説明

電子工学用途のためのナノ結晶性材料

高い比誘電率値を有するナノ結晶性またはナノ粒子性の金属酸化物または金属炭酸塩を含有する誘電材料を提供する。詳細には、この誘電材料は、図3に示すように、DC限界に近い低周波数において、高い比誘電率値を示す。またこの誘電材料は、低い誘電体損失係数および高い電圧破壊限界を示し、そのため、コンデンサ、特に高エネルギー密度コンデンサに用いるのに適する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、参照として本書に組込まれる2006年7月13日出願の米国特許仮出願第60/807,259号の利益を主張するものである。
【0002】
(技術分野)
本発明は一般に、低周波数において、非常に高い比誘電率値を示す金属酸化物を含有する誘電材料に関する。金属酸化物は、単一金属酸化物または混合金属酸化物でありうる。ある種の実施形態では、誘電材料は、20Hzにおいて約1400より上の比誘電率値を示す。誘電材料は、多くの電気工学用途において採用されるコンデンサに用いられるのに特に適している。
【背景技術】
【0003】
小型で軽量の高密度コンデンサは、多くの民生用用途および軍事用用途、例えば、多層セラミックコンデンサ、埋込み型細動除去器、高電力源、エネルギー蓄積装置、粒子線加速器、電気装甲、電気銃、および弾道ミサイルなどの用途にとって重要である。これらの用途の多くは、既存の誘電材料の性能およびコンデンサの構造によって制限される。軍事的および科学的パルス電力用途に関するコンデンサの要件は、特に厳しい。コンデンサの単位質量毎、または単位体積毎に測定する、蓄積されたエネルギー密度が高密度であることならびに放電率が高いことが主要な要件である。また、エネルギー回復効率が十分であること、および高い機械的強度が、多くの高エネルギーコンデンサ用途に必要とされる。他の用途としては、医療用途(骨、歯、または他の硬質な組織の修復または交換用製品)、電気通信、レーダー用途、健康および安全対策、および誘電加熱などが含まれる。
【0004】
高密度コンデンサの1つの重要な軍事用用途は、軍事用車両のための電気装甲防禦である。この用途では、軍事用車両に接近する低速発射体、主としてロケット推進てき弾(RPG)は、大型で高エネルギーコンデンサから発生する強力な電気的放電によって破壊される。英国で実施された現場試験では、重量が1〜2トンの電気装甲システムによって、飛来するRPGから軍事用戦車を効果的に保護することができることが実証された。「Armor Plate, Electronic Armor Withstands Rocket−propelled Grenade Strike(電子装甲がロケット推進てき弾攻撃に耐える)New Scientist,vol.175,2002,pp.6」参照。そのようなシステムの中心部をなす高エネルギーコンデンサは、飛来するRPGまたは同様の武器が戦車の装甲を貫通する前に、それらを効果的に消滅させるのに十分なエネルギーを蓄積する。次の10年の間には、戦車および軽量の軍事用車両の保護物として、電気装甲が広く組込まれることが予想される。米国および英国の両軍は、このようなシステムの開発および配備に多くのリソースを費やしている。エネルギー蓄積密度が高く、より軽量の、進化した誘電材料の開発によって、それらの効率を増大し、かつ、それらの重量を軽量化することにより、電気装甲に恩恵をもたらすことが予想される。
【0005】
コンデンサのエネルギー蓄積密度は、コンデンサを充填する誘電材料の比誘電率に比例し、コンデンサの電極間にかけられる電界(電圧)の2乗に比例して変化する。従って、高い比誘電率値、低い誘電損率、および高い電圧破壊限界を持つ誘電材料は高密度コンデンサに適している。従来のコンデンサ技術は、誘電材料およびコンデンサの製造における欠陥および非均質性が問題となっている。これらは電圧破壊の要因となる。重要な電圧破壊メカニズムとしては電気的またはアバランシェ破壊、電気化学的破壊、および熱的破壊が含まれる。圧延紙またはポリマーを主体とするコンデンサは、高い破壊電圧を有するが、比誘電率が非常に低く、一般的に2〜5の範囲である。これらのコンデンサ、特に紙を主体とするコンデンサの劣化および欠陥特性は、有利なものではない。チタン酸バリウム(BaTiO)またはチタン酸ストロンチウム(SrTiO)のような、強誘電体セラミックスの誘電体を用いるコンデンサは、通常、紙またはポリマーを主体とするシステムよりはるかに高い比誘電率を有する。しかしながら、大型のセラミックコンデンサは、いまだに、低い破壊電圧および高い誘電損率を有する。既存のセラミックコンデンサの性能は、セラミック粉末品質およびコンデンサの製造工程によって限定される。
【0006】
誘電材料の粒子または結晶サイズも考慮すべきである。材料の強誘電性および強磁性挙動はドメインとして知られる十分なサイズの要素の場合だけに現れうることが知られている。理論的には、ドメインサイズより小さい小型粒子または結晶子は強誘電性または強磁性特性を示すことはない。この制限により、非常に小さい粒子(ナノ粒子またはナノ結晶性粒子など)が強誘電性または強磁性である可能性が排除される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特に高比誘電率、高電圧破壊限界、および低誘電損失を有する材料を製造するためには、両タイプの誘電材料の利点を組合せる(圧延紙またはポリマーを主体とし、かつ強誘電性であるセラミック)必要があることはあきらかである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の特性を有する、強誘電性セラミック、特にナノ結晶性またはナノ粒子性金属酸化物、を含有する誘電体を製造することができる。強誘電性セラミックは、ナノメートルスケールに基づくアプローチを用いて、誘電体中に両成分の分子レベル分散をもたらすことによって、適切なポリマーマトリックス中に組込みうる。
【0009】
本発明の1実施形態では、ナノ粒子性またはナノ結晶性混合金属酸化物、または金属炭酸塩を含有する誘電材料を提供する。誘電材料の比誘電率値は20Hzにおいて約1400より上である。
【0010】
本発明の他の実施形態では、ポリマーマトリックス中に分散したナノ粒子性またはナノ結晶性混合金属酸化物を含有する誘電材料を提供する。誘電材料の比誘電率値は20Hzにおいて約1400より上である。混合金属酸化物は、アルカリおよびアルカリ土類金属からなる群から選択される第1の金属とCAS周期表のIIIB、IVBおよびVB族から選択される第2の金属とを含有する。ポリマーはポリイミド類、ベンゾシクロブテン(BCB)、ポリフェニルキノキサリン(PPQ)、フルオロポリマー類、およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1の構成要素を含有する。
【0011】
本発明のさらに他の実施形態では、以下の工程を含む誘電材料の製造方法を提供する:(a)ナノ粒子性またはナノ結晶性金属酸化物をアルカリまたはアルカリ土類金属化合物を含有する前駆体材料と混合する工程;および(b)前記混合物を、少なくとも約950℃の温度に加熱し、それによって混合金属酸化物材料を作る工程。
【0012】
本発明のさらに他の実施形態では、ここに記載される誘電材料を含むコンデンサを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は回路基板取付け用に構成されたコンデンサを示す図である。
【図2】図2は対向する導電板の間に配置された、誘電材料を有する円板状コンデンサの側面図である。
【図3】図3は本発明による未焼成のチタン酸バリウムおよび市販のチタン酸バリウム粉末の、周波数に関して測定した比誘電率を示すグラフである。
【図4】図4は本発明によるチタン酸バリウムおよび2種の市販のチタン酸バリウム粉末のXRDグラフである。
【図5】図5は100℃で12時間焼成した各種のチタン酸バリウム粉末の、周波数に関して測定した比誘電率を示すグラフである。
【図6】図6は500℃で2時間焼成した各種のチタン酸バリウム粉末で測定した比誘電率を示すグラフである。
【図7】図7は1000℃で2時間焼成した各種のチタン酸バリウム粉末で測定した比誘電率を示すグラフである。
【図8】図8は比誘電率に対する、バリウムおよびチタンのモル比の影響を示すグラフである。
【図9】図9は本発明による数種のチタン酸バリウム材料の散逸率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による誘電材料の形成に有用な金属酸化物(すなわち、強誘電性または強磁性材料)は、単一金属酸化物または混合金属酸化物およびそれらの誘導体でありうる。いずれの場合においても、誘電材料は、相対的に高い比誘電率を示し、一般に20Hzでの測定で約1400より上である。また、比誘電率は、直流(DC)条件に近くなると、更に高くなる傾向がありうる。
【0015】
ある種の実施形態では、金属酸化物は単一の金属種を含有する。本発明により製造されうる単一酸化物は、Ti、Zr、Srの酸化物を含有する。なかでもチタン酸化物(例えばTiO)およびジルコニウム酸化物(例えば、ZrO)が特に好ましい。
【0016】
他の実施形態では、金属酸化物は、CAS周期表のIおよびII族(アルカリおよびアルカリ土類)から選択される第1の金属、およびIIIB、IVB、およびVB族から選択される第2の金属を含有する混合金属酸化物である。例示的な混合金属酸化物としては、混合チタン酸金属および混合ニオブ酸金属が挙げられる。本発明に用いるのに特に好ましい混合金属酸化物としては、チタン酸バリウム(例えば、BaTiO)、チタン酸ストロンチウム(例えば、SrTiO)、チタン酸アルミニウム、チタン酸マグネシウム、チタンジルコン酸鉛、チタン酸カルシウム、チタン酸亜鉛、およびそれらの混合物が含まれる。
【0017】
ある種の実施形態では、混合金属酸化物は、同一結晶構造中に2種類のみの金属種を有しうる。そのような実施形態は、同一結晶構造中に2種類より多くの種類の金属種を含有する金属および金属酸化物の固溶体からは区別される。この実施形態と差区別される例示的な固溶体はチタン酸バリウム/ストロンチウムである。
【0018】
更に他の実施形態では、誘電材料は、アルカリまたはアルカリ土類金属の炭酸塩、特に炭酸バリウム/ストロンチウムのような炭酸塩材料を含有しうる。
【0019】
金属酸化物材料は、実質上、ナノ結晶性であること、すなわち、材料の平均結晶サイズが一般に約100nm以下であることが好ましい。ある種の実施形態では、材料の平均結晶サイズは、約50nm未満、特に約2〜約50nmの間である。本書中、「結晶サイズ」という用語を用いる場合、必ずしも「粒子サイズ」と同義語ではない。材料の粒子サイズが結晶サイズより大きい場合があり、多くの場合、その可能性が高い。本発明のある種の実施形態では金属酸化物材料の平均粒子サイズは、約100nm〜約100μmの間、より特に、約500nm〜約50μmの間、更により特に約1〜約25μmの間である。また、金属酸化物材料の表面積は、約10〜約1,000m/gの間、より特に約20〜約800m/gの間、更により特に約50〜約700m/gの間である。更に、ここに記載される金属酸化物材料の物理的特性、合成方法、および取扱いは、本発明による誘電材料において用いられうる金属炭酸塩にも、同等に適用可能であることが理解される。このように、いかなる特性の範囲、方法、または手順においても、「金属炭酸塩」という用語を「金属酸化物」という用語の代わりに置き換えることができる。
【0020】
また、金属酸化物材料は、その誘電体特性を改善するために、1または2以上の追加の材料でドーピングすることができる。そのようなドーパントとしては、鉛、マグネシウム、タンタル、ランタン、それらの酸化物、またはフッ化物(例えば、CaF)が含まれる。1つの特定の実施形態においては、上述の1つでドーピングしたチタン酸塩が提供される。
【0021】
単一の金属酸化物材料は、参照として本書に組込まれる、Utamapanya et al, Chem. Mater. 3:175−181(1991)に記載のエーロゲル法によって合成しうる。
【0022】
混合金属酸化物材料は、単一金属酸化物材料とアルカリもしくはアルカリ土類金属の炭酸塩、硝酸塩、または水酸化物のようなアルカリまたはアルカリ土類前駆体材料との間の固相反応を介して合成しうる。各固体反応物質は、細粒または粉末の形式で、かつ所望の比率で完全に混合されて提供される。ある種の実施形態では、これらの成分は、湿式粉砕され、次いで反応の前に乾燥される。金属酸化物成分は、NanoScale Corporation社(Manhattan,Kansas)から商品名NanoActive(R)として販売されている高表面積金属酸化物材料でありうる。以下で更に記載するように、最終材料の誘電体特性は、各反応物質の比率によって影響されうる。反応物質混合物は、次に、約600℃〜約1100℃の温度まで加熱される。加熱工程中に、金属酸化物および前駆体材料が反応し、最終の混合金属酸化物種を形成する。また、この工程中に、CO(炭酸塩前駆体を用いた場合)などのガスが放出されうる。
【0023】
他の実施形態では、混合金属酸化物材料は、参照として本書に組込まれる同時継続出願の米国特許出願第11/759,106号に記載されるような、ゾル−ゲル法を用いて形成しうる。ゾル−ゲル化学反応は、一般に、2種またはそれ以上の液体前駆体間の均質液相化学反応を介する、固体生成物の形成を含む。
【0024】
ある種の実施形態では、上述の金属酸化物材料は、適切な固体マトリックス材料に組込まれ、その結果生成される誘電材料の、機械的強度および電気絶縁特性を改善する。固体マトリックス材料は、それ自体、高い機械的強度および良好な絶縁特性を有している。例示的なマトリックス材料としては、電子工学用途に用いられる電気絶縁性ポリマーが挙げられる。例示的なポリマーとしては、ポリイミド類、ベンゾシクロブテン(BCB)、ポリフェニルキノキサリン(PPQ)、およびフルオロポリマー類が含まれる。誘電材料の強誘電性成分は、単に混合、粉砕によって、または好ましくは液体ポリマー前駆体中でボトムアップ合成によって、ポリマーマトリックス中に組込まれうる。ボトムアップ法においては、固体強誘電性材料の形成は、重合化工程の前または工程中に、ポリマー前駆体中で行われる。その結果、すべての成分の最適な分散が行われ、それによって、誘電材料の機械的特性および絶縁特性が保存される。
【0025】
誘電材料は、次に、粉末または粒子を圧縮してペレットにするなどの、当業者にとって公知の任意の方法によって、所望の形状に形成しうる。また、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール、ポリビニルメタクリレート、アクリル樹脂、およびフタル酸ジオクチル ガラス結合剤のような結合材料も、誘電材料に組込み、製造段階における取扱い特性を改善することができる。
【0026】
誘電材料は、穏和な条件の焼成工程にかけ、材料の特性を変化させることができる。しかしながら、ある種の実施形態では、焼成工程は相対的に短時間の間(例えば、約1時間未満)約200℃を超えない温度で行われる。但し、多くの実施形態では、誘電材料に対して焼成は行われない。
【0027】
本発明により作製された金属酸化物を含有する誘電材料は、同一の元素組成の金属酸化物を含有する従来の誘電材料に比べて、はるかに高い比誘電率を示す。本発明の誘電材料は、一般に、20Hzのときに測定して約1400より上の比誘電率を示す。図に示すように、比誘電率値は、誘電材料に適用される周波数に依存して変動しうる。市販の材料に対する本材料の比誘電率の増加は、直流限界に近い、より低い周波数のときに、最も顕著である。本発明の他の実施形態では、誘電材料は、20Hzにおいて約2000より高い比誘電率値を示し、また、他の実施形態では20Hzにおいて約5000より高い比誘電率値を示しうる。本発明による誘電材料は、上述の金属酸化物を含有しうる、該金属酸化物からなりうる、または本質的に該金属酸化物からなるりうる、ことが理解される。また、誘電材料は、材料の比誘電率に有意な影響を与えることのない結合剤のような他の成分を含みうる。また、材料の比誘電率を増強するために、ポリマーマトリックスおよびドーパントのような他の成分も含んでもよい。
【0028】
粒子/結晶子の界面において適切な表面条件が生成されていることを条件として、小粒子および小結晶子サイズのために、ドメインサイズを小さくすることができることも見出されている。そのような表面条件は、被覆層、ドーパント、または添加材料の適切な選択を通じて達成される。ドメインサイズの縮小についての記載は、参照として本書に組込まれる、S. Gangopadhyay et al.,著の「Magnetic Properties of Ultrafine Iron Particles(超微細鉄粒子の磁気的特性)」(Phys.Rev.B,vol.45,pp.9778−9787,1992)の中に見出すことができる。
【0029】
また、比誘電率は、混合金属酸化物材料中の金属種の比率に依存して影響を受けうる。図8を参照すると、誘電体を含む金属酸化物材料中の存在するバリウム対チタンの比率を変更することによって、比誘電率値がどのように変動するかが図示されている。化学量論的量のバリウムおよびチタン(1:1の比率)を用いて、広範囲の周波数帯域において、ほとんど水平な比誘電率値を得ることができる。しかしながら、チタンの量を減らして、バリウム対チタンの比率を1:0.95にすると、低周波数において、比誘電率が増加する。バリウム対チタンの比が0.9:1になるように、チタンの量を過剰にすると、比誘電率値は、低周波数の測定では、著しく上昇する。後者の2つの例では、比誘電率値は、広範囲の周波数領域において水平に維持されることはなく、高周波数領域では低下する傾向がある。なお、比誘電率の実際の値は、必ずしも、他の図面に示される値と一致してはいなかった。これらの不一致は、採用した特定の試験方法および比誘電率値の計算方法に帰属するものと思われる。同じ試験手順を用いて試験を行った市販のStremおよびTPL材料の値を参考として示す。これらの不一致があるにしても、図8に示すデータは、バリウム対チタンの比率を調整することによって、比誘電率値を変化させることが可能であることを示すものとして有用である。
【0030】
このように、混合金属酸化物材料中の金属種の比率を調整して所望の特性を有する誘電材料を得ることができる。ある種の実施形態では、アルカリまたはアルカリ土類金属対第2の金属(群IIIB、IVBおよびVBから選択される)の比率は約0.25:1から約1:0.25の間である。他の実施形態では、この比率が約0.5:1から約1:0.5の間であり、更に他の実施形態ではこの比率が約0.75:1から約1:0.75の間である。金属種の比率は、金属酸化物材料を形成するための反応物質の比率をコントロールするだけで調整できる。
【0031】
広範な周波数領域において実質的に平坦な比誘電率値を有する誘電材料は、コンピュータ回路のような、周波数が変化する、電子工学用途に用いるのに特に適している。これらの用途においては、金属種の比率が、周波数領域において、より平坦な比誘電率値を提供するようなものであるような、混合金属酸化物を含有する誘電材料を用いることが好ましい。直流(DC)用途においては、周波数の変更に伴って比誘電率値が変動することは問題にはならない。したがって、非常に高い比誘電率値が望まれるようなある種の用途では、金属種の比率を、例えば図6に示すように調整して、DC限界のとき、またはその近くで最も大きな比誘電率値を得るようにすることができる。このように、本誘電材料は、広範な電子工学用途に用いるのに適している。
【0032】
また、本発明により作製される誘電材料は、増強された散逸または電気損失特性を示しうる。散逸率は、誘電材料の散逸または損失特性を定量化する1つの手段である。材料の散逸率は、本質的には、材料の容量電力に対する材料の抵抗電力損失の比率である。コンデンサにおいては、散逸率(DF)は、その容量性抵抗(X)に対するコンデンサの抵抗(R)の比率であり、すなわち、
DF=R/X
であり、式中、X=1/ωCであり、またωは角周波数(2πf)である。一般に、低いDF値は、高品質のコンデンサを示すものである。
【0033】
図9を参照すると、本発明により作製された3個のナノ結晶性チタン酸バリウム試料(NA−BaTiO #1、#2、および#3)の散逸率を、各周波数において測定した。これらのナノ結晶性誘電材料は、化学構造の観点からは本質的に同一(BaおよびTiの比率が1:1)であるが、異なる方法によって製造された。NA−BaTiO #1は、固相反応を介して生成し、次に圧縮してペレットにした。ペレットを合わせて保持するのを補助するために、少量のポリビニルアルコール結合剤を添加した。NA−BaTiO #2は、ゾル‐ゲル作成法により生成した。NA−BaTiO #1および#2の両方とも、1100℃で10時間焼成した。NA−BaTiO #3は、前駆体材料を圧縮してペレットにし、ペレット状態においてチタン酸バリウム形成反応を起こし、その後の焼成は行わないという方法を用いて製造した。その結果、NA−BaTiO #1および#2は、低周波数において、驚くほど低い散逸率を示すことがわかった。NA−BaTiO #3の散逸率は、同じ低周波数においては、高かったが、すべての材料は、1000Hzの周波数において、比較対象としての市販材料の性能を上回っていた。このように、本発明のある種の実施形態では、誘電材料は、1000Hzのときの測定で約0.1未満の散逸率を有する。他の実施形態では、誘電材料は100Hzのときの測定で約0.2未満の散逸率を示す。
【0034】
ここに記載した誘電材料は、回路基板に取付けられうる図1のコンデンサ10のようなコンデンサに用いるのに特に適している。また、誘電材料は、多層セラミックコンデンサ、ポリマー膜コンデンサ、複合膜コンデンサ、埋込み型細動除去器、高電力源、エネルギー蓄積装置、粒子線加速器、電気装甲、電気銃、および弾道ミサイルなどの民生用および軍事用の両用途における他の型のコンデンサにおいても用いられうる。
【実施例】
【0035】
(実施例)
以下の実施例は、特に低周波数において並外れて高い比誘電率を示す、本発明による混合金属酸化物材料の1つの実施形態を記載するものである。なお、この実施例は、例を示すために提供されているものであり、これによって本発明の全体の範囲をなんら限定するものではない。
【0036】
この実施例では、NanoActive(R) TiO(NanoScale Corporation社、Manhattan、Kansasから販売)と市販の炭酸バリウムとの間の固相反応を用いてチタン酸バリウムを合成した。このチタン酸バリウム化合物は、本書ではNA−BaTiOと記載する。化学量論的量の各反応物質の粉末を完全に混合した。以前の実験では、混合は、乳鉢と乳棒を用いて行ったが、より均質な混合物を得るために、約100gの化学量論的量の反応物質の混合物を、高強度メディア微粉砕機中で、30分間粉砕した。反応物質の混合物を、次に、空気雰囲気下で、マイクロウエーブ炉(CEM社製)内で、600℃〜1100℃の範囲の温度まで加熱した。BaCOは、約800℃においてCOが消失し、オルトチタネート(BaTiO)を形成した。そして950℃付近でメタチタネート(BaTiO)の形成が開始する。更に温度が上がると、BaTiOの形成が完了し、他相が消失する。この混合物の特性は、1000℃において1時間でBaTiOが形成されることを示した。この反応は、一般に、次式で表される。
BaCO(s)+TiO(s)→BaTiO(s)+CO(g)
【0037】
物理的特性、電子的特性、およびコストの比較のために、2つの市販の粉末を用いた。これらの粉末の製造/流通はTPL,Inc.,社(Albuquerque,New Mexico)、およびStrem Chemicals,Inc.,社(Newburyport,Massachusetts)であった。合成チタネート粉末は、XRDを用いて、それらの相に関して、特性決定を行い、図2に示すように市販のチタネート粉末と比較した。3つの型のBaTiOのXRDパターンは本質的に同一である。
【0038】
また、合成および市販のチタネート粉末を、比表面積、結晶サイズ、および粒子サイズに関して特性決定を行った。これらの分析の結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
NA−BaTiOの比表面積は、StremおよびTLP材料のそれに比べて有意に小さく、一方、その粒子サイズは、両市販材料より大きい。NA−BaTiOの結晶サイズは、Strem材料より大きいが、TLP材料より小さい。
【0041】
合成および市販チタネート粉末に関する電気的特性を、直径12.7mm、厚み約1〜2mmの円板状に圧縮した試料を用いて測定した。図2は、誘電材料の円板14を備えるコンデンサ12の構成の概略を示す(必ずしも正しく縮尺されているわけではない)。すべてのペレットは、CARVER社の実験室用プレス機(C型)を用い、1対のステンレス鋼製金型および5,000〜10,000lbsの負荷を用いて圧縮した。次に円板を空気雰囲気下で、各種の温度で、かつ各種の滞留時間の間、焼成した。各円板の両方の平らな表面をStructure Probe,Inc社の銀ペンキで塗装し、導電面16、18(電極)を作成した。100℃で、12時間、円板を加熱することにより、このペンキを乾燥した。
【0042】
比誘電率の測定は、20Hz〜1MHzの周波数帯域で動作可能な、HP4284A Precision LCR測定器を用いて行った。測定は、100Hz、400Hz、1kHz、10kHz、100kHzおよび1MHZで行った。比誘電率値は、以下の平板コンデンサの式を用いて、測定静電容量および円板寸法から計算した。:
C=εε(S/d)
式中、εは真空の誘電率8.854x10−12F/mであり、εは試料の比誘電率であり、Sは、1つの導電板の表面積であり、dは両方の導電板間の距離である。
【0043】
図3は、各種の周波数において測定した、未焼成のNA−BaTiOおよびStrem材料に関する比誘電率を示す。NA−BaTiOは、Strem材料に比べて、特に低周波数において、顕著に高い比誘電率値を示した。
【0044】
合成および市販の粉末を、各種の温度で焼成し、電気的特性に対する焼成条件の影響を調べた。焼成BaTiOに関する電気的測定値から得られた結果を図5〜7に示す。特定の焼成温度および時間はそれほど重要ではないものの、得られたデータは、焼成が比誘電率の最大値を有意に低下させることを示した。焼成された試料は、20Hzにおいて、1400〜2200の範囲の比誘電率を示した。すべてのケースで、NA−BaTiOは、両市販材料に比べて、誘電率の、有意に高い低周波限界を示した。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明により合成されたナノ結晶性BaTiOは、市販の形態のBaTiOに比べて、特異な特性を有する。第一に、本発明による材料が低周波数において非常に高い比誘電率を示すことが観察された。XRD、BET、および粒子サイズ特性と、低周波数においてNA−BaTiOに関して認められた非常に高い比誘電率値との間に直接の相関が現れないことは驚くべきことである。図3では、比誘電率値が20Hzにおいて50,000に到達し、DC限界においても同等、またはそれより高い比誘電率が予想されるような、劇的な効果が示されている。これによって、一般にDCモードで動作する高エネルギー密度コンデンサおよび電気装甲用途において、ナノ結晶性BaTiOが有利に用いられうるという可能性が出てくる。理論的には、コンデンサ内に蓄積されたエネルギーは、電圧条件が一定だとすると、用いられる誘電材料の比誘電率に比例する。従って、通常は1000未満であるような、はるかに低い比誘電率を有する従来の様式のこの材料に比べて、ナノ結晶性BaTiOは、50倍の改善をもたらす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ粒子性またはナノ結晶性混合金属酸化物、または金属炭酸塩を含有し、比誘電率値が20Hzにおいて約1400より上である誘電材料。
【請求項2】
前記比誘電率値が20Hzにおいて約2000より上である請求項1に記載の材料。
【請求項3】
前記混合金属酸化物がアルカリおよびアルカリ土類金属からなる群から選択される第1の金属を含有する請求項1に記載の材料。
【請求項4】
前記混合金属酸化物がCAS周期表のIIIB、IVB、またはVB族から選択される第2の金属を含有する請求項3に記載の材料。
【請求項5】
前記材料が前記第1および第2の金属とは異なる物質によってドーピングされる請求項4に記載の材料。
【請求項6】
前記ドーピング物質が、鉛、マグネシウム、酸化ランタン、フッ化物、およびそれらの混合物からなる群から選択される請求項5に記載の材料。
【請求項7】
前記第2の金属がチタンまたはニオブである請求項6に記載の材料。
【請求項8】
前記誘電材料が金属炭酸塩を含有する請求項1に記載の材料。
【請求項9】
前記金属炭酸塩が炭酸バリウムまたは炭酸ストロンチウムである請求項8に記載の材料。
【請求項10】
前記材料が、前記金属酸化物が分散されているマトリックスを更に含む請求項1に記載の材料。
【請求項11】
前記マトリックスはポリイミド類、ベンゾシクロブテン(BCB)、ポリフェニルキノキサリン(PPQ)、フルオロポリマー類、およびそれらの混合物からなる群から選択されるポリマーである請求項10に記載の材料。
【請求項12】
前記誘電材料が1000Hzにおいて約0.1未満の散逸率を有する請求項1に記載の材料。
【請求項13】
ポリマーマトリックス中に分散したナノ粒子性またはナノ結晶性混合金属酸化物を含有し、比誘電率値が20Hzにおいて約1400より上である、誘電材料であって、前記混合金属酸化物が、アルカリおよびアルカリ土類金属からなる群から選択される第1の金属とCAS周期表のIIIB、IVBおよびVB族から選択される第2の金属とを含有し、前記ポリマーがポリイミド類、ベンゾシクロブテン(BCB)、ポリフェニルキノキサリン(PPQ)、フルオロポリマー類、およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1の構成要素を含有する誘電材料。
【請求項14】
以下の工程を含む誘電材料の製造方法:
(a)ナノ粒子性またはナノ結晶性金属酸化物をアルカリまたはアルカリ土類金属化合物を含有する前駆体材料と混合する工程;および
(b)前記混合物を、少なくとも約950℃の温度に加熱し、それによって混合金属酸化物材料を形成する工程。
【請求項15】
以下の工程を更に含む請求項14に記載の方法:
(c)絶縁マトリックス材料を用いて前記混合金属酸化物を結合する工程。
【請求項16】
前記マトリックス材料はポリイミド類、ベンゾシクロブテン(BCB)、ポリフェニルキノキサリン(PPQ)、フルオロポリマー類、およびそれらの混合物からなる群から選択されるポリマーである請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記方法が、前記誘電材料の焼成工程無しで行われる請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記前駆体材料はアルカリおよびアルカリ土類金属の炭酸塩、硝酸塩および水酸化物からなる群から選択される請求項14に記載の方法。
【請求項19】
ナノ粒子性またはナノ結晶性金属酸化物または金属炭酸塩を含有する誘電材料を含むコンデンサであって、前記誘電材料の比誘電率値が20Hzにおいて約1400より上である、コンデンサ。
【請求項20】
前記金属酸化物が混合金属酸化物である請求項19に記載のコンデンサ。
【請求項21】
請求項13の誘電材料を含むコンデンサ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公表番号】特表2010−507187(P2010−507187A)
【公表日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−519710(P2009−519710)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【国際出願番号】PCT/US2007/073498
【国際公開番号】WO2008/008977
【国際公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(504450626)ナノスケール コーポレーション (11)
【Fターム(参考)】