説明

電子顕微鏡制御装置、電子顕微鏡システムおよび電子顕微鏡の制御方法

【課題】X線分析装置を備える電子顕微鏡において専門的な知識や能力がなくても試料の観察および分析において精度の高い結果を得ることができるようにする。
【解決手段】 SEMハードウェア1と、X線検出器およびエネルギー分散型X線分析装置で構成されるEDXハードウェア2とを制御するコンピュータ3に、SEM制御データ8,71の通信を高速化し、EDX側の測定結果をフィードバックしてSEM側の条件をリアルタイムに制御するデータ共有オブジェクト7を追加して、SEMアプリケーション5を介さずに、SEM制御データ8,71を直接EDXアプリケーション6へ送信する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡制御装置、電子顕微鏡システムおよび電子顕微鏡の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡の1つに、走査型電子顕微鏡(以下、SEMという)と、このSEMに取り付けられた半導体X線検出器からの信号を処理するエネルギー分散型X線分析装置(以下、EDXという)とを組み合わせたものがある。このEDXは、数μmという微小領域の元素分析を行う装置で、SEMによる像観察と同時に、X線分析装置によって観察している部分の定性分析、定量分析、X線像による元素分布の分析等を行うものである。
【0003】
このようなEDXを備える電子顕微鏡において、SEMに設定する条件(SEM条件)と、このSEM条件に対応するEDX側の分析条件(EDX条件)(以下、まとめてレシピという)は、過去の分析条件等から測定対象の試料に最適な分析条件を選択するようにしている。なお、ここでの最適な分析条件とは、例えば、EDXにおけるデットタイム(不感時間)が所定の範囲(例えば、20〜30%)になるような条件である。そして、選択したSEM条件とEDX条件とを、SEMとEDXとに設定する。
【0004】
ここでの、SEM条件とは、例えば、加速電圧、電子線照射電流調整値、ワーキングディスタンス、倍率、入力信号等であり、EDX条件とは、例えば、スペクトル測定条件(測定時間、プロセスタイム)や、SEM像取込条件(SEM像サイズ、速度)や、マッピング条件(マップサイズ、回数)、定性・定量条件等である。
【特許文献1】特開2003−98129号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記した従来技術では、呼び出したレシピが試料の組成や形状等により最適な分析条件とならなかった場合や、試料の観察および分析において最適な条件が異なる場合(例えば、観察と分析とに必要な電子線照射電流が異なる場合)、測定者が、SEMの調整→SEMによる試料の観察→SEMの調整→EDXによる試料の分析→SEMの調整といった作業を繰り返す必要があった。
ここで、前記したSEMの調整を容易にするため、EDX側の測定結果をSEM側にフィードバックしてSEM側をリアルタイムに制御するという方法が考えられる。
【0006】
ところが、従来、SEMとEDXとの両方を制御するコンピュータ(統合アプリケーション)は無かったため、EDXを備える電子顕微鏡を制御するには、EDXを制御するためのEDXコンピュータを、別途SEMコンピュータ(SEMを制御するためのコンピュータ)に接続する必要があった。つまり、SEMコンピュータとEDXコンピュータとを所定の外部通信(例えば、RS−232Cインターフェース等)を用いて接続する必要があった。このため、SEM側にEDX側の測定結果をすぐにフィードバックして、SEM側をリアルタイムに制御することができないという問題があった。
【0007】
この問題について、図1を用いて詳細に説明する。図1は、比較例である電子顕微鏡システムの構成を概略的に示した図である。
【0008】
比較例の電子顕微鏡システムは、SEMハードウェア1と、SEMコンピュータ3aと、EDXハードウェア2と、EDXコンピュータ3bとを含んで構成される。SEMコンピュータ3aは、SEMアプリケーション42に基づき、SEM(SEMハードウェア)1を制御するコンピュータである。また、EDXコンピュータ3bは、EDXアプリケーション43に基づき、EDX(EDXハードウェア)2を制御するコンピュータである。SEMコンピュータ3aと、EDXコンピュータ3bとは、RS−232Cインターフェース等の外部通信手段46により接続されている。
【0009】
比較例の電子顕微鏡システムにおけるSEM制御データ44は、常にすべてのSEM制御データ44がSEMアプリケーション42および外部通信手段46経由で、EDXアプリケーション43へ送信される。ここで、このSEM制御データ44の通信間隔を短くすると、SEMアプリケーション42およびEDXアプリケーション43の処理速度が低下する。このため、EDXハードウェア2側の測定結果(デットタイムやX線検出効率(収集計数率))をSEMコンピュータ3aにフィードバックして、SEMハードウェア1をリアルタイムに制御するのに充分な通信速度を得ることができないという問題があった。
なお、SEM制御データ44は、加速電圧やワーキングディスタンス等の分析結果として用いるデータや、電子線照射電流調整値等の分析の制御に用いるデータである。
【0010】
また、SEMアプリケーション42とEDXアプリケーション43とを1つのコンピュータで動作させても、SEMアプリケーション42とEDXアプリケーション43とは独立して制御されるため、EDXハードウェア2側の測定結果をSEMアプリケーション42にフィードバックするには時間がかかるという問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、前記した問題を解決し、EDX側の測定結果をフィードバックしてSEM側をリアルタイムに制御し、専門的な知識や能力がなくても試料の観察および分析において精度の高い結果を得ることができる電子顕微鏡制御装置等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記した課題を解決するため、本発明は、電子顕微鏡制御装置が、X線分析装置におけるデットタイムの目標値の範囲を記憶する記憶部と、X線分析装置から出力された計測結果に基づき、X線分析装置におけるデットタイムを算出し、算出したデットタイムと、デットタイムの目標値の範囲とを比較し、算出されたデットタイムが、目標値の範囲内の値でなかったとき、電子顕微鏡の電子線照射電流を制御する制御データを作成する制御部と、電子顕微鏡から、この電子顕微鏡における電子線照射電流の制御結果を受信し、受信した制御結果と、電子顕微鏡へ出力した制御データとを比較し、制御結果が制御データと異なる場合、受信した制御結果を、制御部用のフォーマットに変換して制御部へ出力するとともに、制御部で作成された制御データを、電子顕微鏡の制御用のフォーマットに変換し、電子顕微鏡へ出力するデータ共有部を備える構成とした。その他の構成は後記する実施の形態で述べる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、X線分析装置の測定結果(デットタイムやX線検出効率)が目標値に達していないとき、電子顕微鏡制御装置がこれに応じて電子顕微鏡の電子線照射電流を変化させる。つまり、X線分析装置の測定結果をリアルタイムにフィードバックして電子顕微鏡の電子線照射電流を制御する。したがって、専門的な知識や能力がなくても、簡単に試料に最適な分析条件をX線分析装置に設定することができる。また、精度の高い試料の観察および分析の結果を得ることができる。さらに、本発明は、SEMとEDXの両方の操作画面および表示画面を同じ表示装置の表示画面上に表示することができるので、操作性の向上が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態(以下、実施の形態という)を詳細に説明する。図2は、本実施の形態の電子顕微鏡システムの構成を機能展開して示したブロック図である。
【0015】
電子顕微鏡システムは、分析対象である試料に電子線を照射し、試料より発生した電子線を測定する電子顕微鏡であるSEMハードウェア1と、試料より発生したX線を測定するX線検出器およびエネルギー分散型X線分析装置を備えるEDXハードウェア2と、SEMハードウェア1およびEDXハードウェア2を制御するコンピュータ(電子顕微鏡制御装置)3とを含んで構成される。
【0016】
また、コンピュータ3には、液晶ディスプレイ等の表示装置9、キーボードやマウス等のポインティングデバイス10が接続される。この表示装置9は、コンピュータ3から出力された試料のSEM像、X線スペクトルやマッピング像等のEDX像を表示する。このコンピュータ3にはフレキシブルディスクやMOディスク(Magneto Optical Disk)等の記憶媒体の読み取り装置やプリンタ等の出力装置が付設してあってもよい。
【0017】
コンピュータ3は、入出力インターフェース、CPU(Central Processing Unit)、メインメモリ、記憶部等を備える演算処理装置により実現される。
入出力インターフェースは、前記した表示装置9、ポインティングデバイス10、SEMハードウェア1、EDXハードウェア2等と、CPUとの間のデータ入出力のインターフェースを司る。CPUは、記憶部に格納されるSEM−EDX統合プログラム4やデータ共有オブジェクト7(後記)をメインメモリ上に読み出し、SEMハードウェア1およびEDXハードウェア2を制御する。メインメモリは、例えば、RAM(Random Access Memory)であり、CPUが演算処理を行う際に用いられる記憶手段である。このメインメモリには、SEMハードウェア1から出力されたSEM制御データ8等が記憶される。記憶部は、例えば、ハードディスク装置であり、所定領域にSEM−EDX統合プログラム4、データ共有オブジェクト7およびレシピ41を格納する。なお、請求項における制御部の機能は、CPUによるSEM−EDX統合プログラム4の実行処理により実現される。
【0018】
SEM−EDX統合プログラム4は、SEMアプリケーション5およびEDXアプリケーション6を備える。このSEMアプリケーション5は、CPUがSEMハードウェア1を制御するためのアプリケーションであり、EDXアプリケーション6は、CPUがEDXハードウェア2を制御するためのアプリケーションである。SEMハードウェア1は、コンピュータ3からの命令(SEM制御データ8)を受け取ると、この命令に基づき試料に電子線を照射する。なお、このときのSEM制御データ8は、コンピュータ3のCPUがメインメモリ等に記憶しておく。また、EDXハードウェア2は、コンピュータ3のCPUからの命令を受け取ると、この命令に基づきX線分析を行う。このとき、EDXハードウェア2の操作に必要なSEM制御データ8は、データ共有オブジェクト7からEDXアプリケーション6へ送信される。
【0019】
データ共有オブジェクト7は、メインメモリ等に記憶されているSEM制御データ8を監視し、このSEM制御データ8に変化があったとき、自身が保持するSEM制御データであるSEM制御データ71を更新する。つまり、データ共有オブジェクト7は、SEM制御データ71と、SEM制御データ8を監視して、SEM制御データ71を更新するプログラムとを含んで構成される。なお、請求項におけるデータ共有部の機能は、データ共有オブジェクト7に含まれるプログラムをCPUが実行することにより実現される。
【0020】
なお、この更新されたSEM制御データ71は、データ共有オブジェクト7により、EDXアプリケーション6(SEM−EDX統合プログラム4)に受け渡される。また、このときデータ共有オブジェクト7は、SEM制御データ71を、EDXアプリケーション6で処理可能なフォーマットに変換してから、SEMアプリケーション5を介さずに、EDXアプリケーション6に受け渡すものとする。さらに、データ共有オブジェクト7はEDXアプリケーション6からSEM制御データを受け取ったときには、SEMハードウェア1側で制御に用いることができるフォーマットに変換してから、SEMハードウェア1へ出力するものとする。
【0021】
このとき、データ共有オブジェクト7からEDXアプリケーション6へ受け渡すSEM制御データ71は、SEM制御データ8より変化があった分を受け渡すものとする。このことにより、従来よりも通信量を低下させることができる。その結果、通信速度の高速化が可能となるため、EDX側の測定結果をフィードバックして、SEM側の条件をリアルタイムに制御できる。
【0022】
また、このデータ共有オブジェクト7により、SEM側の条件に合わせてEDX側の条件を調整したり、EDX側の条件に合わせてSEM側の条件を調整したりすることができる。
【0023】
レシピ41は、表1に例示するように、「未知試料」、「軽元素試料」、「金属試料」といった試料の性状ごとに、これらの試料を分析するときの「SEM条件」と、これに対応する条件の、「スペクトル測定条件」、「SEM像取込条件」、「マッピング条件」等の「EDX条件」とを示したものである。
【0024】
【表1】

【0025】
次に、電子顕微鏡システムにおいて、試料の観察および分析は以下の手順に従う。図3は、図2の電子顕微鏡システムにおける試料の観察および分析の手順を例示したフローチャートである。
【0026】
まず、コンピュータ3のCPUは、SEM−EDX統合プログラム4に基づき、分析条件設定画面を表示装置9へ表示する。そして、ポインティングデバイス10経由で試料の性状に関する情報との入力を受け付ける。そして、CPUは、試料の性状をキーとして、レシピ41のうち、入力された試料の性状に適するSEM条件およびEDX条件を選択する。例えば、試料が「未知試料」であれば、レシピ41から「未知試料」に関するSEM条件およびEDX条件を選択する。
【0027】
そして、SEM−EDX統合プログラム4に基づきCPUは、選択したSEM条件をSEMハードウェア1へ設定するとともに、EDX条件をEDXハードウェア2へ設定する。これにより、レシピの設定が完了する(S1)。
【0028】
次に、測定者により手動で試料がSEMハードウェア1の所定の位置にセットされると(S2)、S3へ進む。なお、このレシピの設定と試料のセットは順序が逆になってもよい。
【0029】
そして、ポインティングデバイス10経由で、コンピュータ3に試料への電子線の照射指示が入力されると、試料の観察を開始する。具体的には、コンピュータ3に電子線の照射指示が入力されると、SEM−EDX統合プログラム4に基づきCPUは、SEMハードウェア1に対し、S1で設定されたSEM条件に従った試料への電子線の照射スタートを指示する。つまり、SEMハードウェア1に対しSEM制御データを出力する。これを受けてSEMハードウェア1は試料に電子線を照射し(S3)、測定者が試料の観察をできるようにする。
【0030】
なお、SEMハードウェア1における焦点、明るさ等はSEMアプリケーション5により自動調整される。また、SEM像を観察し、保存するとき、SEM−EDX統合プログラム4により、試料観察時の電子線照射電流調整値をメインメモリに記憶しておく。
【0031】
このとき、CPUからの電子線の照射スタートの指示は、EDXハードウェア2へも出力される。つまり、試料に対する電子線の照射によって試料から生じたX線を、EDXハードウェア2のX線検出器で検出し、X線分析装置に試料の分析を行わせる(S4)。
【0032】
試料観察の後、CPUは、SEM−EDX統合プログラム4およびデータ共有オブジェクト7により、S1でレシピ41に記憶しておいたデットタイム、X線検出効率等のEDXハードウェア2側の条件に適合するように、SEMハードウェア1を調整する。ここでのSEMハードウェア1の調整は、例えばSEMハードウェア1の電子線照射電流値の調整である。このときのSEMハードウェア1の調整手順の詳細は、図5を用いて後記する。
【0033】
ここで、試料の複数の部位を分析する場合には、試料の1つの部位について分析が終了すると、S3へ戻り試料の観察を行って次の分析部位を特定する。そして、その特定した部位について、EDXハードウェア2およびEDXアプリケーション6によりX線検出と分析を行う。なお、このときCPUは、SEMハードウェア1における電子線照射電流の値を、試料観察時の電子線照射電流調整値に戻してから観察や分析を行う。
【0034】
前記したS4の手順に基づき分析が終了すると、CPUはSEM−EDX統合プログラム4により分析結果を画像データ等に変換し、分析結果レポートを作成する(S5)。この分析結果レポートは表示装置9等へ出力される。
【0035】
なお、前記したSEMハードウェア1やEDXハードウェア2の設定画面および操作画面、SEM像およびEDX像は、コンピュータ3のSEM−EDX統合プログラム4により表示装置9に出力され、表示される。図4は、図2の表示装置における画面例である。図4に示すように、SEM操作メニュー21、SEM設定メニュー22、SEM像23、EDX操作メニュー24、EDX像(EDXハードウェア2およびEDXアプリケーション6による分析結果レポート)およびEDX設定メニュー25等の画面が表示装置9の1つの画面上に表示される。測定者は、図2のポインティングデバイス10を用いて、この画面上から各種設定を行うことができるので、操作性の向上が図れる。
【0036】
また、分析で使用したSEM条件やEDX条件が、既に保存されているレシピ41とは異なる場合や、以後の分析に好適と考えられる場合等は、必要に応じてこれを新しいレシピ41として記憶部に保存する(S6)。このときの保存は、例えば、CPUが新しいレシピ41を保存するか否かの選択画面を表示装置9へ表示し、ポインティングデバイス10から保存の指示入力があったときに、保存するようにする。
以上のようにして、コンピュータ3は、試料の観察および分析に好適なようにSEMハードウェア1の制御を行う。
【0037】
次に、図5を用いて、図3のS4の試料の分析におけるSEMハードウェア1の調整手順を詳細に説明する。図5は、図3のS4の試料の分析におけるSEMハードウェアの調整手順を示す図である。
【0038】
まず、CPUは、SEM−EDX統合プログラム4に基づき、EDXハードウェア2の測定結果から、所定時間におけるEDXハードウェア2のデットタイム、X線検出効率等を算出する。そして、このときの算出結果と、レシピ41に記憶されているデットタイム、X線検出効率等の条件とを比較する。
【0039】
具体的には、CPUは、EDXハードウェア2のデットタイムやX線検出効率が、レシピ41に記憶されているデットタイムやX線検出効率の目標値の範囲内か否かを判断する。
以下の説明では、CPUが、EDXハードウェア2のデットタイムを算出し(S41)、このデットタイムがレシピ41に記憶されているデットタイムの目標値の範囲内か否かを判断する場合(S42)を例に説明する。
【0040】
ここで、EDXハードウェア2のデットタイムは、レシピ41に記憶されているデットタイムの目標値の範囲外であるとCPUが判断したとき(S42の“No”)、EDXアプリケーション6に基づきCPUは、EDXハードウェア2がレシピ41に記憶されているデットタイムを達成するように、SEMハードウェア1の制御を行う。
つまり、EDXハードウェア2がレシピ41に記憶されているデットタイムとなるSEM制御データをデータ共有オブジェクト7経由でSEMハードウェア1へ出力する(S43)。このときのSEM制御データは、例えば、SEMハードウェア1における電子線照射電流の値を変化させる制御データである。これを受けてSEMハードウェア1において、SEM条件の調整(主に、電子線照射電流の値の変更)が行われる。電子線照射電流の制御方法は、例えば収束レンズ(コンデンサレンズ)の調整などである。このときCPUが出力したSEM制御データは、データ共有オブジェクト7のSEM制御データ71としてメインメモリに記憶しておく(S44)。
一方、デットタイムがレシピ41に記憶されているデットタイムの目標値の範囲内であった場合(S42の“Yes”)、SEMハードウェア1の調整処理を終了する。
【0041】
このような調整後、コンピュータ3は、SEMハードウェア1から、実際のSEMハードウェア1の制御結果(SEM制御データ8)を受信する(S45)。そして、CPUは、SEMハードウェア1から出力されたSEM制御データ8をメインメモリに記憶する(S46)。
【0042】
次に、データ共有オブジェクト7に基づきCPUは、SEM制御データ71と、SEMハードウェア1から出力されたSEM制御データ8とを比較する(S47)。そして、SEM制御データ8とSEM制御データ71との間に差分がある場合(S47の“差分あり”)、CPUは、SEM制御データ71を、SEM制御データ8に書き換える(S48)。このときの書き換えは、SEM制御データ71とSEM制御データ8との差分をSEM制御データ71から読み取り、この差分の情報をSEM制御データ71上で書き換えるようにする。そして、S41へ戻る。一方、SEM制御データ71とSEM制御データ8とが同じである場合(S47の“差分無し”)には、CPUは、SEM制御データ71の書き換えを行わず、S41へ戻る。
【0043】
このように、SEM制御データ8に変化があったときのみ、変化があった分だけSEM制御データ71を更新し、EDXアプリケーション6(SEM−EDX統合プログラム4)へSEM制御データ71を受け渡すようにするので、EDXアプリケーション6とSEMアプリケーション5との間のSEM制御データの通信量を低下させることができる。つまり、コンピュータ3はEDX側の測定結果をフィードバックしてSEM側をリアルタイムに制御できる通信速度を得ることができる。したがって、コンピュータ3は、試料の分析において、レシピ41で設定したデットタイム、X線検出効率といったEDX側の条件に適合するように、SEM側の条件である電子線照射電流等を調整することができる。よって、測定技術や調整技術を有する測定者でなくても、試料を最適な条件で観察および分析を行うことができる。
【0044】
なお、前記した説明では、EDXハードウェア2におけるデットタイムがレシピ41に記憶されているデットタイムの目標値の範囲内か否かを判断する場合について説明したが、EDXハードウェア2におけるX線検出効率もあわせてチェックするようにしてもよい。すなわち、デットタイムがレシピ41に記憶されているデットタイムの目標値の範囲内で、かつ、X線検出効率がレシピ41に記憶されているX線検出効率の目標値の範囲内であるか否かを判断するようにしてもよいし、デットタイムとX線検出効率との少なくとも一方が各目標値の範囲内であるか否かを判断するようにしてもよい。
【0045】
また、レシピ41に記憶されるデットタイムや、X線検出効率の目標値は、ある程度の幅をもった数値、つまり上限値と下限値とを持つものとして説明したが、これに限定されない。すなわち、例えば、レシピ41にデットタイムの上限値のみを設定して、デットタイムの上限値が30%以下になるようにSEMハードウェア1を調整したりするようにしてもよい。
【0046】
また、コンピュータ3が、EDXハードウェア2におけるデットタイムおよびX線検出効率の少なくとも一方をリアルタイムで監視し、電子線照射電流を自動で調整するので、試料に対し長時間のX線検出が必要な定量分析を行う場合でも、分析の前後にファラデーカップ装置等を用いてプローブ電流値(実際に電子線が試料に照射される電流値)を測定し、これに基づき分析結果を補正する必要が無くなる。したがって、試料の分析を簡単に行うことができ、また精度の高い分析結果を得ることができる。
【0047】
さらに、試料微動装置等を用いて試料を移動させ、電子顕微鏡で、複数の部位の観察や分析をするときも、試料の複数の部位ごとの最適な条件にて観察や分析を行うことができる。したがって、試料の観察や分析の手間を軽減することができる。
【0048】
なお、前記した実施の形態では、試料の観察および分析を行う測定者が、観察および分析の前にデットタイムやX線検出効率の目標値をレシピ41に設定するものとしたが、これに限定されない。例えば、デットタイムやX線検出効率の目標値(最適値または最適範囲)をデフォルトで記憶部に設定しておき、コンピュータ3がこのデフォルトの目標値に基づきSEMハードウェア1の電子線照射電流を調整するようにしてもよい。このようにすることで、測定者が観察および分析の都度、レシピ41に目標値を設定する手間を省くことができる。
【0049】
本発明は、SEMと波長分散型X線分析装置(WDX)とを組み合わせた電子顕微鏡システムや、透過型電子顕微鏡(TEM)とEDXとを組み合わせた電子顕微鏡システム、またその類似システムにおいても同様に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】比較例であるEDXを備える電子顕微鏡の構成を概略的に示した図である。
【図2】本実施の形態の電子顕微鏡システムの構成を機能展開して示したブロック図である。
【図3】図2の電子顕微鏡システムにおける試料の観察および分析の手順を例示したフローチャートである。
【図4】図2の表示装置における画面例である。
【図5】図3のS4におけるSEMハードウェアの調整手順を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1 SEMハードウェア
2 EDXハードウェア
3 コンピュータ(電子顕微鏡制御装置)
3a SEMコンピュータ
3b EDXコンピュータ
4 SEM−EDX統合プログラム
5 SEMアプリケーション
6 EDXアプリケーション
7 データ共有オブジェクト
8 SEM制御データ
9 表示装置
10 ポインティングデバイス
21 SEM操作メニュー
22 SEM設定メニュー
23 SEM像
24 EDX操作メニュー
25 EDX設定メニュー
41 レシピ
42 SEMアプリケーション
43 EDXアプリケーション
44 SEM制御データ
46 外部通信手段
71 SEM制御データ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線分析装置を備える電子顕微鏡における電子線照射電流を制御する電子顕微鏡制御装置であって、
前記X線分析装置におけるデットタイムの目標値の範囲を記憶する記憶部と、
前記X線分析装置から出力された計測結果に基づき、前記X線分析装置におけるデットタイムを算出し、前記算出されたデットタイムと、前記デットタイムの目標値の範囲とを比較し、前記算出されたデットタイムが、前記目標値の範囲内の値でなかったとき、前記電子顕微鏡の電子線照射電流を制御する制御データを作成する制御部と、
前記電子顕微鏡から、この電子顕微鏡における電子線照射電流の制御結果を受信し、前記受信した制御結果と、前記電子顕微鏡へ出力した制御データとを比較し、前記制御結果が前記制御データと異なる場合、前記受信した制御結果を、前記制御部用のフォーマットに変換して前記制御部へ出力するとともに、前記制御部で作成された制御データを、前記電子顕微鏡の制御用のフォーマットに変換し、前記電子顕微鏡へ出力するデータ共有部と、
を備えることを特徴とする電子顕微鏡制御装置。
【請求項2】
前記記憶部は、前記X線分析装置におけるデットタイムおよびX線検出効率の目標値の範囲を記憶し、
前記制御部は、前記X線分析装置におけるデットタイムおよびX線検出効率を算出し、前記算出されたデットタイムおよび前記デットタイムの目標値の範囲の比較と、前記算出されたX線検出効率および前記X線検出効率の目標値の範囲の比較とを行い、前記算出されたデットタイムおよび前記算出されたX線検出効率の少なくとも一方が前記各目標値の範囲内でなかったとき、前記電子顕微鏡の電子線照射電流を制御する制御データを作成することを特徴とする請求項1に記載の電子顕微鏡制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記電子顕微鏡およびX線分析装置それぞれの操作画面と、前記電子顕微鏡による撮像画像と、前記X線分析装置による分析結果とを同じ画面上に表示する画面を作成し、前記電子顕微鏡制御装置の表示装置へ出力することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子顕微鏡制御装置。
【請求項4】
X線分析装置を備える電子顕微鏡と、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の電子顕微鏡制御装置とを含む電子顕微鏡システム。
【請求項5】
X線分析装置を備える電子顕微鏡の制御方法であって、
前記X線分析装置におけるデットタイムの目標値の範囲を記憶する記憶部と、
前記X線分析装置から出力された計測結果に基づき、前記X線分析装置におけるデットタイムを算出し、前記算出されたデットタイムと、前記デットタイムの目標値の範囲とを比較し、前記算出されたデットタイムが、前記目標値の範囲内の値でなかったとき、前記電子顕微鏡の電子線照射電流を制御する制御データを作成する制御部と、
前記電子顕微鏡から、この電子顕微鏡における電子線照射電流の制御結果を受信し、前記受信した制御結果と、前記電子顕微鏡へ出力した制御データとを比較し、前記制御結果が前記制御データと異なる場合、前記受信した制御結果を、前記制御部用のフォーマットに変換して前記制御部へ出力するとともに、前記制御部で作成された制御データを、前記電子顕微鏡の制御用のフォーマットに変換し、前記電子顕微鏡へ出力するデータ共有部と、
を備える電子顕微鏡制御装置が、
前記X線分析装置から出力された計測結果に基づき、前記X線分析装置におけるデットタイムを算出し、
前記算出されたデットタイムと、前記デットタイムの目標値の範囲とを比較し、前記算出されたデットタイムが、前記目標値の範囲内の値でなかったとき、前記電子顕微鏡の電子線照射電流を制御する制御データを、前記データ共有部経由で前記電子顕微鏡へ出力し、
前記電子顕微鏡から、前記データ共有部経由で前記電子顕微鏡における電子線照射電流の制御結果を受信する、
ことを特徴とする電子顕微鏡の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−86011(P2007−86011A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−278066(P2005−278066)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】