電子部品、電子回路装置、および電子部品の製造方法
【課題】反射率および耐熱性に優れた電子部品を提供する。
【解決手段】電子部品10は、基板11と、基板11上に形成された高反射性の金属薄膜層12と、金属薄膜層12上に形成されたSnO2系の保護層13とを備える。
【解決手段】電子部品10は、基板11と、基板11上に形成された高反射性の金属薄膜層12と、金属薄膜層12上に形成されたSnO2系の保護層13とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体集積回路や電子回路基板等の部品、薄膜回路パターンを有する各種コンピュータ、各種ディスプレイ、表示デバイス等の薄膜回路パターンを有する電子回路装置に関する。
【背景技術】
【0002】
急速に進展する高度情報化社会において、コンピュータ、通信、情報家電、各種表示デバイスなど、あらゆる電子回路に薄膜で形成された回路パターンが使用されている。この薄膜のうち、発光効率の向上や演算プロセッサの高速化・大容量化に伴う電気配線から光配線への転換の要請に対応すべく開発・改良されている光デバイス用回路(ディスプレイ、照明機器、光回路など)における反射膜では、使用波長に適した金属反射膜が用いられ、反射率の高いAuまたはAg材料を基板上に成膜した反射膜を使用している。
【0003】
ここで反射膜としてのAuやAg系薄膜は、高温に晒されると、激しい表面拡散により結晶粒成長が起こり、最終的には、微細な球状となり、反射膜としての機能を果たさなくなる。そこで、この表面拡散を抑えるために、従来(例えば、特許文献1参照)では、反射膜上にCrやその酸化物、あるいはSiO2などを形成している。例えば、従来の電子部品の一例として、図33に示すように、ガラス、Si材料または化合物半導体の基板上に、100nm程度のAgの反射膜を形成し、その上に5nm程度のSiO2薄膜を形成している。図34には、この電子部品における、光の波長(Wavelength:λ)と反射率(Reflectance:R)との関係が示されている。同図に示すように、450℃程度の高温環境下では、反射率の低下もなく反射膜として正常に機能することが分かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−240147号公報(2004年8月26日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記電子部品では、図34から明らかなように、500℃あるいは600℃といった超高温環境下においては、反射率が著しく低下し、反射膜として機能しなくなることが分かる。デバイス作業環境では600℃という超高温に晒されるため、このような環境に耐え得る性能が求められる。
【0006】
近年、高性能、低消費電力、低環境負荷、および低コスト化を続ける光デバイス(ディスプレイ、照明機器、光回路など)は、大幅な微細化やコストパフォーマンスに優れた超高集積化が望まれている。このような状況において、光デバイスに重要な役割を担う反射膜については、高反射、耐久性および耐熱性を満足することが求められている。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、反射率および耐熱性に優れた電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電子部品は、上記課題を解決するために、
基板と、該基板上に形成された高反射性の金属薄膜層と、該金属薄膜層上に形成されたSnO2系の保護層とを備えることを特徴としている。
【0009】
上記の構成によれば、結晶性をもつSnO2系の保護層に用いているため、SiO2の保護層と比較して、Agの表面拡散を抑制することができる。よって、電子部品における反射率および耐熱性を向上させることができる。
【0010】
本発明の電子部品は、上記課題を解決するために、
基板と、該基板上に形成されたSnO2系の保護層と、該保護層上に形成された高反射性の金属薄膜層と、該金属薄膜層上にさらに形成された前記保護層とを備えることを特徴としている。
【0011】
上記の構成によれば、結晶性をもつSnO2系の保護層に用いているため、SiO2の保護層と比較して、Agの表面拡散を抑制することができる。また、基板と金属薄膜層との間にもSnO2系の保護層が介在するため、基板側へのAgの拡散をも抑制することができる。よって、電子部品における反射率および耐熱性をより向上させることができる。
【0012】
前記電子部品では、前記金属薄膜層は、Ag、Al、Cu、Auおよびそれらの合金の何れかで構成されていてもよい。
【0013】
前記電子部品では、前記金属薄膜層の厚さが、50nm〜500nmである構成であってもよい。
【0014】
前記電子部品では、前記保護層は、SnO2、あるいは、SnO2と、タンタル、ニオブ、アンチモンまたはフッ素との組み合わせから成る材料で構成されていてもよい。
【0015】
前記電子部品では、前記保護層の厚さが、1nm〜50nmである構成であってもよい。
【0016】
前記電子部品では、前記基板は、ガラス材料、金属、合金、プラスチック、Siおよび化合物半導体の何れかで構成されていてもよい。
【0017】
本発明の電子回路装置は、上記課題を解決するために、前記電子部品を備えることを特徴としている。
【0018】
本発明の電子部品の製造方法は、上記課題を解決するために、
基板上に高反射性の金属薄膜層を形成する工程と、
前記金属薄膜層上にSnO2系の保護層を形成する工程と、
を含むことを特徴としている。
【0019】
本発明の電子部品の製造方法は、上記課題を解決するために、
基板上にSnO2系の保護層を形成する工程と、
前記保護層上に高反射性の金属薄膜層を形成する工程と、
前記金属薄膜層上に前記保護層をさらに形成する工程と、
を含むことを特徴としている。
【0020】
前記電子部品の製造方法では、前記金属薄膜層および保護層を形成する工程は、最大600℃の熱を加える処理を含んでいてもよい。
【0021】
前記電子部品の製造方法では、前記金属薄膜層および保護層を、電子ビーム蒸着法または電子ビームプラズマ蒸着法により形成してもよい。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明の電子部品は、基板と、該基板上に形成された高反射性の金属薄膜層と、該金属薄膜層上に形成されたSnO2系の保護層とを備える構成である。よって、反射率および耐熱性に優れた電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施の形態に係る電子部品10の概略構成を示す断面図である。
【図2】本実施の形態に係る電子部品20の概略構成を示す断面図である。
【図3】各反射膜材料における、波長と反射率の関係を示すグラフである。
【図4】ガラス基板上におけるAgの凝集の様子を撮影した結果を示す図である。
【図5】CrによりAgの凝集が抑制された様子を撮影した結果を示す図である。
【図6】EBプラズマ蒸着装置の概要を示す図である。
【図7】熱処理に用いた高温定温乾燥器の概要を示す図である。
【図8】高温定温乾燥器における加熱・冷却工程の各設定温度への温度プロファイルを示すグラフである。
【図9】反射率測定に用いた鏡面反射率測定装置の概要を示す図である。
【図10】反射膜・保護膜界面での原子の拡散状態を把握するために用いたXPS装置の示す図である。
【図11】Glass/Cr/Ag/Cr反射膜の構成を示す断面図である。
【図12】左半分が、ガラス基板にAgのみを成膜し熱処理した場合の表面形状を撮影した様子を示す図であり、右半分が、ガラス基板にCr/Ag/Crを連続成膜し熱処理した場合の表面形状を撮影した様子を示す図である。
【図13】左半分が、ガラス基板にAgのみを成膜し熱処理した場合の表面形状を撮影した様子を示す図であり、右半分が、ガラス基板にCr/Ag/Cr2O3を連続成膜し熱処理した場合の表面形状を撮影した様子を示す図である。
【図14】Glass/Ag/SiO2反射膜の構成を示す断面図である。
【図15】図14の構成において、SiO2の膜厚が1nmの試料を熱処理した場合の表面形状を撮影した様子を示す図である。
【図16】図14の構成において、SiO2の膜厚が5nmの試料を熱処理した場合の表面形状を撮影した様子を示す図である。
【図17】図14の構成において、SiO2の膜厚が10nmの試料を熱処理した場合の表面形状を撮影した様子を示す図である。
【図18】図14の構成において、SiO2の膜厚が20nmの試料を熱処理した場合の表面形状を撮影した様子を示す図である。
【図19】図14の構成において、SiO2の膜厚が50nmの試料を熱処理した場合の表面形状を撮影した様子を示す図である。
【図20】図14の構成において、SiO2の膜厚が50nmの試料に873K×30minの熱処理をかけた場合の断面を撮影した様子を示す図である。
【図21】(a)〜(d)は、熱処理過程で析出した結晶がSiO2保護膜中に存在している原因を説明するための図である。
【図22】SiO2の構造と、SnO2の構造を示す図である。
【図23】Glass/Ag/SnO2反射膜の構成を示す断面図である。
【図24】Glass/SnO2/Ag/SnO2反射膜の構成を示す断面図である。
【図25】図23の構成において、SnO2の膜厚が5nmの試料を熱処理した場合の表面形状を撮影した様子を示す図である。
【図26】図23の構成において、SnO2の膜厚が10nmの試料を熱処理した場合の表面形状を撮影した様子を示す図である。
【図27】図23の構成において、SnO2の膜厚が50nmの試料を熱処理した場合の表面形状を撮影した様子を示す図である。
【図28】(a)は、SiO2の膜厚と表面粗さとの関係を示すグラフであり、(b)は、SnO2の膜厚と表面粗さとの関係を示すグラフである。
【図29】(a)は、Glass(2.8mm)/Ag(100nm)/SnO2(5nm)の構成を示す断面図であり、(b)は、この構成における反射率の変化を示すグラフである。
【図30】(a)は、Glass(2.8mm)/Ag(100nm)/SiO2(5nm)の構成を示す断面図であり、(b)は、この構成における反射率の変化を示すグラフである。
【図31】(a)は、Glass(2.8mm)/SnO2(50nm)/Ag(100nm)/SnO2(10nm)の構成を示す断面図であり、(b)は、この構成における反射率の変化を示すグラフである。
【図32】(a)は、Glass(2.8mm)/SiO2(50nm)/Ag(100nm)/SiO2(10nm)の構成を示す断面図であり、(b)は、この構成における反射率の変化を示すグラフである。
【図33】従来の電子部品の一例を示す断面図である。
【図34】図33の電子部品における、光の波長(Wavelength:λ)と反射率(Reflectance:R)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の一実施形態について図面に基づいて説明すると以下の通りである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。ここで、本発明に係る電子部品は、耐熱性および反射機能を有する反射部品であり、本発明に係る電子回路装置に相当する、例えば、ディスプレイ、照明デバイス、太陽電池用反射膜、MEMS系光デバイス全般、光回路デバイス全般などに適用されるものである。
【0025】
図1は、本実施の形態に係る電子部品10の概略構成を示す断面図である。電子部品10は、基板11と、基板11上に形成された金属薄膜層12と、金属薄膜層12上に形成された保護層13とを含んで構成されている。
【0026】
基板11は、ガラス材料、金属、合金、プラスチック、Siおよび化合物半導体の何れかで構成されている。基板11の厚さは、20〜1000μmが好ましい。
【0027】
金属薄膜層12は、高反射性を有し、光を反射する反射膜としての機能を有する。金属薄膜層12は、Ag、Al、Cu、Auおよびそれらの合金の何れかで構成され、その厚さは、30〜300nmであることが好ましく、特に50〜100nmであることが好ましい。金属薄膜層12の厚さが30nm未満である場合は、光を透過し可視光領域での反射率が低下するおそれがある。また、金属薄膜層12の厚さが300nmを超えると、金属薄膜層12表面に凹凸が発生しやすくなり、光の散乱が生じ、可視光領域での反射率が低下するおそれがある。
【0028】
保護層13は、SnO2、あるいは、SnO2と、タンタル、ニオブ、アンチモンまたはフッ素との組み合わせから成る材料で構成されている。保護層13の厚さは、1nm〜50nmであることが好ましい。
【0029】
ここで、本発明に係る電子部品は、以下の構成であっても良い。
【0030】
図2は、本実施の形態に係る電子部品20の概略構成を示す断面図である。電子部品20は、基板21と、基板21上に形成された第1保護層22(保護層)と、第1保護層22上に形成された金属薄膜層23と、金属薄膜層23上に形成された第2保護層24(保護層)とを含んで構成されている。各構成部材の材料および膜厚は、電子部品10と同一である。
【0031】
以下、本実施の形態に係る電子部品10,20における、金属薄膜層12,23および保護層13,22,24について考察する。
(1)Ag系多層反射膜の理想構成と従来技術
一例としてPDP(プラズマディスプレイパネル)用反射膜に要求される性質は、高反射率と高耐熱性である。高い反射率は勿論であるが、前面板・背面板の封着工程の際にかかる熱処理温度723Kの熱処理でも反射率を維持することが必要である。本実験では、実際の封着工程にマージンを考え、773K×30minという高温熱処理にも耐え得る高耐熱・高反射率反射膜を目指した。
【0032】
まず、反射膜材料の選定として、現在、CD−R、DVDメディア等において反射膜として使用されているAg、Au、および、比較的反射率が高く低コスト材料として期待されるCu、Alについて、反射率の比較を理論的に行った。なお、下記式(1)、式(2)、および、光学定数として、それぞれの波長における屈折率nおよび消衰係数kを用い、本検討で対象とする可視光の波長域(400〜800nm)における、真空側から反射膜に垂直入射した際の反射率の計算を行った。*nは、複素屈折率を示す。
【0033】
【数1】
【0034】
【数2】
【0035】
この結果を図3に示す。低波長域(〜500nm)では、AuおよびCuの反射率は著しく下がる。よって、反射膜としては黄色く見える。PDPは画像を表示するため、波長ごとに偏った反射率を示す材料は適していない。全体的な波長に対し均一な反射率を示すAl、Agは、その点で優れている。さらに、Al、Agは、平均的に高い反射率をもつ。特にAgは、平均95%以上の反射率を達成し、高反射率反射膜の材料として優位である。なお、各4つの材料の物質特性を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
次に、吸収損失に関して考察する。反射膜の膜厚が、対象としている光の波長オーダーであるとき、反射膜の両界面での反射波の干渉を考慮しなければならない。そこで、以下の式(3)、および式(4)を用い、光が真空側から反射膜に垂直入射した際における反射膜の膜厚と反射率の関係の計算を行った。なお、反射膜はガラス基板上に十分な膜厚で成膜されているものとし、ガラス基板の複素屈折率をソーダライムガラスと同じ1.52として計算を行った。
【0038】
【数3】
【0039】
【数4】
【0040】
その結果、反射膜の膜厚が増加すると共に、反射率も増加し、次第にそれぞれの反射率が一定の値に漸近していくことが分かった。また、反射膜の膜厚が100nm程度でも十分な反射率が得られ、ほとんど膜厚に依存しないことが分かった。
【0041】
ここで、まず従来技術の一つとして、光信号を用いた光伝送システムのスラブ導波路に着目した。現在検討されている高耐熱・高反射率Ag系反射膜の研究では、673K×30minの高耐熱性を有し、90%を超える反射率が維持できている。その研究概要を簡単に述べる。Ag系反射膜における課題の一つは、Agの凝集である。Agは表面拡散係数が非常に高く、表面拡散が高速に行われるため、表面積の大きい薄膜状態では、熱処理によって表面拡散が高速に進み、表面エネルギーを下げる形(球状)に凝集してしまう。それがピンホールへと発展し、やがて反射率の低下につながる(図4参照)。
【0042】
これに対して、1〜3nmのCrでAg層を保護するCr/Ag/Cr薄膜の構成をとることにより、完全にAgの凝集が抑制され、平坦な薄膜を維持することができる(図5参照)。これは耐熱性・耐酸化性に優れたCrを保護層として形成することにより、高速な表面拡散が抑制されたためであると考えられる。よって、PureなAgでもわずか2nmのCr保護層で耐熱性を確保することができる。
【0043】
また、ガラス基板上にAgを成膜する場合に、ガラスの主成分であるSiO2は酸化物であるためにGlass/Ag間の接着性の低さが懸念される。そこで、Ag膜形成にマグネトロンスパッタ装置とEBプラズマ蒸着装置の2つを用い、成膜直後と熱処理後の接着性をピーリング試験で比較した結果、EBプラズマ蒸着が極めて高い接着性を示すことを確認している。
【0044】
本願発明者らは、Cr/Ag/Cr反射膜構成を参考にして、高耐熱・高反射率反射膜の実現を目指した。さらに、より高耐熱を実現するため、最高温度923K×30minの熱処理での試験も行い、シンプルな構成のAg系多層薄膜の耐熱限界を探った。
(1)実験方法
(1−1)成膜プロセスと供試材料
試料の作成には次の装置を用いた。まず、反射膜の形成に用いたEB−プラズマ蒸着装置について説明する。
【0045】
EBプラズマ蒸着装置は、ULVAC製のEBX−2000を用いた。装置の概要を図6に示す。真空(減圧)チャンバ内で成膜したい物質をるつぼに入れ、電子ビームを照射し溶融、蒸発させる。この蒸発した物質をRFプラズマによりイオン化し、これがACバイアスを印加した基板に向かって高エネルギーで飛んでいき、衝突・接着し、これが連続して体積していくことで均一性の良い膜となる。この際、制御系機能としては、真空度、蒸発速度、イオンの加速度の制御や、膜厚の制御等が可能である。EBプラズマ蒸着は、成膜に通常用いられるEBPVDや、スパッタリング装置ほど基板を加熱することなく成膜できる。さらに、蒸発粒子がプラズマ中で加速して基板表面に衝突するため、蒸着粒子が基板表面に均一に拡散するので、従来の装置に比べて大幅に密着性が向上し、かつ平滑な膜が得られる。また、多層薄膜を連続形成できるので、界面の正常性を維持した高品質の多層膜が得られる。したがって、この装置は、1nmから数mm厚の薄膜を高品質でかつ高速に形成できるという特徴をもっている。
(1−2)熱処理
熱処理には高温定温乾燥器(東洋製作所製)を用いた。装置の概要を図7に示す。なお、本装置の使用温度域は室温+650Kである。以下、熱処理過程を説明する。
【0046】
EBプラズマ蒸着により作成した試料を、高温定温乾燥器により大気中で各設定温度まで加熱後、実際の製造工程を考慮し30分間保持し、自然冷却した。設定温度の設定は、まず封着時に反射膜に加わる723K、それにマージンを考慮して773K、そして高温劣化メカニズム追求のための823Kにした。各設定温度への温度プロファイルを図8に示す。
(1−3)観察・分析・測定装置
熱処理前後の状態観察には、光学顕微鏡(KEYENCE製VHX−100)、FE−SEM(日立製S−4800)を使用した。断面観察は、FIB(日立製FB−2000A)による加工後、FE−SEMにより観察した。分析にはEDX分析(Energy Dispersive Spectroscopy:エネルギー分散型X線分法)を利用したEMAX(HORIBA製)を用いた。反射率測定には、鏡面反射率測定装置(入射角5°用)(島津製作所製)を用いた。装置の概要を図9に示す。また、本装置は、入射角5°でAL蒸着ミラーに対する相対鏡面反射率測定を行うものである。そして、表面の形状・凹凸は、KEYENCE製AFM(Atomic Force Microscope:原子間力顕微鏡)VN−8000により測定・解析した。また、反射膜・保護膜界面での原子の拡散状態を把握するため、XPS装置(島津製作所製AXIS−165X)を用いた(図10参照)。この装置では、XPS装置内の試料に対し、イオン銃によるイオンスパッタリングをすることができる。これを用いて、試料深さ方向への加工をステップ毎にすることにより、試料の各深さにおける段階的なXPS表面分析が可能である。その分析データの処理に関しては、VISION2(Kratos Analytical Ltd製データ処理ソフトウェア)を用いて処理をした。VISIO2では、XPS装置により得られたピーク強度を示すグラフから、該当表面の組成比を算出する機能を有している。それに加え、複数の物質から分析表面が成り立っている場合かつ、結合エネルギーが近寄っていて混在するピークを示すときは、各ピークの標準試料のデータと強度分布のモデルから分離することができ(Auto-Fit機能)、そこから、混在する物質の状態分析および定量化をすることができる。
【0047】
本検討でのXPS装置の設定について述べる。光電子の検出に関する設定としては、Pass energy:20,lensmode:slot-m(試料測定エリア700μm×300μm)である。また、X線源の設定としては、anode:Mg、current:10mA、voltage:12kVで行った。これらは、良好な分析結果が得られるようにあらかじめ求めておいたものである。イオン銃はArガスにより、current:15mA、SAC真空度を2.0×10−7Paで行った。
(1−4)現行技術の適用と課題
これまでの検討を参考にPDP用ガラス基板(PD−200(旭硝子社製))に、EBプラズマ蒸着を用いてCr/Ag/Cr反射膜を形成し(図11参照)、723K×30minの熱処理を行い、表面形状を観察した。その結果を図12に示す。上段は、光学顕微鏡で撮影した様子を示し、下段は、FE−SEMで撮影した様子を示している。成膜直後の様子と各設定温度に熱処理した後の様子を並べている。倍率は光学顕微鏡の写真は1500倍で、FE−SEMの写真は1万倍で撮影している。
【0048】
図12の左半分が、ガラス基板にAg(膜厚100nm)のみを成膜し熱処理したものである。熱処理前では平滑な膜表面であったが、熱処理後には膜として保たれず、球状に変化している。これは、Agの表面が大気と接しており、また薄膜であるために、表面積が非常に大きく、その結果、熱により表面拡散が著しく進行し、近傍のAg原子と凝集していったためであり、このように球状のAgが点在している。
【0049】
図12の右半分が、ガラス基板にCr/Ag/Crを連続成膜したものである。それぞれの膜厚は図11の通りであるが、こちらも、熱処理前では平滑な膜表面であったが、熱処理後には膜として保たれず、球状に変化している。これは、Agの表面を覆っているCrの保護膜がAgの表面拡散を抑制できなくなり、Agの凝集が起きたためであると考えられる。そこで、Agと表面のCrが熱処理過程で反応して化合物を作り、それによって、表面の保護膜としてのCr膜厚が減少し、結果、Agの表面拡散を抑えきれなくなると考えたため、Cr膜厚を3nm,5nmとして同様の実験を行ったが、同様にAgの凝集を抑制することはできなかった。
【0050】
次に、表面保護膜を熱的に安定な酸化物であるCr2O3に変えて、さらに膜厚をCr:2nmからCr2O3:10nmと厚くして、同様に成膜、熱処理を行った。結果は、図13の通りである。Cr2O3:10nmとしても、Agの表面拡散が著しく進行しており、凝集を抑えることはできなかった。
【0051】
これは、Agの粒成長が起点となりクラック発生後、凝集が起きている可能性が高いと考えた。そこで、Cr以外の保護膜としてSiO2保護膜を検討した。透過率・熱安定性の面で優位であり、またその粘性より、Agの粒成長から受けるひずみに耐える事を期待し、Ag/SiO2膜構成を採用した。
(2)SiO2保護層膜の検討
ガラス基板上に反射膜を成膜した試料(Glass/Ag/SiO2)の膜厚を、図14に示すように、それぞれ、Glass:2.8mm、Ag:100nm、SiO2:1nm、5nm,10nm,20nm,50nmとした。また、それらの試料に対し、723K×30min、773K×30min、873K×30minの熱処理を行い、表面観察・反射率の観点から表面拡散の抑制を評価した。なお補足として、成膜装置・成膜条件・膜厚・材料等を考慮し反射率は、標準試料(Glass:2.8mm/Ag:100nm)での反射率を1とし相対比較している。
【0052】
FE-SEMで観察した結果を図15に示す。1段目は成膜直後の様子である。成膜直後はまだAgの結晶粒が微細であるのが分かる。しかし、723Kの熱処理の段階で既に表面拡散が始まっており、ガラス基板まで達する溝が空いている。そして、773Kにおいては完全にAgが球状にまとまっているのが分かる。873Kでも同様にAgの凝集が起きている。理由としては、膜厚が薄く強度が十分でないため、熱処理過程でSiO2が至るところで割れが生じ、Agの表面拡散を抑制しきれていないと考えられる。また膜厚分布があるため、1nmの薄さでは全体を均一に覆う事ができていないと考えられる。
【0053】
次に、SiO2膜厚5nmの試料を熱処理した様子を図16に示す。成膜直後の様子を見ると、成膜時に凝集は起きていない。また、結晶粒も微細である。723K、773K、873Kと熱処理温度が上がるにつれて、Agの表面拡散の度合いが大きくなり、結晶粒の凝集が激しく起こる。
【0054】
次に、SiO2膜厚10nmの試料を熱処理した様子を図17に示す。723Kにおける熱処理の表面状態を見ると、粒成長はほとんど見られず、773Kで、表面でAgの結晶粒の成長が見られる。表面の結晶粒が成長しているということは、表面拡散が進行していると考えられるので、SiO2にクラックが発生し、膜として維持されていないと考えられる。873Kにおいては、あちこちで穴が開いている。
【0055】
次に、SiO2膜厚20nmの試料を熱処理した様子を図18に示す。773Kまでの熱処理において、凝集による穴の発生はみられない。表面の粒成長も見られず、反射膜の膜質としては良好であると思われる。しかし、873Kにおいては、急速にAgの凝集が起こり、いたるところで穴の発生が見られる。
【0056】
次に、SiO2膜厚50nmの試料を熱処理した様子を図19に示す。結晶粒の凝集や穴はほとんど発生しておらず、良好に見える。しかし、FE-SEMの写真を詳細に見ると、773K、873Kの熱処理において新たな結晶粒が見える。この理由は、SiO2膜へのAgの拡散によるものと考えられ、以下にメカニズムを推定した。
【0057】
SiO2膜厚50nmにおいて、773K以上の熱処理を行った際に、表面近傍に新たな結晶が析出する現象が見られた。そこで、SiO2膜厚50nmを873K×30minの熱処理をかけた試料の断面をFIBとFE-SEMを用いて観察した(図20参照)。これより、熱処理過程で析出したこの結晶がSiO2保護膜中に存在していることが確認できる。そこで、この原因を次のような、推定した。
(i)成膜直後の状態、Agは粒径40〜50nm(図21(a))。
(ii)これに873Kの高温処理を加えると、SiO2・ガラス基板界面においてAgの原子が高い熱エネルギーを受け、Ag+イオンとなりSiO2中に拡散する(図21(b))。
(iii)SiO2中へ拡散したAg+イオンが内部で還元されAg原子となり集合しコロイド状の集団を作る。また界面において、Ag原子の拡散により表面Ag結晶のなかに、多数の空孔が生じる。その空孔が粒界を伝って、Agの両界面に集合し空洞を作る(図21(c))。
(iv)SiO2中でコロイド状Ag粒子が熱膨張し、それが近傍のSiO2大きな引張応力を与え、クラックの発生、破壊につながる(図21(d))。
【0058】
しかし、厚い50nmでは、このコロイド粒子が多数生成され、膜のクラックも起こらなかったが、Agの拡散が激しく起こっていることになり、かつ析出物は光学薄膜の特性を劣化させ、耐久性にも問題があるので、総合的には、反射膜としては使用できない。
(3)SnO2保護膜を用いた結果と考察
次に、Agの保護膜、ガラス基板中への拡散抑制に着目し、それをシンプルな膜構成によって実現する方法を検討した。具体的には、SiO2膜と同様に熱に安定な酸化物であり結晶構造を持つSnO2を保護膜に採用した。以下、SiO2とSnO2の構造の違いより、Agの拡散のし易さを検討し、その後実験によってメカニズムの検証とAg系多層薄膜としての耐熱性の限界を探求した。
(3−1)構造比較
SiO2の構造およびSnO2の構造をそれぞれ、図22に示す。SiO2は、SiとOとが骨格となってアモルファス構造を構成している。Si−Oの間は共有結合をしているため、結合力が極めて高く方向性も高い。また、一つの格子単位で見ると、SiO4という四面体構造をもつが、Si−O−Siの間に自由度があるため、均一な結晶構造をもたない。そのため、全体で見ると、結晶粒の大きさは不均一である。結晶粒を2次元的に見た際に、SiO4−SiO4で繋がる一つのリングを一つの結晶粒界として考えると、ガラス全体はこのリングの集まりである。理想構造としてこれらのリングが規則的に並ぶ場合には、全てのリングは六角形の形になり、規則正しく配列される。これに対し、実際のSiO2はリングを構成するSiO4の数に分布があり、4〜8個で構成されたリングが不規則な配列で並んでいる。
【0059】
また、SiO2内には共有結合の相手を持たない原子欠陥が多く存在し、それらはダングリング・ボンドと呼ばれる。つまり図から見ても分かるとおり、SiO2内には多くの隙間が空いていると言える。そして、骨格原子Siと同程度の大きさをもつ原子が容易に拡散すると言われている。
【0060】
それに対して、SnO2は、結晶構造を持ち、その構造はルチル構造である。ルチル構造は立方格子をc軸方向に圧縮した正方単位格子からなり、a軸長は0.47nm、c軸長は0.32nmである。単位格子内には2化学式分(2SnO2)のイオンが含まれている。正方格子の隅はSnイオンが占め、その体心にSnO2の八面体が位置している。底面状にある2つの酸素イオン間の距離は0.26nmで、イオン半径(六方位、0.13nm)の和にほぼ等しいから、互いに接していると言える。この酸素イオンと体心のSnイオンが作るO−Sn−Oの角は78.1°であり、O−Snの距離は0.21nmである。6配位Sn4+のイオン半径は0.08nmであるから、O2−とSn4+が互いに接している。しかし、SnO2は透明導電膜としても知られるように、Sn−O間で共有結合を持ちながら導電性を示す。これは、SnO2内に酸素欠陥、錫欠陥を含むため自由に動ける電子が発生するためである。つまり、Agが結晶構造をもつSnO2に拡散するためにはこれらの空格に侵入する必要がある。
【0061】
以上の構造の違いより、Agの拡散の程度を考えると、非晶質で内部に骨格原子サイズの空隙をもつSiO2膜に比べ、酸素・錫欠陥等の空孔子を持つSnO2膜の方がAgの拡散する速度は、はるかに遅いと推測される。よって、Agの拡散抑制を期待し、SnO2膜を保護膜として用いた高耐熱・高反射率Ag反射膜の検討を行った。
(3−2)実験
次に、二つの試料の構成で高耐熱化の検討を行った。一つ目の構成は、図23に示すように、Glass/Ag/SnO2であり、SiO2膜と表面拡散抑制効果の比較を行うためにこの構成にした。二つ目の構成は、図24に示すように、Glass/SnO2/Ag/SnO2であり、先に述べたように、ガラス基板側への拡散抑制の目的でガラス基板とAgの間にもSnO2膜を配置した。反射膜の成膜、熱処理、観察に用いた装置・材料は、上記(1−1)で示した条件と同じである。熱処理工程も前試験と同様、723K×30min、773K×30min、873K×30min、さらにAg系薄膜の高耐熱化限界を探求するため、923K×30minの熱処理工程も検討した。
(3−3)結果と考察
SiO2膜との表面拡散抑制効果を比較したGlass/Ag/SnO2の試験結果を述べる。
【0062】
まず、SnO2膜厚5nmでの耐熱試験の結果を図25に示す。FE-SEMの真を見ると、SnO2/Ag界面においてAgの粒成長はしていない。そしてAFMで面の平均荒さ(Ra)を測定した結果でも、表面凹凸は10nm以下に抑えられていた。よってAgはSnO2/Ag界面において表面拡散しておらず、凝集は抑制できたと考えられる。
【0063】
次に、SnO2膜厚10nmでの耐熱試験の結果を図26に示す。FE-SEMの写真から、SnO2/Ag界面においてAgは粒成長をしていないと判断できる。AFMの結果も同様に、Raは10nm以下であった。よって、Agの凝集を抑えられたと考えられる。
【0064】
次に、SnO2膜厚50nmでの耐熱試験の結果を図27に示す。FE-SEMの写真を見ると、SnO2/Ag界面でAgは粒成長をしていない。
【0065】
また、AFMの結果(図28(a)(b)参照)を見ると、Ag粒成長による表面凹凸はSiO2に比べ明らかにSnO2が小さく、かつ5〜50nm全てで評価した600℃まで10nm以下と非常に小さな凹凸に抑えられており、SiO2に比べて劇的な差が見られることが判った。SiO2も20nm以上では、表面凹凸が小さくなるが、Agの拡散によるコロイドの発生が起こるため、耐熱性が劣る。
【0066】
SnO2膜の場合、どの膜厚においても表面でのAgの粒成長は確認されなかったため、Ag/SnO2界面ではAgの表面拡散による凝集を抑えられていると考えられる。この点において、SnO2膜の方がより薄い膜厚で耐熱性をもつため、反射膜として優位である。
【0067】
また、SiO2膜では、熱処理後にAgがコロイド状に析出しているのに対し、SnO2膜では見られなかった。そのことからも、上述したメカニズムから、SnO2膜がSiO2膜に比べてより薄い膜厚で表面拡散を抑制できる説明がつく。SiO2膜では、拡散したAgが、集合、熱膨張しクラック発生を助長するため、より大きな応力がSiO2膜に加わる。そのため、強度を確保するために、SiO2膜ではより厚い膜厚が必要になると言える。以上から、さらなる高温での耐熱性を考えると、SnO2膜の方がその信頼性が高いと言える。
【0068】
しかし、どちらの保護膜においても、873K×30minの熱処理後にガラス基板が黄色に着色され、裏側の光が透過する現象が見られた。このことからも、ガラス基板とAgの間に拡散防止膜が必要なのは明らかである。そこで、次に、拡散防止膜としての、SiO2膜とSnO2膜の抑止力、つまり両者に対するAgの拡散速度を比較した。構造上、SnO2膜の方がAgの拡散速度が遅いと考えられるため、SnO2膜を拡散防止膜として用いた方が、873K×30minの熱処理後、ガラス基板の着色が薄いはずである。以下に、結果を述べる。
【0069】
Glass/SiO2/Ag/SiO2の構成(図14参照)、Glass/SnO2/Ag/SnO2の構成(図23参照)の試料を873K×30min、923K×30minの熱処理試験により、ガラス裏面の着色度合いより拡散速度の比較を行い、また、Ag系薄膜としての耐熱性限界の究明を行った。
【0070】
その結果、Glass/SiO2/Ag/SiO2の試料の873K×30min熱処理した場合に、Agの凝集が起きていた。それに対し、同じ膜厚構成であるGlass/SnO2/Ag/SnO2では、ガラス基板裏側の着色は飛躍的に抑えられ、また光の透過もほとんど見られなかった。表面から観察した結果も、Agの凝集は抑えられており、また反射率の低下も見られなかった。この試料に対し923K×30minの熱処理試験を行った結果も、表面から観察した際、反射膜として維持され、Agの凝集は抑えられていた。裏側の着色も拡散防止SnO2膜を形成しないものや、Glass/SiO2/Ag/SiO2に比べて抑えられていた。
【0071】
以上の結果を踏まえて、反射率の評価行った。図29(a)は、Glass(2.8mm)/Ag(100nm)/SnO2(5nm)の構成を示す断面図であり、図29(b)は、この構成における反射率の変化を示すグラフである。図30(a)は、Glass(2.8mm)/Ag(100nm)/SiO2(5nm)の構成を示す断面図であり、図30(b)は、この構成における反射率の変化を示すグラフである。図31(a)は、Glass(2.8mm)/SnO2(50nm)/Ag(100nm)/SnO2(10nm)の構成を示す断面図であり、図31(b)は、この構成における反射率の変化を示すグラフである。図32(a)は、Glass(2.8mm)/SiO2(50nm)/Ag(100nm)/SiO2(10nm)の構成を示す断面図であり、図32(b)は、この構成における反射率の変化を示すグラフである。
【0072】
図29および図30の比較より、5nm反射膜の反射率は、600℃では少し落ちてくるが、SnO2が温度に対して圧倒的に良いことが分かる。さらに、図31および図32の比較より、反射膜を保護膜でサンドイッチにした構造でも、SnO2が10nmの上層保護膜(第2保護層)で、600℃を超え、650℃でも高い反射特性を示し、超耐熱性を有していることが明らかになった。
【0073】
以上の結果より、反射膜用保護膜としては、SnO2の膜厚が5nm以上あれば高い耐熱性を示すことが明らかになった。さらなる耐熱性向上に対しては、SnO2:50nm/Ag:100nm/SnO2:10nmのサンドイッチ構成が優れていることが明らかになった。この考え方を適用できる範囲では、更なる適正な膜厚構成があることは容易推定できる。
【0074】
高耐熱・高反射率反射膜Ag系多層反射膜に着目して、理想的な背面板形状の形成と、反射膜の耐熱性劣化メカニズムの解明・それに基づく高耐熱・高反射率Ag多層反射膜の形成の検討を行い、以下のことが分かった。
(1)結晶性をもつSnO2を保護膜に用いることで、Agの拡散抑制できることが明らかとなった。
(2)反射膜を保護膜でサンドイッチにした構造(Glass/SnO2:50nm/Ag:100nm/SnO2:10nm)にすることによって、923K×30minの熱処理にも耐え得るより高い耐熱性を有する高反射膜を実現できることが分かった。
【0075】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の電子部品は高反射率および高耐熱性を有するため、ディスプレイ、照明デバイス(平面蛍光照明、LED照明)、太陽電池用反射膜、MEMS系光デバイス全般、光回路デバイス全般などに適用できる。
【符号の説明】
【0077】
10,20 電子部品
11,21 基板
12,23 金属薄膜層
13 保護層
22 保護層(第1保護層)
24 保護層(第2保護層)
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体集積回路や電子回路基板等の部品、薄膜回路パターンを有する各種コンピュータ、各種ディスプレイ、表示デバイス等の薄膜回路パターンを有する電子回路装置に関する。
【背景技術】
【0002】
急速に進展する高度情報化社会において、コンピュータ、通信、情報家電、各種表示デバイスなど、あらゆる電子回路に薄膜で形成された回路パターンが使用されている。この薄膜のうち、発光効率の向上や演算プロセッサの高速化・大容量化に伴う電気配線から光配線への転換の要請に対応すべく開発・改良されている光デバイス用回路(ディスプレイ、照明機器、光回路など)における反射膜では、使用波長に適した金属反射膜が用いられ、反射率の高いAuまたはAg材料を基板上に成膜した反射膜を使用している。
【0003】
ここで反射膜としてのAuやAg系薄膜は、高温に晒されると、激しい表面拡散により結晶粒成長が起こり、最終的には、微細な球状となり、反射膜としての機能を果たさなくなる。そこで、この表面拡散を抑えるために、従来(例えば、特許文献1参照)では、反射膜上にCrやその酸化物、あるいはSiO2などを形成している。例えば、従来の電子部品の一例として、図33に示すように、ガラス、Si材料または化合物半導体の基板上に、100nm程度のAgの反射膜を形成し、その上に5nm程度のSiO2薄膜を形成している。図34には、この電子部品における、光の波長(Wavelength:λ)と反射率(Reflectance:R)との関係が示されている。同図に示すように、450℃程度の高温環境下では、反射率の低下もなく反射膜として正常に機能することが分かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−240147号公報(2004年8月26日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記電子部品では、図34から明らかなように、500℃あるいは600℃といった超高温環境下においては、反射率が著しく低下し、反射膜として機能しなくなることが分かる。デバイス作業環境では600℃という超高温に晒されるため、このような環境に耐え得る性能が求められる。
【0006】
近年、高性能、低消費電力、低環境負荷、および低コスト化を続ける光デバイス(ディスプレイ、照明機器、光回路など)は、大幅な微細化やコストパフォーマンスに優れた超高集積化が望まれている。このような状況において、光デバイスに重要な役割を担う反射膜については、高反射、耐久性および耐熱性を満足することが求められている。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、反射率および耐熱性に優れた電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電子部品は、上記課題を解決するために、
基板と、該基板上に形成された高反射性の金属薄膜層と、該金属薄膜層上に形成されたSnO2系の保護層とを備えることを特徴としている。
【0009】
上記の構成によれば、結晶性をもつSnO2系の保護層に用いているため、SiO2の保護層と比較して、Agの表面拡散を抑制することができる。よって、電子部品における反射率および耐熱性を向上させることができる。
【0010】
本発明の電子部品は、上記課題を解決するために、
基板と、該基板上に形成されたSnO2系の保護層と、該保護層上に形成された高反射性の金属薄膜層と、該金属薄膜層上にさらに形成された前記保護層とを備えることを特徴としている。
【0011】
上記の構成によれば、結晶性をもつSnO2系の保護層に用いているため、SiO2の保護層と比較して、Agの表面拡散を抑制することができる。また、基板と金属薄膜層との間にもSnO2系の保護層が介在するため、基板側へのAgの拡散をも抑制することができる。よって、電子部品における反射率および耐熱性をより向上させることができる。
【0012】
前記電子部品では、前記金属薄膜層は、Ag、Al、Cu、Auおよびそれらの合金の何れかで構成されていてもよい。
【0013】
前記電子部品では、前記金属薄膜層の厚さが、50nm〜500nmである構成であってもよい。
【0014】
前記電子部品では、前記保護層は、SnO2、あるいは、SnO2と、タンタル、ニオブ、アンチモンまたはフッ素との組み合わせから成る材料で構成されていてもよい。
【0015】
前記電子部品では、前記保護層の厚さが、1nm〜50nmである構成であってもよい。
【0016】
前記電子部品では、前記基板は、ガラス材料、金属、合金、プラスチック、Siおよび化合物半導体の何れかで構成されていてもよい。
【0017】
本発明の電子回路装置は、上記課題を解決するために、前記電子部品を備えることを特徴としている。
【0018】
本発明の電子部品の製造方法は、上記課題を解決するために、
基板上に高反射性の金属薄膜層を形成する工程と、
前記金属薄膜層上にSnO2系の保護層を形成する工程と、
を含むことを特徴としている。
【0019】
本発明の電子部品の製造方法は、上記課題を解決するために、
基板上にSnO2系の保護層を形成する工程と、
前記保護層上に高反射性の金属薄膜層を形成する工程と、
前記金属薄膜層上に前記保護層をさらに形成する工程と、
を含むことを特徴としている。
【0020】
前記電子部品の製造方法では、前記金属薄膜層および保護層を形成する工程は、最大600℃の熱を加える処理を含んでいてもよい。
【0021】
前記電子部品の製造方法では、前記金属薄膜層および保護層を、電子ビーム蒸着法または電子ビームプラズマ蒸着法により形成してもよい。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明の電子部品は、基板と、該基板上に形成された高反射性の金属薄膜層と、該金属薄膜層上に形成されたSnO2系の保護層とを備える構成である。よって、反射率および耐熱性に優れた電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施の形態に係る電子部品10の概略構成を示す断面図である。
【図2】本実施の形態に係る電子部品20の概略構成を示す断面図である。
【図3】各反射膜材料における、波長と反射率の関係を示すグラフである。
【図4】ガラス基板上におけるAgの凝集の様子を撮影した結果を示す図である。
【図5】CrによりAgの凝集が抑制された様子を撮影した結果を示す図である。
【図6】EBプラズマ蒸着装置の概要を示す図である。
【図7】熱処理に用いた高温定温乾燥器の概要を示す図である。
【図8】高温定温乾燥器における加熱・冷却工程の各設定温度への温度プロファイルを示すグラフである。
【図9】反射率測定に用いた鏡面反射率測定装置の概要を示す図である。
【図10】反射膜・保護膜界面での原子の拡散状態を把握するために用いたXPS装置の示す図である。
【図11】Glass/Cr/Ag/Cr反射膜の構成を示す断面図である。
【図12】左半分が、ガラス基板にAgのみを成膜し熱処理した場合の表面形状を撮影した様子を示す図であり、右半分が、ガラス基板にCr/Ag/Crを連続成膜し熱処理した場合の表面形状を撮影した様子を示す図である。
【図13】左半分が、ガラス基板にAgのみを成膜し熱処理した場合の表面形状を撮影した様子を示す図であり、右半分が、ガラス基板にCr/Ag/Cr2O3を連続成膜し熱処理した場合の表面形状を撮影した様子を示す図である。
【図14】Glass/Ag/SiO2反射膜の構成を示す断面図である。
【図15】図14の構成において、SiO2の膜厚が1nmの試料を熱処理した場合の表面形状を撮影した様子を示す図である。
【図16】図14の構成において、SiO2の膜厚が5nmの試料を熱処理した場合の表面形状を撮影した様子を示す図である。
【図17】図14の構成において、SiO2の膜厚が10nmの試料を熱処理した場合の表面形状を撮影した様子を示す図である。
【図18】図14の構成において、SiO2の膜厚が20nmの試料を熱処理した場合の表面形状を撮影した様子を示す図である。
【図19】図14の構成において、SiO2の膜厚が50nmの試料を熱処理した場合の表面形状を撮影した様子を示す図である。
【図20】図14の構成において、SiO2の膜厚が50nmの試料に873K×30minの熱処理をかけた場合の断面を撮影した様子を示す図である。
【図21】(a)〜(d)は、熱処理過程で析出した結晶がSiO2保護膜中に存在している原因を説明するための図である。
【図22】SiO2の構造と、SnO2の構造を示す図である。
【図23】Glass/Ag/SnO2反射膜の構成を示す断面図である。
【図24】Glass/SnO2/Ag/SnO2反射膜の構成を示す断面図である。
【図25】図23の構成において、SnO2の膜厚が5nmの試料を熱処理した場合の表面形状を撮影した様子を示す図である。
【図26】図23の構成において、SnO2の膜厚が10nmの試料を熱処理した場合の表面形状を撮影した様子を示す図である。
【図27】図23の構成において、SnO2の膜厚が50nmの試料を熱処理した場合の表面形状を撮影した様子を示す図である。
【図28】(a)は、SiO2の膜厚と表面粗さとの関係を示すグラフであり、(b)は、SnO2の膜厚と表面粗さとの関係を示すグラフである。
【図29】(a)は、Glass(2.8mm)/Ag(100nm)/SnO2(5nm)の構成を示す断面図であり、(b)は、この構成における反射率の変化を示すグラフである。
【図30】(a)は、Glass(2.8mm)/Ag(100nm)/SiO2(5nm)の構成を示す断面図であり、(b)は、この構成における反射率の変化を示すグラフである。
【図31】(a)は、Glass(2.8mm)/SnO2(50nm)/Ag(100nm)/SnO2(10nm)の構成を示す断面図であり、(b)は、この構成における反射率の変化を示すグラフである。
【図32】(a)は、Glass(2.8mm)/SiO2(50nm)/Ag(100nm)/SiO2(10nm)の構成を示す断面図であり、(b)は、この構成における反射率の変化を示すグラフである。
【図33】従来の電子部品の一例を示す断面図である。
【図34】図33の電子部品における、光の波長(Wavelength:λ)と反射率(Reflectance:R)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の一実施形態について図面に基づいて説明すると以下の通りである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。ここで、本発明に係る電子部品は、耐熱性および反射機能を有する反射部品であり、本発明に係る電子回路装置に相当する、例えば、ディスプレイ、照明デバイス、太陽電池用反射膜、MEMS系光デバイス全般、光回路デバイス全般などに適用されるものである。
【0025】
図1は、本実施の形態に係る電子部品10の概略構成を示す断面図である。電子部品10は、基板11と、基板11上に形成された金属薄膜層12と、金属薄膜層12上に形成された保護層13とを含んで構成されている。
【0026】
基板11は、ガラス材料、金属、合金、プラスチック、Siおよび化合物半導体の何れかで構成されている。基板11の厚さは、20〜1000μmが好ましい。
【0027】
金属薄膜層12は、高反射性を有し、光を反射する反射膜としての機能を有する。金属薄膜層12は、Ag、Al、Cu、Auおよびそれらの合金の何れかで構成され、その厚さは、30〜300nmであることが好ましく、特に50〜100nmであることが好ましい。金属薄膜層12の厚さが30nm未満である場合は、光を透過し可視光領域での反射率が低下するおそれがある。また、金属薄膜層12の厚さが300nmを超えると、金属薄膜層12表面に凹凸が発生しやすくなり、光の散乱が生じ、可視光領域での反射率が低下するおそれがある。
【0028】
保護層13は、SnO2、あるいは、SnO2と、タンタル、ニオブ、アンチモンまたはフッ素との組み合わせから成る材料で構成されている。保護層13の厚さは、1nm〜50nmであることが好ましい。
【0029】
ここで、本発明に係る電子部品は、以下の構成であっても良い。
【0030】
図2は、本実施の形態に係る電子部品20の概略構成を示す断面図である。電子部品20は、基板21と、基板21上に形成された第1保護層22(保護層)と、第1保護層22上に形成された金属薄膜層23と、金属薄膜層23上に形成された第2保護層24(保護層)とを含んで構成されている。各構成部材の材料および膜厚は、電子部品10と同一である。
【0031】
以下、本実施の形態に係る電子部品10,20における、金属薄膜層12,23および保護層13,22,24について考察する。
(1)Ag系多層反射膜の理想構成と従来技術
一例としてPDP(プラズマディスプレイパネル)用反射膜に要求される性質は、高反射率と高耐熱性である。高い反射率は勿論であるが、前面板・背面板の封着工程の際にかかる熱処理温度723Kの熱処理でも反射率を維持することが必要である。本実験では、実際の封着工程にマージンを考え、773K×30minという高温熱処理にも耐え得る高耐熱・高反射率反射膜を目指した。
【0032】
まず、反射膜材料の選定として、現在、CD−R、DVDメディア等において反射膜として使用されているAg、Au、および、比較的反射率が高く低コスト材料として期待されるCu、Alについて、反射率の比較を理論的に行った。なお、下記式(1)、式(2)、および、光学定数として、それぞれの波長における屈折率nおよび消衰係数kを用い、本検討で対象とする可視光の波長域(400〜800nm)における、真空側から反射膜に垂直入射した際の反射率の計算を行った。*nは、複素屈折率を示す。
【0033】
【数1】
【0034】
【数2】
【0035】
この結果を図3に示す。低波長域(〜500nm)では、AuおよびCuの反射率は著しく下がる。よって、反射膜としては黄色く見える。PDPは画像を表示するため、波長ごとに偏った反射率を示す材料は適していない。全体的な波長に対し均一な反射率を示すAl、Agは、その点で優れている。さらに、Al、Agは、平均的に高い反射率をもつ。特にAgは、平均95%以上の反射率を達成し、高反射率反射膜の材料として優位である。なお、各4つの材料の物質特性を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
次に、吸収損失に関して考察する。反射膜の膜厚が、対象としている光の波長オーダーであるとき、反射膜の両界面での反射波の干渉を考慮しなければならない。そこで、以下の式(3)、および式(4)を用い、光が真空側から反射膜に垂直入射した際における反射膜の膜厚と反射率の関係の計算を行った。なお、反射膜はガラス基板上に十分な膜厚で成膜されているものとし、ガラス基板の複素屈折率をソーダライムガラスと同じ1.52として計算を行った。
【0038】
【数3】
【0039】
【数4】
【0040】
その結果、反射膜の膜厚が増加すると共に、反射率も増加し、次第にそれぞれの反射率が一定の値に漸近していくことが分かった。また、反射膜の膜厚が100nm程度でも十分な反射率が得られ、ほとんど膜厚に依存しないことが分かった。
【0041】
ここで、まず従来技術の一つとして、光信号を用いた光伝送システムのスラブ導波路に着目した。現在検討されている高耐熱・高反射率Ag系反射膜の研究では、673K×30minの高耐熱性を有し、90%を超える反射率が維持できている。その研究概要を簡単に述べる。Ag系反射膜における課題の一つは、Agの凝集である。Agは表面拡散係数が非常に高く、表面拡散が高速に行われるため、表面積の大きい薄膜状態では、熱処理によって表面拡散が高速に進み、表面エネルギーを下げる形(球状)に凝集してしまう。それがピンホールへと発展し、やがて反射率の低下につながる(図4参照)。
【0042】
これに対して、1〜3nmのCrでAg層を保護するCr/Ag/Cr薄膜の構成をとることにより、完全にAgの凝集が抑制され、平坦な薄膜を維持することができる(図5参照)。これは耐熱性・耐酸化性に優れたCrを保護層として形成することにより、高速な表面拡散が抑制されたためであると考えられる。よって、PureなAgでもわずか2nmのCr保護層で耐熱性を確保することができる。
【0043】
また、ガラス基板上にAgを成膜する場合に、ガラスの主成分であるSiO2は酸化物であるためにGlass/Ag間の接着性の低さが懸念される。そこで、Ag膜形成にマグネトロンスパッタ装置とEBプラズマ蒸着装置の2つを用い、成膜直後と熱処理後の接着性をピーリング試験で比較した結果、EBプラズマ蒸着が極めて高い接着性を示すことを確認している。
【0044】
本願発明者らは、Cr/Ag/Cr反射膜構成を参考にして、高耐熱・高反射率反射膜の実現を目指した。さらに、より高耐熱を実現するため、最高温度923K×30minの熱処理での試験も行い、シンプルな構成のAg系多層薄膜の耐熱限界を探った。
(1)実験方法
(1−1)成膜プロセスと供試材料
試料の作成には次の装置を用いた。まず、反射膜の形成に用いたEB−プラズマ蒸着装置について説明する。
【0045】
EBプラズマ蒸着装置は、ULVAC製のEBX−2000を用いた。装置の概要を図6に示す。真空(減圧)チャンバ内で成膜したい物質をるつぼに入れ、電子ビームを照射し溶融、蒸発させる。この蒸発した物質をRFプラズマによりイオン化し、これがACバイアスを印加した基板に向かって高エネルギーで飛んでいき、衝突・接着し、これが連続して体積していくことで均一性の良い膜となる。この際、制御系機能としては、真空度、蒸発速度、イオンの加速度の制御や、膜厚の制御等が可能である。EBプラズマ蒸着は、成膜に通常用いられるEBPVDや、スパッタリング装置ほど基板を加熱することなく成膜できる。さらに、蒸発粒子がプラズマ中で加速して基板表面に衝突するため、蒸着粒子が基板表面に均一に拡散するので、従来の装置に比べて大幅に密着性が向上し、かつ平滑な膜が得られる。また、多層薄膜を連続形成できるので、界面の正常性を維持した高品質の多層膜が得られる。したがって、この装置は、1nmから数mm厚の薄膜を高品質でかつ高速に形成できるという特徴をもっている。
(1−2)熱処理
熱処理には高温定温乾燥器(東洋製作所製)を用いた。装置の概要を図7に示す。なお、本装置の使用温度域は室温+650Kである。以下、熱処理過程を説明する。
【0046】
EBプラズマ蒸着により作成した試料を、高温定温乾燥器により大気中で各設定温度まで加熱後、実際の製造工程を考慮し30分間保持し、自然冷却した。設定温度の設定は、まず封着時に反射膜に加わる723K、それにマージンを考慮して773K、そして高温劣化メカニズム追求のための823Kにした。各設定温度への温度プロファイルを図8に示す。
(1−3)観察・分析・測定装置
熱処理前後の状態観察には、光学顕微鏡(KEYENCE製VHX−100)、FE−SEM(日立製S−4800)を使用した。断面観察は、FIB(日立製FB−2000A)による加工後、FE−SEMにより観察した。分析にはEDX分析(Energy Dispersive Spectroscopy:エネルギー分散型X線分法)を利用したEMAX(HORIBA製)を用いた。反射率測定には、鏡面反射率測定装置(入射角5°用)(島津製作所製)を用いた。装置の概要を図9に示す。また、本装置は、入射角5°でAL蒸着ミラーに対する相対鏡面反射率測定を行うものである。そして、表面の形状・凹凸は、KEYENCE製AFM(Atomic Force Microscope:原子間力顕微鏡)VN−8000により測定・解析した。また、反射膜・保護膜界面での原子の拡散状態を把握するため、XPS装置(島津製作所製AXIS−165X)を用いた(図10参照)。この装置では、XPS装置内の試料に対し、イオン銃によるイオンスパッタリングをすることができる。これを用いて、試料深さ方向への加工をステップ毎にすることにより、試料の各深さにおける段階的なXPS表面分析が可能である。その分析データの処理に関しては、VISION2(Kratos Analytical Ltd製データ処理ソフトウェア)を用いて処理をした。VISIO2では、XPS装置により得られたピーク強度を示すグラフから、該当表面の組成比を算出する機能を有している。それに加え、複数の物質から分析表面が成り立っている場合かつ、結合エネルギーが近寄っていて混在するピークを示すときは、各ピークの標準試料のデータと強度分布のモデルから分離することができ(Auto-Fit機能)、そこから、混在する物質の状態分析および定量化をすることができる。
【0047】
本検討でのXPS装置の設定について述べる。光電子の検出に関する設定としては、Pass energy:20,lensmode:slot-m(試料測定エリア700μm×300μm)である。また、X線源の設定としては、anode:Mg、current:10mA、voltage:12kVで行った。これらは、良好な分析結果が得られるようにあらかじめ求めておいたものである。イオン銃はArガスにより、current:15mA、SAC真空度を2.0×10−7Paで行った。
(1−4)現行技術の適用と課題
これまでの検討を参考にPDP用ガラス基板(PD−200(旭硝子社製))に、EBプラズマ蒸着を用いてCr/Ag/Cr反射膜を形成し(図11参照)、723K×30minの熱処理を行い、表面形状を観察した。その結果を図12に示す。上段は、光学顕微鏡で撮影した様子を示し、下段は、FE−SEMで撮影した様子を示している。成膜直後の様子と各設定温度に熱処理した後の様子を並べている。倍率は光学顕微鏡の写真は1500倍で、FE−SEMの写真は1万倍で撮影している。
【0048】
図12の左半分が、ガラス基板にAg(膜厚100nm)のみを成膜し熱処理したものである。熱処理前では平滑な膜表面であったが、熱処理後には膜として保たれず、球状に変化している。これは、Agの表面が大気と接しており、また薄膜であるために、表面積が非常に大きく、その結果、熱により表面拡散が著しく進行し、近傍のAg原子と凝集していったためであり、このように球状のAgが点在している。
【0049】
図12の右半分が、ガラス基板にCr/Ag/Crを連続成膜したものである。それぞれの膜厚は図11の通りであるが、こちらも、熱処理前では平滑な膜表面であったが、熱処理後には膜として保たれず、球状に変化している。これは、Agの表面を覆っているCrの保護膜がAgの表面拡散を抑制できなくなり、Agの凝集が起きたためであると考えられる。そこで、Agと表面のCrが熱処理過程で反応して化合物を作り、それによって、表面の保護膜としてのCr膜厚が減少し、結果、Agの表面拡散を抑えきれなくなると考えたため、Cr膜厚を3nm,5nmとして同様の実験を行ったが、同様にAgの凝集を抑制することはできなかった。
【0050】
次に、表面保護膜を熱的に安定な酸化物であるCr2O3に変えて、さらに膜厚をCr:2nmからCr2O3:10nmと厚くして、同様に成膜、熱処理を行った。結果は、図13の通りである。Cr2O3:10nmとしても、Agの表面拡散が著しく進行しており、凝集を抑えることはできなかった。
【0051】
これは、Agの粒成長が起点となりクラック発生後、凝集が起きている可能性が高いと考えた。そこで、Cr以外の保護膜としてSiO2保護膜を検討した。透過率・熱安定性の面で優位であり、またその粘性より、Agの粒成長から受けるひずみに耐える事を期待し、Ag/SiO2膜構成を採用した。
(2)SiO2保護層膜の検討
ガラス基板上に反射膜を成膜した試料(Glass/Ag/SiO2)の膜厚を、図14に示すように、それぞれ、Glass:2.8mm、Ag:100nm、SiO2:1nm、5nm,10nm,20nm,50nmとした。また、それらの試料に対し、723K×30min、773K×30min、873K×30minの熱処理を行い、表面観察・反射率の観点から表面拡散の抑制を評価した。なお補足として、成膜装置・成膜条件・膜厚・材料等を考慮し反射率は、標準試料(Glass:2.8mm/Ag:100nm)での反射率を1とし相対比較している。
【0052】
FE-SEMで観察した結果を図15に示す。1段目は成膜直後の様子である。成膜直後はまだAgの結晶粒が微細であるのが分かる。しかし、723Kの熱処理の段階で既に表面拡散が始まっており、ガラス基板まで達する溝が空いている。そして、773Kにおいては完全にAgが球状にまとまっているのが分かる。873Kでも同様にAgの凝集が起きている。理由としては、膜厚が薄く強度が十分でないため、熱処理過程でSiO2が至るところで割れが生じ、Agの表面拡散を抑制しきれていないと考えられる。また膜厚分布があるため、1nmの薄さでは全体を均一に覆う事ができていないと考えられる。
【0053】
次に、SiO2膜厚5nmの試料を熱処理した様子を図16に示す。成膜直後の様子を見ると、成膜時に凝集は起きていない。また、結晶粒も微細である。723K、773K、873Kと熱処理温度が上がるにつれて、Agの表面拡散の度合いが大きくなり、結晶粒の凝集が激しく起こる。
【0054】
次に、SiO2膜厚10nmの試料を熱処理した様子を図17に示す。723Kにおける熱処理の表面状態を見ると、粒成長はほとんど見られず、773Kで、表面でAgの結晶粒の成長が見られる。表面の結晶粒が成長しているということは、表面拡散が進行していると考えられるので、SiO2にクラックが発生し、膜として維持されていないと考えられる。873Kにおいては、あちこちで穴が開いている。
【0055】
次に、SiO2膜厚20nmの試料を熱処理した様子を図18に示す。773Kまでの熱処理において、凝集による穴の発生はみられない。表面の粒成長も見られず、反射膜の膜質としては良好であると思われる。しかし、873Kにおいては、急速にAgの凝集が起こり、いたるところで穴の発生が見られる。
【0056】
次に、SiO2膜厚50nmの試料を熱処理した様子を図19に示す。結晶粒の凝集や穴はほとんど発生しておらず、良好に見える。しかし、FE-SEMの写真を詳細に見ると、773K、873Kの熱処理において新たな結晶粒が見える。この理由は、SiO2膜へのAgの拡散によるものと考えられ、以下にメカニズムを推定した。
【0057】
SiO2膜厚50nmにおいて、773K以上の熱処理を行った際に、表面近傍に新たな結晶が析出する現象が見られた。そこで、SiO2膜厚50nmを873K×30minの熱処理をかけた試料の断面をFIBとFE-SEMを用いて観察した(図20参照)。これより、熱処理過程で析出したこの結晶がSiO2保護膜中に存在していることが確認できる。そこで、この原因を次のような、推定した。
(i)成膜直後の状態、Agは粒径40〜50nm(図21(a))。
(ii)これに873Kの高温処理を加えると、SiO2・ガラス基板界面においてAgの原子が高い熱エネルギーを受け、Ag+イオンとなりSiO2中に拡散する(図21(b))。
(iii)SiO2中へ拡散したAg+イオンが内部で還元されAg原子となり集合しコロイド状の集団を作る。また界面において、Ag原子の拡散により表面Ag結晶のなかに、多数の空孔が生じる。その空孔が粒界を伝って、Agの両界面に集合し空洞を作る(図21(c))。
(iv)SiO2中でコロイド状Ag粒子が熱膨張し、それが近傍のSiO2大きな引張応力を与え、クラックの発生、破壊につながる(図21(d))。
【0058】
しかし、厚い50nmでは、このコロイド粒子が多数生成され、膜のクラックも起こらなかったが、Agの拡散が激しく起こっていることになり、かつ析出物は光学薄膜の特性を劣化させ、耐久性にも問題があるので、総合的には、反射膜としては使用できない。
(3)SnO2保護膜を用いた結果と考察
次に、Agの保護膜、ガラス基板中への拡散抑制に着目し、それをシンプルな膜構成によって実現する方法を検討した。具体的には、SiO2膜と同様に熱に安定な酸化物であり結晶構造を持つSnO2を保護膜に採用した。以下、SiO2とSnO2の構造の違いより、Agの拡散のし易さを検討し、その後実験によってメカニズムの検証とAg系多層薄膜としての耐熱性の限界を探求した。
(3−1)構造比較
SiO2の構造およびSnO2の構造をそれぞれ、図22に示す。SiO2は、SiとOとが骨格となってアモルファス構造を構成している。Si−Oの間は共有結合をしているため、結合力が極めて高く方向性も高い。また、一つの格子単位で見ると、SiO4という四面体構造をもつが、Si−O−Siの間に自由度があるため、均一な結晶構造をもたない。そのため、全体で見ると、結晶粒の大きさは不均一である。結晶粒を2次元的に見た際に、SiO4−SiO4で繋がる一つのリングを一つの結晶粒界として考えると、ガラス全体はこのリングの集まりである。理想構造としてこれらのリングが規則的に並ぶ場合には、全てのリングは六角形の形になり、規則正しく配列される。これに対し、実際のSiO2はリングを構成するSiO4の数に分布があり、4〜8個で構成されたリングが不規則な配列で並んでいる。
【0059】
また、SiO2内には共有結合の相手を持たない原子欠陥が多く存在し、それらはダングリング・ボンドと呼ばれる。つまり図から見ても分かるとおり、SiO2内には多くの隙間が空いていると言える。そして、骨格原子Siと同程度の大きさをもつ原子が容易に拡散すると言われている。
【0060】
それに対して、SnO2は、結晶構造を持ち、その構造はルチル構造である。ルチル構造は立方格子をc軸方向に圧縮した正方単位格子からなり、a軸長は0.47nm、c軸長は0.32nmである。単位格子内には2化学式分(2SnO2)のイオンが含まれている。正方格子の隅はSnイオンが占め、その体心にSnO2の八面体が位置している。底面状にある2つの酸素イオン間の距離は0.26nmで、イオン半径(六方位、0.13nm)の和にほぼ等しいから、互いに接していると言える。この酸素イオンと体心のSnイオンが作るO−Sn−Oの角は78.1°であり、O−Snの距離は0.21nmである。6配位Sn4+のイオン半径は0.08nmであるから、O2−とSn4+が互いに接している。しかし、SnO2は透明導電膜としても知られるように、Sn−O間で共有結合を持ちながら導電性を示す。これは、SnO2内に酸素欠陥、錫欠陥を含むため自由に動ける電子が発生するためである。つまり、Agが結晶構造をもつSnO2に拡散するためにはこれらの空格に侵入する必要がある。
【0061】
以上の構造の違いより、Agの拡散の程度を考えると、非晶質で内部に骨格原子サイズの空隙をもつSiO2膜に比べ、酸素・錫欠陥等の空孔子を持つSnO2膜の方がAgの拡散する速度は、はるかに遅いと推測される。よって、Agの拡散抑制を期待し、SnO2膜を保護膜として用いた高耐熱・高反射率Ag反射膜の検討を行った。
(3−2)実験
次に、二つの試料の構成で高耐熱化の検討を行った。一つ目の構成は、図23に示すように、Glass/Ag/SnO2であり、SiO2膜と表面拡散抑制効果の比較を行うためにこの構成にした。二つ目の構成は、図24に示すように、Glass/SnO2/Ag/SnO2であり、先に述べたように、ガラス基板側への拡散抑制の目的でガラス基板とAgの間にもSnO2膜を配置した。反射膜の成膜、熱処理、観察に用いた装置・材料は、上記(1−1)で示した条件と同じである。熱処理工程も前試験と同様、723K×30min、773K×30min、873K×30min、さらにAg系薄膜の高耐熱化限界を探求するため、923K×30minの熱処理工程も検討した。
(3−3)結果と考察
SiO2膜との表面拡散抑制効果を比較したGlass/Ag/SnO2の試験結果を述べる。
【0062】
まず、SnO2膜厚5nmでの耐熱試験の結果を図25に示す。FE-SEMの真を見ると、SnO2/Ag界面においてAgの粒成長はしていない。そしてAFMで面の平均荒さ(Ra)を測定した結果でも、表面凹凸は10nm以下に抑えられていた。よってAgはSnO2/Ag界面において表面拡散しておらず、凝集は抑制できたと考えられる。
【0063】
次に、SnO2膜厚10nmでの耐熱試験の結果を図26に示す。FE-SEMの写真から、SnO2/Ag界面においてAgは粒成長をしていないと判断できる。AFMの結果も同様に、Raは10nm以下であった。よって、Agの凝集を抑えられたと考えられる。
【0064】
次に、SnO2膜厚50nmでの耐熱試験の結果を図27に示す。FE-SEMの写真を見ると、SnO2/Ag界面でAgは粒成長をしていない。
【0065】
また、AFMの結果(図28(a)(b)参照)を見ると、Ag粒成長による表面凹凸はSiO2に比べ明らかにSnO2が小さく、かつ5〜50nm全てで評価した600℃まで10nm以下と非常に小さな凹凸に抑えられており、SiO2に比べて劇的な差が見られることが判った。SiO2も20nm以上では、表面凹凸が小さくなるが、Agの拡散によるコロイドの発生が起こるため、耐熱性が劣る。
【0066】
SnO2膜の場合、どの膜厚においても表面でのAgの粒成長は確認されなかったため、Ag/SnO2界面ではAgの表面拡散による凝集を抑えられていると考えられる。この点において、SnO2膜の方がより薄い膜厚で耐熱性をもつため、反射膜として優位である。
【0067】
また、SiO2膜では、熱処理後にAgがコロイド状に析出しているのに対し、SnO2膜では見られなかった。そのことからも、上述したメカニズムから、SnO2膜がSiO2膜に比べてより薄い膜厚で表面拡散を抑制できる説明がつく。SiO2膜では、拡散したAgが、集合、熱膨張しクラック発生を助長するため、より大きな応力がSiO2膜に加わる。そのため、強度を確保するために、SiO2膜ではより厚い膜厚が必要になると言える。以上から、さらなる高温での耐熱性を考えると、SnO2膜の方がその信頼性が高いと言える。
【0068】
しかし、どちらの保護膜においても、873K×30minの熱処理後にガラス基板が黄色に着色され、裏側の光が透過する現象が見られた。このことからも、ガラス基板とAgの間に拡散防止膜が必要なのは明らかである。そこで、次に、拡散防止膜としての、SiO2膜とSnO2膜の抑止力、つまり両者に対するAgの拡散速度を比較した。構造上、SnO2膜の方がAgの拡散速度が遅いと考えられるため、SnO2膜を拡散防止膜として用いた方が、873K×30minの熱処理後、ガラス基板の着色が薄いはずである。以下に、結果を述べる。
【0069】
Glass/SiO2/Ag/SiO2の構成(図14参照)、Glass/SnO2/Ag/SnO2の構成(図23参照)の試料を873K×30min、923K×30minの熱処理試験により、ガラス裏面の着色度合いより拡散速度の比較を行い、また、Ag系薄膜としての耐熱性限界の究明を行った。
【0070】
その結果、Glass/SiO2/Ag/SiO2の試料の873K×30min熱処理した場合に、Agの凝集が起きていた。それに対し、同じ膜厚構成であるGlass/SnO2/Ag/SnO2では、ガラス基板裏側の着色は飛躍的に抑えられ、また光の透過もほとんど見られなかった。表面から観察した結果も、Agの凝集は抑えられており、また反射率の低下も見られなかった。この試料に対し923K×30minの熱処理試験を行った結果も、表面から観察した際、反射膜として維持され、Agの凝集は抑えられていた。裏側の着色も拡散防止SnO2膜を形成しないものや、Glass/SiO2/Ag/SiO2に比べて抑えられていた。
【0071】
以上の結果を踏まえて、反射率の評価行った。図29(a)は、Glass(2.8mm)/Ag(100nm)/SnO2(5nm)の構成を示す断面図であり、図29(b)は、この構成における反射率の変化を示すグラフである。図30(a)は、Glass(2.8mm)/Ag(100nm)/SiO2(5nm)の構成を示す断面図であり、図30(b)は、この構成における反射率の変化を示すグラフである。図31(a)は、Glass(2.8mm)/SnO2(50nm)/Ag(100nm)/SnO2(10nm)の構成を示す断面図であり、図31(b)は、この構成における反射率の変化を示すグラフである。図32(a)は、Glass(2.8mm)/SiO2(50nm)/Ag(100nm)/SiO2(10nm)の構成を示す断面図であり、図32(b)は、この構成における反射率の変化を示すグラフである。
【0072】
図29および図30の比較より、5nm反射膜の反射率は、600℃では少し落ちてくるが、SnO2が温度に対して圧倒的に良いことが分かる。さらに、図31および図32の比較より、反射膜を保護膜でサンドイッチにした構造でも、SnO2が10nmの上層保護膜(第2保護層)で、600℃を超え、650℃でも高い反射特性を示し、超耐熱性を有していることが明らかになった。
【0073】
以上の結果より、反射膜用保護膜としては、SnO2の膜厚が5nm以上あれば高い耐熱性を示すことが明らかになった。さらなる耐熱性向上に対しては、SnO2:50nm/Ag:100nm/SnO2:10nmのサンドイッチ構成が優れていることが明らかになった。この考え方を適用できる範囲では、更なる適正な膜厚構成があることは容易推定できる。
【0074】
高耐熱・高反射率反射膜Ag系多層反射膜に着目して、理想的な背面板形状の形成と、反射膜の耐熱性劣化メカニズムの解明・それに基づく高耐熱・高反射率Ag多層反射膜の形成の検討を行い、以下のことが分かった。
(1)結晶性をもつSnO2を保護膜に用いることで、Agの拡散抑制できることが明らかとなった。
(2)反射膜を保護膜でサンドイッチにした構造(Glass/SnO2:50nm/Ag:100nm/SnO2:10nm)にすることによって、923K×30minの熱処理にも耐え得るより高い耐熱性を有する高反射膜を実現できることが分かった。
【0075】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の電子部品は高反射率および高耐熱性を有するため、ディスプレイ、照明デバイス(平面蛍光照明、LED照明)、太陽電池用反射膜、MEMS系光デバイス全般、光回路デバイス全般などに適用できる。
【符号の説明】
【0077】
10,20 電子部品
11,21 基板
12,23 金属薄膜層
13 保護層
22 保護層(第1保護層)
24 保護層(第2保護層)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板上に形成された高反射性の金属薄膜層と、該金属薄膜層上に形成されたSnO2系の保護層とを備えることを特徴とする電子部品。
【請求項2】
基板と、該基板上に形成されたSnO2系の保護層と、該保護層上に形成された高反射性の金属薄膜層と、該金属薄膜層上にさらに形成された前記保護層とを備えることを特徴とする電子部品。
【請求項3】
前記金属薄膜層は、Ag、Al、Cu、Auおよびそれらの合金の何れかで構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電子部品。
【請求項4】
前記金属薄膜層の厚さが、50nm〜500nmであることを特徴とする請求項3に記載の電子部品。
【請求項5】
前記保護層は、SnO2、あるいは、SnO2と、タンタル、ニオブ、アンチモンまたはフッ素との組み合わせから成る材料で構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電子部品。
【請求項6】
前記保護層の厚さが、1nm〜50nmであることを特徴とする請求項5に記載の電子部品。
【請求項7】
前記基板は、ガラス材料、金属、合金、プラスチック、Siおよび化合物半導体の何れかで構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電子部品。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1項に記載の電子部品を備えることを特徴とする電子回路装置。
【請求項9】
基板上に高反射性の金属薄膜層を形成する工程と、
前記金属薄膜層上にSnO2系の保護層を形成する工程と、
を含むことを特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項10】
基板上にSnO2系の保護層を形成する工程と、
前記保護層上に高反射性の金属薄膜層を形成する工程と、
前記金属薄膜層上に前記保護層をさらに形成する工程と、
を含むことを特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項11】
前記金属薄膜層および保護層を形成する工程は、最大600℃の熱を加える処理を含むこと特徴とする請求項9または10に記載の電子部品の製造方法。
【請求項12】
前記金属薄膜層および保護層を、電子ビーム蒸着法または電子ビームプラズマ蒸着法により形成することを特徴とする請求項9または10に記載の電子部品の製造方法。
【請求項1】
基板と、該基板上に形成された高反射性の金属薄膜層と、該金属薄膜層上に形成されたSnO2系の保護層とを備えることを特徴とする電子部品。
【請求項2】
基板と、該基板上に形成されたSnO2系の保護層と、該保護層上に形成された高反射性の金属薄膜層と、該金属薄膜層上にさらに形成された前記保護層とを備えることを特徴とする電子部品。
【請求項3】
前記金属薄膜層は、Ag、Al、Cu、Auおよびそれらの合金の何れかで構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電子部品。
【請求項4】
前記金属薄膜層の厚さが、50nm〜500nmであることを特徴とする請求項3に記載の電子部品。
【請求項5】
前記保護層は、SnO2、あるいは、SnO2と、タンタル、ニオブ、アンチモンまたはフッ素との組み合わせから成る材料で構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電子部品。
【請求項6】
前記保護層の厚さが、1nm〜50nmであることを特徴とする請求項5に記載の電子部品。
【請求項7】
前記基板は、ガラス材料、金属、合金、プラスチック、Siおよび化合物半導体の何れかで構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電子部品。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1項に記載の電子部品を備えることを特徴とする電子回路装置。
【請求項9】
基板上に高反射性の金属薄膜層を形成する工程と、
前記金属薄膜層上にSnO2系の保護層を形成する工程と、
を含むことを特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項10】
基板上にSnO2系の保護層を形成する工程と、
前記保護層上に高反射性の金属薄膜層を形成する工程と、
前記金属薄膜層上に前記保護層をさらに形成する工程と、
を含むことを特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項11】
前記金属薄膜層および保護層を形成する工程は、最大600℃の熱を加える処理を含むこと特徴とする請求項9または10に記載の電子部品の製造方法。
【請求項12】
前記金属薄膜層および保護層を、電子ビーム蒸着法または電子ビームプラズマ蒸着法により形成することを特徴とする請求項9または10に記載の電子部品の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図14】
【図22】
【図23】
【図24】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図4】
【図5】
【図10】
【図12】
【図13】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図14】
【図22】
【図23】
【図24】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図4】
【図5】
【図10】
【図12】
【図13】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図25】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開2011−164552(P2011−164552A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30663(P2010−30663)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
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