説明

電動機用固定子鉄心

【課題】電動機のトルク性能と効率を両立させるため、固定子鉄心における磁束の流れを制御し、余分な高周波磁化成分及び鋼板面に垂直な磁化成分を抑制可能な固定子鉄心を提供する。
【解決手段】固定子鉄心のティース部の長さをLとし、ティース部の先端から少なくともL/20の長さとなる先端部を有し、残りを根元部としたとき、先端部の5000A/mにおける磁束密度B(T)50を1.75T以上とし、かつ先端部の磁束密度B(T)50と根元部の磁束密度B(R)50との差(B(T)50−B(R)50)を0.05T以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機、特に永久磁石式同期電動機(ブラシレスDCモータ)やリラクタンスモータなどに用いて好適な固定子鉄心に関し、出力トルク及びエネルギー変換効率の向上を図ったものである。
【背景技術】
【0002】
電動機は、電気エネルギーを有効に機械的回転運動に変換することを目的としており、高効率電動機においては、一定入力あたりの出力トルクに優れるとともに、出力/入力で定義されるエネルギー変換効率(以下、効率という)が高いことが特に要求される。そのために、近年では、従来広く用いられてきた誘導電動機に加えて、永久磁石式同期電動機(ブラシレスDCモータ)、リラクタンスモータなど多くの方式が用いられるようになってきている。
【0003】
このような電動機の鉄心としては種々の構造のものが用いられるが、いずれの形式の電動機においても、固定子が交流励磁される場合には交流磁化が発生するため、鉄損の点で勝っている積層電磁鋼板が用いられることが多い。
【0004】
一方、回転子に関しても、誘導電動機の場合には、磁気特性に優れた電磁鋼板を打抜いた後に積層し、内部に誘導電流を導通させる導体を有する構造が多く用いられている。また、永久磁石式同期電動機の場合には、電磁鋼板を打抜いた後に積層する方法、溶融金属を精密鋳造により成形する方法、金属塊・金属棒を熱間または冷間鍛造または切削により成形する方法、金属粉末を圧粉・焼結により成形する方法などが考えられるが、永久磁石の把持能力や鉄損低減の面から良好な軟磁性を有する強磁性体、中でも電磁鋼板が用いられている。
【0005】
上述したとおり、電動機の固定子が交流励磁される場合、交流磁化が発生し、それによる交流磁化損失(いわゆる鉄損)が発生するが、近年では特に電動機の高効率化の要求に伴い、交流磁化による損失を極力低減することが要望されている。このような高周波磁化成分による損失を抑制するのに最も効果的な手段は、固定子鉄心として磁化特性に優れると同時に、板厚の薄肉化、高合金化などにより鉄損を低減した積層鋼板を用いることである。
【0006】
しかし、固定子のティース部の先端部では磁束の分布が不均一であり、高周波成分を含んだ磁化成分が生じ、また鋼板面に垂直な磁束成分を有するために、鋼板面内に渦電流が生じて、鉄損が発生しやすい状態になっている。
鉄心材料は通常、同一の組成からなる一体のものとする場合が多いので、特に高速回転時には損失が増加する結果、効率の劣化が避けられなかった。
【0007】
一方、固定子鉄心の構造に工夫を加えることにより、交流磁化による損失を改善する方法も検討されている。
例えば、特許文献1には、ティース部がヨーク部より飽和磁化の大きい材料で構成される電動機が記載されている。この電動機は、ティース部及びヨーク部共に同一の材料を使用した電動機と比較して、トルク性能は改善されるものの、ティース先端部における磁束分布の不均一に起因して、効率は改善が認められないか、むしろ劣化するという問題があった。
【特許文献1】特開2000-341889
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題を有利に解決するもので、電動機のトルク性能と効率を高いレベルで両立させるために、固定子鉄心における磁束の流れを制御し、余分な高周波磁化成分及び鋼板面に垂直な磁束成分を抑制することができる電動機固定子鉄心を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
さて、発明者らは、上記の課題を解決すべく研究、開発を重ねた結果、固定子のティース部を先端部と根元部に二分割し、先端部の磁束密度を根元部の磁束密度よりも大きくすることが、むしろティース部全体に高特性の素材を用いた場合よりもトルク性能及び効率が向上することの新規知見を得た。
【0010】
本発明は、上記の知見に立脚するものであり、その要旨構成は以下のとおりである。
1.固定子鉄心のティース部の長さをLとし、該ティース部の先端から少なくともL/20の長さとなる先端部を有し、残りを根元部としたとき、該先端部の5000A/mにおける磁束密度B(T)50が1.75T以上で、かつ該先端部の磁束密度B(T)50と該根元部の磁束密度B(R)50との差(B(T)50−B(R)50)が0.05T以上であることを特徴とする電動機用固定子鉄心。
【0011】
2.上記先端部が、ティース部長さのL/20〜18L/20の範囲であることを特徴とする上記1の電動機用固定子鉄心。
【発明の効果】
【0012】
本発明の固定子鉄心を電動機に用いることにより、高トルクで、かつ高効率な電動機を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を具体的に説明する。
図1に本発明の要である固定子鉄心のティース部の構造を示す。図中、符号1は固定子、2はヨーク部、3はティース部、4はティース部の先端部、5はティース部の根元部である。図1に示したように、ティース部3を先端部4と根元部5とに二分割し、それぞれを異なった材料で構成するのである。このとき、ティース部長さに対する先端部長さの比が重要であり、ティース部3の長さをLとしたとき、先端部4は少なくともL/20の長さを必要とする。というのは、L/20に満たないと、先端部に用いた磁束密度の大きい材料により、ティース部を中心とした固定子鉄心に流れる磁束の分布の適正化が不十分となるからである。
一方、先端部4の長さが18L/20を超えると特に、ティース部に流れる磁束の流れを調整する作用が少なくなるので、先端部4の長さの上限は18L/20とすることが望ましい。より好ましくは5L/20〜18L/20の範囲である。
【0014】
なお、根元部5の長さは、ティース部3の長さLから先端部4の長さをひいた残部となる。この根元部5はヨーク部2と一体としても、ヨーク部2と別物としてもいずれでも良い。
【0015】
次に、固定子鉄心のティース部の先端部、根元部及びヨーク部(根元部とヨーク部を一体とする場合は固定子本体という)に用いる鋼板について述べる。
これらに使用する鋼板は、強磁性体であれば効果を有し、必ずしもFeが主成分である必要はなく、Co、Niその他の強磁性元素またはその合金系を使用することができる。一般的には高磁束密度を有するFe基合金が有利であり、若干の合金元素を含む分には磁束密度を阻害しない限り問題はない。
【0016】
ただし、本発明では、ティース部の先端部の磁束密度を高くし、かつ根元部との磁束密度差を大きくすることが重要であることから、根元部に比較して先端部の方にできる限り大きい磁束密度をもつ鋼板を用いた方が有利である。鋼板の成分としては、例えば、Coを5質量%以上65質量%以下、残部をFeとすることが有利である。そして、固定子本体(ティース部の根元部およびヨーク部)より、ティース部先端部のCo含有量を多くして、両者の磁束密度の差を0.05T以上とすることが好ましい。例えばさらに、Siを0.1〜4.0質量%やAlを0.1〜0.2質量%程度含有させても良い。
【0017】
鋼板の板厚については、薄いものほど電動機の効率向上の点で好ましいが、あまりに薄い鋼板は製造コスト、加工コストの点で望ましくない。また、積層鋼板の表面には絶縁コーティングを施して、積層後にも一定の絶縁性を確保する必要がある。なお、ティース部の先端部と固定子本体とは板厚が同一である方が層間の絶縁を確保する上で望ましいが、必ずしも同一である必要はない。
【0018】
ティース部の先端部は、接着などの方法で固定すればよいが、図2に示すように固定子本体とは別のリング状単体として、固定子本体にはめ込むことも可能である。その場合、固定子本体とはできる限りギャップを小さくした方が磁気回路の特性上望ましいが、回転子と固定子の間のギャップに比べて十分に小さければ特に問題はない。
【実施例1】
【0019】
ティース部の先端部および固定子本体(ティース部の根元部とヨーク部)として、表1に示す成分組成および磁束密度B50からなる種々の鋼板(板厚:0.35mm)を適宜組み合わせて使用した。また、このときの積層枚数はいずれも30枚とした。そして、この例では、図2の構造により固定子鉄心を製造した。
その後、固定子鉄心に3層巻線を施した後、その中心にシャフトを挿入し、外径寸法115mmの6スロットの固定子とした。一方、回転子としては希土類磁石を用いた磁石内蔵型の回転子を用いた。
【0020】
各固定子鉄心における、ティース部の先端部と固定子本体との材料の組み合わせおよび各組み合わせの場合の効率およびトルク性能について調べた結果を表2に示す。また、同表には、ティース部の先端部長さおよびティース部長さL(24mm)に対する比も併せて示す。
さらに、比較のために、ティース部およびヨーク部を一枚の鋼板で一体製作して積層したもの(固定子鉄心B、D、E、GおよびI)ならびに特許文献1に記載のもの(ティース部が全体としてヨーク部と別体になっているもの、固定子鉄心Q)についての調査結果も併せて示す。
【0021】
なお、効率およびトルク性能については次のように測定した。
固定子鉄心の巻線に3層電流を通電し、外部ブレーキを用いてトルク負荷を与え、無負荷回転数9000rpmにおける最大効率及び無負荷回転数3500rpmにおけるトルク定数を算出した。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
表2に示した通り、本発明の固定子鉄心を用いた電動機はいずれも、比較例に比べて効率およびトルク定数が格段に改善されている。
【産業上の利用の可能性】
【0025】
本発明の固定子鉄心を有する電動機は、固定子鉄心に流れる磁束の分布を最適化したものである。従って、固定子鉄心に通過する磁束を利用するあらゆる電動機に効果を有する。特に、永久磁石式同期電動機やリラクタンスモータなど、高効率と高トルク性能を同時に発揮することを要求される電動機に有利に適合する。
また、本発明では、ティース部先端部のみの材料置換であるため、高価な材料を多量に使用することがなく経済性にも優れることから、広い普及が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】ティース部を先端部と根元部に分割した本発明に従う固定子鉄心の一例を示した図である。
【図2】ティース部の先端部と固定子本体との結合要領の一例を示した図である。
【符号の説明】
【0027】
1 固定子
2 ヨーク部
3 ティース部
4 先端部
5 根元部
6 スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子鉄心のティース部の長さをLとし、該ティース部の先端から少なくともL/20の長さとなる先端部を有し、残りを根元部としたとき、該先端部の5000A/mにおける磁束密度B(T)50が1.75T以上で、かつ該先端部の磁束密度B(T)50と該根元部の磁束密度B(R)50との差(B(T)50−B(R)50)が0.05T以上であることを特徴とする電動機用固定子鉄心。
【請求項2】
前記先端部が、ティース部長さのL/20〜18L/20の範囲であることを特徴とする請求項1の電動機用固定子鉄心。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−247060(P2009−247060A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88268(P2008−88268)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】