説明

電子材料用研磨液

【課題】電子材料製造工程中の研磨工程において、従来の研磨液と比較して、研磨後の基板に付着するパーティクル数を低減する電子材料用研磨液および、この研磨液を使用して電子材料中間体を研磨する工程を含む電子材料の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】有機還元剤(B)および水を必須成分として含有することを特徴とする電子材料用研磨液、およびこの研磨液を使用して電子材料中間体を研磨する工程を含む電子材料の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子材料用研磨液、この研磨液を用いて電子材料中間体を研磨する研磨方法、及び、この研磨方法で電子材料中間体を研磨する工程を含む電子材料の製造方法に関する。
さらに詳しくは、電子材料製造工程中の研磨工程において使用し、従来と比較して研磨速度の持続性が良く、かつ電子材料の表面品質が向上する電子材料用研磨液、およびこの電子材料用研磨液を用いて電子材料中間体を研磨する研磨方法、及び、この研磨方法で電子材料中間体を研磨する工程を含む電子材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子材料、とりわけ磁気ディスクは、年々小型化、高容量化の一途をたどっており、磁気ヘッドと磁気ディスク基板間の距離がますます小さくなってきている。そのため、磁気ディスク基板の製造での研磨工程直後の洗浄工程で、研磨に使用した砥粒や発生した研磨屑等のパーティクルの残留が極力発生しない基板が求められている。これに加えて、近年は特に、スクラッチやピット等の表面欠陥の低減が求められるようになってきている。さらに、旺盛な需要に対応するために、生産の効率化が一層求められてきている。
【0003】
磁気ディスク製造工程は、基板用の板を面取り加工する工程であるラッピング工程と、平坦化した基板を作成する工程であるサブストレート製造工程と、磁性層をこの基板上に形成する工程であるメディア工程を含む。
これらのうち、ラッピング工程では、基板を粗く面取りするためにダイヤモンド等の砥石を樹脂で固定した研磨パッドと研磨液を用いて、基板の主表面や端面の研磨をおこない、それに続く洗浄工程で基板の主表面や端面の研磨屑を除去した後、乾燥工程を経て、加工された基板はサブストレート工程に輸送される。
また、サブストレート工程では、基板の平坦化のために研磨パッドと、コロイダルシリカ、酸化セリウム等の研磨粒子を含む研磨液による研磨を行い、それに続く洗浄工程で基板表面の研磨粒子や発生した研磨屑等のパーティクルを除去した後、乾燥工程を経て、加工された基板は所定の容器に梱包されメディア工程に輸送される。
【0004】
この基板を研磨する工程において、研磨中に基板上にスクラッチが入ることを抑えるために、研磨速度を下げざるを得ない場合がある。これらの研磨速度の低下は、上記の生産の効率化を大きく妨げる一因となっている。
これらの基板表面へのパーティクル付着を低減するために、従来からヒドロキシエチルセルロースや芳香族スルホン酸塩を含有する研磨液が提案されている(例えば特許文献1、2)。
また、研磨速度の持続性向上を目的に、芳香族スルホン酸塩を含有する研磨液が提案されている(例えば特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−116942号公報
【特許文献2】特開平03−181598号公報
【特許文献3】特開平08−109389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2の研磨液では研磨速度を向上させる効果が十分でなく、高生産性を実現するために許容される研磨速度に十分対応できるものではない。
また、研磨に使用した研磨粒子や発生した研磨屑等のパーティクルが研磨後の基板に多く付着し、研磨する工程後の洗浄工程において従来の洗浄剤で完全に除去できない。
そこで、電子材料製造工程中の研磨工程において、従来の研磨液と比較して格段に研磨速度を向上させ、また、研磨液中の研磨粒子や発生した研磨屑等のパーティクルが研磨中に基板に付着することを低減する電子材料用研磨液および、この研磨液を使用して電子材料中間体を研磨する工程を含む電子材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は有機還元剤(B)および水を必須成分として含有することを特徴とする電子材料用研磨液、この電子材料用研磨液を用いて電子材料中間体を研磨する研磨方法、及び、この研磨方法で電子材料中間体を研磨する工程を含む電子材料の製造方法を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電子材料用研磨液は、従来の研磨液と比較して、研磨する工程において研磨速度を格段に向上させる効果を有する。また、研磨中のパーティクルの付着を低減して、その後に続く洗浄工程において上記パーティクルを基板から除去しやすくする効果を有する。さらに、研磨速度が時間経過で低下しにくい効果を有する。そのためパーティクルの残留が少ない電子材料を高い生産性で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における電子材料とは、製造工程中に研磨パッドを用いて研磨する工程を含む電子材料であれば特に限定するものではない。
例えば、(1)ハードディスク用ガラス基板および表面がニッケル−リン(Ni−P)メッキされたハードディスク用アルミ基板等の磁気ディスク用基板、(2)半導体素子及びシリコンウェハ等の半導体基板、(3)SiC基板、GaAs基板、GaN基板、AlGaAs基板等の化合物半導体基板、(4)LED等のサファイヤ基板等が挙げられる。
【0010】
これらのうち、生産効率向上の観点で好ましくはハードディスク用基板であり、具体的にハードディスク用ガラス基板、および表面がNi−Pメッキされたハードディスク用アルミ基板である。更に好ましくはハードディスク用ガラス基板である。
【0011】
本発明における研磨液とは、材料を砥石や研磨粒子を用いて平坦に加工する工程で使用する研磨液のことを指し、例えば砥石が固定された研磨パッドを用いて粗く面取りするラッピング工程時に使用するラップ液や、研磨粒子を用いて精密に平坦化する研磨工程時に使用する研磨スラリーを含む。
【0012】
研磨する工程において使用する研磨パッドとは、ポリウレタン樹脂製やポリエステル樹脂製のパッドであり、表面にダイヤモンド等の砥石が固定されているパッドを含む。また、発泡タイプであってもスエードタイプであっても良く、様々な硬さのものが使用できる。これら研磨パッドは特に限定するものではなく、市販されている研磨パッドを使用することができる。
研磨パッドは、前述した粗く面取り加工するラッピング工程や、研磨粒子を用いて精密に平坦化する研磨工程で、研磨装置の定盤に貼り付けて使用される。
【0013】
本発明の電子材料用研磨液は、有機還元剤(B)および水を必須成分として含有することを特徴とする。
【0014】
本発明の必須成分である有機還元剤(B)としては、市販の有機還元剤が使用でき、有機還元剤(B)としては、還元性のフェノール化合物(B1)、還元性のレダクトン類(B2)およびそのエステルまたは塩、還元性の有機酸類(B3)およびそのエステルまたは塩、還元性のアルデヒド類(B4)、還元性の糖アルコール(B5)が挙げられ、研磨速度の観点でフェノール類(B1)、レダクトン類(B2)が好ましい。
【0015】
フェノール類(B1)としては、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0016】
【化1】

【0017】
[式中、X〜Xはそれぞれ独立に水素原子、水酸基、カルボキシル基、アミノ基またはアルキル基を表す。]
【0018】
一般式(1)で表されるフェノール類(B1)の具体例としては、X〜Xのすべてが水素であるフェノール;ピロカテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン及びピロガロール等の多価フェノール系化合物(B11);2−ヒドロキシ安息香酸、4−ヒドロキシ安息香酸、2,6−ジカルボキシフェノール、及び2,4,6−トリカルボキシフェノール等のカルボキシル基を含むフェノール系化合物(B12);没食子酸等のカルボキシル基を含む多価フェノール化合物(B13);4−アミノフェノール等のアミノ基を含むフェノール系化合物(B14);クレゾール等のアルキル基を含むフェノール系化合物(B15);およびこれらの塩等が挙げられる。
【0019】
これらのうち、研磨速度とパーティクルの付着防止性の観点で、多価フェノール系化合物(B11)、カルボキシル基を含む多価フェノール化合物(B13)が好ましく、さらに好ましくは、カルボキシル基を含む多価フェノール化合物(B13)であり、特に好ましくは、没食子酸およびその塩である。
【0020】
レダクトン類(B2)としては、分子内に下記一般式(2)で表されるケトエンジオール基を有する化合物であればよい。
【0021】
【化2】

【0022】
レダクトン類(B2)の具体例としては、アスコルビン酸(L−体、DL−体、D−体)、イソアスコルビン酸、エリソルビン酸、これらのエステル(L−アスコルビン酸硫酸エステル、L−アスコルビン酸リン酸エステル、L−アスコルビン酸2−グルコシド、L−アスコルビン酸パルミチン酸エステル、テトライソパルミチン酸L−アスコルビル、アスコルビン酸イソパルミネート、エリソルビン酸リン酸エステル、エリソルビン酸パルミチン酸エステル、テトライソパルミチン酸エリソビル等);およびこれらの塩等が挙げられる。
【0023】
還元性の有機酸類(B3)およびそのエステルまたは塩としては、ケトグルタル酸、グルコン酸、ケトグロン酸、ギ酸、コハク酸、乳酸、リンゴ酸、酪酸、マレイン酸、2−オキソプロパン酸、マロン酸およびこれらの塩が挙げられる。
【0024】
還元性のアルデヒド類(B4)としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド及びビニルアルデヒド及びベンズアルデヒド等が挙げられる。
【0025】
還元性の糖アルコール(B5)としては、アラビトール、アドニトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール及びズルシトール等が挙げられる。
【0026】
これらのうち、パーティクルの付着防止性の観点で、L−アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、これらのエステルおよびそれらの塩が好ましく、さらに好ましくは、L−アスコルビン酸及びその塩である。
【0027】
上記(B1)及び(B2)の塩としては、例えばアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩等)、アンモニウム塩、アミン塩もしくは4級アンモニウム塩が挙げられる。
【0028】
本発明の使用時における有機還元剤(B)の研磨液中の濃度は、通常0.001〜5重量%であり、研磨速度の観点から0.01〜1重量%であることが好ましい。
【0029】
本発明の電子材料用研磨液の必須成分である水は、清浄度の観点から電気抵抗率が18MΩ・cm以上の純水が好ましく、超純水、イオン交換水、逆浸透水(RO水)、蒸留水などが挙げられる。
【0030】
本発明の電子材料用研磨液には、前述した還元剤(B)、水のほかに研磨粒子(C)又は潤滑成分(F)を含有しても良い。研磨粒子(C)および/又は潤滑剤成分(F)を含有することで、平坦性に優れた電子材料を製造することができる。
【0031】
研磨粒子(C)としては、電子材料研磨用の市販の研磨粒子が使用でき、特に限定するものではない。研磨粒子(C)の材質としては、コロイダルシリカ、酸化セリウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、ダイヤモンド、酸化マンガン、酸化チタン、炭化ケイ素及び窒化ホウ素等が挙げられ、スクラッチ低減の効果の観点から、好ましくはコロイダルシリカ、酸化セリウム、アルミナ及びダイヤモンドである。
【0032】
研磨粒子(C)の粒子径は、使用される研磨粒子および研磨する対象とその用途によって異なり、ハードディスク用基板の研磨工程のためのコロイダルシリカの場合、通常5nm〜50nmであり、酸化セリウムの場合、0.1μm〜3.0μmであることが生産性の観点で好ましい。
【0033】
研磨粒子(C)の使用時における研磨液中の濃度は、0〜5重量%が好ましい。
【0034】
潤滑成分(F)は、従来使用されている潤滑成分が使用することができる。
潤滑成分として脂肪酸アミン塩(F1)、ポリオキシプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物(F2)などが挙げられる。
【0035】
脂肪酸アミン塩(F1)としては、炭素数8〜22の脂肪酸(例えばオレイン酸等)をアミンで完全にもしくは一部を中和したものである。
アミンとしては、モノエタノールアミン等の1級アミン;ジエタノールアミン等の2級アミン;トリエタノールアミン等の3級アミンが挙げられる。
【0036】
ポリオキシプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物は、ポリオキシプロピレングリコールにエチレンオキサイドを付加したものである。
ポリオキシプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物の重量平均分子量は、潤滑性の観点から1,000〜30,000であることが好ましい。
【0037】
潤滑成分(F)の使用時における濃度は、従来使用されている潤滑成分の濃度と同様であり、研磨液重量に基づいて、0.1〜30重量%が好ましい。
【0038】
本発明の研磨液には、上記(C)、(F)以外に、無機酸(硝酸、硫酸、リン酸等)等のエッチング剤成分、界面活性剤、キレート剤(ホスホン酸系キレート剤[ヒドロキシエチリデンジホスホン酸(HEDP)及びその塩、メチルジホスホン酸及びその塩、アミノトリ(メチレンホスホン酸)及びその塩等];カルボン酸系キレート剤[ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)及びその塩、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)及びその塩、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)及びその塩、クエン酸及びその塩、グルコン酸及びその塩など])の添加剤を含有してもよい。これら添加剤は、従来研磨液として使用されてきたものを使用することができ、特に限定するものではない。
【0039】
本発明の研磨方法は、電子材料の製造工程において、本発明の電子材料用研磨液を用いて電子材料中間体を研磨する研磨方法である。
【0040】
本発明の別の実施態様は、前述した研磨液を用いて電子材料中間体を研磨する工程を含む電子材料の製造方法である。
【0041】
ここで、電子材料中間体とは、電子材料になる前の状態の被研磨物のことを指し、例えばハードディスク用ガラス基板の場合、酸化セリウム等で粗研磨される前のガラス基板や、コロイダルシリカ等で精密研磨される前のガラス基板等は全て電子材料中間体のことを意味する。
【0042】
本発明の研磨液を用いた電子材料の製造工程(一部)の一例として、ハードディスクガラス基板のラッピング工程を例にとり、以下に述べる。
(1)研磨装置のキャリアにガラス基板をセットし、ダイヤモンド砥石が固定された研磨
パッドが貼られた定盤でガラス基板を挟む。
(2)研磨液を定盤に供給しながら、荷重をかけ、定盤およびキャリアを回転させる。
(3)一定膜厚が研磨したことを確認し、回転を止める。
(4)ガラス基板をキャリアから取り出し、流水リンスする。
(5)流水リンス後、基板を乾燥する。
【0043】
また、別の例として、ハードディスクガラス基板のサブストレート工程を例にとり、以下に述べる。
(1)上記のラッピングされたガラス基板を研磨装置のキャリアにセットし、ポリウレタ
ン製の研磨パッドが貼られた定盤でガラス基板を挟む。
(2)酸化セリウムを含む研磨液を供給しながら荷重をかけ、定盤およびキャリアを回転
させる。
(3)一定膜厚が研磨したことを確認し、回転を止める。
(4)ガラス基板を流水リンスし、キャリアから取り出し、洗浄剤で浸漬洗浄もしくはス
クラブ洗浄する。
(5)流水リンスしたガラス基板を研磨装置のキャリアにセットし、コロイダルシリカを
含む研磨液を用いて上記と同様に研磨する。
(6)研磨後の基板を流水リンス、洗浄し、再び流水リンスする。
(7)乾燥、梱包する。
【0044】
研磨機としては、市販の研磨機を使用することができ、特に限定するものではない。
【0045】
回転数、研磨時間、揺動数、荷重は、従来の研磨液で研磨するときの条件を使用することができる。
【0046】
本発明の電子材料の製造方法で製造される電子材料は、前述したように、製造工程中に研磨工程を含む電子材料であれば特に限定するものではなく、例えば、ハードディスク基板、シリコン半導体基板、化合物半導体基板、サファイヤ基板等が挙げられる。
これらのうち、生産効率向上の観点で好ましくはハードディスク用基板であり、具体的にハードディスク用ガラス基板、および表面がニッケル−リン(Ni−P)メッキされたハードディスク用アルミ基板である。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0048】
製造例1 (オレイン酸トリエタノールアミン塩水溶液の製造)
撹拌が可能な反応容器にトリエタノールアミン159部及び超純水200部を仕込み、常温で、30rpmで撹拌し、均一化した。さらに、30rpmで撹拌下で、オレイン酸283部を30分かけて滴下して中和した。
滴下終了後、超純水をさらに418部加えて、オレイン酸トリエタノールアミン塩(F−1)の40%水溶液を得た。
【0049】
実施例1〜31、および比較例1〜18
表1〜6に記載の組成で、全部を100部となるように、各成分を配合し、25℃、マグネチックスターラーで40rpm、20分間攪拌して、本発明の研磨液および比較のための研磨液を得た。
なお、表1〜6中の略号および化合物は以下のとおりである。
(B−1):アスコルビン酸
(B−2):没食子酸
(B−3):ケトグルタル酸
(B−4):アセトアルデヒド
(B−5):アラビトール
(B’−1):亜硫酸カリウム
DTPA:ジエチレントリアミンペンタ酢酸
HEDP:1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸
(F−1):オレイン酸トリエタノールアミン塩
(F−2):ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体(ニューポールPE−62;三洋化成工業(株)製)
ヒドロキシエチルセルロース:(HECダイセルSP400;ダイセル化学工業(株)製)
芳香族スルホン酸塩:パラトルエンスルホン酸Na塩(和光純薬工業(株)製)
コロイダルシリカ:フジミインコーポレイデッド製「COMPOL80」(平均粒径80nm、有効成分濃度40重量%)
酸化セリウム:昭和電工製「HS−8005」(平均粒径0.5μm)
アルミナ:フジミインコーポレイデッド製「WA#20000」(平均粒径0.4μm)
ダイヤモンド:ナノファクター製「1/10PCS−WB2」(平均粒径100nm)
【0050】
【表1】

【0051】
研磨液の性能評価として、スクラッチ低減性能およびパーティクル付着低減性能および研磨速度持続性能の評価試験は下記の方法で行った。
なお、本評価は大気からの汚染を防ぐため、クラス1,000(FED−STD−209D、米国連邦規格、1988年)のクリーンルーム内で実施した。
【0052】
[評価1 コロイダルシリカを配合した研磨液でガラス基板を研磨する場合]
<スクラッチ低減性能の評価>
実施例1〜5の研磨液、比較例1〜3の研磨液をさらにイオン交換水で10倍希釈し、試験液を得た。
(1)2.5インチの磁気ディスク用ガラス基板およびポリウレタン製の研磨パッド(フジボウ製、「H9900S」)を研磨装置(ナノファクター製、「FACT−200」)にセットした。
(2)回転数を30rpm、揺動回数を60回/分、押し付け圧を50g重/cmに設定し、上記の試験液を1mL/秒の速度で基板に注ぎながら5分間研磨した。
(3)上記の研磨したガラス基板を研磨装置から取り出し、1分間流水ですすいでリンスした後、研磨装置から基板を取り外して窒素ブローで乾燥させ、評価用基板を作成した。
(4)光を評価用基板上のスクラッチに当て、発生する微弱な散乱光を集光、増幅させることで表面の微細なスクラッチを検査することができる表面検査装置(ビジョンサイテック社製、「MicroMax VMX−6100SK」)を使って、評価用基板表面を任意に5箇所(10mm×10mm角)選んでその範囲内のスクラッチ数を数え、5箇所の平均値を算出した。
なお、比較例1の基板上スクラッチの平均数は70個であった。
【0053】
それぞれの基板上のスクラッチ数を比較例1(ブランク)の基板上スクラッチ数と比較し、下記の判断基準に従い基板表面のスクラッチ発生を抑える効果を評価し、判定した。
結果を表1に示す。
5:ブランクの20%未満
4:20%〜40%未満
3:40%〜60%未満
2:60%〜80%未満
1:80%以上
【0054】
<パーティクル付着低減性能の評価>
(1)スクラッチ低減性能の評価と同様の評価用基板を作成した。
(2)光を評価用基板上の残留パーティクルに当て、発生する微弱な散乱光を集光、増幅させることで強調し、表面の微細な残査を検査することができる上記の表面検査装置を使って、評価用基板表面を任意に5箇所(10mm×10mm角)選んでその範囲内のパーティクル数を画像解析ソフト(三谷商事製、WinRoof)で集計し、5箇所の平均値を算出した。
なお、比較例1の基板上パーティクル数は2100個であった。
【0055】
それぞれの基板上のパーティクル数を比較例1(ブランク)の基板上パーティクル数と比較し、下記の判断基準に従い、研磨工程でのパーティクルの付着を低減する効果を評価し、判定した。
結果を表1に示す。
5:ブランクの20%未満
4:20%〜40%未満
3:40%〜60%未満
2:60%〜80%未満
1:80%以上
【0056】
<研磨速度持続性能の評価>
(1)重量を測定した2.5インチの磁気ディスク用ガラス基板およびポリウレタン樹脂製の研磨パッド(フジボウ製、「H9900S」)を研磨装置(ナノファクター製、「FACT−200」)にセットした。
(2)回転数を30rpm、揺動回数を60回/分、押し付け圧を50g重/cmに設定し、上記の試験液を1mL/秒の速度で基板に注ぎながら30分間研磨した。
(3)上記の研磨したガラス基板を研磨装置から取り出し、1分間流水ですすいでリンスした後、窒素ブローで乾燥させ、重量測定を行った。
【0057】
(1)〜(3)を10回繰り返し、1回目と10回目の重量変化量を比較することで、下記の判断基準に従い、研磨速度持続性能の評価を判定した。(10回目の重量変化量/1回目の重量変化量×100)
結果を表1に示す。
5:80%以上
4:60%〜80%未満
3:40%〜60%未満
2:20%〜40%未満
1:20%未満
【0058】
[評価2 コロイダルシリカを配合した研磨液でアルミ基板を研磨する場合]
<スクラッチ低減性能の評価>
実施例6〜10の研磨液、比較例4〜6の研磨液をさらにイオン交換水で10倍希釈し、試験液を得た。
(1)3.5インチの磁気ディスク用アルミ基板及びポリウレタン樹脂製の研磨パッド(フジボウ製、「H9900S」)を研磨装置(ナノファクター製、「FACT−200」)にセットした。
(2)回転数を30rpm、揺動回数を60回/分、押し付け圧を50g重/cmに設定し、上記の試験液を1mL/秒の速度で基板に注ぎながら5分間研磨した。
(3)上記の研磨したアルミ基板を研磨装置から取り出し、1分間流水ですすいでリンスした後、研磨装置から基板を取り外して窒素ブローで乾燥させ、評価用基板を作成した。
(4)光を評価用基板上のスクラッチに当て、発生する微弱な散乱光を集光、増幅させることで表面の微細なスクラッチを強調し、検査することができる表面検査装置(ビジョンサイテック社製、「MicroMax VMX−6100SK」)を使って、評価用基板表面を任意に5箇所(10mm×10mm角)選んでその範囲内のスクラッチ数を数え、5箇所の平均値を算出した。なお、比較例4の基板上スクラッチの平均数は100個であった。
【0059】
それぞれの基板上のスクラッチ数を比較例4の基板上スクラッチ数と比較し、下記の判断基準に従い基板表面のスクラッチ発生を抑える効果を評価し、判定した。
結果を表2に示す。
5:ブランク(100個)の20%未満
4:20%〜40%未満
3:40%〜60%未満
2:60%〜80%未満
1:80%以上
【0060】
<パーティクル付着低減性能の評価>
(1)スクラッチ低減性能の評価と同様の評価用基板を作成した。
(2)光を評価用基板上の残留パーティクルに当て、発生する微弱な散乱光を集光、増幅させることで強調し、表面の微細な残査を検査することができる上記の表面検査装置を使って、評価用基板表面を任意に5箇所(10mm×10mm角)選んでその範囲内のパーティクル数を画像解析ソフト(三谷商事製、WinRoof)で集計し、5箇所の平均値を算出した。
なお、比較例4の基板上パーティクル数は1000個であった。
【0061】
それぞれの基板上のパーティクル数を比較例4の基板上パーティクル数と比較し、下記の判断基準に従い、研磨工程でのパーティクルの付着を低減する効果を評価し、判定した。
結果を表2に示す。
5:ブランク(1000個)の20%未満
4:20%〜40%未満
3:40%〜60%未満
2:60%〜80%未満
1:80%以上
【0062】
<研磨速度持続性能の評価>
(1)重量を測定した3.5インチの磁気ディスク用アルミ基板及びポリウレタン製の研磨パッド(フジボウ製、「H9900S」)を研磨装置(ナノファクター製、「FACT−200」)にセットした。
(2)回転数を30rpm、揺動回数を60回/分、押し付け圧を50g重/cmに設定し、上記の試験液を1mL/秒の速度で基板に注ぎながら30分間研磨した。
(3)上記の研磨したアルミ基板を研磨装置から取り出し、1分間流水ですすいでリンスした後、窒素ブローで乾燥させ、重量測定を行った。
【0063】
(1)〜(3)を10回繰り返し、1回目と10回目の重量変化量を比較することで、下記の判断基準に従い、研磨速度持続性能の評価を判定した。(10回目の重量変化量/1回目の重量変化量×100)
結果を表2に示す。
5:80%以上
4:60%〜80%未満
3:40%〜60%未満
2:20%〜40%未満
1:20%未満
【0064】
【表2】

【0065】
[評価3 酸化セリウムを配合した研磨液でガラス基板を研磨する場合]
実施例11〜15の研磨液、比較例7〜9の研磨液をさらにイオン交換水で10倍希釈し、試験液を得た。評価1と同様にして、スクラッチ低減性能、パーティクル付着低減性能および研磨速度持続性能の評価を行った。
なお、比較例7(ブランク)の基板上スクラッチの平均数は100個であり、比較例7(ブランク)の基板上パーティクル数は900個であった。結果を表3に示す。
【0066】
【表3】

【0067】
[評価4 アルミナを配合した研磨液でアルミ基板を研磨する場合]
実施例16〜20の研磨液、比較例10〜12の研磨液をさらにイオン交換水で10倍希釈し、試験液を得た。評価2と同様にして、スクラッチ低減性能、パーティクル付着低減性能および研磨速度持続性能の評価を行った。
なお、比較例10(ブランク)の基板上スクラッチの平均数は150個であり、比較例10(ブランク)の基板上パーティクル数は1300個であった。結果を表4に示す。
【0068】
【表4】

【0069】
[評価5 ダイヤモンドを配合した研磨液でアルミ基板を研磨する場合]
実施例21〜25の研磨液、比較例13〜15の研磨液をさらにイオン交換水で10倍希釈し、試験液を得た。評価2と同様にして、スクラッチ低減性能、パーティクル付着低減性能および研磨速度持続性能の評価を行った。
なお、比較例13(ブランク)の基板上スクラッチの平均数は70個であり、比較例13(ブランク)の基板上パーティクル数は500個であった。結果を表5に示す。
【0070】
【表5】

【0071】
[評価6 砥石固定研磨パッドを使用し、研磨液でガラスを研磨(ガラスラッピング)する場合]
<パーティクル付着低減性能の評価>
実施例26〜31の研磨液、比較例16〜18の研磨液をさらにイオン交換水で10倍希釈し、試験液を得た。
(1)2.5インチの磁気ディスク用ガラス基板およびダイヤモンド砥石固定研磨パッド(住友3M製、「トライザクト677XA」)を研磨装置(ナノファクター製、「FACT−200」)にセットした。
(2)回転数を100rpm、揺動回数を60回/分、押し付け圧を100g重/cmに設定し、上記の試験液を1mL/秒の速度で基板に注ぎながら5分間研磨した。
(3)上記の研磨したガラス基板を研磨装置から取り出し、1分間流水ですすいでリンスした後、研磨装置から基板を取り外して窒素ブローで乾燥させ、評価用基板を作成した。
(4)表面検査装置(ビジョンサイテック社製、「MicroMax VMX−6100SK」)を使って、評価用基板表面を任意に5箇所(10mm×10mm角)選んでその範囲内のパーティクル数を画像解析ソフト(三谷商事製、WinRoof)で集計し、5箇所の平均値を算出した。
なお、比較例16の基板上パーティクル数は4500個であった。
【0072】
それぞれの基板上のパーティクル数を比較例16の基板上パーティクル数と比較し、下記の判断基準に従い、研磨工程でのパーティクルの付着を低減する効果を評価し、判定した。結果を表6に示す。
5:ブランク(4500個)の20%未満
4:20%〜40%未満
3:40%〜60%未満
2:60%〜80%未満
1:80%以上
【0073】
<研磨速度持続性能の評価>
(1)重量を測定した2.5インチの磁気ディスク用ガラス基板およびダイヤモンド砥石固定研磨パッド(住友3M製、「トライザクト677XA」)を研磨装置(ナノファクター製、「FACT−200」)にセットした。
(2)回転数を100rpm、揺動回数を60回/分、押し付け圧を100g重/cmに設定し、上記の試験液を1mL/秒の速度で基板に注ぎながら30分間研磨した。
(3)上記の研磨したガラス基板を研磨装置から取り出し、1分間流水ですすいでリンスした後、窒素ブローで乾燥させ、重量測定を行った。
【0074】
(1)〜(3)を2回繰り返し、1回目と2回目の重量変化量を比較することで、下記の判断基準に従い、研磨速度持続性能の評価を判定した。(1回目の重量変化量/2回目の重量変化量×100)
結果を表6に示す。
5:80%以上
4:60%〜80%未満
3:40%〜60%未満
2:20%〜40%未満
1:20%以上
【0075】
【表6】

【0076】
本発明の研磨液は、比較例と比較してスクラッチ低減性能、パーティクル付着低減性能および研磨速度持続性能が高く、フェノール類またはレダクトン類を含む実施例1〜2、6〜7、11〜12、16〜17、21〜22、27〜28は特に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の電子材料用研磨液は、研磨工程中でのパーティクル付着低減効果に優れているため、製造工程に研磨工程を含む電子材料用研磨液、例えば磁気ディスク用ガラス基板、磁気ディスク用Ni−Pメッキされたアルミ基板、半導体用シリコン基板、LED用サファイヤ基板製造用の研磨液として有用である。
また、本発明の研磨液を用いて研磨する工程を含む電子材料の製造方法は、研磨中のパーティクル付着が少ない製造方法であるので、磁気ディスク用ガラス基板、磁気ディスク用Ni−Pメッキされたアルミ基板、半導体用シリコン基板、LED用サファイヤ基板等の製造方法として利用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機還元剤(B)および水を必須成分として含有することを特徴とする電子材料用研磨液。
【請求項2】
該還元剤(B)がフェノール類(B1)および/またはレダクトン類(B2)である請求項1に記載の電子材料用研磨液。
【請求項3】
さらに潤滑成分(F)を含有する請求項1または2に記載の電子材料用研磨液。
【請求項4】
潤滑成分(F)が脂肪酸アミン塩(F1)及び/又はポリオキシプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物(F2)である請求項3記載の電子材料用研磨液。
【請求項5】
請求項3または4に記載の研磨液が、ラッピング工程で使用されるラップ液であることを特徴とする電子材料用研磨液。
【請求項6】
研磨粒子(C)を含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の電子材料用研磨液。
【請求項7】
研磨粒子(C)がコロイダルシリカ、酸化セリウム、アルミナおよびダイヤモンドからなる群から選ばれる1種以上である請求項6記載の電子材料用研磨液。
【請求項8】
該電子材料がハードディスク用ガラス基板または表面がニッケル−リンメッキされたハードディスク用アルミ基板である請求項1〜7のいずれかに記載の電子材料用研磨液。
【請求項9】
電子材料の製造工程において、請求項1〜8のいずれかに記載の電子材料用研磨液を用いて電子材料中間体を研磨する研磨方法。
【請求項10】
製造工程中に研磨工程を含む電子材料の製造方法であって、請求項9に記載の研磨方法で電子材料中間体を研磨する工程を含む電子材料の製造方法。


【公開番号】特開2013−32502(P2013−32502A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−141546(P2012−141546)
【出願日】平成24年6月25日(2012.6.25)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】