説明

電場増強光デバイス

【課題】微小共振器構造を有する電場増強光デバイスにおいて、複数の波長に対し共振可能となるように共振幅を拡大する。
【解決手段】電場増強光デバイスD3を、半透過半反射性を有する第1の反射層と、透過性を有する透光層と、反射性を有する第2の反射層とからなる微小共振器構造を有するように構成し、かつ微小共振器構造を、複数の波長に対して共振可能とするように光路長が異なる複数の共振領域W〜Zによって構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小共振器構造の光閉じ込め現象による電場増強を利用した電場増強光デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生物発光、化学発光、蛍光およびラマン散乱光などは微弱であるため、より高感度に検出するために測定光を局所に閉じ込めプラズモンを誘起し、このプラズモンの電場増強効果を利用して上記のような微弱な光を増強する技術が良く使われる。このような電場増強光デバイスの一例としては、ラマン分光法で使用され、表面においてラマン散乱光を増強する表面増強ラマンデバイスが挙げられる。表面増強ラマンデバイスを用いることにより、測定光の強度およびラマン散乱光そのものの強度が増強されるため、光学測定を高感度に実施することができる。
【0003】
一方、表面増強ラマンデバイスの他の形態の一つとして、局在プラズモン共鳴を利用するものがある。これは、金属体、特に表面にナノオーダの凹凸(金属微細凹凸構造)を有する金属体に物質を接触させた状態で光を照射すると、局在プラズモン共鳴による電場増強が生じ、金属体表面に接触された試料のラマン散乱光強度が増強されるというものであり、金属微細凹凸構造の規則性が高いほど、より均一性が高く効果的な電場増強が得られると言われている。このような表面に金属微細凹凸構造を作製する方法の一つとして、粒径均一性の高い金属微粒子を作製し、その金属微粒子を金属体の表面に固着させる方法が挙げられる。
【0004】
さらに、特許文献1に示されている通り、金属微粒子を用いることによって得られる局在プラズモン共鳴と、微小共振器構造を用いることによって得られる光共振とを利用し、より大きな表面増強ラマン効果を実現しているという報告もある。
【特許文献1】特表2004−530867号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、微小共振器構造を用いる電場増強光デバイスにおいて、一般的には測定試料や測定方法等の測定条件により必要とされる測定光の波長が異なるため、測定条件ごとに測定光の波長を変えなければならないが、この測定光の波長の変更に伴って、電場増強光デバイスそのものも取り替えなければならないという問題がある。これは、通常微小共振器はその構造によって光共振する測定光の波長(共振波長)が決まっているため、測定光の波長に合わせて微小共振器構造を選択する必要があるためである。
【0006】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、1つの電場増強光デバイスで測定光の波長変更に対応するため、複数の波長に対して光共振が可能な微小共振器構造を有する電場増強光デバイスの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明者は、微小共振器構造内に複数の共振領域を持たせることに注目して、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明による散乱光検出方法は、透過性を有する透光層と、透光層の片面に形成された半透過半反射性を有する第1の反射層と、透光層の他の面に形成された反射性を有する第2の反射層とからなる微小共振器構造を有する電場増強光デバイスであって、
微小共振器構造が、第1の反射層と第2の反射層との間の光路長が異なる複数の共振領域を有するものであり、
第1の反射層に対して透光層とは反対の側から、第1の反射層に測定光を照射することにより第1の反射層と第2の反射層との間で光共振を生じせしめることを特徴とするものである。
【0009】
ここで、「半透過半反射性」とは、透過性と反射性を共に有する性質を意味するものとし、透過率と反射率は共に0%より大きく100%未満の範囲で任意である。
【0010】
「微小共振器構造」とは、内部に取り込まれた測定光の多重反射による多重干渉によって光共振を生じる共振器構造であって、共振器長が測定光の波長程度に微小のものを意味するものとする。
【0011】
「光路長」とは、透光層の屈折率nと共振器長dを用いて表されるndを意味するものとする。なお、「共振器長」とは、第1の反射層と透光層との界面から第2の反射層と透光層との界面までの長さ(或いは、透光層の厚さ)を意味するものとする。
【0012】
「共振領域」とは、微小共振器構造中の光路長が等しい部分の総称を意味するものとする。
【0013】
そして、本発明による電場増強光デバイスにおいて、共振領域は、複数の微小共振領域から構成されるものであることが好ましく、微小共振領域は、微小共振器構造中に略均一に配置されたものであることが好ましい。
【0014】
ここで、「微小共振領域」とは、複数に分割された共振領域のそれぞれの部分であって、測定光の照射領域以下程度に微小のものを意味するものとする。
【0015】
さらに、光路長は、それぞれの共振領域の透光層の誘電率の差によって異なるものであることが好ましく、或いは、それぞれの共振領域の共振器長の差によって異なるものであることが好ましい。
【0016】
そして、第1の反射層は、透光層の表面にパターン形成された金属層からなるものであることが好ましく、或いは、透光層の表面に複数の非凝集金属微粒子が固着されて形成される金属層からなるものであることが好ましい。
【0017】
また、透光層は、第1の反射層側の面において開口した複数の微細孔を有する微細孔体からなるものであることが好ましい。
【0018】
さらに、可視領域〜近赤外領域の測定光に光共振することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明による電場増強光デバイスによれば、複数の波長に対して光共振が可能となるように微小共振器構造内に複数の共振領域を設けることにより、測定光の波長変更に伴って電場増強光デバイスを取り替える必要がなくなる。これにより、光学測定を低コスト化かつ簡素化することが可能となる。さらに、波長幅を持つ光に対しては、より広い波長領域の光を利用することができ、光学測定の効率を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明における最良の実施形態について図面を用いて説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
【0021】
「電場増強光デバイス」
まず、図を用いて本発明の基本となる電場増強光デバイスの原理を説明する。
【0022】
図1Aは基本的な電場増強光デバイスの概略斜視図であり、図1Bは図1AにおけるA−A’を通る厚み方向断面図である。
【0023】
図1Aに示すように、この電場増強光デバイスD1は、測定光L1の入射側(図示上側)から、半透過半反射性を有し試料が供給される第1の反射層10と、透過性を有する透光層20と、反射性を有する第2の反射層30とを順次備えたデバイス構造を有する。測定光L1は、波長光或が波長幅を持つ光であり、波長は検出する物質に応じて選択される。
【0024】
例えば、透光層20は透光性平坦基板からなり、第1の反射層10は透光層20の一方の面に形成された、規則的な格子状パターンの金属細線11からなり、第2の反射層30は透光層20の他方の面に形成されたベタ金属膜からなる。
【0025】
この場合、透光層20の材質は特に制限なく、ガラスやアルミナ等の透光性セラミック、アクリル樹脂やカーボネート樹脂等の透光性樹脂等が挙げられる。透光層20の厚さdは、多重干渉による可視光領域の吸収ピーク波長が1つとなり容易に検出可能であることから300nm以下が好ましく、多重反射が効果的に起こりかつ多重干渉による吸収ピーク波長が可視光領域で容易に検出可能であることから100nm以上が好ましい。
【0026】
第1の反射層10及び第2の反射層30の材質としては、任意の反射性金属を使用でき、Au、Ag、Cu、Al、Pt、Ni、Ti、及びこれらの合金等が挙げられる。第1の反射層10及び第2の反射層30はこれら反射性金属を2種以上含むものであってもよい。
【0027】
第1の反射層10は、例えば金属蒸着等によりベタ金属膜を成膜した後、公知のフォトリソグラフィー加工を実施することで形成でき、第2の反射層30は、例えば金属蒸着等により成膜できる。
【0028】
第1の反射層10は、金属細線11自体は反射性金属からなるが、複数存在するパターン空隙12が光を透過させるため、半透過半反射性を有する。金属細線11のピッチは、測定光L1の波長よりも小さい条件を充足すれば特に制限なく、測定条件、特に測定光L1の波長等によって適宜選択することができる。例えば、測定光L1として可視光を用いる場合には200nm以下が好ましい。金属細線11の線幅は、特に制限はないが、光によって金属中で振動する電子の平均自由行程以下であることが好ましく、具体的には50nm以下、特に30nm以下であることが好ましい。金属細線11の線幅及びピッチが測定光L1の波長よりも小さく設計された場合、すなわち第1の反射層10が測定光L1の波長よりも小さい凹凸構造を有する場合、第1の反射層10は、光に対して電磁メッシュシールド機能を有する半透過半反射性の薄膜となる。
【0029】
この電場増強光デバイスD1は、透光層20の厚みと透光層20内の平均屈折率とに応じて共振波長を変化させることができる。透光層20の厚みと透光層20内の平均屈折率と共振波長とは下記式(1)を略充足している。従って、透光層20内の平均屈折率が同じものであれば、透光層20の厚みを変えるだけで共振波長を変化させることができる。
λ≒2nd/(m+1)・・・(1)
(式中、dは透光層20の厚み、λは共振波長、nは透光層20内の平均屈折率、mは整数である。)
【0030】
なお、後述する透光層20が微細孔を有するような場合は、上記式(1)の「透光層20内の平均屈折率」とは、陽極酸化金属体の屈折率とその微細孔内の物質(微細孔内に特に充填物質がない場合には空気、微細孔内に充填物質がある場合には充填物質/又は充填物質と空気)の屈折率とを合わせて平均化した平均屈折率を意味する。
【0031】
屈折率は、材料に吸収がある場合は複素屈折率で表すが、透光層20において複素部分はゼロであり、透光層20が微細孔を有する場合にも、微細孔内の充填物質による影響は小さいため、上記(1)式においては、複素部分を持たない屈折率表示とした。
【0032】
共振条件は、第1の反射層10及び第2の反射層30の物理特性や表面状態によっても変化するが、この変化の大きさは、透光層20の厚み及び透光層20内の平均屈折率による影響に比して小さいため、数nmオーダーの精度で上記式により共振波長を決定することができる。
【0033】
以下、この電場増強光デバイスの作用を説明する。
図1Bに示すように、電場増強光デバイスD1に測定光L1が入射すると、第1の反射層10の透過率又は反射率に応じて、一部は第1の反射層10の表面で反射され(図示略)、一部は第1の反射層10を透過して透光層20に入射する。透光層20に入射した光は、第1の反射層10と第2の反射層30との間で反射を繰り返す。すなわち、電場増強光デバイスD1は、第1の反射層10と第2の反射層30との間で多重反射が起こる微小共振器構造を有している。従って、透光層20の中で多重反射光による多重干渉が起こり、共振条件を満たす共振波長において光共振し、共振波長の光を吸収する吸収特性を示す。そして吸収特性に応じた、測定光L1と異なる物理特性の出射光L2が出射される。さらに、微小共振器構造内の電場が増強されると共に、光散乱面である第1の反射層10表面においても効果的な電場増強効果を得ることができる。
【0034】
またこの電場増強光デバイスでD1は、透光層20内における多重反射回数(フィネス)が最大となるよう、光インピーダンスマッチングをとったデバイス構造とすることが好ましい。かかる構成とすることで、吸収ピークがシャープになり、より効果的な表面増強効果が得られる。
【0035】
さらに、この電場増強光デバイスD1では、第1の反射層10が自由電子を有する金属からなり、測定光L1の波長よりも小さい金属微細凹凸構造を有するので、第1の反射層10において局在プラズモン共鳴が誘起される。これにより、光散乱面の表面においてさらなる電場増強効果を得ることができる。
【0036】
局在プラズモン共鳴は、金属の自由電子が光の電場に共鳴して振動することで電場を生じる現象である。特に金属微細凹凸構造を有する金属層では、凸部の自由電子が光の電場に共鳴して振動することで凸部周辺に強い電場を生じ、局在プラズモン共鳴が効果的に起こるとされている。本実施形態では、上記のとおり第1の反射層10が測定光L1の波長より小さい金属微細凹凸構造を有するので、局在プラズモン共鳴が効果的に起こる。
【0037】
局在プラズモン共鳴が生じる波長においては、測定光L1の散乱や吸収が著しく増大し、上記多重干渉による光共振と同様、光散乱面において電場が増強される。この局在プラズモン共鳴が生じる波長(共鳴ピーク波長)、及び測定光L1の散乱や吸収の程度は、電場増強光デバイスD1の表面の凹凸のサイズ、金属の種類及び表面に接触された試料の屈折率等に依存する。
【0038】
例えば、この電場増強光デバイスD1は、第1の反射層10の光散乱面における電場増強効果を利用して、光散乱面に接触させた試料又は試料セルに測定光L1を照射してラマン散乱光を分析する、表面増強ラマン分光法等に用いることができる。
【0039】
表面増強ラマン分光法においては、表面増強ラマン効果を得る共鳴波長(以下、ラマン増強波長という)にその測定光の波長を一致させることにより、より効果的な表面増強ラマン効果を得ることができる。従って、測定試料によって照射する測定光の波長を変化させる必要がある表面増強ラマン分光法において、電場増強光デバイスは測定光の波長に応じて設計されていることが好ましい。
【0040】
ただ、通常ラマン増強波長の制御は、例えば、局在プラズモン共鳴を用いたデバイスの場合は、金属微細凹凸構造のサイズの精密な制御が必要であり、複雑なプロセスを要することになる。
【0041】
しかしながら、この電場増強光デバイスD1は、式(1)に示されるように、共振波長が透光層20の平均屈折率と厚みとに応じて変わるので、これらのファクタを変化させるだけの簡易な設計変更によってラマン増強波長が変化する。したがって、この電場増強光デバイスD1によれば、用途に応じた所望の波長において表面増強ラマン効果を有する電場増強光デバイスD1を、複雑なデバイス設計を要さず、簡易に得ることができる。
【0042】
この電場増強光デバイスD1では、多重干渉が効果的に起こり、特定波長の光に対して強い吸収が起こるので、局在プラズモン共鳴のみを利用した電場増強光デバイスに比して表面増強ラマン効果が大きく(例えば、100倍以上の増強効果)、高精度分析を実施できる。
【0043】
なお、多重干渉による吸収ピークと局在プラズモン共鳴による吸収ピークは異なる波長に現れる場合もあるし、重なる場合もある。
【0044】
第1の反射層10及び第2の反射層30の材質としては、金属以外の反射性材料を用いてもよいが、第1の反射層10は、上記の如く、局在プラズモン共鳴による表面増強ラマン効果も得られる金属が好ましい。
【0045】
上記のような場合には、多重干渉による共振と局在プラズモン共鳴が生じており、それぞれ独立の現象により生ずる表面増強ラマン効果が得られることを述べたが、これらの現象の相互作用または上記デバイス構成特有の現象により、表面増強ラマン効果が強められていることも考えられる。
【0046】
また、この電場増強光デバイスD1において、第1の反射層10が規則的な格子状パターンの場合について説明したが、第1の反射層10のパターン形状は任意であり、ランダムパターンでもよい。ただし、構造規則性が高い方が微小共振器構造の面内均一性が高く、特性が集約されるので好ましい。
【0047】
そして、上記では、透光層20および第2の反射層30において、それぞれ透光性平坦基板およびベタ金属膜の場合について説明したが、これらは金属体の一部を酸化させたもの等を用いてもよい。つまり、この場合、酸化させた金属体の一部が透光層20となり、残りの金属体が第2の反射層30となる。
【0048】
一方、第1の反射層10は、規則的な格子状パターンの金属細線11に代えて、マトリクス状に略規則配列して固着された複数かつ非凝集の金属微粒子Bによって構成してもよい(図2)。
【0049】
この場合には、前述した金属細線11の場合と同様に、構造規則性が高い方が微小共振器構造の面内均一性が高く、特性が集約されるので好ましい。金属微粒子Bが凝集粒子を含む場合は、多数の金属微粒子Bが凝集してできた部分と、そうでない部分とが存在し、第1の反射層10の構造規則性が低くなりやすいが、本実施形態の金属微粒子Bは非凝集金属微粒子であるため、凝集粒子を含む場合に比して高い構造規則性を有する第1の反射層10を容易に形成することができる。
【0050】
金属微粒子Bの材料は制限なく、前述の第1の反射層10と同様の金属、すなわちAu、Ag、Cu、Al、Pt、Ni、Ti、及びこれらの合金等が例示できる。
【0051】
また、金属微粒子Bは非凝集金属微粒子であるので、(1)金属微粒子同士が会合せず、金属微粒子同士が離間されて存在しているもの、あるいは(2)金属微粒子が結合した後に一体の粒子となり、再びもとの状態には戻せないもの、の何れかに含まれる金属微粒子である。
【0052】
(1)の金属微粒子Bが複数固着された第1の反射層10としては、金属微粒子B同士が会合しないように一定の距離以上離間されて配置された金属層が挙げられる。この金属層において、金属微粒子Bの配置は、ランダムでも略規則的な配列を有していてもよい。
【0053】
金属微粒子Bがランダムに配置された金属層としては、例えば斜め蒸着法等により得られる島状パターンの金属層等が挙げられる。
【0054】
また、金属微粒子Bが略規則配列された金属層としては、ドット状、メッシュ状、ボウタイ形状アレイ、針状の金属微粒子Bが略規則配列されるようにパターニングされたものなどが挙げられる。これらの場合のパターニングは、リソグラフィや集束イオンビーム法(FIB法)等による加工及び自己組織化を利用する方法等により実施することができる。
【0055】
(2)の金属微粒子Bが複数固着された第1の反射層10としては、融着やメッキ処理による金属成長の過程において一体化して形成され、再び一体化する前の状態には戻すことのできない金属微粒子Bが複数固着されたものが挙げられる。
【0056】
また第1の反射層10は、上記した以外に、透光層20の表面に金属微粒子Bの分散溶液をスピンコート法等により塗布し乾燥することによっても形成できる。分散溶液に樹脂や蛋白質等のバインダを含有させ、バインダを介して金属微粒子Bを透光層20の表面に固着させることが好ましい。バインダとして蛋白質を用いる場合には、蛋白質同士の結合反応を利用して、金属微粒子Bを透光層20の表面に固着させることも可能である。
【0057】
複数の金属微粒子Bからなる第1の反射層10は、反射性金属からなるが、粒子間の空隙を複数有しているので光透過性を有し、半透過半反射性を有する。金属微粒子Bの径及びピッチは測定光L1の波長よりも小さく設計されており、第1の反射層10は測定光L1の波長よりも小さい金属微細凹凸構造を有するものとなっている。本実施形態においても、第1の反射層10は、金属微細凹凸構造が光の波長よりも小さいので、電磁メッシュシールド機能を有する半透過半反射性の薄膜となる。
【0058】
以上のように、複数の金属微粒子Bからなる第1の反射層10を有する電場増強光デバイスD2においても、電場増強光デバイスD1と同様の効果を得ることができる。
【0059】
<第1の実施形態>
図3は、本実施形態による微小共振器構造を有する電場増強光デバイスを示す概略斜視図である。
【0060】
本実施形態による電場増強光デバイスD3は、4つの共振領域W〜Zからなる微小共振器構造を有している。そして、4つの共振領域W〜Zは、すべて光路長が異なるように形成されており、それぞれが別々の共振波長を有するため、全体として共振波長の共振幅(共振波長スペクトルの半値幅)が拡大する。
【0061】
これにより、測定光L1が単波長の場合には、測定光L1の照射領域をいずれかの共振領域W〜Zに合わせるように光学系を調整すれば、1つの電場増強光デバイスD3で4種類の共振波長に対応することができることになる。この結果、測定光L1の波長変更に伴って電場増強光デバイスを取り替える必要がなくなり、光学測定を低コスト化かつ簡素化することが可能となる。当然、共振領域の数が増えれば、より多くの共振波長に対応することができることになる。
【0062】
一方、測定光L1が波長幅を持つ光の場合には、丁度図3に示すように、4つの共振領域W〜Zを均等に含むように光学系を調整すれば、1つの電場増強光デバイスD3で波長幅を持つ光L1のうちより広い波長領域の光を利用することができ、光学測定の効率を向上させることが可能となる。
【0063】
さらに、1つの電場増強光デバイスD3で多くの共振波長に対応することができて、多種類の試料を測定の対象とすることができることから、この電場増強光デバイスD3の効率的な量産化を実現可能とする
<第2の実施形態>
図4は、本実施形態による微小共振器構造を有する電場増強光デバイスを示す概略斜視図である。
【0064】
本実施形態による電場増強光デバイスD4は、4つの共振領域W〜Zを有し、かつこれらの共振領域が複数の微小共振領域W’〜Z ’に分割され均一に配置された微小共振器構造を有している。4つの共振領域W〜Zは、第1の実施形態と同様に、すべて光路長が異なるように形成されており、それぞれが別々の共振波長を有するため、全体として共振波長の共振幅が拡大する。
【0065】
微小共振領域W’〜Z ’のそれぞれの大きさは、特に制限はないが、測定光L1の照射領域よりも小さいことが好ましい。
【0066】
これにより、電場増強光デバイスD4の光散乱面の任意の場所を測定光L1によって照射しても、照射領域内にすべての共振領域W〜Zが略均等に含まれるようにできるため、光学系の調整をする必要がなくなる。この結果、光学測定の工程を簡素化することが可能となる。
【0067】
そして、以下において微小共振器構造の例について、図面を用いて説明する。
【0068】
<第3の実施形態>
図5は、本実施形態による微小共振器構造を有する電場増強光デバイスを示す概略斜視図である。本実施形態において、前述した基本となる電場増強光デバイスD1およびD2の場合と同様の要素についての説明は、特に必要のない限り省略する。
【0069】
本実施形態による電場増強光デバイスD5は、第2の反射層30と、平坦な第2の反射層30上に形成された、厚さがd1およびd2の階段状構造を有する透光層20と、透光層20の階段状構造のそれぞれのステップ面上に形成された複数の金属微粒子Bからなる第1の反射層10とからなるものである。透光層20の厚さがd1およびd2である共振領域をそれぞれ共振領域Wおよび共振領域Xとする。
【0070】
階段状構造を有する透光層20の厚さd1およびd2は、それぞれ特に制限されることなく、透光層20を構成する材料の誘電率および測定条件、特に測定光の波長によって適宜選択することができる。
【0071】
そして、本実施形態による電場増強光デバイスD5の製造方法は、例えば金属体40から出発し(図6A)、金属体40上に誘電体材料を堆積して厚さd2の誘電体膜41を形成し(図6B)、共振領域Xとしたい部分の誘電体膜41上にマスクMを形成し(図6C)、ドライ或はウェットエッチングによりマスクMのない部分の厚さがd1となるように誘電体膜41を成形した後マスクMを除去し(図6D)、その後複数の金属微粒子Bを誘電体膜41の階段状構造のそれぞれのステップ面上に固着する(図5)ものである。
【0072】
ここで、上記の方法によって製造された電場増強光デバイスD5において、複数の金属微粒子B、誘電体膜41および金属体40が、それぞれ第1の反射層10、透光層20および第2の反射層30となる。
【0073】
金属体40の材料は、特に制限されるものではないが、Al、Ti、W、Pt、Cr、Ni、Cu等であることが好ましい。
【0074】
誘電体膜41の材料は、透光性誘電体層として、必要とする反射および透過波長帯、反射率等に応じて適宜選択することができ、特に、SiO、MgF、NaAlF、TiO、ZrO、Ta、ZnS、ZnSe、ZnTe、Si、Ge、Y、Alからなる群より選択される少なくとも1種の材料であることが好ましい。また、誘電体膜41の構造は、上記の材料を用いて形成される層によって積層された構造とすることもできる。さらに、誘電体膜41の成膜方法は、透光性誘電体層の形成方法については特に限定はなく、例えば真空蒸着法やIAD(Ion Assisted Deposition)法やIP(Ion Plating)法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、スパッタリング法などの従来公知の方法を用いることができる。
【0075】
なお、金属微粒子Bの材料、径の大きさおよび固着方法等は前述した通りである。
【0076】
一方、本実施形態による電場増強光デバイスD5は、金属体40の酸化を利用した方法を用いても製造することができる。すなわち、金属体40の酸化を利用した電場増強光デバイスD5の製造方法は、例えば金属体(Al)40から出発し(図6A)、金属体(Al)の一部を無孔質型の陽極酸化処理を施すことにより厚さd2の陽極酸化金属体(Al)41を形成し(図6B)、共振領域Xとしたい部分の陽極酸化金属体(Al)41上にマスクMを形成し(図6C)、ドライ或はウェットエッチングによりマスクMのない部分の厚さがd1となるように陽極酸化金属体(Al)41を成形した後マスクMを除去し(図6D)、その後複数の金属微粒子Bを陽極酸化金属体(Al)41の階段状構造のそれぞれのステップ面上に固着する(図5)ものである。
【0077】
ここで、上記の方法によって製造された電場増強光デバイスD5において、複数の金属微粒子B、陽極酸化金属体(Al)41および金属体40が、それぞれ第1の反射層10、透光層20および第2の反射層30となる。
【0078】
陽極酸化は、アルミニウムを陽極とし、陰極と共に電解液に浸漬させ、陽極陰極間に電圧を印加することで実施できる。金属体(Al)40の形状は制限されず、板状等が好ましい。また、支持体の上に金属体(Al)40が層状に成膜されたものなど、支持体付きの形態で用いることも差し支えない。陰極としてはカーボンやアルミニウム等が使用される。
【0079】
陽極酸化皮膜の皮膜構造は、電解液の種類、電流密度および液温等の条件により異なるため、通常電解液は、多孔質型(ポーラス型)の処理か、或いは無孔質型(バリヤー型)の処理かによって適宜選択される。一般的に、皮膜溶解性の高い電解液で処理を行うと多孔質型の皮膜が生成する。多孔質型の電解液としては、硫酸、シュウ酸、リン酸およびクロム酸等を挙げることができる。多孔質皮膜は、緻密で無孔質な下層と多孔質な上層からなっている。一方、無孔質型は、ホウ酸や酒石酸アンモニウム等主に中性溶液で処理を行うと生成する。
【0080】
なお、金属体40の主成分としてAlのみを挙げたが、陽極酸化可能で生成される金属酸化物が透光性を有するものであれば、任意の金属が使用できる。Al以外では、Ti、Ta、Hf、Zr、Si、In、Zn等が使用できる。金属体40は、陽極酸化可能な金属を2種以上含むものであってもよい。
【0081】
以下、本実施形態による電場増強光デバイスD5の作用を説明する。
【0082】
上記のような方法により、本実施形態による電場増強光デバイスD5は、厚さがd1およびd2の階段状構造を有する透光層20によって、それぞれ共振波長の異なる共振領域Wおよび共振領域Xにより構成され、全体として共振波長の共振幅が拡大する。
【0083】
したがって、第1の実施形態と同様に、単波長の測定光を用いた光学測定では、複数の共振波長に対応することができ、この結果、測定光L1の波長変更に伴って電場増強光デバイスD5を取り替える必要がなくなり、光学測定を低コスト化かつ簡素化することが可能となる。さらに、測定光L1が波長幅を持つ光の場合には、光学系を調整すれば、1つの電場増強光デバイスD5で波長幅を持つ光L1のうちより広い波長領域の光を利用することができ、光学測定の効率を向上させることが可能となる。
【0084】
そして、透光層20の中で多重反射光による多重干渉が起こり、共振条件を満たす特定波長において共振し、共振波長の光を吸収する吸収特性を示す。そして吸収特性に応じた、測定光L1と異なる物理特性の出射光L2が出射される。さらに、微小共振器構造内の電場が増強されると共に、光散乱面である第1の反射層10表面においても効果的な電場増強効果を得ることができる。
【0085】
さらに、この電場増強光デバイスでD5は、第1の反射層10が自由電子を有する金属からなり、測定光L1の波長よりも小さい金属微細凹凸構造を有するので、第1の反射層10において局在プラズモン共鳴が誘起される。これにより、光散乱面の表面においてさらなる電場増強効果を得ることができる。
【0086】
なお、本実施形態において、厚さがd1およびd2の階段状構造を有する透光層20によってそれぞれ共振波長の異なる領域を、共振領域Wおよび共振領域Xとして説明してきたが、これらは微小共振領域W’および微小共振領域X’としてもよい。つまりこの場合には、図5は、複数の微小共振領域W’および微小共振領域X’を有する電場増強光デバイスD5の一部を示す概略斜視図となり、この電場増強光デバイスD5によって第2の実施形態と同様の効果が得られる。
【0087】
<第4の実施形態>
図7は、本実施形態による微小共振器構造を有する電場増強光デバイスを示す概略斜視図である。本実施形態は、電場増強光デバイスD7の階段状構造のステップ境界面が、透光層20と第2の反射層30との間にある点で第3の実施形態と異なる。よって、その他の第3の実施形態と同様の要素についての説明は特に必要のない限り省略する。
【0088】
本実施形態による電場増強光デバイスD7は、階段状構造を有する第2の反射層30と、第2の反射層30の階段状構造の上に相補的に形成され、厚さがd1およびd2の逆階段状構造を有する透光層20と、透光層20上に形成された複数の金属微粒子Bからなる第1の反射層10とからなるものである。透光層20の厚さがd1およびd2である共振領域をそれぞれ共振領域Wおよび共振領域Xとする。
【0089】
そして、本実施形態による電場増強光デバイスD7の製造方法は、例えば金属体40から出発し(図8A)、共振領域Wとしたい部分の金属体40上にマスクMを形成し(図8B)、ドライ或はウェットエッチングによりマスクMのない部分の厚さがd2−d1(d2>d1)となるように金属体40を成形した後マスクMを除去し(図8C)、階段状構造となった金属体40上に誘電体材料を堆積して厚さd2の誘電体膜41を形成し(図8D)、誘電体膜41のうち厚さがd1となる部分を形成するように誘電体膜41を図中線Cの位置で表面を研磨し(図8E)、その後複数の金属微粒子Bを平坦となった誘電体膜41上に固着する(図7)ものである。
【0090】
ここで、上記の方法によって製造された電場増強光デバイスD7において、複数の金属微粒子B、誘電体膜41および金属体40が、それぞれ第1の反射層10、透光層20および第2の反射層30となる。
【0091】
誘電体41の研磨の方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、化学機械研磨が挙げられる。化学機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)処理を行うことにより、誘電体膜の表面を平坦化することができる。CMP処理には、フジミインコーポレイテッド社製のPNANERLITE−7000、日立化成社製のGPXHSC800、旭硝子(セイミケミカル)社製のCL−1000等のCMPスラリーを用いることができる。
【0092】
一方、本実施形態による電場増強光デバイスD7は、金属体40の酸化を利用した方法を用いても製造することができる。すなわち、金属体40の酸化を利用した電場増強光デバイスD7の製造方法は、例えば金属体(Al)40から出発し(図8A)、共振領域Wとしたい部分の金属体(Al)40上にマスクMを形成し(図8B)、ドライ或はウェットエッチングによりマスクMのない部分の厚さがd2−d1(d2>d1)となるように金属体40を成形した後マスクMを除去し(図8C)、階段状構造となった金属体(Al)40の一部を陽極酸化することにより厚さd2の陽極酸化金属体(Al)41を形成し(図8D)、陽極酸化金属体(Al)41のうち厚さがd1となる部分を形成するように陽極酸化金属体(Al)41を図中線Cの位置で表面を研磨し(図8E)、その後複数の金属微粒子Bを平坦となった陽極酸化金属体(Al)41上に固着する(図7)ものである。
【0093】
ここで、上記の方法によって製造された電場増強光デバイスD7において、複数の金属微粒子B、陽極酸化金属体(Al)41および金属体40が、それぞれ第1の反射層10、透光層20および第2の反射層30となる。
【0094】
陽極酸化金属体(Al)41の研磨の方法は、エッチング除去法またはCMP法を用いる。製造の容易さの点では、エッチング法、具体的にはウェットエッチング法が好ましく、フッ酸、リン酸/塩酸混酸、水酸化ナトリウム等を用いることができる。
【0095】
以下、本実施形態による電場増強光デバイスD7の作用を説明する。
【0096】
上記のような方法により、本実施形態による電場増強光デバイスD7は、厚さがd1およびd2の階段状構造を有する透光層20によって、それぞれ共振波長の異なる共振領域Wおよび共振領域Xにより構成され、全体として共振波長の共振幅が拡大する。
【0097】
したがって、本実施形態においても、第3の実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、本実施形態においては、試料を供給する面(第1の反射層10の表面)が平坦な構造となるため、より試料の取り扱いが容易となる。
【0098】
<第5の実施形態>
図9は、金属体(Al)40に多孔質型の陽極酸化処理を行うことによって、金属体(Al)40の一部を陽極酸化金属体(Al)41にしたものを示す斜視図であり、陽極酸化金属体(Al)41中には微細孔41aが形成されている。
【0099】
金属体40を陽極酸化すると、表面からこの面に対して略垂直方向に酸化反応が進行し、陽極酸化金属体(Al)41が生成される。陽極酸化により生成される陽極酸化金属体(Al)41は、多数の平面視的に略正六角形状の微細柱状体が隙間なく配列した構造を有するものとなる。各微細柱状体の略中心部には、表面から深さ方向に略ストレートに延びる微細孔41aが開孔され、各微細柱状体の底面は丸みを帯びた形状となる。
【0100】
陽極酸化により生成される陽極酸化皮膜の構造は、益田秀樹、「陽極酸化法によるメソポーラスアルミナの調製と機能材料としての応用」、材料技術Vol.15,No.10、1997年、p.34等に詳細に記載されている。
【0101】
規則配列構造の陽極酸化金属体(Al)41を生成する場合の好適な陽極酸化条件例としては、電解液としてシュウ酸を用いる場合、電解液濃度0.5M、液温14〜16℃、印加電圧40〜40±0.5V等が挙げられる。この条件で生成される微細孔21は例えば、径が5〜200nm、ピッチが10〜400nmである。
【0102】
微細孔41aのピッチは測定光L1の波長よりも小さい条件を充足すれば特に制限なく、測定光L1として可視光を用いる場合には例えば200nm以下が好ましい。
【0103】
以下、本実施形態では、この微細孔41aを有する陽極酸化金属体(Al)41および処理されていない金属体(Al)40が、それぞれ透光層20および第2の反射層30となる。
【0104】
図10Fは、本実施形態による微小共振器構造を有する電場増強光デバイスを示す概略断面図である。本実施形態は、透光層20が微細孔41aを有している点で第4の実施形態と異なる。よって、その他の第4の実施形態と同様の要素についての説明は特に必要のない限り省略する。
【0105】
本実施形態による電場増強光デバイスD10は、階段状構造を有する金属体(Al)40と、金属体(Al)40の階段状構造の上に相補的に形成され、厚さがd1およびd2の逆階段状構造を有しかつ微細孔41aを有する陽極酸化金属体(Al)41と、微細孔41aの中に充填された金属材料70と、陽極酸化金属体(Al)41上に形成された複数の金属微粒子Bからなる金属層とからなるものである。陽極酸化金属体(Al)41(透光層20)の厚さがd1およびd2である共振領域をそれぞれ共振領域Wおよび共振領域Xとする。
【0106】
微細孔41aには、金属材料70が充填されており、充填される金属は金属であれば特に制限されず、Au、Ag、Cu、Al、Pt、NiおよびTi等が好ましく、AuおよびAgが特に好ましい。
【0107】
そして、本実施形態による電場増強光デバイスD10の製造方法は、例えば金属体40から出発し(図10A)、共振領域Wとしたい部分の金属体40上にマスクMを形成し(図10B)、ドライ或はウェットエッチングによりマスクMのない部分の厚さがd2−d1(d2>d1)となるように金属体40を成形した後マスクMを除去し(図10C)、階段状構造となった金属体(Al)40の一部に多孔質型の陽極酸化処理を施すことにより微細孔41aを有する厚さd2の陽極酸化金属体(Al)41を形成し(図10D)、陽極酸化金属体(Al)41のうち厚さがd1となる部分を形成するように陽極酸化金属体(Al)41を図中線Cの位置で表面を研磨し(図10E)、金属材料70によって微細孔41aを充填しその後複数の金属微粒子Bを平坦となった陽極酸化金属体(Al)41上に固着する(図10F)ものである。
【0108】
微細孔41aに金属材料を充填する方法は、例えば電気メッキにより行うことができる。電気メッキにより行う場合には、微細孔41aの底の導通性を確保しておく必要がある。導通性を確保する方法としては、例えば陽極酸化処理を行う際に微細孔41aの底の陽極酸化金属体(Al)41が特に薄くなるように条件を制御する方法、陽極酸化処理を複数回繰り返すことにより上記底の陽極酸化金属体(Al)41を薄くする方法、或いは上記底の陽極酸化金属体(Al)41をエッチングにより除去する方法などが考えられる。電気メッキは、微細孔41aを有する金属体をメッキ液中で処理することにより行う。陽極酸化金属体(Al)41が非導電性であるのに対し、微細孔41aの底は上記処理により導通性が確保されている。このため、電場が強い微細孔41a内において優先的にメッキ金属材料が析出され、微細孔41aにメッキ金属材料が充填される。
【0109】
以下、本実施形態による電場増強光デバイスD10の作用を説明する。
【0110】
上記のような方法により、本実施形態による電場増強光デバイスD10は、厚さがd1およびd2の階段状構造を有する透光層20によって、それぞれ共振波長の異なる共振領域Wおよび共振領域Xにより構成され、全体として共振波長の共振幅が拡大する。
【0111】
したがって、本実施形態においても、第4の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0112】
さらに、微細孔41aに金属材料70が充填されているため、第4の実施形態とは透光層20の誘電率が異なる。すなわち、透光層20中の誘電率を制御することにより、共振波長の微調整が可能となる。例えば、Au、Ag等の金属は、可視領域から近赤外線領域で屈折率が小さいので、金属充填することにより、微小共振器構造の共振波長が調整しやすくなる。
【0113】
また、微細孔41aに充填された金属材料70に表面の金属微粒子Bを吸着させることにより、金属微粒子Bの配列の規則性を向上させると共に、陽極酸化金属体(Al2O3)41との密着性を向上させることができる。
【0114】
<第6の実施形態>
図11Fは、本実施形態による微小共振器構造を有する電場増強光デバイスを示す概略断面図である。本実施形態は、各共振領域の光路長の差異をそれぞれの領域における透光層20の誘電率の差によって設けている点で第5の実施形態と異なる。よって、その他の第5の実施形態と同様の要素についての説明は特に必要のない限り省略する。
【0115】
本実施形態による電場増強光デバイスD11は、金属体(Al)40と、金属体(Al)40上に形成された、微細孔41aを有する厚さdの陽極酸化金属体(Al)41と、微細孔41aの中に充填された第1の金属材料70および第2の金属材料80と、陽極酸化金属体(Al)41上に形成された複数の金属微粒子Bからなる金属層とからなるものである。陽極酸化金属体(Al)41の微細孔41aの中に充填された材料が、第1の金属材料70および第2の金属材料80である共振領域を、それぞれ共振領域Xおよび共振領域Wとする。
【0116】
第1の金属材料70および第2の金属材料80については、第5の実施形態と同様である。ただし、本実施形態ではこれらの誘電率の差により各共振領域の光路長に差異を設けるため、少なくとも誘電率の異なる材料を用いる。
【0117】
そして、本実施形態による電場増強光デバイスD11の製造方法は、例えば金属体40から出発し(図11A)、金属体(Al)40の一部に多孔質型の陽極酸化処理を施すことにより微細孔41aを有する厚さdの陽極酸化金属体(Al)41を形成し(図11B)、共振領域Wとしたい部分の陽極酸化金属体(Al)41上にマスクMを形成し(図11C)、マスクMによって被覆されていない微細孔41aに第1の金属材料70を充填し(図11D)、マスクMを除去した後残りの微細孔41aに第2の金属材料80を充填し(図11E)、その後複数の金属微粒子Bを陽極酸化金属体(Al)41上に固着する(図11F)ものである。
【0118】
以下、本実施形態による電場増強光デバイスD11の作用を説明する。
【0119】
上記のような方法により、本実施形態による電場増強光デバイスD11は、厚さはdであるが誘電率の異なる金属材料が微細孔41aに充填されている透光層20によって、それぞれ共振波長の異なる共振領域Wおよび共振領域Xにより構成され、全体として共振波長の共振幅が拡大する。
【0120】
したがって、本実施形態においても、第4の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0121】
さらに本実施形態では、共振器長に段差を設ける必要がない。したがって、電気メッキ等において陽極酸化金属体(Al)41の導通性を確保する際の工程を容易にすることができる。例えば、微細孔41aの底の陽極酸化金属体(Al)41を薄くする工程の制御が容易となる。
【0122】
<第7の実施形態>
図12は、本実施形態による微小共振器構造を有する電場増強光デバイスを示す概略断面図である。本実施形態は、各共振領域の光路長の差異を、それぞれの領域における透光層20の誘電率の差および共振器長の差によって設けている点で第5および第6の実施形態と異なる。よって、その他の第5および第6の実施形態と同様の要素についての説明は特に必要のない限り省略する。
【0123】
本実施形態による電場増強光デバイスD12は、階段状構造を有する金属体(Al)40と、金属体(Al)40の階段状構造の上に相補的に形成され、厚さがd1およびd2の逆階段状構造を有しかつ微細孔41aを有する陽極酸化金属体(Al)41と、共振領域W内の微細孔41aの中に充填された第2の金属材料80と、共振領域X内の微細孔41aの中に充填された第1の金属材料70と、陽極酸化金属体(Al)41上に形成された複数の金属微粒子Bからなる金属層とからなるものである。陽極酸化金属体(Al)41(透光層20)の厚さがd1およびd2である共振領域をそれぞれ共振領域Wおよび共振領域Xとする。
【0124】
第1の金属材料70および第2の金属材料80の材料の種類と誘電率の関係については、第5および第6の実施形態と同様である。
【0125】
そして、本実施形態による電場増強光デバイスD12の製造方法は、金属体(Al)40に対して階段状構造となるように陽極酸化処理を行って、微細孔41aを形成し、陽極酸化金属体(Al)41の表面を研磨するまでは第5の実施形態と同様である。そして、その後共振領域Wおよび共振領域Xの微細孔41aの中に、それぞれ第2の金属材料80および第1の金属材料70を充填する方法は第6の実施例と同様である。
【0126】
すなわち、例えば金属体40から出発し、共振領域Wとしたい部分の金属体40上にマスクを形成し、ドライ或はウェットエッチングによりマスクのない部分の厚さがd2−d1(d2>d1)となるように金属体40を成形した後マスクを除去し、階段状構造となった金属体(Al)40の一部に多孔質型の陽極酸化処理を施すことにより微細孔41aを有する厚さd2の陽極酸化金属体(Al)41を形成し、陽極酸化金属体(Al)41のうち厚さがd1となる部分を形成するように陽極酸化金属体(Al)41を研磨し、共振領域Wの陽極酸化金属体(Al)41上にマスクを形成し、マスクによって被覆されていない微細孔41aに第1の金属材料70を充填し、マスクを除去した後残りの微細孔41aに第2の金属材料80を充填し、その後複数の金属微粒子Bを平坦となった陽極酸化金属体(Al)41上に固着することにより本実施形態による電場増強光デバイスD12が得られる(図12)。
【0127】
以下、本実施形態による電場増強光デバイスD12の作用を説明する。
【0128】
上記のような方法により、本実施形態による電場増強光デバイスD12は、厚さがd1およびd2の階段状構造を有し、かつ誘電率の異なる金属材料が微細孔41aに充填されている透光層20によって、それぞれ共振波長の異なる共振領域Wおよび共振領域Xにより構成され、全体として共振波長の共振幅が拡大する。
【0129】
したがって、本実施形態においても、第4の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0130】
さらに本実施形態では、各共振領域の光路長の差異を、それぞれの領域における透光層20の誘電率の差および共振器長の差によって設けることにより、より効率的で精度の高い共振波長の制御が可能となる。これは、共振器長に段差を設けることにより共振波長を大きく制御することが可能となり、微細孔41aをAu、Ag等の金属材料で充填し透光層20内の誘電率を変化させることにより共振波長の微調整が可能となるためである。
【0131】
<設計変更>
以上の実施形態において、第2の反射層は反射性を有するとして説明してきだが、第2の反射層は半透過半反射性を有するとしても本発明における課題は解決される。この場合測定光は、第1および第2の反射層のどちらから入射するかは任意であり、また複数の光源を用いて両側から同時に入射することも可能である。
【実施例】
【0132】
図13Aは、本実施例における本発明による電場増強光デバイスおよび3つの比較用電場増強光デバイスの微小共振器構造を示す図であり、図13Bは、これら上記の電場増強光デバイスについて共振器構造と電場増強度の比較を示す図である。
【0133】
本発明による電場増強光デバイスは、ステップの高さが40nmの階段状構造を有する金属層と、この金属層の形状に相補的な逆階段状構造を有し、かつその厚さが220nmと260nmである誘電体層と、この誘電体層上に固着された複数の金属微粒子からなるものである。一方、比較用デバイスとして、同様な構成で誘電体層の厚さが220nmのもの、260nmのものおよび金属層がなく共振器構造を有さないものを用いた。
【0134】
この結果図13より、本発明による電場増強光デバイスは、電場増強度では同様な構成で誘電体層の厚さが220nmのもの、260nmのものには及ばなかったものの、共振幅は大幅に拡大したのがわかる。
【0135】
具体的な共振幅は、図14の電場増強度の規格値より求められ、同様な構成で誘電体層の厚さが220nmのもの、260nmのものの共振幅は、それぞれ87nm、126nmであり、本発明による電場増強光デバイスは194nmであった。
【0136】
以上により、複数の波長に対して光共振が可能となるように微小共振器構造内に複数の共振領域を設けることにより、共振幅を拡大することが可能となった。そしてこれにより、光学測定において、測定光の波長変更に伴って電場増強光デバイスを取り替える必要がなくなり、光学測定を低コスト化かつ簡素化することが可能となる。さらに、波長幅を持つ光に対しては、より広い波長領域の光を利用することができ、光学測定の効率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1A】従来の電場増強光デバイスD1を示す概略斜視図
【図1B】従来の電場増強光デバイスD1を示す概略部分断面図
【図2】従来の電場増強光デバイスD2を示す概略斜視図
【図3】第1の実施形態による電場増強光デバイスD3を示す概略斜視図
【図4】第2の実施形態による電場増強光デバイスD4を示す概略斜視図
【図5】第3の実施形態による電場増強光デバイスD5を示す概略斜視図
【図6A】第3の実施形態による電場増強光デバイスD5の製造工程を示す概略部分断面図(その1)
【図6B】第3の実施形態による電場増強光デバイスD5の製造工程を示す概略部分断面図(その2)
【図6C】第3の実施形態による電場増強光デバイスD5の製造工程を示す概略部分断面図(その3)
【図6D】第3の実施形態による電場増強光デバイスD5の製造工程を示す概略部分断面図(その4)
【図7】第4の実施形態による電場増強光デバイスD7を示す概略斜視図
【図8A】第4の実施形態による電場増強光デバイスD7の製造工程を示す概略部分断面図(その1)
【図8B】第4の実施形態による電場増強光デバイスD7の製造工程を示す概略部分断面図(その2)
【図8C】第4の実施形態による電場増強光デバイスD7の製造工程を示す概略部分断面図(その3)
【図8D】第4の実施形態による電場増強光デバイスD7の製造工程を示す概略部分断面図(その4)
【図8E】第4の実施形態による電場増強光デバイスD7の製造工程を示す概略部分断面図(その5)
【図9】陽極酸化処理により微細孔が形成された金属体を示す概略斜視図
【図10A】第5の実施形態による電場増強光デバイスD10の製造工程を示す概略部分断面図(その1)
【図10B】第5の実施形態による電場増強光デバイスD10の製造工程を示す概略部分断面図(その2)
【図10C】第5の実施形態による電場増強光デバイスD10の製造工程を示す概略部分断面図(その3)
【図10D】第5の実施形態による電場増強光デバイスD10の製造工程を示す概略部分断面図(その4)
【図10E】第5の実施形態による電場増強光デバイスD10の製造工程を示す概略部分断面図(その5)
【図10F】第5の実施形態による電場増強光デバイスD10の製造工程を示す概略部分断面図(その6)
【図11A】第6の実施形態による電場増強光デバイスD11の製造工程を示す概略部分断面図(その1)
【図11B】第6の実施形態による電場増強光デバイスD11の製造工程を示す概略部分断面図(その2)
【図11C】第6の実施形態による電場増強光デバイスD11の製造工程を示す概略部分断面図(その3)
【図11D】第6の実施形態による電場増強光デバイスD11の製造工程を示す概略部分断面図(その4)
【図11E】第6の実施形態による電場増強光デバイスD11の製造工程を示す概略部分断面図(その5)
【図11F】第6の実施形態による電場増強光デバイスD11の製造工程を示す概略部分断面図(その6)
【図12】第7の実施形態による電場増強光デバイスD12を示す概略断面図
【図13A】実施例における本発明による電場増強光デバイスおよび比較用デバイスの微小共振器構造を示す概略部分断面図
【図13B】実施例について共振器構造と電場増強度の比較を示す図
【図14】実施例について共振器構造と共振幅の比較を示す図
【符号の説明】
【0138】
10 第1の反射層
11 金属細線
12
20 透光層
30 第2の反射層
40 金属体
41 陽極酸化金属体
41a 微細孔
70 第1の充填金属材料
80 第2の充填金属材料
B 金属微粒子
D1〜5・7・10・11 電場増強光デバイス
d・d1・d2 透光層の厚さ
L1 測定光
L2
M マスク
W〜Z 共振領域
W’〜Z’ 微小共振領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過性を有する透光層と、該透光層の片面に形成された半透過半反射性を有する第1の反射層と、前記透光層の他の面に形成された反射性を有する第2の反射層とからなる微小共振器構造を有する電場増強光デバイスであって、
前記微小共振器構造が、前記第1の反射層と前記第2の反射層との間の光路長が異なる複数の共振領域を有するものであり、
前記第1の反射層に対して前記透光層とは反対の側から、該第1の反射層に測定光を照射することにより該第1の反射層と前記第2の反射層との間で光共振を生じせしめることを特徴とする電場増強光デバイス。
【請求項2】
前記共振領域が、複数の微小共振領域から構成されるものであることを特徴とする請求項1に記載の電場増強光デバイス。
【請求項3】
前記微小共振領域が、前記微小共振器構造中に略均一に配置されたものであることを特徴とする請求項2に記載の電場増強光デバイス。
【請求項4】
前記光路長が、それぞれの前記共振領域の前記透光層の誘電率の差によって異なるものであることを特徴とする請求項1から3に記載の電場増強光デバイス。
【請求項5】
前記光路長が、それぞれの前記共振領域の共振器長の差によって異なるものであることを特徴とする請求項1から4に記載の電場増強光デバイス。
【請求項6】
前記第1の反射層が、前記透光層の表面にパターン形成された金属層からなるものであることを特徴とする請求項1から5に記載の電場増強光デバイス。
【請求項7】
前記第1の反射層が、前記透光層の表面に複数の非凝集金属微粒子が固着されて形成される金属層からなるものであることを特徴とする請求項1から5に記載の電場増強光デバイス。
【請求項8】
前記透光層が、前記第1の反射層側の面において開口した複数の微細孔を有する微細孔体からなるものであることを特徴とする請求項1から7に記載の電場増強光デバイス。
【請求項9】
可視領域〜近赤外領域の前記測定光に光共振することを特徴とする請求項1から8に記載の電場増強光デバイス。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図8E】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【図10E】
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【図10F】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図11D】
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【図11E】
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【図11F】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−250951(P2009−250951A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103189(P2008−103189)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】