説明

電動機

【課題】ベアリングの電蝕を回避又は抑制する技術を提供する。
【解決手段】電動機100は、外輪21と内輪22とを有するベアリング2と、外輪21を支持するブラケット4と、内輪22によって支持される導電性シャフト6と、導電性シャフト6が取付けられた回転子8と、ブラケット4と絶縁された電機子コア12と、電機子コアに設12けられた電機子巻線14とを有する電機子10と、電機子巻線14に電機子電流を供給する回路202と、回路202の電源パターン204とを有し、電源パターン204は、電機子コア12側の方が電機子10とは反対側よりも面積が広い回路基板20とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機に関し、特にラジアルギャップ型の回転電機を搭載する電動機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転電機を搭載する電動機において、当該回転電機が備える電機子コアに発生する電磁振動がベアリングに伝達することを防止すべく、ベアリングを外輪で支持するブラケットと電機子コアとの間には、通常は樹脂等が介在して設けられているため、絶縁されている。また、ベアリングは、外輪/転動体/内輪という構造を有し、いずれも金属製であることが通常であるものの、潤滑油の存在により、三者は絶縁されている。
【0003】
回転子とベアリングの内輪とにはシャフトが取付けられる。シャフトには回転負荷が取付けられるので、シャフトは強度を担保するために通常は金属製であって導電性を有する。当該シャフトは上述のように導電性であり、通常は回転子から回転負荷まで延在するので、電動機の外部に対して大きな静電容量を有する。
【0004】
PWMインバータによって制御される回転電機にあっては、回路と基準面(筐体等)との間にパルス電圧(コモンモード電圧)が発生する。当該パルス電圧による交流は、電機子巻線から電機子コアへと流れる。電機子コアが電動機外部に対して大きな静電容量を有するように取付けられる場合、当該交流はベアリングを経由せずに電動機の外部へと流れるので、ベアリングの電蝕は発生しにくい。しかしながら、電機子コアが電動機外部に対して小さな静電容量を有するように取付けられる場合、シャフトは電動機の外部に対して大きな静電容量を有するので、当該交流はブラケット、外輪、内輪を介してシャフトへと流れやすくなってしまう。上述のとおり、ベアリングの外輪/転動体/内輪は潤滑油の存在により絶縁されているが、シャフトに対するベアリングの電圧が潤滑油の絶縁破壊電圧に達すると、ベアリングに電流(ベアリング電流)が流れ、ベアリングの電蝕を発生させやすくする。
【0005】
下掲の特許文献1には、ブラケットとモータの外部との間の静電容量を大きくするラビリンス部を当該ブラケットに設けることによって、ベアリングの電蝕を回避する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−199285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ラビリンス部のように複雑な形状を採用すると製造工程が煩雑化し、ひいては製造コストの増大を招来する。また、ラビリンス部を設けたとはいえ、ブラケットに電圧が印加されることには相違なく、ブラケットからベアリングを介してシャフトへと交流が流れる可能性を排除できない。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑み、ベアリングの電蝕を回避又は抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明に係る電動機の第1の態様は、外輪と内輪とを有するベアリング(2)と、前記外輪を支持するブラケット(4)と、前記内輪によって支持される導電性シャフト(6)と、前記導電性シャフトが取付けられた回転子(8)と、前記ブラケットと絶縁された電機子コア(12)と、前記電機子コアに設けられた電機子巻線(14)とを有する電機子(10)と、前記電機子巻線に電機子電流を供給する回路(202)と、前記回路の電源パターン(204)とを有し、前記電源パターンは、前記電機子コア側の方が前記電機子とは反対側よりも面積が広い回路基板(20)とを備える電動機(100)である。
【0010】
本発明に係る電動機の第2の態様は、その第1の態様であって、前記回路基板(20)は、前記ブラケット(4)と前記電機子コア(12)との間に挟まれて位置する。
【0011】
本発明に係る回転電機の第3の態様は、その第1又は第2の態様であって、前記回路基板(8)の前記導電性シャフト(6)側の端部は、前記電機子コア(12)の前記導電性シャフト側の端部よりも前記導電性シャフトに近い。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る電動機の第1の態様によれば、回路基板の電源パターンと電機子コアとの間の静電容量を大きくできる。もって電機子コアが電動機外部に対して大きな静電容量を有するように取付けられるか否かにかかわらず、ベアリングの電蝕を回避又は抑制できる。
【0013】
本発明に係る電動機の第2の態様によれば、電機子コアと電源パターンとの間の静電容量を大きくすることに資する。
【0014】
本発明に係る電動機の第3の態様によれば、電機子コアと電源パターンとの間の静電容量を大きくすることに資する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る電動機の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図1を初めとする以下の図には、本発明に関係する要素のみを示す。
【0017】
〈装置構成の概要〉
図1は本発明の実施形態に係る電動機100の断面図であり、電動機100が備える回転子8の回転軸Aに沿った断面を示している。図1に示すように電動機100は、基準電位(例えば接地)として機能する筐体200の内部に搭載され、ファン等の回転負荷201A,201Bに取付けられる。
【0018】
電動機100は、ベアリング2、ブラケット4、導電性シャフト6、回転子8、電機子10及び回路基板20を備えている。導電性シャフト6は、その両端でシャフト支持部202A,202Bによって支持されている。なお、シャフト支持部202A,202Bは、強度を担保するために例えば金属製であって導電性を有する。ただし、強度を担保できれば、導電性を有する金属製である必要はなく、別途に導電性シャフト6を筐体200に接続する接地線(図示省略)を設けても良い。又は、導電性シャフト6に取付けられる回転負荷201A,201Bと筐体200との距離を小さくし、大きな静電容量を実現しても良い。
【0019】
また、ブラケット4、電機子10及び回路基板20は、モータ支持部203A,203Bによって支持されている。シャフト支持部202Aとモータ支持部203Aとの間の導電性シャフト6には回転負荷201Aが、シャフト支持部202Bとモータ支持部203Bとの間の導電性シャフト6には回転負荷201Bが、それぞれ取付けられている。これによって電動機100は、筐体200の内部で回転負荷201A,201Bを回転させる。
【0020】
ベアリング2は外輪21、内輪22及び転動体23を有する。ブラケット4は外輪21を支持し、導電性シャフト6は内輪22によって支持される。つまり、ブラケット4と導電性シャフト6とはベアリング2を介して回転自在に支持されている。なお、ベアリング2は、一の電動機100に2つ(回転軸Aの両端近傍にそれぞれ1つ)設けられている。
【0021】
回転子8は導電性シャフト6に取付けられる。回転子8は底面の中心を回転軸Aが貫通する略円柱形状を呈する。回転子8は具体的には例えば、回転軸Aに平行な方向(以下、「回転軸方向」と称する)に積層された複数の鋼板によって形成された回転子コアに磁石(いずれも図示省略)が埋設されている。なお、本実施例においては回転子8は導電性を有する鋼板によって形成しているが、樹脂及びプラスチックマグネットが採用されて導電性を有していなくても良い。
【0022】
電機子10は、ブラケット4と絶縁された電機子コア12と、電機子コア12に設けられた電機子巻線14とを有する。電機子10は、回転子8に対して導電性シャフト6とは反対側(回転軸Aを中心として回転子8の外側)で回転軸Aを中心とする径方向(以下、単に「径方向」と称する)Rに沿って予め定められた空隙を介して対向する。つまり、電機子10は、具体的には電機子コア12は、回転軸方向からの平面視で略環状を呈する(図示省略)。
【0023】
電機子コア12は例えば、回転子8が回転軸方向に延在する長さと略等しい長さを呈する。そして電機子コア12は、回転軸方向からの平面視(図示省略)で回転軸Aを中心とする円筒形状を呈し、当該円筒の外縁を形成する外縁部121Aの内側に複数の電機子巻線14が設けられている。具体的には、電機子コア12の外縁部121Aの回転軸A側には回転軸Aへと向かって突出するティース部121Bの複数が設けられており、当該ティース部121Bに電機子巻線14が巻回されている。
【0024】
回路基板20は、ブラケット4の内部に保持される基材201と、基材201上に設けられて電機子巻線14に電機子電流を供給する回路202と、基材201上に設けられる回路202の電源パターン204とを有している。なお、回路基板20から電機子巻線14への結線の図示を省略している。回路基板20は例えば電機子10の回転軸方向の一方側に設けられ、基材201が延在する面は回転軸方向に略直交する。つまり、基材201が延在する面は電機子10の回転軸方向側の端部と対向する。基材201が呈する2つの主面のうち電機子コア12と対向しない側の主面に回路202が設けられ、電機子コア12と対向する側の主面に電源パターン204が設けられる。回路202が設けられる側にも電源パターン204は設けられるが、電源パターン204の面積は、電機子コア12側の面における面積の方が、電機子コア12とは反対側の面における面積よりも広い。これにより、電機子コア12と電源パターン204との間の静電容量を大きくできる。
【0025】
また、回路基板20の導電性シャフト6側の端部は、電機子コア12の導電性シャフト6側の端部よりも導電性シャフト6に近いことが望ましい。これにより、電機子コア12と電源パターン204との間の静電容量を大きくすることができる。もってコモンモード電圧による交流が電機子コア12から回転子8へと流れることを回避又は抑制する。
【0026】
ブラケット4は、強度を担保するために金属製であって、おおむね次のような形状を呈する。すなわち、第1の半径ρ1を呈する円を底面とする中空の円柱体41の両底面41A,41B上にそれぞれ、第1の半径ρ1と同心で第2の半径ρ2(<ρ1)を呈する円を底面とする円筒体42A,42Bを組合せた形状を呈する。具体的には、円柱体41の底面41A,41B上に円筒体42A,42Bをそれぞれ設け、底面41A,41Bのうち円筒体42A,42Bの底面に相当する領域を切取った形状を呈する。ただし、ブラケット4は概形として当該形状を呈するが、内部に回転子8や電機子10を格納するため、実際には複数の部材を組合せることで当該形状を実現する。具体的には例えば、回転軸Aを含む回転軸方向に沿って2つに分割した状態に相当する部材を個別に形成し、当該部材同士を接合する。あるいは、ブラケット4を回転軸方向の中心における回転軸方向を法線とする面で2つに分割した状態に相当する部材を個別に形成し、当該部材同士を接合する。なお、図1においてはブラケット4を形成する2つの部材や当該部材同士の接合面は図示を省略している。
【0027】
ブラケット4は、円柱体41の内部に電機子10及び回路基板20を保持し、しかもブラケット4と電機子10及び、ブラケット4と回路基板20とは絶縁されている。これにより、コモンモード電圧による交流が電機子10及び/回路基板20からブラケット4へと漏洩すること、ひいてはベアリング2の電蝕を防止できる。電機子10については具体的には、電機子10のうち回転子8と対向する面以外の領域が、電機子巻線14とともに樹脂で覆われ、当該樹脂をブラケット4が支持する。また、ブラケット4は、円筒体42の内側でベアリング2の外輪21を支持する。これにより、回転子8と電機子10とが回転自在に支持される。回路基板20については具体的には、回路基板20のうち円柱体41の側面に対向する部位は電機子10を覆う樹脂に固定されており、残余の部位は円柱体41の内部で露出している。
【0028】
ブラケット4の円筒体42の外側は、モータ支持部203A,203Bによって支持されている。円筒体42Aの回転軸方向で円柱体41から遠離る一方側に設けられるモータ支持部203Aは、環状部204Aと、環状部204Aを筐体200上で支持する支持部205Aとを有する。同様に円筒体42Bに対して円柱体41から遠離る他方側に設けられるモータ支持部203Bは、環状部204Bと、環状部204Bを筐体200上で支持する支持部205Bとを有する。これにより、ブラケット4、ひいては電機子10を筐体200内で支持する。つまり、回転子4が取付けられた導電性シャフト6はシャフト支持部202A,202Bが支持し、電機子10を格納するブラケット4はモータ支持部203A,203Bが支持する。導電性シャフト6の回転に伴って生じ、ブラケットに伝達する振動を吸収するため、環状部204A,204Bはゴム等の樹脂で形成される。
【0029】
PWMインバータ(図示省略)によって電機子巻線14に供給される電流によって励起されるコモンモード電圧による交流は、各構成要素(電機子巻線14、電機子コア12、ブラケット4、ベアリング2、導電性シャフト6及び筐体200)を介して流れ得る。
【0030】
回路基板20の電源パターン204の面積が、電機子コア12側の方が電機子コア12とは反対側よりも狭い態様では、コモンモード電圧による交流が、電機子巻線14から電機子コア12へと流れた後に、以下の2つの経路を採り得る。
【0031】
すなわち、回転子8が導電性を有してかつブラケット4が電動機100外部に対して大きな静電容量を有するように取付けられている場合(第1の条件の場合)には、当該交流は電機子コア12から回転子8を介して導電性シャフト6へと流れ得る。導電性シャフト6へと流れた当該交流は、ベアリング2を介してブラケット4へと流れる。
【0032】
また、回転子8が導電性を有さずかつブラケット4が電動機100外部に対して大きな静電容量を有するようには取付けられていない場合(第2の条件の場合)には、当該交流は電機子コア12からブラケット4へと流れ得る。ブラケット4へと流れた当該交流は、ベアリング2を介して導電性シャフト6へと流れ得る。そして当該交流は導電性シャフト6から筐体200(接地)へと流れ得る。
【0033】
これに対して、回路基板20の電源パターン204の面積が、電機子コア12側の方が電機子コア12とは反対側よりも広い態様では、コモンモード電圧による交流が、直接に電源パターン204へと流れるか又は、電機子コア12を介して電源パターン204へと流れやすい。何となれば、上述した第1又は第2の条件であるか否かにかかわらず、回路基板20の電源が正負のいずれであるにせよ、コモンモード電圧の周波数に鑑みれば、電源パターン204を接地と把握できるからである。つまり、ブラケット4が電動機100外部に対して大きな静電容量を有するように取付けられていたとしても、そもそもブラケット4又は導電性シャフト6へと交流が流れることを回避又は抑制するので、ベアリング2の電蝕を回避又は抑制する。
【0034】
〈変形例〉
以上、本発明の好適な態様について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、回路基板20の電機子コア12側の主面全体にわたって、電源パターン204を施しても良い。これにより、ベアリング2の電蝕を更に回避又は抑制できる。
【符号の説明】
【0035】
2 ベアリング
4 ブラケット
6 導電性シャフト
8 回転子
10 電機子
12 電機子コア
14 電機子巻線
20 回路基板
22 回路
24 電源パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と内輪とを有するベアリング(2)と、
前記外輪を支持するブラケット(4)と、
前記内輪によって支持される導電性シャフト(6)と、
前記導電性シャフトが取付けられた回転子(8)と、
前記ブラケットと絶縁された電機子コア(12)と、前記電機子コアに設けられた電機子巻線(14)とを有する電機子(10)と、
前記電機子巻線に電機子電流を供給する回路(202)と、前記回路の電源パターン(204)とを有し、前記電源パターンは、前記電機子コア側の方が前記電機子とは反対側よりも面積が広い回路基板(20)と
を備える電動機(100)。
【請求項2】
前記回路基板(20)は、前記ブラケット(4)と前記電機子コア(12)との間に挟まれて位置する、
請求項1記載の電動機(100)。
【請求項3】
前記回路基板(20)の前記導電性シャフト(6)側の端部は、前記電機子コア(12)の前記導電性シャフト側の端部よりも前記導電性シャフトに近い、
請求項1又は請求項2記載の電動機(100)。

【図1】
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【公開番号】特開2012−130217(P2012−130217A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281734(P2010−281734)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】