説明

電子写真用導電性部材、電子写真装置およびプロセスカートリッジ

【課題】イオン導電の利点を維持しつつ、吸湿による形状変化が抑制され、多様な環境下であっても安定して高品位な電子写真画像を得る電子写真用導電性部材、電子写真装置およびプロセスカートリッジの提供。
【解決手段】特定のアルキレンオキサイドオリゴマーをグラフト結合させた変性アクリロニトリルブタジエンゴム(変性NBR)を含有する導電性弾性層を有する電子写真用導電性部材とすることで、高いイオン導電性を得ると共に吸水による形状変化を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子写真装置において帯電部材等として用いられる導電性部材、電子写真装置およびプロセスカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真装置に用いられる導電性部材の導電性の弾性層の構成材料として、イオン導電性のゴム組成物から形成されてなるものが知られている。このような材料によって形成された弾性層は電気抵抗の電圧依存性が小さく、導電性のばらつきが小さいという利点を有する。特許文献1は、エチレンオキサイド(EO)−プロピレンオキサイド(PO)−アリルグリシジルエーテル(AGE)からなる三元共重合体と、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)とを所定の割合で含むイオン導電性のゴム組成物を用いた導電性ゴムローラを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特登録03540278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、本発明者らは、上記特許文献1に係る導電性ゴムローラについて検討したところ、EO−PO−AGE三元共重合体とNBRとを含む導電性ゴム組成物からなる弾性層は吸湿性が高く、特に高湿環境下では吸湿によって導電性ゴムローラの形状が変化する場合があった。そのため、このような導電性ローラを帯電ローラとして用いた場合には、その形状変化に起因する帯電性能の変動が生じ得る。
【0005】
そこで、本発明は、イオン導電の利点を維持しつつ、吸湿による形状変化が抑制された電子写真用の導電性部材の提供に向けたものである。また、本発明は、多様な環境下であっても安定して高品位な電子写真画像を提供し得る電子写真装置およびプロセスカートリッジの提供に向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電子写真用導電性部材は、導電性基体および導電性弾性層を有する電子写真用導電性部材であって、該導電性弾性層が下記式(1)で示されるユニットを有するアクリロニトリルブタジエンゴムの架橋物を含有することを特徴とする電子写真用導電性部材:
【0007】
【化1】

【0008】
(式(1)中、Rは水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を示す。mおよびnは各々独立に0または1以上の整数を示す。なお、n+mは10以上100以下である。)
【0009】
また、本発明によれば、電子写真装置の本体に着脱自在に構成されているプロセスカートリッジであって、上記の導電性部材を帯電部材として具備しているプロセスカートリッジが提供される。
【0010】
更に、本発明によれば、上記の導電性部材を帯電部材として具備している電子写真装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、イオン導電による高導電性を有しつつ、吸湿による形状変化が低減され、帯電性能等の環境変動が抑制された電子写真用導電性部材を得ることができる。また、本発明によれば、多様な環境の下で、高品位な電子写真画像を形成することができる電子写真装置およびプロセスカートリッジを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の電子写真用導電性部材の一例を示す断面図である。
【図2】本発明に係る電子写真装置の説明図である。
【図3】本発明に係るプロセスカートリッジの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、下記式(2)および下記式(3)で示される構成単位を有するアクリロニトリルブタジエンゴム中に下記式(1)で示される構成単位を導入し、アルキレンオキサイドオリゴマーをグラフト結合させた変性アクリロニトリルブタジエンゴム(以降、「変性NBR」とも称する)の吸湿性が低いことを見出した。また、この変性NBRを含むゴム組成物を用いて形成してなる弾性層を備えた電子写真用導電性部材は吸湿による形状変化が抑制されることを見出した。
【0014】
【化2】

【0015】
【化3】

【0016】
本発明者らは、変性NBRの吸湿性が低くなる理由を以下のように推定している。
EO−PO−AGE共重合ポリマーを始めとするアルキレンオキサイド(以下、「AO」とも称する)重合ポリマーは吸水性が非常に高い。EO(エチレンオキサイド)やPO(プロピレンオキサイド)のエーテル酸素がマイナスに分極していることで、隣り合ったEO−PO−AGE共重合ポリマーの分子鎖が互いに反発し、その反発を緩和するために水が分子鎖間に侵入する。そのため、EO−PO−AGE三元共重合体は高い吸湿性を有することになる。
【0017】
一方、NBR単体の吸湿性は低いものの、EO−PO−AGE共重合ポリマーとNBRとのポリマーブレンドでは、AO分子鎖が数μm大のドメイン相を形成しているのに対し、式(1)のAOオリゴマーをグラフト結合したNBRは、準相溶の状態で存在している。つまり、AO分子鎖の隣にはNBR分子鎖が存在しやすくなり、AO分子鎖どうしが隣り合わない。AO分子鎖どうしが反発しなくなるので、吸水が少なくなる。その結果として、吸水に起因した、形状変化が抑制されると考えた。
【0018】
また、EO−PO−AGE共重合ポリマーとNBRとのポリマーブレンドでは、EO−PO−AGE共重合ポリマーは不連続的に存在にしているが、式(1)のAOオリゴマーをグラフト結合したNBRでは、AOオリゴマーが連続的に存在する。そのため、式(1)のAOオリゴマーをグラフト結合したNBRは少ないAOの含有率で高い導電性が得られる。
【0019】
本発明者らはこのような推定に基づき鋭意検討した結果、特定の構造のAOオリゴマーをグラフト結合させたNBRを含有する導電性弾性層を有する電子写真用導電性部材は、高い導電性を有しつつ、高湿環境においても形状安定性が高いことを明らかにした。本発明はこのような知見に基づきなされたものである。
【0020】
本発明に係る電子写真用導電性部材について、以下にその構成を詳細に説明する。
図1は、本発明に係る電子写真用導電性部材の概略断面図である。電子写真用導電性部材は、導電性基体11の外周面に導電性弾性層12が形成され、更に導電性弾性層12の外周囲に表面層13が積層される。
【0021】
<導電性基体>
導電性基体の材質としては、例えば、鉄、銅、ステンレス、アルミニウム、ニッケル等の金属やその合金を挙げることができる。
【0022】
<導電性弾性層>
導電性弾性層は下記式(1)で示されるユニットを有するアクリロニトリルブタジエンゴムの架橋物を含有する。
【0023】
【化4】

【0024】
(式(1)中、Rは水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を示す。mおよびnは各々独立に0または1以上の整数を示す。なお、n+mは10以上100以下である。)
【0025】
式(1)で示される構造では、AO分子鎖がグラフト化されていることでAO分子鎖の経時的な移動が抑制されることと、AO分子鎖が適度な長さであることと、AO分子鎖の側差の末端に炭化水素基があることによって、AO分子鎖が寄り集まることがない。そのため、吸水による膨張を抑制することができると共に、AO含有率が少なくても高い導電性が得られるものと考えられる。
【0026】
m+nは、EOのユニット数であるmとPOのユニット数であるnを足したものであり、AOのユニット数の合計である。また、p+qはEOのユニット数であるqとPOのユニット数であるpを足したものであり、AOのユニット数の合計である。AOのユニット数m+n(またはp+q)が10以上であればイオンを輸送する効果が高いため導電性を発現し、100以下であればAO分子鎖内でのAOの結晶化による高抵抗化やAO分子鎖が集まることによる吸水の増加が抑制される。
【0027】
AOが結晶化しなければ、より高い導電性が得られる。そのため、EOとPOは共重合されているもの、つまりmとnはいずれも1以上が好ましい。pとqもいずれも1以上が好ましい。また、EOとPOはランダム共重合オリゴマーであることが更に好ましい。
【0028】
Rは、水素、もしくは炭素数1以上20以下の炭化水素基である。Rは、分子量が大きく、立体構造の嵩高い炭化水素基であるほど、AO分子鎖の結晶化を妨げることができる。そのため、Rは、炭素数は4以上の炭化水素基であることが好ましい。また分子構造としては、鎖状よりも環状、単環よりも複合環の炭化水素基であることが好ましい。
【0029】
式(1)で示されるユニットを有するNBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)としては、カルボキシル化NBR(以下XNBRと称す)と下記式(4)で示される片末端エポキシ化AO重合オリゴマーをグラフト結合させたものが挙げられる。
【0030】
【化5】

【0031】
(式(4)中、Rは水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を示す。mおよびnは各々独立に0または1以上の整数を示す。なお、n+mは10以上100以下である。)
【0032】
XNBRのカルボキシル基と、式(4)で示される片末端エポキシ化AO重合オリゴマーのエポキシ基とが反応することによって、XNBRの側鎖に片末端エポキシ化AO重合オリゴマーをグラフト結合した式(1)で示されるユニットを有するNBRが得られる。
【0033】
XNBRとしては特に限定されないが、カルボキシル基含有量が1〜10%であり、アクリロニトリル量が25〜35%であり、ムーニー粘度が30ML1+4(100℃)以上70ML1+4(100℃)以下であるものを用いることができる。
【0034】
本発明で述べる片末端エポキシ化AO重合オリゴマーとは、EO単独重合オリゴマーやPO単独重合オリゴマーやEO−PO共重合オリゴマーを含めたものを示している。EO−PO共重合オリゴマーはランダム共重合オリゴマーでもブロック共重合オリゴマーでもよい。この中でもEO−POランダム共重合オリゴマーは、AOが結晶化しにくいため好ましい。
【0035】
片末端エポキシ化AO重合オリゴマーの合成例としては、以下の1)〜3)のスキームで合成する方法が例示できる。
1)種々の炭化水素基を持つモノアルコール類やモノフェノール類とエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドとをアルカリ金属水酸化物等の触媒存在下で付加反応させて、ポリエーテルモノアルコールを合成する。
2)そのポリエーテルモノアルコールとエピクロルヒドリンとを三弗化ホウ素エーテル錯塩等のルイス酸触媒の存在下で付加反応させる。
3)その付加反応物に水酸化ナトリウム水溶液を加えて閉環して、片末端エポキシ化AO重合オリゴマーを得る。
【0036】
XNBRへ片末端エポキシ化AO重合オリゴマーをグラフト結合する反応は、XNBRと片末端エポキシ化AO重合オリゴマーの存在下で加熱することで促進される。このとき触媒として、第三級アミン、第四級アンモニウム塩、イミダゾール化合物を用いても良い。
【0037】
グラフト反応は導電性弾性層を成形する前に行ってもよいが、NBRの架橋物を得る工程において同時に行なう方が製造工程の短縮になって好ましい。NBRの架橋を熱によって行なう場合には、グラフト反応とNBRの架橋を同時に行なえるため、製造にかかるエネルギーを低減できる。また、グラフト反応とNBRの架橋を同時に行なう製法では、グラフト反応前は片末端エポキシ化AO重合オリゴマーに可塑化作用があるのでゴムコンパウンドの粘度が低いと言う加工上の利点もある。
【0038】
また、導電性弾性層には、本発明の電子写真用導電性部材として必要とされる導電性や耐吸水性などの特性を失わない範囲で、一般的な配合剤を用いることができる。配合剤としては、導電剤、架橋剤、架橋促進剤、架橋促進助剤、加工助剤、架橋遅延剤、充填剤、分散剤、発泡剤、滑剤、老化防止剤、オゾン劣化防止剤、酸化防止剤、可塑剤、軟化剤、改質剤などが例示できる。
【0039】
また、本発明で必要とする導電性や耐吸水性を失わない範囲で、他の原料ゴムをブレンドしても良い。
【0040】
これらのXNBRと片末端エポキシ化AO重合オリゴマーおよび配合剤の混練方法としては、バンバリーミキサー、インターミックス、加圧式ニーダーなどの密閉型混練機を使用した方法や、オープンロールなどの開放型混練機を使用した方法などを例示することができる。
【0041】
混練して得られた導電性弾性層用ゴムコンパウンドを導電性基体の上に形成する方法としては、押出成型、射出成型、圧縮成型などの公知の成型方法が例示される。特に、未架橋ゴムコンパウンドを導電性基体と一体に押出すクロスヘッド押出成型が、作業の効率化などを考慮すると好ましい。
【0042】
導電性弾性層用ゴムコンパウンドを加熱して架橋物を得る工程としては、型成型、加硫缶成型、連続炉成型、遠・近赤外線成型、誘導加熱成型などの熱による硬化成型方法が例示される。
【0043】
架橋後の導電性弾性層は、表面の平滑化および形状の精密仕上げのために、研削してもよい。研削する方法としては、トラバース方式や幅広研削方式がある。トラバース方式は短い砥石を導電性弾性層に準じて移動させることにより、導電性弾性層を研削するものである。それに対して、幅広研削方式は、幅の広い砥石、即ち、導電性弾性層の長さよりも広い幅の砥石を用い、僅かな時間で研削ができるという方式である。作業の効率化などを考慮すると、幅広研削方式が好ましい。
【0044】
片末端エポキシ化AO重合オリゴマーがXNBRと結合していることは、ソックスレー抽出による片末端エポキシ化AO重合オリゴマーの抽出率で確認することができる。また、反応の進行状態は、赤外分光法(IR)、近赤外分光法(NIR)、ラマン分光法を組み合わせて測定することで知ることができる。例えば、IRでの3000cm−1付近や1410cm−1付近や920cm−1付近のカルボキシル基のO−Hに帰属されるピークとラマン分光法での1250cm−1付近のエポキシ基に帰属されるピークとが減少することを検出する。また、IRで3300cm−1付近の水酸基に帰属されるピークが増加することを検出する。これらにより、カルボキシル基とエポキシ基が結合することで水酸基が生成されていることを知ることができる。
【0045】
また、固体高分解能13C NMRによって、XNBRの共重合比や、片末端エポキシ化AO重合オリゴマーの構造を特定することができる。
【0046】
さらに、抽出した未反応物をμ−MS(マイクロサンプリング質量分析法)によって分析することで、片末端エポキシ化AO重合オリゴマーの構造を特定することができる。
【0047】
[表面層]
本発明では、トナーや外添剤が電子写真用導電性部材に付着するのを防止する防汚性、過電流が流れないようにする耐リーク性等を付与するために表面層を形成しても良い。
【0048】
(電子写真装置)
図2は、本発明に係る導電性部材を帯電ローラとして用いた電子写真装置の概略図である。この電子写真装置は、電子写真感光体301を帯電する帯電ローラ302、露光を行う潜像形成装置308、トナー像に現像する現像ローラ303、転写材304に転写する転写装置305、電子写真感光体上の転写トナーを回収するクリーニング装置307、トナー像を定着する定着装置306などから構成される。電子写真感光体301は、導電性基体上に感光層を有する回転ドラム型である。
【0049】
電子写真感光体301は矢印の方向に所定の周速度(プロセススピード)で回転駆動される。帯電ローラ302は、電子写真感光体301に所定の力で押圧されることにより接触配置される。帯電ローラ302は、電子写真感光体301の回転に従い従動回転し、帯電用電源313から所定の直流電圧を印加することにより、電子写真感光体301を所定の電位に帯電する。一様に帯電された電子写真感光体301には、画像情報に対応した光を照射することにより、静電潜像が形成される。
【0050】
電子写真感光体301に接触して配置されている現像ローラ303の表面には、現像剤供給ローラ311によって現像容器309内の現像剤315が供給される。その後、現像剤量規制部材310によって現像ローラ303の表面には、電子写真感光体の帯電電位と同極性に帯電された現像剤の層が形成される。この現像剤を用いて、反転現像により電子写真感光体に形成された静電潜像を現像する。転写装置305は、接触式の転写ローラを有する。電子写真感光体301からトナー像を普通紙などの転写材304に転写する。尚、転写材304は、搬送部材を有する給紙システムにより搬送される。クリーニング装置307は、ブレード型のクリーニング部材、回収容器を有し、転写した後、電子写真感光体301の上に残留する転写残トナーを機械的に掻き落として回収する。ここで、現像ローラ303にて転写残トナーを回収する現像同時クリーニング方式を採用することにより、クリーニング装置307を取り除くことも可能である。定着装置306は、加熱されたロール等で構成され、転写されたトナー像を転写材304に定着し、機外に排出する。312および314は直流電源を示す。
【0051】
(プロセスカートリッジ)
また、図3は本発明に係る導電性部材を帯電ローラ302に適用したプロセスカートリッジの概略断面図である。図3に示すように、本発明に係るプロセスカートリッジは、電子写真感光体301、帯電ローラ302、現像ローラ303、及び、クリーニング装置307などが一体化され、電子写真装置の本体に着脱自在(着脱可能)に構成されている。
【実施例】
【0052】
以下に、具体的な実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0053】
製造例A:片末端エポキシ化アルキレンオキサイド(AO)重合オリゴマーの合成方法(合成例A−1:片末端エポキシ化EO重合オリゴマー1〜5の合成);
表1に示す材料を反応容器に入れて窒素置換した。これを、150℃に加熱しながら、エチレンオキサイド(分子量=44)10モルを徐々に加えて付加反応させた。続いて80℃まで冷却後、リン酸を加えて中和した。次に、減圧加熱することで脱水した後に、濾過し、ラウリルアルコールのポリエチレンオキサイド付加物を得た。
【0054】
【表1】

【0055】
次いで、下記表2に示す材料を還流しながら加熱した。
【0056】
【表2】

【0057】
この反応生成物に、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム1.5モル相当)を滴下して、脱ハロゲン化して閉環させた。更に、これに水を加えて塩化ナトリウムを水層に溶解し、分離した有機層を減圧蒸留した。こうしてEOユニット数が10の片末端エポキシ化EO重合オリゴマー2を得た。
【0058】
上記製造例のエチレンオキサイド量を変えて、EOユニット数が100の片末端エポキシ化EO重合オリゴマー3、EOユニット数が5の片末端エポキシ化EO重合オリゴマー4、EOユニット数が200の片末端エポキシ化EO重合オリゴマー5を作製した。
【0059】
合成例A−2:片末端エポキシ化PO重合オリゴマー1の合成;
合成例A−1において、エチレンオキサイド10モルを、プロピレンオキサイド(分子量=58)15モルに変更した以外は合成例A−1と同様にして、POユニット数が15の片末端エポキシ化PO重合オリゴマー1を作製した。
【0060】
合成例A−3:片末端エポキシ化EO−PO共重合オリゴマー1の合成;
合成例A−1において、アルキレンオキサイドとして、エチレンオキサイド10モルと共にプロピレンオキサイド10モルを用いた以外は合成例A−1と同様にして、EOユニット数を10とPOユニット数を10もつ片末端エポキシ化EO−PO共重合オリゴマー1を作製した。
【0061】
(実施例1)[導電性弾性層の作製]
以下に、円筒状の導電性基体上に導電性弾性層を有する導電性弾性層ローラの作製手順を示す。
【0062】
表3に示す原材料(A)を加圧式ニーダーで15分間混練して原材料(A)の混合物を得た。
【0063】
【表3】

【0064】
さらに、原材料(A)の混合物と表4に示す原材料(B)を20℃に温度調節したオープンロールにて10分間混練して、導電性弾性層の形成用ゴムコンパウンド1を得た。
【0065】
【表4】

【0066】
導電性弾性層形成用ゴムコンパウンド1を、円筒状の導電性基体とともにクロスヘッド押出成型機にて押し出し、外径が約9mmのローラ形状になるように成型した。
【0067】
次いで、160℃の電気オーブンの中で1時間加熱し、XNBRと片末端エポキシ化AO重合オリゴマーをグラフと結合させると共に硫黄でXNBRを加硫させた。ゴムの両端部を切り取り、導電性基体を露出させると共に、導電性弾性層の長さを228mmとした。その後、外径が8.5mmのローラ形状になるように表面を研削して、弾性ローラ1を得た。
【0068】
[表面層用塗料の調製]
以下に、表面層形成用塗料の調製手順を示す。
【0069】
表5に示す材料を混合し混合溶液を得た。
【0070】
【表5】

【0071】
この混合溶液を分散メディアとして平均粒子径0.8mmのガラスビーズの入ったガラス瓶に入れ、ペイントシェーカー分散機を用いて60時間分散した。その後、ガラスビーズをろ過し、表面層形成用塗料1を得た。
【0072】
[表面層の作製]
弾性ローラ1を表面層形成用塗料1の中に浸漬し、弾性層の表面に表面層形成用塗料1の塗膜を形成した。その後、電気オーブンにて80℃で1時間、さらに160℃で1時間加熱して、表面層形成用塗料1の塗膜を架橋させ、表面層を形成した。こうして、本実施例に係る電子写真用導電性部材1を得た。
【0073】
[XNBRと片末端エポキシ化AO重合オリゴマーとが結合されていることの分析]
電子写真用導電性部材1の導電性弾性層を、固体高分解能13C NMRによって分析した。その結果、導電性弾性層においては、XNBRと片末端エポキシ化EO重合オリゴマーが結合していることを確認した。
【0074】
[評価1:体積抵抗率]
導電性弾性層の導電性の評価として、以下の方法によって電流値を測定し、体積抵抗率を算出した。測定サンプルは、実施例1の導電性弾性層形成用コンパウンド1を、160℃で1時間硬化して、厚さ2mmのシート状に成型したものを用いた。体積導電率の測定は、JIS K6271:2001の二重リング電極法に基づき行った。温度23℃、相対湿度50%RHの環境において、直径10mmの電極間に−200Vの電圧を印加し、各サンプルについて5箇所の電流値を測定した。その平均値を算出して、体積抵抗率(Ω・cm)とした。
【0075】
[評価2:外径膨張率の測定]
外径膨張率を以下の手順で測定した。まず、23℃50%RH環境に2日以上放置した実施例1の電子写真用導電性部材の外径を測定した。次いで、40℃95%RH環境の恒温恒湿槽に1週間放置した直後(5分以内)の外径を測定した。この恒温恒湿槽に放置する前後の外径から外径膨張率(=放置後の外径/放置前の外径*100%-100%)を算出した。
【0076】
[評価3:マイクロゴム硬度の測定]
XNBRと片末端エポキシ化AO重合オリゴマーとが結合していることの指標の一つとして、マイクロ硬度を測定した。測定サンプルは、実施例1の導電性弾性層用コンパウンドを、160℃で1時間硬化して、厚さ2mmのシート状に成型したものを用いた。測定器は、微小領域ゴム硬さ計(商品名「アスカー マイクロゴム硬度計 MD−1型」、高分子計器株式会社製)を用いた。なお、本発明では、23℃55%RH環境に12時間以上放置した測定サンプルに対して、10Nのピークホールドモードで測定した値を評価した。
【0077】
[評価4:高温高湿放置評価(当接部の横帯状の画像ムラ)]
実施例1の電子写真用導電性部材を、電子写真装置(商品名「LBP5400」、キヤノン株式会社製)のブラックカートリッジに帯電ローラとして装着した。このカートリッジを40℃95%RH環境の恒温恒湿槽に1ヶ月放置した。この期間、帯電ローラは常に感光体に当接した状態で、当接位置は変えていない。このカートリッジを、恒温恒湿槽から取り出し、当接部の横帯状の画像ムラを評価した。
【0078】
このとき電子写真装置は、市販品を記録メディアの出力スピードが200mm/秒になるよう改造して使用した。画像の出力環境としては、23℃50%RH環境において行った。評価用画像は、ハーフトーン画像を出力した。なお、ここで、ハーフトーン画像とは、電子写真感光体の回転方向と垂直方向に幅1ドット、間隔2ドットの横線を描く、中間濃度の画像である。この画像において、帯電ローラと感光体との当接部に対応する位置に、横帯状の画像ムラが発生するか否かを以下の表6の基準で評価した。
【0079】
【表6】

【0080】
実施例1では、外径膨張率が2.5%に抑えられており、吸水によってできる当接部と非当接部の外径膨張差が少ないので、横帯状の当接跡は見られず、ランクAであった。
【0081】
[評価5:横スジ状の画像ムラ]
作製した実施例1の電子写真用導電性部材を、電子写真装置(商品名「LBP5400」、キヤノン株式会社製)のブラック用カートリッジに帯電ローラとして装着し、このプロセスカートリッジを上記の電子写真装置に装填して、3万枚の電子写真画像を出力した。なお、上記電子写真装置は、紙の出力スピードを200mm/秒に改造した。また、電子写真画像の出力環境としては、温度15℃、相対湿度10%RHとした。また、電子写真画像としては、A4サイズの紙の画像形成領域の1面積%に、サイズが4ポイントのアルファベット「E」の文字をランダムに印字させた。なお、電子写真画像の出力は、1枚出力する毎に電子写真装置を停止させ、10秒後に再び、画像形成動作を再開するという動作を繰り返した。そして、3万枚の電子写真画像の出力後に、ハーフトーン画像を1枚出力し、このハーフトーン画像を目視で観察し、以下の表7の基準で評価した。
【0082】
【表7】

【0083】
(実施例2)〜(実施例7)
実施例2〜7の導電性弾性層形成用コンパウンド2〜7に使用した片末端エポキシ化AO重合オリゴマーの種類、添加量を表9−1に記載した。ここで、表9−1に記載された項目以外は、実施例1に係る導電性弾性層形成用コンパウンド1と同様の材料を用いた。そして、導電性弾性層形成用コンパウンド2〜7を用いた以外は、電子写真用導電性部材1と同じ方法にて、実施例2〜7に係る電子写真用導電性部材2〜7を作成し、評価1〜5に供した。
【0084】
実施例2〜7に係る電子写真用導電性部材2〜7の導電性弾性層について、固体高分解能13C NMRによって分析した。その結果、各導電性弾性層においては、XNBRと片末端エポキシ化AO重合オリゴマーが結合していることを確認した。
【0085】
(比較例1)〜(比較例2)
比較例1〜2の導電性弾性層形成用コンパウンドC−1〜C−2に使用した片末端エポキシ化AO重合オリゴマーの種類、添加量を表10−1に記載した。ここで、表10−1に記載された項目以外は、実施例1に係る導電性弾性層形成用コンパウンド1と同様の材料を用いた。そして、そして、導電性弾性層形成用コンパウンドC−1〜C−2を用いた以外は、電子写真用導電性部材1と同じ方法にて、比較例1〜2に係る電子写真用導電性部材C−1〜C−2を作成し、評価1〜5に供した。
【0086】
実施例2〜7に係る電子写真用導電性部材C−1〜C−2の導電性弾性層について、固体高分解能13C NMRによって分析した。その結果、各導電性弾性層においては、XNBRと片末端エポキシ化AO重合オリゴマーが結合していることを確認した。
【0087】
比較例1では、EOユニット数が5であるために、高抵抗であった。外径膨張差に起因した横帯状の画像はランクA、高抵抗に起因する横スジ状の画像はランクCであった。比較例2では、EOユニット数が200であるために、高抵抗であり外径の膨張が抑制されなかった。外径膨張差に起因した横帯状の画像と高抵抗に起因する横スジ状の画像は共にランクCであった。
【0088】
(比較例3)
導電性弾性層形成用コンパウンド1において、片末端エポキシ化EO重合オリゴマー1をポリエチレンオキサイドオリゴマー(=PEOオリゴマー、EOユニット数50)に変更した以外は、導電性弾性層形成用コンパウンド1と同様にして、導電性弾性層形成用コンパウンドC−3を調製した。この導電性弾性層形成用コンパウンドC−3を用いた以外は、実施例1と同様にして電子写真用導電性部材C−3を作成した。
【0089】
比較例3は、マイクロゴム硬度が低いことから、XNBRとPEOオリゴマーが結合していないことが示唆された。また、比較例3の導電性弾性層のPEOオリゴマー抽出率は、100%となり、XNBRとPEOオリゴマーは結合していないことが明らかになった。比較例3では、PEOが移行して寄り集まったために、高抵抗であり外径の膨張が抑制されなかった。外径膨張差に起因した横帯状の画像はランクD、高抵抗に起因する横スジ状の画像はランクCであった。
【0090】
(比較例4)
下記表8の左列の材料の替わりに、表8の右列の材料を使用した以外は、実施例1と同様の材料、製法で比較例4の電子写真用導電性部材C−4を作成した。
【0091】
比較例4では、EO−PO−AGE共重合ポリマーがAO分子鎖の集まったドメイン相を形成して不連続に存在したため、高抵抗であり外径の膨張が抑制されなかった。外径膨張差に起因した横帯状の画像と高抵抗に起因する横スジ状の画像は共にランクCであった。
【0092】
【表8】

【0093】
(比較例5)
導電性弾性層形成用コンパウンド1において、片末端エポキシ化EO重合オリゴマー1を使用しない以外は、導電性弾性層形成用コンパウンド1と同様にして、導電性弾性層形成用コンパウンドC−5を調製した。この導電性弾性層形成用コンパウンドC−5を用いた以外は、実施例1と同様にして電子写真用導電性部材C−5を作成した。
【0094】
導電性弾性層C−5は、式(1)のユニットを有するNBRを含まないために、外径膨張率は小さいが、高抵抗であった。外径膨張差に起因した横帯状の画像はランクA、高抵抗に起因する横スジ状の画像はランクDであった。
【0095】
表9−1に実施例1〜7の材料をまとめ、また、表9−2に各実施例に係る導電性部材の評価結果を示す。また、表10−1に比較例1〜5の材料をまとめ、表10−2に各比較例に係る導電性部材の評価結果をまとめた。さらに、表11に実施例1〜7と比較例1〜2の式(1)のAOオリゴマーをグラフトしたユニットの構造を示す。
【0096】
【表9】

【0097】
【表10】

【0098】
【表11】

【0099】
【表12】

【0100】
【表13】

【0101】
以上のように式(1)のユニットを有するNBRの架橋物を含有する導電性弾性層からなる電子写真導電性部材では、高い導電性が得られていると共に吸水による形状変化が抑制されていた。
【符号の説明】
【0102】
11‥‥導電性基体
12‥‥導電性弾性層
13‥‥表面層






【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基体および導電性弾性層を有する電子写真用導電性部材であって、
該導電性弾性層が下記式(1)で示されるユニットを有するアクリロニトリルブタジエンゴムの架橋物を含有することを特徴とする電子写真用導電性部材:
【化1】

(式(1)中、Rは水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を示す。mおよびnは各々独立に0または1以上の整数を示す。なお、n+mは10以上100以下である。)
【請求項2】
電子写真装置の本体に着脱自在に構成されているプロセスカートリッジであって、請求項1に記載の導電性部材を帯電部材として具備していることを特徴とするプロセスカートリッジ。
【請求項3】
請求項1に記載の導電性部材を帯電部材として具備していることを特徴とする電子写真装置。







【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−226328(P2012−226328A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−72267(P2012−72267)
【出願日】平成24年3月27日(2012.3.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】