説明

電子的機能および流体機能をもつバイオ医療装置のための相互接続およびパッケージング方法

ラボ・オン・チップ(LOC)およびマイクロ・トータル・アナリシス・システムズ(Micro Total Analyses Systems)の製造のための相互接続およびパッケージング方法が提供される。バイオセンサー、ヒーター、クーラー、バルブおよびポンプといった種々の機能が、電子的/機械的/流体的モジュール内に、超音波接合処理を使ったフリップチップ技術によって組み合わされる。チップ上での所定のポリマー環がシールのはたらきをする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療診断の分野における電子システムに、特に複合的な電子的、機械的および流体的モジュールにおいてさまざまな機能を接続するための統合された(integrated)相互接続およびパッケージング・システムに関する。
【背景技術】
【0002】
医療診断の分野における新たな進展は、ラボ・オン・チップ(LOC: Lab-on-chip)およびμトータル・アナリシス・システムズ(μTAS: μ Total Analyses Systems)である。これらの電子システムは、DNAおよびタンパク質といった特定の生体分子の検出および解析のために使われる。これらの型のマイクロシステムは、微小ポンプ、バルブ、混合器、フィルタ、ヒーター、クーラー、バイオセンサーなどといった流体的、電気的および機械的機能を含み、環境からデリケートなコンポーネントを保護するために信頼でき、かつコスト効率のよい方法で接続され、パッケージングされる必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
統合およびパッケージングは困難な課題となることがある。たとえば、統合された微小流体センサーは、さまざまな機能を単一テンプレート上に、他の諸機能を別々の機能基板、すなわちシリコン上に組み合わせる必要があり、それらは微小流体チャネル・システムと一緒に組み立てられる必要がある。チャネル幾何が小さいので、諸基板とチャネル・プレートとの間のインターフェースの統合は困難になる。フットプリントを最小化することによってパッケージング・コストを低く維持しつつ、密で、精確で、再現可能である必要があるからである。さらに、電気的なインターフェースを必要とする電子コンポーネントでは、濡れたインターフェースの分離は決定的に重要である。さらに、接合技法は、機能基板上に存在する生化学試薬および表面トリートメントと適合性がなければならない。機能基板のフットプリントが微小流体チャネル・システムのフットプリントよりずっと小さく、機能層の適用技法および材料が微小流体チャネル・プレートの組立要件と適合性がないので、生物学的機能性および電気的インターフェースを含む閉じたチャネル・システムを組み立てるのは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記した従来技術の欠点は、統合されるさまざまな集積回路(integrated circuit)を複合的な電子的/機械的/流体的モジュール(combined electronic/mechanical/fluidic module)に収容するよう機能できる、本発明のパッケージング・システムによって対処される。
【0005】
本発明は、複合的な電子的/機械的/流体的モジュール内にさまざまな機能を接続するための一般的な相互接続およびパッケージング・ソリューションを提供する。本発明の一つの側面は、センサーおよびアクチュエータのような機能要素が、最終ステップで、事前製作された流体的および電気的相互接続システムに取り付けられるということである。
【0006】
本発明のもう一つの側面によれば、前記モジュールは、流体的部分と電気的相互接続回路を含むプレートとを含む。相互接続回路をもつ該プレートは、精密に位置合わせされ、次いで前記流体的部分に接合または貼合される。このようにして、電気的および流体的下部構造をもつベース・モジュールが得られる。バイオセンサー、ヒーター、バルブ、ポンプなどといった要求される機能は、超音波接合またはレーザー溶接を使ったフリップチップ技術によって前記モジュールに取り付けられる。チップ上にあらかじめ定義されたポリマー環がシールのはたらきをする。チップの接合の際、チップ上のシール環が基板と緊密な接触に至り、それにより流体チャネルを外部条件から封印する。
【0007】
さらにもう一つの側面は、本発明は単純で、信頼でき、安価な実装において実現されうるというものである。
【0008】
さらにもう一つの側面は、本発明は、μTASおよびLOC、分子診断、食料および環境センサーといったバイオ医療用途で適用可能でありうるということである。生体分子の解析に加えて、本発明はまた、化学的または生物学的化合物の合成においても適用されうる。
【0009】
ここに開示される本発明の詳細について、図面を援用して述べる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
ここで個別的な詳細について図面を参照する。図面では、いくつかの図を通じて同様の参照符号は同様または同一の要素を指す。まず図1を参照すると、本発明に基づく電子装置100の例示的なアーキテクチャの概観が示されている。
【0011】
図1を参照すると、本発明の装置10の代表的なコンポーネントが、流体的部分12と、電気的な相互接続回路16を含むプレート14とを含んでいる。プレート14および相互接続回路16は、精密に位置合わせされ、次いで流体的部分12に接合または貼合される。さまざまな機能、たとえばバイオセンサー18が、低温超音波接合またはレーザー溶接技法を使ったフリップチップ技術を使って、前記モジュールに結合されうる。密な接触をさせるため、環境からのシールのはたらきをするあらかじめ定義されたポリマー環20が、プレートおよび相互接続回路16を含む層と機能18との間に設けられる。
【0012】
図2は、本発明に基づく、単一のモジュールに集積されるさまざまな電子回路の概略図を示している。電気的相互接続回路16に集積されうる種々の回路は、バイオセンサー・チップ22、ヒーター・チップ24、デュアル・バルブ・チップ28、混合室28、試料取入口30、試薬取入口32および廃物出口34を含みうる。解説のために図2に示した異なる回路の数は少ないが、実際上は、本発明はずっと多くの他の回路類を含んでいてもよいことは理解しておくべきである。
【0013】
図3Aおよび図3Bを参照すると、単一モジュール上にさまざまな電子素子を集積する製造ステップの詳細な記述がさらに説明されている。製造ステップはバイオセンサー・チップ18との関連で説明するが、単一モジュール上の他の電子素子の構築も図3Aおよび図3Bに関して述べるのと本質的に同じである。よって、これまでの段落で述べた他のコンポーネントの議論は、冗長を避けるため省略する。
【0014】
図3Aを参照すると、流体的部分12は、シリコン・ウェーハまたはガラス・プレートに、フォトリソグラフィーおよび/またはウェットエッチングもしくはドライエッチングによってチャネルおよび空洞12aを獲得させたものであってもよい。流体的部分12はまた、注入成形(PMMA、COP)または鋳造(PDMS)によって作られたポリマー部品であってもよい。成形または鋳造の場合、要求される精確な挿入物(マスター)は、リソグラフィーおよびめっき(LIGA)、微小機械加工および/またはエッチングを介して得られる。
【0015】
相互接続回路16を含むシートは、ガラス、フレクスフォイル(flexfoil)またはPCB材料であってよく、スパッタリング、リソグラフィーおよびめっきプロセスによって提供されうる。該シートは好ましくはCr/Cu/Ni/Au層の組み合わせである。シート中に貫通孔が、リソグラフィーおよびエッチング、レーザー焼灼、機械的パンチ(フレクスフォイル[Flexfoil]、PCB)またはエッチング(ガラス)によって得られる。相互接続回路16を含むシートは、流体的部分12に対して精密に位置合わせされ、次いで接着剤を使って、温度を上げた状態で接合される(ガラスとガラス、ポリマーとポリマー)か糊付けされる(ポリマーとガラス)。ここで、薄い接着層が、好ましくはローラー被覆またはタンポン印刷によって流体的部分12に塗布される。これにより、へこんだ領域(チャネルおよび空洞12a)は接着剤がつかないままとなる。あるいはまた、光定義可能な(photo-definable)接着層または感圧性の接着剤(PSA: pressure-sensitive adhesive)を使ってもよい。
【0016】
図4を参照すると、本発明に基づく、単一モジュール上にさまざまな回路を集積するプロセスが示されている。まず、ステップ100で、ウェーハが用意される。バイオセンサー、バルブおよびヒーター素子のような種々の集積回路が、ICおよびMEMSプロセス技法を使ってシリコンまたはガラスのウェーハ上に製造される。ウェーハ上でアレイ状に作り付けられた集積回路、すなわち電子コンポーネントは当業者には周知であることを注意しておく。ステップ102で、ウェーハ・レベル上で、Auバンプよりやや厚いポリマー・シール環が設けられる。ダウ・コーニング(Dow Corning)の光定義可能なシリコーンWL5150またはMRTのSU-8ポリマーのような商業的に入手可能なシール環を使ってもよい。ウェーハの裏側表面が、ニットー(Nitto)・ブルー・テープのようなテープに取り付けられる。次に、ステップ104で、各ウェーハがダイシングによって個々のチップに分離される。次いで、ウェーハは、切断からの何らかの残留物または異物があればそれを除去するために脱イオン水で徹底的に洗浄され、次いで乾燥される。ここで、処理のこの段階において、ステップ106で、先進的なインクジェット印刷技術などによって、バイオセンサー・チップに、必要な固定された生体分子プローブを設ける(スポッティング)ことができる。チップがウェーハ・フォーマット中でまだ密接にまとまっているという事実がスポッティング動作を容易にする。プローブ分子のスポッティング後、またはそのようなスポッティングの不在後、個々のチップは、専用ツールを使ってブルー・テープから除去される。その後、チップは、ステップ108で、超音波接合によってベース・モジュールに直接取り付けられる。ステップ70で流体チャネルを有するベース・プレートが用意されてベース・モジュールを形成し、ステップ80で相互接続回路および孔を有するカバー・プレートが用意され、次いでステップ90でベース・プレートとカバー・プレートが結合される。ステップ108の超音波接合は室温で実行されるので、生体分子の破壊は防止される。チップ上の軟らかい環は、バイオセンサー表面を外界から封印する。超音波接合の代わりに、レーザーはんだづけを使ってもよい。チップを取り付けるために熱硬化性またはUV硬化性接着剤を使うことも可能である。この場合、シール環は、設置前に、のりの薄層(1〜5ミクロン)に浸される。チップ接合の後、ステップ110で、ポリマー・アンダーフィルを適用して、接着強度および密封度を高めることができる。
【0017】
代替的な実施形態では、シリコン基板からシーリング環は省略され、代わりに、成形されたチャネル・プレート中で印刷技法または集積技法が使用される。この代替的な手段は、材料選択におけるさらなる自由を提供し、ウェーハ上でリソグラフィーを実行するより経済的である。
【0018】
さらに、シール環の高さは、センサーの位置におけるチャネル高さを決定する。よって、この高さは変更が簡単で、かつ接合プロセス後のバンプ高さとは独立でなければならない。これを達成するために、チャネル12a間のフレックス(flex)が除去されることができ、図5に示すように、流体的プレートの高さおよび幾何を調整することも可能である。
【0019】
図6を参照して、本発明の別の実施形態に基づく、単一モジュール上への集積回路の提供を説明する。この実施形態の構築および動作は、図1に関して上記した実施形態と本質的に同じであるが、シール環が、PMDSなどの柔軟な追加的な中間層40内に統合されうる。この層は、チャネルまたは空洞42の大きさを決定するはたらきをする。この層は、図6に示すように、該チャネルを含む剛性のプラスチック・プレート42(たとえばPMMA)に取り付けられることができる。これまでの段落で述べた同様のコンポーネントの議論は、図1および図3に関して述べてあるので、冗長を避けるために省略する。
【0020】
本発明の根本的な新しい特徴について、その好ましい諸実施形態に適用されるところを図示し、記載し、注記してきたが、本発明の精神から外れることなく、当業者には、例示した装置の形および詳細において、ならびにその動作において、さまざまな省略および置換および変更がなしうることが理解されるであろう。たとえば、同じ結果を達成するために実質的に同じ機能を実質的に同じ仕方で実行するような要素および/または方法のあらゆる組み合わせが本発明の範囲内であることが、はっきりと意図されている。さらに、本発明のいずれかの開示された形または実施形態との関連で図示および/または記載された構造および/または要素および/または方法が、設計上の選択の一般的な問題として、他のいかなる開示または記載または示唆された形に組み込まれてもよいことは認識しておくべきである。したがって、付属の特許請求の範囲によって示されるところによってのみ限定されることが意図である。

【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に基づく、流体的および電気的システムを含む装置を描いた図である。
【図2】本発明に基づく、単一モジュール上に統合されたさまざまな機能の概略図である。
【図3A】本発明に基づく、単一モジュール上にさまざまな機能を統合する製造ステップを示す図である。
【図3B】本発明に基づく、図3Aの製造ステップを示すもう一つの図である。
【図4】本発明に基づく、単一モジュール上にさまざまな機能を統合するプロセスのフローチャートである。
【図5】本発明の別の実施形態に基づく、代替的な実施形態を示す図である。
【図6A】本発明の別の実施形態に基づく、単一モジュール上の統合された回路を示す図である。
【図6B】本発明の別の実施形態に基づく、単一モジュール上の統合された回路を示すもう一つの図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合的な電子的、機械的および流体的モジュールに複数の集積回路を収容する方法であって:
流体経路を与える少なくとも一本のチャネルをもつプレートを有する基板を、前記複数の集積回路を取り付けるために用意する段階と;
前記基板の下側表面にシール環を形成する段階と;
前記基板を切り離して複数のチップにする段階と;
前記複数のチップを前記モジュールにフリップチップ・プロセスを使って結合させる段階とを有する方法。
【請求項2】
前記フリップチップ・プロセスが室温で実行される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記モジュールが、複数のチャネルを有する事前製作された流体部および電気的相互接続デバイスを有する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記電気的相互接続デバイスがCr/Cu/Ni/Au層の組み合わせを有する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記集積回路が、バイオセンサー、バルブ、ポンプ、混合器、クーラーおよびヒーターのうちの一つを有する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記バイオセンサーが固定された生体分子プローブを具備する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
シール環を提供する前記段階がさらに、前記基板の下側表面上にAuバンプを設ける段階を有する、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記シール環が、前記Auバンプよりも実質的に厚い、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記フリップチップ・プロセスが超音波接合またはレーザー溶融を含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記複数のチップを前記モジュールに結合させたのち、アンダーフィルを加える段階をさらに有する、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記シール環が柔軟な中間層に統合される、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記柔軟な中間層が複数の空洞を有する剛性のプラスチック・プレートに結合される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記シール環が、前記フリップチップ・プロセスに先立って接着剤の薄層に浸けられる、請求項1記載の方法。
【請求項14】
複数の集積回路を収容するパッケージ・システムであって:
前記複数の集積回路を取り付けるための基板と;
前記基板に結合されたシール環と;
複数のチャネルを有する事前製作された流体部と;
前記シール環と前記事前製作された流体部との間に結合された電気的相互接続デバイスとを有するシステム。
【請求項15】
前記電気的相互接続デバイスがCr/Cu/Ni/Au層の組み合わせを有する、請求項14記載のパッケージ・システム。
【請求項16】
前記集積回路が、バイオセンサー、バルブ、ポンプ、混合器、クーラーおよびヒーターのうちの一つを有する、請求項14記載のパッケージ・システム。
【請求項17】
前記基板の下側表面上にAuバンプをさらに有する、請求項14記載のパッケージ・システム。
【請求項18】
前記シール環が、前記Auバンプよりも実質的に厚い、請求項17記載のパッケージ・システム。
【請求項19】
複数の集積回路を収容する装置であって:
前記複数の集積回路を取り付けるための基板と;
前記基板に結合されたシール環と;
複合的な電子的、機械的および流体的モジュールであって:
複数のチャネルを有する事前製作された流体部および;
前記シール環と前記事前製作された流体部との間に結合された電気的相互接続デバイスを含むモジュールとを有する装置。
【請求項20】
前記電気的相互接続デバイスがCr/Cu/Ni/Au層の組み合わせを有する、請求項19記載の装置。
【請求項21】
前記集積回路が、バイオセンサー、バルブ、ポンプ、混合器、クーラーおよびヒーターのうちの一つを有する、請求項19記載の装置。
【請求項22】
前記基板の下側表面上にAuバンプをさらに有する、請求項19記載の装置。
【請求項23】
前記シール環が、前記Auバンプよりも実質的に厚い、請求項19記載の装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate


【公表番号】特表2009−503489(P2009−503489A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−523496(P2008−523496)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【国際出願番号】PCT/IB2006/052367
【国際公開番号】WO2007/012991
【国際公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】