電動機のステータコア構造
【課題】 充分な強度が得られるとともに、巻線作業および縮径作業を容易に行なうことができ、かつ、ステータカバーの縮径も同時に行なうことができる電動機のステータコア構造を提供すること。
【解決手段】 隣り合うティース3間のバックヨーク2の部分に、円周方向に拡開する伸縮部5を設け、該伸縮部5を、前記バックヨーク2の内周面または外周面のいずれか一方側から半径方向のスリット6を形成し、内周面または外周面のいずれか他方側から前記スリット6を挟むように半径方向のスリット7を少なくとも一組以上形成して襞形状に構成し、これらスリット6,7によって形成された襞形状の伸縮部5を伸縮させて前記ステータコア1を拡径、または縮径させるとともに、前記襞形状の伸縮部5の両端部を前記スリット6,7によってバックヨーク2に形成された半径方向の壁面から延出させたことにある。
【解決手段】 隣り合うティース3間のバックヨーク2の部分に、円周方向に拡開する伸縮部5を設け、該伸縮部5を、前記バックヨーク2の内周面または外周面のいずれか一方側から半径方向のスリット6を形成し、内周面または外周面のいずれか他方側から前記スリット6を挟むように半径方向のスリット7を少なくとも一組以上形成して襞形状に構成し、これらスリット6,7によって形成された襞形状の伸縮部5を伸縮させて前記ステータコア1を拡径、または縮径させるとともに、前記襞形状の伸縮部5の両端部を前記スリット6,7によってバックヨーク2に形成された半径方向の壁面から延出させたことにある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻線が容易であるとともに、縮径作業が容易で、かつ充分な剛性を得ることができる電動機のステータコア構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ブラシレスDCモータなどの電動機は、モータケース内にステータと、ロータが配設されている。ステータは、環状のステータコアと、巻線とで構成されており、ステータコアは、磁性鋼板を打ち抜き、その鋼板を複数枚積層して構成されている。ステータコアには、環状のバックヨークの内周側に円周方向に一定間隔で中心方向に突出した複数のティースが設けられている。このステータコアには、ステータカバーが組み付けられ、このステータカバーを介してティース部分に、巻線がそれぞれ巻装されている。
【0003】
前記ティース部分には、ティース部分相互間の間隙からスロット内に挿入される巻線ノズルによって、巻線が施されている。このため、限られた間隙からスロット内に巻線ノズルを挿入して巻線作業を行なうため、巻線作業が煩雑であり、スロットの大きさによって巻線の巻量が制限されることになっていた。
【特許文献1】特開平11−262201号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、ティース部分に、巻線を施す際に、コイルの巻き量を増大させるために、ティース間の間隙を大きくして、巻線ノズルの操作を容易にしてコイルの巻き量を増大させるようにした先行技術が知られている(特許文献1参照)。この先行技術は、バックヨークの周方向に所定間隔で、かつ径方向に沿って直線状に切設された3本のスリットによって形成された2本の短冊部材を形成し、バックヨークを伸縮させるようにしたものである。
【0005】
しかしながら、この先行技術に記載された技術は、短冊部材が薄肉で繋がっているだけなので、ティース部分が開くと、短冊部材の角部が外周面から外側に張り出し、縮径作業等が困難となる不具合がある。また、短冊部材とバックヨークが薄肉で接続されているだけなので強度が不十分となる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決し、充分な強度が得られるとともに、巻線作業および縮径作業を容易に行なうことができ、かつ、ステータカバーの縮径も同時に行なうことができる電動機のステータコア構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、環状のバックヨークの内周面に円周方向に一定間隔で複数のティースを形成したステータコアに、少なくとも前記バックヨークの内周面およびティースの周面を覆うステータカバーを装着して前記ティースの周囲に巻き線を巻装する電動機のステータコア構造において、前記隣り合うティース間のバックヨークの部分に、円周方向に拡開する伸縮部を設け、該伸縮部を、前記バックヨークの内周面または外周面のいずれか一方側から半径方向のスリットを形成し、内周面または外周面のいずれか他方側から前記スリットを挟むように半径方向のスリットを少なくとも一組以上形成して襞形状に構成し、これらスリットによって形成された襞形状の伸縮部を伸縮させて前記ステータコアを拡径、または縮径させるとともに、前記襞形状の伸縮部の両端部を前記スリットによってバックヨークに形成された半径方向の壁面から延出させたことにある。
また、本発明は、前記隣り合うティース間のバックヨークの部分に、外周面側から半径方向のスリットを形成し、内周面側から前記スリットを挟むように半径方向のスリットを形成し、これらスリットによって形成された前記襞形状の伸縮部の先端に内径側に向けて膨出部を形成し、前記ステータコアの縮径時に該膨出部を介して前記ステータカバーを押圧して、前記ステータカバーも縮径させることにある。
【発明の効果】
【0008】
請求項1によれば、スリットによって形成された襞形状の伸縮部を伸縮させて前記ステータコアを拡径、または縮径させるので、隣り合うティース間の間隙を拡開させて巻線を施すことができることから、ノズルの操作が容易で、巻線作業を効率よく行なうことができる。また、襞形状の伸縮部が環状のバックヨークの外周側に飛び出すことがないので、縮径作業を容易に行なうことができる。
請求項2によれば、ステータコアの縮径時に該膨出部を介して前記ステータカバーを押圧して、前記ステータカバーも同時に縮径させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図示の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、電動機のステータコアを示したもので、このステータコア1は、珪素鋼板を打ち抜いて形成されたコアシートを多数積層して形成されたものである。ステータコア1には、環状のバックヨーク2の内周側に円周方向に一定間隔で中心方向に向けて複数のティース3(図視例では、12個)が凸設されている。これらティース3相互間には、スロット4が形成され、円周方向に拡大されたティース先端部3a相互間に、スロット開口部4aが形成されている。
【0010】
前記隣り合うティース3相互間のバックヨーク2の部分には、拡径、または縮径するように円周方向に拡開した襞形状の伸縮部5が設けられている。
この伸縮部5は、隣り合うティース3の中間部分に相当するバックヨーク2の部分に、外周面側から半径方向のスリット6を形成し、かつ内周面側から前記スリット6を挟むように半径方向のスリット7を形成し、これらスリット7,スリット6,スリット7によって襞形状の伸縮部5が形成されている。
この襞形状の伸縮部5の先端には、図2に示すように、内径側に向けて膨出部8が形成されており、この膨出部8は珪素鋼板を打ち抜いてコアシートを形成する際に形成されている。スリット6は三角形状に打ち抜かれ、スリット7は伸縮部5が略V字状をなすように形成されている。スリット7はステータコア1が縮径した際に伸縮部5が密着するように膨出部8の外形に沿って形成されている。
【0011】
前記襞形状の伸縮部5の両端部は前記スリット6,7によってバックヨーク2に形成された半径方向の壁面2aから延出されている。これによって、伸縮部5の両端基部5aは、バックヨーク2の半径方向に一定の幅nを有し、ステータコア1の縮径時には、内周側に膨出部8が移動するだけで、外周側には飛び出さないように構成されている。伸縮部5の両端基部5aは、ステータコア1が拡径したときにステータコア1の外周縁を結ぶ円周上から外側には飛び出さないように設けられている。
【0012】
図3は、ティース3部分にコイル巻線9を巻装した状態を示したもので、コイル巻線9の巻装に際しては、図4に示すようにステータコア1にステータカバー10を装着し、ステータカバー10を介してティース3部分にコイル巻線9を巻装したものである。
ステータカバー10は、上下一対で構成され、図5に示すように、少なくとも前記バックヨーク2の内周面およびティース3の周面を覆うように環状のバックヨーク部分10aと放射状に中心方向に延出したティース部分10bで構成されている。
【0013】
次にコイル巻線9の巻装手順を説明すると、ステータコア1に上下方向から被せるようにして一対のステータカバー10を装着する。ステータカバー10によって、少なくともバックヨーク2の内周面およびティース3の周面を覆いティース3部分を外部と絶縁する。このステータカバー10には、ナイロン系の伸縮しやすい、やわらかい材質の素材が用いられている。
【0014】
ステータカバー10は、装着された段階では、弾性によって伸縮部5で伸びた状態になっており、ティース3部分に密着している。
次に、巻線ノズルを操作してティース先端部3a相互間の間隙、スロット開口部4aから巻線ノズルを挿入してティース3部分にコイル巻線9を巻装する。スロット4が広くなっているので、充分な量のコイル巻線9をティース3部分に巻き付けることができる。
ティース3部分にコイル巻線9を巻装してから、巻線ノズルを引き抜き、図示しない冶具を用いてステータコア1の伸縮部5を縮径させる。図6および図7に示すように、周囲からの圧力によって伸縮部5を収縮させると、スリット7,スリット6,スリット7部分が密着して伸縮部5の両端基部5aが互いに接近し、密着する。そして、伸縮部5が収縮してステータコア1が縮径すると、ティース先端部3a相互間が互いに接近して、スロット開口部4aを縮小させる。このとき、伸縮部5に対応するステータカバー10の部分は、伸縮部5の収縮に伴って弾性によって収縮し、皺が生じることがない。
【0015】
こうして、ティース3部分にコイル巻線9を巻装する際には、スロット開口部4aを拡開させ、コイル巻線9の巻装が終了してからはスロット開口部4aを縮小させるので、コイル巻線9の巻装作業を効率よく行なうことができる。また、伸縮部5の両端基部5aがバックヨーク2の半径方向に一定の幅nを有するので、充分な強度が得られ、ステータコア1の強度を損ねることがない。また、伸縮部5の両端基部5aは、ステータコア1が拡径状態にあるときでも、ステータコア1の外周縁を結ぶ円周上から外側には飛び出さないので、冶具を用いてステータコア1を縮径させるときにも、冶具の組み付けの妨げになることがない。よって、効率よくステータコア1の縮径作業を行なうことができる。
【0016】
なお、図8ないし図10は、伸縮部5の変形例を示したもので、図8に示したものは、収縮時に膨出部8aをバックヨーク2の内周縁を結ぶ周縁よりも内径側に突出させたもので、伸縮部5の収縮に伴って膨出部8aが内径側に突出してステータカバー10を内側に押し出し、ステータカバー10も同時に縮径させるものである。これによって、伸縮部5の収縮に伴う渡り線の弛みを防ぐことができる。
また、図9は、スリット6の両側に設けるスリット7a、7bを、非対称に形成したものである。この場合、膨出部8bも左右が非対称となり、伸縮部5の両端基部5b、5cも左右で異なる形状となる。膨出部8bは、図8の変形例と同様にバックヨーク2の内周縁を結ぶ周縁よりも内径側に突出させたものである。
さらに、図10は、伸縮部5の両端基部5b、5cをバックヨーク2の外周側と内周側の半径方向にそれぞれ一定の距離m離れた位置から略N字状となるようにそれぞれ異なる方向に延出させたもので、それぞれの延出部の先端を連結して襞形状の伸縮部5を形成したものである。これによって、ステータコア1を拡径したときの径を大きくすることができ、スロット開口部4aをより大きくすることができる。
【0017】
次に図11ないし図19は、ステータカバー10の3種類の変形例を示したものである。
図11ないし図13に示したステータカバー20は、ステータカバー10と同様に上下一対で構成され、少なくとも前記バックヨーク2の内周面およびティース3の周面を覆うように環状の薄肉のバックヨーク部分20aと放射状に中心方向に延出したティース部分20bで構成されている。このステータカバー20も、ステータカバー10と同様に、少なくともバックヨーク2の内周面およびティース3の周面を覆いティース3部分を外部と絶縁する。このステータカバー20には、ナイロン系の伸縮しやすい、やわらかい材質の素材を用いることができる。このステータカバー20には、両側のティース部分20bの中間の環状のバックヨーク部分20aの伸縮部21に、小さな折り目21aが設けられている。
これによって、コア伸縮時に冶具に取り付けたピンで押すことにより、所望の形状に伸縮させることができる。
【0018】
また、図14ないし図16に示したステータカバー30は、ステータカバー10と同様に上下一対で構成され、少なくとも前記バックヨーク2の内周面およびティース3の周面を覆うように環状のバックヨーク部分30aと放射状に中心方向に延出したティース部分30bで構成されている。環状のバックヨーク部分30aは、各ティース部分30bを補強するように一定間隔で設けられた補強部31と、これら補強部31相互間の伸縮部32に設けられた平面視でV字形状の切り欠き部33とで構成されている。
補強部31は平板状のプレート31aと、プレート31aを補強する一対のリブ31bとで構成され、平板状のプレート31a相互間を繋ぐ伸縮部32にV字形状の切り欠き部33が形成されている。
このように、伸縮部32にV字形状の切り欠き部33を設けることによって、コア伸縮時に冶具を用いることなく変形させることができる。
【0019】
さらに、図17ないし図19に示したステータカバー40は、ステータカバー10と同様に上下一対で構成され、少なくとも前記バックヨーク2の内周面およびティース3の周面を覆うように環状のバックヨーク部分40aと放射状に中心方向に延出したティース部分40bで構成されている。環状のバックヨーク部分40aは、各ティース部分40bを補強するように一定間隔で設けられた補強部41と、これら補強部41相互間の伸縮部42に設けられた平面視でV字形状の切り欠き部43とで構成されている。
補強部41は平板状のプレート41aと、プレート41aを補強する一対のリブ41bとで構成され、平板状のプレート41a相互間を繋ぐ伸縮部42にW字形状の切り欠き部43が形成されている。
このように、伸縮部42にW字形状の切り欠き部43を設けることによって、コア伸縮時に冶具を用いることなく変形させることができる。W字形状の切り欠き部43は、V字形状の切り欠き部33よりも伸縮性が高いので、コア伸縮時に冶具を用いることなくより容易に変形させることができる。
【0020】
なお、本発明は、上記実施の形態のみに限定されるものではなく、例えば、前記実施の形態では、バックヨーク2の外周面側から半径方向のスリット6を形成し、内周面側から前記スリット6を挟むように半径方向のスリット7を形成し、これらスリット6,7によって形成された前記襞形状の伸縮部5の先端に内径側に向けて膨出部8を形成したが、バックヨーク2の内周面側から半径方向のスリット6を形成し、外周面側から前記スリット6を挟むように半径方向のスリット7を形成して襞形状の伸縮部5を形成しても良い。また、伸縮部5は、バックヨーク2の外周面側から飛び出さない形状で、強度を保てる形状であれば、前記実施の形態の形状に限らず任意の形状のものを用いることができる。など、その他、本発明の要旨を変更しない範囲内で適宜変更して実施し得ることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態による電動機のステータコア構造を示す概念図である。
【図2】図1の部分拡大図である。
【図3】コイル巻線を施した状態のステータコア構造を示す概念図である。
【図4】ステータコアにステータカバーを装着した状態を示す概念図である。
【図5】ステータカバーを示す概念図である。
【図6】ステータコアにコイル巻線を巻装し、ステータコアを縮径させた状態を示す概念図である。
【図7】図6の部分拡大図である。
【図8】本発明の他の実施の形態を示す電動機のステータコア構造である。
【図9】本発明の他の実施の形態を示す電動機のステータコア構造である。
【図10】本発明の他の実施の形態を示す電動機のステータコア構造である。
【図11】本発明の実施の形態による電動機のステータコア構造に用いるステータカバーの変形例を示す概念図である。
【図12】図11の外側から見た斜視図である。
【図13】図11の内側から見た斜視図である。
【図14】本発明の実施の形態による電動機のステータコア構造に用いるステータカバーの変形例を示す概念図である。
【図15】図14の外側から見た斜視図である。
【図16】図14の内側から見た斜視図である。
【図17】本発明の実施の形態による電動機のステータコア構造に用いるステータカバーの変形例を示す概念図である。
【図18】図17の外側から見た斜視図である。
【図19】図17の内側から見た斜視図である。
【符号の説明】
【0022】
1 ステータコア
2 バックヨーク
3 ティース
4 スロット
5 伸縮部
6,7スリット
8 膨出部
9 コイル巻線
10,20,30,40 ステータカバー
21,32,42 伸縮部
33,43 切り欠き部
3a ティース先端部
4a スロット開口部
5a,5b,5c 両端基部
8a、8b 膨出部
10a,20a,30a.40a バックヨーク部分
10b,20b,30b,40b ティース部分
21a 小さな折り目
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻線が容易であるとともに、縮径作業が容易で、かつ充分な剛性を得ることができる電動機のステータコア構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ブラシレスDCモータなどの電動機は、モータケース内にステータと、ロータが配設されている。ステータは、環状のステータコアと、巻線とで構成されており、ステータコアは、磁性鋼板を打ち抜き、その鋼板を複数枚積層して構成されている。ステータコアには、環状のバックヨークの内周側に円周方向に一定間隔で中心方向に突出した複数のティースが設けられている。このステータコアには、ステータカバーが組み付けられ、このステータカバーを介してティース部分に、巻線がそれぞれ巻装されている。
【0003】
前記ティース部分には、ティース部分相互間の間隙からスロット内に挿入される巻線ノズルによって、巻線が施されている。このため、限られた間隙からスロット内に巻線ノズルを挿入して巻線作業を行なうため、巻線作業が煩雑であり、スロットの大きさによって巻線の巻量が制限されることになっていた。
【特許文献1】特開平11−262201号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、ティース部分に、巻線を施す際に、コイルの巻き量を増大させるために、ティース間の間隙を大きくして、巻線ノズルの操作を容易にしてコイルの巻き量を増大させるようにした先行技術が知られている(特許文献1参照)。この先行技術は、バックヨークの周方向に所定間隔で、かつ径方向に沿って直線状に切設された3本のスリットによって形成された2本の短冊部材を形成し、バックヨークを伸縮させるようにしたものである。
【0005】
しかしながら、この先行技術に記載された技術は、短冊部材が薄肉で繋がっているだけなので、ティース部分が開くと、短冊部材の角部が外周面から外側に張り出し、縮径作業等が困難となる不具合がある。また、短冊部材とバックヨークが薄肉で接続されているだけなので強度が不十分となる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決し、充分な強度が得られるとともに、巻線作業および縮径作業を容易に行なうことができ、かつ、ステータカバーの縮径も同時に行なうことができる電動機のステータコア構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、環状のバックヨークの内周面に円周方向に一定間隔で複数のティースを形成したステータコアに、少なくとも前記バックヨークの内周面およびティースの周面を覆うステータカバーを装着して前記ティースの周囲に巻き線を巻装する電動機のステータコア構造において、前記隣り合うティース間のバックヨークの部分に、円周方向に拡開する伸縮部を設け、該伸縮部を、前記バックヨークの内周面または外周面のいずれか一方側から半径方向のスリットを形成し、内周面または外周面のいずれか他方側から前記スリットを挟むように半径方向のスリットを少なくとも一組以上形成して襞形状に構成し、これらスリットによって形成された襞形状の伸縮部を伸縮させて前記ステータコアを拡径、または縮径させるとともに、前記襞形状の伸縮部の両端部を前記スリットによってバックヨークに形成された半径方向の壁面から延出させたことにある。
また、本発明は、前記隣り合うティース間のバックヨークの部分に、外周面側から半径方向のスリットを形成し、内周面側から前記スリットを挟むように半径方向のスリットを形成し、これらスリットによって形成された前記襞形状の伸縮部の先端に内径側に向けて膨出部を形成し、前記ステータコアの縮径時に該膨出部を介して前記ステータカバーを押圧して、前記ステータカバーも縮径させることにある。
【発明の効果】
【0008】
請求項1によれば、スリットによって形成された襞形状の伸縮部を伸縮させて前記ステータコアを拡径、または縮径させるので、隣り合うティース間の間隙を拡開させて巻線を施すことができることから、ノズルの操作が容易で、巻線作業を効率よく行なうことができる。また、襞形状の伸縮部が環状のバックヨークの外周側に飛び出すことがないので、縮径作業を容易に行なうことができる。
請求項2によれば、ステータコアの縮径時に該膨出部を介して前記ステータカバーを押圧して、前記ステータカバーも同時に縮径させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図示の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、電動機のステータコアを示したもので、このステータコア1は、珪素鋼板を打ち抜いて形成されたコアシートを多数積層して形成されたものである。ステータコア1には、環状のバックヨーク2の内周側に円周方向に一定間隔で中心方向に向けて複数のティース3(図視例では、12個)が凸設されている。これらティース3相互間には、スロット4が形成され、円周方向に拡大されたティース先端部3a相互間に、スロット開口部4aが形成されている。
【0010】
前記隣り合うティース3相互間のバックヨーク2の部分には、拡径、または縮径するように円周方向に拡開した襞形状の伸縮部5が設けられている。
この伸縮部5は、隣り合うティース3の中間部分に相当するバックヨーク2の部分に、外周面側から半径方向のスリット6を形成し、かつ内周面側から前記スリット6を挟むように半径方向のスリット7を形成し、これらスリット7,スリット6,スリット7によって襞形状の伸縮部5が形成されている。
この襞形状の伸縮部5の先端には、図2に示すように、内径側に向けて膨出部8が形成されており、この膨出部8は珪素鋼板を打ち抜いてコアシートを形成する際に形成されている。スリット6は三角形状に打ち抜かれ、スリット7は伸縮部5が略V字状をなすように形成されている。スリット7はステータコア1が縮径した際に伸縮部5が密着するように膨出部8の外形に沿って形成されている。
【0011】
前記襞形状の伸縮部5の両端部は前記スリット6,7によってバックヨーク2に形成された半径方向の壁面2aから延出されている。これによって、伸縮部5の両端基部5aは、バックヨーク2の半径方向に一定の幅nを有し、ステータコア1の縮径時には、内周側に膨出部8が移動するだけで、外周側には飛び出さないように構成されている。伸縮部5の両端基部5aは、ステータコア1が拡径したときにステータコア1の外周縁を結ぶ円周上から外側には飛び出さないように設けられている。
【0012】
図3は、ティース3部分にコイル巻線9を巻装した状態を示したもので、コイル巻線9の巻装に際しては、図4に示すようにステータコア1にステータカバー10を装着し、ステータカバー10を介してティース3部分にコイル巻線9を巻装したものである。
ステータカバー10は、上下一対で構成され、図5に示すように、少なくとも前記バックヨーク2の内周面およびティース3の周面を覆うように環状のバックヨーク部分10aと放射状に中心方向に延出したティース部分10bで構成されている。
【0013】
次にコイル巻線9の巻装手順を説明すると、ステータコア1に上下方向から被せるようにして一対のステータカバー10を装着する。ステータカバー10によって、少なくともバックヨーク2の内周面およびティース3の周面を覆いティース3部分を外部と絶縁する。このステータカバー10には、ナイロン系の伸縮しやすい、やわらかい材質の素材が用いられている。
【0014】
ステータカバー10は、装着された段階では、弾性によって伸縮部5で伸びた状態になっており、ティース3部分に密着している。
次に、巻線ノズルを操作してティース先端部3a相互間の間隙、スロット開口部4aから巻線ノズルを挿入してティース3部分にコイル巻線9を巻装する。スロット4が広くなっているので、充分な量のコイル巻線9をティース3部分に巻き付けることができる。
ティース3部分にコイル巻線9を巻装してから、巻線ノズルを引き抜き、図示しない冶具を用いてステータコア1の伸縮部5を縮径させる。図6および図7に示すように、周囲からの圧力によって伸縮部5を収縮させると、スリット7,スリット6,スリット7部分が密着して伸縮部5の両端基部5aが互いに接近し、密着する。そして、伸縮部5が収縮してステータコア1が縮径すると、ティース先端部3a相互間が互いに接近して、スロット開口部4aを縮小させる。このとき、伸縮部5に対応するステータカバー10の部分は、伸縮部5の収縮に伴って弾性によって収縮し、皺が生じることがない。
【0015】
こうして、ティース3部分にコイル巻線9を巻装する際には、スロット開口部4aを拡開させ、コイル巻線9の巻装が終了してからはスロット開口部4aを縮小させるので、コイル巻線9の巻装作業を効率よく行なうことができる。また、伸縮部5の両端基部5aがバックヨーク2の半径方向に一定の幅nを有するので、充分な強度が得られ、ステータコア1の強度を損ねることがない。また、伸縮部5の両端基部5aは、ステータコア1が拡径状態にあるときでも、ステータコア1の外周縁を結ぶ円周上から外側には飛び出さないので、冶具を用いてステータコア1を縮径させるときにも、冶具の組み付けの妨げになることがない。よって、効率よくステータコア1の縮径作業を行なうことができる。
【0016】
なお、図8ないし図10は、伸縮部5の変形例を示したもので、図8に示したものは、収縮時に膨出部8aをバックヨーク2の内周縁を結ぶ周縁よりも内径側に突出させたもので、伸縮部5の収縮に伴って膨出部8aが内径側に突出してステータカバー10を内側に押し出し、ステータカバー10も同時に縮径させるものである。これによって、伸縮部5の収縮に伴う渡り線の弛みを防ぐことができる。
また、図9は、スリット6の両側に設けるスリット7a、7bを、非対称に形成したものである。この場合、膨出部8bも左右が非対称となり、伸縮部5の両端基部5b、5cも左右で異なる形状となる。膨出部8bは、図8の変形例と同様にバックヨーク2の内周縁を結ぶ周縁よりも内径側に突出させたものである。
さらに、図10は、伸縮部5の両端基部5b、5cをバックヨーク2の外周側と内周側の半径方向にそれぞれ一定の距離m離れた位置から略N字状となるようにそれぞれ異なる方向に延出させたもので、それぞれの延出部の先端を連結して襞形状の伸縮部5を形成したものである。これによって、ステータコア1を拡径したときの径を大きくすることができ、スロット開口部4aをより大きくすることができる。
【0017】
次に図11ないし図19は、ステータカバー10の3種類の変形例を示したものである。
図11ないし図13に示したステータカバー20は、ステータカバー10と同様に上下一対で構成され、少なくとも前記バックヨーク2の内周面およびティース3の周面を覆うように環状の薄肉のバックヨーク部分20aと放射状に中心方向に延出したティース部分20bで構成されている。このステータカバー20も、ステータカバー10と同様に、少なくともバックヨーク2の内周面およびティース3の周面を覆いティース3部分を外部と絶縁する。このステータカバー20には、ナイロン系の伸縮しやすい、やわらかい材質の素材を用いることができる。このステータカバー20には、両側のティース部分20bの中間の環状のバックヨーク部分20aの伸縮部21に、小さな折り目21aが設けられている。
これによって、コア伸縮時に冶具に取り付けたピンで押すことにより、所望の形状に伸縮させることができる。
【0018】
また、図14ないし図16に示したステータカバー30は、ステータカバー10と同様に上下一対で構成され、少なくとも前記バックヨーク2の内周面およびティース3の周面を覆うように環状のバックヨーク部分30aと放射状に中心方向に延出したティース部分30bで構成されている。環状のバックヨーク部分30aは、各ティース部分30bを補強するように一定間隔で設けられた補強部31と、これら補強部31相互間の伸縮部32に設けられた平面視でV字形状の切り欠き部33とで構成されている。
補強部31は平板状のプレート31aと、プレート31aを補強する一対のリブ31bとで構成され、平板状のプレート31a相互間を繋ぐ伸縮部32にV字形状の切り欠き部33が形成されている。
このように、伸縮部32にV字形状の切り欠き部33を設けることによって、コア伸縮時に冶具を用いることなく変形させることができる。
【0019】
さらに、図17ないし図19に示したステータカバー40は、ステータカバー10と同様に上下一対で構成され、少なくとも前記バックヨーク2の内周面およびティース3の周面を覆うように環状のバックヨーク部分40aと放射状に中心方向に延出したティース部分40bで構成されている。環状のバックヨーク部分40aは、各ティース部分40bを補強するように一定間隔で設けられた補強部41と、これら補強部41相互間の伸縮部42に設けられた平面視でV字形状の切り欠き部43とで構成されている。
補強部41は平板状のプレート41aと、プレート41aを補強する一対のリブ41bとで構成され、平板状のプレート41a相互間を繋ぐ伸縮部42にW字形状の切り欠き部43が形成されている。
このように、伸縮部42にW字形状の切り欠き部43を設けることによって、コア伸縮時に冶具を用いることなく変形させることができる。W字形状の切り欠き部43は、V字形状の切り欠き部33よりも伸縮性が高いので、コア伸縮時に冶具を用いることなくより容易に変形させることができる。
【0020】
なお、本発明は、上記実施の形態のみに限定されるものではなく、例えば、前記実施の形態では、バックヨーク2の外周面側から半径方向のスリット6を形成し、内周面側から前記スリット6を挟むように半径方向のスリット7を形成し、これらスリット6,7によって形成された前記襞形状の伸縮部5の先端に内径側に向けて膨出部8を形成したが、バックヨーク2の内周面側から半径方向のスリット6を形成し、外周面側から前記スリット6を挟むように半径方向のスリット7を形成して襞形状の伸縮部5を形成しても良い。また、伸縮部5は、バックヨーク2の外周面側から飛び出さない形状で、強度を保てる形状であれば、前記実施の形態の形状に限らず任意の形状のものを用いることができる。など、その他、本発明の要旨を変更しない範囲内で適宜変更して実施し得ることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態による電動機のステータコア構造を示す概念図である。
【図2】図1の部分拡大図である。
【図3】コイル巻線を施した状態のステータコア構造を示す概念図である。
【図4】ステータコアにステータカバーを装着した状態を示す概念図である。
【図5】ステータカバーを示す概念図である。
【図6】ステータコアにコイル巻線を巻装し、ステータコアを縮径させた状態を示す概念図である。
【図7】図6の部分拡大図である。
【図8】本発明の他の実施の形態を示す電動機のステータコア構造である。
【図9】本発明の他の実施の形態を示す電動機のステータコア構造である。
【図10】本発明の他の実施の形態を示す電動機のステータコア構造である。
【図11】本発明の実施の形態による電動機のステータコア構造に用いるステータカバーの変形例を示す概念図である。
【図12】図11の外側から見た斜視図である。
【図13】図11の内側から見た斜視図である。
【図14】本発明の実施の形態による電動機のステータコア構造に用いるステータカバーの変形例を示す概念図である。
【図15】図14の外側から見た斜視図である。
【図16】図14の内側から見た斜視図である。
【図17】本発明の実施の形態による電動機のステータコア構造に用いるステータカバーの変形例を示す概念図である。
【図18】図17の外側から見た斜視図である。
【図19】図17の内側から見た斜視図である。
【符号の説明】
【0022】
1 ステータコア
2 バックヨーク
3 ティース
4 スロット
5 伸縮部
6,7スリット
8 膨出部
9 コイル巻線
10,20,30,40 ステータカバー
21,32,42 伸縮部
33,43 切り欠き部
3a ティース先端部
4a スロット開口部
5a,5b,5c 両端基部
8a、8b 膨出部
10a,20a,30a.40a バックヨーク部分
10b,20b,30b,40b ティース部分
21a 小さな折り目
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のバックヨークの内周面に円周方向に一定間隔で複数のティースを形成したステータコアに、少なくとも前記バックヨークの内周面およびティースの周面を覆うステータカバーを装着して前記ティースの周囲に巻き線を巻装する電動機のステータコア構造において、前記隣り合うティース間のバックヨークの部分に、円周方向に拡開する伸縮部を設け、該伸縮部を、前記バックヨークの内周面または外周面のいずれか一方側から半径方向のスリットを形成し、内周面または外周面のいずれか他方側から前記スリットを挟むように半径方向のスリットを少なくとも一組以上形成して襞形状に構成し、これらスリットによって形成された襞形状の伸縮部を伸縮させて前記ステータコアを拡径、または縮径させるとともに、前記襞形状の伸縮部の両端部を前記スリットによってバックヨークに形成された半径方向の壁面から延出させたことを特徴とする電動機のステータコア構造。
【請求項2】
前記隣り合うティース間のバックヨークの部分に、外周面側から半径方向のスリットを形成し、内周面側から前記スリットを挟むように半径方向のスリットを形成し、これらスリットによって形成された前記襞形状の伸縮部の先端に内径側に向けて膨出部を形成し、前記ステータコアの縮径時に該膨出部を介して前記ステータカバーを押圧して、前記ステータカバーも縮径させることを特徴とする請求項1に記載の電動機のステータコア構造。
【請求項1】
環状のバックヨークの内周面に円周方向に一定間隔で複数のティースを形成したステータコアに、少なくとも前記バックヨークの内周面およびティースの周面を覆うステータカバーを装着して前記ティースの周囲に巻き線を巻装する電動機のステータコア構造において、前記隣り合うティース間のバックヨークの部分に、円周方向に拡開する伸縮部を設け、該伸縮部を、前記バックヨークの内周面または外周面のいずれか一方側から半径方向のスリットを形成し、内周面または外周面のいずれか他方側から前記スリットを挟むように半径方向のスリットを少なくとも一組以上形成して襞形状に構成し、これらスリットによって形成された襞形状の伸縮部を伸縮させて前記ステータコアを拡径、または縮径させるとともに、前記襞形状の伸縮部の両端部を前記スリットによってバックヨークに形成された半径方向の壁面から延出させたことを特徴とする電動機のステータコア構造。
【請求項2】
前記隣り合うティース間のバックヨークの部分に、外周面側から半径方向のスリットを形成し、内周面側から前記スリットを挟むように半径方向のスリットを形成し、これらスリットによって形成された前記襞形状の伸縮部の先端に内径側に向けて膨出部を形成し、前記ステータコアの縮径時に該膨出部を介して前記ステータカバーを押圧して、前記ステータカバーも縮径させることを特徴とする請求項1に記載の電動機のステータコア構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2009−95132(P2009−95132A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263145(P2007−263145)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(000103792)オリエンタルモーター株式会社 (150)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(000103792)オリエンタルモーター株式会社 (150)
【Fターム(参考)】
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