説明

電子線を用いるX線分析装置

【課題】 波長分散型X線分光器とエネルギー分散型X線分光器とを同時に搭載したX線分析装置において、分析モードも考慮して分析を正しく行なえる状態であるか否かを判断し、判断の結果を操作者に分かりやすく通知する。
【解決手段】
点分析と線分析と面分析のうちのどの分析モードによって分析を行なうかを操作者が任意に指定する。プログラム26は、予め決めてあるX線分析装置の確認項目についての設定状態を収集し、指定されている分析モードに対して、波長分散型X線分光器とエネルギー分散型X線分光器とによる分析が適切に行なえるために満たすべき設定条件をデータベース25から読出し、収集された設定状態が設定条件を満たしているかを判定し、その判定結果を表示装置24に表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料表面に電子線を照射し、試料から発生する特性X線を分光・検出することにより試料の分析を行なうX線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料表面に電子線を照射し、試料から発生する特性X線を分光・検出することにより試料の分析を行なうX線分析装置として電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)が知られている。EPMAは波長分散形X線分光器(WDS:Wavelength Dispersive X-ray Spectrometer)を複数基搭載している装置が一般的であるが、エネルギー分散形X線分光器(EDS:Energy Dispersive X-ray Spectrometer)を併設している装置も多い。なお、走査形電子顕微鏡(SEM)や透過形電子顕微鏡(TEM)に主として搭載されているX線分光器はEDSである。
【0003】
図8は、WDSとEDSとを搭載した従来のEPMAの概略構成例を示すブロック図である。図8において、鏡体100の中に配置されている電子銃1から放出された電子線EBは集束レンズ2、対物レンズ3により細く絞られて試料4に照射される。9は走査コイルで電子線EBを二次元的に走査する機能を有するとともに、電子線EBの照射位置変更が可能である。
【0004】
8はファラデーカップの原理を利用した照射電流検出器で、電子線EBの通路に挿脱可能な機構を持つ。図1の斜線部は電子線EBの通路に挿入されて電流量を検出する状態を示す。照射電流検出器8はビームシャッタの機能を有するため、測定開始前に試料4に電子線EBが照射されないようにして、試料4のビーム損傷を軽減する役割も併せ持つ。
【0005】
EOS制御系11は、電子銃1、集束レンズ2、対物レンズ3、走査コイル9、及び照射電流検出器8の制御を行なう。
【0006】
10は対物レンズ3より上の電子線通路と試料4が置かれている試料室とを真空的に分離するための仕切り弁で、矢印10aで示すように開閉動作を行なう。電子線EBが試料5に達するためには、仕切り弁10が開の状態になければならない。
【0007】
電子線EBの照射により試料4から発生したX線5は、WDS6とEDS7により分光・検出される。WDS6は分光結晶12、検出器13、WDS駆動系14を含む構成で、WDS測定制御系15を介して制御と信号取り込みが行われる。WDSを複数基装着するためには、WDS6と同じ構成が複数組必要である。
【0008】
EDS7は、EDS測定制御系16を介して制御と信号取り込みが行われる。EDS7はEPMA一台につき、通常1基のみ装着されている。
【0009】
試料ステージ17に載置された試料4上の電子線EBの照射位置(即ち分析点)は、XY移動機構18により水平方向に数10mm程度、Z微動機構19により高さ方向に数mm程度の範囲で移動可能である。また、Z粗動機構20はXY移動機構18とZ微動機構19の高さを数10mm程度の大きな範囲で、矢印20aのように上下に変えることができる。18′は、試料4の高さがZ粗動機構20によりWDS及びEDSともに分析できない位置に移動した場合を示している。試料ステージ17は試料ステージ制御系19により制御される。
【0010】
なお、照射電流検出器8、仕切り弁10及びZ粗動機構20については、機種によりこれら機能を搭載していないEPMAもある。
【0011】
EOS制御系11、WDS測定制御系15、EDS測定制御系16、試料ステージ駆動系19は測定制御装置22に接続されている。測定制御装置22は測定のために必要な各部の制御と信号取り込みを行なうコンピュータである。測定制御装置22にはキーボード・マウス等の入力装置23と液晶モニタ等の表示装置24が接続されている。
【0012】
なお、実際の装置では、電子線通路と試料室を10−3Pa程度の高真空に保持するための真空排気系、二次電子・反射電子信号検出器、電源、DA・AD変換器等が構成されているが、本発明を理解する上で直接関係しないので図示及び説明を省略している。
【0013】
次に、WDSとEDSにおけるX線の検出原理を説明する。
【0014】
図5は、EPMAに装備されているWDSの原理を説明するための模式図である。図1と同一または類似の動作を行なうものには共通の符号を付している。図5に示すX線分光器は、分光結晶12の回折面中心Cが、X線発生点Sから水平面に対してX線取り出し角αだけ傾斜した直線SC上を移動するようになっているため、結晶直進型X線分光器と呼ばれる。この種のX線分光器は、X線発生点S、分光結晶12の回折面中心C、X線検出器13のスリットの中心Fは常に一定の半径Rを持つローランド円RCの円周上に在り、線分SCと線分CFの長さが常に等しくなるようにX線検出器13のスリット中心位置F及びローランド円の中心Qが移動するように作られている。分光結晶12の結晶格子面は、点Dを中心として曲率2Rに湾曲された分光結晶12の回折面は常にローランド円の中心Qを向くようになっている。線分SCの長さは分光位置Lであり、回折面中心CへのX線入射角(回折面中心Cを通りローランド円RCに外接する直線C1と直線SCのなす角)をθとすると、
L=2R×sinθ (1)
である。一方、分光結晶に入射するX線の回折条件は、X線の波長をλ、分光結晶の面間隔をdとすると、ブラッグの条件から、下式(2)が成り立つ。
2d×sinθ=n×λ (2)
ここに、nは回折次数で正の整数である。nが2以上の回折線は一般に高次回折線(以下、「高次線」と略称することがある)と称される。
式(1)と(2)から、下式(3)が導かれる。
L=(2R/2d)×n×λ (3)
分光位置Lを測ることにより、回折された特性X線の波長λを知ることができる。特性X線は元素固有の波長を有するので、波長λから試料に含まれる元素の同定が行える。また、測定された特性X線の強度から試料に含まれる元素の濃度を知ることができる。
【0015】
図5において、ブラッグの条件を満足する点は原理的には分析点Sのみである。しかし実際の装置では、分光結晶12の回折面の歪等によって得られるスペクトルのピークは拡がり(半値幅で表される)を持つ。この拡がりの大きさと分光位置Lに応じた許容範囲であれば、水平及び高さのいずれの方向においても、分析点Sから外れた位置で発生したX線でもX線検出器13に到達することが可能である。スペクトルの半値幅は分光結晶の種類によって大きく異なる。分析点Sから外れる許容範囲は分析目的や要求される分析精度に応じて異なるが、WDSの場合、通常は数μm〜数10μm程度と考えてよい。なお、長波長X線の分光結晶(実際は結晶ではない超格子構造の分光素子が一般的に使われる)の場合は数100μm程度である。
【0016】
次にEDSについて説明する。図6は、シリコン(Si)にリチウム(Li)をドープさせたPIN型半導体をX線検出に用いるEDSのX線検出原理を示す図である。図6において、試料から発生したX線がPIN半導体に入射すると、X線量子のエネルギーに応じた数のイオン対が生成される。半導体に印加されているバイアス電圧により、生成したイオン対は分離して電子なだれを生じ、エネルギーに比例した大きさの電気パルス信号が取り出される。パルス信号はその大きさに応じてマルチチャンネルアナライザ(図示せず)により、エネルギー範囲毎のチャンネル別積算される。積算されたデータを、横軸にチャンネル(エネルギー)、縦軸に計数値(積算値)をとったグラフとして表示すればX線スペクトルを得る事ができる。
【0017】
EDSは、WDSとは異なり幾何学的集光方法によらないため、原理的にはどちらの方向からのX線も検出が可能である。しかし、例えばEPMA等に搭載されているEDSの場合、検出器に入射するX線量子の総量を制限するために、検出器の前方に絞りを設ける場合がある。図7に、そのようなEDSの検出器の例を示す。図7において、30は半導体のX線検出器、31はX線検出器30等の保護筒、32はX線検出器30を冷却するための熱伝導材、33はベリリウム等の薄板で出来たウィンドウ、34は入射X線制限絞り板、34a、34b、34cはそれぞれ開口径の異なる絞り孔、35は入射X線制限絞り板34を回転させて絞り孔の開口径を変更するための回転指示棒である。
【0018】
分析点Sから発生したX線5は、絞り孔34(図7の場合)、X線通過孔31a、ウィンドウ33を通過してX線検出器30に入射する。即ち、入射X線制限絞り板34に設けられている絞り穴は、絞り孔の開口径と絞り孔からX線の検出面までの距離に応じたコリメータとしても働く。そのため、EDSを使用する場合にも、分析点Sから外れる許容範囲は存在する。しかしその範囲はWDSの場合に比較すると桁違いに広く、通常は数mm程度である。
【0019】
しかし、装置によっては、試料の高さを10mm以上の範囲で上下させる機能を持つ試料ステージを装備している場合がある。そのような装置においては、EDSといえども分析ができない場合がある。
【0020】
特許文献1の特開2006−78424号公報には、EDSを搭載した走査電子顕微鏡において、試料の高さが所定位置にあるかを判定し、所定範囲内にないときは分析の実効を中断し、操作者に報知を行なう技術が開示されている。
【0021】
【特許文献1】特開2006−78424号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
特許文献1の特開2006−78424号公報に開示されている技術は、X線分光器(実施例に示されているのはEDSのみ)に対する試料の高さが所定位置の範囲内にあるかを判定するのみである。しかし、上述したように、EPMAにおいてはWDSとEDSを同時に搭載した装置が多く使用されている。WDSとEDSとではX線検出の原理が異なる。また、同じWDSやEDSの中でも、検出器が取り付けられる装置の機械的構造等に大きな違いがあるため、分析点Sから外れる許容範囲には大きな違いがある。また、分析モードによっても、この許容範囲の大きさは異なる。そのため、実際に分析を行なうときに分析を正しく行なえる状態にあるか否かの判断に当たっては、どのX線分光器を使用するか、どの分析モードで分析を行なうかまでを操作者が詳しく考慮しなければならない。
【0023】
本発明は上記した問題を解決するためになされたものであって、その目的は、WDSとEDSと同時に搭載したX線分析装置において、分析モードをも考慮して分析を正しく行なえる状態であるか否かを判断し、判断の結果を操作者に分かりやすく通知することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記の問題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
細く絞った電子線を試料に照射し、該試料表面から発生する特性X線を検出して元素分析を行なうX線分析装置であって、
細く絞った電子線を試料上の任意の位置に照射する手段と、
試料位置を前記電子線の照射方向に対して垂直方向及び平行方向に移動させる手段と、
波長分散型X線分光器とエネルギー分散型X線分光器とを備えたX線分析装置において、
点分析と線分析と面分析のそれぞれの分析モードに応じて、前記波長分散型X線分光器と前記エネルギー分散型X線分光器とのそれぞれについて、それぞれのX線分光器を使用して分析が適切に行なえるために満たすべき設定条件が格納されたデータベースと、
点分析と線分析と面分析のうちのどの分析モードによって分析を行なうかを操作者が指定するための分析モード指定手段と、
予め決めてある前記X線分析装置の確認項目についての設定状態を収集する収集手段と、
前記分析モード指定手段によって指定された分析モードに対して、前記波長分散型X線分光器と前記エネルギー分散型X線分光器とによる分析が適切に行なえるために満たすべき設定条件を前記データベースから読出し、前記収集手段によって収集された前記設定状態が前記設定条件を満たしているかを判定する判定手段と、
前記波長分散型X線分光器と前記エネルギー分散型X線分光器とについての前記判定手段による判定結果を操作者に対して通知する通知手段と、
を備えることを特徴とする。
【0025】
また請求項2に記載の発明は、前記判定手段は、前記波長分散型X線分光器と前記エネルギー分散型X線分光器とのそれぞれについて別々に、前記設定状態が前記設定条件を満たしているかを判定するようにしたことを特徴とする。
【0026】
また請求項3に記載の発明は、前記通知手段は、前記波長分散型X線分光器と前記エネルギー分散型X線分光器とのそれぞれについて、前記設定状態が前記設定条件を満たしているか否かをランプの点灯と消灯状態の切り替えによって通知するようにしたことを特徴とする。
【0027】
また請求項4に記載の発明は、前記ランプは、前記X線分析装置に備えられているコンピュータのウィンドウ上に表示される擬似的ランプであることを特徴とする。
【0028】
また請求項5に記載の発明は、前記設定状態が前記設定条件を満たしているか否かの判定結果を前記確認項目別に操作者に対して通知する項目別通知手段をさらに備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、WDSとEDSと同時に搭載したX線分析装置において、分析モードをも考慮して分析を正しく行なえる状態にあるか否かを判断し、判断の結果を操作者に分かりやすく通知することができる。また、分析開始前に分析に用いようとするX線分光器で正しく分析が行なえるか否かが分かるため、分析開始後に操作者が不具合に気が付いて分析をやり直すような無駄を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。但し、この例示によって本発明の技術範囲が制限されるものでは無い。各図において、同一または類似の動作を行なうものには共通の符号を付し、詳しい説明の重複を避ける。
【0031】
図1は、WDSとEDSとを搭載したEPMAを例にとり本発明を実施する概略構成例を示すブロック図である。図8に示す従来のEPMAと同一または類似の動作を行なうものには共通の符号を付している。本発明を実施するためのEPMAには、従来のEPMAの構成の他に、本発明に用いられるデータを格納したデータベース25と本発明を実施する手段が格納されたプログラム26が構成されている。なお、図1に示す構成ではプログラム26は測定制御装置22の中に格納されているが、測定制御装置22とは別の制御装置に構成されていても良い。
【0032】
データベース25には、点分析と線分析と面分析のそれぞれの分析モードに応じて、WDSとEDSとのそれぞれについて、それぞれのX線分光器を使用して分析が適切に行なえるために満たすべき設定条件が格納されている。
【0033】
図9は、プログラム26の機能を説明するためのブロック図である。プログラム26は、点分析と線分析と面分析のうちのどの分析モードによって分析を行なうかを操作者が指定するための指定部26a(分析モード指定手段)と、予め決めてあるEPMAの確認項目についての設定状態を収集する収集部26b(収集手段)と、指定された分析モードに対してWDSとEDSとによる分析が適切に行なえるために満たすべき設定条件をデータベースから読出し、現在の設定状態が設定条件を満たしているかを判定する判定部26c(判定手段)と、その判定結果を操作者に対してWDSとEDSとについて通知する通知部26c(通知手段)とを備えている。
【0034】
先ず、EPMAの確認項目について説明する。図3は、例えば表示装置24に表示されるウィンドウの例である。図3(a)は、WDSで点分析を行なう場合を表示する例である。確認事項には、電子銃1に加速電圧が印加されている(ONになっている)か、照射電流検出器8が電子線通路から引き出されている(OUTになっている)か、仕切り弁10が開の状態にある(OPENになっている)か、イメージシフト機能が不使用の状態になっている(OFFになっている)か、試料ステージに支持された試料4の分析点高さが所定の位置(この装置例では11mm)に対して±1mm以内にあるか、走査コイル9が動作状態にない(プローブスキャンがOFFされている)か、等がある。各確認項目の左側にある丸印は、確認項目別の適否を表す表示ランプである。点分析モードにおいては電子線の走査を行なわないとして、図3(a)では走査像倍率の項目が薄く表示されている。
【0035】
なお、照射電流検出器8、仕切り弁10及びZ粗動機構20については、機種によりこれら機能を搭載していないEPMAもある。その機種では、当然ながらそれらの機能が確認項目に入ることは無い。
【0036】
次に、点分析と線分析と面分析のうちのどの分析モードによって分析を行なうかを操作者が指定する方法例と、現在の設定状態がデータベースに格納されている設定条件を満たしているかの判定結果を操作者に通知する方法例について図4を参照しながら説明する。
【0037】
はじめに、操作者が分析モードを指定する方法例について説明する。図4は、例えば表示装置24に表示されるウィンドウの例である。図4において、42,43,44,45はラジオボタンである。操作者がWDSの列にある42又は43の何れかのボタンをマウスでクリックすることにより、点分析若しくは線・面分析のいずれかが選択される。EDSについては、ラジオボタン44又は45の何れかを選択する。図4では、選択された方のラジオボタンを◎(二重丸)で表している。
【0038】
次に、判定結果を操作者に通知する方法例について説明する。設定条件の列にある40,41はWDS及びEDSが設定条件を満たしているか否かを表示する表示ランプである。設定条件を満たしているときは表示ランプが点灯するようにしている。●(黒丸)はランプが点灯している状態、○(白丸)は消灯している状態を示す。
【0039】
なお図4において、線分析と面分析の分析モードを1つのラジオボタンにしているが、点、線、面の3つに分けて選択できるようにしても良い。
【0040】
以下、図2に示すフロー図を参照しながら、本発明を実施する手順の一例を説明する。なお図2の手順は、分析モードの指定を除いて、全てプログラム26を含む測定制御装置22により自動的に実行される。
【0041】
ステップS1において、予め決められているEPMAの確認項目についての設定状態を収集(モニタ)する。
【0042】
ステップS2において、WDSとEDSのそれぞれについて、点分析と線分析と面分析のうちのどのモードが操作者によって指定されているかを確認する。操作者が図4に示すウィンドウ上から分析モードを指定する操作は、プログラム26の実行中にいつでも起こりえるため、フロー図中には特に示していない。
【0043】
ステップ3において、指定された分析モードについて、WDSで測定に適した分析条件に設定されているか否かを判定しステップS4に進む。WDSの測定に適すると判定されたときは、ステップS4からステップS5に進み、WDSとEDSの表示ランプを点灯させる。 WDSの測定に適しないと判定されたときは、ステップS4からステップS7に進み、WDSの表示ランプを消灯させる。
【0044】
ステップS8において、図3(a)に示すように、確認項目別の適否を表示する。確認項目別に設定条件を満たしているときは表示ランプが点灯するようにしている。●(黒丸)はランプが点灯している状態、○(白丸)は消灯している状態を示す。図3(a)の示す状態は、イメージシフトがOFFとなっていないことを示している。図4において、点分析モードが指定されており、WDSの表示ランプが消灯している状態を操作者が見てその原因を知りたいときは、図3に示すウィンドウを見ればよい。
【0045】
ステップS9において、指定された分析モードについて、EDSで測定に適した分析条件に設定されているか否かを判定しステップS10に進む。EDSの測定に適すると判定されたときは、ステップS10からステップS11に進み、EDSの表示ランプを点灯させる。
【0046】
EDSの測定に適しないと判定されたときは、ステップS10からステップS12に進み、EDSの表示ランプを消灯させる。
【0047】
ステップS13において、図3(b)に示すように、確認項目別の適否を表示する。確認項目別に設定条件を満たしているときは表示ランプが点灯するようにしている。●(黒丸)はランプが点灯している状態、○(白丸)は消灯している状態を示す。図3(b)の示す状態は、ステージ高さが所定の位置に対して±1mm以内となっていないことを示している。
【0048】
ステップS5、ステップS11又はステップS13からステップS6に進む。
プログラム26の実行終了の操作が行なわれない限り、ステップS6からステップS1に戻り、ステップS1以下の一連の処理が続行される。
【0049】
なお、図2のフロー図において、確認項目別の適否をWDS及びEDSについて表示するようにしているが、図4に示すようなWDSとEDSについての適否を表示するだけでも良い。しかし、確認項目別の適否を表示する方が、表示ランプが消灯しているときの原因を素早く知ることができる。そのため、特に分析に不慣れな操作者にとって、確認項目別の適否の表示はより有効である。
【0050】
また、上記した判定結果を操作者に通知する方法例において、表示装置のウィンドウ上に表示された擬似ランプを用いる例を示したが、実際のランプを点灯、消灯させるようにしても良い。
【0051】
背景技術の説明の中で述べたように、EDSによって測定を行なうときの設定条件は一般にWDSに比較して緩い。そのため、WDSで測定に適すると判定されたときはEDSについても測定に適するとして、ステップS5ではWDSとEDSとも表示ランプを点灯させている。もしEDSについて特定のWDSとは異なる特定の条件を追加した場合は、ステップS5を削除してWDSと独立した判定を行なうようにすれば良い。
【0052】
以上述べたように、本発明によれば、WDSとEDSと同時に搭載したX線分析装置(EPMA)において、分析モードをも考慮して分析を正しく行なえる状態であるか否かを判断し、判断の結果を操作者に分かりやすく通知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明を実施するWDSとEDSとを搭載したEPMAの概略構成例を示すブロック図。
【図2】本発明を実施する手順の一例を説明するためのフロー図。
【図3】本発明において確認項目別の適否を表示するウィンドウの表示例。
【図4】分析モードを指定する方法例と、判定結果を操作者に通知する方法例を説明するためのウィンドウの一例。
【図5】EPMAに装備されているWDSの原理を説明するための模式図。
【図6】PIN型半導体をX線検出に用いるEDSのX線検出の原理を説明するための図。
【図7】半導体検出器の前方に絞りを設けるEDSの例を示す図。
【図8】WDSとEDSとを搭載した従来のEPMAの概略構成例を示すブロック図。
【図9】本発明を実施する手段が格納されたプログラムの機能を説明するためのブロック図。
【符号の説明】
【0054】
(同一または類似の動作を行なうものには共通の符号を付す。)
EB…電子線、S…分析点、1…電子銃、2…集束レンズ、3…対物レンズ、4…試料、5…特性X線、6…波長分散型X線分光器(WDS)、7…エネルギー分散型X線分光器(EDS)、8…照射電流検出器、9…走査コイル、10…仕切り弁、11…EOS制御系、12…分光結晶、13…X線検出器、14…WDS駆動系、15…EDS測定制御系、16…EDS測定制御系、17…試料ステージ、18…XY移動機構、19…Z微動機構、20…Z粗動機構、21…試料ステージ制御系、22…測定制御装置、23…入力装置、24…表示装置、25…データベース、26…プログラム、26a…指定部、26b…収集部、26c…判定部、26d…通知部、30…半導体X線検出器、31…保護筒、31a…X線通過孔、32…熱伝導材、33…ウィンドウ、34…入射X線制限絞り板、34a,34b,34c…絞り孔、35…回転支持棒、40,41…表示ランプ、42,43,44,45…ラジオボタン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細く絞った電子線を試料に照射し、該試料表面から発生する特性X線を検出して元素分析を行なうX線分析装置であって、
細く絞った電子線を試料上の任意の位置に照射する手段と、
試料位置を前記電子線の照射方向に対して垂直方向及び平行方向に移動させる手段と、
波長分散型X線分光器とエネルギー分散型X線分光器とを備えたX線分析装置において、
点分析と線分析と面分析のそれぞれの分析モードに応じて、前記波長分散型X線分光器と前記エネルギー分散型X線分光器とのそれぞれについて、それぞれのX線分光器を使用して分析が適切に行なえるために満たすべき設定条件が格納されたデータベースと、
点分析と線分析と面分析のうちのどの分析モードによって分析を行なうかを操作者が指定するための分析モード指定手段と、
予め決めてある前記X線分析装置の確認項目についての設定状態を収集する収集手段と、
前記分析モード指定手段によって指定された分析モードに対して、前記波長分散型X線分光器と前記エネルギー分散型X線分光器とによる分析が適切に行なえるために満たすべき設定条件を前記データベースから読出し、前記収集手段によって収集された前記設定状態が前記設定条件を満たしているかを判定する判定手段と、
前記波長分散型X線分光器と前記エネルギー分散型X線分光器とについての前記判定手段による判定結果を操作者に対して通知する通知手段と、
を備えることを特徴とするX線分析装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記波長分散型X線分光器と前記エネルギー分散型X線分光器とのそれぞれについて別々に、前記設定状態が前記設定条件を満たしているかを判定するようにしたことを特徴とする請求項1に記載のX線分析装置。
【請求項3】
前記通知手段は、前記波長分散型X線分光器と前記エネルギー分散型X線分光器とのそれぞれについて、前記設定状態が前記設定条件を満たしているか否かをランプの点灯と消灯状態の切り替えによって通知するようにしたことを特徴とする請求項1又は2の何れかに記載のX線分析装置。
【請求項4】
前記ランプは、前記X線分析装置に備えられているコンピュータのウィンドウ上に表示される擬似的ランプであることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のX線分析装置。
【請求項5】
前記設定状態が前記設定条件を満たしているか否かの判定結果を前記確認項目別に操作者に対して通知する項目別通知手段をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のX線分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−107334(P2010−107334A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−279296(P2008−279296)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】