説明

電子線硬化性樹脂組成物、積層体、及び、粘着シート又は粘着フィルム

【課題】反応性希釈剤を含有する電子線硬化性樹脂組成物の優れた物性等を維持したうえで、電子線硬化時の白煙発生が充分に抑制された電子線硬化性樹脂組成物、特に表面保護フィルムの粘着剤層を形成するための材料として有用である電子線硬化性樹脂組成物、これを硬化させて形成した積層体、及び、積層体から構成される粘着シート又は粘着フィルムを提供する。
【解決手段】(メタ)アクリル系重合体と反応性希釈剤とを含有する電子線硬化性樹脂組成物であって、上記反応性希釈剤は、引火点が110℃以上の単官能性単量体を主成分とすることを特徴とする電子線硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線硬化性樹脂組成物、好ましくは表面保護フィルム用電子線硬化性樹脂組成物、積層体、及び、粘着シート又は粘着フィルムに関する。より詳しくは電子線の照射により硬化可能であり、硬化物は粘着剤、接着剤等の用途に、特に表面保護フィルムにおける粘着剤、接着剤等の用途に好適に用いることができる電子線硬化性樹脂組成物、これを硬化させて形成した積層体、及び、積層体から構成される粘着シート又は粘着フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子線(Electron Beam:EB)硬化技術は、省エネルギー、省スペース及び硬化時間の短縮化等の利点を有しており、印刷・コーティング、塗装、接着、架橋、殺菌・滅菌等その利用範囲が拡大している。電子線硬化方式は、例えば紫外線(Ultraviolet rays:UV)硬化方式に比べて、以下に示すような優れた特徴を有している。電子線は、光エネルギーと比較してエネルギーが飛躍的に高く、塗膜の透明性や膜厚に比較的影響されずに硬化反応がよく進行するため、硬化塗膜は優れた性質を示す。例えば、電子線硬化性材料では、紫外線硬化では不可欠な光重合開始剤や増感剤の添加を不要とすることができる。
従って、電子線硬化方式では、紫外線硬化方式の場合のような硬化塗膜中に未反応の光重合開始剤が残留しないようにすることが可能である。更に、電子線硬化技術においては、多官能反応性オリゴマーや重合性モノマー類として、アクリレート類よりも優れた性質を有するメタクリレート類も使用することができる。また、オリゴマー類の紙やプラスチック基材表面への反応等を進行させることができるため、紫外線硬化方式と比較すると基材に対して優れた接着性を示すことも知られている。
【0003】
従来の電子線の照射により硬化する電子線硬化性組成物としては、例えば、アクリル酸アルキルエステルと極性基を有するビニル単量体とからなる共重合体主鎖にオレフィン性不飽和結合を有する側鎖を特定割合で導入したアクリル系共重合体からなり、実質的に無溶剤で塗布可能な粘着剤組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、特定のアクリル酸エステルの重合体、特定のアクリル酸エステルモノマー及び1分子中にアクリロイル基を2個以上有するアクリル酸エステルを主成分とする粘着剤組成物が開示されている(例えば、特許文献2参照)。更に、アクリル酸又はメタアクリル酸のアルキルエステルを主成分とする共重合体に紫外線又は電子線によりラジカル架橋を起こし得る不飽和結合を有する特定のオリゴマー及び光増感剤を配合してなる感圧性接着剤組成物が開示されている(例えば、特許文献3参照)。そして、電子線又は紫外線により重合硬化する、分子内に放射線重合性の不飽和結合を有してなる(メタ)アクリル系ポリマーと多官能性オリゴマーとを主成分として含む再剥離性粘着剤が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【0004】
また、基材シート表面に塗布された電子線硬化性粘着剤組成物に電子線を照射して粘着シートを製造する方法が開示されている(例えば、特許文献5参照)。
更に、特定のアクリル系共重合体と放射線官能性不飽和結合を分子内に1個以上有する単量体を配合してなる放射線硬化型粘着剤組成物及び該組成物を放射線(EB、UV等)硬化して得られる粘着剤層を形成してなる粘着テープ若しくはシートが開示されている(例えば、特許文献6参照)。
【特許文献1】特開昭57−109873号公報(第1−2頁)
【特許文献2】特開昭58−108275号公報(第1−3頁)
【特許文献3】特開昭59−176370号公報(第1、3頁)
【特許文献4】特開平2−187478号公報(第1、4、5頁)
【特許文献5】特開昭58−208363号公報(第1−3頁)
【特許文献6】特開平8−20749号公報(第2−4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、反応性希釈剤を含有する電子線硬化性樹脂組成物を電子線照射により硬化する場合、例えば、樹脂組成物をフィルム等の基材に塗工し、基材上に形成された樹脂層に電子線を照射することになるが、その際に樹脂表面より白煙が発生することが判明した。
白煙の発生原因について検討した結果、粘着特性付与のために添加している反応性希釈剤の一部、例えば、2−エチルヘキシルアクリレートが、電子線照射時に蒸発し、それが白煙となっていることが分かった。この現象は、樹脂組成物を希釈するのに反応性希釈剤を使用していること、また硬化手法として電子線照射を行うことに起因するものと考えられる。すなわち、反応性希釈剤を使用することによって、希釈剤自体が重合反応することになり、また電子線によって高エネルギーで活性が付与されることから、重合発熱による樹脂層の温度上昇等の現象が生じて白煙が発生することになると考えられる。
このように発生した白煙により、作業環境が悪化する可能性があり、電子線硬化工程において使用する機器や設備に悪影響を及ぼす可能性がある。反応性希釈剤を含有する電子線硬化性樹脂組成物によって、積層体や粘着シート又は粘着フィルム等の表面保護フィルムの粘着剤層等が形成されることになるが、これらを安定的に長期にわたって生産するためには、白煙の除去装置等を設置する必要があることが分かった。また反応性希釈剤が蒸発して白煙が発生すれば、電子線硬化性樹脂組成物の組成変動が生じ、それによって物性に影響を及ぼすことになり、設計通りの物性発現が困難となる。更に、硬化反応自体にも影響を与え、電子線による硬化を充分に進行させることも困難となる。このように、従来の技術においては、反応性希釈剤を含有する電子線硬化性樹脂組成物を電子線照射により硬化する際に、白煙の発生を充分に抑制して、白煙発生に起因する種々の問題点を解消して効率的に表面保護フィルムの粘着剤層等の形成工程を行えるようにするための工夫の余地があった。
【0006】
以上のように、本発明者らは、反応性希釈剤を含有する電子線硬化性樹脂組成物を電子線硬化した場合に特有の現象として白煙が発生すること、それに起因して製造工程や製品品質・物性等に影響を与えるという、当該技術分野における当業者がこれまでに提示していなかった課題を発見したものである。
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、反応性希釈剤を含有する電子線硬化性樹脂組成物の優れた物性等を維持したうえで、電子線硬化時の白煙発生が充分に抑制された電子線硬化性樹脂組成物、特に表面保護フィルムの粘着剤層を形成するための材料として有用である電子線硬化性樹脂組成物、これを硬化させて形成した積層体、及び、積層体から構成される粘着シート又は粘着フィルムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、反応性希釈剤を含有する電子線硬化性樹脂組成物を種々の用途に用いることについて検討したところ、先ず、(メタ)アクリル系重合体と反応性希釈剤とを含有する電子線硬化性樹脂組成物が(メタ)アクリル系重合体に起因する優れた物性を発揮し、また反応性希釈剤に起因する物性向上、希釈剤の蒸発抑制による環境対策等に優れたものであることに着目した。ところが、上述したように電子線による硬化時に白煙が発生するという問題点があることが分かり、これを解決する手段を鋭意検討したところ、反応性希釈剤として引火点が特定された単官能性単量体が主成分となるようにすると、白煙発生を充分に抑制することができることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。引火点が110℃以上で且つ、ホモポリマーとしたときのガラス転移温度が−20℃以下の単官能性単量体を必須として含有するものとすると、粘着特性とフィルム基材等へのなじみ性とを両立することができ、各種基材の表面保護フィルムの粘着剤、特に、液晶ディスプレイに使用される偏光フィルム、位相差フィルム、EMI(電磁波)シールドフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム等の種々の機能を有する光学用フィルム(光学部材)の表面保護フィルムに要求される物性において良好な物性を発現することを見いだした。
【0008】
すなわち本発明は、白煙の発生を充分に抑制することができ、それによって作業環境を良好なものとし、電子線硬化工程において使用する機器や設備に悪影響を及ぼすことがなく、白煙の除去装置等を設置する必要もなく、また、電子線硬化性樹脂組成物の組成変動に起因して物性に影響を及ぼすことがなく、設計通りの物性を発現することができ、電子線による硬化を充分に進行させることができるものであり、且つ、種々の用途、特に光学フィルム用の表面保護フィルム用途等の要求物性を満たすことができる電子線硬化性樹脂組成物に関するものである。
引火点が110℃以上で且つ、ホモポリマーとしたときのガラス転移温度が−20℃以下の単官能性単量体を主成分とする電子線硬化性樹脂組成物は、電子線硬化性樹脂組成物の優れた物性等を維持したうえで、硬化時の白煙発生が充分に抑制されたものであり、光学フィルム用の表面保護フィルムの粘着剤として好適に用いることができるものである。
【0009】
本発明は、(メタ)アクリル系重合体と反応性希釈剤とを含有する電子線硬化性樹脂組成物であって、上記反応性希釈剤は、引火点が110℃以上の単官能性単量体を主成分とする電子線硬化性樹脂組成物である。
本発明は、引火点が110℃以上かつ、ホモポリマーとしたときのガラス転移温度が−20℃以下である単官能性単量体を主成分とする電子線硬化性樹脂組成物であることが好ましい。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
上記反応性希釈剤は、少なくとも1つのラジカル重合性基を有する単量体から構成されるものである。電子線硬化性樹脂組成物が反応性希釈剤を含有することにより、その希釈効果によって樹脂組成物が取り扱いしやすいものとなり、且つ、電子線硬化時にそれ自体が重合反応を起こして硬化に寄与することになる。したがって、電子線硬化性を向上し、また通常の溶媒と異なり、溶媒の除去工程・廃棄を不要とすることができる。
本発明の電子線硬化性樹脂組成物においては、上記反応性希釈剤として、引火点が110℃以上の単官能性単量体を主成分とすることになる。引火点を高く設定することによって、電子線硬化時の反応性希釈剤の蒸発を抑え、引火点を110℃まで引き上げて110℃以上とすることによって、白煙の発生が抑制され、本願発明の作用効果が充分に発揮されることになる。また単官能性単量体を使用することによって、粘着作用が発揮することになる。
【0011】
上記反応性希釈剤の引火点が110℃以上であることにより、上述したように本発明の電子線硬化性樹脂組成物を電子線硬化させた際の反応性希釈剤の蒸発を低減することができ、白煙発生を充分に抑制することができる。これにより、作業環境を良好なものとし、電子線硬化工程において使用する機器や設備に悪影響を及ぼすことがなく、白煙の除去装置等を設置する必要性もなくなることになる。また電子線硬化性樹脂組成物の組成変動が生じることなく、物性に影響を及ぼさないため、設計通りの物性を発現することができる。特にホモポリマーとしたときのガラス転移温度が−20℃以下である単官能性単量体を反応性希釈剤に使用することにより、光学フィルム用の表面保護フィルム用途での粘着特性と基材へのなじみ性を両立することができる。
【0012】
上記反応性希釈剤において、好ましい形態は、引火点が110℃以上である単官能性単量体を主成分として含むことである。上記単官能性単量体の引火点をより高いものとすることにより、白煙の発生が更に抑制され、白煙発生の抑制にもとづく上述した効果がより顕著なものになる。より好ましくは、120℃以上であり、更に好ましくは、130℃以上である。また上限は特に限定されないが、300℃以下の単官能性単量体であれば工業的に入手が容易で好ましい。
【0013】
本明細書中、「主成分とする」とは、本発明の効果が得られると評価できる程度含まれていること、すなわち、白煙の発生を充分に抑制して上述した作業環境を良好なものとする等の効果を発揮することができる程度含まれていることを意味する。
本発明の電子線硬化性樹脂組成物に含有される反応性希釈剤100質量%に対して、引火点が110℃以上である単官能性単量体は、30質量%以上であることが好ましい。40質量%以上がより好ましく、50質量%以上が更に好ましい。上限は特に限定されず、反応性希釈剤の実質的に全てが上記引火点が110℃以上である単官能性単量体を使用することができる。
本発明の電子線硬化性樹脂組成物100質量%に対して、引火点が110℃以上である単官能性単量体は、15〜70質量%であることが好ましい。20〜60質量%がより好ましく、更に25〜50質量%が更に好ましい。
【0014】
上記引火点が110℃以上である単官能性単量体とは、引火点が110℃以上の単量体であって、1つのラジカル重合性基を有するものであればよいが、中でも1つの(メタ)アクリロイル基を有するものであることがより好ましい。
上記引火点が110℃以上である単官能性単量体としては、例えば、アクリル酸アルキルエステルを含有するものであることが好ましく、実質的にアクリル酸アルキルエステルだけからなることが好ましい。特にホモポリマーとしたときのガラス転移温度が−20℃以下である(メタ)アクリル酸エステルであることが好ましい。これにより、本発明の電子線硬化性樹脂組成物は種々の用途、特に表面保護フィルムの粘着層として使用する際に有効である。
【0015】
上記アクリル酸エステルとしては、エトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、2−エチルヘキシルジグリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、ラウリルアクリレート、イソミリスチルアクリレート、ステアリルアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ジシクロペンテニルエチルアクリレート等が挙げられる。
特に、エトキシジエチレングリコールアクリレート、2−エチルヘキシルジグリコールアクリレートが好ましく、2−エチルヘキシルジグリコールアクリレートがより好ましい。
なお、上記単官能性単量体の構造式を例示すると、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルジグリコールアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ジシクロペンテニルエチルアクリレートは、それぞれ下記式(1)、式(2)、式(3)、式(4)、式(5)、式(6)の通りである。
【0016】
【化1】

【0017】
本発明の電子線硬化性樹脂組成物において、上記引火点が110℃以上の単官能性単量体は、ホモポリマーとしたときのガラス転移温度が−20℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度とは、単官能性単量体由来の単量体単位のみから構成されるホモポリマーのガラス転移温度を意味するものである。すなわち、当該単官能性単量体だけによって構成されるホモポリマー(単独重合体)のガラス転移温度(Tg)が−20℃以下となるように単量体の構成を設定することが好ましい。具体的には、例えば、単官能性単量体を1種用いる場合には、当該単官能性単量体をホモポリマーとしたときのガラス転移温度が−20℃以下であることが好ましい。また単官能性単量体を2種以上用いる場合には、それぞれの単官能性単量体のホモポリマーにおけるガラス転移温度にもとづいて計算される単官能性単量体全体のガラス転移温度が−20℃以下であることが好ましい。
なお、上記ガラス転移温度は、単官能性単量体のホモポリマーにもとづいて計算されるものであるが、通常の方法にしたがって計算されるものであり、単官能性単量体を電子線硬化性樹脂組成物の中でホモポリマーとすることを意図しているのではない。
【0018】
上記ガラス転移温度が−20℃以下である単官能性単量体は、(メタ)アクリル系重合体(粘着ポリマー)とともに粘着剤として働くものであり、粘着特性等の樹脂組成物の物性を良好なものとしながら、白煙の発生を充分に抑制することが可能となる。
上記単官能性単量体のガラス転移温度は、−40℃以下であることが好ましく、−50℃以下であることがより好ましい。
【0019】
<他の単官能性単量体>
反応性希釈剤中における引火点が110℃以上の単官能性単量体以外の単官能性単量体としては、エステル基を構成するアルキル基が炭素数1〜18のアルキル基である各種のアクリル酸アルキルエステル又はメタクリル酸アルキルエステルを使用でき、具体的にはアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2−エチルへキシル、アクリル酸イソオクチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2−エチルへキシル、メタクリル酸イソオクチル等が使用できる。また、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルを単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよいし、更に共重合可能な他の単量体を併用してもよい。共重合可能な他の単量体としては、酢酸ビニル、スチレン、アクリロニトリル、アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、N−ビニルピロリドン等の各種の単量体をいずれも使用可能である。
【0020】
<多官能性単量体>
本発明の電子線硬化性樹脂組成物には、反応性希釈剤の主成分として引火点が110℃以上の単官能性単量体を含有しているが、粘着剤として要求される初期タック、粘着力、凝集力を発現させるために多官能性単量体が使用される。多官能性単量体は、粘着剤の架橋密度を高めポリマー主鎖の動きを抑制して、基材へのなじみ性や粘着力を調整することにより再剥離性能を調整し、特に光学フィルムの表面保護フィルムに必要な物性を発現させている。
【0021】
上述した多官能性単量体は、2つ以上のラジカル重合性基を有する単量体であることが好ましく、2つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する2官能以上の(メタ)アクリレートが特に好ましい。3つ以上のラジカル重合性基を有する単量体であることがより好ましい。この場合、3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する3官能以上の(メタ)アクリレートが特に好ましい。なお、本明細書中、3つのラジカル重合性基を有する単量体を3官能モノマーともいう。
上記反応性希釈剤が多官能性単量体を必須として含有することにより、多官能性単量体と引火点が110℃以上の単官能性単量体とが相まって、従来の電子線硬化性樹脂組成物が有する優れた物性等を充分に維持した上で、白煙の発生を充分に抑制することができる。
【0022】
上記2官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールA型ジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールA型ジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、フタル酸ジグリシジルエステルジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル(VEEA)、メタクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル等が挙げられる。
【0023】
上記3官能以上の(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリロイルオキシエトキシトリメチロールプロパン、グリセリンポリグリシジルエーテルポリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
中でも、3官能(メタ)アクリレートであるトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリロイルオキシエトキシトリメチロールプロパンが好ましく、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが特に好ましい。
上記その他の多官能(メタ)アクリレートとしては、エポキシ(メタ)アクリレート類、ウレタン(メタ)アクリレート類を適宜使用可能である。
【0024】
上記電子線硬化性樹脂組成物100質量%に対して、多官能性単量体の使用量は、0.5〜10質量%であることが好ましい。より好ましくは1〜7質量%であり、更に好ましくは1.5〜6質量%である。
上記反応性希釈剤100質量%に対して、多官能性単量体の使用量は、1〜20質量%であることが好ましい。より好ましくは3〜10質量%であり、更に好ましくは、5〜9質量%である。
上記引火点が110℃以上の単官能性単量体100質量%に対して、多官能性単量体の使用量は、0.5〜20質量%であることが好ましい。より好ましくは1〜15質量%であり、更に好ましくは2〜10質量%である。
【0025】
上記反応性希釈剤は、引火点が110℃以上の単官能性単量体を主成分とする限り、引火点が110℃未満の単官能性単量体以外の重合性モノマーを併用してもよい。すなわち、上記反応性希釈剤は、引火点が110℃以上の単官能性単量体を主成分として白煙発生を充分に抑制する効果を発揮されるものであるが、当該白煙発生抑制効果がほとんど妨げられていないと評価できる程度に限り、引火点が110℃未満の単官能性単量体以外の重合性モノマーを併用することができる。
このような重合性モノマーとしては、引火点が110℃以上の単官能性単量体と相溶性があるものであればよく、引火点が110℃以上の単官能性単量体以外の単官能若しくは多官能のラジカル重合性の化合物1種又は2種以上を適宜選択することができ、例えば、2−エチルヘキシルアクリレート等の引火点が110℃未満の単官能性単量体を併用するものであってもよいが、白煙発生をより充分に抑制することができる点で、上記反応性希釈剤は、引火点が110℃未満の単官能性単量体以外の重合性モノマーを実質的に含有しないものであることが好ましい。
【0026】
本発明の電子線硬化性樹脂組成物は、(メタ)アクリル系重合体が、引火点110℃以上の単官能性単量体を主成分とする反応性希釈剤中に溶解した状態、すなわち実質的に無溶剤の形態であることが好ましい。該樹脂組成物は、アクリルシラップとも称される。
【0027】
上記電子線硬化性樹脂組成物中に含有される(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量は、粘着剤層を形成した際の適度な接着特性や無溶剤塗工性の付与などの点から1万〜80万の範囲内が好ましく、2万〜60万の範囲内がより好ましい。更に好ましくは、3万〜50万の範囲内である。
上記(メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度は、特に電子線照射後の硬化性樹脂組成物に粘着剤としての特性を付与するためには、ガラス転移温度の範囲としては、−100℃〜30℃が好ましく、より好ましくは−80℃〜20℃、更に好ましくは−70℃〜10℃の範囲内である。
【0028】
上記アクリルシラップを構成する(メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度(Tg−a)は、DSC(示差走査熱量測定装置)、DTA(示差熱分析装置)、TMA(熱機械測定装置)によって求めることができる。また、ホモポリマーのTg(K)は各種文献(例えば、ポリマーハンドブック等)に記載されているので、コポリマーのTg(K)は、各種ホモポリマーのTg(K)と、モノマーの質量分率(W)とから下記式によって求めることもできる。
【0029】
【数1】

【0030】
ここでW:各単量体の質量分率
Tg:各単量体のホモポリマーのTg(K)
【0031】
上記(メタ)アクリル系重合体は、通常、アルキル基の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、これに共重合可能な他のモノマーとの共重合体である。本発明で使用する(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、エステルを形成するアルキル基の炭素数が通常は1〜18、好ましくは3〜12の化合物であり、このアルキル基は直鎖であっても分岐を有していてもよい。このような(メタ)アクリル酸アルキルエステルの例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、へキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、またイソボルニル(メタ)アクリレート、シクロへキシル(メタ)アクリレート等の環状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル等を挙げることができ、これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステルは単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0032】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルと反応して(メタ)アクリル系重合体を形成する他のモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、水酸基含有(メタ)アクリル化合物及び(メタ)アクリル酸以外のカルボキシル基含有化合物のいずれかを用いることが好ましい。
ここで(メタ)アクリル酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、これらの酸無水物及びこれらの塩を挙げることができる。水酸基含有(メタ)アクリル化合物としては、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸とポリプロピレングリコールまたはポリエチレングリコールとのモノエステル及びラクトン類と(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチルとの付加物のようなヒドロキシル基含有ビニル化合物を挙げることができる。また、(メタ)アクリル酸を除くカルボキシル基含有化合物の例としては、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸及びフマル酸のような不飽和カルボン酸を挙げることができる。
【0033】
上記(メタ)アクリル系重合体には、更に上記反応性希釈剤と共重合可能な他の単官能性単量体が共重合していてもよい。他の単官能性単量体としては、上述した以外の(メタ)アクリル系単量体、酢酸ビニル、ビニルトルエン、スチレン等のビニルモノマー等が挙げられる。
【0034】
上記電子線硬化性樹脂組成物中に含有される(メタ)アクリル系重合体の調製において、上記単量体成分を重合させる際には、重合開始剤を使用することが好ましい。
上記重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシオクトエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、クメンヒドロパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート等の有機過酸化物;2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2−フェニルアゾ−2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。単量体成分に対する重合開始剤の添加量等は、特に限定されるものではなく、通常添加される量を用いることができる。
【0035】
上記単量体成分を重合させる際には、重合体の平均分子量等を調節するために、連鎖移動剤を単量体成分に添加することがより望ましい。上記連鎖移動剤は、公知の種々の連鎖移動剤を用いることができるが、単量体成分の重合反応を極めて容易に制御できることから、チオール化合物が最も好ましい。上記チオール化合物としては、例えば、t−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン;チオフェノール、チオナフトール等の芳香族メルカプタン;チオグリコール酸;チオグリコール酸オクチル、エチレングリコールジチオグリコレート、トリメチロールプロパントリス−(チオグリコレート)、ペンタエリスリトールテトラキス−(チオグリコレート)等のチオグリコール酸アルキルエステル;β−メルカプトプロピオン酸;β−メルカプトプロピオン酸オクチル、1,4−ブタンジオールジ(β−チオプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス−(β−チオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス−(β−チオプロピオネート)等のβ−メルカプトプロピオン酸アルキルエステル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、連鎖移動剤として、α−メチルスチレンダイマー、四塩化炭素等を用いることもできる。
上記連鎖移動剤の使用量は、該連鎖移動剤の種類や、(メタ)アクリル酸エステル等との組み合わせ等に応じて設定すればよく、特に限定されるものではないが、単量体成分100質量%に対して0.1質量%〜15質量%の範囲内が好ましい。
【0036】
上記(メタ)アクリル系重合体の製造方法は、例えば塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の種々の方法により行うことができるが、分散剤や乳化剤の混入がない、塊状重合又は溶液重合が好ましい。当該電子線硬化性樹脂組成物は、アクリル系重合体が反応性希釈剤に溶解した形態(アクリルシラップ)で使用されるのが好ましい。アクリルシラップの作製方法としては、例えば、塊状重合を反応途中で停止し、その後引火点110℃以上の単官能性単量体等の反応性希釈剤を追加することにより所定の粘度まで調整する方法、又は、溶液重合により(メタ)アクリル系重合体を作製し、その後に反応溶媒を減圧留去して、その後引火点110℃以上の単官能性単量体等の反応性希釈剤を追加することにより所定の粘度まで調整する方法がある。いずれの方法でアクリルシラップを調整しても、本発明の電子線硬化性樹脂組成物を得ることが可能である。
【0037】
上記電子線硬化性樹脂組成物における(メタ)アクリル系重合体と反応性希釈剤との配合割合は、(メタ)アクリル系重合体と反応性希釈剤の種類や組み合わせ、電子線硬化性樹脂組成物の用途等に応じて適宜設定することできる。電子線硬化性樹脂組成物100質量%中、(メタ)アクリル系重合体の好ましい範囲は、20〜90質量%である。より好ましくは30〜80質量%であり、更に好ましくは40〜70質量%である。(メタ)アクリル系重合体の割合が、20質量%未満では、電子線硬化時の硬化収縮が大きくなってしまうおそれがある。また、90質量%を超えると電子線硬化性樹脂組成物の粘度が高くなりすぎて、塗工が難しくなるおそれがある。
アクリルシラップは反応性希釈剤の含有量及び(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量等の調整により塗工に適した粘度に調整される。本発明においてアクリルシラップとしては、25℃における粘度が100〜5000mPa・s、好ましくは200〜4000mPa・sの範囲に調整するのがよい。
【0038】
上記(メタ)アクリル系重合体は、側鎖に不飽和エチレン性二重結合を有するものであることが好ましい。
上記(メタ)アクリル系重合体が側鎖に不飽和エチレン性二重結合を有するものであること、すなわち上記(メタ)アクリル系重合体の側鎖に不飽和エチレン性二重結合を導入することにより、電子線硬化による硬化効率を向上させることができる。
不飽和エチレン性二重結合の導入方法としては、(1)(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸を共重合し、続いてカルボキシル基ヘグリシジルメタクリレート(ブレンマーG:日本油脂製)等のエポキシ基含有モノマーを付加させる方法、(2)(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル等の水酸基含有アクリル酸エステルを共重合し、続いてイソシアネート基含有(メタ)アクリル酸エステル(例えば、カレンズシリーズ:昭和電工社製)を反応させる方法等がある。詳細については、特開平11−263893号公報や、特開2005−320522号公報に記載されている。
【0039】
本発明はまた、(メタ)アクリル系重合体を含有する電子線硬化性樹脂組成物であって、上記(メタ)アクリル系重合体は、側鎖に不飽和エチレン性二重結合を有する電子線硬化性樹脂組成物でもある。
上記(メタ)アクリル系重合体が側鎖に不飽和二重結合を有することにより、硬化物の反応性希釈剤との反応効率が高くなり、硬化物中に効率良く架橋構造を導入することができる。特に表面保護フィルム用の粘着層として要求される粘着力(剥離速度に依存しない低い粘着力)を発現させることができる。
【0040】
以上を纏めると、本発明の電子線硬化性樹脂組成物としては、(メタ)アクリル系重合体と反応性希釈剤とを含有する電子線硬化性樹脂組成物であって、上記反応性希釈剤が、引火点110℃以上の単官能性単量体を主成分とする形態で、更に(メタ)アクリル系重合体は、側鎖に不飽和エチレン性二重結合を有する形態によっても、上述した種々の物性を良好なものとしながら硬化時の白煙発生を充分に抑制する本発明の効果を発揮することができる。
【0041】
本発明の電子線硬化性樹脂組成物は、表面保護フィルムの粘着剤層を形成するための材料であることが好ましい。
以下に、表面保護フィルムの粘着剤層を形成するための材料、例えば光学部材用表面保護フィルム用途に好適な組成について説明する。
当該表面保護フィルム用の粘着剤組成物、すなわち電子線硬化性樹脂組成物は、粘着特性を有する(メタ)アクリル系重合体と反応性希釈剤から構成されることが好ましい。
上記(メタ)アクリル系重合体及び反応性希釈剤としては、上述したのと同様のものを表面保護フィルム用途、例えば光学部材用表面保護フィルム用途に用いることができるが、光学部材用表面保護フィルム用途として特に好適な構成を例示すれば、(メタ)アクリル系重合体としては、例えばブチルアクリレート及び2−エチルへキシルアクリレートから構成される共重合体が挙げられる。(メタ)アクリル系重合体には、電子線硬化性を向上させるために、側鎖に不飽和エチレン性二重結合を導入することが好ましい。導入方法については前述した方法に従って導入すればよい。側鎖に導入された二重結合数(本明細書中、ペンダント二重結合数ともいう)は、特に限定されないが、(メタ)アクリル系重合体1分子当たり、1個以上が好ましく、2個以上がより好ましい。また10個以下が好ましく、5個以下がより好ましい。
【0042】
上記(メタ)アクリル系重合体の組成やガラス転移温度(Tg)、(メタ)アクリル系重合体と反応性希釈剤の配合割合等は、表面保護フィルムの要求物性に応じて適宜調整すればよく、これも上述したのと同様に設定すればよい。
特に反応性希釈剤として、引火点が110℃以上で且つホモポリマーとしたときのガラス転移温度が−20℃以下の単官能性単量体、更に多官能性単量体を加えることによって、白煙の発生を充分に抑制したうえで粘着特性とフィルム基材等へのなじみ性のバランス等を取る等、種々の用途、特に表面保護フィルムに要求される物性を向上させることが可能となる。
【0043】
上記表面保護フィルムは、例えば液晶ディスプレイの組み立て工程等の各種基材に対して表面保護フィルムを用いる生産・保管・輸送等の工程において、傷や汚れ等が付かないように、光学フィルム表面に貼り付けられている。これらのフィルムは、最終工程で剥され廃棄される。剥離作業は、通常手作業で行われるため、剥離速度は比較的高速であり、剥離速度が速い場合の、剥離に要する力(以下、「粘着力」とも称する)は大きくなる。現行の表面保護フィルムには、液晶ディスプレイの大型化に伴い、高速剥離時の粘着力も大きくなるため、粘着力の低減が求められている。更に、反射防止フィルム等の基材への良好ななじみ性等も要求されている。そして、浮きやハガレ等が起こりにくく耐久性があること、ジッピングや剥離後の被着体に対する汚染といった従来技術における問題を解消すること、フィルム・シートとするときの硬化性が充分に優れたものであることが求められている。
【0044】
上記電子線硬化性樹脂組成物は、ウィンドウフィルム、鋼板保護フィルム、家具建材フィルム、光学部材用表面保護フィルム等の種々の表面保護フィルムの粘着剤層を形成するための材料とすることができるが、中でも、光学部材用表面保護フィルムの粘着剤層を形成するための材料であることが特に好ましい。言い換えれば、上記電子線硬化性樹脂組成物は、光学フィルム用表面保護フィルムの粘着剤層を形成するための材料であることが特に好ましい。
【0045】
上記電子線硬化性樹脂組成物においては、上述した(メタ)アクリル系重合体に加えて、反応性希釈剤として引火点が110℃以上で且つホモポリマーとしたときのガラス転移温度が−20℃以下である単官能性単量体である2−エチルヘキシルジグリコールアクリレートと多官能性単量体であるトリメチロールプロパントリアクリレートの組合せにより、硬化時における白煙の発生が充分に抑制された、低速及び高速剥離速度での粘着特性と偏光板等の光学フィルムへのなじみ性とのバランスがとれた光学部材用の表面保護フィルムを得ることができる。
【0046】
本発明の電子線硬化性樹脂組成物は、更に必要に応じて、添加物として無機充填剤、非反応性樹脂(例えば、アクリル系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等)、熱ラジカル重合開始剤、熱カチオン重合開始剤、光重合開始剤(光ラジカル重合開始剤又は光カチオン重合開始剤)、有機溶剤、着色顔料、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、艶消し剤、染料、消泡剤、レベリング剤、帯電防止剤、分散剤、スリップ剤、表面改質剤、粘着付与剤等を適宜使用することができる。またこれらの添加剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記電子線硬化性樹脂組成物中の(メタ)アクリル系重合体の組成、分子量、ガラス転移温度(Tg)、又は、反応性希釈剤の組成、硬化後の重合体のTg、更に3次元架橋を形成させるために使用する多官能性単量体の種類、添加量により、粘着剤(特に再剥離型粘着剤として好適)やハードコートを含む各種コーティング剤として必要な性能(表面硬度、耐溶剤性等の塗膜物性)を付与することができる。
【0047】
本発明はまた、本発明の電子線硬化性樹脂組成物を支持体上に塗布した後、電子線により硬化させた積層体でもある。
上記積層体は、ハードコート性能を付与したフィルムや光学部材用表面保護フィルムを含んでいる。なお、ハードコートとは、フィルム等の樹脂(基材)の上層に塗布した液状塗膜に電子線を照射することにより得られた耐摩耗性に優れた塗膜である。光学部材用表面保護フィルムとは、液晶表示板に使用される光学部材、フィルム(偏光板、反射防止フィルム等)を傷や汚染等の要因より基材を保護するフィルムである。
本発明の電子線硬化性樹脂組成物の硬化後の厚みは、通常は0.5〜500μm、好ましくは1〜300μm、より好ましくは3〜200μmになるように塗布する。特に粘着剤として使用する場合には、5〜50μmの厚みが好ましい。本発明で使用する電子線硬化性樹脂組成物を粘着剤用途での使用を想定した場合、有機溶媒等の非反応性希釈剤が含有されていない場合は、塗工液は反応性希釈剤を溶媒とする塗布可能な粘性を有する液状であり、電子線硬化によりその厚さが著しく減少するものではないので、電子線硬化性樹脂組成物の塗布厚と硬化後の樹脂層の厚さとはほぼ同じとなる。
【0048】
上記電子線硬化性樹脂組成物を支持体上に塗布する方法は特に制限されず、慣用の塗布法を採用できる。例えばロールコーター、ダイコーター、バーコーター、ナイフコーター、グラビアコーター、メイヤーバーコーター等を用いて塗布すればよい。
本発明の積層体は、ポリエステルフィルム等のプラスチックフィルムや、紙、不織布等の多孔質材料等からなる各種の支持体の片面又は両面に、上記粘着剤層を塗布形成し、シート状やテープ状等の形態としたものである。本発明の粘着剤組成物を用いてなる粘着シート類を構成する支持体の厚みは、通常は5〜200μm、好ましくは10〜100μm程度である。
【0049】
本発明で得られた粘着シート又は粘着フィルムは、支持体背面に公知の離型剤を塗布してロール状に巻回したり(いわゆるセパレータフリー)、形成された放射線硬化した粘着剤層の露出表面に公知の離型剤を塗布したセパレータで被覆してロール状に巻き取ってもよい。
特に表面保護フィルム用途では、セパレータフリーによりロール状に巻き取る形態が、コスト削減、剥離したセパレータの廃棄がないので環境面にも悪影響を与えず、効率的な工業生産が可能となることで好ましい。
上記セパレータフリーでロール状に巻き取った表面保護フィルムは、本発明の基材フィルムに電子線硬化性樹脂組成物を塗工する工程、この電子線硬化性樹脂組成物に電子線を照射して架橋する工程、及び、架橋後の粘着剤層と支持体背面間にセパレータを介さずにロール状に巻き取る工程を行うことにより製造されることが好ましい。セパレータフリーの表面保護フィルムに用いられる電子線硬化性樹脂組成物の好ましい形態は、上述した本発明の電子線硬化性樹脂組成物の好ましい形態と同様である。
【0050】
上記支持体に使用される公知の離型剤としては、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系若しくは脂肪酸アミド系等がある。また、シリカ粉等による離型及び防汚処理や、酸処理、アルカリ処理,プライマー処理、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線処理等の易接着処理、塗布型、練り込み型、蒸着型等の帯電防止処理をすることもできる。
また、上記支持体は、耐熱性及び耐溶剤性を有するとともに可撓性を有するプラスチック基材であることが好ましい。支持体が可撓性を有することにより、ロールコーター等によって粘着剤組成物を塗布することができ、ロール状に巻き取ることができる。
上記プラスチック基材としては、シート状やフィルム状に形成できるものであれば特に限定されるものでなく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリ−4−メチル−1−ペンテン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体等のポリオレフィンフィルム、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステルフィルム、ポリアクリレートフィルム、ポリスチレンフィルム、ナイロン6、ナイロン6,6、部分芳香族ポリアミド等のポリアミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリカーボネートフィルム等が挙げられる。
また、他の熱可塑性樹脂として、下記一般式(7)で表されるような分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体をラクトン環化縮合反応させることによって得られるラクトン環含有重合体が知られている。また当該ラクトン環含有重合体を主成分とする熱可塑性樹脂は、透明性や光学等方性等の光学特性や耐熱性が優れており、光学用面状熱可塑性樹脂成形体(シートやフィルム等)として活用でき、当該電子線硬化性樹脂組成物の支持体として好適に使用できる。
【0051】
【化2】

【0052】
(式中、R、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。)
【0053】
上記積層体は、電子線照射により硬化するものであるため、紫外線(UV)と比較して照射回数も少なくて済み、その結果、積層体の製造に関して、生産性を向上させることができる。一般に電子線硬化は、UV硬化のように光重合開始剤を必要としないため、硬化性樹脂組成物の保存安定性が良好なため、塗工作業性を向上させることができる。
【0054】
上記電子線による硬化は、加速電圧が以下、更に好ましくは250kV以下である電子線を用いればよい。加速電圧が250kVを超えると電子線硬化性樹脂組成物を通過した電子線が基材を劣化するおそれがある。電子線の照射においては、加速電圧が高いほど電子線の透過能力が増加する。したがって、電子線の透過深さと樹脂層の厚みが実質的に等しくなるように、加速電圧を選定することにより、基材シートへの余分の電子線の照射を抑制することができ、過剰電子線による基材シートの劣化を最小限にとどめることができる。このように、最適な加速電圧は、樹脂層の厚さに左右されるので、硬化後の厚さが、好ましい範囲の5〜50μm程度である場合には、加速電圧は50〜200kVの範囲が好ましい。
上記照射線量は、樹脂層の架橋密度が飽和する量に調整するのが好ましく、通常5〜300kGyで調整される。照射線量は、好ましくは10〜250kGyであり、より好ましくは20〜200kGyである。
更に、電子線源としては、特に制限はなく、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器を用いることができる。
【0055】
本発明は更に、上記積層体より構成される粘着シート又は粘着フィルムでもある。
本発明の粘着シート又は粘着フィルムとしては、特に再剥離型粘着剤として良好な特性を示すものは、例えば金属板、ガラス板、プラスチック板、樹脂塗装銅板、又は、液晶ディスプレイ部材である偏光板、位相差フィルム、光学補償フィルム若しくは反射シート等の光学部材の表面保護フィルムとして好ましく用いることができる。特に表面保護フィルム用の支持体として、ラクトン環含有重合体を主成分とする熱可塑性樹脂フィルムを使用することにより、従来のポリエレンテレフタレート製を支持体とした表面保護フィルムより透明性が優れた表面保護フィルムを作製することができ、異物等の目視検査等の簡素化に貢献できる。
【0056】
本発明の電子線硬化性樹脂組成物が光学フィルム用の表面保護フィルムとして好適な性能を発現するメカニズムとしては、低速及び高速剥離速度での粘着力を低くするためには、粘着剤層の変形を抑制、すなわち多官能性単量体の増量により架橋密度を高くする必要がある。一方、フィルム基材へのなじみ性も必要となるが、架橋密度を高めると粘着剤層の柔軟性が損なわれてなじみ性が低下する。要求物性を満たすためには、両物性のバランスを取る必要がある。一般的に、電子線による硬化では、ポリマー主鎖から水素引き抜きによりラジカルが生成し、そこが架橋点となった架橋構造が生成する。本発明の電子線硬化性樹脂組成物においても、引火点110℃以上、ホモポリマーとしたときのガラス転移温度が−20℃以下である単官能性単量体、例えば、2−エチルヘキシルジグリコールアクリレートと多官能性単量体であるトリメチロールプロパントリアクリレートを反応性希釈剤とした樹脂組成物を電子線で硬化することによって、反応性希釈剤と側鎖二重結合が関与した架橋構造だけではなく、ポリマー主鎖からの水素引き抜きに由来する架橋構造の効果によって、粘着特性となじみ性を両立した表面保護フィルムとしての好適な性能を発現させていると考えている。
【0057】
ところで、表面保護フィルム・シート等を貼り付ける際に従来であれば粘着面に付けられているセパレータを取り除きながら行われることになるが、環境問題等に関連して廃棄物削減・コスト削減の要望から、粘着面にセパレータの無い、いわゆるセパレータフリーの表面保護フィルム・シートが求められることになる。本発明は、これらの要求を満たすことができる表面保護フィルム・シートを提供することを目的とするものでもある。
【0058】
また、例えば表面保護フィルムでは、粘着力、フィルム基材へのなじみ性(特に光学フィルムへのなじみ性)が要求されることになる。粘着力とフィルム基材等へのなじみ性とをバランスさせ、両者ともに充分に高い性能を発揮させることは、各種基材に対する表面保護フィルム、特に光学フィルム用の表面保護フィルムの技術にとって重要なことである。本発明は、白煙の発生を充分に抑制すると共に、電子線硬化性樹脂組成物での両物性について充分に高い性能を発揮させたものであり、表面保護フィルムを必要とする各種工業製品の生産に大きな影響を与え得るものである。
【0059】
一般的にいえば、表面保護フィルムにおいて剥離速度が速くなるほど、剥離に要する力(剥離力)が大きくなる。そのため、従来においては、剥離の作業効率や基材の損傷・汚染等に対する問題、また滑らかに剥離することなくバリバリという音を発するいわゆるジッピングと呼ばれる現象を解決することが求められていた。逆に、剥離力を小さくすると、作業中や製品の組み立て、保管、輸送等において浮きやハガレを生じるといった問題が起こる。本発明は、表面保護フィルムに関しては、高速剥離時においても剥離力が小さく、かつ剥離速度による剥離力の変化が小さく、しかも浮きやハガレ等が起こりにくく耐久性があり、ジッピングや剥離後の被着体に対する汚染といった従来技術における問題を解消することができるものである。したがって、各種基材に対して表面保護フィルムを用いる生産・保管・輸送等の工程において、特に光学フィルム・シート用の表面保護フィルム・シートを用いる工程において効率化等に有効なものである。また廃棄物削減・コスト削減に関連して、いわゆるセパレータフリーの表面保護フィルム・シートを実現することができるものである。
【0060】
上記表面保護フィルムは、近年、光学フィルムの表面を保護するためのフィルム・シートの需要が急増し、製品開発が行われている。例えば、液晶ディスプレイを構成する偏光板、位相差板、輝度向上フィルムや、プラズマディスプレイを構成するARフィルム、電磁波シールドフィルム、IRカットフィルム等の光学フィルム、これらの積層フィルムに対して表面保護フィルムが使用されている。これによって、各種光学フィルムやディスプレイの作製、加工、検査、保管、輸送等において、傷、汚れ等が付くことが防止されている。また光学用途以外においても、各種基材に対して、例えば、窓ガラス、家具、車等の製品に対して使用されるものである。
【発明の効果】
【0061】
本発明の電子線硬化性樹脂組成物、積層体、及び、粘着シート又は粘着フィルムは、上述の構成よりなり、種々の物性を良好なものとしながら、硬化時における白煙の発生を充分に抑制することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0062】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0063】
溶液重合例(樹脂A)
温度計、冷却器、窒素ガス導入管、及び、撹拌機を備えた反応器に、2EHA136.4部、アクリル酸n−ブチル60部、アクリル酸ヒドロキシエチル3.6部、連鎖移動剤としてn−ドデシルメルカプタン1部、酢酸エチル240部を仕込んだ後、反応器内を窒素ガス置換した。次に、上記の混合物を攪拌しながら75℃に昇温した後、重合開始剤として2,2′−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)(商品名「ABN−E」、日本ヒドラジン工業社製)0.125部を添加して反応を開始した。重合開始から10分後に、2EHA204.6部、アクリル酸n−ブチル90部、アクリル酸ヒドロキシエチル5.4部、n−ドデシルメルカプタン1.5部の混合物を反応器に60分かけて滴下した。また、ABN−E0.125部を酢酸エチル10gに溶解した溶液を別の滴下ロートにより滴下した。滴下終了後、内温87〜89℃で5時間反応させ、不揮発分58.2%のアクリル系共重合体(樹脂A)の溶液を得た。アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、50000であった。
【0064】
側鎖二重結合を有するアクリル系共重合体の重合例(樹脂B)
温度計、冷却器、窒素ガス導入管、及び、撹拌機を備えた反応器に、前記アクリル系共重合体(樹脂A)の溶液を100部、重合禁止剤として2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)(商品名:アンテージW−400、川口化学工業社製)0.036部、触媒としてジラウリン酸ジブチルスズ(東京化成工業社製)0.024部を添加した。2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート(商品名:カレンズAOI、昭和電工社製)を1.05部(樹脂Aの水酸基100当量に対して、95当量)を酢酸エチル4部に溶解して投入した。内温を70〜71℃で3時間反応させて、1分子中に2.5個の側鎖二重結合を導入した、不揮発分55.3%のアクリル系共重合体(樹脂B)の溶液を得た。反応終了後に、FT−IR分析によりNCO基に由来するピーク(2272cm−1)の消失を確認した。
【0065】
無溶剤型樹脂溶液の調製例(樹脂溶液C)
温度計、冷却器、窒素ガス導入管、及び、撹拌機を備えた反応器に、前記側鎖二重結合型アクリル系共重合体(樹脂B)の溶液500部を投入した。内温を86〜87℃に調整して反応器内を減圧して、反応溶媒である酢酸エチルの留去を開始した。アクリル系共重合体溶液中に含まれる酢酸エチルの約半分が留去した段階で反応性希釈剤である2−エチルヘキシルアクリレート80.5部、2−エチルへキシルジグリコールアクリレート38部を投入して、更に酢酸エチルの留去を継続した。酢酸エチルの留去に要した時間は5時間であり、無溶剤型の側鎖二重結合型アクリル系共重合体溶液(樹脂溶液C)を得た。樹脂溶液中の成分は、側鎖二重結合型アクリル系共重合体70%、反応性希釈剤として2−エチルヘキシルアクリレート25%、2−エチルへキシルジグリコールアクリレート12%であった。
【0066】
評価方法
(粘着力の評価方法)
電子線照射後の粘着シートを25mm×150mmに裁断し、PMMA(ポリメチルメタクリレート)板に貼り合わせた。貼り合わせてから25分後に、剥離速度300mm/分及び30m/分の条件でそれぞれ180°剥離粘着力を測定した。
【0067】
(残存モノマー測定方法)
電子線照射後の粘着シートをプロピレングリコールメチルエーテルアセテートに室温で24時間浸漬し、粘着剤層中の未反応の単官能性単量体を抽出し、ガスクロマトグラフィー(GC)により定量した。
【0068】
(フィルム基材等へのなじみ性評価方法)
粘着シートから40mm×40mmの試験片を切り出し、防眩処理フィルム(商品名「BOF−H141S」、BUFFALO社製液晶保護フィルム)の上に、粘着剤層を下にして、静かに置いた。そして、防眩処理フィルムに試料の全面がなじむ(濡れる)までの時間及び状態を目視で観察した。試験は3回行い、下記評価のポイントを平均した。
(1)試験雰囲気条件 23℃、65%
(2)評価点数
1 置いても濡れない、360秒後でなじみ率50%以下
2 180秒以上で360秒後のなじみ率70%以下
3 30〜180秒、エッジ浮き量1.0mm以下
4 30秒以下、エッジ浮き量1.0mm以下
5 20秒以下、エッジ浮き量0.5mm以下
(白煙発生評価方法)
○:白煙の発生はない。
△:わずかに白煙が発生する。
×:かなりの量の白煙が発生する。
【0069】
実施例1
樹脂溶液C100部に、2−エチルヘキシルアクリレート4.3部、2−エチルジグリコールアクリレート9.2部、トリメチロールプロパントリアクリレート3.5部を添加して電子線硬化性樹脂溶液(樹脂溶液1)を得た。樹脂溶液中の成分は、側鎖二重結合型アクリル系共重合体60%、反応性希釈剤として2−エチルヘキシルアクリレート25%、2−エチルヘキシルジグリコールアクリレート12%、トリメチロールプロパントリアクリレート3%であった。
次いでこの樹脂溶液を厚さ38μmのPETフィルムへ、塗工厚みが20μmとなるようにアプリケーターにて塗布を行った。この塗工基材に、加速電圧60kV、照射線量60kGyの条件で電子線を照射して粘着シートを作製した。白煙の発生状況については、電子線照射後に照射室内への白煙滞留の状態により確認した。
【0070】
実施例2〜9
無溶剤型樹脂溶液は樹脂溶液Cと同様に、また電子線硬化性樹脂溶液及び粘着シートの作製は実施例1と同様の方法で作製した。電子線硬化性樹脂溶液の詳細な配合を表1に示した。
【0071】
比較例1
無溶剤型樹脂溶液は樹脂溶液Cと同様に、また電子線硬化性樹脂溶液及び粘着シートの作製は実施例1と同様の方法で作製した。電子線硬化性樹脂溶液の詳細な配合を表1に示した。
下記表1中、反応性希釈剤の略号は、それぞれ以下の化合物を表すものである。
2EHA:2−エチルヘキシルアクリレート
EHDG−A:2−エチルへキシルジグリコールアクリレート
EC−A:エトキシジエチレングリコールアクリレート
AMP−10G:フェノキシエチルアクリレート
1.6HX−A:1,6−ヘキサンジオールジアクリレート
DCPE−A:ジシクロペンテニルエチルアクリレート
TMPT−A:トリメチロールプロパントリアクリレート
【0072】
【表1】

【0073】
下記表2中、各化合物のモノマー性状(引火点、ガラス転移温度Tg)を示す。
【0074】
【表2】

【0075】
<結果>
(1)白煙発生抑制について
実施例1〜7より、反応性希釈剤の主成分である単官能性単量体を2EHAよりも、引火点の高い(揮発性の低い)EHDG−A(引火点151℃)、EC−A(引火点113℃)、AMP−10G(引火点139℃)に変更することにより、白煙発生がなくなることを確認した。また、2EHAのような引火点の低い単官能性単量体の50%を、引火点の高いEHDG−Aに置き換えることによっても白煙発生を抑制できることを確認した。
また、表1の結果より、単官能性単量体中に占めるEHDG−Aの含有量が多くなることにより、未反応モノマー量が減少し、電子線硬化性も優れたものとなった。その理由は明らかではないが、2EHAでは電子線照射時に白煙が発生し、それが電子線の粘着層への到達を阻害していたが、EHDG−Aを使用することにより白煙発生が抑制された結果、電子線の粘着層への到達が改善されたことが考えられる。
(2)粘着物性となじみ性について
実施例1〜4及び比較例1より、単官能性単量体を2EHAからEHDG−Aに置き換えることにより、白煙発生の抑制に加えて、光学フィルム用の表面保護フィルムで必要とされる高速及び低速剥離速度での粘着特性(低い粘着力)となじみ性において両物性を満たした非常にバランスが取れた粘着フィルムを得ることができる。特に、EHDG−Aの添加量が多くなるにつれてフィルム基材になじむ(濡れる)までの時間が短縮されることがわかった。実施例8及び9は、上述した引火点110℃以上という条件は満たしている。しかしポリマーとしてのガラス転移温度が−20℃以下の単官能性単量体であるという条件を満たしていない。結果は、白煙発生を抑制できるが、粘着力はタックがなくなるか、あるいは粘着力が高くなる。特にフィルム基材へなじむのに要する時間が大幅に長くなる。
【0076】
上記電子線(EB)硬化性樹脂を表面保護フィルム用途で使用する場合、引火点が110℃以上の単官能性単量体を用いることにより粘着剤層中の残存モノマー量を特異的に低減することができる(実施例4、比較例1)。白煙が発生した場合は、モノマーの蒸気により、電子線の粘着層への到達が阻害され、硬化性が低くなり、残存モノマー量が増加するためであると考えられる。
本発明の電子線(EB)硬化性樹脂を表面保護フィルム用途で使用する場合、特定の配合において、中でも特定の配合比率において、当該用途で要求される物性(粘着特性、フィルム基材等へのなじみ性)で非常にバランスが取れた粘着フィルムを得ることができる。例えば、本発明の電子線硬化性樹脂組成物において、反応性希釈剤がトリメチロールプロパントリアクリレート及び2−エチルヘキシルジグリコールアクリレートを含有することにより、粘着特性とフィルム基材等へのなじみ性とを両立した粘着フィルムを得ることができる。また2−エチルヘキシルジグリコールアクリレートを用いないで、2−エチルヘキシルアクリレートを用いた場合は、残存モノマーが20000ppmと多くなる(比較例1)。
【0077】
2−エチルヘキシルアクリレートに変えて引火点が約110℃以上の単官能性単量体としてエトキシジエチレングリコールアクリレート(引火点113℃)、2−エチルヘキシルジグリコールアクリレート(引火点 151℃)を使用することにより、白煙発生を大幅に抑制することができることがわかった。
特に、2−エチルヘキシルジグリコールアクリレートは、(1)白煙が全く発生しない、(2)表面保護フィルムの要求物性(高速、低速剥離粘着力、なじみ性等)の両物性を満たすことができる。
【0078】
上述した実施例及び比較例では、引火点が110℃以上の単官能性単量体としてエトキシジエチレングリコールアクリレート又は2−エチルヘキシルジグリコールアクリレートを用いているが、引火点が110℃以上の単官能性単量体の形態である限り、本発明の効果を生じさせる作用機構は同様である。すなわち、(メタ)アクリル系重合体と反応性希釈剤とを含有する電子線硬化性樹脂組成物において、少なくとも反応性希釈剤が、引火点が110℃以上の単官能性単量体を主成分とするところに本発明の本質的特徴があり、この組成物と同様の化学的特徴を有するものであれば、この実施例で示されるような効果を奏することになる。したがって、本発明において、(メタ)アクリル系重合体と反応性希釈剤とを含有する電子線硬化性樹脂組成物であって、反応性希釈剤が、引火点が110℃以上の単官能性単量体を主成分として構成される電子線硬化性樹脂組成物とすれば、本発明の有利な効果を発現することは確実であるといえる。少なくとも、該反応性希釈剤が更に、多官能性単量体を必須として含有する場合においては、上述した実施例及び比較例で充分に本発明の有利な効果が立証され、本発明の技術的意義が裏付けられている。
【0079】
上述した実施例及び比較例では、多官能性単量体としてトリメチロールプロパントリアクリレートを用いているが、官能基を2つ以上有する単量体の形態である限り、本発明の効果を生じさせる作用機構は同様である。すなわち、反応性希釈剤が少なくとも官能基を2つ以上有する単量体を必須として含有するところに本発明の特徴があり、この化合物と同様の化学的特徴を有するものであれば、この実施例で示されるような効果を奏することになる。したがって、本発明における必須成分によって構成される電子線硬化性樹脂組成物とすれば、本発明の有利な効果を発現することは確実であるといえる。少なくとも、該反応性希釈剤が更に、3官能以上の(メタ)アクリレートを必須として含有する場合においては、上述した実施例及び比較例で充分に本発明の有利な効果が立証され、本発明の技術的意義が裏付けられている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル系重合体と反応性希釈剤とを含有する電子線硬化性樹脂組成物であって、
該反応性希釈剤は、引火点が110℃以上の単官能性単量体を主成分とすることを特徴とする電子線硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記引火点が110℃以上の単官能性単量体は、ホモポリマーとしたときのガラス転移温度が−20℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の電子線硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記電子線硬化性樹脂組成物は、表面保護フィルムの粘着剤層を形成するための材料であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電子線硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の電子線硬化性樹脂組成物を支持体上に塗布した後、電子線により硬化させたものであることを特徴とする積層体。
【請求項5】
請求項4に記載の積層体より構成されることを特徴とする粘着シート又は粘着フィルム。

【公開番号】特開2009−84372(P2009−84372A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−254346(P2007−254346)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】