説明

電気ごて

【課題】 本発明の目的は、長期間使用しても、経時的にヒーター温度が所望温度に上がり難くなることのない電気ごてを提供することにある。
【解決手段】 本発明の電気ごては、銅からなる本体3と本体3の表面に施した磁性体製金属層4とを有するヒーター部2と、該ヒーター部2の外周に設けた誘導加熱用コイルとを有する電気ごて1であって、電気ごて1は本体3と磁性体製金属層4との間に、放電被覆加工により形成されかつ磁性体製金属層4と同質のアンカー層5を有していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半田付けに使用する電気ごてに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、プリント基板に電子部品等を搭載する場合、半田による接続が一般的である。そしてこの半田接続を行う工具として、電気ごてがよく用いられる。
この電気ごてには、通電によりヒーターを加熱して発熱させるものに加えて、昨今で高周波誘導加熱によりヒーター部を加熱する方式のもの(特許文献1)も用いられるようになってきている。
【0003】
【特許文献1】特開平6−203942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで特許文献1に開示されている発明は、ヒーター部の本体(内側)を銅により形成し、その外側にキューリー温度を有するニッケル、亜鉛及び鉄の合金層を設けたものである。
しかしながらこの構造の場合、長期に亘ってこの電気ごてを用いていると、経時的にヒーター温度が所望温度に上がり難くなる、という問題がある。
その理由を推測すると、内側の銅と外側の合金層の界面が、両者の熱膨張係数の差が一因となって、経時的に剥がれ、その結果、誘導加熱により外側の合金層で生じた熱が、内側の本体部分である銅に伝わり難くなって、ヒーター温度が所望温度に上がり難くなったのではないか、と考えられる。
【0005】
上記問題に鑑み本発明の目的は、長期間使用しても、経時的にヒーター温度が所望温度に上がり難くなることのない電気ごてを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成すべく本発明の請求項1記載の電気ごては、銅からなる本体と該本体の表面に施した磁性体製金属層とを有するヒーター部と、該ヒーター部の外周に設けた誘導加熱用コイルとを有する電気ごてであって、該電気ごては前記本体と前記磁性体製金属層との間に、放電被覆加工により形成されかつ前記磁性体製金属層と同質のアンカー層を有していることを特徴とするものである。
【0007】
このようにしてなる請求項1記載の電気ごてによれば、ヒーター部本体の銅と磁性体製金属層との間に、放電被覆加工(SSD放電被覆:Spark Shot Deposition)により形成され、しかも前記磁性体製金属層と同質のアンカー層が設けられているため、本体の銅の部分と、この表面に形成されたアンカー層及び磁性体製金属層のいずれもが剥離し難くなる。
具体的には、本体(銅製)とアンカー層は、アンカー層が前記放電被覆加工により銅からなる本体表面に形成(溶着)されたものであるため、銅に、例えば、放電ワイヤとして鉄を用いた場合、放電により溶融した鉄が銅に溶け込むため最初に銅―鉄合金層が形成されることもあって、銅本体とアンカー層の結合力は極めて強い。
【0008】
加えて、アンカー層とこのアンカー層上に形成される磁性体製金属層は同質、具体的にはアンカー層が鉄製であれば、磁性体製金属層は鉄製あるいは鉄合金製、という関係であるため、両者の熱膨張係数は極めて近い。その結果、長期間この電気ごてを使用していても、各層がその界面で剥離する恐れが少なくなる。よって長期間使用していても、誘導加熱により発熱する磁性体製金属層で生まれた熱が確実に銅製の本体に伝わり、ヒーター本体が所望温度に上がり難くなる、という恐れを大幅に低減させることができる。
尚、本発明でいう「磁性体製金属層と同質のアンカー層」とは、磁性体製金属層とアンカー層の金属組成が同一組成のものはいうに及ばず、その組成比が多少異なっていても組成金属名が同じく、かつその熱膨張係数がほぼ同じものも含まれるものとする。
【発明の効果】
【0009】
以上のように本発明によれば、長期間使用しても、経時的にヒーター温度が所望温度に上がり難くなることのない電気ごてを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に図を用いて本発明の電気ごての一実施形態例を詳細に説明する。
図1は、本発明の電気ごての一実施形態例を示す要部の一部断面概略正面図、より具体的には、電気ごての先端のヒーター部の一部断面概略正面図、図2はそのヒーター部の一部断面拡大図である。
尚、前述したように図1、図2ともその一部を断面図にしたのは、内部の構成を判り易くするためである。
図1、図2に示す電気ごて1は、誘導加熱方式のヒーターを採用しているため、電気ごて1のヒーター部2は、銅製の本体(内部)3の外方に磁性体である鉄製の被覆、具体的には、鉄メッキの磁性体製金属層4が設けられている。
【0011】
そして本発明の電気ごて1の特徴は、この本体3と磁性体製金属層4との間に、放電被覆加工により形成された磁性体製金属層4と同質のアンカー層5が設けられている点にある。
このようにアンカー層5が放電被覆加工により本体3の表面に形成されているため、例えば、アンカー層5として鉄を用いた場合には、溶融した鉄が銅製の本体3に溶着し、本体3との界面に鉄―銅合金層がまず形成され、その上に鉄層が形成された状態になっており、その結合力は極めて大きい。
他方、アンカー層5とこのアンカー層5上に、例えば、メッキ法で形成された磁性体製金属層4とは、お互いに同質であるため、その熱膨張係数もほぼ近い値になっている。それ故、長期間使用していても両者の界面が、その熱膨張係数の差が原因で剥離する、という恐れが少なくなる。
よって本発明の電気ごて1は、長期間使用しても、ヒーター本体が所望温度に上がり難くなる、という現象が起こり難くなる。
【0012】
ところで図1、図2に示す電気ごて1のヒーター部2の右側に巻かれている電線6は、その耐熱性が、例えば、400℃以上である電線で、おおよそ20ターン前後巻かれて誘導加熱用コイル(以下単にコイルという)を形成している。具体的には、この電線6は銅導体の表面を、耐熱性に優れた絶縁被覆材であるガラス材やセラミックス材で覆って、その耐熱特性を400℃以上に高めたものである。
またコイルが形成されている部分にあって、コイルとヒーター部2の表面との間には優れた耐熱性絶縁材であって熱放散性の良いガラス繊維やセラミックス繊維を、テープまたは編組状にした耐熱性座床7が形成されている。
さらにコイル上にはガラス、セラミックスあるいは酸化ベリリウム等からなる耐熱被覆層8が施され、前記耐熱性座床7と耐熱被覆層8とでコイルを電気ごて1のヒーター部2にしっかりと固定するようになっている。
尚、これら耐熱性座床7や耐熱被覆層8は必ずしも必要ではなく、省略することもできる。
【0013】
図3は、銅製の本体3の表面にアンカー層5を形成する方法を示す概略図である。
図3に示すようにアンカー層5は、本体3を一方の電極にし、例えば、鉄製の線状体10を他方の電極にして、これに高周波パルス電源11を結線する。
このようにして線状体10の鉄を本体3の銅表面に打ち込み溶着させ、アンカー層5を設ける。このようにしてアンカー層5を形成したため、本体3とアンカー層5の界面では本体3の銅とアンカー層5の鉄が溶着して合金層を形成する等、その結合力は前述したように極めて強くなっている。因みに、図3に示す方法は(SSD放電被覆:Spark Shot Deposition)という。
またアンカー層5の上に設ける磁性体製金属層4は、通常、メッキ法で形成される。
【0014】
ここで、磁性体製金属層4とアンカー層5が同質という意味は、前述のように、磁性体製金属層4とアンカー層5の金属組成が同一組成のものはいうに及ばず、その組成比が多少異なっていても主たる組成金属名が同じく、かつその熱膨張係数がほぼ同じものも含まれるものとする。
もちろん、例えば、アンカー層5が鉄で、磁性体製金属層4も鉄の如く両者が全く同じ組成のものが最適であることはいうまでもない。
このような組み合わせとしては、全く組成比率の同じ鉄/ニッケルと鉄/ニッケル、鉄/亜鉛と鉄/亜鉛のようなものがある。
この他には、例えば、アンカー層5が鉄で、メッキ層である磁性体製金属層4がアンカー層5とその熱膨張係数がほぼ近ければ、鉄合金、すなわち、鉄/ニッケルとか鉄/亜鉛であってもよいし、同じ鉄/ニッケルや鉄/亜鉛同士であって、かつその組成が多少違っているものでもよい。
【0015】
ところで磁性体製金属層4とアンカー層5の厚さは、その製法に依存するため、磁性体製金属層4は数10ミクロン〜数100ミクロン、一方、アンカー層5の厚さは数ミクロン〜数10ミクロン程度である。
【0016】
このようにしてなる本発明の電気ごて1では、コイルにパルス電流が流されると本体3の表面の磁性体製金属層4が励磁されて発熱し、これがアンカー層5、本体3へと熱伝導し、最終的には本体3を、使用する半田の溶融温度以上へと昇温するようになっている。
【0017】
ところで、前述した本発明の電気ごて1を、通常の誘導加熱方式の電気ごてとして使用してもよいが、この他にも一例として、この電気ごて1のヒーター部2と反対側に圧電素子の如き超音波発生源を抱かせて、超音波付きの電気ごてにすれば、この電気ごて1を鉛フリー半田を用いた半田付けに使用する際極めて有効である。
その理由は、溶融状態の鉛フリー半田に超音波を加えると、その表面張力を低下させることができ、その結果、溶融状態の鉛フリー半田の流動性が増し、濡れ性の向上を図ることができる、といわれているからである。
また一説には、超音波は接合体表面の酸化被膜を破壊することで濡れ性を向上させている、ともいわれている。
いずれにせよ超音波を加えることで接合面の濡れ性が向上し、特別にフラックスを用いずとも配線基板の如き装着物に電子部品の如き被装着物を高い接合強度で接合することができる。
【0018】
以上に述べたように本発明によれば、長期間使用しても、経時的にヒーター温度が所望温度に上がり難くなることのない電気ごてを提供するができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の電気ごての一実施形態例を示すもので、電気ごてのヒーター部の一部断面概略正面図である。
【図2】図1に示す電気ごてのヒーター部の一部断面拡大図である。
【図3】図1、図2に示す電気ごてにあって、アンカー層を形成する方法の一実施形態例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0020】
1 電気ごて
2 ヒーター部
3 本体
4 磁性体製金属層
5 アンカー層
6 電線
7 耐熱性座床
10 線状体
11 高周波パルス電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅からなる本体と該本体の表面に施した磁性体製金属層とを有するヒーター部と、該ヒーター部の外周に設けた誘導加熱用コイルとを有する電気ごてであって、該電気ごては前記本体と前記磁性体製金属層との間に、放電被覆加工により形成されかつ前記磁性体製金属層と同質のアンカー層を有していることを特徴とする電気ごて。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−142849(P2010−142849A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−324076(P2008−324076)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(507227968)株式会社IJR (4)
【Fターム(参考)】