説明

電子機器の組付構造

【課題】制振部材の組み付け忘れを確実に防止でき得る電子機器の組付構造を提供する。
【解決手段】車載インバータの組付構造は、締結ボルト10の頭部10aとフレームユニット23との間にインバータ12の組付座14およびマスダンパ20を配置した状態で、締結ボルト10をフレームユニット23に螺合締結することで、インバータ12をフレームユニット23に組み付ける。マスダンパ20を配置した状態で螺合締結された締結ボルト10の先端面との距離Daがマスダンパ20の組み付け時厚みDbより小さくなる位置には、締結ボルト10の更なる進出を疎外する凸部32が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器を、螺合により固定部材に組み付ける電子機器の組付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子機器の組み付けに関して様々な技術が提案されている(例えば特許文献1−3など)。電子機器は、振動に弱いことが多いため、また、振動に伴い不要な騒音が生じるため、組み付けの際には、振動を低減する制振対策が採られることが多い。特に、車両に搭載される電子機器は、車両の走行やエンジンの駆動に伴い振動が生じるため、制振対策の必要性が高い。多用されている制振対策の一つに、ダンパなどの制振部材の使用がある。かかる制振部材の一部を、電子機器と固定部材、あるいは、電子機器と締結部材(ボルトなど)の間に介在させ、電子機器に伝達される振動量を低減することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−083598号公報
【特許文献2】特開2007−309386号公報
【特許文献3】特開2004−125343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかる制振部材の使用は、簡易に制振効果が得られる一方で、組み付けの際に、組み付け忘れが生じるという問題がある。すなわち、本来、電子機器と固定部材、あるいは、電子機器と締結ボルトの頭部との間に、制振部材を配置すべきところ、当該配置を忘れることがある。この場合、振動や振動に起因するノイズが発生することになる。
【0005】
そこで、本発明では、制振部材の組み付け忘れを確実に防止でき得る電子機器の組付構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電子機器の組付構造は、締結ボルトの頭部と固定部材との間に電子機器の組付座および制振部材を配置した状態で、前記締結ボルトを前記固定部材に螺合締結することで、前記電子機器を前記固定部材に組み付ける電子機器の組付構造であって、前記固定部材に螺合締結された締結ボルトの長軸線上のうち、前記制振部材を配置した状態で前記固定部材に螺合締結された締結ボルトの先端面との距離が前記制振部材の組み付け時厚みより小さくなる位置に、前記締結ボルトの更なる進出を疎外する当接部材が設けられる、ことを特徴とする。
【0007】
好適な態様では、前記固定部材は、平板状のトレイと、前記トレイの上面に設置されるとともにトレイとの間に空間を形成するブラケットと、を備え、前記電子機器の組付座は、前記ブラケットの上面に組み付けられ、前記当接部材は、前記トレイの上面に設置され、前記ブラケット側に突出した凸部である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、制振部材を配置した状態で固定部材に螺合締結された締結ボルトの先端面との距離が制振部材の組み付け時厚みより小さくなる位置に、締結ボルトの更なる進出を疎外する当接部材を設けている。そのため、制振部材を組み付け忘れた場合には、締結ボルトが当接部材に干渉して締め付けることができないため、制振部材の組み付け忘れに容易に気付くことができ、ひいては、制振部材の組み付け忘れを確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態である車載インバータの組付構造を示す図である。
【図2】本実施形態においてマスダンパを組み付け忘れた様子を示す図である。
【図3】従来技術においてマスダンパを組み付け忘れた様子を示す図である。
【図4】車載インバータの組付構造の他の例を示す図である。
【図5】車載インバータの組付構造の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態である電子機器の組み付け構造を示す図である。この組み付け構造は、電子機器である車載インバータ12を、振動を抑えつつ、固定部材であるフレームユニット23に組み付けるものである。
【0011】
車載インバータ12は、電気自動車やハイブリッド自動車などに搭載され、同じ車両に搭載されるモータ・ジェネレータの駆動を制御する電子機器である。この車載インバータ12は、金属や樹脂などからなるケースに収容されており、当該ケースの周縁には、複数の組付座14が突出形成されている。各組付座14には、締結ボルト10が挿通される締結孔16が形成されており、当該締結孔16に挿通された締結ボルト10により、車載インバータ12がフレームユニット23に組み付けられる。図1では、理解を容易にするために、この車載インバータ12のうち、一つの組付座14の周辺のみを図示している。この図1から明らかなとおり、本実施形態では、締結孔16の周辺に凹部18を形成しており、組み付け時には、この凹部18内に、マスダンパ20の一部が収容されるようになっている。
【0012】
フレームユニット23は、車両内に固定設置される固定部材であって、略平板状のトレイ28と、当該トレイ28の上面に設置されたブラケット24と、を備えている。ブラケット24は、断面略皿状になっており、トレイ28の上面との間には空間が形成されるようになっている。ブラケット24の上面部には、締結ボルト10が挿通される挿通孔24aが形成されている。さらに、このブラケット24の上面の裏面のうち挿通孔24aと同心となる位置には、雌ネジ26aが形成された螺合部26が取り付けられている。この螺合部26は、トレイ28とブラケット24との間に形成される空間内に位置しており、ブラケット24に強固に固着されている。
【0013】
トレイ28は、ブラケット24全体を支持するベースとなる板材である。本実施形態では、このトレイ28のうち、挿通孔24aと同心位置に、他部材の位置決めに利用する位置決め孔30が形成している。また、この位置決め孔30を覆うような形で、凸部32を設けているが、これについては、後に詳説する。
【0014】
締結ボルト10は、電子機器である車載インバータ12を、固定部材であるフレームユニット23に締結するための締結手段である。この締結ボルト10を、組付座14の締結孔16に挿通した状態で、フレームユニット23に設けられた螺合部26に螺合締結することで、車載インバータ12がフレームユニット23に組み付けられることになる。
【0015】
この締結ボルト10の頭部10aと、組付座14との間には、マスダンパ20が配置される。このマスダンパ20は、振動を吸収し、車載インバータ12に伝達される振動を低減する制振部材である。すなわち、車両内やモータの近傍などのように振動が多い場所に設置される電子機器に対しては、何らかの制振対策を施すことが重要となる。本実施形態では、この制振対策の一つとして、マスダンパ20を配置している。このマスダンパ20は、車載インバータ12の組み付けの際に、組付座14と一緒に、フレームユニット23に組み付けられる。このマスダンパ20は、幅広の上段部20aと、幅細の下段部20bとに大別されており、組み付け時、下段部20bは、組付座14に形成された凹部18に収容され、上段部20aは組付座14の上面とワッシャー22とに挟持された状態となる。
【0016】
車載インバータ12をフレームユニット23に組み付ける際には、まず、インバータケースに設けられた複数の組付座14をそれぞれ、ブラケット24の対応する組み付け位置(挿通孔24a・螺合部26)に載置する。次いで、各組付座14の上に、マスダンパ20を配置した上で、予め、ワッシャー22を嵌め込んだ締結ボルト10を、締結孔16および挿通孔24aに挿通し、螺合部26の雌ネジ部26aに螺合する。そして、その状態で締結ボルト10を締めこむことで、車載インバータ12が、固定部材であるフレームユニット23に組み付けられる。
【0017】
ここで、この組み付け手順に従って正しく組みつけられた場合は、振動の影響を抑えることができ、ひいては、振動に起因するインバータの不具合やノイズの発生を低減できる。しかしながら、上述したように、マスダンパ20のような車載インバータ12とは別の部品を介在させて組み付ける手順の場合、別部品であるマスダンパ20を組み付け忘れる恐れがある。すなわち、人的ミスにより、マスダンパ20を配置することなく、締結ボルト10で車載インバータ12をフレームユニット23に組みつけてしまうことがある。この場合、車両の走行やモータ・ジェネレータの駆動に伴う振動が、車載インバータ12に伝達されてしまい、車載インバータ12の不具合やノイズを発生することになる。
【0018】
本実施形態では、かかる問題を避けるために、トレイ28の上面に凸部32を設け、マスダンパ20の組み付け忘れを防止している。以下、これについて詳説する。
【0019】
既述したとおり、凸部32は、トレイ28の上面に形成された略皿状の突出部である。この凸部32は、螺合部26の雌ネジ26a部に螺合締結された締結ボルト10の長軸線上、換言すれば、締結された締結ボルト10の先端面と対向する位置に設けられている。また、この凸部32の上面高さは、マスダンパ20を配置した状態で螺合締結された締結ボルト10の先端面との距離Daがマスダンパ20の組み付け時厚みDbより小さくなる高さとなっている(Da<Db)。なお、ここで、組み付け時厚みDbとは、マスダンパ20の下端から上端までの距離ではなく、マスダンパ20を組み付けた際に、組付座14の上面からワッシャー22下面までの距離である。本実施形態においては、マスダンパ20の下段部20bは、組み付け時には組付座14の凹部18に収容されるため、上段部20aの厚みのみが、組み付け時厚みDbに相当する。換言すれば、マスダンパ20の組み付け時厚みDbとは、マスダンパ20を組み付けた場合のボルト頭部10a高さと、マスダンパ20を組み付けなかった場合のボルト頭部10aの高さと、の差といえる。
【0020】
また、別の見方をすれば、本実施形態では、凸部32の上面からブラケット24の上面部までの距離Dcが、締結ボルト10のボルト長Lから組付座14の厚みDeおよびワッシャー22の厚みDdを引いた長さより小さくなるように各部材の寸法を設定している(Dc<L−De−Dd)。
【0021】
かかる凸部32を設けることの効果について、図2、図3を参照して説明する。図2は凸部32がある場合において、図3は凸部32がない場合において、マスダンパ20を組み付け忘れた場合の様子を示す図である。
【0022】
マスダンパ20を配置し忘れたまま締結ボルト10をブラケット24に螺合しようとすると、当然のことながら、マスダンパ20の組み付け時厚みDb分だけ余分に、締結ボルト10の先端がトレイ28側に突出することになる。
【0023】
ここで、図3に示すように、凸部32を設けていない場合、ブラケット24上面からトレイ28上面までの間には、十分なスペースがあることになる。そのため、マスダンパ20を忘れた状態で、締結ボルト10を螺合し、締結ボルト10の先端がマスダンパ20の組み付け時厚みDb分だけ余分にトレイ28側に突出したとしても、締結ボルト10の先端がトレイ28に当接することはない。その結果、マスダンパ20を組み付け忘れた状態でも、締結ボルト10を締め付けることができ、車載インバータ12をフレームユニット23に固定できる。そのため、作業者が、マスダンパ20の組み付け忘れに気付きにくいという問題がある。また、たとえ、後から気付いたとしても、硬く締め付けられた締結ボルト10を再度、緩めて取り外すのは手間という問題もあった。
【0024】
一方、本実施形態では、既述したように、マスダンパ20を配置した状態で螺合締結された締結ボルト10の先端面との距離Daがマスダンパ20の組み付け時厚みDbより小さくなる高さ位置に凸部32を設けている。そのため、本実施形態では、マスダンパ20を省略した状態で締結ボルト10を螺合し、ねじを回し進めようとしても、図2に示すように、締結ボルト10の先端が凸部32の上面に当接することになる。そして、その結果、締結ボルト10のさらなる進出が疎外され、締結ボルト10を締め付けることができず、結果として、車載インバータ12をフレームユニット23に固定することができなくなる。そのため、作業者は、マスダンパ20の不足に容易に気付くことができ、結果として、マスダンパ20を組みつけ忘れたまま車載インバータ12が組み付けられることが防止される。つまり、本実施形態によれば、マスダンパ20の組み付け忘れを確実に防止することができる。
【0025】
なお、本実施形態では、トレイ28に、他部材の位置決めに利用される位置決め孔30を設けている。そして、この位置決め孔30への位置決めピン(図示せず)の挿入を可能にするために、略皿状の凸部32を設けている。しかし、マスダンパ20を組み付け忘れた状態での締結ボルト10の締め付けを疎外でき得る部材であれば、凸部32に替えて他の部材を配置するようにしてもよい。
【0026】
例えば、図4に示すように、ブラケット24の高さを低くし(ブラケット24上面からトレイ28上面までの距離を短くし)、マスダンパ20を組みつけ忘れた状態では締結ボルト10の先端がトレイ28上面に干渉するようにしてもよい。すなわち、ブラケット24の高さを、マスダンパ20を配置した状態で螺合締結された締結ボルト10の先端面とトレイ28上面との距離Dfが、マスダンパ20の組み付け時厚みDbより小さくなるようにしてもよい(Df<Db)。かかる構成とすれば、マスダンパ20を組みつけ忘れた状態では、締結ボルト10を締め付けることができず、車載インバータ12をブラケット24に組み付けることができない。その結果、マスダンパ20の組み付け忘れを効果的に防止することができる。
【0027】
また、これまでの説明では、車載インバータ12を、中空の固定部材(フレームユニット23)に組み付ける場合を例に挙げて説明したが、本発明は、当然ながら、中実の固定部材に組み付ける場合にも応用できる。例えば、図5に示すように、締結孔16に挿通した締結ボルト10を、中実プレート50に形成された雌ネジ52に螺合することで、車載インバータ12を中実プレートに組み付ける場合を考える。この場合でも、雌ネジ52の深さを、マスダンパ20を配置した状態で螺合締結された締結ボルト10の先端面と雌ネジ52底面との距離Dgが、マスダンパ20の組み付け時厚みDbより小さくなるようにすればよい。この場合、雌ネジ52の底面が、締結ボルト10の更なる進出を疎外する当接部材に相当する。
【0028】
また、これまでの説明では、車載インバータ12を例に挙げて説明したが、車載インバータ12に限らず、他の電子機器、例えば、コンバータやバッテリ、ECUなどであってもよい。また、本実施形態では、制振部材としてマスダンパ20を用いているが、締結ボルトの頭部と、固定部材の上面との間に配置される制振部材であれば、他の部材であってもよい。また、制振部材は、締結ボルトの頭部と、固定部材との間に位置していればよく、例えば、組付座と固定部材との間に配置されてもよい。
【符号の説明】
【0029】
10 締結ボルト、12 車載インバータ、14 組付座、16 締結孔、20 マスダンパ、22 ワッシャー、23 フレームユニット、24 ブラケット、26 螺合部、28 トレイ、32 凸部、50 中実プレート、52 雌ネジ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
締結ボルトの頭部と固定部材との間に電子機器の組付座および制振部材を配置した状態で、前記締結ボルトを前記固定部材に螺合締結することで、前記電子機器を前記固定部材に組み付ける電子機器の組付構造であって、
前記固定部材に螺合締結された締結ボルトの長軸線上のうち、前記制振部材を配置した状態で前記固定部材に螺合締結された締結ボルトの先端面との距離が前記制振部材の組付時厚みより小さくなる位置に、前記締結ボルトの更なる進出を疎外する当接部材が設けられる、
ことを特徴とする電子機器の組付構造。
【請求項2】
請求項1に記載の電子機器の組付構造であって、
前記固定部材は、平板状のトレイと、前記トレイの上面に設置されるとともにトレイとの間に空間を形成するブラケットと、を備え、
前記電子機器の組付座は、前記ブラケットの上面に組み付けられ、
前記当接部材は、前記トレイの上面に設置され、前記ブラケット側に突出した凸部である、
ことを特徴とする電子機器の組付構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−219926(P2012−219926A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86745(P2011−86745)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】