説明

電子機器用の外装部材及び該外装部材からなる成形体の製造方法

【課題】植物由来の生分解性材料を高割合で含有しながら、耐熱性を高め、かつ破損が発生しにくい電子機器用の外装部材を提供する。
【解決手段】粉状または繊維状の植物性充填材(A)と、該植物性充填材(A)を結合する樹脂成分を備え、前記樹脂成分は、ポリ乳酸(B)と、ポリカーボネート(C)と、3つ以上連続するメチレン基を有するポリエステル(D)を含み、前記ポリカーボネート(C)を前記ポリエステル(D)中に分散させ、該ポリエステル(D)を前記ポリ乳酸(B)中に分散させたサラミ構造とし、前記(A)乃至(D)の配合量は(A)>(B)≧(C)≧(D)とする電子機器用の外装部材とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器用の外装部材及び該外装部材からなる成形体の製造方法に関し、特に、電子機器のハウジングあるいは構成部品用の材料として好適に用いられ、使用後の廃棄時における廃棄量の減量および石油合成材料の使用の低減を図るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ等の撮影機器、デジタルオーディオプレイヤー、CDプレイヤー、ヘッドフォン等のオーディオ機器、ゲーム機器、パーソナルコンピューター及びその周辺機器、液晶テレビ、DVDプレイヤー等の映像機器などの電子機器のハウジングや構成部品には、石油由来の石油合成高分子樹脂が広く用いられている。
例えば、特開2002−111240号公報(特許文献1)では、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体)、PC/ABS(ポリカーボネート/アクリロニトリルブタジエンスチレン)、PC(ポリカーボネート)、PA(ポリアミド)等の樹脂より成形される携帯電話の接続部の開閉部材が提供されている。
【0003】
しかし、特許文献1のように電子機器を構成するハウジングや部品を石油合成樹脂から成形した場合、自然環境で分解し難く、さらに自然環境での分解・再合成のサイクルが保たれないことから、使用後に廃棄処理する際に問題が生じる。即ち、廃棄処理および埋設処理地の確保、燃焼廃棄時に発生する熱及び排出ガスによる地球温暖化、さらに排出ガスや燃焼残留物中の毒性物質の飛散およびその処理等の、いわゆる地球環境問題を引き起こす。
【0004】
これらの問題に対処し、石油合成樹脂の廃棄処理の問題点を解決する材料としてセルロースやポリ乳酸を代表とする植物由来の生分解性高分子材料が従来から注目されている。生分解性高分子材料のなかでも特に植物由来のものは石油合成樹脂に比べて、燃焼に伴う熱量が少なく自然環境での分解・再合成のサイクルが保たれ、地球温暖化ガスの排出が抑制される等、生態系を含む地球環境の悪影響を与えないという利点がある。中でも、強度や加工性の点で、石油合成高分子に匹敵する特性を持つポリ乳酸は、植物から供給されるデンプンから作られ、近年の大量生産によるコストダウンで他の生分解性高分子に比べて非常に安価になりつつある点から、石油合成樹脂の代替材料に最も近い生分解性樹脂である。ポリ乳酸はアクリル樹脂に匹敵する透明性からその代替としての用途のほか、ヤング率が高く形状保持性がある点からABS樹脂等の代替として電子機器のハウジングや部品等の様々な用途への応用が期待されている。
【0005】
しかしながら、ポリ乳酸は60℃近辺という比較的低い温度にガラス転移点を有し、その温度前後でヤング率が減少するため、ガラス板が突然ビニルクロスになってしまうというほどに形状を維持することが困難になるという欠点を持つ。
ポリ乳酸は廃棄処理に関しては有効な素材であるが、耐熱性の点では問題を有しており、例えば、ポリ乳酸を用いた携帯電話の外装部材を夏場に自動車内に放置しておくと、車室内温度は60℃以上に上昇することがあるため、変形が生じる恐れがある。
一方、柔軟性の観点からは、ポリ乳酸はガラス転移温度より低い常温では、柔軟性を欠くため、柔軟性が必要な成形品では使用形態によっては破損が生じやすい問題点がある。
【0006】
このようなポリ乳酸のガラス転移温度以上になると柔軟になり過ぎて強度が低下してしまうという欠点を解決するために、特許第3759067号公報(特許文献2)では電離性放射線や化学開始剤を利用してポリ乳酸を架橋する方法が提案されている。また、特開2004−250549号公報(特許文献3)では、成形加工性と耐熱性を向上させるために、ポリ乳酸とポリカーボネート等の樹脂が一定の相連続構造および分散構造を形成しているポリ乳酸樹脂組成物が提案されている。
【0007】
しかし、特許文献2のように架橋による分子拘束のみではガラス転移温度におけるポリ乳酸の急激なヤング率低下による形状変化を十分に抑制することができない。また、特許文献3のように、ポリ乳酸をポリカーボネート等の他の樹脂と混合してもポリ乳酸を高割合で含有する条件ではポリ乳酸のガラス転移温度での形状変化を抑制するのは困難である。
このように、電子機器用の外装部材において、植物由来生分解性材料を高割合で含有させると必要な耐熱性及び強度を具備させることが困難であったため、従来、石油由来高分子を主成分とする材料を用いざるを得なかった。
【0008】
【特許文献1】特開2002−111240号公報
【特許文献2】特許第3759067号公報
【特許文献3】特開2004−250549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたものであり、植物由来の生分解性材料を高割合で含有しながら、耐熱性を高め、かつ破損が発生しにくい電子機器用の外装部材及び該外装部材からなる成形体の製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明は、
粉状または繊維状の植物性充填材(A)と、該植物性充填材(A)を結合する樹脂成分を備え、
前記樹脂成分は、ポリ乳酸(B)と、ポリカーボネート(C)と、3つ以上連続するメチレン基を有するポリエステル(D)を含み、
前記ポリカーボネート(C)を前記ポリエステル(D)中に分散させ、該ポリエステル(D)を前記ポリ乳酸(B)中に分散させたサラミ構造とし、
前記(A)乃至(D)の配合量は(A)>(B)≧(C)≧(D)としていることを特徴とする電子機器用の外装部材を提供している。
【0011】
本発明者らは、植物由来の生分解性材料である植物性充填材(A)及びポリ乳酸(B)にポリカーボネート(C)を配合した材料に、さらに3つ以上連続するメチレン基を有するポリエステル(D)(以下、単に「ポリエステル(D)」とも称す。)を配合し、かつ、前記(A)乃至(D)の配合量を(A)>(B)≧(C)≧(D)と規定することで、植物性充填材(A)とポリ乳酸(B)を高割合で含有させながらポリ乳酸の耐熱性の問題を解決し、電子機器用の外装部材としての強度を具備させることができることを知見した。
【0012】
具体的には、前記(A)乃至(D)は、次の理由で前記配合量の関係としている。
ポリ乳酸(B)の耐熱性及び強度の問題点を解決するためには、植物性充填材(A)の配合量はポリ乳酸(B)より多くする必要があるため、(A)>(B)としている。
前述した本発明の目的から、植物由来生分解性材料である植物性充填材(A)とポリ乳酸(B)の配合量は多い方が好ましく、(A)と(B)の配合量の和が全体質量の60質量%以上を占めることが好ましい。そのため、ポリカーボネート(C)は(B)以下に設定しており、(A)>(B)≧(C)としている。
植物性充填材(A)とポリ乳酸(B)の合計質量の全体質量に占める割合の上限は、他の成分との兼ね合いから75質量%以下である。
本願明細書において、前記(A)乃至(D)の配合量は質量を示す。
【0013】
樹脂成分であるポリ乳酸(B)とポリカーボネート(C)と3つ以上連続するメチレン基を有するポリエステル(D)の配合量は、(B)≧(C)≧(D)とすることで、前記ポリカーボネート(C)を前記ポリエステル(D)中に分散させ、該ポリエステル(D)を前記ポリ乳酸(B)中に分散させたサラミ構造を形成させることができる。
ポリ乳酸(B)とポリカーボネート(C)は互いの親和性に乏しく、この両者のみを混合すると(B)と(C)を各々単独で用いるよりも強度物性が低下してしまう。そのため、本発明では、(B)と(C)を連結するために、(B)と(C)の両方に対して親和性が高い3つ以上連続するメチレン基を有するポリエステル(D)を配合し、本来は相溶しがたい(B)と(C)を強く一体化させている。
また、ポリ乳酸(B)の配合量をポリカーボネート(C)以上とすることにより、ポリ乳酸をマトリックスとしたサラミ構造とすることができる。
前記ポリカーボネート(C)と前記3つ以上連続するメチレン基を有するポリエステル(D)との配合量を(C)≧(D)としているのは、電子機器用の外装部材とするには、構成材料中で強度や弾性率が最も高いポリカーボネート(C)の量を、最も柔軟な力学物性の樹脂である(D)以上にする必要があるからである。
【0014】
前述した理由から、前記(A)乃至(D)の配合量は、(A)>(B)≧(C)≧(D)の関係とすることで、植物由来の生分解性材料を高割合で含有しながら、植物性充填材(A)とポリカーボネート(C)が素材として持つ高い強度と弾性率とを十分に発揮させることができ、ポリ乳酸(B)による物性低下の影響を抑制することができる。そのため、本発明の電子機器用の外装部材は、現行材料のABSやPC/ABS並みの物性を有し、高温環境下でも形状を維持することができる。
【0015】
本発明の電子機器用の外装部材は、全体質量の33質量%以上を前記植物性充填材(A)とし、かつ、前記植物性充填材(A)と前記樹脂成分との合計質量を全体質量の80質量%以上としていることが好ましい。
このように植物性充填剤(A)の含有量を全体質量の約1/3以上とすることで電子機器用の外装部材として十分な強度を得ることができる。
前記植物性充填材(A)と前記樹脂成分との合計質量は、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。
【0016】
さらに、ポリエステル(D)との配合量は、(C)>(D)≧0.3(C)としていることが好ましい。
これは、前記ポリカーボネート(C)を前記ポリエステル(D)中に分散させる構造、即ち、前記(D)が前記(C)の表面を包み込むためには、前記(D)は前記(C)の0.3倍以上必要であるからである。
【0017】
以下、本発明の電子機器用の外装部材に用いる各成分の詳細について説明する。
【0018】
本発明に供される植物性充填材(A)は、セルロース、リグノセルロース、ヘミセルロースおよびリグニンを含む植物が産生したものであればよく、植物の乾燥・粉砕した粉末あるいは繊維を好適に用いることができる。また、植物性充填材(A)は、抽出・精製処理されたものを用いてもよい。
【0019】
前記植物性充填材(A)としては、例えば、木材パルプやリファイナー・グランド・パルプ(RGP)、製紙パルプ、古紙などの細断物や破砕物、木材パルプをアルカリ処理し機械的に細断したアルファ繊維フロックや綿実から得られるコットンリンター、コットンフロック、人絹を細断した人絹フロック、あるいは、松、モミ、ポプラ、竹、バガス、オイルパーム等の木片や木粉、クルミ、ピーナッツ、椰子など果実の殻や収穫屑、さらに米の籾殻や麦類の収穫屑、ケナフ等の乾燥草類が挙げられる。
【0020】
植物性充填材(A)の形状は特に制限が無く、繊維状や繊維が束になったり固まった粉末であってもよいが、本発明においてはポリ乳酸等と混合する必要から、植物性充填材は乾燥・粉砕して平均粒径が5〜400μmの粉状・繊維状であることが望ましい。さらに、細断にはコストがかかる点と強度を向上させる効果を確実にするためには20μm以上150μm以下が望ましい。
【0021】
さらに、植物性充填材(A)は化学変性処理剤によって変性処理が施された化学変性処理品であることが望ましい。
前記化学変性処理剤としては、不飽和カルボン酸の無水物、金属塩、アミド物、イミド物、エステル物を好適に用いることができる。該不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、メサコン酸、アンゲリカ酸、ソルビン酸、アクリル酸等を用いることができる。
なかでも、マレイン酸無水物を用いることが好ましい。
前記植物性充填材(A)の化学変性処理は、植物性充填材(A)と前記化学変性処理剤を加熱混合することで、該化学変性処理剤の不飽和カルボン酸のカルボキシル基と、植物性充填材(A)に含まれるセルロース等の水酸基を縮合反応等で結合させ、植物性充填材(A)の表面にメチレン基を導入することにより行うことが出来る。
この化学変性処理は、植物性充填材(A)と化学変性処理剤を予め反応させた化学変性処理品としておいてもよいし、植物性充填材(A)の表面に化学変性処理剤を付着させておき、該植物性充填材(A)と樹脂成分とを加熱溶融混練する際に、この時の熱で植物性充填材(A)に化学変性処理剤を反応させて表面に結合させてもよい。
【0022】
本発明で用いられるポリ乳酸(B)としては、L−乳酸からなるポリ乳酸、D−乳酸からなるポリ乳酸、L−乳酸とD−乳酸の混合物を重合することにより得られるポリ乳酸、またはこれら2種類以上の混合物が挙げられる。なお、ポリ乳酸を構成するL−乳酸またはD−乳酸は化学修飾されていても良い。
本発明で用いるポリ乳酸としては前記のようなホモポリマーが好ましいが、乳酸モノマーまたはラクチドとそれらと共重合可能な他の成分とが共重合されたポリ乳酸コポリマーを用いても良い。コポリマーを形成する前記「他の成分」としては、例えばグリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、5−ヒドロキシ吉草酸もしくは6−ヒドロキシカプロン酸などに代表されるヒドロキシカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、デカンジカルボン酸、テレフタル酸もしくはイソフタル酸などに代表されるジカルボン酸;エチレングリコール、プロパンジオール、オクタンジオール、ドデカンジオール、グリセリン、ソルビタンもしくはポリエチレングリコールなどに代表されるラクトン類等が挙げられる。
【0023】
本発明で用いるポリカーボネート(C)としては、分子構造、密度等を特に規定するものではなく、種々のポリカーボネートを用いる事が可能である。ポリカーボネートは、具体的には、2価のフェノール系化合物と炭酸ジエステル化合物とを反応させて得られるものである。
【0024】
前記2価のフェノール系化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロデカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド等が挙げられる。また、3価以上のフェノール化合物としては、2,4,4’−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−4,4’テトラヒドロキシフェニルエーテル、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5’−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、2,2−ビス〔4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル〕プロパン、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン等が挙げられる。この中でコストの点から2価のフェノール化合物で2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)を用いるのが特に望ましい。
前記炭酸ジエステル化合物としては、ホスゲン、ジフェニルカーボネート等が挙げられ、いずれを用いてもよい。
【0025】
ポリカーボネートは、現在、コンパクトディスク(CD)やデジタルビデオディスク(DVD)のメディアとして大量に生産、消費、廃棄されている。本発明の目的を鑑みれば、前記ポリカーボネート(C)は、新規に合成したものを使用してもよいが、使用済み製品から再生された再生ポリカーボネートを50質量%以上含むものを用いてもよい。
本発明においてポリカーボネートは、材料強度や弾性、耐熱性を向上させることが目的の構成材料であり、光学製品への再利用などに比べて不純物の混入に対して寛容であるため、特に材料の純度は問わない。
【0026】
前記3つ以上連続するメチレン基を有するポリエステル(D)としては、例えばε−ポリカプロラクトンもしくはδ−ポリブチロラクトンに代表されるポリラクトン類、あるいは、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、デカンジカルボン酸、テレフタル酸もしくはイソフタル酸などに代表されるジカルボン酸と、エタンジオール、プロパンジオール、ブタンジオール、オクタンジオール、ドデカンジオール、などに代表される多価アルコールとのコポリマー、すなわち、ポリエチレンサクシネート(PES)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンアジペート(PBA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等の他、これらの3元や4元の共重合体、すなわち、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリブチレンサクシネートテレフタレート(PBST)、ポリブチレンサクシネートアジペートテレフタレート(PBSAT)、さらにポリグリコール酸、ポリヒドロシキ酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸もしくはポリヒドロキシカプロン酸などに代表されるポリヒドロキシカルボン酸、L−乳酸やD−乳酸、あるいはそのラクチドやオリゴ乳酸を加えた共重合体、例えばポリブチレンサクシネートラクチド(PBSL)などが挙げられ、以上に述べた2種以上のホモポリマー、コポリマーの混合物であっても良い。
なかでも、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンサクシネートラクチド(PBSL)及びポリブチレンサクシネートアジペートラクチド(PBSAL)からなる群から選択される1種以上を用いていることが好ましい。
また、これら3つ以上連続するメチレン基を有するポリエステル(D)の原材料は、石油由来でもよいが本発明の目的を鑑みれば、その一部あるいは全部が、デンプン等の発酵で得られるコハク酸等、植物由来であることが好ましい。
【0027】
3つ以上連続するメチレン基を有するポリエステル(D)は、前述したように、ポリ乳酸(B)とポリカーボネート(C)を結合する役割を担うものであるが、該結合を安定化する目的で分子架橋されていることが好ましい。
前記ポリエステル(D)は、前記(A)乃至(D)のなかで最も強度物性が低い材料であるが、電離性放射線等により分子架橋されることで、強度や弾性率、耐熱性を向上させることができる。この分子架橋を効率的に行うために、本発明の電子機器用の外装部材を形成する樹脂組成物には多官能性モノマーを混練しておくことが望ましい。
【0028】
多官能性モノマーとしては、電離性放射線の照射や化学開始剤により架橋できるモノマーであれば、特に制限を受けないが、例えばアクリル系、メタクリル系、あるいはアリル系の多官能性モノマーが挙げられる。
【0029】
前記アクリル系、メタクリル系の多官能性モノマーとしては、例えば、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレ―ト、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(メタクリロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
【0030】
前記アリル系多官能性モノマーとしては、トリアリルイソシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメタアリルシアヌレート、ジアリルアミン、トリアリルアミン、ジアクリルクロレンテート、アリルアセテート、アリルベンゾエート、アリルジプロピイソシアヌレート、アリルオクチルオキサレート、アリルプロピルフタレート、ブチルアリルマレート、ジアリルアジペート、ジアリルカーボネート、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジアリルフマレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルマロネート、ジアリルオキサレート、ジアリルフタレート、ジアリルプロピルイソシアヌレート、ジアリルセバセート、ジアリルサクシネート、ジアリルテレフタレート、ジアリルタトレート、ジメチルアリルフタレート、エチルアリルマレート、メチルアリルフマレート、メチルメタアリルマレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート等が挙げられる。
特に、アリル系多官能性モノマーはポリ乳酸(B)を架橋させる効果も期待できるため、好適に用いられる。
【0031】
多官能性モノマーを配合する場合、前記植物性充填材(A)を除く前記樹脂成分100質量部に対して、1〜15質量部の割合で含有することが好ましく、1〜10質量部の割合で含有するのがより好ましい。
多官能性モノマーの配合量を1質量部以上としているのは、多官能性モノマーの配合量が1質量部未満であると、多官能性モノマーによるポリエステル(D)の架橋効果が十分に発揮されず、高温時において強度が低下し、最悪の場合形状を維持できなくなる可能性があるからである。多官能性モノマーの配合量は、高温時における形状維持効果を確実にするために3質量部以上であることがより好ましい。一方、多官能性モノマーの配合量を15質量部以下としているのは、多官能性モノマーの配合量が15質量部を超えると、外装部材中に多官能性ポリマー全量を均一に混合するのが困難になり、実質的に架橋効果に顕著な差が出なくなるという理由からである。多官能性モノマーは石油由来であることから植物由来材料の含有量を多くするために10質量部以下であることがより好ましい。
なお、多官能性モノマーは、架橋成分であるポリ乳酸(B)とポリエステル(D)の合計質量100質量部に対しては2〜15質量部の割合で配合されていることが好ましい。
【0032】
さらに、前記樹脂組成物には、目的によって、前記(B)乃至(D)以外の樹脂成分、硬化性オリゴマー、加水分解抑制剤や老化防止剤など各種安定剤、難燃剤、帯電防止剤、防カビ剤もしくは粘性付与剤等の添加剤、ガラス繊維、ガラスビーズ、金属粉末、タルク、マイカもしくはシリカ等の無機充填材、前記(A)以外の他の有機充填材、染料もしくは顔料などの着色剤等を加えることもできる。
【0033】
本発明の電子機器用の外装部材は、少なくとも前記植物性充填材(A)と前記ポリ乳酸(B)と前記ポリカーボネート(C)と前記ポリエステル(D)と所望により多官能性モノマー等の他の成分を加熱溶融混練して樹脂組成物を作製した後、該樹脂組成物を成形機で所望の電子機器の外装部材の形状に成形した成形体とすることで得ることができる。
成形方法は特に限定されず、公知の方法を用いて良い。例えば、押出成形機、圧縮成形機、真空成形機、ブロー成形機、Tダイ型成形機、射出成形機、インフレーション成形機等の公知成形機が用いられる。
【0034】
さらに、前記ポリエステル(D)を分子架橋させる場合は、前記成形体に電離性放射線を照射することが好ましい。ポリエステル(D)の分子架橋は、前記樹脂組成物に化学開始剤を配合しておき、該化学開始剤が分解する温度まで加熱することによっても行うことができる。
【0035】
そこで、前記電子機器用の外装部材からなる成形体の適した製造方法として、
少なくとも前記植物性充填材(A)と前記ポリ乳酸(B)と前記ポリカーボネート(C)と前記ポリエステル(D)とを加熱溶融混練して樹脂組成物を作製した後、該樹脂組成物を成形機で成形して成形体し、該成形体に30kGy以上240kGy以下の電離性放射線を照射することを特徴とする成形体の製造方法を提供している。
【0036】
前記3つ以上連続するメチレン基を有するポリエステル(D)は、多官能性モノマーが存在しない状態でも電離性放射線の照射により架橋構造を形成することができるため、多官能性モノマーは必ずしも配合する必要はない。しかし、確実に前記ポリエステル(D)に架橋構造を形成させるためには、前述したように、前記樹脂成分100質量部に対して1〜15質量部、さらに好ましくは1〜10質量部の多官能性モノマーが配合されていることが好ましい。
なお、前述したように、多官能性モノマーとしてアリル系多官能性モノマーを配合した場合、ポリ乳酸(B)にも分子架橋構造を形成させることができる。
【0037】
分子架橋するために用いる電離性放射線としては、γ線、エックス線、β線またはα線などが使用できるが、工業的生産にはコバルトー60によるγ線照射や、電子線加速器による電子線照射が好ましい。
電離性放射線の照射は空気を除いた不活性雰囲気下や真空下で行うのが好ましい。電離性放射線の照射によって生成した活性種は空気中の酸素と結合して失活すると架橋効果が低下するためである。
【0038】
電離性放射線の照射量は30kGy以上240kGy以下であることが好ましい。
多官能性モノマーの配合量によっては電離性放射線の照射量が1kGy以上30kGy未満、さらには10kGy以下であっても前記ポリエステル(D)の架橋は認められるが、ポリエステル(D)の分子を効果的に架橋するには電離性放射線の照射量が30kGy以上であることが好ましい。一方、電離性放射線の照射量を240kGy以下としているのは、ポリ乳酸(B)及びポリエステル(D)が樹脂単独では放射線で崩壊する性質を有するため、電離性放射線の照射量が240kGyを超えると架橋とは逆に分解を進行させることになるからである。電離性放射線の照射量の上限値は150kGyであることが好ましく、100kGyであることがより好ましい。
【0039】
化学開始剤を用いた分子架橋を行なう場合は、樹脂組成物に化学開始剤と、前述したものと同様の多官能性モノマーを混合しておき、所望の形状に成形して成形体とし、該成形体の温度を化学開始剤の熱分解温度まで上昇させることによって、生分解性架橋体を作製することができる。
この場合の化学開始剤としては、熱分解により過酸化ラジカルを生成する過酸化ジクミル、過酸化プロピオニトリル、過酸化ベンゾイル、過酸化ジ−t−ブチル、過酸化ジアシル、過酸化ペラルゴニル、過酸化ミリストイル、過安息香酸−t−ブチルもしくは2,2’−アゾビスイソブチロニトリルなどの過酸化物触媒をはじめとするモノマーの重合を開始する触媒であればいずれでもよい。
架橋させるための温度条件は化学開始剤の種類により適宜選択することができる。架橋は、放射線照射の場合と同様、空気を除いた不活性雰囲気下や真空下で行うのが好ましい。
【0040】
このようにして得られた本発明の電子機器用の外装部材は、前記ポリエステル(D)に分子架橋を施したか否かに関わらず、JIS K 7171に準拠して測定した曲げ強度が60〜90MPa、曲げ弾性率が2.5〜3.5MPaとなる物性を有することが好ましい。
このように、本発明の電子機器用の外装部材は、優れた曲げ強度及び曲げ弾性率を有するので破損が発生しにくい。
【0041】
また、前記電子機器用の外装部材は、前記ポリエステル(D)に分子架橋を施したか否かに関わらず、温度60℃,湿度95%の条件下、あるいは、温度85℃,湿度85%条件下、あるいは温度140℃の乾熱条件下での各24時間処理後において、JIS K 7171に準拠して測定した曲げ強度が60〜80MPa、曲げ弾性率が2.8〜3.5GPaであることが好ましい。
このような高温・高湿環境下に曝されても、本発明の電子機器用の外装部材は優れた曲げ強度及び曲げ弾性率を維持することができ、耐熱性・耐加水分解性に優れる。
【発明の効果】
【0042】
前述したように、本発明の電子機器用の外装部材は、植物性充填材(A)と、該植物性充填材(A)を結合する樹脂成分を備え、前記樹脂成分は、ポリ乳酸(B)と、ポリカーボネート(C)、特定構造を有するポリエステル(D)を特定の配合量で配合し、前記ポリカーボネート(C)を前記ポリエステル(D)中に分散させ、該ポリエステル(D)を前記ポリ乳酸(B)中に分散させたサラミ構造を形成させているので、本来は相溶しがたいポリ乳酸(B)とポリカーボネート(C)を強く一体化させることができる。これにより、植物由来の生分解性材料である植物性充填材(A)とポリ乳酸(B)を高割合で含有させて石油由来材料の使用量低減を図りながら、植物性充填材(A)とポリカーボネート(C)が素材として持つ高い強度と弾性率をと十分に発揮させることができる。その結果、ポリ乳酸(B)による物性低下の影響を抑制することができ、耐熱性、耐加水分解性及び強度を高め、高温環境下でも形状を維持することができ、電子機器用の外装部材として現行材料のABSやPC/ABS並みの物性を実現することができる。
【0043】
さらに、本発明の電子機器用の外装部材の製造方法によれば、少なくとも前記(A)乃至(D)とを加熱溶融混練して樹脂組成物を作製した後、該樹脂組成物を成形機で成形して成形体とし、該成形体に所定量の電離性放射線を照射することで、最も強度物性が低い材料であるポリエステル(D)に分子架橋を施すことができるため、強度、弾性率及び耐熱性を一層向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1に、本発明の第1実施形態の電子機器用の外装部材10を示す。
外装部材10(10A,10B)は、図1(A)に示す携帯電話1の表面部の筐体及び図1(B)に示す裏面部の筐体としており、少なくとも植物性充填材(A)と、ポリ乳酸(B)と、ポリカーボネート(C)と、3つ以上連続するメチレン基を有するポリエステル(D)とを加熱溶融混練して作製した樹脂組成物を成形して得ている。
【0045】
前記樹脂組成物において、前記(A)乃至(D)の配合量は、(A)>(B)≧(C)≧(D)としている。さらに、本実施形態では、(C)>(D)≧0.3(C)としている。
具体的には、例えば、(A)乃至(D)の配合量の比は、(A):(B):(C):(D)=6:5:3:1の割合、(A):(B):(C):(D)=10:7:7:6の割合等とすることができる。
さらに、前記植物性充填材(A)を除く前記樹脂成分(B)乃至(D)の合計質量100質量部に対して、多官能性モノマーを1〜10質量部の割合で配合している。
【0046】
植物性充填材(A)としては、精製セルロース、木材パルプ、木粉あるいはケナフ繊維を用いており、安価で取り扱いやすいことから、木粉やケナフ繊維を好適に用いている。特に、粒径30〜100μmの木粉が好ましい。
さらに、植物性充填材(A)は、樹脂成分への相溶性を高めるために化学変性処理している。該化学変性処理は、よく乾燥した植物性充填材(A)に無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸無水物を予め含浸させることにより行っている。
ポリ乳酸(B)としては、L−乳酸からなるポリ乳酸、D−乳酸からなるポリ乳酸、L−乳酸とD−乳酸の混合物を重合することにより得られるポリ乳酸のホモポリマー、またはこれら2種類以上の混合物を用いている。
ポリカーボネート(C)としては、新品のポリカーボネート、または使用済み製品から再生された再生ポリカーボネートを用いている。
3つ以上連続するメチレン基を有するポリエステル(D)としては、市販されているポリブチレンサクシネート(PBS)やポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンサクシネートラクチド(PBSL)、ポリブチレンサクシネートアジペートラクチド(PBSAL)等のいずれかを用いている。
また、多官能性モノマーとしては、アリル系架橋性モノマーであるトリアリルイソシアヌレートを用いている。
【0047】
本実施形態の電子機器用の外装部材10は、以下の方法で製造している。
はじめに、前記(A)〜(D)の各成分、多官能性モノマー、所望により難燃剤、老化防止剤などの他の成分を2軸押出機や加圧ニーダー内で加熱溶融混練して樹脂組成物を作製する。
前記(A)〜(D)の加熱溶融混合は、樹脂成分である(B)〜(D)の融点以上(例えば180℃)で同時に行う方法、あるいは、融点以上に加熱して溶融した樹脂成分(B)〜(D)に植物性充填材(A)、多官能性モノマー、所望により加水分解抑制剤などの他の添加成分を添加して一緒に加熱混練する方法のいずれかで行っている。
植物性充填材(A)は、押出機や加圧ニーダー等の加熱槽内で樹脂成分(B)〜(D)の一部あるいは全部の樹脂を加熱溶融させた中へ混ぜて練り込まれた際に、この時の熱で含浸させた不飽和カルボン酸無水物と反応・結合し、表面に不飽和カルボン酸が導入される。
【0048】
ついで、得られた樹脂組成物を押出成形機、圧縮成形機、真空成形機、ブロー成形機、Tダイ型成形機、射出成形機、インフレーション成形機等の成形機を用いて前記筐体形状の成形体に成形している。
【0049】
最後に、得られた成形体に対して、空気を除いた不活性雰囲気で電子加速器(加速電圧10MeV、電流量12mA)により60kGy〜240kGyの電離性放射線を照射し、前記成形体に含まれている3つ以上連続するメチレン基を有するポリエステル(D)およびポリ乳酸(B)を架橋し、本実施形態の電子機器用の外装部材10を得ている。
【0050】
このようにして得られた電子機器用の外装部材10は、拡大観察すると、図2(A)の模式図に示されるように、粉状または繊維状の植物性充填材(A)12と、該植物性充填材(A)を結合する樹脂成分13を備えている。
さらに樹脂成分13のみを微視的に観察すると、図2(B)に示されるように、ポリカーボネート(C)15をポリエステル(D)16中に分散させたものが、さらにポリ乳酸(B)14の中に分散されている、所謂「サラミ構造」を形成している。
このようなサラミ構造を形成し、ポリエステル(D)がポリ乳酸(B)とポリカーボネート(C)の間に介在することで、本来は相溶しがたいポリ乳酸(B)とポリカーボネート(C)を強く一体化させることができ、植物性充填材(A)とポリカーボネート(C)が素材として持つ高い強度と弾性率をと十分に発揮させることができる。そのため、筐体として現行材料のABSやPC/ABS並みの物性を有し、高温環境下でも形状を維持することができる。
【0051】
さらに、外装部材10は、JIS K 7171に準拠して測定した曲げ強度が60〜90MPa、曲げ弾性率が2.5〜3.5MPaとなる物性を有し、曲げ強度及び曲げ弾性率に優れるため、破損が発生しにくい。
さらに、温度60℃,湿度95%での24時間の加湿処理後、あるいは、温度85℃,湿度85%での24時間の高温高湿処理後あるいは温度140℃での24時間の乾熱処理後においても、JIS K 7171に準拠して測定した曲げ強度が60〜80MPa、曲げ弾性率が2.8〜3.5GPaであるため、耐熱性・耐加水分解性にも優れている。
【0052】
次に、第2実施形態の外装部材の製造方法について説明する。
第2実施形態は、多官能性モノマーを配合せず、かつ、電離性放射線を照射していない点で、第1実施形態と異なる。
このように、電離性放射線の照射を行わず、3つ以上連続するメチレン基を有するポリエステル(D)に分子架橋を施さなくても、外装部材10は、樹脂成分(B)〜(D)が図2(B)に示すサラミ構造を有し、かつ、植物性充填材(A)による補強効果を得ることができるので、前述した範囲の優れた曲げ強度及び曲げ弾性率を有する。
他の成分及び効果は、第1実施形態と同様のため、説明を省略する。
【0053】
以下、本発明の実施例および比較例を挙げて具体的に説明する。
なお、本実施例及び比較例では、電子機器用の外装部材としての性能評価を行なうための試験用試料を作製しており、筐体等の外装部材としての形状には成形していない。
【0054】
(実施例1)
植物性充填材(A)、ポリ乳酸(B)、ポリカーボネート(C)、3つ以上連続するメチレン基を有するポリエステル(D)及び多官能性モノマー(E)を質量比で(A):(B):(C):(D):(E)=55:45:40:15:3の割合で投入し、二軸混合機(池貝鉄工(株)製「PCM30型(商品名)」;L/D=48,D=26mmφ)を用いて、押出温度200℃で混合し、ペレタイザーでカッティングして、ペレット状樹脂組成物を得た。
前記配合比から算出したペレット状樹脂組成物における植物由来材料[植物性充填材(A)+ポリ乳酸(B)]の含有率は63.3質量%である。
【0055】
得られたペレット状樹脂組成物を射出成形機(日精樹脂(株)製「ES400(商品名)」)を使用して成形し、シリンダ温度190℃で縦125mm×横13mm×厚さ3mmの曲げ試験用試験片を作製した。これとは別に、ペレット状樹脂組成物から200℃の熱プレス機で500μm厚の熱プレスシートを作製した。
このようにして得られたものを実施例1とした。
【0056】
(実施例2)
曲げ試験用試験片及び熱プレスシートに、空気を除いた不活性雰囲気で電子線加速器(加速電圧10MeV、電流量12mA)により60kGyの電離性放射線を照射したものを実施例2とした。
(実施例3)
電離性放射線の照射量を120kGyとした以外は実施例2と同様にし、実施例3とした。
【0057】
(比較例1)
PC/ABS材を使用して、実施例1と同様の温度条件で曲げ試験用試験片及び熱プレスシートを作製したものを比較例1とした。
【0058】
前記実施例及び比較例において、具体的には下記製品を使用した。
・植物性充填材(A):無水マレイン酸処理した粒径30〜100μmの木粉
・ポリ乳酸(B):トヨタ自動車(株)製「ユーズS−22(商品名)」
・ポリカーボネート(C):三菱エンジニアプラスチック(株)製「ユーピロンE2000(商品名)」
・3つ以上連続するメチレン基を有するポリエステル(D):三菱化学(株)製ポリブチレンサクシネートラクチド「GSPla Az91TN(商品名)」
・多官能性モノマー:日本化成(株)製トリアリルイソシアヌレート「TAIC(商品名)」
・PC/ABS材:出光興産(株)製PC/ABS材「タフロンtypeA(商品名)」
【0059】
実施例及び比較例について、下記の方法で曲げ強度、歪み、曲げ弾性率、及び貯蔵弾性率の評価を行った。実施例2については下記の方法で透過型電子顕微鏡写真を撮影した。
【0060】
(曲げ強度・曲げ弾性率評価)
実施例1〜3及び比較例1の曲げ試験用試験片について、JIS K 7171に準拠して、最大応力(曲げ強度)、歪み、および歪み−応力曲線の初期傾きより曲げ弾性率を求めた。なお、測定は、温度23℃、湿度55%で行った。
常温で保管した曲げ試験用試験片をそのまま処理せずに評価したほか、耐熱性、耐加水分解性(耐湿性)を評価するため、恒温恒湿槽を用いて(1)温度140℃の乾熱、(2)温度85℃,湿度85%、(3)温度60℃,湿度95%の各条件で各々24時間(1日)処理した試験片についても評価を行なった。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
(動的粘弾性(DMS)測定)
実施例1、3と比較例1の熱プレスシートについて、アイティー計測制御(株)製動的粘弾性測定装置「DVA−220(商品名)」を用いて、サンプル測定長42mm×幅5mm、測定周波数1Hzで−50℃から250℃まで20℃/分の昇温速度にて貯蔵弾性率E’を測定した。測定結果を図3に示す。
【0063】
(透過型電子顕微鏡写真)
実施例2で得られた熱プレスシートについて、切断して観察用試料を作製し、透過型電子顕微鏡を用いて、透過電子顕微鏡写真を撮影した。
撮影倍率5,000倍で撮影した写真を図4左側に、図4左側の図中の四角で囲まれた部分をさらに拡大して撮影した写真(撮影倍率100,000倍)を図4右側に示す。
【0064】
表1から、実施例1〜3は、植物由来材料の含有率を60質量%以上に高めているにも関わらず、高い曲げ強度と曲げ弾性率を有していた。さらに、高温での乾熱処理後及び高温高湿処理後においても高い曲げ弾性率と曲げ強度を維持しており、耐熱性や耐加水分解性にも優れていた。
特に、電離性放射線を照射して分子架橋を施した実施例2、3は、実施例1よりも曲げ強度、曲げ弾性率が向上していた。さらに耐熱性の向上も認められた。
【0065】
図3に示される動的粘弾性(DMS)評価において、実施例1,3は、比較例1に対して高温領域まで貯蔵弾性率を高く維持することができた。実施例1,3はガラス転移点60℃以上の高温において貯蔵弾性率を維持でき、ポリ乳酸の強度低下の問題を解決するものであった。
【0066】
透過型電子顕微鏡写真では、図4に示されるように、灰色に観察されるポリエステル(D)に周囲を取り囲まれ、黒く観察されるポリカーボネート(C)が、白色に観察されるポリ乳酸(B)の中に島状に点在しているサラミ構造を呈していることが確認された。
【0067】
なお、前記実施形態は電子機器用の外装部材の一例であり、他の電子機器用のハウジングあるいは構成部品用の材料とすることもできる。このように、本発明は前記実施形態および実施例に限定されず、特許請求の範囲に基づき解釈されるべきものである。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の電子機器用の外装部材は、使用後の廃棄時における廃棄量の減量および石油合成材料の使用の低減を図ることができるものとして、携帯電話、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ等の撮影機器、デジタルオーディオプレイヤーやCDプレイヤー、ヘッドフォン等のオーディオ機器、ゲーム機器、パーソナルコンピュータ及びその周辺機器、液晶テレビやDVDプレイヤー等の映像機器などの電子機器のハウジングあるいは構成部品用の材料として好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】(A)(B)は、実施形態の電子機器用の外装部材を示す図である。
【図2】(A)(B)は、図1の外装部材の拡大模式図である。
【図3】実施例の動的粘弾性(DMS)の測定結果を示すグラフである。
【図4】(A)(B)は、実施例2の透過型電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0070】
10 外装部材
12 植物性充填材
13 樹脂成分
14 ポリ乳酸
15 ポリカーボネート
16 3つ以上連続するメチレン基を有するポリエステル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉状または繊維状の植物性充填材(A)と、該植物性充填材(A)を結合する樹脂成分を備え、
前記樹脂成分は、ポリ乳酸(B)と、ポリカーボネート(C)と、3つ以上連続するメチレン基を有するポリエステル(D)を含み、
前記ポリカーボネート(C)を前記ポリエステル(D)中に分散させ、該ポリエステル(D)を前記ポリ乳酸(B)中に分散させたサラミ構造とし、
前記(A)乃至(D)の配合量は(A)>(B)≧(C)≧(D)としていることを特徴とする電子機器用の外装部材。
【請求項2】
全体質量の33質量%以上を前記植物性充填材(A)とし、かつ、前記植物性充填材(A)と前記樹脂成分との合計質量を全体質量の80質量%以上とし、さらに、
前記樹脂成分中のポリカーボネート(C)と前記3つ以上連続するメチレン基を有するポリエステル(D)との配合量は、(C)>(D)≧0.3(C)としている請求項1に記載の電子機器用の外装部材。
【請求項3】
前記植物性充填材(A)が植物の乾燥・粉砕した粉末あるいは繊維、あるいはそれらの化学変性処理品である請求項1または請求項2に記載の電子機器用の外装部材。
【請求項4】
前記ポリカーボネート(C)が、使用済み製品から再生された再生ポリカーボネートを50質量%以上含むものである請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の電子機器用の外装部材。
【請求項5】
前記ポリエステル(D)が、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンサクシネートラクチド(PBSL)及びポリブチレンサクシネートアジペートラクチド(PBSAL)からなる群から選択される1種以上である請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の電子機器用の外装部材。
【請求項6】
前記植物性充填材(A)を除く前記樹脂成分100質量部に対して、多官能性モノマーを1〜10質量部の割合で含有する請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の電子機器用の外装部材。
【請求項7】
温度60℃,湿度95%の条件下、あるいは、温度85℃,湿度85%条件下、あるいは温度140℃の乾熱条件下での24時間処理後において、JIS K 7171に準拠して測定した曲げ強度が60〜80MPa、曲げ弾性率が2.8〜3.5GPaである請求項6に記載の電子機器用の外装部材。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の電子機器用の外装部材からなる成形体の製造方法であって、
少なくとも前記植物性充填材(A)と前記ポリ乳酸(B)と前記ポリカーボネート(C)と前記ポリエステル(D)とを加熱溶融混練して樹脂組成物を作製した後、該樹脂組成物を成形機で成形して成形体とし、該成形体に30kGy以上240kGy以下の電離性放射線を照射することを特徴とする成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−161689(P2009−161689A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2331(P2008−2331)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】