説明

電子源装置におけるスキャン方法および電子源装置

【目的】本発明は、電子源から放出されて加速された電子ビームを180度以上回転させて物質に照射して加熱し、対向して配置した基板上に当該物質を蒸着させる電子源装置におけるスキャン方法および電子源装置に関し、電子源から放出された電子ビームを180度、あるいは更に回転させてルツボ内の試料に照射する際に、照射する面積が変わった場合に電子ビームによる照射密度を均一に自動調整することを目的とする。
【構成】 電子ビームを前記物質に照射するときに当該照射する電子ビームのX方向およびY方向に走査する面積に対応して当該X方向およびY方向の一方あるいは両方の走査周波数を調整し、当該面積内をほぼ均一に前記電子ビームで照射する電子源装置におけるスキャン方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子源から放出されて加速された電子ビームを180度以上回転させて物質に照射して加熱し、対向して配置した基板上に当該物質を蒸着させる電子源装置におけるスキャン方法および電子源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子源装置を構成する電子源から放出されて加速された電子ビームを180度、あるいは更に回転させてルツボ内の試料に照射して当該試料を加熱・溶解して蒸発させ、対向した配置した基板上に蒸着することが行われている。この際、電子源から加速された電子ビームを180度、あるいは更に回転させてルツボ内の試料を照射するときに、通常、X方向に50Hz、Y方向に500Hzでスキャンして均一に加熱して当該試料を溶解していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、試料のサイズを大きくして電子ビームでスキャンする面積を大きくした場合、単に電子ビームのスキャン長さと幅を大きくして当該大きくした面積で電子ビームをスキャンして試料を加熱・溶解すると、試料(材料)へのエネルギー密度にムラができ、結果として溶けあとが平坦にならなくなってしまうなどの問題が発生した。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、これらの問題を解決するため、電子源から放出された電子ビームを180度、あるいは更に回転させてルツボ内の試料に照射する際に、照射する面積が変わった場合に電子ビームによる照射密度を均一に自動調整するようにしている。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、電子源から放出された電子ビームを回転させてルツボ内の物質に照射して加熱・溶解する際に、電子ビームで照射する面積が変わった場合に電子ビームによる照射密度を均一に自動調整することにより、照射面積が変わっても均一に加熱し、溶けあとをほぼ同じに保持することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明は、電子源から放出された電子ビームを回転させてルツボ内の物質に照射して加熱・溶解する際に、電子ビームで照射する面積が変わった場合に電子ビームによる照射密度を均一に自動調整することを実現した。
【実施例1】
【0007】
図1は、本発明の1実施例構造図を示す。
図1の(a)は全体構造図および要部の正面図を模式的に示し、図1の(b)は要部の上面図を模式的に示す。
【0008】
図1において、フィラメント1は、電子ビームを放出するものであって、例えばタングステン線をヘアピン型に形成して通電加熱して電子を放出するものである。ここでは、図示しないが、フィラメント1から放出された電子は図示外の電圧を印加した中央に孔のある1つあるいは複数の電極により加速されて図示の矢印の軌跡を電子ビーム4として走行し、ルツボ5内の試料(被照射材料)6を照射して電子ビーム加熱するためのものである。
【0009】
スキャンコイル2は、電子ビーム4をルツボ5内をX方向およびY方向に走査して所定の走査範囲8を均一に電子ビーム加熱するためのものである。スキャンコイル2は、図1の(b)に示すように、X方向およびY方向のスキャンコイルがある。
【0010】
ポールピース3は、電子ビーム4を180°以上、図示の状態では270°偏向するように、直流の磁界を当該電子ビーム4の走行方向と直角方向から所定の強さで印加するためのものである。
【0011】
電子ビーム4は、フィラメント1から放出されて集束され、ルツボ5内の試料6を照射して加熱するものであり、図示の曲線で示す軌跡を走行するものである。
【0012】
ルツボ5は、試料6を入れて溶解するためのものである。
試料6は、ルツボ5内に入れ、電子ビーム4を照射しつつ走査して溶解し、対向して配置した図示外の基板などの上に蒸着するためのものである。
【0013】
CCDカメラ21は、ルツボ5内の試料6が電子ビーム4で走査されて加熱された状態の像を撮影するものである。
【0014】
変換器11は、スキャンコイル2などを駆動する駆動信号を検出し、当該検出した検出信号をパソコン13に入力したりなどするものである。
【0015】
スキャンパワー出力ユニット12は、指令電圧に対応したスキャンコイル2を駆動するスキャンパワーを出力するものである(ここでは、Xスキャンコイル電流(電圧)、Yスキャンコイル電流(電圧)を出力するものである)。指令電圧は、管理者が図示外の制御装置を操作してルツボ5内の試料6の走査範囲(面積)を指定したときに出力される指令電圧である(図3の(c)のリファレンス信号を参照)。
【0016】
パソコン13は、各種制御を行うためのパソコンであって、ここでは、スキャン範囲検出手段14、スキャン制御手段15、および加熱テーブル17などから構成されるものである。
【0017】
スキャン範囲検出手段14は、ルツボ5内の試料6を、電子ビーム4がスキャンする範囲を検出するものである(図2から図6を用いて後述する)。スキャンする範囲は、図示外の管理者から指示された指令電圧(バイアス電圧0から10Vの範囲内)をもとにスキャン範囲を算出したり、CCDカメラ21でルツボ5内の試料6の表面を走査している電子ビームの状態を撮影して自動的に電子ビームが照射している面積(X方向のサイズおよびY方向のサイズ)を検出したり、あるいは管理者がルツボ5内の試料6の表面を電子ビーム4が走査して明るく(あるいは溶解)している領域の面積(X方向のサイズおよびY方向のサイズ)を目視で算出して入力したりなどする。
【0018】
スキャン制御手段15は、スキャン範囲検出手段14によって検出されたスキャン範囲(X方向およびY方向のサイズ)をもとに適切なスキャン周波数(X,Y)およびその振幅で、スキャンコイル2に流す電流を制御指示するものである(図2から図6を用いて後述する)。
【0019】
ディスク装置16は、パソコン13に設けたハードディスク装置であって、ここでは、加熱テーブル17を設けたものである。
【0020】
加熱テーブル17は、電子ビーム4がルツボ5内の試料6を走査する面積(X方向およびY方向サイズ)に対応づけてスキャン周波数(XおよびY)を予め登録したものである(図3参照)。
【0021】
走査範囲8は、ルツボ5内の試料6上で、電子ビームが面走査(X方向およびY方向に走査)する範囲である。
【0022】
次に、図2のフローチャートの順番に従い、図1の構成の動作を詳細に説明する。
図2は、本発明の動作説明フローチャートを示す。
【0023】
図2において、S1は、スキャンボリュームを調整する。これは、管理者が操作制御装置上の、図1のスキャンコイル2に流す電流を調整し、電子ビーム4がルツボ5内の試料6上でスキャンするサイズ(X方向およびY方向のサイズ)を任意に調整する。また、パソコン11の画面上からスキャンするサイズ(指令電圧)を指定し、試料6上でスキャンするサイズ(X方向およびY方向のサイズ)を任意に調整する。
【0024】
S2は、調整値(スキャン幅)を読み取る。これは、右側に記載したように、
・CCD画像および目視
・スキャンコイル電流
・リファレンス信号
で調整値(スキャン幅)を読み取る。CCD画像および目視は、図1のCCDカメラ21で電子ビーム4がルツボ5内の試料6を面走査しているスキャン幅の画像を撮影して当該画像中から電子ビーム4で試料6をスキャンしているスキャン幅(X、Y)を自動読み取りしたり、管理者が画像上からあるいは試料6上を面走査している電子ビーム4の状態を観察してスキャン幅を読み取り、パソコン13に入力する。スキャンコイル電流は、図1のスキャンコイル2に流れる電流を検出し、予め登録したテーブルからその試料6上の電子ビーム4のスキャン範囲(X,Y)を読み取る。リファレンス信号は、図1のスキャンパワー出力ユニット12に入力する指令電圧(リファレンス信号)を検出し、予め登録したテーブルからその試料6上の電子ビーム4のスキャン範囲(X,Y)を読み取る。
【0025】
S3は、周波数を決める。これは、後述する図3から図6で説明するように、スキャン幅(面積)の増減があったときに、増減後の面積について均一に電子ビーム4で走査して加熱するように周波数を決める。例えばX方向およびY方向のサイズがそれぞれ2倍になったとき(面積は4倍に増加したとき)には、X方向およびY方向にそれぞれの走査周波数をそれぞれ2倍に決める(図4の(a)参照、尚、電流はサイズに対応した電流に決める)。
【0026】
S4は、スキャンコイルにそのスキャン周波数でスキャン電流を流す。これは、S3で決定された周波数のスキャン電流を図1のスキャンコイル2に流し、S2で読み取ったスキャン幅(面積)を、スキャン幅の調整前と同じように均一に電子ビーム4で面走査させる(図3から図6を用いて詳述する)。
【0027】
S5は、溶解する。
S6は、作業終了か判別する。YESの場合には、終了する。NOの場合には、S1に戻り繰り返す。
【0028】
以上によって、スキャンボリュームを調整して電子ビーム4でルツボ5内の試料6を走査するスキャン幅(X、Y)を調整する(S1)と、スキャン幅を検出し(S2)、均一となるスキャン周波数(X、Y)を決めて(S3)当該スキャン周波数で走査し(S4)、試料6の所定スキャン範囲(面積)を均一に電子ビーム4で走査して加熱する(S5)ことが可能となる。以下順次詳細に説明する。
【0029】
図3は、本発明の加熱テーブル例を示す。加熱テーブル17は、電子ビーム4でルツボ5内の試料6を走査する走査幅(X、Y方向)に対応づけて均一に加熱するための周波数(X,Y)を予め実験で算出して登録したものである。
【0030】
図3の(a)は、加熱テーブル(ビームスキャンサイズ)の例を示す。図示の加熱テーブル17は、電子ビーム4のスキャンサイズに対応づけて均一な加熱となる周波数を予め求めて登録した例を示し、図示の情報を対応づけて登録したものである。
【0031】
・走査幅:
・周波数:
・1例:
・その他:
ここで、走査幅は、X方向およびY方向に同じサイズ(正方形)の場合のサイズであって、スポット〜20mm、20mm〜30mm,30mm〜40mmの範囲毎について周波数を決めるためのものである。周波数は、走査幅が増減したときに、電子ビーム4で均一に照射して加熱するための周波数である。一例は、走査幅が増減したときに、電子ビーム4で均一に照射して加熱するための周波数の1例である(例えばfx1(X方向スキャンの周波数)=50Hz,fy1(Y方向スキャンの周波数)=400Hz)。
【0032】
以上のように、図1の試料6上の走査幅(スキャンサイズ)に対応づけて均一に加熱する最適な周波数(X、Y)を予め登録しておくことにより、試料6上の走査幅が指定されたとき(検出されたとき)に均一に試料6上を電子ビーム4で走査して加熱する周波数を容易に決定することが可能となる。
【0033】
図3の(b)は、加熱テーブル(スキャン電流)の例を示す。図示の加熱テーブル17は、図1のスキャンコイル2に流すスキャンコイル電流に対応づけて均一な加熱となる周波数を予め求めて登録した例を示し、図示の情報を対応づけて登録したものである。
【0034】
・スキャンコイル電流:
・周波数:
・1例(電流):
・1例(周波数):
・その他:
ここで、スキャンコイル電流は、X方向およびY方向に同じサイズ(正方形)の場合のスキャンコイル電流であって、スポット〜20mm、20mm〜30mm,30mm〜40mmの範囲毎に対応するスキャンコイル電流(fx1,fy1),(fx2,fy2),(fx3,fy3)について周波数を決めるためのものである。周波数は、スキャンコイル電流が増減したときに、電子ビーム4で均一に照射して加熱するための周波数である。一例は、スキャンコイル電流が増減したときに、電子ビーム4で均一に照射して加熱するための周波数の1例である(例えばfx1(X方向スキャンの周波数)=50Hz,fy1(Y方向スキャンの周波数)=400Hz)。
【0035】
以上のように、図1のスキャンコイル2に流すスキャンコイル電流に対応づけて均一に加熱する最適な周波数(X、Y)を予め登録しておくことにより、スキャンコイル2に流すスキャンコイル電流が指定されたとき(あるいは検出されたとき)に均一に試料6上を電子ビーム4で走査して加熱する周波数を容易に決定することが可能となる。
【0036】
図3の(c)は、加熱テーブル(バイアス電圧)の例を示す。図示の加熱テーブル17は、図1のバイアス電圧(指令電圧)に対応づけて均一な加熱となる周波数を予め求めて登録した例を示し、図示の情報を対応づけて登録したものである。
【0037】
・バイアス電圧:
・周波数:
・1例(周波数):
・その他:
ここで、バイアス電圧は、X方向およびY方向に同じサイズ(正方形)の場合のバイアス電圧であって、スポット〜20mm、20mm〜30mm,30mm〜40mmの範囲毎に対応するバイアス電圧について周波数を決めるためのものである。周波数は、バイアス電圧が増減したときに、電子ビーム4で均一に照射して加熱するための周波数である。一例は、バイアス電圧が増減したときに、電子ビーム4で均一に照射して加熱するための周波数の1例である(例えばfx1(X方向スキャンの周波数)=50Hz,fy1(Y方向スキャンの周波数)=400Hz)。
【0038】
以上のように、図1のスキャンコイル2に流すスキャンコイル電流に対応するバイアス電圧(指令電圧)に対応づけて均一に加熱する最適な周波数(X、Y)を予め登録しておくことにより、バイアス電圧が指定されたとき(あるいは検出されたとき)に均一に試料6上を電子ビーム4で走査して加熱する周波数を容易に決定することが可能となる。
【0039】
図3の(d)は、加熱テーブル(インターレース)の例を示す。図示の加熱テーブル17は、電子ビーム4のスキャンサイズに対応づけて均一な加熱となるインターレース周波数(一方を増減、他方を減増してインターレースで均一な加熱となる周波数、図4の(b)参照)を予め求めて登録した例を示し、図示の情報を対応づけて登録したものである。
【0040】
・走査幅:
・周波数:
・X:
・Y:
・その他:
ここで、走査幅は、X方向およびY方向に同じサイズ(正方形)の場合のサイズであって、スポット〜20mm、20mm〜30mm,30mm〜40mmの範囲毎について周波数を決めるためのものである。周波数は、走査幅が増減したときに、電子ビーム4で均一に照射して加熱するためのインターレースの周波数である。例えば
・図4の(b−1)のスポットから20mmの走査幅(fx1(X方向スキャンの周波数)=50Hz,fy1(Y方向スキャンの周波数)=400Hz)から、
・図4の(b−2)の走査幅を20mm〜30mmの走査幅に調整した場合には、
・図4の(b−2)に示すように、走査周波数が小さいXの周波数を1/2、周波数が大きいYの周波数を2倍にし、図示のようにインターレース走査とし、図4の(a−2)のX方向およびY方向の周波数をそれぞれ2倍にした場合(図3の(a)の場合)と同一にして均一に電子ビーム4で試料6を加熱することが可能となる。
【0041】
以上のように、図1の試料6上の走査幅(スキャンサイズ)に対応づけて均一に加熱する最適なインターレース周波数(X、Y)を予め図3の(d)に示すように登録しておくことにより、試料6上の走査幅が指定されたとき(検出されたとき)に均一に試料6上を電子ビーム4で走査して加熱するインターレース周波数を容易に決定することが可能となる。
【0042】
図4は、本発明の説明図(その1)を示す。
図4の(a)は、X、Yの周波数をそれぞれ増減する場合の例を示す。これは、既述した図3の(a)の加熱テーブル(ビームスキャンサイズ)17を用いてスキャンサイズを調整したときに均一に加熱する周波数を説明した例である。
【0043】
図4の(a−1)は調整前の周波数(X,Y)を示し、図4の(a−2)はX方向およびY方向にサイズをそれぞれ2倍にし、電子ビーム4で均一に加熱するために調整した周波数(X、Y)の例を示す。
【0044】
図4の(a−1)では、走査幅が、X=αmm(例えば図3の(a)の加熱テーブル17のスポット〜20mmの範囲内)、Y=βmm(例えば図3の(a)の加熱テーブル17のスポット〜20mmの範囲内)の場合には、
・X=50Hz
・Y=400Hz
が電子ビーム4で試料6を走査して均一に加熱する周波数である。このときに電子ビーム4で走査される軌跡を示すと図示のようになる。
【0045】
図4の(a−2)では、走査幅が、X=α×2mm(例えば図3の(a)の加熱テーブル17の30mm〜40mmの範囲内)、Y=β×2mm(例えば図3の(a)の加熱テーブル17の30mm〜40mmの範囲内)の場合には、
・X=50×2=100Hz
・Y=400×2=800Hz
が電子ビーム4で試料6を走査して均一に加熱する周波数である。このときに電子ビーム4で走査される軌跡を示すと図示のようになる。従って、図4の(a−1)の電子ビーム4で走査される軌跡と、図4の(a−2)の面積が4倍となった場合の軌跡とが同一となり、いずれも同じように均一に加熱される(ただし、電子ビーム4の電流を同じとすれば密度は1/4に低下する、電子ビーム4の電流を4倍にすれば同じ密度となる)ことが判明する。
【0046】
以上のように、電子ビーム4で試料6上を走査して加熱する面積を増減した場合に周波数を追従して増減すれば、同じように均一に加熱することが可能となる。
【0047】
尚、図4の(a)ではX、Y方向を同時にサイズを大きく(増減)したが、一方のみを大きく(あるいは増減)した場合にもその方向の周波数のみを増加(あるいは増減)すれば同様に、調整前と調整後では同じように均一に電子ビーム4で加熱することが可能となる。
【0048】
図4の(b)は、X、Yの周波数をそれぞれ増減する場合のインターレース周波数の例を示す。これは、既述した図3の(d)の加熱テーブル(インターレース)17を用いてスキャンサイズを調整したときに均一に加熱するインターレース周波数を説明した例を示す。
【0049】
図4の(b−1)では、走査幅が、X=αmm(例えば図3の(d)の加熱テーブル17のスポット〜20mmの範囲内)、Y=βmm(例えば図3の(d)の加熱テーブル17のスポット〜20mmの範囲内)の場合には、
・X=50Hz
・Y=400Hz
が電子ビーム4で試料6を走査して均一に加熱する周波数である。このときに電子ビーム4で走査される軌跡を示すと図示のようになる。
【0050】
図4の(b−2)では、走査幅が、X=α×2mm(例えば図3の(d)の加熱テーブル17の30mm〜40mmの範囲内)、Y=β×2mm(例えば図3の(d)の加熱テーブル17の30mm〜40mmの範囲内)の場合には、
・X=50×(1/2)=25Hz
・Y=400×2=800Hz
が電子ビーム4で試料6を走査して均一に加熱するインターレース周波数である。このときに電子ビーム4で走査される軌跡を示すと図示のようになる。従って、図4の(b−1)の電子ビーム4で走査される軌跡と、図4の(b−2)の面積が4倍となった場合の軌跡とが同一となり、いずれも同じように均一に加熱される(ただし、電子ビーム4の電流を同じとすれば密度は1/4に低下する、電子ビーム4の電流を4倍にすれば同じ密度となる)ことが判明する。
【0051】
以上のように、電子ビーム4で試料6上を走査して加熱する面積を増減した場合に周波数をインターレース周波数(上記例では、一方の周波数を2倍にすれば、他方の周波数を1/2倍にしたインターレース周波数)に追従して増減すれば、同じように均一に加熱することが可能となる。
【0052】
尚、図4の(a)ではX、Y方向を同時にサイズを大きく(増減)したが、一方のみを大きく(増減)した場合にも該当する方向の周波数のみを増減すれば同様に、調整前と調整後では同じように均一に電子ビーム4で加熱することが可能となる(図6参照)。
【0053】
図5は、本発明の周波数変換曲線例を示す。これは、既述した図3の(a)の加熱テーブル(ビームスキャンサイズ)17の代わりに、スキャン幅(mm)を変えた場合にそのときのX、Yの周波数(Hz)を予め実験で求めて設定した曲線例(図3の(a)の加熱テーブルとその値は異なる)である。
【0054】
以上のように、周波数変換曲線を予め実験で求めてその曲線式を求めておくことにより、管理者が試料6上の電子ビーム4のスキャン幅(X方向サイズおよびY方向サイズ)が指定した場合、当該曲線をもとにX方向、Y方向のスキャン周波数を求めて設定することが可能となる。尚、電流値は図示しないないが、同様に電流曲線を予め実験で求めてその曲線を記憶あるいはテーブルに設定して適切な電流値を取り出して設定する。これにより、適切な周波数(かつ電流値)でX方向およびY方向にスキャンし、結果として、ルツボ5内の試料6上の電子ビーム4のスキャンの面積が変わっても同じように均一に走査して加熱し、良好に試料6を溶解、蒸発させることが可能となる。
【0055】
図6は、本発明の説明図(その2)を示す。
図6の(a)は、試料6上の電子ビーム4で走査するサイズX=20%、Y=20%(最大の走査サイズ100%としたときのサイズ)のときの走査の様子を模式的に示したものである。
【0056】
図6の(b)は、Y方向サイズのみを2倍にしたときの走査の様子を模式的に示したものである。この場合には、図6の(a)のY方向の周波数は一定(但し、Y方向のスキャン電流は2倍)とし、X方向の周波数を2倍(但し、X方向のスキャン電流は同じ)にしたものである。
【0057】
図6の(c)は、Y方向サイズのみを3倍にしたときの走査の様子を模式的に示したものである。この場合には、図6の(a)のY方向の周波数は一定(但し、Y方向のスキャン電流は3倍)とし、X方向の周波数を3倍(但し、X方向のスキャン電流は同じ)にしたものである。
【0058】
以上のように、走査サイズの一方のみ増減した場合には該当する方の周波数(図6の例では、走査サイズを増減したと反対側、即ち、Y方向のスキャンサイズを増加させた場合にはX方向のスキャン周波数)を増減することにより、試料6上を電子ビーム4で均一に走査することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、電子源から放出された電子ビームを回転させてルツボ内の物質に照射して加熱・溶解する際に、電子ビームで照射する面積が変わった場合に電子ビームによる照射密度を均一に自動調整する電子源装置におけるスキャン方法および電子源装置に関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の全体構造図である。
【図2】本発明の動作説明フローチャートである。
【図3】本発明の加熱テーブル例である。
【図4】本発明の説明図(その1)である。
【図5】本発明の周波数変換曲線例である。
【図6】本発明の説明図(その2)である。
【符号の説明】
【0061】
1:フィラメント
2:スキャンコイル
3:ポールピース
4:電子ビーム
5:ルツボ
6:試料(材料)
8:走査範囲
11:変換器
12:スキャンパワー出力ユニット
13:パソコン
14:範囲検出手段
15:制御手段
16:ハードディスク装置
17:加熱テーブル



【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子源から放出されて加速された電子ビームを180度以上回転させて物質に照射して加熱し、対向して配置した基板上に当該物質を蒸着させる電子源装置におけるスキャン方法において、
前記電子ビームを前記物質に照射するときに当該照射する電子ビームのX方向およびY方向に走査する面積に対応して当該X方向およびY方向の一方あるいは両方の走査周波数を調整し、当該面積内をほぼ均一に前記電子ビームで照射することを特徴とする電子源装置におけるスキャン方法。
【請求項2】
走査する面積のX方向およびY方向のサイズの一方あるいは両方の増減に対応してX方向およびY方向のうちの増減した一方あるいは増減しない他方あるいは両方の周波数を増減し、均一に走査することを特徴とする請求項1記載の電子源装置におけるスキャン方法。
【請求項3】
走査する面積のX方向およびY方向のサイズの一方あるいは両方の増減に対応してX方向およびY方向のうちの増減した一方あるいは増減しない他方あるいは両方の周波数について、周波数の大きい方を増減し周波数の小さい方を減増してインターレース走査し、均一に走査すること特徴とする請求項1記載の電子源装置におけるスキャン方法。
【請求項4】
電子源から放出されて加速された電子ビームを180度以上回転させて物質に照射して加熱し、対向して配置した基板上に当該物質を蒸着させる電子源装置において、
前記電子ビームを前記物質に照射するときに当該照射する電子ビームのX方向およびY方向に走査する面積に対応して当該X方向およびY方向の一方あるいは両方の走査周波数を調整し、当該面積内をほぼ均一に前記電子ビームで照射する手段を備えたことを特徴とする電子源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−18922(P2007−18922A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−200458(P2005−200458)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(592115825)日新技研株式会社 (10)
【Fターム(参考)】