説明

電動工具

【課題】ドリルが電線などの通電を検出すると、ドリルの回転を停止させる電動工具を提供する。
【解決手段】電動工具10は、ハウジング1h、スピンドル1c、電気モータ2、及び検電装置6を備える。スピンドル1cは、ドリル1aと回転可能に連結すると共に、ドリル1aと電気的に接続する。検電装置6は、スピンドル1cと電気的に接続して、通電体の絶縁被覆にドリル1aの先端が接触すると、当該通電体の電位を検出する。検電装置6は、スピンドル1cに接触するブラシ61と接続する検電回路62と、検電回路62から出力された前記通電体の電位の検出信号を増幅する増幅回路63を有する。電気モータ2は、増幅回路63から前記検出信号が出力されると、電気モータ2を回転させる電力が遮断される保護スイッチ22sを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動工具に関する。特に、電動工具に設けたドリルが電線などの通電を検出すると、ドリルの回転を直ちに停止させる検電機能付きの電動工具の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電気工事は、作業部位に供給している電気を停止して実施される。例えば、検電器を電線などの作業部位に当てることで、電線が通電されているか否かを判別することができる。これにより、電気工事を安全に実施できる。なお、通電状態を維持した状態で作業する活線工事も実施されている。
【0003】
このような電気工事に実施するにあたり、電線の被覆を除去するナイフに検電部を設け、電線が活線状態であるかを確認可能な検電部を設けたナイフが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1によるナイフは、本体の内部に検電部を埋設し、検電部と刃ガイドとの間に検電帯を設け、検電帯の一端を検電部に固設し、検電帯の他端を刃ガイドに接触させている。又、特許文献1によるナイフは、本体の外壁に表示ランプを凹設し、更に、本体の外壁にブザーを凹設している。特許文献1によるナイフは、電線にナイフを入れたときに、表示ランプの点灯、又はブザーの発信音から活線状態を確認できる、としている。
【0005】
又、このような電気工事に実施するにあたり、ねじ締め用として許容される締付け力を大きくでき、しかも、分解や組立、電池交換を簡単な作業で迅速かつ容易に実施できる検電用ドライバが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
特許文献2による検電用ドライバは、柄の先端部に備えたドライバービットの装着部を筒状に形成することにより、ねじ締め作業時の大きな締付け力に耐えるようにできる。カバー体の裏面側に複数の電気部品を搭載した配線基板を取り付け、柄の把手部に設けたガイド溝を利用して、カバー体を差し込むことにより、カバー体で把手部の開口を塞ぐことができる。更に、キャップ体を柄から取り外し、電池ホルダーを露出させて、電池を交換できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平6−66564号公報
【特許文献2】実開平5−72370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1によるナイフ及び特許文献2による検電用ドライバは、手動工具と使用できると共に検電器としても使用できて便利である。しかしながら、壁や床に電気ドリルで孔を穿設するときに、壁や床に埋設された活線を損傷させることがある。埋設電線は、敷設された場所を特定することが困難な場合が多く、かつ、壁や床を隔てて、検電器で埋設電線の通電状態を確認することが困難であるからである。
【0009】
壁や床に電気ドリルで孔を穿設するときには、多くは、埋設電線が敷設されていないものと認識されている。このため、埋設電線を損傷させ、停電に至るといった事故が発生している。
【0010】
電動工具に設けたドリルが埋設電線などの通電を検出すると、ドリルの回転を直ちに停止させる検電機能付きの電動工具が実現できれば、埋設電線を損傷させる事故を防止でき、安全に穿設工事を実施できる。そして、以上のことが本発明の課題といってよい。
【0011】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、電動工具に設けたドリルが埋設電線などの通電を検出すると、ドリルの回転を直ちに停止させる検電機能付きの電動工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、ドリルと電気的に接続する検電部を電動工具の内部に設け、ドリルの先端が電線の被覆に接触して、電線の通電を検出すると、ドリルを回転させる電気モータの電力を遮断することによって、埋設電線を損傷させる事故を防止できることを見出し、これに基づいて、以下のような新たな電動工具を発明するに至った。
【0013】
(1)本発明による電動工具は、ドリル、及びこのドリルを胴体部の端部に把持するドリルチャックを有する絶縁性のハウジングと、このハウジングの胴体部の内部に収容され、前記ドリルと回転可能に連結すると共に、当該ドリルと電気的に接続するスピンドルと、このスピンドルを回転させる回転軸を有する電気モータと、前記スピンドルと電気的に接続して、通電体の絶縁被覆に前記ドリルの先端が接触すると当該通電体の電位を検出する検電装置と、を備え、前記検電装置は、前記スピンドルに接触するブラシと、このブラシと接続し、前記通電体の電位を検出すると検出信号を出力する検電回路と、この検電回路と接続し、前記検出信号を増幅する増幅回路と、を有し、前記電気モータは、前記増幅回路から前記検出信号が出力されると、当該電気モータを回転させる電力が遮断される保護スイッチを有する。
【0014】
(2)本発明による電動工具は、前記電気モータの回転軸を制動可能な電磁ブレーキ装置を更に備え、この電磁ブレーキ装置は、前記回転軸の端部に固定された円板状のハブと、前記回転軸の軸方向に移動が許容されるように、複数の平行板ばねを介して、前記ハブに取り付けられた円環状のアーマチュアと、円筒状のフレームの内部にコイルが巻回された電磁ソレノイド本体であって、当該フレームの励磁面が前記アーマチュアと所定のギャップを有するように、前記電気モータの本体に固定された電磁ソレノイド本体と、前記増幅回路から前記検出信号が出力されると、前記電磁ソレノイド本体が励磁するように、前記コイルを通電させる制動スイッチと、を有することが好ましい。
【0015】
(3)前記ドリルチャックは、その外面が絶縁被覆されていることが好ましい。
【0016】
(4)前記スピンドルと前記ドリルチャックとを連結し、当該スピンドルから前記ドリルに所定のトルクを伝動するクラッチ装置を更に備え、前記クラッチ装置は、前記胴体部と前記ドリルチャックとの間に介装され、伝動トルクを調整する円環状のダイヤルを有し、前記ダイヤルは、その外面が絶縁被覆されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明による電動工具は、通電体の絶縁被覆にドリルの先端が接触すると、通電体の電位を検出する検電装置を備え、検電装置が通電体の電位を検出すると、ドリルを回転させる電気モータの電力を遮断するように構成しているので、埋設電線などを損傷させる事故を防止でき、安全に穿設工事を実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態による電動工具の構成を示す正面図である。
【図2】前記実施形態による電動工具の内部構成を示す正面図であり、要部を断面としている。
【図3】前記実施形態による電動工具に備わる歯車減速機の構成を示す縦断面図である。
【図4】前記実施形態による電動工具に備わる電磁ブレーキ装置の構成を示す縦断面図である。
【図5】前記実施形態による電動工具の左側面図である。
【図6】前記実施形態による電動工具の電気回路の構成を示すブロック図であり、ドリルが回転している状態図である。
【図7】前記実施形態による電動工具の電気回路の構成を示すブロック図であり、ドリルの回転が防止された状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態を説明する。
[電動工具の構成]
(全体構成)
最初に、本発明の一実施形態による電動工具の構成を説明する。図1は、本発明の一実施形態による電動工具の構成を示す正面図である。図2は、前記実施形態による電動工具の内部構成を示す正面図であり、要部を断面としている。
【0020】
図1又は図2を参照すると、本発明の一実施形態による電動工具10は、絶縁性のハウジング1hを備えている。ハウジング1hは、分割可能に組み立てられ、電動工具10の外殻を構成している。ハウジング1hを部分的に取り外すことにより、内部の構成要素を露出できる。ハウジング1hは、例えば、絶縁性の合成樹脂を成形している。
【0021】
図1又は図2を参照すると、ハウジング1hは、角筒状の胴体部11及び把持部12で主に構成されている。胴体部11の前端部には、ノーズ13を突出させている。胴体部11の後端部には、キャップ14を着脱自在に取り付けている。キャップ14もハウジング1hに含まれる。
【0022】
図1又は図2を参照すると、把持部12の底面には、バッテリ15を取り付けている。バッテリ15は、例えば、再充電が可能なニッケル・カドミウム電池が使用されている。バッテリ15は、リチウムイオン電池を使用することもできる。電動工具10は、AC−DCコンバータを介して、直流が入力されるように構成してもよい。
【0023】
図2を参照すると、把持部12の内部には、コネクタ16とトリガースイッチ17sが配置されている。バッテリ15は、コネクタ16を介して、トリガースイッチ17sと電気的に接続している。
【0024】
図1又は図2を参照すると、把持部12には、トリガー17を取り付けている。トリガー17は、トリガースイッチ17sに連結している。トリガー17を操作する(引く)と、バッテリ15から電気モータ2に電力が供給されて、電気モータ2を駆動(回転)できる。トリガー17を離すと、電気モータ2への電力供給が遮断される。
【0025】
図2を参照すると、胴体部11の内部には、電気モータ2を収容している。電気モータ2は、アダプタ板21に取り付けられている。アダプタ板21を貫通して、電気モータ2の回転軸2aが前端部側に延設している。そして、この回転軸2aが胴体部11のノーズ13側に収容された歯車変速機3に連結している。なお、電気モータ2の回転軸2aは、後端部側にも延設している。
【0026】
図1又は図2を参照すると、歯車変速機3は、前端部側の回転軸2aに連結した出力軸3aを一方の端部に有している。又、歯車変速機3は、スピンドル1cを他方の端部に連結している。歯車変速機3は、複数の歯車列の組み合わせで、出力軸3aの回転速度を減速して、スピンドル1cに出力している。
【0027】
図1又は図2を参照すると、ハウジング1hの胴体部11の内部には、スピンドル1cが収容されている。スピンドル1cは、クラッチ装置4を貫通して、ドリルチャック1bに連結している。ドリルチャック1bは、ドリル1aを端部に把持している。スピンドル1cは、ドリル1aと回転可能に連結すると共に、ドリル1aと電気的に接続している。
【0028】
図1又は図2を参照すると、電動工具10は、クラッチ装置4を備えている。クラッチ装置4は、スピンドル1cとドリルチャック1bとを内部で連結し、スピンドル1cから所定のトルクをドリル1aに伝動できる。
【0029】
図1又は図2を参照すると、クラッチ装置4は、胴体部11とドリルチャック1bとの間に介装されている。そして、クラッチ装置4は、円環状の目盛付きのダイヤル4aを有している。ダイヤル4aを操作して、ドリル1aへの伝動トルクを調整できる。なお、クラッチ装置4の内部構造については、詳細な説明を省略する。
【0030】
(歯車変速機の構成)
次に、歯車変速機3の構成を説明する。図3は、前記実施形態による電動工具に備わる歯車減速機の構成を示す縦断面図である。図3を参照すると、歯車変速機3は、三段の遊星歯車装置31・32・33で構成されている。これらの遊星歯車装置31・32・33は、軸方向に直列に配置されている。又、これらの遊星歯車装置31・32・33は、相互に組み合わされた円筒状のギヤケース31a・32a・33aに収容されている。
【0031】
図3を参照すると、一段目の遊星歯車装置31は、第1太陽歯車31b、複数の第1遊星歯車31c、第1キャリア31d、及び第1リングギヤ31eで構成されている。第1太陽歯車31bは、出力軸3aの端部に固定されている。複数の第1遊星歯車31cは、第1太陽歯車31b及び第1リングギヤ31eの内歯に噛み合っている。第1キャリア31dは、複数の第1遊星歯車31cをピン31pで支持している。又、第1キャリア31dは、複数の外歯311を端部に形成している。
【0032】
図3を参照すると、歯車変速機3は、第1リングギヤ31eに形成された外歯に噛み合う内歯を有する第1アウターリングギヤ31fを備えている。第1アウターリングギヤ31fは、軸方向に移動自在に構成されている。
【0033】
図3に示された状態では、第1アウターリングギヤ31fは、ギヤケース31a側に移動している。そして、第1アウターリングギヤ31fの内歯がギヤケース31aの端部に形成された外歯に噛み合っている。したがって、図3に示された状態では、第1アウターリングギヤ31fは回転不能であると共に、第1リングギヤ31eも回転不能になっている。
【0034】
図3を参照すると、二段目の遊星歯車装置32は、第2太陽歯車32b、複数の第2遊星歯車32c、第2キャリア32d、及び第2リングギヤ32eで構成されている。第2太陽歯車32bは、第1キャリア31dと一体に形成されている。複数の第2遊星歯車32cは、第2太陽歯車32b及び第2リングギヤ32eの内歯に噛み合っている。第2キャリア32dは、複数の第2遊星歯車32cをピン32pで支持している。又、第2キャリア32dは、複数の外歯321を端部に形成している。
【0035】
図3を参照すると、第2リングギヤ32eは、軸方向に移動自在に構成されている。図3に示された状態では、第2リングギヤ32eは、ギヤケース33a側に移動している。そして、第2リングギヤ32eの外歯がギヤケース32aの端部に形成された内歯に噛み合っている。したがって、図3に示された状態では、第2リングギヤ32eは、回転不能になっている。
【0036】
図3を参照すると、三段目の遊星歯車装置33は、第3太陽歯車33b、複数の第3遊星歯車33c、第3キャリア33d、及び第3リングギヤ33eで構成されている。第3太陽歯車33bは、第2キャリア32dと一体に形成されている。複数の第3遊星歯車33cは、第3太陽歯車33b及び第3リングギヤ33eの内歯に噛み合っている。第3キャリア33dは、複数の第3遊星歯車33cをピン33pで支持している。又、第3キャリア33dは、スピンドル1cの端部を中心部に固定している。第3リングギヤ33eは、ギヤケース33aの内部に固定されている。
【0037】
図3に示された状態では、第1から第3リングギヤ31e・32e・33eは、ギヤケース31a・32a・33aに対して、それぞれ回転不能になっている。このため、第1太陽歯車31b→複数の第1遊星歯車31c→第1キャリア31d及び第2太陽歯車32b→複数の第2遊星歯車32c→第2キャリア32d及び第3太陽歯車33b→複数の第3遊星歯車33c→第3キャリア33dの順番を経て、出力軸3aの回転がスピンドル1cに伝動される。
【0038】
図3を参照して、例えば、一段目の遊星歯車装置31の減速比を1/3、二段目の遊星歯車装置32の減速比を1/6、三段目の遊星歯車装置33の減速比を1/3に設定すれば、図3に示された状態において、出力軸3aからスピンドル1cに至る減速比は、1/3×1/6×1/3=1/54となる。
【0039】
図3を参照すると、ギヤケース31a・32a・33aの外周には、軸方向にスライド可能な第1変速レバー31sを配置している(図2参照)。第1変速レバー31sは、ギヤケース32aに設けた開口を貫通する第1係合ピン31kを取り付けている。第1係合ピン31kの先端部は、第1アウターリングギヤ31fの外周に形成した円環溝に係合している。第1変速レバー31sをスライドすると、第1アウターリングギヤ31fを軸方向に移動できる。
【0040】
図3に示された状態から、第1変速レバー31sをスライドして、第1アウターリングギヤ31fをギヤケース33a側に移動すると、第1アウターリングギヤ31fとギヤケース31aとの係合を解除できる。
【0041】
又、図3に示された状態から、第1アウターリングギヤ31fをギヤケース33a側に移動すると、第1アウターリングギヤ31fは、第1キャリア31d及び第1リングギヤ31eに係合して、第1キャリア31d及び第1リングギヤ31eを一体に回転することができる。
【0042】
図3を参照して、第1キャリア31dと第1リングギヤ31eが一体に回転した状態では、一段目の遊星歯車装置31は非減速状態となる。一方、二段目の遊星歯車装置32及び三段目の遊星歯車装置33は、前述した減速比を維持している。このため、出力軸3aからスピンドル1cに至る減速比は、1×1/6×1/3=1/18となる。
【0043】
図3を参照すると、ギヤケース31a・32a・33aの外周には、軸方向にスライド可能な第2変速レバー32sを配置している(図2参照)。第2変速レバー32sは、ギヤケース32aに設けた開口を貫通する第2係合ピン32kを取り付けている。第2係合ピン32kの先端部は、第2リングギヤ32eの外周に形成した円環溝に係合している。第2変速レバー32sをスライドすると、第2リングギヤ32eを軸方向に移動できる。
【0044】
図3に示された状態から、第2変速レバー32sをスライドして、第2リングギヤ32eをギヤケース31a側に移動すると、第2リングギヤ32eとギヤケース32aとの係合を解除できる。
【0045】
又、図3に示された状態から、第2リングギヤ32eをギヤケース31a側に移動すると、第2リングギヤ32eは、第1キャリア31d(第2太陽歯車32b)に係合して、第2リングギヤ32eと第1キャリア31d(第2太陽歯車32b)を一体に回転することができる。
【0046】
図3を参照して、第2リングギヤ32eと第1キャリア31d(第2太陽歯車32b)が一体に回転した状態では、二段目の遊星歯車装置32は非減速状態となる。一方、一段目の遊星歯車装置31を前述した減速比を維持するように、第1変速レバー31sをスライドしておくと、出力軸3aからスピンドル1cに至る減速比は、1/3×1×1/3=1/9となる。
【0047】
又、図3を参照して、第1変速レバー31sをギヤケース33a側にスライドしておくと共に、第2変速レバー32sをギヤケース31a側にスライドしておくと、一段目の遊星歯車装置31及び二段目の遊星歯車装置32は非減速状態となる。このため、三段目の遊星歯車装置33のみで減速され、出力軸3aからスピンドル1cに至る減速比は、1×1×1/3=1/3となる。
【0048】
このように、実施形態による電動工具10は、第1変速レバー31s及び第2変速レバー32sの操作により、4段の減速比が選択可能な歯車変速機3を備えている。
【0049】
(電磁ブレーキ装置の構成)
引き続き、実施形態による電動工具10の構成を説明する。図4は、前記実施形態による電動工具に備わる電磁ブレーキ装置の構成を示す縦断面図である。図5は、前記実施形態による電動工具の左側面図である。
【0050】
図2又は図4を参照すると、実施形態による電動工具10は、電磁ブレーキ装置5を備えている。電磁ブレーキ装置5は、電気モータ2の後部に延出した回転軸2aを制動することができる。
【0051】
図4を参照すると、電磁ブレーキ装置5は、円板状のハブ51と円環状のアーマチュア52を備えている。ハブ51は、円周方向及び軸方向に移動が困難になるように、回転軸2aの端部に固定されている。
【0052】
図4を参照すると、アーマチュア52は、複数の平行板ばね51aを介して、ハブ51に取り付けられている。平行板ばね51aは、例えば、三つからなり、ハブ51の円周方向に三等分されるように、放射状に配置されている。アーマチュア52の中心部は、円形に開口され、回転軸2aが貫通している。
【0053】
図4を参照すると、アーマチュア52は、磁性体が吸着可能な金属板などからなり、後述する電磁ソレノイド本体53が励磁されると、回転軸2aの軸方向に移動が許容されるように、複数の平行板ばね51aによって、支持されている。
【0054】
図4を参照すると、電磁ブレーキ装置5は、電磁ソレノイド本体53を備えている。電磁ソレノイド本体53は、円筒状のフレーム53c、合成樹脂からなるボビン53d、及びコイル53eを有している。
【0055】
図4を参照すると、フレーム53cは、インナーコア53aとアウターコア53bとで、二重管のように構成されている。そして、インナーコア53aとアウターコア53bの間にボビン53dが圧入されて、フレーム53cとボビン53dを一体に構成している。
【0056】
図4を参照すると、電磁ソレノイド本体53は、電気モータ2の本体の後端部に固定されている。又、電磁ソレノイド本体53は、フレーム53cの励磁面531がアーマチュア52と所定のギャップgを有するように配置されている。
【0057】
図4を参照すると、ボビン53dには、コイル53eが巻回されている。コイル53eを通電すると、フレーム53cの励磁面531にアーマチュア52が吸引される。そして、励磁面531とアーマチュア52との摩擦力で、回転軸2aの回転を制動できる。つまり、ドリル1aの回転を制動できる(図1参照)。
【0058】
一方、図4を参照すると、コイル53eへの通電を遮断すると、複数の平行板ばね51aの復帰力により、アーマチュア52がフレーム53cの励磁面531から離反する。そして、回転軸2aへの制動を解除できる。つまり、ドリル1aへの制動を解除できる(図1参照)。
【0059】
図4を参照すると、キャップ14は、複数のビス14aで胴体部11の後端部にねじ止めされている。そして、キャップ14は、電磁ブレーキ装置5を損傷から保護するように、構成されている。図5を参照すると、キャップ14には、複数の放熱孔14bが形成され、ハウジング1hの内部に空気を循環させて、放熱するように構成している。
【0060】
図1を参照して、電動工具10を用いて、ドリル1aで壁Wに孔を穿設すると、壁Wに埋設された活線(図示せず)を損傷させることがある。実施形態による電動工具10は、ドリル1aが埋設電線などの通電を検出すると、ドリル1aの回転を直ちに停止させる検電装置を備えており、埋設電線を損傷させる事故を防止できる。
【0061】
(検電装置及び電動工具の電気回路の構成)
次に、電動工具10に備わる検電装置6及び電動工具10の電気回路の構成を説明する。図6は、前記実施形態による電動工具の電気回路の構成を示すブロック図であり、ドリルが回転している状態図である。図7は、前記実施形態による電動工具の電気回路の構成を示すブロック図であり、ドリルの回転が防止された状態図である。
【0062】
図6を参照すると、実施形態による電動工具10は、スピンドル1cと電気的に接続する検電装置6を備えている。検電装置6は、埋設電線(図示せず)などの通電体の絶縁被覆にドリル1aの先端が接触すると、前記通電体の電位を検出できる。
【0063】
図2又は図6及び図7を参照すると、検電装置6は、ブラシ61、検電回路62、及び増幅回路63を有している。ブラシ61は、対向する一対の帯状の金属片の先端部がV字状に開角した、導電ブラシであって、スピンドル1cを挟持するように、スピンドル1cに接触している。
【0064】
図6又は図7を参照すると、検電回路62は、ブラシ61と電気的に接続している。そして、検電回路62は、前記通電体の電位を検出すると検出信号を出力する。増幅回路63は、検電回路62と接続している。そして、増幅回路63は、前記検出信号を増幅している。
【0065】
実体として、検電回路62及び増幅回路63は、電気素子又は半導体素子で構成され、これらの素子が胴体部11の内部に配置されたプリント基板1pに実装(回路構成)されている(図2参照)。又、ブラシ61は、プリント基板1pに実装されている。なお、プリント基板1pには、電気モータ2を駆動するためのドライバ回路、及び電磁ブレーキ装置5を駆動するためのドライバ回路も実装されている。
【0066】
図6又は図7を参照すると、実施形態による電動工具10は、電気モータ2の正転と逆転を切り替えるための正逆転切替スイッチ21sを備えている。実体として、正逆転切替スイッチ21sは、スライドスイッチであり、胴体部11の側面に配置されている(図1又は図2参照)。
【0067】
図6又は図7を参照すると、電気モータ2には、電気モータ2を回転させる電力が遮断される保護スイッチ22sが接続されている。図6に示されるように、通常、保護スイッチ22sは、閉じている(接になっている)。そして、電気モータ2を駆動することができる。
【0068】
一方、図7に示されるように、実施形態による電動工具10は、増幅回路63から前記検出信号が出力されると、保護スイッチ22sが開くように(断になるように)、電気回路が構成されている。これにより、電気モータ2を回転させる電力が遮断される。
【0069】
又、図4又は図6及び図7を参照すると、電磁ブレーキ装置5には、電磁ソレノイド本体53が励磁するように、コイル53eを通電させる制動スイッチ5sが接続されている。図6に示されるように、通常、制動スイッチ5sは、開いている(断になっている)。そして、電気モータ2を正常に駆動することができる。
【0070】
一方、図7に示されるように、実施形態による電動工具10は、増幅回路63から前記検出信号が出力されると、制動スイッチ5sが閉じるように(接になるように)、電気回路が構成されている。これにより、電力が遮断された後に、イナーシャ(慣性モーメント)で回転が残存する電気モータ2の回転軸2aを制動できる。つまり、ドリル1aの回転を制動できる。
【0071】
なお、保護スイッチ22s及び制動スイッチ5sは、半導体からなる無接点スイッチを用いることが好ましく、これらの無接点スイッチをプリント基板1pに実装することが好ましい(図2参照)。
【0072】
又、図6又は図7を参照すると、検電装置6は、通電体の絶縁被覆にドリル1aの先端が接触すると、使用者に報知するための表示器64を備えている。表示器64としては、LEDを用いることが好ましく、図4に示されるように、プリント基板1pの後端部に表示器64を配置すると共に、キャップ14の背面に点検孔14cを開口して(図5参照)、表示器64の点灯を確認することもできる。
【0073】
更に、図6又は図7を参照すると、検電装置6は、電動工具10の使用に先立ち、表示器64の点灯を確認するための電池65とスイッチ66を備えている。スイッチ66を押下して、表示器64の点灯を確認できる。電池65の一端は、制限抵抗を介して、プリント基板1pのアース端子に接続されている。
【0074】
[電動工具の作用]
次に、実施形態による電動工具10の作用及び効果を説明する。実施形態による電動工具10は、通電体の絶縁被覆にドリル1aの先端が接触すると、通電体の電位を検出する検電装置6を備え、検電装置6が通電体の電位を検出すると、ドリル1aを回転させる電気モータ2の電力を遮断するように構成しているので、埋設電線などを損傷させる事故を防止でき、安全に穿設工事を実施できる。
【0075】
又、実施形態による電動工具10は、検電装置6が通電体の電位を検出すると、電気モータ2の回転軸2aを制動可能な電磁ブレーキ装置5を更に備えているので、電力が遮断された後に、イナーシャ(慣性モーメント)で回転が残存する電気モータ2の回転軸2aを確実に制動できる。つまり、ドリル1aの回転を確実に制動できる。
【0076】
図1又は図2を参照すると、ドリルチャック1bは、その外面を絶縁被覆することが好ましく、ドリル1aが通電体を損傷させたときに、作業員への感電を防止できる。絶縁被覆は、ドリルチャック1bの外面に絶縁塗料を塗布してもよく、ドリルチャック1bの回転筒を絶縁性の硬質の合成樹脂で成形してもよい。
【0077】
同様に、図1又は図2を参照すると、クラッチ装置4のダイヤル4aは、その外面を絶縁被覆することが好ましく、ドリル1aが通電体を損傷させたときに、作業員への感電を防止できる。絶縁被覆は、ダイヤル4aの外面に絶縁塗料を塗布してもよく、ダイヤル4aを絶縁性の硬質の合成樹脂で成形してもよい。
【0078】
実施形態による電動工具10は、電動工具に設けたドリルが埋設電線などの通電を検出すると、ドリルの回転を直ちに停止させる検電装置を備えているので、作業員の感電を防止できる。
【0079】
又、実施形態による電動工具10は、ドリルが埋設電線などを損傷させることによって、発生する停電を防止できる。更に、実施形態による電動工具10は、埋設電線の損傷を低減することができる。
【符号の説明】
【0080】
1a ドリル
1b ドリルチャック
1c スピンドル
1h ハウジング
2 電気モータ
2a 回転軸
6 検電装置
10 電動工具
11 胴体部
22s 保護スイッチ
61 ブラシ
62 検電回路
63 増幅回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドリル、及びこのドリルを胴体部の端部に把持するドリルチャックを有する絶縁性のハウジングと、
このハウジングの胴体部の内部に収容され、前記ドリルと回転可能に連結すると共に、当該ドリルと電気的に接続するスピンドルと、
このスピンドルを回転させる回転軸を有する電気モータと、
前記スピンドルと電気的に接続して、通電体の絶縁被覆に前記ドリルの先端が接触すると当該通電体の電位を検出する検電装置と、を備え、
前記検電装置は、
前記スピンドルに接触するブラシと、
このブラシと接続し、前記通電体の電位を検出すると検出信号を出力する検電回路と、
この検電回路と接続し、前記検出信号を増幅する増幅回路と、を有し、
前記電気モータは、前記増幅回路から前記検出信号が出力されると、当該電気モータを回転させる電力が遮断される保護スイッチを有する電動工具。
【請求項2】
前記電気モータの回転軸を制動可能な電磁ブレーキ装置を更に備え、
この電磁ブレーキ装置は、
前記回転軸の端部に固定された円板状のハブと、
前記回転軸の軸方向に移動が許容されるように、複数の平行板ばねを介して、前記ハブに取り付けられた円環状のアーマチュアと、
円筒状のフレームの内部にコイルが巻回された電磁ソレノイド本体であって、当該フレームの励磁面が前記アーマチュアと所定のギャップを有するように、前記電気モータの本体に固定された電磁ソレノイド本体と、
前記増幅回路から前記検出信号が出力されると、前記電磁ソレノイド本体が励磁するように、前記コイルを通電させる制動スイッチと、を有する請求項1記載の電動工具。
【請求項3】
前記ドリルチャックは、その外面が絶縁被覆されている請求項1又は2記載の電動工具。
【請求項4】
前記スピンドルと前記ドリルチャックとを連結し、当該スピンドルから前記ドリルに所定のトルクを伝動するクラッチ装置を更に備え、
前記クラッチ装置は、前記胴体部と前記ドリルチャックとの間に介装され、伝動トルクを調整する円環状のダイヤルを有し、
前記ダイヤルは、その外面が絶縁被覆されている請求項1から3のいずれかに記載の電動工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−251374(P2011−251374A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127114(P2010−127114)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】