説明

電動工具

【課題】締め付け作業時における締め付けトルクを均一にすることができる電動工具をコスト安価に提供する。
【解決手段】モータ18と、前記モータ18に連結されたギアボックス20と、前記ギアボックス20の出力軸22に連結された打撃機構30と、前記モータ18の駆動回路50と、引き込み量に応じた速度指令信号を前記駆動回路50へ出力するトリガースイッチ40と、を有する電動工具10において、前記駆動回路50は、前記モータ18の回転速度を検出する速度検出回路60と、前記検出されたモータの回転速度を前記速度指令信号に対応する指令速度とを合致するように常時フィードバック制御を行う主制御回路62と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルトやナットなどのネジ類の締め付け及び緩め作業に使用する電動インパクトドライバや電動インパクトレンチ等の電動工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、モータによってハンマを回転駆動し、ハンマによる打撃衝撃を出力軸に加えることで出力軸を回転させ、出力軸に装着されたドライバビットやソケットレンチなどのビットにより、ボルトやナット等のねじ類の締め付け作業や緩め作業を行う電動インパクトドライバや電動インパクトレンチのような電動工具が提供されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような電動工具では、ブラシレスDCモータが駆動源として用いられている。このブラシレスDCモータを駆動させるために電動工具内部には、インバータ回路や、このインバータ回路を制御する制御回路などが内蔵されている。そして、電動工具のハウジングに設けられてトリガースイッチを作業者の指で操作することにより回転数を可変としている。
【0004】
しかしながら、電動工具では、操作性・作業性を考慮して充電式電池を電源としたコードレスのものが一般的であるため、次のような問題がある。すなわち、電源を充電式電池とする場合、電源電圧が大きく変動するため、モータの回転速度にムラが生じ、電動工具の締め付けトルクが一定とならないという不具合がある。もっとも、モータに入力される駆動電流を電圧制御することにより上記不具合を解消することができるが、かかる場合、電圧制御用のインバータ回路が必要となり製造コストアップとなる問題がある。
【0005】
また、電動工具のトリガースイッチは、電圧切換スイッチやスライド抵抗などが用いられている。このような機械的に接触しているスイッチであると、機械的な接触部分で経年劣化がおき寿命が短いという問題があり、また、その構成を変更する場合には、伝導後部に内蔵されている配線基板の変更が必要となり、拡張性がないという問題がある。
【特許文献1】特開2003−145547
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、締め付け作業時における締め付けトルクを均一にすることができる電動工具をコスト安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電動工具は、モータと、前記モータに連結されたギアボックスと、前記ギアボックスの出力軸に連結された打撃機構と、前記モータの駆動回路と、引き込み量に応じた速度指令信号を前記駆動回路へ出力するトリガースイッチと、を有する電動工具において、前記駆動回路は、前記モータの回転速度を検出する速度検出手段と、前記検出されたモータの回転速度を前記速度指令信号に対応する指令速度とを合致するように常時フィードバック制御を行う制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、モータの回転中において常にモータの回転速度がトリガースイッチの引き込み量に対応する指令速度と合致するようにフィードバック制御することにより、単位時間当たりの打撃機構による打撃数を一定に制御することができるため、電動工具の締め付けトルクを一定にすることができる。また、モータの回転速度をフィードバック制御するために部品点数の増加を伴うことがないため、コスト安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態に係るインパクトドライバ10について、図1〜図6に基づいて詳細に説明する。
【0010】
(1)インパクトドライバ10の構造
図1に基づいてインパクトドライバ10の構造について説明する。
【0011】
インパクトドライバ10は、ピストル型のハウジング12から構成され、このハウジング12は筒状の本体14とこの本体14の後部下面から突出した把持部16とを有している。本体14の内部には、3相のブラシレスDCモータからなるモータ18と、減速機構を有するギアボックス20と、ギアボックス20の出力軸22に連結された打撃機構30を有している。本体14の前端部には、チャック24が設けられ、ドライバ26を着脱自在に取り付けることができるようになっている。このチャック24は打撃機構30と連結されており、モータ18が回転することによりギアボックス20で減速され、打撃機構30で軸方向に打撃力が与えられチャック24と共にドライバ26が軸方向に移動しつつ回転する。
【0012】
モータ18の下方には、モータ18を駆動するための駆動回路50が設けられた配線基板28が取り付けられている。
【0013】
本体14と把持部16の境目部分には、後述するトリガースイッチ40が設けられている。また、把持部16の下端には、リチウムイオン電池よりなる充電池29が着脱自在に取り付けられている。
【0014】
(2)打撃機構30の構造
次に、図2に基づいて打撃機構30の構造について説明する。
【0015】
打撃機構30は、キャリアー31と、ハンマー32と、アンビル33とより形成されている。
【0016】
キャリアー31は、円柱型であり、ギアボックス20の出力軸22に連結され、出力軸22と共に同速で回転する。このキャリアー31の出力側の中心部には回転軸34が一体に突出している。
【0017】
ハンマー32は、キャリアー31の回転軸34に対し同軸に取り付けられ、回転軸34と共に回転し、かつ、軸方向に移動自在となっている。ハンマー32とキャリアー31との間にはコイル状のスプリング35が配され、このスプリング35はハンマー32を前方に常に付勢している。円柱型のハンマー32の出力側、即ち前面には、突部36、36が180度毎に2個突出し、ハンマー32は凹凸状態となっている。
【0018】
アンビル33は、打撃機構30の出力軸37を有し、ハンマー32に対し、2つの突部36、36の間に挟まるように取り付けられている。即ち、アンビル32は出力軸37と、出力軸37の後端部から径方向に突出した受け体38とより構成され、出力軸37と受け体38とはT字状に形成されている。
【0019】
この打撃機構22の動作状態について説明する。
【0020】
キャリアー31が回転すると、回転軸34に連結されたハンマー32も同速で回転する。この場合にアンビル33は、ハンマー32と共に回転するが、突部36、36の間の凹部に位置している時には、図2に示すように、軸方向に対しては移動していない状態となっている。しかし、アンビル33の受け体38が突部36、36の位置にきて突部36、36の上に乗ると、ハンマー32が軸方向に沿ってスプリング35の付勢力に反して後方に移動する。そして、ハンマー32が更に回転して、アンビル33の受け体38が再び2個の突部36、36の間の凹部に落ち込むとスプリング35の付勢力によりアンビル33及びハンマー32が前方に押し出されドライバー26も前方に押されて打撃力が発生する。
【0021】
上記のような状態を繰り返すことによりドライバー26に打撃力を与えながらネジを締め付けることができる。
【0022】
(3)トリガースイッチ40の構造
次に、トリガースイッチ40の構造について、図3に基づいて説明する。
【0023】
トリガースイッチ40は、箱状のスイッチ本体41と、このスイッチ本体41に対し摺動自在に設けられたトリガー部42を有している。トリガー部42からスイッチ本体41の方向に向かって棒状の移動部材43が突出している。この移動部材43の先端部にはマグネット44が取り付けられ、このマグネット44を有する移動部材43の先端部が、スイッチ本体41内部に挿入されている。また、トリガー部42はコイル状のバネ45によって、常に外方に付勢されている。
【0024】
スイッチ本体41の内部であって、移動部材43の摺動方向に沿う位置にホールIC46が設けられている。また、ホールIC46の前方には、マイクロスイッチよりなるメインスイッチ47が配されている。このメインスイッチ47は、トリガー部42が全く押圧されていない状態の移動部材43の位置である初期位置Psを検出するものであり、トリガー部42が少しでも押圧されて移動部材43が移動するとOFF状態からON状態になる。
【0025】
これらメインスイッチ47とホールIC46とは、不図示の配線基板に設けられ、この配線基板はスイッチ本体41に収納されている。
【0026】
トリガースイッチ40のトリガー部42を全く押圧していない状態では、バネ45の付勢力によって、図3の初期位置Psに保持されている。この状態では、移動部材43の先端部に取り付けられたマグネット44がホールIC46から最も離れた位置にある。そして、トリガー部42を指で押圧することにより、移動部材43はスイッチ本体41内部へ引き込まれ、引き込み量が大きくなるにつれマグネット44がホールIC46に接近し、ホールIC46に最隣接する位置Peまで移動する。これにより、図4に示すように、ホールIC46は、引き込み量が大きくなるにつれ電圧値が増大するホール電圧を出力し、このホール電圧は速度指令信号として駆動回路50へ入力される。
【0027】
(4)駆動回路50の構成
次に、駆動回路50の構成について、図5に基づいて説明する。
【0028】
図5に示すように、駆動回路50は、インバータ回路52と、インバータ回路52を制御する制御回路54と、上記したメインスイッチ47を有するメインスイッチ回路56と、上記したトリガースイッチ40とから構成されている。
【0029】
インバータ回路52は、6個のFET1〜6から構成され、2個のFETが直列に接続された回路が3組並列に取り付けられたフルブリッジ回路である。そして、各直列に接続されたFET1〜6の中間点からモータ18の固定子巻線に駆動電流を供給する。
【0030】
6個のFET1〜6は、制御回路54に内蔵されている論理回路58からのゲート信号によってON/OFFすることができる。また、このインバータ回路52は、リチウムイオン電池よりなる充電池29から電圧が供給される。
【0031】
制御回路54は、充電池29からその駆動のための電源が供給され、かつ、充電池29と制御回路54との間には、メインスイッチ回路56が設けられている。このメインスイッチ回路56は、メインスイッチ47とスイッチングトランジスタ48から構成され、メインスイッチ47をON状態になると、スイッチングトランジスタ48もON状態になり、充電池29から直流電源が供給されて制御回路54が駆動する。
【0032】
制御回路54は、上記した論理回路58以外に、モータ18の回転速度を検出する速度検出回路60と、論理回路58を制御する主制御回路62とを有している。より詳細には、速度検出回路60は、モータ18に設けられた3つのホール素子H1、H2、H3よりモータ18の回転子の回転による各相毎の磁極変化に対応した回転信号S1、S2、S3の入力を受け、この回転信号S1、S2、S3に基づいてモータ18の回転速度と回転子の位置を演算しその結果を主制御回路62へ出力する。主制御回路62は、速度検出回路60からの現在の回転速度を、トリガースイッチ40のホールIC46から速度指令信号と比較し、この回転速度が速度指令信号に対応する指令速度になるように論理回路58をフィードバック制御することにより、ホールIC46から入力された速度指令信号に対応する指令速度でモータ20が回転するようになっている。
【0033】
(5)コードレス電動工具10の動作状態
次に、図6に基づいてコードレス電動工具10の動作状態について説明する。
【0034】
メインスイッチ47がOFF状態のときは、制御回路54に電源が供給されていないため、モータ18は停止状態となっている。但し、この場合においても充電池29からインバータ回路52には電圧がかかった状態となっている。
【0035】
コードレス電動工具10の作業者が、トリガー部42を初期位置から少しでも押圧してメインスイッチ47をON状態にすると制御回路54に電源が投入される。そして、上述したようにトリガー部42の引き込み量に応じた速度指令信号がホールIC46から出力され、駆動回路50は速度指令信号に対応する指令速度でモータ18を回転させる。
【0036】
そして、モータ18の回転中に充電池29の電源電圧の変動やモータ18に加わる負荷の変化などによりモータ18の回転速度が変化した場合、速度検出回路60がこの速度変化を検知することで、主制御部62は、モータ18の回転速度を減速、あるいは加速させて、速度指令信号に対応する指令速度でモータ18が回転するように論理回路58をフィードバック制御する。このフィードバック制御はモータ18の回転中において常時行われる。
【0037】
そして、作業者が作業を終えトリガー部42から手を放すと、バネ45の付勢力によりトリガー部42が初期位置に復帰することで、メインスイッチ47がOFF状態となり制御回路54への電源供給が絶たれ、モータ18は停止する。
【0038】
以上のように、本実施形態のインパクトドライバ10では、モータ18の回転中において常時フィードバック制御を行うことにより、充電池29の電源電圧の変動やモータ18に加わる負荷の変化などの外的要因に関係することなく、常に速度指令信号に対応する指令速度でモータ18を回転させることができるため、単位時間当たりの打撃機構による打撃数を一定に制御して、インパクトドライバ10の締め付けトルクを一定にすることができる。また、モータの回転速度をフィードバック制御するために部品点数の増加を伴うことがないため、コスト安価に製造することができる。
【0039】
さらにまた、トリガースイッチ40は、ホールIC46と非接触のマグネット44とから構成されているため、機械的な接触がなく長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態に係るインパクトドライバの正面図である。
【図2】打撃機構の斜視図である。
【図3】トリガースイッチの断面図である。
【図4】トリガースイッチの引き込み量と速度指令信号との関係を説明する説明図である。
【図5】駆動回路の回路図である。
【図6】駆動回路の動作を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0041】
10…インパクトドライバ
18…モータ
20…ギアボックス
22…出力軸
29…充電池
30…打撃機構
40…トリガースイッチ
46…ホールIC
47…メインスイッチ
48…スイッチングトランジスタ
50…駆動回路
52…インバータ回路
54…制御回路
56…メインスイッチ回路
58…論理回路
60…速度検出回路
62…主制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、前記モータに連結されたギアボックスと、前記ギアボックスの出力軸に連結された打撃機構と、前記モータの駆動回路と、引き込み量に応じた速度指令信号を前記駆動回路へ出力するトリガースイッチと、を有する電動工具において、
前記駆動回路は、前記モータの回転速度を検出する速度検出手段と、前記検出されたモータの回転速度を前記速度指令信号に対応する指令速度とを合致するように常時フィードバック制御を行う制御手段と、を備えたことを特徴とする電動工具。
【請求項2】
前記トリガースイッチは、スイッチ本体と、前記スイッチ本体から摺動自在に配されたトリガー部とを有し、
前記トリガー部から前記スイッチ本体内部に向かって移動部材が突出し、
前記移動部材にはマグネットが設けられ、
前記スイッチ本体内部であって、前記移動部材が摺動する方向に沿ってホール素子が配列されていることを特徴とする請求項1に記載の電動工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−21620(P2007−21620A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−204990(P2005−204990)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【出願人】(398061810)日本電産シバウラ株式会社 (197)
【Fターム(参考)】