説明

電動式ディスクブレーキ

【課題】シリンダ孔の内部空間と外部との空気の通過を可能とすることにより、シリンダ孔の内部空間における空気の圧力変化を確実に防止するとともに、外部からシリンダ孔の内部空間内への水の浸入を困難なものとする。
【解決手段】キャリパボディ1に設けられた摩擦パッド2,3を押圧する押圧部材4,5と、前記キャリパボディ1のシリンダ孔6に設けられ前記押圧部材4,5に押圧力を発生させる進退動機構7と、前記進退動機構7にアクチュエータ8の駆動力を減速して伝達する減速機構10と、を備えた電動式ディスクブレーキであって、
前記キャリパボディ1には、前記進退動機構7を設けたシリンダ孔6の内部空間とシリンダ孔6の外部とを連通可能とする連通孔25,26を形成することにより、前記シリンダ孔6内外への空気の連通を可能とするとともに、前記連通孔25,26の構造を、水の浸入を防止する構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動式ディスクブレーキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、キャリパボディに設けられた摩擦パッドを押圧する押圧部材と、前記キャリパボディのシリンダ孔に設けて前記押圧部材に押圧力を発生させる進退動機構と、前記進退動機構に駆動モータの駆動力を減速して伝達する減速機構とを備えた電動式ディスクブレーキが一般的に知られているが、このような従来の電動式ディスクブレーキは、外部から雨水等の浸入を防ぐためシリンダ孔の内部空間が密閉された状態となるよう形成されたものである。
【0003】
そして、上記の如く密閉状態のシリンダ孔内において、外気温の変化等の影響を受けて密閉空間内の温度や気圧が変化した場合には、該シリンダ孔内の空気が膨張したり収縮したりするものとなる。そのため、例えばシリンダ孔内の空気が収縮して内部空間が負圧になった場合には、シリンダ孔内に配置した押圧部材が内部空間の負圧による吸引力によって、所定の位置よりもディスクロータとは離反方向に移動するものとなる。
【0004】
そして、この押圧部材の移動に伴い、押圧部材に固定した摩擦パッドもディスクロータとは離反方向に移動するため、摩擦パッドとディスクロータとの間隔が所定の位置よりも大きくなり、初期応答の遅延や作動完了までの時間が長くなる等の不具合が生じ易いものとなる。一方、シリンダ孔内の空気が膨張して内部空間が高圧となった場合には、シリンダ孔内に配置した押圧部材がシリンダ孔内の空気の圧力によって所定の位置からディスクロータ側に押圧されるものとなる。そのため、押圧部材がディスクロータ側に移動するとともに、この押圧部材に固定した摩擦パッドもディスクロータ側に移動するものとなる。従って、この摩擦パッドのディスクロータ側への移動により摩擦パッドとディスクロータとの間隔が狭くなることから、ブレーキを作動していない状態で微小な荷重が発生するものとなり、走行中の引き摺りが生じ易いものとなる。
【0005】
そこで、上記の如くシリンダ孔内の密閉空間における空気の圧力変化による、押圧部材の進退動を防止するため、特許文献1に示す如く、シリンダ孔の内部に雨水等の水が浸入するのを防止可能とするとともに、このシリンダ孔の内部と外部とを連通させる大気連通手段を設けた電動式ディスクブレーキが公知となっている。
【0006】
この特許文献1に記載の大気連通手段は、特許文献1の明細書段落番号0024に記載の如くチューブにて形成したものであって、このチューブの一端をシリンダ孔の内部に接続するとともに、他端をキャリパボディの外部の車室内に接続したものである。そして、このチューブを介してシリンダ孔の内部空間と外部とを常時連通させることにより、シリンダ孔内外の空気の連通を可能にすることを目的としたものである。
【0007】
しかしながら、特許文献1に示す如き大気連通手段のチューブは、特許文献1の図2に示す如く、ハーネスを構成する外装チューブ内に複数本のリード線とともに挿入配置しなければならないものである。そのため、チューブの内径は微細なものに形成されていることから、このように内径を微細なものとしたチューブの開口端付近に水が付着した場合には、シリンダ孔内の気圧が変化した際に、開口端付近に付着した水が毛細管現象によってチューブ内に吸い込まれるおそれがある。そのため、このチューブを介してシリンダ孔内に水が浸入し、シリンダ孔内に組み付けた部品が水に接触するという問題が生じるものとなる。また、上記の如く毛細管現象により水がチューブ内に吸い込まれたり、チューブの開口端に水が付着した場合には、この水の表面張力によってチューブ内の通路が水によって遮断されるものとなるため、該チューブを介した空気の連通が遮断される可能性が高いものである。
【0008】
また、このような微細な内径のチューブを、特許文献1に記載の如くシリンダ孔から車室内までの長い距離に渡って配置した場合には、該チューブが途中で折れ曲がったり捩れたりするという事態が生じやすいものとなる。このようにチューブに折れ曲がりや捩れが生じた場合には、チューブ内の通路が遮断され、密閉空間内と外部との空気の通過を円滑に行うことが困難となる。従って、特許文献1の如きチューブを大気連通手段として使用した場合には、シリンダ孔の内部空間が完全に密閉されるものとなり、シリンダ孔内の気圧の変化を確実に防止することが困難なものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−42198号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は上述の如き課題を解決しようとするものであって、シリンダ孔の内部空間と外部との空気の通過を可能とすることにより、外部から上記シリンダ孔の内部空間内への水の浸入を困難なものとするとともに、シリンダ孔の内部空間における空気の圧力変化を確実に防止しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上述の如き課題を解決するため、キャリパボディに設けられた摩擦パッドを押圧する押圧部材と、前記キャリパボディのシリンダ孔に設けられ前記押圧部材に押圧力を発生させる進退動機構と、前記進退動機構にアクチュエータの駆動力を減速して伝達する減速機構を備えることを前提としたものである。
【0012】
そして、前記キャリパボディには、前記進退動機構を設けたシリンダ孔の内部空間とシリンダ孔の外部とを連通可能とする連通孔を形成することにより、前記シリンダ孔内外への空気の連通を可能としたものである。このように、シリンダ孔内外の空気の連通を可能とすることにより、外気温の変化等によってシリンダ孔の内部空間の気圧が変化する事態を防ぐことができる。そのため、シリンダ孔内の気圧を一定の状態に維持することが可能となることから、内部空間の気圧の変化による押圧部材の移動が生じることなく、押圧部材を所定の位置に保つことができるものとなる。従って、ブレーキの非作動時においては摩擦パッドとディスクロータとの間隔を常に一定に保つことができる。
【0013】
また、本発明は上記の如く、シリンダ孔の内部空間と外部との空気の連通を、キャリパボディに連通孔を形成するという簡易な構成により可能とするものであるから、特許文献1に記載の大気連通手段の如く、内径を微細なものとする必要がない。従って、連通孔の内容積を十分に確保することができるとともに、特許文献1に記載の発明の如く連通孔が折れたり捩れたりするという事態も起こり得ない。そのため、シリンダ孔の内部空間と外部との空気の連通が途中で遮断されるという事態が生じにくいものであって、シリンダ孔内外の空気の連通を円滑且つ確実なものとすることができる。
【0014】
また、本発明は上記の如く、連通孔を設けることによってシリンダ孔内外の空気の連通を可能とするとともに、この連通孔の構造を、水の浸入を防止可能なものとしている。そのため、シリンダ孔内外の空気の連通を確保しつつ、雨水等のキャリパボディ外部からの水の浸入を防ぐことができる。従ってシリンダ孔の内部空間の気圧を一定に保ちながら、シリンダ孔の内部に配置した部品を、雨水等の外部からの水に接触困難なものとすることが可能となり、上記部品をシリンダ孔内部において良好な状態で保持することができる。
【0015】
また、前記連通孔には、シリンダ孔の外部から内部空間への水の浸入を阻止するとともに、空気の通過が可能な通気防水部材を設けたものであってもよい。即ち、連通孔に通気防水部材を配置するという簡単な構成により、この通気防水部材を介して連通孔の内外への空気の連通が可能となるとともに、雨水等の外部からの水は、通気防水部材により遮断されるため、連通孔の内部への浸入を確実に防止することができる。よって、連通孔の構造を複雑なものとすることなく、簡易な構成により連通孔内外の通気、及び連通孔への水の浸入の防止を同時且つ確実に行うことができる。
【0016】
また、前記連通孔は、前記キャリパボディを車体に取付けた状態で、開口部を鉛直上方位置、及び、シリンダ孔内に滞留したグリスによって塞がれる下方位置以外の、異なる複数の位置に設けたものであってもよい。即ち、キャリパボディを車体に取付けた状態において、前記連通孔の開口部が鉛直上方位置にある場合には、雨水等の外部からの水が鉛直上方の開口部から連通孔内に流入し、連通孔に設けた水の浸入を防止する防水構造において滞留する場合がある。
【0017】
また、連通孔の開口部が、シリンダ孔内に滞留したグリスによって塞がれる下方位置にある場合には、シリンダ孔内に滞留しているグリスがシリンダ孔から連通孔内に流入するものとなる。そして、このように連通孔内に流入したグリスは、連通孔に設けた水の浸入を防止する防水構造において滞留するおそれがある。
【0018】
但し、上記の如く水やグリスによって連通孔が遮断された場合であっても、走行時には車体に振動が加えられるため、この振動によって連通孔に滞留した水やグリスが移動して連通孔が一時的に閉止・開放を繰り返すものとなる。そのため、上記連通孔の開放時には、この連通孔におけるシリンダ孔の内部空間の圧力調整が可能となり、ディスクロータと摩擦パッドとの間隔を一定に保つのに支障を生じることは少ないものと考えられる。また、走行状態から停止する場合には、慣性力によって水やグリスは少なくとも一時的に連通孔から移動して排除されるため、この場合にも連通孔を介したシリンダ孔の内部空間の圧力調整が可能となり、ディスクロータと摩擦パッドとの間隔を一定に保つのに支障を生じることは少ないものと考えられる。
【0019】
また、前記連通孔は、前記キャリパボディの側面側に複数個形成配置したものであってもよい。このように連通孔をキャリパボディの側面側に形成することにより、連通孔に外部からの雨水等の水やシリンダ孔内のグリスが滞留しにくいものとなる。従って、上記水やグリスによって連通孔が塞がれるという事態が生じにくいものとなり、連通孔を介したシリンダ孔の内部空間の圧力調整を確実に行うことが可能となる。
【0020】
また、連通孔が上記鉛直上方位置及びグリスによって塞がれる下方位置に配置された場合であっても、更に他の連通孔の開口部が上記鉛直上方位置及びグリスによって塞がれる下方位置以外の位置にある場合には、該連通孔において空気の連通が可能となるため、ディスクロータと摩擦パッドとの間隔を一定に保つことが可能となる。
【0021】
また、前記連通孔は、同一直線上に2箇所形成したものであってもよい。このように、連通孔を同一直線上に2箇所形成する場合には、製造時において、一工程で2つの連通孔を一度に穿設することができる。そのため、連通孔を効率良く形成することが可能となり、生産性の向上及びコストの低減を図ることが可能となる。
【0022】
但し、上記の如く、連通孔を同一直線上に2個形成した場合であっても、前記キャリパボディを車体に取付けた状態で、上記2個の連通孔の開口部がそれぞれ鉛直上方及び鉛直下方に位置し、更に鉛直下方に配置した連通孔の開口部がグリスによって塞がれる位置にある場合には、上記で説明した如く、鉛直上方及び鉛直下方の連通孔はいずれも水及びグリスによって連通孔内外の空気の連通が遮断される場合がある。従って、この場合についてはシリンダ孔の内部空間が密閉状態となり、ディスクロータと摩擦パッドとの間隔を一定に保つことが困難となる場合がある。
【0023】
また、前記連通孔は、軸心が互いに交差する方向に複数箇所形成したものであってもよい。このように連通孔を交差方向に形成することにより、1つのキャリパボディで、連通孔を複数の向きに配置して車体に取付けることが可能となる。
【0024】
但し、連通孔の軸心が互いに交差する方向であっても、上記の如く、前記キャリパボディを車体に取付けた状態で、連通孔の開口部を鉛直上方位置、及び、シリンダ孔内に滞留したグリスによって塞がれる下方位置のみに配置した場合には、ディスクロータと摩擦パッドとの間隔を一定に保つことが困難となる場合がある。
【0025】
また、前記キャリパボディの内部には、前記内部空間と前記減速機構を設けたギア室とを連通する連通路を形成し、前記シリンダ孔の内部空間と前記ギア室との空気の連通を可能としたものであってもよい。このように連通路を形成することにより、シリンダ孔の内部空間の気圧を、シリンダ孔内の空気とギア室内との空気の連通により調整することが可能となる。そのため、連通孔のみならず、連通路においてもシリンダ孔の内部空間の気圧の変化を調整することが可能となることから、シリンダ孔内の気圧の調整効果を更に高めることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は上述の如く構成したものであるから、キャリパボディに連通孔を形成するという簡易な構成により、シリンダ孔の内部空間と外部との空気の連通を確実に行うことができるものである。従って、シリンダ孔の内部空間の気圧の変化を容易且つ確実に防止し、シリンダ孔内の気圧を一定の状態に保つことができる。そのため、シリンダ孔内の気圧の変化に伴う押圧部材の予期せぬ移動を防止することが可能となり、ブレーキの非作動時においては摩擦パッドを所定の位置に保つことが可能となることから、この摩擦パッドとディスクブレーキとの間隔を一定の距離に保つことができる。よって、ブレーキの作動時における初期応答の悪化、作動完了までの時間の長期化を防ぐことができるとともに、ブレーキの非作動時においては、微小な荷重の発生による走行中の引きずりを回避することができる。
【0027】
また、連通孔の構造を、水の浸入を防止する構造としているため、外部からシリンダ孔内への雨水等の水の浸入を困難なものとしている。そのため、上記の如く、連通孔内外の空気の連通を可能とした状態で、シリンダ孔内に配置した部品と外部からの水との接触を防ぐことができることから、シリンダ孔内において部品を良好な状態で保持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施例1を示す非制動時のキャリパボディの断面図。
【図2】図1の A−A線断面図。
【図3】実施例1において、車体に取付けた状態を示すキャリパボディのシリンダ孔及び連通孔部分を示す断面図。
【図4】実施例1における制動時のキャリパボディの断面図。
【図5】実施例1において、車体に取付けた状態で連通孔の開口部を鉛直上下方向に配置した状態を示す概念図。
【図6】実施例2において、車体に取付けた状態での連通孔の開口部位置を示す概念図。
【図7】実施例3を示すキャリパボディの断面図。
【図8】実施例4における連通孔のラビリンス形状を示すキャリパボディの部分拡大断面図。
【実施例1】
【0029】
本発明の実施例1を図1〜4において説明すると、(1)はキャリパボディであって、本実施例1は、上記キャリパボディ(1)に設けた一対の摩擦パッド(2)(3)を押圧する押圧部材(4)(5)と、キャリパボディ(1)のシリンダ孔(6)に設け、前記押圧部材(4)(5)に押圧力を発生させる進退動機構(7)と、前記進退動機構(7)にアクチュエータ(8)の駆動力を減速して伝達する減速機構(10)とを備えた電動式ディスクブレーキである。
【0030】
本実施例1について更に詳細に説明すると、図1、2に示す如く、キャリパボディ(1)の一端に反力爪(11)を設けるとともに、他端には本発明のアクチュエータ(8)として駆動モータ(12)を接続している。そして、上記キャリパボディ(1)の駆動モータ(12)接続側にはギア室(13)を形成し、このギア室(13)内に本発明の減速機構(10)としてギア(14)を収納配置している。そして、このギア(14)を上記駆動モータ(12)に接続することにより、該駆動モータ(12)の駆動力を減速して以下に説明する進退動機構(7)に伝達可能としている。
【0031】
そして、上記キャリパボディ(1)には、図2に示す如く、ギア室(13)とは隔壁(15)を介してシリンダ孔(6)を形成している。そして、このシリンダ孔(6)の内部には、本発明の進退動機構(7)としてねじ軸(16)とナット(17)とから成るねじ機構(18)を収納配置している。そして、上記ねじ軸(16)の基端側には、伝達軸(20)をシリンダ孔(6)から外方に突出して配置し、この伝達軸(20)の先端部を上記ギア室(13)内に配置し、このギア室(13)内のギア(14)に連結している。
【0032】
そして、上記ナット(17)の外周には、円筒形状に形成した押圧部材(4)を固定配置し、ナット(17)と一体に移動可能なものとしている。この押圧部材(4)は、ディスクロータ(22)側の一端に、このディスクロータ(22)と平行な押圧壁(23)を設けるとともに、内部にナット(17)を収納配置している。また、この押圧部材(4)の押圧壁(23)の外周とシリンダ孔(6)の内周との間には、円周方向に複数の襞を形成した環状のブーツ(24)を設けている。
【0033】
即ち、押圧壁(23)の外周にブーツ(24)の内周縁を接続固定するとともに、シリンダ孔(6)の内周にブーツ(24)の外周縁を接続固定することにより、ブーツ(24)によってシリンダ孔(6)の内部が外部と遮断されるものとなる。従って、外部からのシリンダ孔(6)内への粉塵や雨水等の浸入を防ぐことが可能となり、シリンダ孔(6)内に収納した部品を良好な状態で保持することができる。
【0034】
また、上記押圧部材(4)の外周をシリンダ孔(6)の内周に対応した大きさに形成することにより、押圧部材(4)がシリンダ孔(6)の内周形状に沿って摺動自在となるよう組み付けている。そして、上記押圧部材(4)の押圧壁(23)のディスクロータ(22)側の外面に一方の摩擦パッド(2)を固定配置するとともに、反作用部(21)側の押圧部材(5)であるキャリパボディ(1)の反力爪(11)の内面には、他方の摩擦パッド(3)を上記一方の摩擦パッド(2)に対向させた状態で固定配置している。
【0035】
また、図1、3に示す如く、上記キャリパボディ(1)の両側面下方には、一対の連通孔(25)(26)を同一直線状に形成している。尚、図3において、図3の上下方向が車体に取付けた状態におけるキャリパボディ(1)の上下方向を示している。このように、連通孔(25)(26)を同一直線上に形成する場合には、製造時において、一工程で2つの連通孔(25)(26)を一度に穿設することができる。そのため、連通孔(25)(26)を効率良く形成することが可能となり、生産性の向上及びコストの低減を図ることが可能となる。そして、上記の如く連通孔(25)(26)を形成することにより、連通孔(25)(26)の一端がシリンダ孔(6)内に連通するとともに他端がキャリパボディ(1)の外方に連通するものとなる。
【0036】
また、上記の如く、シリンダ孔(6)内外の空気の連通を可能とする連通孔(25)(26)を、キャリパボディ(1)に穿設することにより得ることができるため、上記特許文献1のチューブにて形成した大気連通手段の如く外力等によって連通孔(25)(26)の通路が潰れて遮断される等の不具合が生じるおそれがない。従って、連通孔(25)(26)内の内容積を十分に確保することができるとともに、連通孔(25)(26)における空気の通過を円滑且つ確実に行うことができる。
【0037】
そして、図3に示す如く、上記の如く形成した連通孔(25)(26)のキャリパボディ(1)側の開口部(27)(28)を、通気防水部材(30)(31)にて閉止している。尚、本実施例では上記通気防水部材(30)(31)として、防水透湿性素材を使用している。このように連通孔(25)(26)の一端に通気防水部材(30)(31)を設けるという簡易な構成により、この通気防水部材(30)(31)を介して連通孔(25)(26)内外の空気の連通が可能となるとともに、通気防水部材(30)(31)により連通孔(25)(26)内への水の浸入を阻止することができる。
【0038】
即ち、上記の如く開口部(27)(28)に通気防水部材(30)(31)を配置した連通孔(25)(26)を形成することにより、この通気防水部材(30)(31)を介してシリンダ孔(6)内外の空気の連通が可能となるため、外気温の変化等によってシリンダ孔(6)の内部空間の気圧が変化する事態を防ぐことができる。従って、シリンダ孔(6)内の気圧を一定の状態に維持することが可能となることから、内部空間の気圧の変化による押圧部材(4)(5)の移動は生じないものとなり、非作動時においては、押圧部材(4)(5)を所定の位置に保つことが可能となる。従って、ブレーキの非作動時には一対の摩擦パッド(2)(3)とディスクロータ(22)との間隔を常に一定に保つことができる。
【0039】
また、開口部(27)(28)に通気防水部材(30)(31)を配置することにより、シリンダ孔(6)内外の空気の連通を確保しつつ、雨水等のキャリパボディ(1)外部からのシリンダ孔(6)内への水の浸入を防ぐことができる。従って、シリンダ孔(6)内部の気圧を一定に保ちながら、シリンダ孔(6)内部に配置した部品を、雨水等の外部からの水に接触困難なものとすることが可能となり、上記部品をシリンダ孔(6)内部において良好な状態で保持することができる。
【0040】
そして、上記の如く形成した本発明の電動式ディスクブレーキを、図3に示す状態で車体に取付けた場合には、連通孔(25)(26)が水平に位置するものとなる。従って、連通孔(25)(26)の開口部(27)(28)が鉛直上方に位置しないため、連通孔(25)(26)の開口部(27)(28)に設けた通気防水部材(30)(31)の上面に雨水等の外部からの水が滞留困難なものとなる。よって、水の滞留により通気防水部材(30)(31)における空気の連通が遮断されるという事態が生じることのないものとなる。
【0041】
また、図3に示す如く、一対の連通孔(25)(26)の開口部(27)(28)をシリンダ孔(6)内に滞留したグリス(33)の液面よりも上方位置に配置している。そのため、グリス(33)が連通孔(25)(26)内に流入して通気防水部材(30)(31)に滞留し、連通孔(25)(26)での空気の連通が遮断されるという事態は生じにくいものとなる。従って、車体に取付けた状態で連通孔(25)(26)が水平に位置するとともに、各連通孔(25)(26)の開口部(27)(28)がグリス(33)液面よりも上方位置にある場合には、連通孔(25)(26)を介したシリンダ孔(6)内外の空気の連通を円滑に行うことができる。
【0042】
尚、本実施例では上記の如く、キャリパボディ(1)を図3に示す如く、連通孔(25)(26)の開口部(27)(28)を左右方向に開口して位置するよう車体に組み付けるものであるが、他の異なる実施例では、本実施例の如く連通孔(25)(26)を形成したキャリパボディ(1)を、車体のレイアウトに応じて任意の方向に組み付けることが可能である。
【0043】
但し、上記一対の連通孔(25)(26)の開口部(27)(28)が、図5に示す如く、車体に組み付けた状態で同一直線上の鉛直上下方向に位置する場合には、鉛直上方側の連通孔(25)は外部からの水が通気防水部材(30)の上面に滞留し、該通気防水部材(30)における空気の連通が遮断される場合がある。また、上記鉛直下方側の連通孔(26)には、シリンダ(6)孔内のグリス(33)が流入して通気防水部材(31)に滞留するため、連通孔(26)が塞がれるものとなって通気防水部材(31)における空気の連通が遮断される場合がある。
【0044】
従って、このような場合については、同一直線上の鉛直上方側及び下方側のいずれの連通孔(25)(26)においても空気の連通が遮断される可能性があるため、シリンダ孔(6)の内部空間が密閉状態となり、この内部空間における空気の圧力が変化する事態が生じやすいものとなる。従って、このような場合には、シリンダ孔(6)内の気圧の変化が押圧部材(25)(26)の進退動を引き起こすため、ディスクロータ(22)と摩擦パッド(2)(3)との間隔を一定に保つことが困難となるおそれがある。
【0045】
但し、上記の如く車体に組み付けた状態で連通孔(25)(26)が同一直線上の鉛直上下方向に位置する場合であっても、車両の振動によって水やグリス(33)が滞留した連通孔(25)(26)が一時的に閉止・開放を繰り返し、上記連通孔(25)(26)の開放時に連通孔(25)(26)を介したシリンダ孔(6)の内部空間の圧力調整が可能となる場合や、走行状態から停止する際に、慣性力によって滞留した水やグリス(33)が一時的に連通孔(25)(26)から排除され、これにより連通孔(25)(26)を介したシリンダ孔(6)の内部空間の圧力調整が可能となる場合もある。そのため、このような場合にはディスクロータ(22)と摩擦パッド(2)(3)との間隔を一定に保つことが可能となる。
【0046】
尚、上記の如く車体へのキャリパボディ(1)の組み付け方向を変えることにより、連通孔(25)(26)の配置方向を本実施例とは異なる任意の方向とすることができるが、他の異なる実施例においては、製造段階において連通孔(25)(26)の穿設方向を水平方向以外の任意の方向とすることによって、車体へのキャリパボディ(1)の組み付け方向を変えることなく、連通孔(25)(26)の配置方向のみを本実施例の配置方向と異なる任意の方向とすることも可能である。
【0047】
上記の如く構成したものにおいて、電動式ディスクブレーキの作動について以下に説明すると、まず、図1、2に示す如く、ブレーキの非作動時には各押圧部材(4)(5)に固定配置した一対の摩擦パッド(2)(3)とディスクロータ(22)との間に予め所定の間隔を設けている。このような状態において、駆動モータ(12)を作動させて駆動軸(図示せず)を一方向に回転させることにより、この駆動軸の回転をギア室(13)内のギア(14)によって減速し、減速した駆動力を伝達軸(20)を介してねじ軸(16)に伝達する。
【0048】
この駆動力の伝達によって、作用部(34)側においてねじ軸(16)が一方向に回転するため、このねじ軸(16)の回転によってナット(17)がディスクロータ(22)側に移動するものとなる。そして、このナット(17)の移動に伴って、ナット(17)に固定した押圧部材(4)がディスクロータ(22)側に移動し、摩擦パッド(2)をディスクロータ(22)側に押圧するものとなる。
【0049】
また、反作用部(21)側では、上記作用部(34)側における摩擦パッド(2)の押圧に伴う反力によって反力爪(11)がディスクロータ(22)側に移動するものとなる。そして、この反力爪(11)の移動によって、摩擦パッド(3)がディスクロータ(22)側に押圧されるものとなる。これにより、図4に示す如く一対の摩擦パッド(2)(3)がディスクロータ(22)の両面に押しつけられるものとなり、車両の制動が行われる。
【0050】
ここで、上記制動開始前の非作動時においては、上記の如くシリンダ孔(6)内の圧力が連通孔(25)(26)内外の空気の連通により一定に保たれている。そのため、シリンダ孔(6)内の気圧の変化によって摩擦パッド(2)(3)が移動し、摩擦パッド(2)(3)とディスクロータ(22)との間隔が所定の間隔よりも更に広がるという事態が生じにくいものとなる。従って、ディスクロータ(22)と摩擦パッド(2)(3)との間隔を所定の間隔に維持することができるため、上記制動の開始が遅延することなく、制動の初期応答を良好とすることができるとともに、制動の完了までの時間が長くなるという不具合が生じにくいものとなる。
【0051】
次に、制動の解除について説明すると、まず、駆動モータ(12)を作動させて、駆動軸を上記制動時の回転方向とは逆方向に回転させる。これにより、ギア(14)が逆回転した状態で駆動力を減速させて伝達軸(20)に伝達し、これにより上記ねじ軸(16)が制動時とは逆方向に回転するものとなる。そして、このねじ軸(16)に組み付けたナット(17)がディスクロータ(22)とは離反方向に移動するものとなる。これにより、図1、2に示す如く、一対の押圧部材(4)(5)がディスクロータ(22)から離反方向に移動し、制動が解除される。
【0052】
尚、上記の如く連通孔(25)(26)における空気の連通によりシリンダ孔(6)内の圧力を一定の状態に維持することができるため、シリンダ孔(6)内が高圧となって押圧部材(4)(5)がディスクロータ(22)側に押圧されるという事態が生じにくいものとなる。従って、ブレーキの非作動時に微小なクランプが発生し、走行中に摩擦パッド(2)(3)の引き摺りが生じるという不具合を回避することができる。
【実施例2】
【0053】
また、上記実施例1では図1、3に示す如く、キャリパボディ(1)に一対の連通孔(25)(26)を同一直線上に形成しているが、本実施例2では、図6(a)に示す如く、キャリパボディ(1)を車体に組み付けた状態で、一対の連通孔(25)(26)を軸心が互いに交差する斜め上方に対称に形成配置している。このように連通孔(25)(26)を交差方向に形成することにより、後述の通り、1つのキャリパボディ(1)で一対の連通孔(25)(26)を、図6の(a)〜(c)に示す向きで取付けに対応することができる。
【0054】
また、本実施例2においては図6(a)に示す如く、車体に組み付けた状態で一対の連通孔(25)(26)を、各開口部(27)(28)がそれぞれ斜め上方に位置するよう形成しているが、他の異なる実施例では、図6(b)に示す如く一対の連通孔(25)(26)を斜め上方及び下方、又は図6(c)に示す如く鉛直上方及び水平方向にそれぞれ位置するよう形成することも可能である。また、本実施例2及び図6(b)及び(c)では連通孔(25)(26)を2個形成しているが、他の異なる実施例では連通孔(25)(26)を3個以上形成することも可能である。
【0055】
また、上記の如く一対の連通孔(25)(26)を軸心が互いに交差する位置に配置した場合であっても、各連通孔(25)(26)の開口部(27)(28)を鉛直上方及びシリンダ孔(6)内のグリス(33)によって塞がれる下方位置にのみ配置した場合には、外部からの水やシリンダ孔(6)内のグリス(33)が開口部(27)(28)の通気防水部材(30)(31)に滞留するものとなり、これらの水やグリス(33)によって連通孔(25)(26)における空気の連通が遮断される場合がある。従って、このような場合には、シリンダ孔(6)の内部空間が密閉状態となり、シリンダ孔(6)内の気圧の変化を防止することが困難となるおそれがある。
【0056】
但し、上記の如く各連通孔(25)(26)の開口部(27)(28)を鉛直上方及びシリンダ孔(6)内のグリス(33)によって塞がれる下方位置にある場合でも、車両の振動によって連通孔(25)(26)が一時的に閉止・開放を繰り返し、上記連通孔(25)(26)の開放時に連通孔(25)(26)を介したシリンダ孔(6)の内部空間の圧力調整が可能となる場合や、走行状態から停止する際に、慣性力によって水やグリス(33)が一時的に連通孔(25)(26)から排除され、これにより連通孔(25)(26)を介したシリンダ孔(6)の内部空間の圧力調整が可能となる場合もある。そのため、このような場合にはディスクロータ(22)と摩擦パッド(2)(3)との間隔を一定に保つことができる。
【0057】
また、複数の連通孔(25)(26)のうち、少なくとも1つの連通孔(25)(26)の開口部(27)(28)位置が、鉛直上方及びグリス(33)によって塞がれる下方位置以外の位置にある場合には、通気防水部材(30)(31)に水やグリス(33)が滞留しにくいものとなるため、連通孔(25)(26)における空気の連通が可能となる。従って、このような場合についてはシリンダ孔(6)の内部空間の気圧を一定に保つことが可能となり、ディスクロータ(22)と摩擦パッド(2)(3)との間隔を一定に保つことができる。
【実施例3】
【0058】
また、上記実施例1及び2では、図1に示す如くシリンダ孔(6)の内部空間とギア室(13)内の空間とを隔壁(15)を介して連通困難に分離しているが、本実施例3では、図7に示す如くシリンダ孔(6)とギア室(13)との間に連通路(32)を設け、この連通路(32)の一端をシリンダ孔(6)に連通するとともに、他端をギア室(13)に連通するよう形成している。このように連通路(32)を設けることにより、シリンダ孔(6)とギア室(13)とが連通路(32)を介して連通可能となる。従って、連通孔(25)(26)内外の空気の連通に加えて、シリンダ孔(6)内の空気とギア室(13)内との空気の連通によってもシリンダ孔(6)内の気圧の調整を行うことができるため、シリンダ孔(6)内の気圧の調整を更に効果的に行うことができる。
【実施例4】
【0059】
また、上記実施例1〜3では、図1、3に示す如く、連通孔(25)(26)の開口部(27)(28)に通気防水部材(30)(31)を配置することにより連通孔(25)(26)内外の空気の連通、及び外部から連通孔(25)(26)内への水の浸入防止を可能なものとしているが、本実施例4では図8に示す如く、連通孔(25)(26)の開口部(27)(28)の内周を、いわゆるラビリンス形状に加工することにより、連通孔(25)(26)内外の空気の連通を可能とするとともに、及び外部から連通孔(25)(26)内への水の浸入防止を可能なものとしている。
【0060】
本発明の実施例4について更に詳細に説明すると、実施例4では図8に示す如く、連通孔(25)(26)の開口部(27)(28)側の内周を複雑なラビリンス形状としている。このように、連通孔(25)(26)の開口部(27)(28)側を複雑な形状とすることにより、連通孔(25)(26)内外の空気の通過は可能となる一方、外部からの水については、上記の如く複雑な形状の開口部(27)(28)を通過して連通孔(25)(26)の内部まで浸入することが困難なものとなる。よって、本実施例では上記実施例1〜3の如く、連通孔(25)(26)に特別な素材を配置することなく開口部(27)(28)内周をラビリンス形状に加工するという簡易な方法により、連通孔(25)(26)の構造を空気の連通を可能とするとともに、水の浸入を困難とする構造とすることができるものである。
【符号の説明】
【0061】
1 キャリパボディ
2、3 摩擦パッド
4、5 押圧部材
6 シリンダ孔
7 進退動機構
8 アクチュエータ
10 減速機構
13 ギア室
30、31 通気防水部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリパボディに設けられた摩擦パッドを押圧する押圧部材と、前記キャリパボディのシリンダ孔に設けられ前記押圧部材に押圧力を発生させる進退動機構と、前記進退動機構にアクチュエータの駆動力を減速して伝達する減速機構と、を備えた電動式ディスクブレーキであって、
前記キャリパボディには、前記進退動機構を設けたシリンダ孔の内部空間とシリンダ孔の外部とを連通可能とする連通孔を形成することにより、前記シリンダ孔内外への空気の連通を可能とするとともに、前記連通孔の構造を、水の浸入を防止する構造としたことを特徴とする電動式ディスクブレーキ。
【請求項2】
前記連通孔には、シリンダ孔の外部から内部空間への水の浸入を阻止するとともに、空気の通過が可能な通気防水部材を設けたことを特徴とする請求項1の電動式ディスクブレーキ。
【請求項3】
前記連通孔は、前記キャリパボディを車体に取付けた状態で、開口部を鉛直上方位置、及び、シリンダ孔内に滞留したグリスによって塞がれる下方位置以外の、異なる複数の位置に設けたことを特徴とする請求項1または2の電動式ディスクブレーキ。
【請求項4】
前記連通孔は、前記キャリパボディの側面側に複数個形成配置したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電動式ディスクブレーキ。
【請求項5】
前記連通孔は、同一直線上に2箇所形成したことを特徴とする請求項3または4の電動式ディスクブレーキ。
【請求項6】
前記連通孔は、軸心が互いに交差する方向に複数箇所形成したことを特徴とする請求項3または4の電動式ディスクブレーキ。
【請求項7】
前記キャリパボディの内部には、前記内部空間と前記減速機構を設けたギア室とを連通する連通路を形成し、前記内部空間と前記ギア室との空気の連通を可能としたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の電動式ディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−236654(P2010−236654A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86526(P2009−86526)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】