説明

電子銃

【課題】Langmuir limitを超える高輝度と高エミッタンスを同時に得る。
【解決手段】円形のカソード、引出し電極又はアノード、及びウエーネルト電極を有し、ウエーネルト電極は円錐台の側面の形状を少なくとも有し、その半径はカソード側で小さく、アノード側で大きく、上記円錐の半角をθwとし、カソード半径Rcをμmとし、カソードと引出し電極又はアノード間距離をDac (mm)とした時、
75 ≦ Rc ≦ 250,
11 ≦ Dac ≦ 21及び
62 ≦θw ≦ 90
の範囲内の値にすると良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線描画装置に使用される長寿命・高輝度・高エミッタンス電子銃に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスにおいて、デザインルールは45nmの時代を迎えようとしており、また生産形態はDRAMに代表される少品種大量生産からSOC(Silicon on chip)のように多品種少量生産へ移行しつつある。それに伴い、微細なICパターンを転写する為のレチクル或いはマスクの需要が増加し、電子線描画装置がフル稼働し、この装置に必要な電子銃の高輝度化と長寿命化が重要になる。
電子線描画装置では高輝度は勿論、高エミッタンスの電子銃が要求される。従ってこの電子銃ではLaB6、W−ZrOやCeBixカソード等の熱カソード電子銃に限定される。電子銃を長寿命にするには比較的低い温度で動作させる必要があり、カソード電流密度を大きく出来ない制限がある。その制限で高輝度にするにはLangmuir limitを越える必要がある。
Langmuir limitを越える提案は下記の文献がある。
【特許文献1】特願2006−119800
【特許文献2】特願2006−224699
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記した従来の特許文献1あるいは特許文献2における電子銃は、高輝度が得られる条件ではエミッタンスが極端に小さい事、と僅かな電子銃電流変化で輝度が大きく変化する問題があった。
本発明は上記問題点を解決するためのもので、Langmuir limitを越える高輝度を可能にし、同じ条件でエミッタンスも大きい電子銃を提供する事を目的とする。更に電子線描画装置では輝度の長時間安定性が要求されるので例えば電子銃電流が変化したときの輝度変化は小さい事が必要である。また輝度の値は空間電荷効果の問題があり、最適値が存在し、高すぎても問題がある。
従って、輝度は2x10〜8x10A/cmsrの範囲の任意の値に、Langmuir 限界から要求される値より小さいカソード電流密度で調整出来る事が必要である。また、エミッタンスは可変成型ビームの場合は3μmmrad以上、キャラクタープロジェションタイプでは10μmmrad以上が得られるのが最適である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記した目的を達成するために、本発明に係る電子銃においては、加速電圧が30から100kVの範囲で、電子線描画装置に用いられる電子銃であって、円形のカソード、引出し電極又はアノード、及びウエーネルト電極を有し、ウエーネルト電極は円錐台の側面の形状を少なくとも有し、その半径はカソード側で小さく、アノード側で大きく、上記円錐の半角をθw(度)とし、 カソード半径Rcをμmとし、カソードと引出し電極又はアノード間距離をDac (mm)とした時、
75 ≦ Rc ≦ 250,
11 ≦ Dac ≦ 21及び
62 ≦θw ≦ 90
の範囲内の値にすると良い。
【0005】
上記手段において、
更に、カソード半径Rcが
100 ≦ Rc ≦ 200
の範囲内の値にすると更に良い。
また、上記手段において
更に、半径Rcが
100 ≦ Rc ≦ 150
の範囲内の値にすると最適である。
【0006】
さらに、上記第1の手段において、
更に、カソードと引出し電極又はアノード間距離をDac (mm)を
13 ≦ Dac ≦ 19
の範囲内の値にすると更に良い。
また、上記手段において
更に、カソードと引出し電極又はアノード間距離をDac (mm)を
15 ≦ Dac ≦ 17
の範囲内の値にすると最適である。
【0007】
また、上記手段において
更に、上記ウエーネルト円錐の半角θw(度)を
63.9 ≦θw ≦ 85.5
の範囲内の値にすると更に良い。
【0008】
また、上記手段において
更に、上記ウエーネルト円錐の半角θw(度)を
68.9 ≦θw ≦ 80
の範囲内の値にすると最適である。
【0009】
CeBix カソードを用い、50keVのビームエネルギーで輝度が3x10〜3.1x10A/cm2srの場合は、カソード温度は1600K以下で良く、輝度が1x10〜4.7x10A/cm2srの場合は、カソード温度は1620K以下で良く、輝度が2x10〜6.6x10A/cm2srの場合は、カソード温度は1640K以下で良く、輝度が3x10〜8.5x10A/cm2srの場合は、カソード温度は1660K以下で良い。
【0010】
LaB6カソードを用い、50keVのビームエネルギーで輝度が2x10〜1x10A/cm2srの場合は、カソード温度は1720K以下で良く、輝度が5x10〜2x10A/cm2srの場合は、カソード温度は1740K以下で良く、輝度が1x10〜4x10A/cm2srの場合は、カソード温度は1780K以下で良く、輝度が2x10〜6x10A/cm2sr以下の場合は、カソード温度は1800Kで良く、LaB6カソードでも比較的低いカソード温度で使えるので長寿命のカソードが得られる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電子銃では、Langmuir limit を超える輝度と適度のエミッタンスが同時に得られるので、電子線描画装置を容易に高スループット化が実現できる。また、カソード電流密度を小さくでき、カソード温度を低くできるので、電子銃の長寿命化と高信頼性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明に係る電子銃のモデル図である。形状は光軸6の回りに回転対称形である。カソード1は電子線放出面が平面円板状で、LaB,CeB(又はCeBix),W−ZrO等の低仕事関数材料あるいは光陰極である。ウエーネルト電極2は、円錐台の内面の一部の形状であるのは従来の電子銃と共通である。ウエーネルト円錐の直径はカソード側で小さく、アノード側で大きくアノード側から見て凹型ウエーネルトである。従来、ウエーネルトは、高輝度にする場合はアノード側から見て凸型ウエーネルト、高エミッタンスにする場合は平面形状が良いとされていた。円筒3は場合によって用いても良い。電子銃外囲器4はアノードと同電位である。アノード電極5はビームが通る穴は光軸と平行な半径0.28 mmの穴とした。
【0013】
図1のモデルでの電子銃での代表的なシミュレーション結果を図2に示した。アノード電圧:50 kV, カソード:0V, ウエーネルト電圧を変えて電子銃電流:Ieを変化させた。電子銃電流:Ieを変えて輝度Bを変化させた。通常の電子銃特性の表示と同じく横軸を電子銃電流Ieにし、縦軸に輝度BとエミッタンスEとカソード電流密度Jcを3本の曲線で表示している。
図2で横軸は電子銃電流Ie(μA), 縦軸は輝度B(x10A/cmsr),エミッタンスE(μmmrad)、及びカソード電流密度Jc(A/cm)である。図1で、カソード・アノード電極間距離: Dacは17 mmである。ウエーネルト円錐の半角: θw は74.3度であり、カソード半径: Rcを変化させた結果である。
曲線21はカソード半径50μm、曲線22はカソード半径75μm、曲線23は、カソード半径100μm、曲線24はカソード半径150μm、曲線25は200μm、曲線26はカソード半径250μm、そして曲線27はカソード半径300μm、の場合である。実線は輝度、破線はエミッタンス、点線はカソード電流密度特性である。
カソード半径Rcが150μmに対応する24の実線の輝度は3x105 A/cm2srから6.7x106 A/cm2srの範囲で電子銃電流の単調増加関数になり、理想的な特性である。24の破線のエミッタンスEは40〜14(μmmrad)で10(μmmrad)以上を保っている。点線のカソード電流密度: Jcは1.8〜8.1A/cmであり、低い値である。曲線23と24は最適である、即ちカソード半径は150〜200μmが最適である。実線22はIeが800μA以上で輝度 Bが1x10A/cmsrを越え、良い特性である。実線25も電子銃電流Ieが650μA以上で輝度Bは1x10A/cmsrを越え、やはり良い特性である。カソード半径:250μmの実線26はIeが1700μA以上で1x10A/cmsrを越え、カソード電流密度(点線)が小さいことを考慮すれば良い特性である。カソード半径50μmの実線21は輝度がIeの減少関数であり、良くない。またカソード半径300μmの実線21は輝度が小さく良くない。
結局、カソード半径は75から250μmで良く、100から200μmで更に良く、150〜200μmが最適である。
【0014】
図3は図2の計算結果から横軸を輝度B、縦軸をエミッタンスEあるいはカソード電流密度Jcで表示した図である。これは輝度とエミッタンスの関係(破線)や輝度とカソード電流密度(実線)との関係がすぐに分かる様にこの様な表示をした。輝度―エミッタンス曲線では、図の右あるいは上の曲線の性能が良く、輝度―カソード電流密度特性では図の右、あるいは下の曲線が高性能である。
曲線31、32、33、34、35、36,及び37はそれぞれカソード半径が50, 75, 100, 150, 200、250、300μmに対応する。直線30はビームエネルギーが50 keV でのLangmuir 限界で、従来の理論ではこの直線の右側には輝度―カソード電流密度曲線(実線)は存在しない。実線37(カソード半径300μm)以外は直線30の右側に実線があり、Langmuir 限界を越えている。破線を見れば、32と33のみ高輝度でエミッタンスが10μmmradより小さくなっている以外は10μmmradを越えているので良い特性であるのが判る。エミッタンスが10μmmrad より小さくな場合も3μmmrad より大きいので可変成型ビーム用には問題が無い。
【0015】
図4は、カソード・アノード間距離: Dacを変化させた結果である。ウエーネルト円錐の半角: θw は74.3度であり、カソード半径: Rcは150μmに固定させた。
曲線41,42,43,44,45,46、及び47はそれぞれカソード・アノード間距離: Dacが11,13,15,17,19,21、及び23mmである。図2と同様で、実線は輝度、破線はエミッタンス、点線はカソード電流密度である。実線を比較すれば、曲線43と44は非常に広い電子銃電流Ieで大きい輝度を与え、最適である。実線42は電子銃電流Ieの大きい場合、輝度が43や44に少し劣るが良い特性である。逆に実線45はIeの小さい場合、輝度が43や44に少し劣るがやはり良い特性である。実線41はIeの大きい場合、輝度が実線43や44に劣るが使用可能な特性である。逆に実線46はIeの小さい場合、輝度が実線43や44に劣るがやはり使用可能な特性である。実線47はIeが1100μAでやっと1x10A/cm2srに達するので良くない。従って、カソード・アノード間距離: Dacに関しては、11〜21mmの範囲で使用可能であり、13から19mmでは良い特性を示し、15から17mmが最適である。カソード電流密度(点線)はDacが11mm(点線41)では、やや大きく、他はほとんど差が無い。エミッタンス(破線)はDacが21mmの高輝度条件で10μmmradより小さくなるが、3μmmrad より大きいので可変成型ビーム用には問題が無い。この条件以外は10μmmradを越えているので良い特性であるのが判る。
【0016】
図5は図4の計算結果から横軸を輝度、縦軸をエミッタンスあるいはカソード電流密度で表示した図である。実線は輝度―カソード電流密度曲線であり、破線は輝度―エミッタンス曲線である。50はビームエネルギーが50 keV でのLangmuir 限界である。曲線51,52,53,54,55,56、及び57はそれぞれカソード・アノード間距離: Dacが11,13,15,17,19,21、及び23mmである。実線は全てどこかで直線50の右側にあり、Langmuir 限界を越えている。破線を見れば、55と56のみ高輝度でエミッタンスが10μmmrad より小さくなるが、3μmmrad より大きいので可変成型ビーム用には問題が無い。この条件以外は10μmmradを越えているので良い特性であるのが判る。
【0017】
図6は、カソード・アノード電極間距離: Dacは17 mmに固定、カソード半径: Rcを150μmに固定し、ウエーネルト円錐の半角: θw を変化させた結果である。実線は輝度、破線はエミッタンス、点線はカソード電流密度である。曲線61、62、63、64,65,66,67,68はウエーネルト円錐の半角: θwがそれぞれ59.3, 63.9, 68.9, 74.3, 80, 85.8, 90及び95.9度である。θwが90度は平面ウエーネルトであり、95.9度はアノード側から見て凸型ウエーネルトであり、その他はアノード側から見て凹型ウエーネルトである。図4と同様で、実線は輝度、破線はエミッタンス、点線はカソード電流密度である。
実線を比較すれば、曲線63、64と65は非常に広い電子銃電流で大きい輝度を与え、最適である。実線62は、輝度が実線63、64や65に少し劣るが良い特性である。実線66は電子銃電流Ieの小さい場合、輝度が63、64や65に少し劣るがやはり良い特性である。実線61は輝度が小さく良くない。曲線67はIeの小さい場合、輝度が実線63や64に劣るがIeの増加関数であり使用可能な特性である。68はIeが1700μAでも2x10A/cm2srに達しないので良くない。
従って、ウエーネルト円錐の半角: θw に関しては、63.9〜90度の範囲で使用可能であり、63.9から85.8度では良い特性を示し、68.9から85.8度が最適である。カソード電流密度(点線)はウエーネルト円錐の半角: θw が小さい場合は小さく、ウエーネルト円錐の半角: θw が大きいと、同じIeで大きくなる。エミッタンス(破線)はウエーネルト円錐の半角: θw が63.9,85.8度の高輝度条件でのみ10μmmradより小さくなるが、3μmmrad より大きいので可変成型ビーム用には問題が無い。この条件以外は10μmmradを越えているので良い特性であるのが判る。
図7は図6の計算結果から横軸を輝度、縦軸をエミッタンスあるいはカソード電流密度で表示した図である。実線は輝度―カソード電流密度曲線であり、破線は輝度―エミッタンス曲線である。70はビームエネルギーが50 keV Tcが1700KでのLangmuir 限界である。曲線71,72,73,74,75,76、77及び78はそれぞれウエーネルト円錐の半角: θw が59.3, 63.9, 68.9, 74.3, 80, 85.8, 90,及び95.9度である。θwが90度は平面ウエーネルトであり、95.9度はアノード側から見て凸型ウエーネルトであり、その他はアノード側から見て凹型ウエーネルトである。図4と同様で、実線は輝度、破線はエミッタンス、点線はカソード電流密度である。
実線は全てどこかで直線50の右側にあり、Langmuir 限界を越えている。破線を見れば、76と77のみ高輝度でエミッタンスが10μmmrad より小さいが、3μmmrad より大きいので可変成型ビーム用には問題が無い。この条件以外は10μmmradを越えているので良い特性であるのが判る。
【0018】
図8は、カソード・アノード電極間距離: Dacは17 mmに固定、カソード半径: Rcを150μmに固定し、ウエーネルト円錐の半角: θw を74.3度に固定し、カソード温度を変化させた結果である。実線は輝度、破線はエミッタンス、点線(2本以上が重なっている場合は実線に見える)はカソード電流密度である。曲線81、82、83、84,85はカソード温度Tcがそれぞれ1600, 1620, 1640, 1660及び1680度Kである。カソード温度Tcが1600度KではIeが680μA、1620度KではIeが1060μA、1640度KではIeが1850μA、1660度KではIeが2550μAまで空間電荷制限条件であるのが実線の輝度特性あるいは点線のカソード電流密度特性から判る。
実線を見れば、輝度が3.1x10A/cm2sr以下の場合は、カソード温度は1600K以下で良く、輝度が4.7x10A/cm2sr以下の場合は、カソード温度は1620K以下で良く、輝度が6.6x10A/cm2sr以下の場合は、カソード温度は1640K以下で良く、輝度が8.5x10A/cm2sr以下の場合は、カソード温度は1660K以下で良く、この様な低いカソード温度でCeBixカソードを使用した場合非常に長寿命のカソードが得られる。
以上の結果を実用の輝度範囲で纏めると、50keVのビームエネルギーで輝度が3x10〜3.1x10A/cm2srの範囲にする場合は、カソード温度は1600K以下で良く、輝度が1x10〜4.7x10A/cm2srの範囲にする場合は、カソード温度は1620K以下で良く、輝度が2x10〜6.6x10A/cm2srの範囲にする場合は、カソード温度は1640K以下で良く、輝度が3x10〜8.5x10A/cm2srの範囲にする場合は、カソード温度は1660K以下で使用可能である。
図9は図8の計算結果から横軸を輝度、縦軸をエミッタンスあるいはカソード電流密度で表示した図である。実線は輝度―カソード電流密度曲線であり、破線は輝度―エミッタンス曲線である。直線90はビームエネルギーが50 keV カソード温度:Tcが1700KでのLangmuir 限界である。曲線91,92,93,94及び95はカソード温度Tcがそれぞれ1600, 1620, 1640, 1660及び1680度Kである。表示されたすべての条件でLangmuir 限界を越えている。塊になった実線から外れている部分は空間電荷制限条件を外れているので好ましくない。エミッタンスは10mradμmを越えているので問題はない。
【0019】
図10は加速電圧30kVで、カソード・アノード電極間距離: Dacを変化させた結果である。ウエーネルト円錐の半角: θwは78.2度に固定、カソード半径: Rcを150μmに固定した。 実線は輝度、破線はエミッタンス、点線はカソード電流密度である。曲線10、11、12、13、14,15,16,及び17はカソード・アノード電極間距離: Dacはそれぞれ10、13、15、17、19、21、23及び25mmである。
実線を比較すれば、曲線12と13は非常に広い電子銃電流Ieで大きい輝度を与え、最適である。実線11は、輝度が実線12や13に少し劣るが良い特性である。実線14はIeの小さい場合、輝度が実線12や13に少し劣るがやはり良い特性である。実線10は輝度が小さく良くない。曲線15はIeの小さい場合、輝度が12や13に劣るがIeの増加関数であり使用可能な特性である。実線16はIeが1400μAでやっと1x10A/cm2srに達するのみで良くない。17は全く良くない。
従って、カソード・アノード間距離: Dacに関しては、50kVの場合と同じく13〜21mmの範囲で使用可能であり、13から19mmでは良い特性を示し、15から17mmが最適である。カソード電流密度(点線)はDacが10mmでは、やや大きく、他はほとんど差が無い。エミッタンス(破線)はDacが21mmの場合部分的にのみ10μmmradより小さくなるのと、Dacが17mmの場合、高輝度条件で10μmmradより小さくなるが、3μmmrad より大きいので可変成型ビーム用には問題が無い。この条件以外は10μmmradを越えているので良い特性であるのが判る。
【0020】
図11は加速電圧100kVでの電子銃モデルである。アノード117に100kV,引き出し電極115に50kVを印加する条件にした。111はカソード、112はウエーネルト、114は電子銃室、116は光軸である。この様な引き出し電極を用いることによりカソード・アノード間の放電の心配を回避し、しかも50kVでの特性をほぼ有効利用できる。
図11のモデルでの電子銃での代表的なシミュレーション結果を図12に示した。アノード電圧:100 kV, カソード:0V, ウエーネルト電圧を変えて電子銃電流を変化させた。電子銃電流を変えて輝度を変化させた。通常の電子銃特性の表示と同じく横軸を電子銃電流にし、縦軸に輝度とエミッタンスとカソード電流密度を3本の曲線で表示している。
図12で横軸は電子銃電流Ie(μA), 縦軸は輝度B(10A/cmsr),エミッタンスE(μmmrad)、及びカソード電流密度Jc(A/cm)である。図12で、カソード・アノード電極間距離: Dacは17 mmである。ウエーネルト円錐の半角: θw は74.3度であり、カソード半径: Rcを変化させた結果である。
曲線121はカソード半径50μm、曲線122はカソード半径75μm、曲線123は、カソード半径100μm、曲線124はカソード半径150μm、曲線125はカソード半径200μm、そして曲線126はカソード半径250μmの場合である。実線は輝度、破線はエミッタンス、点線はカソード電流密度特性である。
カソード半径Rcが150μmに対応する124の実線の輝度は6.8x105 A/cm2srから8x106 A/cm2srの範囲で電子銃電流の単調増加関数になり、理想的な特性である。124の破線のエミッタンスは54〜19(μmmrad)で10(μmmrad)以上を保っている。点線のカソード電流密度: Jcは2〜9.1A/cmであり、低い値である。曲線123と124は最適である、即ちカソード半径は150〜200μmが最適である。実線122は輝度が少し高めだが条件によっては使用可能である。実線125も電子銃電流Ieが220μA以上で1x10A/cmsrを越え、やはり使用可能である。カソード半径:250μmの実線126は電子銃電流Ieが920μA以上で輝度Bが1x10A/cmsrを越え、カソード電流密度(点線)が小さいことを考慮すれば良い特性である。カソード半径:Rcが50μmの実線121は輝度がIeの減少関数になる条件があり、良くない。
結局、100kVの場合も、50kVの場合と同様、カソード半径は75から250μmで使用可能で、100から200μmで良く、150〜200μmが最適である。
【0021】
図13は図12の計算結果から横軸を輝度B、縦軸をエミッタンスEあるいはカソード電流密度Jcで表示した図である。実線は輝度―カソード電流密度曲線であり、破線は輝度―エミッタンス曲線である。直線130はビームエネルギーが100 keV , Tcが1700KでのLangmuir 限界である。曲線131,132,133,134及び135はカソード半径Rcがそれぞれ50, 75, 100, 150, 200, 及び250μmである。表示されたすべての実線はどこかの条件でLangmuir 限界を越えている。エミッタンスは大部分の条件で10mradμmを越えているので良い特性である。
【0022】
図14は、カソード材料をCeBixからLaB6に変えた場合である。カソード・アノード電極間距離: Dacは17 mmに固定、カソード半径: Rcを150μm、ウエーネルト円錐の半角: θw を74.3度に固定し、カソード温度:Tcを変化させた結果である。実線は輝度、破線はエミッタンス、点線はカソード電流密度である。曲線140、141、142, 143、144, 145及び146はカソード温度Tcがそれぞれ1680, 1700, 1720, 1740, 1760, 1780及び1800度Kである。カソード温度Tcが1680度Kでは電子銃電流Ieが150μA、1700度Kでは電子銃電流Ieが200μA、1720Kでは電子銃電流Ieが400μA,1740度Kでは電子銃電流Ieが600μA、1760度Kでは電子銃電流Ieが900μA, 1780Kでは電子銃電流1200μAまで空間電荷制限条件であるのが点線のカソード電流密度特性から判る。
実線を見れば、輝度が1x10A/cm2sr以下の場合は、カソード温度は1720K以下で良く、輝度が2x10A/cm2sr以下の場合は、カソード温度は1740K以下で良く、輝度が4x10A/cm2sr以下の場合は、カソード温度は1780K以下で良く、輝度が6x10A/cm2sr以下の場合は、カソード温度は1800K以下で良く、LaB6カソードでも比較的低いカソード温度で使えるので長寿命のカソードが得られる。
以上の結果を実用の輝度範囲で纏めると、LaB6カソードを用い、50keVのビームエネルギーで輝度が2x10〜1x10A/cm2srの範囲の場合は、カソード温度は1720K以下で良く、輝度が5x10〜2x10A/cm2srの範囲の場合は、カソード温度は1740K以下で良く、輝度が1x10〜4x10A/cm2srの範囲の場合は、カソード温度は1780K以下で良く、輝度が2x10〜6x10A/cm2sr以下の範囲の場合は、カソード温度は1800K以下で使用できる。
図15は図14の計算結果から横軸を輝度、縦軸をエミッタンスあるいはカソード電流密度で表示した図である。実線は輝度―カソード電流密度曲線であり、破線は輝度―エミッタンス曲線である。150はビームエネルギーが50 keV、カソード温度1800K でのLangmuir 限界である。曲線151,152,153,154,155,156及び157はカソード温度Tcがそれぞれ1680, 1700, 1720, 1740, 1760, 1780及び1800度Kである。表示されたすべての条件でLangmuir 限界を越えている。塊になった実線から外れている部分は空間電荷制限条件を外れているので好ましくない。エミッタンスは10mradμmを越えているので問題はない。
【0023】
以上纏めると、加速電圧が30から100kVの範囲で、電子線描画装置に用いられる電子銃であって、円形のカソード、引出し電極又はアノード、及びウエーネルト電極を有し、ウエーネルト電極は円錐台の側面の形状を少なくとも有し、その半径はカソード側で小さく、アノード側で大きく、上記円錐の半角をθwとし、カソード半径Rcをμmとし、カソードと引出し電極又はアノード間距離をDac (mm)とした時、
75 ≦ Rc ≦ 250,
11 ≦ Dac ≦ 21及び
62 ≦θw ≦ 90
の範囲内の値にすると良い。
【0024】
上記手段において、
更に、カソード半径Rcが
100 ≦ Rc ≦ 200
の範囲内の値にすると更に良い。
【0025】
また、上記手段において
更に、半径Rcが
100 ≦ Rc ≦ 150
の範囲内の値にすると最高である。
【0026】
さらに、上記第1の手段において、
更に、カソードと引出し電極又はアノード間距離をDac (mm)を
13 ≦ Dac ≦ 19
の範囲内の値にすると更に良い。
【0027】
また、上記手段において
更に、カソードと引出し電極又はアノード間距離をDac (mm)を
15 ≦ Dac ≦ 17
の範囲内の値にすると最適である。
【0028】
また、上記手段において
更に、上記ウエーネルト円錐の半角θw(度)を
63.9 ≦θw ≦ 85.5
の範囲内の値にすると更に良い。
【0029】
また、上記手段において
更に、上記ウエーネルト円錐の半角θw(度)を
68.9 ≦θw ≦ 80
の範囲内の値にすると最高である。
【0030】
CeBix カソードを用い、50keVのビームエネルギーで輝度が3x10〜3.1x10A/cm2srの範囲にする場合は、カソード温度は1600K以下で良く、輝度が1x10〜4.7x10A/cm2srの範囲にする場合は、カソード温度は1620K以下で良く、輝度が2x10〜6.6x10A/cm2srの範囲にする場合は、カソード温度は1640K以下で良く、輝度が3x10〜8.5x10A/cm2srの範囲にする場合は、カソード温度は1660K以下で使用可能である。この様な低いカソード温度でCeBixカソードを使用した場合非常に長寿命のカソードが得られる。
【0031】
LaB6カソードを用い、50keVのビームエネルギーで輝度が2x10〜1x10A/cm2srの範囲の場合は、カソード温度は1720K以下で良く、輝度が5x10〜2x10A/cm2srの範囲の場合は、カソード温度は1740K以下で良く、輝度が1x10〜4x10A/cm2srの範囲の場合は、カソード温度は1780K以下で良く、輝度が2x10〜6x10A/cm2sr以下の範囲の場合は、カソード温度は1800K以下で使用できる。LaB6カソードでも比較的低いカソード温度で使えるので長寿命のカソードが得られる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上、本発明に係る電子線装置の発明を実施するための最良の形態を説明したところから理解されるように、本発明は、輝度が大きく、同時にエミッタンスも大きい電子銃を利用可能にし、電子線描画装置用に適した電子銃が得られる。更に輝度が電子銃電流の単調増加関数になり、しかも電子銃電流の変化に対して輝度の変化量が小さいので安定動作が期待できる。最適輝度を選べるので空間電荷効果によるボケも小さくできる。
さらに、輝度はLangmuir Limit をこえるのでカソード電流密度を小さくできるので、長寿命の電子銃が得られる事が分かった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る電子銃のモデル図である。
【図2】図1に示した電子銃でのカソード半径:Rcを変化させた場合のシミュレーション例である。
【図3】図2の結果を輝度(横軸)−エミッタンスあるいはカソード電流密度(縦軸)表示した図。
【図4】図1に示した電子銃でのカソードとアノード間距離Dacを変化させた場合のシミュレーション例である。
【図5】図4の結果を輝度(横軸)−エミッタンスあるいはカソード電流密度(縦軸)表示した図である。
【図6】図1に示した電子銃でのウエーネルト角:θwを変化させた場合のシミュレーション例である。
【図7】図6の結果を輝度(横軸)−エミッタンスあるいはカソード電流密度(縦軸)表示した図である。
【図8】図1に示した電子銃でのカソード温度:Tcを変化させた場合のシミュレーション例であり、カソードはCeBixである。
【図9】図8の結果を輝度(横軸)−エミッタンスあるいはカソード電流密度(縦軸)表示した図である。
【図10】図1に示した電子銃で、ビームエネルギー30keVでのカソードとアノード間距離Dacを変化させた場合のシミュレーション例である。
【図11】本発明の引き出し電極を用いた他の実施の形態の電子銃モデルである。
【図12】図11に示した電子銃で、ビームエネルギー100keVでのカソード半径:Rcを変化させた場合のシミュレーション例である。
【図13】図12の結果を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス及びカソード電流密度で表示した結果である。
【図14】図1に示した電子銃でのカソード温度:Tcを変化させた場合のシミュレーション例であり、カソードはLaB6である。
【図15】図14の結果を横軸に輝度、縦軸にエミッタンス及びカソード電流密度で表示した結果である。
【符号の説明】
【0034】
1,111:カソード、2、112:ウエーネルト、3:ウエーネルトの円筒部分、4,114:電子銃室、5:アノード、116、6:光軸、7,117:評価面、115:引き出し電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速電圧が30から100kVの範囲で、電子線描画装置に用いられる電子銃であって、円形のカソード、引出し電極又はアノード、及びウエーネルト電極を有し、ウエーネルト電極は円錐台の側面の形状を少なくとも有し、その半径はカソード側で小さく、アノード側で大きく、上記円錐の半角をθw(度)とし、カソード半径をRc(μm)とし、カソードと引出し電極又はアノード間距離をDac (mm)とした時、
75 ≦ Rc ≦ 250,
11 ≦ Dac ≦ 21及び
62 ≦θw ≦ 90
の範囲内の値である事を特徴とする電子銃。
【請求項2】
請求項1に於いて、更に、カソード半径Rcが
100 ≦ Rc ≦ 200
の範囲内の値である事を特徴とする電子銃。
【請求項3】
請求項2に於いて、更に、半径Rcが
100 ≦ Rc ≦ 150
の範囲内の値である事を特徴とする電子銃。
【請求項4】
請求項1に於いて、更に、カソードと引出し電極又はアノード間距離Dac (mm)が
13 ≦ Dac ≦ 19
の範囲内の値である事を特徴とする電子銃。
【請求項5】
請求項4に於いて、更に、カソードと引出し電極又はアノード間距離Dac (mm)が
15 ≦ Dac ≦ 17
の範囲内の値である事を特徴とする電子銃。
【請求項6】
請求項1に於いて、更に、上記ウエーネルト円錐の半角θw(度)が
63.9 ≦θw ≦ 85.5
の範囲内の値である事を特徴とする電子銃。
【請求項7】
請求項6に於いて、更に、上記ウエーネルト円錐の半角θw(度)が
68.9 ≦θw ≦ 80
の範囲内の値である事を特徴とする電子銃。
【請求項8】
請求項1に於いて、CeBix カソードを用い、50keVのビームエネルギーで輝度が3x10〜3.1x10A/cm2srの場合は、カソード温度は1600K以下、輝度が1x10〜4.7x10A/cm2srの場合は、カソード温度は1620K以下、輝度が2x10〜6.6x10A/cm2srの場合は、カソード温度は1640K以下、あるいは輝度が3x10〜8.5x10A/cm2srの場合は、カソード温度は1660K以下の値である事を特徴とする電子銃。
【請求項9】
請求項1に於いて、LaB6カソードを用い、50keVのビームエネルギーで輝度が2x10〜1x10A/cm2srの場合のカソード温度は1720K以下、輝度が5x10〜2x10A/cm2srの場合のカソード温度は1740K以下、輝度が1x10〜4x10A/cm2srの場合のカソード温度は1780K以下、あるいは輝度が2x10〜6x10A/cm2sr以下の場合のカソード温度は1800K以下の値である事を特徴とする電子銃。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−272084(P2009−272084A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−120103(P2008−120103)
【出願日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(500159772)
【Fターム(参考)】