説明

電子写真機器用無端ベルト

【課題】基層と表層との界面における密着性、耐久性に優れ、優れた画像を得ることができる電子写真機器用無端ベルトの提供を目的とする。
【解決手段】基層1の外周面に表層2が形成されてなり、基層1が(A)〜(C)成分を含有し、NCOインデックスが90〜95の範囲に設定された樹脂組成物の硬化体からなり、表層2が(D),(E)成分を含有し、NCOインデックスが125〜500の範囲に設定された樹脂組成物の硬化体からなる電子写真機器用無端ベルトである。
(A)芳香族ジイソシアネート。
(B)芳香族系多価カルボン酸の無水物。
(C)ジオールまたはジカルボン酸。
(D)イソシアネート化合物。
(E)上記(D)成分のイソシアネート基と反応する官能基を有するフッ素樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真機器用無端ベルトに関するものであり、詳しくは、電子写真複写機、プリンター、ファクシミリ等の電子写真機器の中間転写ベルト,搬送用ベルトとして用いられる電子写真機器用無端ベルト。
【背景技術】
【0002】
一般に、フルカラーLBP(レーザービームプリンター)やフルカラーPPC(プレーンペーパーコピア)等の電子写真技術を採用した電子写真機器において、トナー像の転写用,紙転写搬送用,感光体基体用等の用途に、無端ベルト(シームレスベルト)が多用されている。このような無端ベルトとしては、例えば、ポリイミド樹脂,ポリカーボネート樹脂,ポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂等の単層ベルトや、またはこれらに表層を設けたベルトが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開2001−162691号公報
【特許文献2】特開平10−10880号公報
【特許文献3】特開2000−355432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、単層ベルトの場合は、強度確保や抵抗の安定化を主眼においた材料設計であるため、トナー転写性に対する機能を盛り込みにくい。すなわち、トナークリーニング時に、クリーニングブレードもしくはクリーニングブラシと、ベルトとの間にトナーが詰まるが、トナーの中には硬い外添剤が入っているため、これにより柔らかいベルトの表面にすじができ、転写物に周方向のすじが生じる等の難点がある。また、カーボン等の導電剤の分散状態によっては異常放電を起こし、画像が悪化(白点画像等)する等の難点もある。
【0004】
また、表層を設けたベルトの場合は、基層と表層との界面における密着性が劣るため、表層の剥がれや削れ等の問題が発生し、その影響による抵抗むらによって、画像不具合(白点画像等)が生じる。さらに、表層の材質によってはトナー転写性が悪化したり、耐トナー付着性が悪くなり、画像不具合が生じる等の難点がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、基層と表層との界面における密着性、耐久性に優れ、優れた画像を得ることができる電子写真機器用無端ベルトの提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の電子写真機器用無端ベルトは、基層の外周面に表層が形成されてなる電子写真機器用無端ベルトであって、上記基層が、下記の(A)〜(C)成分を含有し、NCOインデックスが90〜95の範囲に設定された樹脂組成物の硬化体からなるとともに、上記表層が、下記の(D)および(E)成分を含有し、NCOインデックスが125〜500の範囲に設定された樹脂組成物の硬化体からなるという構成をとる。
(A)芳香族ジイソシアネート。
(B)芳香族系多価カルボン酸の無水物。
(C)ジオールまたはジカルボン酸。
(D)イソシアネート化合物。
(E)上記(D)成分のイソシアネート基と反応する官能基を有するフッ素樹脂。
【0007】
すなわち、本発明者らは、基層と表層との界面における密着性、耐久性に優れ、優れた画像を得ることができる電子写真機器用無端ベルトを得るため、鋭意研究を重ねた。そして、基層の外周面に表層が形成されてなる2層構造の電子写真機器用無端ベルトであって、上記基層が、芳香族ジイソシアネート(A成分)と、芳香族系多価カルボン酸の無水物(B成分)と、ジオールまたはジカルボン酸(C成分)とを含有し、NCOインデックスが90〜95の範囲である樹脂組成物の硬化体からなるとともに、上記表層が、イソシアネート化合物(D成分)と、上記D成分のイソシアネート基と反応する官能基を有するフッ素樹脂(E成分)とを含有し、NCOインデックスが125〜500の範囲である樹脂組成物の硬化体からなる樹脂製の電子写真機器用無端ベルトによって、所期の目的を達成できることを見いだし、本発明に到達した。本発明では、表層材料である、イソシアネート化合物(D成分)と、このD成分のイソシアネート基と反応する官能基を有するフッ素樹脂(E成分)とが硬化して架橋するとともに、上記イソシアネート化合物(D成分)の架橋していない残りのイソシアネート基が、基層材料中のジオール(C成分)の水酸基またはジカルボン酸(C成分)のカルボキシル基と結合することにより、基層と表層とが密着する。すなわち、基層を形成する、上記A〜C成分を含有する樹脂組成物のNCOインデックスを90〜95の範囲に設定するとともに、表層を形成する、上記D成分およびE成分を含有する樹脂組成物のNCOインデックスを125〜500の範囲に設定することにより、上記理由によって、基層と表層との界面における密着性が向上するとともに、基層強度の低下を抑制することができ、無端ベルトの耐久性に優れ、白点画像等がない優れた画像を得ることができる。
【発明の効果】
【0008】
このように、本発明の電子写真機器用無端ベルトは、表層材料である、イソシアネート化合物(D成分)と、このD成分のイソシアネート基と反応する官能基を有するフッ素樹脂(E成分)とが硬化して架橋するとともに、上記イソシアネート化合物(D成分)の架橋していない残りのイソシアネート基が、基層材料中のジオール(C成分)の水酸基またはジカルボン酸(C成分)のカルボキシル基と結合することにより、基層と表層とが密着するようになる。すなわち、基層を形成する、上記A〜C成分を含有する樹脂組成物のNCOインデックスを90〜95の範囲に設定するとともに、表層を形成する、上記D成分およびE成分を含有する樹脂組成物のNCOインデックスを125〜500の範囲に設定することにより、基層強度の低下を抑制することができ、無端ベルトの耐久性に優れ、白点画像等がない優れた画像を得ることができる。
【0009】
そして、上記ジオール(C成分)が、1,8−オクタンジオールであると、密着性、耐久性、画像がさらに良好になる。
【0010】
また、上記ジカルボン酸(C成分)が、セバシン酸であると、密着性、耐久性、画像がさらに良好になる。
【0011】
さらに、上記特定のフッ素樹脂(E成分)が、アクリル変性フッ素樹脂および水酸基変性フッ素樹脂の少なくとも一方であると、密着性、耐久性、画像がさらに良好になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0013】
本発明の電子写真機器用無端ベルトは、図1に示すように、基層(ベース層)1の外周面に表層2が直接形成された2層構造である。
【0014】
本発明の電子写真機器用無端ベルトの基層1は、芳香族ジイソシアネート(A成分)と、芳香族系多価カルボン酸の無水物(B成分)と、ジオールまたはジカルボン酸(C成分)とを共重合(反応)させて得た変性ポリアミドイミド(PAI)樹脂を含有する。この基層1の形成材料(基層用材料)としては、上記A〜C成分を含有する樹脂組成物が用いられる。
【0015】
本発明においては、上記A〜C成分を含有する樹脂組成物のNCOインデックスが90〜95の範囲であり、好ましくは91〜94の範囲である。すなわち、NCOインデックスが小さすぎると、無端ベルトの耐久性が悪くなり、逆に大きすぎると、基層1と表層2との界面における密着性が悪くなるからである。
【0016】
ここで、本発明において、NCOインデックスとは、イソシアネート中のイソシアネート基の総数を、ポリオール等の水酸基およびカルボキシル基の総数で除した値であり、イソシアネート基と反応する活性水素数と、イソシアネート中のイソシアネート基とが化学量論的に等しい場合には、NCOインデックスは100となる。
【0017】
上記芳香族ジイソシアネート(A成分)としては、分子構造中に芳香族環を有する化合物が用いられ、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、リジンジイソシアネート(LDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、反応性、コスト、製品物性の点で、MDI、TODIが好適に用いられる。
【0018】
また、上記芳香族系多価カルボン酸の無水物(B成分)としては、分子構造中に芳香族環を有し、上記芳香族ジイソシアネート(A成分)と縮合反応するものが用いられ、例えば、トリメリット酸の無水物(無水トリメリット酸)や、ナフタレン−1,2,4−トリカルボン酸の無水物の他、ベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸(ピロメリット酸)、ベンゾフェノン−3,3′,4,4′−テトラカルボン酸、ジフェニルエーテル−3,3′,4,4′−テトラカルボン酸、ベンゼン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、ビフェニル−3,3′,4,4′−テトラカルボン酸、ビフェニル−2,2′,3,3′−テトラカルボン酸、ナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸、ナフタレン−1,2,4,5−テトラカルボン酸、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸、デカヒドロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸、4,8−ジメチル−1,2,3,5,6,7−ヘキサヒドロナフタレン−1,2,5,6−テトラカルボン酸、2,6−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸、2,7−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸、2,3,6,7−テトラクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸、フェナントレン−1,3,9,10−テトラカルボン酸、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン、2,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、プロピレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)のような芳香族系多価カルボン酸の二無水物等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、反応性、コスト、製品物性等の点から、トリメリット酸の無水物(無水トリメリット酸)が好適に用いられる。なお、本発明においては、上記芳香族系多価カルボン酸の無水物(B成分)とともに、無水物でない芳香族系多価カルボン酸を併用しても差し支えない。
【0019】
ここで、上記芳香族ジイソシアネート(A成分)のイソシアネート基の総モル数(a)と、芳香族系多価カルボン酸の無水物(B成分)の酸無水物基とカルボキシル基との総モル数(b)とのモル混合比は、(a)/(b)=90/100〜130/100の範囲が好ましく、特に好ましくは(a)/(b)=100/100〜120/100の範囲である。すなわち、(a)/(b)の値が上記の範囲から外れると、ポリアミドイミド樹脂の分子量を高くすることが困難となり、耐久性が悪化する傾向がみられるからである。
【0020】
つぎに、上記芳香族ジイソシアネート(A成分)および芳香族系多価カルボン酸の無水物(B成分)とともに用いられる上記ジオール(C成分)としては、例えば、1,8−オクタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、ネオペンチルグリコール等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、強度と弾性率の点で、1,8−オクタンジオールが好ましい。
【0021】
なお、上記ジオール(C成分)の配合量は、前述のように、NCOインデックスが90〜95の範囲になるように調整される。
【0022】
また、上記芳香族ジイソシアネート(A成分)および芳香族系多価カルボン酸の無水物(B成分)とともに用いられる上記ジカルボン酸(C成分)としては、例えば、セバシン酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、マレイン酸、フマル酸、ジカルボン酸エステル等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、弾性率、強度の点で、セバシン酸が好ましい。
【0023】
なお、上記ジカルボン酸(C成分)の配合量は、前述のように、NCOインデックスが90〜95の範囲になるように調整される。
【0024】
つぎに、上記A〜C成分を共重合させてなる変性PAI樹脂は、例えば、つぎのようにして調製することができる。すなわち、撹拌機、窒素導入管、温度計、冷却管を備えた反応容器を準備し、上記芳香族ジイソシアネート(A成分)と、無水トリメリット酸等の芳香族系多価カルボン酸の無水物(B成分)と、ジオールまたはジカルボン酸(C成分)とを所定量配合し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP),N,N−ジメチルホルムアミド(DMF),N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC),γ−ブチロラクトン等の極性溶剤とを仕込み、窒素気流下、撹拌しながら所定時間(好ましくは、1〜3時間)かけて所定温度(好ましくは、130〜150℃)まで昇温する。つぎに、所定温度(好ましくは、130〜150℃)で所定時間(好ましくは、約3〜5時間)反応させた後、反応を停止することにより、変性PAI樹脂を調製することができる。
【0025】
このようにして得られる上記変性PAI樹脂は、数平均分子量(Mn)が、10,000〜100,000の範囲が好ましく、特に好ましくはMnが30,000〜70,000の範囲である。すなわち、変性PAI樹脂のMnが小さすぎると、引き裂き強度が低くなり耐久性が悪化し、逆に変性PAI樹脂のMnが大きすぎると、溶液粘度が高くなり加工性が悪化する傾向がみられるからである。なお、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法により測定することができる。
【0026】
なお、上記基層用材料には、上記A〜C成分とともに、導電剤、DMF,DMAC,トルエン,アセトン,NMP等の有機溶剤や、充填剤等を用いても差し支えない。
【0027】
上記導電剤としては、例えば、カーボンブラック,グラファイト等の導電性粉末、アルミニウム粉末,ステンレス粉末等の金属粉末、導電性酸化亜鉛(c−ZnO),導電性酸化チタン(c−TiO2 ),導電性酸化鉄(c−Fe3 4 ),導電性酸化錫(c−SnO2 )等の導電性金属酸化物、第四級アンモニウム塩,リン酸エステル,スルホン酸塩,脂肪族多価アルコール,脂肪族アルコールサルフェート塩等のイオン性導電剤等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0028】
上記基層用材料は、例えば、上記A〜C成分とともに、導電剤、有機溶剤、充填剤等を必要に応じて適宜に配合し、撹拌羽根で混合した後、リングミル,ボールミル,サンドミル等を用いて分散させることにより調製することができる。
【0029】
つぎに、上記基層1の外周面に形成される表層2は、イソシアネート化合物(D成分)と、このD成分のイソシアネート基と反応する官能基を有するフッ素樹脂(E成分)との反応物(硬化体)を含有する。この表層2の形成材料(表層用材料)としては、上記D成分およびE成分を含有する樹脂組成物が用いられる。
【0030】
本発明においては、上記D成分およびE成分を含有する樹脂組成物のNCOインデックスが125〜500の範囲であり、好ましくは250〜400の範囲である。すなわち、NCOインデックスが小さすぎると、上記イソシアネート化合物(D成分)中の、特定のフッ素樹脂(E成分)と架橋していない残りのイソシアネート基が少なくなる結果、基層材料中のジオール(C成分)の水酸基またはジカルボン酸(C成分)のカルボキシル基との結合が不充分となり、基層1と表層2との界面における密着性が悪くなるからである。逆に、NCOインデックスが大きすぎると、イソシアネート基が過剰となってトナークリーニング性が悪化し、耐久生も悪くなるからである。
【0031】
上記イソシアネート化合物(D成分)としては、一般にポリウレタンの原料として用いられるイソシアネートが好適に用いられ、例えば芳香族イソシアネート、脂肪族イソシアネート、脂環族イソシアネート等があげられる。これらのなかでも、高伸張率の反応生成物が得られる点で、脂肪族イソシアネート、脂環族イソシアネートが好ましい。上記脂肪族イソシアネートとしては、具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、およびその変性体等が好ましい。上記脂環族イソシアネートとしては、具体的には、イソホロンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等が好ましい。
【0032】
つぎに、上記イソシアネート化合物(D成分)とともに用いられる特定のフッ素樹脂(E成分)としては、上記イソシアネート化合物(D成分)のイソシアネート基と反応する官能基を有するものが用いられる。上記官能基としては、例えば、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基等の活性水素を有する官能基があげられる。
【0033】
上記特定のフッ素樹脂(E成分)としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の変性樹脂により、フッ素樹脂を変性したものが用いられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。これら特定のフッ素樹脂(E成分)のなかでも、イソシアネートとの反応性の点で、アクリル変性フッ素樹脂、水酸基変性フッ素樹脂、ウレタン変性フッ素樹脂が好ましい。
【0034】
なお、上記アクリル樹脂等の変性樹脂により変性されるフッ素樹脂としては、例えば、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン樹脂(FEP)、四フッ化エチレン−パーフルオロアルコキシエチレン樹脂(PFA)、四フッ化エチレン−エチレン共重合体(ETFE)、三フッ化塩化エチレン樹脂(CTFE)、エチレン−三フッ化塩化エチレン樹脂(ECTFE)、フッ化ビニル樹脂(PVF)等があげられる。
【0035】
上記特定のフッ素樹脂(E成分)の水酸基価(OHV)は、固形分として、5〜120の範囲が好ましく、特に好ましくは6.5〜72の範囲である。
【0036】
また、上記特定のフッ素樹脂(E成分)の固形分は、20〜50%の範囲が好ましく、特に好ましくは31〜50%の範囲である。
【0037】
ここで、上記イソシアネート化合物(D成分)と、特定のフッ素樹脂(E成分)との混合比(重量比)は、上述のように、表層用材料である樹脂組成物のNCOインデックスが125〜500の範囲になるように設定されるが、具体的には、D成分/E成分=1/99〜60/40の範囲が好ましく、特に好ましくはD成分/E成分=1.9/98.1〜47.6/52.4の範囲である。
【0038】
なお、上記表層用材料には、上記イソシアネート化合物(D成分)および特定のフッ素樹脂(E成分)に加えて、導電剤、有機溶剤、充填剤、難燃剤、消泡剤、分散剤、離型剤等を必要に応じて適宜に配合しても差し支えない。
【0039】
上記導電剤としては、例えば、カーボンブラック,グラファイト等の導電性粉末、アルミニウム粉末,ステンレス粉末等の金属粉末、導電性酸化亜鉛(c−ZnO),導電性酸化チタン(c−TiO2 ),導電性酸化鉄(c−Fe3 4 ),導電性酸化錫(c−SnO2 )等の導電性金属酸化物、第四級アンモニウム塩,リン酸エステル,スルホン酸塩,脂肪族多価アルコール,脂肪族アルコールサルフェート塩等のイオン性導電剤等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0040】
また、上記導電剤の配合量は、上記イソシアネート化合物(D成分)と特定のフッ素樹脂(E成分)との合計100重量部(以下「部」と略す)に対して、5〜60部の範囲が好ましく、特に好ましくは10〜20部の範囲である。
【0041】
そして、上記表層用材料は、例えば、イソシアネート化合物(D成分)および特定のフッ素樹脂(E成分)に、必要に応じて導電剤等を適宜に配合し、撹拌羽根で混合した後、リングミル,ボールミル,サンドミル等を用いて分散させることにより調製することができる。
【0042】
つぎに、本発明の電子写真機器用無端ベルトの製法について具体的に説明する。すなわち、まず、前記と同様にして、基層用材料および表層用材料をそれぞれ調製する。そして、金型(円筒形基体)を準備し、この表面に上記基層用材料をロールコーティングして、上記金型の表面に基層1を形成する。これを常温(25℃)から250℃になるまで所定時間(好ましくは2時間)かけて昇温加熱処理をする。つぎに、この基層1の表面に、上記表層用材料をディップコーティング(ディッピング)し、これを150〜300℃(好ましく150℃)で1〜6時間(好ましくは1時間)乾燥処理して、表層2を形成する。その後、基層1と金型(円筒形基体)との間にエアーを吹き付ける等により、円筒形基体を抜き取り、基層1の外周面に表層2が形成されてなる2層構造の無端ベルト(図1参照)を作製する。なお、上記表層2の形成方法は、上記ディップコーティングに限定されるものではなく、例えば、スプレーコーティング等により形成しても差し支えない。
【0043】
本発明の電子写真機器用無端ベルトの各層の厚みは、ベルトの用途に応じて適宜に設定されるが、基層1の厚みは、30〜300μmの範囲が好ましく、特に好ましくは50〜200μmの範囲である。上記表層2の厚みは、0.1〜30μmの範囲が好ましく、特に好ましくは0.5〜20μmの範囲である。本発明の電子写真機器用無端ベルトは、内周長が500〜2500mmで、幅が150〜600mm程度のものが好ましい。すなわち、上記寸法の範囲内に設定すると、電子写真複写機等に組み込んで使用するのに適当な大きさとなるからである。
【実施例】
【0044】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0045】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示す材料を準備した。
【0046】
(1) 基層用材料
〔MDI(A成分)〕
日本ポリウレタン工業社製、ミリオネートMT(Mn:250.06)
【0047】
〔TODI(A成分)〕
日本曹達社製、TODI/R203(Mn:264.29)
【0048】
〔無水トリメリット酸(B成分)〕
無水トリメリット酸(三菱ガス化学社製)
【0049】
〔ジカルボン酸(C成分)〕
セバシン酸(豊国製油社製)
【0050】
〔ジオール(C成分)〕
1,8−オクタンジオール(和光純薬工業社製、OHV:768)
【0051】
〔カーボンブラック〕
キャボットジャパン社製、ショウブラックN220
【0052】
(2) 表層用材料
〔イソシアネート化合物(D成分)〕
日本ポリウレタン工業社製、コロネートL(固形分内NCO:13.2%、固形分:75%)
【0053】
〔変性フッ素樹脂A(E成分)〕
水酸基変性フッ素樹脂(DIC社製、フルオネートK−700、OHV(固形分として):48mg/KOH、固形分:50%)
〔変性フッ素樹脂B(E成分)〕
水酸基変性フッ素樹脂(DIC社製、フルオネートK−707、OHV(固形分として):72mg/KOH、固形分:50%)
〔変性フッ素樹脂C(E成分)〕
アクリル変性フッ素樹脂(DIC社製、ディフェンサTR310、OHV(固形分として):6.5mg/KOH、固形分:31%)
〔変性フッ素樹脂D(E成分)〕
アクリル変性フッ素樹脂(DIC社製、ディフェンサTR330、OHV(固形分として):19.5mg/KOH、固形分:31%)
〔変性フッ素樹脂E(E成分)〕
水酸基変性フッ素樹脂(セントラル硝子社製、セフラルコートCC−04、OHV(固形分として):28mg/KOH、固形分:31%)
【0054】
〔フッ素樹脂〕
PVDF(アルケマ社製、カイナーSL、OHV(固形分として):0mg/KOH、固形分:100%)
【0055】
〔導電剤〕
ケッチェンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル社製)
【0056】
つぎに、上記基層用材料および表層用材料を用いて、無端ベルトを作製した。
【0057】
〔実施例1〕
(基層用材料の調製)
撹拌機、窒素導入管、温度計、冷却管を備えた反応容器に、MDI7.5部と、TODI18.5部と、無水トリメリット酸18部と、セバシン酸3部と、NMP溶剤247部とを仕込み、窒素気流下、撹拌しながら1時間かけて130℃まで昇温し、130℃で約5時間反応させた後反応を停止し、PAI−NMP溶液(PAI:20重量%)を調製した。つぎに、このPAI−NMP溶液に、カーボンブラック10部を配合し、撹拌羽根で混合した後、ボールミルで分散させて基層用材料を調製した。
【0058】
(表層用材料の調製)
イソシアネート化合物18.5部と、変性フッ素樹脂A81.5部と、導電剤10部とを配合し、撹拌羽根で混合して、表層用材料を調製した。
【0059】
(無端ベルトの作製)
まず、金型(円筒形基体)を準備し、この表面に上記基層用材料をロールコーティングして、上記金型の表面に基層を形成した。これを常温(25℃)から250℃になるまで2時間かけて昇温加熱処理した。つぎに、この基層の表面に、上記表層用材料をディップコーティングし、これを150℃で1時間加熱処理した。その後、基層と金型(円筒形基体)との間にエアーを吹き付けることにより、円筒形基体を抜き取り、基層(厚み:80μm)の外周面に表層(厚み:1μm)が形成されてなる2層構造の無端ベルト(図1参照)を作製した。
【0060】
〔実施例2〜10、比較例1〜6〕
下記の表1および表2に示す、基層用材料および表層用材料を用いる以外は、実施例1と同様にして、基層(厚み:80μm)の外周面に表層(厚み:1μm)が形成されてなる2層構造の無端ベルト(図1参照)を作製した。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
このようにして得られた実施例および比較例の無端ベルトを用い、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。これらの結果を、上記表1および表2に併せて示した。
【0064】
〔密着性(基層/表層)〕
各無端ベルトを用い、表層に10マス×10マスの切り込み(1マスの寸法:2mm×2mm)を入れて、碁盤目試験を行った。評価は、基層と表層との界面における剥離が1個でもあるものを×、剥離がないものを○とした。
【0065】
〔白点画像〕
各無端ベルトをカラープリンター(リコー社製、SPC810)に組み込み、ハーフトーン画像を印刷し、目視により白点画像を観察した。評価は、白点画像があるものを×、ないものを○とした。
【0066】
〔耐久試験後の画像〕
各無端ベルトをカラープリンター(リコー社製、SPC810)に組み込み、ハーフトーン画像を2万枚印刷し、目視により白点画像を観察した。評価は、白点画像が悪化するか、ベルトクリープによる画像むら、トナー付着による画像むらが生じたものを×、白点画像の悪化や、画像むらがないものを○とした。
【0067】
上記表1および表2の結果から、いずれの実施例品も、基層と表層との界面における密着性に優れ、白点画像がなく、耐久試験後の画像も良好であった。
【0068】
これに対し、比較例1品は、特定材料からなる表層を形成していない、単層ベルトであるため、白点画像が観察されるとともに、耐久試験後の画像も劣っていた。比較例2品は、イソシアネート化合物および変性フッ素樹脂を含有しない表層材料を用いたため、基層と表層との密着性が劣り、耐久試験後の画像も劣っていた。比較例3品は、基層材料のNCOインデックスが小さすぎるため、耐久試験後の画像が劣っていた。比較例4品は、基層材料のNCOインデックスが大きすぎるため、基層と表層との密着性が劣り、耐久試験後表層が剥がれ、不良が発生し、異常画像が発生した。比較例5品は、表層材料のNCOインデックスが小さすぎるため、基層と表層との密着性が劣り、耐久試験後に表層剥がれが発生した。比較例6品は、表層材料のNCOインデックスが大きすぎるため、トナークリーニング性が劣り(タック性が大きくなりトナーが付着するため)、耐久試験後に異常画像が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の電子写真機器用無端ベルトは、電子写真複写機、プリンター、ファクシミリ等の電子写真機器の、中間転写ベルト,搬送用ベルト等として用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の電子写真機器用無端ベルトの一例を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0071】
1 基層
2 表層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基層の外周面に表層が形成されてなる電子写真機器用無端ベルトであって、上記基層が、下記の(A)〜(C)成分を含有し、NCOインデックスが90〜95の範囲に設定された樹脂組成物の硬化体からなるとともに、上記表層が、下記の(D)および(E)成分を含有し、NCOインデックスが125〜500の範囲に設定された樹脂組成物の硬化体からなることを特徴とする電子写真機器用無端ベルト。
(A)芳香族ジイソシアネート。
(B)芳香族系多価カルボン酸の無水物。
(C)ジオールまたはジカルボン酸。
(D)イソシアネート化合物。
(E)上記(D)成分のイソシアネート基と反応する官能基を有するフッ素樹脂。
【請求項2】
上記(C)成分のジオールが、1,8−オクタンジオールである請求項1記載の電子写真機器用無端ベルト。
【請求項3】
上記(C)成分のジカルボン酸が、セバシン酸である請求項1または2記載の電子写真機器用無端ベルト。
【請求項4】
上記(E)成分のフッ素樹脂が、アクリル変性フッ素樹脂および水酸基変性フッ素樹脂の少なくとも一方である請求項1〜3のいずれか一項に記載の電子写真機器用無端ベルト。

【図1】
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【公開番号】特開2010−78664(P2010−78664A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244059(P2008−244059)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】