説明

電極触媒の堆積方法およびこのような方法により形成される電極

【課題】最小の堆積量で触媒を含み、最大の触媒活性を有する燃料電池電極およびこのような燃料電池電極の製造方法を提供すること。
【解決手段】好ましい方法は、真空中で、触媒、好ましくはプラチナを気化させて、触媒蒸気を生成する工程を含む。触媒的に有効な量の触媒蒸気を、該燃料電池電極上の、炭素触媒支持体に堆積する。この電極は、好ましくは炭素布である。この方法は、高性能燃料電池電極に必要とされる触媒の量を、約0.3 mg/cm2またはそれ以下、好ましくは約0.1 mg/cm2に減じる。形成されたこの電極触媒層は、固有のロッド-状の構造を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、(好ましくはプラチナを含む)電極触媒の最小の適用量を、支持体、好ましくは燃料電池電極として使用できる支持体(最も好ましくは、炭素布)上に堆積(deposit)し、一方で該触媒の活性を最大にする方法を提供することにある。本特許出願は、またロッド-型の構造を含む、新規な電極触媒被膜を含有する製品をも意図している。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電気化学的デバイスであり、該デバイスにおいては、該燃料電池の基本的な部材、即ち電極および電解液を変更することなしに、化学的反応によって電気エネルギーを発生する。燃料電池は、燃焼を経ずに水素と酸素とを結合して、水を生成し、かつ直流電力を生成する。この過程は、逆方向の電解として説明できる。この燃料電池は、連続的に化学的エネルギーを、中間的な熱エネルギーへの変換を経ることなしに、電気エネルギーに変換するという点で、独特なものである。
燃料電池は、(熱機関サイクルでは対抗できない)その高いエネルギー効率、その燃料の融通性に係わる高い可能性、およびその極めて低い排出性のために、輸送用の出力源として、追求されている。燃料電池は、潜在的な定置機関および運搬用出力としての用途をもつが、定置機関および運搬用途における、動力発生用燃料電池の工業的な実用可能性は、幾つかの製造、コスト並びに耐久性に係わる諸問題点の解決に依存している。
【0003】
最も重要な問題の一つは、該燃料電池用のプロトン交換触媒のコストに係わるものである。低温燃料電池用の、最も効率の高い触媒の幾つかは、プラチナ等の貴金属であり、これらは極めて高価である。幾人かは、このような触媒の全コストが、低温燃料電池の製造コスト全体の、約80%であると見積もっている。
典型的な方法において、約0.5-4 mg/cm2なる範囲の量の、所定の貴金属触媒が、インクとして、あるいは複雑な化学的手順を利用して、燃料電池の電極に適用される。不幸なことに、このような方法では、比較的多量の貴金属触媒を適用して、特に低温での使用のために、所定レベルの電極触媒活性を持つ、燃料電池電極を作成する必要がある。このような触媒の経費は、該燃料電池に必要とされる、触媒の量即ち添加量を減じることを余儀なくしている。このことは、該触媒の効率的な適用方法の開発を必要とする。
【0004】
最近、ロール塗り/噴霧、溶液流延/ホットプレス、および電気化学的触媒形成(catalyzation)を包含する、多数の堆積方法が、プロトン交換膜(PEM)燃料電池用の、Pt触媒層を製造するために開発されている。炭素布上に堆積された、薄いスパッターPt被膜は、燃料電池性能をある程度まで改善できるものの、一般的にこの方法は、大面積の堆積法としてまたはプラチナを適用するための比類のない処理として、実用性あるものとは考えられない。低いPt堆積量(<0.3mg/cm2)の、大面積(>300cm2)かつ高性能(0.6Vにおいて、>1A/cm2)を有する燃料電池電極の開発において、たゆまない研究が続けられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、支持体上に、触媒成分を含む揮発性組成物を堆積する方法を提供する。この方法は、該揮発性成分を蒸気に転化し、および触媒的に有効な被膜を生成するのに適した、該触媒成分の濃度を達成するのに十分な量で、該蒸気を該支持体上に堆積する工程を含む。本発明は、またこの方法によって作成される電極、および支持体と、該支持体上に設けられた堆積物を含む電極をも目的とし、該堆積物は触媒的に有効な量の電極触媒を含み、少なくとも部分的にロッド-状の構造を含む、電極触媒活性領域を含有する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、支持体上に、触媒成分を含む揮発性の組成物を堆積する方法であって、該方法が、該揮発性の成分を蒸気に転化し、および該支持体上に触媒的に有効な被膜を生成するのに適した該触媒成分の濃度を達成するのに十分な量で、該支持体上に該蒸気を堆積する工程を含む、ことを特徴とする、上記堆積方法である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】カソードおよびアノードとして使用される、実験用電極の、電池圧力206.85kPa(30 psig)における、分極性能を示したグラフである。この実験用電極は、MA州ナチックのE-TEKから入手できる、炭素のみのELAT炭素布電極から製造したものであり、実施例IIIおよびIVに記載したように、本発明に従って、電子ビーム物理蒸着(EB-PVD)を利用して堆積したPtを担持していた。
【図2】実施例IVに記載したように、カソードおよびアノードとして使用する、従来のスパッターによりPt触媒作用を付与したELATガス拡散媒体の実験用電極の、電池圧力206.85kPa(30 psig)における、分極性能を示したグラフである。
【図3】実施例IVに記載したように、アノードとして使用する、従来のスパッターによりPt触媒作用を付与したELATガス拡散媒体の実験用電極の、電池圧力206.85kPa(30 psig)における、分極性能を示したグラフである。
【図4】実施例IVに記載したように、電池圧力206.85kPa(30 psig)における、分極性能を示すカソードとして使用される、従来のスパッターによりPt触媒作用を付与した、実験用電極および本発明のEB-PVD Pt触媒作用を付与した実験用電極の、電池並びに補償電位における性能の、サイドバイサイド比較したデータを示すグラフである。
【図5】実施例IVに記載したように、電池圧力206.85kPa(30 psig)における、分極性能を示すアノードとして使用される、従来のスパッター堆積Pt電極と、本発明のEB-PVD堆積Pt電極との間の、性能のサイドバイサイド比較したデータを示すグラフである。
【図6】実施例IVに記載したように、電池圧力206.85kPa(30 psig)における、分極性能を示すカソードとして使用される、もう一つの、従来のスパッター堆積Pt電極およびもう一つの、本発明のEB-PVD堆積Pt電極の、電池並びに補償電位における性能の、サイドバイサイド比較したデータを示すグラフである。
【図7】種々の倍率における、触媒作用の付与されていないELATガス拡散媒体の、電界-放射走査型電子顕微鏡写真(顕微鏡写真またはFE-SEM)である。
【図8】種々の倍率における、触媒作用の付与されていないELATガス拡散媒体の、電界-放射走査型電子顕微鏡写真(顕微鏡写真またはFE-SEM)である。
【図9】種々の倍率における、触媒作用の付与されていないELATガス拡散媒体の、電界-放射走査型電子顕微鏡写真(顕微鏡写真またはFE-SEM)である。
【図10】実施例IIIおよびIVに記載したように、本発明に従って、PtのEB-PVDを利用して触媒作用を付与した、ELATガス拡散媒体の、種々の倍率における、FE-SEMを示す。
【図11】実施例IIIおよびIVに記載したように、本発明に従って、PtのEB-PVDを利用して触媒作用を付与した、ELATガス拡散媒体の、種々の倍率における、FE-SEMを示す。
【図12】実施例IIIおよびIVに記載したように、本発明に従って、PtのEB-PVDを利用して触媒作用を付与した、ELATガス拡散媒体の、種々の倍率における、FE-SEMを示す。
【図13】実施例IIIおよびIVに記載したように、本発明に従って、PtのEB-PVDを利用して触媒作用を付与した、ELATガス拡散媒体の、種々の倍率における、FE-SEMを示す。
【図14】実施例IIIおよびIVに記載したように、本発明に従って、PtのEB-PVDを利用して触媒作用を付与した、ELATガス拡散媒体の、種々の倍率における、FE-SEMを示す。
【図15】実施例IIIおよびIVに記載したように、本発明に従って、PtのEB-PVDを利用して触媒作用を付与した、ELATガス拡散媒体の、種々の倍率における、FE-SEMを示す。
【図16】実施例IIIおよびIVに記載したように、本発明に従って、PtのEB-PVDを利用して触媒作用を付与した、ELATガス拡散媒体の、種々の倍率における、FE-SEMを示す。
【図17】実施例IIIおよびIVに記載したように、本発明に従って、PtのEB-PVDを利用して触媒作用を付与した、ELATガス拡散媒体の、種々の倍率における、FE-SEMを示す。
【図18】実施例IIIおよびIVに記載したように、本発明に従って、PtのEB-PVDを利用して触媒作用を付与した、ELATガス拡散媒体の、種々の倍率における、FE-SEMを示す。
【図19】実施例IIIおよびIVに記載したように、本発明に従って、PtのEB-PVDを利用して触媒作用を付与した、ELATガス拡散媒体の、種々の倍率における、FE-SEMを示す。
【図20】実施例IIIおよびIVに記載したように、本発明に従って、PtのEB-PVDを利用して触媒作用を付与した、ELATガス拡散媒体の、種々の倍率における、FE-SEMを示す。
【図21】実施例IIIおよびIVに記載したように、従来のPtのスパッター堆積を利用して触媒作用を付与した、ELATガス拡散媒体の、種々の倍率における、FE-SEMを示す。
【図22】実施例IIIおよびIVに記載したように、従来のPtのスパッター堆積を利用して触媒作用を付与した、ELATガス拡散媒体の、種々の倍率における、FE-SEMを示す。
【図23】実施例IIIおよびIVに記載したように、従来のPtのスパッター堆積を利用して触媒作用を付与した、ELATガス拡散媒体の、種々の倍率における、FE-SEMを示す。
【図24】実施例IIIおよびIVに記載したように、従来のPtのスパッター堆積を利用して触媒作用を付与した、ELATガス拡散媒体の、種々の倍率における、FE-SEMを示す。
【図25】実施例IIIおよびIVに記載したように、従来のPtのスパッター堆積を利用して触媒作用を付与した、ELATガス拡散媒体の、種々の倍率における、FE-SEMを示す。
【図26】実施例IIIおよびIVに記載したように、従来のPtのスパッター堆積を利用して触媒作用を付与した、ELATガス拡散媒体の、種々の倍率における、FE-SEMを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
真空堆積技術(vacuum deposition technique)は、半導体の製造における金属化層の形成から、食品包装用のバリヤー塗装、切削工具用の硬質被覆、および光学薄膜に及ぶ、種々の用途において日常的に利用されている。使用される典型的な方法の幾つかは、化学蒸着(堆積)、物理蒸着または加熱蒸着、イオンスパッタリング、およびイオンビーム支援蒸着(IBAD)法を包含する。該物質は真空中で(典型的には、13.3mPaまたは1×10-4トール)堆積されるので、生成するフィルムの汚染は最小化され、しかもフィルムの厚みおよび均一性に関する良好な制御性が維持される。このような技術は、多くの場合において、それ自体、リールツーリール(reel-to-reel)またはウエブ被覆工程によって、大面積に渡り物質を堆積するのに有力である。
本発明は、真空蒸着法、好ましくはEB-PVDを利用して、支持体上に触媒を堆積する。この要求される被膜用の支持体は、任意の多数の材料であり得、好ましい材料は、燃料電池の電極において使用するのに適している。このような物質は、プロトン交換膜(PEM)、炭素布、および炭素紙を含むが、必ずしもこれらに制限されない。好ましい支持体は、炭素支持体である。
【0009】
適当なPEMsは、ポリマー電解質膜またはイオノマー、例えばウイルミントン、デラウエアのデュポン社(DuPont, Inc.)から入手できるナフィオン(NAFIONTM)を含むが、必ずしもこれらに制限されない。また、最も好ましいものは、ゴア-セレクト(GORE-SELECTTM)として知られ、メリーランド州、エルクトンのW.L.ゴア&アッソシエーツ(Gore & Associates)社から入手できる、含浸イオン交換媒体を含む、ポリテトラフルオロエチレンの複合体を含有する、フルオロイオノマー膜である。
適当な炭素支持体は、グラファイト、炭素繊維、および炭素布を含むが、必ずしもこれらに制限されない。支持体として使用するための、適当な市販品として入手できる炭素ガス拡散媒体は、炭素ガス拡散電極、イソ成形(iso-molded)グラファイト、炭素繊維束、好ましくは6,000または12,000本の炭素フィラメント/束を有する炭素繊維束、網状構造を持つ炭素、炭素布、および炭素紙を含むが、必ずしもこれらに制限されない。好ましい炭素支持体は、炭素布、好ましくはMA州、ナティックのE-TEKから入手できる、炭素のみのELAT炭素布電極である。
【0010】
該支持体は、好ましくは酸性環境内で耐腐食性であり、良好な電気伝導度を与えるものであるべきであり、また炭素支持体は、酸素(カソード)および水素(アノード)の迅速な透過を可能とし、薄層製造技術に適しており、また該燃料電池アセンブリーの重量並びにコストに殆ど寄与しないものであるべきである。
好ましくは、真空蒸着技術を利用して、触媒を該支持体に堆積する。本明細書で使用する用語「触媒」とは、ある化学反応の平衡に近づく速度を高め、しかも該反応中に実質的に消費されない物質として定義される。触媒は、一種以上の反応試薬と化学的な結合を形成し、結果としてその転化を容易にすることにより機能する。触媒は、該反応の平衡に影響を与えることはない。触媒は、該反応の全体としての活性化エネルギーを低下し、かくして処理速度を高めるような、交互反応経路/メカニズムを与える。
【0011】
電気化学的系において、反応速度(出力密度/電流密度)は、温度および電極触媒を制御することによって、調節される。電極触媒は、与えられた表面領域に対して、電気化学的反応、即ちイオン化、脱イオン化の速度を促進することのできる、物質(金属、金属酸化物、非-金属、有機金属)である。該電極触媒は、化学的平衡を乱すことなしに(熱力学は、触媒の存在によって影響されない)、与えられた酸化還元系(電荷移動反応)に対する、前進方向および逆方向の電荷移動反応の速度を高める物質である。電極触媒は、該電気化学反応の全体としてのより低い活性化エネルギーをもたらし、かくして電気化学的処理の速度を高めるような、交互反応経路/メカニズムを与える。電極表面における反応を進行する速度は、この不均質過程に係わる固有の速度論によって制限される可能性がある。非-電気化学的系において、巨視的に観測された反応速度は、一連の素過程の結果である。
【0012】
電極触媒とその他の型の触媒との決定的な違いは、該電極触媒の、付随的な駆動力変数:電位を操作する能力である。該電極触媒/電極の表面における1Vの電位における変動は、反応速度における8次の変化を生じる可能性がある。この変化は、典型的な触媒反応(即ち、非-電気化学的反応)に対する、数百℃の温度増加と等価であり得る。燃料電池用途において、不均質な電極触媒は、箔、堆積膜、ばらばらの粒子または担持粒子として存在する。該用語「不均質」とは、該反応試薬が、通常該電極触媒(固体)とは異なる相(気相または液相)内に存在することを意味する。
【0013】
特定の表面を如何にして電極触媒反応/触媒反応に付すかを説明するために、特定の反応は、3つの因子:該反応経路のメカニズム、表面種の化学吸着エネルギー、および該反応の有効活性化エネルギーに関する知見を必要とする。空いた「d」軌道をもつ金属が、適当な電極触媒である。というのは、これらが低い吸着の活性化エネルギーにて、迅速にH2を吸着するからである。元素周期律表を参照すると、適当な電極触媒は、第IVA族金属(Ti、Zr、Hf)、第VA族金属(V、Nb、Ta)、第VIA族金属(Cr、Mo、W)、および第VIIA族金属(Mn、Tc、Re)を包含するが、必ずしもこれらに制限されない。これらの金属は、高い吸着エンタルピーにてH2を吸着するものと思われる。好ましい電極触媒は、より低い吸着熱にてH2を吸着する金属であり、例えば第VIIIA、B、およびC族金属(Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt) を包含するが、必ずしもこれらに制限されない。、好ましくはNi、Pd、またはPtであり、最も好ましくはPtである。第IB族金属(Cu、Ag、Au)は、低い吸着熱を有するが、これらは緩慢に活性化された化学吸着を示すので、H2吸着触媒としては好ましくない。
【0014】
第VIII族金属、即ち燃料電池の電極において使用するための好ましい電極触媒は、表面反応(吸着された種の分解および放電による、電気化学的酸化/還元)を可能とするのに十分に強力で、かつ表面-結合種を形成するほどには十分に強力ではない、該反応試薬の化学吸着を可能とする範囲内の、吸着熱を持つものと考えられる。酸素に対するより高い活性化エネルギーのために、表面酸素を含む電極触媒反応は、表面水素を含む反応に比して、満足な反応速度を得るために、より高い温度を必要とする。例えば、最も一般的に利用されている低温用の酸素電極(oxygen electrodes)は、銀およびプラチナである。総括すると、電気化学的用途に対して適当な触媒は、Pt、Pd、Ru、Rh、Ir、Ag、Au、Os、Re、Cu、Ni、Fe、Cr、Mo、Co、W、Mn、Al、Zn、Snを含むが、必ずしもこれらに制限されず、好ましい触媒はNi、Pd、Ptであり、最も好ましい触媒は、Ptである。
【0015】
支持体に電極触媒被膜を適用するために、該電極触媒を加熱蒸発させる。この加熱は、任意の適当な熱源を使用して行うことができ、該熱源としては、例えば電子ビーム加熱、電気抵抗加熱、マイクロ波加熱およびレーザー加熱を含むが、これらに制限されない。好ましい一態様においては、該触媒を、電子ビームを利用して加熱する。
好ましい一態様においては、該支持体を、るつぼを備えた真空チャンバーに配置する。該るつぼは、好ましくはグラファイト製であり、該触媒の固体チャンクに、高出力電子ビームを導くメカニズムを有していて、これによって触媒の蒸気を生成する。該触媒がプラチナである場合、該触媒を、約2300℃〜2600℃(4172°F-4712°F)の範囲の温度まで、該電子ビームで加熱して、その蒸気を生成する。
【0016】
この堆積工程中、該真空チャンバーの圧力は、該蒸気が該支持体上で、該蒸気の凝縮を生じるのに十分な圧力にまで排気すべきである。好ましい圧力は、約13.3 mPa (約10-4トール)以下である。ここで使用する用語「真空中」 とは、約13.3 mPa (10-4トール)以下の圧力を意味するものとして定義される。この気化された触媒は、好ましくは真空中で該支持体上に、堆積または凝縮できなければならない。しかし、この真空チャンバー中の温度は変えることができ、該温度は、該支持体に損傷を与えないように十分に低く、かつ該支持体上での該触媒蒸気の凝縮を可能とするのに十分に低くする必要がある。好ましくは、該温度は約100-200℃またはそれ以下とすべきである。その堆積速度は、好ましくは約0.05-1 nm/秒なる範囲とすべきである。
【0017】
この堆積は、触媒的に有効な量の該触媒が、該支持体上に堆積されるまで継続すべきである。ここで使用する用語「触媒的に有効」とは、所定の反応を触媒作用するのに有効であることを意味するものとして、定義する。該用語「触媒的に有効な量」とは、該所定の反応に対して触媒作用するのに、十分に活性な触媒をもたらす、可能な最低量の触媒を意味するものとして定義される。典型的には、触媒的に有効な量を与えるように堆積される該触媒の量は、約0.01〜0.3 mg/cm2、好ましくは約0.2 mg/cm2未満とすべきである。この被膜の厚みは、標準的な方法、例えば石英結晶発振器の周波数変化を利用して、追跡することができる。このフィルムの重量は、該フィルムの堆積前後における、該支持体の既知面積を秤量することによって測定できる。
該支持体は、好ましくは燃料電池内の電極として使用される。好ましい燃料電池電極は、できる限り薄いものであり、典型的には、約0.0254〜0.445cm(約0.010-0.175インチ)なる範囲の厚みを有する。該支持体がPEMである場合、好ましくは炭素触媒支持体、例えば炭素インクによって、当分野で周知の標準的な技術を使用して、このPEMを処理すべきである。炭素支持体は、好ましくは防水性とすべきである。
【0018】
個々の膜または電極を調製することができ、あるいは該方法を、製造の目的に応じて、スケールアップすることもできる。該支持体が、熱に対して敏感である場合、冷却が必要とされる可能性がある。実験室において、冷却は、該イオンおよび被覆フラックスを介して回転している、アルミニウムシリンダー表面上に、該支持体を載せることによって実行できる。このような構成によって、該シリンダーの十分に大きな熱量と、該支持体が最早連続的に該イオンビームおよび被覆フラックスに暴露されていないという事実との組み合わせによって、水冷は最早必要とされない。この設備は、大面積の支持体物質を、ドラム上に巻き取り、かつリールツーリール法で被覆することができるという、スケールアップの見通しを可能にするものと思われる。好ましくは、スケールアップされた配列は、真空中でのリールツーリール配置であろう。本明細書に記載する被覆技術は、従来の「ウエブ被覆」技術と共に利用するのに適している。
【0019】
膜電極アセンブリーに組み立てる場合、および適当な流動条件下で、水素ガスが供給される燃料電池に組み込む場合、本発明の電極触媒的な被膜は、少なくとも約0.8 V、好ましくは約1 Vの開回路電圧を示す。該用語「開回路電圧」または「開放電池電圧」とは、電流が流されていない場合における、燃料電池に存在する一時的な電位または電圧として定義される。この電位は、電池平衡電位として知られ、その理論値は、以下のネルンストの関係式を使用して、熱力学的に導くことができる:
E = E0 + (RT/nF) ln[Π(反応試薬活性)/Π(生成物活性)] (1)
ここで、nはこれら反応に関与する電子の数であり、Fはファラデー定数(96,439クーロン/g-モル電子)であり、Rは気体定数であり、Tは該電池の温度であり、E0はこの反応に対する、可逆標準電池電位であり、これは一定温度および圧力の下で作動している燃料電池で達成される、最大の電気的仕事Weと直接関連しており、また電気化学反応のギブスの自由エネルギー(ΔG)における変化によって熱力学的に与えられる:
We = ΔG0 = - nFE0 (2)
【0020】
全体としての電池反応に対して、該開回路電位は、反応試薬の活性における増加および生成物の活性における減少に伴って、増大する。電池温度および圧力における変動も、この可逆的な電池電位に影響を与える。実際には、この開回路電圧は、燃料電池の分極中または1Vカーブにおいて達成可能な、最大電圧であり、また引き出された正味の電池電流(drawn net cell current)が零である、該電池電位に対応する。
例えば、適当な平衡化時間の経過後、PEM燃料電池について、(a) 温度約50℃〜約130℃において、(b) 反応試薬として水素と空気を使用し、(c) 約50℃〜約140℃にて加湿し、(d) 約0〜約100%の相対湿度で、(e) 約0〜689kPa(約0〜約100 psig)の範囲の圧力下で、および(f) 該電極全体に渡り、該電極触媒相の完全な湿潤を保証するのに十分に大きな流れにて作動させた場合に、参照基準水素電極に対して、約0.8V〜約1Vの開回路電圧が観測されるであろう。
【0021】
本発明の真空蒸着技術は、低Pt堆積量(<0.3mg/cm2、好ましくは約0.1mg/cm2)の、大面積(>300 cm2)、かつ高性能の燃料電池電極を製造することを可能とし、これら電極は、約0.6Vなる電池電位において、400 mAcm-2を大幅に越える、好ましくは約800 mAcm-2を越え、最も好ましくは約1000 mAcm-2の出力を、以下のような条件下で生成する: 単一の電池、即ち燃料電池設備において、適当なガス分配マニホルドおよび適当なガスケットを備え、ガス拡散物質として、ELATを使用し、適当な電池圧縮荷重(約5.65〜約33.89 Nm/ボルト、あるいは約50〜約300 lb in/ボルトの圧縮トルク)にて、典型的にアノードの水による飽和状態および約40〜約90℃なる範囲の加湿温度での(H2)反応試薬供給量、約40〜約80℃なる範囲の電池温度、H2および空気夫々に対する、化学量論量の約1.2-2倍および約2-5倍に当たる、体積流量での反応試薬供給量、およびアノード(H2電極)およびカソード(空気電極)に対して、約413.7 kPaゲージ(1〜約60 psig)に設定された電池圧力等を含む、電池作動条件。
【0022】
実験用カソード(実施例IVに記載する)に関するターフェル分析は、本発明の気相堆積法と従来のスパッター電極との間に、酸素還元交換電流密度における約5倍の差違があることを明らかにする(i0,PVD/io,sputt〜4.89)。この差は、蒸着により形成したカソード、例えば実施例IIIおよびIVで製造したEB-PVD Pt堆積カソードが、従来のスパッター法により形成したPtカソードよりも、実質的に大きな電極触媒活性領域、即ち「三相境界(three phase boundary)」(TPB)を有することを示唆している。この電気化学的結論は、電界放射走査型電子顕微鏡図(顕微鏡写真またはFE-SEM)により確認された。FE-SEMは、容易に認識できるPt粒子を含む、本発明の蒸着により形成した電極における微小構造の存在、および「ロッド型」の構造10の存在を示した。該構造は、図14-15および17-22に示したように、倍率約x10kにおいて見え始める。これらロッド型の粒子は、図23-28に示すように、該スパッター法により形成したサンプルでは観測されなかった。
【0023】
本特許出願の目的にとって、該用語「ロッド型」とは、図17に示すように径10aおよび図17に示すように長さ10bをもつ、実質的に円筒形状の構造を意味するものとして定義される。図12-13および15-20に示された該ロッド状の構造は、(a) 約40〜約60mm、典型的には約60mmの径10a(図17)および(b) 立証することは困難であるが、変動すると思われる長さを有している。
本発明により作成された電極は、当業者には公知の多くの異なる構成を持つ、燃料電池において使用できる。本発明は、以下の実施例を参照することによって、より一層よく理解できるであろう。しかし、これらの実施例は、例示の目的でのみ与えられるものであり、本発明を限定するものと理解すべきではない。本発明は、特許請求の範囲により規定されるものである。
【実施例1】
【0024】
長さ2mおよび径1.5mの真空チャンバーを使用して、候補被覆物をまずガラススライドおよび代表的な膜および電極材料の小さなクーポン上に堆積させ、これらを組成並びに微小構造解析にかけた。次いで、一連の大面積電極材料を被覆し、以下に記載するような、小さな自作のテスト電池を使用して評価した。 最終的なダウンセレクション(down-selection)の後に、限られた数の現寸の150 cm2の電極を製造し、かつテストした。実施例IIにおいてより詳しく記載する、特別なサンプル設備を、300 cm2程度に大きな面積に渡り、炭素布電極の被覆を可能とすべく開発した。250 cm2までのサンプルを、遊星歯車装置を使用して被覆した。これらサンプルを非同期的に、電子ビーム-物理蒸着(EB-PVD)被覆フラックスを介して回転させて、全電極表面に渡る、Ptの均一な堆積を保証した。
【0025】
夫々未処理のおよび防水処理した(即ち、テフロン(TEFLONTM)で被覆) 炭素布および炭素紙材料を、0.01、0.05および0.10 mg/cm2のPtで被覆した。更に、防水処理した炭素のみのELATの層で処理したサンプルを、同様な方法でPt被覆するために、E-TEKから調達した。
選択された燃料電池電極材料の、厚み、形態およびPt分布の比較を、走査型電子顕微鏡(SEM)および透過型電子顕微鏡を用いて実施した。このような測定の目的は、該燃料電池の達成される効率に及ぼす、電極構造の効果を決定することであった。
触媒で被覆した電極材料の性能分析は、小型の「自作」テスト電池を使用して試みた。この簡単なテスト電池は、一個の空気/水素導入口を備えたコレクタープレートとして使用される、2つの6.9cmのステンレススチールフランジと、ある程度のガスの拡散を可能とする、該電極の各側部に取り付けられた対を成す100-メッシュのステンレススチールスクリーンとで構成されていた。この電池の活性領域は、約64 cm2であり、また同一の電極材料を、アノードおよびカソード両者に対して使用した。この装置を、96.53kPa(14 psig)および流量〜0.5l/分にて、加湿した水素および圧縮空気で加圧した。電流-電圧テストを、各出口(outlet)において、周囲温度にて行った。
【0026】
全てのテストにおいて、該EB-PVD Pt-被覆ELAT材料は、再三再四、高堆積量のコントロール材料、即ちVULCAN XC-72 ELAT固体ポリマー電解質電極上の、E-TEKプラチナ(4 mg/cm2)と比較して、優れた挙動を示すことを明らかにした。効率における測定可能な改善が、増大するPt堆積量を持つ、炭素布について観測された。該アノード側の、該EB-PVD被覆した炭素のみの材料の、Pt堆積量を、0.01 mg/cm2程度の低い値まで、性能の低下を最小限度に維持しつつ、更に減じることも可能である。
【実施例2】
【0027】
3つの現寸の、150 cm2電極の製造並びにテストを、上記小型のテスト設備を使用して、スクリーニングテストの結果に基づいて、実施した。
テストのために作成した電極を、以下の表2にまとめる。
【0028】
表2

【0029】
現寸の電極を効果的に評価するために、スクリブナーアッソシエーツモデル890ロードシステム(Scribner Associates Model 890 load system)を、テスト設備と共に使用するために、リースした。基本的には、このテスト設備は、流動チャンネルをもつグラファイトプレートにより包囲された、選択された電極によってサンドイッチ状に挟まれた、選択された膜からなっており、該流動チャンネルは、水素並びに酸素ガス流が、該電極と接触することを可能とする。金属プレートが、各側において該アセンブリーを挟んでいた。該金属プレートは、該水素および酸素を導入するために開けられた、適当な孔を有し、また電気的リードは、電流を集めかつ各プレートを該ロード装置に接続した。この1kW、125ampのスクリブナーロード装置は、該電池からの性能データ全てを記録し、一方で該電池および供給ガスの温度を調節し、これにより一貫した再現性のある結果が保証された。この比較テスト設備は、構成および動作モードに依存して、100ワット以上で評価された。この電池のモジュール設計は、多くの異なる可能な構成および異なる材料の厚みの利用を可能とした。
【0030】
このテスト電池を組み立てる際に、該ガスの取り扱いシステムには特別な注意を払った。全てのチューブおよびコネクタは、該電池への金属カチオンの持ち込みを制限するために、316ステンレススチールおよびテフロン(電気的な絶縁が必要とされる場合)から作成した。これらのガスは、一対のペルマピュア社(Perma Pure Inc.)製のナフィオン(NAFION)-を主体とする加湿器に通し、次いで適当な温度に維持するために、加熱テープで包んだステンレスチューブを介して、該電池に搬送した。次に、各ガスを、該ガスの導入および放出用の3つに別れたマニホルドに導いた。排ガスを、一対の流量計に通し、過剰な燃料の量および空気流を測定した。流量計は上流側には設けなかった。というのは、これらが多量のアルミニウム部品を含み、該部品が該ガスを汚染し、かつ電池性能を隠蔽するからである。内蔵ヒータを備えた、ステンレススチール製の貯槽を使用して、該電池を加熱し、またスクリブナーロード装置によりこれを制御した。プラスチック製の浸漬型ケミカルポンプは、脱イオン水を該電池および加湿器を介して、テフロンチューブで構成される閉回路に循環させ、かつ該容器に戻した。該電池の積極的な冷却は不要であった。
【0031】
性能テストは、典型的には温度60℃、加湿ガス30 psi、空気側において化学量論比(SR)の3.5倍またはそれ以下、および該反応試薬側において2SRまたはそれ以下にて行った。第一の目標は、本発明の電極の性能カーブと、W.L.ゴア&アッソシエーツ社から入手できる、ゴアプリメア(Gore PRIMEATM)膜電極アセンブリー製の電極を含むコントロールの、同一のテスト条件下での性能カーブとを一致させることであった。組み立て後、該電池を、低電流にて数時間、状態調節した。一旦該電池性能が安定したら、高電流側から開始し、徐々に低下させることによって、電流電圧データを得た。
一旦、このテスト用膜/電極アセンブリーの性能カーブが、該コントロールの性能カーブと一致した後、テストを開始した。この電池を、まず加湿ガスを30 psiに設定した、低電流側にて、8時間状態調節した。該20μmの膜を有する、100nm/10nm EB-PVD Pt-被覆ELATを使用して達成される、最大電流密度は、.358Vにおいて732 mA/cm2であった。一般的に、EB-PVD堆積電極の全体としての出力は、該コントロールの出力よりも10-50%低かった。しかし、この性能が、該ベースライン(baseline)物質の全Pt堆積量の20%未満によって達成されたものであることを指摘しておくことは、重要である。
上記のテストは、0.11mg/cm2程度の低い全Pt堆積量をもつ、150cm2の膜電極アセンブリーの製造における、EB-PVDの上首尾の利用性を、立証している。
【実施例3】
【0032】
Pt EV-PVDおよびELATTMガス拡散媒体のマグネトロンスパッタリングにより調製した実験用電極の、電気化学的(燃料電池性能)および形態的特徴を明らかにするために、実験を行った。PVD電極(カソードまたはアノード)を使用して調製したMEAは、該スパッタリングによる半電池に比して、優れた分極性能を与えた。電極の調製:真空蒸着に基づいて作成した、触媒作用を持つ電極を、(a) 本発明に従う電子ビーム物理蒸着(EB-PVD)法、および(b) 従来のPtのマグネトロンスパッタリング法を利用して製造した。各場合において、Ptは、市販の両面式ELAT炭素-布ガス拡散媒体上に堆積した。その触媒作用は、該拡散媒体の「活性側部」、即ち通常電極触媒層と接触状態にある側で生じた。
EV-PVDに対しては、0.1nm/秒なる触媒体積速度を選択した。該チャンバーのベース圧(base pressure)は、約13.3 mPa(10-5トール)であった。Pt源は、純度99.95%のものであった。
マグネトロンスパッタリングに対しては、15.24 cm(6インチ)径のマグネトロンスパッタリング装置を使用して、約0.2〜約0.3 nm/秒なる速度にて、該基板上にPtをスパッターした。このチャンバーのベース圧は、約1.33 mPa(10-4トール)であった。この場合のPtターゲットは、純度99.99%の箔であった。
【0033】
堆積レベル0.1mg Pt cm-2の電極を、これら2つの技術を利用して製造し、比較した。何れかの技術による気化相の、エネルギー分散型分光法(EDS)であるX-線解析では、Ptのみが検出された。何れかの技術を利用して形成した該触媒層は、約50nmなる平均の厚みを有していた。
このPt-触媒電極を、当分野において公知の方法を使用して、実験用のMEAに組み込んだ。例えば、カソードとしての、該真空被覆した電極の性能をもっぱら明らかにするために、MEAを、アノードとしてゴアプリメア(Gore PRIMEATM)膜電極アセンブリーを使用して製造し、また該真空被覆した電極をアノード半電池として特徴付けする際には、上記と逆にした。このゴアプリメア膜電極アセンブリーは、堆積量0.1mg Pt cm-2を示し、また該実験用のMEAは、30μmのゴアセレクト(GORE SELECTTM) (950 EW)パーフルオロ化膜を使用して、全ての場合において、膜電極アセンブリーを製造した。
【実施例4】
【0034】
燃料電池およびターフェル性能テスト:カソードおよびアノードとしての、実験用電極の性能を明らかにするために、H2/空気燃料電池をテストし、分析した。25 cm2なる電極活性領域および30μゴアセレクト膜を含むこれらのMEAを、標準半電池としてELATガス拡散媒体を使用して、標準的な燃料電池反応設備に取り付け、かつ標準的圧縮レベルにて、締結した。この燃料電池のテストは、TX州ブライアントのグローブテック社(Globetech, Inc.)から市販品として入手できる燃料電池ステーションを使用して行った。夫々103.43/103.43 kPaおよび206.85/206.85 kPaゲージ(15/15 psigおよび30/30 psig)のアノードおよびカソードを使用した、加圧実験については、該電池温度を約80℃に設定し、アノードおよびカソード供給原料を、約60-70℃および85℃にて加湿し、かつH2および空気に対する流量を、夫々化学量論値の2/3.5倍に設定した。幾つかのテストにおいては、H2および空気それぞれに対して、500-1000標準cm3/分なる一定流量を使用した。大気圧下での実験に関連して、該電池温度および反応試薬の加湿温度は、約60℃に設定した。電池性能は、種々の作動時間(times on stream; TOS)にて、評価した。
【0035】
燃料電池性能分析:図1は、カソードおよびアノードとして使用した、Pt EB-PVD により触媒作用を付与したELATガス拡散媒体型実験用電極の、206.85kPaゲージ(30 psig)電池圧における、分極性能を示す図である。使用したこのMEAは、ゴアプリメア膜電極アセンブリー(アノードまたはカソード)であった。図2および3は、カソードおよびアノードとして使用した、該Pt-スパッタリングで製造した実験用電極に関する、(種々の電池圧力における)同等なグラフである。これらグラフから得られる分極性能は、このPt蒸着による電極が、カソードおよびアノード動作両者に対して、該スパッタリングによる電極に比して、優れた性能を示すことを示唆している。
【0036】
図4および5は、両真空触媒化技術間の、性能のサイドバイサイド(side-by-side)比較の結果を示す図である。カソードとして使用する場合、本発明のPVDにより触媒作用が付与された電極は、全分極カーブに渡り、即ちOCV、活性化領域、オーミック領域および物質輸送領域に渡り、該スパッタリングにより触媒作用の付与された電極(図4)と比較して、改善された性能を示した。例えば、0.6Vにおいて、カソードとして動作する該PVD半電池を含む該MEAは、約400mA cm-2を生じ、0.889VなるOCVをもち、これに対して、該スパッター系は、60-100mA cm-2および0.779-0.810VなるOCV(即ち、4倍低い性能)を示した。該スパッター系に関する補償された(IR-フリー)性能は、全電池電位に対するカーブに従うが、このことは、該制御電極がカソード半電池であったことを示している。
【0037】
図5は、同様な分析結果を示すが、アノードとして、真空蒸着電極を使用した。ここでは、該分極カーブのOCVおよび触媒領域は、両系について匹敵するものであった(両者の場合における、カソードとして動作する基準カソードにより予想されるように)が、該スパッター電極を含むこのMEAの、IR領域および物質輸送領域は、実質的により低い性能、即ち大きな勾配(より大きな膜抵抗およびアノードの線形分極損)およびより顕著な物質輸送作用を示すことが明らかになった。例えば、0.6Vの電池電位において、該スパッターにより形成したアノードを含むMEAは、300〜400mA cm-2を発生し、一方該PVDにより形成したアノードを含むMEAは、殆ど1000mA cm-2を発生した。この場合に(実験用電極をアノードとして使用した)観測された性能における差は、殆どがアノードの分極の差によるものであり、0.6Vにおいて、該スパッターにより形成したアノードは、約240mVの分極損を生じ、これに対して該EB-PVDカソードに対する分極損は92mVであった。
ターフェル分析:EB-PVDにより製造した電極とスパッタリングにより製造した電極との間の、性能における差違を説明するために、該電極の電極触媒活性/活性化分極性能を、ターフェル分析を利用して、精査した。簡単に説明すれば、燃料電池の分極カーブは、以下に示す半経験式を使用して記載することができる:
【0038】
E= E0 - blogi - iR - meni
ここで、第一の負の項(−blogi)は、該カソードの活性化損(電極触媒/電極、即ち電荷移動に対する抵抗)を意味し、第二の負の項(-iR)は、膜抵抗、接触電位およびアノードの線形分極損によるオーミック損を表し、かつ第三の負の項(-meni)は、物質輸送分極損を表す。ターフェル分析中、該オーミックおよび物質輸送損は、通常排除され、また電極触媒パラメータは、以下の式にデータを当てはめたカーブにより測定する:
c = E + iR =E0 - blogi
【0039】
ここで、該補償された(iR-フリー)電池電位は、該分極カーブの該触媒領域に存在する可能性のある、あらゆるオーミック損を排除するのに使用される。該ターフェルの勾配bおよび該パラメータE0 (これは、交換電流密度i0と関連しており、従って固有電極触媒活性および三相境界、TPB、の長さ、即ち電極触媒的に活性なサイト数または電気化学的に活性な表面領域に対するその依存性のために、界面における分極とも関連している)を、次にカソード(制御(controlling)半電池)として使用される、該蒸着およびスパッター真空被覆により形成した電極について評価した。実験により得たターフェルカーブを、図6に示す。
【0040】
ターフェルの分析によれば、該蒸着により被覆した電極に関するターフェルの勾配は、該スパッター被覆した電極よりも大きいが、該PVDにより被覆したカソードは、該スパッターにより被覆したカソードよりも実質的に大きな電極触媒化生領域(大きなTPB)を与えた。このことは、これら両電極に関するEn値、1.145V(PVD)と0.853V(スパッタリング)とを比較することにより分かった。該スパッターにより被覆した電極に比して優れた、該PVD電極の性能は、従って該蒸着電極中の酸素を還元するための該交換電流密度i0が、該大きな電気化学的に活性な領域のために、該スパッター電極における値よりも約5倍大きいという事実を基にして説明することができる。
上記議論は、該分極カーブの該触媒領域について直接的に正しいが、該カーブの該オーミックおよび物質輸送領域において観測される性能の差違は、減じられた電極触媒活性領域とは、単に間接的に関連しているに過ぎない。該カーブの該オーミックおよび物質輸送領域において観測される性能の差違と直接関連していると考えられる因子は、例えば(より低い電流密度による)膜の低い水和度またはフラッディング(flooding)である。しかし、これら因子は、電流密度と直接関係しており、電流密度は、電極触媒領域の程度と直接関連している。
【0041】
FE-SEM分析:該真空触媒化電極の微小構造を明らかにするために、電界放射SEMを実施した。触媒化処理されていないELATガス拡散媒体のFE-SEM顕微鏡写真を、該Pt EB-PVD触媒化ELATディフーザー(diffusor)およびPtスパッター触媒化ディフーザーに関するFE-SEM顕微鏡写真と比較した。x5k〜x50kなる倍率を使用した。倍率x25kおよびx50kの写真は、構造上の差違の殆どを示していた。
該Pt触媒被覆の形態に関する有意な差違が、該EB-PVDおよびマグネトロンスパッタリング被覆技術間に観測された。該スパッターサンプルについて、該Pt粒子は、凝集体形状(図23-26)にあり、また幾つかの場合には、該粒子は融合して、大きな「融合」粒子を形成しているものと考えられ、該融合粒子は、約400〜約1000nmなる範囲の長手方向の寸法(18c、18d、図25)を有していた。これら「融合」粒子(18a、18b、図25)において、個々の粒子の外表面は、最早見ることはできなかった(図24および25の18、18aおよび18b)。
【0042】
該EB-PVD触媒化サンプルについては、該Pt粒子は、凝集体状態にあり、幾つかの場合には、該粒子(12、図17)は、融合して、パッチ(14、図17)を形成しているように思われた。しかし、個々のPt粒子(12、図17)の外表面は、該Ptスパッターサンプル中の融合粒子(図24および25の18、18aおよび18b)の外表面と比較して、容易に認識できた。更に、十分な量のロッド-状Pt粒子10(図14、15および17-22)が、該EB-PVD触媒化サンプルに観測された。これらロッド状の粒子は、該スパッター処理サンプルには観測されなかった。
当業者は、本発明の精神並びに範囲を逸脱することなしに、本発明に対して多くの改良を施すことができることを、認識するであろう。ここに記載した態様は、例示のみの目的で与えられており、本発明を何等限定するものではないと理解すべきである。本発明は、上記特許請求の範囲に規定されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上の貴金属からなる固体材料を提供すること;
前記固体材料を熱的に蒸気に転換すること;および、
前記蒸気を、真空条件下、0.3mg/cm2未満の表面密度で前記金属が前記支持体を被覆するに十分な量で、ガス透過性支持体上に堆積させること、
を含む、燃料電池電極の製造方法であって、
前記被覆支持体が燃料電池にアノードとして組み込まれた場合に前記被覆支持体が水素と酸素との水および電流への変換を触媒するに有効であって、前記表面密度が0.2mg/cm2未満である場合に前記電流が0.6Vにて900 mA/cm2以上である、前記方法。
【請求項2】
固体材料が熱的に蒸気に変換されるに効果的な条件下で前記固体材料に高出力電子ビームを当てることを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ガス透過性支持体が炭素触媒支持体である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
炭素触媒支持体が、グラファイト、炭素フィラメント束、網状構造炭素、炭素布および炭素メッシュからなる群より選ばれる材料を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
炭素触媒支持体が、炭素布および炭素、防水材料、およびそれらの組み合わせからなる群より選ばれる前記炭素布上の被覆を含む、請求項3記載の方法。
【請求項6】
防水材料がポリテトラフルオロエチレンである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
固体材料が白金を含み、
支持体を真空チャンバー内に配置すること、
固体材料を2300℃〜2600℃まで加熱し前記真空チャンバーへ触媒蒸気を供給すること、および、
前記真空チャンバー内の初力を前記蒸気が前記支持体上へ凝縮するのに十分な圧力まで下げること、を含む請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
固体材料を熱的に蒸気に変換することが高出力電子ビームを前記固体材料に当てることを含む、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
ガス透過性支持体が、含浸イオン交換媒体を含むポリテトラフルオロエチレンの複合体を含む膜を含み、前記複合体が1μmの厚さを有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
固体材料が、周期律表の第IVA、VA、VIA、VIIA、VIIIA、VIIIB、VIIICおよびIB属金属から選ばれる金属を含む、請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
固体材料が、プラチナ、金、銀、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウムおよびこれらの組合せからなる群より選ばれる金属を含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
表面密度が0.2mg/cm2より少ない、請求項1〜11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
表面密度が0.01mg/cm2〜0.2mg/cm2である、請求項1〜11のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
支持体を固体ポリマー電解質膜とイオン連絡状態に置くことを含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
固体ポリマー電解質膜を支持体の間にサンドイッチ状に挟むことにより膜電極アセンブリーが作製される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項記載の方法によって得られる電極。
【請求項17】
請求項16記載の電極であって、0.6Vの電池電位で、カソードとして動作する前記電極半電池を含むMEAが400mA/cm2以上を発生させ得る、前記電極。
【請求項18】
請求項16記載の電極であって、0.6Vの電池電位で、カソードとして動作する前記電極半電池を含むMEAが800mA/cm2以上を発生させ得る、前記電極。
【請求項19】
請求項16記載の電極であって、0.6Vの電池電位で、カソードとして動作する前記電極半電池を含むMEAが1000mA/cm2以上を発生させ得る、前記電極。
【請求項20】
300cm2以上の電気触媒活性領域を含む、請求項16〜19のいずれか1項記載の電極。
【請求項21】
少なくとも部分的にロッド状構造体を含む電気触媒活性領域を含み、前記ロッド状構造体が少なくとも10kの倍率で視覚化できる、請求項16〜20のいずれか1項記載の電極。
【請求項22】
被覆が外表面を有する電気触媒の粒子を含み、電気触媒活性領域が前記粒子の前記外表面の大部分を含んでいる、請求項16〜21のいずれか1項記載の電極。
【請求項23】
請求項16〜22のいずれか1項記載の支持体を含む膜電極アセンブリー。
【請求項24】
支持体の全表面領域がイオノマー膜とイオン連絡している、請求項16〜23のいずれか1項記載の電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2011−253825(P2011−253825A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168971(P2011−168971)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【分割の表示】特願2000−510909(P2000−510909)の分割
【原出願日】平成10年9月11日(1998.9.11)
【出願人】(504272132)ゴア エンタープライズ ホウルディングス インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】