説明

電子的に起動制御可能な、戻し圧送原理にしたがって働く車両ブレーキシステムを制御または調整する方法ならびに電子的に起動制御可能な、戻し圧送原理にしたがって働く車両ブレーキシステム

本発明は、電子的に起動制御可能な、戻し圧送原理にしたがって働く車両ブレーキシステム10を制御および/または調整する方法ならびに電子的に調整可能な、戻し圧送原理にしたがって働く車両ブレーキシステム10に関する。公知の車両ブレーキシステム10における欠点は、ブレーキペダル16の、車両ブレーキシステム10内で行われるブレーキ圧調整によりドライバにより知覚可能な運動と、騒音発生とにある。両作用は、主ブレーキシリンダ14から流出または主ブレーキシリンダ14に流入する圧力媒体流動の変化に起因する。
本発明により、圧力発生器40のための駆動モータ52の、適合された起動制御により、圧力発生器40の圧送量を、主ブレーキシリンダに流入する圧力媒体流と、主ブレーキシリンダから流出する圧力媒体流との間の差が最小値、有利には値ゼロを取るように変化させることが提案される。有利にはそのために圧力発生器の駆動回転数が変更される。駆動モータのための起動制御信号は、車両ブレーキシステム10内のセンサ62,64,66の測定結果から、電子的な制御装置により求められるか、または制御装置内に格納された液圧的な体積モデルの助けを借りて推定されることができる。起動制御信号は制御または調整されることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景技術
本発明は、請求項1の上位概念を形成する特徴に基づく、電子的に起動制御可能な、戻し圧送原理にしたがって働く車両ブレーキシステムを制御または調整する方法もしくは請求項5の上位概念を形成する特徴に基づく、電子的に起動制御可能な、戻し圧送原理にしたがって働く車両ブレーキシステムに関する。
【0002】
電子的に起動制御可能な、戻し圧送原理にしたがって働く車両ブレーキシステムは、例えばドイツ連邦共和国特許出願公開第19940263号明細書から公知である。この公知の車両ブレーキシステムは、ドライバによりペダルを介して操作可能な、2つのブレーキチャンバを備えた主ブレーキシリンダを有している。ブレーキチャンバにはそれぞれ1つのブレーキ回路が接続されている。各ブレーキ回路には2つのホイールブレーキと、これらのホイールブレーキにおけるブレーキ圧を調節するための2つの装置とが配置されている。ブレーキ圧を調節するための装置はそれぞれ1つの増圧弁と1つの減圧弁とを有している。増圧弁は主ブレーキシリンダとホイールブレーキとの間の第1の圧力媒体接続内に接続されているのに対し、減圧弁は、圧力媒体をホイールブレーキから導出する第2の圧力媒体接続内に配置されている。さらに、外的に駆動される圧力発生器が存在している。圧力発生器の吸込側は減圧弁の下流で、圧力媒体を導出する第2の圧力媒体接続に連結されているのに対し、圧力発生器の吸込側は増圧弁の上流で第1の圧力媒体接続ならびに主ブレーキシリンダに接続されている。
【0003】
あるホイールブレーキ内のブレーキ圧の調整のために、電子的な制御装置が存在している。電子的な制御装置は増圧弁、減圧弁および圧力発生器を、車両のホイールブレーキにおける目下のスリップ状況もしくはスリップ率に応じて制御する。ホイールスリップが求められる、すなわちホイールがロックする傾向にあるとき、圧力発生器は圧力媒体を、減圧弁を介して、対応配置されたホイールブレーキから、ブレーキ圧が最終的に減成され、ロックの危険がもはや存在しなくなるまで排出する。増圧弁はその間閉弁されている。この作業原理を「戻し圧送原理(Rueckfoerderprinzip)」と呼ぶ。
【0004】
そのような戻し圧送を行う車両ブレーキシステムでは、アクティブな運転中、すなわち圧力発生器の起動制御時、この圧力発生器は、少なくとも断片的に一定の回転数で駆動される。少なくともブレーキ回路の車両ホイールのブレーキ圧が目標圧を上回っている場合のために、上述のとおり、該当するホイールブレーキから圧力媒体が、開弁された減圧弁を介して主ブレーキシリンダのブレーキチャンバに戻し圧送される。このことは、操作方向とは逆向きに戻り運動するブレーキペダルを生ぜしめるか、または主ブレーキシリンダの浮動ピストンを介して第2のブレーキチャンバ内への圧力媒体流を生ぜしめる。それに引き続いての改めての圧力増成期、すなわち1つの増圧弁の改めての開弁により、ブレーキ回路に再び圧力媒体が主ブレーキシリンダから供給される。それにより変化する、主ブレーキシリンダ内の圧力媒体の量の結果として、ドライバにより不快に知覚されるペダル運動が生じる。ブレーキペダルにおける機械的な反作用に対して付加的に、望ましくない騒音発生が生じる。このペダル運動が起こす相対的に低い周波数は、圧力発生器として一般に使用されるラジアルピストンポンプのクロック状の作業形式に基づく高周波のペダル運動とは区別されなければならない。
【0005】
発明の利点
これに対して、提案される、電子的に起動制御可能な、戻し圧送原理にしたがって働く車両ブレーキシステムを制御または調整する方法もしくは提案される、この方法にしたがって働く電子的に起動制御可能な車両ブレーキシステムは、上記低周波のペダル反作用が減じられるか、または完全に除去されることができるという利点を有している。それにより、ドライバが刺激されることは少なくなり、さらに運転騒音は減じられる。結果的に、ペダル快適性、つまるところ車両の走行快適性が合わせて高められる。本発明の別の利点または有利な構成は従属請求項および以下の説明から得られる。
【0006】
圧力発生器が駆動される回転数が変化されると、請求項2記載の方法は特に効果的に転化される。圧力発生器の駆動回転数の変化は請求項3により、主ブレーキシリンダの操作が行われるストロークおよび/または速度の測定により調整もしくは閉ループ制御されることができる。この操作は相応のストロークセンサにより検出され、電子的な制御装置に供給され、そこで圧力発生器の駆動のための起動制御信号へと処理されることができる。それに対して択一的には、圧力発生器の駆動のための起動制御信号は制御もしくは開ループ制御されることもできる。そのために制御装置内には、車両ブレーキシステムの液圧的な体積モデル(hydraulisches Volumenmodell)が格納されており、体積モデルから、必要な起動制御信号が推定により求められる。このモデルは、車両ブレーキシステムに存在していることができる圧力センサの測定値の取り込みにより改善されることができる。
【0007】
図面
本発明の一実施例を図面に示し、以下に詳細に説明する。図1は例示的に、電気液圧式の、戻し圧送原理にしたがって働く車両ブレーキシステムの自体公知の構造を示す。図2の流れ図は、この車両ブレーキシステムを概略的に単純化して示し、図3および図4には、圧力発生器の駆動制御もしくは駆動調整のための概略図が示されている。
【0008】
実施例の説明
例として図1に示した車両ブレーキ装置10は、外力運転される常用ブレーキと、筋力運転される補助ブレーキとを備えた電気液圧式のブレーキ装置であり、電子的な制御装置12により必要に応じて通常ブレーキ運転からアンチロック運転(Antiblockierschutzbetrieb)、トラクションコントロール運転(Antriebsschlupfregelbetrieb)またはスタビリティコントロール運転(Fahrstabilitaetsregelbetrieb)に切換可能である。この車両ブレーキ装置10の、図示し、以下に詳細に説明する構造は、公知の背景技術に属する。
【0009】
車両ブレーキ装置10は主ブレーキシリンダ14を有している。主ブレーキシリンダ14はドライバによりブレーキペダル16を介して筋力により操作可能である。主ブレーキシリンダ14には真空式増圧器18が前置されており、ドライバの操作力をより高い操作力に変換する。主ブレーキシリンダ14には貯蔵容器20が接続されており、そこから必要なときに圧力媒体が車両ブレーキ装置10に流入可能である。主ブレーキシリンダ14には、液圧的に互いに切り離された、ただし対称的に構成された2つのブレーキ回路22,24が接続されている。以下、ブレーキ回路22についてのみ詳細に説明する。このブレーキ回路22には2つのホイールブレーキ26.1,26.2が存在する。その際、ホイールブレーキ26.1,26.2は本実施例では車両のリヤホイールブレーキである。フロントホイールブレーキは第2のブレーキ回路24に接続されている(ブレーキ回路の「白黒分け(schwarz−weiss−Aufteilung)」)。ブレーキ回路22は、連通するそれぞれ1つのホイールブレーキ26を備えた第1および第2のブレーキ回路分岐22.1,22.2に分岐する。
【0010】
この分岐の手前でブレーキ回路22に「切換弁」28が接続されている。その際、切換弁28は、電子的に起動制御可能な2ポート2位置方向制御比例電磁弁であり、戻しばねによりその基本位置に保持される。この基本位置で切換弁28は通流位置を取る。切換弁28に対するバイパス内には逆止弁30が存在し、主ブレーキシリンダ14からホイールブレーキ26への方向での圧力媒体流動を許可し、かつ逆方向、つまりホイールブレーキ26から主ブレーキシリンダ14への逆流方向での圧力媒体流動を遮断する。切換弁28の下流には各ホイールブレーキ26に増圧弁32が液圧的に前置されている。この増圧弁32も、電磁的に操作可能な2ポート2位置方向制御比例電磁弁であり、戻しばねにより通流位置に保持されており、電気的な起動制御により無段階にその遮断位置の方向で操作可能である。この増圧弁32にも逆止弁34が並列に接続されている。その際、この逆止弁34は、ホイールブレーキ26から主ブレーキシリンダ14への圧力媒体流出を許可するが、主ブレーキシリンダからホイールブレーキ26の方向での圧力媒体流入を遮断するように働く。
【0011】
ホイールブレーキ26と、対応配置された増圧弁32との間で、流出管路36が分岐している。流出管路36内には減圧弁38が存在する。この減圧弁38はホイールブレーキ26から圧力発生器40の吸込側への圧力媒体接続を制御する。減圧弁38は、電子的に切換可能な2ポート2位置方向制御弁であり、ばねにより規定された基本位置で遮断する。流出管路36内にはそれに加えて「低圧蓄え器」42が存在する。この低圧蓄え器42は、ばね負荷されたピストン44から成っており、ピストン44はシリンダ内で可動に案内されており、作業室46をばね室48から隔てている。作業室46内には、ホイールブレーキ26から流出する圧力媒体が一時的に蓄えられることができる。やはり流出管路36内に配置されている逆止弁50は、減圧弁38の開弁時に、圧力発生器40から一方のホイールブレーキ26への圧力媒体の逆流を阻止する。
【0012】
圧力発生器40として、ブレーキ回路毎に例えば3つの、並列に接続されたポンプユニット40.1〜40.3が使用される。これらのポンプユニット40.1〜40.3は1つの共通の駆動モータ52により駆動されている。本発明により、この駆動モータ52は電子的に調整可能であるべきである。その結果、ポンプが駆動される回転数は可変である。ポンプユニット40.1〜40.3は圧力媒体を脈動減衰器54および後置の絞り56を介してブレーキ回路22に、より詳細に言えば液圧的に切換弁28の下流に存在する管路領域に戻し圧送する。
【0013】
既述の点に対して補足的に、車両ブレーキ装置10の第2の吸込管路58が存在している。この吸込管路58は切換弁28の直前でブレーキ回路22から分岐し、やはり圧力発生器40の吸込側に通じている。吸込管路58は高圧切換弁60により制御される。高圧切換弁60はその閉鎖位置から電子的な起動制御により戻しばねの力に抗してその通流位置に切換可能である。高圧切換弁60が開弁された状態で、ポンプユニット40.1〜40.3は圧力媒体を主ブレーキシリンダ14から、例えばホイールブレーキ26の減圧弁38が閉弁されており、低圧蓄え器42が空にされており、かつブレーキ状況に基づいてそれにもかかわらず圧力増成がブレーキ回路22の少なくとも一方のホイールブレーキ26において必要であるときに吸い込むことができる。
【0014】
車両ブレーキ装置10のホイールブレーキ26におけるブレーキ力の調整のために、センサ62が存在している。センサ62の測定信号は電子的な制御装置12に入力量として供給される。この電子的な制御装置12はこの入力量(図1で見て制御装置12に向かって延びる矢印により暗示した。)を起動制御信号(制御装置12から出る矢印)へと評価する。起動制御信号により、前記電磁弁28,32,38,60ならびに圧力発生器40の駆動モータ52が起動制御される。第1の圧力センサ62.1はその際、ドライバによって主ブレーキシリンダ14の操作により生ぜしめられる、ブレーキ回路22内の圧力を測定する。第2の圧力センサ62.2は切換弁28の直後の圧力レベルを検出し、第3および第4の圧力センサ62.3,62.4は、ブレーキ回路22の両ホイールブレーキ26.1,26.2内のブレーキ圧を測定する。各車両ホイールにはそれに加えてホイールセンサ64.1〜64.4が対応配置されており、目下のホイール回転数、ひいてはその変化を時間軸にわたって検出する。それに加えてストップランプスイッチ66が存在しており、車両ブレーキ装置10のブレーキペダル16に接続されており、ドライバによるブレーキペダル16の操作を検出する。
【0015】
上記車両ブレーキ装置10の作用形式は以下の通りである。
【0016】
1.通常ブレーキ運転:
支障のない通常ブレーキ運転時、すべての電磁弁28,32,38,60は電気的に起動制御されている。それにより、切換弁28は主ブレーキシリンダ14をホイールブレーキ26に向かって遮断する。増圧弁32は閉弁されており、同時に減圧弁38は開弁されている。ホイールブレーキ26にはそれによりブレーキ圧がかかっていない。ブレーキペダル16の操作により、ストップランプスイッチ66は開放され、ドライバのブレーキ要求は制御装置12により認識される。主ブレーキシリンダ側の圧力センサ62.1により検出されるこのブレーキ要求の高さに応じて、電子的な制御装置12は増圧弁32をその開弁位置に制御し、減圧弁38を閉弁位置に切り換える。同時に、圧力発生器40の駆動モータ52は通電され、場合により高圧切換弁60は、低圧蓄え器42が十分に圧力媒体で満たされていなければ開弁される。高圧切換弁60の開弁時、圧力発生器40は圧力媒体を主ブレーキシリンダ14からホイールブレーキ26へと圧送し、そこに圧力増成を生ぜしめる。ブレーキペダル16の解放、つまりブレーキ要求の取消により、増圧弁32の起動制御は取り消され、減圧弁38が通電される。それにより、圧力媒体はホイールブレーキ26から低圧蓄え器42に流出するもしくは低圧蓄え器42の充満時には圧力発生器40に流出することができる。そのポンプユニット40.1〜40.3は余分な圧力媒体をブレーキ分岐22に戻し圧送し、そこから必要に応じて切換弁28の起動制御により主ブレーキシリンダ14に戻し圧送するか、または再び開弁された増圧弁32によりホイールブレーキ26に戻し圧送する。
【0017】
支障のある運転時、すなわち例えば供給電圧の失陥時、すべての電磁弁28,32,38,60は必然的に、図1に示した基本位置に存在する。その際に生じる、主ブレーキシリンダ14からホイールブレーキ26への液圧的な貫流に基づいて、それにより、ドライバによって筋力によりマニュアル制御されるブレーキ動作が遂行可能である。
【0018】
2.アンチロック運転:
車両ホイールのホイールセンサ26.1〜26.4により、車両のホイールの1つがブレーキ動作中ロックする傾向にあることが確認されると、制御装置12内で、該当するホイールブレーキ26におけるブレーキ圧低下がブレーキ要求とは無関係に導入される。増圧弁32の閉弁および減圧弁38の開弁により、上述のとおり、その際駆動される圧力発生器40が圧力媒体をホイールブレーキ26から排出し、それによりホイールブレーキ圧を低下させることができる。各ホイールブレーキ26内の圧力は、車両ホイールにおけるその都度のスリップ状況に依存して、個別的に制御または調整もしくは開ループ制御または閉ループ制御されることができる。ホイールロックの危険が去ると、該当する減圧弁38は再び閉弁され、増圧弁32は開弁され、かつ場合により圧力発生器40の起動制御は中断される。ブレーキ要求が改めて生じる(ブレーキペダル16が操作され、ストップランプスイッチ66が操作される)と、改めてのポンプ起動制御により、ホイールブレーキ26内の圧力増成が生ぜしめられる。ドライバによりブレーキ動作中に操作される主ブレーキシリンダ14はその際、ブレーキ要求を検出するための装置として役立つにすぎない。ホイールブレーキ26内で必要とされる圧力は、圧力発生器40の、電動モータにより駆動されるポンプエレメント40.1〜40.3により、つまり外力により生ぜしめられる。
【0019】
3.トラクションコントロール運転:
車両ブレーキ装置10のこの運転状態では、ドライバによる主ブレーキシリンダ14の操作は実施されない。駆動される車両ホイールにおいて、ホイールセンサ26.1〜26.4により、ホイールスリップの増加、すなわちホイールの空転が、例えば車両速度とホイール回転数との比較により確認される。ホイールの空転時、制御装置12は該当するホイールを自動的に、圧力発生器40の起動制御により圧力媒体を、基本位置で開弁した増圧弁32を通してホイールブレーキ26に圧送することにより制動する。ポンプエレメント40.1〜40.3はそのために圧力媒体を低圧蓄え器42から吸い出すか、または高圧切換弁60の開弁時貯蔵容器20から吸い込む。減圧弁38はその間やはりその基本/遮断位置に存在する。その結果、ブレーキ圧増成が行われる。ホイール回転数が再び車両速度と相関されると、圧力保持が増圧弁32の起動制御により実施されることができる。それにより、ブレーキ圧下にある圧力媒体は、閉弁された増圧弁32と、閉弁された減圧弁38と、対応配置されたホイールブレーキ26との間で閉じ込められる。その都度のホイールブレーキ26内での、場合により必要となるさらなる減圧は、上記のとおり、減圧弁38の起動制御により実施される。減圧弁38はその際その通流位置を占め、その結果、依然として駆動される圧力発生器40は圧力媒体をホイールブレーキ26から排出することができる。
【0020】
前記説明から判るように、車両ブレーキ装置10の、種々異なる運転状態で、圧力媒体移動がブレーキシステム内で行われる。特に、主ブレーキシリンダ14に関する圧力媒体流は、存在する液圧的な作用結合に基づいて、ブレーキペダル16における反作用もしくはリアクションを惹起する。この反作用は、ブレーキペダル16を自らの足で操作するドライバにとって、障害として知覚され得る。主ブレーキシリンダ14への圧力媒体流は操作方向とは逆向きのブレーキペダル16の運動を生ぜしめるのに対し、主ブレーキシリンダ14からの圧力媒体流は操作方向でのブレーキペダル16の運動を惹起する。ペダル脈動には運転騒音が結び付く可能性がある。車両ブレーキ装置の調整動作の事例で発生するペダル運動は、0.5Hz〜6.0Hzの範囲の比較的低い周波数を有している。この低い周波数は、調整に起因するペダル脈動を、ポンピングに起因するペダル脈動から区別する。後者はポンプエレメント40.1〜40.3のクロック状の作業原理に基づいて発生し、相応に高い周波数を有している。ポンプエレメント40.1〜40.3として一般にピストンポンプが使用される。
【0021】
本発明は、低周波の、調整に起因するペダル脈動を、主ブレーキシリンダ14への圧力媒体流および主ブレーキシリンダ14からの圧力媒体流が互い理想的に補償し合うことにより減衰することを課題としている。換言すれば、この圧力媒体流の差は、できるだけ僅かな値、有利にはゼロの値を取るべきである。このことは有利には圧力発生器40の駆動回転数の変化により達成される。
【0022】
ブレーキ回路22から主ブレーキシリンダ14への体積流量は、上述のとおり、ブレーキ回路22の切換弁28、増圧弁32および減圧弁38の操作状態ならびに圧力発生器40の回転数に依存している。ペダル運動を回避するために、主ブレーキシリンダ14における合計の全体積流量は最小化されなければならない。出力量はその際ホイールブレーキ26内への体積流量ならびにポンプエレメント40.1〜40.3の圧送出力であり、直接的に、流量を測定するセンサを介して、または間接的に、いずれにしても存在する圧力センサ62を介して測定されるか、または車両ブレーキシステムの、電子的な制御装置12内に格納された液圧的な体積モデルの助けを借りて推定される。推定する場合、個々の電磁弁28,32,38,40における体積流量は目標圧要求から得られ、それにより時間的な遅れなしに提示される。推定も、間接的な測定も、主ブレーキシリンダ14、ホイールブレーキ26、ブレーキ回路22,24または低圧蓄え器42に設けられる圧力センサ62から成る場合により存在するセンサ装置の測定値に依拠することができる。制御装置12は測定結果を、圧力発生器40の、回転数可変に設計された駆動モータ52のための、変更可能な起動制御信号へと評価する。圧力発生器40の駆動モータ52の起動制御は電子的な制御回路または調整回路もしくは開ループまたは閉ループ内で変換可能である。
【0023】
図2は、図1に示した戻し圧送液圧回路を備えた既述の車両ブレーキ装置を、再度概略的に著しく単純化して示す。2系統に構成された主ブレーキシリンダ14が、対称的に形成された2つのブレーキ回路22,24に接続されていることが見て取れる。主ブレーキシリンダ14はブレーキペダル16を介して操作可能である。液圧的に主ブレーキシリンダ14には、ブレーキ圧を調節するためのユニットもしくはモジュレータ70が後置されている。このユニット70はとりわけホイールブレーキ26に作用する。制御可能または調整可能な駆動モータ52を備えた圧力発生器40は液圧的に直接ホイールブレーキ26と、ブレーキ圧を調節するためのユニット70と、ブレーキ圧を調節するためのユニット70からホイールブレーキ26に至る圧力媒体接続72とに接続されている。ホイールセンサ64と、主ブレーキシリンダ14内に設けられたセンサ66とは、その測定量を電子的な制御装置12に供給する。電子的な制御装置12はこの測定量から、ホイールブレーキ26におけるブレーキ圧を調節するためのユニット70のための起動制御信号と、圧力発生器40のための駆動モータ52への起動制御信号とを算出する。図2で、信号線路74.1〜74.4は車両ブレーキシステムの液圧管路72から、より細い線により区別可能である。破線で示した別の信号線路74.5は、ブレーキペダル16に接続されやはり破線で示すペダルセンサ76から電子的な制御装置12に通じている。このことは、調整回路もしくは閉ループを成すための、ペダルセンサ76の択一的な使用可能性を示す。
【0024】
図3は再度概略的な図示を参照しながら本発明の基本思想、すなわち圧力発生器40の体積流量80およびホイールブレーキ26の体積流量82をセンサにより検出し、測定結果を電子的な制御装置12に供給し、測定結果から、圧力発生器40の、調整可能な駆動モータ52のための変更可能な起動制御信号を求める本発明の基本思想を示す。
【0025】
図4は再度、既に図1との関連で述べた、圧力発生器40の駆動モータ52の起動制御のための調整回路もしくは閉ループを示す。そのためにブレーキペダル16にはペダルストロークセンサまたはペダル速度センサ76が設けられている。その測定量は電子的な制御装置12内で処理される。ペダル速度のための目標値はゼロであり、操作量は圧力発生器40の回転数である。操作量は調整可能な駆動モータ52を介して調節される。
【0026】
当然、上記実施例に対する変更または補足も、本発明の基本思想から逸脱せずに可能である。この関連で言及すべきことは、本発明が、実施例に図示して説明した、外力運転される常用ブレーキと、筋力運転される補助ブレーキとを備えた電気液圧式の車両ブレーキ装置に限定されるものではなく、戻し圧送原理にしたがって働き、必要なブレーキ圧を専らドライバの筋力により生ぜしめる従来慣用のアンチロック、スタビリティコントロールおよびトラクションコントロール式のブレーキ装置でも使用可能であることである。当然、本発明は、2系統に構成された車両ブレーキシステムに限定されるものでもなく、1系統の装置に相応に転化されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】電気液圧式の、戻し圧送原理にしたがって働く車両ブレーキシステムの自体公知の構造を例示的に示す図である。
【図2】車両ブレーキシステムを概略的に単純化して示す流れ図である。
【図3】圧力発生器の駆動制御もしくは駆動調整のための概略図である。
【図4】圧力発生器の駆動調整のための概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筋力により操作可能な、ブレーキ回路(22,24)の少なくとも1つのホイールブレーキ(26.1〜26.4)にブレーキ圧を供給するための主ブレーキシリンダ(14)と、電子的な制御装置(12)により起動制御可能な減圧弁(32)を主ブレーキシリンダ(14)からホイールブレーキ(26)に至る第1の圧力媒体接続内に有し、かつ電子的な制御装置(12)により起動制御可能な減圧弁(38)をホイールブレーキ(26)から出る第2の圧力媒体接続内に有している、ホイールブレーキ(26)におけるブレーキ圧を調節するための装置(70)と、制御装置(12)により起動制御可能な駆動モータ(52)により駆動可能であり、その吸込側が減圧弁(32)の下流で第2の圧力媒体接続ならびに主ブレーキシリンダ(14)に接続され、かつその吐出側が減圧弁(32)の上流で第1の圧力媒体接続に接続されている圧力発生器(40)と、車両ブレーキシステムの状態量を検出するためのセンサ(62,64,66)とを備えた、電子的に起動制御可能な、戻し圧送原理にしたがって働く車両ブレーキシステム(10)を制御または調整する方法において、圧力発生器(40)の圧送量を制御装置(12)により、求められた状態量に依存して、主ブレーキシリンダ(14)から流出する圧力媒体流と、主ブレーキシリンダ(14)に流入する圧力媒体流との間の差が最小値、有利には値ゼロになるように変化させることを特徴とする、電子的に起動制御可能な、戻し圧送原理にしたがって働く車両ブレーキシステムを制御または調整する方法。
【請求項2】
制御装置(12)により、駆動モータ(52)のための変更可能な起動制御信号を求め、この起動制御信号により、圧力発生器(40)の駆動回転数を変化させる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
圧力発生器(40)の駆動回転数の調整のために、主ブレーキシリンダ(14)の操作が行われる速度および/またはストロークをセンサ装置(76)により検出し、電子的な制御装置(12)により評価する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
圧力発生器(40)の駆動回転数の制御のために、電子的な制御装置(12)内に、車両ブレーキシステム(10)の液圧的な体積モデルを電子的に格納しておき、この体積モデルから、ブレーキ要求の高さに依存して、起動制御信号を推定により求める、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
電子的に起動制御可能な、戻し圧送原理にしたがって働く車両ブレーキシステムであって、筋力により操作可能な、ブレーキ回路(22,24)の少なくとも1つのホイールブレーキ(26.1〜26.4)にブレーキ圧を供給するための主ブレーキシリンダ(14)と、電子的な制御装置(12)により起動制御可能な増圧弁(32)を主ブレーキシリンダ(14)からホイールブレーキ(26)に至る第1の圧力媒体接続内に有し、かつ電子的な制御装置(12)により起動制御可能な減圧弁(38)をホイールブレーキ(26)から出る第2の圧力媒体接続内に有している、ホイールブレーキ(26)におけるブレーキ圧を調節するための装置(70)と、電子的な制御装置(12)により起動制御可能な駆動モータ(52)により駆動可能であり、その吸込側が減圧弁(38)の下流で第2の圧力媒体接続ならびに主ブレーキシリンダ(14)に接続され、かつその吐出側が増圧弁(32)の上流で第1の圧力媒体接続に接続されている圧力発生器(40)と、車両ブレーキシステムの状態量を検出するためのセンサ(62,64,66)とが設けられている形式のものにおいて、制御装置(12)が、センサ(62,64,66)の測定結果の評価の下で請求項1から4までのいずれか1項記載の方法を使用するコンピュータプログラムにしたがって働くことを特徴とする、電子的に起動制御可能な、戻し圧送原理にしたがって働く車両ブレーキシステム。
【請求項6】
車両ブレーキシステム(10)が、外力運転される常用ブレーキと、筋力運転される補助ブレーキと、電気的に起動制御可能な弁装置(28)とを有しており、弁装置(28)が車両ブレーキ装置(10)を補助ブレーキ運転から常用ブレーキ運転に切り換える、請求項4記載の電気液圧式の車両ブレーキシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−513276(P2008−513276A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−531740(P2007−531740)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【国際出願番号】PCT/EP2005/054425
【国際公開番号】WO2006/029979
【国際公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】