電子放出素子および該電子放出素子を用いた画像表示装置
【課題】 電子放出効率が高く、占有面積を増加を抑制しながら十分な抵抗値を有する抵抗層を備えた信頼性の高い電子放出素子を提供する。
【解決手段】 カソード電極と、該カソード電極に電気的に接続された電子放出体と、該カソード電極と該電子放出体との間に設けられた抵抗層と、を少なくとも有する電子放出素子であって、前記抵抗層は前記電子放出体と同じ材料で構成されており、前記抵抗層の膜密度が前記電子放出体の膜密度よりも低い。
【解決手段】 カソード電極と、該カソード電極に電気的に接続された電子放出体と、該カソード電極と該電子放出体との間に設けられた抵抗層と、を少なくとも有する電子放出素子であって、前記抵抗層は前記電子放出体と同じ材料で構成されており、前記抵抗層の膜密度が前記電子放出体の膜密度よりも低い。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子放出素子及びこれを用いた画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電界放出型電子放出素子では、一般的には、電子放出体(エミッタ)と、ゲート電極との間に電圧を印加することで、電子放出体の先端の表面に強電界が生じ、電子放出体の表面から電子が真空中に電界放出される。電界放出型電子放出素子を基板(背面板)上に多数配列することで電子源が構成できる。そして、CRT等の様に、電子線の照射によって発光する蛍光体などの発光体を設けた基板(前面板)と、上記した背面板とを対向させ、両基板の周囲を封着すれば、画像表示装置を構成することができる。
【0003】
電子放出部から電界放出した電子が、一旦、対向するゲート電極に衝突、散乱した後に、放出電子として取り出される電子放出素子もある(特許文献1)。
【0004】
電界放出型電子放出素子では、電子放出電流の安定化のために、またはラッシュカレント(放電電流)の抑制のために、電子放出体とカソード電極との間に抵抗(ヒューズを含む)を設けることが知られている。
【0005】
特許文献2には、電子放出体とカソード電極とを積層し、電子放出体とカソード電極の間に抵抗層を設けることが開示されている。特許文献3には、上記抵抗層のピンホール等の欠陥を許容できるように、エミッタの下に位置する抵抗層の下にはカソード電極を設けない構成が開示されている。特許文献4には、電子放出素子毎に、ゲート電極に接続されたゲート配線の一部を可溶抵抗体とすることが開示されている。
【特許文献1】特開2001−167693号公報
【特許文献2】特開平1−154426号公報
【特許文献3】特開平4−292831号公報
【特許文献4】特開平4−284324号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記抵抗体を電子放出体とは異なる材料で形成する場合には、製造プロセスが煩雑になってしまいコストが上昇するという課題を抱えている。同一材料で形成する場合には、電子放出体と抵抗層を積層する形態では抵抗を大きくするために膜厚を薄くする必要があり、高度な膜厚制御技術が要求される。また、薄くしすぎるとピンホールのような欠陥が出来てしまい、このピンホール欠陥を回避するために構成を変えたとしても専用のパターニングプロセスが必要になる為、コストアップに繋がる。ゲート側に抵抗を持たせた場合でも、専用のパターニングプロセスが必要になり、結果的にコストアップに繋がる。また、電子放出体と抵抗層を積層せず基板上に並設することが考えられるが、プロセスが煩雑になるだけでなく、抵抗値を大きくするには抵抗層の長さを大きく(引き回し面積を大きく)する必要がある。その結果、電子放出素子が占める面積(抵抗の引き回し面積)が大きくなり、画像表示装置の高精細化に対して不利である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために成されたものであって、カソード電極と、該カソード電極に電気的に接続された電子放出体と、該カソード電極と該電子放出体との間に設けられた抵抗層と、を少なくとも有する電子放出素子であって、前記抵抗層は前記電子放出体と同じ材料で構成されており、前記抵抗層の膜密度が前記電子放出体の膜密度よりも低いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
電子放出体と抵抗層を同じ導電性材料で構成し、その導電性材料の膜密度を変えるだけで電子放出体と抵抗層を簡易に製造することが可能となり、結果的に製造コストの上昇を抑えることができる。また、縦型の電子放出素子の構成では、絶縁層の側面に抵抗層を形成することで、高抵抗化を達成し、電子放出素子が占める面積を小さくすることが出来る。つまりは高精細な画像表示装置に好適な電子放出素子の提供が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0010】
まず本実施の形態に係る電子放出素子の一例の構成について述べる。
【0011】
図1(a)は電子放出素子の平面模式図であり、図1(b)は図1(a)におけるA−A線(図1(c)のA−A線)での断面図である。図1(c)は図1(b)における矢印の方向から電子放出素子を眺めたときの側面図である。
【0012】
基板1上には、第1絶縁層3と第2絶縁層4とが積層されることで構成された絶縁性の段差形成部材10と、カソード電極2とが、並設されている。そして、抵抗層9Aが、第1絶縁層3のカソード電極2側の側面である斜面上に、該斜面に沿って、配置されている。電子放出体6Aは、その少なくとも一部が第1絶縁層3の上面の上に配置されている。また、電子放出体6Aは、その少なくとも一部が、絶縁層3の角部32の上に配置されている。抵抗層9Aと電子放出体6Aとが接続されている。尚、図1では、理解を容易にするために、抵抗層9Aと電子放出体6Aとを明確に分けて図示しているが、抵抗層9Aと電子放出体6Aは同じ材料であるので、実際にはその境界は明確になっていない形態も有り得る。
【0013】
従って、抵抗層9Aと電子放出体6Aとを有する導電性膜(9A+6A)の一部(9A)が第1絶縁層3のカソード電極2側の側面である斜面上に、該斜面に沿って、配置されていると言うことができる。また、導電性膜(9A+6A)は、第1絶縁層3の斜面(側面)、上面、角部32を覆っていると言うことができる。また、導電性膜(9A+6A)は、カソード電極2から、段差形成部材10の凹部(リセス部)7内まで延在していると言うことができる。
【0014】
また、上記導電性膜(9A+6A)は、抵抗部9Aと電子放出部6Aとを備えると言い換えることもできる。即ち、この場合には、抵抗層は抵抗部、電子放出体は電子放出部に相当することになる。
【0015】
尚、第1絶縁層3の角部32は、第1絶縁層3の上面と側面とが接続している部分(あるいは繋がっている部分)である。また、角部32は、第1絶縁層3の上面(側面)から側面(上面)に繋がる部分と言うこともできる。尚、角部32は、曲率を持たない形態(即ち上面の縁と側面の縁を突き当てた形態)とすることもできるし、曲率を持つ形態とすることもできる。すなわち、第1絶縁層3の上面と側面とが、所定の曲率半径を有する部分(角部32)を介して繋がっている形態とすることができる。角部32が曲率を持つ形態であれば、安定して導電性膜(9A+6A)を形成できるので、電子放出素子の電子放出特性の観点から有利である。
【0016】
そして、抵抗層9Aの一方の端部は、カソード電極2に電気的に接続しており、抵抗層9Aの他方の端部は、電子放出体6Aに電気的に接続している。
電子放出体6Aは先端が尖った突起部と言い換えることもできる。従って、突起部は、第1絶縁層3の角部(第1絶縁層3の上面と側面とが接続する部分)32上に設けられている。突起部の先端は、第1絶縁層3の上面よりも基板1の表面から離れており、且つ、尖っている。
【0017】
ゲート電極5は、ここで示す例では、第1絶縁層3との間に設けられた第2絶縁層4によって、第1絶縁層から所定距離(第2絶縁層の厚み)だけ離れている。後述するように、ゲート電極5上には導電性膜6Bが設けられる場合がある(図8参照)。そのような場合には、部材5と部材6Bとを一纏めにしてゲート電極と呼ぶこともできる。尚、ゲート電極5の配置位置は、図1に示す形態に限られるものではない。即ち、電子放出体6Aに電界放出可能な電界を印加することができるように、電子放出体6Aと所定の間隔を置いて、配置されればよい。その場合には、第2絶縁層4は必要としない形態も有り得る。
【0018】
カソード電極2よりもゲート電極5の電位が高くなるようにして、駆動電圧をカソード電極2とゲート電極5の間に印加することで電子が電子放出体6Aの先端から電界放出される。電子放出体6Aは、その表面に、低仕事関数材料からなる被膜を有する場合もある。その場合には、電子放出体6Aの先端上に位置する低仕事関数材料の膜から電子が電界放出される。尚、図1では不図示であるが、基板1の上方(ゲート電極5よりも離れた位置)には、ゲート電極よりも高電位に規定されたアノード電極20が配置される(図13参照)。
【0019】
また、ここでは、段差形成部材10を構成する第1絶縁層3の側面が傾斜した斜面で構成されているが、傾斜角は、基板1の表面に対して、90°未満の角度とすることが後述する製造方法との兼ね合いから好ましい。尚、第2絶縁層4の側面(図8(c)参照)の基板1との角度は、導電性膜6Aの突起部からの電子放出の妨げにならない限り、特に限定されるものではない。
【0020】
上記した本実施形態の電子放出素子は、上述した導電性膜(9A+6A)を、図2に示す様に、短冊状に、複数に分割した形態とすることもできる。
【0021】
このような形態では、図2(a)のA−A線における断面図は、図1(b)と同様になる。一方、図1(a)に対応する平面図は図2(A)の様になり、図1(c)に対応する側面図は図2(b)の様になる。図2では、図1と同じ部材については、図1で用いた符号と同じ符号を用いている。
【0022】
図2において、短冊状に設けられた、複数の抵抗層(90A1〜90A4)は、電極2に共通に接続されている。また、複数の電子放出体(60A1〜60A4)の各々は、対応する抵抗層(90A1〜90A4)を介して電極2に接続されている。このような形態とすることで、例えば1つの電子放出体とゲート電極とが放電などによって短絡して破壊され、電子が放出されなくなっても、他の電子放出体からの電子放出を維持することができる。
【0023】
電子放出体6Aは、図1(b)などで示されるように、凹部7内に、段差形成部材10の側面と凹部7との境界(第1絶縁層3の角部32)から距離xだけ、入り込んでいる。言い換えると、電子放出体6Aは、凹部7の深さ(奥行き)方向(図1(B)では−X方向)に、第1絶縁層3の上面と距離xで接している。
【0024】
距離xをもって凹部7内に、電子放出体6Aが入り込むことで、以下の三つのメリットが生じる。
(1)電子放出部となる電子放出体6Aが第1絶縁層3と広い面積を持って接触し、機械的な密着力があがる(密着強度の上昇)。
(2)電子放出部となる電子放出体6Aと第1絶縁層3との熱的な接触面積が広がり、電子放出部で発生する熱を効率よく第1絶縁層3に逃がすことが可能となる(熱抵抗の低減)。
(3)第1絶縁層3の上面に対して電子放出体6Aの側面が傾斜を備えることで、絶縁層―真空−金属界面で生じる三重点での電界強度を弱め、異常な電界発生による放電現象を防止することが可能となる。
【0025】
尚、距離xは、電子放出体6Aの、凹部7の表面と接する部分の端部から凹部7の縁までの距離と言う事が出来る。換言すると、第1絶縁層3の上面と導電性膜6Aとが凹部7の深さ方向に接する長さと言う事ができる。
【0026】
次に、抵抗層9A(90A1〜90A4)について説明する。
【0027】
図3は本実施形態の電子放出素子の模式的な斜視図のであり、L、T、Wはそれぞれ抵抗層9Aの形状を規定するための尺度である。その他の符号は図1、図2で用いた符号が示す部材と同じ部材を指す。Tは抵抗層の膜厚、Lは抵抗層の長さ(電子放出体6Aからカソード電極2までの長さ)、Wは抵抗層の幅である。
【0028】
抵抗層9A(90A1〜90A4)は、放電などによって、ある瞬間に電子放出体6Aとゲート電極5が短絡してラッシュカレントが流れた際に、抵抗層が瞬時に溶断される。これにより、電子放出素子としてのダメージを低減する役割を備えることができる。
【0029】
このような役割は特に、図2に示したような、複数の抵抗層(90A1〜90A4)を備える形態の場合に特に有効である。即ち、1つの電子放出素子内で、短絡箇所に近い抵抗層が溶断することで、他の電子放出体からの電子放出は維持できる。結果、1つの電子放出素子の電子放出量は減るが電子放出素子自体が動作不能になることを回避できる。尚、図1に示すような形態では、抵抗層9Aは、1つの電子放出素子が短絡した場合に、他の電子放出素子までもが動作不能になるようなダメージを受けることを避けることができる。
【0030】
短絡が起こる原因としては、放電や、凹部7内の残渣や、凹部7周辺への不純物の付着や、庇状に張り出したゲート電極5に放出電子が衝突してゲート電極が発熱することによるゲート電極5の変形など、様々な要因が考えられる。例えば、電子放出中はゲート電極5と電子放出体6Aの間が数十メガV/cmもの強電界になっている。そのため、電子放出体6A近傍に飛散または吸着しているイオン化された不純物がクーロン力によって引き付けられ、電子放出体6Aとゲート電極5の間に吸着することも考えられる。
【0031】
短絡した際に抵抗層9A(90A1〜90A4)が溶断される機構は、主にジュール熱による膜の消失である。下記式1に示す関係から、発生するジュール熱によって、抵抗層を構成する材料が、その蒸気圧温度に達したときに溶断される。
T=I2(Rτ)/(mc)=J2(ρτ)/(σc)・・・・(式1)
尚、上記式1において、T:温度、I:ラッシュカレント時の電流値、R:膜の抵抗値、τ:ラッシュカレントの時間、m:膜の質量、c:比熱、J:ラッシュカレントの電流密度、ρ:膜の抵抗率、σ:膜密度である。
【0032】
式1からわかるようにラッシュカレントが流れた際の温度Tは、抵抗率ρに比例し、密度σに反比例する。金属膜や半導体膜における、抵抗率と密度の関係は反比例の関係である。即ち、同じ材料であれば、膜密度が高いほど、抵抗率は低い。また、膜の被覆率が50%近辺で密度に対する抵抗率の傾きが急峻になることが知られている(文献Journal of Applied Physics 100(2006)113709)。
【0033】
被覆率が数%では島間トンネルによる導電機構であり、島状の核同士の距離で抵抗率が決まる。被覆率が50%付近でようやく島同士がネットワーク状に繋がり始め急激に抵抗率が低下する。被覆率が60%を超えると被覆率に対する抵抗率の変動幅が小さくなる。
【0034】
図4では、スパッタ法や蒸着法で成膜されたモリブデン膜で得られた膜密度(g/cm3)と抵抗率(Ωm)の関係を示している。例えば、モリブデンの場合、充填密度(Packing densitiy)が50%となる膜密度(5.14g/cm3)近辺に急峻な傾きを持つ。このように、金属膜や半導体膜では抵抗率と密度の関係は反比例の関係にある。へ
一方、抵抗層9A(90A1〜90A4)として使用する場合、抵抗層のバラツキを生みやすくなる要因となり、結果として電子放出特性のバラツキを生んでしまうために、膜密度に対して抵抗率の傾きが小さいことが望ましい。
【0035】
例えば、膜密度が5.14g/cm3から5.04g/cm3へと、0.1g/cm3変化した場合には、およそ抵抗率は59Ωm変化する。変化率としては590である。同様の計算を行った場合、変化率を10%程度に抑えるためには、膜密度として6.0g/cm3以上必要である。この観点から、抵抗層9A(90A1〜90A4)の膜密度としては、6.0g/cm3以上であることが好ましい。
【0036】
次に、抵抗層9A(90A1〜90A4)と電子放出体6Aの材料にモリブデンを用いた場合の抵抗層の溶断機構について述べる。
【0037】
モリブデンの比熱は0.25J/gKである。例えば、下記表1に示すよう抵抗層9Aの形状とラッシュカレントの時間を設定した場合には、上述した式1を用いて、図5に示すようなラッシュカレントの電流値と、抵抗層の温度についての比例関係が得られる。
【0038】
【表1】
【0039】
膜密度が疎になる(小さくなる)にしたがって比例曲線が左側にシフトしていくことが読み取れる。例えば、一般的なFEDの真空度である1×10−6Pa程度におけるモリブデン材料の蒸気圧温度は1600℃である。従って抵抗層の温度が1600℃を超えると溶断される。
【0040】
図5に1600℃を一点鎖線で示してあり、ラッシュカレントによる抵抗層の温度上昇曲線において、一点鎖線を超えると溶断されることになる。
【0041】
図6は図5より算出した、膜密度と抵抗層が溶断する電流値の関係を示している。同じ形状の抵抗層であっても、膜密度を変えてやることで溶断する電流閾値を規定できる。
【0042】
膜密度が疎になるほど溶断されやすくなり、ヒューズ効果を発揮しやすくなっていることが分かる。一方、膜密度が密になると溶断する電流値が数mAと大きくなってしまう領域が存在する。ゲート電極5の材料は数mAもの電流値が流れてしまうと、図7に示すように変形・消失を伴い、結果的に他の正常な電子放出体60A1、60A2からの電子放出が行えなくなってしまう。
【0043】
ゲート電極5の材料の種類や形状にもよるが、より安定に使用するためには1mA以下の電流値で使用することが望ましい。以上の観点から、抵抗層の材料にモリブデンを用いる場合の膜密度は8.5g/cm3以下であることが望ましい。
【0044】
以上から、モリブデンを用いた抵抗層9A(90A1〜90A4)は、その膜密度が、6.0g/cm3以上以上8.5g/cm3以下であることが望ましい。そして、抵抗層と同じ材料からなる電子放出体6A(60A1〜60A4)の密度(膜密度)は、抵抗層の膜密度よりも高ければよい。そのため、電子放出体6A(60A1〜60A4)の密度(膜密度)は、8.6g/cm3以上であればよく、その上限は特にはない。しかし、実用的には、10.3g/cm3以下とすればよい。安定性を考慮すると、電子放出体6A(60A1〜60A4)の密度(膜密度)は、9.0g/cm3以上であることが望ましい。
【0045】
以上説明した電子放出素子の製造方法について、図8(a)〜図8(h)、図14(a)〜図14(c)を参照して、その一例を説明する。図8(a)〜図8(h)は、製造工程を順に示した模式図である。
【0046】
まず、本実施形態の製造方法における一連の工程を簡単に説明し、その後、各工程について詳述する。
【0047】
(工程1)
第1絶縁層3となる絶縁層30を基板1の表面に形成し、続いて、第2絶縁層4となる絶縁層40を絶縁層30の上面に積層する。そして、絶縁層40の上面にゲート電極5となる導電層50を積層する(図8(a))。絶縁層40の材料は、絶縁層30の材料よりも、後述する工程3で用いるエッチング液(エッチャント)に対してエッチング量が多くなるように、絶縁層30の材料とは異なる材料が選択される。
【0048】
(工程2)
次に、導電層50、絶縁層40、絶縁層30に対するエッチング処理(第1エッチング処理)を行う。
【0049】
第1エッチング処理は、具体的には、フォトリソグラフィー技術等により導電層50上にレジストパターンを形成したのち、導電層50、絶縁層40、絶縁層30をエッチングする処理である。工程2により、基本的には、図1などに示した電子放出素子を構成する第1絶縁層3とゲート電極5が形成される(図8(b))。尚、図8(b)などに示す様に、この工程で形成される第1絶縁層3の側面(斜面)と基板1の表面とが成す角度が90°よりも小さい角度(θ)となるようにすることが好ましい。また、ゲート電極5の側面(斜面)と第1絶縁層3の上面(基板1の表面)とが成す角度が、第1絶縁層3の側面(斜面)と基板1の表面とが成す角度よりも小さくすることが好ましい。
【0050】
(工程3)
続いて、絶縁層40に対するエッチング処理(第2エッチング処理)を行う(図8(c))。
【0051】
工程3により、基本的には、図1等に示した電子放出素子を構成する第2絶縁層4が形成される。この結果、第1絶縁層3の上面の一部と第2絶縁層4の側面とからなる凹部7が形成される(図8(c))。また、工程3において、絶縁層40の側面がエッチングされるので第1絶縁層3の上面の一部が露出する。その結果、第1絶縁層3の上面と第1絶縁層3の側面である斜面とが接続している部分である角部32が露出する。
【0052】
(工程4)
ゲート電極5上に剥離層12を形成する(不図示)。
【0053】
剥離層の形成は、工程5で堆積する材料をゲート電極から剥離することが目的である。このような目的のため、例えばゲート電極を酸化させて酸化膜を形成する、あるいは電解メッキにて剥離金属を付着させるなどの方法によって剥離層12が形成される。
【0054】
尚、ここでは、ゲート電極5上に導電性膜(6B)を設けないようにするために剥離層12を設けたが、ゲート電極5上に導電性膜(6B)を設ける形態の場合には、本工程は省略できる。
【0055】
(工程5)
抵抗層9Aと電子放出体6Aを構成する材料からなる導電性膜60Aを、基板1の表面から、第1絶縁層3のカソード電極2側の側面となる斜面を経て、第1絶縁層3の上面に至るように、堆積する。即ち、導電性膜60Aは、第1絶縁層3の角部32の少なくとも一部を覆い、第1絶縁層3の斜面(側面)から第1絶縁層3の上面にかけて延在することになる。導電性膜60Aの密度が、第1絶縁層3の角部32の上(および第1絶縁層3の上面の上)に位置する部分の方が、第1絶縁層3の斜面上に位置する部分よりも、高くなる様に成膜することが好ましい。第1絶縁層3の角部32の上(および第1絶縁層3の上面の上)に位置する部分は、電子放出体6Aとなる部分である。また、第1絶縁層3の斜面上に位置する部分は、抵抗層9Aとなる部分である。
【0056】
また、同時に、導電性膜(6B)を構成する材料からなる膜60Bを、ゲート電極5の上に堆積することができる。
【0057】
この様にして、導電性膜60A(および60B)を形成する(図8(d))。
【0058】
図8(d)で示した例では、導電性膜60Aと導電性膜60Bとが接触するように成膜している。工程5では、導電性膜60Aと導電性膜60Bとが接触しないように、即ち、間隙を形成するように、導電性膜60Aと導電性膜60Bを成膜することもできる。
【0059】
しかしながら、詳しくは後述するが、間隙の大きさ(距離d)をより高精度に制御するためには、図8(d)に示すように、導電性膜60Aと導電性膜60Bとが接触するように成膜することが望ましい。
【0060】
(工程6)
続いて、導電性膜(60A、60B)に対してエッチング処理(第3エッチング処理)を行う。第3エッチング処理は導電性膜(60A、60B)の膜厚方向におけるエッチング処理を主眼とした処理である。
工程6により、導電性膜60Aの抵抗層9Aに相当する部分の膜厚を薄くし、抵抗層9Aを形成する。
【0061】
また、工程6により、工程5で導電性膜60Aと導電性膜60Bとを接触して形成した場合には、その間に間隙を形成することができる。また、工程6により、導電性膜60Aの端部(突起部)の先鋭化を行うことができる。また、凹部内に付着している余計な導電材料(導電性膜(60A、60B)を構成する材料)を除去することもできる。
【0062】
これらの結果、電子放出体6Aと抵抗層9Aからなる導電性膜(9A,6A)と、ゲート電極5上の導電性膜(6B)とが形成される(図8(e)、図8(f))。
【0063】
尚、工程6では、エッチング処理の前に導電性膜(60A、60B)の表面を酸化させる酸化処理を加える場合もある。また、工程6を、上記酸化処理と上記エッチング処理とを繰り返す工程とする場合もある。
【0064】
酸化処理とエッチング処理とを行うことで、単にエッチング処理する場合(図8(e))に比べて、図8(f)に示した様に、電子放出体6Aの好ましい形状を維持したままで、導電性膜60Aの抵抗層9Aに相当する部分のエッチング量の制御性が増す。また、電子放出体6Aの突起部の先端を、制御性よく、先鋭化出来る。また、導電性膜6Aと導電性膜6B又はゲート電極5との間隙8を制御性よく形成できる。
【0065】
その結果、より高い電子放出効率を有し、抵抗層9Aを備える電子放出素子を得ることができる。
【0066】
このように、工程6は、導電性膜(60A、60B)をその膜厚方向にエッチングするための処理である。尚、工程6では、導電性膜(60A、60B)の露出している表面が全てエッチャントに曝されることになる。
【0067】
(工程7)
剥離層をエッチングで取り除くことで、ゲート電極5上の導電性膜6Bを取り除く(不図示)。
【0068】
尚、工程4で剥離層12を形成せずに、ゲート電極5上に導電性膜6Bを設ける場合には、本工程は省略される。
【0069】
(工程8)
電子放出体6Aに電子を供給するためのカソード電極2を形成する(図8(g))。この工程は、他の工程の前や後に変更することもできる。
【0070】
基本的には、以上の(工程1)〜(工程8)により、図1に示した電子放出素子を形成することができる。
【0071】
以下、各工程についてより詳細に説明する。
【0072】
(工程1について)
基板1は電子放出素子を支持するための基板である。石英ガラス,Na等の不純物含有量を減少させたガラス、青板ガラスなどを用いることができる。基板1に必要な機能としては、機械的強度が高いだけでなく、ドライエッチング、ウェットエッチング、現像液等のアルカリや酸に対して耐性があることが挙げられる。また、画像表示装置に用いる場合は、加熱工程などを経るので、積層する部材と熱膨張率差が小さいものが望ましい。また熱処理を考慮すると、ガラス内部からのアルカリ元素等が電子放出素子に拡散しづらい材料が望ましい。
【0073】
絶縁層30(第1絶縁層3)を構成する材料は、加工性に優れる材料からなり、たとえば窒化シリコン(典型的にはSi3N4)や酸化シリコン(典型的にはSiO2)である。絶縁層30は、スパッタ法等の一般的な真空成膜法、CVD法、真空蒸着法で形成することができる。また絶縁層30の厚さは、数nmから数十μmの範囲で設定され、好ましくは数十nmから数百nmの範囲に選択される。
【0074】
絶縁層40(第2絶縁層4)を構成する材料は、加工性に優れる材料からなる絶縁性の膜であり、たとえば窒化シリコン(典型的にはSi3N4)や酸化シリコン(典型的にはSiO2)である。絶縁層40は、スパッタ法等の一般的な真空成膜法、CVD法、真空蒸着法で形成することができる。また絶縁層40の厚さは、絶縁層30よりも薄く、数nmから数百nmの範囲で設定され、好ましくは数nmから数十nmの範囲で選択される。
【0075】
尚、絶縁層30と絶縁層40を基板1上に積層した後に工程3にて凹部7を形成する必要がある。そのため、上記第2エッチング処理に対して、絶縁層30よりも絶縁層40の方がよりエッチング量が多い関係に設定する。望ましくは絶縁層30と絶縁層40との間のエッチング量の比は、10以上であることが好ましく、50以上であることが更に好ましい。
【0076】
このようなエッチング量の比を得るためには、例えば、絶縁層30を窒化シリコン膜で形成し、絶縁層40を酸化シリコン膜やリン濃度の高いPSGやホウ素濃度の高いBSG膜等で構成すれば良い。尚、PSGはリンシリケートガラスであり、BSGはボロンシリケートガラスである。
【0077】
導電層50(ゲート電極5)は導電性を有しており、蒸着法、スパッタ法等の一般的真空成膜技術により形成されるものである。
【0078】
ゲート電極5となる導電層50の材料は、導電性に加えて高い熱伝導率があり、融点が高い材料が望ましい。例えば、Be,Mg,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Al,Cu,Ni,Cr,Au,Pt,Pd等の金属または合金材料が使用できる。また、炭化物や硼化物や窒化物も使用でき、Si,Ge等の半導体も使用できる。
【0079】
また、導電層50(ゲート電極5)の厚さは、数nmから数百nmの範囲で設定され、好ましくは数十nmから数百nmの範囲で選択される。
【0080】
ゲート電極5となる導電層50は、カソード電極2に比べてその膜厚が薄い範囲で設定される場合があるので、カソード電極2の材料よりも低抵抗な材料であることが望ましい。
【0081】
(工程2について)
上記第1エッチング処理では、エッチングガスをプラズマ化して材料に照射することで材料の精密なエッチング加工が可能な、RIE(Reactive Ion Etching)を用いることが好ましい。
【0082】
RIEに用いるガスとしては、加工する対象部材がフッ化物を作る材料である場合には、CF4、CHF3、SF6などのフッ素系ガスが選ばれる。また加工する対象部材がSiやAlのような塩化物を形成する材料である場合には、Cl2、BCl3などの塩素系ガスが選ばれる。またレジストとの選択比を取るため、またエッチング面の平滑性の確保あるいはエッチングスピードを上げるため、水素、酸素、アルゴンガスの少なくともいずれかをエッチングガスに添加する。
【0083】
工程2により、基本的に、図1などに示した電子放出素子を構成する第1絶縁層3とゲート電極5と同一または略同一の形状が形成される。しかしながら、工程2以降に行われるエッチング処理で、第1絶縁層3とゲート電極5が全くエッチングされないことを意味する訳ではない。
【0084】
また、第1絶縁層3の斜面と基板1の表面とが成す角度(図8(b)にθで表示)は、ガス種、圧力、等の条件を制御することに所望の値に制御可能である。θは、90°よりも小さい角度(θ)とすることが好ましい。これは、工程5で第1絶縁層3の斜面に形成される導電性膜60A(導電性膜6A)の膜質(膜密度)を制御するためである。
【0085】
θが90°よりも小さい角度に設定することで、ゲート電極5のカソード電極側の側面は、第1絶縁層3のカソード電極側の側面よりも後退する。また、ゲート電極5の側面(斜面)と第1絶縁層3の上面(基板1の表面)とが成す角度が、第1絶縁層3の側面(斜面)と基板1の表面とが成す角度よりも小さくすることが好ましい。尚、第1絶縁層3の上面と第1絶縁層3の側面との成す角度は、180°−θとみなせる。
尚、θは、第1絶縁層3の側面において、角部32(図6(c)参照)から基板1方向へ接線を引いたときに、この接線と基板1とのなす角度で表すことができる。
尚、絶縁層3は基板1の表面に一般的に用いられる成膜方法によって形成されているので、絶縁層3の上面は基板1の表面(水平方向12)と平行(または実質的に平行)であると言える。即ち、絶縁層3の上面は基板1の表面と完全に平行である場合もあるが、成膜環境や条件などにより、通常、僅かに傾きを有することが考えられるが、このような場合も含めて、平行または実質的に平行の範疇である。
【0086】
(工程3について)
工程3では、エッチング液によって絶縁層40がエッチングされる量に対して、エッチング液によって絶縁層3がエッチングされる量が十分に低くなるようなエッチング液が選択される。
【0087】
上記第2エッチング処理は、例えば絶縁層40が酸化シリコンで形成され第1絶縁層3(絶縁層30)が窒化シリコンで形成されている場合、エッチング液は通称バッファードフッ酸(BHF)を用いればよい。バッファードフッ酸(BHF)はフッ化アンモニウムとフッ酸との混合溶液である。また、絶縁層40が窒化シリコンで形成され第1絶縁層3(絶縁層30)が酸化シリコンで形成されている場合は、エッチャントは熱リン酸系エッチング液を使用すればよい。
【0088】
工程3により、図1などに示した電子放出素子を構成する第2絶縁層4と同一または略同一のパターンが形成される。しかしながら、工程3以降に行われるエッチング処理で、第2絶縁層4が全くエッチングされないことを意味する訳ではない。
【0089】
凹部7の深さ(奥行き方向の距離)は、電子放出素子のリーク電流に深く関わる。凹部7を深く形成するほどリーク電流の値が小さくなる。しかし、あまり凹部7を深くするとゲート電極5が変形する等の課題が発生する。このため、実用的には30nm以上200nm以下に設定される。尚、凹部7の深さは、絶縁層3の側面(または角部32)から絶縁層4の側面までの距離と言い換えることもできる。
【0090】
(工程5について)
工程5において、導電性膜(60A、60B)は、蒸着法、スパッタ法等の真空成膜技術により形成される。
【0091】
導電性膜60Aの密度が、第1絶縁層3の角部32の上(および第1絶縁層3の上面の上)に位置する部分の方が、第1絶縁層3の斜面上に位置する部分よりも、高くなる様に成膜することが好ましい。このような成膜を行うことで、導電性膜60Aの、第1絶縁層3の上面(角部32)上に位置する端部が、突起形状(突起部)を有する形態とすることができる。即ち、図8(d)に示す様に、先端が尖った突起部を第1絶縁層3の上面(角部32)上に備える、導電性膜60Aを形成することができる。そして、導電性膜60Aの突起部の膜密度に比べて、導電性膜60Aの第1絶縁層3の斜面上に位置する部分の膜密度が低く形成される。その結果、工程6の第3エッチング処理により、突起部をより先鋭化することができる。導電性膜60Aの、第1絶縁層3の角部32の上(および第1絶縁層3の上面の上)に位置する部分である突起部は、電子放出体6Aとなる部分である。また、導電性膜60Aの、第1絶縁層3の斜面上に位置する部分は、抵抗層9Aとなる部分である。
【0092】
上記の様な成膜を行う為には、導電性膜60Aの成膜を指向性を有する成膜法によって行う。例えば、いわゆる指向性スパッタリング法や蒸着法を用いることができる。指向性を有する成膜方法を用いることで、導電性膜(60A,60B)の原料が、第1絶縁層3の上面および側面(並びにゲート電極5の上面および側面)に入射する角度を制御できる。
【0093】
指向性スパッタでは、具体的には、基板1とターゲットとの角度を設定した上で、基板1とターゲットの間に遮蔽板を設けたり、基板1とターゲット間の距離をスパッタ粒子の平均自由行程近傍にする等行う。スパッタ粒子に指向性を与えるコリメータを用いる、いわゆるコリメーションスパッタ法も上記指向性スパッタリング法の範疇である。このようにして、限られた角度のスパッタ粒子(スパッタされた原子またはスパッタされた粒子)のみが被成膜面(絶縁層30の斜面など)に入射される様にする。
【0094】
即ち、スパッタ粒子の第1絶縁層3の斜面に対する入射角度が、スパッタ粒子の第1絶縁層3の上面(角部32)に対する入射角度よりも小さい(浅い)角度になる様にすればよい。但し、スパッタ粒子の第1絶縁層3の上面(角部32)に対する入射角度は、スパッタ粒子の第1絶縁層3の斜面に対する入射角度よりも、より90度に近く設定する。このようにすることで、スパッタ粒子は、第1絶縁層3の斜面に対してよりも第1絶縁層3の上面(角部32)に対して、より垂直に近い状態で入射させることができる。このような成膜を行うことで、前述したような、導電性膜60Aの、第1絶縁層3の上面(角部32)上に位置する端部が、突起形状(突起部)を有する形態とすることができる。
【0095】
蒸着法では、真空度が10−2〜10−4Pa程度の高真空下で成膜を行うと、蒸発源から気化した蒸発物質は、衝突する可能性が低い。更に、蒸発物質の平均自由行程は概ね数百mm〜数m程度である為、蒸発源から気化した時の方向性が維持されて基板に届くことになる。このため、蒸着法は指向性を有する成膜方法となる。蒸発源を蒸発させる手法は、抵抗加熱、高周波誘導加熱、電子ビーム加熱などが有るが、対応可能な物質の種類及び加熱面積の関係から電子ビームを利用する方法が有効である。
【0096】
尚、工程2においてθを90°よりも小さい角度に設定することで、ゲート電極5のカソード電極2側の側面は、第1絶縁層3のカソード電極2側の側面よりも後退することは前述した通りである。その結果、本工程で上記したような指向性を有する成膜を行うことで、角部32の上には、側面(斜面)の上よりも、良質な膜が形成される。尚、「良質な膜」とは、ここでは「高密度な膜」または「膜密度の高い膜」と言い換えることができる。
【0097】
従って、工程2における第1エッチング処理によって形成される角度θを、より小さい角度にすれば、第1絶縁層3の上面により多くの良質な膜を形成できる。即ち、第1絶縁層3のカソード電極2側の側面に対する、ゲート電極5のカソード電極2側の側面の後退量を多くすれば、第1絶縁層3の上面により多くの良質な膜を形成できる。
【0098】
本工程では、導電性膜60Aと導電性膜60Bとが接触しないように、即ち、間隙を形成するように、導電性膜60Aと導電性膜60Bを成膜することもできる。また、ゲート電極5上に導電性膜6Bを設けない形態とする場合には、ゲート電極5と離れるように、導電性膜60Aを成膜する。
【0099】
電子放出素子では、電子放出体6Aとゲート電極5(導電性膜6B)との間に距離dの間隙を高精度に形成する必要がある。特に、複数の電子放出素子を均一性高く形成する場合には、各電子放出素子の間隙の大きさのバラツキを少なくすることが重要である。間隙の大きさ(距離d)をより高精度に制御するために、工程5において、導電性膜60Aと導電性膜60Bとが接触するように成膜することが望ましい。言い換えると、工程5において、導電性膜60Aとゲート電極5とが導電性膜60Bを介して接続するように成膜することが望ましい。そして、その後に、工程6における第3エッチング処理で、導電性膜60Aと導電性膜60Bとの間に間隙を形成することが望ましい。尚、間隙の形成を、上記工程4の成膜時間や成膜条件の制御等で行う場合も、凹部7内のどこかに、導電性膜60Aと導電性膜60Bとが、微小に接触した箇所(リーク源)が形成される可能性もある。そのため、工程5の後に、下記工程6における第3エッチング処理を行うことが望ましい。
【0100】
導電性膜60Aと導電性膜60Bは、同一材料でも良いし、異なる材料でも構わない。しかしながら、製造の容易性、エッチングの制御性から、導電性膜60Aと導電性膜60Bは同一材料で同時に成膜することが好ましい。
【0101】
導電性膜(60A、60B)の材料は、導電性があり、電界放出する材料であればよく、好ましくは、2000℃以上の高融点の材料から選択される。また、導電性膜60Aの材料は、5eV以下の仕事関数材料であり、その酸化物が簡易にエッチング可能な材料で形成されることが好ましい。このような材料として例えば、Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Au,Pt,Pd等の金属または合金材料、或いは炭化物、硼化物、窒化物も使用可能である。工程6において、金属と金属酸化物のエッチング特性の差を利用した、表面酸化膜のエッチング処理を行う場合があるので、導電性膜(60A、60B)の材料は、MoまたはWを用いることが好ましい。
【0102】
(工程6について)
第3エッチング処理としてはドライエッチング、ウェットエッチングの何れでも構わないが、他材料とのエッチング選択比の容易さを考慮して、ウェットエッチングを行うことが好ましい。
【0103】
導電性膜(60A、60B)の材料がモリブンであるときは、エッチング液にはTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)といったアルカリ溶液を用いることができる。
【0104】
エッチング量が数nm程度と微量である為、安定性を考慮するとエッチングレートは1分間に1nm以下であることが望ましい。上記エッチングレートとは、単位時間当たりの膜厚変化量を意味している。エッチング処理で除去される単位時間当たりの原子数は、導電性膜(60A、60B)の材料とエッチング液で一意に決まるので、膜密度とエッチングレートは反比例の関係にある。即ち、膜密度が高いほど、エッチングレートは低くなる。
【0105】
図14(a)、図14(b)、図14(c)を用いて、第3エッチング処理による、抵抗層9Aの形成処理、並びに、間隙の形成と導電性膜60Aの端部(突起部)の先鋭化について説明する。
【0106】
図14(a)は、工程5で指向性を有する成膜方法により、導電性膜(60A、60B)が成膜された状態を表している。指向性を有するスパッタ法により、ゲート電極5の表面、基板1の表面、及び、第1絶縁層3の角部32、第1絶縁層3の上面では、スパッタ粒子が、これらの面に対して90°に近い角度(スパッタ粒子の飛翔方向と面の成す角度)で衝突する。尚、スパッタ粒子とは、スパッタターゲットからスパッタされた粒子を指す。その為、上記した部分には、良質な膜(ここでは「高密度な膜」または「膜密度の高い膜」と表現する)が形成される。
【0107】
一方、第1絶縁層3の斜面及びゲート電極5の端部近傍の面には、スパッタ粒子がこれらの面に対して浅い角度(90°から離れた角度)で衝突する為、これらの面上には低密度な膜(または「膜密度の低い膜」)が形成される。
【0108】
図14(a)では、6A1および6B1で模式的に示した部分が高密度膜、6A2および6B2で模式的に示した部分が低密度膜を表している。
【0109】
前述した様に膜密度とエッチングレートは反比例する。そのため、上記第3エッチング処理では、導電性膜の6A1および6B1で模式的に示した部分に比較して、導電性膜の6A2および6B2で模式的に示した部分の方が高エッチングレートになる。尚、工程6では、導電性膜の露出している表面が全てエッチャントに曝される(エッチングされる)ことになる。
【0110】
図14(b)および図14(c)は、第3エッチング処理を行った状態を表している。図中、T2は高密度膜の部分における、第3エッチング処理による膜厚の減少量を示しており、T3は低密度膜の部分における、第3エッチング処理による膜厚の減少量を示している。本実施形態では、T2<T3の関係が成り立つ。第3エッチング処理による膜厚の減少量はエッチング時間あるいはエッチング回数で調整が可能である。T2<T3の関係があるので、繰り返してエッチング処理を行うことにより導電性膜60Aの絶縁層3の側面上に位置する部分の薄膜化(抵抗層化)が進行し、同時に導電性膜60Aの端部(突起部)の先鋭化が促進される(図14(c))。
【0111】
例えば、導電性膜(60A、60B)の材料がモリブデンの場合は、高密度膜は9.0g/cm3以上10.3g/cm3以下であり、低密度膜は6.0g/cm3以上8.5g/cm3以下であることが望ましい。
【0112】
上記値は、膜の抵抗率と膜厚及びエッチングレート差を考慮した実用的な範囲である。
【0113】
膜密度の測定は、一般にはXRR(X線反射率法)が用いられるが、実際の電子放出素子では測定が困難な場合がある。そのような場合には、膜密度の測定手法として、例えば、以下の方法を採用することができる。即ち、TEM(透過電子顕微鏡)とEELS(電子エネルギー損失分光)を組み合わせた高分解能電子エネルギー損失分光電子顕微鏡で、元素の定量分析を行い、膜密度が既知の膜と比較することで、検量線を作成して、密度を算出することができる。
【0114】
本発明における導電性膜(60A、60B)の材料と第3エッチング処理に用いるエッチャントの組み合わせは、特に限定されるものではない。例えば、導電性膜(60A、60B)の材料がモリブデンであれば、エッチャントはTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)やアンモニア水などのアルカリ溶液を用いることができる。或は、エッチャントとして、2−(2−n−ブトキシエトキシ)エタノールとアルカノールアミンの混合物やDMSO(ジメチルスルホキシド)等も用いることができる。
【0115】
また、導電性膜(60A、60B)の材料がタングステンの場合は、硝酸やフッ酸や水酸化ナトリウム溶液等をエッチャントとして用いることができる。
【0116】
また、前述したように、工程6を、導電性膜(60A、60B)の表面を酸化させる酸化工程と酸化した導電性膜(60A、60B)の表面をエッチングするエッチング処理とで構成する形態もある。これは、酸化工程で導電性膜(60A、60B)の表面に所望量の酸化膜を形成した後、該酸化膜をエッチング除去することにより、エッチング量の均一性(再現性)を高める効果が期待できる。
【0117】
そして、酸化量(酸化膜厚)は膜密度に反比例する。即ち、膜密度が高い部分の表面の酸化量(酸化膜厚)は、膜密度が低い部分の表面の酸化量(酸化膜厚)に比べて小さくなる。そのため、導電性膜(60A、60B)を酸化処理した場合、膜密度の小さい部分(図14(a)の6A2、6B2に相当する部分)の表面層が優先的に(選択的に)酸化される。つまり、酸化処理とエッチング処理とを行うことによって、導電性膜60Aの絶縁層3の側面上に位置する部分の薄膜化(抵抗層化)、並びに導電性膜60Aの端部(電子放出体)の先鋭化の制御精度を高めることが可能になる。また、前述した間隙の間隔の制御精度を高めることが可能になる。
【0118】
酸化方法は、導電性膜60Aの表面を数〜数十nm酸化させることが可能な方法ならば特に制限されるものではない。具体的にはオゾン酸化(エキシマUV露光、低圧水銀露光、コロナ放電処理、等)や熱酸化等が挙げられるが、好ましくは、酸化の定量性が優れているエキシマUV露光を用いる。また、導電性膜60Aの材料がモリブデンの場合にはエキシマUV露光により、酸化膜が容易に除去できるMoO3を主として生成することができる利点もある。
【0119】
酸化膜の除去工程は、ドライ、ウェットの何れでも構わないが、好ましくはウェットエッチング処理を用いる。酸化膜の除去工程(エッチング工程)は、表面層である酸化膜のみを除去(エッチング)することが目的となる。そのため、用いるエッチャントしては、酸化膜のみを除去して、下層である金属層(酸化していない層)には実質的な影響のないものが望まれる。或いは、酸化膜のエッチングレートが金属層(酸化していない層)に比較して十分に大きい(桁で異なる)ものが望まれる。具体的には、導電性膜(60A、60B)の材料がモリブデンであれば、エッチャントは、希釈TMAH(濃度が0.238%以下が望ましい)、温水(40℃以上が望ましい)等が挙げられる。導電性膜60Aの材料がタングステンの場合は、バッファードフッ酸、希塩酸、温水等が挙げられる。
【0120】
工程6によって、電子放出体6Aと抵抗層9Aと導電性膜6Bとが形成される。尚、導電性膜6Bは、ゲート電極5の上(詳細にはゲート電極の側面(斜面)上と上面上)に設けられている。導電性膜6Bを設けない場合には、電子放出体6Aの先端から電界放出した電子は、まずゲート電極5に衝突する。このため、導電性膜6B(ゲート電極5の側面に位置する部分)を剥離せずに残せば、導電性膜6Aの突起部の先端から放出された電子が最初に衝突する部分とすることができる。そのためゲート電極5を構成する材料の融点が多少低くても、導電性膜6Bを導電性が高く高融点の材料(例えばモリブデンやタングステン)で形成すれば、電子放出素子の電子放出特性の劣化を抑制することができる。
【0121】
(工程8について)
カソード電極2は、前記ゲート電極5と同様に導電性を有しており、蒸着法、スパッタ法等の一般的真空成膜技術、フォトリソグラフィー技術により形成することができる。カソード電極2の材料は、ゲート電極5と同じ材料であってもよく、異なる材料であってもよい。
【0122】
カソード電極2の厚さとしては、数十nmから数μmの範囲で設定され、好ましくは数百nmから数μmの範囲で選択される。
【0123】
以下、上記電子放出素子を複数配して得られる電子源を備えた画像表示装置について、図15〜図17を用いて説明する。
【0124】
図15において、61は基板、62はX方向配線、63はY方向配線であり、また、64は上記した電子放出素子、65は結線である。尚、X方向配線62は、上述のカソード電極2を共通に接続する配線であり、Y方向配線63は上述のゲート電極5を共通に接続する配線である。
【0125】
m本のX方向配線62は、DX1,DX2,…DXmからなり、真空蒸着法,印刷法,スパッタ法等を用いて形成された金属等の導電性材料で構成することができる。配線の材料、膜厚、巾は、適宜設計される。
【0126】
Y方向配線63は、DY1,DY2,…DYnのn本の配線よりなり、X方向配線62と同様に形成される。これらm本のX方向配線62とn本のY方向配線63との間には、不図示の層間絶縁層が設けられており、両者を電気的に分離している(m,nは、共に正の整数)。
【0127】
不図示の層間絶縁層は、真空蒸着法,印刷法,スパッタ法等を用いて形成される。例えば、X方向配線62を形成した基板61の全面或は一部に所望の形状で形成され、特に、X方向配線62とY方向配線63の交差部の電位差に耐え得るように、膜厚、材料、製法が、適宜設定される。X方向配線62とY方向配線63は、それぞれ外部端子として引き出されている。
【0128】
配線62と配線63を構成する材料、結線65を構成する材料及びカソード、ゲートを構成する材料は、その構成元素の一部あるいは全部が同一であっても、またそれぞれ異なってもよい。
【0129】
X方向配線62には、X方向に配列した電子放出素子64の行を選択するための走査信号を印加するための不図示の走査信号印加手段が接続される。一方、Y方向配線63には、Y方向に配列した電子放出素子64の各列を入力信号に応じて変調するための不図示の変調信号発生手段が接続される。
【0130】
各電子放出素子に印加される駆動電圧は、当該素子に印加される走査信号と変調信号の差電圧として供給される。
【0131】
上記構成においては、単純なマトリクス配線を用いて、個別の素子を選択して、独立に駆動可能とすることができる。
【0132】
このような単純マトリクス配置の電子源を用いて構成した画像表示装置について、図16を用いて説明する。図16は画像表示装置の画像表示パネル77の一例を示す模式図である。
【0133】
図16において、61は電子放出素子を複数配した基板、71は基板61を固定したリアプレートである。また、76は、ガラス基板73の内面に、アノードであるメタルバック75と、発光体の膜74としての蛍光体膜等が形成されたフェースプレートである。
【0134】
また、72は支持枠であり、この支持枠72には、リアプレート71、フェースプレート76がフリットガラス等の接合材を用いて封着(接合)されている。77は外囲器であり、例えば大気中あるいは、窒素中で、400〜500度の温度範囲で10分以上焼成することで、封着して構成される。
【0135】
また、64は、図1における電子放出素子に相当するものであり、62,63は、電子放出素子のカソード電極2、ゲート電極5とそれぞれ接続されたX方向配線及びY方向配線である。図16では電子放出素子64と配線62、63との位置関係は模式的に示されている。実際には、配線62と配線63との交差部の脇の基板上に電子放出素子64が配置されている。
【0136】
画像表示パネル77は、上述の如く、フェースプレート76、支持枠72、リアプレート71で構成される。ここで、リアプレート71は主に基板61の強度を補強する目的で設けられるため、基板61自体で十分な強度を持つ場合には、別体のリアプレート71は不要とすることができる。
【0137】
即ち、基板61に直接支持枠72を封着するとともに、支持枠とフェースプレート76とを封着して外囲器77を構成しても良い。一方、フェースプレート76とリアプレート71との間に、スペーサーとよばれる不図示の支持体を設置することにより、大気圧に対して十分な強度をもつ画像表示パネル77を構成することもできる。
【0138】
次に、上記画像表示パネル77に、テレビ信号に基づいたテレビジョン表示を行うための駆動回路の構成例について、図17を用いて説明する。
【0139】
図17において、77は画像表示パネル、92は走査回路、93は制御回路、94はシフトレジスタである。95はラインメモリ、96は同期信号分離回路、97は変調信号発生器、VxおよびVaは直流電圧源である。
【0140】
表示パネル77は、端子Dox1乃至Doxm、端子Doy1乃至Doyn、及び高圧端子Hvを介して外部の電気回路と接続している。
【0141】
端子Dox1乃至Doxmには、表示パネル77内に設けられている電子源、即ち、M行N列の行列状にマトリクス配線された電子放出素子群を一行(N素子)ずつ順次駆動する為の走査信号が印加される。
【0142】
一方、端子Doy1乃至Doynには、走査信号により選択された一行の電子放出素子の各素子の出力電子ビームを制御する為の変調信号が印加される。
【0143】
高圧端子Hvには、直流電圧源Vaより、例えば10[kV]の直流電圧が供給される。
【0144】
上述のように走査信号、変調信号、及びアノードへの高電圧印加により、放出された電子を加速して蛍光体へと照射することによって、画像表示を実現することができる。
【実施例】
【0145】
以下、より具体的な実施例について説明する。
【0146】
(実施例1)
図9は、絶縁基板上にモリブデンをスパッタ成膜する際、ターゲットに対する基板表面の角度を0°(ターゲットと水平)〜90°(ターゲットに対して垂直)まで変化させた時の成膜角度(ターゲットと基板表面の成す角)と抵抗率の関係を表している。角度を0°、30°、60°、90°と変えてそれぞれ80nm成膜した後、TMAHにて膜を膜厚が20nmとなるまでエッチングした後の抵抗率を測定している。抵抗率は4探針法によってシート抵抗を算出した後、シート抵抗を膜厚で割ることによって算出した。成膜角度に比例して抵抗率が上昇しており、このことから膜の密度を成膜角度によって制御可能であることがわかる。
【0147】
(実施例2)
図8を参照して、本実施例の電子放出素子の製造方法を説明する。
【0148】
最初に、図8(a)に示すように基板1上に絶縁層30、40と、導電層50を積層する。
【0149】
基板1は低ナトリウムガラスであるPD200を用いた。絶縁層30は、SiN膜をスパッタ法にて形成し、その厚さとしては、500nmとした。絶縁層40は、SiO2膜をスパッタ法にて形成し、その厚さとしては、30nmとした。ゲート電極5となる導電層50はTaN膜で構成し、スパッタ法にて形成し、その厚さとしては、30nmとした。
【0150】
次に、フォトリソグラフィー技術により導電層50上にレジストパターンを形成したのち、ドライエッチング法を用いて導電層50、絶縁層40、絶縁層30を順にエッチングする(図8(b))。これによって、第1絶縁層3とゲート電極5がパターン形成される。この時のエッチングガスとしては、絶縁層30、40及び導電層50にはフッ化物を作る材料が選択されているため、CF4系のガスを用いた。
【0151】
レジストを剥離した後、BHFを用いて凹部7の深さが約70nmになるように絶縁層40をエッチングし、絶縁層3,4からなる段差形成部材10に凹部7を形成した(図8(c))。これによって、第2絶縁層4がパターン形成される。
【0152】
この時、基板1の水平面(表面)に対する絶縁層3の側面(斜面)の角度θはおよそ80°の角度で形成されていた。また、基板1の水平面(表面)に対する絶縁層3の上面の角度はおよそ0°の角度で形成されていた。
【0153】
次に、ゲート電極5に電解メッキによりNiを電解析出させてNiからなる剥離層を形成した。
【0154】
続いて、図8(d)に示すように、導電性膜60Aと導電性膜60Bとが接触するように、モリブデン(Mo)を、絶縁層3の側面上および上面上、及びゲート電極5上(剥離層上)に、スパッタ法を用いて堆積させた。
【0155】
スパッタは基板1表面上への堆積速度が約100nm/minになるように定めた。堆積時間を精密に制御し(本例では0.7分)、ターゲットと平行な基板1の表面上には70nm、絶縁層3の側面上及びゲート電極の側面上には40nmのモリブデンを形成した。
【0156】
この時、凹部7内への導電性膜60Aの入り込み量(x)を35nmとした。
【0157】
次に、エッチャントとしてTMAHを用いて、導電性膜(60A、60B)をエッチングし、間隙8を形成し、また、電子放出体6Aと抵抗体9Aを形成する(図8(e)、図8(f))。
【0158】
TMAHによるエッチングの速度は、基板1の表面上では0.2nm/min、絶縁層の側面上では0.6nm/minとなるようにTMAHの濃度を調整した。
【0159】
本実施例ではターゲットと平行な基板1表面上のMo膜が60nmとなる様にエッチング時間(本例では50分)を精密に制御した。この時、絶縁層3の側面上のMoの厚さは10nmとなった。
【0160】
続いて、ヨウ素とヨウ化カリウムからなるエッチング液を用いてゲート電極5上に設けたNi剥離層を除去することによりゲート電極上の導電性膜6Bを剥離した。
【0161】
その後、導電性膜(電子放出体6Aおよび抵抗層9A)の幅T4(図1参照)が3μmになるようにフォトリソグラフィー技術によりレジストパターンを導電性膜(電子放出体6Aおよび抵抗層9A)上に形成した。その後、ドライエッチングで導電性膜(電子放出体6Aおよび抵抗層9A)をパターニングした。この時のエッチングガスとしては、モリブデンはフッ化物を作る材料であるため、CF4系のガスが用いられた。
【0162】
断面TEMによる解析の結果、電子放出部である電子放出体6Aの先端とゲート電極5との間の最短距離8が9nmであった。
【0163】
次に図8(g)に示すように、電極2を形成した。電極2には銅(Cu)を用いた。その作成方法はスパッタ法にて形成され、その厚さとしては、500nmであった。
【0164】
以上の方法で形成された電子放出素子の抵抗体9A及びカソード6Aについて、TEM(透過電子顕微鏡像)とEELS(電子エネルギー損失分光法)分析を実施して膜密度を算出した。その結果、抵抗層9Aは7.7g/cm3、電子放出体6Aは10.2g/cm3であった。
【0165】
本実施例で作成した電子放出素子を用いた画像表示装置においては、電子ビームの成形性に優れた表示装置を得ることができた。また、表示画像の良好な表示装置を実現できるとともに、放電による画素欠陥などの無い信頼性の高い画像表示装置が提供できた。また、この画像表示装置を駆動中に意図的に放電を生じさせたところ、1つの電子放出素子を構成する抵抗層9Aにおいて溶断されていることが確認されたが、他の電子放出素子は破壊されていなかった。
【0166】
(実施例3)
本実施例では電子放出素子Aと電子放出素子Bの2つの電子放出素子を作成した。作成した電子放出素子Aおよび電子放出Bの基本的な製造方法は実施例2と同様であるので、ここでは実施例2と異なる部分のみ図8を用いて説明する。
【0167】
まず、電子放出素子Aと電子放出Bの違いを検証しやすくするために、どちらの電子放出素子についても絶縁層3の膜厚を10μmとした。
【0168】
電子放出素子Aについては上記絶縁層3の膜厚を除いたその他の構成は実施例2と同じである。
【0169】
一方、電子放出素子Bは、図8(d)に示した工程において、導電性膜60Aの絶縁層3の側面上に位置する部分(低密度膜:図14の6A2)のMo膜厚が30nmとなる様に形成した。
【0170】
次に、モリブデンの表層を酸化させた。酸化方法としてオゾン中でのEUV露光法を用いた。酸化の速度は、基板1の表面に平行な部位(高密度膜:図14の6A1)では2nm/minであり、絶縁層3の側面上の部位(低密度膜:図14の6A2)では4nm/minである。基板1の表面と平行な部位(高密度膜)では、形成される酸化層の膜厚が10nmとなるように時間(本例では5min)を精密に制御した。この時、導電性膜60Aの絶縁層3の側面上に位置する部分の表面に形成された酸化層の膜厚は20nmであった。
【0171】
次に、形成された酸化層を除去するために、45℃の温水中に浸漬させて、エッチング処理した。酸化層のエッチング速度は0.5nm/minであり、側面上の酸化層の膜厚が5nmになるまで(本実施例では30min)エッチングを行った。このようにして、絶縁層3の側面上、及び、ゲート電極5の側面上のMoの厚さが10nm、その表面に設けられた酸化層の膜厚は5nmとした。また、基板1の表面に平行な部位(絶縁層3の上面上およびゲート電極5の上面上)のMoの厚さが42nmとした。また、凹部7内への電子放出体6Aの入り込み量(x)が35nm、凹部7内に位置する絶縁層3の上面と電子放出体6Aの側面とが接する角度が120°となるように形成した。
【0172】
その後、真空中にて450℃で1時間の加熱工程を行った。
【0173】
電子放出素子Bのその他の形成方法や構造は、実施例2と同じである。
【0174】
電子放出素子Aとの違いは、電子放出素子Bでは抵抗層9Aが、厚みが10nmのモリブデン層とその表面に設けられた厚みが5nmの酸化モリブデン層で構成されている点である。
【0175】
次に、モリブデン層からなる抵抗層9Aを備える電子放出素子Aと酸化モリブデン層とモリブデン層との積層体からなる抵抗層9Aを備える電子放出素子Bの電気特性の評価方法を説明する。
【0176】
図11は、モリブデンのみで形成された抵抗層9Aを備えた電子放出素子Aと、モリブデン層とその表面に設けられた酸化層とで構成された抵抗層9Aを備える電子放出素子Bの、電圧―電流曲線を比較したものである。
【0177】
図12では、電子放出特性を測定するときの電源の供給配置を示している。ここで、Vfはゲート電極5とカソード電極2の間に印加される電圧、Ifはこの時流れる素子電流、Vaはカソード電極2と陽極(アノード)20の間に印加される電圧、Ieは電子放出電流である。
【0178】
ゲート電極5を0Vに規定してカソード電極2に負電圧を0Vから−30V付近まで徐々に昇圧していき、その際に流れるIfを計測した。電圧は任意波形装置を用いて矩形波を出力しオシロスコープと同期させて電流波形、電圧波形を取得した。
【0179】
本実施例で作成した電子放出素子A、Bを、予め、真空中にて加熱工程を行った。その後、超高真空中(10−6Pa以下)にて特性の評価を行った。
【0180】
上述の評価系で測定した電圧―電流曲線を図11に示した。
【0181】
横軸のVfは上記した印加電圧であり、Ifは上記素子電子電流である。If−Vf曲線を比較すると、電子放出素子Bの方が電子放出素子Aの電流―電圧曲線よりも高電圧側にシフトしていることが分かる。
【0182】
表層に酸化層が存在している電子放出素子Bの方が、電子放出素子Aよりも抵抗値が高くなることがわかる。
【0183】
電子放出素子Bの酸化層をエッチングした後の状態を断面TEMで確認した結果を、図10に模式的に示す。
【0184】
抵抗層9Aにおいて、モリブデン層15の膜厚は10nmであり、モリブデン膜の表面に存在する酸化モリブデン層13の平均膜厚は5nmであった。14はモリブデン膜15のグレイン(結晶子)の間に存在する酸化モリブデンである。モリブデンの酸化部位が表層の酸化層13にだけでなく、モリブデン層15のグレイン(結晶子)の間にも多数存在することで、金属中に酸化物が分散されたような状態になり高抵抗化に寄与していると考えられる。
【0185】
また、酸化モリブデン層13は主体が二酸化モリブデンであった。これは、酸化層を形成した段階では三酸化モリブンデンであるが、上記したように真空中で450℃で1時間の加熱処理を行って二酸化モリブデンが主体となるように変質させたためである。(Handbook of Materials and Techniques for Vacuum Devices p287 Walter H.Kohl参照)。酸化モリブデン層13は、二酸化モリブデンのみで構成されていてもよい。
【0186】
以上のことを鑑みると、抵抗層9Aの表面に二酸化モリブデンの層(二酸化モリブデンを主体とする層)13を設けることで、抵抗層としての機能が向上する。
【0187】
(実施例4)
本実施例で作成した電子放出素子の製造方法は、基本的には実施例3と同様であるので、ここでは実施例3と異なる部分のみ図8を用いて説明する。本実施例で作成した電子放出素子AおよびBでは、導電性膜(電子放出体6Aおよび抵抗層9A)を100個に分割するパターニングを行った以外については実施例3で作成した電子放出素子AおよびBの製造方法と同様である。従って、以下パターニング工程について説明する。
【0188】
導電性膜剥離層を剥離した後、導電性膜(電子放出体6Aおよび抵抗層9A)を100個に分割するために、図2に示す様に、幅T4が3μmのライン&スペースになるようにフォトリソグラフィー技術によりレジストパターンを形成した。
【0189】
その後、ドライエッチングで導電性膜(電子放出体6Aおよび抵抗層9A)を100個に分割するパターニングを行った。
【0190】
断面TEMによる解析の結果、電子放出部である電子放出体(図2では60A1〜60A4に相当)の先端とゲート電極5との間の最短距離8の平均は8.5nmとなっていた。
【0191】
その他の工程は実施例2と同じである。
【0192】
以上の工程で作成した電子放出素子AおよびBの電子放出特性の評価方法は、ほぼ実施例3で示したものと同様であるので、ここでは実施例3との違いについてだけ述べる。
【0193】
図13(a)は、本実施例で作成した2つの電子放出素子(電子放出素子Aと電子放出素子B)について、ラッシュカレントが流れた際の電気特性を示している。
【0194】
ラッシュカレントを計測するために、任意波形発生装置と同期をとるオシロスコープAとは別のオシロスコープBを用意した。オシロスコープBは、FN電流にラッシュカレントが約1mA程度の電流値が重畳された際にトリガがかかるように設定した。
【0195】
サンプリングレートは100MSa/sでレコード長を14bitに設定した。図13(a)に示したIf−Vf曲線は、オシロスコープAによって読み取った電流波形のパルスの後半の値を読み取ったものである。ここでは出力パルスは100usであり、読み値はパルス後半の5usを平均化した値を用いた。
【0196】
ラッシュカレントが流れるまで昇圧を続け、オシロスコープBにラッシュカレントが流れてトリガがかると、昇圧を止めて電圧を徐々に下げるように設定した。
【0197】
ラッシュカレントが流れるとオシロスコープBでは図13(b)のように波形が取得される。ラッシュカレントが流れた前後における電流値の差を図13(c)に示した。
【0198】
図13Cより、酸化膜を上層に持つ抵抗層9Aを備えた電子放出素子Bの方が、電流値の低下が少ないことが読み取れる。短絡した抵抗層が瞬時に溶断されたことで、隣接する他の抵抗層(電子放出体)へのダメージを抑えることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0199】
【図1】電子放出素子の模式図
【図2】別の電子放出素子の模式図
【図3】電子放出素子に接続された抵抗体の形状を示す図
【図4】抵抗体の膜密度と抵抗率の関係を示す図
【図5】ラッシュカレントの電流値と抵抗体の温度との関係を示す図
【図6】抵抗体の膜密度と溶断される電流閾値の関係を示す図
【図7】ラッシュカレントが流れた際の電子放出素子のダメージを示す図
【図8】電子放出素子の製造方法の一例を示す図
【図9】成膜角度と抵抗率の関係を示す図
【図10】実施例における電子放出素子の部分図
【図11】電圧と電流の関係を示す図
【図12】電子放出素子の特性を測定する構成を説明する図
【図13】ラッシュカレント前後の関係を示す図
【図14】エッチング処理についての説明図
【図15】電子放出素子を配列した電子源に関する説明図
【図16】電子放出素子を用いた画像表示装置の説明図
【図17】画像表示装置を駆動する駆動回路の一例を示す回路図
【符号の説明】
【0200】
2 カソード電極
3、4 縁層(絶縁部材)
5 ゲート電極
6A 電子放出体
7 凹部(リセス)
9A 抵抗体
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子放出素子及びこれを用いた画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電界放出型電子放出素子では、一般的には、電子放出体(エミッタ)と、ゲート電極との間に電圧を印加することで、電子放出体の先端の表面に強電界が生じ、電子放出体の表面から電子が真空中に電界放出される。電界放出型電子放出素子を基板(背面板)上に多数配列することで電子源が構成できる。そして、CRT等の様に、電子線の照射によって発光する蛍光体などの発光体を設けた基板(前面板)と、上記した背面板とを対向させ、両基板の周囲を封着すれば、画像表示装置を構成することができる。
【0003】
電子放出部から電界放出した電子が、一旦、対向するゲート電極に衝突、散乱した後に、放出電子として取り出される電子放出素子もある(特許文献1)。
【0004】
電界放出型電子放出素子では、電子放出電流の安定化のために、またはラッシュカレント(放電電流)の抑制のために、電子放出体とカソード電極との間に抵抗(ヒューズを含む)を設けることが知られている。
【0005】
特許文献2には、電子放出体とカソード電極とを積層し、電子放出体とカソード電極の間に抵抗層を設けることが開示されている。特許文献3には、上記抵抗層のピンホール等の欠陥を許容できるように、エミッタの下に位置する抵抗層の下にはカソード電極を設けない構成が開示されている。特許文献4には、電子放出素子毎に、ゲート電極に接続されたゲート配線の一部を可溶抵抗体とすることが開示されている。
【特許文献1】特開2001−167693号公報
【特許文献2】特開平1−154426号公報
【特許文献3】特開平4−292831号公報
【特許文献4】特開平4−284324号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記抵抗体を電子放出体とは異なる材料で形成する場合には、製造プロセスが煩雑になってしまいコストが上昇するという課題を抱えている。同一材料で形成する場合には、電子放出体と抵抗層を積層する形態では抵抗を大きくするために膜厚を薄くする必要があり、高度な膜厚制御技術が要求される。また、薄くしすぎるとピンホールのような欠陥が出来てしまい、このピンホール欠陥を回避するために構成を変えたとしても専用のパターニングプロセスが必要になる為、コストアップに繋がる。ゲート側に抵抗を持たせた場合でも、専用のパターニングプロセスが必要になり、結果的にコストアップに繋がる。また、電子放出体と抵抗層を積層せず基板上に並設することが考えられるが、プロセスが煩雑になるだけでなく、抵抗値を大きくするには抵抗層の長さを大きく(引き回し面積を大きく)する必要がある。その結果、電子放出素子が占める面積(抵抗の引き回し面積)が大きくなり、画像表示装置の高精細化に対して不利である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために成されたものであって、カソード電極と、該カソード電極に電気的に接続された電子放出体と、該カソード電極と該電子放出体との間に設けられた抵抗層と、を少なくとも有する電子放出素子であって、前記抵抗層は前記電子放出体と同じ材料で構成されており、前記抵抗層の膜密度が前記電子放出体の膜密度よりも低いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
電子放出体と抵抗層を同じ導電性材料で構成し、その導電性材料の膜密度を変えるだけで電子放出体と抵抗層を簡易に製造することが可能となり、結果的に製造コストの上昇を抑えることができる。また、縦型の電子放出素子の構成では、絶縁層の側面に抵抗層を形成することで、高抵抗化を達成し、電子放出素子が占める面積を小さくすることが出来る。つまりは高精細な画像表示装置に好適な電子放出素子の提供が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0010】
まず本実施の形態に係る電子放出素子の一例の構成について述べる。
【0011】
図1(a)は電子放出素子の平面模式図であり、図1(b)は図1(a)におけるA−A線(図1(c)のA−A線)での断面図である。図1(c)は図1(b)における矢印の方向から電子放出素子を眺めたときの側面図である。
【0012】
基板1上には、第1絶縁層3と第2絶縁層4とが積層されることで構成された絶縁性の段差形成部材10と、カソード電極2とが、並設されている。そして、抵抗層9Aが、第1絶縁層3のカソード電極2側の側面である斜面上に、該斜面に沿って、配置されている。電子放出体6Aは、その少なくとも一部が第1絶縁層3の上面の上に配置されている。また、電子放出体6Aは、その少なくとも一部が、絶縁層3の角部32の上に配置されている。抵抗層9Aと電子放出体6Aとが接続されている。尚、図1では、理解を容易にするために、抵抗層9Aと電子放出体6Aとを明確に分けて図示しているが、抵抗層9Aと電子放出体6Aは同じ材料であるので、実際にはその境界は明確になっていない形態も有り得る。
【0013】
従って、抵抗層9Aと電子放出体6Aとを有する導電性膜(9A+6A)の一部(9A)が第1絶縁層3のカソード電極2側の側面である斜面上に、該斜面に沿って、配置されていると言うことができる。また、導電性膜(9A+6A)は、第1絶縁層3の斜面(側面)、上面、角部32を覆っていると言うことができる。また、導電性膜(9A+6A)は、カソード電極2から、段差形成部材10の凹部(リセス部)7内まで延在していると言うことができる。
【0014】
また、上記導電性膜(9A+6A)は、抵抗部9Aと電子放出部6Aとを備えると言い換えることもできる。即ち、この場合には、抵抗層は抵抗部、電子放出体は電子放出部に相当することになる。
【0015】
尚、第1絶縁層3の角部32は、第1絶縁層3の上面と側面とが接続している部分(あるいは繋がっている部分)である。また、角部32は、第1絶縁層3の上面(側面)から側面(上面)に繋がる部分と言うこともできる。尚、角部32は、曲率を持たない形態(即ち上面の縁と側面の縁を突き当てた形態)とすることもできるし、曲率を持つ形態とすることもできる。すなわち、第1絶縁層3の上面と側面とが、所定の曲率半径を有する部分(角部32)を介して繋がっている形態とすることができる。角部32が曲率を持つ形態であれば、安定して導電性膜(9A+6A)を形成できるので、電子放出素子の電子放出特性の観点から有利である。
【0016】
そして、抵抗層9Aの一方の端部は、カソード電極2に電気的に接続しており、抵抗層9Aの他方の端部は、電子放出体6Aに電気的に接続している。
電子放出体6Aは先端が尖った突起部と言い換えることもできる。従って、突起部は、第1絶縁層3の角部(第1絶縁層3の上面と側面とが接続する部分)32上に設けられている。突起部の先端は、第1絶縁層3の上面よりも基板1の表面から離れており、且つ、尖っている。
【0017】
ゲート電極5は、ここで示す例では、第1絶縁層3との間に設けられた第2絶縁層4によって、第1絶縁層から所定距離(第2絶縁層の厚み)だけ離れている。後述するように、ゲート電極5上には導電性膜6Bが設けられる場合がある(図8参照)。そのような場合には、部材5と部材6Bとを一纏めにしてゲート電極と呼ぶこともできる。尚、ゲート電極5の配置位置は、図1に示す形態に限られるものではない。即ち、電子放出体6Aに電界放出可能な電界を印加することができるように、電子放出体6Aと所定の間隔を置いて、配置されればよい。その場合には、第2絶縁層4は必要としない形態も有り得る。
【0018】
カソード電極2よりもゲート電極5の電位が高くなるようにして、駆動電圧をカソード電極2とゲート電極5の間に印加することで電子が電子放出体6Aの先端から電界放出される。電子放出体6Aは、その表面に、低仕事関数材料からなる被膜を有する場合もある。その場合には、電子放出体6Aの先端上に位置する低仕事関数材料の膜から電子が電界放出される。尚、図1では不図示であるが、基板1の上方(ゲート電極5よりも離れた位置)には、ゲート電極よりも高電位に規定されたアノード電極20が配置される(図13参照)。
【0019】
また、ここでは、段差形成部材10を構成する第1絶縁層3の側面が傾斜した斜面で構成されているが、傾斜角は、基板1の表面に対して、90°未満の角度とすることが後述する製造方法との兼ね合いから好ましい。尚、第2絶縁層4の側面(図8(c)参照)の基板1との角度は、導電性膜6Aの突起部からの電子放出の妨げにならない限り、特に限定されるものではない。
【0020】
上記した本実施形態の電子放出素子は、上述した導電性膜(9A+6A)を、図2に示す様に、短冊状に、複数に分割した形態とすることもできる。
【0021】
このような形態では、図2(a)のA−A線における断面図は、図1(b)と同様になる。一方、図1(a)に対応する平面図は図2(A)の様になり、図1(c)に対応する側面図は図2(b)の様になる。図2では、図1と同じ部材については、図1で用いた符号と同じ符号を用いている。
【0022】
図2において、短冊状に設けられた、複数の抵抗層(90A1〜90A4)は、電極2に共通に接続されている。また、複数の電子放出体(60A1〜60A4)の各々は、対応する抵抗層(90A1〜90A4)を介して電極2に接続されている。このような形態とすることで、例えば1つの電子放出体とゲート電極とが放電などによって短絡して破壊され、電子が放出されなくなっても、他の電子放出体からの電子放出を維持することができる。
【0023】
電子放出体6Aは、図1(b)などで示されるように、凹部7内に、段差形成部材10の側面と凹部7との境界(第1絶縁層3の角部32)から距離xだけ、入り込んでいる。言い換えると、電子放出体6Aは、凹部7の深さ(奥行き)方向(図1(B)では−X方向)に、第1絶縁層3の上面と距離xで接している。
【0024】
距離xをもって凹部7内に、電子放出体6Aが入り込むことで、以下の三つのメリットが生じる。
(1)電子放出部となる電子放出体6Aが第1絶縁層3と広い面積を持って接触し、機械的な密着力があがる(密着強度の上昇)。
(2)電子放出部となる電子放出体6Aと第1絶縁層3との熱的な接触面積が広がり、電子放出部で発生する熱を効率よく第1絶縁層3に逃がすことが可能となる(熱抵抗の低減)。
(3)第1絶縁層3の上面に対して電子放出体6Aの側面が傾斜を備えることで、絶縁層―真空−金属界面で生じる三重点での電界強度を弱め、異常な電界発生による放電現象を防止することが可能となる。
【0025】
尚、距離xは、電子放出体6Aの、凹部7の表面と接する部分の端部から凹部7の縁までの距離と言う事が出来る。換言すると、第1絶縁層3の上面と導電性膜6Aとが凹部7の深さ方向に接する長さと言う事ができる。
【0026】
次に、抵抗層9A(90A1〜90A4)について説明する。
【0027】
図3は本実施形態の電子放出素子の模式的な斜視図のであり、L、T、Wはそれぞれ抵抗層9Aの形状を規定するための尺度である。その他の符号は図1、図2で用いた符号が示す部材と同じ部材を指す。Tは抵抗層の膜厚、Lは抵抗層の長さ(電子放出体6Aからカソード電極2までの長さ)、Wは抵抗層の幅である。
【0028】
抵抗層9A(90A1〜90A4)は、放電などによって、ある瞬間に電子放出体6Aとゲート電極5が短絡してラッシュカレントが流れた際に、抵抗層が瞬時に溶断される。これにより、電子放出素子としてのダメージを低減する役割を備えることができる。
【0029】
このような役割は特に、図2に示したような、複数の抵抗層(90A1〜90A4)を備える形態の場合に特に有効である。即ち、1つの電子放出素子内で、短絡箇所に近い抵抗層が溶断することで、他の電子放出体からの電子放出は維持できる。結果、1つの電子放出素子の電子放出量は減るが電子放出素子自体が動作不能になることを回避できる。尚、図1に示すような形態では、抵抗層9Aは、1つの電子放出素子が短絡した場合に、他の電子放出素子までもが動作不能になるようなダメージを受けることを避けることができる。
【0030】
短絡が起こる原因としては、放電や、凹部7内の残渣や、凹部7周辺への不純物の付着や、庇状に張り出したゲート電極5に放出電子が衝突してゲート電極が発熱することによるゲート電極5の変形など、様々な要因が考えられる。例えば、電子放出中はゲート電極5と電子放出体6Aの間が数十メガV/cmもの強電界になっている。そのため、電子放出体6A近傍に飛散または吸着しているイオン化された不純物がクーロン力によって引き付けられ、電子放出体6Aとゲート電極5の間に吸着することも考えられる。
【0031】
短絡した際に抵抗層9A(90A1〜90A4)が溶断される機構は、主にジュール熱による膜の消失である。下記式1に示す関係から、発生するジュール熱によって、抵抗層を構成する材料が、その蒸気圧温度に達したときに溶断される。
T=I2(Rτ)/(mc)=J2(ρτ)/(σc)・・・・(式1)
尚、上記式1において、T:温度、I:ラッシュカレント時の電流値、R:膜の抵抗値、τ:ラッシュカレントの時間、m:膜の質量、c:比熱、J:ラッシュカレントの電流密度、ρ:膜の抵抗率、σ:膜密度である。
【0032】
式1からわかるようにラッシュカレントが流れた際の温度Tは、抵抗率ρに比例し、密度σに反比例する。金属膜や半導体膜における、抵抗率と密度の関係は反比例の関係である。即ち、同じ材料であれば、膜密度が高いほど、抵抗率は低い。また、膜の被覆率が50%近辺で密度に対する抵抗率の傾きが急峻になることが知られている(文献Journal of Applied Physics 100(2006)113709)。
【0033】
被覆率が数%では島間トンネルによる導電機構であり、島状の核同士の距離で抵抗率が決まる。被覆率が50%付近でようやく島同士がネットワーク状に繋がり始め急激に抵抗率が低下する。被覆率が60%を超えると被覆率に対する抵抗率の変動幅が小さくなる。
【0034】
図4では、スパッタ法や蒸着法で成膜されたモリブデン膜で得られた膜密度(g/cm3)と抵抗率(Ωm)の関係を示している。例えば、モリブデンの場合、充填密度(Packing densitiy)が50%となる膜密度(5.14g/cm3)近辺に急峻な傾きを持つ。このように、金属膜や半導体膜では抵抗率と密度の関係は反比例の関係にある。へ
一方、抵抗層9A(90A1〜90A4)として使用する場合、抵抗層のバラツキを生みやすくなる要因となり、結果として電子放出特性のバラツキを生んでしまうために、膜密度に対して抵抗率の傾きが小さいことが望ましい。
【0035】
例えば、膜密度が5.14g/cm3から5.04g/cm3へと、0.1g/cm3変化した場合には、およそ抵抗率は59Ωm変化する。変化率としては590である。同様の計算を行った場合、変化率を10%程度に抑えるためには、膜密度として6.0g/cm3以上必要である。この観点から、抵抗層9A(90A1〜90A4)の膜密度としては、6.0g/cm3以上であることが好ましい。
【0036】
次に、抵抗層9A(90A1〜90A4)と電子放出体6Aの材料にモリブデンを用いた場合の抵抗層の溶断機構について述べる。
【0037】
モリブデンの比熱は0.25J/gKである。例えば、下記表1に示すよう抵抗層9Aの形状とラッシュカレントの時間を設定した場合には、上述した式1を用いて、図5に示すようなラッシュカレントの電流値と、抵抗層の温度についての比例関係が得られる。
【0038】
【表1】
【0039】
膜密度が疎になる(小さくなる)にしたがって比例曲線が左側にシフトしていくことが読み取れる。例えば、一般的なFEDの真空度である1×10−6Pa程度におけるモリブデン材料の蒸気圧温度は1600℃である。従って抵抗層の温度が1600℃を超えると溶断される。
【0040】
図5に1600℃を一点鎖線で示してあり、ラッシュカレントによる抵抗層の温度上昇曲線において、一点鎖線を超えると溶断されることになる。
【0041】
図6は図5より算出した、膜密度と抵抗層が溶断する電流値の関係を示している。同じ形状の抵抗層であっても、膜密度を変えてやることで溶断する電流閾値を規定できる。
【0042】
膜密度が疎になるほど溶断されやすくなり、ヒューズ効果を発揮しやすくなっていることが分かる。一方、膜密度が密になると溶断する電流値が数mAと大きくなってしまう領域が存在する。ゲート電極5の材料は数mAもの電流値が流れてしまうと、図7に示すように変形・消失を伴い、結果的に他の正常な電子放出体60A1、60A2からの電子放出が行えなくなってしまう。
【0043】
ゲート電極5の材料の種類や形状にもよるが、より安定に使用するためには1mA以下の電流値で使用することが望ましい。以上の観点から、抵抗層の材料にモリブデンを用いる場合の膜密度は8.5g/cm3以下であることが望ましい。
【0044】
以上から、モリブデンを用いた抵抗層9A(90A1〜90A4)は、その膜密度が、6.0g/cm3以上以上8.5g/cm3以下であることが望ましい。そして、抵抗層と同じ材料からなる電子放出体6A(60A1〜60A4)の密度(膜密度)は、抵抗層の膜密度よりも高ければよい。そのため、電子放出体6A(60A1〜60A4)の密度(膜密度)は、8.6g/cm3以上であればよく、その上限は特にはない。しかし、実用的には、10.3g/cm3以下とすればよい。安定性を考慮すると、電子放出体6A(60A1〜60A4)の密度(膜密度)は、9.0g/cm3以上であることが望ましい。
【0045】
以上説明した電子放出素子の製造方法について、図8(a)〜図8(h)、図14(a)〜図14(c)を参照して、その一例を説明する。図8(a)〜図8(h)は、製造工程を順に示した模式図である。
【0046】
まず、本実施形態の製造方法における一連の工程を簡単に説明し、その後、各工程について詳述する。
【0047】
(工程1)
第1絶縁層3となる絶縁層30を基板1の表面に形成し、続いて、第2絶縁層4となる絶縁層40を絶縁層30の上面に積層する。そして、絶縁層40の上面にゲート電極5となる導電層50を積層する(図8(a))。絶縁層40の材料は、絶縁層30の材料よりも、後述する工程3で用いるエッチング液(エッチャント)に対してエッチング量が多くなるように、絶縁層30の材料とは異なる材料が選択される。
【0048】
(工程2)
次に、導電層50、絶縁層40、絶縁層30に対するエッチング処理(第1エッチング処理)を行う。
【0049】
第1エッチング処理は、具体的には、フォトリソグラフィー技術等により導電層50上にレジストパターンを形成したのち、導電層50、絶縁層40、絶縁層30をエッチングする処理である。工程2により、基本的には、図1などに示した電子放出素子を構成する第1絶縁層3とゲート電極5が形成される(図8(b))。尚、図8(b)などに示す様に、この工程で形成される第1絶縁層3の側面(斜面)と基板1の表面とが成す角度が90°よりも小さい角度(θ)となるようにすることが好ましい。また、ゲート電極5の側面(斜面)と第1絶縁層3の上面(基板1の表面)とが成す角度が、第1絶縁層3の側面(斜面)と基板1の表面とが成す角度よりも小さくすることが好ましい。
【0050】
(工程3)
続いて、絶縁層40に対するエッチング処理(第2エッチング処理)を行う(図8(c))。
【0051】
工程3により、基本的には、図1等に示した電子放出素子を構成する第2絶縁層4が形成される。この結果、第1絶縁層3の上面の一部と第2絶縁層4の側面とからなる凹部7が形成される(図8(c))。また、工程3において、絶縁層40の側面がエッチングされるので第1絶縁層3の上面の一部が露出する。その結果、第1絶縁層3の上面と第1絶縁層3の側面である斜面とが接続している部分である角部32が露出する。
【0052】
(工程4)
ゲート電極5上に剥離層12を形成する(不図示)。
【0053】
剥離層の形成は、工程5で堆積する材料をゲート電極から剥離することが目的である。このような目的のため、例えばゲート電極を酸化させて酸化膜を形成する、あるいは電解メッキにて剥離金属を付着させるなどの方法によって剥離層12が形成される。
【0054】
尚、ここでは、ゲート電極5上に導電性膜(6B)を設けないようにするために剥離層12を設けたが、ゲート電極5上に導電性膜(6B)を設ける形態の場合には、本工程は省略できる。
【0055】
(工程5)
抵抗層9Aと電子放出体6Aを構成する材料からなる導電性膜60Aを、基板1の表面から、第1絶縁層3のカソード電極2側の側面となる斜面を経て、第1絶縁層3の上面に至るように、堆積する。即ち、導電性膜60Aは、第1絶縁層3の角部32の少なくとも一部を覆い、第1絶縁層3の斜面(側面)から第1絶縁層3の上面にかけて延在することになる。導電性膜60Aの密度が、第1絶縁層3の角部32の上(および第1絶縁層3の上面の上)に位置する部分の方が、第1絶縁層3の斜面上に位置する部分よりも、高くなる様に成膜することが好ましい。第1絶縁層3の角部32の上(および第1絶縁層3の上面の上)に位置する部分は、電子放出体6Aとなる部分である。また、第1絶縁層3の斜面上に位置する部分は、抵抗層9Aとなる部分である。
【0056】
また、同時に、導電性膜(6B)を構成する材料からなる膜60Bを、ゲート電極5の上に堆積することができる。
【0057】
この様にして、導電性膜60A(および60B)を形成する(図8(d))。
【0058】
図8(d)で示した例では、導電性膜60Aと導電性膜60Bとが接触するように成膜している。工程5では、導電性膜60Aと導電性膜60Bとが接触しないように、即ち、間隙を形成するように、導電性膜60Aと導電性膜60Bを成膜することもできる。
【0059】
しかしながら、詳しくは後述するが、間隙の大きさ(距離d)をより高精度に制御するためには、図8(d)に示すように、導電性膜60Aと導電性膜60Bとが接触するように成膜することが望ましい。
【0060】
(工程6)
続いて、導電性膜(60A、60B)に対してエッチング処理(第3エッチング処理)を行う。第3エッチング処理は導電性膜(60A、60B)の膜厚方向におけるエッチング処理を主眼とした処理である。
工程6により、導電性膜60Aの抵抗層9Aに相当する部分の膜厚を薄くし、抵抗層9Aを形成する。
【0061】
また、工程6により、工程5で導電性膜60Aと導電性膜60Bとを接触して形成した場合には、その間に間隙を形成することができる。また、工程6により、導電性膜60Aの端部(突起部)の先鋭化を行うことができる。また、凹部内に付着している余計な導電材料(導電性膜(60A、60B)を構成する材料)を除去することもできる。
【0062】
これらの結果、電子放出体6Aと抵抗層9Aからなる導電性膜(9A,6A)と、ゲート電極5上の導電性膜(6B)とが形成される(図8(e)、図8(f))。
【0063】
尚、工程6では、エッチング処理の前に導電性膜(60A、60B)の表面を酸化させる酸化処理を加える場合もある。また、工程6を、上記酸化処理と上記エッチング処理とを繰り返す工程とする場合もある。
【0064】
酸化処理とエッチング処理とを行うことで、単にエッチング処理する場合(図8(e))に比べて、図8(f)に示した様に、電子放出体6Aの好ましい形状を維持したままで、導電性膜60Aの抵抗層9Aに相当する部分のエッチング量の制御性が増す。また、電子放出体6Aの突起部の先端を、制御性よく、先鋭化出来る。また、導電性膜6Aと導電性膜6B又はゲート電極5との間隙8を制御性よく形成できる。
【0065】
その結果、より高い電子放出効率を有し、抵抗層9Aを備える電子放出素子を得ることができる。
【0066】
このように、工程6は、導電性膜(60A、60B)をその膜厚方向にエッチングするための処理である。尚、工程6では、導電性膜(60A、60B)の露出している表面が全てエッチャントに曝されることになる。
【0067】
(工程7)
剥離層をエッチングで取り除くことで、ゲート電極5上の導電性膜6Bを取り除く(不図示)。
【0068】
尚、工程4で剥離層12を形成せずに、ゲート電極5上に導電性膜6Bを設ける場合には、本工程は省略される。
【0069】
(工程8)
電子放出体6Aに電子を供給するためのカソード電極2を形成する(図8(g))。この工程は、他の工程の前や後に変更することもできる。
【0070】
基本的には、以上の(工程1)〜(工程8)により、図1に示した電子放出素子を形成することができる。
【0071】
以下、各工程についてより詳細に説明する。
【0072】
(工程1について)
基板1は電子放出素子を支持するための基板である。石英ガラス,Na等の不純物含有量を減少させたガラス、青板ガラスなどを用いることができる。基板1に必要な機能としては、機械的強度が高いだけでなく、ドライエッチング、ウェットエッチング、現像液等のアルカリや酸に対して耐性があることが挙げられる。また、画像表示装置に用いる場合は、加熱工程などを経るので、積層する部材と熱膨張率差が小さいものが望ましい。また熱処理を考慮すると、ガラス内部からのアルカリ元素等が電子放出素子に拡散しづらい材料が望ましい。
【0073】
絶縁層30(第1絶縁層3)を構成する材料は、加工性に優れる材料からなり、たとえば窒化シリコン(典型的にはSi3N4)や酸化シリコン(典型的にはSiO2)である。絶縁層30は、スパッタ法等の一般的な真空成膜法、CVD法、真空蒸着法で形成することができる。また絶縁層30の厚さは、数nmから数十μmの範囲で設定され、好ましくは数十nmから数百nmの範囲に選択される。
【0074】
絶縁層40(第2絶縁層4)を構成する材料は、加工性に優れる材料からなる絶縁性の膜であり、たとえば窒化シリコン(典型的にはSi3N4)や酸化シリコン(典型的にはSiO2)である。絶縁層40は、スパッタ法等の一般的な真空成膜法、CVD法、真空蒸着法で形成することができる。また絶縁層40の厚さは、絶縁層30よりも薄く、数nmから数百nmの範囲で設定され、好ましくは数nmから数十nmの範囲で選択される。
【0075】
尚、絶縁層30と絶縁層40を基板1上に積層した後に工程3にて凹部7を形成する必要がある。そのため、上記第2エッチング処理に対して、絶縁層30よりも絶縁層40の方がよりエッチング量が多い関係に設定する。望ましくは絶縁層30と絶縁層40との間のエッチング量の比は、10以上であることが好ましく、50以上であることが更に好ましい。
【0076】
このようなエッチング量の比を得るためには、例えば、絶縁層30を窒化シリコン膜で形成し、絶縁層40を酸化シリコン膜やリン濃度の高いPSGやホウ素濃度の高いBSG膜等で構成すれば良い。尚、PSGはリンシリケートガラスであり、BSGはボロンシリケートガラスである。
【0077】
導電層50(ゲート電極5)は導電性を有しており、蒸着法、スパッタ法等の一般的真空成膜技術により形成されるものである。
【0078】
ゲート電極5となる導電層50の材料は、導電性に加えて高い熱伝導率があり、融点が高い材料が望ましい。例えば、Be,Mg,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Al,Cu,Ni,Cr,Au,Pt,Pd等の金属または合金材料が使用できる。また、炭化物や硼化物や窒化物も使用でき、Si,Ge等の半導体も使用できる。
【0079】
また、導電層50(ゲート電極5)の厚さは、数nmから数百nmの範囲で設定され、好ましくは数十nmから数百nmの範囲で選択される。
【0080】
ゲート電極5となる導電層50は、カソード電極2に比べてその膜厚が薄い範囲で設定される場合があるので、カソード電極2の材料よりも低抵抗な材料であることが望ましい。
【0081】
(工程2について)
上記第1エッチング処理では、エッチングガスをプラズマ化して材料に照射することで材料の精密なエッチング加工が可能な、RIE(Reactive Ion Etching)を用いることが好ましい。
【0082】
RIEに用いるガスとしては、加工する対象部材がフッ化物を作る材料である場合には、CF4、CHF3、SF6などのフッ素系ガスが選ばれる。また加工する対象部材がSiやAlのような塩化物を形成する材料である場合には、Cl2、BCl3などの塩素系ガスが選ばれる。またレジストとの選択比を取るため、またエッチング面の平滑性の確保あるいはエッチングスピードを上げるため、水素、酸素、アルゴンガスの少なくともいずれかをエッチングガスに添加する。
【0083】
工程2により、基本的に、図1などに示した電子放出素子を構成する第1絶縁層3とゲート電極5と同一または略同一の形状が形成される。しかしながら、工程2以降に行われるエッチング処理で、第1絶縁層3とゲート電極5が全くエッチングされないことを意味する訳ではない。
【0084】
また、第1絶縁層3の斜面と基板1の表面とが成す角度(図8(b)にθで表示)は、ガス種、圧力、等の条件を制御することに所望の値に制御可能である。θは、90°よりも小さい角度(θ)とすることが好ましい。これは、工程5で第1絶縁層3の斜面に形成される導電性膜60A(導電性膜6A)の膜質(膜密度)を制御するためである。
【0085】
θが90°よりも小さい角度に設定することで、ゲート電極5のカソード電極側の側面は、第1絶縁層3のカソード電極側の側面よりも後退する。また、ゲート電極5の側面(斜面)と第1絶縁層3の上面(基板1の表面)とが成す角度が、第1絶縁層3の側面(斜面)と基板1の表面とが成す角度よりも小さくすることが好ましい。尚、第1絶縁層3の上面と第1絶縁層3の側面との成す角度は、180°−θとみなせる。
尚、θは、第1絶縁層3の側面において、角部32(図6(c)参照)から基板1方向へ接線を引いたときに、この接線と基板1とのなす角度で表すことができる。
尚、絶縁層3は基板1の表面に一般的に用いられる成膜方法によって形成されているので、絶縁層3の上面は基板1の表面(水平方向12)と平行(または実質的に平行)であると言える。即ち、絶縁層3の上面は基板1の表面と完全に平行である場合もあるが、成膜環境や条件などにより、通常、僅かに傾きを有することが考えられるが、このような場合も含めて、平行または実質的に平行の範疇である。
【0086】
(工程3について)
工程3では、エッチング液によって絶縁層40がエッチングされる量に対して、エッチング液によって絶縁層3がエッチングされる量が十分に低くなるようなエッチング液が選択される。
【0087】
上記第2エッチング処理は、例えば絶縁層40が酸化シリコンで形成され第1絶縁層3(絶縁層30)が窒化シリコンで形成されている場合、エッチング液は通称バッファードフッ酸(BHF)を用いればよい。バッファードフッ酸(BHF)はフッ化アンモニウムとフッ酸との混合溶液である。また、絶縁層40が窒化シリコンで形成され第1絶縁層3(絶縁層30)が酸化シリコンで形成されている場合は、エッチャントは熱リン酸系エッチング液を使用すればよい。
【0088】
工程3により、図1などに示した電子放出素子を構成する第2絶縁層4と同一または略同一のパターンが形成される。しかしながら、工程3以降に行われるエッチング処理で、第2絶縁層4が全くエッチングされないことを意味する訳ではない。
【0089】
凹部7の深さ(奥行き方向の距離)は、電子放出素子のリーク電流に深く関わる。凹部7を深く形成するほどリーク電流の値が小さくなる。しかし、あまり凹部7を深くするとゲート電極5が変形する等の課題が発生する。このため、実用的には30nm以上200nm以下に設定される。尚、凹部7の深さは、絶縁層3の側面(または角部32)から絶縁層4の側面までの距離と言い換えることもできる。
【0090】
(工程5について)
工程5において、導電性膜(60A、60B)は、蒸着法、スパッタ法等の真空成膜技術により形成される。
【0091】
導電性膜60Aの密度が、第1絶縁層3の角部32の上(および第1絶縁層3の上面の上)に位置する部分の方が、第1絶縁層3の斜面上に位置する部分よりも、高くなる様に成膜することが好ましい。このような成膜を行うことで、導電性膜60Aの、第1絶縁層3の上面(角部32)上に位置する端部が、突起形状(突起部)を有する形態とすることができる。即ち、図8(d)に示す様に、先端が尖った突起部を第1絶縁層3の上面(角部32)上に備える、導電性膜60Aを形成することができる。そして、導電性膜60Aの突起部の膜密度に比べて、導電性膜60Aの第1絶縁層3の斜面上に位置する部分の膜密度が低く形成される。その結果、工程6の第3エッチング処理により、突起部をより先鋭化することができる。導電性膜60Aの、第1絶縁層3の角部32の上(および第1絶縁層3の上面の上)に位置する部分である突起部は、電子放出体6Aとなる部分である。また、導電性膜60Aの、第1絶縁層3の斜面上に位置する部分は、抵抗層9Aとなる部分である。
【0092】
上記の様な成膜を行う為には、導電性膜60Aの成膜を指向性を有する成膜法によって行う。例えば、いわゆる指向性スパッタリング法や蒸着法を用いることができる。指向性を有する成膜方法を用いることで、導電性膜(60A,60B)の原料が、第1絶縁層3の上面および側面(並びにゲート電極5の上面および側面)に入射する角度を制御できる。
【0093】
指向性スパッタでは、具体的には、基板1とターゲットとの角度を設定した上で、基板1とターゲットの間に遮蔽板を設けたり、基板1とターゲット間の距離をスパッタ粒子の平均自由行程近傍にする等行う。スパッタ粒子に指向性を与えるコリメータを用いる、いわゆるコリメーションスパッタ法も上記指向性スパッタリング法の範疇である。このようにして、限られた角度のスパッタ粒子(スパッタされた原子またはスパッタされた粒子)のみが被成膜面(絶縁層30の斜面など)に入射される様にする。
【0094】
即ち、スパッタ粒子の第1絶縁層3の斜面に対する入射角度が、スパッタ粒子の第1絶縁層3の上面(角部32)に対する入射角度よりも小さい(浅い)角度になる様にすればよい。但し、スパッタ粒子の第1絶縁層3の上面(角部32)に対する入射角度は、スパッタ粒子の第1絶縁層3の斜面に対する入射角度よりも、より90度に近く設定する。このようにすることで、スパッタ粒子は、第1絶縁層3の斜面に対してよりも第1絶縁層3の上面(角部32)に対して、より垂直に近い状態で入射させることができる。このような成膜を行うことで、前述したような、導電性膜60Aの、第1絶縁層3の上面(角部32)上に位置する端部が、突起形状(突起部)を有する形態とすることができる。
【0095】
蒸着法では、真空度が10−2〜10−4Pa程度の高真空下で成膜を行うと、蒸発源から気化した蒸発物質は、衝突する可能性が低い。更に、蒸発物質の平均自由行程は概ね数百mm〜数m程度である為、蒸発源から気化した時の方向性が維持されて基板に届くことになる。このため、蒸着法は指向性を有する成膜方法となる。蒸発源を蒸発させる手法は、抵抗加熱、高周波誘導加熱、電子ビーム加熱などが有るが、対応可能な物質の種類及び加熱面積の関係から電子ビームを利用する方法が有効である。
【0096】
尚、工程2においてθを90°よりも小さい角度に設定することで、ゲート電極5のカソード電極2側の側面は、第1絶縁層3のカソード電極2側の側面よりも後退することは前述した通りである。その結果、本工程で上記したような指向性を有する成膜を行うことで、角部32の上には、側面(斜面)の上よりも、良質な膜が形成される。尚、「良質な膜」とは、ここでは「高密度な膜」または「膜密度の高い膜」と言い換えることができる。
【0097】
従って、工程2における第1エッチング処理によって形成される角度θを、より小さい角度にすれば、第1絶縁層3の上面により多くの良質な膜を形成できる。即ち、第1絶縁層3のカソード電極2側の側面に対する、ゲート電極5のカソード電極2側の側面の後退量を多くすれば、第1絶縁層3の上面により多くの良質な膜を形成できる。
【0098】
本工程では、導電性膜60Aと導電性膜60Bとが接触しないように、即ち、間隙を形成するように、導電性膜60Aと導電性膜60Bを成膜することもできる。また、ゲート電極5上に導電性膜6Bを設けない形態とする場合には、ゲート電極5と離れるように、導電性膜60Aを成膜する。
【0099】
電子放出素子では、電子放出体6Aとゲート電極5(導電性膜6B)との間に距離dの間隙を高精度に形成する必要がある。特に、複数の電子放出素子を均一性高く形成する場合には、各電子放出素子の間隙の大きさのバラツキを少なくすることが重要である。間隙の大きさ(距離d)をより高精度に制御するために、工程5において、導電性膜60Aと導電性膜60Bとが接触するように成膜することが望ましい。言い換えると、工程5において、導電性膜60Aとゲート電極5とが導電性膜60Bを介して接続するように成膜することが望ましい。そして、その後に、工程6における第3エッチング処理で、導電性膜60Aと導電性膜60Bとの間に間隙を形成することが望ましい。尚、間隙の形成を、上記工程4の成膜時間や成膜条件の制御等で行う場合も、凹部7内のどこかに、導電性膜60Aと導電性膜60Bとが、微小に接触した箇所(リーク源)が形成される可能性もある。そのため、工程5の後に、下記工程6における第3エッチング処理を行うことが望ましい。
【0100】
導電性膜60Aと導電性膜60Bは、同一材料でも良いし、異なる材料でも構わない。しかしながら、製造の容易性、エッチングの制御性から、導電性膜60Aと導電性膜60Bは同一材料で同時に成膜することが好ましい。
【0101】
導電性膜(60A、60B)の材料は、導電性があり、電界放出する材料であればよく、好ましくは、2000℃以上の高融点の材料から選択される。また、導電性膜60Aの材料は、5eV以下の仕事関数材料であり、その酸化物が簡易にエッチング可能な材料で形成されることが好ましい。このような材料として例えば、Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Au,Pt,Pd等の金属または合金材料、或いは炭化物、硼化物、窒化物も使用可能である。工程6において、金属と金属酸化物のエッチング特性の差を利用した、表面酸化膜のエッチング処理を行う場合があるので、導電性膜(60A、60B)の材料は、MoまたはWを用いることが好ましい。
【0102】
(工程6について)
第3エッチング処理としてはドライエッチング、ウェットエッチングの何れでも構わないが、他材料とのエッチング選択比の容易さを考慮して、ウェットエッチングを行うことが好ましい。
【0103】
導電性膜(60A、60B)の材料がモリブンであるときは、エッチング液にはTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)といったアルカリ溶液を用いることができる。
【0104】
エッチング量が数nm程度と微量である為、安定性を考慮するとエッチングレートは1分間に1nm以下であることが望ましい。上記エッチングレートとは、単位時間当たりの膜厚変化量を意味している。エッチング処理で除去される単位時間当たりの原子数は、導電性膜(60A、60B)の材料とエッチング液で一意に決まるので、膜密度とエッチングレートは反比例の関係にある。即ち、膜密度が高いほど、エッチングレートは低くなる。
【0105】
図14(a)、図14(b)、図14(c)を用いて、第3エッチング処理による、抵抗層9Aの形成処理、並びに、間隙の形成と導電性膜60Aの端部(突起部)の先鋭化について説明する。
【0106】
図14(a)は、工程5で指向性を有する成膜方法により、導電性膜(60A、60B)が成膜された状態を表している。指向性を有するスパッタ法により、ゲート電極5の表面、基板1の表面、及び、第1絶縁層3の角部32、第1絶縁層3の上面では、スパッタ粒子が、これらの面に対して90°に近い角度(スパッタ粒子の飛翔方向と面の成す角度)で衝突する。尚、スパッタ粒子とは、スパッタターゲットからスパッタされた粒子を指す。その為、上記した部分には、良質な膜(ここでは「高密度な膜」または「膜密度の高い膜」と表現する)が形成される。
【0107】
一方、第1絶縁層3の斜面及びゲート電極5の端部近傍の面には、スパッタ粒子がこれらの面に対して浅い角度(90°から離れた角度)で衝突する為、これらの面上には低密度な膜(または「膜密度の低い膜」)が形成される。
【0108】
図14(a)では、6A1および6B1で模式的に示した部分が高密度膜、6A2および6B2で模式的に示した部分が低密度膜を表している。
【0109】
前述した様に膜密度とエッチングレートは反比例する。そのため、上記第3エッチング処理では、導電性膜の6A1および6B1で模式的に示した部分に比較して、導電性膜の6A2および6B2で模式的に示した部分の方が高エッチングレートになる。尚、工程6では、導電性膜の露出している表面が全てエッチャントに曝される(エッチングされる)ことになる。
【0110】
図14(b)および図14(c)は、第3エッチング処理を行った状態を表している。図中、T2は高密度膜の部分における、第3エッチング処理による膜厚の減少量を示しており、T3は低密度膜の部分における、第3エッチング処理による膜厚の減少量を示している。本実施形態では、T2<T3の関係が成り立つ。第3エッチング処理による膜厚の減少量はエッチング時間あるいはエッチング回数で調整が可能である。T2<T3の関係があるので、繰り返してエッチング処理を行うことにより導電性膜60Aの絶縁層3の側面上に位置する部分の薄膜化(抵抗層化)が進行し、同時に導電性膜60Aの端部(突起部)の先鋭化が促進される(図14(c))。
【0111】
例えば、導電性膜(60A、60B)の材料がモリブデンの場合は、高密度膜は9.0g/cm3以上10.3g/cm3以下であり、低密度膜は6.0g/cm3以上8.5g/cm3以下であることが望ましい。
【0112】
上記値は、膜の抵抗率と膜厚及びエッチングレート差を考慮した実用的な範囲である。
【0113】
膜密度の測定は、一般にはXRR(X線反射率法)が用いられるが、実際の電子放出素子では測定が困難な場合がある。そのような場合には、膜密度の測定手法として、例えば、以下の方法を採用することができる。即ち、TEM(透過電子顕微鏡)とEELS(電子エネルギー損失分光)を組み合わせた高分解能電子エネルギー損失分光電子顕微鏡で、元素の定量分析を行い、膜密度が既知の膜と比較することで、検量線を作成して、密度を算出することができる。
【0114】
本発明における導電性膜(60A、60B)の材料と第3エッチング処理に用いるエッチャントの組み合わせは、特に限定されるものではない。例えば、導電性膜(60A、60B)の材料がモリブデンであれば、エッチャントはTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)やアンモニア水などのアルカリ溶液を用いることができる。或は、エッチャントとして、2−(2−n−ブトキシエトキシ)エタノールとアルカノールアミンの混合物やDMSO(ジメチルスルホキシド)等も用いることができる。
【0115】
また、導電性膜(60A、60B)の材料がタングステンの場合は、硝酸やフッ酸や水酸化ナトリウム溶液等をエッチャントとして用いることができる。
【0116】
また、前述したように、工程6を、導電性膜(60A、60B)の表面を酸化させる酸化工程と酸化した導電性膜(60A、60B)の表面をエッチングするエッチング処理とで構成する形態もある。これは、酸化工程で導電性膜(60A、60B)の表面に所望量の酸化膜を形成した後、該酸化膜をエッチング除去することにより、エッチング量の均一性(再現性)を高める効果が期待できる。
【0117】
そして、酸化量(酸化膜厚)は膜密度に反比例する。即ち、膜密度が高い部分の表面の酸化量(酸化膜厚)は、膜密度が低い部分の表面の酸化量(酸化膜厚)に比べて小さくなる。そのため、導電性膜(60A、60B)を酸化処理した場合、膜密度の小さい部分(図14(a)の6A2、6B2に相当する部分)の表面層が優先的に(選択的に)酸化される。つまり、酸化処理とエッチング処理とを行うことによって、導電性膜60Aの絶縁層3の側面上に位置する部分の薄膜化(抵抗層化)、並びに導電性膜60Aの端部(電子放出体)の先鋭化の制御精度を高めることが可能になる。また、前述した間隙の間隔の制御精度を高めることが可能になる。
【0118】
酸化方法は、導電性膜60Aの表面を数〜数十nm酸化させることが可能な方法ならば特に制限されるものではない。具体的にはオゾン酸化(エキシマUV露光、低圧水銀露光、コロナ放電処理、等)や熱酸化等が挙げられるが、好ましくは、酸化の定量性が優れているエキシマUV露光を用いる。また、導電性膜60Aの材料がモリブデンの場合にはエキシマUV露光により、酸化膜が容易に除去できるMoO3を主として生成することができる利点もある。
【0119】
酸化膜の除去工程は、ドライ、ウェットの何れでも構わないが、好ましくはウェットエッチング処理を用いる。酸化膜の除去工程(エッチング工程)は、表面層である酸化膜のみを除去(エッチング)することが目的となる。そのため、用いるエッチャントしては、酸化膜のみを除去して、下層である金属層(酸化していない層)には実質的な影響のないものが望まれる。或いは、酸化膜のエッチングレートが金属層(酸化していない層)に比較して十分に大きい(桁で異なる)ものが望まれる。具体的には、導電性膜(60A、60B)の材料がモリブデンであれば、エッチャントは、希釈TMAH(濃度が0.238%以下が望ましい)、温水(40℃以上が望ましい)等が挙げられる。導電性膜60Aの材料がタングステンの場合は、バッファードフッ酸、希塩酸、温水等が挙げられる。
【0120】
工程6によって、電子放出体6Aと抵抗層9Aと導電性膜6Bとが形成される。尚、導電性膜6Bは、ゲート電極5の上(詳細にはゲート電極の側面(斜面)上と上面上)に設けられている。導電性膜6Bを設けない場合には、電子放出体6Aの先端から電界放出した電子は、まずゲート電極5に衝突する。このため、導電性膜6B(ゲート電極5の側面に位置する部分)を剥離せずに残せば、導電性膜6Aの突起部の先端から放出された電子が最初に衝突する部分とすることができる。そのためゲート電極5を構成する材料の融点が多少低くても、導電性膜6Bを導電性が高く高融点の材料(例えばモリブデンやタングステン)で形成すれば、電子放出素子の電子放出特性の劣化を抑制することができる。
【0121】
(工程8について)
カソード電極2は、前記ゲート電極5と同様に導電性を有しており、蒸着法、スパッタ法等の一般的真空成膜技術、フォトリソグラフィー技術により形成することができる。カソード電極2の材料は、ゲート電極5と同じ材料であってもよく、異なる材料であってもよい。
【0122】
カソード電極2の厚さとしては、数十nmから数μmの範囲で設定され、好ましくは数百nmから数μmの範囲で選択される。
【0123】
以下、上記電子放出素子を複数配して得られる電子源を備えた画像表示装置について、図15〜図17を用いて説明する。
【0124】
図15において、61は基板、62はX方向配線、63はY方向配線であり、また、64は上記した電子放出素子、65は結線である。尚、X方向配線62は、上述のカソード電極2を共通に接続する配線であり、Y方向配線63は上述のゲート電極5を共通に接続する配線である。
【0125】
m本のX方向配線62は、DX1,DX2,…DXmからなり、真空蒸着法,印刷法,スパッタ法等を用いて形成された金属等の導電性材料で構成することができる。配線の材料、膜厚、巾は、適宜設計される。
【0126】
Y方向配線63は、DY1,DY2,…DYnのn本の配線よりなり、X方向配線62と同様に形成される。これらm本のX方向配線62とn本のY方向配線63との間には、不図示の層間絶縁層が設けられており、両者を電気的に分離している(m,nは、共に正の整数)。
【0127】
不図示の層間絶縁層は、真空蒸着法,印刷法,スパッタ法等を用いて形成される。例えば、X方向配線62を形成した基板61の全面或は一部に所望の形状で形成され、特に、X方向配線62とY方向配線63の交差部の電位差に耐え得るように、膜厚、材料、製法が、適宜設定される。X方向配線62とY方向配線63は、それぞれ外部端子として引き出されている。
【0128】
配線62と配線63を構成する材料、結線65を構成する材料及びカソード、ゲートを構成する材料は、その構成元素の一部あるいは全部が同一であっても、またそれぞれ異なってもよい。
【0129】
X方向配線62には、X方向に配列した電子放出素子64の行を選択するための走査信号を印加するための不図示の走査信号印加手段が接続される。一方、Y方向配線63には、Y方向に配列した電子放出素子64の各列を入力信号に応じて変調するための不図示の変調信号発生手段が接続される。
【0130】
各電子放出素子に印加される駆動電圧は、当該素子に印加される走査信号と変調信号の差電圧として供給される。
【0131】
上記構成においては、単純なマトリクス配線を用いて、個別の素子を選択して、独立に駆動可能とすることができる。
【0132】
このような単純マトリクス配置の電子源を用いて構成した画像表示装置について、図16を用いて説明する。図16は画像表示装置の画像表示パネル77の一例を示す模式図である。
【0133】
図16において、61は電子放出素子を複数配した基板、71は基板61を固定したリアプレートである。また、76は、ガラス基板73の内面に、アノードであるメタルバック75と、発光体の膜74としての蛍光体膜等が形成されたフェースプレートである。
【0134】
また、72は支持枠であり、この支持枠72には、リアプレート71、フェースプレート76がフリットガラス等の接合材を用いて封着(接合)されている。77は外囲器であり、例えば大気中あるいは、窒素中で、400〜500度の温度範囲で10分以上焼成することで、封着して構成される。
【0135】
また、64は、図1における電子放出素子に相当するものであり、62,63は、電子放出素子のカソード電極2、ゲート電極5とそれぞれ接続されたX方向配線及びY方向配線である。図16では電子放出素子64と配線62、63との位置関係は模式的に示されている。実際には、配線62と配線63との交差部の脇の基板上に電子放出素子64が配置されている。
【0136】
画像表示パネル77は、上述の如く、フェースプレート76、支持枠72、リアプレート71で構成される。ここで、リアプレート71は主に基板61の強度を補強する目的で設けられるため、基板61自体で十分な強度を持つ場合には、別体のリアプレート71は不要とすることができる。
【0137】
即ち、基板61に直接支持枠72を封着するとともに、支持枠とフェースプレート76とを封着して外囲器77を構成しても良い。一方、フェースプレート76とリアプレート71との間に、スペーサーとよばれる不図示の支持体を設置することにより、大気圧に対して十分な強度をもつ画像表示パネル77を構成することもできる。
【0138】
次に、上記画像表示パネル77に、テレビ信号に基づいたテレビジョン表示を行うための駆動回路の構成例について、図17を用いて説明する。
【0139】
図17において、77は画像表示パネル、92は走査回路、93は制御回路、94はシフトレジスタである。95はラインメモリ、96は同期信号分離回路、97は変調信号発生器、VxおよびVaは直流電圧源である。
【0140】
表示パネル77は、端子Dox1乃至Doxm、端子Doy1乃至Doyn、及び高圧端子Hvを介して外部の電気回路と接続している。
【0141】
端子Dox1乃至Doxmには、表示パネル77内に設けられている電子源、即ち、M行N列の行列状にマトリクス配線された電子放出素子群を一行(N素子)ずつ順次駆動する為の走査信号が印加される。
【0142】
一方、端子Doy1乃至Doynには、走査信号により選択された一行の電子放出素子の各素子の出力電子ビームを制御する為の変調信号が印加される。
【0143】
高圧端子Hvには、直流電圧源Vaより、例えば10[kV]の直流電圧が供給される。
【0144】
上述のように走査信号、変調信号、及びアノードへの高電圧印加により、放出された電子を加速して蛍光体へと照射することによって、画像表示を実現することができる。
【実施例】
【0145】
以下、より具体的な実施例について説明する。
【0146】
(実施例1)
図9は、絶縁基板上にモリブデンをスパッタ成膜する際、ターゲットに対する基板表面の角度を0°(ターゲットと水平)〜90°(ターゲットに対して垂直)まで変化させた時の成膜角度(ターゲットと基板表面の成す角)と抵抗率の関係を表している。角度を0°、30°、60°、90°と変えてそれぞれ80nm成膜した後、TMAHにて膜を膜厚が20nmとなるまでエッチングした後の抵抗率を測定している。抵抗率は4探針法によってシート抵抗を算出した後、シート抵抗を膜厚で割ることによって算出した。成膜角度に比例して抵抗率が上昇しており、このことから膜の密度を成膜角度によって制御可能であることがわかる。
【0147】
(実施例2)
図8を参照して、本実施例の電子放出素子の製造方法を説明する。
【0148】
最初に、図8(a)に示すように基板1上に絶縁層30、40と、導電層50を積層する。
【0149】
基板1は低ナトリウムガラスであるPD200を用いた。絶縁層30は、SiN膜をスパッタ法にて形成し、その厚さとしては、500nmとした。絶縁層40は、SiO2膜をスパッタ法にて形成し、その厚さとしては、30nmとした。ゲート電極5となる導電層50はTaN膜で構成し、スパッタ法にて形成し、その厚さとしては、30nmとした。
【0150】
次に、フォトリソグラフィー技術により導電層50上にレジストパターンを形成したのち、ドライエッチング法を用いて導電層50、絶縁層40、絶縁層30を順にエッチングする(図8(b))。これによって、第1絶縁層3とゲート電極5がパターン形成される。この時のエッチングガスとしては、絶縁層30、40及び導電層50にはフッ化物を作る材料が選択されているため、CF4系のガスを用いた。
【0151】
レジストを剥離した後、BHFを用いて凹部7の深さが約70nmになるように絶縁層40をエッチングし、絶縁層3,4からなる段差形成部材10に凹部7を形成した(図8(c))。これによって、第2絶縁層4がパターン形成される。
【0152】
この時、基板1の水平面(表面)に対する絶縁層3の側面(斜面)の角度θはおよそ80°の角度で形成されていた。また、基板1の水平面(表面)に対する絶縁層3の上面の角度はおよそ0°の角度で形成されていた。
【0153】
次に、ゲート電極5に電解メッキによりNiを電解析出させてNiからなる剥離層を形成した。
【0154】
続いて、図8(d)に示すように、導電性膜60Aと導電性膜60Bとが接触するように、モリブデン(Mo)を、絶縁層3の側面上および上面上、及びゲート電極5上(剥離層上)に、スパッタ法を用いて堆積させた。
【0155】
スパッタは基板1表面上への堆積速度が約100nm/minになるように定めた。堆積時間を精密に制御し(本例では0.7分)、ターゲットと平行な基板1の表面上には70nm、絶縁層3の側面上及びゲート電極の側面上には40nmのモリブデンを形成した。
【0156】
この時、凹部7内への導電性膜60Aの入り込み量(x)を35nmとした。
【0157】
次に、エッチャントとしてTMAHを用いて、導電性膜(60A、60B)をエッチングし、間隙8を形成し、また、電子放出体6Aと抵抗体9Aを形成する(図8(e)、図8(f))。
【0158】
TMAHによるエッチングの速度は、基板1の表面上では0.2nm/min、絶縁層の側面上では0.6nm/minとなるようにTMAHの濃度を調整した。
【0159】
本実施例ではターゲットと平行な基板1表面上のMo膜が60nmとなる様にエッチング時間(本例では50分)を精密に制御した。この時、絶縁層3の側面上のMoの厚さは10nmとなった。
【0160】
続いて、ヨウ素とヨウ化カリウムからなるエッチング液を用いてゲート電極5上に設けたNi剥離層を除去することによりゲート電極上の導電性膜6Bを剥離した。
【0161】
その後、導電性膜(電子放出体6Aおよび抵抗層9A)の幅T4(図1参照)が3μmになるようにフォトリソグラフィー技術によりレジストパターンを導電性膜(電子放出体6Aおよび抵抗層9A)上に形成した。その後、ドライエッチングで導電性膜(電子放出体6Aおよび抵抗層9A)をパターニングした。この時のエッチングガスとしては、モリブデンはフッ化物を作る材料であるため、CF4系のガスが用いられた。
【0162】
断面TEMによる解析の結果、電子放出部である電子放出体6Aの先端とゲート電極5との間の最短距離8が9nmであった。
【0163】
次に図8(g)に示すように、電極2を形成した。電極2には銅(Cu)を用いた。その作成方法はスパッタ法にて形成され、その厚さとしては、500nmであった。
【0164】
以上の方法で形成された電子放出素子の抵抗体9A及びカソード6Aについて、TEM(透過電子顕微鏡像)とEELS(電子エネルギー損失分光法)分析を実施して膜密度を算出した。その結果、抵抗層9Aは7.7g/cm3、電子放出体6Aは10.2g/cm3であった。
【0165】
本実施例で作成した電子放出素子を用いた画像表示装置においては、電子ビームの成形性に優れた表示装置を得ることができた。また、表示画像の良好な表示装置を実現できるとともに、放電による画素欠陥などの無い信頼性の高い画像表示装置が提供できた。また、この画像表示装置を駆動中に意図的に放電を生じさせたところ、1つの電子放出素子を構成する抵抗層9Aにおいて溶断されていることが確認されたが、他の電子放出素子は破壊されていなかった。
【0166】
(実施例3)
本実施例では電子放出素子Aと電子放出素子Bの2つの電子放出素子を作成した。作成した電子放出素子Aおよび電子放出Bの基本的な製造方法は実施例2と同様であるので、ここでは実施例2と異なる部分のみ図8を用いて説明する。
【0167】
まず、電子放出素子Aと電子放出Bの違いを検証しやすくするために、どちらの電子放出素子についても絶縁層3の膜厚を10μmとした。
【0168】
電子放出素子Aについては上記絶縁層3の膜厚を除いたその他の構成は実施例2と同じである。
【0169】
一方、電子放出素子Bは、図8(d)に示した工程において、導電性膜60Aの絶縁層3の側面上に位置する部分(低密度膜:図14の6A2)のMo膜厚が30nmとなる様に形成した。
【0170】
次に、モリブデンの表層を酸化させた。酸化方法としてオゾン中でのEUV露光法を用いた。酸化の速度は、基板1の表面に平行な部位(高密度膜:図14の6A1)では2nm/minであり、絶縁層3の側面上の部位(低密度膜:図14の6A2)では4nm/minである。基板1の表面と平行な部位(高密度膜)では、形成される酸化層の膜厚が10nmとなるように時間(本例では5min)を精密に制御した。この時、導電性膜60Aの絶縁層3の側面上に位置する部分の表面に形成された酸化層の膜厚は20nmであった。
【0171】
次に、形成された酸化層を除去するために、45℃の温水中に浸漬させて、エッチング処理した。酸化層のエッチング速度は0.5nm/minであり、側面上の酸化層の膜厚が5nmになるまで(本実施例では30min)エッチングを行った。このようにして、絶縁層3の側面上、及び、ゲート電極5の側面上のMoの厚さが10nm、その表面に設けられた酸化層の膜厚は5nmとした。また、基板1の表面に平行な部位(絶縁層3の上面上およびゲート電極5の上面上)のMoの厚さが42nmとした。また、凹部7内への電子放出体6Aの入り込み量(x)が35nm、凹部7内に位置する絶縁層3の上面と電子放出体6Aの側面とが接する角度が120°となるように形成した。
【0172】
その後、真空中にて450℃で1時間の加熱工程を行った。
【0173】
電子放出素子Bのその他の形成方法や構造は、実施例2と同じである。
【0174】
電子放出素子Aとの違いは、電子放出素子Bでは抵抗層9Aが、厚みが10nmのモリブデン層とその表面に設けられた厚みが5nmの酸化モリブデン層で構成されている点である。
【0175】
次に、モリブデン層からなる抵抗層9Aを備える電子放出素子Aと酸化モリブデン層とモリブデン層との積層体からなる抵抗層9Aを備える電子放出素子Bの電気特性の評価方法を説明する。
【0176】
図11は、モリブデンのみで形成された抵抗層9Aを備えた電子放出素子Aと、モリブデン層とその表面に設けられた酸化層とで構成された抵抗層9Aを備える電子放出素子Bの、電圧―電流曲線を比較したものである。
【0177】
図12では、電子放出特性を測定するときの電源の供給配置を示している。ここで、Vfはゲート電極5とカソード電極2の間に印加される電圧、Ifはこの時流れる素子電流、Vaはカソード電極2と陽極(アノード)20の間に印加される電圧、Ieは電子放出電流である。
【0178】
ゲート電極5を0Vに規定してカソード電極2に負電圧を0Vから−30V付近まで徐々に昇圧していき、その際に流れるIfを計測した。電圧は任意波形装置を用いて矩形波を出力しオシロスコープと同期させて電流波形、電圧波形を取得した。
【0179】
本実施例で作成した電子放出素子A、Bを、予め、真空中にて加熱工程を行った。その後、超高真空中(10−6Pa以下)にて特性の評価を行った。
【0180】
上述の評価系で測定した電圧―電流曲線を図11に示した。
【0181】
横軸のVfは上記した印加電圧であり、Ifは上記素子電子電流である。If−Vf曲線を比較すると、電子放出素子Bの方が電子放出素子Aの電流―電圧曲線よりも高電圧側にシフトしていることが分かる。
【0182】
表層に酸化層が存在している電子放出素子Bの方が、電子放出素子Aよりも抵抗値が高くなることがわかる。
【0183】
電子放出素子Bの酸化層をエッチングした後の状態を断面TEMで確認した結果を、図10に模式的に示す。
【0184】
抵抗層9Aにおいて、モリブデン層15の膜厚は10nmであり、モリブデン膜の表面に存在する酸化モリブデン層13の平均膜厚は5nmであった。14はモリブデン膜15のグレイン(結晶子)の間に存在する酸化モリブデンである。モリブデンの酸化部位が表層の酸化層13にだけでなく、モリブデン層15のグレイン(結晶子)の間にも多数存在することで、金属中に酸化物が分散されたような状態になり高抵抗化に寄与していると考えられる。
【0185】
また、酸化モリブデン層13は主体が二酸化モリブデンであった。これは、酸化層を形成した段階では三酸化モリブンデンであるが、上記したように真空中で450℃で1時間の加熱処理を行って二酸化モリブデンが主体となるように変質させたためである。(Handbook of Materials and Techniques for Vacuum Devices p287 Walter H.Kohl参照)。酸化モリブデン層13は、二酸化モリブデンのみで構成されていてもよい。
【0186】
以上のことを鑑みると、抵抗層9Aの表面に二酸化モリブデンの層(二酸化モリブデンを主体とする層)13を設けることで、抵抗層としての機能が向上する。
【0187】
(実施例4)
本実施例で作成した電子放出素子の製造方法は、基本的には実施例3と同様であるので、ここでは実施例3と異なる部分のみ図8を用いて説明する。本実施例で作成した電子放出素子AおよびBでは、導電性膜(電子放出体6Aおよび抵抗層9A)を100個に分割するパターニングを行った以外については実施例3で作成した電子放出素子AおよびBの製造方法と同様である。従って、以下パターニング工程について説明する。
【0188】
導電性膜剥離層を剥離した後、導電性膜(電子放出体6Aおよび抵抗層9A)を100個に分割するために、図2に示す様に、幅T4が3μmのライン&スペースになるようにフォトリソグラフィー技術によりレジストパターンを形成した。
【0189】
その後、ドライエッチングで導電性膜(電子放出体6Aおよび抵抗層9A)を100個に分割するパターニングを行った。
【0190】
断面TEMによる解析の結果、電子放出部である電子放出体(図2では60A1〜60A4に相当)の先端とゲート電極5との間の最短距離8の平均は8.5nmとなっていた。
【0191】
その他の工程は実施例2と同じである。
【0192】
以上の工程で作成した電子放出素子AおよびBの電子放出特性の評価方法は、ほぼ実施例3で示したものと同様であるので、ここでは実施例3との違いについてだけ述べる。
【0193】
図13(a)は、本実施例で作成した2つの電子放出素子(電子放出素子Aと電子放出素子B)について、ラッシュカレントが流れた際の電気特性を示している。
【0194】
ラッシュカレントを計測するために、任意波形発生装置と同期をとるオシロスコープAとは別のオシロスコープBを用意した。オシロスコープBは、FN電流にラッシュカレントが約1mA程度の電流値が重畳された際にトリガがかかるように設定した。
【0195】
サンプリングレートは100MSa/sでレコード長を14bitに設定した。図13(a)に示したIf−Vf曲線は、オシロスコープAによって読み取った電流波形のパルスの後半の値を読み取ったものである。ここでは出力パルスは100usであり、読み値はパルス後半の5usを平均化した値を用いた。
【0196】
ラッシュカレントが流れるまで昇圧を続け、オシロスコープBにラッシュカレントが流れてトリガがかると、昇圧を止めて電圧を徐々に下げるように設定した。
【0197】
ラッシュカレントが流れるとオシロスコープBでは図13(b)のように波形が取得される。ラッシュカレントが流れた前後における電流値の差を図13(c)に示した。
【0198】
図13Cより、酸化膜を上層に持つ抵抗層9Aを備えた電子放出素子Bの方が、電流値の低下が少ないことが読み取れる。短絡した抵抗層が瞬時に溶断されたことで、隣接する他の抵抗層(電子放出体)へのダメージを抑えることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0199】
【図1】電子放出素子の模式図
【図2】別の電子放出素子の模式図
【図3】電子放出素子に接続された抵抗体の形状を示す図
【図4】抵抗体の膜密度と抵抗率の関係を示す図
【図5】ラッシュカレントの電流値と抵抗体の温度との関係を示す図
【図6】抵抗体の膜密度と溶断される電流閾値の関係を示す図
【図7】ラッシュカレントが流れた際の電子放出素子のダメージを示す図
【図8】電子放出素子の製造方法の一例を示す図
【図9】成膜角度と抵抗率の関係を示す図
【図10】実施例における電子放出素子の部分図
【図11】電圧と電流の関係を示す図
【図12】電子放出素子の特性を測定する構成を説明する図
【図13】ラッシュカレント前後の関係を示す図
【図14】エッチング処理についての説明図
【図15】電子放出素子を配列した電子源に関する説明図
【図16】電子放出素子を用いた画像表示装置の説明図
【図17】画像表示装置を駆動する駆動回路の一例を示す回路図
【符号の説明】
【0200】
2 カソード電極
3、4 縁層(絶縁部材)
5 ゲート電極
6A 電子放出体
7 凹部(リセス)
9A 抵抗体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード電極と、該カソード電極に電気的に接続された電子放出体と、該カソード電極と該電子放出体との間に設けられた抵抗層と、を少なくとも有する電子放出素子であって、
前記抵抗層は前記電子放出体と同じ材料で構成されており、前記抵抗層の膜密度が前記電子放出体の膜密度よりも低いことを特徴とする電子放出素子。
【請求項2】
上面と該上面と接続する側面とを備える絶縁層を更に備えており、前記電子放出体の少なくとも一部が前記上面の上に設けられており、前記抵抗層が前記側面の上に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子。
【請求項3】
前記絶縁層の上に前記絶縁層とは別の絶縁層を間に挟んでゲート電極が設けられており、
前記ゲート電極の上に、導電性膜が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の電子放出素子。
【請求項4】
前記電子放出体を構成する材料がモリブデンであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項5】
前記抵抗層の膜密度が6.0g/cm3以上8.5g/cm3以下であり、前記電子放出体の膜密度が8.6g/cm3以上10.3g/cm3以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項6】
前記抵抗層は、その表面に、酸化モリブデン層を備えていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項7】
前記酸化モリブデン層が、二酸化モリブデンを主体とする層であることを特徴とする請求項6に記載の電子放出素子。
【請求項8】
カソード電極と、該カソード電極に電気的に接続し、電子放出部と抵抗部とを備えた導電性膜と、を少なくとも有する電子放出素子であって、
前記抵抗部の膜密度が前記電子放出部の膜密度よりも低いことを特徴とする電子放出素子。
【請求項9】
上面と該上面と接続する側面とを備える絶縁層を更に備えており、前記導電性膜が前記上面から前記側面にかけて延在し、前記電子放出部が前記上面の上に設けられており、前記抵抗層が前記側面の上に位置していることを特徴とする請求項8に記載の電子放出素子。
【請求項10】
前記抵抗部の膜密度が6.0g/cm3以上8.5g/cm3以下であり、前記電子放出部の膜密度が8.6g/cm3以上10.3g/cm3以下であることを特徴とする請求項8または9に記載の電子放出素子。
【請求項11】
複数の電子放出素子と、該電子放出素子から放出された電子が照射されることで発光する発光体と、を備える画像表示装置であって、前記電子放出素子が請求項1乃至10のいずれか1項に記載の電子放出素子であることを特徴とする画像表示装置。
【請求項1】
カソード電極と、該カソード電極に電気的に接続された電子放出体と、該カソード電極と該電子放出体との間に設けられた抵抗層と、を少なくとも有する電子放出素子であって、
前記抵抗層は前記電子放出体と同じ材料で構成されており、前記抵抗層の膜密度が前記電子放出体の膜密度よりも低いことを特徴とする電子放出素子。
【請求項2】
上面と該上面と接続する側面とを備える絶縁層を更に備えており、前記電子放出体の少なくとも一部が前記上面の上に設けられており、前記抵抗層が前記側面の上に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子。
【請求項3】
前記絶縁層の上に前記絶縁層とは別の絶縁層を間に挟んでゲート電極が設けられており、
前記ゲート電極の上に、導電性膜が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の電子放出素子。
【請求項4】
前記電子放出体を構成する材料がモリブデンであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項5】
前記抵抗層の膜密度が6.0g/cm3以上8.5g/cm3以下であり、前記電子放出体の膜密度が8.6g/cm3以上10.3g/cm3以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項6】
前記抵抗層は、その表面に、酸化モリブデン層を備えていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項7】
前記酸化モリブデン層が、二酸化モリブデンを主体とする層であることを特徴とする請求項6に記載の電子放出素子。
【請求項8】
カソード電極と、該カソード電極に電気的に接続し、電子放出部と抵抗部とを備えた導電性膜と、を少なくとも有する電子放出素子であって、
前記抵抗部の膜密度が前記電子放出部の膜密度よりも低いことを特徴とする電子放出素子。
【請求項9】
上面と該上面と接続する側面とを備える絶縁層を更に備えており、前記導電性膜が前記上面から前記側面にかけて延在し、前記電子放出部が前記上面の上に設けられており、前記抵抗層が前記側面の上に位置していることを特徴とする請求項8に記載の電子放出素子。
【請求項10】
前記抵抗部の膜密度が6.0g/cm3以上8.5g/cm3以下であり、前記電子放出部の膜密度が8.6g/cm3以上10.3g/cm3以下であることを特徴とする請求項8または9に記載の電子放出素子。
【請求項11】
複数の電子放出素子と、該電子放出素子から放出された電子が照射されることで発光する発光体と、を備える画像表示装置であって、前記電子放出素子が請求項1乃至10のいずれか1項に記載の電子放出素子であることを特徴とする画像表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−146913(P2010−146913A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−324463(P2008−324463)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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