説明

電動工具

【課題】ディスクグラインダ等の電動工具において、電動モータ起動時の起動ショックを吸収してその耐久性を高める必要がある。従来、トルク伝達経路の途中にC形のトルク伝達部材を介装して、その拡径方向の弾性変形により起動ショックを吸収する技術が提供されていたが、より大きな出力の電動モータについては十分な起動ショック吸収能を発揮できなかった。本発明は、この起動ショック吸収能を一層高めることを目的とする。
【解決手段】電動モータの出力軸からスピンドル11に至るトルク伝達経路の途中に複数のC形のトルク伝達部材22,23を積層状態に介装してそれぞれ個別に拡径方向に弾性変形させることにより、これらの疲労破壊を回避しつつ従来よりも大きな起動ショックを確実に吸収できるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ディスクグラインダやねじ締め機等の回転工具であって、電動モータを駆動源とする電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動源として電動モータを備える電動工具においては、電動モータの回転動力は、減速用の歯車列を介して砥石やねじ締めビット等の先端工具に出力される。このような電動工具の場合、スイッチのオン操作により電動モータが起動するとトルク伝達系若しくは先端工具に起動ショックと呼ばれる衝撃が発生しやすい。
この起動ショックを解消するための技術が下記の特許文献に開示されている。この従来の起動ショック緩衝構造によれば、トルク伝達系における二つの回転部材間に径方向に弾性変形可能なC形のトルク伝達部材を介装し、一方の回転部材の回転を他方の回転部材に伝達するときに、被駆動側の負荷に応じてこのトルク伝達部材を径方向外方(拡径方向)に弾性変形させることにより、起動ショックを緩和して電動工具の耐久性及び使用感を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−264031号公報
【特許文献2】特開2010−179436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の起動ショック緩衝構造では、より大型の電動工具で電動モータの出力がより大きい場合には、C形のトルク伝達部材が瞬時に拡径方向に開いて十分な緩衝効果が得られないおそれがあった。かといって、単にトルク伝達部材の板厚を大きくする対策では、繰り返し荷重を受けることによる疲労破壊によって折損等の損傷を招きやすくなる。特に、より大型の電動工具では、C形のトルク伝達部材の疲労破壊による損傷等を防止してその耐久性をより高める必要があった。
本発明は、係る従来の問題に鑑みてなされたもので、トルク伝達部材の疲労破壊等による損傷のおそれを高めることなくより大きな起動ショックを確実に吸収できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記従来の問題は、下記の発明によって解決される。
第1の発明は、電動モータの出力トルクを先端工具を取り付けたスピンドルに伝達するトルク伝達装置を備えた電動工具であって、トルク伝達装置は、トルク伝達経路における2つの回転部材の間において、一端が一方の回転部材に係合され、他端が他方の回転部材に係合されて径方向に弾性変形してトルクを伝達可能なC形のトルク伝達部材を備えており、このトルク伝達部材を径方向に複数積層状態(同心状態)で備えた電動工具である。
第1の発明によれば、電動モータの起動時において、積層状態の複数のトルク伝達部材がそれぞれ個別に拡径方向に弾性変形することにより起動ショックが吸収され、従来1つのトルク伝達部材による場合に比してより大きな起動ショックを確実に吸収できるようになる。
しかも、1つのトルク伝達部材の板厚を大きくすることによってもその弾性能を大きくすることができるが、これでは疲労破壊を発生しやすくなるが、第1の発明によれば、板厚を大きくすることなく複数のトルク伝達部材により起動ショックを分配して受け持つことにより、疲労破壊を回避しつつ大きな起動ショックを吸収することができる。
第2の発明は、第1の発明において、トルク伝達部材について内周側から外周側に向けて順次従動側の回転部材に係合させる電動工具である。
第2の発明によれば、複数のトルク伝達部材が僅かな時間差をおいて拡径方向に弾性変形することにより弾性能のスムーズな立ち上がり(弾性能を徐々に高めること)を実現でき、これにより大きな回転トルクの伝達に伴う起動ショックをより確実に吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】本実施形態の電動工具であるディスクグラインダの全体側面図である。本図では、ギヤヘッド部の内部が破断して示されている。
【図2】トルク伝達装置の縦断面図である。
【図3】図2の(III)-(III)線断面矢視図であって、トルク伝達装置の平面図である。
【図4】トルク伝達装置の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
次に、本発明の実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。図1には、本実施形態の電動工具1が示されている。本実施形態では電動工具1としてディスクグラインダを例示する。この電動工具1は、使用者が把持するグリップ部としての機能を併せ持つ工具本体部2と、工具本体部2の前部に設けたギヤヘッド部10を備えている。工具本体2に駆動源としての電動モータ3が内装されている。工具本体部2の下面には、スイッチレバー4が設けられている。使用者が当該工具本体部2を把持した手でスイッチレバー4を上方へ引き操作すると電動モータ3が起動し、引き操作を解除すると電動モータ3は停止する。
電動モータ3の出力軸3aは工具本体部2の前部から突き出されてギヤヘッド部10のギヤヘッドハウジング12内に至っている。出力軸3aの先端には駆動ギヤ部3bが設けられている。
ギヤヘッド部10は、電動モータ3の回転出力を減速するとともに、スピンドル11の回転軸線J11を電動モータ3のモータ軸線J3(出力軸3aの回転軸線)に対して直交する方向に変換する機能を備えている。
スピンドル11は、軸受け13,14を介して回転軸線J11回りに回転自在な状態でギヤヘッドハウジング12に支持されている。スピンドル11の下部側は、ギヤヘッドハウジング12の下面に取り付けたギヤヘッドベース16から下方へ突き出されており、この突き出し部分に円形の砥石15が取り付けられている。
ギヤヘッド部10には、電動モータ3の出力トルクをスピンドル11に伝達するトルク伝達装置20が内装されている。本実施形態の電動工具1は、このトルク伝達装置20について特徴を有している。本実施形態のトルク伝達装置20の詳細が図2〜図4に示されている。
【0008】
トルク伝達装置20は、電動モータ3の駆動ギヤ部3bが噛み合わされた従動ギヤ(かさ歯ギヤ)21と、この従動ギヤ21とスピンドル11との間に介装された2つのトルク伝達部材22,23を備えている。従動ギヤ21は、軸受け24を介してギヤヘッドベース16に対して回転可能に支持されている。また、従動ギヤ21の中心孔に対してスピンドル11は挿通されており、回転について直接には結合されていない。従動ギヤ21に伝達された回転トルクは、上記2つのトルク伝達部材22,23とジョイントスリーブ25を経てスピンドル11に伝達される。図3では、従動ギヤ21の回転方向が白抜きの矢印で示されている。
従動ギヤ21の上面には、円環形状の収容凹部21aが設けられている。この収容凹部21a内に2つのトルク伝達部材22,23とジョイントスリーブ25が収容されている。図3に示すように収容凹部21aには、内周側に突き出す駆動側係合部21bが設けられている。この駆動側係合部21bの回転方向前面(図3において上側の側面)は、スピンドル11の回転軸線J11を通る放射線方向に沿って設けられている。この回転方向前面が2つのトルク伝達部材22,23の一端側が突き当てられる駆動側係合面21cとなっている。
ジョイントスリーブ25の内周孔にはスピンドル11が圧入されている。このため、ジョイントスリーブ25は回転軸線J11回りの回転についてスピンドル11に一体化されている。このジョイントスリーブ25の外周面には、1つの従動側係合部25aが外周側へ突き出す状態に設けられている。従動側係合部25aの回転方向前後両面は、それぞれスピンドル11の回転軸線J11を通る放射線方向に対して傾斜している。山形に傾斜した従動側係合部25aの回転方向後側の側面が2つのトルク伝達部材22,23の他端側が突き当てられる従動側係合面25bとなっている。
【0009】
収納凹部21a内であってジョイントスリーブ25の外周側に沿って2つのトルク伝達部材22,23が収容されている。2つのトルク伝達部材22,23は、それぞれ一定幅のばね板材をC形に湾曲させたもので、拡径方向に弾性付勢力を有している。2つのトルク伝達部材22,23は、径方向に重なり合った積層状態(同心状態)で収容されている。内周側のトルク伝達部材22は板厚が約1.5mmで、外周側のトルク伝達部材23は板厚が約2.0mmとなっている。図3に示すように2つのトルク伝達部材22,23の両端部は、それぞれほぼ揃えられた状態となっている。
このため、電動モータ3の停止状態(トルクの非伝達状態)では、この2つのトルク伝達部材22,23の一端側は収容凹部21aの駆動側係合面21cに共に突き当てられた状態となっている一方、他端側については、内周側のトルク伝達部材22の他端側のみがジョイントスリーブ25側の従動側係合面25bに突き当てられており、外周側のトルク伝達部材23の他端側は従動係合面25bに対して僅かに隙間をおいて向き合わされた状態となっている。
このように2つのトルク伝達部材22,23の長さが設定されていることにより、電動モータ3の起動時には、内周側のトルク伝達部材22が先に拡径方向に弾性変形して衝撃が吸収され始め、僅かな時間差をおいて外周側のトルク伝達部材23の他端側が従動側係合面25bに突き当てられて拡径方向に弾性変形することにより大きな起動ショック(電動モータ起動による主としてギヤ噛み合い時の衝撃)が確実に吸収される。スピンドル11に対する従動ギヤ21の相対回転角度が最大になると2つのトルク伝達部材22,23が拡径方向に最も大きく弾性変形した状態となって収容凹部21aの内壁面に押し付けられた状態となる。この状態では、従動ギヤ21とスピンドル11との間におけるトルク伝達経路が直結(剛体結合)されて、電動モータ3の出力トルクがほぼ全てスピンドル11に伝達される状態となる。
【0010】
図2に示すように両トルク伝達部材22,23の収容凹部21aからの抜け出しは、ワッシャ26で規制されている。ワッシャ26はスピンドル11に取り付けた止め輪27で固定されている。
電動モータ3の起動により従動ギヤ21が図3中白抜きの矢印で示す方向に回転すると、トルク伝達部材22,23の一端側が駆動側係合面21cに突き当てられて係合する一方、両トルク伝達部材22,23の他端側が従動側係合面25bに突き当てられて、当該両トルク伝達部材22,23が拡径方向に変位する。両トルク伝達部材22,23がその弾性力に抗して拡径方向に変位し、変位しつつその他端側が従動側係合面25bに押し当てられて徐々にジョイントスリーブ25ひいてはスピンドル11にトルク伝達され始めることにより、電動モータ3の起動に伴う従動ギヤ21の衝撃(起動ショック)が吸収される。
このことから、2つのトルク伝達部材22,23は、電動モータ3の出力トルクをスピンドル11に伝達するトルク伝達機能の他に、電動モータ3の起動ショックを吸収する緩衝部材としての機能を併せ持っている。
また、電動工具1のトルク伝達経路は、電動モータ3の出力軸3a→従動ギヤ21→トルク伝達部材22,23→ジョイントスリーブ25→スピンドル11となる。このように、電動モータ3の出力軸3aからスピンドル11に至るトルク伝達経路の途中に2つのC形のトルク伝達部材22,23を主体とするトルク伝達装置20を介在させることにより、電動モータ3の起動ショックが両トルク伝達部材22,23が弾性変形することによって吸収される。
【0011】
以上のように構成した本実施形態の電動工具1によれば、従動ギヤ21とスピンドル11との間に2つのトルク伝達部材22,23が介装されていることから、従来1つのトルク伝達部材を介在させた構成に比してより大きな衝撃吸収能を持たせることができる。このため、より高出力の電動モータを駆動源とする大型の電動工具1について起動ショックを確実に吸収することができる。
この種の起動ショックを低減することにより起動時の騒音や振動を低減することができるとともに、従動ギヤ21のギヤ欠けを防止して当該トルク伝達装置20の耐久性を高めることができる。
しかも、例示したトルク伝達装置20では、1つのトルク伝達部材の板厚を大きくして衝撃吸収能を高めるのではなく、2つのトルク伝達部材により衝撃を分配して吸収する構成であり、かつこの2つのトルク伝達部材22,23の板厚は従来とほぼ同等程度であるので、これらの疲労破壊による損傷のおそれを回避しつつ大きな衝撃吸収能を発揮させることができる。
また、2つのトルク伝達部材22,23の他端側が放射線方向に対して傾斜する従動側係合面25bに突き当てられる構成であることから、当該他端側はよりスムーズに拡径側(従動側係合面25bの先端側)に変位し、これにより当該トルク伝達部材22,23の衝撃吸収能がより確実に発揮される。
【0012】
以上説明した実施形態には種々変更を加えることができる。例えば、トルク伝達装置20において、板厚の異なる2つのトルク伝達部材22,23を備えた構成を例示したが、同じ板厚のトルク伝達部材を2つ介在させる構成としてもよい。
また、2つのトルク伝達部材22,23を介在させた構成を例示したが、3つ以上のトルク伝達部材を介在させる構成としてもよい。
さらに、2つのトルク伝達部材22,23について、内周側から順次弾性変形させる構成を例示したが、外周側のトルク伝達部材23をもう少し長くして初期状態において共に従動側係合面25bに突き当てられた状態として起動時に両者22,23を同時に弾性変形させる構成としてもよい。
また、ジョイントスリーブ25の従動側係合面(回転方向後ろ側の側面)であって、トルク伝達部材の他端側が突き当てられる面は、例示したように傾斜面とするのではなく回転軸線J11を通る放射線方向に沿った面としてもよい。
さらに、電動工具1としてディスクグラインダを例示したが、孔明け工具、ねじ締め工具あるいはハンマー等の衝撃工具等のその他の形態の電動工具にも広く適用することができる。
【符号の説明】
【0013】
1…電動工具(ディスクグラインダ)
2…工具本体部
3…電動モータ、3a…出力軸、3b…駆動ギヤ部
4…スイッチレバー
J3…モータ軸線(電動モータ3の回転軸線)
10…ギヤヘッド部
11…スピンドル
J11…スピンドル11の回転軸線
12…ギヤヘッドハウジング
13,14…軸受け
15…砥石
16…ギヤヘッドベース
20…トルク伝達装置
21…従動ギヤ(かさ歯ギヤ)
21a…収容凹部、21b…駆動側係合部、21c…駆動側係合面
22…トルク伝達部材(内周側)
23…トルク伝達部材(外周側)
24…軸受け
25…ジョイントスリーブ、25a…従動側係合部、25b…従動側係合面
26…ワッシャ
27…止め輪


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータの出力トルクを先端工具を取り付けたスピンドルに伝達するトルク伝達装置を備えた電動工具であって、
該トルク伝達装置は、トルク伝達経路における2つの回転部材の間において、一端が一方の回転部材に係合され、他端が他方の回転部材に係合されて径方向に弾性変形してトルクを伝達可能なC形のトルク伝達部材を備えており、該トルク伝達部材を径方向に複数積層状態で備えた電動工具。
【請求項2】
請求項1記載の電動工具であって、トルク伝達部材について内周側から外周側に向けて順次回転部材に係合させる電動工具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−111739(P2013−111739A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263307(P2011−263307)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(000137292)株式会社マキタ (1,210)
【Fターム(参考)】