説明

電子ビーム照射表面改質装置

【課題】電子銃内のplasmaの継続中に、カソードからターゲットに電子ビームパルスを複数回発射する電源装置を提供し、単位電子ビームパルスの波形、相互の時間間隔を可変にして群パルスを作り、表面改質効果ならびに品質を改善する。
【解決手段】低圧電離気体のプラズマが封入されている電子銃のカソードからターゲットに電子ビームを発射する高圧電源回路をコンデンサ充放電形式とし、そのコンデンサを複数、独立に備え、予め充電し、第一のコンデンサを放電させて第一の単位電子ビームパルスを発射し、遅延時間をおいて第二のコンデンサを放電させて第二の単位電子ビームパルスを発射し、さらにこれを続けて断続した複数個の単位電子ビームパルスによる群パルスを形成させてターゲットに照射する。各単位パルスの大きさと遅延時間を選択可能としてターゲット表面の熱作用モードを最適化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は各種金属部品、金型、工具、電気接続部品、金属医療機器、金属装飾品などの表面を鏡面化、清浄化、アモルファス化、耐食化するために電子ビームを表面に照射して表面改質を行なう装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
この技術は電子ビームによる物質表面の改質装置、詳しくはLEHCEB/Low Energy High Current Electron Beam (非特許文献3参照) 図7の(a)の電子銃 を用いる表面改質装置の改良に関するものである。該文献は1978頃にロシアにて発刊され、事例としては高電圧電極の表面平滑化のために開発されたもので、断面積10cm以上、低エネルギ10〜50kV、高電流10〜30kAの電子ビームパルスを金属表面に照射して、表面改質を施す技術である。この技術の装置は電離気体のplasmaが封入されて電子ビームの断面内密度を均一に保っているので、PFD(Plasma Filled Diode)電子銃と呼び特徴づけることもある。また、plasma生成のグロー放電を安定にするため環状の放電電極が用いられ、電子銃外部には銃内に磁場を形成するソレノイドが設けられる。
【0003】
この装置の作用は従来の真空電子銃による高密度の電子ビームではなく、電離ガスプラズマ中を通過する低いエネルギの電子ビームを用いるので物質に照射されたとき深く加工作用することがなく、広い面積に一様な作用を与えるので表面の改質に利用される。ここでいう改質とは、物質表面に付着する異物の除去、浄化、表面あらさの改善、微視的凹凸を平坦化して鏡面となすこと、急激な加熱と冷却による金属のアモルファス化、耐食化などである。
【0004】
上述のように、この装置は一種の電子銃であるが真空室ではなく、低圧の電離ガスを充填しプラズマ化しているのでプラズマ電子銃ともよばれている。このプラズマを安定に保つために反射放電(Reflected Discharge)方式という円環状のプラズマ陽極が設けられ、外部にソレノイドが設けられて電子銃内空間に磁場を作り電子ビームの収縮(pinch)を防いでいる(図7の(b))(非特許文献4参照)。
【0005】
この装置の電子ビーム発射機構は電界放射カソードとして円盤状の金属または黒鉛陰極が用いられ、被照射体がターゲット陽極になる。両極間に10〜40kVの高圧コンデンサ放電を発生させて数μs〜0.1μs程度の電子ビームパルスを放射させる。プラズマ発生回路は前記の環状陽極と電子銃ハウジングとの間にコンデンサ充放電による放電を作り電離ガスをプラズマ化する。プラズマ保持時間は100〜数100μsでその時間内に前記の電子ビームパルス放射が行われる。プラズマ保持時間の前後を通じ電子銃内に磁場をつくるための前記ソレノイドを励磁する電源として別のコンデンサ充放電回路が備えられている。
【0006】
表面改質を施す被照射体をターゲットとしてテーブルに設置し電子銃内を一旦真空にしてから電離ガス、たとえばArガスを低圧に充填し磁場形成、プラズマ形成、電子ビーム発射の順序で作動させると被照射体の表面が改質される。通常は一回の照射では不十分なので数回から数10回の照射を行ってから電子銃を含むハウジングを開放して被照射体を取り出す。
【0007】
被照射体の材質、成分組成、表面積、改質前の状態などによって照射条件を選ぶ必要があるが、条件の選定は人為的な経験に依存されている。常識的な判断として溶解温度の高い材質には大きいエネルギで、低い材質には小さいエネルギで照射することになる。ここに言うエネルギとは放射されるエネルギで被照射体が受けて熱量となった部分だけではないことに注意が必要である。実際の改質エネルギは被照射体と同材質の測定体を用いた熱量測定システムで計量するが、そのような計測結果においても、なお物質気化の熱量が除外されてしまう。
【0008】
照射エネルギが変わる条件とは、1)カソード電圧、2)カソードとターゲットの距離、3)電離ガス圧力の3条件が通常に用いられる。これらの条件は全体装置を制御運用するシステムの指令手段で調整できるように構成されている.。
【0009】
図8は従来公知のLEHCEB表面改質装置の全体構成図でハウジング4、環状電極2、カソード1、励磁ソレノイド5、テーブル6、及び電子ビームのターゲット被照射体3よりなる。上記3,4,6は同電位であり、1,2はそれぞれ絶縁されて独立している。また、図示されていないがテーブル6の前後左右、上下の運動機構が適宜備えられる。
【0010】
電子銃内の電離ガスの濃度調整システムとしてスクロールポンプ10、ターボ分子ポンプ9が切替弁9a,9b,9cと連結作動し、ハウジング4内を一旦真空状態とした後ボンベ8から調節弁8aを介してArガスを吸入させ所定圧力に達して平衡する。ハウジング4内の電離真空計7は信号7aを発して制御システム20に伝える。
【0011】
改質装置には最初に作動して電子銃室内にソレノイド5により磁場を作る励磁電源15、次に作動して環状陽極付近にプラズマを生成するコンデンサ充放電回路を含むパルス電源12、そしてプラズマを通過する電子ビームを放射して改質作用を実行する電源としてコンデンサ充放電回路で構成されるパルス電源11が備えられている。ソレノイド電源15では電流センサ5bが信号5cを、プラズマ電源12では電流センサ2bが信号2cを、そして発射パルス電源11では電流センサ1bが信号1cをそれぞれ発して全体制御システム20に伝える。制御システム20は装置の起動から終了までのプロセスを統括・管理・監視し、また指令入出力、各種センサの情報を判別処理する。
【0012】
電子ビームが金属表面に照射され改質される過程とそのメカニズムは次のとおりである。電子ビームがターゲットに当たるとその相当量のエネルギは発光、二次電子、X線などとして反射し、残部がターゲットに吸収され熱量となる。熱量となる課程で表面改質が進行するが、その様子には蒸発モード(Evaporation mode)と溶解モード(Melting mode)がある。図9は二つのモードの特性を示すもので蒸発モード2は溶解モード1に較べてさらに大きい熱量が投入された場合の現象である(図9は非特許文献4より)。
【0013】
上記の金属の相変化の観察とは別に高エネルギ電子の振る舞いについて、次のような考察もある。すなわち入射電子ビームは固体表面の原子格子の網目を通り抜けて下の層にまで深く侵入する。その深さは電子進入飛程(Electron penetration range)と呼ばれ、加速電圧の二乗に比例し金属の密度に反比例するという考察がある(非特許文献5)。この理論的考察はLEHCEBの改質プロセスの説明に役立つ。
LEHCEBでは前記の知見に加えて更にplasmaの要素と、次の4条件すなわち、カソード電圧、希ガスの濃度、カソードとターゲットの距離、電子ビームパルスの作用時間(パルス幅)についての考慮が必要である。
【0014】
【特許文献1】特開2003−111778号公報
【特許文献2】特開2004−1086号公報
【非特許文献1】宇野義幸、外4名「大面積パルス電子ビームによる金型の仕上げと表面改質」電気加工技術、社団法人電気加工学会、平成15年6月、第27巻、第86号、p.12−17、
【非特許文献2】藪下法康、外4名、「大面積電子ビームによる金型加工面仕上げに関する研究(第2報)」−傾斜面平滑化特性と表面改質効果−電気加工学会全国大会(2003)講演論文集 社団法人電気加工学会、平成15年12月、p.47−50、
【非特許文献3】PROSKUROVSKY,D.I.外3 Use of Low-energy , High-current electron beam of surface treatment of materials, ; Surface and Coatings Technology 96 (1997) 117-122
【非特許文献4】G.E.OZUR 外3 Production and application of Low-energy, high-current electron beams ; Laser and Particle Beams (2003), 21,157−174 Cambridge University Press
【非特許文献5】谷口紀男、「ナノテクノロジーの基礎と応用」、工業調査会p.185
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
この技術がレーザやプラズマ単独の場合と大きく異なる点は、改質される表面に図10に側断面図として示すようなcrater(クレータ)を残すことである。結晶粒子の網目から進入した電子ビームが内部で物質を加熱し、溶解または蒸発が起こり表面に噴出する結果であると考えられる。その大きさと数は被照射体の材質により異なり、溶解金属の流動性または粘弾性によってはcraterが目立たなくなる。実験では材料内の微量な低融点物質の排除、合金鋼の粗大粒子の均一化、サブゼロ処理、電子銃内の微量酸素の除去、合金鋼成分の変更などが試されたが成果は満足ではない。
【0016】
craterの特徴は火山の噴火で生ずる噴火口と相似であり明らかに内部からの溶解物または気化物の噴出の跡が認められる。その大きさは直径が0.1〜50μm、深さは直径の1/10以下である。生成のメカニズムや特徴は十分な解明がされていないが、純金属から合金に至るまで程度の差はあるが必ず発生する。合金鋼のなかでNi,Crなどの未溶解炭化物粒子の粒界、或いは粗大セメンタイトの粒界に起きやすい。また圧延鋼のように機械的ストレスを受けた部分にはcraterが整列するなどの知見はある。対象物表面が電子ビームの照射を受けた際の熱量による相変化とビームパルスの継続時間(パルス幅)が重要な役割を持つことが本発明の動機である。
【0017】
従来技術で述べたようにこの装置は多様な改質効果があり、優れた能力を有するが、craterの生成は表面品質に大きな障害となっている。本発明はこの障害を克服することを目的としてなされるもので、電子ビーム発射機構を改良して複数の単位電子ビームパルスを断続して発射可能とし、金属の熱作用による相変化中に複数の単位電子ビームパルスを照射して作用効果を高める。また従来は変更ができなかった電子ビームのパルス幅とエネルギ強さの組み合わせを実質変更可能とする。
【0018】
この技術の表面改質機構は熱作用により表面を溶解することでその手段として電子ビームが用いられる。
電子ビームの作用時間は熱作用時間に較べて短かいから金属表面の現象には次の種類がある。
1.固体表面へ照射される場合
2.溶融面に照射される場合
3.金属蒸気を介して照射される場合
従来の方法では単一パルスのみが可能であったので、上記2.および3.の状態を単独に実現することが出来ないが、この発明のように複数パルスを短い遅延時間をおいて照射すればこれが可能となる。このような前後のパルス間の相互作用は電子励起、格子間エネルギの緩和作用、前のパルスの噴煙(plume)などの影響によるものとして説明されるがその詳細は明らかでない。このメカニズムをパルス相互作用と呼ぶ。
【0019】
カソード電圧を供給するコンデンサを複数とし、放電回路を各々独立させ、初めのコンデンサを放電させてから適度の遅延時間の後、次のコンデンサを放電させる。また次のコンデンサも同様にして続け一回の照射を終える。各コンデンサ容量(C)、充電電圧(V)、遅延時間(D)は任意に選ぶことが出来る。本明細書ではこの一群のパルスを群パルス、単位となるパルスを単位パルス、単位パルス相互の作用を相互作用と呼ぶ。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、プラズマを封入した電子銃のカソードからターゲットに向けて低エネルギ、高電流の電子ビームパルスを発射してターゲット物質の表面を改質する装置において、カソードとターゲット間に高圧に充電されたコンデンサC1とトリガスイッチ素子S1を直列に配置した回路Aを設け、回路Aに並列に高圧に充電されたコンデンサC2とトリガスイッチ素子S2を直列に配置した回路Bを設け、トリガスイッチS1を閉じて回路Aを閉路してカソードとターゲットの間にコンデンサC1の充電電荷を放電させて第1の単位電子ビームパルスを発射し、所定の遅延時間をおいてトリガスイッチS2を閉じて回路Bを閉路してカソードとターゲットの間にコンデンサC2の電荷を放電させて第2の単位電子ビームパルスを発射するようにして、第1、第2単位電子ビームパルスをもって構成される群パルスにより被照射体を表面改質することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、表面改質効果を変更するための手段として複数パルス発生機能を付加することにより、パルス間相互作用を利用した新規な改質メカニズムが加えられて表面品質が向上し、また照射エネルギが有効に利用されるので作業効率が改善される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
通常用いられる範囲の単位電子ビームパルスの例(イ)〜(ク)を図5に一覧表として示す。単位パルスには(イ)〜(ク)まで命名され、その特性はコンデンサ容量(C)、充電電圧(V)、充電エネルギ(E=1/2CV)である。放電回路の抵抗を(R)、インダクタンスを(L)としたとき、この装置では R <4(L/C)の振動条件にあり、パルス幅τは τ≒k√LC(放電回路抵抗を無視して)としてよいので、実験により定数を概略に想定した価を表記した。エネルギ率(E/τ)は単位電子ビームパルスの大きさを図示するために作った単位であり、この明細書で現象との関係を論ずることはしない。遅延時間δ1は溶解相に対する照射を想定し、また遅延時間δ2は気相に対する場合を想定しているが、それぞれ実験で決定すべきものとして空欄にされている。
【0023】
このようにして得られる群パルスの数例を図6に6種類(a)〜(f)として示す。群パルスは単位電子ビームパルスの数と組み合わせで(イロハ),(ホへト)となり、更に(イハロ),(トホへ)などと順序がつけられ、さらにまた異なった遅延時間が付されるから殆ど無数の特性を持つことになる。群パルスの総時間は単位電子ビームのパルス幅とその数、及び遅延時間の長さによって決まるが、プラズマの有効存続時間より短い。
【0024】
第1図はこの改質装置の構成を示す第一の実施例であり、電子銃部、電源部、低圧ガス系統、全体制御システムより構成される。電子銃部はターゲットとなる被照射体3とカソード1が数10cmの距離で対向し、その中間にプラズマ生成用の環状電極2を備えるハウジング4よりなり、ハウジング4の外周には銃内に磁場を作るためのソレノイド5を設ける。図示しない機構により被照射体3とカソード1との距離は長短に変更されて照射エネルギが調節される。
【0025】
電源部は3つの系統よりなる。第1の系統は前記従来装置で説明したものと同様の磁場形成電源で、電子銃内に磁場を作るソレノイド5を励磁するための電源15である。第2の系統も前記従来装置で説明したものと同様のプラズマ生成用のコンデンサ充放電電源で、ソレノイド5により電子銃内の磁場が最強になった時機に 電源12により環状電極2を陽極とし、ハウジング4を陰極とする間にコンデンサ電荷を放電させグロー放電を起こす。後述するようにハウジング4の内部には低圧のArガスが封入されているので放電によりプラズマ化する。第3の系統はカソード1と被照射体3の間に高電圧パルスを印加して電子ビームを発射させる電源で本発明の対象となる部分であるので、特に発射電源と呼び詳細を後述する。
【0026】
低圧ガス封入系統は真空ポンプ系19とArガス吸入系8よりなる。真空ポンプ系19はスクロールポンプ、ターボ分子ポンプ、切り替え弁とで構成されてハウジング4に接続配管されている。まず真空ポンプ系がハウジング4の内部を十分な真空度(10−4Pa)にしてからArガス吸入系8のArガスボンベ8の調節弁8aを開くとArガスが緩慢に吸入されて濃度を高めていく。真空ポンプ系19も作動を続けさせて、濃度の替わりに圧力センサ7で監視しながら指定圧力(0.03〜0.05Pa)に達して平衡させる。この時、全体の制御システムは前述の第1、第2、第3の系統の操作(励磁、プラズマ、電子ビーム発射)を順次起動して改質照射を実行する。
【0027】
全体制御システム20は改質装置の起動から終了までのプロセスを統括制御するもので、プロセスプログラムの入出力、改質条件の入出力、各種センサ情報の判別と処理、計算、表示、その他を行う。この発明の群パルスの構成のため、単位パルスの組み合わせ、遅延時間回路の操作は制御システム20に含まれる。
【0028】
図1の発射電源は二つの充電電源と二つのの充放電回路EとFよりなる最も原理的な発射電源であって、充電電圧は、商用交流電源14pを全体制御システム20からの指令vにより電圧調整器14bを変えることで、EとFの充電回路に高圧直流電圧KeとKfを供給し抵抗16,18とダイオード17を介してコンデンサCeとCfを充電する。CeとCfは 図2のように直並列に構成してスイッチにより切り替え可能である。すなわち、EとFの回路は充電電圧Ke,Kf及びコンデンサ容量Ce,Cfの選択により充電エネルギを変更できる。電源の一次側を共通としているので電圧KeとKfは固定した比率となっている。
【0029】
一方EとFの放電回路はCeとCfの負側がカソード1に結び、正側はトリガ器Ge,Gfにより制御されるサイリスタSe,Sfを介してターゲット(被照射体)3に結ばれる。発射制御器21は発射起動指令Stを受け発射順序を制御しトリガ器Ge,遅延回路dを管理する。図1の電源では発射順序は必ずサイリスタSe,Sfの順とし変更されないものとする。そこで、回路Eにだけ電流センサmが設けられ放電電流信号を遅延回路dに伝える。制御システム20は遅延時間の値を予め遅延回路dに与えている。
【0030】
制御システム20は低圧ガス系統8真空ポンプ系19,Arガス吸入系8を作動させた後、濃度信号7aを受けて、ソレノイド電源15、プラズマ電源12を順次起動し、続いて発射信号Stを、予め充電されたるコンデンサCeを放電させるため発射起動信号Stを発射制御器21に発する。これによりトリガ器Geが作動してサイリスタSeが閉路し、回路EのコンデンサCeに充電された電荷Qeがカソード1とターゲット(被照射体3)に放出され、第一の単位電子ビームパルスが発する。数μsの照射作用の結果、被照射体表面には相の変化が起きて終了し、放電回路も開かれる。一方、電流センサmの信号をうけて遅延回路dの計数が始まり遅延時間Df(予め入力されている)の後、回路FのコンデンサCfを放電させるためトリガ器Gfが作動してサイリスタSfが閉じ、回路FのコンデンサCfに充電された電荷Qfが、前記E回路の作用と同様にして電子銃内に第二の単位電子ビームパルスを発する。このようにして一団の群パルスが照射される。この群パルスの作用期間は、電子銃内のプラズマの存続時間よりも十分に短いものとする。
【0031】
図3は図1と同様な機構であるが、充放電回路A,B,Cと三組とし、かつ各々独立しているので電圧比は自由に選べる。また、放電回路を閉じるスイッチ素子としてガス封入されたトリガ放電スイッチS1,S2,S3が用いられているが、図1のサイリスタSe,Sfと作用は同じである。図1と異なる点は単位電子ビームパルスが3個であること、群パルスの単位電子ビームパルスの発射順序をプログラムにより変更できることである。
【0032】
図5で(イ)〜(ク)の一覧表として例示した単位電子ビームパルスを図3の回路で自由に選択することを可能にするため、発射順序をA,B,Cと固定しないで、発射順序を制御システム20からの指令により自由に選択する方式とする。例えば、A回路に図5のイという単位電子ビームパルスを準備したことを、Aイと記し、同様にBロ,Cハと準備する。また、イロハそれぞれに遅延時間D1,D2,D3を与える。しかる後A,B,C順で照射すると(イロハ)の群パルスになるが、B,C,Aの順に照射すると(ロハイ)の群パルスに変わる。更にカソード電圧のみを38kVから32kVに変えると(リヌチ)の群パルスが得られる。このように、事前の準備設定を変更することなく、多様な性格の群パルスを得ることが本発明の特徴である。
【0033】
さらに、この実施例では電源をそれぞれ独立として制御信号v1,v2,v3で調節可能とし、A,B,C各放電回路に電流センサm1,m2,m3を設け、遅延時間D1,D2,D3を制御システム20から遅延回路d1,d2,d3に予めセットするようにする。制御システム20はA,B,Cの回路の作動順序を指令するデータを発射制御器21に予めセットするようにする。この結果、事前の準備設定した後、制御システム20からの作動プログラム指令により多様な性格の群パルスを作って被照射体の物性に応じた照射特性を選ぶことが可能になる。
【0034】
制御システム20には例えば、群パルス(ハロイ)が必要と入力される。既に群パルスを構成する単位電子ビームパルスの組み合わせ(例えばAイ,Bハ,Cロ)と遅延時間(D1,D2,D3)が準備されており、これに従い充電回路A,B,Cに高圧直流電圧K1,K2,K3が発せられカソード電圧が調整されC1,C2,C3が充電されている。この場合には発射順序データSi(例えばB,C,A)を発射制御器21に入力する。
【0035】
制御システム20は低圧ガス系統の真空ポンプ系19、Arガス吸入系8を作動させた後、濃度信号7aを受けて、ソレノイド電源15、プラズマ電源12を順次起動し、続いて発射信号Stを発射制御器21に発する。発射データに従い、回路BのスイッチS2がトリガg2により閉路されコンデンサC2が放電してカソード1と被照射体3との間に第1の単位電子ビームパルス(ハ)が発射される。
【0036】
電流センサ信号m2が遅延時間回路d2に伝えられると、遅延時間D2を経過してから発射信号が発射制御器21に入り前記順序データSiに従い回路Cのトリガg3を作動してスイッチS3を閉じコンデンサC3を放電させて第2の単位電子ビームパルス(ロ)を発射する。
【0037】
電流センサ信号m3により遅延時間回路d3が遅延時間D3を経過してから発射信号を発し、前記順序データSiに従い回路Aのトリガg1、スイッチS1によりコンデンサC1が放電して第3の単位電子ビームパルス(イ)が発射される。以上により入力指令の通り群パルス(ハロイ)を得ることが出来る。
【0038】
この複数パルスが有効に作用するためには電子銃内のplasmaと磁場が所定の条件で存在していなければならない。双方の電源はコンデンサー充放電回路を使用しているが他の方式で置き換えることは容易である。たとえば高周波電源によりplasmaを励起するが如きである。発明の実施例として図4に連続励起する手段の一例を示す。
【0039】
図4において、30は高圧直流充電電源、31は電源駆動回路、32,35は充電抵抗、33,34はダイオード、Cx,Cyはコンデンサ、Sx,Syはサイリスタ、Gx,Gyはサイリスタトリガで、その他の図1などにおいて既出の符号と同一符号を付したものは、同一物乃至は実質同一のものである。
【0040】
全体制御システム20に設定した指令により充電電源30がコンデンサCx,Cyを予め充電し、作動指令によりサイリスタトリガGxされサイリスタSxがオンとなり、コンデンサCxが放電して環状電極2とハウジング4間にグロー放電を発生させ低圧充填のArをプラズマ化して電子ビームパルスの生成条件が整えられ指令により発射させられる。
【0041】
予め設定した遅延時間を置いてシステム20が指令を発し、サイリスタトリガGyをトリガしてサイリスタSyをオンにし、コンデンサCyを放電させると追加された電荷により前記のプラズマが継続し、なお電子ビームパルスの発生条件を維持させることになる。
【0042】
以上のように、従来の表面改質装置では、表面改質効果を変更するための手段として1)カソード電圧、2)カソードとターゲットの距離、3)電離ガス圧力の3条件が通常に用いられて、これらの条件を全体装置制御運用するシステムの指令手段で調整していたのであるが、この発明によれば、複数パルス発生機能を付加することにより、パルス間相互作用を利用した新規な改質メカニズムが加えられて表面品質が向上し、また照射エネルギが有効に利用されるので作業効率が改善される。
【産業上の利用可能性】
【0043】
この発明は、断面積が大きくエネルギ密度が小さい電子ビームパルスの照射を利用する表面改質の幅を一段と拡大するものである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】この発明の表面改質装置の実施例回路構成図。
【図2】部分の部品の接続構成図。
【図3】さらに改良された実施例の回路構成図。
【図4】部分の変更実施例の開路構成図。
【図5】単位電子ビームパルスの例(イ)−(ク)を一覧表として示した図。
【図6】単位電子ビームパルス(イ)−(ク)を組み合わせて作った群パルスの例(a)−(f)を示した図。
【図7】この発明で利用する電子ビームパルス発生電子銃LEHCEBの原理図(a)及び(b)。
【図8】電子ビームパルス発生の電子銃の基本技術を利用した従来例装置の構成説明図。
【図9】表面改質される被照射体表面のモード説明図。
【図10】表面改質される被照射体表面に形成されるクレータ(crater)の説明図。
【符号の説明】
【0045】
1 カソード
2 環状電極
3 被照射体
4 ハウジング
5 励磁ソレノイド
6 テーブル
7 電離真空計、圧力センサ
8 ボンベ、ガス吸入系
9 分子ポンプ
9a,9b,9c 切換弁
10 スクロールポンプ
11 電子ビームパルス放射パルス電源
12 プラズマ生成パルス電源
14b 電圧調整器
14p 商用交流電源
15 ソレノイド励磁電源
16 抵抗
17 ダイオード
18 抵抗
19 真空ポンプ系
20 全体制御システム
21 発射制御器
C,E 充放電回路
Ce,Cf コンデンサ
Se,Sf サイリスタ
Ge,Gf トリガ器
Ke,Kf 充電電圧
d 遅延回路
C コンデンサ容量
V 充電電圧
D,δ1−2 遅延時間
E 充電エネルギ
E/τ エネルギ率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマを封入した電子銃のカソードからターゲットに向けて低エネルギ、高電流の電子ビームパルスを発射してターゲット物質の表面を改質する装置において、カソードとターゲット間に高圧に充電されたコンデンサC1とトリガスイッチ素子S1を直列に配置した回路Aを設け、回路Aに並列に高圧に充電されたコンデンサC2とトリガスイッチ素子S2を直列に配置した回路Bを設け、トリガスイッチS1を閉じて回路Aを閉路してカソードとターゲットの間にコンデンサC1の充電電荷を放電させて第1の単位電子ビームパルスを発射し、所定の遅延時間をおいてトリガスイッチS2を閉じて回路Bを閉路してカソードとターゲットの間にコンデンサC2の電荷を放電させて第2の単位電子ビームパルスを発射するようにして、第1、第2単位電子ビームパルスをもって構成される群パルスにより被照射体を表面改質することを特徴とする表面改質装置。
【請求項2】
前記回路Aまたは回路Bが2個以上設けられていることを特徴とする請求項1に記載の表面改質装置。
【請求項3】
前記複数個設けられている各回路のコンデンサの放電電圧が互に独立して設定できることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面改質装置。
【請求項4】
前記複数個設けられている各回路のコンデンサの静電容量が選択切換可能に構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面改質装置。
【請求項5】
前記遅延時間が所望の値に選択設定可能に構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面改質装置。
【請求項6】
前記電子銃内の低圧電離気体中におけるアノードとターゲット間の電圧印加により生成されるプラズマ形成電源が、充電電源を有するコンデンサが複数個設けられ、該コンデンサをアノードとターゲット間に順次に接続して放電させることにより前記プラズマが継続するように構成されているものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面改質装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−5011(P2007−5011A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−180693(P2005−180693)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(000132725)株式会社ソディック (197)
【Fターム(参考)】