電子デバイスおよびその製造方法
【課題】簡単かつ良好に電子素子を封止する。
【解決手段】電子デバイスは、基板2と、基板2上に形成された素子3と、基板2上に設けられ、素子3を含む空間4を囲み、貫通孔5aを有する内側封止部材5と、内側封止部材5の外側に設けられ、内側封止部材5を含む空間を囲み、貫通孔6aを有する外側封止部材6とを備え、外側封止部材6の貫通孔6aが、内側封止部材5により、内側から塞がれている。
【解決手段】電子デバイスは、基板2と、基板2上に形成された素子3と、基板2上に設けられ、素子3を含む空間4を囲み、貫通孔5aを有する内側封止部材5と、内側封止部材5の外側に設けられ、内側封止部材5を含む空間を囲み、貫通孔6aを有する外側封止部材6とを備え、外側封止部材6の貫通孔6aが、内側封止部材5により、内側から塞がれている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願開示は、周りに空間を確保して封止される電子デバイスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話に代表される無線機器や電子機器の急速な普及により、小型で軽量な電子デバイスの需要が増大している。電子デバイスの一例として弾性波デバイスが挙げられる。弾性波デバイスとしては、例えば、圧電基板上に発生する弾性表面波を利用したSAWフィルタや、上部電極、圧電膜および下部電極を主な構成要素とし、その圧電膜の厚み縦振動を利用したFBARフィルタ等がある。通常、このような弾性波デバイスはウェハ単位で製造される。ウェハ上の前記弾性波デバイスはチップ状態に切断される。切断された弾性波デバイスは、セラミック基板などを用いたセラミックパッケージ内にワイヤボンディングあるいはフリップチップボンディングによって実装されている。
【0003】
ところが、近年、無線機器、電子機器の高性能化、小型化に伴い、搭載部品に対する小型化のニーズが高まっている。例えば、モジュール用途では、高周波フィルタのような受動部品に対する小型化の要求が高い。こうした小型化のニーズを満足すべく、ウェハ単位で製造された電子素子を、ウェハレベルでチップサイズにパッケージングを行うウェハレベルパッケージ素子の開発が進められている。
【0004】
例えば、弾性波デバイスは表面弾性波あるいは厚み縦振動など圧電体の圧電効果を利用したデバイスであるため、弾性波デバイスの上部には上記振動を確保するための空間が必要となる。また、例えば、可変容量素子は、可動電極が動くための空間を必要とする。このような周りに空間を確保する必要がある素子のウェハレベルパッケージにおいては、素子の上部に振動や運動を阻害させないための中空空間の形成が必要である。
【0005】
例えば、弾性波デバイスのウェハレベルパッケージに関しては、現在までに3つの構造が評価されている。すなわち、ウェハキャップ構造、樹脂キャップ構造、薄膜キャップ構造である。
【0006】
ウェハキャップ構造としては、複数の弾性波デバイスが形成されたウェハ状態のデバイス基板と、基板内に貫通配線を形成したキャップ基板を接合することによって、ウェハレベルで封止してから、封止された各弾性波デバイスがウェハから切り出されるような弾性波デバイスが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
樹脂キャップ構造としては、弾性波デバイスが形成されたウェハ上に樹脂を用いて枠構造を形成し、枠構造の樹脂の上に天井となる樹脂をフィルム状の樹脂や液状の樹脂を用いて形成する構造が開示されている(例えば、非特許文献1や特許文献2参照)。
【0008】
薄膜キャップ構造としては、弾性波デバイスが形成されたウェハ上に、第1封止層と、前記第1封止層を覆う第2封止層とを含む多層構造のキャップを形成する構造が開示されている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001-68616号公報
【特許文献2】米国特許第6,955,950号明細書
【特許文献3】特開2007-266865号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Wafer-Level-Package for Bulk Acoustic Wave (BAW) Filters 2004 IEEE MTT-S Digest 493
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に開示されているようなウェハキャップ構造で作製された弾性波デバイスでは、弾性波デバイスを形成するウェハとは別に、上記弾性波デバイスを封止するためのキャップウェハが必要となることからコストが高くなる。さらには、デバイスウェハとキャップウェハを接合するためには全ての弾性波デバイスにおいて環状部材としてのシールリングが必要となるため、弾性波デバイスの小型化が難しい。
【0012】
また、非特許文献1および特許文献2に開示されているような樹脂キャップ構造で作製された弾性波デバイスでは、弾性波デバイス上に中空空間を形成するためにエポキシ等の樹脂を用いて枠構造を形成することになる。すなわち、樹脂が弾性波デバイスの電極パターンを跨ぐ構造となる。しかしながら、エポキシ等の樹脂は一般に電極パターンである金属との密着性が低いため、熱衝撃や外部からの力が印加された場合には、電極材料と樹脂との間に微小な隙間が発生するという課題があった。さらには、これらの樹脂は、弾性波デバイス上に空間を形成するように厚く形成する場合には、樹脂自体の粘度を高くする必要があることから、電極パターンの端部において形成される基板との段差部分において樹脂が入りきらないことがある。その結果、基板と樹脂との間に微小な隙間が発生する。これらの微小な隙間は水分の侵入経路となり、電極材料の腐食などによる周波数特性の変動等、長期信頼性の劣化を引き起こす。さらには、中空空間を形成する樹脂は硬化するために加熱処理を行う必要がある。その加熱処理の際に樹脂から発生した脱ガスが中空空間内に樹脂がたまり、デバイスの電極材料を腐食させ、長期信頼性の劣化を引き起こす場合がある。
【0013】
特許文献3に開示されているような薄膜キャップ構造で作製された弾性波デバイスでは、第1封止層と、前記第1封止層を覆う第2封止層を形成することによって弾性波素子上に中空空間を形成している。この構造は、中空空間となる部分に予め犠牲層を形成しておき、第1封止層に形成された貫通孔を通してエッチング液あるいはエッチングガスにより上記犠牲層を除去することによって形成される。上記貫通孔は第1封止層を覆うように形成される第2封止層によって塞がれる。しかしながら、本構造では、第1封止層の貫通孔を塞ぐ第2封止層に用いられる材料が、当該貫通孔を通して中空空間内に侵入し、共振部に付着し、弾性波素子の特性劣化の原因となることから、歩留まり低下の原因となるといった課題があった。
【0014】
ゆえに、本発明は、簡単かつ良好に電子素子を封止することができる電子デバイス、およびその製造方法、あるいは、そのような電子デバイスを具備するフィルタ、デュープレクサまたは通信機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願開示の電子デバイスは、基板と、前記基板上に形成された素子と、前記基板上に設けられ、前記素子を含む空間を囲み、貫通孔を有する内側封止部材と、前記内側封止部材の外側に設けられ、前記内側封止部材を含む空間を囲み、貫通孔を有する外側封止部材とを備え、前記外側封止部材の前記貫通孔が、前記内側封止部材により、内側から塞がれている。
【0016】
本願開示の電子デバイスの製造方法は、基板上に素子を形成する工程と、前記素子を覆う第1犠牲層を堆積する工程と、圧縮応力を有する内側封止部材を、前記第1犠牲層上を覆い、周縁が前記基板に接するように形成する工程と、前記内側封止部材に内側貫通孔を形成する工程と、前記内側封止部材の外側および前記内側貫通孔を覆う第2犠牲層を堆積する工程と、前記第2犠牲層を覆う外側封止部材を、周縁が前記基板に接するように形成する工程と、前記外側封止部材において前記内側貫通孔と重ならない位置に、外側貫通孔を形成する工程と、前記外側貫通孔を通じてエッチング媒体を供給することにより前記第2犠牲層を除去し、前記内側貫通孔を通じてエッチング媒体を供給することにより前記第1犠牲層を除去し、前記第1犠牲層の除去の際、前記圧縮応力により前記内側封止部材が内側から前記外側貫通孔を塞ぐ工程とを含む。
【発明の効果】
【0017】
本願開示によれば、簡単かつ良好に電子デバイスを封止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施形態にかかる電子デバイスの構成を示す断面図である。
【図2】図2A〜図2Jは、第1の実施形態にかかる電子デバイスの製造工程における工程ごとの断面図である。
【図3】図2Jに示す弾性波デバイスを基板2の上方から見た場合の平面図である。
【図4】内側封止部材の応力と最大高さとの関係を示すグラフである。
【図5A】円形の内側封止部材の例を示す図である。
【図5B】楕円形の内側封止部材の例を示す図である。
【図5C】楕円形の内側封止部材の他の例を示す図である。
【図5D】五角形の内側封止部材の例を示す図である。
【図6】封止部材の貫通孔が外側から塞がれる構成の電子デバイスの断面図である。
【図7】第2の実施形態にかかる電子デバイスの断面図である。
【図8】第3の実施形態におけるデュープレクサの一例を示す図である。
【図9】第4の実施形態にかかる通信装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1の実施形態)
[電子デバイスの構成]
図1に第1の実施形態にかかる電子デバイスの構成の一例を示す断面図である。図1に示す電子デバイスは、ここでは、一例として、弾性波素子を封止した弾性波デバイスとする。
【0020】
図1に示す電子デバイスは、基板2上に形成された素子3と、素子3を含む空間4を囲む内側封止部材5と、内側封止部材5を含む空間をさらに囲んで外側に設けられる外側封止部材6とを備える。内側封止部材5と外側封止部材6の周縁部は基板2に接続されている。また、内側封止部材5および外側封止部材6は、エッチングのための貫通孔5a、6aを有する。内側封止部材5の貫通孔5aと、外側封止部材6の貫通孔6aは、空間4の内側から外側へ向う方向において、重ならない位置に設けられる。内側封止部材5および外側封止部材6により、素子3を空間4に封止するキャップ体7が形成される。すなわち、キャップ体7により、内部の基板2との間に素子3を封止する空間4(中空空間)が形成される。
【0021】
外側封止部材6の貫通孔6aは、内側封止部材5により内側から塞がれている。本発明において、内側封止部材5の形状は、基板2に対して上に凸形状を有しており、外側封止部材6の貫通孔6aは、内側封止部材5によって素子3を封止する空間4側から塞がれている。なお、上記したように、内側封止部材5の貫通孔5aが外側封止部材6の貫通孔6aと異なる位置に形成される。これにより、外側封止部材6の貫通孔6aを内側封止部材5によって空間4側から塞ぐことができる。
【0022】
図1において、内側封止部材5としては、絶縁材料が用いられることが好ましい。内側封止部材5に絶縁材料を用いることによって、素子3の電極と内側封止部材5との間における寄生容量の発生が抑制されるため、弾性波デバイスの特性劣化を少なくできる。
【0023】
図1において、内側封止部材5は、製造過程において圧縮応力を有することができる材料が用いられることが好ましい。内側封止部材5の圧縮応力により、内側封止部材5を素子3が形成された基板2に対して上に凸状の形状にすることができる。内側封止部材5の凸状の部分で外側封止部材6の貫通孔6aを空間4側からより確実に塞ぐ構造にすることができる。
【0024】
また、外側封止部材6の貫通孔6aは内側封止部材5の頂点の位置に形成されることが好ましい。すなわち、内側封止部材5の凸状の頂点(基板2からの高さが最も高い点)を含む部分で貫通孔6aを塞ぐことで、より確実に封止することができる。したがって、内側封止部材5の貫通孔5aは内側封止部材5の凸状の頂点の位置と異なる位置に形成することが好ましい。
【0025】
[素子3の例]
素子3は、例えば、周りに空間を確保して封止する必要があるものである。例えば、振動するための空間を必要とする弾性波デバイスや、可動電極が動くための空間が必要な可動電極を備えた可変容量素子(可変キャパシタ)等が、素子3の例に挙げられる。
【0026】
弾性波素子の一例であるSAW(Surface Acoustic Wave)素子は、弾性表面波を励振する電極を少なくとも1つ含み、求められる特性に応じて、複数個の電極や、これら電極の端部側に形成される反射器電極や、複数個の電極を接続する接続線等を更に含む。例えば、弾性表面波を発生させる電極1つのみであってもよいし、これらの電極を複数配置して、共振子、フィルタを構成してもよい。
【0027】
弾性波素子の他の一例である、BAW(Bulk Acoustic Wave)素子は、厚み縦振動を励振する上部電極、圧電膜および下部電極を主要構成要素とする積層膜を少なくとも1つ含み、必要に応じて、接続線等を含むものとする。例えば、上記積層膜を複数接続してフィルタを構成することができる。
【0028】
このように、素子3は、例えば、弾性表面波(SAW)素子や圧電薄膜共振器(FBAR)であってもよい。この場合、小型のSAWデバイスやFBARデバイスを提供することができる。また、素子3は、弾性波デバイスを複数接続したフィルタであってもよい。これにより、小型のフィルタを提供することができる。
【0029】
また、素子3は、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を用いて作製された可変容量素子であってもよい。一般的に、可変容量素子は、対向する2つの電極間の距離を変化させて容量を変化させる。そのため、対向する電極の少なくとも1方は可動電極となるので、周りに空間を確保することが必要となる。可変容量素子は、例えば、可変周波数発振器、同調増幅器、位相シフタ、インピーダンス整合回路などにおいて用いられる。
【0030】
[製造工程]
図2A〜図2Jは、本実施形態にかかる電子デバイスの製造工程における工程ごとの断面図である。
【0031】
《素子の作製》
まず、図2Aに示すように基板2上に素子3を作製する。ここで、例えば、素子3がSAW素子の場合、基板2として、タンタル酸リチウムLiTaO3、ニオブ酸リチウムLiNbO3、酸化亜鉛、ZnO、水晶等の圧電基板を用いることができる。また、素子3がBAW素子の場合、Si、ガラス、GaAs等を基板2として用いることができる。このように、素子3の仕様に応じて、材料を適宜選択することが可能である。以下、素子3が弾性波素子である場合について説明する。
【0032】
《第1犠牲層形成・パターニング》
次に、図2Bに示すように、素子3が形成された基板2上に、素子3を覆うように、例えばSi等からなる第1犠牲層8を形成する。第1犠牲層8は、例えば、スパッタリング法、蒸着法、CVD等の方法を用いて形成することができる。第1犠牲層8の材料としては、上記素子3および内側封止部材5とエッチング選択性のある材料が好ましい。具体的には、第1犠牲層8の材料として、上記Si以外にも、例えば、ZnO、Ge、Ti、Cu等などを用いることもできる。また、フォトレジストを第1犠牲層8に用いることもできる。フォトレジストの場合は、スピンコーティング法によって基板2上に形成することができる。以下は、第1犠牲層8にSiを用いた場合について説明する。第1犠牲層8形成後、露光技術とエッチング技術を用いて第1犠牲層8を所定の形状にする。
【0033】
《内側封止部材の形成》
次に、図2Cに示すように、第1犠牲層8を覆うように、例えばSiO2等からなる内側封止部材5を形成する。内側封止部材5は、例えばスパッタリング法、蒸着法、CVD法等の方法を用いて形成する。内側封止部材5として金属材料を用いることもできるが、内側封止部材5と基板2上の配線部の間で寄生容量が発生し、素子3の特性を劣化させるのを防ぐ観点からは、内側封止部材5は絶縁材料であることが好ましい。その材料としては、SiO2以外にも、例えば、SiNx、SiC、Al2O3、AlN等の材料が例として挙げられる、以下に、内側封止部材5がSiO2の場合について説明する。
【0034】
ここで、内側封止部材5の応力が圧縮応力となるような成膜条件で内側封止部材5は、成膜される。内側封止部材5の成膜にスパッタリング法を用いた場合は、例えば、成膜時の真空度、ガス流量、成膜時のパワーや基板バイアス等が、内側封止部材5の応力を圧縮応力にするための成膜条件として挙げられる。また、TEOSを用いたCVD法の場合は、成膜時の真空度、成膜時のパワーや、TEOSと分子構造の似たアルコキシド系のガスをドープすること等が成膜条件として挙げられる。
【0035】
《内側封止部材の貫通孔の形成》
次に、図2Dに示すように、露光技術とエッチング技術を用いて内側封止部材5を所定の形状にする。この時に、先に形成した第1犠牲層8をエッチング除去することができるようにするための貫通孔5aを形成しておく。例えば、貫通孔5aの形成位置は、内側封止部材5直下の第1犠牲層8を除去する過程において、内側封止部材5の頂点部分の第1犠牲層8が最終段階で除去される箇所に配置することが好ましい。これにより、内側封止部材5内に第1犠牲層8が残りにくくすることができる。
【0036】
《第2犠牲層の形成・パターニング》
次に、図2Eに示すように内側封止部材5を覆うように、例えばCu等からなる第2犠牲層9を形成する。第2犠牲層9は、例えば、スパッタリング法、蒸着法、CVD法等の方法を用いて形成することができる。第2犠牲層9としては、内側封止部材5および外側封止部材6とエッチング選択性のある材料が好ましい。その材料としては、上記Cu以外にも、例えば、ZnO、Ge、Ti等の材料にしても良い。また、第2犠牲層9に、フォトレジストを用いることもできる。フォトレジストの場合は、スピンコーティング法によって基板2上に形成することができる。更には、上記第1犠牲層8と同じ材料を第2犠牲層9にも用いることもできる。同じ材料を用いることにより、後工程における犠牲層除去工程において、第2犠牲層9および第1犠牲層8を同一エッチング媒体でエッチング除去することが可能になる。以下に、第2犠牲層9にCuを用いた場合について説明する。
【0037】
露光技術とエッチング技術を用いて第2犠牲層9を所定の形状にすることができる。ここで、第2犠牲層9の厚みTは、内側封止部材5と外側封止部材6との間の空間を形成するためのものである。そのため、内側封止部材5と外側封止部材6との位置関係は、第2犠牲層9の形状によって略決まることになる。本実施形態では、内側封止部材5で外側封止部材6の貫通孔6aをより確実に塞ぐことができるように、この第2犠牲層9の厚みTが制御されることが好ましい。そのため、例えば、第2犠牲層9の厚み9は、内側封止部材5のサイズ、内側封止部材5の圧縮応力等によって制御されることが好ましい。この第2犠牲層9の厚みTの制御については後述する。
【0038】
《外側封止部材の形成》
次に、図2Fに示すように、第2犠牲層9および内側封止部材5を覆うように、例えば、SiNx等からなる外側封止部材6を形成する。外側封止部材6は、例えば、スパッタ法、蒸着法、CVD法等の方法を用いて形成することができる。外側封止部材6としては、上記SiNx以外にも、例えば、SiO2、SiC、Al2O3、AlN等の材料にしてもよい。
【0039】
また、外側封止部材6は弾性材料で構成することができる。これにより、空間4側から内側封止部材5によって外側封止部材6の貫通孔6aを塞いだ際に、内側封止部材5から受ける圧力を外側封止部材6が吸収することができる。その結果、密着性の優れた封止構造を形成でき、良好な封止構造を有する電子デバイスを提供することができる。弾性材料は、例えば、上記SiO2、SiC、Al2O3、AlNの他に、Si、Ta2O5、HfO2、ZrO2、SOG(Spin on Glass)、等の材料を用いることが出来る。
【0040】
《外側封止部材の貫通孔の形成》
次に、図2Gに示すように、露光技術とエッチング技術を用いて外側封止部材6を所定の形状にする。この時に、第2犠牲層9をエッチング除去することができるようにするための外側封止部材6に貫通孔6aを形成しておく。ここで、外側封止部材6の貫通孔6aが内側封止部材5により、確実に塞がれるように、貫通孔6aの位置および大きさが制御されることが好ましい。例えば、内側封止部材5のサイズ、位置、圧縮応力および貫通孔5aの配置等に基づいて、外側封止部材6の貫通孔6aの位置および大きさが制御されることが好ましい。一例として、外側封止部材6の貫通孔6aは、内側封止部材5の貫通孔5aと重ならないようにに、貫通孔5aとは異なる位置に形成する。また、内側封止部材5が、圧縮応力により膨張する範囲内に、貫通孔6aの内側の開口面が配置されるように、形成されてもよい。
【0041】
《第2犠牲層エッチング》
次に、図2Hに示すように外側封止部材6の貫通孔6aを通して、エッチング媒体(例えば、硝酸)を第2犠牲層9のCuに供給する。第2犠牲層9のエッチング媒体は、内側封止部材5をエッチングしない素性であることが好ましい。エッチング液によるウェットエッチング以外にも、エッチングガスによるドライエッチングを用いることができる。
【0042】
《第1犠牲層エッチング》
次に、図2Iに示すように貫通孔6aおよび貫通孔5aを通してエッチング媒体(例えば、XeF2(フッ化キセノンガス))を第1犠牲層8のSiに供給する。エッチング媒体としては、素子3を構成する素材をエッチングしない素性であることが好ましい。エッチングガスによるドライエッチング以外でも、例えば、フッ硝酸を用いたウェットエッチングでもよい。
【0043】
上記の内側封止部材5形成工程において、内側封止部材5の応力が圧縮応力となるような成膜条件で成膜することにより、第1犠牲層8のエッチング終了時点で、内側封止部材5が膨れ上がり、内側封止部材5と基板2の間に上に凸状の空間を形成することができる。すなわち、第1犠牲層8が除去されることで、第1犠牲層8が内側封止部材5に作用していた力がリリースされると、内側封止部材5は、自らの圧縮応力により変形する。
【0044】
更に、上記外側封止部材6の貫通孔形成工程で、内側封止部材5の頂点が到達しうる位置に、貫通孔6aを形成しておくことにより、第1犠牲層8除去後に内側封止部材5の上面の一部が貫通孔6aを塞ぎ、素子3上に空間を形成することができる。
【0045】
図2Jは、第1犠牲層除去後の電子デバイスの断面図である。第1犠牲層8からリリースされて凸状に膨れ上がった内側封止部材5は、頂点5bを含む部分で外側封止部材6の貫通孔6aを塞いでいる。
【0046】
貫通孔6aをより確実に塞ぐ観点から、上記外側封止部材の貫通孔形成工程において、貫通孔6aは、内側封止部材5の中央部上方に形成することが好ましい。内側封止部材5が膨れ上がった際、中央部上方に頂点5bが到達する可能性が高いからである。また、内側封止部材の貫通孔の形成工程において、貫通孔5aの位置は、内側封止部材の頂点5bとなる可能性の高い中央部以外の外側(周縁部側)に形成することが好ましい。これにより、内側封止部材5が膨れ上がった際に、より確実に貫通孔6aを塞ぐことができる。
【0047】
図3は、図2Jに示す弾性波デバイスを基板2の上方から見た場合の平面図である。すなわち、図2Jは、図3におけるA−A線断面図となっている。図3では、内側封止部材5の外周と、貫通孔5aを点線で表している。図3に示す例では、内側封止部材5の外周である長方形の中心Paを中心と重なる位置に、楕円状の外側封止部材6の貫通孔6aが形成されている。ここでは、貫通孔6aの内周円の中心と、内側封止部材5の外周である長方形の中心Paとが略一致するように、内側封止部材5と貫通孔6aが配置されている。また、内側封止部材5の貫通孔5aは、貫通孔6aと重ならないように、長方形の中心Paから一定距離離れた位置に配置されている。
【0048】
一例として、内側封止部材5の基板2に平行な面における断面形状を200um×200umの正方形とし、内側封止部材5の圧縮応力を-2000Mpaに設定した場合、内側封止部材5の形状の頂点5bの基板2からの高さHは約10umの凸形状になる。また、内側封止部材5と外側封止部材6の間に形成される第2犠牲層9の厚さTを10um以下にすることにより内側封止部材5により貫通孔6aを塞ぐことができる。
【0049】
貫通孔5a、6aの配置は、図3に示す例に限られない。例えば、貫通孔5aは貫通孔6aに重ならない領域であれば、3以上あってもよい。また、貫通孔5aの数が多いほうが第1犠牲層除去工程の時間を短くすることができる。
【0050】
なお、内側封止部材5の内側に形成されることになる空間4の大きさについては、空間4内の素子3に応じて適宜設定することができる。例えば、素子3がSAWデバイスである場合、空間4は、少なくとも弾性表面波を励振する電極を1つ含む大きさであってもよいし、上記電極を複数含む大きさであってもよい。また、素子3がBAWデバイスの場合、空間4は、少なくとも厚み縦振動を励振する上部電極、圧電膜および下部電極を主要構成要素とする積層膜を1つ含む大きさであってもよいし、上記主要構成要素を複数含む大きさであってもよい。
【0051】
[封止部材の圧縮応力と頂点の高さとの関係]
図4に異なる面積の内側封止部材5における応力と凸形状の最大高さの関係を示す。図4は、内側封止部材の面積(L×W)を200×200um、400×400um、600×600um、800×800um、1000×1000umで作製した場合の内側封止部材の応力と最大高さ(頂点の基板からの高さ)との関係を示すグラフである。このグラフは、内側封止部材がSiO2で、その膜厚は1umの場合の結果である。
【0052】
図4に示すグラフより、圧縮応力が増えるほど、内側封止部材の頂点の高さが高くなることがわかる。また、内側封止部材の面積が大きいほど、頂点も高くなることがわかる。このグラフの示す関係を用いると、圧縮応力および内側封止部材の面積から頂点の高さを予測することができる。
【0053】
そのため、第2犠牲層9の厚みTは、内側封止部材の圧縮応力および面積に基づいて決定することができる。具体的には、内側封止部材5の面積と圧縮応力の大きさにより予想される内側封止部材5の高さを第2犠牲層8の上面が超えないように、第2犠牲層の厚みTを設定することができる。これにより、より確実に、内側封止部材5によって外側封止部材6の貫通孔6aを空間4側から塞ぐことができる。
【0054】
[内側封止部材と、外側封止部材の貫通孔の位置関係]
上述したように、外側封止部材6の貫通孔6aは、内側封止部材5の中央部上方に設けられることが好ましい。ここで、内側封止部材5の中央部は、必ずしも、厳密に中央である必要はなく、周縁部からある程度距離がある部分であればよい。内側封止部材5の周縁部は基板2に固定されているので、圧縮応力による変位は少ない。周縁部から離れるほど圧縮応力により変形しやすい。そのため、貫通孔6aを塞ぐために必要な変形が妨げられない程度に、周縁部から離れた位置を中央部とし、その上方に貫通孔6aを配置することが好ましい。
【0055】
内側封止部材5の基板面における形状が円形または楕円形の場合、円または楕円の中心を含む領域を中央部とし、その上方に外側封止部材6の貫通孔6aを設けることができる図5Aは、円形の内側封止部材5において、前記円の中心Pbの上方に貫通孔6aを配置した例を示す図である。内側封止部材5の貫通孔5aは、貫通孔6aの両側の位置に配置される。図5Bは、楕円形の内側封止部材5と、楕円の中心Pcの上方に貫通孔6aが設けられた例を示す図である。
【0056】
なお、内側封止部材の貫通孔も、内側封止部材の中央付近に形成されることが好ましい。すなわち、第1犠牲層の除去後に、内側封止部材において頂点となる可能性が高い中央付近に貫通孔を設けることが好ましい。これにより、エッチングの時に第1犠牲層が最終段階で除去される箇所に貫通孔を配置することができる。その結果、内側封止部材内に第1犠牲層が残りにくくなる。例えば、図5Cに示すように、楕円形の内側封止部材5において、楕円の中心Pcに貫通孔5aを形成し、楕円の中心から少しずれた位置の上方に、外側封止部材6の貫通孔6aを形成してもよい。
【0057】
図5Dは、内側封止部材5が五角形である場合の例を示す図である。このように、内側封止部材5が多角形である場合には、この多角形の外接円の中心Pd付近に、貫通孔6aを形成することができる。
【0058】
[本実施形態による効果、その他]
図6は、封止部材の貫通孔が外側から塞がれる構成の電子デバイスの断面図である。図6の電子デバイスは、薄膜キャップ構造の一例である。この電子デバイスでは、基板12上の素子13を囲み、貫通孔を有する第1の封止部材15と、その外側を覆う第2の封止部材16により、素子13と含む空間14が封止されている。この構造の場合、第2封止部材16が第1封止部材15の貫通孔を通して空間14内部に侵入しやすい。
【0059】
これに対して、本実施形態を薄膜キャップ構造に適用した場合、キャップ体7に用いる封止構造を2層構造にし、2層構造の空間4側の内側封止部材5によって、その外側の外側封止部材6を空間4側から塞ぐ構造にすることができる。そのため、図6に示す構造で生じる問題、例えば、第2封止部材16が第1封止部材16の貫通孔を通して空間14内部に侵入することを防止することができ、良好な封止を実現することができる。
【0060】
すなわち、本実施形態を、薄膜キャップ構造に適用した場合、貫通孔を塞ぐ封止部材が空間内に侵入することを防止することができる。その結果、ウェハレベルで簡単かつ良好に封止することができる小型の電子デバイスを提供することが可能になる。
【0061】
また、上記の本実施形態の製造方法によれば、空間4側の内側封止部材5の膜形状を変化させることで、外側封止部材6の貫通孔6aを内側封止部材5自体で空間4側から塞ぐことが可能となる。そのため、外側封止部材6が内側封止部材5の貫通孔5aから空間4内部に侵入することを防ぐことができ、良好な封止構造を有する小型の弾性波デバイスを提供することができる。
【0062】
(第2の実施形態)
図7は、第2の実施形態にかかる電子デバイスの断面図である。図6に示す構造は、上記第1の実施形態で示した電子バイスの上部に、保護材11が形成されている構造である。図6に示す構成においては、内側封止部材5によって外側封止部材6の貫通孔6aは塞がっているため、保護材11が空間4内に侵入し、素子3の機能を阻害することがない。また、保護材11により内側封止部材5および外側封止部材6からなるキャップ体7の強度を向上させることができる。
【0063】
保護材11としては絶縁性を有する材料であれば特に限定はされないが、二酸化珪素(SiO2)、窒化珪素(SiNx)等の無機材料やポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シロキサン樹脂、アクリル樹脂、ポリメチルメタクリート(PMMA)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ベンゾシクロブテン(BCB)樹脂などが挙げられる。
【0064】
このように、外側封止部材6の上部に保護材11を形成することにより、強度の強い小型の封止構造を提供することができる。
【0065】
(第3の実施形態)
図8は、第1または第2の実施形態の電子デバイスまたは上記電子デバイスを複数接続したフィルタを備えたデュープレクサの一例を示す図である。図8に示すように、デュープレクサ62は、受信フィルタ62aと送信フィルタ62bとを備えている。また、受信フィルタ62aには、例えばバランス出力に対応した受信端子63a及び63bが接続されている。また、送信フィルタ62bは、パワーアンプ64を介して送信端子65に接続している。アンテナ端子と各フィルタ間には、インピーダンス調整のために、必要に応じ整合回路(例えば位相器)が付加されてもよい。ここで、受信フィルタ62a及び送信フィルタ62bの内少なくとも一方には、本実施の形態における電子デバイスを用いたフィルタが含まれている。
【0066】
受信動作を行う際、受信フィルタ62aは、アンテナ端子61を介して入力される受信信号のうち、所定の周波数帯域の信号のみを通過させ、受信端子63a及び63bから外部へ出力する。また、送信動作を行う際、送信フィルタ62bは、送信端子65から入力されてパワーアンプ64で増幅された送信信号のうち、所定の周波数帯域の信号のみを通過させ、アンテナ端子61から外部へ出力する。
【0067】
以上のように、本実施形態のデュープレクサの受信フィルタ62a及び送信フィルタ62bの内少なくとも一方に用いられる電子デバイスまたは上記電子デバイスを複数接続したフィルタを、上記第1または第2の実施形態の電子デバイスを用いて構成すれば、上記電子デバイスをウェハレベルで良好に封止することにより実用的な性能を備えつつ小型にすることができるので、小型のデュープレクサを実現することができる。
【0068】
なお、図8に示すデュープレクサの構成は一例であり、他の形態のデュープレクサを含む通信モジュールに上記第1または第2の実施形態の電子デバイスを用いたフィルタを搭載しても、同様の効果が得られる。
【0069】
(第4の実施形態)
図9は、上記実施形態の通信モジュールを備えた通信装置の一例として、携帯電話端末のRFブロックを示す。また、図9に示す構成は、GSM(Global System for Mobile Communications)通信方式及びW-CDMA(Wideband Code Divition Multiple Access)通信方式に対応した携帯電話端末の構成を示す。また、本実施の形態におけるGSM通信方式は、850 MHz帯、950 MHz帯、1.8 GHz帯、1.9 GHz帯に対応している。また、携帯電話端末は、図9に示す構成以外にマイクロホン、スピーカー、液晶ディスプレイなどを備えているが、本実施の形態における説明では不要であるため図示を省略した。ここで、受信フィルタ73a、77、78、79、80、および送信フィルタ73bには、本実施の形態における電子デバイスまたは上記電子デバイスを複数接続したフィルタが含まれている。
【0070】
まず、アンテナ71を介して入力される受信信号は、その通信方式がW-CDMAかGSMかによってアンテナスイッチ回路72で、動作の対象とするLSIを選択する。入力される受信信号がW-CDMA通信方式に対応している場合は、受信信号をデュープレクサ73に出力するように切り換える。デュープレクサ73に入力される受信信号は、受信フィルタ73aで所定の周波数帯域に制限されて、バランス型の受信信号がLNA74に出力される。LNA74は、入力される受信信号を増幅し、LSI76に出力する。LSI76では、入力される受信信号に基づいて音声信号への復調処理や、携帯電話端末内の各部を動作制御する。
【0071】
一方、信号を送信する場合は、LSI76は送信信号を生成する。生成された送信信号は、パワーアンプ75で増幅されて送信フィルタ73bに入力される。送信フィルタ73bは、入力される送信信号のうち所定の周波数帯域の信号のみを通過させる。送信フィルタ73bから出力される送信信号は、アンテナスイッチ回路72を介してアンテナ71から外部に出力される。
【0072】
また、入力される受信信号がGSM通信方式に対応した信号である場合は、アンテナスイッチ回路72は、周波数帯域に応じて受信フィルタ77〜80のうちいずれか一つを選択し、受信信号を出力する。受信フィルタ77〜80のうちいずれか一つで帯域制限された受信信号は、LSI83に入力される。LSI73は、入力される受信信号に基づいて音声信号への復調処理や、携帯電話端末内の各部を動作制御する。一方、信号を送信する場合は、LSI83は送信信号を生成する。生成された送信信号は、パワーアンプ81または82で増幅されて、アンテナスイッチ回路72を介してアンテナ71から外部に出力される。
【0073】
以上のように、本実施形態の通信装置の受信フィルタ73a、77〜80及び送信フィルタ73bの内少なくとも一方に用いられる電子デバイスまたは上記電子デバイスを複数接続したフィルタを、上記第1または第2の実施形態の電子デバイスを用いて構成すれば、上記電子デバイスをウェハレベルで良好に封止することにより実用的な性能を備えつつ小型にすることができるので、小型の通信装置を実現することができる。
【0074】
なお、本発明は以上の実施の形態の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることは何ら差し支えない。例えば、図1に示した例においては、内側封止部材5の貫通孔5aを2つ、外側封止部材6の貫通孔6aを1つ形成しているが、各々複数個の貫通孔が形成されていても構わない。また、内側封止部材5および外側封止部材6の形状を矩形としたが、矩形に限定されるものではなく、他の形状であっても構わない。
【0075】
上記実施形態では、2層の封止部材で2重に封止する構造について説明したが、3層以上の封止部材で封止する場合も、そのうち2層に上記実施形態を適用することができる。また、内側封止部材は、最も内側にある封止部材に限られない。3層以上の封止部材が存在する多重封止構造において、最も内側ではなくても、少なくとも1つの他の封止部材よりも内側にある封止部材も、当該他の封止部材に対して「内側封止部材」と称することができる。外側封止部材も、同様に、最も外側にある封止部材に限られない。
【0076】
上記実施形態では、外側封止部材の貫通孔を内側封止部材が内側から塞いでいる。これにより、外側封止部材および内側封止部材の貫通孔を外側から塞がなくても、素子を含む空間を封止することが可能になる。そのため、例えば、封止部材が貫通孔から内側の空間に侵入する等、貫通孔を外側から塞ぐことに起因する種々の問題を避けることができる。その結果、簡単かつ良好に素子を含む空間を封止することができる。
【0077】
実施形態における製造方法においては、外側貫通孔を通じたエッチングにより第2犠牲層を除去し、内側貫通孔を通じたエッチングにより第1犠牲層を除去することで、外側封止部材に囲まれた内側封止部材を含む空間および内側封止部材に囲まれた素子を含む空間が形成される。素子を含む空間形成の際、すなわち第1犠牲層の除去の際、圧縮応力を有する内側封止部材は膨らむので、外側貫通孔を内側から塞ぐことができる。そのため、外側封止部材および内側封止部材の貫通孔を外側から塞ぐことなく、素子を含む空間を封止することが可能になる。その結果、例えば、封止部材が貫通孔から内側の空間に侵入する等、貫通孔を外側から塞ぐことに起因する種々の問題を避けることができる。ひいては、簡単かつ良好に素子を含む空間を封止することができる。
【0078】
以上の実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0079】
(付記1)
基板と、
前記基板上に形成された素子と、
前記基板上に設けられ、前記素子を含む空間を囲み、貫通孔を有する内側封止部材と、
前記内側封止部材の外側に設けられ、前記内側封止部材を含む空間を囲み、貫通孔を有する外側封止部材とを備え、
前記外側封止部材の前記貫通孔が、前記内側封止部材により、内側から塞がれている、電子デバイス。
【0080】
(付記2)
前記内側封止部材は、外側に凸の形状であり、
前記外側封止部材の貫通孔は、前記内側封止部材における前記凸の形状の頂点を含む部分により、塞がれている、付記1記載の電子デバイス。
【0081】
(付記3)
前記外側封止部材の外側に保護部材がさらに設けられる、付記1または2に記載の電子デバイス。
【0082】
(付記4)
付記1〜3のいずれか1項に記載の電子デバイスを含む、フィルタまたはデュープレクサ。
【0083】
(付記5)
付記4に記載のフィルタまたはデュープレクサを含む、通信機器。
【0084】
(付記6)
基板上に素子を形成する工程と、
前記素子を覆う第1犠牲層を堆積する工程と、
圧縮応力を有する内側封止部材を、前記第1犠牲層上を覆い、周縁が前記基板に接するように形成する工程と、
前記内側封止部材に内側貫通孔を形成する工程と、
前記内側封止部材の外側に、前記貫通孔を覆う第2犠牲層を堆積する工程と、
前記第2犠牲層および前記内側封止部材を覆う外側封止部材を前記基板上に形成する工程と、
前記外側封止部材に外側貫通孔を、前記内側貫通孔と重ならない位置に形成する工程と、
前記外側貫通孔を通じてエッチング媒体を供給することにより前記第2犠牲層を除去し、前記内側貫通孔を通じてエッチング媒体を供給することにより前記第1犠牲層を除去し、前記第1犠牲層の除去の際、前記圧縮応力により前記内側封止部材が内側から前記外側貫通孔を塞ぐ工程とを含む、電子デバイスの製造方法。
【0085】
(付記7)
前記第1犠牲層の厚みは、前記内側封止部材の基板に平行な面における断面の面積および前記内側封止部材の圧縮応力に応じて制御される、付記6に記載の電子デバイスの製造方法。
【0086】
(付記8)
前記外側封止部材の外側貫通孔は、前記内側封止部材の中央部の上方に形成される、付記6または7に記載の電子デバイスの製造方法。
【0087】
(付記9)
前記内側封止部材の形状は上に凸の形状を有している、付記1〜5のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【0088】
(付記10)
前記内側封止部材は圧縮応力を有する、付記1〜5、9のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【0089】
(付記11)
前記内側封止部材は絶縁材料である、付記1〜5、9、10のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【0090】
(付記12)
前記内側封止部材の貫通孔は前記内側封止部材の頂点の位置と異なる位置に形成されている、付記1〜5、9〜11のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【0091】
(付記13)
前記外側封止部材は弾性材料を含む、付記1〜5、9〜12のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【0092】
(付記14)
前記外側封止部材は絶縁材料を含む付記1〜5、9〜13のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【0093】
(付記15)
前記素子は弾性表面波(SAW)や圧電薄膜共振器(FBAR)を含む、付記1〜5、9〜14のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【0094】
(付記16)
付記1〜5、9〜15のいずれか1項に記載の電子デバイスを複数接続して形成されるフィルタ。
【符号の説明】
【0095】
2 基板
3 素子
4 空間
5 内側封止部材
5a 内側封止部材の貫通孔
5b 内側封止部材の頂点
6 外側封止部材
6a 外側封止部材の貫通孔
7 キャップ体
8 犠牲層
【技術分野】
【0001】
本願開示は、周りに空間を確保して封止される電子デバイスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話に代表される無線機器や電子機器の急速な普及により、小型で軽量な電子デバイスの需要が増大している。電子デバイスの一例として弾性波デバイスが挙げられる。弾性波デバイスとしては、例えば、圧電基板上に発生する弾性表面波を利用したSAWフィルタや、上部電極、圧電膜および下部電極を主な構成要素とし、その圧電膜の厚み縦振動を利用したFBARフィルタ等がある。通常、このような弾性波デバイスはウェハ単位で製造される。ウェハ上の前記弾性波デバイスはチップ状態に切断される。切断された弾性波デバイスは、セラミック基板などを用いたセラミックパッケージ内にワイヤボンディングあるいはフリップチップボンディングによって実装されている。
【0003】
ところが、近年、無線機器、電子機器の高性能化、小型化に伴い、搭載部品に対する小型化のニーズが高まっている。例えば、モジュール用途では、高周波フィルタのような受動部品に対する小型化の要求が高い。こうした小型化のニーズを満足すべく、ウェハ単位で製造された電子素子を、ウェハレベルでチップサイズにパッケージングを行うウェハレベルパッケージ素子の開発が進められている。
【0004】
例えば、弾性波デバイスは表面弾性波あるいは厚み縦振動など圧電体の圧電効果を利用したデバイスであるため、弾性波デバイスの上部には上記振動を確保するための空間が必要となる。また、例えば、可変容量素子は、可動電極が動くための空間を必要とする。このような周りに空間を確保する必要がある素子のウェハレベルパッケージにおいては、素子の上部に振動や運動を阻害させないための中空空間の形成が必要である。
【0005】
例えば、弾性波デバイスのウェハレベルパッケージに関しては、現在までに3つの構造が評価されている。すなわち、ウェハキャップ構造、樹脂キャップ構造、薄膜キャップ構造である。
【0006】
ウェハキャップ構造としては、複数の弾性波デバイスが形成されたウェハ状態のデバイス基板と、基板内に貫通配線を形成したキャップ基板を接合することによって、ウェハレベルで封止してから、封止された各弾性波デバイスがウェハから切り出されるような弾性波デバイスが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
樹脂キャップ構造としては、弾性波デバイスが形成されたウェハ上に樹脂を用いて枠構造を形成し、枠構造の樹脂の上に天井となる樹脂をフィルム状の樹脂や液状の樹脂を用いて形成する構造が開示されている(例えば、非特許文献1や特許文献2参照)。
【0008】
薄膜キャップ構造としては、弾性波デバイスが形成されたウェハ上に、第1封止層と、前記第1封止層を覆う第2封止層とを含む多層構造のキャップを形成する構造が開示されている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001-68616号公報
【特許文献2】米国特許第6,955,950号明細書
【特許文献3】特開2007-266865号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Wafer-Level-Package for Bulk Acoustic Wave (BAW) Filters 2004 IEEE MTT-S Digest 493
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に開示されているようなウェハキャップ構造で作製された弾性波デバイスでは、弾性波デバイスを形成するウェハとは別に、上記弾性波デバイスを封止するためのキャップウェハが必要となることからコストが高くなる。さらには、デバイスウェハとキャップウェハを接合するためには全ての弾性波デバイスにおいて環状部材としてのシールリングが必要となるため、弾性波デバイスの小型化が難しい。
【0012】
また、非特許文献1および特許文献2に開示されているような樹脂キャップ構造で作製された弾性波デバイスでは、弾性波デバイス上に中空空間を形成するためにエポキシ等の樹脂を用いて枠構造を形成することになる。すなわち、樹脂が弾性波デバイスの電極パターンを跨ぐ構造となる。しかしながら、エポキシ等の樹脂は一般に電極パターンである金属との密着性が低いため、熱衝撃や外部からの力が印加された場合には、電極材料と樹脂との間に微小な隙間が発生するという課題があった。さらには、これらの樹脂は、弾性波デバイス上に空間を形成するように厚く形成する場合には、樹脂自体の粘度を高くする必要があることから、電極パターンの端部において形成される基板との段差部分において樹脂が入りきらないことがある。その結果、基板と樹脂との間に微小な隙間が発生する。これらの微小な隙間は水分の侵入経路となり、電極材料の腐食などによる周波数特性の変動等、長期信頼性の劣化を引き起こす。さらには、中空空間を形成する樹脂は硬化するために加熱処理を行う必要がある。その加熱処理の際に樹脂から発生した脱ガスが中空空間内に樹脂がたまり、デバイスの電極材料を腐食させ、長期信頼性の劣化を引き起こす場合がある。
【0013】
特許文献3に開示されているような薄膜キャップ構造で作製された弾性波デバイスでは、第1封止層と、前記第1封止層を覆う第2封止層を形成することによって弾性波素子上に中空空間を形成している。この構造は、中空空間となる部分に予め犠牲層を形成しておき、第1封止層に形成された貫通孔を通してエッチング液あるいはエッチングガスにより上記犠牲層を除去することによって形成される。上記貫通孔は第1封止層を覆うように形成される第2封止層によって塞がれる。しかしながら、本構造では、第1封止層の貫通孔を塞ぐ第2封止層に用いられる材料が、当該貫通孔を通して中空空間内に侵入し、共振部に付着し、弾性波素子の特性劣化の原因となることから、歩留まり低下の原因となるといった課題があった。
【0014】
ゆえに、本発明は、簡単かつ良好に電子素子を封止することができる電子デバイス、およびその製造方法、あるいは、そのような電子デバイスを具備するフィルタ、デュープレクサまたは通信機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願開示の電子デバイスは、基板と、前記基板上に形成された素子と、前記基板上に設けられ、前記素子を含む空間を囲み、貫通孔を有する内側封止部材と、前記内側封止部材の外側に設けられ、前記内側封止部材を含む空間を囲み、貫通孔を有する外側封止部材とを備え、前記外側封止部材の前記貫通孔が、前記内側封止部材により、内側から塞がれている。
【0016】
本願開示の電子デバイスの製造方法は、基板上に素子を形成する工程と、前記素子を覆う第1犠牲層を堆積する工程と、圧縮応力を有する内側封止部材を、前記第1犠牲層上を覆い、周縁が前記基板に接するように形成する工程と、前記内側封止部材に内側貫通孔を形成する工程と、前記内側封止部材の外側および前記内側貫通孔を覆う第2犠牲層を堆積する工程と、前記第2犠牲層を覆う外側封止部材を、周縁が前記基板に接するように形成する工程と、前記外側封止部材において前記内側貫通孔と重ならない位置に、外側貫通孔を形成する工程と、前記外側貫通孔を通じてエッチング媒体を供給することにより前記第2犠牲層を除去し、前記内側貫通孔を通じてエッチング媒体を供給することにより前記第1犠牲層を除去し、前記第1犠牲層の除去の際、前記圧縮応力により前記内側封止部材が内側から前記外側貫通孔を塞ぐ工程とを含む。
【発明の効果】
【0017】
本願開示によれば、簡単かつ良好に電子デバイスを封止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施形態にかかる電子デバイスの構成を示す断面図である。
【図2】図2A〜図2Jは、第1の実施形態にかかる電子デバイスの製造工程における工程ごとの断面図である。
【図3】図2Jに示す弾性波デバイスを基板2の上方から見た場合の平面図である。
【図4】内側封止部材の応力と最大高さとの関係を示すグラフである。
【図5A】円形の内側封止部材の例を示す図である。
【図5B】楕円形の内側封止部材の例を示す図である。
【図5C】楕円形の内側封止部材の他の例を示す図である。
【図5D】五角形の内側封止部材の例を示す図である。
【図6】封止部材の貫通孔が外側から塞がれる構成の電子デバイスの断面図である。
【図7】第2の実施形態にかかる電子デバイスの断面図である。
【図8】第3の実施形態におけるデュープレクサの一例を示す図である。
【図9】第4の実施形態にかかる通信装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1の実施形態)
[電子デバイスの構成]
図1に第1の実施形態にかかる電子デバイスの構成の一例を示す断面図である。図1に示す電子デバイスは、ここでは、一例として、弾性波素子を封止した弾性波デバイスとする。
【0020】
図1に示す電子デバイスは、基板2上に形成された素子3と、素子3を含む空間4を囲む内側封止部材5と、内側封止部材5を含む空間をさらに囲んで外側に設けられる外側封止部材6とを備える。内側封止部材5と外側封止部材6の周縁部は基板2に接続されている。また、内側封止部材5および外側封止部材6は、エッチングのための貫通孔5a、6aを有する。内側封止部材5の貫通孔5aと、外側封止部材6の貫通孔6aは、空間4の内側から外側へ向う方向において、重ならない位置に設けられる。内側封止部材5および外側封止部材6により、素子3を空間4に封止するキャップ体7が形成される。すなわち、キャップ体7により、内部の基板2との間に素子3を封止する空間4(中空空間)が形成される。
【0021】
外側封止部材6の貫通孔6aは、内側封止部材5により内側から塞がれている。本発明において、内側封止部材5の形状は、基板2に対して上に凸形状を有しており、外側封止部材6の貫通孔6aは、内側封止部材5によって素子3を封止する空間4側から塞がれている。なお、上記したように、内側封止部材5の貫通孔5aが外側封止部材6の貫通孔6aと異なる位置に形成される。これにより、外側封止部材6の貫通孔6aを内側封止部材5によって空間4側から塞ぐことができる。
【0022】
図1において、内側封止部材5としては、絶縁材料が用いられることが好ましい。内側封止部材5に絶縁材料を用いることによって、素子3の電極と内側封止部材5との間における寄生容量の発生が抑制されるため、弾性波デバイスの特性劣化を少なくできる。
【0023】
図1において、内側封止部材5は、製造過程において圧縮応力を有することができる材料が用いられることが好ましい。内側封止部材5の圧縮応力により、内側封止部材5を素子3が形成された基板2に対して上に凸状の形状にすることができる。内側封止部材5の凸状の部分で外側封止部材6の貫通孔6aを空間4側からより確実に塞ぐ構造にすることができる。
【0024】
また、外側封止部材6の貫通孔6aは内側封止部材5の頂点の位置に形成されることが好ましい。すなわち、内側封止部材5の凸状の頂点(基板2からの高さが最も高い点)を含む部分で貫通孔6aを塞ぐことで、より確実に封止することができる。したがって、内側封止部材5の貫通孔5aは内側封止部材5の凸状の頂点の位置と異なる位置に形成することが好ましい。
【0025】
[素子3の例]
素子3は、例えば、周りに空間を確保して封止する必要があるものである。例えば、振動するための空間を必要とする弾性波デバイスや、可動電極が動くための空間が必要な可動電極を備えた可変容量素子(可変キャパシタ)等が、素子3の例に挙げられる。
【0026】
弾性波素子の一例であるSAW(Surface Acoustic Wave)素子は、弾性表面波を励振する電極を少なくとも1つ含み、求められる特性に応じて、複数個の電極や、これら電極の端部側に形成される反射器電極や、複数個の電極を接続する接続線等を更に含む。例えば、弾性表面波を発生させる電極1つのみであってもよいし、これらの電極を複数配置して、共振子、フィルタを構成してもよい。
【0027】
弾性波素子の他の一例である、BAW(Bulk Acoustic Wave)素子は、厚み縦振動を励振する上部電極、圧電膜および下部電極を主要構成要素とする積層膜を少なくとも1つ含み、必要に応じて、接続線等を含むものとする。例えば、上記積層膜を複数接続してフィルタを構成することができる。
【0028】
このように、素子3は、例えば、弾性表面波(SAW)素子や圧電薄膜共振器(FBAR)であってもよい。この場合、小型のSAWデバイスやFBARデバイスを提供することができる。また、素子3は、弾性波デバイスを複数接続したフィルタであってもよい。これにより、小型のフィルタを提供することができる。
【0029】
また、素子3は、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を用いて作製された可変容量素子であってもよい。一般的に、可変容量素子は、対向する2つの電極間の距離を変化させて容量を変化させる。そのため、対向する電極の少なくとも1方は可動電極となるので、周りに空間を確保することが必要となる。可変容量素子は、例えば、可変周波数発振器、同調増幅器、位相シフタ、インピーダンス整合回路などにおいて用いられる。
【0030】
[製造工程]
図2A〜図2Jは、本実施形態にかかる電子デバイスの製造工程における工程ごとの断面図である。
【0031】
《素子の作製》
まず、図2Aに示すように基板2上に素子3を作製する。ここで、例えば、素子3がSAW素子の場合、基板2として、タンタル酸リチウムLiTaO3、ニオブ酸リチウムLiNbO3、酸化亜鉛、ZnO、水晶等の圧電基板を用いることができる。また、素子3がBAW素子の場合、Si、ガラス、GaAs等を基板2として用いることができる。このように、素子3の仕様に応じて、材料を適宜選択することが可能である。以下、素子3が弾性波素子である場合について説明する。
【0032】
《第1犠牲層形成・パターニング》
次に、図2Bに示すように、素子3が形成された基板2上に、素子3を覆うように、例えばSi等からなる第1犠牲層8を形成する。第1犠牲層8は、例えば、スパッタリング法、蒸着法、CVD等の方法を用いて形成することができる。第1犠牲層8の材料としては、上記素子3および内側封止部材5とエッチング選択性のある材料が好ましい。具体的には、第1犠牲層8の材料として、上記Si以外にも、例えば、ZnO、Ge、Ti、Cu等などを用いることもできる。また、フォトレジストを第1犠牲層8に用いることもできる。フォトレジストの場合は、スピンコーティング法によって基板2上に形成することができる。以下は、第1犠牲層8にSiを用いた場合について説明する。第1犠牲層8形成後、露光技術とエッチング技術を用いて第1犠牲層8を所定の形状にする。
【0033】
《内側封止部材の形成》
次に、図2Cに示すように、第1犠牲層8を覆うように、例えばSiO2等からなる内側封止部材5を形成する。内側封止部材5は、例えばスパッタリング法、蒸着法、CVD法等の方法を用いて形成する。内側封止部材5として金属材料を用いることもできるが、内側封止部材5と基板2上の配線部の間で寄生容量が発生し、素子3の特性を劣化させるのを防ぐ観点からは、内側封止部材5は絶縁材料であることが好ましい。その材料としては、SiO2以外にも、例えば、SiNx、SiC、Al2O3、AlN等の材料が例として挙げられる、以下に、内側封止部材5がSiO2の場合について説明する。
【0034】
ここで、内側封止部材5の応力が圧縮応力となるような成膜条件で内側封止部材5は、成膜される。内側封止部材5の成膜にスパッタリング法を用いた場合は、例えば、成膜時の真空度、ガス流量、成膜時のパワーや基板バイアス等が、内側封止部材5の応力を圧縮応力にするための成膜条件として挙げられる。また、TEOSを用いたCVD法の場合は、成膜時の真空度、成膜時のパワーや、TEOSと分子構造の似たアルコキシド系のガスをドープすること等が成膜条件として挙げられる。
【0035】
《内側封止部材の貫通孔の形成》
次に、図2Dに示すように、露光技術とエッチング技術を用いて内側封止部材5を所定の形状にする。この時に、先に形成した第1犠牲層8をエッチング除去することができるようにするための貫通孔5aを形成しておく。例えば、貫通孔5aの形成位置は、内側封止部材5直下の第1犠牲層8を除去する過程において、内側封止部材5の頂点部分の第1犠牲層8が最終段階で除去される箇所に配置することが好ましい。これにより、内側封止部材5内に第1犠牲層8が残りにくくすることができる。
【0036】
《第2犠牲層の形成・パターニング》
次に、図2Eに示すように内側封止部材5を覆うように、例えばCu等からなる第2犠牲層9を形成する。第2犠牲層9は、例えば、スパッタリング法、蒸着法、CVD法等の方法を用いて形成することができる。第2犠牲層9としては、内側封止部材5および外側封止部材6とエッチング選択性のある材料が好ましい。その材料としては、上記Cu以外にも、例えば、ZnO、Ge、Ti等の材料にしても良い。また、第2犠牲層9に、フォトレジストを用いることもできる。フォトレジストの場合は、スピンコーティング法によって基板2上に形成することができる。更には、上記第1犠牲層8と同じ材料を第2犠牲層9にも用いることもできる。同じ材料を用いることにより、後工程における犠牲層除去工程において、第2犠牲層9および第1犠牲層8を同一エッチング媒体でエッチング除去することが可能になる。以下に、第2犠牲層9にCuを用いた場合について説明する。
【0037】
露光技術とエッチング技術を用いて第2犠牲層9を所定の形状にすることができる。ここで、第2犠牲層9の厚みTは、内側封止部材5と外側封止部材6との間の空間を形成するためのものである。そのため、内側封止部材5と外側封止部材6との位置関係は、第2犠牲層9の形状によって略決まることになる。本実施形態では、内側封止部材5で外側封止部材6の貫通孔6aをより確実に塞ぐことができるように、この第2犠牲層9の厚みTが制御されることが好ましい。そのため、例えば、第2犠牲層9の厚み9は、内側封止部材5のサイズ、内側封止部材5の圧縮応力等によって制御されることが好ましい。この第2犠牲層9の厚みTの制御については後述する。
【0038】
《外側封止部材の形成》
次に、図2Fに示すように、第2犠牲層9および内側封止部材5を覆うように、例えば、SiNx等からなる外側封止部材6を形成する。外側封止部材6は、例えば、スパッタ法、蒸着法、CVD法等の方法を用いて形成することができる。外側封止部材6としては、上記SiNx以外にも、例えば、SiO2、SiC、Al2O3、AlN等の材料にしてもよい。
【0039】
また、外側封止部材6は弾性材料で構成することができる。これにより、空間4側から内側封止部材5によって外側封止部材6の貫通孔6aを塞いだ際に、内側封止部材5から受ける圧力を外側封止部材6が吸収することができる。その結果、密着性の優れた封止構造を形成でき、良好な封止構造を有する電子デバイスを提供することができる。弾性材料は、例えば、上記SiO2、SiC、Al2O3、AlNの他に、Si、Ta2O5、HfO2、ZrO2、SOG(Spin on Glass)、等の材料を用いることが出来る。
【0040】
《外側封止部材の貫通孔の形成》
次に、図2Gに示すように、露光技術とエッチング技術を用いて外側封止部材6を所定の形状にする。この時に、第2犠牲層9をエッチング除去することができるようにするための外側封止部材6に貫通孔6aを形成しておく。ここで、外側封止部材6の貫通孔6aが内側封止部材5により、確実に塞がれるように、貫通孔6aの位置および大きさが制御されることが好ましい。例えば、内側封止部材5のサイズ、位置、圧縮応力および貫通孔5aの配置等に基づいて、外側封止部材6の貫通孔6aの位置および大きさが制御されることが好ましい。一例として、外側封止部材6の貫通孔6aは、内側封止部材5の貫通孔5aと重ならないようにに、貫通孔5aとは異なる位置に形成する。また、内側封止部材5が、圧縮応力により膨張する範囲内に、貫通孔6aの内側の開口面が配置されるように、形成されてもよい。
【0041】
《第2犠牲層エッチング》
次に、図2Hに示すように外側封止部材6の貫通孔6aを通して、エッチング媒体(例えば、硝酸)を第2犠牲層9のCuに供給する。第2犠牲層9のエッチング媒体は、内側封止部材5をエッチングしない素性であることが好ましい。エッチング液によるウェットエッチング以外にも、エッチングガスによるドライエッチングを用いることができる。
【0042】
《第1犠牲層エッチング》
次に、図2Iに示すように貫通孔6aおよび貫通孔5aを通してエッチング媒体(例えば、XeF2(フッ化キセノンガス))を第1犠牲層8のSiに供給する。エッチング媒体としては、素子3を構成する素材をエッチングしない素性であることが好ましい。エッチングガスによるドライエッチング以外でも、例えば、フッ硝酸を用いたウェットエッチングでもよい。
【0043】
上記の内側封止部材5形成工程において、内側封止部材5の応力が圧縮応力となるような成膜条件で成膜することにより、第1犠牲層8のエッチング終了時点で、内側封止部材5が膨れ上がり、内側封止部材5と基板2の間に上に凸状の空間を形成することができる。すなわち、第1犠牲層8が除去されることで、第1犠牲層8が内側封止部材5に作用していた力がリリースされると、内側封止部材5は、自らの圧縮応力により変形する。
【0044】
更に、上記外側封止部材6の貫通孔形成工程で、内側封止部材5の頂点が到達しうる位置に、貫通孔6aを形成しておくことにより、第1犠牲層8除去後に内側封止部材5の上面の一部が貫通孔6aを塞ぎ、素子3上に空間を形成することができる。
【0045】
図2Jは、第1犠牲層除去後の電子デバイスの断面図である。第1犠牲層8からリリースされて凸状に膨れ上がった内側封止部材5は、頂点5bを含む部分で外側封止部材6の貫通孔6aを塞いでいる。
【0046】
貫通孔6aをより確実に塞ぐ観点から、上記外側封止部材の貫通孔形成工程において、貫通孔6aは、内側封止部材5の中央部上方に形成することが好ましい。内側封止部材5が膨れ上がった際、中央部上方に頂点5bが到達する可能性が高いからである。また、内側封止部材の貫通孔の形成工程において、貫通孔5aの位置は、内側封止部材の頂点5bとなる可能性の高い中央部以外の外側(周縁部側)に形成することが好ましい。これにより、内側封止部材5が膨れ上がった際に、より確実に貫通孔6aを塞ぐことができる。
【0047】
図3は、図2Jに示す弾性波デバイスを基板2の上方から見た場合の平面図である。すなわち、図2Jは、図3におけるA−A線断面図となっている。図3では、内側封止部材5の外周と、貫通孔5aを点線で表している。図3に示す例では、内側封止部材5の外周である長方形の中心Paを中心と重なる位置に、楕円状の外側封止部材6の貫通孔6aが形成されている。ここでは、貫通孔6aの内周円の中心と、内側封止部材5の外周である長方形の中心Paとが略一致するように、内側封止部材5と貫通孔6aが配置されている。また、内側封止部材5の貫通孔5aは、貫通孔6aと重ならないように、長方形の中心Paから一定距離離れた位置に配置されている。
【0048】
一例として、内側封止部材5の基板2に平行な面における断面形状を200um×200umの正方形とし、内側封止部材5の圧縮応力を-2000Mpaに設定した場合、内側封止部材5の形状の頂点5bの基板2からの高さHは約10umの凸形状になる。また、内側封止部材5と外側封止部材6の間に形成される第2犠牲層9の厚さTを10um以下にすることにより内側封止部材5により貫通孔6aを塞ぐことができる。
【0049】
貫通孔5a、6aの配置は、図3に示す例に限られない。例えば、貫通孔5aは貫通孔6aに重ならない領域であれば、3以上あってもよい。また、貫通孔5aの数が多いほうが第1犠牲層除去工程の時間を短くすることができる。
【0050】
なお、内側封止部材5の内側に形成されることになる空間4の大きさについては、空間4内の素子3に応じて適宜設定することができる。例えば、素子3がSAWデバイスである場合、空間4は、少なくとも弾性表面波を励振する電極を1つ含む大きさであってもよいし、上記電極を複数含む大きさであってもよい。また、素子3がBAWデバイスの場合、空間4は、少なくとも厚み縦振動を励振する上部電極、圧電膜および下部電極を主要構成要素とする積層膜を1つ含む大きさであってもよいし、上記主要構成要素を複数含む大きさであってもよい。
【0051】
[封止部材の圧縮応力と頂点の高さとの関係]
図4に異なる面積の内側封止部材5における応力と凸形状の最大高さの関係を示す。図4は、内側封止部材の面積(L×W)を200×200um、400×400um、600×600um、800×800um、1000×1000umで作製した場合の内側封止部材の応力と最大高さ(頂点の基板からの高さ)との関係を示すグラフである。このグラフは、内側封止部材がSiO2で、その膜厚は1umの場合の結果である。
【0052】
図4に示すグラフより、圧縮応力が増えるほど、内側封止部材の頂点の高さが高くなることがわかる。また、内側封止部材の面積が大きいほど、頂点も高くなることがわかる。このグラフの示す関係を用いると、圧縮応力および内側封止部材の面積から頂点の高さを予測することができる。
【0053】
そのため、第2犠牲層9の厚みTは、内側封止部材の圧縮応力および面積に基づいて決定することができる。具体的には、内側封止部材5の面積と圧縮応力の大きさにより予想される内側封止部材5の高さを第2犠牲層8の上面が超えないように、第2犠牲層の厚みTを設定することができる。これにより、より確実に、内側封止部材5によって外側封止部材6の貫通孔6aを空間4側から塞ぐことができる。
【0054】
[内側封止部材と、外側封止部材の貫通孔の位置関係]
上述したように、外側封止部材6の貫通孔6aは、内側封止部材5の中央部上方に設けられることが好ましい。ここで、内側封止部材5の中央部は、必ずしも、厳密に中央である必要はなく、周縁部からある程度距離がある部分であればよい。内側封止部材5の周縁部は基板2に固定されているので、圧縮応力による変位は少ない。周縁部から離れるほど圧縮応力により変形しやすい。そのため、貫通孔6aを塞ぐために必要な変形が妨げられない程度に、周縁部から離れた位置を中央部とし、その上方に貫通孔6aを配置することが好ましい。
【0055】
内側封止部材5の基板面における形状が円形または楕円形の場合、円または楕円の中心を含む領域を中央部とし、その上方に外側封止部材6の貫通孔6aを設けることができる図5Aは、円形の内側封止部材5において、前記円の中心Pbの上方に貫通孔6aを配置した例を示す図である。内側封止部材5の貫通孔5aは、貫通孔6aの両側の位置に配置される。図5Bは、楕円形の内側封止部材5と、楕円の中心Pcの上方に貫通孔6aが設けられた例を示す図である。
【0056】
なお、内側封止部材の貫通孔も、内側封止部材の中央付近に形成されることが好ましい。すなわち、第1犠牲層の除去後に、内側封止部材において頂点となる可能性が高い中央付近に貫通孔を設けることが好ましい。これにより、エッチングの時に第1犠牲層が最終段階で除去される箇所に貫通孔を配置することができる。その結果、内側封止部材内に第1犠牲層が残りにくくなる。例えば、図5Cに示すように、楕円形の内側封止部材5において、楕円の中心Pcに貫通孔5aを形成し、楕円の中心から少しずれた位置の上方に、外側封止部材6の貫通孔6aを形成してもよい。
【0057】
図5Dは、内側封止部材5が五角形である場合の例を示す図である。このように、内側封止部材5が多角形である場合には、この多角形の外接円の中心Pd付近に、貫通孔6aを形成することができる。
【0058】
[本実施形態による効果、その他]
図6は、封止部材の貫通孔が外側から塞がれる構成の電子デバイスの断面図である。図6の電子デバイスは、薄膜キャップ構造の一例である。この電子デバイスでは、基板12上の素子13を囲み、貫通孔を有する第1の封止部材15と、その外側を覆う第2の封止部材16により、素子13と含む空間14が封止されている。この構造の場合、第2封止部材16が第1封止部材15の貫通孔を通して空間14内部に侵入しやすい。
【0059】
これに対して、本実施形態を薄膜キャップ構造に適用した場合、キャップ体7に用いる封止構造を2層構造にし、2層構造の空間4側の内側封止部材5によって、その外側の外側封止部材6を空間4側から塞ぐ構造にすることができる。そのため、図6に示す構造で生じる問題、例えば、第2封止部材16が第1封止部材16の貫通孔を通して空間14内部に侵入することを防止することができ、良好な封止を実現することができる。
【0060】
すなわち、本実施形態を、薄膜キャップ構造に適用した場合、貫通孔を塞ぐ封止部材が空間内に侵入することを防止することができる。その結果、ウェハレベルで簡単かつ良好に封止することができる小型の電子デバイスを提供することが可能になる。
【0061】
また、上記の本実施形態の製造方法によれば、空間4側の内側封止部材5の膜形状を変化させることで、外側封止部材6の貫通孔6aを内側封止部材5自体で空間4側から塞ぐことが可能となる。そのため、外側封止部材6が内側封止部材5の貫通孔5aから空間4内部に侵入することを防ぐことができ、良好な封止構造を有する小型の弾性波デバイスを提供することができる。
【0062】
(第2の実施形態)
図7は、第2の実施形態にかかる電子デバイスの断面図である。図6に示す構造は、上記第1の実施形態で示した電子バイスの上部に、保護材11が形成されている構造である。図6に示す構成においては、内側封止部材5によって外側封止部材6の貫通孔6aは塞がっているため、保護材11が空間4内に侵入し、素子3の機能を阻害することがない。また、保護材11により内側封止部材5および外側封止部材6からなるキャップ体7の強度を向上させることができる。
【0063】
保護材11としては絶縁性を有する材料であれば特に限定はされないが、二酸化珪素(SiO2)、窒化珪素(SiNx)等の無機材料やポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シロキサン樹脂、アクリル樹脂、ポリメチルメタクリート(PMMA)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ベンゾシクロブテン(BCB)樹脂などが挙げられる。
【0064】
このように、外側封止部材6の上部に保護材11を形成することにより、強度の強い小型の封止構造を提供することができる。
【0065】
(第3の実施形態)
図8は、第1または第2の実施形態の電子デバイスまたは上記電子デバイスを複数接続したフィルタを備えたデュープレクサの一例を示す図である。図8に示すように、デュープレクサ62は、受信フィルタ62aと送信フィルタ62bとを備えている。また、受信フィルタ62aには、例えばバランス出力に対応した受信端子63a及び63bが接続されている。また、送信フィルタ62bは、パワーアンプ64を介して送信端子65に接続している。アンテナ端子と各フィルタ間には、インピーダンス調整のために、必要に応じ整合回路(例えば位相器)が付加されてもよい。ここで、受信フィルタ62a及び送信フィルタ62bの内少なくとも一方には、本実施の形態における電子デバイスを用いたフィルタが含まれている。
【0066】
受信動作を行う際、受信フィルタ62aは、アンテナ端子61を介して入力される受信信号のうち、所定の周波数帯域の信号のみを通過させ、受信端子63a及び63bから外部へ出力する。また、送信動作を行う際、送信フィルタ62bは、送信端子65から入力されてパワーアンプ64で増幅された送信信号のうち、所定の周波数帯域の信号のみを通過させ、アンテナ端子61から外部へ出力する。
【0067】
以上のように、本実施形態のデュープレクサの受信フィルタ62a及び送信フィルタ62bの内少なくとも一方に用いられる電子デバイスまたは上記電子デバイスを複数接続したフィルタを、上記第1または第2の実施形態の電子デバイスを用いて構成すれば、上記電子デバイスをウェハレベルで良好に封止することにより実用的な性能を備えつつ小型にすることができるので、小型のデュープレクサを実現することができる。
【0068】
なお、図8に示すデュープレクサの構成は一例であり、他の形態のデュープレクサを含む通信モジュールに上記第1または第2の実施形態の電子デバイスを用いたフィルタを搭載しても、同様の効果が得られる。
【0069】
(第4の実施形態)
図9は、上記実施形態の通信モジュールを備えた通信装置の一例として、携帯電話端末のRFブロックを示す。また、図9に示す構成は、GSM(Global System for Mobile Communications)通信方式及びW-CDMA(Wideband Code Divition Multiple Access)通信方式に対応した携帯電話端末の構成を示す。また、本実施の形態におけるGSM通信方式は、850 MHz帯、950 MHz帯、1.8 GHz帯、1.9 GHz帯に対応している。また、携帯電話端末は、図9に示す構成以外にマイクロホン、スピーカー、液晶ディスプレイなどを備えているが、本実施の形態における説明では不要であるため図示を省略した。ここで、受信フィルタ73a、77、78、79、80、および送信フィルタ73bには、本実施の形態における電子デバイスまたは上記電子デバイスを複数接続したフィルタが含まれている。
【0070】
まず、アンテナ71を介して入力される受信信号は、その通信方式がW-CDMAかGSMかによってアンテナスイッチ回路72で、動作の対象とするLSIを選択する。入力される受信信号がW-CDMA通信方式に対応している場合は、受信信号をデュープレクサ73に出力するように切り換える。デュープレクサ73に入力される受信信号は、受信フィルタ73aで所定の周波数帯域に制限されて、バランス型の受信信号がLNA74に出力される。LNA74は、入力される受信信号を増幅し、LSI76に出力する。LSI76では、入力される受信信号に基づいて音声信号への復調処理や、携帯電話端末内の各部を動作制御する。
【0071】
一方、信号を送信する場合は、LSI76は送信信号を生成する。生成された送信信号は、パワーアンプ75で増幅されて送信フィルタ73bに入力される。送信フィルタ73bは、入力される送信信号のうち所定の周波数帯域の信号のみを通過させる。送信フィルタ73bから出力される送信信号は、アンテナスイッチ回路72を介してアンテナ71から外部に出力される。
【0072】
また、入力される受信信号がGSM通信方式に対応した信号である場合は、アンテナスイッチ回路72は、周波数帯域に応じて受信フィルタ77〜80のうちいずれか一つを選択し、受信信号を出力する。受信フィルタ77〜80のうちいずれか一つで帯域制限された受信信号は、LSI83に入力される。LSI73は、入力される受信信号に基づいて音声信号への復調処理や、携帯電話端末内の各部を動作制御する。一方、信号を送信する場合は、LSI83は送信信号を生成する。生成された送信信号は、パワーアンプ81または82で増幅されて、アンテナスイッチ回路72を介してアンテナ71から外部に出力される。
【0073】
以上のように、本実施形態の通信装置の受信フィルタ73a、77〜80及び送信フィルタ73bの内少なくとも一方に用いられる電子デバイスまたは上記電子デバイスを複数接続したフィルタを、上記第1または第2の実施形態の電子デバイスを用いて構成すれば、上記電子デバイスをウェハレベルで良好に封止することにより実用的な性能を備えつつ小型にすることができるので、小型の通信装置を実現することができる。
【0074】
なお、本発明は以上の実施の形態の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることは何ら差し支えない。例えば、図1に示した例においては、内側封止部材5の貫通孔5aを2つ、外側封止部材6の貫通孔6aを1つ形成しているが、各々複数個の貫通孔が形成されていても構わない。また、内側封止部材5および外側封止部材6の形状を矩形としたが、矩形に限定されるものではなく、他の形状であっても構わない。
【0075】
上記実施形態では、2層の封止部材で2重に封止する構造について説明したが、3層以上の封止部材で封止する場合も、そのうち2層に上記実施形態を適用することができる。また、内側封止部材は、最も内側にある封止部材に限られない。3層以上の封止部材が存在する多重封止構造において、最も内側ではなくても、少なくとも1つの他の封止部材よりも内側にある封止部材も、当該他の封止部材に対して「内側封止部材」と称することができる。外側封止部材も、同様に、最も外側にある封止部材に限られない。
【0076】
上記実施形態では、外側封止部材の貫通孔を内側封止部材が内側から塞いでいる。これにより、外側封止部材および内側封止部材の貫通孔を外側から塞がなくても、素子を含む空間を封止することが可能になる。そのため、例えば、封止部材が貫通孔から内側の空間に侵入する等、貫通孔を外側から塞ぐことに起因する種々の問題を避けることができる。その結果、簡単かつ良好に素子を含む空間を封止することができる。
【0077】
実施形態における製造方法においては、外側貫通孔を通じたエッチングにより第2犠牲層を除去し、内側貫通孔を通じたエッチングにより第1犠牲層を除去することで、外側封止部材に囲まれた内側封止部材を含む空間および内側封止部材に囲まれた素子を含む空間が形成される。素子を含む空間形成の際、すなわち第1犠牲層の除去の際、圧縮応力を有する内側封止部材は膨らむので、外側貫通孔を内側から塞ぐことができる。そのため、外側封止部材および内側封止部材の貫通孔を外側から塞ぐことなく、素子を含む空間を封止することが可能になる。その結果、例えば、封止部材が貫通孔から内側の空間に侵入する等、貫通孔を外側から塞ぐことに起因する種々の問題を避けることができる。ひいては、簡単かつ良好に素子を含む空間を封止することができる。
【0078】
以上の実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0079】
(付記1)
基板と、
前記基板上に形成された素子と、
前記基板上に設けられ、前記素子を含む空間を囲み、貫通孔を有する内側封止部材と、
前記内側封止部材の外側に設けられ、前記内側封止部材を含む空間を囲み、貫通孔を有する外側封止部材とを備え、
前記外側封止部材の前記貫通孔が、前記内側封止部材により、内側から塞がれている、電子デバイス。
【0080】
(付記2)
前記内側封止部材は、外側に凸の形状であり、
前記外側封止部材の貫通孔は、前記内側封止部材における前記凸の形状の頂点を含む部分により、塞がれている、付記1記載の電子デバイス。
【0081】
(付記3)
前記外側封止部材の外側に保護部材がさらに設けられる、付記1または2に記載の電子デバイス。
【0082】
(付記4)
付記1〜3のいずれか1項に記載の電子デバイスを含む、フィルタまたはデュープレクサ。
【0083】
(付記5)
付記4に記載のフィルタまたはデュープレクサを含む、通信機器。
【0084】
(付記6)
基板上に素子を形成する工程と、
前記素子を覆う第1犠牲層を堆積する工程と、
圧縮応力を有する内側封止部材を、前記第1犠牲層上を覆い、周縁が前記基板に接するように形成する工程と、
前記内側封止部材に内側貫通孔を形成する工程と、
前記内側封止部材の外側に、前記貫通孔を覆う第2犠牲層を堆積する工程と、
前記第2犠牲層および前記内側封止部材を覆う外側封止部材を前記基板上に形成する工程と、
前記外側封止部材に外側貫通孔を、前記内側貫通孔と重ならない位置に形成する工程と、
前記外側貫通孔を通じてエッチング媒体を供給することにより前記第2犠牲層を除去し、前記内側貫通孔を通じてエッチング媒体を供給することにより前記第1犠牲層を除去し、前記第1犠牲層の除去の際、前記圧縮応力により前記内側封止部材が内側から前記外側貫通孔を塞ぐ工程とを含む、電子デバイスの製造方法。
【0085】
(付記7)
前記第1犠牲層の厚みは、前記内側封止部材の基板に平行な面における断面の面積および前記内側封止部材の圧縮応力に応じて制御される、付記6に記載の電子デバイスの製造方法。
【0086】
(付記8)
前記外側封止部材の外側貫通孔は、前記内側封止部材の中央部の上方に形成される、付記6または7に記載の電子デバイスの製造方法。
【0087】
(付記9)
前記内側封止部材の形状は上に凸の形状を有している、付記1〜5のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【0088】
(付記10)
前記内側封止部材は圧縮応力を有する、付記1〜5、9のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【0089】
(付記11)
前記内側封止部材は絶縁材料である、付記1〜5、9、10のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【0090】
(付記12)
前記内側封止部材の貫通孔は前記内側封止部材の頂点の位置と異なる位置に形成されている、付記1〜5、9〜11のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【0091】
(付記13)
前記外側封止部材は弾性材料を含む、付記1〜5、9〜12のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【0092】
(付記14)
前記外側封止部材は絶縁材料を含む付記1〜5、9〜13のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【0093】
(付記15)
前記素子は弾性表面波(SAW)や圧電薄膜共振器(FBAR)を含む、付記1〜5、9〜14のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【0094】
(付記16)
付記1〜5、9〜15のいずれか1項に記載の電子デバイスを複数接続して形成されるフィルタ。
【符号の説明】
【0095】
2 基板
3 素子
4 空間
5 内側封止部材
5a 内側封止部材の貫通孔
5b 内側封止部材の頂点
6 外側封止部材
6a 外側封止部材の貫通孔
7 キャップ体
8 犠牲層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された素子と、
前記基板上に設けられ、前記素子を含む空間を囲み、貫通孔を有する内側封止部材と、
前記内側封止部材の外側に設けられ、前記内側封止部材を含む空間を囲み、貫通孔を有する外側封止部材とを備え、
前記外側封止部材の前記貫通孔が、前記内側封止部材により、内側から塞がれている、電子デバイス。
【請求項2】
前記内側封止部材は、外側に凸の形状であり、
前記外側封止部材の貫通孔は、前記内側封止部材における前記凸の形状の頂点を含む部分により、塞がれている、請求項1記載の電子デバイス。
【請求項3】
前記外側封止部材の外側に保護部材がさらに設けられる、請求項1または2に記載の電子デバイス。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の電子デバイスを含む、フィルタまたはデュープレクサ。
【請求項5】
請求項4に記載のフィルタまたはデュープレクサを含む、通信機器。
【請求項6】
基板上に素子を形成する工程と、
前記素子を覆う第1犠牲層を堆積する工程と、
圧縮応力を有する内側封止部材を、前記第1犠牲層上を覆い、周縁が前記基板に接するように形成する工程と、
前記内側封止部材に内側貫通孔を形成する工程と、
前記内側封止部材の外側および前記内側貫通孔を覆う第2犠牲層を堆積する工程と、
前記第2犠牲層を覆う外側封止部材を、周縁が前記基板に接するように形成する工程と、
前記外側封止部材において前記内側貫通孔と重ならない位置に、外側貫通孔を形成する工程と、
前記外側貫通孔を通じてエッチング媒体を供給することにより前記第2犠牲層を除去し、前記内側貫通孔を通じてエッチング媒体を供給することにより前記第1犠牲層を除去し、前記第1犠牲層の除去の際、前記圧縮応力により前記内側封止部材が内側から前記外側貫通孔を塞ぐ工程とを含む、電子デバイスの製造方法。
【請求項7】
前記第1犠牲層の厚みは、前記内側封止部材の基板に平行な面における断面の面積および前記内側封止部材の圧縮応力に応じて制御される、請求項6に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項8】
前記外側封止部材の外側貫通孔は、前記内側封止部材の中央部の上方に形成される、請求項6または7に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された素子と、
前記基板上に設けられ、前記素子を含む空間を囲み、貫通孔を有する内側封止部材と、
前記内側封止部材の外側に設けられ、前記内側封止部材を含む空間を囲み、貫通孔を有する外側封止部材とを備え、
前記外側封止部材の前記貫通孔が、前記内側封止部材により、内側から塞がれている、電子デバイス。
【請求項2】
前記内側封止部材は、外側に凸の形状であり、
前記外側封止部材の貫通孔は、前記内側封止部材における前記凸の形状の頂点を含む部分により、塞がれている、請求項1記載の電子デバイス。
【請求項3】
前記外側封止部材の外側に保護部材がさらに設けられる、請求項1または2に記載の電子デバイス。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の電子デバイスを含む、フィルタまたはデュープレクサ。
【請求項5】
請求項4に記載のフィルタまたはデュープレクサを含む、通信機器。
【請求項6】
基板上に素子を形成する工程と、
前記素子を覆う第1犠牲層を堆積する工程と、
圧縮応力を有する内側封止部材を、前記第1犠牲層上を覆い、周縁が前記基板に接するように形成する工程と、
前記内側封止部材に内側貫通孔を形成する工程と、
前記内側封止部材の外側および前記内側貫通孔を覆う第2犠牲層を堆積する工程と、
前記第2犠牲層を覆う外側封止部材を、周縁が前記基板に接するように形成する工程と、
前記外側封止部材において前記内側貫通孔と重ならない位置に、外側貫通孔を形成する工程と、
前記外側貫通孔を通じてエッチング媒体を供給することにより前記第2犠牲層を除去し、前記内側貫通孔を通じてエッチング媒体を供給することにより前記第1犠牲層を除去し、前記第1犠牲層の除去の際、前記圧縮応力により前記内側封止部材が内側から前記外側貫通孔を塞ぐ工程とを含む、電子デバイスの製造方法。
【請求項7】
前記第1犠牲層の厚みは、前記内側封止部材の基板に平行な面における断面の面積および前記内側封止部材の圧縮応力に応じて制御される、請求項6に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項8】
前記外側封止部材の外側貫通孔は、前記内側封止部材の中央部の上方に形成される、請求項6または7に記載の電子デバイスの製造方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図2G】
【図2H】
【図2I】
【図2J】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図2G】
【図2H】
【図2I】
【図2J】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2010−245829(P2010−245829A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92175(P2009−92175)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.GSM
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.GSM
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】
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