説明

電子部品の高周波特性誤差補正方法

【課題】2端子インピーダンス部品について、補正の対象となる測定系が実測時と同じ状態のままで校正作業を行うことができる、電子部品の高周波特性誤差補正方法を提供する。
【解決手段】高周波特性の異なる少なくとも3つの補正データ取得用試料を、基準測定系と実測測定系で測定し、実測測定系で測定した測定値と基準測定系で測定した測定値とを、伝送路の誤差補正係数を用いて関連付ける数式を決定する。任意の電子部品2を実測測定系で測定し、決定した数式を用いて、電子部品を基準測定系で測定したならば得られるであろう電子部品の高周波特性の推定値を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の高周波特性誤差補正方法に関し、詳しくは、2端子インピーダンス部品の高周波特性の測定において測定系の誤差を補正する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品の量産工程において、自動特性選別機を用いて電子部品の電気特性が測定されている。自動特性選別機での測定系は、基準となる測定系と回路特性が異なるため、自動特性選別機による測定値を補正して、基準となる測定系での測定値を推定することにより、歩留まりの向上を図ることができる。このような補正を行う方法として、SOLT、TRL校正及びRRRR/TRRR校正と呼ばれる技術が知られている。
【0003】
まず、TRL/SOLT校正について、説明する。
【0004】
被検体である表面実装部品の散乱係数行列の真値を測定するために使用できる従来技術としては、TRL校正が最も有効な技術である。また、広く使用されている従来技術としてSOLT校正がある。これらについて簡単に説明する。
【0005】
被検体の真値を得るためには、測定系の誤差要因を同定して、測定結果から誤差要因の影響を取り除かなければならない。図1に、代表的な誤差除去方法(校正方法)で使用される誤差モデルを示す。
【0006】
すなわち、図1(a)に示すように、被検体である電子部品2は、測定治具10の上面に形成された伝送路上に接続される。測定治具10の伝送路の両端に設けられたコネクタ11a,11bには、同軸ケーブル50,60の一端に設けられたコネクタ51,61が接続され、同軸ケーブル50,60の他端は不図示のネットワークアナライザの測定ポートに接続される。矢印51s,61sは校正面を示す。
【0007】
図1(b)はTRL補正の誤差モデルであり、散乱係数S11A,S12A,S21A,S22Aで表される測定治具の回路12と、端子対a−b、a−bとの間に、散乱係数e00,e01,e10,e11で表される一方の測定ポート側の回路52と、散乱係数f00,f01,f10,f11で表される他方の測定ポート側の回路62とが接続されている。
【0008】
図1(c)はSOLT補正の誤差であり、散乱係数S11A,S12A,S21A,S22Aで表される測定治具の回路14の両側に、散乱係数EDF,ERF,1,ESFで表される一方の測定ポート側の回路54と、散乱係数ELF,ETFで表される他方の測定ポート側の回路64とが接続されている。
【0009】
SOLT校正の場合、誤差要因を同定するためには、被検体測定面に少なくとも3種類の散乱係数が既知のデバイスを取り付けて測定を行わなければならず、図2に示すように、伝統的に開放(OPEN)、短絡(SHORT)、終端(LOAD=50Ω)の標準器80,81,82が使用されることが多いが、同軸環境以外では、良好な「開放」「終端」の標準器の実現は極めて困難であり、治具10の先端(矢印51s,61sで示す校正面)で校正できない。同軸環境であれば、このような標準器はスライディングロード等の手法で実現できるため、この方法は広く使用されており、SOLT校正と呼ばれる。
【0010】
TRL校正とは、実現の難しいデバイス形状の標準器に代えて、ポート間直結状態(Through)と全反射(Reflection、通常は短絡)及び長さが異なる数種類の伝送路(Line)を標準器として使用するものである。標準器の伝送路は、比較的散乱係数が既知のものを製作しやすく、また、全反射も短絡であれば比較的簡単にその特性を予想できることから、特に導波管環境では最も精度の高い校正方法として知られている。
【0011】
図3にTRL校正の誤差要因導出方法を示す。図中、伝送路には斜線を付している。校正面は、矢印2s,2tで示すように、デバイスとの接続部である。誤差要因を同定するためには、ポート間直結状態(Through)の基板86と全反射(Reflection、通常は短絡)の基板83及び長さが異なる数種類の伝送路(Line)の基板84,85を、標準器として使用する。この例では、ThroughはいわゆるZero-Throughである。被検体の測定時には、被検体の大きさだけ長さを長くした測定基板87に被検体2をシリーズ接続して測定する。
【0012】
TRL,SOLT校正の概要は、先に述べたとおりであるが、これらの技術には、以下の2つの問題がある。
【0013】
(1)標準器である伝送路等(Line数種類とReflection)とThroughにおいて、同軸-平面伝送路の接続部に生じる誤差要因が全て等しくなければ校正誤差を生じる。たとえ各標準器で同じ種類のコネクタを使用しても、おのおのが異なる場合には特にコネクタの特性バラツキの影響が非常に大きくなり、ミリ波帯に近づくと事実上実施不可能である。
【0014】
(2)上記課題を解決するため、市販治具では、同軸コネクタを共通として標準器伝送路と接触接続することでコネクタ測定のバラツキの影響を回避しようという工夫もされているが、同軸ピンが破損するため接触部に十分な押しつけ荷重を確保することが構造上難しく、接触が安定しないために校正が不安定になることが多い。また、測定周波数が高くなると一般に伝送路も同軸ピンも細くなるので、これらの位置決め再現性による測定バラツキが大きくなってしまう。
【0015】
これらの問題を解決するため、いわゆるRRRR/TRRR校正法が提案されている。
【0016】
次に、RRRR/TRRR校正法の概要を説明する。
【0017】
これらは、ただ1つの伝送路上の所定の数ヵ所にて信号導体と接地導体を短絡することにより、伝送路先端までの測定系の誤差を同定し、表面実装部品の高周波電気特性を高精度に測定できることが特徴である。TRL/SOLT校正法で問題となっていた伝送路特性のバラツキや、伝送路と同軸コネクタの接点状態のバラツキと無関係であることが利点となる。
【0018】
誤差モデルは、図4及び図5に示すとおり、SOLT/TRL校正と同様である。すなわち、図4はTRRR校正の誤差モデルであり、図1(c)に示したSOLT校正の誤差モデルと同じである。図5はRRRR校正の誤差モデルであり、図1(b)に示したTRL校正の誤差モデルと同じである。
【0019】
RRRR/TRRR校正法のポイントは、校正に用いる「標準測定値」の測定方法であり、SOLTでは標準デバイス、TRLでは標準伝送路の測定値を「標準測定値」としているが、RRRR/TRRR校正法では、図6に示すように、測定基板10a上で短絡基準の位置を変えて測定した測定値を「標準測定値」としている。コネクタの影響が生じないので、卓上測定においては、SOLT校正やTRL校正より高精度で有効な方法であるといえる。
【0020】
しかし、TRRR/RRRR校正では、治具伝送路10s,10tに短絡基準(ショートチップ2s)を接続する位置の違いによって生じる反射係数の変化を校正基準として使用するので、測定する信号の波長が長い場合(周波数が低い)場合、短絡基準の接続位置を大きく変える必要があり、図中のT,Tを長くする必要があるために、測定基板10aの長さ(矢印Lで示す方向の寸法)を長くする必要がある。また、量産工程で用いる自動特性選別機では、構造、寸法に制約があるので、治具10aに補正のためのGND端子を設けることや、ショートチップ2sを精度良く位置決めできる構造にすることが難しい(例えば、特許文献1、2参照)。
【特許文献1】WO2005/101033号公報
【特許文献2】WO2005/101034号公報
【非特許文献1】Application Note 1287-9: In-Fixture Measurements Using Vector Network Analyzers,((C)1999 Hewlett-Packard Company)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
電子部品の量産工程において用いられている自動特性選別機では、例えば図9の要部構成図に示したように、測定端子部30から突出する測定ピン32a,32bに、被検体である電子部品2の電極2a,2bが押し当てられて測定ピン32a,32bの間に直列に接続され、測定ピン32a,32bは、同軸ケーブル34,36を介して、不図示の測定機に接続されている。測定端子部30の周囲に、電子部品2を接続できる程度の狭い空間しか確保できない場合、測定端子部30に実質的に量産デバイス自体又は量産デバイスと略同じ寸法・形状の試料しか接続できないという制約のもとで、測定系の誤差補正を行わざるを得ない。このような場合には、次の課題を生じる。
【0022】
(1)長さの異なる伝送路を自動特性選別機の測定端子部に接続することは、そもそも不可能であり、TRL校正が適用できない。
【0023】
(2)SOLT校正は、現実的には測定端子部先端での校正ができず、同軸、導波管系にしか適用できないという制約がある。通常は、同軸コネクタ部まではSOLT校正により校正し、それ以後の伝送路は誤差が生じないように設計することで十分な測定精度を得ている。ところが、自動特性選別機の測定端子部では、同軸コネクタ以後の伝送路に形状、寸法制約があるので、同軸コネクタ部までの校正だけでは、十分な精度が得られないことが多い。
【0024】
(3)SOLT校正で何らかの工夫を行って測定端子部の先端で標準デバイスを測定しようとしても、次の問題が生じる。
【0025】
i)SOLT校正では各ポートでの1ポートデバイスの測定が必要である。すなわち、図7の測定基板10bの平面図に示すように1本の信号線10xのスリット10kの間に2端子電子部品をシリーズ接続で測定する場合、測定に不要であるので端子部に接地端子はない。しかし、SOLT校正では接地導体がなければ1ポートデバイスは測定できないため、SOLT校正を適用するには、校正のためだけに接地端子を設ける必要がある。
【0026】
ii)SOLT校正では、2つのポートそれぞれで、値が既知の3種類の1ポートデバイスの測定が必要であるが、図8の測定基板10cの平面図に示すように信号導体10pと接地導体10gとの間にデバイスの2つの端子が接続されるために、各ポートが独立した1ポートデバイスの測定が不可能である。
【0027】
(4)2端子電子部品をシリーズ接続で測定する場合、測定に不要であるので端子部に接地端子はない。しかし、RRRR校正ではショートでの測定が必要であるため、RRRR校正を適用するには、校正のためだけに接地端子を設ける必要がある。
【0028】
(5)RRRR校正では基板の数箇所でショートを行い測定するが、周波数が低い場合、短絡基準の接続位置を大きく変える必要があり、そのために測定基板の長さを長くする必要がある。
【0029】
本発明は、かかる実情に鑑み、2端子インピーダンス部品について、補正の対象となる測定系が実測時と同じ状態のままで校正作業を行うことができる、電子部品の高周波特性誤差補正方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明は、上記課題を解決するために、以下のように構成した電子部品の高周波特性誤差補正方法を提供する。
【0031】
電子部品の高周波特性誤差補正方法は、2端子インピーダンス部品である電子部品を実測測定系で測定した結果から、当該電子部品を基準測定系で測定したならば得られるであろう当該電子部品の高周波特性の推定値を算出する方法である。電子部品の高周波特性誤差補正方法は、(1)前記基準測定系で値付けされている、高周波特性の異なる少なくとも3つの第1の補正データ取得用試料を用意する第1のステップと、(2)少なくとも3つの前記第1の補正データ取得用試料、又は前記第1の補正データ取得用試料と同等の高周波特性を有すると見なせる少なくとも3つの第2の補正データ取得用試料を、前記実測測定系で測定する第2のステップと、(3)前記第1のステップで用意された前記第1の補正データ取得用試料の前記基準測定系での値付けデータと前記第2のステップにおいて前記実測測定系で測定された前記第1の補正データ取得用試料又は前記第2の補正データ取得用試料の測定データとから、前記実測測定系で測定した測定値と前記基準測定系で測定した測定値とを、伝送路の誤差補正係数を用いて関連付ける数式を決定する第3のステップと、(4)任意の電子部品を前記実測測定系で測定する第4のステップと、(5)前記第4のステップで得られた測定結果に基づいて、前記第3のステップで決定した前記数式を用いて、当該電子部品を前記基準測定系で測定したならば得られるであろう当該電子部品の高周波特性の推定値を算出する第5のステップとを備える。
【0032】
上記第1のステップにおいて用意される第1の補正データ取得用試料は、実際に基準測定系で測定されることによって予め値付けされても、それ以外の方法で予め値付けされてもよい。例えば、同等の特性と見なせる多数の試料について、一部の試料のみを実際に基準測定系で測定し、その測定値を他の試料の値付けに用いてもよい。
【0033】
上記方法によれば、電子部品と実質的に同じ形状、寸法の補正データ取得用試料を用いて、第1及び第2のステップを実行することができる。従来、自動特性選別機の測定系では同軸コネクタ先端までの校正しかできなかったが、上記方法により電子部品を接続する端子部先端までの補正ができるようになる。
【0034】
電子部品の高周波特性誤差補正方法は、前記実測測定系において、前記第1の補正データ取得用試料及び前記電子部品が、又は、前記第1の補正データ取得用試料、前記第2の補正データ取得用試料及び前記電子部品が、シャント接続される。前記数式は、前記基準測定系で電子部品を測定したときのアドミタンスYが測定される端子1,2と、前記実測測定系で電子部品を測定したときのアドミタンスYが測定される端子1,2との間に接続される誤差モデルに基づいて導出される。前記端子1から見たアドミタンスを導出するとき、前記誤差モデルは、前記端子1と前記端子1との間にアドミタンスY12が接続され、前記端子1と前記アドミタンスY12との接続点とグランドとの間にアドミタンスY11が接続され、前記アドミタンスY12と前記端子1との接続点とグランドとの間にアドミタンスYが接続され、前記端子2と前記端子2との間にアドミタンスY22が接続され、前記アドミタンスY22と前記端子2との接続点とグランドとの間にアドミタンスY21が接続される。前記アドミタンスY,Y11,Y12,Y21,Y22は、前記第1のステップで少なくとも3つの前記第1の補正データ取得用試料のアドミタンスを測定した結果Yd1,Yd2,Yd3と、前記第2のステップにおいて、少なくとも3つの前記第1の補正データ取得用試料又は前記第2の補正データ取得用試料について、前記端子1のアドミタンスを測定した結果Ym11,Ym12,Ym13、及び前記端子2のアドミタンスを測定した結果Ym21,Ym22,Ym23とを用い、次の数式[数3a]と、
【数3a】

次の数式[数3b]と、
【数3b】

から得られる16通りのY11,Y12,Y21,Y22の組み合わせのうち、
次の数式[数4]について、
【数4】

f1,Yf2,Yf3が一致する少なくとも1つの組み合わせを用いて、決定される。
【0035】
この場合、シャント接続の実測測定系での測定結果について伝送路の誤差を補正することにより、基準測定系での測定結果を推定することができる。
【0036】
なお、第2のステップにおいて、少なくとも3つの前記第1の補正データ取得用試料又は第2の補正データ取得用試料について実測測定系でアドミタンスYm11、Ym12,Ym13,Ym21、Ym22,Ym23を測定するとき、端子1と端子2との間が電気的に接続されていてもよい。
【0037】
また、本発明は上記電子部品の高周波特性誤差補正方法の少なくとも前記第5のステップに用いる電子部品の高周波特性誤差補正装置を提供する。電子部品の高周波特性誤差補正装置は、(a)前記第3のステップにおいて決定された前記数式と、前記第4のステップにおいて得られた任意の電子部品を前記実測測定系で測定した測定値とを記憶する記憶部と、(b)前記記憶部に記憶された前記数式を用いて、前記記憶部に記憶された前記測定値を補正する演算を行い、当該電子部品を前記基準測定系で測定したならば得られるであろう当該電子部品の高周波特性の推定値を算出する演算部とを備える。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、2端子インピーダンス部品について、補正の対象となる測定系が実測時と同じ状態のままで校正作業を行うことができる。その結果、これまで有効な校正方法がなかった自動特性選別機において正確な校正を実施の上選別を実施できるので、これまで不可能であった量産デバイスの正確な測定選別及び特性のユーザー保証が可能になる。
【0039】
また、従来の誤差補正技術では、誤差補正のためにコネクタから端子を外して標準デバイスを接続する等の本来の測定にはない作業が必要となる。また、そのためには接地端子を設けたり、短絡基準を押し当てることができる構造としたりする必要がある。これに対して、本発明の方法では、通常の測定と同じ作業で補正のための測定を行えばよい。また、補正のためのGND端子、短絡機構は不要であり、端子部には通常の測定ができる機能だけがあればよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】(a)測定系の説明図、(b)TRL校正の誤差モデルの回路図、(c)SOLT校正の誤差モデルの回路図である。(従来例)
【図2】SOLT校正の誤差要因導出法の説明図である。(従来例)
【図3】TRL校正の誤差要因導出法の説明図である。(従来例)
【図4】TRRR校正の誤差モデルの回路図である。(従来例)
【図5】RRRR校正の誤差モデルの回路図である。(従来例)
【図6】TRRR校正、RRRR校正での測定位置の説明図である。(従来例)
【図7】シリーズ接続の測定基板の平面図である。(従来例)
【図8】シャント接続の測定基板の平面図である。(従来例)
【図9】測定端子部の構成を示す要部断面構成図である。(実施例)
【図10】(a)測定系の構成図、(b)測定基板の正面図である。(参考例)
【図11】チップインダクタの測定結果を示すグラフである。(参考例)
【図12】(a)測定系の構成図、(b)測定基板の正面図である。(実施例)
【図13】チップ抵抗の測定結果を示すグラフである。(実施例)
【図14】シリーズ接続の誤差モデルの回路図である。(参考例)
【図15】ポート1側から見た等価回路の回路図である。(参考例)
【図16】ポート1側から見た等価回路の回路図である。(参考例)
【図17】ポート1側から見た等価回路の回路図である。(参考例)
【図18】ポート1側から見た等価回路の回路図である。(参考例)
【図19】ポート1側から見た等価回路の回路図である。(参考例)
【図20】シャント接続の誤差モデルの回路図である。(実施例)
【図21】ポート1側から見た等価回路の回路図である。(実施例)
【図22】ポート1側から見た等価回路の回路図である。(実施例)
【図23】ポート1側から見た等価回路の回路図である。(実施例)
【図24】ポート1側から見た等価回路の回路図である。(実施例)
【図25】ポート1側から見た等価回路の回路図である。(実施例)
【符号の説明】
【0041】
2 電子部品
20,21 測定基板
22a,22b 伝送路
26 信号導体
28 接地導体
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明の実施の形態について、図9〜図25を参照しながら説明する。
【0043】
まず、本発明の実施の形態である電子部品の高周波特性の誤差補正方法について、図14〜図25を参照しながら説明する。
【0044】
<原理1> シリーズ接続の場合の測定誤差補正の原理について、図14〜図19を参照しながら説明する。
【0045】
マイクロ波以上の周波数では、通常電子部品の電気特性は散乱係数行列で表現されるが、電気特性を散乱係数行列で表現しなければならない特段の理由があるわけではなく、これと相互変換できるパラメータであれば、目的に応じてより使用しやすいパラメータを用いればよい。2端子インピーダンス素子のシリーズ測定を想定した際の誤差パラメータとして、ここではインピーダンスのT型接続回路を採用し、その誤差モデルを図14に示す。図中、点線で囲まれた部分が各ポートの誤差モデルであり、誤差モデルは、基準となる測定系で被検体が測定される端子1,2と、補正の対象となる測定系で被検体が測定される端子1,2との間に接続されている。変数Zはインピーダンスを表す。また、DUTと表示された部分が被検体である。2端子インピーダンス素子のシリーズ測定であるので、被検体は2端子インピーダンス素子としてモデル化し、シャント容量は無視し得ると考える。
【0046】
ポート1から観察すればポート2は単なる終端インピーダンスにすぎないので、図15の等価回路を得る。ここに、Zはポート2の等価インピーダンスである。
【0047】
図15を注意深く観察すれば、Z13,Z,Zは単なる直列接続である。そこで、Z13とZをまとめてZe1と表示すると、等価回路は図16のように変形できる。
【0048】
図16の誤差モデル中の未知数はZ11,Z12,Ze1の3つであるので、補正データ取得用試料Zを測定した際の測定値Zを3組取得すれば、これら未知数は決定する。具体的には、補正データ取得用試料3つのインピーダンス値をZd1,Zd2,Zd3、これに対する測定値をZm11,Zm12,Zm13とすると、次の数式[数5a]の関係が成り立つ。
【数5a】

【0049】
誤差要因は、数式[数5a]から求めた次の数式[数5b]によって、計算できる。式中の±が異なる解のうち、どちらを選択するかは後に述べる。
【数5b】

【0050】
e1は、数式[数5b]のZ11,Z12を数式[数5a]に代入すれば、次の数式[数5c]により求められるが、誤差補正の計算、すなわち後述する数式[数7]には使用されない。
【数5c】

なお、数式[数5c]は、Zm11,Zd1の代わりに、Zm12,Zd2を用いても、あるいはZm13,Zd3を用いても、求めることができる。
【0051】
ポート2から観察すれば、ポート1は単なる終端インピーダンスにすぎないので、図17の等価回路を得る。ここに、Zは、ポート1の等価インピーダンスである。
【0052】
図17を注意深く観察すれば、Z21,Z,Zは単なる直列接続である。そこで、Z21とZをまとめてZe2と表示すると、等価回路は図18のように変形できる。
【0053】
図18の誤差モデル中の未知数はZ21,Z22,Ze2の3つであるので、補正データ取得用試料Zを測定した際の測定値Zを3組取得すれば、これら未知数は決定する。
【0054】
具体的には、3つの補正データ取得用試料(i=1,2,3)について、それぞれのインピーダンス値をZdi、これに対する測定値をZm2iとすると、次の数式[数6a]が成り立つ。
【数6a】

【0055】
3つの補正データ取得用試料(i=1,2,3)についての数式[数6a]から、誤差要因であるZ21,Z22を求めると、次の数式[数6b]が求まる。式中の±が異なる解のうち、どちらを選択するかは後に述べる。
【数6b】

【0056】
e2は、数式[数6b]で求めたZ21,Z22を数式[数6a]に代入すれば、次の数式[数6c]により求められるが、誤差補正の計算、すなわち後述する数式[数7]には使用されない。
【数6c】

なお、数式[数6c]は、Zm21,Zd1の代わりに、Zm22,Zd2を用いても、あるいはZm23,Zd3を用いても、求めることができる。
【0057】
以上によってZ13,Z23を除く誤差モデルは定まる。
【0058】
ところで、Z13とZ23については、補正データ取得用試料をシリーズ接続するだけでは、これらの値を求めることができない。
【0059】
しかし、Z13とZ23は直列接続の関係であるので、別個独立にその値を定める必要はないので、誤差モデルを図19のように描き直す。図中のZは、Z13とZ23の直列接続(つまり値の和)と観念できる誤差要因である。
【0060】
図19の誤差モデルは、端子1と端子1との間にインピーダンスZ11とZとが直列に接続され、インピーダンスZ11とZとの接続点とグランドとの間にインピーダンスZ12が接続され、端子2と端子2との間にインピーダンスZ21が接続され、端子2とグランドとの間にインピーダンスZ22が接続されている。
【0061】
例えばポート1から見たインピーダンスは、図19の誤差モデルにおいてポート2側が無反射終端(つまり、通常は50Ωが接続された状態)された状態を表していることから、Zは、補正データ取得用試料の値Zとこれを接続した際の測定値Zの組から求めることができる。
【0062】
3つの補正データ取得用試料(i=1,2,3)について、補正データ取得用試料の値Zdiと、これを接続した際の測定値Zmiとの組み合わせには3通りあり、次の数式[数7]でZfiを計算することができる。なお、式中のZは特性インピーダンスを示す。
【数7】

【0063】
の値は1つであるので、数式[数7]で求めたZf1,Zf2,Zf3は、同じ値を取るべきであるが、数式[数5b]及び[数6b]に示すように、Z12,Z21,Z21,Z22には、符号の異なる2つの解があり、その通りの組み合わせによっては、Zf1,Zf2,Zf3が一致しない。
【0064】
そこで、次の表1に示す2=16通りの組み合わせパターンのそれぞれについて、上記数式[数7]のZf1,Zf2,Zf3を計算しf1,Zf2,Zf3が一致するZ12,Z21,Z21,Z22の組み合わせを選択することにする。Zf1,Zf2,Zf3が一致する組み合わせは複数存在するので、そのうちのいずれを用いてもよい。
【表1】

【0065】
なお、そもそも、Z13とZ23は直列接続としてZを形成する誤差要因なのであるから、補正データ取得用試料が2端子インピーダンス素子のシリーズ接続をするものである限り、図19の誤差モデルに基づいて補正を行えば、図14に基づく補正と全く同じ結果が得られる。
【0066】
<原理2> シャント測定時の2ポート誤差補正の原理について、図20〜図25を参照しながら説明する。
【0067】
2端子インピーダンス素子のシャント測定を想定した際には、誤差パラメータとしてインピーダンスのπ型接続回路(これも回路パラメータとしてはあまり一般的ではない)を採用することとし、この誤差モデルを図20に示す。図中、点線で囲まれた部分が各ポートの誤差モデルであり、誤差モデルは、基準となる測定系で被検体が測定される端子1,2と、補正の対象となる測定系で被検体が測定される端子1,2との間に接続される。変数はアドミタンスを表す。回路モデルはシリーズ測定の場合と異なるが、これらは相互変換可能である。また、DUTと表示された部分が被検体である。2端子インピーダンス素子のシャント測定であるので、被検体は2端子インピーダンス素子としてモデル化し得る。
【0068】
シリーズ測定の場合と同様、図中の誤差モデルのパラメータの値を、補正データ取得用試料の測定結果から導出することが補正の目的である。やはり、補正データ取得用試料は図に示された状態での接続のみを行うこととし、測定治具の複雑化といった課題を生じないようにする。
【0069】
さて、等価回路こそ一見異なるものの、以下のように、シリーズ接続の場合とほとんど同様の手順で誤差モデルのパラメータを決定できる。
【0070】
まず、ポート1から観察した際に、ポート2は単なる終端アドミタンスにすぎないので、図21の等価回路を得る。ここに、Yはポート2の等価アドミタンスである。
【0071】
図21のY13,Y,Yは並列接続の関係であるから、Y13とYをまとめてYe1と表示すると、等価回路は図22のように変形できる。
【0072】
シリーズ測定の場合と同様、図22の誤差モデル中の未知数は3つであるので、やはり3つの補正データ取得用試料の測定によって、これら未知数は決定することができる。シリーズ測定の場合に倣って変数名を決めると、次の数式[数8a]が成り立つ。
【数8a】

【0073】
誤差要因は、数式[数8a]から求めた次の数式[数8b]によって計算できる。
【数8b】

【0074】
e1は、数式[数8b]で求めたY11,Y12を数式[数8a]に代入すれば、次の数式[数8c]により求められるが、誤差補正の計算、すなわち後述する数式[数10]には使用されない。
【数8c】

なお、数式[数8c]は、Ym11,Yd1の代わりに、Ym12,Yd2を用いても、あるいはYm13,Yd3を用いても、求めることができる。
【0075】
実は、この数式[数8b]は、シリーズ測定の場合と実質的に同じ数式である。式中の±が異なる解のうち、どちらを選択するかは後に述べる。
【0076】
次にポート2から見た場合について、未知数の導出を説明する。
【0077】
ポート2から観察した際にはポート2は単なる終端アドミタンスにすぎないので、図23の等価回路を得る。ここに、Yはポート1の等価アドミタンスである。
【0078】
図23のY23,Y,Yは並列接続の関係であるから、Y23とYをまとめてYe2と表示すると、等価回路は図24のように変形できる。
【0079】
ポート1の場合と同様に変数名を決めると、誤差要因は数式を同様に計算でき、次の数式[数9a]が成り立つ。
【数9a】

【0080】
誤差要因は、数式[数9a]から求めた次の数式[数9b]によって計算できる。
【数9b】

【0081】
e2は、数式[数9b]で求めたY11,Y22を数式[数9a]に代入すれば、次の[数9c]により求められるが、誤差補正の計算、すなわち後述する数式[数10]には使用されない。
【数9c】

なお、数式[数9c]は、Ym21,Yd1の代わりに、Ym22,Yd2を用いても、あるいはYm23,Yd3を用いても、求めることができる。
【0082】
以上の手順でまだ得られていない誤差要因であるY13,Y23は、補正データ取得用試料をシャント接続するだけでは求めることが不可能であるが、並列接続の関係であるので、別個独立にその値を定める必要はないので、誤差モデルを図25のように描き直す。図中のYは、Y13とY23の並列接続(つまり値の和)と観念できる誤差要因である。
【0083】
図25の誤差モデルは、端子1と端子1との間にアドミタンスY12が接続され、端子1とアドミタンスY12との接続点とグランドとの間にアドミタンスY11が接続され、アドミタンスY12と端子1との接続点とグランドとの間にアドミタンスYが接続され、端子2と端子2との間にアドミタンスY22が接続され、アドミタンスY22と端子2との接続点とグランドとの間にアドミタンスY21が接続されている。
【0084】
例えばポート1から見たインピーダンスは、図23の誤差モデルにおいてポート2側が無反射終端(つまり、通常は50Ωが接続された状態)された状態を表していることから、Yは、補正データ取得用試料の値Yとこれを接続した際の測定値Yの組から求めることができる。この点でもシリーズ測定の場合と同様であり、次の数式数式[数10]でYfiを計算することができる。なお、式中のYは特性アドミタンスを示す。
【数10】

【0085】
の値は1つであるので、数式[数10]で求めたYf1、Yf2,Yf3は、同じ値を取るべきであるが、数式[数8b]及び[数9b]に示すように、Y12,Y12,Y21,Y22には、符号の異なる2つの解があり、その組み合わせによっては、Yf1,Yf2,Yf3が一致しない。
【0086】
そこで、次の表2に示す2=16通りの組み合わせパターンのそれぞれについて、上記数式[数10]のYf1,Yf2,Yf3を計算しf1,Yf2,Yf3が一致するY12,Y12,Y21,Y22の組み合わせを選択することにする。Yf1,Yf2,Yf3が一致する組み合わせは複数存在するので、そのうちのいずれを用いてもよい。
【表2】

【0087】
13とY23は並列接続してYを形成する誤差要因であるから、補正データ取得用試料が2端子インピーダンス素子のシャント接続をするものである限り、図25の誤差モデルに基づいて補正を行えば、図20基づく補正と全く同じ結果が得られる。
【0088】
次に、参考例及び実施例について、図10〜図13を参照しながら説明する。
【0089】
<参考例> シリーズ接続の場合について、図10及び図11を参照しながら説明する。シリーズ接続とは、測定機の2つのポート間に被測定物接続する方法である。
【0090】
補正の対象となる測定系では、図10(a)の全体構成図及び(b)の測定基板20の正面図に示すように、被検体である電子部品2が、測定基板20の上面に形成された伝送路22a,22b間のスリット22xをまたぐように配置され、伝送路22a,22b間に直列に接続される。測定基板20の上面及び下面の伝送路22a,22b;24の両端にSMAコネクタ56,66がはんだ付けされており、ネットワークアナライザ70と同軸ケーブル58,68を介して接続されている。ネットワークアナライザ70にはAgilent社製ネットワークアナライザ8753Dを用い、測定基板20は、特性インピーダンス50Ωで設計されている。測定基板20の長さLは50mm、幅Wは30mmである。
【0091】
基準となる測定系では、Agilent社製インピーダンスアナライザ4291に、Agilent社製測定治具16192Aを取り付けて、測定を行う。
【0092】
被検体である電子部品2は、1.0mm×0.5mmサイズの56nHのチップインダクタである。
【0093】
測定及び補正の作業を順に説明する。
【0094】
(1)3つの補正データ取得用試料を準備する。3つの補正データ取得用試料には、2.2Ω、51Ω、510Ωの抵抗を使用した。
【0095】
(2)補正データ取得用試料のインピーダンスZd1,Zd2,Zd3を、基準測定系で測定する。なお、測定ポイント数、掃引周波数範囲は基準測定機、実際に用いるネットワークアナライザで統一しておく必要がある。
【0096】
(3)実際に測定に用いる測定機(8753D)において、同軸ケーブル先端までの伝送路の校正を行う。この校正は、一般的に行っているSOLT校正でよい。
【0097】
(4)補正データ取得用試料のインピーダンスを実際に測定に用いる測定機(8753D)で測定する。その際、基準測定機と同じ測定ポイント数、掃引周波数範囲でZm11,Zm12,Zm13及びZm21,Zm22,Zm23を取得する。
【0098】
(5)基準測定機(4291)、実際に測定に用いる測定機(8753D)での測定データから補正係数を、上述した<原理1>に基づいて、パソコンで計算する。ここまでが、測定系の補正の手順となる。
【0099】
(6)実際に測定に用いる測定機(8753D)で、チップインダクタを測定する。
【0100】
(7)測定データと補正データとを用いて、補正された測定値をパソコンによって計算する。
【0101】
以上の手順により測定、補正処理を行った結果、基準測定機での測定結果と、ネットワークアナライザの測定値が一致した。
【0102】
図11に、1005サイズのチップインダクタ(52nH)について、測定、補正処理を行った結果のグラフを示す。図11(a)は、基準値、補正前の測定値及び補正後の測定値のグラフである。「基準値」は、基準測定機での測定値である。「補正前」は、実際に測定に用いる測定機での測定結果そのものであり、補正していない測定値である。「補正後」は、実際に測定に用いる測定機での測定値を補正した値(基準測定機で測定した場合の測定値の推定値)である。図11(b−1)は「補正前」の測定値のグラフ、図11(b−2)は「補正後」の測定値のグラフ、図11(c)は「基準値」のグラフである。
【0103】
図11(a)に示されたように、「基準値」と「補正後」とは、図では区別できないくらいによく一致しているが、「補正前」は「基準値」から大きくずれている。つまり、補正を行わない場合、基準測定機での測定値と大きく外れた測定値しか得られないが、補正を行うことで、基準測定機での測定値と極めて近い測定値を得ることができる。
【0104】
<実施例> シャント接続の場合について、図12及び図13を参照しながら説明する。シャント接続とは、測定機の1つのポートとグランドの間に被測定物を接続する方法である。
【0105】
補正の対象となる測定系では、図12(a)の全体構成図及び(b)の測定の正面図に示すように、被検体である電子部品2が、測定基板21の上面に形成された信号導体24と接地導体25との間に接続される。測定基板21は信号導体24及び接地導体25の両端にSMAコネクタ56,66がはんだ付けされており、ネットワークアナライザ70と同軸ケーブル58,68を介して接続されている。ネットワークアナライザ70にはAgilent社製ネットワークアナライザ8753Dを用い、測定基板20は、特性インピーダンス50Ωで設計されている。測定基板20の長さLは50mm、幅Wは30mmである。
【0106】
基準となる測定系は、Agilent社製インピーダンスアナライザ4291に、Agilent社製測定治具16192Aを取り付けて、測定を行う。
【0107】
被検体である電子部品2は、1.0mm×0.5mmサイズの50Ωのチップ抵抗である。
【0108】
次に、測定及び補正の作業を順に説明する。
【0109】
(1)3つの補正データ取得用試料を準備する。2.2Ω、51Ω、510Ωの抵抗を使用した。
【0110】
(2)補正データ取得用試料のアドミタンスYd1,Yd2,Yd3を基準測定機で測定する。なお、測定ポイント数、掃引周波数範囲は基準測定機、実際に用いるネットワークアナライザで統一しておく必要がある。
【0111】
(3)実際に測定に用いる測定機(8753D)において、同軸ケーブル先端までの伝送路の校正を行う。この校正は、一般的に行っているSOLT校正でよい。
【0112】
(4)補正データ取得用試料のアドミタンスを実際に測定に用いる測定機(8753D)で測定する。その際、基準測定機と同じ測定ポイント数、掃引周波数範囲でYm11,Ym12,Ym13及びYm21,Ym22,Ym23を取得する。
【0113】
(5)基準測定機(4291)、実際に測定に用いる測定機(8753D)での測定データから補正係数を、上述した<原理2>に基づいて、パソコンで計算する。ここまでが、補正の手順となる。
【0114】
(6)実際に測定に用いる測定機(8753D)で、チップ抵抗を測定する。
【0115】
(7)測定データと補正データを用いて、補正された測定値をパソコンによって計算する。
【0116】
以上の手順により測定、補正処理を行った結果、基準測定機での測定結果と、ネットワークアナライザの測定値が一致した。
【0117】
図13に、1005サイズのチップ抵抗(50Ω)について、測定、補正処理を行った結果のグラフに示す。図13(a)は、基準値、補正前の測定値及び補正後の測定値のグラフである。「基準値」は、基準測定機での測定値である。「補正前」は、実際に測定に用いる測定機での測定結果そのものであり、補正していない測定値である。「補正後」は、実際に測定に用いる測定機での測定値を補正した値(基準測定機で測定した場合の測定値の推定値)である。図13(b−1)は「補正前」の測定値のグラフ、図13(b−2)は「補正後」の測定値のグラフ、図13(c)は「基準値」のグラフである。
【0118】
図13(a)に示されたように、「基準値」と「補正後」とは、図では区別できないくらいによく一致しているが、「補正前」は「基準値」から大きくずれている。つまり、補正を行わない場合には、基準測定機での測定値と大きく外れた測定値しか得られないが、補正を行うことで、基準測定機での測定値と極めて近い測定値を得ることができる。
【0119】
以上に説明した本発明の実施の形態では、2端子インピーダンス素子を測定治具やプローブに対しシャント接続し測定する2ポート測定系において、各ポートの電気特性をπ形(図20)等価回路で表し、通常可逆回路では6つの誤差でモデル化されるところを5つの誤差に簡略化する。そうすることで、測定治具やプローブの誤差を導出する際、インピーダンスアナライザで値付けされた3つの2端子インピーダンス素子(以下、標準試料)を用いて、シャント接続では信号線を切断することなしに、5つの誤差の値を導出することができる。
【0120】
上記誤差モデルを用いた場合、3つの標準試料の測定値から導出される測定治具やプローブの各誤差のうち、4つは符号の異なる2つの解が存在することになる。そのため、どの4つの誤差の符号の組み合わせが正しいのかは、符号の各組み合わせの場合において残り1つの誤差が3つの標準試料それぞれから導出される3つの値が同じになることを確認していくことで決定される。
【0121】
<まとめ> 以上に説明した誤差補正方法を用いると、2端子インピーダンス部品について、補正の対象となる測定系が実測時と同じ状態のままで、校正作業を行うことができる。そのため、実質的に量産デバイス自体又は量産デバイスと略同じ寸法・形状の試料しか測定端子部に接続できない自動特性選別機についても、測定系の誤差補正を行うことができる。
【0122】
なお、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、種々の変更を加えて実施することが可能である。
【0123】
例えば、本発明は、測定基板を用いる測定系に限らず、測定ピンを用いる測定系などにも適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2端子インピーダンス部品である電子部品を実測測定系で測定した結果から、当該電子部品を基準測定系で測定したならば得られるであろう当該電子部品の高周波特性の推定値を算出する、電子部品の高周波特性誤差補正方法であって、
前記基準測定系で値付けされている、高周波特性の異なる少なくとも3つの第1の補正データ取得用試料を用意する第1のステップと、
少なくとも3つの前記第1の補正データ取得用試料、又は前記第1の補正データ取得用試料と同等の高周波特性を有すると見なせる少なくとも3つの第2の補正データ取得用試料を、前記実測測定系で測定する第2のステップと、
前記第1のステップで用意された前記第1の補正データ取得用試料の前記基準測定系での値付けデータと前記第2のステップにおいて前記実測測定系で測定された前記第1の補正データ取得用試料又は前記第2の補正データ取得用試料の測定データとから、前記実測測定系で測定した測定値と前記基準測定系で測定した測定値とを、伝送路の誤差補正係数を用いて関連付ける数式を決定する第3のステップと、
任意の電子部品を前記実測測定系で測定する第4のステップと、
前記第4のステップで得られた測定結果に基づいて、前記第3のステップで決定した前記数式を用いて、当該電子部品を前記基準測定系で測定したならば得られるであろう当該電子部品の高周波特性の推定値を算出する第5のステップと、
を備え、
前記実測測定系において、前記第1の補正データ取得用試料及び前記電子部品が、又は、前記第1の補正データ取得用試料、前記第2の補正データ取得用試料及び前記電子部品が、シャント接続され、
前記数式は、前記基準測定系で電子部品を測定したときのアドミタンスYが測定される端子1,2と、前記実測測定系で電子部品を測定したときのアドミタンスYが測定される端子1,2との間に接続される誤差モデルに基づいて導出され、
前記端子1から見たアドミタンスを導出するとき、前記誤差モデルは、前記端子1と前記端子1との間にアドミタンスY12が接続され、前記端子1と前記アドミタンスY12との接続点とグランドとの間にアドミタンスY11が接続され、前記アドミタンスY12と前記端子1との接続点とグランドとの間にアドミタンスYが接続され、前記端子2と前記端子2との間にアドミタンスY22が接続され、前記アドミタンスY22と前記端子2との接続点とグランドとの間にアドミタンスY21が接続され、
前記アドミタンスY,Y11,Y12,Y21,Y22は、
前記第1のステップで少なくとも3つの前記第1の補正データ取得用試料のアドミタンスを測定した結果Yd1,Yd2,Yd3と、
前記第2のステップにおいて、少なくとも3つの前記第1の補正データ取得用試料又は前記第2の補正データ取得用試料について、前記端子1のアドミタンスを測定した結果Ym11,Ym12,Ym13、及び前記端子2のアドミタンスを測定した結果Ym21,Ym22,Ym23とを用い、
次の数式[数3a]と、
【数3a】

次の数式[数3b]と、
【数3b】

から得られる16通りのY11,Y12,Y21,Y22の組み合わせのうち、
次の数式[数4]について、
【数4】

f1,Yf2,Yf3が一致する少なくとも1つの組み合わせを用いて、決定されることを特徴とする、電子部品の高周波特性誤差補正方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電子部品の高周波特性誤差補正方法の少なくとも前記第5のステップに用いる電子部品の高周波特性誤差補正装置であって、
前記第3のステップにおいて決定された前記数式と、前記第4のステップにおいて得られた任意の電子部品を前記実測測定系で測定した測定値とを記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された前記数式を用いて、前記記憶部に記憶された前記測定値を補正する演算を行い、当該電子部品を前記基準測定系で測定したならば得られるであろう当該電子部品の高周波特性の推定値を算出する演算部と、
を備えたことを特徴とする、電子部品の高周波特性誤差補正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2012−181201(P2012−181201A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−104184(P2012−104184)
【出願日】平成24年4月27日(2012.4.27)
【分割の表示】特願2008−547039(P2008−547039)の分割
【原出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】