説明

電子線描画装置

【課題】ブランキング中に電子ビームの漏れが生じない電子線描画装置を提供すること。
【解決手段】電子ビームを放射する電子銃と、電子ビームの形状を成形する多種の成形穴が配置されたアパーチャと、選択した成形穴の向きに前記電子ビームを偏向させる成形偏向器または一括偏向器と、試料に電子ビームを照射しないときは電子ビームの通過を遮る対物絞りと、対物絞りによって電子ビームが遮られるように電子ビームに偏向をかけるブランキング手段とを有し、成形偏向または一括偏向の過渡的な偏向電圧による電子ビームの離軸方向に応じて前記ブランキング手段の偏向方向を変えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線描画装置に係わり、特にブランキング中の電子ビーム漏れ防止に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体デバイスの微細化にともなって、半導体の微細加工技術の一翼を担うリソグラフィー装置も更なる微細化対応が求められている。その中でも電子線描画装置は100nmルール以下のデバイス向けのリソグラフィー装置として期待されている。
【0003】
この電子線描画装置に係わる特許文献1によれば、ブランキング中に、偏向器の偏向電圧を印加する位置を切り替え移動させ、この切り替え移動に際しては電子ビームのブランキング点がブランク絞りである対物絞りの開口穴を通過しないように、開口穴の縁部から離れた外周側部位を移動させるようにしている。こうしてブランキング時に電子ビームが対物絞りの開口穴から漏れないようにしている。
【0004】
【特許文献1】特開平5−28942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、偏向器の各偏向電極に印加される偏向電圧は、一定の目標偏向電圧に達するまで偏向電圧速度がばらつく。この偏向電圧速度のばらつきにより、電子ビームのブランキング点がふらつくように移動し、電子ビームが対物絞りの開口穴から漏れ、不必要な露光が試料に行われる不具合が生ずる。
【0006】
この目標偏向電圧に達するまでの過渡的な時間内で生じる偏向電圧変化は、一括偏向のような大きな偏向印加電圧がかけられるときに起き易く、電子ビーム漏れが生じ易い。
【0007】
この電子ビーム漏れの問題に対処し、本発明は、ブランキング中に電子ビームの漏れが生じない電子線描画装置を提供することに目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、電子ビームを放射する電子銃と、電子ビームの形状を成形する多種の成形穴が配置されたアパーチャと、選択した成形穴の向きに前記電子ビームを偏向させる成形偏向器または一括偏向器と、試料に電子ビームを照射しないときは電子ビームの通過を遮る対物絞りと、対物絞りによって電子ビームが遮られるように電子ビームに偏向をかけるブランキング手段とを有し、成形偏向または一括偏向の過渡的な偏向電圧による電子ビームの離軸方向に応じて前記ブランキング手段の偏向方向を変えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ブランキング中の電子ビーム漏れを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施形態に係わる実施例について、図を引用して説明する。
【0011】
まず、図1に沿って電子線描画装置の概要を説明する。
【0012】
光学系筒体の上側に備わる電子銃121は、電子ビームを放射する。電子ビーム制御系のブランキング手段はブランキング電極101を有する。このブランキング電極101により試料114へ照射される電子ビームがオン、オフされる。
【0013】
さらに、電子ビーム制御系は、電子ビームの形状を決める成形偏向器102、斜め図形など個別の電子ビームの図形を選択する一括偏向器103、電子ビームの試料114への照射位置を制御する対物偏向器104、電子ビームの絞り具合を調整するレンズ105を有する。また試料搬送系としては、ウエハやマスクなどの試料114を目的の位置に搬送するステージ106、ステージ106に試料114を運ぶためのローダ107、試料114の位置を正確に測定するためのレーザ測長機構108などを有する。
【0014】
電子線描画装置の描画制御について述べる。
【0015】
まず、ワークステーション113から試料114上に描画する図形のパターンデータがデータ制御系112に転送される。データ制御系112はそのパターンデータを電子ビーム制御データに変換し、アナログ制御系のブランキング制御基板109、アナログ成形・一括偏向制御基板110、アナログ対物偏向制御基板111に転送する。アナログ制御系はその制御データにしたがって、成形偏向器102、一括偏向器103、対物偏向器104に電圧信号を順次印加し、各偏向器の印加電圧が整定された時点でブランキング電極101により電子ビームをオンして、電子ビームを試料114上に照射する。照射による露光が終了次第、ブランキング電極101によって電子ビームをオフして、また各偏向の印加電圧変更を始める。このような繰り返しによって試料上の所定の位置に所定の形状をした電子ビームの照射を次々と行う。
【0016】
次に成形偏向および一括偏向について、図2に沿って詳しく説明する。
【0017】
図2に成形偏向および一括偏向を含めた光学系を示す。
【0018】
第1のアパーチャ201は、電子銃121から放射された電子ビームを正方形に成形する方形の成形穴を中央に有する。第2のアパーチャ202は、電子ビームを成形する方形の成形穴を中央に有する。この方形の成形穴から離れた周囲には種々の形状を有する多種の成形穴が形成される。この多種の成形穴を一括の成形穴と言う。
【0019】
第2のアパーチャ202に設けられた方形の成形穴は、角部を利用してサイズの異なる矩形の電子ビームの形成に用いられる。一括の成形穴は、穴形状に合わせた電子ビームの形成に使われる。
【0020】
成形偏向器102は、第2のアパーチャ202に設けた方形の成形穴に通す電子ビームに偏向を加える。この偏向により、成形穴を通過する電子ビームは、切り合い加減されて異なるサイズの矩形をなす電子ビームに形成される。切り合い加減は、成形偏向器102に印加する電圧により調整される。
【0021】
一括偏向器103は、成形偏向器102を挟んで上下に配置される。この一括偏向器103の偏向により、電子ビームは第2のアパーチャ202に設けられた一括の成形穴を選択して通過する。この通過により、成形穴に合った形状の電子ビームが形成される。
【0022】
成形偏向器102、一括偏向器103は、成形レンズ206のクロスオーバ点203の中心に配置されているので、これらの偏向作用によって電子ビーム軸209が光学系の中心軸204からずれることなく、縮小電子レンズ210で絞られ、対物絞り205の開口穴を通じて電子ビームが試料114に照射される。
【0023】
ブランキング電極101は、成形レンズ206のクロスオーバ点203より離れた上側の位置に配置されている。
【0024】
電子ビームのブランキングは、試料114に照射される露光中には行われない。図2の(1)に示す露光中には、対物絞り205の開口穴を通じて電子ビームが試料114に照射される。これがブランキングのオフである。
【0025】
図2の(2)に示す露光中には、対物絞り211に電子ビームが受け止められ試料114に照射が行われない。ブランキング電極101にブランキング電圧が印加されて電子ビームに偏向がかかり、電子ビーム軸209が中心軸からずれるのである。これがブランキングのオンである。
【0026】
ブランキング中の電子ビーム漏れについて説明する。
【0027】
ブランキング中に電子ビームが、対物絞り205の開口穴から漏れないように種々の仕方が考えられる。
【0028】
一つ(1)は、成形および一括偏向の偏向速度ばらつきを調整によって無くし、すべての偏向電圧が安定するまでのセトリング時間が同等になるようにする。
【0029】
もう一つ(2)は、ブランキング電極に印加する電圧を上げて、電子ビームを軸中心から大きく離軸させ、成形および一括偏向の偏向速度ばらつきによる離軸作用に打ち勝つようにする。
【0030】
もう一つ(3)は、ブランキング電極を2極あるいは多極化させ、ブランキング方向を成形、一括偏向の偏向速度ばらつき方向と同一になるようにブランキング極性を切り替える。
【0031】
(1)の方式は、成形、一括偏向のセトリング時間を偏向幅に無関係に一定としなければならないため、現状の増幅アンプを用いて実現しようとすると非常に調整が難しいと言わざるを得ない。
【0032】
(2)の方式では、ブランキング電極に印加する電圧を上げると、必然的にブランキングスピード遅くなってしまう。このため、ブランキングのオン、オフの切り替え動作時の過渡的な電子ビームの挙動により、不要な露光を増やしてしまったり、必要部分の露光量を減らしてしまったりして、新たなる問題を発生させてしまう可能性がある。
【0033】
このような問題に対処し、本発明は(3)の方式を用いて、成形ないし一括偏向速度ばらつきによる電子ビーム漏れ解決を図るようにした。
【0034】
すなわち、ブランキング電極として2極あるいは多極のものを用い、ブランキング制御基板の出力側に接続する。電子ビームのブランキング制御基板の出力にはリレーやアナログスイッチなどにより、0V側およびブランキング制御側の切り替えが可能であり、これによってブランキング制御方向が切り替えられる。成形偏向および一括偏向による大きな偏向動作で偏向速度ばらつきが予想される場合、その方向側と同一のブランキング方向を先ほどのリレー、スイッチ等で選択しておき、偏向速度ばらつきによる電子ビームの離軸作用とブランキングでの離軸作用とを打ち消す関係とならないようにして電子ビーム漏れを防ぐ。
【0035】
次に図3を引用し、ブランキング電極、制御基板、切り替え器について説明する。
【0036】
まず、ブランキング電極101としては、2極以上の多極化したものが用いられる。本実施例では8極のブランキング電極101を例示した。このブランキング電極101の各電極はブランキング制御基板109の出力側と8本の出力線にて接続される。
【0037】
またブランキング制御基板109は、リレーまたはアナログスイッチ開閉制御信号304で作動するリレーまたはアナログスイッチ301の切り替え器と出力ドライバー302を有し、この切り替え器を介して出力ドライバー302がブランキング電極101に接続される。出力ドライバー302の出力は、制御信号303によって、出力をドライバー側または0V側というように切り替えることが出来る仕組みになっている。
【0038】
次に図4を加えて電子ビーム漏れ防止について更に詳しく述べる。
【0039】
ここでは、成形偏向の偏向速度ばらつきによる電子ビームの離軸作用は無視できるほど小さく、一括偏向による電子ビーム離軸が大きいものとする。一括偏向を例示して説明する。
【0040】
401は、一括偏向の偏向ベクトル、402は一括偏向の偏向合成ベクトル、403は角度補正量、404はブランキング方向、405はドライブ側のブランキング電極、406は0V(ゼロボルト)側のブランキング電極である。
【0041】
まず、描画パターンデータから描画制御データを作成し、描画順序が決定した段階で、一括偏向で大きな偏向作用を生じさせるデータを選び出す。この大きな偏向作用は一括偏向の偏向ばらつき作用を発生させるため、大きな偏向作用をもつデータを閾値など設けて計算して選び出しても良い。
【0042】
そして、選び出したデータの偏向方向のベクトル和を計算する。この合成ベクトル方向が決まったら、この方向に幾らかの角度補正をおこなって、ブランキング方向を決定する。
【0043】
なお、角度補正は一括偏向器の構成および電子光学系の条件によって変わってくるため、電子ビーム描画装置の立ち上げの際に、シュミレーション等にて固有の角度補正量をあらかじめ決定しておくとよい。
【0044】
このようにブランキング方向が決定したら、リレーまたはアナログスイッチの制御信号によって、ブランキング方向に一番近い方向になるようにブランキング電極の0V側および出力ドライバー側の選定を行う。こうしてブランキング電極の選択を行った上で描画することにより、一括偏向の偏向速度ばらつきによる電子ビーム漏れは防止できる。
【0045】
次に図5を引用し、ブランキング電極、制御基板、切り替え器に関する他の実施例について説明する。
【0046】
前述した実施例によって、一括偏向速度ばらつきによる電子ビーム漏れはほとんど防止できる。しかし、一括偏向を多用して行う描画においては、大きな偏向方向のベクトルがあらゆる方向を向いているような場合が想定され、上記実施例のように描画前に一旦きめたブランキング方向を描画中も固定化したままで運用するということでは十分対処できない場合がある。そこで下記のように、ブランキング方向を描画中に切り替える手段をとる必要がある。
【0047】
すなわち、一括偏向の描画データを生成する際に、あるショットとその次のショットの描画データとの差分を計算して、偏向ベクトルの算出を行っておき、上記実施例のようにブランキング方向の導出をしておく。その後、あるショットの描画露光中にブランキング電極をアナログスイッチ制御信号にて、前もって導出したブランキング方向になるように出力接点位置を変更し、次のショット待ち時間において、ブランキング方向にブランキングさせる。これによって一括偏向の偏向速度ばらつきを防止することができる。本実施例においてはショットごとにブランキング方向を変更させる必要があるため、高速に切り替えが必要となり、リレー等の切り替え速度の遅いものは適用できず、アナログスイッチ等の切り替えスピードが速いものが必要となる。また、描画中での切り替えが必要となるため、切り替え瞬間での不定出力をふせぐため出力終端低抵抗501を設けて0V電位との間でバイアスをかけておく必要がある。
【0048】
上記実施例によれば、成形偏向および一括偏向動作時における偏向速度ばらつきに起因する離軸作用によって、電子ビームが漏れて出てきてしまうという現象を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施形態に係わる実施例を示すもので、電子線描画装置の概要を示す図。
【図2】本発明の実施形態に係わる実施例を示すもので、ブランキングのオン時、オフ時を併せて示した図。
【図3】本発明の実施形態に係わる実施例を示すもので、ブランキング電極、制御基板、切り替え器を示す図。
【図4】本発明の実施形態に係わる実施例を示すもので、第2のアパーチャ2上における一括偏向動作の様子とブランキング方向の決定方法について示した図。
【図5】本発明の実施形態に係わる他の実施例を示すもので、ブランキング電極、制御基板、切り替え器を示す図。
【符号の説明】
【0050】
101…ブランキング電極、102…成形偏向器、103…一括偏向器、104…対物偏向器、114…試料、121…電子銃、202…第2のアパーチャ、205…対物絞り、209…電子ビーム軸心。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを放射する電子銃と、前記電子ビームの形状を成形する多種の成形穴が配置されたアパーチャと、選択した前記成形穴の向きに前記電子ビームを偏向させる成形偏向器または一括偏向器と、試料に前記電子ビームを照射しないときは前記電子ビームの通過を遮る対物絞りと、前記対物絞りによって前記電子ビームが遮られるように前記電子ビームに偏向をかけるブランキング手段とを有し、
成形偏向または一括偏向の過渡的な偏向電圧変化による電子ビームの離軸方向に応じて前記ブランキング手段の偏向方向を変えることを特徴とする電子線描画装置。
【請求項2】
請求項1記載の電子線描画装置において、
前記ブランキング手段は、複数の偏向方向を生成する複数の偏向電極を設けたことを特徴とする電子線描画装置。
【請求項3】
請求項2記載の電子線描画装置において、
前記偏向電極に印加する電圧の印加方向を偏向方向の変更に応じて切り替える切り替え手段を設けたことを特徴とする電子線描画装置。
【請求項4】
請求項3記載の電子線描画装置において、
前記切り替え手段の切り替えは、前記試料に前記電子ビームを照射している際に行い、前記試料への照射待機中は前記ブランキング手段による前記電子ビームの遮蔽を行うことを特徴とする電子線描画装置。
【請求項5】
請求項3記載の電子線描画装置において、
前記切り替え手段の切り替えは、前記電子ビームを放射する描画前に行うことを特徴とする電子線描画装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−5133(P2006−5133A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−179483(P2004−179483)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】