説明

電子内視鏡システム

【課題】撮像素子の出力信号から反射信号成分を除去する。
【解決手段】撮像素子を有する電子内視鏡と、撮像素子からの出力信号を伝送する伝送ケーブルと、伝送ケーブルの基端に接続される抵抗と、伝送ケーブルにより伝送された出力信号を処理して観察画像を生成する信号処理回路とを有する電子内視鏡システムであって、信号処理回路が伝送ケーブル及び抵抗と接続されており、信号処理回路は、ホワイトバランス調整時に、有効画素領域内の第1の画素からの出力信号と、該第1の画素からの出力信号に続いて出力されるオプティカルブラック画素領域内の第2の画素からの出力信号とから、該第2の画素からの出力信号に含まれる該第1の画素からの出力信号による反射信号の信号量を算出し、観察画像の撮像時に、反射信号の信号量に基づいて、撮像素子の各画素からの出力信号に含まれる反射信号を除去することを特徴とする電子内視鏡システムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像素子からの出力信号を伝送ケーブルを介してビデオプロセッサに伝搬する際に発生する反射信号成分を除去するための電子内視鏡システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、患者の体腔内に細径で長尺の挿入部を挿入することにより、対象部位を観察及び撮像を行うことができる電子内視鏡システムが広く用いられている。電子内視鏡の挿入部先端には撮像素子(CCDイメージセンサやCMOSイメージセンサなど)が設けられており、撮像素子により光電変換されて出力される画素信号が、信号伝送手段として同軸ケーブルなどの伝送ケーブルを用いて、電子内視鏡と接続されるビデオプロセッサに伝送される。
【0003】
そのような電子内視鏡システムの一例が、特許文献1に開示されている。ここで図6を参照しながら従来の電子内視鏡システムについて説明する。図6は、従来の電子内視鏡システム100における電子内視鏡101の撮像素子103からの出力信号の伝送系を示す図である。撮像素子103からの出力信号は、エミッタフォロワのトランジスタ105に送られる。トランジスタ105はエミッタ抵抗107と共にバッファアンプを構成し、トランジスタ105のベースが撮像素子103の信号出力端に、コレクタが電源電圧104にそれぞれ接続されている。トランジスタ105は出力信号を出力抵抗106を経由して伝送ケーブル108に送る。伝送ケーブル108は、電子内視鏡101の挿入部先端からビデオプロセッサ102まで延在している。伝送ケーブル108によって伝送された出力信号は、コンデンサ109に送られる。コンデンサ109は、終端抵抗110と共にアナログ信号処理回路を構成し、出力信号はアナログ信号処理回路からビデオプロセッサ102内の前段信号処理回路(図示せず)に送られ、出力信号に対して種々の画像処理が施される。
【0004】
ここで、出力抵抗106及び終端抵抗110の抵抗値、伝送ケーブル108の特性インピーダンスを、それぞれR,R,Zとすると、条件R=Z=Rが成立する場合は、インピーダンス整合が取れており、アナログ信号処理回路側において出力信号の信号反射は発生しない。しかし、この条件が成立しない場合、伝送ケーブル108の特性インピーダンスにばらつきがあることなどが原因となって、撮像素子103から出力される信号に、伝送ケーブル内において生じる反射による反射信号成分が混入する。撮像素子は、観察対象からの光を受光する有効画素領域と、暗電流補正用のオプティカルブラック(OB)画素領域とを有する。撮像素子の有効画素領域の画素からオプティカルブラック画素領域の画素へ移行する箇所の信号出力に注目すると、一定の強度の照明光を用いて撮像している場合、インピーダンス整合が取れていれば、図4(a)に示すように、有効画素領域の画素出力として観察画像のデータ出力が得られ、オプティカルブラック画素領域の画素出力として黒レベルのデータ出力が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−45071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のような従来の電子内視鏡システムでは、インピーダンス整合を達成するために伝送ケーブルの両端側に抵抗を設けているため、出力信号の信号強度が低下する可能性がある。また、電子内視鏡は、患者の体腔内に挿入して使用するため、電子内視鏡には、患者の負担を軽減するためのより一層の細径化が望まれる。そして、電子内視鏡を細径化するために、挿入部先端の省スペース化により出力抵抗を配置できない場合もある。さらに、電子内視鏡における伝送ケーブルは、電子内視鏡の先端部に設けられた撮像素子の出力信号をビデオプロセッサとの接続部である基部まで伝送する長尺のケーブルである。従って、伝送ケーブル内において特性インピーダンスにばらつきが生じる可能性がある。この特性インピーダンスのばらつきは、出力信号の反射損失に影響を及ぼす。そして、出力抵抗や終端抵抗が有する一定の抵抗値では、特性インピーダンスのばらつきによって発生する反射信号の影響を解消することができない。
【0007】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、電子内視鏡の回路構成を簡素化しつつ、撮像素子からの出力信号の信号強度を低下させることなく該出力信号から反射信号成分を除去することが可能な電子内視鏡システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態における電子内視鏡システムは、有効画素領域とオプティカルブラック画素領域とを有する撮像素子を有する電子内視鏡と、撮像素子からの出力信号を伝送する伝送ケーブルと、伝送ケーブルにより伝送された出力信号を処理して観察画像を生成する信号処理回路とを有する電子内視鏡システムであって、信号処理回路は、ホワイトバランス調整時に、有効画素領域内の第1の画素からの出力信号と、第1の画素からの出力信号に続いて出力されるオプティカルブラック画素領域内の第2の画素からの出力信号とから、第2の画素からの出力信号に含まれる、第1の画素からの出力信号による伝送ケーブル内で生じる反射信号の信号量を算出し、観察画像の撮像時に、反射信号の信号量に基づいて、撮像素子の各画素からの出力信号に含まれる反射信号を除去する。
【0009】
好ましくは、信号処理回路は、ホワイトバランス調整時に、第1の画素からの出力信号と、第2の画素からの出力信号に含まれる、第1の画素からの出力信号による反射信号の信号量とから、所定の係数を算出する反射係数演算回路と、所定の係数を記憶するメモリと、各画素からの出力信号に対して、前画素信号の信号量にメモリに記憶されている所定の係数を適用して算出される信号量を反射信号の信号量として注目画素信号から除去する処理を行う反射信号除去回路とを有する。
【0010】
さらに好ましくは、反射信号除去回路は、各画素からの出力信号を遅延させる遅延回路と、各画素からの出力信号にメモリに記憶されている所定の係数を適用して、反射信号の信号量を算出する反射信号量演算回路と、遅延回路からの出力信号の信号量から、反射信号量演算回路からの出力信号の信号量を減算する減算部とを有する。
【0011】
また、反射係数演算回路は、所定の係数を、以下の式(1)により求め、
α=A/B・・・(1)
ここで、αは所定の係数、Aは第1の画素からの出力信号の信号量、Bは第2の画素からの出力信号に含まれる第1の画素からの出力信号による反射信号の信号量である、
反射信号除去回路は、注目画素信号から除去する反射信号の信号量を、以下の式(2)により求める、
ref=α×C・・・(2)
ここで、Crefは注目画素信号から除去する反射信号の信号量、Cは前画素信号の信号量である。
【0012】
さらに、伝送ケーブルにおいて前画素信号が現れてから前画素信号の反射信号が注目画素信号内に現れるまでの時間は、以下の式(3)により与えられ、
ΔT=2×T×L・・・(3)
ここで、ΔTは伝送ケーブルにおいて前画素信号が現れてから前画素信号の反射信号が注目画素信号内に現れるまでの経過時間、Tは伝送ケーブルにおける信号伝送の遅延時間、Lは伝送ケーブルのケーブル長である、
反射信号除去回路は、式(3)のΔTにより特定される位置において、注目画素信号から反射信号を除去する。
【0013】
また、伝送ケーブルにおける信号伝送の遅延時間Tは、以下の式(4)により与えられる、
T=(μ×μ×ε×ε1/2・・・(4)
ここで、μは真空の透磁率、μは伝送ケーブルの導体の透磁率、εは真空の誘電率、εは伝送ケーブルの誘電体の誘電率である。
【0014】
または、オプティカルブラック画素領域に白画素を設け、信号処理回路において上記第1の画素からの出力信号の代わりに白画素からの出力信号を用いる構成としてもよい。この場合、ホワイトバランスの調整を行って所定の係数αを決定する作業を行うことなく、観察画像の撮像時に定期的に係数αを設定及び更新することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の電子内視鏡システムによれば、撮像素子からの出力信号を伝送ケーブルにより伝送する際に信号に含まれる反射信号成分を除去することができる。さらに、例えば、電子内視鏡の長期使用による伝送ケーブルの劣化に伴って伝送ケーブルの特性インピーダンスが変化した場合においても、定期的に係数を更新して反射成分を除去することができる。また、電子内視鏡の先端部において撮像素子と伝送ケーブルとの間に抵抗を設ける必要がないため、従来の電子内視鏡に比べて回路構成を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の実施形態における電子内視鏡システムの概略を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態における電子内視鏡システムの一部を示すブロック図である。
【図3】図3(a)及び(b)は、本発明の実施形態における電子内視鏡システムの撮像素子の構成を示す概略図である。
【図4】図4(a)〜(d)は、撮像素子からの出力信号を伝送ケーブルにより伝送したときの信号波形を示すグラフである。
【図5】図5は、本発明の第2の実施形態における反射信号の除去処理を示すフローチャートである。
【図6】図6は、従来の電子内視鏡システムの構成の一部を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態における電子内視鏡システムについて説明する。なお、電子内視鏡において、挿入部の先端側を先端側とし、ビデオプロセッサと接続する基部側を基端側とする。また、複数の図にまたがって同じ部材を示す場合は同じ番号を付すこととする。
【0018】
図1に、本発明の第1の実施形態における電子内視鏡システムの概略を示す。電子内視鏡システム200は、電子内視鏡1、ビデオプロセッサ2、モニタ3を備える。光源部22は、ハロゲンランプ、キセノンランプ、白色LEDなどの光源を有する。ビデオプロセッサ2内には、照明光の伝搬路であるライトガイド24の入射端に光源からの光を集光する集光光学系20、照明光の光量を調整するための光量絞り21、光量絞り21を制御するモータ19やモータ19を駆動制御するモータドライバ18が設けられている。本実施形態では撮像方式として同時方式を採用している。従って、光源部22からの白色光をそのままライトガイド24を伝搬させて観察対象部位に照射し、撮像素子6上にオンチップ化された補色フィルタによって補色信号を分離し、この補色信号をR,G,Bの原色信号に変換して、この原色信号から輝度信号及び色差信号を得る。もちろん、補色フィルタの代わりにR,G,Bの3原色のカラーフィルタを用いて原色信号を出力する同時方式でもよい。なお、撮像方式は、同時方式の代わりに面順次方式を採用してもよい。すなわち、光源部22とライトガイド24との間に、光源からの白色光を赤(R)、緑(G)、青(B)の光に順次色分解するための回転カラーフィルタを設け、画像信号をフレームメモリに書き込む際のタイミングパルスや垂直同期信号に同期してカラーフィルタを回転させる。また、光源部22の代わりに外部の光源装置を用いる構成としてもよい。
【0019】
光源部22から出射された光は、集光光学系20及び光量絞り21を経由してライトガイド24の端面に進行する。電子内視鏡1がビデオプロセッサ2に接続されると、電子内視鏡1のライトガイド8とビデオプロセッサ2のライトガイド24とが光学的に接続される。よって、光源部22から出射された光は、ライトガイド8,24により電子内視鏡1の先端に伝搬される。ライトガイド8の先端から出射された光は、配光光学系4を介して照明光として対象部位に進行する。照明光は対象部位によって反射され、対物光学系5に入射した後、撮像素子6の撮像面に到達する。従って、対象部位の像は対物光学系5によって撮像素子6の撮像面に結ばれる。撮像素子6によって受光された照明光は光電変換され、アンプ7によって増幅された後、伝送ケーブル9を介して画素信号としてビデオプロセッサ2との接続部である基部1aを経由してビデオプロセッサ2のアナログ信号処理回路10に伝送される。後述するように、本実施形態では伝送ケーブル9にて発生する反射信号成分を前段信号処理回路11において除去するため、撮像素子6と伝送ケーブル9との間に出力抵抗を設けていない。このため、電子内視鏡1の先端部の回路構成を簡素化することができる。
【0020】
アナログ信号処理回路10は、入力される信号に対してサンプルホールド処理やノイズ除去などの種々の処理を行い、輝度信号Y及び色差信号Cb,Crからなる画像信号に変換し、デジタル信号に変換した後、前段信号処理回路11に送る。前段信号処理回路11では、輝度信号Y及び色差信号Cb,Crを、マトリクス回路(図示せず)によって原色信号R,G,Bに変換する。変換されたR,G,Bの各信号は、それぞれVCA(Voltage Controlled Amplifier)回路(図示せず)に送られて増幅度が制御される。また、前段信号処理回路11では、受信した画像信号に含まれる反射信号成分を除去する処理を行う。前段信号処理回路11における当該処理の詳細については後述する。R,G,Bの各信号は画像メモリ12に格納される。画像メモリ12からは1フレーム分の信号が読み出され、タイミングコントローラ15から出力される水平同期信号及び垂直同期信号が付加されて、後段信号処理回路13に送られる。タイミングコントローラ15は、駆動回路14による撮像素子6の走査タイミングを制御する。また、タイミングコントローラ15は、撮像素子6のフレームレートに同期して、アナログ信号処理回路10、前段信号処理回路11、画像メモリ12、後段信号処理回路13の各動作タイミングを制御する。
【0021】
後段信号処理回路13において、画像メモリ12から送られてきた信号は、デジタルビデオ信号、RGBビデオ信号、コンポジットビデオ信号、Sビデオ信号などに変換された後、観察画像としてモニタ3に出力される。術者は、モニタ3に表示される観察画像を確認しながら対象部位の観察や治療を行う。なお、アナログ信号処理回路10において処理される輝度信号は、システムコントローラ17を経由してモータドライバ18にも送られる。モータドライバ18は、受信した輝度信号に基づいて観察画像の明るさが最適になるように、モータ19を駆動制御して光量絞り21の絞り量を調節する。
【0022】
ビデオプロセッサ2には、観察画像の表示に関する各種調整や光源の調光などを行うための操作ボタンや設定スイッチを有するフロントパネル16が設けられている。術者は、フロントパネル16の各操作ボタンや各設定スイッチを操作して、電子内視鏡1及びビデオプロセッサ2内の各回路における処理の設定値の変更や観察画像の彩度、輝度、エンハンスの調整などを行う。例えば、フロントパネル16の調光用の設定スイッチから出力された信号がシステムコントローラ17に送られ、システムコントローラ17は、受信した調光用の信号に基づいて光源電源23の調光制御を行う。なお、システムコントローラ17は、電子内視鏡1をビデオプロセッサ2に接続した際に、ビデオプロセッサ2側で種々の制御を行う上で必要となる電子内視鏡1の識別情報や撮像素子6に関する情報などを、電子内視鏡1のメモリ25から取得する。
【0023】
図3(a)に、本実施形態において使用する撮像素子6の構成の概略を示す。撮像素子6は、有効画素領域6aとオプティカルブラック画素領域6bとを有する。有効画素領域6aは、観察する対象部位から反射された光を受光して受光量に応じた電荷を蓄積する。また、オプティカルブラック画素領域6bは、例えばアルミニウム蒸着膜により各画素が遮光されている領域であり、黒レベルに対応した信号を出力する。
【0024】
図4(b)〜(d)に、本実施形態においてビデオプロセッサ2が電子内視鏡1から伝送ケーブル9を介して受信する画素信号の概略の波形を示す。図4(b)及び(c)に示す信号波形は、撮像素子6の有効画素領域6a内の1画素からの出力信号(有効画素信号)と、該画素からの出力信号に続いて出力されるオプティカルブラック画素領域6b内の画素からの出力信号(オプティカルブラック画素信号)の信号波形を取り出したものである。本実施形態においては、撮像素子6と伝送ケーブル9との間に出力抵抗を設けていないことなどが原因となって伝送ケーブル9内において信号反射が生じる。従って、図4(b)及び(c)に示すように、有効画素信号の反射信号の成分が、続いて出力されるオプティカルブラック画素信号に現れる。なお、以下の式(5)を満たす場合は、反射信号はオプティカルブラック画素信号にその位相が反転せずに重畳するため、図4(b)に示す波形が現れる。
R>Z・・・(5)
ここで、Rは終端抵抗の抵抗値、Zは伝送ケーブル9の特性インピーダンスの値である。また、以下の式(6)を満たす場合は、反射信号はオプティカルブラック画素信号にその位相が反転して重畳するため、図4(c)に示す波形が現れる。
R<Z・・・(6)
【0025】
また、伝送ケーブル9において有効画素信号が現れてから有効画素信号の反射波形がオプティカルブラック画素信号内に現れるまでの時間をΔTとおくと、ΔTは以下の式(7)によって求めることができる。
ΔT=2×T×L・・・(7)
ここで、Tは伝送ケーブル9における信号伝送の遅延時間、Lは伝送ケーブル9のケーブル長である。さらに、遅延時間Tは以下の式(8)によって求めることができる。
T=(μ×μ×ε×ε1/2・・・(8)
ここで、μは真空の透磁率、μは伝送ケーブル9の導体の透磁率、εは真空の誘電率、εは伝送ケーブル9の誘電体の誘電率である。ΔTを求めることにより、オプティカルブラック画素信号内において有効画素信号の反射信号が現れる位置をあらかじめ特定することができる。また、本実施形態では、有効画素領域6a内の互いに隣接する画素についても、先に出力される画素信号の反射信号が、続いて出力される画素信号内のΔTで特定される位置に現れるとみなすことができる。
【0026】
図2に、本実施形態において伝送ケーブル9内で生じる反射信号の除去を実行するための処理を行う各構成要素のブロック図を示す。撮像素子6は、駆動回路14によって制御される動作タイミングで画素の走査を行い画素信号を出力する。アナログ信号処理回路10は、入力される画素信号に対して上記の通り種々の処理を施した画像信号を前段信号処理回路11に送る。前段信号処理回路11は、反射係数演算回路30、遅延回路31、減算部32、反射信号量演算回路33、反射係数メモリ34を有する。本実施形態では、ホワイトバランス調整時に有効画素信号とオプティカルブラック画素信号から反射信号の信号量を計測して、計測された反射信号の信号量から反射係数αを演算する。有効画素信号の信号量をA、オプティカルブラック画素信号内に現れる反射信号の信号量をBとすると、反射係数αは以下の式(9)によって求めることができる。
α=A/B・・・(9)
なお、反射信号の信号量Bは、反射信号がオプティカルブラック画素信号にその位相が反転せずに重畳する場合は正の値を取り、反射信号がオプティカルブラック画素信号にその位相が反転して重畳する場合は負の値を取る。
【0027】
アナログ信号処理回路10からの画像信号は、反射係数演算回路30、遅延回路31、反射信号量演算回路33に送られる。なお、本実施形態ではシステムコントローラ17により式(9)からΔTが演算される。また、タイミングコントローラ15は、有効画素と有効画素に隣接するオプティカルブラック画素とを走査するタイミングに合わせて、反射係数演算回路30を動作させる信号を送る。従って、反射係数演算回路30は、タイミングコントローラ15から指示されたタイミングに基づいて、有効画素と有効画素に隣接するオプティカルブラック画素の2画素からの画素信号のみを取り込んで反射係数を演算する。反射係数演算回路30は、有効画素信号の信号量とオプティカルブラック画素信号においてΔTによって決まる位置に現れる反射信号の信号量とから式(9)によって反射係数αを求め、得られた反射係数αを反射係数メモリ34に格納する。
【0028】
次に、ホワイトバランス調整を終了して対象部位の撮像を開始する。図4(d)に、撮像素子6の隣接する任意の2画素から出力される画素信号を伝送ケーブル9によって伝送した場合の波形を示す。ここで、2画素のうち先に出力及び伝送される信号を前画素信号とし、前画素信号に続いて出力及び伝送される信号を注目画素信号とする。図4(d)では、前画素信号の反射信号がその位相が反転せずに注目画素信号に重畳する場合を想定している。しかし、位相が反転して重畳する場合でも、以下に説明する処理と同様の処理を施すことにより反射信号を除去することができる。反射信号量演算回路33は、入力される前画素信号の信号量Cと反射係数メモリ34に格納されている反射係数αとから、注目画素信号に現れる反射信号の信号量α×C(=Cref)を求め、減算部32に送る。遅延回路31は、反射信号量演算回路33により上記の演算処理が施されて出力結果Crefが減算部32に入力されるタイミングと、反射信号成分の除去対象である注目画素信号が減算部32に入力されるタイミングとを一致させる。具体的には、遅延回路31は、減算部32においてΔTにより特定される注目画素信号内の位置における信号量から反射信号の信号量Crefが減算されるように、アナログ信号処理回路10から受信した信号を遅延させる。減算部32は、遅延回路31から出力される注目画素信号の信号量から、反射信号量演算回路33により演算される反射信号の信号量を減算する。すなわち、注目画素信号においてΔTにより特定される位置において、反射信号が除去される前の信号量をD、除去された後の信号量をD’とすると、D’は以下の式(10)によって求められる。
D’=D−Cref・・・(10)
【0029】
上記の反射信号の除去処理を撮像素子6の各画素からの出力信号に対して繰り返し実行して、各出力信号に含まれる反射信号を除去する。減算部32によって反射信号が除去された画素信号は、前段信号処理回路11内の他の回路に送られて、上記のように、輝度信号及び色差信号から3原色信号への変換や増幅などの種々の処理が施された後、画像メモリ12に出力される。よって、画素信号に対して、伝送ケーブル9内で発生した信号の反射を除去してから種々の画像処理を施すため、信号の反射の影響を受けない観察画像を生成することができる。
【0030】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態における電子内視鏡システムの構成は、第1の実施形態における図1及び図2と同じである。また、第1の実施形態において図4(b)及び(c)に示された信号波形は、本実施形態でも同様であり、ただし、有効画素信号の信号量Aが白画素から出力される信号(白画素信号)に対応する。図3(b)に、本実施形態において使用する撮像素子6の構成の概略を示す。撮像素子6は、有効画素領域6c、オプティカルブラック画素領域6d、白画素6eを有する。本実施形態では、第1の実施形態と異なり、ホワイトバランス調整時の出力信号を用いて反射係数αを算出する代わりに、対象部位の撮像時に白画素6eから出力される白画素信号と、白画素信号に続いて出力されるオプティカルブラック画素領域6d内の画素から出力されるオプティカルブラック画素信号とから反射係数αを算出する。
【0031】
白画素6eが配置されている位置の画素座標は既知である。そこで、例えば、システムコントローラ17が、電子内視鏡1内のメモリ25から白画素6eの座標を取得し、当該座標に基づいて、タイミングコントローラ15を制御する。タイミングコントローラ15は、システムコントローラ17の制御に基づいて、白画素6eと白画素6eに隣接するオプティカルブラック画素とを走査するタイミングに合わせて、反射係数演算回路30を動作させる信号を送る。反射係数演算回路30は、タイミングコントローラ15から指示されたタイミングにて、白画素信号とオプティカルブラック画素信号を取り込み、反射係数αを算出する。なお、白画素信号の信号量は、オプティカルブラック画素信号の信号量と有意に異なる。従って、システムコントローラ17において、オプティカルブラック画素領域6d内の各画素から出力される信号を受信しているときに所定の信号量を超える出力信号を受信した際に、その信号を白画素6eから出力された信号であるとみなして、その信号を出力した画素の座標を白画素6eの座標とみなすこともできる。これにより、メモリ25から白画素6eの座標を取得しなくとも白画素6eの座標を特定することができる。
【0032】
図5に、本実施形態における反射信号の除去処理のフローチャートを示す。まず、電子内視鏡1をビデオプロセッサ2に接続し、電子内視鏡1の電源をオンにする。電子内視鏡1の電源がオンになると、撮像素子6からの画素信号の出力が開始する(S101)。システムコントローラ17は、第1の実施形態と同様に、図4(b)に示すように、伝送ケーブル9内において、白画素信号が現れてから該白画素信号の反射波形がオプティカルブラック画素信号内に現れるまでの時間ΔTを求める(S103)。次に、反射係数演算回路30は、第1の実施形態と同様に、タイミングコントローラ15の制御に基づいて動作する。すなわち、白画素と白画素に隣接するオプティカルブラック画素とを走査するタイミングに合わせて、反射係数演算回路30を動作させる信号を送る。従って、反射係数演算回路30は、タイミングコントローラ15から指示されたタイミングに基づいて、対象となる白画素信号及びオプティカルブラック画素信号の2つの画素信号のみを取り込んで反射係数を演算する。そして、反射係数演算回路30は、白画素信号の信号量とオプティカルブラック画素信号においてΔTによって決まる位置に現れる反射信号の信号量を用いて反射係数αを算出して反射係数メモリ34に格納する(S105)。
【0033】
また、本実施形態においても、撮像素子6の隣接する任意の2画素のうち先に出力及び伝送される信号を前画素信号とし、前画素信号に続いて出力及び伝送される信号を注目画素信号とする。反射係数αが決定されたら、続いて画素信号に含まれる反射信号の除去処理を開始する(S107)。ここで反射信号の除去処理について詳しく説明する。反射信号量演算回路33が、入力される前画素信号の信号量Cと反射係数メモリ34に格納されている反射係数αとから、注目画素信号に現れる反射信号の信号量α×C(=Cref)を求め、減算部32に送る。遅延回路31は、反射信号量演算回路33により上記の演算処理が施された出力結果Crefが減算部32に入力されるタイミングと、反射信号成分の除去対象である注目画素信号が減算部32に入力されるタイミングとを一致させる。具体的には、遅延回路31は、ΔTにより特定される注目画素信号内の位置における信号量から反射信号の信号量が減算されるようにアナログ信号処理回路10からの信号を遅延させる。減算部32は、遅延回路31から出力される注目画素信号の信号量から、反射信号量演算回路33により演算される反射信号の信号量を減算する。上記の反射信号の除去処理を撮像素子6の各画素からの出力信号に対して繰り返し実行して、各出力信号に含まれる反射信号を除去する。
【0034】
減算部32によって反射信号が除去された画素信号は、前段信号処理回路11内の他の回路に送られて、輝度信号及び色差信号から3原色信号への変換や増幅などの種々の処理が施された後、画像メモリ12に出力される。よって、画素信号に対して伝送ケーブル9内で発生した信号の反射を除去してから種々の画像処理を施すため、信号の反射の影響を受けない観察画像を生成することができる。
【0035】
本実施形態では、システムコントローラ17の制御により、白画素6eが走査される度に反射係数演算回路30による反射係数αの演算が行われるため、反射係数メモリ34に格納されている反射係数αは定期的に更新される。従って、本実施形態では、反射信号量演算回路33は、定期的に更新される反射係数αを用いて反射信号の信号量を算出することができるため、リアルタイムかつより信頼性の高い反射信号成分の除去を行うことができる。
【0036】
以上が本発明における実施形態に関する説明である。本発明は、上記の構成に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲において種々の変形が可能である。例えば、上記第1の実施形態において、ホワイトバランス調整を施術時にではなく製造時に行って、工場出荷時の設定値として取得した反射係数を使用することもできる。
【符号の説明】
【0037】
1 電子内視鏡
2 ビデオプロセッサ
6 撮像素子
6a,6c 有効画素領域
6b,6d オプティカルブラック画素領域
6e 白画素
9 伝送ケーブル
11 前段信号処理回路
22 光源部
30 反射係数演算回路
31 遅延回路
32 減算部
33 反射信号量演算回路
34 反射係数メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効画素領域とオプティカルブラック画素領域とを有する撮像素子を有する電子内視鏡と、該撮像素子からの出力信号を伝送する伝送ケーブルと、該伝送ケーブルにより伝送された出力信号を処理して観察画像を生成する信号処理回路とを有する電子内視鏡システムであって、
前記信号処理回路は、
ホワイトバランス調整時に、前記有効画素領域内の第1の画素からの出力信号と、該第1の画素からの出力信号に続いて出力されるオプティカルブラック画素領域内の第2の画素からの出力信号とから、該第2の画素からの出力信号に含まれる、該第1の画素からの出力信号による前記伝送ケーブル内で生じる反射信号の信号量を算出し、
観察画像の撮像時に、前記反射信号の信号量に基づいて、前記撮像素子の各画素からの出力信号に含まれる反射信号を除去する、
ことを特徴とする電子内視鏡システム。
【請求項2】
前記信号処理回路は、
ホワイトバランス調整時に、前記第1の画素からの出力信号と、前記第2の画素からの出力信号に含まれる、該第1の画素からの出力信号による前記反射信号の信号量とから、所定の係数を算出する反射係数演算回路と、
前記所定の係数を記憶するメモリと、
各画素からの出力信号に対して、前画素信号の信号量に前記メモリに記憶されている前記所定の係数を適用して算出される信号量を前記反射信号の信号量として注目画素信号から除去する処理を行う反射信号除去回路と、を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の電子内視鏡システム。
【請求項3】
前記反射信号除去回路は、
各画素からの出力信号を遅延させる遅延回路と、
各画素からの出力信号に前記メモリに記憶されている前記所定の係数を適用して、前記反射信号の信号量を算出する反射信号量演算回路と、
前記遅延回路からの出力信号の信号量から、前記反射信号量演算回路からの出力信号の信号量を減算する減算部と、を有する、
ことを特徴とする請求項2に記載の電子内視鏡システム。
【請求項4】
前記反射係数演算回路は、前記所定の係数を、以下の式(1)により求め、
α=A/B・・・(1)
ここで、αは前記所定の係数、Aは前記第1の画素からの出力信号の信号量、Bは前記第2の画素からの出力信号に含まれる該第1の画素からの出力信号による反射信号の信号量である、
前記反射信号除去回路は、前記注目画素信号から除去する反射信号の信号量を、以下の式(2)により求める、
ref=α×C・・・(2)
ここで、Crefは前記注目画素信号から除去する反射信号の信号量、Cは前記前画素信号の信号量である、
ことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の電子内視鏡システム。
【請求項5】
前記伝送ケーブルにおいて前記前画素信号が現れてから該前画素信号の反射信号が前記注目画素信号内に現れるまでの時間は、以下の式(3)により与えられ、
ΔT=2×T×L・・・(3)
ここで、ΔTは前記伝送ケーブルにおいて前記前画素信号が現れてから該前画素信号の反射信号が前記注目画素信号内に現れるまでの時間、Tは該伝送ケーブルにおける信号伝送の遅延時間、Lは該伝送ケーブルのケーブル長である、
前記反射信号除去回路は、式(3)のΔTにより特定される位置において、前記注目画素信号から反射信号を除去する、
ことを特徴とする請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の電子内視鏡システム。
【請求項6】
前記伝送ケーブルにおける信号伝送の遅延時間Tは、以下の式(4)により与えられる、
T=(μ×μ×ε×ε1/2・・・(4)
ここで、μは真空の透磁率、μは前記伝送ケーブルの導体の透磁率、εは真空の誘電率、εは該伝送ケーブルの誘電体の誘電率である、
ことを特徴とする請求項5に記載の電子内視鏡システム。
【請求項7】
有効画素領域とオプティカルブラック画素領域とを有する撮像素子を有する電子内視鏡と、該撮像素子からの出力信号を伝送する伝送ケーブルと、該伝送ケーブルにより伝送された出力信号を処理して観察画像を生成する信号処理回路とを有する電子内視鏡システムであって、
前記オプティカルブラック画素領域に白画素が設けられており、
前記信号処理回路は、
前記白画素からの出力信号と、該白画素からの出力信号に続いて出力されるオプティカルブラック画素領域内の第3の画素からの出力信号とから、該第3の画素からの出力信号に含まれる、該白画素からの出力信号による前記伝送ケーブル内で生じる反射信号の信号量を算出し、
前記反射信号の信号量に基づいて、前記撮像素子の各画素からの出力信号に含まれる反射信号を除去する、
ことを特徴とする電子内視鏡システム。
【請求項8】
前記信号処理回路は、
前記白画素からの出力信号と、前記第3の画素からの出力信号に含まれる、該白画素からの出力信号による前記反射信号の信号量とから所定の係数を算出する反射係数演算回路と、
前記所定の係数を記憶するメモリと、
各画素からの出力信号に対して、前画素信号の信号量に前記メモリに記憶されている前記所定の係数を適用して算出される信号量を前記反射信号の信号量として注目画素信号から除去する処理を行う反射信号除去回路と、を有する、
ことを特徴とする請求項7に記載の電子内視鏡システム。
【請求項9】
前記反射信号除去回路は、
各画素からの出力信号を遅延させる遅延回路と、
各画素からの出力信号に前記メモリに記憶されている前記所定の係数を適用して、前記反射信号の信号量を算出する反射信号量演算回路と、
前記遅延回路からの出力信号の信号量から、前記反射信号量演算回路からの出力信号の信号量を減算する減算部と、を有する、
ことを特徴とする請求項8に記載の電子内視鏡システム。
【請求項10】
前記反射係数演算回路は、前記所定の係数を、以下の式(5)により求め、
α=A/B・・・(5)
ここで、αは前記所定の係数、Aは前記白画素からの出力信号の信号量、Bは前記第3の画素からの出力信号に含まれる該白画素からの出力信号による反射信号の信号量である、
前記反射信号除去回路は、前記注目画素信号から除去する反射信号の信号量を、以下の式(6)により求める、
ref=α×C・・・(6)
ここで、Crefは前記注目画素信号から除去する反射信号の信号量、Cは前記前画素信号の信号量である、
ことを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の電子内視鏡システム。
【請求項11】
前記伝送ケーブルにおいて前記前画素信号が現れてから該前画素信号の反射信号が前記注目画素信号内に現れるまでの時間は、以下の式(7)により与えられ、
ΔT=2×T×L・・・(7)
ここで、ΔTは前記伝送ケーブルにおいて前記前画素信号が現れてから該前画素信号の反射信号が前記注目画素信号内に現れるまでの時間、Tは該伝送ケーブルにおける信号伝送の遅延時間、Lは該伝送ケーブルのケーブル長である、
前記反射信号除去回路は、式(7)のΔTにより特定される位置において、前記注目画素信号から反射信号を除去する、
ことを特徴とする請求項8から請求項10のいずれか一項に記載の電子内視鏡システム。
【請求項12】
前記伝送ケーブルにおける信号伝送の遅延時間Tは、以下の式(8)により与えられる、
T=(μ×μ×ε×ε1/2・・・(8)
ここで、μは真空の透磁率、μは前記伝送ケーブルの導体の透磁率、εは真空の誘電率、εは該伝送ケーブルの誘電体の誘電率である、
ことを特徴とする請求項11に記載の電子内視鏡システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−235021(P2011−235021A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111188(P2010−111188)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】