説明

電極用組成物、蓄電デバイス用電極および蓄電デバイス

【課題】 比表面積の高い多孔質材料を電極活物質として用いた場合や、濡れ性の低い金属を集電体として用いた場合でも、電極層と集電体との密着性に優れ、かつ、可撓性に優れた電極を与える電極用組成物、この組成物を用いて形成された蓄電デバイス用電極および蓄電デバイスを提供すること。
【解決手段】 少なくとも1種のポリアミドイミド樹脂および/または少なくとも1種のポリイミド樹脂からなり、窒素含有量が6〜14質量%であるバインダー樹脂と、電極活物質とを含む電極用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極用組成物、蓄電デバイス用電極および蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタやリチウムイオン二次電池等の蓄電デバイスに用いられる電極は、一般的に、電極活物質とバインダー樹脂とを含む電極用組成物を、集電体に塗布、乾燥して作製される。バインダー樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレンやポリフッ化ビニリデン等の含フッ素樹脂が一般的に用いられている。
しかし、これらのバインダー樹脂を用いた場合、電極層と集電体との接合強度が弱く、電極層と集電体とが電極巻回時に剥離したり、充放電を繰り返すうちに剥離したりするという問題があった。
【0003】
このような問題を解決すべく、近年、接着性や耐熱性に優れた、ポリイミド樹脂,ポリアミドイミド樹脂をバインダーとして用いた電極を備えた蓄電デバイスが開発されている。
例えば、特許文献1(特開平9−270370号公報)には、ポリイミド樹脂またはポリアミドイミド樹脂をバインダー成分として含む炭素系導電性接着層を介して活性炭を主成分とするシート状分極性電極が集電体に接合されてなる電気二重層コンデンサ用電極が開示されている。特許文献2(特開平11−224671号公報)には、電極活物質とポリアミドイミド樹脂バインダーとから形成された電極層が、集電体に接着されてなる電極を備えた非水電解質二次電池が開示されている。
特許文献3(特開平11−102845号公報)には、炭素質粉末とポリイミド樹脂および/またはポリアミドイミド樹脂とを含む混合物と集電体とが一体化されてなる分極性電極を備えた電気二重層キャパシタが開示されている。
【0004】
これら各特許文献に開示された電極では、ポリアミドイミド樹脂等が、電極活物質のバインダーや、電極層と集電体との接着層構成材料として使用されているため、従来の含フッ素樹脂をバインダーとして用いた場合よりも、電極層と集電体との接着強度に優れている。
しかし、これらのバインダー樹脂を用いたとしても、活性炭をはじめとした、比表面積1000m2/g以上の多孔質材料を電極活物質とする場合や、多少濡れ性に劣る金属を集電体とする場合には、電極層と集電体との接着強度がなお不充分であり、長期使用時に剥離が生じてしまうという問題がある。また、これら各特許文献で得られた電極は、可撓性に乏しく、巻回型の非水系二次電池の電極としては使用できないという問題もある。
【0005】
【特許文献1】特開平9−270370号公報
【特許文献2】特開平11−224671号公報
【特許文献3】特開平11−102845号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、電極層と集電体との密着性に優れ、かつ、可撓性に優れた電極を与える電極用組成物、この組成物を用いて形成された蓄電デバイス用電極および蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、バインダーとして用いるポリアミドイミド樹脂および/またはポリイミド樹脂の窒素含有量を所定の値以上に調節することで、比表面積の高い多孔質材料を電極活物質として用いた場合や、濡れ性の低い金属からなる集電体を用いた場合でも、電極層と集電体との密着性に優れるとともに、可撓性にも優れる電極が得られること、およびこの電極を備えた蓄電デバイスが、充放電のサイクル寿命性能に優れ、内部抵抗が増大しにくいデバイスであることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
1. 少なくとも1種のポリアミドイミド樹脂および/または少なくとも1種のポリイミド樹脂からなり、窒素含有量が6〜14質量%であるバインダー樹脂と、電極活物質とを含むことを特徴とする電極用組成物、
2. 前記バインダー樹脂の窒素含有量が、7〜11質量%であることを特徴とする1の電極用組成物、
3. 前記バインダー樹脂が、少なくとも1種のポリアミドイミド樹脂であることを特徴とする1または2の電極用組成物、
4. 前記ポリアミドイミド樹脂およびポリイミド樹脂のガラス転移温度が、100〜300℃であることを特徴とする1〜3のいずれかの電極用組成物、
5. 前記電極活物質が、比表面積1000m2/g以上の炭素質物質であることを特徴とする1〜4のいずれかの電極用組成物、
6. 1〜5のいずれかに記載の電極用組成物から形成された電極層と、集電体とを備えることを特徴とする蓄電デバイス用電極、
7. 6の蓄電デバイス用電極を備えて構成された蓄電デバイス、
8. 非水系二次電池または電気二重層キャパシタである6の蓄電デバイス、
9. 少なくとも1種のポリアミドイミド樹脂および/または少なくとも1種のポリイミド樹脂からなり、窒素含有量が6〜14質量%であるバインダー樹脂と、電極活物質とを含む電極用組成物を、N−メチル−2−ピロリドンに混合、分散してなるペーストを、集電体に塗布し、これを乾燥して電極層を形成し、電極を得ることを特徴とする蓄電デバイス用電極の製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る電極用組成物は、少なくとも1種のポリアミドイミド樹脂および/または少なくとも1種のポリイミド樹脂からなり、窒素含有量が所定値以上のバインダー樹脂を用いているから、比表面積の高い電極活物質や、濡れ性の低い金属からなる集電体を使用する場合でも、電極層と集電体との密着性に優れた電極とすることができる。また、バインダー成分の分解温度が高いため、電極作製時に高温処理が可能となる。さらに、当該バインダー樹脂は、耐電解液性に優れており、高温使用時でも電解液に溶解しないため、電極層と集電体との剥離が起こりにくい。
上記バインダー樹脂を用いて形成された電極は、可撓性が高く取り扱い性に優れ、巻回型の非水電解質二次電池の電極としても使用することができる。
この電極を備えた蓄電デバイスは、内部抵抗が低く、しかも、その低抵抗が維持され易いため、大電流充放電サイクル寿命に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係る電極用組成物は、少なくとも1種のポリアミドイミド樹脂および/または少なくとも1種のポリイミド樹脂からなり、窒素含有量が6〜14質量%であるバインダー樹脂と、電極活物質とを含むものである。
ここで、バインダー樹脂の窒素含有量は、バインダー樹脂を構成する全てのポリアミドイミド樹脂および/またはポリイミド樹脂の総窒素含有量を意味する。その値は、元素分析装置(vario EL、eiementar Analysensysteme GmbH製)による測定値であり、分母となるポリアミドイミド樹脂および/またはポリイミド樹脂の質量は、溶媒や縮合水を除去した樹脂の質量である。
【0011】
このバインダー樹脂中の窒素含有量が、6質量%未満であると、このバインダー樹脂を含む電極組成物からなる電極層と、集電体との間の充分な密着性が得られない。特に、比表面積が1000m2/g以上の電極活物質を用いた場合に、密着性の低下はより顕著なものになる。一方、窒素含有量の上限は、特に限定されないが、一般的なポリアミドイミド樹脂および/またはポリイミド樹脂を用いた場合、窒素含有量は14質量%程度が限界であると考えられる。
電極用組成物からなる電極層と、集電体との密着性をより高めるためには、窒素含有量7質量%以上が好ましく、この密着性と、窒素含有量の調節のし易さを考慮すると、窒素含有量は7〜11質量%が好適であり、7〜8質量%が最適である。
【0012】
また、本発明の電極用組成物に用いられるポリアミドイミド樹脂およびポリイミド樹脂のガラス転移温度は、100〜300℃であることが好ましく、140〜250℃であることがより好ましい。
ガラス転移温度が、100℃未満であると、耐熱性が不足して電極作製時に施される高温乾燥に耐えられない可能性がある。また、当該電極組成物からなる電極を備えた蓄電デバイスの高温耐熱性、安全性、耐電解液性および寿命等が低下する可能性がある。
一方、ガラス転移温度が300℃を超えると、樹脂の可撓性および密着性が低下して本発明の電極組成物からなる電極層と集電体との剥離が生じる虞がある。
【0013】
ポリイミド樹脂は、その主鎖の繰り返し単位にイミド結合を有する樹脂の総称であり、耐薬品性、機械的性質、寸法安定性、電気的特性などに優れた樹脂として知られている。
このポリイミド樹脂は、一般的に、線状ポリイミド樹脂と硬化型ポリイミド樹脂とに大別される。線状ポリイミド樹脂には、熱可塑性樹脂および非熱可塑性樹脂があり、硬化型ポリイミド樹脂には、熱硬化型樹脂および光硬化型樹脂がある。本発明においては、それ単独で窒素含有量が6質量%以上のものであるか、その他のポリアミドイミド樹脂および/またはポリイミド樹脂と混合した際に、混合樹脂中の総窒素含有量が6質量%以上となるものであれば、いずれのタイプのポリイミド樹脂も制限なく使用できる。なお、ポリイミド樹脂をバインダー樹脂として用いる場合には、溶剤に溶かしたワニスとして用いることが好ましい。
【0014】
ポリイミド樹脂の合成に用いられる酸成分モノマーであるテトラカルボン酸は、特に限定されるものでははく、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノン−3,3′,4,4′−テトラカルボン酸、ジフェニルエーテル−3,3′,4,4′−テトラカルボン酸、ビフェニル−3,3′,4,4′−テトラカルボン酸、ナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸、ナフタレン−1,2,4,5−テトラカルボン酸、ナフタレン−1,2,5,8−テトラカルボン酸等が挙げられる。また、これらの無水物、塩化物等も挙げられる。中でも、反応性、耐熱性およびコストの点から、ピロメリット酸無水物が好ましい。
【0015】
ポリアミドイミド樹脂は、その主鎖の繰り返し単位中にイミド結合およびアミド結合の双方を有する樹脂の総称であり、ポリイミド樹脂と比べて耐熱性は多少劣るものの、可撓性および耐磨耗性に優れた樹脂として知られている。この可撓性および耐摩耗性という特性を考慮すると、本発明のバインダー樹脂としては、少なくともポリアミドイミド樹脂を含むものを用いることが好ましく、特に1種または2種以上のポリアミドイミド樹脂のみからなるものがより好ましい。なお、ポリアミドイミド樹脂をバインダー樹脂として用いる場合にも、溶剤に溶かしたワニスとして用いることが好ましい。
ポリイミド樹脂またはポリアミドイミド樹脂を含むワニスには、溶剤に可溶なポリイミド樹脂またはポリアミドイミド樹脂を溶剤に溶解してなるものと、ポリアミック酸等のポリイミド樹脂前駆体またはポリアミドイミド樹脂前駆体を溶剤に溶解してなるもので、高温の熱処理によりポリイミド樹脂またはポリアミドイミド樹脂に変化するものとがあるが、本発明ではいずれも使用できる。
【0016】
ポリアミドイミド樹脂の合成に用いられる酸成分のトリカルボン酸としては、特に限定されるものではなく、例えば、トリメリット酸、ブタン−1,2,4−トリカルボン酸、ナフタレン−1,2,4−トリカルボン酸等が挙げられ、通常、これらの無水物、酸塩化物等が用いられる。中でも、反応性、耐熱性およびコストの点から、トリメリット酸無水物が好ましい。
【0017】
本発明の電極用組成物に含まれる高窒素含有量のポリイミド樹脂およびポリアミドイミド樹脂を合成するにあたっては、上記各酸成分モノマーに加え、アミン成分であるジアミンまたはジイソシアネートが用いられる。これらのジアミンまたはジイソシアネートとしては、特に限定されるものではなく、公知の種々の化合物から適宜選択して用いることができる。
【0018】
ジアミンとしては、例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、1,4−ナフタレンジアミン、1,5−ナフタレンジアミン、2,6−ナフタレンジアミン、2,7−ナフタレンジアミン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、3,3′−ジアミノジフェニルスルホン、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、3,3′−ジアミノジフェニルエーテル、3,4−ジアミノジフェニルエーテル、3,4−ジアミノビフェニル、4,4′−ジアミノベンゾフェノン、3,3′−ジアミノベンゾフェノン、イソプロピリデンジアニリン、o−トリジン、2,4−トリレンジアミン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、4,4′−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、4,4′−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3′−ジアミノジフェニルスルフィド等の芳香族ジアミン;メチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサフルオロメチレンジアミン、ヘキサフルオロイソプロピリデンジアミン等の脂鎖式ジアミン;イソホロンジアミン、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジアミン等の脂環式ジアミン等が挙げられる。
ジイソシアネートとしては、上記ジアミンのアミノ基を−NCO基で置き換えたものなどが挙げられる。
これらの中でも、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、イソホロンジアミン、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジアミン、またはこれらのジアミンに対応するジイソシアネートが、反応性、溶解性、コスト等の点から好ましい。
【0019】
本発明においては、上述した酸成分と、アミン成分とを適宜選択し、溶融重合法や溶液重合法等の公知の重合法により合成し、得られるポリアミドイミド樹脂およびポリイミド樹脂の窒素含有量が6〜14質量%となるように調節すればよいが、市販されている等により一般的に入手可能なポリイミド樹脂および/またはポリアミドイミド樹脂を用いてもよい。
窒素含有量が6質量%以上のポリアミドイミド樹脂(ワニス)として入手可能なものは、例えば、N100NR125(東洋紡績(株)製)等が挙げられる。
このような高窒素含有量の樹脂を1種単独でまたは2種以上を混合して本発明の電極用組成物に用いられるバインダー樹脂とすることができる。
【0020】
また、窒素含有量が6質量%未満のポリイミド樹脂(ワニス)の市販品としては、リカコートSN−20(新日本理化(株)製)、Uワニス−A(宇部興産(株)製)等が挙げられる。
窒素含有量が6質量%未満のポリアミドイミド樹脂(ワニス)の市販品としては、N7525(東洋紡績(株)製)、NA−11(東洋紡績(株)製)、NR85NN(東洋紡績(株)製)等が挙げられる。
これらの樹脂も、上述した窒素含有量が6質量%以上の樹脂と混合し、混合樹脂の総窒素含有量が6質量%以上となる範囲の量であれば、使用することができる。
【0021】
本発明の電極用組成物に用いられる電極活物質としては、特に限定されるものではなく、各種蓄電デバイスに用いられる従来公知の電極活物質から、目的とする蓄電デバイスに応じたものを適宜選択して用いればよい。なお、蓄電デバイスとは、化学的、物理的または物理化学的に電気を蓄えることのできる装置または素子等をいい、例えば、リチウム電池、リチウムイオン電池等の二次電池、電気二重層キャパシタなどの充放電可能なデバイスが挙げられる。
【0022】
例えば、リチウム電池およびリチウムイオン電池の場合、正極に含まれる正極活物質としては、LiCoO2,LiNiO2,LiMnO2,LiMn24などのリチウムと遷移金属との複合酸化物、MnO2,V25などの遷移金属酸化物、MoS2,TiSなどの遷移金属硫化物、ポリアセチレン,ポリアセン,ポリアニリン,ポリピロール,ポリチオフェンなどの導電性高分子化合物、ポリ(2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール)などのジスルフィド化合物などが用いられる。
負極に含まれる負極活物質としては、リチウム金属、リチウムアルミニウム合金等のリチウム合金、リチウムを吸蔵・放出できる炭素質材料、黒鉛,フェノール樹脂,フラン樹脂などのコークス類、炭素繊維、ガラス状炭素、熱分解炭素、活性炭などが用いられる。
【0023】
電気二重層キャパシタの場合、電極として一対の分極性電極が用いられ、この分極性電極を構成する材料としては、電気化学的に不活性な高比表面積の材料であれば、特に限定はなく、活性炭,カーボンブラック等の炭素質材料、ポリアセン、金属微粒子、導電性金属酸化物微粒子等を用いることができる。中でも、非水電解液に対して電気化学的に不活性であるとともに、適度の導電性を有することから、炭素質物質が好適に用いられる。特に、電荷が蓄積する電極界面の面積が大きいという点から、活性炭が最適である。
【0024】
本発明のバインダー樹脂は、上述したように、高い比表面積を有する電極活物質と組み合わせた場合にも集電体に対する充分な密着性が発揮されるものである。このため、本発明の電極用組成物に用いられる電極活物質の比表面積は特に限定されるものではないが、比表面積1000m2/g以上、特に1300m2/g以上のものを用いることが好ましく、特に、これらの比表面積を有する炭素質材料が好適である。なお、比表面積は、窒素吸着等温線からBET法により算出した値である。
【0025】
バインダー樹脂と電極活物質との配合割合は、特に限定されるものではないが、接着強度増大と電極の電気抵抗の低減との兼ね合いから、当該電極用組成物から得られる電極層中にバインダー樹脂が3〜20質量%程度、好ましくは3〜10質量%程度含まれる割合とすることが好ましい。
一般的には、バインダー樹脂3〜10質量部、好ましくは4〜8質量部、電極活物質90〜97質量部、好ましくは92〜96質量部の割合で配合することが好適である。
【0026】
なお、本発明の電極用組成物中には、上記バインダー樹脂および電極活物質のほかに、得られる電極の抵抗を小さくするために、導電助剤を配合してもよい。導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック,ケッチェンブラック等のカーボンブラック、天然黒鉛、熱膨張黒鉛、炭素繊維、酸化ルテニウム、酸化チタン、アルミニウムやニッケル等の金属繊維などが用いられる。これらの中でも、少量の配合で所望の導電性を確保できるアセチレンブラック、ケッチェンブラックが好ましい。なお、導電助剤は、電極活物質に対して、通常5〜50質量%程度配合されるが、10〜30質量%程度配合することが好ましい。
【0027】
本発明に係る蓄電デバイス用電極は、上述した電極用組成物から形成された電極層と、集電体とを備えるものである。
ここで、集電体としては、特に限定されるものではなく、各種蓄電デバイスに用いられる従来公知の集電体から、目的とする蓄電デバイスに応じたものを適宜選択して用いればよい。
リチウム電池やリチウムイオン二次電池等の非水系二次電池に用いられる集電体としては、導電性に優れる材料が一般的に用いられる。具体例としては、銅,ニッケル,アルミニウム,チタン,タンタル等のバルブ金属、SUS304等のステンレス鋼、金,白金等の貴金属、黒鉛,ガラス状カーボン,カーボンブラックを含む導電性ゴム等の炭素系材料などが挙げられる。
【0028】
電気二重層キャパシタに用いられる集電体としては、導電性に優れ、かつ、電気化学的に耐久性のある材料が一般的に用いられる。具体例としては、アルミニウム,チタン,タンタル等のバルブ金属、SUS304等のステンレス鋼、金,白金等の貴金属、黒鉛,ガラス状カーボン,カーボンブラックを含む導電性ゴム等の炭素系材料などが挙げられる。
本発明の電極用組成物は、上述したように、濡れ性の低い金属からなる集電体を用いた場合でも、充分な接着力が得られることから、集電体として、エッチドアルミ、アルミニウム、ニッケル、銅等を用いることが好適である。
【0029】
本発明に蓄電デバイス用電極は、例えば、上記バインダー樹脂と電極活物質とを含む電極用組成物を、適当な溶剤、好ましくはN−メチル−2−ピロリドンに混合・分散してなるスラリーを、集電体に塗布し、これを乾燥して電極層を形成することで得ることができる。この際、バインダー樹脂の形態としては、粉末状または上述したワニスとして用いることができる。
電極用組成物を集電体に塗布した後の乾燥工程は、特に限定されるものではないが、120℃以上の温度条件で行うことが好ましい。また、塗布工程と乾燥工程との間に予備乾燥工程を適宜設けることもできる。
【0030】
スラリーの粘度は、特に限定されるものではないが、塗布等の作業性を考慮すると、コーンプレート粘度計で測定した30℃における粘度が、1000〜5000mPa・sであることが好ましい。なお、この粘度は、バインダー樹脂の分子量によっても左右されることから、使用する樹脂の分子量に応じて、溶剤の量を適宜加減し、スラリー粘度を上記範囲に調節するとよい。
以上のようにして得られた本発明の蓄電デバイス用電極は、電極層と集電体層とが強固に接着されている。
【0031】
本発明に係る蓄電デバイスは、上述の蓄電デバイス用電極を備えるものである。蓄電デバイスの基本構造は、一般的に、セパレータ(電解質を兼ねている場合もある)を介して正極および負極(電気二重層キャパシタの場合は一対の分極性電極)を対向配置し、必要に応じて非水電解液を含浸させたものである。本発明の蓄電デバイスにおいては、上記正極および負極(一対の分極性電極)の双方、またはいずれか一方が、本発明の蓄電デバイス用電極から構成されているものであればよく、蓄電デバイスを構成するその他の部材としては、公知の種々の部材を採用することができる。
【0032】
セパレータとしては、例えば、紙製、ポリプロピレン製、ポリエチレン製、ガラス繊維製セパレータなどを用いることができる。
非水電解液は、一般的に有機溶媒と電解質とから構成されるものである。
有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、スルホラン等の高誘電率溶媒;1,2−ジメトキシエタン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の低粘度溶媒およびこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0033】
電解質としては、伝導イオン種によって異なるが、リチウムイオン電池など、伝導イオン種がリチウムイオンのデバイスの場合、LiClO4、LiAsF6、LiPF6、LiBF4、LiCl、LiBr、CH3SO3Li、CF3SO3Li等のリチウム塩が、単独または2種以上の組み合わせで用いられることが多い。また、電気二重層キャパシタの電解質としては、4級アンモニウムカチオンや4級ホスホニウムカチオン等の4級オニウムカチオンと、BF4-、PF6-、ClO4-、CF3SO3-、(CF3SO22-、CF3CO2-等のアニオンとからなる塩が用いられることが多い。
以上のような、本発明の蓄電デバイス用電極を備えた蓄電デバイスは、内部抵抗が低く、かつ、その低内部抵抗が長期間維持され易いため、大電流充放電時のサイクル寿命性能に優れている。
【実施例】
【0034】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
活物質としてフェノール樹脂由来の炭素材料をアルカリ賦活処理してなる活性炭(MSP−20、BET比表面積2000m2/g、関西熱化学(株)製)と、導電性カーボンとしてHS−100(電気化学工業(株)製)と、バインダー樹脂としてポリアミドイミド樹脂N100NR125(窒素含有量7.7%、ガラス転移温度140℃、東洋紡績(株)製)と、塗工溶媒としてN−メチルピロリドン(以下、NMPという)を、活物質:導電性カーボン:バインダー樹脂:NMP=90:5:5:200の割合で混合してペースト状にし、分極性電極用組成物を調製した。得られたペースト状の分極性電極用組成物を、エッチドアルミ集電箔(30CB、日本蓄電器工業(株)製)にドクターブレードで塗布して80℃で4時間乾燥させた後、圧延して分極性電極を作製した。
次いでセルロース製セパレータ(TF40−35、日本高度紙工業(株)製)を介して分極性電極を積層してセルを組み立て、アルミラミネート(大日本印刷(株)製、外層:6−ナイロン/厚み25μm、ガス遮断層:軟質アルミニウム/厚み40μm、内層:ポリプロピレン+変性ポリプロピレン/30μm+15μm)からなる外装容器に収納した。次いでテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレートを1.0mol/Lに調製した炭酸プロピレンを、外装容器内に注入してセルに十分に含浸した後、外装容器を密閉して電気二重層キャパシタセルを得た。
【0035】
[実施例2]
バインダー樹脂としてポリアミドイミド樹脂N100NR125(窒素含有量7.7%、東洋紡績(株)製):ポリアミドイミド樹脂NR85NN(窒素含有量4.5%、ガラス転移温度85℃、東洋紡績(株)製)=4:1の割合で混合し調製したものを用いた以外は実施例1と同様に分極性電極を作製し、同様に電気二重層キャパシタセルを得た。
【0036】
[比較例1]
バインダー樹脂としてポリアミドイミド樹脂NR85NN(窒素含有量4.5%、東洋紡績(株)製)を用いた以外は実施例1と同様に分極性電極を作製し、同様に電気二重層キャパシタセルを得た。
【0037】
[比較例2]
バインダー樹脂としてポリイミド樹脂SN−20(窒素含有量4.9%、ガラス転移温度295℃、新日本理化(株)製)を用いた以外は実施例1と同様に分極性電極を作製し、同様に電気二重層キャパシタセルを得た。
【0038】
[比較例3]
バインダー樹脂としてポリフッ化ビニリデン樹脂(ガラス転移温度−30℃、アルドリッチ社製)を用いた以外は実施例1と同様に分極性電極を作製し、同様に電気二重層キャパシタセルを得た。
【0039】
上記各実施例および比較例で得られた電気二重層キャパシタセルおよび分極性電極について下記耐久性試験および密着性試験を行った。結果を表1に示す。
[1]耐久試験
完成した電気二重層キャパシタに、70℃雰囲気下において3Vの電圧を1000時間印加し、初期の静電容量値および内部抵抗値、並びに耐久性試験後の静電容量維持率(%)および内部抵抗値を求めた。
[2]密着性試験
JIS−K5600に準拠し、集電箔上の分極性電極層のみに1mm角の切り目を縦横方向に入れて、36個の碁盤目を作製し、粘着テープにて碁盤目剥離試験を行い、密着性を評価した。表では、36個の碁盤目中剥がれなかった個数を分母側に表示し、剥がれた個数を分子側に表示した。
【0040】
【表1】

【0041】
表1の密着性試験と初期の内部抵抗の結果から、窒素含有量が特定範囲の実施例1,2の電極は、窒素含有量が低い比較例1,2の電極に比べて密着性が優れ、初期の内部抵抗が低いことがわかる。また、試験後の静電容量の変化率と試験後の内部抵抗の結果から、実施例1,2の電気二重層キャパシタは、比較例2,3の電気二重層キャパシタと比べて容量維持率が優れ、しかも内部抵抗の増加が抑えられていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のポリアミドイミド樹脂および/または少なくとも1種のポリイミド樹脂からなり、窒素含有量が6〜14質量%であるバインダー樹脂と、電極活物質とを含むことを特徴とする電極用組成物。
【請求項2】
前記バインダー樹脂の窒素含有量が、7〜11質量%であることを特徴とする請求項1記載の電極用組成物。
【請求項3】
前記バインダー樹脂が、少なくとも1種のポリアミドイミド樹脂であることを特徴とする請求項1または2記載の電極用組成物。
【請求項4】
前記ポリアミドイミド樹脂およびポリイミド樹脂のガラス転移温度が、100〜300℃であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の電極用組成物。
【請求項5】
前記電極活物質が、比表面積1000m2/g以上の炭素質物質であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の電極用組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の電極用組成物から形成された電極層と、集電体とを備えることを特徴とする蓄電デバイス用電極。
【請求項7】
請求項6記載の蓄電デバイス用電極を備えて構成された蓄電デバイス。
【請求項8】
非水系二次電池または電気二重層キャパシタである請求項7記載の蓄電デバイス。
【請求項9】
少なくとも1種のポリアミドイミド樹脂および/または少なくとも1種のポリイミド樹脂からなり、窒素含有量が6〜14質量%であるバインダー樹脂と、電極活物質とを含む電極用組成物を、N−メチル−2−ピロリドンに混合、分散してなるスラリーを、集電体に塗布し、これを乾燥して電極層を形成し、電極を得ることを特徴とする蓄電デバイス用電極の製造方法。

【公開番号】特開2006−253450(P2006−253450A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−68870(P2005−68870)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)
【Fターム(参考)】