説明

電子写真用導電性ゴムローラの表面層を形成するための塗工液の循環方法

【課題】電子写真用導電性ゴムローラの弾性体層の外周面上に浸漬塗工法により表面層を形成する際の塗工液の循環時における導電性粒子や絶縁性粒子の分散状態を安定に保ち、長期間の連続生産に最適な塗工液の循環方法を提供する。
【解決手段】導電性支持体の外周面上に形成された弾性体層の外周面上に表面層を浸漬塗工法により形成して電子写真用導電性ゴムローラを製造するための、導電性粒子と絶縁性粒子とを含む塗工液の循環方法において、前記塗工液の循環経路中に設けた孔径30μm以上200μm以下の金属フィルタに通して循環させる塗工液の流量を調節することにより、該塗工液に含まれる前記導電性粒子の二次粒径D90を0.2μm以上0.6μm以下に制御することを特徴とする塗工液の循環方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性支持体の外周面上に形成された弾性体層の外周面上に表面層を浸漬塗工法により形成して電子写用導電性ゴムローラを製造するための塗工液の循環方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真プロセスを利用した画像形成装置には種々の導電性ゴムローラが使用されている。該導電性ゴムローラとしては感光体を帯電するための帯電ローラや、感光体上に形成された静電潜像へ現像剤(トナー)を供給する現像ローラがある。これら導電性ゴムローラは弾性体層の外周面上に表面状態や導電性をコントロールするために少なくとも1層の薄膜が形成されることが多い。また、近年の画像形成装置は、高速化、高耐久化に伴い、画像形成装置に使用される導電性ゴムローラも、高精度、高耐久化が要求されている。
【0003】
帯電ローラについては、感光体の表面に所定の極性・電位で一様に帯電処理することが求められている。しかし、帯電ローラの外径精度や表面粗さの均一性が僅かに悪い場合には、感光体に接触している部分の圧力、接触面積が均一でなく、結果として、その接触部分の抵抗値が変化し、感光体表面を均一に帯電することが難しくなるという問題がある。
【0004】
従来よりこの帯電均一性を改善するために、脈流電圧(時間と共に電圧値が周期的に変化する電圧)を帯電ローラに印加する「AC帯電方式」が用いられていた(例えば、特許文献1)。印加する脈流電圧としては、感光体の被帯電体表面電位Vdに相当する直流電圧に、帯電開始電圧(Vth)の2倍以上のピーク間電圧を持つ交流電圧成分(AC電圧成分)を重畳した脈流電圧が一般的に用いられている。
【0005】
これは、DC電圧にAC電圧(脈流電圧)を重畳させることで、感光体表面の帯電ムラを生じることなく均一で安定した一様帯電が得られるようにする電位の均し効果を目的としたものである。被帯電体の電位は、AC電圧のピークの中央である電位Vdに収束し、環境等の外乱には影響されることはなく、接触帯電方式として優れた方法である。
【0006】
しかしながら、直流電圧印加時における放電開始電圧(Vth)の2倍以上のピーク間電圧である高圧の交流電圧を重畳させるため、直流電源とは別に交流電源が必要となり、装置自体のコストアップを招く。更には、交流電流を多量に消費することにより、導電性ゴムローラ及び感光体の耐久性が低下し易く、また、交流電圧により発生する帯電音が不快感を及ぼすなどの課題があった。
【0007】
これらの課題は、帯電ローラに直流電圧のみを印加して帯電を行う「DC帯電方式」により解消される。しかし帯電ローラに直流電圧のみを印加すると、帯電部材被覆層に分散された導電性粒子の凝集による僅かな抵抗ムラがAC帯電方式に比べ、画像不良として現れ易い傾向にある。
【0008】
この抵抗ムラを改善する方法として、特許文献2では帯電ローラなどの部材表面の最大粗さRmaxを0.01〜0.5mmにする方法が提案されている。
【0009】
また帯電ローラ表面の粗さを調整する方法として、特許文献3では、5〜30μmの平均粒径を有する絶縁性粒子を分散させた部材を帯電ローラ最外層に設け表面粗さRzを7〜14μmに調整している。
【0010】
現像ローラについては、外径精度や表面粗さの均一性が悪い場合にはトナー供給ローラから供給されるトナーへの帯電特性(帯電量など)にバラツキを発生させ、供給されるトナーの量が安定しないという問題が生じ、延いては画像不良を引き起こすことになる。
【0011】
このトナー供給安定化を改善する方法として、特許文献4では、現像ローラの最外層の表面粗さを調整するため3μm〜15μmの微粒子を含有させる手段を講じている。
【0012】
このように導電性ゴムローラの最外層に絶縁性粒子を均一に分散させて表面粗さを調整する場合には、溶媒中に導電性粒子や絶縁性粒子を分散させてなる塗工液を用いて塗工層を形成させる方法が有効である。塗工方法としては、スプレー塗工、ロール塗工、浸漬塗工方式などがあり、塗工均一性の理由から特に浸漬塗工法が広く採用されている。
【0013】
しかし浸漬塗工法においては、溶媒中に分散した導電性粒子や絶縁性粒子が経時により沈降しやすい。このため、塗工液を撹拌タンクからポンプを用いて塗工槽に供給し塗工液を塗工槽から溢れさせた(オーバーフローした)塗工液を撹拌タンクに戻すといった塗工液の循環により分散粒子の沈降を防止する方法が広く採用されている。
【0014】
しかし製造工程中でこの方法を採用する場合、被塗工物への塗工を繰り返し実施するため、大気からの粉塵や被塗工物表面に付着していた数μm〜数mm程度の大きさのゴムかす、ケバなどの異物が塗工液中に少しずつ混入してくる。これが蓄積されると塗工層表面にブツが発生するようになる。また塗工液中に分散している導電性粒子が混入物に吸着して粗大な凝集物となり循環機配管中で沈降堆積し、相対的に塗工液中の導電性粒子の比率が減ることで、塗工した導電性ゴムローラが高抵抗化してしまうといった問題に繋がる。このため、通常循環装置中の配管にろ過フィルタを設置し混入物を除去することが必要となる。
【0015】
ここで使用するろ過フィルタを異物除去を重要視して捕捉粒径の小さいものを採用すると、塗工液の循環が繰り返される間に数μm〜数十μmの粒子径を有する比較的粗大である絶縁性粒子までも拘束してしまうことがある。これにより、塗工液中の絶縁性粒子含有率が変化するという問題を発生させてしまう。
【0016】
そこで、使用するろ過フィルタは、比較的粒子径の大きな絶縁性粒子でも捕捉されずに混入物は除去できるよう適正な捕捉粒径のフィルタを採択する必要があった。
【0017】
ところが、このように捕捉粒子径を適正にしたろ過フィルタを採択しても、数十日〜数ヶ月と長期にわたり塗工液を循環すると、今度は、比較的粒子径の小さい導電性微粒子がフィルタ材料内部に付着堆積することがある。このような状況におかれると、塗工液中の導電性微粒子の含有率の低下が発生するという現象が見られた。
【0018】
これは被塗工部材からの混入物の接触や大気中の水分の混入、塗工液中の溶媒のミクロな領域での蒸発、凝縮の繰り返しなどにより、導電性粒子の分散状態が変化して不安定化しその不安定化した導電性微粒子がフィルタのろ材内部に吸着されるためと推察される。この現象は、塗工液中の導電性粒子を分散する工程にて一旦サブミクロンオーダーにまで微粒子化しても避けられない課題として捕らえていた。
【0019】
【特許文献1】特開昭63−149669号公報
【特許文献2】特開平 7−281507号公報
【特許文献3】特開平 9−258523号公報
【特許文献4】特開平11−160998号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、上記従来技術の現状に鑑みなされたものである。すなわち、本発明は、電子写真用導電性ゴムローラの表面層を形成するための塗工液において塗工液中に分散された導電性粒子や絶縁性粒子の分散状態を安定に保ち、長期間に亘る連続生産に最適な塗工液の循環方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決した本発明は、導電性支持体の外周面上に形成された弾性体層の外周面上に表面層を浸漬塗工法により形成して電子写真用導電性ゴムローラを製造するための、導電性粒子と絶縁性粒子とを含む塗工液の循環方法において、前記塗工液の循環経路中に設けた孔径30μm以上200μm以下の金属フィルタに通して循環させる塗工液の流量を調節することにより、該塗工液に含まれる前記導電性粒子の二次粒径D90を0.2μm以上0.6μm以下に制御することを特徴とする塗工液の循環方法により提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、弾性体層の外周面上に表面層を形成するための塗工液の循環中に混入した異物を除去しつつ、塗工液中の導電性粒子および絶縁性粒子の分散状態を安定に保つことのできる、長期間の連続生産に最適な塗工液の循環方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明は、導電性支持体の外周面上に形成された弾性体層の外周面上に表面層を浸漬塗工法により形成して電子写真用導電性ゴムローラを製造するための、導電性粒子と絶縁性粒子とを含む塗工液の循環方法に関するものである。本発明においては、前記塗工液の循環経路中に設けた孔径30μm以上200μm以下の金属フィルタを通して循環させる塗工液の流量を調節することにより、該塗工液に含まれる前記導電性粒子の二次粒径D90を0.2μm以上0.6μm以下に制御する。
【0024】
(導電性ゴムローラ)
本発明における電子写真用導電性ゴムローラの一例の概略断面図を図1に示す。図1中、(a)は、導電性支持体に直交する面における断面図を示し、(b)は導電性支持体に沿う面における断面図を示す。図1に示された電子写真用導電性ゴムローラは、導電性支持体1の外周面上に形成された弾性体層2の外周面上に表面層3を有している。表面層3は浸漬塗工法により形成される。
【0025】
(導電性支持体)
本発明における導電性支持体1としては、例えば、炭素鋼合金表面に5μmの厚さのニッケルメッキを施したものが好ましい。導電性支持体を構成する材料として、例えば、鉄、アルミニウム、チタン、銅及びニッケル等の金属を挙げることができる。更に、これらの金属を含む、ジュラルミン、真鍮及び青銅等の合金、カーボンブラックや炭素繊維をプラスチックで固めた複合材料等の、剛直で導電性を示す公知の材料を使用することもできる。また、形状としては、円柱形状の他に、中心部分を空洞とした円筒形状とすることもできる。
【0026】
(弾性体層)
図1における弾性体層2は、ゴム等の弾性材料中に導電性材料を添加して均一に混合した導電性を有するものを、上記導電性支持体1の外周面上に被覆して形成される。
【0027】
弾性体層に用いる弾性材料は、これまで一般に電子写真用導電性ゴムローラの弾性体層として使われてきたものが使用できる。具体的には、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレートなどのアクリル樹脂が挙げられる。更に、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリエステル、フェノキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリビニルピリジン、セルロース系樹脂などを挙げることができる。また、ゴム材としてはEPDM、ポリブタジエン、天然ゴム、ポリイソプレン、SBR(スチレンブタジエンゴム)、CR(クロロプレンゴム)、NBR(ニトリルブタジエンゴム)、シリコーンゴム、ウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴムなどが挙げられる。
【0028】
この弾性材料に添加する導電性材料としては、カーボンブラック、グラファイト、金属粉や導電性金属酸化物等の電子伝導機構を有する導電性粒子や、アルカリ金属塩や四級アンモニウム塩等のイオン伝導機構を有する導電性材料を挙げることができる。これらの導電性材料は、適宜単独あるいは2種類以上組み合わせて用いることができる。弾性体層の電気抵抗は1010Ω・cm未満に調整されるのが好ましい。これらの導電性材料の配合量は弾性材料100質量部に対し、好ましくは0.1〜100質量部である。
【0029】
またこれら弾性材料に対して、加硫剤や加硫促進剤、炭酸カルシウムなどの充填剤、可塑剤、難燃剤、老化防止剤、発泡剤、シランカップリング剤、高分子系分散剤、顔料誘導体及び界面活性剤などを適宜配合することができる。配合量は弾性材料100質量部に対し、好ましくは0.1〜100質量部であるが、可塑剤や界面活性剤を用いる場合にはブリードなどによる感光体汚染防止のため、通常、20質量部以下であることが望ましい。
【0030】
これらの材料を均一に混合するためには、例えば、プラネタリーミキサーやニーダー、2ロールなどの混合機や混練機を用いることが好ましい。
【0031】
上記混合機や混練機を用いて混合し均一に分散して得られた材料を、あらかじめ所定の膜厚に形成されたシート形状またはチューブ形状に成形し、これを導電性支持体の外周面上に接着または被覆することにより弾性体層を形成することができる。また、押出成形法によって導電性支持体の外周面上に弾性体層を形成した後、研磨などによって形状を整える方法であってもよい。また、型内に導電性支持体を配置し、型内に弾性体層を形成するための材料を注入し、硬化する方法であってもよい。さらに上記弾性体層に用いる材料を溶剤と混合し塗工液として塗工し、これを乾燥して弾性体層を形成してもよい。この場合には、スプレー塗工や浸漬塗工などの塗工法によって行ってもよい。
【0032】
弾性体層は、必要に応じて導電性支持体と接着剤を介して接着される。この場合、接着剤は導電性であることが好ましい。導電性とするため、接着剤には公知の導電材料を含有させることができる。接着剤のバインダーとしては、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等の樹脂が挙げられ、ウレタン系、アクリル系、ポリエステル系、ポリエーテル系及びエポキシ系等の公知のバインダーを用いることができる。
【0033】
(表面層)
導電性支持体の外周面上に弾性体層を形成してローラを作製した後に、弾性体層の外周面上に表面層を浸漬塗工法により形成して電子写真用導電性ゴムローラを製造する。電子写真用導電性ゴムローラの弾性体層の外周面上に表面層を形成すると、弾性体層に含まれる感光体汚染物質の感光体表面へのブリードを防止することが可能となる。また表面層の表面粗さの制御のために絶縁性粒子を分散させておけば、表面の凹凸から放電量の調整により帯電均一性を向上することができる。
【0034】
この表面層を形成する方法としては、表面層を構成する材料を溶剤に分散あるいは溶解させた塗工液を調製し、これを塗工液循環装置に装入し浸漬塗工法により塗工する。
【0035】
本発明で用いられる塗工液の構成材料としては、導電性粒子、絶縁性粒子、バインダー、溶剤を挙げることができる。さらに必要に応じて、シリコーンオイルなどのレべリング剤や高分子系界面活性剤、顔料誘導体などの各種分散安定剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防錆剤などの添加剤も添加できる。
【0036】
(導電性粒子)
導電性粒子は、表面層に導電性を付与するために使用される。
導電性粒子としては、一般的に導電性ゴムローラの導電性付与に用いられるものが使用できる。例えば、カーボンブラックやグラファイト、金属粉や、酸化チタン、酸化錫、酸化亜鉛などの金属酸化物粉を挙げることができる。また、適当な粉体の表面に酸化錫、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化モリブデン、亜鉛、アルミニウム、金、銀、銅、鉄、クロム、コバルト、鉛、白金、ロジウムなどを電解処理、スプレー塗工、混合振とうにより付着させたもの等を挙げることができる。導電性粒子の配合量としては、表面層の質量に対して1〜80質量%とすることが好ましく、特に5〜60質量%とするとより好ましい。
【0037】
これら導電性粒子は、通常、示差走査型電子顕微鏡観察によって測定される一次平均粒子径が1nm以上100nm以下であるものが使用されるが、5nm以上60nm以下のものを使用するとより好ましい。本発明においてはこれを分散処理し、二次粒径D90を0.2μm以上0.6μm以下に制御したものを使用する。
【0038】
ここで二次粒径とは、一次粒子が集まって一つの凝集体として塗工液中でブラウン運動する粒子の大きさを表す。また二次粒径D90とは、その二次粒子の粒度分布の累積体積で粗大側90%における粒径を表す。本発明においては特に、含まれる導電性粒子の二次粒径D90が0.2μm以上0.6μm以下の塗工液を使用する。塗工液に含まれる導電性粒子の二次粒径D90が0.2μmより小さいと、導電性粒子が必要以上に細かく分散され、表面層の導電性が低下してしまい画像ムラとなってしまう。また塗工液に含まれる導電性粒子の二次粒径D90が0.6μmより大きいと、表面層としての導電性が高くなり過ぎてしまい、導電性ゴムローラとしての安定生産上問題となる虞がある。
【0039】
この導電性粒子の二次粒径D90は、塗工液中に分散された導電性粒子の粒径を既存の湿式粒度分布計などを用いて測定し求めることができる。本発明において用いることのできる湿式粒度分布計としては例えば、遠心沈降式、レーザー回折・散乱式、動的光散乱式などの粒度分布計を挙げることができる。ここで粒子径測定範囲が0.03〜3μmを超える湿式粒度分布計を用いることが好ましい。
【0040】
導電性粒子の二次粒子径D90は、塗工液に使用する材料を混合したミルベースを、サンドミル、ペイントシェーカー、ダイノミル及びパールミル等の公知のビーズミルを利用した分散処理装置により調整することができる。具体的には、二次粒径D90が0.2〜0.6μmの範囲になる処理時間のところで分散処理を止めることにより調整することが可能である。そこで得られたミルベースに、適宜絶縁性粒子とバインダーを添加して表面層の抵抗値が107〜1015Ω・cmとなるよう導電性粒子の含有率を調整することが好ましい。
【0041】
(絶縁性粒子)
本発明における絶縁性粒子は、表面層の表面粗さを調整するために使用される。電子写真用導電性ゴムローラの表面層の表面粗さを適度に調整することで、例えば、帯電ローラとして使用するのであれば帯電均一性の付与や耐磨耗性を向上させることができる。また現像ローラとして使用するのであればトナー搬送性を向上させることができる。絶縁性粒子の配合量は、通常、表面層の質量に対して1〜80質量%とすることが好ましく、5〜60質量%とすることが特に好ましい。
【0042】
絶縁性粒子を構成する材料としては、例えば抵抗値1010Ω・cm以上のポリスチレン、ウレタン、ナイロン、アクリル、シリコーン、架橋性ビニル系モノマー硬化物などが挙げられる。絶縁性粒子は、塗工液に使用する溶剤により膨潤や溶解されないことが好ましい。絶縁性粒子は、5μm以上20μm以下の平均粒子径を有するものが好ましい。絶縁性粒子の粒子径が小さすぎると、表面層の表面粗さを確保することができなくなり、また大きすぎると塗工液の循環経路中に設けた金属フィルタが目詰まりしてくる。
【0043】
絶縁性粒子を塗工液中に分散し該絶縁性粒子を含む塗工液を調製する方法としては、絶縁性粒子をビーズミルを用いて分散する方法を挙げることができる。しかしながら、このとき絶縁性粒子が破壊されてしまう場合には、導電性粒子の粒子径調整をした後、撹拌機などにより混合することが好ましい。一般に単分散粒子である絶縁性粒子は、製品購入時での粉末状形態において乾燥凝集状態が弱く、ビーズミルなどによる強力な分散シェアを与えなくても溶剤中に均一に分散しやすい。絶縁性粒子の凝集状態は、乾式と湿式の両方で粒度分布測定が可能なレーザー回折・散乱式粒度分布計などにより、分散前後における絶縁性粒子の分布を比較することで確認することができる。
【0044】
(バインダー)
本発明に用いることのできるバインダーは、これまで一般に導電性ゴムローラの表面層の形成に使われてきたものが使用できる。具体的には、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート等のアクリル樹脂等を挙げることができる。更に、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリエステル、フェノキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリビニルピリジン、セルロース系樹脂等が挙げられる。ゴム材としてはEPDM、ポリブタジエン、天然ゴム、ポリイソプレン、SBR(スチレンブタジエンゴム)、CR(クロロプレンゴム)、NBR(ニトリルブタジエンゴム)、シリコーンゴム、ウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム等が挙げられる。
【0045】
(溶剤)
本発明においては、表面層を形成する材料を分散あるいは溶解させることのできる各種溶媒を使用することができる。例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類や、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類や、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類を挙げることができる。更に、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類や、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類や、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類が挙げられる。更に、クロロホルム、塩化エチレン、ジクロルエチレン、四塩化炭素、トリクロロエチレン等の脂肪族ハロゲン化炭化水素や、ベンゼン、トルエン、キシレン、リグロイン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族化合物等を挙げることができる。
【0046】
(塗工液の循環方法)
図2に本発明における塗工液の循環方法の一実施形態であるオーバーフロー式塗工液循環方法を用いた循環塗工装置の概略断面図を示す。
【0047】
図2に示した循環塗工装置においては、撹拌羽11により撹拌された状態で攪拌タンク12に貯留されている塗工液を、循環ポンプ4により攪拌タンク底部の配管から送り出す。送り出した塗工液を、該塗工液の循環経路に設けた金属フィルタ5を通して循環させ外部から混入された異物、ゴミを除去する。
【0048】
循環経路に設けた金属フィルタを通過した塗工液は、円筒形をした塗工槽8の底部から上昇流動され槽上端部よりオーバーフローする。配管途中には三方弁6が設けられており、これにより塗工槽8側に流れる流量を流量計7で確認して調整することが可能である。塗工液の一部は、塗工槽8側に向かわず、三方弁6を経由して攪拌タンク12に戻る配管に流れる。また塗工槽8を流れオーバーフローした液表面が配管中の循環ポンプ4の脈動により振動しないよう、金属フィルタ5通過直後の配管中にエアーチャンバー(不図示)を設けることが好ましい。
【0049】
被塗工物であるローラ9は、昇降機10により塗工槽液面に対し垂直に取り付け、昇降機を降下させて塗工液中に浸漬された後、引き上げて塗工層を形成する。ここで、ローラ9の導電性支持体端部に塗工液が付着するのを防止するため、マスキングキャップ(不図示)を取り付けておくことが好ましい。ローラ9を塗工液に浸漬する速度は塗工を行うローラ9の片方の端部からもう一方の端部まで同じ速度で浸漬しても良い。また、塗工時におけるタレや塗工膜厚の調整などを考えて、ローラ9の上端部位の浸漬時に速度を速くして下端部位に近づくにつれて連続的に浸漬速度を遅くしても良い。なお、循環させている塗工液中の溶剤が蒸発し塗工液中の固形分濃度が上昇する場合には、塗工液中の固形分濃度を塗工液の比重測定装置により計測管理し、希釈用溶剤タンク13から溶剤を添加することにより塗工液中の固形分を一定に維持することが好ましい。
【0050】
ここで形成する塗工層は、好ましくは、形成される表面層の膜厚が0.5μm〜100μm、より好ましくは2μm〜60μmとなるように調整することが好ましい。形成される表面層の膜厚を100μm以下とすると、帯電の均一性が向上し、画像上に、電子写真用導電性ゴムローラの軸方向に細かい白スジが発生することもなく好ましい。電子写真用導電性ゴムローラの表面層の膜厚の測定は、電子写真用導電性ゴムローラの断面を鋭利な刃物で切り出して、光学顕微鏡や電子顕微鏡で観察することで測定することができる。
【0051】
前記の塗工液の循環経路中に設けた金属フィルタは、孔径30μm以上200μm以下のフィルタであり、このようなフィルタを通して塗工液を循環さる。該金属フィルタを通して循環させる塗工液の流量を調節することにより、該塗工液に含まれる導電性粒子の二次粒径D90が0.2μm以上0.6μm以下に維持されるよう制御する。このように制御すると、塗工液を長期間循環させた時においても塗工液中に分散されている導電性粒子および絶縁性粒子がろ材に捕捉されることなく、外部混入物を除去することができる。該金属フィルタを通して循環させる塗工液の流量の調節は、例えば、循環ポンプによって調整することができる。このようにして、長期間の連続生産に最適な塗工液の循環方法を提供することができる。さらに金属フィルタの孔径を30μm以上200μm以下にすると、塗工液が流通する際に導電性粒子の経時凝集を防止することができる。金属フィルタの孔径が30μm未満であると絶縁性粒子が捕捉されてしまい表面層の粗さが低下してしまう。また金属フィルタの孔径が200μmを超えると金属フィルタを通して循環させる塗工液の量を制御しても導電性粒子の二次粒径D90を0.6μm以下に維持することができず、経時凝集を防止する効果が不十分になってしまう。
【0052】
金属フィルタろ材の材質としてはステンレス、黄銅、丹銅、燐青銅など金属フィルタとして公知の材料が使用できる。またこれら使用する金属フィルタ及び、循環塗工装置中の配管は全て接地しておくことが好ましい。
【0053】
本発明における導電性粒子の経時凝集の防止メカニズムの詳細については明らかになっていないが以下のように推察される。塗工液が微細な金属フィルタの目を流通する際には、塗工液は僅かながら帯電してしまう。この帯電により導電性粒子の分散状態が変化して不安定になりろ材に吸着されてしまうが、金属性のフィルタであればこの塗工液の帯電を防止する作用をする。さらに金属フィルタの孔径を30μm以上200μm以下とすると金属フィルタの目を通る際に受けるせん断力が導電性粒子の弱い凝集体を解すのに最適なものとなる。これにより、循環される塗工液の導電性粒子および絶縁性粒子の分散性状態を維持することができ、長期間の連続生産に最適な電子写真用導電性ゴムローラの塗工液の循環方法を提供することができると推察される。
【実施例】
【0054】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中の「部」は特に断らない限り質量部を示す。
【0055】
(実施例1)
(弾性体層)
下記の原材料を準備した。
・エピクロルヒドリンゴム 100部
・四級アンモニウム塩 2部
・炭酸カルシウム 30部
・酸化亜鉛 5部
・脂肪酸 5部
以上の原材料を60℃に調節した密閉型ミキサーにて10分間混練した後、エピクロルヒドリンゴム100部に対してエーテルエステル系可塑剤を15部加え、20℃に冷却した密閉型ミキサーで更に20分間混練して、原料コンパウンドを調製した。このコンパウンドにエピクロルヒドリンゴム100部に対して加硫剤として硫黄を1部、加硫促進剤としてノクセラーDM(商品名、大内新興化学社製)を1部及び、ノクセラーTS(商品名、大内新興化学社製)を0.5部加え混練した。混練は、20℃に冷却した2本ロールにて10分間行った。得られたコンパウンドを直径6mm長さ252.5mmの金属製の導電性支持体の外周面上に押出成型機にて押し出し弾性層を形成し、電気オーブン中で160℃1時間加熱加硫した。加硫後、導電性支持体の両端部の不要な弾性体層を切り取り、外径φ8.5mmになるように研磨処理して、導電性支持体の外周面上に形成された弾性体層を有するローラを得た。
【0056】
(塗工液)
上記、ローラの弾性体層の外周面上に表面層を形成するための塗工液を下記のとおり作製した。
下記原材料を準備した。
・アクリルポリオール溶液 100部
(有効成分70質量%、希釈溶媒としてキシレン30質量%含有)
・イソシアネートA(イソホロンジイソシアネート(IPDI)) 40部
(有効成分60質量%、希釈溶媒としてn−酢酸ブチル15質量%及びキシレン25質量%含有)
・イソシアネートB(ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)) 30部
(有効成分80質量%、希釈溶媒として酢酸エチル20質量%含有)
・カーボンブラック 30部
(導電性粒子、一次粒子径24nm)
・SH28PA 0.1部
(シリコーンオイル、東レ・ダウコーニング・シリコーン社製)
・メチルイソブチルケトン 200部
これらの原材料をミキサーにより30分撹拌混合した。その後、φ0.8mmガラスビーズを分散メディアとした横型ビーズミル分散機にて24時間分散させ、架橋ポリメチルメタクリレート粒子(絶縁性粒子、平均粒径12μm)30部を加えてミキサーにより撹拌混合し塗工液を調製した。
【0057】
(導電性粒子の二次粒径D90の測定)
調製した塗工液の一部をサンプリングして、保持粒径10μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)メンブレンフィルタにより自然ろ過を行い、絶縁性粒子と導電性粒子を分離した。このろ液中に含まれる導電性粒子について動的光散乱式の粒度分布計(マイクロトラックUPA(商品名)、日機装(株)製)により二次粒径D90を測定したところ0.45μmであった。
【0058】
(塗工液の循環と二次粒径D90の調整)
図2に示した概略構成のオーバーフロー方式の循環塗工装置を使用し塗工液の二次粒径を調整した。この循環塗工装置に、孔径40μmのカートリッジフィルタ(MBS1001RRH2(商品名)、日本ポール(株)製、材質:304Lステンレス)を取り付け、使用した。
【0059】
塗工槽のオーバーフロー面より、塗工液の一部を12時間毎にサンプリングして導電性粒子の二次粒径D90を測定し0.2〜0.6μmの範囲内に留まるようフィルタを通して循環させる塗工液の量を調節した。この時前記カートリッジフィルタを通して循環させた塗工液の流量は1000cc/minであった。また塗工槽を流れる塗工液の流量が250cc/minとなるよう三方弁で調節した。
【0060】
(浸漬塗工方法)
前記ローラを塗工槽のオーバーフロー液面に対して垂直になるよう昇降機に保持して浸漬塗工した。塗工時の引き上げ速度は、初期速度が20mm/s、最終速度は2mm/sになるように調節し、20mm/sから2mm/sの間は、時間に対して直線的に引き上げ速度を変化させた。
【0061】
塗工した後30分室温下で静置し溶媒を蒸発させ、次に、160℃に調整した電気オーブン中に1時間静置し硬化反応させることにより弾性体層の外周面上に表面層を形成し電子写真用導電性ゴムローラを得た。
【0062】
前記塗工液の循環開始より24時間経過後に上記浸漬塗工を開始し、1日に100本のペースで塗工を行い、20日間繰り返し塗工を行った。
【0063】
(比較例1)
前記循環塗工装置に取り付けるフィルタとして、孔径40μmのデプスタイプカートリッジ式フィルタ(NXT40−10U(商品名)、日本ポール(株)製、材質:ポリプロピレン)を使用した以外は実施例1と同様にして電子写真用導電性ゴムローラを得た。
【0064】
(比較例2)
前記循環塗工装置に取り付けるフィルタとして、孔径300μmのカートリッジフィルタ(MBS1001RAH2(商品名)、日本ポール(株)製、材質:304Lステンレス)を使用した以外は実施例1と同様にして電子写真用導電性ゴムローラを得た。
【0065】
(比較例3)
前記循環塗工装置に取り付けるフィルタとして、孔径10μmのカートリッジフィルタ(MBS1001RJH2(商品名)、日本ポール(株)製、材質:304Lステンレス)を使用した以外は実施例1と同様にして電子写真用導電性ゴムローラを得た。
【0066】
(比較例4)
前記循環塗工装置中の三方弁を循環ポンプから塗工槽方向のみ開放させ、フィルタ及び塗工槽を流れる流量を250cc/minとした以外は、実施例1と同様にして電子写真用導電性ゴムローラを得た。
【0067】
(比較例5)
循環塗工装置中にフィルタを取り付けなかったこと、液循環装置中の三方弁を循環ポンプから塗工槽方向のみ開放させたこと及び塗工槽を流れる塗工液の流量を250cc/minとしたこと以外は、実施例1と同様にして電子写真用導電性ゴムローラを得た。
【0068】
上記実施例および比較例において得られた電子写真用導電性ゴムローラのうち、循環開始から1日後及び20日後に塗工したサンプルについて、下記評価項目について評価した。結果を表1に示す。
【0069】
(表面層の欠陥)
電子写真用導電性ゴムローラの表面層を目視にて観察し、微小突起物の有無及びその個数を調べた。
【0070】
(画像評価)
電子写真方式の画像形成装置(キヤノン社製、レーザビームプリンタLBP−5400)を改造して上記実施例及び比較例にて得られた電子写真用導電性ゴムローラを帯電ローラとして取り付けた。帯電ローラには直流電圧のみ−1000Vを印加した。温度23.5℃/湿度50%の環境において、ハーフトーン画像を出力し、目視にてその出力画像を検査し、下記基準に基づき評価した。
A:ハーフトーン画像に欠陥が全くない(画像が非常に良い)
B:ハーフトーン画像に極めて緩やかな濃度ムラあるが、画像は良い
C:ハーフトーン画像にわずかにスジ状の欠陥がある
D:スジ状の画像欠陥が目立つ
【0071】
(導電性ゴムローラの抵抗値)
図3に示した概略構成のローラ抵抗測定装置により抵抗値を測定した。ローラ抵抗測定装置の円筒電極14と、電子写真用導電性ゴムローラ9との間の押圧力は、画像形成装置において帯電ローラとして用いられる場合と同様の押圧力(ローラ片側端部4.9N(0.5kgf)、総計9.8N(1.0kgf))とした。電子写真用導電性ゴムローラを回転しながら−200Vを印加し、回転一周の抵抗値の平均値を測定した。
【0072】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明における電子写真用導電性ゴムローラの概略断面図である。(a)は導電性支持体に直交する面における断面図であり、(b)は導電性支持体に沿う面における断面図である。
【図2】本発明における塗工液の循環方法の一例において使用する循環塗工装置の概略構成図である。
【図3】ローラ抵抗測定装置の概略図である。
【符号の説明】
【0074】
1 導電性支持体
2 弾性体層
3 表面層
4 循環ポンプ
5 フィルタ
6 三方弁
7 流量計
8 塗工槽
9 ローラ
10 昇降機
11 撹拌羽根
12 撹拌タンク
13 希釈用溶剤タンク
14 円筒電極(金属ローラ)
15 固定抵抗器
16 レコーダー
17 バイアス印加電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体の外周面上に形成された弾性体層の外周面上に表面層を浸漬塗工法により形成して電子写真用導電性ゴムローラを製造するための、導電性粒子と絶縁性粒子とを含む塗工液の循環方法において、前記塗工液の循環経路中に設けた孔径30μm以上200μm以下の金属フィルタを通して循環させる塗工液の流量を調節することにより、該塗工液に含まれる前記導電性粒子の二次粒径D90を0.2μm以上0.6μm以下に制御することを特徴とする塗工液の循環方法。
【請求項2】
前記絶縁性粒子が、5μm以上20μmの平均粒子径を有する絶縁性粒子である請求項1記載の塗工液の循環方法。
【請求項3】
前記導電性粒子が、5nm以上60nm以下の一次粒子径を有するカーボンブラックである請求項1または2記載の塗工液の循環方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−28657(P2009−28657A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−195840(P2007−195840)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(393002634)キヤノン化成株式会社 (640)
【Fターム(参考)】