説明

電動機のフレーム

【課題】
溶接ダレのない電動機のフレームとし、密閉性に優れた電動機のフレームを提供する。
【解決手段】
鋼板の両側端部を湾曲させ筒状に成形加工し当接部を外周側より溶接を施した電動機のフレームであって、前記フレームの外周側からの溶接は軸方向の両開口端部に溶接逃がし部を設け、且つ、前記フレームの内周側は軸方向の両開口端部に溶接を施し、前記フレームの内周側の軸方向の少なくともどちらか一方の開口端部には、別部材を嵌着するための切削加工が施され、前記切削加工は前記フレームの内周側の軸方向の開口端部からの溶接長さより短く切削加工された電動機のフレーム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ用・圧縮機用の電動機の固定子に嵌着する電動機のフレームに関する。
【背景技術】
【0002】
ポンプ用・圧縮機用の電動機の固定子は、フレームに焼き嵌め、圧入、隙間嵌め等により組み付けられる。フレームに固定子が固定された後、固定子の内径中心を軸中心とする回転子が挿入され、フレームの両開口端部には、回転子の軸受け部を有したハウジングやブラケット等が挿入され焼き嵌め、圧入、隙間嵌め、溶接等により固定されている。この場合、ハウジングやブラケット等のフレームの開口端部への固定は、フレームの軸方向の両開口端部に、固定子と回転子が一定のギャップを確保できる様に固定しなければならない。
【0003】
特に、フレーム内の内径精度は、電動機の固定子やハウジング、ブラケット等を確実に固定するために高い寸法精度が要求されるためフレームの開口端部はインロー加工されている。また、ポンプ用途や圧縮機用途等に用いられるフレームは密閉性が重要になる。例えば、ポンプ用途の場合、フレームには電動機の固定子やハウジング、ブラケット等が組み付けられ、フレームと電動機の固定子やハウジング、ブラケット等が組み付けられた隙間から塵、水などが侵入しない構造にしなければならない。また、同様に冷蔵庫やエアコン等に用いられる室外機の圧縮機用途に用いた場合、圧縮機内の冷媒や冷凍機油が漏れないような構造としなければならない。或いは、空気圧縮機等においては圧縮した空気が漏れて圧力が下がらないように密閉性を保つ構造としなければならない。
【0004】
ポンプ用途・圧縮機用途の電動機のフレームの製造方法としては、特許文献1(特開平8−298750号)や特許文献2(特開平9−310692号)等に開示されている。特許文献1の図4には、ステンレス鋼板を筒状に湾曲させ両端部の当接部を溶接して円筒を形成するモータのフレームの製造方法が示されている。また、同様に特許文献2の図2には、密閉フレームの製造方法であり、所定の幅寸法と長手方向寸法の矩形状鋼板の両端部から湾曲させ両側縁部を当接させ断面真円状に形成し、当接縁部を溶接手段により完全固着した円筒状のフレームの製造方法が示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平8−298750号公報
【特許文献2】特開平9−310692号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2の製造方法で制作した電動機のフレーム構造では、ポンプ用途・圧縮機用途のフレームとして密閉性を保つことができない場合がある。例えば、電動機のフレームを構成する鋼板の筒状に成形加工した当接部を溶接する場合、フレームの軸方向の両開口端部まで溶接を施した場合、溶接の熱により溶接ダレが発生してしまう。最悪の場合は溶け落ちてしまう場合もある。実質的には溶接ダレになった部分からフレームの密閉性が失われ、ポンプ用途ではフレームと、電動機、ハウジング、ブラケット等との間に隙間を生じ、塵、水などが侵入してしまう。また、冷蔵庫やエアコン等に用いられる室外機の圧縮機用途では、同様に密閉性が失われ圧縮機内の冷媒と冷凍機油が漏れてしまう。或いは、空気圧縮機等では、空気が漏れて圧力が上がらない場合がある。
【0007】
また、電動機のフレームの材質、寸法、溶接温度などの影響によっては、前記とは逆にフレームの軸方向の両端開口部から溶接部が膨らんで残ってしまう場合もある。この場合、後にフレームに組み込まれる電動機の固定子や、ハウジング、ブラケット等の組み込みの邪魔になってしまいフレームの軸方向の両開口部端を切削加工をしなければならなくなる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
固定子と回転子を有する電動機であって、固定子内径中心を軸中心として固定子の軸方向から嵌入する電動機のフレームにおいて、
前記フレームは、鋼板の両側端部を湾曲させ筒状に成形加工し鋼板の両側端部を当接させた当接部をフレームの外周側より溶接を施す電動機のフレームであって、
前記フレームの外周側からの溶接は、前記フレームの軸方向の両開口端部に溶接逃がし部を設け、且つ、
前記フレームの内周側には、前記フレームの軸方向の両開口端部に溶接を施したものであって、
前記フレームの内周側の軸方向の少なくともどちらか一方の開口端部には、別部材を嵌着するための切削加工が施され、
前記切削加工は前記フレームの内周側の軸方向の開口端部からの溶接長さより短く切削加工された電動機のフレーム。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電動機のフレームは、電動機のフレームとして鋼板を湾曲させ筒状に成形加工し、鋼板の両側端部を当接させ当接部をフレームの外周側より溶接する場合であって、フレームの内周側の軸方向の少なくともどちらか一方の開口部にインロー加工を加え、別部材であるハウジングやブラケットを嵌着する電動機のフレームにおいて、フレームの外周側からの溶接は、フレームの軸方向の両開口端部に溶接逃がし部を設け、且つ、フレームの内周側の開口端部に溶接を施したものであって、フレームの内周側に施すインロー加工は、フレームの内周側の軸方向の開口端部から溶接を施した長さより短く切削加工した電動機のフレームとすることにより、フレームの外周側には溶接ダレが発生することもなく、また、フレームの内周側の開口端部まで溶接して、溶接の熱により溶接ダレができたとしてもフレームの開口端部をインロー加工し除去することにより、確実にポンプ用途・圧縮機用途の電動機のフレームとして密閉性を保つことができる。
【0010】
従って、電動機の固定子、ハウジング、ブラケット等を組み付けるポンプ用途のフレームにおいては、溶接の熱により溶接ダレが起き隙間から塵、水などが侵入することなく密閉性を保つことができる。また、冷蔵庫や、エアコン等に用いられる室外機に搭載する密閉圧縮機の場合も同様に密閉性を保つことができ圧縮機内から冷媒や冷凍機油が漏れることがない。或いは、空気圧縮機等においては圧縮した空気が洩れることがなくなり圧力を低下させることもない。
【0011】
また、フレームの両開口端部の端まで溶接をしていないので電動機のフレームの材質、寸法、溶接温度等の影響によってフレームの軸方向の両開口端部に溶接部の膨らみが残ることもなく電動機の固定子や、ハウジング、ブラケット等の組み込みの邪魔になることもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を図を用いて説明する。図1は、ポンプ用・圧縮機用に用いられる電動機の固定子1を焼き嵌め、または、圧入、隙間嵌め等によりフレーム6に固定された電動機が示されている。この電動機の固定子1の内径側には内転型の回転子2を有している。この回転子2は、軸中心に回転子2が回転駆動するための軸3が焼き嵌め、または、圧入、隙間嵌め等により嵌着されている。この回転子2の軸中心に装着した軸3はポンプや圧縮機の機械部と連結し回転駆動している。この回転子2が装着された軸3は軸受け部を有したハウジング4、ブラケット5等によりフレーム6の両開口端部11a、11b(図2参照)に嵌着し固定されている。
【0013】
フレーム6の両開口端部11a、11bは、別部材であるハウジング4やブラケット5等を嵌着するためのインロー加工7a、7b(図2参照)が施されている。インロー加工7a、7bはフレーム6の内周側の軸方向の両開口部11a、11bからフレームの軸方向の若干内側に入るように加工されている。図1の実施形態はフレーム6の両開口端部11a、11bのインロー加工7a、7bに、別部材であるハウジング4やブラケット5等を嵌着した状態を示したが、図2には電動機の固定子1が組み込まれるフレーム6のみを示している。
【0014】
図2には、鋼板の両側端部を湾曲させ筒状に成形加工し、鋼板の両側端部を当接させ、当接部をフレーム6の外周側から溶接8が施されている。フレーム6の外周側からの溶接8は、フレーム6の軸方向の両開口端部11a、11bの端に溶接をしていない溶接逃がし部10a、10bが設けられている。尚、図2の実施形態ではフレーム6の内径がφ128で、フレーム6の鋼板の厚さは2.6mm、フレーム6の軸方向の長さ200mmとしている。
【0015】
また、同様に図3には図2で示したフレーム6の外周側から溶接8が施された状態を示したD矢視図である。
図3よりわかるようにフレーム6の外周側からの溶接8は、フレーム6の軸方向の一方の開口端部11aから若干内側に入り込んだ所から溶接し、他方の開口端部11bから若干内側に入り込んだ所まで溶接している。フレーム6の軸方向の両開口端部11a、11bの端は溶接8をしていない溶接逃がし部10a、10bとして示している。図2及び図3の実施形態ではフレーム6の軸方向の両開口端部11a、11bの溶接8をしていない溶接逃がし部10a、10bの長さは約2mm程度である。
【0016】
これにより、フレーム6の外周側から溶接8を施しても、フレーム6の両開口端部11a、11bの鋼板の当接部が溶接8の熱により溶接ダレが発生することもなくなり、溶け落ちることもなくなる。
【0017】
しかしながら、フレーム6の両開口端部11a、11bの近傍は鋼板の両側端部を湾曲させ当接させたのみであり溶接8によって確実に溶接していないので、フレーム6の密閉性を保つことができない。これはフレーム6を構成する鋼板の当接部の隙間からポンプ用途では塵、水が入ったり、圧縮機用途では冷媒や冷凍機油が漏れて密閉性を保つことができないことになる。また、空気圧縮機等では空気が漏れて圧力を低下させてしまう。
【0018】
このことに鑑みて、図2に示しているようにフレーム6の鋼板を当接した当接部の外周側から溶接8をしていない溶接逃がし部10a、10bの裏側の、フレーム6の軸方向の内周側のフレーム6の鋼板を当接した当接部の両開口端部11a、11bの端に溶接9a、9bを施している。また、フレーム6の内周側に溶接9a、9bをする方向はフレーム6の軸方向の開口端部11a、11bから内側へ、内側から開口端部11a、11bへのどちらの方向からでも溶接9a、9bは可能である。尚、フレーム6の軸方向の内周側の鋼板が当接した当接部の両開口端部11a、11bに施した溶接9a及び9bの溶接長さは、フレーム6の外周側から溶接8を施した溶接長さと部分的に重なるように溶接している。言い換えれば、フレーム6の鋼板を当接した当接部の外周側から溶接8をしていない溶接逃がし部10a、10bより長く溶接をしている。
これにより、フレーム6の外周側からの溶接8の溶け込みと、フレーム6の内周側からの溶接9a及び9bの溶け込みが溶融し確実に密閉性を保つことができる。
【0019】
本実施形態では、フレーム6の内周側の軸方向の両開口端部11a、11bには、フレーム6の軸方向の少なくともどちらか一方の開口端部11a、11bに別部材のハウジング4、ブラケット5等を嵌着するためにフレーム6の軸方向の内周側の開口端部11a、11bの端にインロー加工7a、7bが施されている。図4にフレーム6の内周側の軸方向の開口端部11a、11bにインロー加工7a、7bを施した状態の部分拡大図を示す。
【0020】
本実施形態では、フレーム6の軸方向の内周側の両開口端部11a、11bの端まで溶接9a、9bを施すことにより、フレーム6の軸方向の外周側に溶接8を施した場合の問題点と同じ状況が発生する可能性がある。つまり、フレーム6の軸方向の内周側の両開口端部11a、11bに溶接9a、9bを施すことによって溶接ダレや、逆に、フレーム6の材質、寸法、溶接温度などの影響によって溶接部の膨らみ部分等が発生する恐れがある。
【0021】
しかしながら、フレーム6の軸方向の外周側の溶接8を施し、その後、フレーム6の軸方向の内周側の溶接9a、9bを施す工程後、フレーム6の軸方向の内周側の開口端部11a、11bに別部材のハウジング4、ブラケット5等を嵌着するためにフレーム6の軸方向の内周側の開口端部11a、11bにインロー加工7a、7bを施すため、このインロー加工7a、7bをすることにより溶接ダレや溶接の膨らみ部分等の不具合部分を切削加工で取り除くことができる。これによりインロー加工と同時に溶接ダレや溶接の膨らみ部分等の不具合部分を切削加工することができ、新たにこれらの除去のために切削加工の工数をかけることもなくなる。
【0022】
従って、フレーム6のインロー加工7a、7bには、別部材であるハウジング4やブラケット5を容易に組み付けすることができフレーム6内の密閉性を確保できる。尚、フレーム6の内周側の軸方向の両開口端部11a、11bにおけるインロー加工7a、7bの、フレーム6の軸方向のインロー加工7a、7bの加工長さ(フレーム6の軸方向の内周側の開口端部11a、11b側から見た場合の深さ)は、前記に記述したフレーム6の軸方向の内周側の両開口端部11a、11bに施した溶接9a、9bの長さより少なくとも短くなるように切削加工している。これによりフレーム6の外周側からの溶接8の溶け込みと、フレーム6の内周側からの溶接9a、9bの溶け込み部分の溶融部分が切削加工により削り取られ密閉性が損なうことのないようにしている。尚、フレーム6の内周側の溶接9a、9bの切削加工で削り取られていない溶接部分は、固定子の組み付けに支障がないように固定子の外周部に設けた切り欠け等を利用し逃がして組み付けられている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施形態のフレームに固定子と回転子を組み込んだ状態の縦面図である。
【図2】図1に示したフレームの縦断面図である。
【図3】図2で示したD矢視のフレームの外周側から見た溶接部の図。
【図4】本実施形態のインロー部の部分拡大図である。
【0024】
1・・・固定子
2・・・回転子
3・・・軸
4・・・ハウジング
5・・・ブラッケト
6・・・フレーム
7a、7b・・・インロー加工部
8・・・外周側溶接部
9a、9b・・・内周側溶接部
10a、10b・・・溶接逃がし部
11a、11b・・・フレーム6の軸方向の開口端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子と回転子を有する電動機であって、固定子内径中心を軸中心として固定子の軸方向から嵌入する電動機のフレームにおいて、
前記フレームは、鋼板の両側端部を湾曲させ筒状に成形加工し、前記鋼板の両側端部の当接部を前記フレームの外周側より溶接を施す電動機のフレームであって、
前記フレームの外周側からの溶接は、前記フレームの軸方向の両開口端部に溶接逃がし部を設け、且つ、
前記フレームの内周側には、前記フレームの軸方向の両開口端部に溶接を施したものであって、
前記フレームの内周側の軸方向の少なくともどちらか一方の開口端部には、別部材を嵌着するための切削加工が施され、
前記切削加工は前記フレームの内周側の軸方向の開口端部からの溶接長さより短く切削加工されたことを特徴とする電動機のフレーム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−119156(P2010−119156A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−288320(P2008−288320)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【出願人】(000100872)アイチエレック株式会社 (58)
【Fターム(参考)】