説明

電子装置およびその製造方法

【課題】シリコーン接着剤の加熱・硬化時におけるシロキサンガスの発生量を極力低減する。
【解決手段】シリコーン接着剤30は、A)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、ケイ素原子に結合した水酸基とアルコキシ基を有さない、4量体から20量体までの環状シロキサンの含有量が0.1質量%以下であるオルガノポリシロキサンを100質量部、B)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有し、アルケニル基、ケイ素原子に結合した水酸基とアルコキシ基を有さないオルガノポリシロキサン、C)接着性付与剤を少なくとも0.05質量部、D)熱伝導性充填剤を100〜2000質量部、E)ヒドロシリル化反応用触媒を含み、Bの配合量がA中のアルケニル基1モルに対してケイ素原子結合水素原子が0.5〜10モルとなる量であり、且つ、BとCの合計量が、AとBとCの合計量に対して0.5〜10質量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーン接着剤を用いた接着構造を有する電子装置、および、そのような電子装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、この種の電子装置は、配線基板などの第1の部材とヒートシンクなどの第2の部材とを、シリコーン接着剤を介して貼り合わせ、このシリコーン接着剤を加熱・硬化させることにより、接着することにより形成されるものである。
【0003】
しかし、一般にこのような電子装置においては、たとえば配線基板上には、電子部品などが導電性ペーストなどを介して接続されたり、また、ワイヤボンディングやフリップチップボンディングなどの接続構造がなされたり、また、モールド樹脂による封止がなされたりするので、シリコーン接着剤を加熱・硬化する時に発生するシロキサンガスにより、モールド密着不良、ボンディング接続不良、導電性ペーストの導通不良など、種々の問題が発生していた。
【0004】
そこで、シロキサンガスの発生量の少ない接着剤を用いた電子装置が望まれていた。一方で、低分子シロキサンの含有量を減らし、シロキサンガスの発生量を少なくすることを目的としたシロキサン組成物は、従来より多数あり、例えば特許文献1、特許文献2などが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−157474号公報
【特許文献2】特開平4−311764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1、2のような組成物を、電子装置の接着剤に用いた場合でも、上記したモールド密着不良、ボンディング接続不良、導電性ペーストの導通不良などの不具合に対し、十分な性能を有するものではない。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、第1の部材と第2の部材とを、シリコーン接着剤を介して接着してなる電子装置において、シリコーン接着剤の加熱・硬化時におけるシロキサンガスの発生量を極力低減できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明者は、シロキサンガスの発生量を低減するべく、シリコーン接着剤の組成に着目し、実験検討を重ね、本願発明を創出するに至った。
【0009】
すなわち、請求項1に記載の発明では、第1の部材(10、80)と第2の部材(20)とがシリコーン接着剤(30)を介して接着されてなる電子装置であって、
シリコーン接着剤(30)として、
A成分としての、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、ケイ素原子に結合した水酸基とアルコキシ基を有さない、4量体から20量体までの環状シロキサンの含有量が0.1質量%以下であるオルガノポリシロキサンを100質量部と、
B成分として、1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有し、アルケニル基、ケイ素原子に結合した水酸基とアルコキシ基を有さないオルガノポリシロキサンと、
C成分として、接着性付与剤を少なくとも0.05質量部と、
D成分として、熱伝導性充填剤を100〜2000質量部と、
E成分として、ヒドロシリル化反応用触媒とを含み、
かつ、B成分の配合量が、A成分中のアルケニル基1モルに対して、ケイ素原子結合水素原子が0.5〜10モルとなる量であり、
さらに、B成分とC成分の合計量が、A成分とB成分とC成分の合計量に対して、0.5〜10質量%であるものを用いたことを特徴とする。
【0010】
本発明は、実験的に見出されたものであり、このようなシリコーン接着剤(30)であれば、後述の図2に示されるように、シリコーン接着剤(30)の加熱・硬化時におけるシロキサンガスの発生量を極力低減することができる。
【0011】
具体的には、請求項2のように、シリコーン接着剤(30)は、当該シリコーン接着剤(30)を150℃、17時間で加熱・硬化したとき、当該加熱前の質量に対する当該加熱後の質量の減量分が、0.1質量%以下となるものにできる。
【0012】
また、請求項3に記載の発明では、請求項1または2の電子装置において、モールド樹脂(60)による封止構造を有することを特徴とする。
【0013】
それによれば、モールド樹脂(60)による封止前に、シリコーン接着剤(30)を加熱・硬化する必要がある装置構成でも、シロキサンガスの発生量が少なく、モールド樹脂(60)で封止される被封止物の表面へのシロキサンガスの付着量が極めて少なくなるため、モールド密着不良を引き起こすことがなく、優れた機能を有する電子装置を提供することができる。
【0014】
また、本発明によれば、モールド樹脂(60)の密着性の確保のために従来、被封止物の表面に塗布しているポリアミド樹脂の使用を止めることができ、大幅なコストダウンが望める。つまり、本発明によれば、ポリアミド樹脂をモールド樹脂(60)の被封止物の表面に塗布しない構成を有する電子装置を実現できる。
【0015】
また、請求項4に記載の発明では、請求項1〜3の電子装置において、ワイヤボンディングによる接続構造を有することを特徴とする。
【0016】
それによれば、ワイヤボンディング前に、シリコーン接着剤(30)を加熱・硬化する必要がある装置構成でも、シロキサンガスの発生量が少なく、ボンディングランドへのシロキサンガスの付着量が極めて少ないため、ボンディング接続不良を引き起こすことがなく、優れた機能を有する電子装置を提供することができる。
【0017】
また、請求項5に記載の発明では、請求項1〜4の電子装置において、フリップチップボンディングによる接続構造を有することを特徴とする。
【0018】
それによれば、フリップチップボンディング前に、シリコーン接着剤(30)を加熱・硬化する必要がある装置構成でも、シロキサンガスの発生量が少なく、ボンディングランドへのシロキサンガスの付着量が極めて少ないため、ボンディング接続不良を引き起こすことがなく、優れた機能を有する電子装置を提供することができる。
【0019】
また、請求項6に記載の発明では、請求項1〜5の電子装置において、導電性ペーストまたは半田よりなる導電性接合材(43)による接続構造を有することを特徴とする。
【0020】
それによれば、導電性ペーストまたは半よりなる導電性接合材(43)の塗布前に、シリコーン接着剤(30)を加熱・硬化する必要がある装置構成でも、シロキサンガスの発生量が少なく、被接続部へのシロキサンガスの付着量が極めて少ないため、導電接続不良を引き起こすことがなく、優れた機能を有する電子装置を提供することができる。
【0021】
また、請求項7に記載の発明では、請求項1〜6の電子装置において、第2の部材は、一方の板面を表面、他方の板面を裏面とする基板(20)であり、基板(20)の裏面にシリコーン接着剤(30)が配置されて、基板(20)の裏面と第1の部材(10)とが接着されているものであり、基板(20)の表面と裏面との間に位置する側面において、シリコーン接着剤(30)の当該裏面から当該表面側への這い上がりが基板(20)の厚さ寸法の1/2以下となっていることを特徴とする。
【0022】
当該這い上がりが基板(20)の厚さ寸法の1/2を超えると、基板(20)の表面側にシロキサンガスが回り込みやすくなるため、当該這い上がりは基板(20)の厚さ寸法の1/2以下に留めることが好ましい。
【0023】
また、請求項8に記載の発明では、請求項1の電子装置において、第1の部材(80)には、第2の部材(10)の他に、電気接点を有するモータ部品(81)およびスイッチ部品(82)が搭載されていることを特徴とする。
【0024】
それによれば、シリコーン接着剤(30)による接着構造の周辺に、電気接点を有するモータ部品(81)およびスイッチ部品(82)が設置されることになるが、この場合でも、シロキサンガスの発生量が少なく、これら各部品(81、82)の電気接点へのシロキサンの付着量が極めて少ないため、当該接点での接続不良を引き起こすことがなく、優れた機能を有する電子装置を提供することができる。
【0025】
請求項9に記載の発明では、第1の部材(10、80)と第2の部材(20)とを、シリコーン接着剤(30)を貼り合わせ、シリコーン接着剤(30)を加熱・硬化して接着してなる電子装置の製造方法であって、
シリコーン接着剤(30)として、
A成分としての、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、ケイ素原子に結合した水酸基とアルコキシ基を有さない、4量体から20量体までの環状シロキサンの含有量が0.1質量%以下であるオルガノポリシロキサンを100質量部と、
B成分として、1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有し、アルケニル基、ケイ素原子に結合した水酸基とアルコキシ基を有さないオルガノポリシロキサンと、
C成分として、接着性付与剤を少なくとも0.05質量部と、
D成分として、熱伝導性充填剤を100〜2000質量部と、
E成分として、ヒドロシリル化反応用触媒とを含み、
かつ、B成分の配合量が、A成分中のアルケニル基1モルに対して、ケイ素原子結合水素原子が0.5〜10モルとなる量であり、
さらに、B成分とC成分の合計量が、A成分とB成分とC成分の合計量に対して、0.5〜10質量%であるものを用い、
シリコーン接着剤(30)の加熱・硬化を真空中、もしくは、排気環境中で行うことを特徴とする。
【0026】
それによれば、上記請求項1のように、シロキサンガスの発生量を極力低減したシリコーン接着剤(30)を用いるとともに、その加熱・硬化を、真空中、もしくは、排気環境中で行うから、その加熱・硬化の際に発生するシロキサンガスが部品表面へ付着することを防止することができる。
【0027】
なお、特許請求の範囲およびこの欄で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電子装置の概略断面図である。
【図2】第1実施形態におけるモールド樹脂の密着性向上効果を示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る電子装置の要部の概略断面図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る電子装置の概略断面図である。
【図5】本発明の第4実施形態に係る電子装置の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各図相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、説明の簡略化を図るべく、図中、同一符号を付してある。
【0030】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る電子装置の概略断面構成を示す図である。本実施形態の電子装置は、大きくは、ヒートシンク10の一面(図1中の上面)上に、シリコーン接着剤30を介して基板20が搭載されたものである。
【0031】
ヒートシンク10は、第1の部材として構成されるものであり、放熱性を有する板状のものである。ヒートシンク10の材質としては、例えば、Fe、Al、Cu、CuMo合金、Al−SiC複合体などの材料から最適な物が選択される。なお、Feの場合には、その表面にNiなどのメッキを施したものでもよい。
【0032】
基板20は、第2の部材として構成されるものであり、一般的な配線基板として構成される。この基板20は、一方の板面を表面(図1中の上面)、他方の板面を裏面(図1中の下面)とする板状のものであり、基板20の裏面にシリコーン接着剤30が配置されて、基板20の裏面とヒートシンク10とが接着されている。具体的には、基板20として、例えば、アルミナ基板、エポキシ基板、ガラスエポキシ基板、ガラスコンポジット基板などから最適な物が選択される。
【0033】
シリコーン接着剤30は、ヒートシンク10と基板20とを接着するものであり、その組成等の詳細については後述する。このシリコーン接着剤30は、ヒートシンク10の一面上に塗布された後、その上から基板20の裏面を貼り付ける、もしくは、基板20の裏面にシリコーン接着剤30を塗布し、それをヒートシンク10の一面上に貼り付け、その後、加熱・硬化により接着を行うものである。塗布方法は、例えば、スクリーン印刷、ディスペンス、スタンプなどいくつかの方法から最適な物が選択される。
【0034】
ここで、基板20の表面と裏面との間に位置する側面において、シリコーン接着剤30の当該裏面から当該表面側への這い上がりが基板20の厚さ寸法の1/2以下となっている。
【0035】
これについては、基板20の貼り付けの際、シリコーン接着剤30の基板20の側面への這い上がりが、基板20の厚さの1/2となるように貼り付け荷重および時間を適切に設定すればよい。
【0036】
また、基板20の表面上にはICチップ41やコンデンサや抵抗などの受動部品42等が、一般的な導電性ペーストまたははんだよりなる導電性接合材43により搭載されており、これらICチップ41や受動部品42は、導電性接合材43を介して基板20と接続されている。
【0037】
また、ICチップ41と基板20の表面とは、ボンディングワイヤ44によって接続されている。さらに、基板20の側方には、CuやFeなどよりなる導電性のリードフレーム50が設けられている。
【0038】
そして、このリードフレーム50と基板20も、ボンディングワイヤ44によって接続されている。これらボンディングワイヤ44は、Al、Au、Cuを主成分とし、場合によってPd、Siなどを添加した金属から最適な物が選択されるものである。
【0039】
そして、これらヒートシンク10、基板20、基板20の表面上の各部41〜44、およびリードフレーム50は、エポキシ樹脂などよりなるモールド樹脂60により封止されている。このモールド樹脂60は、一般的なトランスファーモールド法などにより形成される。
【0040】
ここで、ヒートシンク10の他面(図1中の下面)は、放熱のためにモールド樹脂60より露出しており、リードフレーム50のワイヤボンディング側とは反対側は、モールド樹脂60より突出するアウターリードとされ、外部との接続を行うようになっている。また、ヒートシンク10のうちモールド樹脂60で封止されている部位には、その端部よりたとえば1〜2mmの部位に、応力緩和の目的で溝が形成されていてもよい。
【0041】
このような本電子装置は、たとえば、ヒートシンク10と基板20とをシリコーン接着剤30を介して貼り合わせ、シリコーン接着剤30を加熱・硬化して接着した後、基板20に導電性接合材43を介して上記部品41、42を接合し、ワイヤボンディングを行って、所望部位をボンディングワイヤ44で結線し、続いて、モールド樹脂60による封止を行うことで、製造される。
【0042】
こうして出来上がった本実施形態の電子装置は、モールド樹脂60による封止構造、ワイヤボンディングによる接続構造、導電性ペーストまたは半田よりなる導電性接合材43による接続構造を有するものとなる。
【0043】
次に、本実施形態のシリコーン接着剤30について詳述する。本シリコーン接着剤30は、加熱・硬化による重合前の組成として、以下の組成を有する熱伝導性シリコーンゴム組成物である。
【0044】
A成分として、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、ケイ素原子に結合した水酸基とアルコキシ基を有さない、4量体から20量体までの環状シロキサンの含有量が0.1質量%以下であるオルガノポリシロキサンを100質量部、B成分として、1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有し、アルケニル基、ケイ素原子に結合した水酸基とアルコキシ基を有さないオルガノポリシロキサン、C成分として、一般的なシランカップリング剤などの接着性付与剤を少なくとも0.05質量部と、D成分として、アルミナなどの熱伝導性充填剤を100〜2000質量部と、E成分として、ヒドロシリル化反応用触媒とを含むものである。さらに、当該重合前のシリコーン接着剤30は、上記B成分の配合量が、上記A成分中のアルケニル基1モルに対して、ケイ素原子結合水素原子が0.5〜10モルとなる量であり、且つ、上記B成分と上記C成分の合計量が、上記A成分と上記B成分と上記C成分の合計量に対して、0.5〜10質量%であるものである。
【0045】
A成分のオルガノポリシロキサンは本組成物の主剤であり、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、ケイ素原子に結合した水酸基とアルコキシ基を有さないものである。A成分中のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基が挙げられ、特に、ビニル基が好ましい。A成分中のアルケニル基以外のケイ素原子に結合した有機基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基が挙げられ、特に、メチル基、フェニル基が好ましい。このようなA成分の分子構造は限定されず、例えば、直鎖状、一部分岐を有する直鎖状、分岐鎖状が挙げられ、特に、直鎖状が好ましい。
【0046】
A成分の25℃における粘度は限定されないが、10〜500,000mPa・sの範囲内であることが好ましく、特に、50〜100,000mPa・sの範囲内であることが好ましい。これは、A成分の粘度が上記範囲の下限以上であると、本組成物の加熱・硬化後の物理的特性が良好となるからであり、一方、上記範囲の上限以下であると、本組成物の取扱作業性が向上するからである。
【0047】
また、A成分中の4量体〜20量体の環状シロキサンの含有量は、0.1質量%以下であることが必要であり、好ましくは、0.05質量%以下である。これは、A成分中の4量体〜20量体の環状シロキサンの含有量が上記範囲の上限以下であると、後述の図2の実験結果からわかるように、加熱・硬化時におけるシロキサンガスの発生量を極力低減できるからである。このような環状シロキサンとしては、例えば、環状ジメチルシロキサンオリゴマー、環状メチルビニルシロキサンオリゴマー、環状メチルフェニルシロキサンオリゴマー、環状ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合オリゴマーが挙げられる。A成分中の4量体〜20量体の環状シロキサンの含有量はガスクロマトグラフィー等の分析により測定可能である。
【0048】
このようなA成分のオルガノポリシロキサンとしては、例えば、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、式:RSiO1/2で示されるシロキサン単位と式:RSiO1/2で示されるシロキサン単位と式:RSiO2/2で示されるシロキサン単位と少量の式:SiO4/2で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン共重合体、式:RSiO1/2で示されるシロキサン単位と式:RSiO2/2で示されるシロキサン単位と少量の式:SiO4/2で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン共重合体、式:RSiO2/2で示されるシロキサン単位と少量の式:RSiO3/2で示されるシロキサン単位もしくは式:RSiO3/2で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン共重合体、および、これらのオルガノポリシロキサンの二種以上の混合物が挙げられる。上式中、Rはアルケニル基以外の一価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基が挙げられる。また、上式中、Rはアルケニル基であり、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基が挙げられる。
【0049】
B成分のオルガノポリシロキサンは本組成物の架橋剤であり、1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有し、アルケニル基、ケイ素原子に結合した水酸基とアルコキシ基を有さないものである。B成分中のケイ素原子に結合した有機基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基が挙げられ、特に、メチル基、フェニル基が好ましい。このようなB成分の分子構造は限定されず、例えば、直鎖状、一部分岐を有する直鎖状、分岐鎖状が挙げられ、特に、直鎖状が好ましい。
【0050】
B成分の25℃における粘度は限定されないが、1〜500,000mPa・sの範囲内であることが好ましく、特に、5〜100,000mPa・sの範囲内であることが好ましい。これは、B成分の粘度が上記範囲の下限以上であると、本組成物の加熱・効果後の物理的特性が良好となるからであり、一方、上記範囲の上限以下であると、本組成物の取扱作業性が良好となるからである。
【0051】
このようなB成分のオルガノポリシロキサンとしては、例えば、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン、式:RSiO1/2で示されるシロキサン単位と式:RHSiO1/2で示されるシロキサン単位と式:SiO4/2で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン共重合体、式:RHSiO1/2で示されるシロキサン単位と式:SiO4/2で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン共重合体、式:RHSiO2/2で示されるシロキサン単位と式:RSiO3/2で示されるシロキサン単位もしくは式:HSiO3/2で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン共重合体、およびこれらのオルガノポリシロキサンの二種以上の混合物が挙げられる。上式中、Rはアルケニル基以外の一価炭化水素基であり、前記と同様の基が例示される。
【0052】
B成分の配合量は、A成分中のアルケニル基1モルに対して、本成分中のケイ素原子結合水素原子が0.5〜10モルの範囲内となる量であり、好ましくは、0.5〜5モルの範囲内となる量であり、さらに好ましくは、0.5〜3モルの範囲内となる量である。これは、B成分の配合量が上記範囲の下限以上であると、本組成物の硬化を十分に行うことができるようになるからであり、一方、上記範囲の上限以下であると、本組成物の加熱・硬化後の物理的特性の経時的変化を抑制することができるからである。
【0053】
C成分は本組成物に接着性を付与するための接着性付与剤である。このC成分は限定されないが、ケイ素原子に結合したアルコキシ基を有する有機ケイ素化合物であることが好ましい。C成分中のケイ素原子に結合したアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基が挙げられ、特に、メトキシ基が好ましい。また、C成分中のケイ素原子に結合した有機基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;3,3,3−トリフロロプロピル基、3−クロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基;3−グリシドキシピロピル基、3−メタクリロキシプロピル基、3−アミノプロピル基、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル基等の官能性有機基;トリメトキシシリルエチル基、メチルジメトキシシリルエチル基等のアルコキシシリルアルキル基;ケイ素原子結合水素原子が挙げられる。
【0054】
C成分としては、特に、(i)沸点が100℃以上であるケイ素原子結合アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物と(ii)1分子中に少なくとも1個のアルケニル基を有し、ケイ素原子に結合した水酸基を有するジオルガノシロキサンオリゴマーの混合物、または前記(i)成分と(ii)成分との縮合反応物であることが好ましい。
【0055】
(i)成分は沸点、すなわち、1気圧における沸点(標準沸点)が100℃以上であるが、これは、沸点が100℃以上であると、得られる組成物の硬化途上で、該組成物から揮発する低沸分をより減少することができるからである。このような(i)成分としては、例えば、3−グリシドキシピロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
【0056】
また、(ii)成分はケイ素原子に結合した水酸基(シラノール基)有するジオルガノシロキサンオリゴマーであり、該シラノール基の含有量が多くとも9質量%であることが好ましい。これはその含有量が9質量%以下であると、得られる組成物の接着性が良好となるからである。このような(ii)成分としては、例えば、分子鎖両末端シラノール基封鎖メチルビニルシロキサンオリゴマー、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合オリゴマー、分子鎖両末端シラノール基封鎖メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合オリゴマーが挙げられる。
【0057】
C成分の配合量は、A成分100質量部に対して少なくとも0.05質量部、すなわち、0.05質量部以上である。これは、C成分の配合量が、上記範囲の下限以上であると、本組成物の接着性が良好となるからである。
【0058】
また、本組成物において、上記B成分と上記C成分の合計量が、上記A成分、上記B成分および上記C成分の合計量に対して0.5〜10質量%の範囲内であることが必要であり、好ましくは、0.5〜7質量%の範囲内であり、より好ましくは、0.5〜3質量%の範囲内である。これは、上記A成分、上記B成分および上記C成分の合計量に対する上記B成分と上記C成分の合計量が上記範囲の下限以上であると、本組成物の接着性や硬化性が良好となり、一方、上記範囲の上限以下であると、後述の図2の実験結果からわかるように、本組成物の加熱・硬化時におけるシロキサンガスの発生量を極力低減できるからである。
【0059】
D成分は本組成物に熱伝導性を付与するための熱伝導性充填剤である。このようなD成分としては、本組成物が電気絶縁性となるように、金属酸化物系粉末、金属窒化物系粉末等を用いることができ、例えば、酸化アルミニウム粉末、酸化亜鉛粉末、または窒化アルミニウム粉末を用いることができる。なお、電子装置において、本組成物に導電性が要求される場合には、金属系粉末等の導電性粉末を用いることもでき、例えば、銀粉末を用いることができる。
【0060】
また、本組成物において、D成分はケイ素系表面処理剤により表面処理されていることが好ましい。このケイ素系表面処理剤としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン;メチルトリクロルシラン、ジメチルジクロルシラン、トリメチルモノクロルシラン等のクロロシラン;ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン等のシラザン;分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサンオリゴマー、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体オリゴマー、分子鎖両末端シラノール基封鎖メチルビニルシロキサンオリゴマー、分子鎖両末端シラノール基封鎖メチルフェニルシロキサンオリゴマー等のシロキサンオリゴマーが挙げられる。
【0061】
これらの表面処理方法としては、例えば、D成分とケイ素系表面処理剤を直接混合して処理する方法(乾式処理方法)、ケイ素系表面処理剤をトルエン、メタノール、ヘプタン等の有機溶剤と共にD成分と混合して処理する方法(湿式処理方法)、A成分とケイ素系表面処理剤との混合物中にD成分を配合するか、または、A成分とD成分の混合物中にケイ素系表面処理剤を配合してD成分の表面を処理する方法(in−situ処理方法)が挙げられる。
【0062】
D成分の配合量はA成分100重量部に対して100〜2,000質量部の範囲内であり、好ましくは、200〜1,600質量部の範囲内である。これは、D成分の配合量が上記範囲の下限以上であると、本組成物の加熱・硬化後の熱伝導性が良好となるからであり、一方、上記範囲の上限以下であると、本組成物の取扱作業性が良好となるからである。
【0063】
E成分は本組成物の硬化を促進するためのヒドロシリル化反応用触媒である。E成分としては、例えば、白金微粉末、白金黒、白金坦持シリカ微粉末、白金坦持活性炭、塩化白金酸、四塩化白金、塩化白金酸のアルコール溶液、白金とオレフィンとの錯体、白金と1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン等のアルケニルシロキサンとの錯体等の白金系触媒;テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム等のパラジウム系触媒;ロジウム系触媒、および、これらの金属系触媒を含有してなるポリスチレン樹脂、ナイロン樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコーン樹脂等の粒子径が10μm未満の熱可塑性樹脂粉末が挙げられる。
【0064】
E成分の配合量は触媒量であり、例えば、A成分に対してE成分中の金属原子が0.1〜0.05質量%の範囲内となる量であることが好ましく、特に、1〜0.005質量%の範囲内となる量であることが好ましい。これは、E成分の配合量が上記範囲の下限以上であると、本組成物の硬化性が良好となるからであり、一方、上記範囲の上限以下であっても、本組成物の硬化には十分であるからである。
【0065】
本組成物は上記A成分〜E成分を均一に混合することにより調製される。なお、本組成物は、上記以外の他の成分を含有しても良い。
【0066】
例えば、本組成物の取扱作業性を向上させるため、硬化抑制剤を含有することが好ましい。この硬化抑制剤としては、例えば、2−メチル−3−ブチン−2−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、2−フェニル−3−ブチン−2−オール等のアルキンアルコール;3−メチル−3−ペンテン−1−イン、3,5−ジメチル−3−ヘキセン−1−イン等のエンイン化合物;ベンゾトリアゾールが挙げられる。これらの硬化抑制剤の配合量は、本組成物に対して質量単位で10〜50,000ppmの範囲内であることが好ましい。
【0067】
ここで、本電子装置を製造するにあたっては、上記組成物からなるシリコーン接着剤30を、加熱・硬化するが、このシリコーン接着剤30の加熱・硬化を、真空中、もしくは、排気環境中で行うことが望ましい。真空中の加熱については、たとえばワークを真空容器などに封入し、その内部を真空ポンプなどで真空状態とし、この状態で加熱を行えばよい。また、排気環境中の加熱については、たとえば排気ダクトをワークの近傍に設置し、ポンプなどで排気の流れを発生しつつ、加熱を行えばよい。
【0068】
本実施形態のシリコーン接着剤30は、このシリコーン接着剤30の加熱・硬化時におけるシロキサンガスの発生量を極力低減するものである。その具体的な効果について、本発明者の行った実験結果を参照して述べる。
【0069】
図2は、従来の一般的なシリコーン接着剤と本実施形態のシリコーン接着剤30とについて、加熱・硬化時の揮発による減量を調べた結果を示す図である。これは、従来の一般的なシリコーン接着剤として、後述の実施例に記載の比較例1の組成物を用い、本実施形態のシリコーン接着剤30として、後述の実施例に記載の実施例1の組成物を用いて、サンプルとしてのシリコーン接着剤を150℃、17時間で加熱・硬化したとき、当該加熱前の質量に対する当該加熱後の質量の揮発による減量分(加熱減量)を調べた結果である。
【0070】
具体的には、当該加熱前の質量を100質量%としたとき、当該加熱前の質量から当該加熱後の質量を差し引いた量を揮発分xとし、その揮発分xのパーセンテージを求めたものである。ここで、揮発分xは、その大部分がシロキサンガスである。
【0071】
図2に示されるように、従来のシリコーン接着剤では、0.3質量%の減量であったのに対し、本実施形態のシリコーン接着剤30では、平均で0.05質量%、最大でも0.1質量%以下となっている。つまり、本実施形態のシリコーン接着剤30は、当該シリコーン接着剤30を150℃、17時間で加熱・硬化したとき、当該加熱前の質量に対する当該加熱後の質量の減量分が、0.1質量%以下となるものであるといえる。なお、後述の実施例に記載の実施例2の組成物を用いた場合においても、図2と同様の結果が得られている。
【0072】
このように、本実施形態によれば、シリコーン接着剤30として、上記したA〜Eの各成分が上記組成割合で含有されてなるものを用いることにより、図2に示されるように、従来のシリコーン接着剤に比べて、大幅に、シロキサンガスの発生量を低減できる。つまり、本実施形態によれば、シリコーン接着剤30の加熱・硬化時におけるシロキサンガスの発生量を極力低減することができる。
【0073】
また、本電子装置は、モールド樹脂60による封止構造を有するものであり、モールド樹脂30による封止前に、シリコーン接着剤30を加熱・硬化する必要があるが、その場合でも、シロキサンガスの発生量が少なく、モールド樹脂60で封止される被封止物の表面へのシロキサンガスの付着量が極めて少なくなる。そのため、モールド密着不良を引き起こすことがなく、優れた機能を有する電子装置を提供することができる。
【0074】
また、本実施形態によれば、モールド樹脂60の密着性の確保のために従来、被封止物の表面に塗布しているポリアミド樹脂の使用を止めることができ、大幅なコストダウンが望める。つまり、本実施形態によれば、ポリアミド樹脂をモールド樹脂60の被封止物の表面に塗布しない構成を有する電子装置を実現できる。
【0075】
このモールド樹脂60の密着性向上の効果について、本発明者の行った実験結果に基づき、具体的に述べる。ここでは、上記図1に示される装置構成において、シリコーン接着剤30を後述の実施例に記載の比較例1の組成物とした第1の比較例と、この第1の比較例においてさらに上記被封止物表面にポリアミド樹脂を塗布してモールドを行った第2の比較例と、後述の実施例に記載の実施例1の組成物を用いた本実施形態との3つの場合について検討した。
【0076】
これら本実施形態、第1の比較例、第2の比較例について、それぞれ30個ずつサンプルとしての電子装置を製造し、これら各サンプルに対して、−55℃〜150℃の冷熱サイクルを1000サイクル印加し、その後、モールド樹脂60の剥離の有無を超音波探査装置により調べた。
【0077】
その結果、第1の比較例では30個中、17個にて剥離が発生したが、第2の比較例および本実施形態では、剥離の発生は0個、つまり剥離は発生しなかった。なお、後述の実施例に記載の実施例2の組成物を用いた場合においても、剥離は発生しなかった。このように、本実施形態のシリコーン接着剤30によれば、モールド樹脂60の密着性を向上させるポリアミド樹脂を用いなくても、それと同等の密着性を確保できるのである。
【0078】
また、本電子装置では、ワイヤボンディングによる接続構造や、導電性ペーストまたは半田よりなる導電性接合材43による接続構造を有しており、ワイヤボンディング前および導電性接合材43の塗布前に、シリコーン接着剤30を加熱・硬化する必要がある構成となっている。
【0079】
しかし、そのような構成であっても、本実施形態によれば、シロキサンガスの発生量が少なく、ボンディングランドや導電性接合材43の塗布部へのシロキサンガスの付着量が極めて少ないため、接続不良を引き起こすことがなく、優れた機能を有する電子装置を提供することができる。
【0080】
また、上述したが、本実施形態では、基板20の側面において、シリコーン接着剤30の基板20の裏面から表面側への這い上がりが基板20の厚さ寸法の1/2以下となっている。これは、当該這い上がりが基板20の厚さ寸法の1/2を超えると、基板20の表面側にシロキサンガスが回り込みやすくなるためである。
【0081】
基板20の表面にシロキサンガスが回り込むと、上記したモールド樹脂30の被封止物、ワイヤボンディング部分、導電性接合材43の接続部分などにシロキサンガスが付着して、好ましくない。その点、当該這い上がりを基板20の厚さ寸法の1/2以下に留めれば、そのような不具合を抑制できるので、望ましい。
【0082】
また、上述したが、シリコーン接着剤30の加熱・硬化を真空中、もしくは、排気環境中で行うようにすれば、その加熱・硬化の際に発生するシロキサンガスが部品表面へ付着することを防止することができ、好ましい。
【0083】
(第2実施形態)
図3は、本発明の第2実施形態に係る電子装置の要部の概略断面構成を示す図である。本実施形態の電子装置では、基板20の表面に搭載されたICチップ41が、フリップチップボンディングにより基板20と接続されているところが、上記第1実施形態との主たる相違点である。
【0084】
ここでは、図3に示されるように、ICチップ41は、金やCuなどのバンプ45を介して基板20と接続されている。このようにフリップチップボンディングによる接続構造を有する場合、そのボンディング前に、シリコーン接着剤30を加熱・硬化する必要がある。
【0085】
しかし、本実施形態によれば、上記したシリコーン接着剤30の効果が発揮され、シロキサンガスの発生量が少なく、ボンディングランドへのシロキサンガスの付着量が極めて少ないため、ボンディング接続不良を引き起こすことがなく、優れた機能を有する電子装置を提供することができる。
【0086】
(第3実施形態)
図4は、本発明の第3実施形態に係る電子装置の概略断面構成を示す図である。本電子装置は、上記図1に示される電子装置の構成において、リードフレームよりなるヒートシンク10の他面側に、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などを主成分とする絶縁性の放熱シート70を設けたものである。それ以外の構成については、上記図1の構成と同様である。
【0087】
(第4実施形態)
図5は、本発明の第4実施形態に係る電子装置の概略断面構成を示す図である。本実施形態では、第1の部材として、アルミなどの金属製の筐体80を有し、この筺体80には、第2の部材として、放熱を有するICチップなどよりなる電子部品41が、上記各実施形態と同様のシリコーン接着剤30を介して接着されている。
【0088】
また、筺体80には、電子部品41の他に、電気接点を有するモータ部品81およびスイッチ部品82が搭載されている。これら両部品81、82が備える電気接点は、2個の部品が接触したり離れたりすることでオンオフするものである。
【0089】
そして、これら各部品41、81、82はリード46および筺体80に設けられた図示しない配線などにより電気的に接続されている。そして、たとえば電子部品41の制御によって、スイッチ部品82がモータ部品81を駆動させるようになっている。
【0090】
本実施形態によれば、シリコーン接着剤30による接着構造の周辺に、電気接点を有するモータ部品81およびスイッチ部品82が設置されることになるが、この場合でも、シロキサンガスの発生量が少なく、これら各部品81、82の電気接点へのシロキサンの付着量が極めて少ないため、当該接点での接続不良を引き起こすことがなく、優れた機能を有する電子装置を提供することができる。
【0091】
(他の実施形態)
なお、上記各実施形態のシリコーン接着剤30は、セラミック振動子などの圧電素子や、加速度センサや角速度センサなどに用いられる静電素子を、基板などに接着する場合においても、適用が可能である。この場合も、シロキサンガスの発生量が極力低減されるので、圧電素子や静電素子にシロキサンガスが付着することによる当該素子の特性変動の回避などの効果が期待される。
【0092】
また、第1の部材、第2の部材としては、それぞれ上記したヒートシンク10、筺体80、基板20に限定されるものではなく、シリコーン接着剤30で接着されるものであるならば、種々の部材を適宜選択して用いてよい。
【実施例】
【0093】
上記シリコーン接着剤30としての熱伝導性シリコーンゴム組成物を実施例により詳細に説明する。なお、実施例中の粘度は25℃において測定した値である。また、熱伝導性シリコーンゴム組成物の特性を次のようにして評価した。加熱・硬化時の揮発による減量(加熱減量)の結果については、図2に示す通りである。
[オルガノポリシロキサン中の4量体〜20量体の環状シロキサンの含有量]
オルガノポリシロキサン中の4量体〜20量体の環状シロキサンをアセトンにより抽出した後、その抽出量をガスクロマトグラフのFID法により測定した。この抽出量から、オルガノポリシロキサン中の環状シロキサンの含有量を求めた。
[加熱減量]
アルミ製カップに約5gの熱伝導性シリコーンゴム組成物を採り、該組成物の質量を小数点以下第4位までの精秤した後、このアルミ製カップを150℃の熱風循環式オーブン中で17時間加熱して、該組成物を硬化させる。その後、室温で30分間放冷し、シリコーンゴムの質量を小数点以下第4位までの精秤し、加熱減量(%)を求める。なお、組成物の硬化は、所定時間内、例えば、1時間未満で完了するが、安定した測定結果が得られるように、ここでは、加熱時間を17時間としている。
[実施例1]
ロスミキサーにより、粘度2,000mPa・s、4量体〜20量体の環状シロキサンの含有量200ppmの分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン100質量部、メチルトリメトキシシラン4.3質量部、および平均粒子径2.7μmの不定形状酸化アルミニウム微粒子330質量部を室温で混合した。その後、減圧下、150℃で1時間加熱混合してシリコーンゴムベースを調製した。
【0094】
次に、上記シリコーンゴムベースに、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(沸点290℃)と粘度20mPa・s、シラノール基の含有量7質量%の分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合オリゴマーを予め質量比1:1で混合して調製した接着性付与剤0.7質量部、粘度5mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体1.9質量部(シリコーンゴムベースに含まれている上記ジメチルポリシロキサン中のビニル基1モルに対して、本成分中のケイ素原子結合水素原子が1.4モルとなる量)、2−フェニル−3−ブチン−2−オール0.1質量部、および白金の1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体(シリコーンゴムベースに含まれている上記ジメチルポリシロキサンに対して、本成分中の白金金属が質量単位で30ppmとなる量)を添加し、室温で均一に混合して熱伝導性シリコーンゴム組成物を調製した。なお、この熱伝導性シリコーンゴム組成物中の上記ジメチルポリシロキサン、上記ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体および上記接着性付与剤の合計量に対する、上記ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体および上記接着性付与剤の合計量の割合が2.4質量%である。
[実施例2]
ロスミキサーにより、粘度2,000mPa・s、4量体〜20量体の環状シロキサンの含有量200ppmの分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン100質量部、メチルトリメトキシシラン4.3質量部、および平均粒子径2.7μmの不定形状酸化アルミニウム微粒子330質量部を室温で混合した。その後、減圧下、150℃で1時間加熱混合してシリコーンゴムベースを調製した。
【0095】
次に、上記シリコーンゴムベースに、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(沸点290℃)と粘度20mPa・s、シラノール基の含有量7質量%の分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合オリゴマーを予め質量比1:1で混合して調製した接着性付与剤0.2質量部、粘度5mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン0.6質量部(シリコーンゴムベースに含まれている上記ジメチルポリシロキサン中のビニル基1モルに対して、本成分中のケイ素原子結合水素原子が1.1モルとなる量)、2−フェニル−3−ブチン−2−オール0.1質量部、および白金の1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体(シリコーンゴムベースに含まれている上記ジメチルポリシロキサンに対して、本成分中の白金金属が質量単位で30ppmとなる量)を添加し、室温で均一に混合して熱伝導性シリコーンゴム組成物を調製した。なお、この熱伝導性シリコーンゴム組成物中の上記ジメチルポリシロキサン、上記メチルハイドロジェンポリシロキサンおよび上記接着性付与剤の合計量に対する、上記メチルハイドロジェンポリシロキサンおよび上記接着性付与剤の合計量の割合が0.8質量%である。
[比較例1]
ロスミキサーにより、粘度9,000mPa・s、4量体〜20量体の環状シロキサンの含有量10ppmの分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン70質量部、粘度2,000mPa・s、4量体〜20量体の環状シロキサンの含有量13,000ppmの分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン30質量部、メチルトリメトキシシラン4質量部、および平均粒子径2.7μmの不定形状酸化アルミニウム微粒子310質量部を室温で混合した。その後、減圧下、150℃で1時間加熱混合してシリコーンゴムベースを調製した。
【0096】
次に、上記シリコーンゴムベースに、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(沸点290℃)と粘度20mPa・s、シラノール基の含有量7質量%の分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合オリゴマーを質量比1:1で塩基性触媒により予め縮合反応して調製した接着性付与剤5.2質量部、粘度5mPa・sの分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体13質量部(シリコーンゴムベースに含まれている上記ジメチルポリシロキサン混合物中のビニル基1モルに対して、本成分中のケイ素原子結合水素原子が4.9モルとなる量)、および白金の1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体(シリコーンゴムベースに含まれている上記ジメチルポリシロキサン混合物に対して、本成分中の白金金属が質量単位で30ppmとなる量)を添加し、室温で均一に混合して熱伝導性シリコーンゴム組成物を調製した。なお、この熱伝導性シリコーンゴム組成物中の上記ジメチルポリシロキサン混合物、上記ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体および上記接着性付与剤の合計量に対する、上記ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体および上記接着性付与剤の合計量の割合が15.4質量%である。
【符号の説明】
【0097】
10 第1の部材としてのヒートシンク
20 第2の部材としての基板
30 シリコーン接着剤
43 導電性接合材
60 モールド樹脂
80 第1の部材としての筺体
81 モータ部品
82 スイッチ部品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の部材(10、80)と第2の部材(20)とがシリコーン接着剤(30)を介して接着されてなる電子装置であって、
前記シリコーン接着剤(30)として、
A成分としての、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、ケイ素原子に結合した水酸基とアルコキシ基を有さない、4量体から20量体までの環状シロキサンの含有量が0.1質量%以下であるオルガノポリシロキサンを100質量部と、
B成分として、1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有し、アルケニル基、ケイ素原子に結合した水酸基とアルコキシ基を有さないオルガノポリシロキサンと、
C成分として、接着性付与剤を少なくとも0.05質量部と、
D成分として、熱伝導性充填剤を100〜2000質量部と、
E成分として、ヒドロシリル化反応用触媒とを含み、
かつ、前記B成分の配合量が、前記A成分中のアルケニル基1モルに対して、ケイ素原子結合水素原子が0.5〜10モルとなる量であり、
さらに、前記B成分と前記C成分の合計量が、前記A成分と前記B成分と前記C成分の合計量に対して、0.5〜10質量%であるものを用いたことを特徴とする電子装置。
【請求項2】
前記シリコーン接着剤(30)は、当該シリコーン接着剤(30)を150℃、17時間で加熱・硬化したとき、当該加熱前の質量に対する当該加熱後の質量の減量分が、0.1質量%以下となるものであることを特徴とする請求項1に記載の電子装置。
【請求項3】
モールド樹脂(60)による封止構造を有することを特徴とする請求項1または2に記載の電子装置。
【請求項4】
ワイヤボンディングによる接続構造を有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の電子装置。
【請求項5】
フリップチップボンディングによる接続構造を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の電子装置。
【請求項6】
導電性ペーストまたは半田よりなる導電性接合材(43)による接続構造を有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の電子装置。
【請求項7】
前記第2の部材は、一方の板面を表面、他方の板面を裏面とする基板(20)であり、
前記基板(20)の裏面に前記シリコーン接着剤(30)が配置されて、前記基板(20)の裏面と前記第1の部材(10)とが接着されているものであり、
前記基板(20)の表面と裏面との間に位置する側面において、前記シリコーン接着剤(30)の当該裏面から当該表面側への這い上がりが前記基板(20)の厚さ寸法の1/2以下となっていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の電子装置。
【請求項8】
前記第1の部材(80)には、前記第2の部材(10)の他に、電気接点を有するモータ部品(81)およびスイッチ部品(82)が搭載されていることを特徴とする請求項1に記載の電子装置。
【請求項9】
第1の部材(10、80)と第2の部材(20)とを、シリコーン接着剤(30)を貼り合わせ、前記シリコーン接着剤(30)を加熱・硬化して接着してなる電子装置の製造方法であって、
前記シリコーン接着剤(30)として、
A成分としての、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、ケイ素原子に結合した水酸基とアルコキシ基を有さない、4量体から20量体までの環状シロキサンの含有量が0.1質量%以下であるオルガノポリシロキサンを100質量部と、
B成分として、1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有し、アルケニル基、ケイ素原子に結合した水酸基とアルコキシ基を有さないオルガノポリシロキサンと、
C成分として、接着性付与剤を少なくとも0.05質量部と、
D成分として、熱伝導性充填剤を100〜2000質量部と、
E成分として、ヒドロシリル化反応用触媒とを含み、
かつ、前記B成分の配合量が、前記A成分中のアルケニル基1モルに対して、ケイ素原子結合水素原子が0.5〜10モルとなる量であり、
さらに、前記B成分と前記C成分の合計量が、前記A成分と前記B成分と前記C成分の合計量に対して、0.5〜10質量%であるものを用い、
前記シリコーン接着剤(30)の加熱・硬化を真空中、もしくは、排気環境中で行うことを特徴とする電子装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−153253(P2011−153253A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16844(P2010−16844)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000110077)東レ・ダウコーニング株式会社 (338)
【Fターム(参考)】