説明

電動工具

【課題】
モータの起動時にオーバーシュートすることなく良好に加速でき、起動時間を短縮できる電動工具を提供する
【解決手段】
モータと、モータへ印加される交流電圧を導通角によって制御するトライアックと、導通角を設定することによりモータの回転を制御する制御手段を有する電動工具において、制御手段は、モータの起動から第1所定時間までは第1制限導通角を超えないようにトライアックの導通角を設定し、第1所定時間から第2所定時間までは第1制限導通角よりも少ない第2制限導通角を超えないようにトライアックの導通角を設定することによりモータの起動及び加速制御をする。制御手段は不揮発性の記憶手段を有し、記憶手段に第1制限導通角と第2制限導通角を予め格納しておく。第1制限導通角と第2制限導通角は設定回転数毎に複数組準備されて記憶手段に格納される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は交流モータを用いた電動工具に関し、特にモータの回転数を半導体素子の導通角を用いて制御する制御手段を有する電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
電動工具におけるモータの回転数制御においては、モータに対する負荷が変動してもモータの回転数が変動しないように制御することが重要である。そのため、モータの回転数を回転数検出手段によって検出し、その検出結果と設定された回転数との差をモニターし、フィードバック制御が行われる。ACモータを用いる電動工具において、検出された設定回転数との差はトライアック等の導通角の変化に反映され、モータの回転数が一定に保たれる。ここで、導通角とは、トライアックがオンとなった位相角からゼロクロスポイントまでの角度範囲(0°〜180°)のパーセンテージ(%)で表される。さらに、ACモータを用いる電動工具においては、モータのON/OFFが頻繁に行われることが多いためモータの起動を素早く安定して行うことが重要である。電動工具に関する制御ではないが、特許文献1の技術においては遠心分離機のロータ回転制御において、起動してから整定状態に入るときのオーバーシュートあるいはアンダーシュートを無くすように制御するACモータの起動方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−254440号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ACモータの目標回転数と実際の回転数との差をトライアック等の導通角にフィードバックさせる従来技術においては、モータが一定回転数で回転している場合の制御には良好に適用できる。しかしながら、モータの起動時の制御にそのまま適用すると以下のような課題があることを発明者らは見いだした。この状態を図3を用いて説明する。
【0005】
図3は、モータの起動特性を示す図である。縦軸はモータの回転数(r.p.m)であり、横軸は経過時間(second)である。図中実線で示す曲線がモータにおける起動から目標回転数に至るまでの理想的な加速状況を示す曲線である。モータ起動時において、モータの応答性の遅れを防ぐためにトライアックの導通角を大きめに設定すると、モータの起動後に加速し、点線で示す曲線aのように目標とする回転数を一旦超えてオーバーシュートし、その後アンダーシュート及びオーバーシュートを繰り返しながら目標回転数に近づくことになる。このオーバーシュートやアンダーシュートを防ぐために、回転数制御の応答性をモータの応答性よりも悪く(遅く)することも考えられる。その場合、オーバーシュートを防ぐことはできるが、下側の点線で示す曲線のようにモータの加速が遅い状態、いわゆるスロースタートとなってしまい、起動に時間が掛かってしまう。
【0006】
特許文献1の技術においても、起動してから整定状態に入るときのオーバーシュートあるいはアンダーシュートを無くすようにしているが、用いられているACモータは誘導モータであり、誘導モータに与える電流を制御する位相制御素子(モータ駆動回路内に含まれる)の点孤角を制御してオーバーシュートをなくすようモータ電流を調整している。しかしながら、特許文献1の技術では、起動時にスベリ周波数と同期周波数の2つの周波数の交流を用いて制御した上で点弧角を切り替えており、トライアック等の導通角だけでて制御する整流子モータ等のACモータのように、周波数を変えずに起動及び加速させるACモータの制御方法とは前提が異なる。従って、特許文献1の技術を整流子モータ等のACモータにそのまま適用することはできない。
【0007】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は、トライアックを用いてACモータの回転制御を行う電動工具において、モータの起動時にオーバーシュートすることなく良好に加速でき、起動時間を短縮できる電動工具を提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、マイコンを用いて交流モータの起動時の回転制御を効率良く行うようにした電動工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願において開示される発明のうち代表的なものの特徴を説明すれば次の通りである。
本発明の一つの特徴によれば、モータと、モータへ印加される交流電圧を導通角によって制御するトライアック等の半導体素子と、導通角を設定することによりモータの回転を制御する制御手段を有する電動工具において、制御手段は、モータの起動から第1所定時間までは第1制限導通角を超えないように半導体素子の導通角を設定し、第1所定時間から第2所定時間までは第1制限導通角よりも少ない第2制限導通角を超えないように導通角を設定することによりモータの起動及び加速制御をする。制御手段は不揮発性の記憶手段を有し、記憶手段にモータの設定回転数に対応する第1制限導通角と第2制限導通角を予め格納しておくと良い。第1制限導通角と第2制限導通角は設定回転数毎に複数組準備されて記憶手段に格納される。また、複数の商用電圧地域で使用する場合は、第1制限導通角と第2制限導通角の関係を、入力される交流電源の周波数毎に記憶手段に格納すると好ましい。
【0010】
本発明の他の特徴によれば、制御手段は、回転数検出手段から出力された検出信号と回転数設定手段によって設定される回転数設定信号を比較して導通角を増減させる。つまり制御手段は、モータ起動から第1所定時間までは第1制限導通角を超えないように半導体素子の導通角を制御し、第1所定時間から第2所定時間までは第1制限導通角よりも少ない第2制限導通角を超えないように半導体素子の導通角を制御する。回転数設定手段はダイヤルスイッチであり、制御手段はダイヤルスイッチの設定量に応じて第1制限導通角と第2制限導通角を設定することができる。
【0011】
本発明のさらに他の特徴によれば、記憶手段に格納される第1制限導通角と第2制限導通角の比は、設定回転数が増加する毎に増加又は減少するように設定する。ここで、第1所定時間は、モータの起動から定常回転数に到達する前の時間間隔であり、第2所定時間は、モータの定常回転数に到達する前から到達した後に至る時間間隔である。
【0012】
本発明のさらに他の特徴によれば、制御手段は検出された回転数と設定回転数との偏差を用いて比例制御によるフィードバックを行い、モータの起動及び加速時におけるフィードバックの単位量が、モータの定常回転時におけるフィードバックの単位量よりも多くなるように制御する。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、モータ起動から第1所定時間までは第1制限導通角を超えないように半導体素子の導通角を制御し、第1所定時間から第2所定時間までは第1制限導通角よりも少ない第2制限導通角を超えないように半導体素子の導通角を制御するので、モータの起動時にオーバーシュートすることなく起動時間を短縮することができる。
【0014】
請求項2の発明によれば、制御手段は記憶手段を有し、記憶手段にモータの設定回転数に対応する第1制限導通角と第2制限導通角の関係を予め格納しておくので、制御手段は瞬時に制限導通角を求めることができる。
【0015】
請求項3の発明によれば、制御手段は回転数検出手段から出力された検出信号と回転数設定手段によって設定される回転数設定信号を比較して導通角を増減させるので、設定される回転数に応じた精度の良いモータ起動を行うことができる。
【0016】
請求項4の発明によれば、第1制限導通角と第2制限導通角は設定回転数毎に複数組準備されて記憶手段に格納されるので、モータの回転数領域毎にきめ細かな回転制御を行うことができる。
【0017】
請求項5の発明によれば、設定回転数に対応する第1制限導通角と第2制限導通角の関係は、入力される交流電源の周波数に応じて設定するようにしたので、1つの制御装置で複数のモータに対応することができる。
【0018】
請求項6の発明によれば、記憶手段に格納される第1制限導通角と第2制限導通角の比は、設定回転数が増加する毎に増加又は減少するように設定されるので、モータの回転数領域毎にきめ細かな回転制御を行うことができる。特に、モータの回転数が低い領域において十分な回転トルクを発生するように制御することが可能になる。
【0019】
請求項7の発明によれば、第1所定時間はモータの起動から定常回転数に到達する前の時間間隔であり、第2所定時間はモータの定常回転数に到達する前から到達した後に至る時間間隔であるので、モータの起動時と定常回転到達時の区間を別々の制御パラメータによってきめ細かく制御することができる。
【0020】
請求項8の発明によれば、モータの起動及び加速時におけるフィードバックの単位量が、モータの定常回転時におけるフィードバックの単位量よりも多くなるように制御されるので、定常回転時における回転変動を小さくすることができる。
【0021】
本発明の上記及び他の目的ならびに新規な特徴は、以下の明細書の記載及び図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例に係るモータの回転制御回路図である。
【図2】本発明の実施例に係る回転数制御装置の一連の動作を示すフローチャートである。
【図3】モータ3の起動特性を示す図である。
【図4】本発明の実施例に係る制限導通角の設定値テーブルを示す図である。
【図5】回転数信号増幅回路5からマイコン23に出力される信号を示す波形図である。
【図6】モータ3に供給される電圧波形と導通角の関係を説明するための図である。
【図7】モータ3の回転変動とフィードバック制御の関係を示すグラフである。
【図8】モータ3の目標回転数と、起動・加速時の導通角制限値の設定値テーブルの別の例を示す図である。
【図9】モータ3の目標回転数との偏差とフィードバック量との関係を示す設定値テーブルである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0023】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1は本発明の実施例に係るモータの回転数制御回路図である。交流電源101は、例えば50Hz又は60Hzの単相100Vであり、交流はスイッチ2によってON/OFF制御される。回転制御装置4は、モータ3の回転数を検出する回転数センサ6、回転数センサ6から出力される回転数信号を増幅する回転数信号増幅回路5、マイコン(マイクロコンピュータ)23、マイコン23及び制御回路内の基準電源を作るための電源回路7、交流電圧からゼロクロス点を検出するためのゼロクロス検出回路8、スイッチ2のON、OFFを検出するためのスイッチON、OFF信号をマイコン23に伝達するためのダイオード24、抵抗器25及び26、モータ3に通電される電圧を位相制御するための半導体素子であるトライアック27、トライアック27のゲート信号を入力するための抵抗器28、及びモータ3の回転数を設定するための抵抗器31、可変抵抗器32、33を含んで構成される。
【0024】
回転数信号増幅回路5は、コンデンサ9、15、抵抗器10、11、12、14、トランジスタ13で構成される交流増幅器であり、回転数センサ6からの回転数信号を0V〜−VCCの範囲で増幅してマイコン23に出力する。マイコン23はこの出力信号を用いてモータ3の回転数を検出する。この検出処理の際、マイコン23は出力信号からモータ3の回転数を正しく検出しなければならないが、ラインノイズの混入など、出力信号に異常なパルス信号が重畳されてしまう場合がある。そこで本実施例では、回転数検出信号の4パルス(1回転分)の中からパルス幅の広い2つを選択し、それをもとに回転数を検出するようにした。この原理を図5を用いて説明する。
【0025】
図5は、回転数信号増幅回路5からマイコン23に出力される信号を示す波形図である。図5(1)はノイズの混入が無い正常な状態の回転数検出信号を示す。モータ3が1回転するにあたり、回転数検出信号として区間Aから区間Dまでの4パルスが送出される。本実施例では、回転数検出信号の4パルス(1回転分)の中からパルス幅の広い2つを選択すし、そのパルス幅を用いてモータ3の回転数が算出される。図5(1)では、区間A〜Dのうちいずれか2つが選択され、それらのパルス幅(時間間隔)からモータ3の回転数が検出される。
【0026】
一方、図5(2)はノイズの混入があった場合の回転数検出信号を示す。区間の切り替わりは、例えば出力される信号が−Vccから0Vへの立ち上がりで検出されるので、重畳されたノイズの影響により、ノイズによる信号の立ち上がりが区間Cの終端と認識され、その結果、区間Cと区間Dが誤って検出される。このような場合であっても本実施例においては、4パルスのうちパスル幅が長い区間Aと区間Bの2つのパルスを用いてモータ3の回転数が検出される。よって、ラインノイズの混入等の異常なパルスが回転数検出信号に重畳したとしても、その影響を効果的に除去することができ、電動工具の耐ノイズ性を大幅に向上させることができる。
【0027】
図1に戻り、電源回路7は、ダイオード16、抵抗器17、ツェナーダイオード18、電解コンデンサ19によって構成される半波整流回路であり、交流電圧を直流に変換してマイコン23及び図示しない電動工具の回路内に供給する。
【0028】
ゼロクロス検出回路8は、抵抗器20、21、フォトカプラ22で構成される。交流電圧はまず抵抗器20によって減衰され、フォトカプラ22の入力部(発光ダイオード)に入力される。このフォトカプラ22の入力部に2つの発光ダイオードが互いに逆向きに接続されており、電流が正逆どちらに流れても発光するが、電圧の低いゼロクロス点近傍のみ消灯する。フォトカプラ22の出力部はフォトトランジスタで構成されており、入力部の発光ダイオードが発光した時にのみON状態となる。つまりこのフォトトランジスタは交流電圧のゼロクロス点のみOFF状態となりそれ以外はON状態となるため、マイコン23には交流電圧のゼロクロス点のみ抵抗器21を通って0Vが入力され、それ以外のときは−VCCが入力される。このマイコン23に入力される信号の変化によって、マイコン23はトライアック27の位相制御をするための基準信号を得ることができる。
【0029】
次に回転数制御装置4の一連の動作について、図2のフローチャートに沿って説明する。電動工具のACコード(図示せず)が接続されて交流電源101から交流電圧が供給されると、電源回路7によって直流の定電圧がマイコン23及び制御回路内に供給され、電動工具がスタンバイ状態になる。また交流電源101から供給される交流電圧がゼロクロス検出回路8に入力されるので、マイコン23はゼロクロス検出回路8から入力されたゼロクロス信号の時間間隔を測定し、入力された交流電源の周波数を検出する(ステップ201)
【0030】
次にマイコン23は、抵抗器31、可変抵抗器32、33によって設定されるモータ3の目標回転数設定電圧を検出し、目標回転数の設定を行う(ステップ202)。可変抵抗器32は使用者が作業用途によって外部からダイヤルによって自由に回転数を設定できるものであり、例えば電動工具に取り付けられモータ3の回転数を数段階(例えばダイアルの1〜4の4段階)に設定するための設定手段である。また、可変抵抗器33は制御回路のバラツキを抑制するための調整用の可変抵抗器である。
【0031】
次にマイコン23は、モータ起動時におけるトライアック27の制限導通角の設定を行う(ステップ203)。制限導通角は単一に設定されるのではなく、モータ起動から第1所定時間までに適用される第1制限導通角と、第1所定時間から第2所定時間に適用される第2制限導通角の2つを含めて設定する。第2制限導通角は、第1制限導通角よりも少なくすると良い。
【0032】
一般に、モータ3の応答性と回転制御の応答性を比べると、回転制御の応答性の方が速い。そのため、モータ起動時において、モータ3の応答性の遅れから回転制御においてトライアックの導通角を必要以上に大きくしすぎてしまい、その結果図3の上側の点線で示す曲線のように目標とする回転数を一旦超えてオーバーシュートしてから目標回転数に近づくような起動特性となってしまう。この現象を防止するために回転数制御の応答性がモータの応答性よりも遅くなるように制御することによってオーバーシュートを防ぐことはできるが、その場合はスロースタートとなってしまい起動に時間が掛かってしまう。そこで本実施例において、トライアック27の導通角がそれ以上大きくならないように2段階の制限値を設けて制御し、モータ起動時のオーバーシュートを防ぐようにした。ステップ203ではその制限導通角の設定を行う。
【0033】
図4に具体的な制限導通角の設定値テーブルを示す。制限導通角はモータ起動時から任意の時間(例えば0〜0.5秒の区間)の第1次制限導通角と、第1次制限導通角の期間からの任意の時間(例えば0.5〜1.0秒の区間)の第2次制限導通角の2段階の制限を設定する。第1次制限導通角の期間ではモータの起動を速くするために第2次制限導通角よりも大きい設定とする。第2次制限導通角の期間で目標回転数に合わせる制御を行う。この設定値は予め実験等によって最適な値を求めておくと好ましい。そして、その値をマイコン23の記憶手段内に格納する。さらに、ステップ201で検出した入力電源の周波数に対応させるため、複数の設定値テーブル、例えば50Hz用と60Hz用の設定値テーブルを別々に設けると好ましい。マイコン23は設定値テーブルに格納された制限導通角を用いて、設定された制限導通角になるように導通角の時間設定を行う。
【0034】
図2のフローチャートに戻り、マイコン23は、ダイオード24、抵抗器25、26によって分圧されたスイッチON信号を検出し、スイッチ2の状態を監視する(ステップ204)。スイッチ2がONされると、マイコン23は抵抗器28を通してトライアック27のゲート端子にゲート信号を入力する。その後トライアック27はONし、モータ3に電流が流れ始め、モータ3は回転し始める(ステップ204)。このとき、マイコン23はステップ203で設定されたモータ3の起動における第1次制限導通角の範囲内で0.5秒間の期間、モータ3の回転数制御を行う(ステップ206)。次にマイコン23は、ステップ203で設定されたモータ3の起動における第2次制限導通角の範囲内で0.5秒の期間(モータ起動から1.0秒)、モータ3の回転数制御を行う(ステップ207、208)。本実施例においては、第1次及び第2次制限導通角区間が終了する際にモータ3が目標回転数に到達しているように、各区間の間隔(長さ)が決定される。尚、この区間の間隔はモータの特性、電動工具の構成、電源の種類等をもとにあらかじめ設定しておき、マイコン23に記憶させておくと良い。
【0035】
次にマイコン23は、モータ3の回転数が抵抗器31、可変抵抗器32、33によって設定されている目標回転数になるように定回転制御を行う。マイコン23は回転数センサ6、回転数信号増幅回路5によって検出されたモータ3の回転数を監視し、モータ3の回転数が目標回転数と比較してモータ3の回転数が低いときはトライアック27の導通角を広げ、またモータ3の回転数が高いときはトライアック27の導通角を狭めるようにトライアック27のゲート信号を制御して、モータ3の回転数が常に一定となるように位相制御を行う(ステップ209)。
【0036】
次にマイコン23は、スイッチ2の状態を監視し(ステップ210)、スイッチ2がON状態であれば、ステップ209に戻り、引き続き定回転制御を行う。また、スイッチ2がOFF状態であれば、モータ3を停止させ(ステップ211)、ステップ202に戻り、スイッチ2を入れる前の待機状態になる。
【0037】
次に、定回転制御について図6を用いて説明する。図6はモータ3に供給される電圧波形と導通角の関係を説明するための図である。電圧のサイクル1においては導通角αで制御され、マイコン23が前記回転数検出手段から出力された検出信号と前記回転数設定手段によって設定される回転数設定信号を比較して、導通角αをΔだけ増やすべきと判断したとする。図6(1)は従来の回転制御における制御方法を示したもので、マイコン23の指示が即座にサイクル2以降の制御に反映され、サイクル2以降ではトライアック27は導通角(α+Δ)で動作する。しかしながら、このように次のサイクル2で導通角を急激に変化させてしまうとモータ3の回転変動が比較的急激になり、先端工具に負荷をかけ始めた際の反動が大きくなる。この状態を示すのが、図7の点線で示す制御1である。図7において、モータの回転数が地点aにおいて低下しているが、マイコン2はその低下を検出して設定回転するまで戻す制御を行う。従来の制御1においては、導通角の変化量が大きいため制御1の点線のようにモータの回転数の上昇が急になりすぎる恐れがある。
【0038】
本実施例においては、図6(2)に示すように、マイコン23があるサイクル(例えば図6(2)のサイクル1)で導通角を増やす(+Δ)と判断した場合であっても、その増加分Δを次のサイクル2ですぐに増加させるのではなく、次のサイクル2である一定割合(例えば1/2)だけ反映し、その次のサイクル3以降で全部を反映させるようにする。このように導通角を変化させる場合に次のサイクルで瞬時に反映させるのではなく、徐々に増加するように反映させることによりスムーズな制御を行うことができる。この制御におけるモータの回転状態を示すのが図7の実線で示す制御2である。図7において、モータの回転数が地点aにおいて低下しているが、マイコン2は導通角の変化量を徐々に反映させるので、モータの回転数の上昇が制御2で示すように緩やかになる。
【0039】
このような遅延制御は従来のアナログ的なフィードバック制御ではその実現が難しいが、本実施例のようにマイコン23を使ってデジタル的な制御を行う場合においては比較的容易に実現できる。尚、本実施例において導通角の変化量を2段階とし、その増加比率を同じとしたが、必ずしも同じ比率での増加に限る必要はない。例えば、サイクル2で+2Δ/3とし、サイクル3以降で+Δのように増加比率を変えても良い。また、2段階だけでなく任意の多段階としても良い。
【0040】
以上、説明したように本実施例によれば、モータ起動から第1所定時間までは第1制限導通角を超えないように半導体素子の導通角を制御し、第1所定時間から第2所定時間までは第1制限導通角よりも少ない第2制限導通角を超えないように半導体素子の導通角を制御するので、モータの起動時にオーバーシュートすることなく理想的なモータの起動及び加速を行うことができるので、起動時間を短縮することができる。
【0041】
尚、本発明は実施例の構成に限定されることなく、種々の変形や応用が可能である。例えば、図4に示した設定値テーブルは第1次制限と第2次制限の比率が一定であるがこれに限られるものではない。つまり、図4においては、ダイヤル1の時は第1次制限:第2次制限=15%:10%=3:2であり、ダイヤル4の時は第1次制限:第2次制限=60%:40%=3:2である。しかしながら、この比率は常に一定でなく可変に設定しても本発明の効果を得られる。また、図4の設定値テーブルには%値を格納しているが、この%値を時間値に変換した値(例えば、50Hzの場合、15%は1/50秒×15%=0.003秒)として格納しておき、この時関値を用いて制御するようにしても良い。
【0042】
次に図8を用いて、設定値テーブルの別の例を説明する。図8はモータ3の目標回転数と、起動・加速時の導通角制限値の設定値テーブルの別の例を示す図である。この別の例では、ダイヤル設定値が4段階でなく12段階にした場合の例を示している。図8において、目標回転数が最も低い状態(ダイヤル1)の時は第1次制限:第2次制限=10%:5%=2:1であり、目標回転数が最も高い状態(ダイヤル12)の時は第1次制限:第2次制限=65%:43%=約3:2である。つまり、ダイヤルの位置によって第1次制限:第2次制限を2:1〜3:2と変化させている。このように、特に低い回転数の際に、第2次制限値に対する第1次制限値の比率を増やすことによって、起動トルクの低下を防ぐことができ、良好な始動特性を実現できる。
【0043】
次に図9を用いてモータのフィードバック制御について説明する。図9はモータ3の目標回転数との偏差とフィードバック量との関係を示す設定値テーブルである。本実施例で特徴的なことは、モータの起動及び加速時におけるフィードバックの単位量が、モータの定常回転時におけるフィードバックの単位量よりも多くなるように設定されることである。本実施例においては、目標回転数に範囲に応じて16段階のフィードバック(FB)量を設定し、上述した本実施例の制御による起動(ソフトスタート)時のフィードバック量と、定常回転数のFB量を変えている。即ち、ソフトスタート時においてはフィードバック量を大きくしてモータの起動時間の短縮化を図っている。一方、定常回転数時には、ソフトスタート時に比べてフィードバック量を小さくしており、モータの回転変動を極力抑えている。このようにモータの起動時と定常回転時の制御を変えることにより、使用者にとって使いやすい電動工具を実現できる。
【0044】
以上、本発明を示す実施例に基づき説明したが、本発明は上述の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、本実施例ではモータ起動期間におけるトライアック27の制限導通角を2段階に設定したが、それ以上の多段階の設定でも良い。その段階を増やすことによって、より精度の良いモータの起動動作を行うことができる。
【符号の説明】
【0045】
2 スイッチ 3 モータ 4 回転数制御装置
5 回転数信号増幅回路 6 回転数センサ 7 電源回路
8 ゼロクロス検出回路 16、24 ダイオード 23 マイコン
25、26、28、31 抵抗器 27 トライアック
32、33 可変抵抗器 101 交流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、モータへ印加される交流電圧を導通角によって制御する半導体素子と、前記導通角を設定することにより前記モータの回転を制御する制御手段を有する電動工具において、
前記制御手段は、前記モータの起動から第1所定時間までは第1制限導通角を超えないように前記半導体素子の導通角を設定し、第1所定時間から第2所定時間までは前記第1制限導通角よりも少ない第2制限導通角を超えないように前記導通角を設定することを特徴とする電動工具。
【請求項2】
前記制御手段は記憶手段を有し、前記記憶手段に前記第1制限導通角と前記第2制限導通角を予め格納しておくことを特徴とする請求項1に記載の電動工具。
【請求項3】
前記電動工具は前記モータの回転数を設定する回転数設定手段と、前記モータの回転数を検出する回転数検出手段を有し、
前記制御手段は、前記回転数検出手段から出力された検出信号と前記回転数設定手段によって設定される回転数設定信号を比較して前記導通角を増減させることを特徴とする請求項1又は2に記載の電動工具。
【請求項4】
前記第1制限導通角と前記第2制限導通角は設定回転数毎に複数組準備されて前記記憶手段に格納されることを特徴とする請求項2又は3に記載の電動工具。
【請求項5】
前記第1制限導通角と第2制限導通角の関係は、入力される交流電源の周波数毎に前記記憶手段に格納されることを特徴とする請求項4に記載の電動工具。
【請求項6】
前記記憶手段に格納される前記第1制限導通角と前記第2制限導通角の比は、設定回転数が増加する毎に増加又は減少するように設定されることを特徴とする請求項4又は5に記載の電動工具。
【請求項7】
前記第1所定時間は、前記モータの起動から定常回転数に到達する前の時間間隔であり、
前記第2所定時間は、前記モータの定常回転数に到達する前から到達した後に至る時間間隔であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の電動工具。
【請求項8】
前記制御手段は検出された回転数と前記設定回転数との偏差を用いて比例制御によるフィードバックを行い、前記モータの起動及び加速時におけるフィードバックの単位量が、前記モータの定常回転時におけるフィードバックの単位量よりも多くなるように制御されることを特徴とする請求項7に記載の電動工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−234465(P2010−234465A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83910(P2009−83910)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】