対変位量ΔXを負の所定値に設定し、相対変位量ΔXが前記所定値となるように、すなわち、ブレーキ液圧を増加する方向へ入力ピストン58が移動するに従い、入力ピストン58の絶対変位量に比べてブースタピストン52の絶対変位量が大きくなるように、電動モータ64の回転を制御すれば、倍力比αは、(1−K×ΔX/Fi)倍の大きさとなり、すなわち、倍力比が可変となり、電動アクチュエータ53が倍力源として働いて、ペダル踏力の大きな低減を図ることができるようになる。
【0042】
コントローラ92は、上述したように図11〜17のフローチャートを実行して、演算・制御を行うが、ここで、その演算・制御の内容を、この図11〜17に基づいて説明する。
コントローラ92は、図11に示されるステップS1〜S4を含む基本フローを所定周期で実行する。
【0043】
図11のステップS1では、ポテンショメータ86が検出した入力絶対変位検出値Aを読込む。ステップS1に続くステップS2では、図5〜図10の各(b)に示される目標変位量算出特性データを用いて入力絶対変位検出値Aに基づく目標変位量Cを算出する。
ステップS2に続くステップS3では、相対変位センサ100が検出した相対変位検出値Bを読込む。
ステップS3に続くステップS4では、相対変位検出値Bが目標変位量Cになる(B=CまたはC−B=0となる)ように電動モータ64及び伝達機構を制御する。
このような、各ステップにより制御を行っていくが、入力ストロークに依存して目標変位量Cの算出を行っている可変倍力制御、ジャンプイン制御、及び入力ストローク感応型のブレーキアシスト制御については、上記の基本フローで制御が可能である。これに対して、入力ストロークのほかに入力速度や時間に依存して目標変位量Cの算出を行う入力速度感応型のブレーキアシスト制御やビルドアップ制御、また、回生制動力に依存して目標変位量Cの算出を行う回生協調制御については、入力ストロークのみに依存する上記基本フローだけでは制御が行えないため、図12〜15に示すフローチャートにより実現が可能となっている
【0044】
図12のフローチャートは、図11の基本フローに示されるステップS2をステップS101〜S107に置き換えたものである。
ステップS101は、図12に示すように、ステップS1に続いて実行され、並行して動作している図13に示される入力速度BAフラグ生成フローにより生成される入力速度BAフラグがあるか否かを判定する。ステップS101でYESと判定すると、図7(b)〔ブレーキアシスト制御〕の目標変位量算出特性データ等を用いて目標変位量C1を算出し(ステップS102)、ステップS3に進む。
【0045】
ステップS101でNOと判定すると、並行して動作している図14に示されるビルドアップフラグ生成フローにより生成されるビルドアップフラグがあるか否かを判定する(ステップS103)。ステップS103でYESと判定すると、図8(b)〔ビルドアップ制御〕の目標変位量算出特性データ等を用いて目標変位量C2を算出し(ステップS104)、ステップS3に進む。
ステップS103でNOと判定すると、並行して動作している図15に示される回生協調フラグ生成フローにより生成される回生協調フラグがあるか否かを判定する(ステップS105)。ステップS105でYESと判定すると、図9(b)〔回生協調制御〕の目標変位量算出特性データ等を用いて目標変位量C3を算出し(ステップS106)、ステップS3に進む。
【0046】
ステップS105でNOと判定すると、図5(b)〔可変倍力制御〕の目標変位量算出特性データ等を用いて目標変位量C4を算出し(ステップS107)、ステップS3に進む。なお、ステップS101、S103、S105の順序は、緊急性の高いものを先に判断するようにしているが、いずれの順序で判断してもよい場合には、例えば、S105を判断した後、S103を判断するようにしてもよい。
本実施形態では、ステップS107における目標変位量C4の算出に、図5(b)〔可変倍力制御〕の目標変位量算出特性データを用いているが、これに代えて、図6(b)〔ジャンプイン制御〕の目標変位量算出特性データを用いるようにしてもよいし、入力ストローク感応型のブレーキアシストを行うようにするために図7(b)〔ブレーキアシスト制御〕の目標変位量算出特性データを用いるようにしてもよい。また、図5(b)と図6(b)との合成データ、図5(b)と図7(b)との合成データ、図6(b)と図7(b)との合成データ、あるいは、図5(b)〜図7(b)のすべての合成データを用いるようにしてもよい。
【0047】
上記図12のフローチャートと並行して、図13に示される入力速度BAフラグ生成フロー、図14に示されるビルドアップフラグ生成フロー、図15に示される回生協調フラグ生成フローを実行するようにしている。
入力速度BAフラグ生成フローでは、図13に示すように、ポテンショメータ86が検出した入力絶対変位検出値Aを読込む(ステップS201)。
次に、入力速度BAフラグがオフになっているかを確認し(ステップS202)、ステップS202でYESと判定すると、微分回路102の作動により、入力速度Vを算出する(ステップS203)。
続いて、入力速度Vが所定値V0より大きいか否かを判定する(ステップS204)。ステップS204でYESと判定すると、運転者が急ブレーキを望んでいるものとして入力速度BAフラグをオン(ON)して(ステップS205)、当該フローを繰返し行うようにリターン処理する。ステップS204でNOと判定すると、当該フローを繰返し行うようにリターン処理する。
また、ステップS202でNOと判定すると、ブレーキアシスト制御を行っている状態であるが、このブレーキアシスト制御が不要となっているかどうかをブレーキアシスト制御の解除条件(例えば、入力絶対変位検出値Aにより入力ピストン58が後退していることや車両速度がほぼ0になったことなどの所定の条件)が満足しているか否かで判定する(ステップS207)。
ステップS207でYESと判定すると、ブレーキアシスト制御が不要となっているので、入力速度BAフラグをオフ(OFF)し (ステップS208)、当該フローを繰返し行うようにリターン処理する。また、ステップS207でNOと判定すると、ブレーキアシスト制御を継続させるため、当該フローを繰返し行うようにリターン処理する。
【0048】
ビルドアップフラグ生成フローでは、図14に示すように、ポテンショメータ86が検出した入力絶対変位検出値Aを読込む(ステップS301)。
次に、微分回路102の作動により、入力速度Vを算出する(ステップS302)。
続いて、入力速度V(正のみでなく負の値もある。)が速度0近辺の値であるか否かを判定する(ステップS303)。ステップS303でYESと判定すると、タイマによる計時開始又は計時の継続処理を行う(ステップS304)。
次に、タイマの計時に基づいて、入力速度Vが速度0近辺の値である状態と判定されてから所定時間t0(図8のd)経過したか否かを判定する(ステップS305)。
【0049】
ステップS305でYESと判定すると、ビルドアップフラグをオン(ON)して(ステップS306)、当該フローを繰返し行うようにリターン処理を行う。
ステップS305でNOと判定すると、計時のカウントアップを行い(ステップS307)、リターン処理を行い、計時の継続を可能とする。
ステップS303でNOと判定すると、ビルドアップフラグをオフ(OFF)し (ステップS308)、タイマをクリアして(ステップS309)、リターン処理を行う。
なお、ビルドアップフラグをオンする条件として、S302、S303で入力速度Vを算出し、これが速度0近辺の値であるか否かを判定したが、このほかに、ステップS301の入力絶対変位検出値Aに基づき、入力ピストン58の移動量が図8(d)の所定のストローク幅x0内にあるか否かを判定してもよい。
【0050】
回生協調フラグ生成フローでは、図15に示すように、図示しない回生制動システムによる制動作動に係る上位ECU(上位のコンロールシステム)から回生指令(回生分減圧量ΔPを含む。)の入力を受けたか否かを判定する(ステップS401)。ステップS401でYESと判定すると、回生協調フラグをオンし(ステップS402)、リターン処理を行う。
ステップS401でNOと判定すると、回生協調フラグをオフし(ステップS403)、リターン処理を行う。
【0051】
回生協調フラグのオン時における図12のステップS106では、図16に示すように制御が行われる。すなわち、上位ECUからの回生分減圧量ΔPを読込む(ステップS404)。次に、ポテンショメータ86が検出した入力絶対変位検出値Aを読込む(ステップS405)。なお、説明の便宜上、この読み込んだ検出値をA1とする。ステップS405に続いて、図9(d)の液圧と入力ストローク・相対変位量との関係を示す特性データのうち点線の特性データを用いて入力絶対変位検出値A1に対応する液圧P1を算出すると共に、実線の特性データL1を選択する(ステップS406)。ここで、図9(d)の点線の特性は図4(c)の実線の特性と同じものであり、また、図9(d)の実線の特性は点線の特性上のある地点における液圧と相対変位量との関係を示す特性で、図9(d)には2本の実線の特性データL1及びL2のみを示すが、実際には点線データ上の地点毎に1つずつ多数のデータが存在している。次に、上記で選択した実線の特性データL1を用いて、液圧P1からΔPを引いた液圧P2に対応する相対変位量−X2を算出する(ステップS407)。この相対変位量−X2は、上記入力絶対変位検出値A1を相対変位量0としたときの相対変位量を表している。ステップS407に続いて、−X2を目標変位量C3に設定し(ステップS408)、リターン処理を行う。
図16の回生協調制御を行うことにより、ブースタピストン52が入力ピストン58に対して、図9(c)に示されるように、ブレーキ液圧を減少する方向へ相対変位した関係となるように電動アクチュエータ53が制御され、回生制動分のブレーキ液圧を減らした状態で所望の制動力を発生することができる。
【0052】
次に、マスタシリンダ2の無効ストロークを解消するための無効ストローク低減制御フローについて図17に基づいて説明する。この無効ストローク低減制御フローは、上述した図11または図12のフローに並行、又は割り込むようにして実行され、当該フローを構成するステップS502及びS503、ステップS504、ステップS505、並びにステップS506は、夫々、図11の基本フローのステップS2、ステップS1、ステップS3、及びステップS4に相当している。
無効ストローク低減制御フローでは、まず、アクセルの操作に係る検出信号の入力を受けているか否かによりアクセル操作が行われているか否かを判定する(ステップS501)。ステップS501でアクセルオフとなっていてNOと判定すると目標変位量Cを値C5にし(ステップS502)、ステップS501でアクセルオンとなっていてYESと判定すると目標変位量Cを値0にする(ステップS503)。なお、上記値C5はマスタシリンダ2の無効ストローク分に相当する相対変位量である。
【0053】
ステップS502、S503に続いて、ポテンショメータ86が検出した入力絶対変位検出値Aを読込む(ステップS504)。
ステップS504に続くステップS505では、相対変位センサ100が検出した相対変位検出値Bを読込む。
次に、ステップS506で、相対変位検出値Bが目標変位量Cになるように電動モータ64を制御し、リターン処理を行う。
【0054】
本実施形態のマスタシリンダ2において、ブースタピストン52が前進し、貫通孔26がマスタシリンダ2の内側のシール部材16を乗越えるまでは、すなわちリリーフポート15が閉じられるまでは、マスタシリンダ2内にブレーキ液圧が発生せず、したがって、この間は無効ストロークとなる。しかし、本実施形態においては、図17の無効ストローク低減制御フローを実行して電動モータ64を制御することにより、ブレーキ作動前にブースタピストン52を前記シール部材16を乗越える位置まで前進させることで、前記無効ストロークを解消することができる。なお、上記ステップS501においては、アクセルの操作に係る検出信号の入力を受けているか否かを判定しているが、これに限らず、スロットルセンサによりエンジンスロットルの開閉を判定し、エンジンスロットルが閉となったときに目標変位量Cを値C5に、また、開となったときに目標変位量Cを0に設定するようにしてもよい。
なお、上記の説明では、一定倍力制御、可変倍力制御、ジャンプイン制御、ブレーキアシスト制御、ビルドアップ制御、回生協調制御、減倍力制御、無効ストローク低減制御を行うように説明したが、このほかの制御を行うようにしてもよく、また、可変倍力制御、ブレーキアシスト制御等の入力ピストン58とブースタピストン52との相対変位関係を可変とする変位量制御を含め、上記した制御の一部を行うようにしてもよい。
【0055】
上述したように構成された電動倍力装置1においては、ポテンショメータ86の検出信号に応じて、入力ピストン58とブースタピストン52との相対変位関係を可変とする変位量制御することにより、例えば、ブレーキアシストの制御など種々のブレーキ特性を得ることができる。さらに、一般に低液圧領域ではストロークに対する液圧の変化が、高液圧領域に比べて小さいという事情があることを考慮すると、ストロークを制御する変位量制御とすることによりブレーキとして多用される低液圧領域での制動を高精度で行うことができるメリットがある。
また、入力ピストン58がブレーキ液圧による反力の一部を受けるようになっているので、入力ピストン58とブースタピストン52との相対位置関係を変更することにより、入力ピストン58のストロークに対して発生する液圧を増減させ、この液圧の増減に応じて入力ピストン58のストロークに対する踏力を変更することができ、これにより、入力ピストン58のストロークと液圧及び踏力との関係を所望のものに調整することができる。
【0056】
また、相対変位センサ100からの信号に基づいてブースタピストン52と入力ピストン58との相対変位量が任意の所定値となるように電動アクチュエータ53を制御し、所望の倍力比を得るので、従来技術において必要としていた高価な踏力センサが不要になり、その分、コスト低減を図ることができる。また、ブースタピストン52と入力ピストン58との相対変位量が任意の所定値となるように電動アクチュエータ53を制御することにより、ブースタピストン52と入力ピストン58との受圧面積比で定まる倍力比よりも大きな倍力比や小さな倍力比を得ることができ、所望の倍力比に基づく制動力を得ることができる。
【0057】
次に、本発明の第2実施形態に係る電動倍力装置50Aを図18〜図20に基づき、第1実施形態(図1〜図17)を参照して説明する。
第2実施形態に係る電動倍力装置50Aは、図18、19に示すように、第1実施形態に係る電動倍力装置1に比して、相対変位センサ100を廃止したことと、コントローラ92に代えてコントローラ92Aが設けられ、コントローラ92Aに第1実施形態の相対変位センサ100に代わる相対変位検出回路を設けたことと、第1実施形態の基本フロー(図11)に代わる図20に示す基本フローを用いることと、が異なっている。なお、その他の部分は、第1実施形態と同様である。
【0058】
相対変位検出回路は、コントローラ92Aに設けられ、電動モータ64における回転制御のために設けられるレゾルバ(アシスト絶対変位量検出手段)91が検出する電動モータ64の回転変位から演算される車体に対するブースタピストン52の絶対変位量(以下、アシスト絶対変位検出値Dともいう。)とポテンショメータ86の検出信号(入力絶対変位検出値A)に基づいてブースタピストン52と入力ピストン58との相対変位量〔適宜、相対変位検出値(D−A)〕を検出する。なお、アシスト絶対変位量検出手段として、レゾルバ91に代えてブースタピストン52の絶対変位量を検出するポテンショメータ(変位センサ)を用い、ブースタピストン52の絶対変位量を求めるようにしてもよい。
図20に示す基本フローは、図11の基本フローに比して、ステップS3,S4に代わるステップS603,S604を設けている。ステップS603では、前記相対変位検出値Dを読込む。ステップS604では、相対変位検出値(D−A)が目標変位量Cになる(D−A=Cとなる)ように電動モータ64及び伝達機構〔回転伝達機構66、ボールねじ機構65(ナット部材68、ねじ軸70)〕を制御する。
なお、図20のステップS603,S604を図12のステップS3,S4及び図17のステップS505,S507に適用することで、図12〜図17のフローチャートに基づく制御を行うこともできる。
この第2実施形態によっても、上述した第1実施形態と同様の作用・効果を奏する。
【0059】
図21に示す第2実施形態の変形例である電動倍力装置50Bは、入力ピストン(入力部材)326及びブースタピストン(アシスト部材)329がタンデムマスタシリンダ2の液圧室13に臨んでいない点、及び入力ピストン326及びブースタピストン329との間に入力ピストン326を中立位置に付勢するばね85が設けられていない点が第2実施例と大きく異なっている。
ペダル側入力軸20に固定される入力ピストン326の他端及びブースタピストン329の他端が、タンデムマスタシリンダ2のプライマリピストン421の一端部に形成されて液体が封入される液圧室327の中に挿入されている。電動モータ64及びナット部材68により駆動されるブースタピストン329の内側に入力ピストン326が摺動自在に配置され、入力ピストン326及びブースタピストン329の両者が、シール部材(図示省略)でシールされるものになっている。図21中、320は、各輪設けられたキャリパを示す。
図21の電動倍力装置50Bでは、入力ピストン326とブースタピストン329とが一定の相対変位関係を保ったときのストロークの関係は、以下の式(4)で、また、入力と出力の関係は、液圧室327に面している入力ピストン326とブースタピストン329の面積をそれぞれAi、Abとすれば、以下の式(5)で表すことができる。
【0060】
Xout=Xi(=Xb) … (4)
Fout=Fi((Ai+Ab)/Ai) … (5)
ここで、Xiは、入力ストローク、Xoutは、プライマリピストン321の出力ストローク、Foutは、プライマリピストン321の出力、Fiは、ペダル側入力軸20の入力である。
したがって、倍力比αは、出力Foutと入力Fiとの比であるから、上記式(5)に基づき以下の式(6)で表すことができる。
α=Fout/Fi=(Ai+Ab)/Ai …(6)
式(6)から明らかなように、この変形例では、倍力比αは、常時一定の値となる。
【0061】
図21の電動倍力装置50Bにおける作動については、入力ピストン326とブースタピストン329との相対位置をずらしても、そのときのペダル側入力軸20の位置を保つようにすれば、電動モータ64で制御されるブースタピストン329が相対移動した分だけプライマリピストン321の出力Foutが増減することになる。これにより、入力ストロークXiとプライマリピストン321の出力Foutとの関係は、図22に示すように、相対位置を図22のa,b,cとずらすことによって任意の入力ストロークXiと出力Foutひいては液圧(=出力Fout/プライマリピストン321の面積)との関係が得られる。ここで、図22のaは入力ピストン326とブースタピストン329とが中立位置にあるときの特性、図22のbは入力ピストン326よりもブースタピストン329が後退した位置にあるときの特性、図22のcは入力ピストン326よりもブースタピストン329が前進した位置にあるときの特性をそれぞれ示している。もし、入力ピストン326とブースタピストン329とが中立位置で、入力ピストン326が一定量踏み込まれた状態から、入力ピストン326の現在の位置を保ったままで、ブースタピストン329を所定量前進させると、図22のa特性からc特性に転移することになる。これにより、入力ピストン326のストロークに対して発生する出力Foutひいては液圧が増加し、ショートストローク(一定の出力を出すのにより短いストロークで済む)のペダルフィーリングを実現できる。また、この液圧の増加に応じて入力ピストン326に加わる反力が増加するので、入力ピストン326のストロークに対する踏力が増加する。このように、力ピストン326のストロークに対する踏力も変更ができるので、所望のものに調整することが可能となる。
そして、動作は、ポテンショメータ86及びレゾルバ91の検出信号の差分によりペダル側入力軸20(入力ピストン326)とブースタピストン329との相対変位量(D−A)を求め、この相対変位量(D−A)と予め定めた目標変位量との偏差に基づいて、ペダル側入力軸20の変位に比べてブースタピストン329の変位が大きくなるように制御するようにしており、これにより、良好なアシスト機能の実現が可能となっている。
なお、本変形例では、入力ピストン326及びブースタピストン329との間に入力ピストン326を中立位置に付勢するばね85が設けられていないが、このばね85を設けるようにすれば、図21に示すように、入力ピストン326及びブースタピストン329の他端がマスタシリンダ2の圧力室13に臨んでいなくとも、図11、12に示すような制御が可能となっている。
【0062】
図1及び図18、21に示す第1,2実施形態において、入力絶対変位量検出手段として、ポテンショメータ86を用いて入力絶対変位量を得る場合を例にしたが、これに代えてマスタシリンダ2の圧力室13の液圧を検出する液圧センサ、ブレーキペダル8へ入力される踏力を検出する踏力センサ、又はモータ64へ供給する電流を検出する電流センサを用いて入力絶対変位量を推定し(得て)、これらを入力絶対変位量検出手段として用いてもよい。上記液圧センサ、踏力センサ又は電流センサにより、入力絶対変位量を推定できる(得ることができる)ことについて図23を参照して説明する。
【0063】
図23において、マスタシリンダ2の圧力室13、14と、これに連通する配管やディスクブレーキなど全ての負荷側要素の剛性(液量対発生液圧)との関係を、マスタシリンダ圧力室2Aと、これの断面積(Ai+Ab)に等しい断面積を有するピストン2Bの変位Xm及びそれに取付けられたばね要素2Cのばね定数kdとに置換えて考察する。この場合、前記入力ピストン58及びブースタピストン52の変位(ストローク)をそれぞれXi,Xb、最終的にマスタシリンダ圧力室2Aに面している部分での入力ピストン58の発生力(入力推力)及びブースタピストン52の発生力(ブースタ推力)をそれぞれFi,Fbとする。
また、ばね85(85A,85B)のばね定数をK、ねじ軸70の出力をFb0、ブレーキペダルの踏力をFi0とする。
なお、第1実施形態では相対変位センサ100を有していることから、また、第2実施形態ではコントローラ92Aに相対変位検出回路を有していることから、相対変位量ΔX=Xi−Xbは既知となっている。
【0064】
(イ1)入力絶対変位量検出手段として液圧センサを用いて入力絶対変位量を推定できる(得ることができる)ことについて:
入力ピストン58のストロークXi及びブースタピストン52のストロークXbにより、Xi−Xb=ΔX(既知)の相対変位が生じ、これに対応して圧力室2Aでは式(7)で示される液量変化(体積変化)ΔVが生じる。
式(7)を変形して、式(8)が得られる。
【0065】
ΔV=Xb・Ab+Xi・Ai
=(Xi−ΔX)Ab+Xi・Ai
=Xi(Ab+Ai)−ΔX・Ab … (7)
Xi=(ΔV+ΔX・Ab)/(Ab+Ai) … (8)
【0066】
一方、圧力室2Aの液量(体積)Vと圧力室2Aの液圧Pbとについて、液量Vを横軸、液圧Pbを縦軸にして、図24に表示すると、液量Vと液圧Pbとの関係は多次曲線〔Pb=f(V)〕で示される。この対応関係があることから、液圧Pbを検出することにより、液圧Pbに対応する液量Vを求めることができる。そして、入力ピストン58及びブースタピストン52の初期位置から両ピストン58、52が特定のある位置まで移動したときの液量変化(体積変化)ΔVは、その特定位置での液量Vと同じになることから、このときの液圧Pbを検出すれば、液圧Pbに対応する液量変化ΔVを求めることができる。
このため、液圧センサが液圧Pbを算出することにより、上記Pb−ΔVの対応関係〔Pb=f(ΔV)〕から液量変化(体積変化)ΔVが得られ、この液量変化ΔVと既知である相対変位量ΔXとを式(8)に代入することで入力ピストン58のストロークXiを算出することが可能になる。なお、図24のPb−ΔVとの特性を示す多次曲線は、ディスクブレーキのブレーキパッドの摩耗等の経年変化により特性が徐々に変化していくが、例えば、走行距離やブレーキ回数のファクターにより適宜補正することにより実際の特性に近似したものとすることができる。
【0067】
(ロ1)入力絶対変位量検出手段として踏力センサを用いて入力絶対変位量を推定できる(得ることができる)ことについて:
入力ピストン58のストロークXi及びブースタピストン52のストロークXasにより、Xi−Xb=ΔXの相対変位(既知)が生じる。この際、圧力室2Aの液圧Pbは、式(9)で示される。
【0068】
Pb=Fi/Ai
=(Fi0−K・ΔX)/Ai … (9)
式(9)及び上記Pb−ΔVの対応関係〔Pb=f(ΔV)〕に基づいて、前記踏力センサが検出するブレーキペダルの踏力Fi0から液量変化(体積変化)ΔVを得ることができる。
このため、このようにして得たΔVを上記(イ1)と同様に式(8)に適用して、入力ピストン58のストロークXiを算出することが可能になる。すなわち、前記踏力センサの検出したデータ(踏力Fi0)から、入力ピストン58のストロークXiを算出することが可能になる。
【0069】
(ハ1)入力絶対変位量検出手段として電流センサを用いて入力絶対変位量を推定できる(得ることができる)ことについて:
入力ピストン58のストロークXi及びブースタピストン52のストロークXbにより、Xi−Xb=ΔX(既知)の相対変位が生じる。この際、圧力室2Aの液圧Pbは、式(10)で示される。
【0070】
Pb=Fb/Ab
=(Fb0+K・ΔX)/Ab … (10)
式(10)及び上記Pb−ΔVの対応関係〔Pb=f(ΔV)〕に基づいて、ブースタ推力Fbから、すなわちブースタ推力Fb発生の元となるモータ64に供給される電流を電流センサが検出し、この検出された電流値から、液量変化(体積変化)ΔVを得ることができる。
このため、このようにして得たΔVを上記(イ1)と同様に式(8)に適用して、入力ピストン58のストロークXiを算出することが可能になる。すなわち、前記電流センサの検出したデータ(電流値)から、入力ピストン58のストロークXiを算出することが可能になる。
【0071】
次に、本発明の第3実施形態に係る電動倍力装置50Cを図25、26に基づき、第1実施形態(図1〜図17)を参照して説明する。
第3実施形態に係る電動倍力装置50Cは、第1実施形態のコントローラ92が、(i)相対変位センサ100の検出データをフィードバック制御に用い、(ii)目標変位量Cの設定には、メモリ101に予め格納される図4〜図10の各(b)欄の特性データを用いるのに対し、コントローラ92に代わるコントローラ92Cを設け、このコントローラ92Cが、(ic)レゾルバ91の検出データ(アシスト絶対変位検出値D)をフィードバック制御に用い、(iic)目標変位量Cの設定には、メモリ101に予め格納される図4〜図10の各(a)欄の特性データを用いることが主に異なっている。
【0072】
図25において、コントローラ92Cは、ポテンショメータ86の検出信号に応じて、入力ピストン58とブースタピストン52との相対変位関係が可変となるように、ブースタピストン52の絶対変位量を目標変位量(以下、アシスト目標変位量Eという。)として設定し、このアシスト目標変位量Eの設定には、メモリ101に予め格納される図4〜図10の各(a)欄の特性データを用いている。アシスト目標変位量Eは、図4〜図10の各(a)欄の特性データより入力ストロークに対するアシストストロークとして求められる。すなわち、アシスト目標変位量Eは、入力ストロークとアシストストロークとの相対的な対応関係から得られるものであり、入力ピストン58とブースタピストン52との相対変位関係を自ずと含んだものになっている。
【0073】
そして、本発明の第3実施形態に係る電動倍力装置50Cは、ポテンショメータ86の検出信号に応じて、入力ピストン58とブースタピストン52との相対変位関係が可変となる目標変位量(アシスト目標変位量E)を設定(請求項1)すること、入力ピストン58(入力部材)とブースタピストン52(アシスト部材)との相対変位関係が前記目標変位量(アシスト目標変位量E)となるように電動モータ64を制御する(請求項1)ことは、第1実施形態に係る電動倍力装置50と同様であり、請求項1の記載内容に対応している。
【0074】
電動倍力装置50Cのコントローラ92Cを含む制御系は、図3に対応して図25に示すように構成されており、コントローラ92Cは、図26に示す基本フローを実行するようになっている。
【0075】
図26のステップS701では、ポテンショメータ86が検出した入力絶対変位検出値Aを読込む。ステップS701に続くステップS702では、図4〜図10の各(a)欄に示される入力ストローク−アシストストローク特性を用いてブースタピストン52の絶対変位量であるアシスト目標変位量E(上述したように入力ピストン58とブースタピストン52との相対変位関係を自ずと含んだものになっている。)を算出する。
ステップS702に続くステップS703では、レゾルバ91が検出したアシスト絶対変位検出値Dを読込む。
ステップS703に続くステップS704では、アシスト絶対変位検出値Dがアシスト目標変位量Eになる(D=EまたはE−D=0となる)ように電動モータ64(電動アクチュエータ53)を制御する。
第1、第2実施形態では、相対変位量をフィードバック制御したのに対して、上述のように、第3実施形態では、ブースタピストン52の絶対変位量についてフィードバック制御を行っている。
【0076】
図27のフローチャートは、図12に対応するもので、図26の基本フローに示されるステップS702をステップS801〜S807に置き換えたものである。
ステップS801〜S807は、図12のステップS101〜S107に対応している。ステップS801は、図27に示すように、ステップS701に続いて実行され、並行して動作している前述の図13に示される入力速度BAフラグ生成フローにより生成される入力速度BAフラグがあるか否かを判定する。ステップS801でYESと判定すると、図7(a)〔ブレーキアシスト制御〕の目標変位量算出特性データ等を用いて目標変位量E1を算出し(ステップS802)、ステップS703に進む。
【0077】
ステップS801でNOと判定すると、並行して動作している図14に示されるビルドアップフラグ生成フローにより生成されるビルドアップフラグがあるか否かを判定する(ステップS803)。
ステップS803でYESと判定すると、図8(a)〔ビルドアップ制御〕の目標変位量算出特性データ等を用いて目標変位量E2を算出し(ステップS804)、ステップS703に進む。
ステップS803でNOと判定すると、並行して動作している図15に示される回生協調フラグ生成フローにより生成される回生協調フラグがあるか否かを判定する(ステップS805)。ステップS805でYESと判定すると、目標変位量E3を算出し(ステップS806)、ステップS703に進む。なお、回生協調制御の目標変位量E3を算出するステップS806の処理は、上述した図9(d)〔回生協調制御〕の目標変位量算出の特性データL1、L2等を、液圧−相対変位量の関係で規定されているものに代えて、液圧−アシストストローク絶対変位量の関係を規定するデータを用いて目標変位量E3を算出することにより、図16の回生協調目標変位量設定フローと同様と行うことができる(具体的には、ステップS407、S408において相対変位量に代えてアシストストローク絶対変位量を算出し、これを目標変位量E3に設定する)。
【0078】
ステップS805でNOと判定すると、図5(a)〔可変倍力制御〕の目標変位量算出特性データ等を用いて目標変位量E4を算出し(ステップS807)、ステップS703に進む。
この第3実施形態によっても、上述した第1実施形態と同様の作用・効果を奏する。
【0079】
図25、26に示される第3実施形態の電動倍力装置50Cにおいて、入力絶対変位量検出手段としてポテンショメータ86を用いて入力絶対変位量を得る場合を例にしたが、この第3実施形態においてもポテンショメータ86に代えて上述したような液圧センサ、踏力センサ又は電流センサを用いることができる。このことについて図23及び図24を参照して説明する。この場合、ブースタピストン52のストロークXbはレゾルバ91の検出信号によって既知になっている。
【0080】
(イ2)入力絶対変位量検出手段として液圧センサを用いて入力絶対変位量を推定できる(得ることができる)ことについて:
入力ピストン58のストロークXi及びブースタピストン52のストロークXbにより、圧力室2Aでは式(11)で示される液量変化(体積変化)ΔVが生じる。
ΔV=Xb・Ab+Xi・Ai … (11)
式(11)を変形して、式(12)が得られる。
Xi=(ΔV−Xb・Ab)/Ai … (12)
【0081】
式(11)及び上記Pb−ΔVの対応関係〔Pb=f(ΔV)〕に基づいて、前記液圧センサが検出する液圧Pbから液量変化(体積変化)ΔVを得ることができる。
このため、このようにして得たΔVと既知のXaとを式(12)に代入、入力ピストン58のストロークXiを算出することが可能になる。すなわち、前記液圧センサの検出したデータ(液圧Pb)から、入力ピストン58のストロークXiを算出することが可能になる。
【0082】
(ロ2)入力絶対変位量検出手段として踏力センサを用いて入力絶対変位量を推定できる(得ることができる)ことについて:
液量変化(体積変化)ΔVは、次式(13)で示される。
ΔV=Xb・Ab+(Xb+ΔX)・Ai … (13)
式(13)、式(9)及び前記Pb=f(ΔV)に基づいて、ΔXを既知データ及び前記踏力センサが検出するブレーキペダルの踏力Fi0から得ることができる。
一方、Xiは次式(14)で示され、上記で得たΔXにより入力ピストン58のストロークXiを算出することができる。
Xi=Xb+ΔX … (14)
このように、前記踏力センサが検出するブレーキペダルの踏力Fi0から、入力ピストン58のストロークXiを算出することが可能になる。
【0083】
(ハ2)入力絶対変位量検出手段として電流センサを用いて入力絶対変位量を推定できる(得ることができる)ことについて:
圧力室2Aの液圧Pbは、式(10)で示され、液量変化(体積変化)ΔVは、式(13)で示され、これら式(10)、(13)及び前記Pb=f(ΔV)に基づいて、既知データと、ブースタ推力Fb(すなわちブースタ推力Fb発生の元となる電流センサが検出する電流値)とから、ΔXを得ることができる。
一方、Xinは上記式(14)で示され、上記で得たΔXにより入力ピストン58のストロークXiを算出することができる。
このように、前記電流センサが検出する電流値から、入力ピストン58のストロークXiを算出することが可能になる。
【符号の説明】
【0084】
50,50A,50B,50C…電動倍力装置、52…ブースタピストン(アシスト部材)、58…入力ピストン(入力部材)、85(85A、85B)…ばね(付勢手段)、86…ポテンショメータ(入力絶対変位量検出手段)、91…レゾルバ(アシスト絶対変位量検出手段)、92,92A,92C…コントローラ(制御手段)、100…相対変位センサ(相対変位量検出手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダルの操作により進退移動する入力部材と、該入力部材に相対移動可能に配置されたアシスト部材と、該アシスト部材を進退移動させる電動アクチュエータとを備え、前記ブレーキペダルによる前記入力部材の移動に応じて前記アシスト部材に付与されるアシスト推力によりマスタシリンダ内に倍力されたブレーキ液圧を発生させる電動倍力装置において、
前記入力部材の絶対変位量を検出するための入力絶対変位量検出手段と、
前記入力部材と前記アシスト部材との相対変位量を検出する相対変位量検出手段または前記アシスト部材の絶対変位量を検出するアシスト絶対変位量検出手段のうちのいずれか1つとを備え、
前記入力絶対変位量検出手段の検出信号に応じて、前記入力部材と前記アシスト部材との相対変位関係が可変となる目標変位量を設定し、前記相対変位量検出手段または前記アシスト絶対変位量検出手段からの信号に基づき、前記入力部材と前記アシスト部材との相対変位関係が前記目標変位量となるように前記電動アクチュエータを制御する制御手段が設けられていることを特徴とする電動倍力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2011−235894(P2011−235894A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187366(P2011−187366)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【分割の表示】特願2010−156730(P2010−156730)の分割
【原出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】