説明

電圧変換装置

【課題】電圧変換装置の体格およびコストを増加させることなく、リプル電流により発生する電源の騒音を抑制する。
【解決手段】昇圧コンバータ12は、バッテリBから直流電圧を受け、その受けた直流電圧の電圧レベルを変換する。昇圧コンバータ12は、直列接続されたスイッチング素子Q1,Q2と、該スイッチング素子Q1,Q2によってスイッチングされた電流が流れるリアクトルL1とを含んで構成される。平滑コンデンサC2は、バッテリBと昇圧コンバータ12との間で、バッテリBと並列に接続される。リアクトルL2は、バッテリBおよびリアクトルL1間の電流経路上であって、バッテリBと平滑コンデンサC2との間に接続される。リアクトルL2は、リアクトルL1との間でコア2を共通するように配設される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電圧変換装置に関し、特に、電池から受けた直流電力の電圧レベルを変換する電圧変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平10−66383号公報(特許文献1)は、永久磁石型同期モータ(PMモータ)の駆動制御装置を開示する。この駆動制御装置は、電力変換器への供給に先立ちかつ指令に応じ、バッテリ電圧を昇圧する昇圧回路と、昇圧後の電圧値が、PMモータの目標動作点を実現するのに必要な電力変換器の直流端子側電圧を上回るように昇圧回路に昇圧動作を実行させる手段とを備える。
【0003】
この駆動制御装置においては、PMモータの目標動作点が現在のバッテリ電圧の下での出力可能領域よりも高回転側に位置しているときに、この目標動作点が出力可能領域に含まれるように、バッテリ電圧が昇圧される。この結果、それまで弱め界磁制御によって行なわれていたPMモータの力行可能領域の拡張を、弱め界磁電流に起因した損失の発生やこれによるシステム効率の低下を生じることなく実現することができる。
【特許文献1】特開平10−66383号公報
【特許文献2】特開2000−116120号公報
【特許文献3】特開2004−104976号公報
【特許文献4】特開2002−84676号公報
【特許文献5】特開2003−304681号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特開平10−66383号公報に開示された技術において、昇圧回路は、IPM(インテリジェントパワーモジュール)の直流端子間に順方向直列接続された2個のトランジスタと、これらのトランジスタのそれぞれに逆並列接続された2個のダイオードと、2個のトランジスタの接続点にその一端が接続され、バッテリ側に他端が接続された昇圧リアクトルとを備える構成を有している。このような構成において、2個のトランジスタは、コントローラからの昇圧回路に対する昇圧比の指令に従ってスイッチング動作が制御される。
【0005】
ところで、特開平10−66383号公報に開示されるような昇圧回路を用いる構成においては、昇圧回路のトランジスタがスイッチング動作を行なうと、そのスイッチング周波数に依存した交流電流(以下、リプル電流とも称する)が発生する。このリプル電流は、昇圧回路に直流電力を供給するバッテリに伝搬すると、リプル電流の影響によってバッテリには膨張収縮作用が生じる。
【0006】
詳細には、バッテリは、セパレータを介して積層された電極板を有しているため、充電時には、電極板間に生じる電界により電極板間に引力を生じる。この引力により、バッテリ全体としては、電圧印加により収縮することになる。そして、印加電圧が無くなると、バッテリは復帰(膨張)する。そのため、昇圧回路からのリプル電流をバッテリが受けると、バッテリには時間的な変位、すなわち膨張収縮作用が生じる。その結果、この膨張収縮により空気振動が生じて、騒音が発生するという問題があった。
【0007】
それゆえ、この発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、その目的は、電圧変換装置の体格およびコストを増加させることなく、リプル電流により発生する電源の騒音を抑制可能な電圧変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明によれば、電圧変換装置は、電源から直流電圧を受け、その受けた直流電圧の電圧レベルを変換する。電圧変換装置は、スイッチング素子と該スイッチング素子によってスイッチングされた電流が流れる第1のリアクトルとを含んで構成された電圧変換器と、電源と電圧変換器との間で、電源と並列に接続された平滑コンデンサと、電源および第1のリアクトル間の電流経路上であって、電源と平滑コンデンサとの間に接続された第2のリアクトルとを備える。
【0009】
上記の電圧変換装置によれば、電源と平滑コンデンサとの間に第2のリアクトルを配設して電源のインピーダンスを見かけ上高くすることにより、スイッチング動作に伴ない電源を流れる直流電流に重畳されるリプル電流を低減することができる。このときの第2のリアクトルは、必要なインダクタンスが、第1のリアクトルのインダクタンスと比較して低いことから、小型のコイルで構成することができる。その結果、電圧変換装置の体格およびコストを増加させることなく、電源の騒音を抑制することが可能となる。
【0010】
好ましくは、第2のリアクトルは、第1のリアクトルのコアに対して、第1のリアクトルのコイルと共通に巻回されるコイルを含む。
【0011】
上記の電圧変換装置によれば、第2のリアクトルを小型のコイルで構成することができるため、当該コイルを第1のリアクトルのコアに共通に巻回することが可能となる。その結果、電圧変換装置の体格およびコストが増加するのをより一層抑えることができる。
【0012】
好ましくは、電圧変換装置は、第1および第2のリアクトルを格納するためのケースと、ケースの外壁側に配設された冷媒通路とをさらに備える。
【0013】
上記の電圧変換装置によれば、第2のリアクトルを、第1のリアクトルの冷却系統を用いて冷却することができるため、第2のリアクトルの冷却性能を確保することができる。
【0014】
好ましくは、電源は、リチウムイオン電池を含む二次電池からなる。
上記の電圧変換装置によれば、電源を、内部抵抗値が低いリチウムイオン電池で構成した場合であっても、見かけ上のインピーダンスを高くすることにより、騒音を抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、電圧変換装置の体格およびコストを増加させることなく、電源の騒音を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、図中同一符号は同一または相当部分を示す。
【0017】
図1は、この発明の実施の形態による電圧変換装置が適用されるモータ駆動装置の概略ブロック図である。
【0018】
図1を参照して、モータ駆動装置100は、バッテリBと、電圧センサ10,13と、コンデンサC1,C2と、リアクトルL2と、昇圧コンバータ12と、インバータ14と、電流センサ24と、制御装置30とを備える。
【0019】
交流モータM1は、ハイブリッド自動車または電気自動車の駆動輪を駆動するためのトルクを発生するための駆動モータである。また、交流モータM1は、エンジンにて駆動される発電機の機能を持つように、そして、エンジンに対して電動機として動作し、たとえばエンジンを始動し得るようなモータである。
【0020】
昇圧コンバータ12は、リアクトルL1と、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)素子Q1,Q2と、ダイオードD1,D2とを含む。
【0021】
リアクトルL1の一方端はバッテリBの電源ラインに接続され、他方端はIGBT素子Q1とIGBT素子Q2との中間点、すなわち、IGBT素子Q1のエミッタとIGBT素子Q2のコレクタとの間に接続される。
【0022】
IGBT素子Q1,Q2は、電源ラインとアースラインとの間に直列に接続される。IGBT素子Q1のコレクタは電源ラインに接続され、IGBT素子Q2のエミッタはアースラインに接続される。また、各IGBT素子Q1,Q2のコレクタ−エミッタ間には、エミッタ側からコレクタ側に電流を流すダイオードD1,D2がそれぞれ配されている。
【0023】
インバータ14は、U相アーム15と、V相アーム16と、W相アーム17とからなる。U相アーム15、V相アーム16およびW相アーム17は、電源ラインとアースラインとの間に並列に設けられる。
【0024】
U相アーム15は、直列接続されたIGBT素子Q3,Q4からなる。V相アーム16は、直列接続されたIGBT素子Q5,Q6からなる。W相アーム17は、直列接続されたIGBT素子Q7,Q8からなる。また、各IGBT素子Q3〜Q8のコレクタ−エミッタ間には、エミッタ側からコレクタ側へ電流を流すダイオードD3〜D8がそれぞれ接続されている。
【0025】
各相アームの中間点は、交流モータM1の各相コイルの各相端に接続されている。すなわち、交流モータM1は、3相の永久磁石モータであり、U,V,W相の3つのコイルの一端が中点に共通に接続されて構成される。U相コイルの他端がIGBT素子Q3,Q4の中間点に、V相コイルの他端がIGBT素子Q5,Q6の中間点に、W相コイルの他端がIGBT素子Q7,Q8の中間点にそれぞれ接続されている。
【0026】
なお、昇圧コンバータ12およびインバータ14にそれぞれ含まれるスイッチング素子は、IGBT素子Q1〜Q8に限定されず、MOSFET等の他のパワー素子で構成しても良い。
【0027】
バッテリBは、充放電可能な二次電池であり、例えば、ニッケル水素またはリチウムイオンなどからなる。なお、これらに限らず、直流電圧を生成できるもの、例えば、キャパシタ、太陽電池、燃料電池等であって、電極板に働く引力によって膨張収縮作用が生じるものであれば適用され得る。電圧センサ10は、バッテリBから出力される直流電圧Vbを検出し、検出した直流電圧Vbを制御装置30へ出力する。
【0028】
コンデンサC1は、バッテリBから供給された直流電圧Vbを平滑化し、その平滑化した直流電圧Vbを昇圧コンバータ12へ出力する。
【0029】
昇圧コンバータ12は、バッテリBから供給された直流電圧Vbを昇圧してコンデンサC2へ供給する。より具体的には、昇圧コンバータ12は、制御装置30から信号PWMCを受けると、信号PWMCによってIGBT素子Q2がオンされた期間に応じて直流電圧を昇圧してコンデンサC2に供給する。
【0030】
また、昇圧コンバータ12は、制御装置30から信号PWMCを受けると、コンデンサC2を介してインバータ14から供給された直流電圧を降圧してバッテリBを充電する。
【0031】
コンデンサC2は、昇圧コンバータ12からの直流電圧を平滑化し、その平滑化した直流電圧をインバータ14へ供給する。電圧センサ13は、コンデンサC2の両端の電圧、すなわち、昇圧コンバータ12の出力電圧Vm(インバータ14への入力電圧に相当する。以下同じ。)を検出し、その検出した出力電圧Vmを制御装置30へ出力する。
【0032】
インバータ14は、コンデンサC2から直流電圧が供給されると、制御装置30からの信号PWMIに基づいて直流電圧を交流電圧に変換して交流モータM1を駆動する。これにより、交流モータM1は、トルク指令値TRによって指定された要求トルクを発生するように駆動される。
【0033】
また、インバータ14は、モータ駆動装置100が搭載されたハイブリッド自動車または電気自動車の回生制動時、交流モータM1が発電した交流電圧を制御装置30からの信号PWMIに基づいて直流電圧に変換し、変換した直流電圧をコンデンサC2を介して昇圧コンバータ12へ供給する。
【0034】
なお、ここで言う回生制動とは、ハイブリッド自動車または電気自動車を運転するドライバーによるフットブレーキ操作があった場合との回生発電を伴なう制動や、フットブレーキを操作しないものの、走行中にアクセルペダルをオフすることで回生発電をさせながら車速を減速(または加速を中止)させることを含む。
【0035】
電流センサ24は、交流モータM1に流れるモータ電流MCRTを検出し、その検出したモータ電流MCRTを制御装置30へ出力する。
【0036】
制御装置30は、外部に設けられたECU(Electrical Control Unit)から交流モータM1が要求される駆動トルクの目標値(以下、トルク指令値とも称する)TRおよびモータ回転数MRNを受け、電圧センサ13から出力電圧Vmを受け、電圧センサ10から直流電圧Vbを受け、電流センサ24からモータ電流MCRTを受ける。そして、制御装置30は、出力電圧Vm、トルク指令値TR、モータ電流MCRTに基づいて、インバータ14が交流モータM1を駆動するときにインバータ14のIGBT素子Q3〜Q8をスイッチング制御するための信号PWMIを生成し、その生成した信号PWMIをインバータ14へ出力する。
【0037】
また、制御装置30は、インバータ14が交流モータM1を駆動するとき、直流電圧Vb、出力電圧Vm、トルク指令値TRおよびモータ回転数MRNに基づいて、昇圧コンバータ12のIGBT素子Q1,Q2をスイッチング制御するための信号PWMCを生成して昇圧コンバータ12へ出力する。
【0038】
信号PWMCは、昇圧コンバータ12がバッテリBとインバータ14との間で電圧変換を行なう場合に、昇圧コンバータ12を駆動するための信号である。そして、制御装置30は、昇圧コンバータ12がバッテリBからの直流電圧Vbを出力電圧Vmに変換する場合に、出力電圧Vmgをフィードバック制御し、出力電圧Vmが電圧指令Vdc_comになるように、昇圧コンバータ12を駆動するための信号PWMCを生成する。
【0039】
また、制御装置30は、ハイブリッド自動車または電気自動車の回生制動時において、交流モータM1で発電された交流電圧を直流電圧に変換するための信号PWMIを生成してインバータ14へ出力する。この場合、インバータ14のIGBT素子Q3〜Q8は、信号PWMIによってスイッチング制御され、インバータ14は、交流モータM1で発電された交流電圧を直流電圧に変換して昇圧コンバータ12へ供給する。
【0040】
さらに、制御装置30は、ハイブリッド自動車または電気自動車の回生制動時において、インバータ14から供給された直流電圧を降圧するための信号PWMCを生成し、その生成した信号PWMCを昇圧コンバータ12へ出力する。これにより、交流モータM1が発電した交流電圧は、直流電圧に変換され、降圧されてバッテリBに供給される。
【0041】
以上に述べたように、モータ駆動装置100において、昇圧コンバータ12は、IGBT素子Q1,Q2がスイッチング制御されることによって、直流電圧を昇圧または降圧させることができる。そして、IGBT素子Q1,Q2のスイッチング制御を行なうことにより、昇圧コンバータ12のリアクトルL1を流れる電流(以下、リアクトル電流とも称する)ILには、リプル電流が発生する。
【0042】
図2を参照して、図1のモータ駆動装置100における昇圧コンバータ12の動作とリアクトル電流ILとの関係を説明する。
【0043】
図2は、昇圧コンバータ12に送信される信号PWMCの推移を表わす。図2に示すように、信号PWMCは、オン状態(ON)とオフ状態(OFF)との間で切換わる。このときのONの時間とOFFの時間との和は、信号PWMCの1周期(制御周期)に相当する。制御周期は、昇圧コンバータ12に含まれるIGBT素子Q1,Q2をオン/オフするためのキャリア周波数から求めることができる。
【0044】
そして、このような信号PWMCが出力されているとき、リアクトル電流ILには、周期的に増減するリプル電流Irpが重畳する。リプル電流Irpが増減する周期は、昇圧コンバータ12の制御周期に一致している。
【0045】
図3は、図1に示すバッテリB、コンデンサC1および昇圧コンバータ12の回路図である。
【0046】
図3を参照して、昇圧コンバータ12のIGBT素子Q1,Q2が所定のキャリア周波数でスイッチング制御されている場合、上述したように、リアクトルL1には、キャリア周波数に応じたリプル電流Irpが流れる。そして、このリプル電流Irpは、バッテリBに流れるリプル電流IrpbとコンデンサC1に流れるリプル電流Irpcとの和になる。
【0047】
Irp=Irpb+Irpc (1)
そして、バッテリBに流れるリプル電流Irpbのピークピーク値をΔIrpbとし、かつ、コンデンサC1に流れるリプル電流Irpcのピークピーク値をΔIrpcとすると、ΔIrpbとΔIrpcとの間には、次式の関係が成立する。
【0048】
ΔIrpb:ΔIrpc=1/Zb:1/Zc (2)
ただし、ZbはバッテリBのインピーダンスであり、ZcはコンデンサC1のインピーダンスである。
【0049】
式(2)から分かるように、バッテリBに流れるリプル電流のピークピーク値ΔIrpbは、バッテリBのインピーダンスZbに反比例した大きさとなり、インピーダンスZbが低くなるほど大きくなる。そして、このバッテリBに流れるリプル電流IrpbによってバッテリBに膨張収縮作用が生じることにより、空気振動が生じて騒音が発生する。
【0050】
特に、バッテリBをリチウムイオン電池で構成した場合には、その内部抵抗値が低いという特性によって大電流充放電特性が得られる反面、低インピーダンスZbに起因してリプル電流Irpbが増大し、騒音の程度が悪化するという問題があった。
【0051】
ここで、バッテリBに流れるリプル電流Irpbを低減するためには、上述した式(2)の関係から、バッテリBに並列に接続されたコンデンサC1のインピーダンスZcを下げる手段が有効であると思われる。しかしながら、この手段は、コンデンサC1を容量の大きい大型の素子で構成することが必要となり、モータ駆動装置100の体格およびコストを増大させる不具合に繋がる。
【0052】
また、別の手段としては、昇圧コンバータ12のリアクトルL1のインダクタンスを高くすることによってリアクトル電流ILのリプル電流Irpを低減することが挙げられる。しかしながら、リアクトルL1は、IGBT素子Q1,Q2のスイッチング制御に応答してバッテリBまたはインバータ14との間で電力を蓄積/開放することによって電圧変換動作を遂行させることから、制御応答性を担保する観点からインダクタンスの増加には限界がある。
【0053】
そこで、この発明による電圧変換装置においては、図3に示すように、バッテリBとコンデンサC1との間で、リアクトルL1と直列に接続されたリアクトルL2を設けることによって、バッテリBのインピーダンスZbを見かけ上高くする構成とする。
【0054】
このような構成とすることにより、この発明による電圧変換装置は、以下に述べるように、装置の体格およびコストを増大させることなく、バッテリBの騒音を抑制することが可能となる。特に、本願発明を、バッテリBがリチウムイオン電池で構成された電圧変換装置に適用した場合には、見かけ上のインピーダンスが高められることによって、効果的に騒音を抑制することができる。
【0055】
詳細には、この発明によれば、バッテリBは、リアクトルL2と直列に接続され、かつ、コンデンサC1と並列に接続されることになる。そのため、昇圧コンバータ12のリアクトルL1から見た、バッテリBのインピーダンスZbは、本来のバッテリBのインピーダンスZbに対してリアクトルL2のインダクタンスを加算した値となる。これにより、式(2)の関係に照らして、バッテリBに流れるリプル電流Irpbが低減されるため、このリプル電流IrpbによるバッテリBの膨張収縮作用に起因して発生する騒音を抑制することができる。
【0056】
そして、このときのリアクトルL2は、昇圧コンバータ12のリアクトルL1と比較して、インダクタンスが低いことから、リアクトルL2を、リアクトルL1と一体化した構造によって実現することができる。その結果、コンデンサC1のインピーダンスZcを下げるのと比較して、電圧変換装置の体格およびコストが増大するのを回避することができる。
【0057】
より詳細には、リアクトルL2のインダクタンスは、バッテリBに流れるリプル電流のピークピーク値ΔIrpbが騒音を抑制できる所定の許容電流値を超えないように設定される。具体的には、バッテリBの膨張収縮作用により発生する騒音の程度が所定の許容レベルを超えないように、リプル電流Irpbのピークピーク値ΔIrpbに所定の閾値Ilimを設定する。そして、式(2)の左辺が、この閾値Ilimと、リアクトルL1に流れるリプル電流のピークピーク値ΔIrpから閾値Ilimを差し引いた値との比(=Ilim:ΔIrp−Ilim)に一致するように、バッテリBのインピーダンスZbが決定される。そして、その決定されたインピーダンスZbに基づいて、リアクトルL2のインダクタンスが設定される。このとき設定されたリアクトルL2のインダクタンスは、数nH程度であり、昇圧コンバータ12のリアクトルL1のインダクタンス(数百nH程度)と比較して著しく低いものとなる。そのため、図4に示すように、リアクトルL2を、昇圧コンバータ12のリアクトルL1と一体化した構造によって実現することが可能となる。
【0058】
図4は、図1におけるリアクトルL1およびL2の斜視図である。
図4を参照して、リアクトルL1は、コア2と、コア2に巻回されたコイルとを含む。コア2は、直線部23A,23Bおよび湾曲部23C,23Dからなる。直線部23A,23Bおよび湾曲部23C,23Dは、一部にギャップ21,22を形成するように環状に配置される。そして、ギャップ21,22は、例えば、ガラスのエポキシ材からなる。
【0059】
コイルは、コイル3A,3Bからなる。コイル3Aは、コア2の一方の直線部23Aに銅線を巻くことにより作製され、コイル3Bは、コア2の他方の直線部23Bに銅線を巻くことにより作製される。コイル3Aは、配線3Dによりコイル3Bと接続される、これにより、コイル3A,3Bは、直列に接続される。そして、例えば、端子6Bから端子6Aの方向に電流が流される。
【0060】
端子6Aは、昇圧コンバータ12のIGBT素子Q1,Q2の中間点(図3のノードNAに相当)に電気的に接続される。端子6Bは、コンデンサC1の一方端子(図3のノードNBに相当)に電気的に接続される。
【0061】
そして、リアクトルL2は、リアクトルL1との間でコア2を共通するように配設される。すなわち、リアクトルL2のコイル3Cは、コア2の他方の直線部23Bに銅線を巻くことにより作製される。コイル3Cは、コイル3Bと直列に接続される。そして、例えば、端子6CからリアクトルL1の端子6Bの方向に電流が流される。端子6Cは、バッテリBの正極(図3のノードNCに相当)に電気的に接続される。
【0062】
このように、バッテリBとコンデンサC1との間に設けられるリアクトルL2は、昇圧コンバータ12のリアクトルL1と比較してインダクタンスが著しく低いことから、リアクトルL1のコア2にコイル3Cを巻回することによって簡易に形成することができる。したがって、装置の体格およびコストを増加させることなく、バッテリBの騒音を抑制することができる。
【0063】
さらには、リアクトルL2とリアクトルL1との間でコア2を共有する構成としたことによって、以下に述べるように、リアクトルL2の冷却性能を確保することが可能となる。
【0064】
図5は、この発明によるリアクトルL1,L2の冷却構造を説明するための断面図である。
【0065】
図5を参照して、モータ駆動装置100の構成要素を格納するためのケース300を覆うようにアッパーカバーが設けられる。ケース300およびアッパーカバー305は、溶接によって、あるいは図示しないネジ等の固定部材によって固定される。
【0066】
ケース300の内壁面には、リアクトルL1,L2を格納可能な形状で突出部301が設けられる。ケース300は、内壁面に突出部301が一体的に成形されるように、アルミ等の金属鋳物として作製される。アッパーカバー305は、例えば、アルミプレスによって形成される。
【0067】
リアクトルL1,L2は、ケース300の底面の突出部301で囲まれた領域に据え付けられる。そして、リアクトルL1,L2と突出部301との隙間には、熱硬化性の樹脂360が充填されてリアクトルL1,L2がモールドされる。また、突出部301で囲まれた領域には、リアクトルL1,L2の端子6A〜6Cに相当する電極を取り出すための開口部が設けられており、端子6A〜6Cは、図3に示したノードNA〜NCとそれぞれ接続される。
【0068】
ケース300の外壁面の少なくとも一部には、冷却フィン330が設けられ、冷却フィン330および他のケース等の平坦部350との間には、冷却水等の冷媒が流される冷媒通路340が形成される。冷媒通路340を、リアクトルL1,L2が配置される領域の外壁面に設けることにより、リアクトルL1,L2での発熱を効率的に放熱できる。
【0069】
さらに、樹脂360として熱伝導性の高い材質を用いれば、リアクトルL1,L2の放熱性をより高めることができる。
【0070】
以上のように、この発明の実施の形態によれば、電圧変換装置の体格およびコストを増加させることなく、リプル電流に起因して発生する電源の振動を抑制することができる。特に、電源を、内部抵抗値が低いリチウムイオン電池で構成した場合であっても、見かけ上のインピーダンスを高くすることにより、騒音を抑制することができる。
【0071】
なお、昇圧コンバータの回路構成は、図1に示されたものに限定されず、スイッチング素子のスイッチング動作によりリプル電流が発生するリアクトルを含む回路構成であれば、本発明の適用が可能である。また、電動車両の構成についても、車両駆動用モータを搭載し、かつ、該車両駆動用モータに上記昇圧コンバータを介して電力供給を行なう構成であれば、本発明を適用することが可能である。
【0072】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】この発明の実施の形態による電圧変換装置が適用されるモータ駆動装置の概略ブロック図である。
【図2】昇圧コンバータに送信される信号PWMCのタイミングチャートである。
【図3】図1に示すバッテリB、コンデンサC1および昇圧コンバータ12の回路図である。
【図4】図1におけるリアクトルL1およびL2の斜視図である。
【図5】この発明によるリアクトルL1,L2の冷却構造を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0074】
2 コア、3A,3B,3C コイル、3D 配線、6A,6B,6C 端子、10,13 電圧センサ、12 昇圧コンバータ、14 インバータ、15 U相アーム、16 V相アーム、17 W相アーム、21,22 ギャップ、23C,23D 湾曲部、23A,23B 直線部、24 電流センサ、30 制御装置、100 モータ駆動装置、300 ケース、301 突出部、305 アッパーカバー、330 冷却フィン、340 冷媒通路、350 平坦部、360 樹脂、B バッテリ、C1,C2 コンデンサ、D1〜D8 ダイオード、L1,L2 リアクトル、M1 交流モータ、Q1〜Q8 IGBT素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源から直流電圧を受け、その受けた直流電圧の電圧レベルを変換する電圧変換装置であって、
スイッチング素子と該スイッチング素子によってスイッチングされた電流が流れる第1のリアクトルとを含んで構成された電圧変換器と、
前記電源と前記電圧変換器との間で、前記電源と並列に接続された平滑コンデンサと、
前記電源および前記第1のリアクトル間の電流経路上であって、前記電源と前記平滑コンデンサとの間に接続された第2のリアクトルとを備える、電圧変換装置。
【請求項2】
前記第2のリアクトルは、前記第1のリアクトルのコアに対して、前記第1のリアクトルのコイルと共通に巻回されるコイルを含む、請求項1に記載の電圧変換装置。
【請求項3】
前記第1および第2のリアクトルを格納するためのケースと、
前記ケースの外壁側に配設された冷媒通路とをさらに備える、請求項2に記載の電圧変換装置。
【請求項4】
前記電源は、リチウムイオン電池を含む二次電池からなる、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電圧変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−148529(P2008−148529A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−335992(P2006−335992)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】