説明

電子顕微鏡装置

【課題】走査電子像と光学像との同時観察が可能であり、而も構造も簡単な電子顕微鏡装置を提供する。
【解決手段】電子ビームを走査する走査手段10と、電子ビームが走査された試料8から発せられる電子11を検出する電子検出器12を有し、該電子検出器からの検出結果に基づき走査電子像を得る走査型電子顕微鏡2と、照明光を射出する発光源13を有し、試料に照明光を照射して該試料からの反射光を受光して光学像を得る光学顕微鏡3とを具備し、前記電子検出器は電子/光変換する蛍光体層と、該蛍光体層からの蛍光の波長帯域の全て或は略全てが透過する様に制限した波長フィルタと、該波長フィルタを透過した前記蛍光を受光し、光/電気変換する波長検出素子を有し、前記照明光の前記波長フィルタを透過する波長帯域の光量が前記走査電子像の劣化限度を超えない様にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は試料の走査電子像と光学像を観察できる電子顕微鏡装置、特に電子走査中に同時に光学像の観察を可能とした電子顕微鏡装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)は、電子ビームを試料上に走査し、電子ビームの照射によって発した電子を検知して試料表面の性状について走査電子像を取得するものである。
【0003】
一方、電子ビームの画角は非常に小さく、照射位置が事前に分っていないと、電子ビームを特定の位置に照射するのは極めて困難である。
【0004】
この為、電子顕微鏡装置では電子顕微鏡に比べ低倍率の光学顕微鏡を備えており、先ず試料を照明光(白色光)により照明し、光学顕微鏡により試料の観察を行い、照射位置を特定し、次に電子顕微鏡に切替え、照射位置に電子ビームを走査し、観察することが行われている。
【0005】
走査電子像を得る場合は、試料から発せられた電子を蛍光体に入射させ、蛍光体が発する光を光電変換素子により電気信号に変換し、この電気信号に基づき走査電子像が取得されている。又、光学顕微鏡を用いた光学像も、試料から反射される光を光学顕微鏡用の光電素子で受光し、電気信号に変換し、この電気信号に基づき光学像が取得されている。
【0006】
ところが、電子ビームの走査で得られる電子と前記試料から反射される光とでは、反射光のエネルギレベルが得られる電子のエネルギレベルに比べて著しく大きく、電子ビームを検出する光電素子に試料からの反射光が入射した場合、光電素子が飽和してしまい、或はS/Nが著しく小さくなって電子ビームを検出することができなくなってしまう。
【0007】
この為、従来より、光学顕微鏡で観察する場合と、電子顕微鏡で観察する場合とでは、完全に切替え、光学顕微鏡で観察している状態では、電子顕微鏡では観察せず、又、電子顕微鏡で観察している状態では、光学顕微鏡では観察しない様な構造となっている。
【0008】
例えば、光学顕微鏡と電子顕微鏡とが分離され、又光学顕微鏡の光軸と電子顕微鏡の光軸とは既知の関係で設けられ、試料を保持したテーブルが光学顕微鏡と電子顕微鏡との間を移動することで、光学像の観察位置と走査電子像の観察位置とが関連付けられる様になっている。
【0009】
この為、従来の電子顕微鏡では、構造が複雑となっていると共に走査電子像と光学像とを同時に観察することができないという問題があった。
【0010】
尚、走査電子像と光学像との同時観察を可能とした電子顕微鏡として特許文献1に示されるものがある。
【0011】
特許文献1に示されるものでは、電子顕微鏡の光学系と光学顕微鏡の光学系とを同一光軸とし、照明光と電子ビームとを同時に照射し、電子検出器からの信号については、照明光の信号を直流成分として除去し、電子のみの信号を抽出する様にしている。
【0012】
然し乍ら、上記した様に、照明光による直流成分が信号成分に対して著しく大きい為、実現は極めて困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平4−280053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は斯かる実情に鑑み、走査電子像と光学像との同時観察が可能であり、而も構造も簡単な電子顕微鏡装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、電子ビームを走査する走査手段と、電子ビームが走査された試料から発せられる電子を検出する電子検出器を有し、該電子検出器からの検出結果に基づき走査電子像を得る走査型電子顕微鏡と、照明光を射出する発光源を有し、試料に照明光を照射して該試料からの反射光を受光して光学像を得る光学顕微鏡とを具備し、前記電子検出器は電子/光変換する蛍光体層と、該蛍光体層からの蛍光の波長帯域の全て或は略全てが透過する様に制限した波長フィルタと、該波長フィルタを透過した前記蛍光を受光し、光/電気変換する波長検出素子を有し、前記照明光の前記波長フィルタを透過する波長帯域の光量が前記走査電子像の劣化限度を超えない様にした電子顕微鏡装置に係るものである。
【0016】
又本発明は、前記発光源はLEDであり、該LEDの発光特性が前記波長フィルタの透過波長帯域に含まれるスペクトルの光強度が不透過波長帯域の光強度よりも小さくなっている電子顕微鏡装置に係り、又光学顕微鏡の照明光学系が照明用波長選択フィルタを有し、前記発光源はLEDであり、前記照明用波長選択フィルタは、前記波長フィルタの透過波長帯に対応する波長の透過率を制限し、前記波長フィルタの不透過波長帯に対応する波長を透過とする電子顕微鏡装置に係るものである。
【0017】
又本発明は、前記走査型電子顕微鏡、前記光学顕微鏡の作動を制御する制御部を具備し、該制御部は、前記光学顕微鏡が取得する光学画像の波長帯の内、前記照明用波長選択フィルタを透過した波長帯を増幅し、色調補正する電子顕微鏡装置に係るものである。
【0018】
又本発明は、前記試料表面に検査光を照射し、異物からの散乱光を検出して異物検出を行う異物検出装置を更に具備し、前記検査光は前記波長フィルタの透過波長帯域から外れた波長を有する様に設定された電子顕微鏡装置に係るものである。
【0019】
又本発明は、前記試料表面に干渉光を照射し、前記試料表面からの前記干渉光反射を用いて前記試料の高さ位置を検出する干渉計を更に具備し、前記干渉光は前記波長フィルタの透過波長帯域から外れた波長を有する様に設定された電子顕微鏡装置に係るものである。
【0020】
又本発明は、前記試料表面に検査光を照射し、異物からの散乱光を検出して異物検出を行う異物検出装置と、前記試料表面に干渉光を照射し、前記試料表面からの前記干渉光反射を用いて前記試料の高さ位置を検出する干渉計とを具備し、前記検査光、前記干渉光は、前記波長フィルタの透過波長帯域から外れた波長を有し、前記検査光、前記干渉光が異なる波長帯を有する様に設定された電子顕微鏡装置に係るものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、電子ビームを走査する走査手段と、電子ビームが走査された試料から発せられる電子を検出する電子検出器を有し、該電子検出器からの検出結果に基づき走査電子像を得る走査型電子顕微鏡と、照明光を射出する発光源を有し、試料に照明光を照射して該試料からの反射光を受光して光学像を得る光学顕微鏡とを具備し、前記電子検出器は電子/光変換する蛍光体層と、該蛍光体層からの蛍光の波長帯域の全て或は略全てが透過する様に制限した波長フィルタと、該波長フィルタを透過した前記蛍光を受光し、光/電気変換する波長検出素子を有し、前記照明光の前記波長フィルタを透過する波長帯域の光量が前記走査電子像の劣化限度を超えない様にしたので、従来の構成を変えることなく、走査電子像と光学像との同時観察が可能となる。
【0022】
又本発明によれば、前記発光源はLEDであり、該LEDの発光特性が前記波長フィルタの透過波長帯域に含まれるスペクトルの光強度が不透過波長帯域の光強度よりも小さくなっているので、走査電子像の劣化を抑制してより鮮明な光学像が観察できる。
【0023】
又本発明によれば、光学顕微鏡の照明光学系が照明用波長選択フィルタを有し、前記発光源はLEDであり、前記照明用波長選択フィルタは、前記波長フィルタの透過波長帯に対応する波長の透過率を制限し、前記波長フィルタの不透過波長帯に対応する波長を透過とするので、走査電子像の劣化を抑制してより鮮明な光学像が観察できる。
【0024】
又本発明によれば、前記走査型電子顕微鏡、前記光学顕微鏡の作動を制御する制御部を具備し、該制御部は、前記光学顕微鏡が取得する光学画像の波長帯の内、前記照明用波長選択フィルタを透過した波長帯を増幅し、色調補正するので、走査電子像の劣化を抑制してより鮮明で、而も自然色に近い状態の光学像が観察できる。
【0025】
又本発明によれば、前記試料表面に検査光を照射し、異物からの散乱光を検出して異物検出を行う異物検出装置を更に具備し、前記検査光は前記波長フィルタの透過波長帯域から外れた波長を有する様に設定されたので、検査光が走査電子像観察に与える影響がなくなり、走査電子像の観察と異物検出、異物観察が同時に行え、又走査型電子顕微鏡による走査電子像の取得と異物検出装置による異物検出とを機械的に分離して行う必要がなく、構造が簡略化できる。
【0026】
又本発明によれば、前記試料表面に干渉光を照射し、前記試料表面からの前記干渉光反射を用いて前記試料の高さ位置を検出する干渉計を更に具備し、前記干渉光は前記波長フィルタの透過波長帯域から外れた波長を有する様に設定されたので、干渉光が走査電子像観察に与える影響がなくなり、走査電子像観察と試料の高さ測定とが同時に行え、又走査型電子顕微鏡による走査電子像の取得と干渉計による試料の高さ測定とを機械的に分離して行う必要がなく、構造が簡略化できる。
【0027】
又本発明によれば、前記試料表面に検査光を照射し、異物からの散乱光を検出して異物検出を行う異物検出装置と、前記試料表面に干渉光を照射し、前記試料表面からの前記干渉光反射を用いて前記試料の高さ位置を検出する干渉計とを具備し、前記検査光、前記干渉光は、前記波長フィルタの透過波長帯域から外れた波長を有し、前記検査光、前記干渉光が異なる波長帯を有する様に設定されたので、走査電子像観察と、光学像観察、異物検出、異物観察、試料の高さ測定とが同時に行え、更に、走査型電子顕微鏡による走査電子像の取得と光学顕微鏡による光学像の取得、異物検出装置による異物検出、干渉計による試料の高さ測定とを機械的に分離して行う必要がなく、構造が簡略化できるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明が実施される電子顕微鏡装置の概略構成図である。
【図2】該電子顕微鏡装置を他の方向から見た概略構成図である。
【図3】該電子顕微鏡装置に用いられる電子検出器の一例を示す説明図である。
【図4】(A)は、波長検出素子の感度領域と蛍光体層が発する蛍光の波長帯域の関係を示す線図、(B)は、前記電子検出器に組込まれる波長フィルタの透過波長帯域を示す線図である。
【図5】他の蛍光体層を用いた場合の、発光される蛍光の波長帯域を示す線図である。
【図6】(A)はLED13aの発光特性を示す線図、(B)は他のLED13bの発光特性を示す線図である。
【図7】(A)〜(F)は、LED13aを発光源とし、それぞれ照射強度の異なる光学写真を示した図であり、(A)はLED13aの照射強度を1とした場合、(B)は照射強度10、(C)は照射強度15、(D)は照射強度20、(E)は照射強度30、(F)は照射強度40である場合の光学写真を示している。
【図8】(A)〜(F)は、LED13aを発光源とし、それぞれ照射強度を異ならせた場合のSEM写真を示した図であり、(A)はLED13aの照射強度を1とした場合、(B)は照射強度10、(C)は照射強度15、(D)は照射強度20、(E)は照射強度30、(F)は照射強度40である場合のSEM写真である。
【図9】(A)〜(F)は、LED13bを発光源とし、それぞれ照射強度の異なる光学写真を示した図であり、(A)はLED13bの照射強度を1とした場合、(B)は照射強度10、(C)は照射強度15、(D)は照射強度20、(E)は照射強度30、(F)は照射強度40である場合の光学写真を示している。
【図10】(A)〜(F)は、LED13bを発光源とし、それぞれ照射強度を異ならせた場合のSEM写真を示した図であり、(A)はLED13bの照射強度を1とした場合、(B)は照射強度10、(C)は照射強度15、(D)は照射強度20、(E)は照射強度30、(F)は照射強度40である場合のSEM写真である。
【図11】波長検出器に設けられた波長フィルタの透過率を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施例を説明する。
【0030】
先ず、図1、図2に於いて、本発明に係る電子顕微鏡装置1の概略を説明する。
【0031】
該電子顕微鏡装置1は、走査型電子顕微鏡2、光学顕微鏡3、干渉計4、及び前記走査型電子顕微鏡2、前記光学顕微鏡3、前記干渉計4の作動を制御する制御部5を具備し、前記光学顕微鏡3の光軸6、前記走査型電子顕微鏡2の光軸7の交差する点に測定対象(試料)8が設置され、該測定対象8は前記光軸6に直交するX−Yの2方向に移動可能な検査ステージ9に載置されている。
【0032】
前記走査型電子顕微鏡2の光軸7は前記光学顕微鏡3の光軸6に対して所定角度(例えば60°)傾斜しており、前記光軸6と前記光軸7の交差する点が前記測定対象8の観察点となっている。前記光軸7に沿って電子ビームが前記測定対象8に照射され、又電子ビーム走査手段10によって所定範囲を走査する様になっている。電子ビームが照射されることで、前記測定対象8から発せられた電子11は電子検出器12によって検出される。又、前記検査ステージ9は電子ビームの照射と同期してX−Yの2方向に移動し、電子ビームは前記測定対象8の所要範囲を走査する。
【0033】
前記電子検出器12の検出結果は前記制御部5に送出され、検出結果に基づき前記制御部5に於いて走査電子像が作成される。
【0034】
前記光軸6上には照明光を発する発光源としてのLED13、第1ハーフミラー14、第2ハーフミラー15、対物レンズ16が配置され、更に前記LED13と前記第1ハーフミラー14との間には波長フィルタ40(後述)が設けられる。前記LED13が発する照明光は、白色光又は白色光に近い光、即ち略全可視光波長帯域に亘る波長帯を含む光となっている。前記LED13、前記第1ハーフミラー14、前記波長フィルタ40、前記対物レンズ16等は、前記光学顕微鏡3の照明光学系を構成する。
【0035】
前記LED13は発光駆動部17によって発光が制御される。前記LED13から発せられた照明光は前記第1ハーフミラー14、前記第2ハーフミラー15、前記対物レンズ16を通して前記測定対象8に照射され、該測定対象8で反射された照明光は前記第2ハーフミラー15を通り、前記第1ハーフミラー14で反射されて観察用CCD18で受光される様になっている。
【0036】
前記干渉計4は光軸19を有し、該光軸19は前記第2ハーフミラー15で偏向され、前記測定対象8上に到達する。前記光軸19上に第3ハーフミラー21が配設され、該第3ハーフミラー21を挾んで一方に計測用CCD22、他方に参照鏡23が配設されている。
【0037】
計測用光源24から前記光軸19上に干渉用の単波長光が射出され、単波長光の一部は前記第3ハーフミラー21を透過し、前記第2ハーフミラー15で反射され、前記対物レンズ16を通して前記測定対象8に照射される。該測定対象8で反射された単波長光は、前記第2ハーフミラー15、前記第3ハーフミラー21を通って前記計測用CCD22で受光される。又、前記第3ハーフミラー21で反射された前記単波長光の残部は前記参照鏡23で反射され、前記第3ハーフミラー21を透過した後、前記計測用CCD22で受光される。該計測用CCD22は、前記測定対象8からの反射光と前記参照鏡23からの反射光を受光し、両反射光の干渉により前記測定対象8の高さ方向の位置を測定する。
【0038】
前記測定対象8の観察点のX−Y位置と前記干渉計4で得られる高さ方向の位置とで観察点の3次元位置情報が得られる。
【0039】
又、前記測定対象8の表面の異物を検出する異物検出装置25が設けられる。
【0040】
該異物検出装置25は、異物検出用の検査光を照射する異物検出用光源26と異物によって反射される散乱光を検出する散乱光検出器27を有し、前記異物検出用光源26の照射光軸28は前記走査型電子顕微鏡2の光軸7とは異なった方向から前記測定対象8の表面に入射する様になっている。又、前記散乱光検出器27の光軸29は散乱光を受光し易い様に、図2の紙面に対して垂直な方向となっている。即ち、前記照射光軸28と前記光軸6を含む平面と、前記光軸29と前記光軸6を含む平面とは直交している。尚、図2は理解を容易にする為、前記照射光軸28と前記光軸29とが同一平面内にある様に示している。
【0041】
前記測定対象8の表面に検査光を照射し、前記測定対象8の表面に異物が有った場合、異物により検査光が散乱され、前記散乱光検出器27によって散乱光が検出される。検出可能な異物の大きさは、使用される検査光の波長によって異なるが、赤色系の光を使用した場合でも、前記光学顕微鏡3では観察が難しいサブミクロンの大きさの異物を検出可能である。更に、検査光の画角は、電子ビームより大きく、検査光の照射位置を特定すること、目的とする検査部位を探すことは電子ビームより簡単である。
【0042】
次に、前記電子検出器12について図3により説明する。
【0043】
ガラス基板等の透明板31に蛍光体層32が形成されて電子/光変換部材(シンチレータ)33が構成され、該電子/光変換部材33に、波長フィルタ34、ライトガイド35、波長検出素子36が順次連設され、更にこれらが遮光カバー37で覆われることで一体化され、前記電子検出器12を構成している。
【0044】
前記蛍光体層32に電子11が入射することで、該蛍光体層32が所定量域の波長(蛍光)を発光する。蛍光は前記波長フィルタ34を通過し、更に前記ライトガイド35を経て前記波長検出素子36に到達する。該波長検出素子36は蛍光を電気信号に変換する。従って、前記電子検出器12は、電子/光/電気変換し、電子11が入射すると、電気信号を発する。
【0045】
以下、図4を参照して前記電子検出器12について更に説明する。
【0046】
図4(A)中、曲線Aは、前記蛍光体層32から発せられる波長帯域を示し、曲線Bは前記波長検出素子36が検出する波長帯域を示している。図示される様に、前記曲線Bの波長帯域の方が前記曲線Aの波長帯域より広くなっており、前記波長検出素子36に到達する波長帯域を前記曲線A、即ち前記蛍光体層32が発する蛍光の波長帯域に限定しても、感度上支障はない。
【0047】
図4(B)中、曲線Cは前記波長フィルタ34の波長透過特性を示している。該波長フィルタ34は透過波長帯域Wを有し、該透過波長帯域Wは蛍光の波長帯域の殆どを含み、波長の透過を蛍光の波長帯に略限定するものである。例えば300nm〜600nmの波長帯を透過する。尚、前記波長フィルタ34で蛍光の波長の透過帯域を制限する場合は、蛍光の透過光量が90%〜95%以上となる様に設定する。
【0048】
従って、前記計測用光源24から発する干渉用の単波長光、前記異物検出用光源26から発せられる検査光の波長を前記透過波長帯域Wから外れたものとすれば、電子ビームを走査し、走査電子像を観察しつつ、又前記干渉計4による前記測定対象8の高さ測定が行え、又走査電子像を観察すると同時に前記異物検出用光源26からの検査光の照射により、異物の検出が行える。この時、前記計測用光源24、前記異物検出用光源26からの光が前記波長フィルタ34を透過する透過率は0.001%以下が好ましい。
【0049】
例えば、前記異物検出用光源26が発する検査光の波長が、図4(B)中、波長Dで示されるとすると、検査光は前記波長フィルタ34によって遮断され、前記波長検出素子36には到達しない。即ち、前記異物検出装置25により前記測定対象8の表面の異物を検出、或は観察しつつ走査電子像の観察が可能である。
【0050】
又、前記干渉計4では、前記計測用CCD22で得た像を、目視で観察する必要はないので、選択可能な波長帯域は広くなり、前記透過波長帯域W、前記波長D以外の波長を選択することが容易である。
【0051】
次に、図5は、前記蛍光体層32が発する蛍光の波長帯域の他の例を示しており、図5中曲線Eで示される波長帯域では、蛍光のピークは波長400nmに集中し、又波長帯域の広がりも、図4(A)の曲線Aで示した場合よりも狭くなっている。可視光の波長は380nm〜780nmと言われており、前記曲線Eを持つ前記蛍光体層32では、前記波長フィルタ34の透過波長帯域Wを380nm〜500nm程度に制限することで、蛍光の波長帯域の殆どをカバーでき、又透過波長帯域Wを380nm〜500nm程度に制限することで、500nm〜780nmの波長帯域の可視光、即ち青系の光を除く可視光の使用が可能となる。
【0052】
更に、500nm〜780nmの波長帯域の一部の波長帯を前記干渉計4の干渉光に、又残りの他の波長帯域を前記異物検出装置25の検査光にそれぞれ割当てれば、前記干渉計4による高さ測定、前記異物検出装置25による異物検出、及び前記走査型電子顕微鏡2による走査電子像の観察を同時に行うことができる。尚、上記した各波長帯域は、例示であって、本発明は上記各波長帯域に限定されるものではない。
【0053】
又、図6(A)、図6(B)は、それぞれ異なるLED13a,13bが発する照明光の発光スペクトルの一例を示すものである。白色光(又は白色光に近い光)を発するLEDでは、励起光の特性から青色の波長帯(2つのスペクトル共に450nm近辺)にピークを有する。ここで図6(A)のスペクトルを有するものがLED13a、図6(B)のスペクトルを有するものがLED13bとする。
【0054】
上記した様に、前記波長フィルタ34の透過波長帯域は、Wが380nm〜500nmであり、500nm〜780nmの波長帯域の可視光をカットするので、前記LED13a,13bの光の大部分の波長帯域はカットされる。ところが、前記LED13a,13b共に青色の波長帯域内(380nm〜500nmの波長帯域内)にピークを有するので、このピークの波長帯の光は、前記波長フィルタ34を通過して前記波長検出素子36に検出され、ノイズとなる。
【0055】
上記図1で示した電子顕微鏡装置1に於いて、前記波長フィルタ40を取外し、前記LED13a,13bからの照明光を直に照射した場合、即ち照明光の青色帯域の光がノイズ光として含まれる場合の、光学顕微鏡で撮像した光学写真と走査型電子顕微鏡で撮像した走査電子像写真(以下、SEM写真と称す)との比較を示す。照明光は、波長選択されていないので、得られる光学写真は略自然色となる。尚、前記LED13aでは青色帯域の光量が大きいので、青みがかった色、前記LED13bは赤色帯域の光量が多いので、赤みがかった色となる。
【0056】
図7(A)〜図7(F)は、それぞれ前記LED13aで照射した場合の光学写真であり、図8(A)〜図8(F)は、それぞれ図7(A)〜図7(F)に対応した照射状態で走査型電子顕微鏡により撮像したSEM写真である。
【0057】
又、図7(A)でのLED13aの照射強度を1とした場合、図7(B)は照射強度10、図7(C)は照射強度15、図7(D)は照射強度20、図7(E)は照射強度30、図7(F)は照射強度40となっている。
【0058】
光学写真により判別すると、略照射強度15からが観察に適した光学像となっている。一方照射強度が大きくなる程、ノイズが大きくなるのでSEM像は劣化していく。図8(A)〜図8(F)によれば、前記LED13aの照射強度15(図8(C)参照)程度迄鮮明であり、照射強度40(図8(F)参照)では判別ができない程度となる。従って、LED13aの照射強度15〜20では、光学写真もSEM写真も、観察可能な鮮明さを有している。
【0059】
尚、観察可能な限度を超えた、画像の劣化を画像の消失とし、又観察可能な限度の劣化を劣化限度と称する。尚、劣化限度は、前記LED13が発光する照射光の色調、前記測定対象8の反射率、色によっても異なり、予備測定を行って劣化限度についてのデータを取得するのが好ましい。
【0060】
而して、照明光について波長選択しない状態でも、照明光の照射強度を調整することで、即ち、蛍光体が発する光の強度(以下蛍光強度):S、LED13aの照射強度:Nとの比、S/Nを所定の範囲又は値(本実施例の場合1/3)に設定することで、走査電子像と光学像との同時観察が可能となる。
【0061】
尚、前記S/Nは、照明用に使用するLED13の発光特性、前記測定対象8の反射率等によっても変化するので、使用するLED13の特性に応じて最適なS/Nを設定する。
【0062】
例えば、前記LED13bの発光特性は、前記LED13aに対して500nm以上の波長での光量が大きく、青色の波長帯域内のピーク値も赤色側のピーク値に対して小さくなっている。従って、同等の発光強度であれば、前記LED13bを使用した場合の方がS/Nは大きいと予想される。
【0063】
図9(A)〜図9(F)は、それぞれ前記LED13bで照射した場合の光学写真であり、図10(A)〜図10(F)は、それぞれ図9(A)〜図9(F)に対応した照射状態で走査型電子顕微鏡により撮像したSEM写真である。
【0064】
又、図9(A)でのLED13bの照射強度を1とした場合、図9(B)は照射強度10、図9(C)は照射強度15、図9(D)は照射強度20、図9(E)は照射強度30、図9(F)は照射強度40となっている。
【0065】
図7(A)〜図7(F)と図9(A)〜図9(F)とを比較した場合、光学写真では両者とも同様な傾向を示しているが、SEM写真の図8(A)〜図8(F)と図10(A)〜図10(F)とを比較すると、照射強度40の図8(F)と図10(F)とを比較すると、図8(F)のSEM写真は劣化が著しいが図10(F)のSEM写真は未だ判別可能であり、図10(F)のSEM写真は図8(E)程度(照射強度30)の劣化程度であると判断できる。
【0066】
同様に観察すると、LED13bの照射強度30(図10(E)参照)は、LED13aの照射強度20(図8(D)参照)程度の鮮明さと判断できる。即ち、LED13bを照明用光源として使用した場合は、照射強度15〜30で、光学写真もSEM写真も、観察可能な鮮明さを有していると判断できる。
【0067】
これは、図6(B)が示すLED13bの発光特性で、赤色側帯域の光量(前記波長フィルタ34でカットされる光量)が大きく、青色側帯域の光量(前記波長フィルタ34を透過する光量)が小さいことと対応している。従って、照射強度を調整すると共に使用する照明用LED13の発光特性を選択することで、より鮮明な光学像とSEM像とが得られ、走査電子像と光学像との同時観察が可能となる。
【0068】
次に、前記電子顕微鏡装置1に波長フィルタ40を用いた実施例を説明する。
【0069】
該波長フィルタ40の波長透過特性を、図6(A)中に破線で示す。該波長フィルタ40の波長透過特性は、例えば380mn〜500nmで透過率を50%、500nm以上で透過率を90%以上(以下、90%以上の透過を単に透過と称す)とする。尚、前記波長フィルタ40の波長透過特性は、前記電子/光変換部材33が発光する波長帯、或は前記波長フィルタ34の波長透過特性に応じて適宜変更されることは言う迄もない。
【0070】
前記波長フィルタ40を使用することで、照射光の青色側帯域の光量が少なくなり、光学写真及びSEM写真の鮮明度が向上する。又、青色側帯域の光量が含まれているので、得られる光学像は自然色に近くなる。
【0071】
更に、透過率を20%或は10%とすることもできる。この場合、前記制御部5に色調調整部(図示せず)を設け、青色側帯域の増幅率を大きくし、光学像の色調を補正することでSEM写真の鮮明度を増大させると共に得られる光学像をより自然色に近づけることができる。
【0072】
前記波長フィルタ40の透過率は、LED13の発光特性を考慮して設定され、例えば、LED13aでは、青色側帯域の透過率を10%とし、LED13bでは透過率を20%とする等である。
【0073】
而して、前記光学顕微鏡3の照明光学系に設けられる波長選択フィルタに青色側帯域の光を所定%透過する様に設定することで、走査電子像と光学像との同時観察が可能となると共に自然色或は自然色に近い状態で光学像の観察が可能となる。
【0074】
上記実施例では、光源の発光特性に合わせて前記波長フィルタ40の波長透過特性を設定したが、前記波長フィルタ34の波長透過特性に合わせて前記波長フィルタ40の波長透過特性を設定してもよい。
【0075】
例えば、波長フィルタ34が図11に示す様な波長透過特性を有し、照明光の青色成分の光量を1/3程度に抑えれば、他の色と同等程度の影響力(直流成分)となる。つまり、(LED13a側の)波長フィルタ40の青色の透過率を33%程度にすることにより、LEDの青色帯域の照射強度Sを電子検出器12の波長フィルタ34の青に対する緑と赤の付近の透過率(この場合はR:G:B=3:1:1程度)に合わせられる。これにより、緑の波長領域と赤の波長領域に対する青の波長領域の検出強度をある程度そろえることができる。
【0076】
上記した様に、前記電子検出器12が検知する波長帯域、前記検査光の波長帯域を分離し、更に走査電子像と光学像との同時観察を可能としたことで、電子顕微鏡装置1の利便性が更に向上する。
【0077】
即ち、先ず前記光学顕微鏡3により前記測定対象8の光学像を観察し、所定の観察部位を特定する。光学像を観察しつつ、前記異物検出装置25により検査光を照射し、散乱光により照射位置を更に限定する。次に、電子ビームを照射して観察部位の走査電子像の観察を行う。
【0078】
前記光学顕微鏡3の光学系の画角、検査光の画角、電子ビームの画角は順次小さくなるので、電子ビームの照射位置の特定が容易になる。又、前記光学顕微鏡3による観察、前記異物検出装置25による観察を同時に行えるので、観察部位特定時の修正、変更は、何時でも容易に可能である。
【0079】
又、前記電子検出器12の波長フィルタ34を挿脱可能とすることもできる。これにより、同時観察が不要な際に、照明光を消した状態で電子顕微鏡装置1を使用し、より感度が高い観察が可能となる。これは、S/N比を向上させたい場合に有効である。
【0080】
尚、前記異物検出装置25で異物を検出した場合、前記電子検出器12によって得られた情報から、スペクトル分析等により、異物の物性を得る等、異物の検査を行ってもよい。
【符号の説明】
【0081】
1 電子顕微鏡装置
2 走査型電子顕微鏡
3 光学顕微鏡
4 干渉計
5 制御部
8 測定対象
11 電子
12 電子検出器
13 LED
24 計測用光源
25 異物検出装置
26 異物検出用光源
27 散乱光検出器
33 電子/光変換部材
34 波長フィルタ
36 波長検出素子
40 波長フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを走査する走査手段と、電子ビームが走査された試料から発せられる電子を検出する電子検出器を有し、該電子検出器からの検出結果に基づき走査電子像を得る走査型電子顕微鏡と、照明光を射出する発光源を有し、試料に照明光を照射して該試料からの反射光を受光して光学像を得る光学顕微鏡とを具備し、前記電子検出器は電子/光変換する蛍光体層と、該蛍光体層からの蛍光の波長帯域の全て或は略全てが透過する様に制限した波長フィルタと、該波長フィルタを透過した前記蛍光を受光し、光/電気変換する波長検出素子を有し、前記照明光の前記波長フィルタを透過する波長帯域の光量が前記走査電子像の劣化限度を超えない様にしたことを特徴とする電子顕微鏡装置。
【請求項2】
前記発光源はLEDであり、該LEDの発光特性が前記波長フィルタの透過波長帯域に含まれるスペクトルの光強度が不透過波長帯域の光強度よりも小さくなっている請求項1の電子顕微鏡装置。
【請求項3】
光学顕微鏡の照明光学系が照明用波長選択フィルタを有し、前記発光源はLEDであり、前記照明用波長選択フィルタは、前記波長フィルタの透過波長帯に対応する波長の透過率を制限し、前記波長フィルタの不透過波長帯に対応する波長を透過とする請求項1の電子顕微鏡装置。
【請求項4】
前記走査型電子顕微鏡、前記光学顕微鏡の作動を制御する制御部を具備し、該制御部は、前記光学顕微鏡が取得する光学画像の波長帯の内、前記照明用波長選択フィルタを透過した波長帯を増幅し、色調補正する請求項3の電子顕微鏡装置。
【請求項5】
前記試料表面に検査光を照射し、異物からの散乱光を検出して異物検出を行う異物検出装置を更に具備し、前記検査光は前記波長フィルタの透過波長帯域から外れた波長を有する様に設定された請求項1の電子顕微鏡装置。
【請求項6】
前記試料表面に干渉光を照射し、前記試料表面からの前記干渉光反射を用いて前記試料の高さ位置を検出する干渉計を更に具備し、前記干渉光は前記波長フィルタの透過波長帯域から外れた波長を有する様に設定された請求項1の電子顕微鏡装置。
【請求項7】
前記試料表面に検査光を照射し、異物からの散乱光を検出して異物検出を行う異物検出装置と、前記試料表面に干渉光を照射し、前記試料表面からの前記干渉光反射を用いて前記試料の高さ位置を検出する干渉計とを具備し、前記検査光、前記干渉光は、前記波長フィルタの透過波長帯域から外れた波長を有し、前記検査光、前記干渉光が異なる波長帯を有する様に設定された請求項1の電子顕微鏡装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図11】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−9247(P2012−9247A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143543(P2010−143543)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(000220343)株式会社トプコン (904)
【Fターム(参考)】