説明

電子タグ用S字板状小型ダイポールアンテナ及びそれを備えた電子タグ

【課題】RFIDシステムでUHF帯域全域にわたって良好な周波数特性を持つ小型の電子タグ用アンテナで、広帯域化により人体を含む水気のある物質に貼り付けても、動作が保障される電子タグを提供する。
【解決手段】シート状の誘電体で形成されたアンテナ基板5からなる単一平面上にスパイラル形状のアウトラインをもつ板状導体で形成された主アンテナ素子1とその一対の主アンテナ素子中心部付近に形成された給電パッド部分10と上記主アンテナ素子の両端部に形成された無給電アンテナ素子3を備えることを特徴とするS字板状小型ダイポールアンテナを形成し、且つ、板状導体にノッチ状の切込み2を入れることによりインダクタンス成分、キャパシタンス成分の装荷を行い、共振周波数帯域の最適化と広帯域化、そしてアンテナ形状の小型化を実現する。このS字板状小型ダイポールアンテナの給電パッド部分11にタグIC10を備え電子タグを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線工学に関し、かつ、RFID(Radio Frequency Identification)システムなどに用いられる小型形状と広帯域性が求められるアンテナおよび電子タグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
RFIDシステムは、例えば図3に示すように、質問機、質問機用送信アンテナ、質問機用受信アンテナ、電子タグとから構成されており、質問機は電波信号を送出し、この質問機からの送信電波信号を電子タグが受け、タグ内のメモリーに蓄積された情報で、バックスキャッタ方式と一般に呼ばれる変調方式を用いて、返答信号を送信する。そして電子タグから返信された信号を質問機が復調し、タグ情報を読み取るようになっている。
【0003】
上記RFIDシステムは主に物流、流通など分野で利用されている。現在利用されているRFID電子タグの例として、電池を用いることなく質問機より放射された電力を利用するパッシブタグが上げられる。パッシブタグの例としては、13.56MHz帯を利用した近距離通信用のHF帯域用電子タグや、遠距離通信用の2.4GHz帯を利用したマイクロ波用電子タグがあげられる。
【0004】
今日、マイクロ波を利用した電子タグと比べ、電波伝播にあたっての減衰率が低く、より長い通信距離での通信を可能とする特徴をもつUHF周波数帯を用いたRFIDシステムの実用化が進み、UHF用タグの開発も盛んに進められてきている。
【0005】
UHF用タグは主に物流の分野で国際的な運用が見込まれており、UHF帯域用RFIDシステムの運用のためにヨーロッパでは868MHz〜870MHz、アメリカでは902〜928MHzが周波数帯域として法律で許可されている。なお、UHF帯域用RFIDシステム活用のために、日本では950MHz〜956MHzを利用することが検討されている。
【0006】
UHF帯域を利用するRFIDシステム用の電子タグは各国・各地域で許可されている周波数にあわせたアンテナを搭載し、運用されているのが現状である。
【0007】
UHF用電子タグ用アンテナとしてダイポールアンテナを採用した場合、ダイポールアンテナのアンテナ長を通信周波数の波長λの半波長(λ/2)に設定する事により、良好な利得を得ることができるとともに、インピーダンスの整合を比較的容易にとることができるが、運用時の利便性が考慮され、メアンダライン構造をもつUHF用電子タグの発明や開発も盛んに行われている。(例えば、特許文献1参照。)。
【0008】
ただし、UHF用電子タグが国際的に運用されるためには、868MHz〜956MHz間の88MHzに渡る帯域において、良好な通信を行うことのできるUHF用電子タグ用アンテナが必要である。これまで、UHF帯域において良好な周波数特性をもつ小型アンテナを実現するために、自己補対形状を備えた螺旋構造のスパイラルアンテナなどの形状が考えられてきた。(例えば、非特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2005−2447788号公報
【非特許文献1】2003年アメリカ合衆国特許公報6963317,「RFIDtag wide bandwidth logarithmic spiral antenna method and system」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、従来のUHF用電子タグ用アンテナの外形とほぼ同じ、もしくはそれ以下のサイズの螺旋構造のスパイラルアンテナを無線タグに用いると、UHF全帯域においてアンテナの入力インピーダンスが高すぎ、通常のタグICの出力インピーダンスとして用いられている50Ωとのマッチングをとることは困難であった。
【0010】
アンテナとタグICとのインピーダンスマッチングをとる課題を解決するために、チップコンデンサやチップインダクタなどの受動部品を用いることも考えられるが、製造コストや部品点数の増加による故障率の増加、形状の拡大などが伴うため、現実的に産業分野での利用が見込めるUHF帯電子タグを実現する手段とはならないと考えられる。
【0011】
また、アンテナ線路のメアンダライン化などにより実現されるアンテナ小型化の結果、アンテナの帯域幅が犠牲となってしまい、広帯域な周波数特性をもつアンテナを実現することは困難であった。このことは、国際間貿易におけるUHF用電子タグの利用を妨害してきた。
【0012】
狭帯域のアンテナを搭載した電子タグを、人体を含む水気のある物質に貼り付けた場合、アンテナ周辺の誘電率の変化が発生し共振周波数が低い周波数へと偏移してしまい、電子タグとして機能しなくなってしまっていた。
【0013】
以上、現状用いられているUHF用電子タグと電子タグ用アンテナの問題点を分析すると、狭帯域の電子タグ用アンテナとそれを搭載した電子タグがUHF帯域を利用するRFIDシステムの活発な活用の機会を妨げる一因となっていると考えられる。
【0014】
本発明は上述する現状を鑑みてなされるものであり、従来の電子タグに用いられてきた半波長ダイポールアンテナと同等もしくはそれ以下のサイズで、RFIDシステムに利用されるUHF帯域全域にわたって良好な周波数特性を持つ電子タグ用アンテナを提供し、そのアンテナを採用した電子タグを実現することを目的とする。
【0015】
また、広帯域にわたる良好な周波数特性を実現することで、人体を含む水気のある物質に貼り付けても、動作が保障される電子タグを実現することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のアンテナは、シート状の誘電体からなる単一平面上にスパイラル形状のアウトラインをもつ板状導体で形成されたS字状のダイポールアンテナとして機能する主アンテナ素子に、主アンテナ素子中心部付近に形成された給電パッド部分と、主アンテナ素子両端部付近のノッチ状の切込みと、上記主アンテナ素子の両端部に形成された無給電アンテナ素子を組み合わせて形成されることによって特徴づけられる。
【0017】
前記主アンテナ素子および前記無給電アンテナ素子は上記給電パッド部分に近い部分では細く、両端部に近づくに従って太くなり、主アンテナに装荷されるノッチ状の切込みの長さ・深さ・幅は単一の形状に限定されるものではないことも特徴としている。
【0018】
本発明のアンテナは頂上装荷の原理に基づきキャパシタンス成分・インダクタンス成分の調整を行っているため、主アンテナ素子のサイズや形状を保ったまま、ノッチ状の切込みの長さ・深さ・幅、無給電アンテナ素子の形状を自由に設計することで、電子タグが貼り付けられる物体の性質に応じてアンテナ特性の調整を行うことが可能になっている。同様に給電部分の形状を変化させた場合に起こる電気的な性質の変化に応じてアンテナを調整することも可能である。
【0019】
なお、本発明のアンテナは電気的性能および周波数特性を大きく変化させることなく給電パッド部分の形状を変化させることができ、多様なタグICのパッケージ形状に対応することが可能となっている。
【0020】
また、単一平面上に全てのアンテナ素子が形成されるので、一般の電子機器に利用されるガラスエポキシ基板やポリイミド基板上にアンテナを作成することが可能である。その結果、電子タグ製作の容易性が増し、製造コストの低減化を見込むことができる。
【0021】
本発明のアンテナを搭載した電子タグは、上述するS字板状小型ダイポールアンテナの給電パッド部分に電気回路またはタグICを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
以上詳記したように本発明によれば、単一平面上にスパイラル形状のアウトラインをもつS字板状小型ダイポールアンテナ素子を形成し、主アンテナ素子にノッチ状のスリットの装荷を行い、両端部に無給電素子の頂上装荷を行うことによって、小型且つ広帯域にわたって周波数特性が良好なUHF用タグ用アンテナが実現されるため、広帯域の周波数特性が要求される国際間流通などの分野で利用することが可能な、小型のUHF用電子タグを実現することができる。
【0023】
更に、広帯域にわたる良好な周波数特性を実現することで、人体を含む水気のある物質に貼り付けたとしても、動作が保障される電子タグを実現することができ、従来UHF用電子タグを用いることが困難とされてきた動植物に貼り付けての利用が可能になり、UHF用電子タグのより一層の活用を見込むことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
<実施形態1>
【0025】
図1は本発明の小型アンテナの一例を示す平面図である。図2は図1のX−X線の拡大断面図(a)である。
【0026】
本実施形態の図は紙エポキシ基板上に、本発明のS字板状小型ダイポールアンテナをエッチングして形成したアンテナを示している。アンテナ基板5からなる単一平面上にスパイラル形状のアウトラインをもつ板状導体で形成された主アンテナ素子1と、主アンテナ素子中心部付近に形成された給電パッド部分6と上記主アンテナ素子の両端部に形成された無給電アンテナ素子3を備え、板状導体にノッチ状の切込み2が装荷されている。S字板状小型ダイポールアンテナの給電パッド部分6にタグIC4を備えている。
【0027】
実施形態1におけるS字状小型ダイボールアンテナは最大長さ135mm、最大幅22mmとなっており、ノッチ状の切込みの幅は1.5mmとなっている。無給電素子は高さ4.5mm、長さ23mmの平行四辺形である。
【0028】
電気長を伸ばすとともに、インダクタンス、キャパシタンス成分の装荷を行うノッチ状の切込みはメアンダ状の折れ曲がりパターンの形状になっている。
【0029】
<実施形態2>
以上の例では、給電パッド部分6は主アンテナ素子の中心部を分断し形成されているが、図4に示すように、別の形状の給電パッド10を主アンテナ素子の中心部付近に形成することも可能である。給電パッド10にはタグIC11が電気的に接続されることになる。
【0030】
<実施形態3>
無給電アンテナ素子のパターンの形状は特に限定されないため、環境要因によるアンテナ特性の調整が必要な場合は、例えば図5に示すようなループ状無給電素子51にしてもよい。
【0031】
<実施形態4>
無給電アンテナ素子のパターンの形状などは特に限定されないため、環境要因によるアンテナ特性の調整が必要な場合は、例えば図6に示すようなメアンダ状無給電素子61としてもよい。
【0032】
<その他の実施例>
図7は、本発明のアンテナの周波数特性に関するデータ収集を目的としてセミリジットケーブルの先端に実施形態1で説明したアンテナを接続した様子を示すものである。本発明のアンテナのアンテナ素子71にセミリジットケーブル72を接続し、一方のアンテナエレメントに同軸芯線73を接続し、もう一方のアンテナエレメントにセミリジットケーブルの外皮を接続してある。なお、セミリジットケーブルは同軸コネクタ74に接続されており、ネットワークアナライザに接続できるようになっている。
【0033】
本実験用アンテナを電波暗室内で測定したところ、広帯域にわたり良好な周波数特性が見られた。図9は実験用アンテナの800MHz〜1000MHz間での入力インピーダンスをプロットしたものである。
【0034】
図10は図7にて示されたアンテナの紙エポキシ基板に手を触れた状態で収集した800MHz〜1000MHz間の入力インピーダンスをプロットしたものである。
【0035】
図9および図10にて示された実験結果から、本発明のアンテナはUHF用RFIDシステムで利用される868MHz〜956MHzにおける電圧定在波比(VSWR)が1.5に近いことが示されており、良好な周波数特性を備えるアンテナであるといえる。またアンテナに人体を近づけたときには、UHF帯域における電圧定在波比(VSWR)は、868MHz〜956MHzのほぼ全域にわたって2以下となっており、人体が近づいたとしてもアンテナはその周波数特性を良好に保つことができていると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、UHF用RFIDシステムの利用の許可された周波数が同じ国・地域内での物流業務のみでなく、国際的な物流業務におけるUHF帯域を利用したRFIDシステムの構築と、動植物に直接貼り付けることのできる電子タグを利用した新しいタイプのRFIDシステムを実現する可能性をもつ。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明のアンテナの一例を示す平面図である。
【図2】図1のa−a線端面図である。
【図3】RFIDシステムの基本構成を示す図である。
【図4】本発明の電子タグの他の例を示す平面図である。
【図5】本発明のアンテナの別の例を示す平面図である。
【図6】本発明のアンテナの別の例を示す平面図である。
【図7】本発明のアンテナを測定用に加工した様子を示す図である。
【図8】本発明のアンテナを理想状態で実測した時の入力インピーダンス特性を示す図である。
【図9】本発明のアンテナを人体近傍に置き実測した場合の入力インピーダンス特性を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
TA 無線タグ
1 主アンテナ素子
2 メアンダ線路素子
3 無給電アンテナ素子
4 タグIC
5 アンテナ基板
6 給電パッド
7 RFIDリーダー
8 送信アンテナ
9 受信アンテナ
10 給電パッド
11 タグIC
51 ループ状無給電素子
61 メアンダ状無給電素子
71 アンテナ素子
72 セミリジットケーブル
73 同軸芯線
74 同軸コネクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の誘電体からなる単一平面上にスパイラル形状のアウトラインをもつ板状導体で形成された左右一対の主アンテナ素子と、その主アンテナ素子中心部付近に形成された給電パッド部分と、上記主アンテナ素子の両端部に形成された無給電アンテナ素子を備えることを特徴とするS字板状小型ダイポールアンテナ。
【請求項2】
前記主アンテナ素子はその両端部付近にノッチ状の切込みが一部に形成されることを特徴とする請求項1に記載のS字板状小型ダイポールアンテナ。
【請求項3】
前記主アンテナ素子はその導体に装荷されるノッチ状の切込みの幅もしくは長さが可変であることを特徴とする請求項1に記載のS字板状小型ダイポールアンテナ。
【請求項4】
前記主アンテナ素子および前記無給電アンテナ素子は上記給電パッド部分に近い部分では細く、両端部に近づくに従って太くなることを特徴とする請求項1に記載のS字板状小型ダイポールアンテナ。
【請求項5】
前記主アンテナ素子は上記給電パッド部分に電気回路またはICを有することを特徴とする請求項1に記載のS字板状小型ダイポールアンテナ。
【請求項6】
前記主アンテナ素子は上記給電パッド部分の形状を変更しても電気的性能および周波数特性は大きく変わることなく給電パッド部分の形状が可変であることを特徴とする請求項1に記載のS字板状小型ダイポールアンテナ。
【請求項7】
請求項1〜7のいずれかに記載の小型アンテナとタグICを備え、前記小型アンテナの給電パッド部分に前記タグICが接続されていることを特徴とする電子タグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−221735(P2007−221735A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−68321(P2006−68321)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(505120032)株式会社ワイズメディアテクノロジー (12)
【Fターム(参考)】