説明

電子素子のためのシリコーン樹脂被覆

【課題】従来技術を改善し、特に簡単でかつできる限り水素を発生せずにシリコーン樹脂の製造を実施できる方法を提供する。
【解決手段】1成分のH−シロキサン含有の付加架橋可能なシリコーン樹脂の製造方法において、反応器で完全脱塩水と芳香族溶剤及びアルキルエステルの溶剤混合物とを装入し、前記装入物に撹拌しながらクロロシラン混合物を添加し、温度は50℃を超過せず、シリコーン樹脂を含有する反応混合物の水相を分離し、シリコーン樹脂を含有する相を1ないし複数の洗浄工程で洗浄して、残留HCl含量を減らし、シリコーン樹脂の最後の洗浄工程に、pH値7.00〜8.50にある塩基の0.01〜1.0%水溶液を添加し、かつ洗浄を温度20〜50℃で実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1成分のH−シロキサン含有の付加架橋可能なシリコーン樹脂の製造方法並びにシリコーン樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーン樹脂は、エポキシ系を凌駕するその耐熱性及び耐光性に基づき、電子素子のための封止用材料としてますます頻繁に使用されている。
【0003】
こうして公開公報DE10212119号A1は、係る封止用材料が高い可撓性と柔軟性に卓越していることを教示している。
【0004】
特許文献EP1249875号A2は、ゴム状のポリシリコーンが、例えば標準的なLEDの製造のために封止用コンパウンドとして使用されることを教示している。しかしながら、該ポリシリコーンは、表面硬さ50〜90JISA(ショアD10)を有し、これは必要となる表面硬さと引掻強さのためには軟質すぎる。従って、前記の特許文献においては二重の封止が記載されている。シリコーン樹脂からなる内側封止上に、例えばエポキシ樹脂による第二の封止が行われる。
【0005】
日本国公開公報JP2004−140220号Aでは、60より大きいショアD硬さを有する透明な付加架橋性のシリコーン樹脂を、発光ダイオード又は光検出器用の封止用材料として特許請求の範囲に記載している。これらの種類のシリコーン樹脂は、しかもエポキシ樹脂と同様の所望の表面特性を示す。しかしながら、かかる樹脂の低い可撓性のため、シリコーン樹脂と導線構造との異なる熱膨張に基づき、工業的に必要とされる温度サイクル試験において大きな問題が引き起こされる。従って、日本国公開公報JP2004−140220号Aは、係るシリコーン樹脂を100%の封止用コンパウンドとして使用できず、金属導線と封止用樹脂との間の中間層と組み合わせてのみ使用できることを教示している。
【0006】
しかし、これらの前記に挙げた生成物特性、つまり可撓性と柔軟性が高いか、又は硬さが高いが、可撓性が低いことに基づき、係る封止用コンパウンドは、部分領域にのみあるいは追加の作業工程を伴ってのみ高い費用で使用できるにすぎない。
【0007】
特許文献EP1424363号A1及びUS2005/0212008号A1では、三好氏は、原則的に2種類のシリコーン樹脂成分を組み合わせることによる封止用コンパウンドのためのシリコーン樹脂の製造方法を記載している:成分Aは、アルケニル基を有するが、H−シロキサン(ハイドロジェン−Si基)を有さないシリコーン樹脂である。成分Bは、H−シロキサン(ハイドロジェン−Si基)を有するが、アルケニル基を有さないシリコーン樹脂である。これらの2種類の成分AとBに、効果的な触媒を混加する(成分Cとして記載される)。
【0008】
前記の2種類のシリコーン樹脂を一緒に混合したシリコーン樹脂コンパウンドは、最終的に、高い硬さ(60より大きいショアD)と90MPaより大きい曲げ強さを有する付加架橋されたシリコーン樹脂をもたらす。前記の付加架橋されたシリコーン樹脂が、工業的に必要とされる温度サイクル試験に基づき破壊傾向にあることに関して詳細な言及はなされていない。
【0009】
特許文献US2002/0161140号A1は、同様に原則的に2種類のシリコーン樹脂成分:成分Aのアルケニル基を有するH−シロキサン不含のシリコーン樹脂、成分BのH−シロキサン含有のアルケニル基不含のシリコーン樹脂からなる付加架橋されたシリコーン樹脂の製造を記載している。
【0010】
これらの2種類の成分AとBに、効果的な触媒を混加する(成分Cとして記載される)。前記の組成物は2成分からなることが欠点である。前記の混合物から、付加架橋されたシリコーン樹脂が得られる。
【0011】
係る樹脂の工業的な製造は、多くの必須成分によって極めて多大な費用を引き起こす。
【0012】
H−シロキサン含有のシリコーン樹脂を水性塩基、例えば水性NaOHと反応あるいはそれで処理することによって、水素の発生がもたらされる。既に長い間知られる状況は、"Chemie und Technologie der Silicone"、第二版、1968年、第574頁、第12.1.2章とともにそこに挙げられる文献に記載されている。
【特許文献1】DE10212119号A1
【特許文献2】EP1249875号A2
【特許文献3】JP2004−140220号A
【特許文献4】EP1424363号A1
【特許文献5】US2005/0212008号A1
【特許文献6】US2002/0161140号A1
【非特許文献1】"Chemie und Technologie der Silicone"、第二版、1968年、第574頁、第12.1.2章
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、従来技術を改善することであり、特に簡単でかつできる限り水素を発生せずに実施できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の対象は、1成分のH−シロキサン含有の付加架橋可能なシリコーン樹脂の製造方法において、
− 第一工程において1つの反応器において、完全脱塩水と、少なくとも1種の芳香族溶剤及び少なくとも1種のアルキルエステルを有する溶剤混合物とを装入し、その際、
− 第二工程において前記装入物に撹拌しながらクロロシラン混合物を添加し、その際、温度は50℃を超過せず、そして
− 第三工程において1成分のH−シロキサン含有の付加架橋可能なシリコーン樹脂を含有する反応混合物の水相を分離し、そして
− 第四工程において1成分のH−シロキサン含有の付加架橋可能なシリコーン樹脂を含有する相を1ないし複数の洗浄工程で洗浄して、残留HCl含量を減らし、その際、1成分のH−シロキサン含有の付加架橋可能なシリコーン樹脂の最後の洗浄工程に、pH値7.00〜8.50にある塩基の0.01〜1.0%水溶液を添加し、かつ洗浄を温度20〜50℃で実施することを特徴とする製造方法である。
【0015】
回分製造としての製造方法の説明
そのために、第一工程において1つの反応器で、完全脱塩水と好適な溶剤の混合物とを装入する。第二工程において、撹拌された装入物に、相応のクロロシラン混合物をゆっくりと添加する。それは、有利には、少なくとも1つのT単位(R=アルキル又はアリール)、少なくとも3つの異なるD単位(R=H、アルキル、アルケニル及びアリール)及び少なくとも1つのM単位(R=アルキル)を有する組成物である。有利には、T単位(R=アリール)、少なくとも3つの異なるD単位(R=H、アルキル、アルケニル及びアルキル/アリール)並びに少なくとも1つのM単位(R=C1〜C3−アルキル)からなる組成物である。特に有利には、T単位(R=C6−アリール)、少なくとも3つの異なるD単位(R=ビニル−メチル、H−メチル及びフェニル−メチル)及びM単位(R=C1−アルキル)からなる組成物である。
【0016】
この場合に形成するHClは、その際に水相中に溶解する。前記工程は、クロロシラン混合物の添加の間に、該反応混合物の温度が50℃を超過しないことを特徴とする。第三工程において、1成分のH−シロキサン含有の付加架橋可能なシリコーン樹脂を含有する反応混合物の水相を分離する。第四工程において、1成分のH−シロキサン含有の付加架橋可能なシリコーン樹脂を含有する相を、1ないし複数の洗浄工程において、できる限り低い残留HCl含量になるまで入念に洗浄する。前記の第四工程は、1成分のH−シロキサン含有の付加架橋可能なシリコーン樹脂の最後の洗浄のために、好適な塩基、例えばアルカリ金属及びアルカリ土類金属、有利には水酸化ナトリウム、特に有利には炭酸水素ナトリウムの、有利には0.01〜1.00%水溶液、好ましくは0.01〜0.1%水溶液、特に有利には0.01〜0.05%水溶液、殊に有利には0.01〜0.02%水溶液を使用し、その水溶液のpH値は7.0〜8.50、有利には7.5〜8.5であり、その洗浄は、20〜50℃の温度で実施し、有利には気体状の水素は40ppmを超える量で発生せず、特に有利には全く水素が発生しないことを特徴とする。
【0017】
従って、1成分のH−シロキサン含有の付加架橋可能なシリコーン樹脂であって、有利には3ppm未満の残留HCl含量を有するシリコーン樹脂が得られ、好ましくは1成分のH−シロキサン含有の付加架橋可能なシリコーン樹脂であって、0〜1ppmの残留HCl含量を有するシリコーン樹脂が得られる。最後の第五工程において、こうして精製された溶剤混合物を含有する粗生成物から、蒸留によって慎重に溶剤混合物を除去する。
【0018】
驚くべきことに、本発明による方法では、ここで水素の離脱なく、1成分のH−シロキサン含有の付加架橋可能なシリコーン樹脂がワンポット合成で得られる。
【0019】
本発明の更なる対象は、一般式1
【化1】

を有する樹脂成分M、D及びTを有する1成分の付加架橋可能なシリコーン樹脂であって、該1成分の付加架橋可能なシリコーン樹脂は、m、d、tが0より大きく、かつmが0.01〜1.00質量%であり、dが50.00〜65.00質量%であり、かつtが30.00〜50.00質量%であることを特徴とし、かつRがC1〜C3を有する炭化水素を意味し、R′2がC2〜C3を有する一不飽和の炭化水素、C1〜C3を有する炭化水素、H及び芳香族炭化水素を意味し、かつR′′が芳香族炭化水素及び飽和炭化水素を意味する、1成分の付加架橋可能なシリコーン樹脂である。
【0020】
Rのための例は、有利には、メチル、エチル、プロピルである。R′のための例は、有利には、H、メチル、エチル、プロピル、ビニル、プロペニル及びフェニルである。
【0021】
R′′のための例は、有利には、フェニル、クロロフェニル、ナフチル、ビフェニル、メチルフェニル、メチル、エチル、プロピルである。
【0022】
こうして製造される1成分のH−シロキサン含有の付加架橋可能なシリコーン樹脂(更に1成分の付加架橋可能なシリコーン樹脂と呼称される)は、一般式1
【化2】

を有する樹脂成分M、D及びTからなり、その際、本発明による1成分の付加架橋可能なシリコーン樹脂は、m、d、tが0より大きく、かつ詳細にはmが0.01〜1.00質量%であり、dが50.00〜65.00質量%であり、かつtが30.00〜50.00質量%であることを特徴とし、かつRがC1〜C3を有する炭化水素、有利には(メチル)であってよく、R′2がC2〜C3を有する一不飽和の炭化水素、有利には(ビニル)、C1〜C3を有する炭化水素、有利には(メチル)、H及び芳香族炭化水素、有利には(フェニル)であってよく、かつR′′が芳香族炭化水素、有利には(フェニル)であってよい。
【0023】
有利には、こうして製造された1成分の付加架橋可能なシリコーン樹脂は、mが0.01〜0.60質量%であり、dが57.00〜63.00質量%であり、かつtが35.00〜40.00質量%であり、かつRがC1〜C3を有する炭化水素、有利には(メチル)であってよく、R′2がC2〜C3を有する一不飽和の炭化水素、有利には(ビニル)、C1〜C3を有する炭化水素、有利には(メチル)、H及び芳香族炭化水素、有利には(フェニル)であってよく、かつR′′が芳香族炭化水素、有利には(フェニル)であってよいことを特徴とする。
【0024】
特に有利には、1成分の付加架橋可能なシリコーン樹脂は、mが0.01〜0.58質量%であり、dが60.00〜62.50質量%であり、かつtが36.00〜37.50質量%であり、かつRがC1〜C3を有する炭化水素、有利には(メチル)であってよく、R′2がC2〜C3を有する一不飽和の炭化水素、有利には(ビニル)、C1〜C3を有する炭化水素、有利には(メチル)、H及び芳香族炭化水素、有利には(フェニル)であってよく、かつR′′が芳香族炭化水素、有利には(フェニル)であってよいことを特徴とする。
【0025】
こうして製造される1成分の付加架橋可能なシリコーン樹脂は、更に樹脂成分DのR′2が、R′a(C1〜C3を有する一不飽和炭化水素、有利にはビニル、プロペニル)、R′b(H−Si基)、R′c(C1〜C3を有する炭化水素、有利にはメチル、エチル、プロピル)及びR′d(芳香族炭化水素、有利には(フェニル))から構成され、その際、a:b:c:d=1:1.03:3.7〜4.4:1.66〜2.4であることを特徴とする。
【0026】
殊に有利には、1成分の付加架橋可能なシリコーン樹脂は、更に樹脂成分DのR′2が、R′a(C1〜C3を有する一不飽和炭化水素、有利にはビニル)、R′b(H−Si基)、R′c(C1〜C3を有する炭化水素、有利にはメチル)及びR′d(芳香族炭化水素、有利には(フェニル))から構成され、その際、a:b:c:d=1:1.03:4.2〜4.4:2〜2.4であることを特徴とする。
【0027】
こうして製造された1成分の付加架橋可能なシリコーン樹脂は、本発明によれば更に、効果的な触媒、例えば金属、例えば白金、ロジウム、パラジウム、ルテニウム及びイリジウム、有利には白金を使用して架橋させることを特徴とする。白金触媒としては、有利には白金金属及び/又はその化合物、有利には白金及び/又はその化合物が使用される。係る触媒のための例は、金属の白金及び微粉砕された白金であって、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム又は活性炭上に存在してよいもの、白金の化合物又は錯体、例えば白金ハロゲン化物、例えばPtCl4、H2PtCl6*6H2O、Na2PtCl4*4H2O、白金−オレフィン錯体、白金−アルコール錯体、白金−アルコレート錯体、白金−エーテル錯体、白金−アルデヒド錯体、白金−ケトン錯体、例えばH2PtCl6*6H2Oとシクロヘキサノンからなる反応生成物、白金−ビニルシロキサン錯体、特に有機白金錯体、有利には白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体であって検出可能な無機的に結合したハロゲンの含量を有するもの又は有さないもの、ビス(ガンマピコリン)−白金二塩化物並びに四塩化白金とオレフィン及び第一級アミンもしくは第二級アミンもしくは第一級アミン及び第二級アミンとの反応生成物、例えば1−オクテン中に溶解された四塩化白金とs−ブチルアミンとからの反応生成物、又はアンモニウム−白金錯体、1成分系用の白金触媒、例えばマイクロカプセル化された白金錯体又は、例えば白金−アセチリド錯体が使用される。遷移金属触媒は、それぞれ元素の遷移金属として計算して、かつA成分とB成分の全質量に対して、0.5〜500質量ppm(百万質量部あたりの質量部)、特に2〜400質量ppmの量で、有利にはポリオルガノシロキサン中に可溶性の係る白金化合物を使用することが好ましい。可溶性の白金化合物としては、例えば式(PtCl2・オレフィン)2及びH(PtCl3・オレフィン)の白金−オレフィン錯体を使用することができ、特に白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体が好ましい。架橋は、150℃で少なくとも1〜2時間後に行われ、そして高い表面硬さ、つまり60より大きいショアD及び35N/mm2より大きい曲げ強さと同時に高い弾性に卓越し、低い破壊傾向に優れた付加架橋されたシリコーン樹脂であって、破壊傾向が、少なくとも50サイクルのTST(熱衝撃試験)後に0〜2であることを特徴とするシリコーン樹脂をもたらす。
【0028】
前記の効果的な触媒の添加によって、以下の系:
1成分のH−シロキサン含有のシリコーン樹脂:99部以下
効果的な触媒:1部以上
がもたらされる。
【実施例】
【0029】
ここでは、2つの実施例を記載する。実施例1及び2は、本発明による1成分のH−シロキサン含有の付加架橋可能なシリコーン樹脂としての例である。参考例2は、技術水準に相当するWacker Chemie AG社製の付加架橋可能なシリコーン樹脂:Silres H62A(特許JP2004−140220号Aも参照)の例である。
【0030】
実施例1:1成分のH−シロキサン含有の付加架橋可能なシリコーン樹脂
60リットルのガラスフラスコであって、撹拌機、加熱手段、冷却器付の蒸留手段並びに滴下漏斗を備えたフラスコ中に、19360gの完全脱塩水、6537gの酢酸エステル及び14763gのトルエンを装入する。前記装入物に、3807gのフェニル−シラン、3440gのフェニル−メチル−シラン、1502gのH−メチル−シラン、1457gのビニル−メチル−シラン及び60gのM3−シランからなるクロロシラン混合物を、好適な装入容器、例えば滴下漏斗を用いて、撹拌された装入物に対して1.5〜2時間以内で添加する。その際に、反応混合物の温度を、配量開始時の18〜20℃から配量終了時の40〜50℃に高める。反応実施後に、HCl含有の水相から、生成物を含有する溶剤混合物を分離する。その都度18000gの完全脱塩水での二回の洗浄後に、第三の洗浄過程と最後の洗浄過程で、こうして製造されたH−シロキサン含有の付加架橋可能なシリコーン樹脂を、18000gの完全脱塩水と、180g、又は18.0g、又は9.0g、又は3.6g、又は1.8gの炭酸水素ナトリウムとからなる水性塩基であって、該水溶液のpH値が7.50〜8.5の塩基で洗浄した、するとその際、水素は発生しない。この場合に、溶剤混合物中に溶解されたH−シロキサン含有の付加架橋可能なシリコーン樹脂の残留HCl含量は、それぞれ1ppm未満に低減される。
【0031】
それに引き続き、溶剤混合物を、H−シロキサン含有の付加架橋可能なシリコーン樹脂から慎重な蒸留によって分離を行う。
【0032】
実施例2:1成分のH−シロキサン含有の付加架橋可能なシリコーン樹脂
60リットルのガラスフラスコであって、撹拌機、加熱手段、冷却器付の蒸留手段並びに滴下漏斗を備えたフラスコ中に、19360gの完全脱塩水、6537gの酢酸エステル及び14763gのトルエンを装入する。前記装入物に、3807gのフェニル−シラン、1903gのフェニル−メチル−シラン、1502gのH−メチル−シラン、1457gのビニル−メチル−シラン及び60gのM3−シランからなるクロロシラン混合物を、好適な装入容器、例えば滴下漏斗を用いて、撹拌された装入物に対して1.5〜2時間以内で添加する。その際に、反応混合物の温度を、配量開始時の18〜20℃から配量終了時の40〜50℃に高める。反応実施後に、HCl含有の水相から、生成物を含有する溶剤混合物を分離する。その都度18000gの完全脱塩水での二回の洗浄後に、第三の洗浄過程と最後の洗浄過程で、こうして製造されたH−シロキサン含有の付加架橋可能なシリコーン樹脂を、18000gの完全脱塩水と、180.0g、又は18.0g、又は9.0g、又は3.6g、又は1.8gの炭酸水素ナトリウムとからなる水性塩基であって、該水溶液のpH値が7.0〜8.5の塩基で洗浄した、するとその際、水素は発生しない。この場合に、溶剤混合物中に溶解されたH−シロキサン含有の付加架橋可能なシリコーン樹脂の残留HCl含量は、それぞれ1ppm未満に低減される。
【0033】
それに引き続き、溶剤混合物を、H−シロキサン含有の付加架橋可能なシリコーン樹脂から慎重な蒸留によって分離を行う。
【0034】
参考例2:
Silres H62A;Wacker Chemie AG社製の標準的な製品は、今までの従来技術に相当する(特許JP2004−140220号Aも参照のこと)。
【0035】
4リットル3つ口フラスコであって、排出口、温度計、冷却器、撹拌機及び供給容器を備えたフラスコ中に、室温で、1312.5gのクロロシラン混合物と580gのトルエンを装入する。
【0036】
前記シラン混合物は、フェニルトリクロロシラン、H−メチル−ジクロロシラン、ビニル−メチル−ジクロロシラン及びトリメチルクロロシランといった成分から比率1:0.2:0.2:0.3(フェニルトリクロロシランに対する)で構成される。
【0037】
撹拌された装入物に、ここで185gのエタノールを40分以内に滴加する。この反応混合物を、ここで5分間撹拌する。
【0038】
それに引き続き、250gの水(完全脱塩水)を、2時間以内に、撹拌された前記反応混合物に計量供給する。この混合物を10分間撹拌する。次いで、こうして得られた反応混合物に、15.65gのトリメチルクロロシランを添加し、そして更に4分間撹拌する。ここで、該反応混合物を75〜85℃で還流下で2時間煮沸する。
【0039】
還流煮沸後に、該バッチに、187.5gのトルエン及び170gの水(完全脱塩水)を添加する。この混合物を10分間撹拌して、次いで40分間撹拌せずに静置する(相分離)。
【0040】
水相を分離し、シリコーン樹脂を含有するその他の相を、もう一度500gの水(完全脱塩水)で洗浄し、その水相を分離し、そして得られた溶剤含有のシリコーン樹脂から蒸留によって溶剤を除去する。
【0041】
表面硬さ(ショアD)及び曲げ強さの特性の比較
本発明による1成分のH−シロキサン含有の付加架橋可能なシリコーン樹脂並びに工業的に得られる付加架橋可能なシリコーン樹脂Silres H62A(参考例2)を、それぞれ効果的な触媒成分、すなわち白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体と、比率99:1で混合し、そして150℃で2時間硬化させる。
【0042】
こうして得られた付加架橋されたシリコーン樹脂は、この際に、以下の特性像を示す:
ショアD 曲げ強さ(N/mm2
実施例1 73 40
実施例2 65 45
参考例2 60 20
【0043】
実施例1及び2と参考例2から製造されたLEDの破壊傾向を例とした可撓性の比較
ここでは、架橋直後の破壊傾向あるいは熱衝撃試験(TST)の相応のサイクルの終了後の破壊傾向を、0〜5のスケールで表す。この際、0〜2は、試験体中に亀裂なしもしくは僅かな微視亀裂ありを意味し、かつ3〜5は、試験体中に多くの微視亀裂ありもしくは僅かなないし多くの巨視亀裂ありを意味する。更に、0〜2の結果は、低い破壊傾向を意味し、3〜5の結果は、明らかないし激しい破壊傾向を意味する。
【0044】
前記の熱衝撃試験では、試験体を、−40℃〜110℃の温度サイクルに1回以上曝す。前記の試験のために、支持体系と100%のシリコーン封止用コンパウンドと相応する割合の効果的な触媒とからなる相応の試験体を使用する。こうして調製されたこれらの試験体を、次いで150℃の温度で2時間硬化させる。100%のシリコーン封止用コンパウンドは、本発明による付加架橋可能なH−シロキサン含有のシリコーン樹脂(実施例1及び2)又は参考例2のシリコーン樹脂、つまり今までの従来技術を表す付加架橋可能なシリコーン樹脂(Wacker Chemie AG社製のSilres H62A)(特許JP2004−140220号Aも参照のこと)からなる。
【0045】
これらのTST試験からの結果を以下に列挙する:
破壊傾向 10サイクル後 55サイクル後
実施例1 0 2
実施例2 2 2
参考例2 5 5
理解されるように、本発明による1成分のH−シロキサン含有の付加架橋可能なシリコーン樹脂は、付加架橋されたシリコーン樹脂として、高い表面硬さ(60より大きいショアD)と同時に、高い可撓性(曲げ強さN/mm2)並びに低い破壊傾向に優れている。
【0046】
それに対して、今までの従来技術を表す参考例2の付加架橋可能なシリコーン樹脂は、本発明による1成分のH−シロキサン含有の付加架橋可能なシリコーン樹脂とは異なる分子成分D([R′′2SiO2/2]d、その際、R′′2は、Hとビニルのみからなる(特許JP2004−140220号Aを参照のこと))の組成に基づき、明らかに顕著な破壊傾向を示す。
【0047】
1成分のH−シロキサン含有の付加架橋可能なシリコーン樹脂の使用可能性
従って、本発明により製造された1成分のH−シロキサン含有の付加架橋可能なシリコーン樹脂は、100%の樹脂として、電子素子あるいは電子工学素子の被覆のために極めて広い意味で使用することができる。特に、これらの1成分のH−シロキサン含有の付加架橋可能なシリコーン樹脂は、それらの特別な特性に応じて、発光ダイオード、つまりLEDの製造のために、又は電気モータ、例えば主電動機又はハイブリッドモータの被覆のために使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1成分のH−シロキサン含有の付加架橋可能なシリコーン樹脂の製造方法において、
− 第一工程において1つの反応器において、完全脱塩水と、少なくとも1種の芳香族溶剤及び少なくとも1種のアルキルエステルを有する溶剤混合物とを装入し、その際、
− 第二工程において前記装入物に撹拌しながらクロロシラン混合物を添加し、その際、温度は50℃を超過せず、そして
− 第三工程において1成分のH−シロキサン含有の付加架橋可能なシリコーン樹脂を含有する反応混合物の水相を分離し、そして
− 第四工程において1成分のH−シロキサン含有の付加架橋可能なシリコーン樹脂を含有する相を1ないし複数の洗浄工程で洗浄して、残留HCl含量を減らし、その際、1成分のH−シロキサン含有の付加架橋可能なシリコーン樹脂の最後の洗浄工程に、pH値7.00〜8.50にある塩基の0.01〜1.00%水溶液を添加し、かつ洗浄を温度20〜50℃で実施することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、クロロシラン混合物が、少なくとも1つのT単位、少なくとも3つの異なるD単位及び少なくとも1つのM単位を有する組成物であることを特徴とする方法。
【請求項3】
一般式1
【化1】

を有する樹脂成分M、D及びTを有する1成分の付加架橋可能なシリコーン樹脂であって、該1成分の付加架橋可能なシリコーン樹脂は、m、d、tが0より大きく、かつmが0.01〜1.00質量%であり、dが50.00〜65.00質量%であり、かつtが30.00〜50.00質量%であることを特徴とし、かつRがC1〜C3を有する炭化水素を意味し、R′2がC2〜C3を有する一不飽和の炭化水素、C1〜C3を有する炭化水素、H及び芳香族炭化水素を意味し、かつR′′が芳香族炭化水素及び非芳香族炭化水素を意味する、1成分の付加架橋可能なシリコーン樹脂。
【請求項4】
請求項3記載の1成分の付加架橋可能なシリコーン樹脂であって、Rがメチルを意味し、R′2がビニル、メチル、H及びフェニルを意味し、かつR′′がフェニルを意味することを特徴とする1成分の付加架橋可能なシリコーン樹脂。
【請求項5】
請求項3又は4記載の1成分の付加架橋可能なシリコーン樹脂であって、mが0.01〜0.60質量%を意味し、dが57.00〜63.00質量%を意味し、かつtが35.00〜40.00質量%を意味することを特徴とする1成分の付加架橋可能なシリコーン樹脂。
【請求項6】
請求項3又は4記載の1成分の付加架橋可能なシリコーン樹脂であって、mが0.01〜0.58質量%を意味し、dが60.00〜62.50質量%を意味し、かつtが36.00〜37.50質量%を意味することを特徴とする1成分の付加架橋可能なシリコーン樹脂。
【請求項7】
請求項3から6までのいずれか1項記載の1成分の付加架橋可能なシリコーン樹脂であって、D中のR′2が、R′a(C1〜C3を有する一不飽和の炭化水素)、R′b(H−Si基)、R′c(C1〜C3を有する炭化水素)及びR′d(芳香族炭化水素)から構成され、その際、a:b:c:d=1:1.03:3.7〜4.4:1.66〜2.4を意味することを特徴とする1成分の付加架橋可能なシリコーン樹脂。
【請求項8】
請求項3から6までのいずれか1項記載の1成分の付加架橋可能なシリコーン樹脂であって、D中のR′2が、R′a(C1〜C3を有する一不飽和の炭化水素)、R′b(H−Si基)、R′c(C1〜C3を有する炭化水素)及びR′d(芳香族炭化水素)から構成され、その際、a:b:c:d=1:1.03:4.2〜4.4:2〜2.4を意味することを特徴とする1成分の付加架橋可能なシリコーン樹脂。
【請求項9】
架橋されたシリコーン樹脂であって、請求項3から8までのいずれか1項記載の又は請求項1もしくは2に記載の方法により製造される1成分の付加架橋可能なシリコーン樹脂が架橋され、かつ該付加架橋されたシリコーン樹脂が60より大きいショアDの表面硬さ(室温25℃で)、35N/mm2より大きい曲げ強さを有し、かつ破壊傾向が少なくとも50サイクルのTST後に0〜2であることを特徴とする架橋されたシリコーン樹脂。
【請求項10】
成形体であって、それが請求項9記載のシリコーン樹脂であることを特徴とする成形体。
【請求項11】
請求項10記載の成形体であって、該成形体が被覆であることを特徴とする成形体。

【公開番号】特開2007−302892(P2007−302892A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−126684(P2007−126684)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】