説明

電圧電流受電方式の列車検知装置

【課題】電圧受電部、又は、電流受電部が故障した状態で稼働を続けると装置の列車検知性能が著しく低下するが、従来の電圧電流受電方式の列車検知装置は各受電部が個別に故障すると、故障を検知できない。
【解決手段】電圧受電部6は電気ケーブル1と機器3からなり、電流受電部7は電気ケーブル2と機器4と検知コイル5からなる。列車検知信号を送信する送信器10から送信された列車検知信号の電圧成分Vを受信する電圧受電端と電流成分Iを受信する電流受電端を有する無絶縁軌道回路から、VとIを合成せずに受信器8、受信器9が演算部11に伝送する。演算部11ではIに係数Kを掛けた値KIとVを足し合わせたV+KIが扛上判定閾値より大きい時、列車の在線とし、落下判定閾値より小さいとき列車の非在線とする。列車検知処理で前記軌道回路を扛上と判定した時のみ各受電部の故障判定をする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧電流受電方式の列車検知装置において、電圧受信端から受信器までにあるケーブル・機器又は電流受信端から受信器までにあるケーブル・機器のケーブル断線・機器故障を検知する列車検知装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無絶縁軌道回路において、電圧受電方式の列車検知装置では列車検知信号を送信する送信端と軌道回路を介して列車検知信号を受信する受信端との間の軌道回路に列車の車軸が進入していなくても列車在線と判定してしまう場合がある。これは、前記軌道回路の送信端又は受信端の外方でレールを短絡させると受信端で受信する電圧が低下するためである。
【0003】
そこで、列車検知信号を受信する受信端の近くに列車検知信号の電流成分を受信する受信端を設置し、電圧成分と電流成分の合成値を列車検知に使用することにより列車検知性能を向上させた列車検知装置がある。列車が列車検知対象の軌道回路から遠方にあるとき、電圧成分と電流成分の合成値は電圧成分が支配的となり、合成値が十分大きな値となることから列車非在線を検知できる。列車が受信端に近づいたとき、電流成分が支配的となる。電流成分は電圧成分と比較して、軌道回路短絡の応答が良いため、電気的に絶縁されていない無絶縁軌道回路においても電圧受電方式の列車検知装置より列車検知性能の向上ができる。
【0004】
しかし、軌道回路は天候の影響を受け、電気特性は変化する。列車検知信号の減衰が最大の時、列車在線を誤検知しないように在線判定閾値を決定した場合、電圧成分のみ、又は、電流成分のみでも、在線判定閾値より大きくなる時がある。したがって、電圧受電部、又は、電流受電部が故障した場合、軌道回路が落下せず故障が潜在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−95108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術では、列車検知信号の減衰が最大の時、電圧成分のみ、又は、電流成分のみでも、在線判定閾値より大きくなる場合、電圧受電部、又は、電流受電部が故障した時、軌道回路が落下しないため故障が潜在する。どちらかの受電部が故障した状態で稼働を続けると装置の列車検知性能が著しく低下する。そこで、電圧受電部、又は、電流受電部の故障検知を可能にする必要があるが、従来の電圧電流受電方式の列車検知装置は電圧成分と電流成分を軌道回路近くにある合成トランスを用いて合成しているため、電圧受電部、又は、電流受電部の故障を検知できない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、電圧受電部と電流受電部の故障検知を可能にするため、電圧成分と電流成分を合成せずに受信器で受信して演算部に伝送することを特徴とする。
【0008】
本発明の列車検知装置は、列車検知信号を送信する送信端と前記列車検知信号の電圧成分を受信するための受信端と前記列車検知信号の電流成分を受信するための受信端を設置した無絶縁軌道回路において、前記送信端に接続した電気ケーブルを接続した送信器と、前記電圧成分を受信するための受信端に接続した電気ケーブルを接続した受信器と、前記電流成分を受信するための受信端に接続した電気ケーブルを接続した受信器と、を用いて、
前記送信器から送信した前記列車検知信号の電圧成分値と電流成分値とを前記受信器で取り込み、前記受信器に接続された演算部において、前記電圧成分値と前記電流成分値の変動を監視して、前記電圧受信端から受信器までに接続されているケーブル・機器である電圧受電部又は前記電流受信端から受信器までに接続されているケーブル・機器である電流受電部のケーブル断線・機器故障を検知する機能を備えていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の列車検知装置は、前記電圧受電部と前記電流受電部の故障検知結果を表示する機構を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電圧受電部、又は、電流受電部の故障検知を可能にすることで、故障の潜在を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明による電圧電流受電方式の列車検知装置において、実施例1の装置構成を示す図である。
【図2】図2は、本発明による電圧電流受電方式の列車検知装置において、実施例1の電圧電流受電故障が発生したときの受信レベルを示す図である。
【図3】図3は、本発明による電圧電流受電方式の列車検知装置において、実施例1の故障検知処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】図4は、本発明による電圧電流受電方式の列車検知装置において、実施例1の警報出力例を示す図である。
【図5】図5は、本発明による電圧電流受電方式の列車検知装置において、実施例1の送信器と受信器のハードウェア構成を示す図である。
【図6】図6は、本発明による電圧電流受電方式の列車検知装置において、実施例1の演算部の処理をブロック図で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の列車検知装置は、電流成分と電圧成分を演算部で合成するため、故障検知論理を持った演算部は各成分の変動を個別監視ができ、個別の故障検知を行えることで、列車検知性能が低下した状態での稼働を抑止することができる。以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0013】
前記の目的を達成するための本発明の実施例1を図1により説明する。図1は軌道回路と本発明の列車検知装置の構成図である。電気ケーブル1は電圧受信端と受信器8に接続され、電気ケーブル2は電流受信端と受信器9に接続されている。機器3は電圧受信端から受信器8までに存在し、機器4は電流受信端から受信器9までに存在する。実施例1では電流受信端として検知コイル5を用いている。電圧受電部6は電気ケーブル1と機器3からなっている。電流受電部7は電気ケーブル2と機器4と検知コイル5からなっている。送信器10は列車検知信号を送信する送信器である。
【0014】
列車検知信号の電圧成分を受信する電圧受電端と電流成分を受信する電流受電端を有する無絶縁軌道回路から、電圧成分と電流成分を合成せずに受信器8、受信器9が、電圧成分値Vと電流成分値Iをそれぞれ演算部11に伝送する。電圧成分値Vと電流成分値Iを演算部11で合成するように構成しているため、演算部11では各成分の変動を個別監視ができ、電圧受電部と電流受電部の故障検知を個別に行える。
【0015】
演算部11では電流成分値Iに係数Kを掛けた値KIと電圧成分値Vを足し合わせたV+KI(以下、足し合わせレベル)の値が扛上判定閾値より大きい時、列車の在線とし、落下判定閾値より小さいとき列車の非在線とする。無絶縁軌道回路は天候変化による軌道回路の乾湿に依存して漏れコンダクタンスが変動する。
【0016】
漏れコンダクタンスが最大になったときでも列車検知が行えるように、軌道回路が、乾燥時の足し合わせレベルを基に、落下判定閾値と扛上判定閾値を算出する。これを軌道回路調整と言う。軌道回路調整時に同時に電圧成分値Vを基に電圧受電部の故障判定閾値と電流成分値Iに係数Kを掛けた値KIを基に電流受電部の故障判定閾値を設定する。
【0017】
前記故障判定閾値は、列車接近に伴うV、KIの低下による誤検知をさけるため以下のように算出する。シミュレーション結果、又は、実測結果から得られた漏れコンダクタンスが最小時のV、KIの最大値と、シミュレーション結果、又は、実測結果から得られた漏れコンダクタンスが最大時における、軌道回路境界に列車が進入した直後のV、KIの最小値の差を軌道回路調整時のV,KIから引いたレベルを故障判定閾値とする。
【0018】
図2は、本発明による電圧電流受電方式の列車検知装置において、実施例1の電圧電流受電故障が発生したときの受信レベルを示す図である。図2で、電圧受電故障又は電流受電故障の場合、軌道回路を落下と判定できない状態を説明する。図2は軌道回路XTに対する列車位置と受信レベルの関係を示す図である。列車がXTに在線している時、足し合わせレベル21は落下判定閾値より小さくなり演算部11は軌道回路XTの落下を判定する。列車が軌道回路XTを進出した時、足し合わせレベル21は扛上判定閾値より大きくなり演算部11は軌道回路XTの非在線を判定する。足し合わせレベル21は、Vレベル23とKIレベル24を足し合わせて算出する。Vレベル23、KIレベル24共にケーブル・機器が正常時の受信レベルを示す。
【0019】
Vレベル25は電圧受電故障時のVレベルを示す。電圧受電故障が発生するとVレベル23はVレベル25まで低下し、足し合わせレベル21は足し合わせレベル22まで低下する。しかし、Vレベル25が0となったとしても、足し合わせレベル22は落下判定閾値を下回ることはない。したがって、演算部11は軌道回路落下を判定することができない。
【0020】
図3は電圧受電部の故障と電流受電部の故障を検知する論理を表したフローチャートである。列車が前記軌道回路に在線するとVは電圧受電部の故障判定閾値、KIは電流受電部の故障判定閾値より小さくなる。このため、足し合わせレベルによるステップS1の列車検知処理が、ステップS2で前記軌道回路を扛上と判定した時のみ各受電部の故障判定をする。このとき、列車在線中に受電部故障を判定することを防ぐために、落下判定時間よりも各受電部の故障判定時間を長くする。
【0021】
ステップS3で電圧成分値Vが電圧受電部故障判定閾値以下と判定した時、ステップS4で演算部11は表示部12に電圧受電部故障の表示を指令する。ステップS5でKIが電流受電部故障判定閾値以下と判定した時、S6で演算部11は表示部12に電流受電部故障の表示を指令する。
【0022】
図4は、本発明による電圧電流受電方式の列車検知装置において、実施例1の警報出力例を示す図である。表示部12は図4に示すように警報を表示する。
【0023】
図5は、本発明による電圧電流受電方式の列車検知装置において、実施例1で用いている送信器10と受信器8又は受信器9のハードウェア構成を示す。演算部11は受信器のCPU31と接続されており、送信指示を送信する。CPU31はDSP32に接続され、演算部11からの送信指示を元にDSP32に列車検知信号の送信を指示する。DSP32は列車検知信号を送信器のD/Aコンバータ33に送信する。
【0024】
前記列車検知信号はアンプ34で増幅され、BPF35で列車検知信号以外の周波数帯域をカットし、軌道回路側現場機器に送信される。軌道回路を経由して軌道回路側機器に返ってきた列車検知信号は、BPF36で列車検知信号以外の周波数帯域をカットされ、A/Dコンバータ37でデジタル信号に変換されDSP32が受信する。DSP32が受信した列車検知信号はCPU部を経由して、演算部11が受信する。
【0025】
図6に演算部11の処理をブロック図で示す。列車検知信号は列車検知信号入力部41で受信処理され、電圧レベル、電流レベルが電圧電流レベル記憶部42に記憶される。電圧電流受電故障検知部43は軌道回路状態記憶部44から軌道回路状態を参照し、当該軌道回路が扛上の場合、電圧電流レベル記憶部42から電圧レベル、電流レベルを参照し、電圧電流受電故障の検知処理を実行する。故障を検知した場合、警報出力部45に電圧電流受電故障の警報出力を指示する。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、軌道回路に受信端が2対ある装置において、個別に故障検知できる。
【符号の説明】
【0027】
1 電気ケーブル
2 電気ケーブル
3 機器
4 機器
5 検知コイル
6 電圧受電部
7 電流受電部
8 受信器
9 受信器
10 送信器
11 演算部
12 表示部
21 足し合わせレベル
22 足し合わせレベル
23 Vレベル
24 KIレベル
25 Vレベル
31 CPU
32 DSP
33 D/A
34 AMP
35 BPF
36 BPF
37 A/D

【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車検知信号を送信する送信端と前記列車検知信号の電圧成分を受信するための受信端と前記列車検知信号の電流成分を受信するための受信端を設置した無絶縁軌道回路において、
前記送信端に接続した電気ケーブルを接続した送信器と、前記電圧成分を受信するための受信端に接続した電気ケーブルを接続した受信器と、前記電流成分を受信するための受信端に接続した電気ケーブルを接続した受信器と、を用いて、
前記送信器から送信した前記列車検知信号の電圧成分値と電流成分値とを前記受信器で取り込み、
前記受信器に接続された演算部において、前記電圧成分値と前記電流成分値の変動を監視して、前記電圧受信端から受信器までに接続されているケーブル・機器である電圧受電部又は前記電流受信端から受信器までに接続されているケーブル・機器である電流受電部のケーブル断線・機器故障を検知する機能を備えていることを特徴とする列車検知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の列車検知装置において、
前記電圧受電部と前記電流受電部の故障検知結果を表示する機構を備えていることを特徴とする列車検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−989(P2011−989A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−146517(P2009−146517)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】