説明

電動装置

【課題】電動装置が備える1つの軸に、複数のロータを設け、その複数のロータに被駆動部材を連結させることのできる技術を提供することを目的とする。
【解決手段】電動装置700は、電磁コイル12A,12Bと位置センサ40A,40Bとを有する複数のステータ10と、複数のステータ30に固定された軸部64と、永久磁石32を有し、軸部の周囲を回転する複数のロータ30と、を備える。複数のロータ30には、電動装置で駆動される被駆動部材70,71が連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石と電磁コイルとを利用したブラシレスモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
永久磁石と電磁コイルとを利用したブラシレスモータとしては、例えば下記の特許文献1に記載されたブラシレスモータが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−298982号公報
【0004】
従来の電動モータでは、固定子の中で回転子が回転し、回転子と回転軸とを固定することによって、回転子の回転運動を回転軸に伝えていた。そして、歯車等の伝達手段を用いたり、あるいは回転軸に直接車輪等を接続することによって、回転軸の回転運動を車輪等の被駆動部材に伝えていた。しかし、この構成では、回転軸のねじれの発生等により、回転子の回転運動が車輪等の被駆動部材に伝達されるまでに遅延が発生するといった問題や、大きな回転力を伝達するためには回転軸に大きなねじれ強度が必要になるという問題があった。このような問題は、モータに限らず、発電機にも共通する問題であった。また、このような従来の構造のモータでは、1つのモータにおいて直接的に回転させることができるのは、1つの回転軸だけであり、その1つの回転軸に被駆動部材を連結させていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、電動装置が備える1つの軸に、複数のロータを設け、その複数のロータに被駆動部材を連結させることのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するために、以下の形態または適用例を取ることが可能である。
【0007】
[適用例1]
電動装置であって、
電磁コイルと位置センサとを有する複数のステータと、
前記複数のステータに固定された軸部と、
永久磁石を有し、前記軸部の周囲を回転する複数のロータと、
を備え、
前記複数のロータには、前記電動装置で駆動される被駆動部材が連結されている、電動装置。
【0008】
適用例1の電動装置によれば、軸部とステータを固定し、固定されて回転しない軸部の周囲をロータが回転する構造としたので、1つの軸部に複数のロータを設けることができる。そして、その複数のロータには、被駆動部材を連結させることができる。
【0009】
[適用例2]
適用例1記載の電動装置であって、
前記複数のロータには、共通の1つの前記被駆動部材が連結されている、電動装置。
【0010】
適用例2の電動装置によれば、複数のロータに共通の1つの被駆動部材を連結させるので、ロータが1つの場合に比べて、大きなトルクや出力を得ることができる。
【0011】
[適用例3]
適用例1記載の電動装置であって、
前記複数のそれぞれのロータには、それぞれ別の前記被駆動部材が連結されている、電動装置。
【0012】
適用例3の電動装置によれば、複数のロータに、それぞれ別の被駆動部材を連結させるので、複数の被駆動部材をそれぞれ複数のロータで駆動することができる。
【0013】
[適用例4]
適用例3記載の電動装置であって、
前記複数のロータは、前記複数のステータによってそれぞれ独立して駆動される、電動装置。
【0014】
適用例4の電動装置によれば、複数のロータを複数のステータによって独立して駆動させるので、複数の被駆動部材を独立して駆動させることができる。
【0015】
[適用例5]
適用例1または4記載の電動装置であって、
前記被駆動部材は、羽根である、電動装置。
【0016】
適用例5の電動装置によれば、羽根を有する複数のロータの回転方向を任意に独立して制御することができるので、送風効率の良いファンモータを構築することができる。
【0017】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、ブラシレスモータ、ブラシレス発電機、それらの制御方法(又は駆動方法)、それらを用いたアクチュエータ又は発電装置等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施例としての電動装置の構成を示す断面図である。
【図2】上部ロータ部とステータ部の水平断面図である。
【図3】センサ出力とコイルの逆起電力波形との関係を示す説明図である。
【図4】コイルの印加電圧と逆起電力との関係を示す模式図である。
【図5】ブラシレスモータの正転動作の様子を示す説明図である。
【図6】ブラシレスモータの逆転動作の様子を示す説明図である。
【図7】駆動回路ユニットの内部構成を示すブロック図である。
【図8】ドライバ回路に含まれるA相ドライバ回路とB相ドライバ回路の構成を示している。
【図9】駆動制御部の内部構成と動作を示す説明図である。
【図10】センサ出力の波形とPWM部で生成される駆動信号の波形の対応関係を示す説明図である。
【図11】PWM部の内部構成の一例を示すブロック図である。
【図12】モータ正転時のPWM部の動作を示すタイミングチャートである。
【図13】モータ逆転時のPWM部の動作を示すタイミングチャートである。
【図14】励磁区間設定部の内部構成と動作を示す説明図である。
【図15】モータを矩形波で駆動した場合と正弦波で駆動した場合の各種の信号波形を比較して示している。
【図16】ドライバ回路の他の構成例を示している。
【図17】モータの無負荷時の回転数を示している。
【図18】回生制御部と整流回路の内部構成を示す図である。
【図19】第1実施例の電動装置の他の例を示す断面図である。
【図20】第1実施例の電動装置の他の例を示す断面図である。
【図21】第1実施例の電動装置の他の例を示す断面図である。
【図22】第2実施例の電動装置の構成を示す断面図である。
【図23】第3実施例の電動装置の構成を示す断面図である。
【図24】本発明の実施例による電動装置を利用したプロジェクタを示す説明図である。
【図25】本発明の実施例による電動装置を利用した燃料電池式携帯電話を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施の形態を以下の順序で説明する。
A.第1実施例:
A1.第1実施例の電動装置の構成と動作の概要:
A2.駆動回路ユニットの構成:
A3.第1実施例の電動装置の構成の変形例:
B.第2実施例:
C.第3実施例:
D.変形例:
【0020】
A.第1実施例:
A1.第1実施例の電動装置の構成と動作の概要:
図1は、本発明の第1実施例としての電動装置700の構成を示す断面図である。この電動装置700は、軸部64を中心として、3つのブラシレスモータ700A,700B,700Cを備えている。3つのブラシレスモータ700A,700B,700Cの間には、スペーサー58が設けられており、スペーサー58は、3つのブラシレスモータ700A,700B,700Cの軸方向の位置がずれないように固定されている。以下では、ブラシレスモータ700Aの内部構成について説明するが、他のブラシレスモータ700B,700Cの内部構成もブラシレスモータ700Aと同じ構成となっている。
【0021】
ブラシレスモータ700Aは、軸部64を中心として、ステータ部10と、ロータ部30とを備えている。ステータ部10およびロータ部30は、略円盤状の形状を有している。軸部64は、軸固定部64aによって電動装置支持部材1に取り付けられており、軸部64自身が回転しないように固定されている。なお、本実施例において電動装置支持部材1は、車両等の移動体のサスペンションである。ロータ部30は、上部ロータ部30Uと、下部ロータ部30Lと、を備えている。
【0022】
図2(A)は、上部ロータ部30Uの水平断面図である。上部ロータ部30Uは、上部回転ケーシング部31Uと、軸受け部65Uと、それぞれ略扇状の4つの永久磁石32Uとを有しており、軸受け部65Uを介して軸部64を中心として回転運動が可能である。軸受け部65Uとしては、例えば、ボールベアリングを用いて実現することができる。下部ロータ部30Lも、上部ロータ部30Uと同様の構成を有しているので図示を省略する。各永久磁石32U,32Lの磁化方向は、軸部64と平行な方向である。軸部64の端部には、軸端部固定部材64eが取り付けられており(図1)、軸受け部65Uが回転によって外れてしまわない構成となっている。上部回転ケーシング部31Uには、ホイール部70が固定ねじ部50によって固定されている。ホイール部70の外周部には、移動体の車輪として機能する車輪部71が取り付けられている。
【0023】
図2(B)は、ステータ部10の水平断面図である。ステータ部10は、図1に示すように、複数のA相コイル12Aと、複数のB相コイル12Bと、これらのコイル12A,12Bを支持する支持部材14とを有している。図2(B)は、このA相コイル12Aの側を示している。この例では、A相コイル12Aは4つ設けられており、それぞれ略扇状の形状に巻かれている。B相コイル12Bも同じである。ステータ部10には、さらに、駆動回路ユニット500が設置されている。図1に示すように、軸部64の中心部は、中抜きの構造とし、各コイル12に電力を供給するための駆動用電力線278や、駆動回路ユニット500に信号を送るための制御線279等を通すことが好ましい。また、各コイル12からの回生電力(以下に後述する)を回収する場合は、受給用電力線280(以下では、「回生用の電源配線280」とも呼ぶ。)をその中抜き部分に通すことが好ましい。こうすれば、配線の省スペース化を図ることができるからである。
【0024】
以上のような構成のモータとすると、ロータ部30が軸部64を中心として回転して車輪を回転させ、軸部64は固定されて回転しない(図1)。したがって、軸部64にはねじれの力が掛からなくなる。このため、軸部64のねじれ強度を大きくする必要がなくなり、モータを軽量化することができる。そして、軸部64にねじれが発生しないことや、歯車等の伝達手段を用いる必要が無いため、伝達損失がなく、安定した制御と高速な応答速度を実現することができる。これは、正転と逆転の高速な応答速度が求められる姿勢制御等において特に有効である。
【0025】
また、この電動装置700では、軸部64を中心として、3つのブラシレスモータ700A,700B,700Cをそれぞれ連動させて、あるいは独立させて回転させることが可能となる。すなわち、3つのブラシレスモータ700A,700B,700Cを同じ方向に回転させれば、モータが1つの場合と比較して3倍のトルクを得ることが可能となる。また、3つのモータのうちの1つを駆動させ、残りの2つのモータを回生モードとして利用することもできる。さらに、3つのモータをそれぞれ高速回転用、高トルク発生用、電力回生用等のように、異なる用途に特化した特性とし、用途に応じて使用するモータを切り替えることや、あるいは、それぞれ異なる特性のモータを同時に使用することも可能である。
【0026】
モータのメンテナンス時には、軸固定部64aにより、モータを軸部64ごとサスペンション1等の移動体から切り離すことができるため、上下のロータ部30U,30Lを容易に分解することができる。したがって、車輪部71、ホイール部70、軸部64、ステータ部10、ロータ部30等の全体のメンテナンス性が優れている。また、ステータ部10やロータ部30を、他の特性を持つステータ部やロータ部と交換することが容易であるため、移動体の動力特性の変更や向上等を容易に実現することが可能となる。さらに、ホイール部70および車輪部71は、固定ねじ部50によってロータ部30から容易に着脱可能であるため、モータ本体とは分離してホイール部70および車輪部71をメンテナンスすることが可能である。なお、ロータ部30内に生じる熱は、上部回転ケーシング部31Uを放熱構造として利用してモータの外部へ熱伝導させることができるため、本実施例のモータは放熱効果が高いという利点がある。
【0027】
さらに、図1に示すように、上下の回転ケーシング部31U,31Lによって、ステータ部10を完全に覆ってしまえば、外部からの汚れ等に強い密閉構造を容易に実現することができる。したがって、この密閉構造を活かせば、水陸両用の車両の車輪として用いることもできる。また、このモータを粉塵等の影響を受けるファンモータに用いれば、粉塵等がモータの内部に入り込まないため、メンテナンスフリーを実現することが可能となる。なお、ホイール部70および車輪部71は、本発明における「被駆動部材」に相当する。
【0028】
図2(C)は、ステータ部10と上下のロータ部30U,30Lの関係を示す概念図である。ただし、ロータ部30のうち、回転ケーシング部31と軸受け部65は省略している。ステータ部10の支持部材14上には、A相用の磁気センサ40AとB相用の磁気センサ40Bとが設けられている。磁気センサ40A,40Bは、ロータ部30U,30Lの位置(すなわちモータの位相)を検出するためのものである。なお、これらのセンサを以下では「A相センサ」及び「B相センサ」とも呼ぶ。A相センサ40Aは、2つのA相コイル12Aの中間の中央位置に配置されている。B相センサ40Bも、同様に、2つのB相コイル12Bの中間の中央位置に配置されている。この例では、B相センサ40Bが支持部材14の上側の面においてA相コイル12Bとともに配置されているが、この代わりに、支持部材14の下側の面に配置されていても良い。A相センサ40Aも同様である。なお、図2(B)からも理解できるように、この実施例ではB相センサ40BをA相コイル12Aの内部に配置するので、センサ40Bを配置する空間を確保しやすいという利点がある。
【0029】
図2(C)に示すように、磁石32U,32Lは、それぞれ一定の磁極ピッチPmで配置されており、隣接する磁石同士は逆方向に磁化されている。A相コイル12Aは、一定のピッチPcで配置されており、隣接するコイル同士が逆向きに励磁される。B相コイル12Bも同様である。本実施例では、磁極ピッチPmはコイルピッチPcに等しく、電気角でπに相当する。なお、電気角の2πは、駆動信号の位相が2πだけ変化したときに移動する機械的な角度又は距離に対応づけられる。本実施例では、駆動信号の位相が2πだけ変化すると、ロータ部30U,30Lが磁極ピッチPmの2倍だけ移動する。また、A相コイル12Aと、B相コイル12Bは、位相がπ/2だけずれた位置に配置されている。
【0030】
上部ロータ部30Uの磁石32Uと、下部ロータ部30Lの磁石32Lは、ステータ部10に向かう磁極が互いに異なる極性(S極とN極)となるように配置されている。換言すれば、上部ロータ部30Uの磁石32Uと、下部ロータ部30Lの磁石32Lは、互いに反対の極が向き合うように配置されている。この結果、図2(C)の右端に示すように、これらの磁石32U,32Lの間の磁場は、ほぼ直線状の磁力線で表されるものとなり、これらの磁石32U,32Lの間で閉じたものとなる。このような閉じた磁場は、開放された磁場に比べて強いことが理解できる。この結果、磁場の利用効率が高まり、モータ効率を向上させることが可能である。なお、磁石32U,32Lの外側の面には、強磁性体製の磁気ヨーク34U,34Lがそれぞれ設けられていることが好ましい。磁気ヨーク34U,34Lは、コイルにおける磁場をより強めることが可能である。但し、磁気ヨーク34U,34Lは省略してもよい。
【0031】
なお、コイル12A,12Bと、磁気センサ40A,40Bと、駆動回路ユニット500のうち、いずれかまたは全てを、樹脂により覆うことが好ましい。こうすれば、それらの腐食を抑制することができるからである。また、コイル12A,12B等を覆う樹脂を軸部64に接触させれば、コイル12A,12B等から発生する熱を樹脂によって軸部64に伝え、軸部64をヒートシンクとして利用することによりコイル12A,12B等を冷却することが可能となる。
【0032】
図3は、センサ出力とコイルの逆起電力波形との関係を示す説明図である。図3(A)は、図1(D)と同じものである。図3(B)は、A相コイル12Aに発生する逆起電力の波形の例を示しており、図3(C),(D)は、A相センサ40AとB相センサ40Bのセンサ出力SSA,SSBの波形の例を示している。これらのセンサ40A,40Bは、モータ運転時のコイルの逆起電力とほぼ相似形状のセンサ出力SSA,SSBを発生することができる。図3(B)に示すコイル12Aの逆起電力は、モータの回転数とともに上昇する傾向にあるが、波形形状(正弦波)はほぼ相似形状に保たれる。センサ40A,40Bとしては、例えばホール効果を利用したホールICを採用することができる。この例では、センサ出力SSAと逆起電力Ecは、いずれも正弦波か、正弦波に近い波形である。後述するように、このモータの駆動制御回路は、センサ出力SSA,SSBを利用して、逆起電力Ecとほぼ相似波形の電圧をそれぞれのコイル12A,12Bに印加する。
【0033】
ところで、電動モータは、機械的エネルギと電気的エネルギとを相互に変換するエネルギ変換装置として機能するものである。そして、コイルの逆起電力は、電動モータの機械的エネルギが電気的エネルギに変換されたものである。従って、コイルに印加する電気的エネルギを機械的エネルギに変換する場合(すなわちモータを駆動する場合)には、逆起電力と相似波形の電圧を印加することによって、最も効率良くモータを駆動することが可能である。なお、以下に説明するように、「逆起電力と相似波形の電圧」は、逆起電力と逆向きの電流を発生する電圧を意味している。
【0034】
図4(A)は、コイルの印加電圧と逆起電力との関係を示す模式図である。ここで、コイルは交流の逆起電力Ecと抵抗Rcとで模擬されている。また、この回路では、交流印加電圧Ei及びコイルと並列に電圧計Vが接続されている。なお、逆起電力Ecを「誘起電圧Ec」とも呼び、また、印加電圧Eiを「励磁電圧Ei」とも呼ぶ。コイルに交流電圧Eiを印加してモータを駆動すると、印加電圧Eiと逆の電流を流す方向に逆起電力Ecが発生する。モータが回転している状態でスイッチSWを開放すると、電圧計Vで逆起電力Ecを測定することができる。スイッチSWを開放した状態で測定される逆起電力Ecの極性は、スイッチSWを閉じた状態で測定される印加電圧Eiと同じ極性である。上述の説明において「逆起電力とほぼ相似波形の電圧を印加する」という文言は、このような電圧計Vで測定された逆起電力Ecと同じ極性を有するほぼ相似形状の波形を有する電圧を印加することを意味している。
【0035】
図4(B)は、本実施例で採用している駆動方法の概要を示している。ここでは、モータを、A相コイル12Aと、永久磁石32Uと、A相センサ40Aとで模擬している。永久磁石32Uを有するロータ部30が回転すると、センサ40Aに交流電圧Es(「センサ電圧Es」とも呼ぶ)が発生する。このセンサ電圧Esは、コイル12Aの誘起電圧Ecと相似な波形形状を有している。そこで、センサ電圧Esの模擬したPWM信号を生成してスイッチSWをオン/オフ制御することによって、誘起電圧Ecとほぼ相似波形の励磁電圧Eiをコイル12Aに印加することが可能となる。この時の励磁電流Iiは、Ii=(Ei−Ec)/Rcで与えられる。
【0036】
上述したように、モータを駆動する場合には、逆起電力と相似波形の電圧を印加することによって、最も効率良くモータを駆動することが可能である。なお、正弦波状の逆起電力波形の中位点近傍(電圧0の近傍)ではエネルギ変換効率が比較的低く、反対に、逆起電力波形のピーク近傍ではエネルギ変換効率が比較的高いことが理解できる。逆起電力と相似波形の電圧を印加してモータを駆動すると、エネルギ変換効率の高い期間において比較的高い電圧を印加することになるので、モータ効率が向上する。一方、例えば単純な矩形波でモータを駆動すると、逆起電力がほぼ0となる位置(中位点)の近傍においてもかなりの電圧が印加されるので、モータ効率が低下する。また、このようにエネルギ変換効率の低い期間において電圧を印加すると、渦電流により回転方向以外の方向の振動が生じ、これによって騒音が発生するという問題も生じる。
【0037】
上述の説明から理解できるように、逆起電力と相似波形の電圧を印加してモータを駆動すると、モータ効率を向上させることができ、また、振動や騒音を低減することができるという利点がある。
【0038】
図5(A)〜(D)は、本実施例のブラシレスモータの正転動作の様子を示す説明図である。図5(A)は、位相が0の直前における状態を示している。A相コイル12AとB相コイル12Bの位置に記載されている「N」,「S」の文字は、これらのコイル12A,12Bの励磁方向を示している。コイル12A,12Bが励磁されると、コイル12A,12Bと磁石32U,32Lとの間に吸引力と反発力が生じる。この結果、ロータ部30U,30Lは、正転方向(図の右方向)に回転する。なお、位相が0となるタイミングで、A相コイル12Aの励磁方向が反転する(図3参照)。図5(B)は、位相がπ/2の直前まで進んだ状態を示している。位相がπ/2となるタイミングでは、B相コイル12Bの励磁方向が反転する。図5(C)は、位相がπの直前まで進んだ状態を示している。位相がπとなるタイミングでは、A相コイル12Aの励磁方向が再び逆転する。図5(D)は、位相が3π/2の直前まで進んだ状態を示している。位相が3π/2となるタイミングでは、B相コイル12Bの励磁方向が再び逆転する。
【0039】
なお、図3(C)、(D)からも理解できるように、位相がπ/2の整数倍となるタイミングでは、センサ出力SSA,SSBがゼロとなるので、2相のコイル12A,12Bのうちの一方のみから駆動力を発生する。しかし、位相がπ/2の整数倍となるタイミングを除く他のすべての期間において、2相のコイル12A,12Bの両方が同時に駆動力を発生することが可能である。従って、2相のコイル12A,12Bの両方を用いて大きなトルクを発生することができる。
【0040】
ところで、図5(A)から理解できるように、A相センサ40Aは、A相コイル12Aの中心が永久磁石32Uの中心と対向する位置においてそのセンサ出力の極性が切り替わる位置に配置されている。同様に、B相センサ40Bは、B相コイル12Bの中心が永久磁石32Lの中心と対向する位置においてそのセンサ出力の極性が切り替わる位置に配置されている。このような位置にセンサ40A,40Bを配置すれば、センサ40A,40Bから、コイルの逆起電力とほぼ相似形状のセンサ出力SSA,SSB(図3)を発生することが可能である。
【0041】
図6(A)〜(D)は、本実施例のブラシレスモータの逆転動作の様子を示す説明図である。図6(A)〜(D)は、位相が0,π/2,π,3π/2の直前となる状態をそれぞれ示している。この逆転動作は、例えば、コイル12A,12Bの駆動電圧の極性(すなわち正負)を、正転動作の駆動電圧からそれぞれ反転させることによって実現することができる。
【0042】
A2.駆動回路ユニットの構成:
図7は、実施例における駆動回路ユニットの内部構成を示すブロック図である。この駆動回路ユニット500は、CPU110と、駆動制御部100と、回生制御部200と、ドライバ回路150と、整流回路250と、電源ユニット300とを備えている。2つの制御部100,200は、バス102を介してCPU110と接続されている。駆動制御部100とドライバ回路150は、電動モータに駆動力を発生させる場合の制御を行う回路である。また、回生制御部200と整流回路250は、電動モータから電力を回生する場合の制御を行う回路である。回生制御部200と整流回路250とをまとめて「回生回路」とも呼ぶ。また、駆動制御部100を「駆動信号生成回路」とも呼ぶ。電源ユニット300は、駆動回路ユニット500内の他の回路に各種の電源電圧を供給するための回路である。図7では、図示の便宜上、電源ユニット300から駆動制御部100及びドライバ回路150に向かう電源配線のみが描かれており、他の回路に向かう電源配線は省略されている。
【0043】
図8は、ドライバ回路150(図7)に含まれるA相ドライバ回路120AとB相ドライバ回路120Bの構成を示している。A相ドライバ回路120Aは、A相コイル12Aに、交流駆動信号DRVA1,DRVA2を供給するためのH型ブリッジ回路である。なお、駆動信号を示すブロックの端子部分に付されている白丸は、負論理であり信号が反転していることを示している。また、符号IA1,IA2が付された矢印は、A1駆動信号DRVA1とA2駆動信号DRVA2によって流れる電流方向をそれぞれ示している。B相ドライバ回路120Bの構成もA相ドライバ回路120Aの構成と同じである。なお、信号を反転させる負論理をなくし、H側のPチャネルMOS−FETを、L側と同様のNチャネルMOS−FETに変更すれば、周波数特性に優れた駆動を実現することもできる。
【0044】
図9は、駆動制御部100(図7)の内部構成と動作を示す説明図である。駆動制御部100は、基本クロック生成回路510と、1/N分周器520と、PWM部530と、正逆方向指示値レジスタ540と、乗算器550と、符号化部560と、AD変換部570と、電圧指令値レジスタ580と、励磁区間設定部590とを備えている。なお、駆動制御部100は、A相用の駆動信号とB相用の駆動信号の両方を生成する回路であり、基本クロック生成回路510と、分周器520と、正逆方向指示値レジスタ540は、A相とB相とで共通で用いられている。A相用とB相用とでそれぞれに存在するその他の構成要素は、図9(A)では図示の便宜上、A相用の回路構成のみとして描かれているが、B相用についても、A相用と同じ構成要素が駆動制御部100内に設けられている。
【0045】
基本クロック生成回路510は、所定の周波数を有するクロック信号PCLを発生する回路であり、例えばPLL回路で構成される。分周器520は、このクロック信号PCLの1/Nの周波数を有するクロック信号SDCを発生する。Nの値は所定の一定値に設定される。このNの値は、予めCPU110によって分周器520に設定される。PWM部530は、クロック信号PCL,SDCと、乗算器550から供給される乗算値Maと、正逆方向指示値レジスタ540から供給される正逆方向指示値RIと、符号化部560から供給される正負符号信号Paと、励磁区間設定部590から供給される励磁区間信号Eaとに応じて、交流駆動信号DRVA1,DRVA2(図8)を生成する。この動作については後述する。
【0046】
正逆方向指示値レジスタ540内には、モータの回転方向を示す値RIがCPU110によって設定される。本実施例では、正逆方向指示値RIがLレベルのときにモータが正転し、Hレベルのときに逆転する。PWM部530に供給される他の信号Ma,Pa,Eaは以下のように決定される。
【0047】
磁気センサ40Aの出力SSAは、AD変換部570に供給される。このセンサ出力SSAのレンジは、例えばGND(接地電位)からVDD(電源電圧)までであり、その中位点(=VDD/2)が出力波形の中位点(正弦波の原点を通る点)である。AD変換部570は、このセンサ出力SSAをAD変換して、センサ出力のデジタル値を生成する。AD変換部570の出力のレンジは、例えばFFh〜0h(語尾の"h"は16進数であることを示す)であり、中央値80hがセンサ波形の中位点に相当する。
【0048】
符号化部560は、AD変換後のセンサ出力値のレンジを変換するとともに、センサ出力値の中位点の値を0に設定する。この結果、符号化部560で生成されるセンサ出力値Xaは、正側の所定の範囲(例えば+127〜0)と負側の所定の範囲(例えば0〜−127)の値を取る。但し、符号化部560から乗算器550に供給されるのは、センサ出力値Xaの絶対値であり、その正負符号は正負符号信号PaとしてPWM部530に供給される。
【0049】
電圧指令値レジスタ580は、CPU110によって設定された電圧指令値Yaを格納する。この電圧指令値Yaは、後述する励磁区間信号Eaとともに、モータの印加電圧を設定する値として機能するものであり、例えば0〜1.0の値を取る。仮に、非励磁区間を設けずに全区間を励磁区間とするように励磁区間信号Eaを設定した場合には、Ya=0は印加電圧をゼロとすることを意味し、Ya=1.0は印加電圧を最大値とすることを意味する。乗算器550は、符号化部560から出力されたセンサ出力値Xaと、電圧指令値Yaとを乗算して整数化し、その乗算値MaをPWM部530に供給する。
【0050】
図9(B)〜(E)は、乗算値Maが種々の値を取る場合におけるPWM部530の動作を示している。ここでは、全期間が励磁区間であり非励磁区間が無いものと仮定している。PWM部530は、クロック信号SDCの1周期の間に、デューティがMa/Nであるパルスを1つ発生させる回路である。すなわち、図9(B)〜(E)に示すように、乗算値Maが増加するに従って、駆動信号DRVA1,DRVA2のパルスのデューティが増加する。なお、第1の駆動信号DRVA1は、センサ出力SSAが正のときにのみパルスを発生する信号であり、第2の駆動信号DRVA2はセンサ出力SSAが負のときにのみパルスを発生する信号であるが、図9(B)〜(E)ではこれらを合わせて記載している。また、便宜上、第2の駆動信号DRVA2を負側のパルスとして描いている。
【0051】
図10(A)〜(C)は、センサ出力の波形とPWM部530で生成される駆動信号の波形の対応関係を示す説明図である。図中、「Hiz」は電磁コイルを未励磁状態としたハイインピーダンス状態を意味している。図9で説明したように、駆動信号DRVA1,DRVA2はセンサ出力SSAのアナログ波形をそのまま利用したPWM制御によって生成される。従って、これらの駆動信号DRVA1,DRVA2を用いて、各コイルに、センサ出力SSAの変化と対応するレベル変化を示す実効電圧を供給することが可能である。
【0052】
PWM部530は、さらに、励磁区間設定部590から供給される励磁区間信号Eaで示される励磁区間のみに駆動信号を出力し、励磁区間以外の区間(非励磁区間)では駆動信号を出力しないように構成されている。図10(C)は、励磁区間信号Eaによって励磁区間EPと非励磁区間NEPを設定した場合の駆動信号波形を示している。励磁区間EPでは図10(B)の駆動信号パルスがそのまま発生し、非励磁区間NEPでは駆動信号パルスが発生しない。このように、励磁区間EPと非励磁区間NEPを設定するようにすれば、逆起電力波形の中位点近傍(すなわち、センサ出力の中位点近傍)においてコイルに電圧を印加しないので、モータの効率をさらに向上させることが可能である。なお、励磁区間EPは、逆起電力波形のピークを中心とする対称な区間に設定されることが好ましく、非励磁区間NEPは、逆起電力波形の中位点(中心点)を中心とする対称な区間に設定されることが好ましい。
【0053】
なお、前述したように、電圧指令値Yaを1未満の値に設定すれば、乗算値Maが電圧指令値Yaに比例して小さくなる。従って、電圧指令値Yaによっても、実効的な印加電圧を調整することが可能である。
【0054】
上述の説明から理解できるように、本実施例のモータでは、電圧指令値Yaと、励磁区間信号Eaとの両方を利用して印加電圧を調整することが可能である。望ましい印加電圧と、電圧指令値Ya及び励磁区間信号Eaとの関係は、予め駆動回路ユニット500(図7)内のメモリにテーブルとして格納されていることが望ましい。こうすれば、駆動回路ユニット500が、外部から望ましい印加電圧の目標値を受信したときに、CPU110がその目標値に応じて、電圧指令値Yaと、励磁区間信号Eaとを駆動制御部100に設定することが可能である。なお、印加電圧の調整には、電圧指令値Yaと、励磁区間信号Eaの両方を利用する必要はなく、いずれか一方のみを利用するようにしてもよい。
【0055】
図11は、PWM部530(図9)の内部構成の一例を示すブロック図である。PWM部530は、カウンタ531と、EXOR回路533と、駆動波形形成部535とを備えている。これらは以下のように動作する。
【0056】
図12は、モータ正転時のPWM部530の動作を示すタイミングチャートである。この図には、2つのクロック信号PCL,SDCと、正逆方向指示値RIと、励磁区間信号Eaと、乗算値Maと、正負符号信号Paと、カウンタ531内のカウント値CM1と、カウンタ531の出力S1と、EXOR回路533の出力S2と、駆動波形形成部535の出力信号DRVA1,DRVA2とが示されている。カウンタ531は、クロック信号SDCの1期間毎に、クロック信号PCLに同期してカウント値CM1を0までダウンカウントする動作を繰り返す。カウント値CM1の初期値は乗算値Maに設定される。なお、図12では、図示の便宜上、乗算値Maとして負の値も描かれているが、カウンタ531で使用されるのはその絶対値|Ma|である。カウンタ531の出力S1は、カウント値CM1が0で無い場合にはHレベルに設定され、カウント値CM1が0になるとLレベルに立ち下がる。
【0057】
EXOR回路533は、正負符号信号Paと正逆方向指示値RIとの排他的論理和を示す信号S2を出力する。モータが正転する場合には、正逆方向指示値RIがLレベルである。従って、EXOR回路533の出力S2は、正負符号信号Paと同じ信号となる。駆動波形形成部535は、カウンタ531の出力S1と、EXOR回路533の出力S2から、駆動信号DRVA1,DRVA2を生成する。すなわち、カウンタ531の出力S1のうち、EXOR回路533の出力S2がLレベルの期間の信号を第1の駆動信号DRVA1として出力し、出力S2がHレベルの期間の信号を第2の駆動信号DRVA2として出力する。なお、図12の右端部付近では、励磁区間信号EaがLレベルに立ち下がり、これによって非励磁区間NEPが設定されている。従って、この非励磁区間NEPでは、いずれの駆動信号DRVA1,DRVA2も出力されず、ハイインピーダンス状態に維持される。
【0058】
図13は、モータ逆転時のPWM部530の動作を示すタイミングチャートである。モータ逆転時には、正逆方向指示値RIがHレベルに設定される。この結果、2つの駆動信号DRVA1,DRVA2が図12から入れ替わっており、この結果、モータが逆転することが理解できる。
【0059】
図14は、励磁区間設定部590の内部構成と動作を示す説明図である。励磁区間設定部590は、電子可変抵抗器592と、電圧比較器594,596と、OR回路598とを有している。電子可変抵抗器592の抵抗値Rvは、CPU110によって設定される。電子可変抵抗器592の両端の電圧V1,V2は、電圧比較器594,596の一方の入力端子に与えられている。電圧比較器594,596の他方の入力端子には、センサ出力SSAが供給されている。電圧比較器594,596の出力信号Sp,Snは、OR回路598に入力されている。OR回路598の出力は、励磁区間と非励磁区間とを区別するための励磁区間信号Eaである。
【0060】
図14(B)は、励磁区間設定部590の動作を示している。電子可変抵抗器592の両端電圧V1,V2は、抵抗値Rvを調整することによって変更される。具体的には、両端電圧V1,V2は、電圧レンジの中央値(=VDD/2)からの差分が等しい値に設定される。センサ出力SSAが第1の電圧V1よりも高い場合には第1の電圧比較器594の出力SpがHレベルとなり、一方、センサ出力SSAが第2の電圧V2よりも低い場合には第2の電圧比較器596の出力SnがHレベルとなる。励磁区間信号Eaは、これらの出力信号Sp,Snの論理和を取った信号である。従って、図14(B)の下部に示すように、励磁区間信号Eaは、励磁区間EPと非励磁区間NEPとを示す信号として使用することができる。励磁区間EPと非励磁区間NEPの設定は、CPU110が可変抵抗値Rvを調整することによって行なわれる。
【0061】
図15は、上述した本実施例のモータを矩形波で駆動した場合と、正弦波(説明のため、逆起電力波形を正弦波とも呼ぶ)で駆動した場合の各種の信号波形を比較して示している。矩形波駆動の場合には、矩形波の駆動電圧がコイルに与えられる。駆動電流は、始動時には矩形波に近いが、回転速度が上昇すると減少する。これは、回転速度の上昇に応じて逆起電力が増加するからである(図3)。但し、矩形波駆動では、回転速度が上昇しても、駆動電圧が切り替わるタイミング(位相=nπ)の近傍における電流値はあまり減少せず、かなり大きな電流が流れる傾向にある。
【0062】
一方、正弦波で駆動する場合には、駆動電圧の実効値が正弦波形状となるように駆動電圧がPWM制御される。駆動電流は、始動時には正弦波に近いが、回転速度が上昇すると逆起電力の影響で駆動電流が減少する。正弦波駆動では、駆動電圧の極性が切り替わるタイミング(位相=nπ)の近傍において電流値が大幅に減少している。図3に即して説明したように、一般に、駆動電圧の極性が切り替わるタイミングの近傍では、モータのエネルギ変換効率が低い。正弦波駆動では、効率の低い期間における電流値が、矩形波駆動よりも小さくなるので、より高効率でモータを駆動することが可能である。
【0063】
図16は、ドライバ回路150(図7)に含まれるA相ドライバ回路120AとB相ドライバ回路120Bの他の構成例を示している。このドライバ回路120A,120Bは、図8に示したドライバ回路120A,120Bを構成するトランジスタのゲート電極の前に、増幅回路122を設けたものである。なお、トランジスタのタイプも図8とは異なっているが、各トランジスタとしては任意のタイプのものを使用することができる。本実施例のモータを、トルクと回転数に関して広い動作範囲で駆動させるためには、ドライバ回路120A,120Bの電源電圧VDDを可変に設定できることが好ましい。電源電圧VDDを変更した場合には、各トランジスタのゲート電圧に与える駆動信号DRVA1,DRVA2,DRVB1,DRVB2のレベルもこれに比例して変更される。こうすれば、広い範囲の電源電圧VDDを用いてモータを駆動することができる。増幅回路122は、駆動信号DRVA1,DRVA2,DRVB1,DRVB2のレベルを変更するための回路である。なお、図7に示した駆動回路ユニット500の電源ユニット300は、可変の電源電圧VDDをドライバ回路150に供給するものとすることが好ましい。
【0064】
図17は、本実施例のモータの無負荷時の回転数を示している。このグラフから理解できるように、本実施例のモータは無負荷時に極く低回転数まで極めて安定した回転数で回転する。この理由は、磁性体のコアが無いのでコギングが発生しないからである。
【0065】
図18は、図7に示した回生制御部200と整流回路250の内部構成を示す図である。回生制御部200は、バス102に接続されたA相充電切換部202と、B相充電切換部204と、電子可変抵抗器206とを有している。2つの充電切換部202,204の出力信号は、2つのAND回路211,212の入力端子に与えられている。
【0066】
A相充電切換部202は、A相コイル12Aからの回生電力を回収する場合には「1」レベルの信号を出力し、回収しない場合には「0」レベルの信号を出力する。B相充電切換部204も同様である。なお、これらの信号レベルの切換えは、CPU110によって行われる。また、A相コイル12Aからの回生の有無と、B相コイル12Bからの回生の有無とは、独立に設定することができる。従って、例えばA相コイル12Aを用いてモータに駆動力を発生させつつ、B相コイル12Bから電力を回生することも可能である。
【0067】
なお、図7に示した駆動制御部100も、同様に、A相コイル12Aを用いて駆動力を発生するか否かと、B相コイル12Bを用いて駆動力を発生するか否かとを、独立に設定できるように構成してもよい。このようにすれば、2相のコイル12A,12Bのうちの任意の一方で駆動力を発生させつつ、他方で電力を回生する運転モードでモータを運転することが可能である。
【0068】
電子可変抵抗器206の両端の電圧は、4つの電圧比較器221〜224の2つの入力端子の一方に与えられている。電圧比較器221〜224の他方の入力端子には、A相センサ信号SSAとB相センサ信号SSBが供給されている。4つの電圧比較器221〜224の出力信号TPA,BTA,TPB,BTBは、「マスク信号」または「許可信号」と呼ぶことができる。
【0069】
A相コイル用のマスク信号TPA,BTAはOR回路231に入力されており、B相用のマスク信号TPB,BTBは他のOR回路232に入力されている。これらのOR回路231,232の出力は、上述した2つのAND回路211,212の入力端子に与えられている。これらのAND回路211,212の出力信号MSKA,MSKBも、「マスク信号」または「許可信号」と呼ぶ。
【0070】
ところで、4つの電圧比較器221〜224とOR回路231,232の構成は、図14に示した励磁区間設定部590内の電圧比較器594,596とOR回路598を2つ並べたものと同じである。従って、A相コイル用のOR回路231の出力信号は、図14(B)に示した励磁区間信号Eaと同様な波形を有する。また、A相充電切換部202の出力信号が「1」レベルの場合には、A相コイル用のAND回路211から出力されるマスク信号MSKAはOR回路231の出力信号と同じものとなる。これらの動作はB相についても同様である。
【0071】
整流回路250は、A相コイル用の回路として、複数のダイオードを含む全波整流回路252と、2つのゲートトランジスタ261,262と、バッファ回路271と、インバータ回路272(NOT回路)とを有している。なお、B相用にも同じ回路が設けられている。ゲートトランジスタ261,262は、回生用の電源配線280に接続されている。また、複数のダイオードとしては、低Vf特性に優れたショットキーダイオードを用いることが好ましい。
【0072】
電力回生時にA相コイル12Aで発生した交流電力は、全波整流回路252で整流される。ゲートトランジスタ261,262のゲートには、A相コイル用のマスク信号MSKAとその反転信号が与えられており、これに応じてゲートトランジスタ261,262がオン/オフ制御される。従って、電圧比較器221,222から出力されたマスク信号TPA,BTAの少なくとも一方がHレベルの期間では回生電力が電源配線280に出力され、一方、マスク信号TPA,BTAの双方がLレベルの期間では電力の回生が禁止される。
【0073】
以上の説明から理解できるように、回生制御部200と整流回路250を用いて、回生電力を回収することが可能である。また、回生制御部200と整流回路250は、A相コイル用のマスク信号MSKA及びB相コイル用のマスク信号MSKBに応じて、A相コイル12AとB相コイル12Bからの回生電力を回収する期間を制限し、これによって回生電力の量を調整することが可能である。
【0074】
このように、第1実施例の電動装置700では、軸部64はステータ部10に固定され、ロータ部30が軸部64を中心として回転し、車輪部71等の被駆動部材がロータ部30に連結されているので、モータの中心軸を回転させることなく、被駆動部材を回転させることが可能である。さらに、この電動装置700の構造では、軸部64を中心として、異なる又は同一の特性を有する3つのブラシレスモータ700A,700B,700Cを設けることが可能となる。
【0075】
A3.第1実施例の電動装置の構成の変形例:
図19及び図20は、第1実施例の電動装置700の他の例を示す断面図である。上記第1実施例では、モータの外周部に車輪部71を取り付けていたが、この代わりに、歯車71bを取り付け、ブラシレスモータ700A,700B,700Cを歯車の一部として用いることも可能である(図19)。また、歯車71bの代わりにプーリー71cを取り付けることも可能である(図20)。
【0076】
このように、電動装置700が備えるブラシレスモータ700A,700B,700Cはそれぞれ独立して制御し、駆動させることができるため、この電動装置700を歯車やプーリーに適用すれば、独立して駆動させる歯車等の省スペース化を図ることが可能となる。
【0077】
図21は、第1実施例の電動装置700の他の例を示す断面図である。上記第1実施例では、ブラシレスモータ700A,700B,700Cのそれぞれの外周部に、それぞれ車輪部71を取り付けていたが、この代わりに、3つのブラシレスモータ700A,700B,700Cの外周部に、1つの大きな車輪部72を取り付けることもできる。3つのブラシレスモータ700A,700B,700Cを用いて、車輪部72を同じ回転方向、同じ回転速度で回転させたい場合には、このような構成としても、モータが1つの場合と比較して高トルク又は高出力を得ることが可能となる。
【0078】
B.第2実施例:
図22は、第2実施例の電動装置750の構成を示す断面図である。図1に示した第1実施例との違いは、永久磁石32がコイル12の外周側に配置されている点と、モータが3つから2つになっている点と、車輪部71の代わりに、羽根71dを取り付けて、ファンモータとしている点だけであり、他の構成は第1実施例と同じである。このように、永久磁石32とコイル12の配置を、アウターロータ型のモータと同様の配置としても、モータの中心軸を回転させることなく、被駆動部材を回転させることが可能である。さらに、第1のブラシレスモータ750Aと、第2のブラシレスモータ750Bの回転方向を互いに逆向きに設定すれば、ファンモータの送風効率を高くすることが可能となる。
【0079】
なお、図22ではファンモータとして記載したが、この電動装置750を二重反転ロータとして用いれば、複雑な軸部の機構を用いることなく、二重反転型のヘリコプターを容易に実現することができる。二重反転ロータの他にも、この電動装置750を二重反転プロペラや二重反転スクリューに適用すれば、航空機や船舶の動力源としても適用することができる。また、この電動装置750は、二重反転型に限られず、三重反転以上にも適用することができ、安定した揚力や推進力を容易に得ることができる。
【0080】
C.第3実施例:
図23は、第3実施例の電動装置800の構成を示す断面図である。なお、この図23では磁気センサと、駆動回路ユニットと、電力線等は省略している。この電動装置800は、軸部830に固定されたステータ部804,808と、軸部830を中心として回転するロータ部802,806とを備えている。ステータ部804,808およびロータ部802,806は、略円盤状の形状を有している。ロータ部802,806は、それぞれ羽根832,834を有しており、軸受け部824,822を介して回転することが可能である。軸部830は、軸固定部828によって電動装置支持部材826に取り付けられており、軸部830自身が回転しないように固定されている。また、軸部830の上端部には、密閉キャップ836が取り付けられている。
【0081】
ロータ部802は、永久磁石810を備えており、ステータ部804が備える電磁コイル812によって、軸部830を中心として回転することができる。一方、ロータ部806は、永久磁石816,818を備えており、ステータ部804,808が備える電磁コイル814,820によって、軸部830を中心として回転することができる。
【0082】
以上のような構成の電動装置とすれば、ロータ部802とロータ部806とを独立して駆動させることが可能となる。したがって、ロータ部802と、ロータ部806とを互いに逆方向に回転させれば、効率の良い加圧機としてこの電動装置800を用いることができる。
【0083】
D.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0084】
D1.変形例1:
上記第1、第2実施例の電動装置700,750では、軸部64に対して2つまたは3つのブラシレスモータを備えていたが、電動装置が備えるブラシレスモータの数は2つや3つに限られず、任意の数とすることが可能である。
【0085】
D2.変形例2:
上記第1実施例では、ホイール部70に車輪部71や歯車71b等を取り付けていたが、この代わりに、ロータ部30に直接、車輪部71や歯車71b等を取り付けることとしてもよい。
【0086】
D3.変形例3:
上記第3実施例の電動装置800では、ロータ部802,806に羽根832,834を取り付けていたが、この代わりに、任意の種類の被駆動部材を取り付けることが可能である。例えば、切削用の切削刃をロータ部802,806に取り付ければ、切削機としてもこの電動装置800を用いることが可能となる。また、ロータ部の数は2つに限られず、3以上の任意の数とすることも可能である。
【0087】
D4.変形例4:
本発明は、ファンモータ、時計(針駆動)、ドラム式洗濯機(単一回転)、ジェットコースタ、鉄道車両、振動モータなどの種々の装置のモータに適用可能である。本発明をファンモータに適用した場合には、上述した種々の効果(低消費電力、低振動、低騒音、低回転ムラ、低発熱、高寿命)が特に顕著である。このようなファンモータは、例えば、デジタル表示装置や、車載機器、燃料電池式パソコン、燃料電池式デジタルカメラ、燃料電池式ビデオカメラ、燃料電池式携帯電話などの燃料電池使用機器、プロジェクタ等の各種装置のファンモータとして使用することができる。本発明の電動装置は、さらに、各種の家電機器や電子機器のモータとしても利用可能である。例えば、光記憶装置や、磁気記憶装置、ポリゴンミラー駆動装置等において、本発明による電動装置をスピンドルモータとして使用することが可能である。
【0088】
図24は、本発明の実施例による電動装置を利用したプロジェクタを示す説明図である。このプロジェクタ900は、赤、緑、青の3色の色光を発光する3つの光源910R、910G、910Bと、これらの3色の色光をそれぞれ変調する3つの液晶ライトバルブ940R、940G、940Bと、変調された3色の色光を合成するクロスダイクロイックプリズム950と、合成された3色の色光をスクリーンSCに投写する投写レンズ系960と、プロジェクタ内部を冷却するための冷却ファン970と、プロジェクタ900の全体を制御する制御部980と、を備えている。冷却ファン970を駆動するモータとしては、上述した各種の電動装置を利用することができる。
【0089】
図25(A)〜(C)は、本発明の実施例による電動装置を利用した燃料電池式携帯電話を示す説明図である。図25(A)は携帯電話1000の外観を示しており、図25(B)は、内部構成の例を示している。携帯電話1000は、携帯電話1000の動作を制御するMPU1010と、ファン1020と、燃料電池1030とを備えている。燃料電池1030は、MPU1010やファン1020に電源を供給する。ファン1020は、燃料電池1030への空気供給のために携帯電話1000の外から内部へ送風するため、或いは、燃料電池1030で生成される水分を携帯電話1000の内部から外に排出するためのものである。なお、ファン1020を図25(C)のようにMPU1010の上に配置して、MPU1010を冷却するようにしてもよい。ファン1020を駆動するモータとしては、上述した各種の電動装置を利用することができる。
【符号の説明】
【0090】
1…電動装置支持部材
10…ステータ部
12A,12B…電磁コイル
14…支持部材
30…ロータ部
30U…上部ロータ部
30L…下部ロータ部
31U…上部回転ケーシング部
31L…下部回転ケーシング部
32…永久磁石
32L…永久磁石
32U…永久磁石
34U,34L…磁気ヨーク
40A,40B…磁気センサ
50…固定ねじ部
64…軸部(中心軸)
64a…軸固定部
64e…軸端部固定部材
65U,65L…軸受け部
70…ホイール部
70c…密閉キャップ
71…車輪部
71b…歯車
71c…プーリー
71d…羽根
72…車輪部
100…駆動制御部
102…バス
110…CPU
120A,120B…ドライバ回路
122…増幅回路
150…ドライバ回路
200…回生制御部
202,204…充電切換部
206…電子可変抵抗器
211,212…AND回路
221〜224…電圧比較器
231,232…OR回路
250…整流回路
252…全波整流回路
261,262…ゲートトランジスタ
271…バッファ回路
272…インバータ回路
278…駆動用電力線
279…制御線
280…電源配線
500…駆動回路ユニット
510…基本クロック生成回路
520…分周器
530…PWM部
531…カウンタ
533…EXOR回路
535…駆動波形形成部
540…レジスタ
550…乗算器
560…符号化部
570…AD変換部
580…指令値レジスタ
590…励磁区間設定部
592…電子可変抵抗器
594,596…電圧比較器
598…OR回路
700…電動装置
700A,700B,700C…ブラシレスモータ
750…電動装置
750A,750B…ブラシレスモータ
800…電動装置
802…ロータ部
804…ステータ部
806…ロータ部
810…永久磁石
812…電磁コイル
814…電磁コイル
816…永久磁石
824…軸受け部
826…電動装置支持部材
828…軸固定部
830…軸部
832…羽根
836…密閉キャップ
900…プロジェクタ
910R,910G,910B…光源
940R,940G,940B…液晶ライトバルブ
950…クロスダイクロイックプリズム
960…投写レンズ系
970…冷却ファン
980…制御部
1000…携帯電話
1010…MPU
1020…ファン
1030…燃料電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動装置であって、
電磁コイルと位置センサとを有する複数のステータと、
前記複数のステータに固定された軸部と、
永久磁石を有し、前記軸部の周囲を回転する複数のロータと、
を備え、
前記複数のロータには、前記電動装置で駆動される被駆動部材が連結されている、電動装置。
【請求項2】
請求項1記載の電動装置であって、
前記複数のロータには、共通の1つの前記被駆動部材が連結されている、電動装置。
【請求項3】
請求項1記載の電動装置であって、
前記複数のそれぞれのロータには、それぞれ別の前記被駆動部材が連結されている、電動装置。
【請求項4】
請求項3記載の電動装置であって、
前記複数のロータは、前記複数のステータによってそれぞれ独立して駆動される、電動装置。
【請求項5】
請求項1または4記載の電動装置であって、
前記被駆動部材は、羽根である、電動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2013−17389(P2013−17389A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−191222(P2012−191222)
【出願日】平成24年8月31日(2012.8.31)
【分割の表示】特願2007−269314(P2007−269314)の分割
【原出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】