説明

電子ビーム検出器、電子ビーム計測方法、及び電子ビーム描画装置

【課題】
電子ビーム描画装置において、幅広い領域に渡ってビームサイズを高精度に計測することが可能な電子ビーム計測技術を提供する
【解決手段】
電子ビーム検出器218には、スリット開口やナイフエッジが形成されており、スリットを用いる第1のビームサイズ計測方法とナイフエッジを用いる第2の計測方法を切り替えて使用することにより、広い範囲のビームサイズで高精度な計測を行うことが可能となる。この計測値を元に、ビームサイズ校正を行い、描画制御装置211にフィードバックすることで高精度な描画を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体集積回路などの加工、描画に用いられる電子ビーム描画における電子ビーム計測技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の高密度化、高集積化は更に進展し、これに伴い形成すべき回路パターンの微細化も急速に進んでいる。多くの回路パターンは、マスクのパターンを縮小投影露光する光リソグラフィーが用いられている。特に100nm以下のいわゆる波長限界以下のパターン形成は、様々な超解像技術を用いるため、縮小投影でありながらマスクパターンに求められる寸法精度は数nmである。
【0003】
このため、マスク描画を行う電子ビーム描画装置の電子ビームにも極めて高い精度が要求される。高い精度のビームを発生させるためには、ビームプロファイルの計測が重要である。ここで、プロファイルとは、ビームサイズ、電子光学系の収差によるボケ、焦点や非点のずれによるボケ、ビーム面内の歪、ビームの中心位置、ビーム強度などである。このうち、特にビームサイズの計測誤差は、直接マスクのパターンサイズの精度に反映されるため、ビームサイズを正確に測定することが、描画精度を高める上で必須である。
【0004】
ビームプロファイルの測定は、電子ビームの反射率の異なる材質(例えば、シリコン基板上のタングステン)でマークを形成し、これを走査することによる反射電子信号の変化として行っていた。しかしながら、高精度な測定を行うためには十分なコントラストとS/Nを得ることが困難になってきていた。
【0005】
これに対して、いわゆるナイフエッジを用いた透過検出によりビームサイズを計測すれば、十分なコントラストを得ることが可能である。また、例えば、特開2004−355884号公報では、ビームサイズより幅の狭い透過マーク上を走査して、ビームサイズ計測を行う方法が提案されている。このとき、透過した電子を計測する素子として、ファラデーカップの様に電流を直接計測するのではなく、フォトダイオードのような半導体検出素子を用いれば、更に信号強度を増やすことが可能であることも開示されている。
【0006】
また、微小なビームサイズを計測する手段として、例えば、特開平11−149893号公報に示されているように、ビーム電流を計測することにより、ビームサイズを推定し、校正する方法も提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開2004−355884号公報
【特許文献2】特開平11−149893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、特に100nmノード以降要求される描画パターンの寸法精度を実現するためには、高精度にビームサイズを測定する必要がある。通常、可変成形方式の描画装置が用いる最大のビームサイズは2μm角程度である。これに対して、最小のビームサイズは10nm程度となることもある。これは、マスク描画ではOPC(光近接補正)のため、光学上解像しない寸法を補助的に付加することを多用して、光露光の波長限界を超える努力をしているためである。従って、ビーム計測を行う範囲は、ビームの一辺の長さで10倍以上、面積で100倍以上の広いレンジに及ぶことになる。
【0009】
ビームサイズを計測する方法としては、計測するビームサイズに比較して充分に大きい反射マーク上を走査する反射電子検出方法と、直線状のいわゆるナイフエッジを横切るように走査して透過電流を計測するナイフエッジ法(透過検出法)がある。
【0010】
透過検出法の特徴として、反射電子検出法に比較して検出信号で高いコントラストを得ることができるが、上記のごとく100倍以上異なる面積のビームを計測するということは、ビーム電流値も同様に変化し、検出回路の動作保証範囲(ダイナミックレンジ)も同様に必要となる。必要な測定精度を長さで1nmとすれば100万分の1を保証する必要があり、検出回路の高精度化が問題となる。
【0011】
この問題は、幅の狭いいわゆるスリット形状のマーク上を走査して計測を行えば低減される。しかし、スリット幅以下のビームサイズは検出できず、また、スリット形状のマーク加工に限界がある。現状、要求される、ビームサイズはスリット形状の加工限界以下も計測する必要があり、完全に要求を満たせないという問題があった。
【0012】
そこで、本発明の目的は、電子ビーム描画装置において、幅広い領域に渡ってビームサイズを高精度に計測することが可能な電子ビーム計測技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明では、下記の示すような特徴を有する。
【0014】
(1)本発明の電子ビーム検出器は、電子ビームの走査方向のマーク幅が走査方向と直交方向の長さに比べて小さいスリット形状の開口マークを備えた少なくとも1個の第1の散乱体領域と、直線状のエッジ形状をもつ開口マークを備えた少なくとも1個の第2の散乱体領域と、前記第1の散乱体領域および前記第2の散乱体領域からの電子を検出する電子検出素子とを有することを特徴とする。
【0015】
(2)前記電子ビーム検出器において、前記第1の散乱体領域および前記第2の散乱体領域を、それぞれ複数個有し、かつ、一支持体上に配置してなることを特徴とする。
【0016】
(3)前記電子ビーム検出器において、前記スリット形状の開口マークは、計測する最小のビームサイズ以下の前記マーク幅と、計測する最大のビームサイズ以上の前記長さを有することを特徴とする。
【0017】
(4)本発明の電子ビーム計測方法は、電子ビームの走査方向のマーク幅が走査方向と直交方向の長さに比べて小さいスリット形状の開口マーク上を、前記電子ビームにより走査して、検出素子により検出される第1の信号をもとに前記電子ビームのビームサイズを計測する第1の計測工程と、前記電子ビームを直線状のエッジ形状をもつ開口マーク上を走査して、前記検出素子により検出される第2の信号をもとに前記電子ビームのビームサイズを計測する第2の計測工程とを含み、前記第1の計測工程と前記第2の計測工程とを、前記電子ビームの計測するビームサイズに応じて切替えて用いるようにしたことを特徴とする。
【0018】
(5)前記電子ビーム計測方法において、前記スリット形状の開口マークは、計測する最小のビームサイズ以下の前記マーク幅と、計測する最大のビームサイズ以上の前記長さを有することを特徴とする。
【0019】
(6)前記電子ビーム計測方法において、計測する電子ビームを前記電子検出素子に照射し、ビーム電流値を計測することにより、前記第2の計測工程でのビームサイズの補正を行う第3の計測工程を含むことを特徴とする。
【0020】
(7)前記電子ビーム計測方法において、前記第1の計測工程において適用するビームサイズの範囲と、前記第2の計測工程において適用するビームサイズの範囲が重複するようにしたことを特徴とする。
【0021】
(8)本発明の電子ビーム描画装置は、電子銃から放射される電子ビームを試料上に照射し走査することにより、前記試料上に所望のパターンを形成する電子光学系と、前記電子ビームのビームサイズを計測するための電子ビーム検出器とを備えた電子ビーム描画装置において、前記電子ビーム検出器は、電子ビームの走査方向のマーク幅が走査方向と直交方向の長さに比べて小さいスリット形状の開口マークを備えた少なくとも1個の第1の散乱体領域と、直線状のエッジ形状をもつ開口マークを備えた少なくとも1個の第2の散乱体領域と、前記第1の散乱体領域上に電子ビームを走査して、散乱された電子を制限する開口部を備えた制限絞りと、前記制限絞りおよび前記第2の散乱体領域からの電子を検出する電子検出素子とを有することを特徴とする。
【0022】
(9)前記電子ビーム描画装置において、前記電子ビーム検出器は、電子ビームの走査方向のマーク幅が走査方向と直交方向の長さに比べて小さいスリット形状の開口マークを備えた複数の第1の散乱体領域と、直線状のエッジ形状をもつ開口マークを備えた複数の第2の散乱体領域とを有し、前記第1の散乱体領域と前記第2の散乱体領域とが一支持体上に交互に配置されていることを特徴とする。
【0023】
(10)前記電子ビーム描画装置において、前記スリット形状の開口マークは、計測する最小のビームサイズ以下の前記マーク幅と、計測する最大のビームサイズ以上の前記長さを有することを特徴とする。
【0024】
(11)前記電子ビーム描画装置において、前記電子ビーム検出器から得られたビームサイズ計測値に関する信号を基に、前記電子光学系を調整する補正データを作成し、前記補正データにより前記試料上でのパターン描画にフィードバックする手段を有することを特徴とする。
【0025】
(12)前記電子ビーム描画装置において、前記電子ビーム計測方法を用いて計測したビームサイズから設定ビームサイズを校正する手段を有し、描画するパターンデータに応じて前記校正されたビームサイズを用いて描画を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、幅広い領域に渡ってビームサイズを高精度に計測することが可能な電子ビーム計測技術を提供できる。また、この計測結果を元にビームサイズを校正することにより、高精度な描画を行うことが可能な電子ビーム描画装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。
【0028】
図1は、本発明の一実施例における第1の計測方法を示す図である。図1の(A)、(B)は、電子ビーム検出器の上面図を示す。図1の(A)では、散乱体101上にスリット形状の開口102が加工されている。電子ビーム(a)103をこのスリット形状の開口102の上を走査する。ここで、矢印は走査方向を示している。
【0029】
図1の電子ビームからみて下流側(紙面の奥方向)に、散乱された電子を制限する散乱制限絞り、および制限絞りを通過した電子を検出する電子検出素子(共に図示せず)を設置している。なお、電子検出素子には半導体検出器を使用した。スリット形状の開口の幅は、部材の厚さとの比で決定される。微細な幅を加工する場合には、部材の厚さも薄くする必要がある。本実施例では、2μm厚のシリコン薄膜を用いた。2μmのシリコン薄膜に、例えば50kVの電子ビームを照射すると、透過率は概略100%である。しかしながら、散乱制限絞りを用いて適切な散乱角で散乱電子をカットし、電子検出素子に入射される電子を制限すればコントラストが維持できる。本実施例では、上記2μm厚のシリコン薄膜の散乱体101に0.2μm幅のスリット形状の開口102を加工した。
【0030】
本実施例では、スリット形状とは、走査方向の幅が直交方向の長さに比べて小さい形状と定義する。走査方向の幅は、計測する最小のビームサイズ以下であり、走査方向と直交方向の長さは、計測する最大のビームサイズ以上の大きさが必要である。本実施例では、最大2μmビームを計測するので、長さ3μm、幅0.2μmのスリットとした。
【0031】
図1の矢印の走査方向をX方向とすると、直行するY方向もスリット形状の開口102を90度回転させ、走査方向をY方向とすれば、同様に測定可能である。
【0032】
図1の(B)は、図1の(A)に示すような電子ビーム103(a)とは異なる大きさの電子ビーム(b)104を計測することを示している。その計測方法は、図1の(A)に示した方法と同様である。
【0033】
図3は、本発明の一実施例における第2の計測方法を示す図である。図1と同様、電子ビーム検出器の上面図を示す。図3の(A)における散乱体301と電子ビーム(a)303は、図1と同様である。この電子ビーム(a)303を、直線状のエッジ形状をもつマーク、いわゆるナイフエッジ305上を矢印で示す走査方向に走査することでビームサイズを計測する。本実施例では、図1のスリット開口と共通化を図るため、ナイフエッジも散乱体301で製作した。Y方向の計測も同様である。
【0034】
また、図3の(B)は、図3の(A)に示した電子ビーム(a)303とは異なる大きさの電子ビーム(b)104を計測することを示している。その計測方法は、図3の(A)に示した方法と同様である。
【0035】
次に、ビームサイズを求める方法について説明する。
【0036】
図2は、本発明で用いる電子ビーム描画装置の構成の一例を示している。
【0037】
電子銃201から放射された電子ビーム202は、第1マスク203を照射し、第1マスク203の像は第2マスク205上に照射される。第2マスク205上には可変成形用の開口と一括図形用の開口が設けられており、これらは選択偏向器204により選択され、可変成形または一括図形形状のビームを発生させる。この第2マスク205の像は縮小レンズ206により縮小され、第1対物レンズ207と第2対物レンズ208によりXYステージ210上に設置された試料209に投影される。XYステージ210は、XYステージ制御装置212により制御される。対物レンズ内の電子ビームは、主偏向制御装置213からの偏向信号で駆動される主偏向器214に、また、副偏向制御装置215からの偏向信号で駆動される副偏向器216により試料209上での描画位置を決定される。XYステージ210、主偏向器214および副偏向器216は、描画制御装置211により描画パターンに応じて同期して制御される。試料209上の合わせマークは、マーク上を走査した電子ビームの反射電子を反射電子検出器217により捕捉し信号処理装置219で増幅、位置検出演算を行った後、描画制御装置211に下層形状として認識され、合わせ描画が行われる。
【0038】
ビームサイズの計測には、XYステージ210上に設置した電子ビーム検出器218を用いる。電子ビーム検出器218には、図1に示すスリット開口やナイフエッジが形成されている。ここで得られた信号は、信号処理装置219で増幅や波形処理されて描画制御装置211に入力される。描画制御装置211は、計測されたデータに基づき理想的なビームサイズを演算し、補正データを作成する。補正データの説明は、後述する。このとき、演算された理想的なビームサイズと測定値のずれや2種のビームサイズ計測方法などが、描画制御装置211に接続された表示装置220に表示される。さらに、この補正データに基づいて、試料上でのパターン描画の際にフィードバックを行うことにより、高精度な描画が実現できる。
【0039】
図4の(A)は、図1の(A)に示したスリット開口上を走査した際の走査距離と信号波形の関係を示している。信号強度は電流値概略0を0%、最大電流値を100%として規格化してある。信号強度0%と信号強度100%の中間50%の幅(走査距離との交点)がビームサイズとなる。また、波形の立ち上がりおよび立下りの幅、たとえば、信号強度10%と信号強度90%の幅は、スリット幅とビームボケ、スリットのエッジラフネスを加えた値となる。このように、スリット開口を用いた走査では、信号強度から直接ビームサイズを決定することが可能である。
【0040】
一方、図4の(B)には、図3の(A)に示したナイフエッジを走査した際の走査距離と信号波形の関係を示す。この信号強度は、ビーム電流の積分波形となる。この信号波形に微分演算を行うと、図4の(C)に示す波形を得ることができる。ビームサイズは、この波形の信号強度0%と信号強度100%の中間50%の幅で決定できる。
【0041】
上記の、第1の計測方法と第2の計測方法での信号処理にカーブフィッテイングを用いる方法もある。ただし、フィッテイングを用いる場合にしても、対象となる波形形状が異なるため、ビームサイズを求めるための信号強度波形の処理の仕方が異なる。
【0042】
図5の(A)は、スリットを走査した場合で、測定するビームサイズを変えた場合の信号強度波形である。図1の(A)の電子ビーム(a)103と図1の(B)の電子ビーム(b)104を走査した場合に対応している。電子ビーム(a)103の一辺の長さを1とした場合の波形を図5の(A)の信号a、電子ビーム(b)104の一辺の長さを2分の1(面積4分の1)とした場合の波形を信号bで示している。
【0043】
また、図5の(b)は、ナイフエッジを走査した場合の波形を示している。図3の(A)の電子ビーム(a)303を走査した信号強度波形は図5の(B)の信号a、図3の(B)の電子ビーム(a)304を走査した信号強度波形は図5の(B)の信号bに対応する。ビームの面積の関係は、上記と同様、電子ビーム(a)303の一辺の長さを1とした場合、電子ビーム(b)304の一辺の長さは2分の1である。
【0044】
図5の(A)では、信号aと信号bの最大値の比は2:1である。これは、スリット幅は同じで、スリットが切り取るビーム(スリット開口を透過するビーム)は、正方形ビームの一辺の長さに比例するためである。
【0045】
しかし、図5の(B)では、信号aと信号bの最大値の比は4:1となる。これは、ビーム面積そのものが信号強度の差となるためである。
【0046】
図5の例では、一辺の長さ2:1(面積4:1)の場合を示しているが、例えば、ビームサイズ計測範囲を2.0〜0.2μmとすれば、一辺の長さが10:1となり、スリットでは信号強度比が10となるが、ナイフエッジでは信号強度比が100となってしまう。これは信号処理装置内の検出回路のダイナミックレンジを100倍以上に渡って精度を保証する必要があり、実現困難である。
【0047】
スリットによる計測は、計測可能なビームサイズに下限がある。図4の(A)に示す信号強度波形の傾斜している部分は、スリット幅とビームボケとスリット開口のエッジラフネスの合計となる。通常、エッジラフネスはスリット開口幅に対して充分小さいので、計測値に与える影響は小さい。ただし、ビームボケは無視し得ない量であるため、例えば、0.2μmのスリット開口で、0.2μmのビームを計測する場合には、ビーム位置とスリット開口が一致する場合にでも、ビームボケの分だけ電流量が減少し、100%の信号強度が下がることになる。ビームサイズは信号強度0と100%の中間50%で決定するため、計測値には誤差が生ずることになる。
【0048】
従って、第1の計測方法と第2の計測方法の切り替えは、スリット幅よりも大きいビームサイズで行うこととする。また、第1の計測方法と第2の計測方法との計測値の整合性をとるため、ある特定のビームサイズは両方の計測方法を用いて、誤差が無いことを確認する。
【0049】
ナイフエッジによる計測方法でも、ビームサイズが小さくなると電流量の絶対値が減少し、SN比が悪化することで計測精度が落ちる。また、例えば、計測するビーム幅が0.1μm以下では、ビームボケが支配的になり、走査波形の微分では正確にビームサイズを決定できなくなる。この領域では、ビーム電流値によるビームサイズ補正行ってもよい。この方法は、上記第1と第2の計測方法により求めたビームサイズを基準にし、例えば0.4μm未満の領域でのビームサイズを変化させて電流量を測定し、ビームサイズと電流値とが比例関係である、すなわち電流密度が一定であるという前提でビームサイズを計測する方法である。これを、第3の計測方法とする。具体的には、X方向またはY方向のどちらかのサイズを固定し、他方のサイズを変化させながら電流値を測定する。その後、電流密度が一定になるように各ビームサイズを変化させる補正方法である。例えば、Y方向1.0μm、X方向0.1μmのビームサイズで電流値を計測した結果、1.0μm角のビームサイズでの電流密度から計算される電流値よりも少なかったとする。この場合には、X方向のビームサイズを増やして(例えば、0.11μm)計算値に合った電流値となるように補正を行う。
【0050】
上記の、第1、第2、第3の計測方法を適切に切り替えることにより、広い領域でのビームサイズ補正を高精度に行うことが可能となる。
【0051】
図6は、電子ビーム検出器の別の構成例を示し、検出器の一支持体上にスリット開口とナイフエッジを配置した図である。スリットとナイフエッジを切り替えて使用するため、マークの高さが異なると2つの計測方法間で計測値に誤差が生ずる。このため、可能な限り近傍に設置する必要がある。また、スリットでもナイフエッジでも長期間使用すると、電子ビームと残留気体の相互作用にて発生するコンタミネーションが不着して精度が低下する可能性がある。このため、多くのマークを配置することは、マークの交換頻度を低減する有効な方法である。本例では、図6に示すように、支持体601上に複数の散乱体領域602を設け、各散乱体領域602にはスリット開口603とナイフエッジ開口604を近傍にかつ交互に配置した。
【0052】
次に、本発明による電子ビーム検出器を用いて得られたビームサイズ測定値を描画にフィードバックする手順を、図7を用いて説明する。なお、電子ビーム描画装置の構成要素は、図2の符号を用いて説明する。
【0053】
本発明のビームサイズ校正は、描画装置を稼動する上で最適な間隔で実施される。ビームサイズの校正開始は、特定の時間間隔、または、特定の描画量(例えば、ウェハ処理ロット毎)、またはオペレーターが与える(ステップ1)。
【0054】
第1の計測方法を行うマークへのステージ移動や、偏向信号発生、などの手順はあらかじめ図2に示す描画制御装置211にプログラムされ、自動的に実行される。検出信号の処理は、信号処理装置219で実施され、描画制御装置211に取り込まれ、各ビームのビームサイズとして保存される(ステップ2)。
【0055】
次に、第2の計測方法を行うマークへのステージ移動や、偏向信号発生、などの手順もあらかじめ描画制御装置211にプログラムされ、自動的に実行される。ステップ2と同様に検出信号の処理は、信号処理装置219で実施され、描画制御装置211に取り込まれ、各ビームのビームサイズとして保存される(ステップ3)。
【0056】
ステップ2で得られたビームサイズとステップ3で得られたビームサイズは一部を重複しており、この差があらかじめ決められた許容値内かどうか、第1の計測方法と第2の計測方法との計測値の整合性の判断を行う(ステップ4。)
許容値から外れていた場合には、表示装置220にエラーを示す結果を表示し、オペレーターに、測定条件などの変更を促して終了する(ステップ5)。
【0057】
ステップ4で許容値内であった場合、描画制御装置211内で補正式に用いる補正係数を算出する。本実施例の電子ビーム描画装置では、補正式として次式を用いる。
X=A0+A1・Bx+A2・By+A3・BxBy
Y=B0+B1・Bx+B2・By+B3・BxBy
ここで、Bx、ByはそれぞれX方向、Y方向のビームサイズを、X、Yはそれぞれ補正されたX方向、Y方向のビームサイズを、A0、A1、A2、A3、B0、B1、B2、B3は補正係数を示す。ステップ2とステップ3で得られたビームサイズのデータを用いて、最も誤差が少なくなるように、例えば、最小二乗法を用いて、係数A0、A1、A2、A3、B0、B1、B2、B3を算出する。この補正係数は、第1の計測方法と第2の計測方法の全ての測定結果を使用して算出しても良い。また、第1の計測方法と第2の計測方法でそれぞれの補正係数をもち、それぞれ算出しても良い。
【0058】
上記で算出した補正係数を、描画制御装置211内の補正演算回路に設定する。実際の描画時には、描画すべきパターン毎に設定するビームサイズが変化し、かつ高速に設定する必要があるため、そのつど演算をする回路を構成するのは困難である。従って、上記補正式を元にあらかじめ補正用のテーブル(参照表)に補正データを作成しておき、描画時には参照することでビームサイズの補正を行う(ステップ6)。
【0059】
ここで、再度ステップ2、ステップ3と同じ計測を行い、計測した全てのビームサイズでの設定したビームサイズとの誤差(補正誤差)が、あらかじめ決められた許容値内かどうかの判断を行う(ステップ7)。
【0060】
許容値から外れていた場合には、補正誤差を表示装置220に表示した後、再度ステップ2から実行し直す(ステップ8)。
【0061】
ステップ7で許容値内であれば、補正誤差を表示装置220に表示して校正動作を終了する(ステップ9)。
【0062】
本電子ビーム検出器を用いて可変成形ビーム描画装置のビームサイズ校正を行った後、描画を行えば、広いビームサイズの領域において高精度な描画が実現できる。
【0063】
図8は、測定誤差を表す画面の一例を示す。この画面は、図2に示す電子ビーム描画装置の描画制御装置211と接続された表示装置220上に表示される。図8の横軸はX方向のビームサイズを、縦軸はY方向のビームサイズを示す。本例は、XYともに0.4から2.0μmまでの範囲を0.4μmピッチで、計25通りのビームサイズを計測したものである。XYそれぞれのビームサイズの交点を中心として、設定ビームサイズより計測ビームサイズが大きければ、右側(X方向)と上側(Y方向)に、小さければ左側(X方向)と下側に差分を表示している。誤差が大きければ面積の大きな矩形が表示される。図中の破線はスリットによる計測範囲で、斜線を施した矩形により誤差を示しており、一点差線はナイフエッジによる計測範囲で、塗りつぶした矩形により誤差を示している。
【0064】
この例では、0.8μmのサイズを2種の計測方法で重複して計測している。図8中のハッチングを施した部分が重複領域である。本実施例では、両者の差は最大2nmであり許容範囲であるため(図8の画面の右側にある□印は、縦横1nmのスケールを示す。)、2種の計測方法の平均値をその点の計測値として、25点のデータから補正係数を算出した。
【0065】
以上詳述したように、本発明によれば、複数の計測方法を最適に切り替えて使用することにより、幅広い領域に渡ってビームサイズを高精度に計測することが可能な電子ビーム計測技術を提供できる。また、この計測結果を元にビームサイズを校正することにより、高精度な描画を行うことが可能な電子ビーム描画装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の一実施例における第1の計測方法を説明する図。
【図2】本発明で用いる電子ビーム描画装置の構成の一例を示す図。
【図3】本発明の一実施例における第2の計測方法を説明する図。
【図4】図1、図3の計測方法による検出信号を示す図。
【図5】ビームサイズによる検出信号の差を示す図。
【図6】本発明による電子ビーム検出器の別の構成例を示す図。
【図7】本発明の計測方法によるビームサイズ校正の手順を説明する図。
【図8】本発明のビームサイズ計測結果を表示する画面の一例を示す図。
【符号の説明】
【0067】
101…散乱体、102…スリットマーク開口部、103…電子ビームa、104…電子ビームb、201…電子銃、202…電子ビーム、203…第1マスク、204…選択偏向器、205…第2マスク、206…縮小レンズ、207…第1対物レンズ、208…第2対物レンズ、209…試料、210…XYステージ、211…描画制御装置、212…XYステージ制御装置、213…主偏向制御装置、214…主偏向器、215…副偏向制御装置、216…副偏向器、217…反射電子検出器、218…電子ビーム検出器、219…信号処理装置、220…表示装置、301…散乱体、303…電子ビームa、304…電子ビームb、305…ナイフエッジ、601…支持体、602…散乱体領域、603…スリット開口、604…ナイフエッジ開口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームの走査方向のマーク幅が走査方向と直交方向の長さに比べて小さいスリット形状の開口マークを備えた少なくとも1個の第1の散乱体領域と、直線状のエッジ形状をもつ開口マークを備えた少なくとも1個の第2の散乱体領域と、前記第1の散乱体領域および前記第2の散乱体領域からの電子を検出する電子検出素子とを有することを特徴とする電子ビーム検出器。
【請求項2】
請求項1に記載の電子ビーム検出器において、前記第1の散乱体領域および前記第2の散乱体領域を、それぞれ複数個有し、かつ、一支持体上に配置してなることを特徴とする電子ビーム検出器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電子ビーム検出器において、前記スリット形状の開口マークは、計測する最小のビームサイズ以下の前記マーク幅と、計測する最大のビームサイズ以上の前記長さを有することを特徴とする電子ビーム検出器。
【請求項4】
請求項3に記載の電子ビーム描画装置において、前記電子ビームは、可変成形ビームもしくは一括図形ビームであることを特徴とする電子ビーム検出器。
【請求項5】
電子ビームの走査方向のマーク幅が走査方向と直交方向の長さに比べて小さいスリット形状の開口マーク上を、前記電子ビームにより走査して、検出素子により検出される第1の信号をもとに前記電子ビームのビームサイズを計測する第1の計測工程と、前記電子ビームを直線状のエッジ形状をもつ開口マーク上を走査して、前記検出素子により検出される第2の信号をもとに前記電子ビームのビームサイズを計測する第2の計測工程とを含み、前記第1の計測工程と前記第2の計測工程とを、計測するビームサイズに応じて用いるようにしたことを特徴とする電子ビーム計測方法。
【請求項6】
請求項5に記載の電子ビーム計測方法において、前記スリット形状の開口マークは、計測する最小のビームサイズ以下の前記マーク幅と、計測する最大のビームサイズ以上の前記長さを有することを特徴とする電子ビーム計測方法。
【請求項7】
請求項5に記載の電子ビーム計測方法において、計測する電子ビームを前記電子検出素子に照射し、ビーム電流値を計測することにより、前記第2の計測工程でのビームサイズの補正を行う第3の計測工程を含むことを特徴とする電子ビーム計測方法。
【請求項8】
請求項5に記載の電子ビーム計測方法において、前記第1の計測工程において適用するビームサイズの範囲と、前記第2の計測工程において適用するビームサイズの範囲が重複するようにしたことを特徴とする電子ビーム計測方法。
【請求項9】
請求項6に記載の電子ビーム描画装置において、前記電子ビームは、可変成形ビームもしくは一括図形ビームであることを特徴とする電子ビーム検出器。
【請求項10】
電子銃から放射される電子ビームを試料上に照射し走査することにより、前記試料上に所望のパターンを形成する電子光学系と、前記電子ビームのビームサイズを計測するための電子ビーム検出器とを備えた電子ビーム描画装置において、前記電子ビーム検出器は、電子ビームの走査方向のマーク幅が走査方向と直交方向の長さに比べて小さいスリット形状の開口マークを備えた少なくとも1個の第1の散乱体領域と、直線状のエッジ形状をもつ開口マークを備えた少なくとも1個の第2の散乱体領域と、前記第1の散乱体領域上に電子ビームを走査して、散乱された電子を制限する開口部を備えた制限絞りと、前記制限絞りおよび前記第2の散乱体領域からの電子を検出する電子検出素子とを有することを特徴とする電子ビーム描画装置。
【請求項11】
請求項10に記載の電子ビーム描画装置において、前記電子ビーム検出器は、電子ビームの走査方向のマーク幅が走査方向と直交方向の長さに比べて小さいスリット形状の開口マークを備えた複数の第1の散乱体領域と、直線状のエッジ形状をもつ開口マークを備えた複数の第2の散乱体領域とを有し、前記第1の散乱体領域と前記第2の散乱体領域とが一支持体上に交互に配置されていることを特徴とする電子ビーム描画装置。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の電子ビーム描画装置において、前記スリット形状の電子ビーム検出器の前記開口マークは、計測する最小のビームサイズ以下の前記マーク幅と、計測する最大のビームサイズ以上の前記長さを有することを特徴とする電子ビーム計測方法。
【請求項13】
請求項10又は11に記載の電子ビーム描画装置において、前記電子ビーム検出器から得られたビームサイズ計測値に関する信号を基に、前記電子光学系を調整する補正データを作成し、前記補正データにより前記試料上でのパターン描画にフィードバックする手段を有することを特徴とする電子ビーム描画装置。
【請求項14】
請求項10又は11に記載の電子ビーム描画装置において、請求項5に記載の電子ビーム計測方法を用いて計測したビームサイズから設定ビームサイズを校正する手段を有し、描画するパターンデータに応じて前記校正されたビームサイズを用いて描画を行うことを特徴とする電子ビーム描画装置。
【請求項15】
請求項12に記載の電子ビーム描画装置において、前記電子ビームは、可変成形ビームもしくは一括図形ビームであることを特徴とする電子ビーム描画装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−81263(P2007−81263A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−269598(P2005−269598)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】