説明

電子機器装置、信号補償装置及び信号補償方法

【課題】角速度センサの温度ドリフトによる誤作動を防止すること。
【解決手段】この電子機器装置は、回転方向の角速度に応じた第1の信号を出力する角速度センサと、静止した状態の前記角速度センサが出力する第2の信号のデータを温度の関数として記憶する記憶手段と、ある温度に応じて、前記第2の信号のデータを前記記憶手段から読み取り、そのデータを用いて前記第1の信号を補償するためのデータを算出する算出手段とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば携帯端末や携帯電話等の電子機器装置、このような装置に搭載される信号補償装置及びこのような装置に使われる信号補償方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2002−7027号公報には、携帯端末や携帯電話等の携帯可能な装置を構成する筐体の移動に応じて表示部に表示される画像をスクロールする技術が開示されている。例えば、このような装置を手に持つユーザがこの装置を右方向に移動させると、画像も同様に右方向にスクロールする、というものである。筐体の移動を感知する手段としては角速度センサが用いられる。例えば、角速度センサの基準となる値を検出しておき、基準値からの変化として電気信号として出力し、出力結果に応じて画面をスクロールさせる。
(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2002−7027号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような機器に使われる角速度センサは、周囲の温度変化によってこの基準値が変化する、いわゆる温度ドリフトを起こす。温度ドリフトは低周波として出力され、画像のスクロールに悪影響を与える。例えば、ユーザが装置を移動させない場合であっても表示部に表示された画像が勝手にスクロールしたり、ユーザが移動させた方向とは異なる方向に画面がスクロールするといった誤作動が生じる。
【0004】
本発明は、このような事情に基づきなされたもので、角速度センサの温度ドリフトによる誤作動を防止することができる電子機器装置、信号補償装置及び信号補償方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の主たる観点に係る電子機器装置は、回転方向の角速度に応じた第1の信号を出力する角速度センサと、静止した状態の前記角速度センサが出力する第2の信号のデータを温度の関数として記憶する記憶手段と、ある温度に応じて、前記第2の信号のデータを前記記憶手段から読み取り、そのデータを用いて前記第1の信号を補償するためのデータを算出する算出手段とを具備することを特徴とするものである。
【0006】
人間の腕の動きはひじ又は肩を支点とするものである。ユーザが筐体を空間中で移動させる動作は近似的に球面での動きとなる。この腕の動きの速度を検出するためには球面に沿った腕の移動速度、すなわち角速度を検出できれば良いこととなる。
【0007】
一般に、加速度と速度の関係は、以下の式で表される。
(式1)
【0008】
【数1】

【0009】
式1から、加速度センサがあれば、一定の時間幅tで得られたデータの積分を行うことにより速度を求めることが可能であるとわかる。ある一定時間の移動体の速度が求まれば、この速度の値を積分することによりさらに移動距離を求めることができ、スクロール量が決定できる。
【0010】
しかし、加速度から移動体の移動距離を求めるには、時間による2重積分を行わなければならないので、応答性が遅れたり、累積誤差が生じやすくなったりする。また、加速度センサは、角速度センサに比べ重力加速度の影響を受けやすいので、これによっても誤差が生じるおそれがある。上述したように、腕の動きを検出するためには、角速度を検出できればよい。そこで、本発明では、移動量を検出する手段として角速度センサを用いている。
【0011】
角速度によりスクロール量を求めると、式2のようになる。
(式2)
【0012】
【数2】

【0013】
角速度センサは、主に電子機器等の手ぶれによる振動を検出するために使用されている。手ぶれによる振動は波長の短い高周波である。手ぶれによる振動を検出する際には、例えばハイパスフィルタ等により低周波をカットし高周波のみを出力させる。温度ドリフトによる出力は低周波であるためカットされる。このため、手ぶれによる振動を検出する際には、温度ドリフトによる誤作動の問題は生じない。
【0014】
本発明に係る角速度センサが検知する動作は、ユーザが表示部を目で追いながら装置を移動させる動作であり、波長の長い低周波である。したがって、装置を移動させる動作は、上記の温度ドリフトによる低周波と互いに影響しあうこととなる。
【0015】
本発明によれば、装置が静止状態にあるときの角速度センサの出力を比較することによって温度ドリフトの値を抽出することができ、この値をもとに、角速度センサの出力を補償することができる。
【0016】
本発明では、ある温度で静止状態にある装置の角速度センサの出力を予め記憶する。そして、例えば別の温度で静止状態にある装置の角速度センサの出力を検出する。検出された出力と、予め記憶した角速度センサの出力とを比較すると、温度ドリフトによって変化した基準値の差が抽出される。装置を移動させたときの角速度センサの出力は、移動による出力と、温度ドリフトによる出力とを重ね合わせたものである。抽出された基準値の差は温度ドリフトによる出力に相当する。したがって装置を移動させたときの角速度センサの出力から抽出された基準値の差を除去することにより、移動による出力のみを求めることができる。このドリフト分の角速度をΔωkとすると、補正後のスクロール量は式3のようになる。
(式3)
【0017】
【数3】

【0018】
これにより、角速度センサの温度ドリフトによって表示部に表示された画像が勝手にスクロールするという誤作動は生じない。
【0019】
ここで、上記の電子機器装置において、静止状態検出手段が、当該電子機器装置の所定の方向に対する速度成分及び変位成分を検出するために用いられる加速度センサであることが好ましい。
【0020】
一般に、角速度センサは直線の動作に対する感度が不十分である。一方、加速度センサは、直線上の動作であっても移動の際の加速度を検出することができる。加速度センサは絶対運動の検出に適しているので、装置の直線的な移動を検出すると同時に、装置が移動していない静止状態も検出することができる。これにより、静止状態を検出するセンサを別途設ける必要がなく、処理系の複雑化を避けることができ、効率的な処理が可能となる。
【0021】
これに対し、角速度センサは相対的運動の検出に適しているので、手、腕の移動量を検出することができる。加速度センサを主として用いた場合、角速度センサを主として用いた場合と比較して、応答性が悪く、積分の際の累積誤差が大きくなってしまう。しかし、角速度センサでは検知不十分な直線の動作に関してのみ加速度センサで検知させるものとすると、応答性が悪くなるのを抑えることができ、スクロールの反応が鈍くなることを防止できる。本発明では、加速度センサを角速度センサの補助として用いることで、直線の動作に対する感度も十分となり、装置の移動をより確実に検知することができる。
【0022】
【0023】
【0024】
本発明は、電子機器装置ばかりでなく、広く信号補償装置に適用できるし、信号補償方法として把握することも可能である。
【0025】
即ち、本発明の更に別の観点に係る信号補償装置は、回転方向の角速度に応じた第1の信号を出力する角速度センサと、静止した状態の前記角速度センサが出力する第2の信号のデータを温度の関数として記憶する記憶手段と、ある温度に応じて、前記第2の信号のデータを前記記憶手段から読み取り、そのデータを用いて前記第1の信号を補償するためのデータを算出する算出手段とを具備することを特徴とする。
【0026】
【0027】
本発明の別の観点に係る信号補償方法は、角速度センサから出力される第1の信号を読み取る工程と、静止した状態の前記角速度センサが出力する第2の信号のデータを温度の関数として記憶手段に記憶させる工程と、ある温度に応じて、前記第2の信号のデータを前記記憶手段から読み取り、そのデータを用いて前記第1の信号を補償するためのデータを算出する工程とを具備することを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0029】
(表示装置)
図1及び図2をもとにして、本発明に係る電子機器装置の一例である表示装置について説明する。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態に係る電子機器装置の斜視図である。図2は、この表示装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【0031】
図1に示すように、表示装置1は、例えばユーザが片手で持てるような大きさの筐体2を有する。
【0032】
筐体2の前面2aには、スピーカ4、マイク5、リセットボタン10が設けられ、更に、OKボタン7a、Undoボタン7b、及びカメラキャプチャーボタン7cが設けられた操作部7、例えばスティック状の記憶媒体8が着脱自在に装着される装着部9が設けられている。
【0033】
筐体2の背面2bには、カメラ3が設けられている。カメラ3は例えばCCDカメラにより構成される。
【0034】
筐体2の側面2cには、表示部6が設けられている。表示部6は、例えばカラー液晶表示装置により構成される。筐体2の側面2dには、取手部11が設けられている。
【0035】
図2に示すように、表示装置1は、メインバス14にCPU15、ROM16、フラッシュ(Flash)メモリ17、RAM18、記憶媒体用インタフェース19、センサインタフェース20の他、各種のインタフェース、例えばTTY(Tele Typewriter)21、NIC(ネットワーク・インターフェース・カード)として、例えばイーサネット(登録商標)ボード(Ethernet(登録商標) Board)22、イメージプロセッシングユニット(Image Processing Unit)23、Viscaインタフェース(Visca Interface)24、VGAボード(VGA Board)25、オーディオビデオインタフェース(Audio&Video Interface)26を接続して構成される。CPU15は、この表示装置1全体を統括的に制御するものである。ROM16は、その動作に必要なプログラムを記憶させるために設けられる。必要なプログラムとは、例えば、後述する切り替えスイッチのためのプログラム等である。フラッシュメモリ17は、必要なデータを記憶させるために設けられる。必要なデータとは、後述するように、ある温度における角速度センサの出力等である。RAM18は、処理の際の作業スペースとして用いられる。
【0036】
記憶媒体用インタフェース19には装着部9が接続される。装着部9に装着された記憶媒体8との間でデータの通信が行われるようになっている。
【0037】
センサインタフェース20には、A/Dコンバータ27、ローパスフィルタ29を介して、角速度センサ12及び加速度センサ13が並列に接続されている。
【0038】
TTY(Tele Typewriter)21は、上記の操作領域の各種のボタンと接続されている。
【0039】
イーサネット(登録商標)ボード(Ethernet(登録商標) Board)22は、イーサネット(登録商標)に接続可能とするものである。イーサネット(登録商標)を介して例えばサーバに接続され、このサーバを介してインターネット(登録商標)に接続されるようになっている。
【0040】
イメージプロセッシングユニット(Image Processing Unit)23にはカメラインタフェース(Camera Interface)28が接続される。カメラインタフェース28には上記のCCDカメラ3が接続されている。CCDカメラ3により接続された画像を表示装置1内に取り込むことが可能であり、これを表示部6に表示することも可能である。
【0041】
Viscaインタフェース(Visca Interface)24には外部のパーソナルコンピュータ等が接続される。このインタフェースを介して表示装置1の各種の制御を行うことが可能とされている。
【0042】
VGAボード(VGA Board)25には上記の表示部6としての液晶表示装置が接続されている。
【0043】
オーディオビデオインタフェース(Audio&Video Interface)26には、オーディオビデオ系の機器が接続されるようになっている。このインタフェース26を介してオーディオビデオ系の機器からの信号を表示装置1内に取り込んだり、逆にオーディオ信号や画像信号をオーディオビデオ系の機器に出力することができる。
【0044】
(角速度センサ及び加速度センサ)
次に、図3から図6をもとにして、表示装置1に設けられる角速度センサ及び加速度センサについて説明する。
【0045】
図3は、角速度センサについて示したものである。図4は、角速度センサから出力された結果を示すグラフである。図5は、加速度センサについて示したものである。図6は、角速度センサ及び加速度センサの取り付けられる位置を示したものである。
【0046】
角速度センサ12は、表示装置1の回転方向の角速度を検知し、電圧として出力する素子であり、例えば、移動検出方向と平行方向の長さが1cm、垂直方向の長さがそれぞれ0.5cm及び0.3cmの直方体の形状である。
【0047】
人間の腕の動きは、ひじや肩を中心とした球面上での動きに近似することができる。図3(a)に示すように、ユーザがこの表示装置1を移動させたとき、例えばひじ28を支点とした球面に沿ったα方向のような動きになる。この腕の動きの速度を検出するためには球面に沿った腕の移動速度、すなわち角速度を検出できれば良いこととなる。一般に、加速度と速度の関係は、以下の式で表される。
(式1)
【0048】
【数4】

【0049】
式1から、加速度を検出する例えば後述する加速度センサ等があれば、一定の時間幅tで得られたデータの積分を行うことにより速度を求めることが可能であるとわかる。ある一定時間の表示装置1の移動速度が求まれば、この速度の値を積分することによりさらに移動距離を求めることができ、画面のスクロール量が決定できる。
【0050】
しかし、加速度から表示装置1の移動距離を求めるには、時間による2重積分を行わなければならないので、応答性が遅れたり、累積誤差が生じやすくなったりする。上述したように、腕の動きを検出するためには、角速度を検出できればよい。そこで、本発明では、移動量を検出する手段として角速度センサ12を用いている。
【0051】
角速度により画面のスクロール量を求めると、式2のようになる。
(式2)
【0052】
【数5】

【0053】
角速度センサ12は、主に電子機器等の手ぶれによる振動を検出するために使用されている。手ぶれによる振動は波長の短い高周波である。手ぶれによる振動を検出する際には、例えばハイパスフィルタ等により低周波をカットし高周波のみを出力させる。温度ドリフトによる出力は低周波であるためカットされる。このため、手ぶれによる振動を検出する際には、温度ドリフトによる誤作動の問題は生じない。
【0054】
角速度センサ12が検知する動作は、ユーザが表示部6を目で追いながら表示装置1を移動させる動作であり、波長の長い低周波である。表示装置1を移動させる動作は、温度ドリフトによる低周波と互いに影響しあうこととなる。
【0055】
ある温度で静止状態にある表示装置1の角速度センサ12の出力を予め記憶する。そして、例えば別の温度で静止状態にある表示装置1の角速度センサ12の出力を検出する。検出された出力と、予め記憶した角速度センサ12の出力とを比較すると、温度ドリフトによって変化した基準値の差が抽出される。装置を移動させたときの角速度センサ12の出力は、移動による出力と、温度ドリフトによる出力とを重ね合わせたものである。抽出された基準値の差は温度ドリフトによる出力に相当する。したがって表示装置1を移動させたときの角速度センサ12の出力から抽出された基準値の差を除去することにより、移動による出力のみを求めることができる。このドリフト分の角速度をΔωkとすると、補正後のスクロール量は式3のようになる。
(式3)
【0056】
【数6】

【0057】
角速度センサ12は、α方向の回転の角速度を検知して電圧として出力する。出力は基準電圧からの変化で示される。例えば、腕の長さが45cmのユーザが表示装置1を0.2秒間で回転角5度回転させたとき、角速度センサ12の変位電圧は約10mVである。また角速度センサ12の基準電圧は約1.5Vである。出力された角速度の値は、図示しない例えばローパスフィルタを通して高周波成分を除去する。高周波成分が除去された出力は、CPU15により、数値積分法によって時間積分が行われ、表示装置1の変位成分が算出されるようになっている。
【0058】
また、角速度センサ12は一の回転方向の角速度のみを検知するものであるため、図3(b)に示すように、二以上の回転方向、例えばα方向、及びβ方向の2方向にまたがる動きを検知する場合は、角速度センサ12をそれぞれの回転軸に応じて設ける必要がある。この場合、角速度センサ12は、表示装置1に加わる角速度のα方向成分、β方向成分を出力する。出力結果は、ローパスフィルタ29を通されてCPU15により数値積分法によって時間積分が行われ、表示装置1のそれぞれの変位成分が算出される。
【0059】
角速度センサ12による検出結果は、例えば図4(a)のようになる。図4(a)に示されたグラフの縦軸は、角速度センサ12の出力電圧(V)であり、横軸は時間(秒)である。この出力結果の波形には、角速度センサ12が検知した表示装置の移動による成分と、手ぶれなどの振動による成分と、角速度センサ12の温度ドリフトによる成分とが含まれている。この結果を、ローパスフィルタ29によって手ぶれ成分である高周波を除去した様子を示すのが図4(b)である。この波形には、角速度センサ12が検知した表示装置の移動による成分、及び角速度センサ12の温度ドリフトによる成分のみが含まれることとなる。この場合表示装置1は、角速度センサ12の出力電圧の値に応じて画像をスクロールさせる。出力電圧は低周波であるから、図4(a)のように手ぶれ等の細かな電圧の変化、すなわち高周波までは検知する必要がない。このような細かな変化をそのまま処理してしまうと、スクロールの際に画像が細かく振動して表示されるため非常に見づらくもなる。そこで、ローパスフィルタ29により不要な高周波を除去するのである。
【0060】
加速度センサ13は、ユーザがこの表示装置1を手に持った状態で空間を移動させたとき、2軸方向あるいは3軸方向の加速度を検知して、電圧として出力するする素子である。
【0061】
図5は、例えば加速度センサを3軸方向の加速度を検出するセンサとして用いた場合について示したものである。表示装置1に加わる加速度の縦方向成分、横方向成分、及び前後方向成分を検知し、それぞれの成分ごとに時間積分演算を行って速度成分、変位成分を算出するようになっている。
【0062】
また、表示装置1が静止状態となると、表示装置1に加速度が働かず、加速度センサ13による出力電圧は、加速度が加わっていないときの電圧となる。つまり、加速度センサ13の単位時間あたりの出力電圧の変位が0になる。このように、加速度センサ13からの出力が、加速度が加わっていないときの電圧(単位時間あたりの出力電圧の変位が0)になったことを確認することで、表示装置1の静止状態を検知することもできる。これにより、静止状態を検出するセンサを別途設ける必要がなく、処理系の複雑化を避けることができ、効率的な処理が可能となる。
【0063】
角速度センサ12及び加速度センサ13の算出結果は後述する温度ドリフトの補償、及び画像のスクロールに用いられる。
【0064】
図6に示すように、表示部6は、裏ぶた6a、フレーム6b、表ぶた6c、液晶装置6d、並びに角速度センサ12及び加速度センサ13から構成される。角速度センサ12は、X方向の移動を検知する角速度センサ12a、Y方向の移動を検知する角速度センサ12b、Z方向の移動を検知する角速度センサ12cの3個が設けられている。角速度センサ12a及び12bは、裏ぶた6aの内側に貼り付けられる。角速度センサ12cは、フレーム6bの外側に貼り付けられる。角速度センサ12は、直方体であり、長手方向の長さが1cmである。角速度センサ12cは長手方向が表示部6の厚さ方向と平行となるように設けられるため、表示部6の内側に設けると、表示部6自体が薄型化する際の妨げとなる。このため角速度センサ12cはフレーム6bの外側に設けられる。
【0065】
加速度センサ13は1個設けられる。1個でX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の移動を十分に検出できる。加速度センサ13は、角速度センサ12a及び角速度センサ12bと近接して設けることが好ましいが、これらと距離をおいて設けても勿論構わない。角速度センサ12及び加速度センサ13はローパスフィルタ29、A/Dコンバータ27を介して、CPU15と接続される。
【0066】
(処理工程)
次に、図7及び図8をもとにして、画面がスクロールするための処理について説明する。
【0067】
図7は、表示装置1が移動してから画面がスクロールするまでのCPU15の処理工程について示したものである。図8は、縦軸が電圧(V)、横軸が温度(℃)とした場合の、角速度センサ12の温度ドリフトについて示したものである。
【0068】
図7に示すように、CPU15は、まずユーザによってリセットボタン10が押されたか否かを確認する(ステップ701)。リセットボタン10が押されたならば、ステップ702及びステップ703の工程を省略してステップ704の工程に進む。リセットボタン10が押されていなければ加速度センサ13の出力電圧を読み取る(ステップ702)。そして、表示装置1が静止状態であるかどうかを判別するため、加速度センサ12により加速度を検出する。加速度センサ13の出力が0ならば次のステップに進み、出力が0でなければステップ701及びステップ2の処理を繰り返す(ステップ703)。
【0069】
ユーザによってリセットボタンが押された場合、又は加速度センサ13の出力電圧の変位が0であった場合、CPU15は角速度センサ12の出力電圧を読み取る(ステップ704)。そして、フラッシュメモリ17に記憶しておいた、ある温度の下で静止状態にある角速度センサ12の出力電圧を読み出し(ステップ705)、ステップ704で読み取った角速度センサ12の出力電圧の値からステップ705で読み出した角速度センサ12の出力電圧の値を引いた値を温度ドリフトによるオフセット量として抽出する(ステップ706)。
【0070】
次に、例えばユーザが表示装置1を移動させたときに角速度センサ12から出力された値を読み取る(ステップ707)。この出力値からステップ706で抽出したオフセット量を減算すると、温度ドリフトによる電圧の変化が除去され、移動による変位が算出される(ステップ708)。この値に基づいて画像をスクロールする指示を出す(ステップ709)。
【0071】
このようにして処理すれば、温度ドリフトによる動作不良は解消されることとなる。
【0072】
上記の処理工程について一方向の移動を例にとって原理的に説明する。
【0073】
角速度センサ12は、静止状態で温度が変化した場合、図8のグラフβのように出力する。グラフαは角速度センサ12を一定量移動させたときの出力値を示す。これは、グラフβを電圧軸正方向に平行移動させたものである。このうち例えば20℃のときの出力値をθとしてフラッシュメモリ17等に記憶させておく。
【0074】
例えば40℃のときを例にとる。40℃のとき、静止状態での角速度センサ12の出力はβ1である。ここでステップ706の計算を行い、フラッシュメモリ17に記憶された値θを読み出し、β1とθとの差をとると上記温度ドリフトによるオフセット量が抽出される。このときのオフセット量をΔとすると、
Δ=θ−β1
となる。
【0075】
さらに、40℃のときにユーザが表示装置1を一定量移動させたときの出力値はα1である。ここでステップ707の計算を行い、α1にΔを足すと補償出力が算出される。このときの補償出力をωとすると、
ω=α1+Δ
=α1+(θ−β1)
=α1−β1+θ
となり、補償出力ωは温度に関係なく一定となる。ωからフラッシュメモリ17に記憶しておいたθの値を減算すれば、(α1−β1)が求まる。これが実際の移動による変位となる。したがって、(α1−β1)の値に基づいて画像をスクロールすればよいこととなる。
【0076】
つまり実際には、表示装置1が静止状態のグラフβ1さえ記憶しておけば、実際にユーザがこの表示装置1を利用するときには、一定量表示装置1を移動させたときのある温度での出力電圧(グラフα1のある温度における出力電圧)と、グラフβ1のその温度における出力電圧との差をとることにより、表示装置1の移動のみによる変位が検出できる。よってグラフα1は表示装置1の製品出荷時点でデフォルトで記憶されていてもよい。
【0077】
(使用例)
次に、この表示装置1を用いてコンテンツを購入する際の動作について説明する。
【0078】
図9はその動作を示すフローチャートである。
【0079】
表示装置1は、電源が投入されると、表示部6に初期画面を表示する(ステップ901)。図10はそのような初期画面の一例を示す図である。図10に示す表示部6の画面には、例えば「メニュー」、「レストラン」、「デパート」、「映画館」、「飲食店」、「地図」、「絵」、「文字入力」等があり、この画面上には表示されていないが、他の項目が更にこの下に存在し、表示装置1を下方に移動させることで、画面を下方にスクロールして下にある項目も見ることができる。また、現在画面上で選択可能な項目はハイライト表示(図10中符号37)されており、OKボタン7aを押すとハイライト表示された項目37が選択されるようになっている。このようなハイライト表示は例えば画面上に固定され、上記のように画面をスクロールさせて項目の方を移動させることでハイライト表示させたい項目37を選択することができる。
【0080】
ここで、表示装置1は、当該表示装置1が上下に移動されると(ステップ1102)、この移動に応じて表示部6の画面を例えば上下にスクロールさせる(ステップ1103)。ユーザにより所望の項目例えば「絵」をハイライト表示され、OKボタン7aが押されると(ステップ904)、表示部6に「絵」の選択画面を表示する(ステップ905)。
【0081】
ここでも同様に表示装置1は、当該表示装置1が上下左右に移動されると(ステップ906)、この移動に応じて表示部6の画面を例えば上下左右にスクロールさせる(ステップ907)。ユーザにより4つの画像に分割されたそれぞれ提供可能なコンテンツの画像A1、A2、B1、B2から1つの画像が選択されると(ステップ908)、図11に示すように、表示装置1は、表示部6に金額提示画面38を表示する(ステップ909)。この画面38上には、例えばコンテンツの金額を表示する金額表示部39、購入確認ボタン40、複数コンテンツ購入ボタン41がある。複数コンテンツ購入ボタン41を押すと、もう一度初期画面に戻って更に購入するコンテンツを追加することができる。
【0082】
なお、上記の選択は、例えば4つ画像A1、A2、B1、B2のうち表示画面上で最も大きな面積の画像をハイライト表示させるようにしておき、スクロールにより適宜ハイライト画面を選択し、OKボタン7aでコンテンツを選択すればよい。
【0083】
コンテンツの金額の提示に応じてユーザによりコンテンツが選択されると、選択されたコンテンツが例えばサーバからインターネットを介して表示装置1に提供される(ステップ910)。
【0084】
表示装置1は、例えば図12に示すように表示部6にコンテンツ44を表示する(ステップ911)と共に記憶媒体に記憶する(ステップ912)。
【0085】
ユーザは表示装置1を適宜移動させることで、表示部6に表示されたコンテンツ44の画像45をスクロールして見ることができる。
【0086】
図13は図10に示した初期画面上の項目から「地図」を選択したときに、表示部6に表示される画像の一例を示している。この状態から、表示装置1を移動させて(ステップ906)、画面を例えば上下左右にスクロールし(ステップ907)、地図上の所定の画像を選択する(ステップ908)と、例えばその領域におけるより詳細な地図を、選択したコンテンツとして表示部6に表示し、記憶媒体8に記憶させることができる。
【0087】
以上の動作において、表示装置1を静止状態にしておいたにもかかわらず角速度センサ12の温度ドリフトにより画像がスクロールしてしまう、といった誤作動の問題が起こることもない。
【0088】
また、ユーザは、リセットボタン10を押して角速度センサ12の温度ドリフトを補償することもできる。これにより、誤作動が防止されることとなる。
【0089】
また、角速度センサで装置の移動量を検出することによって、重力加速度の影響を受けずに装置の移動量を検出することができる。
【0090】
本発明は、以上の実施形態に限定されるものではない。
【0091】
例えば、上述した実施形態では、コンテンツが画像である場合を説明したが、コンテンツが音楽等であってもよい。
【0092】
また、ユーザが表示装置1を移動させている場合でも、表示部6に表示された画像をスクロールさせたくない場合に、画像がスクロールしないようにする例えば図示しないストップボタンのようなものを設けても良い。
【0093】
更に、本実施形態では表示装置を例に取り説明したが、角速度センサを使ったあらゆる機器に本発明を適用することが可能である。
(発明の効果)
【0094】
以上説明したように、本発明によれば、角速度センサの温度ドリフトによる誤作動を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の一実施形態に係る表示装置の外観を示す斜視図である。
【図2】同実施形態に係る表示装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図3】同実施形態に係る表示装置に用いられる角速度センサの斜視図である。
【図4】同実施形態に係る表示装置に用いられる角速度センサの出力グラフである。
【図5】同実施形態に係る表示装置に用いられる加速度センサの斜視図である。
【図6】同実施形態に係る表示装置の一部を示す斜視図である。
【図7】温度ドリフト補償の動作を示すフローチャートである。
【図8】温度ドリフト補償の原理を示す図である。
【図9】表示装置の動作を示すフローチャートである。
【図10】表示装置に表示される初期画面の一例を示す図である。
【図11】表示装置に表示される金額提示画面の一例を示す図である。
【図12】表示装置に表示されたコンテンツ画像の一例を示す図である。
【図13】表示装置に表示されたコンテンツ画像の他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0096】
1…表示装置
2…筐体
6…表示部
10…リセットボタン
12…角速度センサ
13…加速度センサ
45…画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転方向の角速度に応じた第1の信号を出力する角速度センサと、
静止した状態の前記角速度センサが出力する第2の信号のデータを温度の関数として記憶する記憶手段と、
ある温度に応じて、前記第2の信号のデータを前記記憶手段から読み取り、そのデータを用いて前記第1の信号を補償するためのデータを算出する算出手段と
を具備することを特徴とする電子機器装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電子機器装置であって、
前記算出手段により算出されたデータに基づき、前記第1の信号を補償する手段
をさらに具備することを特徴とする電子機器装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電子機器装置であって、
前記補償された第1の信号に基づき、空間移動による変位を計算する手段
をさらに具備することを特徴とする電子機器装置
【請求項4】
請求項3に記載の電子機器装置であって、
前記計算された変位に基づき、画像をスクロールするための情報を、画像を表示する側に送る手段
をさらに具備することを特徴とする電子機器装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電子機器装置であって、
前記送られた情報に基づき、画像をスクロールさせて表示する手段
をさらに具備することを特徴とする電子機器装置。
【請求項6】
請求項3に記載の電子機器装置であって、
前記計算された変位に基づき、画像を操作するための情報を、画像を表示する側に送る手段
をさらに具備することを特徴とする電子機器装置。
【請求項7】
請求項6に記載の電子機器装置であって、
前記送られた情報に基づき、画像を操作して表示する手段
をさらに具備することを特徴とする電子機器装置。
【請求項8】
回転方向の角速度に応じた第1の信号を出力する角速度センサと、
静止した状態の前記角速度センサが出力する第2の信号のデータを温度の関数として記憶する記憶手段と、
ある温度に応じて、前記第2の信号のデータを前記記憶手段から読み取り、そのデータを用いて前記第1の信号を補償するためのデータを算出する算出手段と
を具備することを特徴とする信号補償装置。
【請求項9】
請求項8に記載の信号補償装置であって、
前記算出手段により算出されたデータに基づき、前記第1の信号を補償する手段
をさらに具備することを特徴とする信号補償装置。
【請求項10】
角速度センサから出力される第1の信号を読み取る工程と、
静止した状態の前記角速度センサが出力する第2の信号のデータを温度の関数として記憶手段に記憶させる工程と、
ある温度に応じて、前記第2の信号のデータを前記記憶手段から読み取り、そのデータを用いて前記第1の信号を補償するためのデータを算出する工程と
を具備することを特徴とする信号補償方法。
【請求項11】
請求項10に記載の信号補償方法であって、
前記補償データ算出工程により算出されたデータに基づき、前記第1の信号を補償する工程
をさらに具備することを特徴とする信号補償方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−204464(P2008−204464A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−43647(P2008−43647)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【分割の表示】特願2002−274156(P2002−274156)の分割
【原出願日】平成14年9月19日(2002.9.19)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】