説明

電子部品及びその製造方法

【課題】コイルの断線の発生を低減できる電子部品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】複数のコイル導体層18がビアホール導体b1〜b6により接続されてなるコイルを備えている電子部品の製造方法。複数の絶縁体層19を準備する。絶縁体層19にビアホール導体b1〜b6を形成する。絶縁体層19bの主面上に、z軸方向の正方向側に積層される絶縁体層19aに形成されたビアホール導体b1が接続される接続位置P1の周囲の少なくとも一部において、接続位置P1よりもz軸方向の正方向側に突出する壁部Wを有するコイル導体層18bを形成する。絶縁体層19b上であって、コイル導体層18bが形成された領域以外の領域に、x軸方向の正方向側に向かう方向に絶縁ペーストをスクリーン印刷により塗布していく。絶縁体層19を積層して積層体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品及びその製造方法に関し、より特定的には、コイルを内蔵している電子部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電子部品及びその製造方法としては、例えば、特許文献1に記載の積層型コイル部品が知られている。該積層型コイル部品では、磁性体グリーンシート上にコイルパターンを形成し、磁性体グリーンシートのコイルパターン以外の領域に磁性体材料を塗布している。そして、磁性体グリーンシートを積層して未焼成の積層体を形成し、その後、未焼成の積層体を焼成している。
【0003】
特許文献1に記載の積層型コイル部品では、以下に説明するように、層間剥離(デラミネーション)の発生が抑制される。磁性体グリーンシートを積層して得られる未焼成の積層体においてコイルパターン以外の領域に磁性体材料を塗布しない場合には、コイルパターンの厚みの分だけ、コイルパターンが形成された領域(以下、コイルパターン形成領域と称す)の積層体の積層方向の厚みは、コイルパターン以外の領域(以下、コイルパターン未形成領域と称す)の積層体の積層方向の厚みより大きくなる。この場合、積層体の圧着時に、コイルパターン形成領域には十分に大きな圧力が加わる一方、コイルパターン未形成領域には十分に大きな圧力が加わらない。その結果、積層体において、圧着不足による層間剥離が発生するおそれがある。
【0004】
そこで、特許文献1に記載の積層型コイル部品では、磁性体グリーンシートのコイルパターン未形成領域に磁性体材料を塗布している。これにより、未焼成の積層体において、コイルパターン形成領域の積層体の積層方向の厚みと、コイルパターン未形成領域の積層体の積層方向の厚みとの差が小さくなる。そのため、圧着時において、コイルパターン形成領域にかかる圧力と、コイルパターン未形成領域にかかる圧力との差が小さくなる。その結果、積層体において、圧着不足による層間剥離(デラミネーション)の発生が低減される。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の積層型コイル部品では、以下に説明するように、コイルに断線が発生するおそれがある。図8は、磁性体グリーンシート500上に磁性体材料504を塗布する際の工程断面図である。
【0006】
図8には、磁性体グリーンシート500、コイルパターン502、磁性体材料504、スクリーン板506及びスキージ508が記載されている。磁性体材料504は、前記の通り、コイルパターン502以外の領域(コイルパターン未形成領域)に塗布される。よって、コイルパターン502以外の領域に開口を有するスクリーン板506を介して、スキージ508により磁性体材料504が塗布される。
【0007】
ここで、図8に示すように、コイルパターン502の上面は、コイルパターン502がスクリーン印刷により形成されるため、線幅方向の中央部が上側に突出するように緩やかに湾曲している。そのため、コイルパターン502の上面とスクリーン板506との間には、隙間Gが形成されてしまう。この状態で磁性体材料504の塗布が行われると、隙間Gに磁性体材料504が入り込んでしまう。積層型コイル部品では、積層方向に隣り合うコイルパターン502同士は、磁性体グリーンシート500を貫通するビアホール導体(図示せず)により接続されている。そのため、隙間Gに入り込んだ磁性体材料504は、ビアホール導体とコイルパターン502との接続を妨げてしまう。すなわち、特許文献1に記載の積層型コイル部品では、コイルに断線が発生するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−76953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の目的は、コイルの断線の発生を低減できる電子部品及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の形態に係る電子部品の製造方法は、複数のコイル導体層がビアホール導体により接続されてなるコイルを備えている電子部品の製造方法であって、複数の絶縁体層を準備する工程と、前記絶縁体層に前記ビアホール導体を形成する工程と、前記絶縁体層のそれぞれの主面上に、積層方向の上側に積層される前記絶縁体層に形成された前記ビアホール導体が接続される接続位置の周囲の少なくとも一部において、該接続位置よりも積層方向の上側に突出する壁部を有する前記コイル導体層を形成する工程と、前記複数の絶縁体層上であって、前記コイル導体層が形成された領域以外の領域に、前記壁部から前記接続位置に向う方向に絶縁ペーストをスクリーン印刷により塗布していく工程と、前記絶縁体層を積層して積層体を得る工程と、を備えていること、を特徴とする。
【0011】
本発明の第2の形態に係る電子部品は、複数の第1の絶縁体層及び複数の第2の絶縁体層が積層されてなる積層体と、前記積層体に内蔵され、かつ、ビアホール導体と複数のコイル導体層とが接続されることにより構成されているコイルと、を備え、前記ビアホール導体は、前記第1の絶縁体層を貫通しており、前記コイル導体層は、前記第1の絶縁体層の主面上に設けられており、かつ、積層方向の上側に積層されている前記第1の絶縁体層に設けられている前記ビアホール導体が接続されている接続位置の周囲の少なくとも一部において、該接続位置よりも積層方向の上側に突出する壁部を有し、前記第2の絶縁体層は、前記第1の絶縁体層の主面上であって、前記コイル導体層が形成された領域以外の領域に設けられていること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、コイルの断線の発生を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る電子部品の斜視図である。
【図2】図1の電子部品の積層体の分解斜視図である。
【図3】図2の積層体の絶縁体層を拡大した斜視図である。
【図4】コイル導体層が形成される際に用いられるスクリーン板を示した図である。
【図5】絶縁体層となるべきセラミックグリーンシートが形成される際の工程断面図である。
【図6】第1の変形例に係るコイル導体層が形成された絶縁体層の斜視図である。
【図7】第2の変形例に係るコイル導体層が形成された絶縁体層の斜視図である。
【図8】磁性体グリーンシート上に磁性体材料を塗布する際の工程断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態に係る電子部品及びその製造方法について説明する。
【0015】
(電子部品の構成)
以下に、本発明の一実施形態に係る電子部品の構成について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る電子部品10の斜視図である。図2は、図1の電子部品10の積層体12の分解斜視図である。以下、電子部品10の積層方向をz軸方向と定義し、電子部品10の長辺に沿った方向をx軸方向と定義し、電子部品10の短辺に沿った方向をy軸方向と定義する。x軸、y軸及びz軸は互いに直交している。
【0016】
電子部品10は、図1及び図2に示すように、積層体12及び外部電極14(14a,14b)、引き出し導体20(20a,20b)及びコイルLを備えている。積層体12は、直方体状をなしており、図2に示すように、コイルL及び引き出し導体20を内蔵している。コイルLは、コイル導体層18(18a〜18g)とビアホール導体b1〜b6とが接続されることにより構成されている。外部電極14a,14bはそれぞれ、図1及び図2に示すように、引き出し導体20a,20bを介してコイルLに電気的に接続されており、x軸方向の両端に位置する積層体12の2つの側面に設けられている。
【0017】
積層体12は、図2に示すように、絶縁体層15(15a〜15e),17(17a〜17g),19(19a〜19g)が積層されることにより構成されている。以下では、絶縁体層15,17,19において、z軸方向の正方向側の主面を表面と称し、z軸方向の負方向側の主面を裏面と称す。
【0018】
絶縁体層15a〜15eはそれぞれ、長方形状をなしており、Ni−Cu−Zn系フェライトからなる1枚のシート状の磁性体層である。絶縁体層15a〜15cは、コイル導体層18a〜18gが設けられている絶縁体層19a〜19gよりもz軸方向の正方向側においてこの順に積層され、外層を構成している。また、絶縁体層15d,15eは、コイル導体層18a〜18gが設けられている絶縁体層15a〜15cよりもz軸方向の負方向側にこの順に積層され、外層を構成している。
【0019】
絶縁体層19a〜19gは、図2に示すように、長方形状をなしており、Ni−Cu−Zn系フェライトからなる1枚のシート状の磁性体層である。
【0020】
コイル導体層18は、Agからなる導電性材料からなり、螺旋状のコイルLの一部を構成している。具体的には、コイル導体層18a〜18gはそれぞれ、図2に示すように、絶縁体層19a〜19gの表面上に設けられ、3/4ターンの長さを有する線状導体である。更に、コイル導体層18a〜18gは、z軸方向から平面視したときに、互いに重なり合うことにより長方形状の環状の領域を形成している。したがって、コイル導体層18a〜18gは、長方形の一辺が切り欠かれたコ字型をなしている。以下では、z軸方向の正方向側から平面視したときに、コイル導体層18a〜18gの時計回りの上流側の端部をコイル導体層18a〜18gの上流端と呼び、コイル導体層18a〜18gの時計回りの下流側の端部をコイル導体層18a〜18gの下流端と呼ぶ。
【0021】
ビアホール導体b1〜b6は、図2に示すように、絶縁体層19a〜19fをz軸方向に貫通しており、z軸方向に隣り合っているコイル導体層18a〜18gを接続している。具体的には、ビアホール導体b1は、コイル導体層18aの下流端とコイル導体層18bの上流端とを接続している。ビアホール導体b2は、コイル導体層18bの下流端とコイル導体層18cの上流端とを接続している。ビアホール導体b3は、コイル導体層18cの下流端とコイル導体層18dの上流端とを接続している。ビアホール導体b4は、コイル導体層18dの下流端とコイル導体層18eの上流端とを接続している。ビアホール導体b5は、コイル導体層18eの下流端とコイル導体層18fの上流端とを接続している。ビアホール導体b6は、コイル導体層18fの下流端とコイル導体層18gの上流端とを接続している。以上のように、コイル導体層18a〜18g及びビアホール導体b1〜b6は、z軸方向に延在するコイル軸を有する螺旋状のコイルLを構成している。そして、コイルLは、z軸方向から平面視したときに、長方形状の環状の領域において旋廻している。
【0022】
引き出し導体20aは、絶縁体層19a上に設けられており、コイル導体層18aの上流端に接続されていると共に、絶縁体層19aのx軸方向の負方向側の短辺に引き出されている。すなわち、引き出し導体20aは、コイルLのz軸方向の正方向側に位置する端部と外部電極14aとを電気的に接続している。
【0023】
引き出し導体20bは、絶縁体層19g上に設けられており、コイル導体層18gの下流端に接続されていると共に、絶縁体層19gのx軸方向の正方向側の短辺に引き出されている。すなわち、引き出し導体20bは、コイルLのz軸方向の負方向側に位置する端部と外部電極14bとを電気的に接続している。
【0024】
絶縁体層17a〜17gはそれぞれ、図2に示すように、絶縁体層19a〜19gの表面上にNi−Cu−Zn系フェライトペースト(絶縁ペースト)が塗布されることにより形成された絶縁体層である。具体的には、絶縁体層17a〜17gはそれぞれ、絶縁体層19a〜19g上においてコイル導体層18a〜18gが設けられている領域以外の領域に設けられている。これにより、絶縁体層19a〜19gの表面は、絶縁体層17a〜17g及びコイル導体層18a〜18gにより覆い隠されている。
【0025】
以上のような絶縁体層15a,15b,15c,17a,19a,17b、19b、17c,19c,17d,19d,17e,19e,17f,19f,17g,19g,15d,15eが、この順にz軸方向の正方向側から負方向側へと積層されることにより、積層体12が構成されている。このとき、絶縁体層17と絶縁体層19とは、z軸方向に交互に並ぶように積層されている。そして、積層体12の側面には、外部電極14a,14bが設けられている。
【0026】
ところで、電子部品10は、コイルLの断線の発生を低減するための構造を有している。そこで、以下にかかる構成について説明する。図3は、図2の積層体12の絶縁体層19a,19bを拡大した斜視図である。
【0027】
コイル導体層18は、図3に示すように、壁部Wを有している。以下に、コイル導体層18bの壁部Wを例にとって説明する。壁部Wは、z軸方向から平面視したときに、コイル導体層18bのz軸方向の正方向側に積層されている絶縁体層19aに設けられているビアホール導体b1が接続されている接続位置P1の周囲の少なくとも一部において、該接続位置P1よりもz軸方向の正方向側に突出している。本実施形態では、接続位置P1は、コイル導体層18bの上流端に位置している。そして、壁部Wは、コイル導体層18bの上流端からコイル導体層18bが延在している方向(すなわち、y軸方向の正方向)を除く三方において接続位置P1を囲んでいる。
【0028】
具体的には、壁部Wは、z軸方向から平面視したときに、y軸方向の正方向側に開口を有するコ字型をなし、壁部W1〜W3により構成されている。壁部W1は、z軸方向から平面視したときに、接続位置P1よりもx軸方向の負方向側において、コイル導体層18bの表面からz軸方向の正方向側に突出している。壁部W2は、z軸方向から平面視したときに、接続位置P1よりもy軸方向の負方向側において、コイル導体層18bの表面からz軸方向の正方向側に突出している。壁部W3は、z軸方向から平面視したときに、接続位置P1よりもx軸方向の正方向側において、コイル導体層18bの表面からz軸方向の正方向側に突出している。
【0029】
なお、図示はしないが、以下に、コイル導体層18c〜18gの壁部Wの構成についても図2を参照しながら簡単に説明する。コイル導体層18cの上流端には、ビアホール導体b2が接続される接続位置P2が存在している。コイル導体層18cの壁部Wは、z軸方向から平面視したときに、接続位置P2の周囲の一部を囲んでおり、具体的には、x軸方向の負方向側に開口を有するコ字型をなしている。コイル導体層18dの上流端には、ビアホール導体b3が接続される接続位置P3が存在している。コイル導体層18dの壁部Wは、z軸方向から平面視したときに、接続位置P3の周囲の一部を囲んでおり、具体的には、y軸方向の負方向側に開口を有するコ字型をなしている。コイル導体層18eの上流端には、ビアホール導体b4が接続される接続位置P4が存在している。コイル導体層18eの壁部Wは、z軸方向から平面視したときに、接続位置P4の周囲の一部を囲んでおり、具体的には、x軸方向の正方向側に開口を有するコ字型をなしている。コイル導体層18fの上流端には、ビアホール導体b5が接続される接続位置P5が存在している。コイル導体層18fの壁部Wは、z軸方向から平面視したときに、接続位置P5の周囲の一部を囲んでおり、具体的には、y軸方向の正方向側に開口を有するコ字型をなしている。コイル導体層18gの上流端には、ビアホール導体b6が接続される接続位置P6が存在している。コイル導体層18gの壁部Wは、z軸方向から平面視したときに、接続位置P6の周囲の一部を囲んでおり、具体的には、x軸方向の負方向側に開口を有するコ字型をなしている。
【0030】
(電子部品の製造方法)
以下に、電子部品10の製造方法について図2ないし図5を参照しながら説明する。なお、以下では、複数の電子部品10を同時に作成する際の電子部品10の製造方法について説明する。図4は、コイル導体層18bが形成される際に用いられるスクリーン板Sを示した図である。図5は、絶縁体層17bとなるべきセラミックグリーンシートが形成される際の工程断面図である。
【0031】
まず、図2の絶縁体層15,19となるべきセラミックグリーンシートを準備する。具体的には、酸化第二鉄(Fe23)、酸化亜鉛(ZnO)及び酸化銅(CuO)を所定の比率で秤量したそれぞれの材料を原材料としてボールミルに投入し、湿式調合を行う。得られた混合物を乾燥してから粉砕し、得られた粉末を800℃で1時間仮焼する。得られた仮焼粉末をボールミルにて湿式粉砕した後、乾燥してから解砕して、フェライトセラミック粉末を得る。
【0032】
このフェライトセラミック粉末に対して結合剤(酢酸ビニル、水溶性アクリル等)と可塑剤、湿潤材、分散剤を加えてボールミルで混合を行い、その後、減圧により脱泡を行う。得られたセラミックスラリーをドクターブレード法により、キャリアシート上にシート状に形成して乾燥させ、絶縁体層15,19となるべきセラミックグリーンシートを作製する。
【0033】
次に、図2の絶縁体層17となるべきセラミック層のフェライトペースト(絶縁ペースト)を準備する。具体的には、酸化第二鉄(Fe23)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニッケル(NiO)及び酸化銅(CuO)を所定の比率で秤量したそれぞれの材料を原材料としてボールミルに投入し、湿式調合を行う。得られた混合物を乾燥してから粉砕し、得られた粉末を800℃で1時間仮焼する。得られた仮焼粉末をボールミルにて湿式粉砕した後、乾燥してから解砕して、フェライトセラミック粉末を得る。
【0034】
このフェライトセラミック粉末に対して結合剤(酢酸ビニル、水溶性アクリル等)と可塑剤、湿潤材、分散剤を加えてボールミルで混合を行い、その後、減圧により脱泡を行って、絶縁体層17となるべきセラミックグリーン層のフェライトペーストを得る。
【0035】
次に、図2に示すように、絶縁体層19a〜19fとなるべきセラミックグリーンシートのそれぞれに、ビアホール導体b1〜b6を形成する。具体的には、絶縁体層19a〜19fとなるべきセラミックグリーンシートにレーザビームを照射してビアホールを形成する。次に、このビアホールに対して、Ag,Pd,Cu,Auやこれらの合金などの導電性ペーストを印刷塗布などの方法により充填する。
【0036】
次に、図2に示すように、絶縁体層19aとなるべきセラミックグリーンシートの表面上に、コイル導体層18aを形成する。具体的には、絶縁体層19aとなるべきセラミックグリーンシートの表面上に、Ag,Pd,Cu,Auやこれらの合金などを主成分とする導電性ペーストをスクリーン印刷法やフォトリソグラフィ法などの方法で塗布することにより、コイル導体層18aを形成する。
【0037】
次に、図2に示すように、絶縁体層19b〜19gとなるべきセラミックグリーンシートのそれぞれの表面上に、壁部Wを有するコイル導体層18b〜18gを形成する。以下に、コイル導体層18bの形成を例にとって説明する。コイル導体層18bの形成は、例えば、図4に示すスクリーン板Sを用いたスクリーン印刷法により行われる。スクリーン板Sは、図4に示すように、コイル導体層18bと一致する形状の網目状の開口Rを有している。ただし、スクリーン板Sの開口Rにおいて、壁部Wに対応する開口R1の開口率は壁部W以外の部分に対応する開口R2の開口率よりも高い。すなわち、開口R1は、網目状をなしておらず、コ字型の孔がスクリーン板に設けられることにより構成されている。一方、開口R2は、網目状をなしており、小さな孔がスクリーン板Sに無数に設けられることにより構成されている。
【0038】
以上のようなスクリーン板Sを用いてスクリーン印刷を行うと、開口率が相対的に高い開口R1においてコイル導体層18bが相対的に厚く形成され、開口率が相対的に低い開口R2においてコイル導体層18bが相対的に薄く形成される。これにより、開口R1には、接続位置P1よりもz軸方向の正方向側に突出し、かつ、z軸方向から平面視したときに、コイル導体層18bの上流端から延在している方向(y軸方向の正方向)を除く三方において接続位置P1を囲む壁部Wが形成されるようになる。
【0039】
なお、コイル導体層18c〜18gについても、コイル導体層18bと同様の工程により作製される。なお、コイル導体層18a〜18gを形成する工程とビアホールに対して導電性ペーストを充填する工程とは、同じ工程において行われてもよい。
【0040】
次に、図2に示すように、絶縁体層19aとなるべきセラミックグリーンシートの表面上であって、コイル導体層18aが形成された領域以外の領域に絶縁体層17aとなるべきセラミックグリーン層を形成する。具体的には、フェライトペーストをスクリーン印刷法やフォトリソグラフィ法などの方法で塗布することにより、絶縁体層17aとなるべきセラミックグリーン層を形成する。
【0041】
次に、図2に示すように、絶縁体層19b〜19gとなるべきセラミックグリーンシートの表面上であって、コイル導体層18b〜18gが形成された領域以外の領域に絶縁体層17b〜17gとなるべきセラミックグリーン層を形成する。以下に、絶縁体層17bとなるべきセラミックグリーンシートの形成を例にとって説明する。
【0042】
本実施形態では、絶縁体層17bとなるべきセラミックグリーンシートは、スクリーン印刷法により形成される。具体的には、図5に示すように、コイル導体層18bが設けられている領域R11が覆われ、かつ、コイル導体層18b以外の領域R12が開口しているスクリーン板51を準備する。次に、z軸方向の正方向側から平面視したときに、領域R11がコイル導体層18bと重なるように、絶縁体層19bとなるべきセラミックグリーンシート上にスクリーン板51をセットする。この際、スクリーン板51の裏面と壁部W1〜W3との間に隙間ができないように、スクリーン板51と壁部W1〜W3とを密着させる。
【0043】
次に、フェライトペースト52が盛られたスキージ50をスクリーン板51上で移動させて、領域R12に対してフェライトペースト52を塗布する。この際、壁部W1から接続位置P1に向う方向(すなわち、x軸方向の正方向)にスキージ50を移動させながらフェライトペースト52を塗布していく。これにより、壁部W1〜W3は、フェライトペースト52がコイル導体層18bの接続位置P1上に塗布されることを防いでいる。以上の工程により、絶縁体層17bとなるべきセラミックグリーン層が形成される。
【0044】
なお、絶縁体層17c〜17gとなるべきセラミックグリーン層も、絶縁体層17bとなるべきセラミックグリーン層と同じ工程により形成される。ただし、スキージ50の移動方向に留意する必要がある。より詳細には、絶縁体層17c〜17gとなるべきセラミックグリーン層の形成の際には、壁部Wから接続位置P2〜P6へと向う方向にスキージ50を移動させる必要があり、壁部Wが設けられていない方向から接続位置P2〜P6へと向ってペーストを塗布してはならない。すなわち、絶縁体層17cとなるべきセラミックグリーン層の形成の際には、壁部Wが接続位置P2のx軸方向の負方向側に設けられていないので、x軸方向の負方向、y軸方向の正方向又は負方向のいずれかに向ってスキージ50を移動させる。絶縁体層17dとなるべきセラミックグリーン層の形成の際には、壁部Wが接続位置P3のy軸方向の負方向側に設けられていないので、x軸方向の正方向又は負方向、y軸方向の負方向のいずれかに向ってスキージ50を移動させる。絶縁体層17eとなるべきセラミックグリーン層の形成の際には、壁部Wが接続位置P4のx軸方向の正方向側に設けられていないので、x軸方向の正方向、y軸方向の正方向又は負方向のいずれかに向ってスキージ50を移動させる。絶縁体層17fとなるべきセラミックグリーン層の形成の際には、壁部Wが接続位置P5のy軸方向の正方向側に設けられていないので、x軸方向の正方向又は負方向、y軸方向の正方向のいずれかに向ってスキージ50を移動させる。絶縁体層17gとなるべきセラミックグリーン層の形成の際には、壁部Wが接続位置P6のx軸方向の負方向側に設けられていないので、x軸方向の負方向、y軸方向の正方向又は負方向のいずれかに向ってスキージ50を移動させる。
【0045】
次に、図2に示すように、絶縁体層15a〜15cとなるべきセラミックグリーンシート、絶縁体層19a〜19gとなるべきセラミックグリーンシート、及び、絶縁体層15d,15eとなるべきセラミックグリーンシートを、z軸方向の正方向側から負方向側に向ってこの順に並ぶように積層して、未焼成のマザー積層体を得る。具体的には、絶縁体層15e,15d,19g、19f,19e,19d,19c,19b,19a,15c,15b,15aとなるべきセラミックグリーンシートを、この順にz軸方向の負方向側から正方向側へと並ぶように、1枚ずつ積層及び仮圧着を行う。この後、未焼成のマザー積層体を静水圧プレスにより加圧して本圧着を行う。静水圧プレスの条件は、例えば、100MPaの圧力及び45℃の温度である。
【0046】
次に、マザー積層体をカット刃により所定寸法(2.5mm×2.0mm×1.0mm)の積層体12にカットする。これにより未焼成の積層体12が得られる。この未焼成の積層体12に、脱バインダー処理及び焼成を行う。脱バインダー処理は、例えば、低酸素雰囲気中において500℃で2時間の条件で行われる。焼成は、例えば、900℃で2.5時間の条件で行われる。
【0047】
以上の工程により、焼成された積層体12が得られる。積層体12にバレル加工を施して、面取りを行う。その後、積層体12の表面に、例えば、浸漬法等の方法により主成分が銀である電極ペーストを塗布及び焼き付けすることにより、外部電極14a,14bとなるべき銀電極を形成する。銀電極の焼き付けは、800℃で1時間行われる。
【0048】
最後に、銀電極の表面に、Niめっき/Snめっきを施すことにより、外部電極14a,14bを形成する。以上の工程を経て、図1に示すような電子部品10が完成する。
【0049】
(効果)
以上の電子部品10及びその製造方法によれば、以下に説明するように、コイルLの断線の発生を低減できる。より詳細には、特許文献1に記載の積層型コイル部品では、図8に示すように、コイルパターン502の上面は、コイルパターン502がスクリーン印刷により形成されるため、線幅方向の中央部が上側に突出するように緩やかに湾曲している。そのため、コイルパターン502の上面とスクリーン板506との間には、隙間Gが形成されてしまう。この状態で磁性体材料504の塗布が行われると、隙間Gに磁性体材料504が入り込んでしまう。そのため、隙間Gに入り込んだ磁性体材料504は、ビアホール導体とコイルパターン502との接続を妨げてしまう。すなわち、特許文献1に記載の積層型コイル部品では、コイルに断線が発生するおそれがある。
【0050】
そこで、電子部品10及びその製造方法では、z軸方向から平面視したときに、z軸方向の正方向側に積層される絶縁体層19に形成されたビアホール導体b1〜b6が接続される接続位置P1〜P6の周囲の少なくとも一部において、接続位置P1〜P6よりもz軸方向の正方向側に突出する壁部Wをコイル導体層18b〜18gに形成している。更に、絶縁体層19b〜19g上であって、コイル導体層18b〜18gが形成された領域以外の領域に、壁部Wから接続位置P1〜P6に向う方向にスキージ50を移動させてフェライトペーストをスクリーン印刷により塗布している。これにより、図5に示すように、壁部Wが、フェライトペーストが接続位置P1〜P6上に塗布されることを防ぐようになる。その結果、電子部品10及びその製造方法では、コイルLに断線が発生することを低減できる。
【0051】
また、電子部品10及びその製造方法では、以下に説明するように、コイルLに断線が発生することをより効果的に低減できる。以下に、図3に示すコイル導体層18aを例にとって説明する。壁部Wは、図3に示すように、三方において接続位置P1を囲んでいる。一方、壁部Wが形成されていない部分には、コイル導体層18aが存在している。よって、接続位置P1の周囲の三方から接続位置P1上に侵入しようとするフェライトペーストは、壁部Wにより妨げられ、残りの一方向から接続位置P1上に侵入しようとするフェライトペーストは、コイル導体層18aにより妨げられる。その結果、電子部品10及びその製造方法では、コイルLに断線が発生することをより効果的に低減できる。ただし、このことは、z軸方向から平面視したときに、接続位置P1〜P6の周囲を壁部Wが完全に囲っていることを妨げない。
【0052】
(変形例)
以下に、第1の変形例に係るコイル導体層について説明する。図6は、第1の変形例に係るコイル導体層118bが形成された絶縁体層19bの斜視図である。
【0053】
コイル導体層118bとコイル導体層18bとの相違点は、壁部Wの形状である。具体的には、コイル導体層118bでは、壁部Wは、z軸方向から平面視したときに、コイル導体層118bの外縁に沿って設けられている。すなわち、z軸方向から平面視したときに、コイル導体層118bの外縁に沿ってスクリーン印刷により壁部Wを形成している。これにより、コイル導体層118bの表面にフェライトペーストが塗布されることが低減される。そのため、コイルLに断線が発生することを低減できる。更に、コイル導体層118b上にフェライトペーストが塗布されることにより、コイル導体層118aとコイル導体層118bとの間隔が、本来の間隔からずれることが抑制されるようになる。その結果、コイルLのインダクタンス値のばらつきを低減できる。なお、コイル導体層118bを例にとって説明を行ったが、コイル導体層118c〜118gについても、同様の構成の壁部Wが設けられていてもよい。
【0054】
以下に、第2の変形例に係るコイル導体層について説明する。図7は、第2の変形例に係るコイル導体層218bが形成された絶縁体層19bの斜視図である。
【0055】
コイル導体層218bとコイル導体層18bとの相違点は、コイル導体層218bに壁部W2,W3が設けられていない点である。絶縁体層17bとなるべきセラミックグリーン層の形成時には、図5に示すように、スキージ50をx軸方向の正方向側に向って移動させている。よって、接続位置P1よりもスキージ50の移動方向の上流側に少なくとも壁部W1が設けられていれば、フェライトペースト52が接続位置P1に大量に塗布されることを防止できる。
【0056】
なお、コイル導体層18b〜18gは、1度のスクリーン印刷によって形成されるものとしたが、2度のスクリーン印刷によって形成されてもよい。すなわち、コイル導体層18b〜18gの内、壁部Wを除く部分を1回目のスクリーン印刷により形成し、壁部Wを2回目のスクリーン印刷により形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、電子部品及びその製造方法に有用であり、特に、コイルの断線の発生を低減できる点において優れている。
【符号の説明】
【0058】
L コイル
P1〜P6 接続位置
R,R1,R2 開口
S,51 スクリーン板
W,W1〜W3 壁部
b1〜b6 ビアホール導体
10 電子部品
12 積層体
14a,14b 外部電極
15a〜15e,17a〜17g,19a〜19g 絶縁体層
18a〜18g,118a〜118g,218b コイル導体層
20a,20b 引き出し導体
50 スキージ
52 フェライトペースト


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のコイル導体層がビアホール導体により接続されてなるコイルを備えている電子部品の製造方法であって、
複数の絶縁体層を準備する工程と、
前記絶縁体層に前記ビアホール導体を形成する工程と、
前記絶縁体層のそれぞれの主面上に、積層方向の上側に積層される前記絶縁体層に形成された前記ビアホール導体が接続される接続位置の周囲の少なくとも一部において、該接続位置よりも積層方向の上側に突出する壁部を有する前記コイル導体層を形成する工程と、
前記複数の絶縁体層上であって、前記コイル導体層が形成された領域以外の領域に、前記壁部から前記接続位置に向かう方向に絶縁ペーストをスクリーン印刷により塗布していく工程と、
前記絶縁体層を積層して積層体を得る工程と、
を備えていること、
を特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項2】
前記接続位置は、線状の前記コイル導体層の端部に位置し、
前記コイル導体層を形成する工程では、該コイル導体層の端部から延在している方向を除く三方において前記接続位置を囲むように前記壁部を形成すること、
を特徴とする請求項1に記載の電子部品の製造方法。
【請求項3】
前記コイル導体層を形成する工程では、積層方向から平面視したときに、線状の前記コイル導体層の外縁に沿って前記壁部を形成すること、
を特徴とする請求項1に記載の電子部品の製造方法。
【請求項4】
前記コイル導体層を形成する工程では、該コイル導体層と一致する形状の網目状の開口を有するスクリーン板を用いたスクリーン印刷により該コイル導体層を形成し、
前記スクリーン板の前記開口において、前記壁部に対応する開口の開口率は、該壁部以外の部分に対応する開口の開口率よりも高いこと、
を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の電子部品の製造方法。
【請求項5】
複数の第1の絶縁体層及び複数の第2の絶縁体層が積層されてなる積層体と、
前記積層体に内蔵され、かつ、ビアホール導体と複数のコイル導体層とが接続されることにより構成されているコイルと、
を備え、
前記ビアホール導体は、前記第1の絶縁体層を貫通しており、
前記コイル導体層は、前記第1の絶縁体層の主面上に設けられており、かつ、積層方向の上側に積層されている前記第1の絶縁体層に設けられている前記ビアホール導体が接続されている接続位置の周囲の少なくとも一部において、該接続位置よりも積層方向の上側に突出する壁部を有し、
前記第2の絶縁体層は、前記第1の絶縁体層の主面上であって、前記コイル導体層が形成された領域以外の領域に設けられていること、
を特徴とする電子部品。
【請求項6】
前記接続位置は、線状の前記コイル導体層の端部に位置し、
前記壁部は、前記コイル導体層の端部から延在している方向を除く三方において前記接続位置を囲んでいること、
を特徴とする請求項5に記載の電子部品。
【請求項7】
前記壁部は、積層方向から平面視したときに、線状の前記コイル導体層の外縁に沿って設けられていること、
を特徴とする請求項5に記載の電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−23405(P2011−23405A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164821(P2009−164821)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】