説明

電子部品のシール構造

【課題】電子部品本体のシール構造における密着性と硫黄被毒性の問題を解決する。
【解決手段】電子部品本体部品の開口部の周囲の表面に発泡シール材が付着しており、射出成形された樹脂部品が開口部を通過し、電子部品本体の外面側では発泡シール材の表面に当接し、電子部品本体の内面側では電子部品本体の内面に当接しており、射出成形された樹脂部品と電子部品本体の間は発泡シール材で密封されている電子部品のシール構造において、該発泡シール材が極性基含有エラストマー材料と非硫黄系架橋剤との反応物であることを特徴とする電子部品のシール構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強固な密着性を有するとともに電子部品に対して腐食性を有さない電子部品のシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば電気部品や自動車部品に使われるコネクタケースは、ケース本体が金属等の材料で成形されており、ケーブルを接続するコネクタ部品が樹脂で成形されている場合が多い。そのようなコネクタケースは、ケース本体に設けられている開口部に樹脂を射出成形してコネクタ部品を成形することによって製造される。前記に例示したコネクタケースに限らず、開口部を有する電子部品本体の開口部に樹脂を射出成形して樹脂部品を成形する手法が普及している。
【0003】
電子部品本体内への水などの侵入を防止するために、電子部品本体と樹脂部品の接合部(以下では界面と称することがある)には高い気密性が要求される。従来はOリング等のシール材を本体部品の開口部の周囲に貼着してから樹脂部品を射出成形していた。しかしながら、Oリングなどの従来のシール材は高反発性であって圧縮性に乏しく、十分に押し潰した状態で射出成形することができない。そのために、溶融した樹脂を冷却して固化する際の収縮によって樹脂部品とシール材またはシール材と電子部品本体との界面に隙間ができてしまい、樹脂部品と本体部品の間の気密性が不十分となる可能性があった。
【0004】
従来、電子部品本体に樹脂部品を射出成形する際に、電子部品本体における樹脂部を射出成形する予定部の周囲に加熱発泡性物質を固定しておき、溶融した樹脂の射出成形時の熱を利用して、電子部品本体と樹脂部品との間の気密性を確保している。この技術では、電子部品本体における樹脂部を射出成形する予定部の周囲に加熱発泡性物質を含むシール材を固定し、その電子部品本体を金型内に配置する。そして金型内に加熱溶融した樹脂を射出する。溶融した樹脂の熱によって加熱発泡性物質が発泡する。この技術によれば、加熱発泡性物質が膨張する。膨張したシール材が電子部品本体と樹脂部品の間の微細な隙間に侵入して高い気密性を確保する。溶融した樹脂が冷却後に収縮しても、収縮した分だけシール材が膨張するために、電子部品本体と樹脂部品の間の界面の気密性を確保できるという利点がある。
【0005】
しかし、加熱発泡性物質のシール材を電子部品本体における樹脂部を射出成形する予定部の周囲に固定しておき、射出成形時の溶融樹脂の熱でその加熱発泡性物質を発泡させる場合、発泡が不十分である場合がある。例えば成形する樹脂部品の容積が小さい場合には、シール材を十分に膨張させるだけの熱量を溶融した樹脂が備えていないことがある。シール材の膨張が不十分であると、気密性を確保することができない。そのような場合には射出成形後に成形体を再加熱することで樹脂部品の成形後にシール材の発泡を促進させて気密性を確保する。しかしその場合、成形体を再加熱する工程が必要となる。
【0006】
そこで、成形体を再加熱するなどの付加的な工程を必要とせずに、電子部品本体と樹脂部品の間の界面における気密性を確実に確保することができる射出成形技術が望まれていた。
【0007】
そこで、下記特許文献1では、射出する溶融樹脂の熱でシール材を膨張させるのではなく、すでに発泡している発泡シール材を用いて必要な気密性を確保している。射出成形する前に、あるいは射出成形する際に発泡シール材を圧縮する。これによると、発泡シール材の発泡が不十分となることがない。射出成形する前に、あるいは射出成形する際に発泡シール材を圧縮して射出成形すると、溶融樹脂が固化する際に収縮しても、その収縮分を補償するように圧縮された発泡シールが復元する。溶融樹脂が固化する際に収縮しても、発泡シールは圧縮状態を維持する。固化した樹脂(樹脂部品)と電子部品本体の間に圧縮状態を維持した発泡シール材を封止することによって高い気密性を確保することが可能となる。又、特許文献1では、成形体を再加熱するなどの付加的な工程を必要とせずに、電子部品本体と樹脂部品の間の界面の気密性を確実に確保することができる。樹脂部品を射出成形した後に界面の気密性を確実にするための工程が不要となる。電子部品本体に樹脂部品が射出成形された成形体であって、電子部品本体と樹脂部品の間の界面における気密性を確保した成形体を安価に提供することができる。
【0008】
特許文献1では、電子部品本体の開口部に樹脂部品を射出成形させた成形体を製造する方法が開示され、具体的には、電子部品本体にEPDM発泡シール材料を貼り付け、その上から樹脂をインサート成形することで、一体成形部品して製造している。このように、従来技術で選定されているEPDM発泡ゴム材料には、密着性と硫黄被毒性の点で問題があった。密着性の点としては、1)ポリマー成分に、接着剤と強固な密着性を形成することが出来る極性官能基が導入されていないため、化学結合による強固な密着性は期待出来ない、2)接着剤との濡れ性が良くないため、アンカー接合による密着性も期待出来ない、というものであり。硫黄被毒性の点としては、3)架橋剤、配合剤として、硫黄系化合物が使用されているため、本体部品内部に配置されている電子部品の銀成分を、ゴム中から遊離してきた硫黄成分で腐食してしまい、機能障害を起こす、というものである。
【0009】
【特許文献1】特開2007−136868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来技術の問題点であった、電子部品本体のシール構造における密着性と硫黄被毒性の問題を解決するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、発泡シール材を特定のエラストマー材料と特定の架橋剤との反応物とすることで上記課題を解決した。
【0012】
即ち、本発明は、電子部品本体部品の開口部の周囲の表面に発泡シール材が付着しており、射出成形された樹脂部品が開口部を通過し、電子部品本体の外面側では発泡シール材の表面に当接し、電子部品本体の内面側では電子部品本体の内面に当接しており、射出成形された樹脂部品と電子部品本体の間は発泡シール材で密封されている電子部品のシール構造の発明であって、該発泡シール材が極性基含有エラストマー材料と非硫黄系架橋剤との反応物であることを特徴とする。
【0013】
本発明の電子部品のシール構造により、従来の硫黄系架橋剤で架橋されたEPDMゴム発泡材料に比べて、電子部品本体と樹脂部品との密着性に優れているとともに、電子部品本体に対する硫黄被毒性の問題が消滅した。
【0014】
本発明の電子部品のシール構造では、発泡シール材の発泡度が均一でも効果的であるが、発泡シール材の発泡度に傾斜を持たせ、樹脂部品側及び/又は電子部品本体側で大きくなっていることが好ましい。これにより、電子部品本体と樹脂部品との密着性がさらに優れる。
【0015】
本発明の電子部品のシール構造に用いられる極性基含有エラストマー材料としては特に制限されないが、具体的には、クロロプレンゴム、EPDMゴム、アクリルゴム、シリコンゴム、及びウレタンゴムから選択される1種以上が好ましく例示される。
【0016】
本発明の電子部品のシール構造では、樹脂部品が、発泡シール材を厚さ方向に5%〜90%の範囲で圧縮していることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の電子部品のシール構造により、従来の硫黄系架橋剤で架橋されたEPDMゴム発泡材料に比べて、電子部品本体と樹脂部品との密着性に優れているとともに、電子部品本体に対する硫黄被毒性の問題が消滅した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、従来技術の比較例と本発明の実施例を示す。表1に、比較例と実施例1〜3の発泡シール材の配合組成を示す。
【0019】
【表1】

【0020】
これら比較例と実施例1〜3の発泡シール材を用い、図1に示すインサート成形によって、図2に示すPPS樹脂、発泡シール材、接着剤、アルミニウム板の積層構造を有する一体成形品を得た。成形条件は、樹脂温度;340℃、成形圧;45MPaであった。
【0021】
[一体成形品TPの引張破壊試験結果]
図3に、引張破壊試験結果とその破壊形態を示す。引張破壊試験は、引張速度;20mm/min、チャート速度;100mm/minで行った。
【0022】
図3に示すように、本発明の実施例3のクロロプレン発泡シール材料は、比較例のEPDM発泡シール材料と比べ、引張破壊強度が格段に強く、密着性が明らかに良好であることがわかる。また、クロロプレン発泡シール材料は、発泡ゴム材料の部分で凝集破壊しており、接着剤と強固な密着をしていることがわかる。
【0023】
[遊離硫黄量測定方法]
ゴム中の遊離硫黄量の測定は以下の方法で実施した。
1)ゴムテストピースを1〜2mm程度の立方状細片に裁断して、1g程度採取し化学天秤で試験前の質量(W1)を測定する。
【0024】
2)秤量が完了したゴムテストピースを円筒ガラスフィルタの中に入れた後、これをソックスレ抽出器にセットし、メタノール溶媒を100mlメスフラスコに80ml程度加え80℃で6時間抽出を行う。
【0025】
3)6時間の抽出が完了したら、フラスコ内に残っている抽出溶媒(メタノール)を目視で観察し、なくなるまでエパポレータを使い蒸発させる。引き続き、このフラスコを室温(23℃)で8時間保持する。
【0026】
4)以上のように調整した抽出物を、次の手順に従い硫黄量の化学分析を行う。
(a)抽出物を高周波プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)分析する。
(1)3)で完了した抽出物の入ったフラスコの中に、硝酸10mlと過塩素酸5mlを加えて、過塩素酸の白煙が発生する(硝酸がなくなる)まで加熱する。
(2)放冷後、上記溶液にイオン交換水を加え、ろ紙を用いてろ過したものを100mlメスフラスコに移し替える。更にイオン交換水を加え、標線まで薄める。
(3)100mlに薄めた上記溶液をサンプリンゲして、ICP分析機にかけ出力値(A)を読み取る。
【0027】
(b)硫黄検量線をICP分析で作成。
(1)純度99.9%以上の硝酸カリウムを110℃で1時間程度加熱して硝酸カリウム中の水分を蒸発させる。
(2)乾燥した硝酸カリウムをイオン交換水で溶解し100ppm硫黄水溶液を作る。
(3)1000ppm硫黄水溶液に調整した液を、更に硫黄濃度が既知となる水溶液を少なくとも4水準調整(0を含む)して準備する。このときの調整の仕方としてば、それぞれの既知濃度水溶液100m1溶液に対して、過塩素酸5mlを加え溶液の粘度も合わせて調整しておく。
(4)既知の硫黄濃度に調整された上記の溶液をサンプリングして、それぞれの濃度の溶液をICP分析機にかけ出力値を読み取り硫黄検量線を作成する。
【0028】
(c)ゴムサンプル中の硫黄量の計算
4)のICP分析で読み取った出力値Aを4)の(b)で作成した硫黄検量線に対応させゴムサンプル中の硫黄量(W2)を読み取る。
【0029】
図4に、遊離硫黄量測定結果を示す。図4の結果に示すように、本発明の実施例材料は、従来技術材料と比べ、遊離硫黄量が少なく、硫黄腐食性の面で明らかに良好であることがわかる。
【0030】
ところで、特許文献1で提案されている技術では、事前に発泡させた発泡シール材と接着剤、樹脂の射出成形を組み合わせた気密シール構造を採用している。しかし、該シール構造では、初期性能は確保できるが、冷熱等の耐久条件に曝されると発泡体のヘタリと熱歪による応力の発生により材料界面が破綻し、気密性の低下が懸念される。そのため、コネクタケースの搭載環境が制限され、今日の部品が高集積化した自動車システムにおいて設計的に制約が発生する。
【0031】
そこで、冷熱や被水に曝される搭載位置でも高い信頼性を有するシール構造を備えたコネクタケースが望まれる。
【0032】
本発明では、シール部を構成するシール材の発泡レベルを傾斜化させることによって、樹脂および接着剤との投錨効果を維持したまま、冷熱サイクルにおけるゴム弾性も確保させることができる。より具体的には、1)樹脂および接着剤との界面近傍は高発泡であり、内側は無発泡である材料構造とする、2)上記の傾斜化を極性基を持った材料で構成する、3)該材料を非硫黄架橋型材料で構成する、発泡シール材と樹脂の界面は射出成形による表面の溶融混合、接着剤との界面は発泡表面との濡れ性と射出時の圧縮・硬化を利用した投錨接合でシール性を確保できる。
【0033】
この結果、熱歪ストレス緩和機構により、サーマルショック時にも高気密性を確保でき、適用環境拡大され、信頼性が向上し、接合強度・シール性能の向上が図れる。
【0034】
図5に、発泡シール材の発泡度が均一でも効果的であるが、発泡シール材の発泡度に傾斜を持たせ、樹脂部品側及び電子部品本体側で発泡度を大きくした電子部品のシール構造を示す。これにより、電子部品本体と樹脂部品との密着性などがさらに優れる。
【0035】
図6に、本発明のシール構造をコネクタケース10を例に説明する。図6(A)は、コネクタケース10の模式的斜視図である。図6(B)は、図6(A)のB−B線に対応する縦断面図のコネクタ部品14付近の拡大図である。図6(C)は、コネクタケース10の電子部品本体12の模式的斜視図である。金属性の電子部品本体12の開口部20に樹脂製のコネクタ部品14(樹脂部品)を射出成形により成形したコネクタケース10を製造する。
【0036】
図6(A)に示すように、電子部品本体12には樹脂製のコネクタ部品14が射出成形によって成形されている。図6(A)と(C)に示すように、コネクタ部品14は電子部品本体12に設けられた開口部20を塞ぐように成形される。図6(B)に示すように、電子部品本体12の開口部20の周囲部の表面側(図6(C)に示す周囲部21)には発泡シール材16が付着されている。コネクタ部品14は樹脂を射出成形して成形される。破線で示す保持部品18は、コネクタ部品14を射出成形する前に、発泡シール材16を厚さ方向に圧縮した状態に保持するものである。ここでいう「厚さ方向」とは、付着面から発泡シール材の高さ方向に伸びる方向をいう。保持部品18は、射出成形されるコネクタ部品14の樹脂と同じ樹脂で成形されている。従って保持部品18は、射出される溶融樹脂と一体化してコネクタ部品14の一部となる。また、コネクタ部品14には、電子部品本体12の内部に配置される電気部品とコネクタ部品14に接続される他のコネクタ(不図示)内のケーブルを電気的に接続するための金属端子30が貫通している。コネクタケース10の内部には電気部品が配置されるので、電子部品本体12とコネクタ部品14の接合面は気密性が確保されなければならない。気密性を確保する役割を発泡シール材16が果たしている。
【0037】
以下、参考のために、電子部品本体の開口部に樹脂部品が射出成形された成形体を実際に製造する方法を示す。
【0038】
電子部品本体の開口部の周囲に発泡シール材を付着する工程と、射出する樹脂と同じ樹脂で形成されており、電子部品本体に付着した発泡シール材を、電子部品本体のうち開口部の周囲部とともに、発泡シール材の厚さ方向に挟み込んで発泡シール材を厚さ方向に圧縮した状態に保持する保持部品を電子部品本体に取り付ける工程と、電子部品本体に取り付けられた保持部品がキャビティ内に露出するように、電子部品本体と金型を組み合わせてキャビティを画定する工程と、キャビティ内に溶融した樹脂を射出する工程を含む。
【0039】
ここでいう発泡シール材は、その内部に独立した気泡若しくは半独立した気泡を有しており、通気性がない材料をいう。厚さ方向とは、付着面から発泡シール材の高さ方向に伸びる方向をいう。
【0040】
また、保持部品は、例えば断面がコの字形状に形成されており、保持部品の断面のコの字形状のうちの平行な部位によって、発泡シール材を電子部品本体の開口部の周囲部とともに挟みこむ形状のもので実現できる。換言すれば、保持部材はクリップ状に形成されており、発泡シール材と電子部品本体の開口部の周囲部を挟みこむ形状のものでよい。なお、保持部品は開口部の周囲に付着した発泡シール材の全周囲を圧縮状態に保持するものであってよいし、発泡シール材の周囲の一部を圧縮状態に保持するものであってもよい。
【0041】
上記製造方法によれば、キャビティ内へ溶融した樹脂を射出する前に、発泡シール材を電子部品本体の開口部の周囲に付着する。そして電子部品本体に付着した発泡シール材を厚さ方向に圧縮した状態に保持する保持部品を電子部品本体に取り付ける。電子部品本体に付着した発泡シール材と電子部品本体を、発泡シール材の厚さ方向に挟み込んで発泡シール材を厚さ方向に圧縮した状態に保持する保持部品を利用することによって、発泡シール材を十分に圧縮した状態で樹脂を射出することができる。射出する樹脂と同じ樹脂で形成されている保持部品は、射出した溶融樹脂と一体化するので、保持部品と射出した溶融樹脂との間では高度な気密性が確保される。発泡シール材は、樹脂の射出前に十分圧縮されているので、溶融した樹脂が固化する際に収縮しても、それを補償するように圧縮されている発泡シール材が復元して気密性が確保される。
【0042】
また、保持部品によって発泡シール材を圧縮状態に保持する代わりに、金型に用意しておく圧縮用の部材によって発泡シール材を圧縮状態に保持しておいて射出成形する方法に具現化することもできる。この製造方法は、電子部品本体の開口部の周囲に発泡シール材を付着する工程と、電子部品本体に付着した発泡シール材と電子部品本体の開口部の周囲がキャビティ内に露出するように、電子部品本体と金型を組み合わせてキャビティを画定する工程と、金型に対して移動可能に設けられている圧縮部材を、発泡シール材に対して厚さ方向に押し当てて発泡シール材を圧縮した状態に保持する工程と、キャビティ内に溶融した樹脂を射出するとともに、射出した樹脂が固化する前に圧縮部材を発泡シール材から引き離す工程を含む。
【0043】
圧縮部材は、例えば金型から発泡シール材の付着面に向けてスライドする部材によって実現することができる。
【0044】
上記の製造方法では、電子部品本体の開口部の周囲に付着した発泡シール材を圧縮部材によって圧縮状態に保持する。これにより、発泡シール材を十分に圧縮した状態とすることができる。そしてその状態でキャビティ内に溶融した樹脂を射出する。圧縮部材は、射出した樹脂が固化する前に発泡シール材から引き離される。射出した樹脂が固化する前に圧縮部材を発泡シール材から引き離すので、それまで圧縮部材が存在していた空間に固化していない樹脂が流入する。圧縮部材が引き離されることによって発泡シール材が膨張するが、溶融樹脂がすばやく発泡シール材を押し始めるために発泡シール材に生じる膨張は少ない。樹脂が固化する前に圧縮部材を発泡シール材から引き離しても、発泡シール材が圧縮状態を維持した状態で射出成形される。
【0045】
前記発泡シール材を付着する工程では、電子部品本体の開口部の周囲の表面に発泡シール材を付着し、前記キャビティを画定する工程では、電子部品本体の開口部の周囲の裏面がキャビティ内に露出するように、電子部品本体と金型を組み合わせてキャビティを画定することが好ましい。
【0046】
電子部品本体の開口部の周囲の裏面もキャビティ内に露出しているために、溶融樹脂は、発泡シール材の表面側に充填されるとともに、開口部を通過して本体部品の裏面側にも充填される。射出成形された樹脂部品は、開口部を通過して発泡シール材の表面側と電子部品本体の裏面側に圧接しており、発泡シール材を圧縮状態に維持する。
【0047】
また、樹脂を射出する前に発泡シール材を圧縮しておく代わりに、射出した樹脂の圧力によって発泡シール材を圧縮することによっても具現化できる。この製造方法は、電子部品本体の開口部の周囲の表面に発泡シール材を付着する工程と、電子部品本体に付着した発泡シール材と電子部品本体の開口部の周囲の裏面がキャビティ内に露出するように、電子部品本体と金型を組み合わせてキャビティを画定する工程と、キャビティ内に溶融した樹脂を射出するとともに射出した樹脂の圧力により発泡シール材を圧縮する工程を含む。
【0048】
電子部品本体に発泡シール材を付着する工程は、電子部品本体と金型を組み合わせる前に実施してもよいし、開いた状態の金型に電子部品本体を配置した後に実施してもよい。上記製造方法では、キャビティ内へ溶融した樹脂を射出する前に、予め発泡済みの発泡シール材を電子部品本体の開口部の周囲の表面に付着しておく。そして溶融した樹脂の圧力によって発泡シール材を圧縮する。この製造方法によれば、発泡シール材を厚さ方向に圧縮した状態に保持する保持部品や、キャビティ内で移動可能な圧縮部材を必要としない。これらを使用しないで発泡シール材を圧縮することができる。電子部品本体の製造過程を一層容易にすることができる。さらに、射出成形された樹脂部品は、開口部を通過して発泡シール材の表面側と電子部品本体の裏面側に圧接しており、発泡シール材を圧縮状態に維持することができる。
【0049】
前記発泡シール材を付着する工程では、電子部品本体の開口部の周囲に設けられた凸部に沿って発泡シール材を付着してよい。また電子部品本体の開口部の周囲に設けられた溝部に発泡シール材を付着してもよい。前者では、電子部品本体の開口部の面に対して凸部の立ち上がった壁面に沿うように発泡シール材を付着してもよい。また凸部をまたぐように発泡シール材を付着してもよい。後者では、溝部の断面形状は矩形でも扇形でもよい。また、発泡シール材の一部が溝部内に納まっていればよい。いずれの方法によっても、樹脂を射出する際に発泡シール材が当初の付着面からずれることを低減することができる。
【0050】
また、前記発泡シール材を付着する工程は、発泡性物質を含有している液状又は粉末状のシール材を電子部品本体の開口部の周囲に塗布する工程と、塗布したシール材に含まれる発泡性物質を発泡させる工程を含むことも好ましい。
【0051】
液状又は粉末状のシール材を塗布する工程は、予め開口部の周囲の形状に合わせてカットされたシート状の発泡シール材を開口部の周囲に付着させる工程よりも自動化に適している。自動化に適した製造方法で、電子部品本体と樹脂部品との間の界面の気密性を確保した成形体を製造することができる。
【0052】
本発明で得られる電子部品本体は、電子部品本体の開口部に樹脂部品が射出成形された成形体であり、電子部品本体の開口部の周囲の表面に発泡シール材が付着しており、射出成形された樹脂部品が開口部を通過し、表面側では発泡シール材の表面に当接し、裏面側では電子部品本体の裏面に当接しており、その樹脂部品が、発泡シール材を厚さ方向に5%〜90%の範囲で圧縮していることを特徴とする。この場合、電子部品本体の開口部の周囲の裏面にも発泡シール材が付着してしてもよい。樹脂部品が裏面側では本体部品の裏面に当接しているという場合、裏面側に付着した発泡シール材を介して、電子部品本体の裏面と樹脂部品が当接していてもよい。
【0053】
この電子部品では、電子部品本体と樹脂部品の間に、5%〜90%の範囲で圧縮されている発泡シール材が介在しており、電子部品本体と樹脂部品の間の界面の気密性を確保することができる。射出成形された樹脂部品は、発泡シール材の表面側に圧接するとともに、開口部を通過して本体部品の裏面側に圧接している。即ち、発泡シール材は、その表裏両面から樹脂部品により圧力を受ける。発泡シール材を長期に亘って圧縮状態に維持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の電子部品のシール構造により、従来の硫黄系架橋剤で架橋されたEPDMゴム発泡材料に比べて、電子部品本体と樹脂部品との密着性に優れているとともに、電子部品本体に対する硫黄被毒性の問題が消滅した。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明で採用するインサート成形法の一例を示す。
【図2】図1に示すインサート成形によって製造された、PPS樹脂、発泡シール材、接着剤、アルミニウム板の積層構造を有する一体成形品を示す。
【図3】引張破壊試験結果とその破壊形態を示す。
【図4】遊離硫黄量測定結果を示す。
【図5】発泡シール材の発泡度に傾斜を持たせ、樹脂部品側及び電子部品本体側で発泡度を大きくした電子部品のシール構造を示す。
【図6】本発明のシール構造を有するコネクタケース10を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品本体部品の開口部の周囲の表面に発泡シール材が付着しており、射出成形された樹脂部品が開口部を通過し、電子部品本体の外面側では発泡シール材の表面に当接し、電子部品本体の内面側では電子部品本体の内面に当接しており、射出成形された樹脂部品と電子部品本体の間は発泡シール材で密封されている電子部品のシール構造において、該発泡シール材が極性基含有エラストマー材料と非硫黄系架橋剤との反応物であることを特徴とする電子部品のシール構造。
【請求項2】
前記発泡シール材の発泡度が、前記樹脂部品側及び/又は前記電子部品本体側で大きくなっていることを特徴とする請求項1に記載の電子部品のシール構造。
【請求項3】
前記極性基含有エラストマー材料が、クロロプレンゴム、EPDMゴム、アクリルゴム、シリコンゴム、及びウレタンゴムから選択される1種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電子部品のシール構造。
【請求項4】
前記樹脂部品が、発泡シール材を厚さ方向に5%〜90%の範囲で圧縮していることを特徴とする請求項1又は2に記載の電子部品のシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−23414(P2010−23414A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−190109(P2008−190109)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(594183299)株式会社松尾製作所 (35)
【Fターム(参考)】