説明

電子部品の実装方法及びプリント基板

【課題】 広い温度範囲に晒される電子回路においては、線膨張係数の異なる部品が実装されていると、いずれかの部品の線膨張係数と基板との線膨張係数の差を小さくしても、他の部品の線膨張係数と基板との線膨張係数の差は大きくなってしまい、そのはんだ接合には大きな応力が生じてしまう。
【解決手段】 プリント基板のX方向の線膨張係数に近い線膨張係数を持つ部品のグループと、プリント基板のY方向の線膨張係数に近い線膨張係数を持つ部品のグループに分け、プリント基板のX方向の線膨張係数に近い線膨張係数を持つ部品のグループは部品の長辺方向とX方向とを同一方向となるように実装し、プリント基板のY方向の線膨張係数に近い線膨張係数を持つ部品のグループは部品の長辺方向とY方向とを同一方向となるように実装する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子部品をプリント基板に実装する実装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリント基板に電子部品を実装した電子回路において、電子回路が高温または低温に晒されるとプリント基板と電子部品との線膨張係数の差によって、電子部品を接合しているはんだには応力が発生する。
常温からΔT(℃)だけ高温あるいは低温になった電子回路において、はんだに生じる応力は、式(1)で表わされる電子部品の歪εpに比例する。
【0003】
【数1】

【0004】
ここで、
Ep : 電子部品の縦弾性係数
αp : 電子部品の線膨張係数
tp : 電子部品の厚さ
Ec : 基板の縦弾性係数
αc : 基板の線膨張係数
tc : 基板の厚さ
である。
つまり、電子部品の線膨張係数αpと基板の線膨張係数αcの差が大きいほど、高温あるいは低温になった場合に電子部品を接合しているはんだには大きな応力が発生することになる。はんだに大きな応力が生じた場合にはそれによってはんだにクラックが生じ、電気的な接続が無くなるという事態に至ることがある。
【0005】
このように電子部品と基板との線膨張係数の差によって生じるはんだ応力を緩和する方法として、直方体形状の電子部品の短辺方向と、プリント基板を構成する繊維の横糸方向とを同一とすることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59−66189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電子回路においては回路の設計上様々な電子部品を使用しなければならないことが多く、それらの電子部品の線膨張係数は異なることが多い。
例えば、セラミックコンデンサはチタン酸バリウム(BaTiO3)で構成されていればその線膨張係数は11〜12×10-6/℃であり、酸化チタン(TiO2)で構成されていればその線膨張係数は9×10-6/℃程度である。チップ抵抗はアルミナ(Al2O3)で構成されることが多く、その線膨張係数は6〜8×10-6/℃である。
【0008】
このように電子部品ごとにその線膨張係数は異なっており、はんだに生じる応力は式1から分かるように常温からの温度差ΔT(℃)に比例する。このため、線膨張係数の差が微小であっても、電子回路が晒される環境の温度範囲が広い場合には大きな応力が発生する。
【0009】
例えば、人工衛星等に搭載される電子機器は100℃を越える温度差のある環境で使用され、また200℃以上の広い温度範囲に晒されることもある。このような広い温度範囲に晒される電子回路においては、線膨張係数の異なる複数の種類の電子部品が実装されていると、いずれかの電子部品の線膨張係数と基板との線膨張係数の差を小さくしても、他の電子部品の線膨張係数と基板との線膨張係数の差は大きくなってしまい、そのはんだ接合には大きな応力が生じてしまう。
【0010】
この発明は係る課題を解決するために成されたものであり、線膨張係数の異なる多数の電子部品を基板に実装する実装方法において、広い温度範囲の環境下で使用された場合であっても高い信頼性が得られる電子部品の実装方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の電子部品の実装方法は、線膨張係数の異なる複数の電子部品を直交するX方向とY方向とで線膨張係数が異なる基板に実装する電子部品の実装方法であって、前記基板のY方向の線膨張係数と比べ前記基板のX方向の線膨張係数に近い線膨張係数を有する電子部品を当該電子部品の長辺方向が前記X方向と同一方向となるように実装し、前記基板のX方向の線膨張係数と比べ前記基板のY方向の線膨張係数に近い線膨張係数を有する電子部品を当該電子部品の長辺方向が前記Y方向と同一方向となるように実装する。
【発明の効果】
【0012】
この発明の実装方法によれば、広い温度範囲の環境下で使用した場合であっても温度に起因する応力を緩和して、高い信頼性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1による電子部品の基板への実装方法を説明するための図である。
【図2】プリント基板の構成を示す破断斜視図である。
【図3】この発明の実施の形態2による電子部品の基板への実装方法を説明するための図である。
【図4】この発明の実施の形態2によるプリント基板の構成を説明するための図である。
【図5】この発明の実施の形態2によるコア基板とプリプレグの詳細を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
以下、図面を参照しながら実施の形態1に係る電子部品の実装方法を説明する。
図1は、実施の形態1に係る実装方法により基板に電子部品を実装した部品実装図の一例である。図1において、プリント基板1にそれぞれ線膨張係数が異なる電子部品2、3、4が実装されている。プリント基板1のX方向の線膨張係数はαXであり、Y方向の線膨張係数はαYである。
ここで、電子部品3の線膨張係数はプリント基板のX方向の線膨張係数αXに近く、電子部品2と電子部品4の線膨張係数はプリント基板のY方向の線膨張係数αYに近いものとする。
【0015】
図2はプリント基板1の構成を示す破断斜視図である。図2において、11はプリント基板の基材を構成するガラス繊維等の縦糸、12は横糸であり、10はエポキシ樹脂等の樹脂である。基板1を製造する過程において、樹脂をガラス繊維等の基材に含浸させ、またその樹脂をヒーターで加熱して半硬化状態にすることにより、縦糸11は常に引っ張られた状態にある。表面の銅箔(図示せず)をエッチングにより回路パターンを作成する際などでは縦糸11のY方向は、横糸12のX方向よりもより多く縮む。
縦糸11と横糸12の数が同じであると硬化収縮量が変わり、基板を複数枚積層する際のドリル穴明けする位置を合わせるのが難しくなるため、横糸12の数を縦糸11よりも少なくして硬化収縮量をX方向とY方向で同じにすることが多い。
このように縦糸11と横糸12の本数が異なると、ガラス繊維等の基材と樹脂との線膨張係数が異なるため、基板のX方向とY方向で線膨張率に差が生じる。
縦糸よりも横糸の本数が少ない場合には、ガラス繊維の線膨張係数よりも樹脂の線膨張係数は大きいため、縦糸の本数が多いX方向よりも、横糸の本数が少ないY方向の方が線膨張係数は大きくなる。
【0016】
実施の形態1に係る電子部品の実装方法では、図1に示すように電子部品3の長辺方向とX方向とを同一方向となるように実装し、一方、電子部品2と4はその長辺方向とY方向とを同一方向となるように実装する。
このように実装することで各電子部品2〜4の長辺方向において電子部品2〜4とプリント基板1との線膨張係数の差が小さくできるので、高温や低温となった場合に電子部品のはんだに生じる応力を小さくできる。
【0017】
このように、電子部品ごとに線膨張係数が異なる場合であっても、プリント基板1の縦糸と横糸の本数の違いによりX方向とY方向が異なる線膨張係数を有するので、各電子部品の線膨張係数に近い方向に電子部品の長辺方向を一致させるように実装することにより、はんだに生じる応力を小さくすることが可能である。
【0018】
以上のように、実施の形態1の電子部品の実装方法では、プリント基板に実装する電子部品をプリント基板のX方向の線膨張係数に近い線膨張係数を持つ電子部品のグループ(電子部品3)と、プリント基板のY方向の線膨張係数に近い線膨張係数を持つ電子部品のグループ(この例では電子部品2と4)に分ける。そして、プリント基板のX方向の線膨張係数に近い線膨張係数を持つ電子部品のグループについて電子部品の長辺方向とX方向とを同一方向となるように実装し、プリント基板のY方向の線膨張係数に近い線膨張係数を持つ電子部品のグループについて電子部品の長辺方向とY方向とを同一方向となるように実装する。
このように実装することにより、高温や低温となった場合に電子部品のはんだに生じる応力を小さくすることができる。
【0019】
なお、プリント基材のX方向とY方向の繊維の数については各種設定があるため、実装する電子部品の線膨張係数に応じて基材のX方向とY方向の繊維の数を決めるが可能である。実装する電子部品の線膨張係数に適したX方向とY方向の線膨張係数を有するプリント基板を使用することで、温度に起因する応力を緩和した信頼性の高い電子部品の実装を行うことができる。
【0020】
実施の形態2.
図3は、実施の形態2に係る実装方法により基板に電子部品を実装した部品実装図の一例である。図3において、プリント基板21にそれぞれ線膨張係数が異なる電子部品2、3、4が実装されている。プリント基板21は、基板部21aと基板部21bとでは線膨張係数が異なる。
【0021】
図4は、実施の形態2のプリント基板21の構成を示した図である。
プリント基板21は、銅張積層板の表面の銅箔に回路のパターンをエッチングしたコア基板31(31a、31b、31c)と、積層するコア基板31同士を接着するプリプレグ32、33とから構成される。なお、プリプレグは絶縁層の一例である。
コア基板31は層ごとに異なった回路パターン形状31a、31b、31cとなっている。31a、31b、31cは銅張積層板としての材料・形状・寸法はすべて同じであるが、回路のパターン形状だけが異なっている。
プリプレグ32とプリプレグ33は、プリント基板21のY方向を2分割するように構成されている。
【0022】
図5は、コア基板31bとプリプレグ32、33の線膨張係数を詳細を示した図である。
ここで、コア基板31bはX方向とY方向とで繊維の数の違いにより線膨張係数が異なっており、X方向の線膨張係数をαX1、Y方向の線膨張係数をαY1とする。
プリプレグ32のX方向の繊維の数はコア基板31bのX方向の繊維数と同じであり、Y方向の繊維の数もコア基板31bとのY方向の繊維数と同じである。X方向の線膨張係数はαX1、Y方向の線膨張係数はαY1である。
一方、プリプレグ33のX方向の繊維の数はコア基板31bのX方向の繊維数と同じであるが、Y方向の繊維の数はコア基板31bとのY方向の繊維数とは異なっている。このため、プリプレグ33の線膨張係数はコア基板31bと同じαX1であるが、Y方向の線膨張係数はコア基板31bとは異なりαY2となっている。
【0023】
このような線膨張係数を持つコア基板31(31a〜31c)とプリプレグ32、33が積層されたプリント基板21では、図3に示すようにX方向の線膨張係数はαX1であり、プリプレグ32が積層されている領域21aにおけるY方向の線膨張係数はαY1となる。
一方、プリプレグ33が積層されている領域21bのY方向の線膨張係数は、コア基板31bのY方向の線膨張係数αY1と、プリプレグ33のY方向の線膨張係数αY2から決まるαY2'となる。
【0024】
このように、一つのプリント基板21において、方向や領域によって3種類の線膨張係数αX1、αY1、αY2'を有する構成となる。
【0025】
ここで、図3の電子部品2、3、4の線膨張係数はそれぞれαY1、αX1、およびαY2'に近いものとする。
【0026】
実施の形態2に係る電子部品の実装方法では、図3に示すように電子部品2の長辺方向とX方向とを同一方向となるように実装し、電子部品3は21aの領域において長辺方向とY方向とを同一方向となるように実装し、電子部品4は21bの領域において長辺方向とY方向とを同一方向となるように実装する。
このように実装することで、各電子部品2〜4の長辺方向において電子部品2〜4とプリント基板1との線膨張係数の差が小さくできるので、高温や低温となった場合に電子部品のはんだに生じる応力を小さくできる。
【0027】
実施の形態2では、プリント基板21において3種類の線膨張係数を有するため、電子部品の種類が多かったり、電子部品の種類による線膨張係数の差が大きい場合でも、実施の形態1よりもさらに各電子部品と基板との線膨張係数の差を小さくすることが可能である。
【0028】
ここではコア基板31は31a、31b、31cの3層の場合を示しているが、コア基板31が3層以上積層されることもあり、その際には各コア基板同士の間にプリプレグ32と33が積層される。また、ここではプリプレグはプリント基板21の平面内に2分割した構成を示しているが、回路上での電子部品の配置に合わせて、2種類のプリプレグが3分割以上に構成することも可能である。また、繊維数と線膨張係数の異なるプリプレグを3種類以上平面内に配置することで、プリント基板21において4種類の線膨張係数を有する構成とすることも可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 プリント基板、2 電子部品、3 電子部品、4 電子部品、10 樹脂、11 縦糸、12 横糸、21 プリント基板、31 コア基板、32 プリプレグ、33 プリプレグ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線膨張係数の異なる複数の電子部品を、直交するX方向とY方向とで線膨張係数が異なる基板に実装する電子部品の実装方法であって、
前記基板のY方向の線膨張係数と比べ前記基板のX方向の線膨張係数に近い線膨張係数を有する電子部品を当該電子部品の長辺方向が前記X方向と同一方向となるように実装し、
前記基板のX方向の線膨張係数と比べ前記基板のY方向の線膨張係数に近い線膨張係数を有する電子部品を当該電子部品の長辺方向が前記Y方向と同一方向となるように実装することを特徴とする電子部品の実装方法。
【請求項2】
回路パターンを形成したコア基板と絶縁層とを交互に積層したプリント基板であって、
前記絶縁層のうち少なくとも1層の絶縁層は、X方向とY方向とで少なくとも一方向の線膨張係数が異なる2種類以上の絶縁部材からなることを特徴とするプリント基板。
【請求項3】
請求項2に記載のプリント基板を、前記基板に用いることを特徴とする請求項1記載の電子部品の実装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−40426(P2011−40426A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183407(P2009−183407)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】