説明

電気めっき用前処理剤、電気めっきの前処理方法及び電気めっき方法

【解決手段】(A)トリアゾール化合物、ピラゾール化合物、イミダゾール化合物、カチオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選ばれる1種又は2種以上の吸着防止剤、及び(B)塩化物イオンを必須成分とする水溶液であることを特徴とする電気めっき用前処理剤。
【効果】本発明によれば、下地銅とレジストとの密着性を阻害せず、また、下地銅と電気銅めっき皮膜との密着性を阻害しない電気めっき用前処理剤を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に銅皮膜の上に回路形成のためのレジスト(インク又はドライフィルム)が施されているプリント配線板の前処理用として好適な電気めっき用前処理剤、電気めっきの前処理方法及び電気めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板には、両面プリント配線板や多層プリント配線板があり、それらには層間に回路を形成するためのビアホールやスルーホールが設けられる。上記ビアホールやスルーホールには、層間の導通をとるために無電解銅めっきが施され、また基板表面には回路を形成するためのレジストが形成される。その後、基板を前処理した後、電気銅めっきを施し、導体として必要な銅の厚さを確保している。
【0003】
上記レジストは、特にアルカリ性で剥離するように設計されているため、電気銅めっきの前処理に用いる前処理剤は中性又は酸性、特に酸性とすることが多い。従来の酸性前処理剤は、一般的に界面活性剤と無機酸又は有機酸とを含んでいる。酸性前処理剤は、電気銅めっきを行う前にビアホールやスルーホール内へ濡れ性を付与したり、銅又は銅合金表面の汚れを除去したりするために使用されることが多い。
【0004】
回路の下地銅皮膜(無電解めっき銅及び銅箔)は、レジストを現像するときの薬品種、洗浄性及び乾燥むらなどによって表面が酸化され、該酸化物によって電気銅めっき皮膜と下地銅皮膜との密着性が阻害されることがあった。
【0005】
今までの酸性前処理剤では、銅表面の酸化皮膜に対する洗浄効果が弱いと考えられており、そのため、より優れた洗浄効果を得るため、酸化皮膜を強力に除去する前処理剤の開発が求められていた。しかし、あまりに強力に洗浄すると、今度は下地銅とレジストとの密着性が悪くなり、レジストが剥離してしまうという問題が生じていた。
【0006】
なお、本発明に関連する先行技術文献としては、下記のものが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2604632号公報
【特許文献2】特開平3−191077号公報
【特許文献3】特開2001−089882号公報
【特許文献4】特許第4208826号公報
【特許文献5】特開2009−132967号公報
【特許文献6】特開平10−212593号公報
【特許文献7】特開2005−113162号公報
【特許文献8】特許第4090951号公報
【特許文献9】特開2005−333104号公報
【特許文献10】特開2000−104177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、下地銅とレジストとの密着性及び下地銅と電気銅めっき皮膜との密着性を阻害しない電気めっき用前処理剤、電気めっきの前処理方法及び電気めっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、従来考えられていたような強力な洗浄を行うのではなく、密着性への悪影響が大きいレジスト溶出成分が下地銅に吸着する前に、密着性への悪影響が小さい吸着防止剤成分を先に下地銅に吸着させて洗浄することによって、上記目的を達成できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
従って、本発明は、下記電気めっき用前処理剤、電気めっきの前処理方法及び電気めっき方法を提供する。
請求項1:
(A)トリアゾール化合物、ピラゾール化合物、イミダゾール化合物、カチオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選ばれる1種又は2種以上の吸着防止剤、及び
(B)塩化物イオン
を必須成分とする水溶液であることを特徴とする電気めっき用前処理剤。
請求項2:
前記(A)成分が、カチオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1記載の電気めっき用前処理剤。
請求項3:
前記(A)成分が、両性界面活性剤であることを特徴とする請求項2記載の電気めっき用前処理剤。
請求項4:
更に、(C)ノニオン性界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の電気めっき用前処理剤。
請求項5:
更に、(D)水溶性のエーテル類、アミン類、アルコール類、グリコールエーテル類、ケトン類、エステル類及び脂肪酸類から選ばれる1種又は2種以上の溶剤を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の電気めっき用前処理剤。
請求項6:
上記(D)成分が、水溶性のエーテル類、アルコール類、ケトン類、エステル類及び脂肪酸類から選ばれる1種又は2種以上の溶剤を含有することを特徴とする請求項5記載の電気めっき用前処理剤。
請求項7:
更に、(E)酸を含有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の電気めっき用前処理剤。
請求項8:
更に、(F)酸化剤を含有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載の電気めっき用前処理剤。
請求項9:
請求項1乃至8のいずれか1項記載の電気めっき用前処理剤に被処理物を浸漬することを特徴とする電気めっきの前処理方法。
請求項10:
請求項1乃至8のいずれか1項記載の電気めっき用前処理剤に被処理物を浸漬し、かつ超音波処理を行うことを特徴とする電気めっきの前処理方法。
請求項11:
請求項1乃至8のいずれか1項記載の電気めっき用前処理剤に被処理物を浸漬し、かつ電解処理を行うことを特徴とする電気めっきの前処理方法。
請求項12:
請求項9乃至11のいずれか1項記載の前処理方法を用いることを特徴とする電気めっき方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電気めっき用前処理剤は、下地銅とレジストとの密着性を阻害せず、また、下地銅と電気銅めっき皮膜との密着性を阻害しない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例における下地銅とめっき皮膜との密着性評価の方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の電気めっき用前処理剤は、
(A)トリアゾール化合物、ピラゾール化合物、イミダゾール化合物、カチオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選ばれる1種又は2種以上の吸着防止剤、及び
(B)塩化物イオン
を必須成分とする水溶液である。
【0014】
(A)吸着防止剤
本発明の(A)吸着防止剤は、金属表面に優先して吸着し、レジスト溶出成分の金属表面への吸着を抑制する働きをするものである。本発明の(A)吸着防止剤は、トリアゾール化合物、ピラゾール化合物、イミダゾール化合物、カチオン性界面活性剤及び両性界面活性剤であり、これらは1種単独でも2種以上を併用して使用してもよい。本発明の(A)成分の分子量(重合体の場合は、重量平均分子量を表す)は、1,000以下であることが好ましく、特に60〜900であることが好ましい。
【0015】
上記トリアゾール化合物として具体的には、トリアゾール、ベンゾトリアゾール、メチルベンゾトリアゾール、アミノトリアゾール、アミノベンゾトリアゾール、ヒドロキシベンゾトリアゾール等を挙げることができる。上記ピラゾール化合物として具体的には、ピラゾール、ジメチルピラゾール、フェニルピラゾール、メチルフェニルピラゾール、アミノピラゾール等を挙げることができる。また、上記イミダゾール化合物として具体的には、イミダゾール、メチルイミダゾール、フェニルイミダゾール等を挙げることができる。
【0016】
上記カチオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルトリメチルアンモニウム型、ジアルキルジメチルアンモニウム型、トリアルキルメチルアンモニウム型、テトラアルキルアンモニウム型、ベンジル型、ピリジニウム型、ジアンモニウム型、アミン塩型等を挙げることができる。また、上記両性界面活性剤としては、例えば、アミンオキシド型、ベタイン型、イミダゾリン型、アミノジ酢酸型、アラニン型、グリシン型、硫酸エステル型、スルホン酸型、リン酸エステル型等を挙げることができる。
【0017】
本発明の(A)成分としてトリアゾール化合物、ピラゾール化合物、イミダゾール化合物を用いる場合、その濃度は0.01〜200g/Lであることが好ましく、特に0.05〜10g/Lであることが好ましい。0.01g/L未満の場合、吸着量が少なすぎて本発明の効果が得られないおそれがある。一方、200g/Lを超えると、レジストが剥離するおそれがあり、また、経済性も低下する。
【0018】
また、本発明の(A)成分としてカチオン性界面活性剤、両性界面活性剤を用いる場合、その濃度は0.01〜200g/Lであることが好ましく、特に0.5〜10g/Lであることが好ましい。0.01g/L未満の場合、吸着量が少なすぎて本発明の効果が得られないおそれがある。一方、200g/Lを超えると、レジストが剥離するおそれがあり、また、経済性も低下する。なお、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤としては、市販品を使用することができる。
【0019】
(B)塩化物イオン
本発明において、(B)塩化物イオンは、金属の結晶粒界に吸着することで酸による金属表面の洗浄性能の均一性を向上させる働きを有する。塩化物イオンを供給する化合物としては、塩酸、塩化アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化物イオンを含有するカチオン性界面活性剤(カチオン染料を含む)、オキソ塩化物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、上記塩化物イオンを供給する化合物は、1種単独でも2種以上を併用して使用してもよい。
【0020】
本発明の前処理剤中の塩化物イオンの濃度は、0.01〜200g/Lであることが好ましく、特に0.04〜100g/L、とりわけ0.2〜50g/Lであることが好ましい。0.01g/L未満の場合は、洗浄性能が得られないおそれがあり、一方、200g/Lを超えると、下地銅が変色するおそれがあり、また、経済性も低下する。
【0021】
本発明において、上記(A)及び(B)成分が溶液中で共存することで、後工程の電気めっきによる皮膜の密着性が向上する効果がある。これは、(A)成分が、レジスト溶出成分の金属表面への吸着を抑制し、(B)成分が銅を有する基板表面を効果的に洗浄することで、銅−銅間の密着性が向上するものである。
【0022】
(C)ノニオン性界面活性剤
本発明の前処理剤は、上記(A)及び(B)成分に加えて、(C)ノニオン性界面活性剤を含有することが好ましい。ノニオン性界面活性剤は、被処理物の濡れ性を高め、吸着効果と洗浄効果を向上させることができる。ノニオン性界面活性剤としては、アルキルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型、アルキルアミン型、アルキルアミド型、多価アルコールエーテル型、脂肪酸エステル型、POE多価アルコール脂肪酸エステル型、多価アルコール脂肪酸エステル型、アセチレングリコール型、ポリオキシアルキレン、ポリオキシエチレンで平均HLB値が10〜18であるノニオン性界面活性剤等を挙げることができ、これらは市販品を使用することができる。
【0023】
ノニオン性界面活性剤を使用する場合、その濃度は0.1〜200g/Lであることが好ましく、0.5〜10g/Lであることがより好ましい。0.1g/L未満の場合は、濡れ性が得られないことがあり、200g/Lを超えると、レジストが剥離することがあり、また、経済性も低下する。
【0024】
なお、(A)成分としてカチオン性界面活性剤や両性界面活性剤を使用した場合は、濡れ性が十分に確保されていれば、別途(C)成分を添加しなくてもよい。
【0025】
(D)溶剤
本発明の前処理剤は、上記成分に加えて、(D)溶剤を含有することが好ましい。溶剤は、下地銅を洗浄する助剤として作用することができる。(D)成分の溶剤としては、水溶性のエーテル類、アミン類、アルコール類、グリコールエーテル類、ケトン類、エステル類、脂肪酸類が挙げられ、特にジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、エチルアミン、エタノールアミン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミン類、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、ブチルラクトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸セロソルブ等のエステル類、プロピオン酸、酪酸、ギ酸、酢酸、乳酸等の脂肪酸類等が好ましい。なお、これらの溶剤は、1種単独でも2種以上を併用して使用してもよい。
【0026】
溶剤を添加する場合、その濃度は0.01〜200g/Lであることが好ましく、特に0.1〜50g/Lであることが好ましい。0.01g/L未満の場合は、洗浄性能が向上しないことがあり、一方200g/Lを超えると、レジストが剥離することがあり、また、経済性も低下する。
【0027】
(E)酸
本発明の前処理剤は、上記成分に加えて、(E)酸を含むことが好ましい。酸は、金属上の酸化皮膜を除去する効果を向上させることができる。上記酸としては、無機酸、有機酸のいずれでもよく、例えば、無機酸としては、硫酸、硝酸、フッ酸、リン酸等が挙げられ、有機酸としては、クエン酸、ギ酸、乳酸、アルキルスルホン酸等が挙げられる。これらの酸は、1種単独でも2種以上を併用して使用してもよい。
【0028】
本発明の前処理剤が酸を含む場合、その濃度は0.1〜200g/Lであることが好ましく、特に1〜100g/Lであることが好ましい。0.1g/L未満の場合は、酸化皮膜の除去効果が得られないことがあり、200g/Lを超えると、レジストが剥離することがあり、また、経済性も低下する。
【0029】
なお、(B)塩化物イオンの供給源として塩酸を使用した場合、又は(D)溶剤として脂肪酸類を添加した場合は、酸の濃度が上記適正範囲を満たしていれば、別途(E)成分を添加しなくてもよい。
【0030】
(F)酸化剤
本発明の前処理剤には、上記成分に加えて、(F)酸化剤を添加することが好ましい。酸化剤は、下地銅を洗浄する助剤として作用することができる。酸化剤としては、例えば、過酸化物、塩化第二鉄、塩化第二銅、過酸化水素水等が挙げられるが、これらに限定されない。なお、これらの酸化剤は、1種単独でも2種以上を併用して使用してもよい。
【0031】
酸化剤を添加する場合は、その濃度は、0.01〜200g/Lであることが好ましく、特に1〜50g/Lであることが好ましい。0.01g/L未満の場合は、洗浄性能が向上しないことがあり、一方200g/Lを超えると、下地銅が変色することがあり、また、経済性も低下する。
【0032】
本発明の前処理剤は、下地銅皮膜(無電解めっき銅、銅箔など)の上に、電気銅めっきにより電気銅めっき皮膜を形成して回路を形成するために、レジスト(インク又はドライフィルム)が施され、回路のレジストパターンが形成されているプリント配線板の、電気銅めっき皮膜を形成する下地銅皮膜の表面の前処理に好適に使用される。前処理方法としては、本発明の前処理剤に被処理物を浸漬させる方法が好適に採用される。本発明の前処理剤を用いて電気めっきの前処理を行う場合、処理温度は25〜50℃であることが好ましく、特に30〜45℃であることが好ましい。25℃未満では洗浄が不十分となることがあり、50℃を超えると、レジストが剥離することがある。
【0033】
また、前処理の処理時間は1〜30分間であることが好ましく、特に2〜10分間であることが好ましい。1分間未満では十分な洗浄効果が得られないことがあり、30分間を超えるとレジストが剥離することがある。
【0034】
現像工程の水洗条件及び乾燥むら等の程度によっては、下地銅表面の酸化皮膜が強固であり、電気銅めっき皮膜との密着性を阻害することがある。そのような場合は、本発明の前処理剤に被処理物を浸漬させながら、超音波処理を行うことが好ましい。前処理時に超音波処理を併用することで、洗浄性を向上させることができる。
【0035】
同様に、下地銅表面の酸化皮膜が強固であり電気銅めっき皮膜との密着性を阻害することがあるような場合は、本発明の前処理剤に被処理物を浸漬させながら、電解処理を行ってもよい。前処理時に電解処理を併用することで、洗浄性を向上させることができる。
【0036】
本発明の電気めっき方法は、本発明の前処理剤を用いて被処理物を前処理した後、電気めっきを行う方法である。上記電気めっき方法としては、電気銅めっきが好適な対象であり、電気めっき方法としては、従来公知の電気めっき浴及び電気めっき条件を採用することができる。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0038】
評価用基板として、パナソニック電工(株)製R−1705にレジストフィルムを貼り付けたものを使用した。レジストフィルムとしては、旭化成イーマテリアルズ(株)製サンフォート(ADH252)又は日立化成工業(株)製フォテック(RY−3525)を使用した。ライン/スペースは25μm/25μmであり、電気銅めっきの膜厚は20μmとした。
【0039】
[実施例1〜24、比較例1〜18]
下記表2〜表5記載の組成になるように、各前処理剤を調製した。密着性評価は下記の方法によって行った。なお、表2〜表5において、単位は全てg/Lである。
【0040】
[下地銅とレジストとの密着性評価]
レジストフィルムを貼り付けた評価用基板を、前処理剤に浸漬し、35℃で3分間処理した。処理した評価用基板を光学顕微鏡(倍率200倍)で観察し、レジスト剥離の有無を評価した。レジストが剥離しなかった場合を密着性良好、レジストが剥離した場合を密着性不良とした。結果を表2〜表5に併記する。なお、表2〜表5中、○は密着性良好、×は密着性不良を表す。
【0041】
[下地銅とめっき皮膜との密着性評価]
下記表1の工程に従ってめっき処理を施した基板を40g/LのNaOH溶液に50℃で5分間浸漬し、レジストを剥離した。上記評価基板を光学顕微鏡で拡大(倍率200倍)し、L/S=25μm/25μmの銅配線間に、図1に示すように、カッターナイフ4の刃先を下地銅2に接触するまで入れ、めっき皮膜3を水平方向に弾いた。なお、図1中、1は基板を表す。その結果、めっき皮膜と共に下地銅が剥離して樹脂が見えた場合を密着性良好、めっき皮膜のみが剥離して下地銅が見えた場合を密着性不良とした。結果を表2〜表5に併記する。なお、表2〜表5中、○は密着性良好、×は密着性不良を表す。
【0042】
【表1】


1)〜3)は、いずれも上村工業(株)製めっき浴ビアフィリング用添加剤
【0043】
【表2】


4)日油(株)製、ベタイン型両性界面活性剤
5)(株)ADEKA製、アミンオキシド型両性界面活性剤
6)日油(株)製、アルキルトリメチルアンモニウム型カチオン性界面活性剤
7)日油(株)製、ジアルキルジメチルアンモニウム型カチオン性界面活性剤
【0044】
実施例1〜12の結果より、吸着防止剤と塩化物イオンからなる電気めっき用前処理剤は、密着性が良好であった。
【0045】
【表3】


8)日本乳化剤(株)製、ポリオキシエチレンアルキルエーテル型ノニオン性界面活性剤
9)日信化学工業(株)製、アセチレングリコール型ノニオン性界面活性剤
【0046】
実施例13〜24の結果より、吸着防止剤と塩化物イオンのほか、ノニオン性界面活性剤、酸、溶剤、酸化剤を含む場合でも密着性は良好であった。
【0047】
【表4】

【0048】
【表5】

【0049】
従来の一般的な酸性前処理剤の組成である比較例16では、下地銅とめっき皮膜との密着性不良が発生した。比較例1〜5、8〜14の結果より、単一組成の溶液では下地銅とめっき皮膜との密着性不良が発生した。比較例6,7の結果より、塩化物イオンの代わりに臭化物イオンやフッ化物イオンを添加すると、下地銅とめっき皮膜との密着性不良が発生した。従来の一般的なマイクロエッチング液の組成である比較例15の結果より、マイクロエッチングすると下地銅とめっき皮膜との密着性不良が発生した。比較例17の結果より、塩化物イオンを含まないと下地銅とめっき皮膜との密着性不良が発生した。比較例18の結果より、吸着防止剤を含まないと下地銅とめっき皮膜との密着性不良が発生した。
【0050】
[実施例25〜28]
実施例1の前処理剤を用いて、処理温度を25,30,45,50℃として前処理した以外は、上記の方法に従って密着性を評価した。結果を表6に示す。下地銅とレジストとの密着性及び下地銅とめっき皮膜との密着性は共に良好であった。
【0051】
【表6】

【0052】
[実施例29〜33]
実施例1の前処理剤を用いて、処理時間を1,5,10,20,30分間として前処理した以外は、上記の方法に従って密着性を評価した。結果を表7に示す。下地銅とレジストとの密着性及び下地銅とめっき皮膜との密着性は共に良好であった。
【0053】
【表7】

【0054】
[参考例1]
表1の工程の前処理を行う前に評価用基板を120℃で2時間熱処理し、表面を酸化させた後、実施例1の前処理剤を用いて上記の方法に従って下地銅とめっき皮膜との密着性を評価した。結果を表8に示す。
【0055】
[実施例34]
表1の工程の前処理を行う前に評価用基板を120℃で2時間熱処理し、表面を酸化させた後、表1の工程の前処理時において、評価用基板を実施例1の前処理剤に浸漬しながら超音波処理を行った以外は、上記の方法に従って下地銅とめっき皮膜との密着性を評価した。結果を表8に示す。
【0056】
[実施例35]
表1の工程の前処理を行う前に評価用基板を120℃で2時間熱処理し、表面を酸化させた後、表1の工程の前処理時において、評価用基板を実施例1の前処理剤に浸漬しながら電解処理(0.5V)を行った以外は、上記の方法に従って下地銅とめっき皮膜との密着性を評価した。結果を表8に示す。
【0057】
【表8】

【0058】
参考例1の結果より、基板表面に酸化皮膜が存在すると部分的に密着不良が発生した。実施例34,35の結果より、基板表面に酸化皮膜が存在する場合に、前処理時に超音波処理又は電解処理を併用すると、密着性不良は解消した。
【符号の説明】
【0059】
1 基板
2 下地銅
3 めっき皮膜
4 カッターナイフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)トリアゾール化合物、ピラゾール化合物、イミダゾール化合物、カチオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選ばれる1種又は2種以上の吸着防止剤、及び
(B)塩化物イオン
を必須成分とする水溶液であることを特徴とする電気めっき用前処理剤。
【請求項2】
前記(A)成分が、カチオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1記載の電気めっき用前処理剤。
【請求項3】
前記(A)成分が、両性界面活性剤であることを特徴とする請求項2記載の電気めっき用前処理剤。
【請求項4】
更に、(C)ノニオン性界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の電気めっき用前処理剤。
【請求項5】
更に、(D)水溶性のエーテル類、アミン類、アルコール類、グリコールエーテル類、ケトン類、エステル類及び脂肪酸類から選ばれる1種又は2種以上の溶剤を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の電気めっき用前処理剤。
【請求項6】
上記(D)成分が、水溶性のエーテル類、アルコール類、ケトン類、エステル類及び脂肪酸類から選ばれる1種又は2種以上の溶剤を含有することを特徴とする請求項5記載の電気めっき用前処理剤。
【請求項7】
更に、(E)酸を含有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の電気めっき用前処理剤。
【請求項8】
更に、(F)酸化剤を含有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載の電気めっき用前処理剤。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項記載の電気めっき用前処理剤に被処理物を浸漬することを特徴とする電気めっきの前処理方法。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれか1項記載の電気めっき用前処理剤に被処理物を浸漬し、かつ超音波処理を行うことを特徴とする電気めっきの前処理方法。
【請求項11】
請求項1乃至8のいずれか1項記載の電気めっき用前処理剤に被処理物を浸漬し、かつ電解処理を行うことを特徴とする電気めっきの前処理方法。
【請求項12】
請求項9乃至11のいずれか1項記載の前処理方法を用いることを特徴とする電気めっき方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−179085(P2011−179085A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45405(P2010−45405)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000189327)上村工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】