説明

電動過給機の回転軸支持構造

【課題】軸受の外側にオーバーハングさせて電動機を配した電動過給機の軸支持構造において、組立性が良好であり、且つ軸振動を低減することができ、さらに軸受を特殊な形態とする必要がないため既設機器を改造して発明の実施をすることが容易な電動過給機の軸支持構造を提供する。
【解決手段】過給側のホイールであるコンプレッサホイールが取り付けられた回転軸と、該回転軸に固設されたモータ回転子及び該モータ回転子に回転力を与える固定子を有する電動機と、前記モータ回転子に対して前記コンプレッサホイール側に設けられ、前記回転軸を支持する軸受部と、を備えた電動過給機の回転軸支持構造において、前記モータ回転子に対して前記コンプレッサホイールと反対側の軸端部に、前記回転軸の軸振動を吸収するダンパ装置を設けた

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動過給機の回転軸支持構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等に用いられるエンジンにおいて、エンジンの出力を向上させるために、空気をコンプレッサにより圧縮してエンジンに供給することを過給といい、過給するための過給機が広く知られている。
【0003】
過給機としては、ターボチャージャと呼ばれる排気タービン駆動式のものと、スーパチャージャと呼ばれる機械駆動式のものが知られている。ターボチャージャは、エンジンの排気ガスのエネルギでタービンを回転させ、タービンと直結したコンプレッサで吸入空気を圧縮してエンジンに供給するものである。
【0004】
ここで、ターボチャージャは、エンジンの排気ガスを利用するため、例えばエンジンの回転数が低い場合など排気ガスの状態によっては、十分な過給を行なうことができない場合がある。そこで、十分に過給ができない場合の対応として、電動機を配置して、排気ガスのエネルギと電動機を併用して、又は電動機のみによってコンプレッサを回転させることを可能とした電動過給機が知られている。
【0005】
電動過給機では、回転軸を支持する軸受のコンプレッサ側の外側に電動機を配置することが全体の小型化をする上で望ましい。また、電動過給機は、電動機を用いてコンプレッサを回転させるが、回転軸の回転数が高速となるため、軸振動を低減させる対策が必要となる。
【0006】
図7は、従来の電動過給機における軸支持構造の一例を示す概略図である。
図7に示した従来の電動過給機101の軸支持構造においては、回転軸102は、回転軸102に取り付けられたコンプレッサホイール104の外側まで延設している。なお、106はコンプレッサホイール104等をカバーするコンプレッサカバーである。
【0007】
回転軸102のコンプレッサホイール104の外側の延設部分には、モータ回転子108及びモータ110が設けられている。
モータ回転子108は、回転軸102に固設されて回転軸102とともに回転する電動過給機の回転子である。また、モータ110は、回転軸102に直交する方向からモータ回転子108に対向して設けられることでモータ回転子108を取り囲み、モータ回転子108に回転力を与える固定子であり、モータ回転子108とモータ110により電動機107が構成される。
【0008】
また、電動機107の両側、即ちモータ回転子108の両側に軸受としてのベアリング112を設けている。このようにベアリング112を設けることで、回転軸102の延設部分の重心が軸受(ベアリング112)の間となり、重量が大きいモータ回転子108の部分を両持ちで支持する構造となる。なお、114はベアリング112を取り囲むベアリングハウジングであって、ベアリングハウジング114は内部への給油及び外部への排油が可能に構成されている。
【0009】
図7に示した電動過給機の軸支持構造は、重量が大きいモータ回転子108の部分を両持ちで支持する構造であるため、電動過給機の軸振動低減には有効である。しかし、モータ回転子108の両側に軸受(ベアリング112)を設ける必要があり、組立性、ベアリングハウジングの芯出しの精度の面で課題が残る。
【0010】
そこで、組立性、ベアリングハウジングの芯出しの精度の面で有利な別の電動過給機の軸支持構造が考えられる。
図8は、従来の電動過給機における軸支持構造の別の例を示す概略図である。
図8において、図7と同一符号は同一物を表すものとし、その説明を省略する。
図8に示した構造の電動過給機の軸支持構造では、軸受としてのベアリング112bでモータ回転子108の片側を支持し、モータ回転子108が軸受(ベアリング112b)からオーバーハングした構成となっている。
【0011】
軸受(ベアリング112b)からモータ回転子108をオーバーハングさせた図8に示した電動過給機の軸支持構造は、組立性、ベアリングハウジングの芯出しの精度の面で有利であるものの、軸振動低減の面で課題が残る。特にコンプレッサの高出力化(過給機の大容量化)を狙った場合、モータ回転子の重量が増大するため、軸振動低減対策が必要となると考えられる。
【0012】
そこで、特許文献1には、軸受からモータ回転子がオーバーハングした電動過給機の軸支持構造において、軸受の形状を工夫することにより軸振動低減を図った技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2007−71165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1に開示された技術においては、軸受の形状を特殊なものとする必要があるため、軸受の加工にかかるコストが増大するとともに、既設機器に改造を施して発明の実施をすることが難しい。
【0015】
従って、本発明においては従来技術の課題に鑑み、軸受の外側にオーバーハングさせて電動機を配した電動過給機の軸支持構造において、組立性が良好であり、且つ軸振動を低減することができ、さらに軸受を特殊な形態とする必要がないため既設機器を改造して発明の実施をすることが容易な電動過給機の軸支持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するために、本発明においては、過給側のホイールであるコンプレッサホイールが取り付けられた回転軸と、該回転軸に固設されたモータ回転子及び該モータ回転子に回転力を与える固定子を有する電動機と、前記モータ回転子に対して前記コンプレッサホイール側に設けられ前記回転軸を支持する軸受部とを備えた電動過給機の回転軸支持構造において、前記モータ回転子に対して前記コンプレッサホイールと反対側の軸端部に、前記回転軸の軸振動を吸収するダンパ装置を設けたことを特徴とする。
【0017】
これにより、軸受からモータ回転子がオーバーハングした電動過給機の軸支持構造となるため組立性が良好である。また、回転軸の振動を吸収するダンパを設けているため、軸振動の低減が可能である。さらに、特殊な形態の部品を用いることなく回転軸の軸端部にダンパ装置を設けることで発明の実施が可能であるため、既設機器を改造して発明の実施をすることが容易である。
【0018】
また、前記ダンパ装置は、前記回転軸を取り囲んで設けた転がり軸受と、前記転がり軸受の外周を取り囲んで設けられて前記回転軸の軸振動を吸収するダンパと、該ダンパの外周側を取り囲んで設けられるリング状部材とから構成されるとよい。
これにより、簡単な部品でダンパ装置が構成されるため、安価で簡単に発明の実施が可能となる。
【0019】
また、前記転がり軸受は、グリースを封入したグリース封入転がり軸受であるとよい。
前記転がり軸受をグリース封入転がり軸受としない場合には転がり軸受に潤滑用油を供給する必要があり、該潤滑用油供給用の配管設備等が必要となる。そこで、前記転がり軸受をグリース封入転がり軸受とすることで、前記潤滑油の供給及びそれに係る設備が不要となり、電動過給機の軸支持構造全体にかかる装置のコンパクト化が可能となる。
【0020】
前記ダンパ装置は、前記回転軸との間に隙間を有して取り囲むブッシュと、該ブッシュの外周を取り囲んで設けられるダンパと、該ダンパの外周側を取り囲んで設けられるリング状部材とから構成されるとともに、前記ブッシュに外部から前記隙間に潤滑油を供給可能な給油孔を設けるとよい。
【0021】
これにより、ブッシュを用いることで給油に係る配管等の設備は必要となるものの、ダンパ全体としては小型化することができ、電動過給機の軸支持構造全体にかかる装置のコンパクト化が可能となる。また、ダンパはベアリングと類似構造となるものの、制振の特性に特化させることができるので、すき間をベアリングより大きく取ることが可能となり、組立性の問題も両持ちのベアリング構造ほど厳しくは無い。
【0022】
また、前記ダンパ装置は、前記回転軸との間に隙間を有して取り囲むブッシュと、該ブッシュとの間に隙間を有して取り囲むリング状部材と、前記ブッシュの前記モータ回転子側の側面と対向する位置に設けた壁面と、前記ブッシュを前記壁面側に付勢する付勢手段と、から構成されるとともに、前記ブッシュに外部からブッシュと回転軸の間の隙間に潤滑油を供給可能な給油孔を設けるとよい。
【0023】
これにより、前記ブッシュと壁面との間の摩擦力によって前記回転軸の軸振動を吸収する摩擦ダンパが構成される。摩擦ダンパを用いることで、ダンパ装置によって高いダンピング効果を得ることができる。また、ブッシュのスラスト方向への移動を前記付勢手段及び壁面を用いた簡単な構造で防止することができる。
【0024】
また、前記付勢手段は、前記リング状部材の前記モータ回転子と反対側側面から前記ブッシュの前記モータ回転子と反対側側面に渡って設けられた皿ばねであるとよい。
これにより、皿ばねと前記リング状部材の内周面と前記壁面と前記ブッシュの外周面によってリング状の空間が形成され、該空間をオイル室として利用することができる。
【0025】
また、前記ブッシュと壁面との接触面の表面を硬化処理するとよい。
これにより、前記ブッシュと壁面の接触面の摩擦による磨耗を抑制することができる。
【0026】
また、前記ダンパ装置は、前記回転軸のモータ回転子と反対側の軸端部を覆い、内部にオイルが充填されたオイル室から構成されるとよい。
これにより、ダンパ、ブッシュ、転がり軸受等を設ける必要がないため、少ない部品点数で発明の実施が可能である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、軸受の外側にオーバーハングさせて電動機を配した電動過給機の軸支持構造において、組立性が良好であり、且つ軸振動を低減することができ、さらに軸受を特殊な形態とする必要がないため既設機器を改造して発明の実施をすることが容易な電動過給機の軸支持構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施形態1に係る電動過給機における軸支持構造を示す概略図である。
【図2】図1におけるA部拡大図である。
【図3】実施形態2に係る電動過給機における軸支持構造を示す概略図である。
【図4】図3におけるB部拡大図である。
【図5】実施形態3に係るダンパ装置の概略図である。
【図6】実施形態4に係る電動過給機における軸支持構造を示す概略図である。
【図7】従来の電動過給機における軸支持構造の一例を示す概略図である。
【図8】従来の電動過給機における軸支持構造の別の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【実施例】
【0030】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る電動過給機における軸支持構造を示す概略図である。
図1に示した実施形態1に係る電動過給機1の軸支持構造においては、回転軸2は、回転軸2に取り付けられたコンプレッサホイール4の外側まで延設している。なお、6はコンプレッサホイール4等をカバーするコンプレッサカバーである。
【0031】
回転軸2のコンプレッサホイール4の外側の延設部分には、モータ回転子8及びモータ10が設けられている。
モータ回転子8は、回転軸2に固設されて回転軸2とともに回転する電動過給機の回転子である。また、モータ10は、モータ回転子8を取り囲み、モータ回転子8に回転力を与える固定子であり、モータ回転子8とモータ10により電動機7が構成される。
【0032】
また、電動機7のコンプレッサホイール4側のモータ回転子8の片側に軸受としてのベアリング12が設けられている。即ち、図1に示した構造の電動過給機の軸支持構造では、軸受としてのベアリング12でモータ回転子8の片側を支持し、モータ回転子8が軸受(ベアリング12)からオーバーハングした構成となっている。
なお、14はベアリング12を取り囲むベアリングハウジングであって、ベアリングハウジング14は内部への給油及び外部への排油が可能に構成されている。
【0033】
さらに、本発明に特徴的な構成として、回転軸2の振動を吸収するダンパ装置20が設けられている。ダンパ装置20は、モータ10のコンプレッサホイール4と反対側に設けられて回転軸2を取り囲むリング状のリング部21と、リング部21のリング内側に設けられるダンパ24及び転がり軸受22から構成される。
【0034】
リング部21は、ダンパ24を回転軸2の径方向で支持するものであって、モータ10、モータ10のケーシング(不図示)、過給機全体を覆うコンプレッサケーシング(不図示)等に取り付けることができる。
【0035】
また、転がり軸受22としては、一般的に用いられる転がり軸受22を用いることができる。さらに、転がり軸受22を、グリースを封入したグリース封入軸受とすることが好ましい。
【0036】
また、ダンパ24はダンパとしてのダンピング効果を有するものであれば特に限定はされず、例えばゴムシート又はゴム製Oリングなどを用いることができる。また、ダンパ24としてオイルフィルムダンパを用いることもできる。
【0037】
図2を用いて、ダンパ装置20についてさらに説明する。
図2は、図1におけるA部拡大図であって、ダンパ24としてオイルフィルムダンパを用いた場合の図1におけるA部拡大図である。
回転軸2のモータ回転子8側の軸端部にグリース封入転がり軸受22を設置する。そして、グリース封入転がり軸受22の外周に、シール26とオイル封入部28から構成されるオイルフィルムダンパ24を設ける。
【0038】
シール26はグリース封入転がり軸受22の外周面に沿って、それぞれ回転軸2の軸方向両端部の2箇所に設けられており、例えばゴム製Oリング等を用いることができる。シール26の外周面はリング部21の内周面に接触している。
このようにしてシール26を設けることで、2つのシール26、グリース封入転がり軸受22の外周面及びリング部21の内周面で囲まれるリング状の空間が形成され、該空間をオイル封入部28とし、オイル封入部28にオイルを封入する。これにより、シール26とオイルが封入されたオイル封入部28によりダンパ24が構成される。
【0039】
実施形態1の電動過給機の軸支持構造によれば、図1に示したように軸受(ベアリング12)からモータ回転子8がオーバーハングした電動過給機の軸支持構造であるため組立性が良好である。また、回転軸2の振動を吸収するダンパ装置20を設けているため、軸振動の低減が可能である。さらに、特殊な形態の部品を用いることなく回転軸2の端部にダンパ装置20を設けることで発明の実施が可能であるため、既設機器を改造して発明の実施をすることが容易である。
【0040】
なお、図1及び図2に示した形態において、転がり軸受22をグリース封入転がり軸受としない場合には転がり軸受22に潤滑用油を供給する必要があり、該潤滑用油供給用の配管設備等が必要となる。そのため、装置全体のコンパクト化のため、転がり軸受22はグリース封入転がり軸受とすることが好ましい。
【0041】
(実施形態2)
図3は、実施形態2に係る電動過給機における軸支持構造を示す概略図である。
図3において、図1と同一符号は同一物を表すものとし、その説明を省略する。
図3においては、図1において説明したダンパ装置20とは構成の異なるダンパ装置30が設けられている。
【0042】
ダンパ装置30は、図1に示したダンパ装置20と同様にモータ回転子8のコンプレッサホイール4と反対側に設けられており、回転軸2を取り囲むリング状のリング部31と、リング部31のリング内側に設けられるダンパ34及びブッシュ32から構成される。
【0043】
リング部31及びダンパ34の構成等については、リング部21及びダンパ24と同様である。
【0044】
また、ブッシュ32としては一般的なブッシュを用いることができ、後述する給油孔33が設けられている必要がある。
【0045】
図4を用いて、ダンパ装置30についてさらに説明する。
図4は、図3におけるB部拡大図であって、ダンパ34としてオイルフィルムダンパを用いた場合の図3におけるB部拡大図である。
回転軸2のモータ回転子8側の軸端部に回転軸2との間に隙間を有してブッシュ32を設置する。そして、ブッシュ32の外周にシール36とオイル封入部38から設けられたオイルフィルムダンパ34を設ける。
【0046】
ここで、シール36及びオイル封入部38より成るオイルフィルムダンパ34は、シール26及びオイル封入部28より成るオイルフィルムダンパ24と同様のものである。
【0047】
なお、ブッシュ32に設けた給油孔33がオイル封入部38とブッシュ32の内周面とを連通し、オイル封入部38へ給油したオイルをブッシュ32の内周面へ潤滑油として供給可能となるように、給油孔33及びオイル封入部38の位置を調整してオイルフィルムダンパ34及びブッシュ32を配置する必要がある。
【0048】
図4においては、ダンパ34としてオイルフィルムダンパ34を用いた例について説明したが、ダンパ34としてゴムシートやゴム製Oリング等の粘弾性体で形成したダンパを使用する場合には、ダンパ34に孔をあける等によりブッシュ32の給油孔33に潤滑油を供給することを可能とする必要がある。
【0049】
実施形態2の電動過給機の軸支持構造によれば、図3に示したように軸受(ベアリング12)からモータ回転子8がオーバーハングした電動過給機の軸支持構造であるため組立性が良好である。また、回転軸2の振動を吸収するダンパ装置30を設けているため、軸振動の低減が可能である。さらに、特殊な形態の部品を用いることなく回転軸2の端部にダンパ装置30を設けることで発明の実施が可能であるため、既設機器を改造して発明の実施をすることが容易である。
【0050】
さらに、ブッシュ32を用いることで、給油に係る配管等の設備は必要となるものの、ダンパ装置30全体としては小型化することができる。加えて、実施形態1で説明した転がり軸受を使用する場合と比較すると寿命に対する信頼性が高い。なお、ダンパに用いるブッシュ32はベアリング12と類似形態であるが、ダンパの特性を特化させるため、回転精度確保を要求されるベアリング12に比べ、すき間を大きくとっても良い。そのため図7に示すモータ回転子108を両持ちにする構造に比べ、組立性の悪化を抑制できる。
【0051】
(実施形態3)
実施形態3においては、実施形態1及び2とはダンパ装置の形態が異なる。
ダンパ装置以外の形態については図1と同様であるため、図示を省略し、以下の説明において図1を援用する。
【0052】
図5を用いて実施形態3に係るダンパ装置40について説明する。
図5は、実施形態3に係るダンパ装置の概略図である。
ダンパ装置40は、回転軸を取り囲むリング状のリング部41と、リング部21のリング内側に設けられるブッシュ42と、ばね46から構成される。
【0053】
リング部41については、図1〜図4に示したリング部21、31と同様である。
ブッシュ42としては一般的なブッシュを用いることができ、給油孔43が設けられている必要がある。
【0054】
また、ブッシュ42のモータ回転子8側の側面と対向する位置に壁面11が設けられている。壁面11はモータ10のケーシング壁面等を利用することができる。
【0055】
ばね46はブッシュ42を壁面11側に押し付けるものである。即ち、ブッシュ42と壁面11の間に加重が加わるように、壁面11からばね46でブッシュ42に荷重をかける。
【0056】
なお、ばね46を皿ばねとすると、ばね46がシールを兼ねることができ、空間48にオイルを封入することが可能となる。このとき、ブッシュ42に設けた給油孔43が空間48とブッシュ42の内周面とを連通し、空間48へ給油したオイルをブッシュ42の内周面へ潤滑油として供給可能となる。
【0057】
以上の構成により、ブッシュ42と壁面11との間の摩擦力によって回転軸2の軸振動を吸収する摩擦ダンパ40が形成される。
【0058】
なお、ブッシュ42と壁面11の接触面、及びブッシュ42とばね46の接触面の摩擦による磨耗を抑制するため、前記各接触面を表面加工することが好ましい。
前記表面加工としては、例えば前記表面を硬化させる表面硬化処理をすることができる。具体的には、鉄系の材料に対しては焼入れ、窒化、浸炭、又は硬質薄膜(ダイヤモンドライクカーボン、CrN、TiN等)による表面処理が可能であり、銅系又はアルミ系の材料に対しては硬質薄膜による表面処理が可能である。
【0059】
また、前記表面処理として、固体潤滑剤のコーティングも可能である。固体潤滑剤としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、黒鉛、二硫化モリブデン等を用いることができる。
【0060】
さらに、前記表面硬化処理と潤滑剤のコーティングを組み合わせることもできる。即ち、表面硬化処理を施した上に固体潤滑剤をコーティングすることが可能である。
【0061】
実施形態3の電動過給機の軸支持構造によれば、軸受(ベアリング12)からモータ回転子8がオーバーハングした電動過給機の軸支持構造であるため組立性が良好である。また、回転軸2の振動を吸収するダンパ装置40を設けているため、軸振動の低減が可能である。さらに、特殊な形態の部品を用いることなく回転軸2の端部にダンパ装置40を設けることで発明の実施が可能であるため、既設機器を改造して発明の実施をすることが容易である。
【0062】
さらに、ダンパ装置40を図5に示したような摩擦ダンパとすることで、ダンパ装置40によって高いダンピング効果を得ることができる。また、ブッシュ42のスラスト方向への移動をばね46及び壁面11を用いた簡単な構造で防止することができる。
【0063】
(実施形態4)
図6は、実施形態4に係る電動過給機における軸支持構造を示す概略図である。
図6において、図1と同一符号は同一物を表すものとし、その説明を省略する。
図6においては、図1において説明したダンパ装置20とは構成の異なるダンパ装置50が設けられている。
【0064】
ダンパ装置50は、回転軸2の径方向を取り囲むリング部51と、オイルシール54と、蓋56とによりオイル室52を形成して構成されている。つまり、回転軸2の軸端部はオイル室52内に位置している。またオイル室52にはリング部51に設けた給油孔51aより給油が可能であり、リング部51に設けた排油孔51bより排油が可能である。そして、電動過給気1の使用時にはオイル室52にはオイルを充填しておく。
【0065】
以上の構成により、ダンパ装置50は、オイル室52の壁面(リング部51内周面)と回転軸2の軸端のラジアル方向隙間を十分小さくすることでスクイーズフィルムダンパとして機能するとともに、オイル室52の蓋56と軸端のアキシアル方向隙間を十分小さくすることで粘性摩擦ダンパとして機能する。
なお、前記オイル室の壁面、オイル室の蓋と、回転軸の軸端部の隙間を調整する機構を設けることもでき、この場合、ダンパ装置50のダンピング能力の調整が可能となる。
【0066】
実施形態4の電動過給機の軸支持構造によれば、図6に示したように軸受(ベアリング12)からモータ回転子8がオーバーハングした電動過給機の軸支持構造であるため組立性が良好である。また、回転軸2の振動を吸収するダンパ装置50を設けているため、軸振動の低減が可能である。さらに、特殊な形態の部品を用いることなく回転軸2の端部にダンパ装置50を設けることで発明の実施が可能であるため、既設機器を改造して発明の実施をすることが容易である。
【0067】
さらに、ダンパ、ブッシュ、転がり軸受等を設ける必要がないため、少ない部品点数で発明の実施が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0068】
軸受の外側にオーバーハングさせて電動機を配した電動過給機の軸支持構造において、組立性が良好であり、且つ軸振動を低減することができ、さらに軸受を特殊な形態とする必要がないため既設機器を改造して発明の実施をすることが容易な電動過給機の軸支持構造として利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 電動過給機
2 回転軸
4 コンプレッサホイール
7 電動機
8 モータ回転子
10 モータ(固定子)
11 壁面
12 ベアリング(軸受)
20、30、40、50 ダンパ装置
21 リング部
22 転がり軸受
24 ダンパ
32 ブッシュ
33 給油孔
34 ダンパ
42 ブッシュ
46 ばね
52 オイル室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過給側のホイールであるコンプレッサホイールが取り付けられた回転軸と、
該回転軸に固設されたモータ回転子及び該モータ回転子に回転力を与える固定子を有する電動機と、
前記モータ回転子に対して前記コンプレッサホイール側に設けられ、前記回転軸を支持する軸受部と、を備えた電動過給機の回転軸支持構造において、
前記モータ回転子に対して前記コンプレッサホイールと反対側の軸端部に、前記回転軸の軸振動を吸収するダンパ装置を設けたことを特徴とする電動過給機の回転軸支持構造。
【請求項2】
前記ダンパ装置は、
前記回転軸を取り囲んで設けた転がり軸受と、
前記転がり軸受の外周を取り囲んで設けられるダンパと、
該ダンパの外周側を取り囲んで設けられるリング状部材と、から構成されることを特徴とする請求項1記載の電動過給機の回転軸支持構造。
【請求項3】
前記転がり軸受は、グリースを封入したグリース封入転がり軸受であることを特徴とする請求項2記載の電動過給機の回転軸支持構造。
【請求項4】
前記ダンパ装置は、
前記回転軸との間に隙間を有して取り囲むブッシュと、
該ブッシュの外周を取り囲んで設けられるダンパと、
該ダンパの外周側を取り囲んで設けられるリング状部材と、から構成されるとともに、
前記ブッシュに外部から前記隙間に潤滑油を供給可能な給油孔を設けたことを特徴とする請求項1記載の電動過給機の回転軸支持構造。
【請求項5】
前記ダンパ装置は、
前記回転軸との間に隙間を有して取り囲むブッシュと、
該ブッシュとの間に隙間を有して取り囲むリング状部材と、
前記ブッシュの前記モータ回転子側の側面と対向する位置に設けた壁面と、
前記ブッシュを前記壁面側に付勢する付勢手段と、から構成されるとともに、
前記ブッシュに外部からブッシュと回転軸の間の隙間に潤滑油を供給可能な給油孔を設けたことを特徴とする請求項1記載の電動過給機の回転軸支持構造。
【請求項6】
前記付勢手段は、前記リング状部材の前記モータ回転子と反対側側面から前記ブッシュの前記モータ回転子と反対側側面に渡って設けられた皿ばねであることを特徴とする請求項5記載の電動過給機の回転軸支持構造。
【請求項7】
前記ブッシュと壁面との接触面の表面を硬化処理したことを特徴とする請求項5又は6記載の電動過給機の回転軸支持構造。
【請求項8】
前記ダンパ装置は、
前記回転軸のモータ回転子と反対側の軸端部を覆い、内部にオイルが充填されたオイル室から構成されることを特徴とする請求項1記載の電動過給機の回転軸支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−102700(P2012−102700A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253787(P2010−253787)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】