説明

電気分解用電極とその製造方法、ならびに水素製造装置

【課題】大表面積のNi電極表面に対しても簡便に高比表面積化が可能であり、水の電気分解時に生じる気体ガスの気泡の影響を受けにくい電気分解用電極及びその製造方法を提供する。
【解決手段】電解液を電気分解するための電極101において、基板となる電極心材と、電極心材表面に形成された複数の凸状構造体102とを有し、凸状構造体102は木の葉状の形状を有し、それぞれが電極心材表面から隆起していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気分解に用いる電極とその製造方法および水の電気分解により水素を製造する水素製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の大量消費が続き、二酸化炭素などによる地球温暖化や都市部の大気汚染が深刻になる中で、化石燃料に代わって次世代を担うエネルギー源として水素が注目されている。水素は使用後に水しか排出しないため、環境負荷の少ないクリーンなエネルギー源と考えられている。
【0003】
水素の製造に関しては、化石燃料の水蒸気改質がもっともポピュラーであるが、鉄やソーダの製造に伴う副生水素,熱分解反応,光触媒反応,微生物反応,水の電気分解反応など多数の手法が存在する。特に水の電気分解に必要な電力は様々なソースからの供給が可能なため、特定の地域に依存しないエネルギー源としても重要視されている。また、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーによる電力を用いれば、製造時の二酸化炭素排出量も極めて低レベルに抑えられる。
【0004】
水の電気分解には、電解質として固体高分子膜を用いる手法と、アルカリ性の水溶液を用いる手法の二通りが知られている。電解質に固体高分子膜を用いた固体高分子型は、電流密度を高くできるなどの長所があるが、膜が強酸性のため電極材料に炭素と貴金属しか使用できないなどの課題を抱えている。一方、電解質にアルカリ性の水溶液を用いるアルカリ型は、既に実用化から70年以上の実績を有し、経済性も高いため、大規模な水素製造装置のほとんどを占めている。
【0005】
アルカリ型の電極には、主に軟鋼に触媒活性の高いNiをめっきして使用されているが、一般的なNiめっきでは表面の凹凸が小さく、比表面積が低いため電流密度を高められない点が問題であった。この問題に対して電極表面を高比表面積化する技術として、一般的に電極表面を粗化する、ナノ金型を用いた転写めっき技術により表面にナノ構造体を有する構造体を電鋳する手法,微粒子化したNi粒子を電極化する方法(例えば、特許文献1),ナノポーラス構造体に電極となる金属を形成する手法(例えば、特許文献2)などが開発されている。また、めっき過程ではなく蒸着プロセスやナノフィラー,ナノ微粒子などのナノ構造体をドライプロセスにより表面処理する方式の開発も行われており、アークプレーティングによる電極製造が提案されている(例えば、特許文献3)。
【0006】
【特許文献1】特開2002−317289号公報
【特許文献2】特開平7−316862号公報
【特許文献3】特開2005−15818号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アルカリ型の水電気分解装置用電極に関しては電流密度を高めるための更なる高比表面積化手法の開発が強く求められている。
【0008】
アルカリ型の水電気分解用電極はある程度の面積が必要になる。そのため、ナノ金型やナノポーラス構造体の作製はプロセス数が増え、ドライプロセスでの高比表面積Ni膜の付与方式では真空装置などが別途必要になる。水電気分解型の水素製造装置の低コスト化を図るためには、単純な過程で大表面積のNi電極表面を容易に高比表面積化できるプロセスの開発が課題である。
【0009】
また単純に比表面積を高めただけでは、水の電気分解時に生じる気体ガスの気泡の付着により溶液抵抗が上昇し、電流密度を高くできないという問題や、ガス圧力により高比表面積Ni構造体が剥離するという問題があり、気泡の影響を受けにくいNi構造体の構築も課題とされる。
【0010】
本発明は、以上の問題点を踏まえ、大表面積のNi電極表面に対しても簡便に高比表面積化が可能であり、水の電気分解時に生じる気体ガスの気泡の影響を受けにくい電気分解用電極及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は電解液を電気分解するための電気分解用電極において、基板となる電極心材と、電極心材表面に形成された複数の凸状構造体とを有し、凸状構造体は木の葉状の形状を有し、それぞれが電極心材表面から隆起していることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は電解液を電気分解するための電極の製造方法において、電極心材表面に凸状構造物を形成することが可能な電解めっき液により電解めっき処理を施し、電極心材表面に凸状構造体を形成することを特徴とする。この電解めっき液としては、ひとつ以上のスルホン酸基を有する炭化水素系添加剤,脂肪族系添加剤,芳香族系添加剤を少なくとも1種含み、添加剤濃度が前記電解めっき液全量に対し0.01〜10重量%であることが好ましい。
【0013】
電極表面全体に凸状構造体を形成することで電極の比表面積を高めながら、凸状構造体の形状を木の葉状とし、それぞれが隆起しながら乱立した構造にすることで、電気分解により生じた気泡が抜けやすく、凸状構造体が剥離しにくい構造とした。さらに該凸状構造体を作製可能な電解めっき液の開発とめっき条件の確立により、電解めっきプロセスのみで高比表面積なNi電極表面の実現が可能となった。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高比表面積で気泡による剥離に強い木の葉状構造体が表面全体に形成されたNi被覆電極が電解めっきプロセスで作製可能となり、本電極を用いることにより高電流密度でアルカリ型水電気分解ができる水素製造装置が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の電気分解用電極は、基板となる電極心材と電極心材表面に形成された複数の凸状構造体で構成される。この凸状構造体は木の葉状の形状を有しており、それぞれが電極心材表面から隆起していることを特徴とする。
【0016】
本発明の電気分解用電極の部材及び作製手順について以下説明する。
【0017】
電極は表面全体に凸状の構造体を有しており、これにより高電流密度化に不可欠な高い比表面積を可能にしている。凸状構造を形成する材料としては、水を電気分解する効果があれば金属,酸化物,硫化物,ホウ化物,窒化物,リン化物のいずれでもよい。金属材料としては、例えばNi,Pd,Pt,Rh,Ir,Re,Ru,Co,Fe,Agなどの金属及びこれらの合金を用いることができる。この中でもPd,Pt,Rh,Ir,Re,Ruの白金族は水素および酸素発生に伴う過電圧が小さく、優れた触媒特性を示すが、部材コストが高く希少元素で供給リスクも大きなため、大型電極に用いることは難しい。触媒性能,部材コストに加え寿命や取り扱いやすさを考えると、凸状構造はNiで作製することが望ましい。
【0018】
凸状構造は基板となる電極心材の表面に形成する。電極心材は電気を通しやすく、アルカリ水溶液中で安定であれば、特に問題はないが、好ましい例としてはFe,Cu,Niなどの金属およびその合金が挙げられる。従来のアルカリ型水電気分解で使用される軟鋼を電極心材としてもよい。
【0019】
また凸状構造は、比表面積の向上が目的であるため電極表面全体を覆うことが望ましい。ただし、部材コスト低減のためアルカリ水溶液に浸漬しない部分,対極と対向しない部分など電気分解反応への寄与のない、もしくは寄与の小さな部位には凸状構造を形成しなくともよい。
【0020】
凸状構造の形状に関しては、基本的に高比表面積化に寄与する形状ならば特に制限はない。一般的に高比表面積化する手法として微細構造物の形成が挙げられる。微細構造物のサイズが小さくなるに従い、比表面積は向上するが、材料としての強度は低下する。比表面積を極大化するには構造物を球状にする手法が挙げられるが、この場合球状構造物間の接触が点接触になるため、構造物同士の結合が弱く剥離しやすい。次に細く長いフィラーもしくはピラーを形成する技術がある。この場合、フィラーもしくはピラーのアスペクト比を高くするに従い比表面積は向上するが、相対的に細くなるため材料強度は弱くなる。
【0021】
これより、凸状構造物は木の葉状構造をとることが好ましい。本発明における木の葉状構造とは、電極心材表面に平行な面で互いに直行する座標をx軸とy軸と規定した場合、凸状構造物の一辺をx軸とするとy軸方向の辺の長さは必ずx軸方向の長さと異なる、すなわちx軸とy軸でアスペクト比が異なる形状であり、さらに高さ方向に電極心材表面から延びる辺が曲線を描いている構造を意味する。木の葉状構造は表面に平行な面で短軸と長軸が存在するため、長軸をある程度の長さにすることにより、微細化しても材料強度を保つことが出来る。また電気化学反応ではキンクと呼ばれる構造物の端部が最も反応進行しやすい部位として知られているが、木の葉状構造では先端から曲線を描いて辺が伸びるため、直線的なピラー状の構造体に比べキンクが多く、電気化学反応に用いる電極形状として有利である。
【0022】
さらに本発明は木の葉状構造のそれぞれが電極心材の表面より隆起することを特徴とする。本特徴について詳細に述べると、本発明ではそれぞれの木の葉状構造が電極心材表面から生じ、高さ方向に成長するため、高さ方向のアスペクト比が大きくなり、また木の葉状構造間の接触が少なく、間に隙間が出来やすい。高さ方向に隙間が多い構造のため、電極心材表面近くで水の電気分解反応により生じた気泡でも留まることなく離脱することが可能となる。ナノ構造体を表面に塗布した微細構造体ではナノ構造間の接触が多く内部に気泡がたまりやすい。このため気泡の圧力により構造自体が剥離する危険がある。また気泡が接触した箇所は電極として作用しないため結果的に比表面積が減少する問題がある。本木の葉状構造では気泡が離脱しやすいため、これらの問題を解決できる。本木の葉状構造は相互に不規則に配列するため、電極の向きやアルカリ水溶液の流れによって気泡がたまる、突然の圧力変化などの偶発的なトラブルが生じても、すべての木の葉状構造物が破損する事態を防ぐことができる。
【0023】
木の葉状構造を形成する目的は比表面積の向上であるため、サイズは小さければ小さいほどよい。しかしながら、小さくなりすぎると材料強度が低下する。このため比表面積と材料強度のバランスを考慮に入れると、本木の葉状構造では短軸が5〜100nm、長軸が50〜1000nmであることが好ましく、さらに短軸が10〜50nm、長軸が100〜500nm程度であることがさらに好ましい。また、木の葉状構造の高さに関しても、高ければ高いほど比表面積の観点では有利になるが、材料強度面で不利になるため、木の葉状構造の高さは100〜10000nmであることが好ましく、500〜5000nmであることがより好ましい。
【0024】
本発明による凸状構造体は電解めっきにより形成されることを特徴とする。それぞれの凸状構造体が電極心材表面から電解めっきにより形成されるため、凸状構造体と電極心材は金属結合により接合している。このためバインダなどを使用するナノ構造体の塗布に比べ接合強度が強く、剥離しにくく、長寿命が可能となる。また本発明による凸状構造体は電解めっき水溶液を利用した電解めっきプロセス単独での製造が可能であるので、電極心材の形状の自由度が大きい。ナノ鋳型を使用したナノ構造体では板やフィルムなどの平坦な電極心材しか使用できず、また片面のみの形成となる。本発明の凸状構造体は、導体表面ならば形状も材質も特に制限はない。さらに両面でも片面でも必要に応じて、凸状構造体を形成する位置を選択できる。このため、本発明では金網や多孔体など板やフィルムより高比表面積な電極心材表面に凸状構造体を形成することにより、さらなる高電流密度化を可能に出来る。
【0025】
本発明による木の葉状構造の凸状構造体を電極心材全面に形成した電極は高比表面積であるため、従来のNiめっき電極に比べ高電流密度まで流すことが可能となり、水電気分解反応に用いた場合単位時間当たりに製造できる水素量の増大に貢献する。また、木の葉状構造が電極から直接直立して形成されているため、基板となる心材との接合強度が強く、水素発生に伴い生じる気泡の抜けもよい。このため、従来のNiめっき電極に比べ高電流密度でも過電圧を低く抑えることができ、また剥離に強いため水素製造能力を増大させながらも、電極寿命は従来のめっき電極と同等の水準を維持することが可能である。
【0026】
以上のような特徴を有する木の葉状構造の凸状構造体は、従来のめっき液および条件では作製することは困難であり、またそのほかの手段、すなわちエッチングなどによる表面粗化技術および蒸着・スパッタなどによるドライプロセスを用いても作製は困難である。木の葉状構造の凸状構造体は、基板となる電極心材表面に凸状構造物を形成することが可能な電解めっき液を用いる電解めっき処理を施すことにより初めて作製可能となる。この電解めっき液の組成は特に制限されるものではないが、スルホン酸を含む添加剤を含有することが望ましい。スルホン酸を含む添加剤の種類に関しては、電解めっき液に易溶ならばよい。ただしコスト,入手しやすさ,環境性などを考えると、スルホン酸基を有する有機化合物が好ましく、例としてはベンゼンスルホン酸,トルエンスルホン酸,フェノールスルホン酸,スルホ安息香酸,ナフタレンスルホン酸,ナフトキノンスルホン酸、および直鎖炭化水素のスルホン酸塩(ドデシル硫酸ナトリウムなど)が挙げられる。
【0027】
スルホン酸を含む添加剤の効果については、析出したNi表面に特異的に吸着し、Niイオンの析出を阻害するため、異方的にNiめっき膜が成長すると推測される。添加剤の特異吸着は、電解めっき液に含まれる添加剤の濃度に大きく影響を受ける。このため、添加剤濃度は該電解めっき液全量に対し0.01〜10重量%であることが望ましく、さらに0.1〜5重量%であることがさらに望ましい。またスルホン酸より吸着力の強いハロゲンやイオウが該電解めっき液に含まれると、添加剤の効果が弱くなる場合があるため好ましくないが、濃度によっては含まれていても構わない。
【0028】
電解めっきの条件については、特に制限はない。ただし、過度の攪拌や電解めっき液の昇温はスルホン酸を含む添加剤の特異吸着の阻害要因となるため好ましくはない。好ましい条件の例としては、攪拌を行わず、15〜40℃程度の温度で電解めっきを行うとよい。
【0029】
本発明の電気分解用電極は、様々な種類の電気分解装置で有用であり、対向して配置した水素極及び酸素極と、水素極と酸素極との間に供給される電解液を有する水素製造装置の水素極,酸素極として適用することができる。また、高電流密度化が最大の課題となっているアルカリ水溶液を電解質として用いる、アルカリ型の電気分解水素製造装置に用いることが最も効果的である。電極間に存在するアルカリ水溶液については、特に制限はないが、コストと導電性の観点から水酸化ナトリウムもしくは水酸化カリウムが好ましい。特に水酸化カリウムもしくは水酸化ナトリウムを1〜90重量%含むアルカリ水溶液が低コスト,高導電性の点からもっとも好ましい。ただし、アルカリ水溶液は空気中の二酸化炭素の存在により炭酸塩を形成し、電解質の性能が低下することから、空気との接触を極力少なくするか、電解液自体を循環させる必要がある。また電極間を狭め毛細管現象により電解液を供給する、もしくは親水層へ吸収により電解液を供給してもよい。
【0030】
さらに、本発明の電気分解用電極を水素極,酸素極に適用し、対向して配置した水素極及び酸素極と、水素極と酸素極との間に供給される電解液とを有し、水素極及び酸素極が電解液に接している面と、気体に接している面を有し、かつ、気液分離機能を有する水素製造装置とすることも可能である。この水素製造装置では、電解液を電気分解することにより発生した気体が電極の気体に接している面から放出される。電極は、電解液に接している面と気体に接している面を有した形状をとっており、一般的な例としては板状,シート状,メッシュ状,多孔質体のいずれかの形状が挙げられる。電解液を電気分解することにより発生した気体を、気体に接している面から放出するため電極には貫通孔が存在している。本発明の水素製造装置では発生した気体が、電解液と接していない面から放出されるため、溶液中に泡が生じない。このため、泡による溶液抵抗の増加,電極表面の被覆がなくなり、過電圧を低下する効果がある。
【0031】
電極に気液分離機能を付与する手法としては、電極の一方の面に疎水性の層を形成することで実現できる。この疎水層は電解液の外部への漏出を防ぎ、発生した気体を外部に放出する特性が求められる。このため層内部には1nm〜10μm程度の空間を設ける必要がある。疎水層の部材としては、黒鉛やグラファイトなどの表面に置換基を有していない炭素材料、もしくはアルキル基やフッ素基などの疎水基を含むポリマーが好ましい。作製については、既に燃料電池のガス拡散電極作製技術として一般化している、微粒子化した炭素材料をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの疎水性ポリマーをバインダとして形成する手法が最も容易である。またカーボンファイバーで作製されたメッシュ,不織布,職布,シート,ペーパーや、疎水性ポリマーで作製された多孔質体,メッシュ,不織布,職布を使用してもよい。
【0032】
電気分解で水素を製造するにあたり、必要な電力の供給源は特に制限はない。系統電源を使用してもよいし、原子力発電所や火力発電所から直接電力供給を行ってもよい。太陽電池,風力,水力など利用すれば、二酸化炭素を排出することなく、水素製造を行うことができる。またバッテリーに貯蔵した電力を利用してもよい。原子力発電や火力発電,太陽電池では、電力とともに熱も供給することができる。水の電気分解反応では温度が高くなるほど必要な電圧が低下するため、水素製造に伴うエネルギー利用効率を向上させることができる。また、原動機やエンジンなどを用いた発電機を利用した場合も、熱と電力を供給できるため効率は高くなる。
【0033】
以下、本発明を実施するための最良の形態を具体的な実施例によって説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
実施例1は本発明のアルカリ水溶液の電気分解水素製造装置に用いる電極およびその製造方法の一例である。
【0035】
図1は、本発明による電極101の断面模式図の一例である。電極101は凸状構造体102と電極心材103からなる。凸状構造体102は電極心材103と金属結合しており、木の葉状の形状を形成する。凸状構造体102は図1に示すように電極心材103から直立していることが望ましいが、傾斜していてもよい。凸状構造体102の断面構造は図1に示すように電極心材103の結合部から先端部まで同じ太さでも良いし、先端が鋭角に尖っていてもよい。凸状構造体102は電解めっき技術により電極心材103に形成する。凸状構造体102は電極心材103の任意の場所に形成可能であり、電極101の断面模式図では電極心材103の両面に凸状構造体102を形成した一例を示した。
【0036】
図2は、本発明による電極101の一例を示した走査型電子顕微鏡による表面観察像である。凸状構造体102は木の葉状の形状で互いに不規則に配列している。凸状構造体102の大きさは短軸の長さが20〜50nm程度、長軸の長さが500〜800nm程度であった。図3は、本発明による電極101の一例を示した透過型電子顕微鏡による断面観察像である。凸状構造体102は電極心材103に対して直立しており、高さは1500nm程度であった。
【0037】
電極101は凸状構造体102を形成することが可能な電解めっき液を用いる電解めっきにより作製した。ここで使用した電解めっき液は自ら調製したものであり、組成は0.5M硫酸ニッケル水溶液に、水重量に対し5重量%となるように添加剤としてドデシル硫酸ナトリウムを加えたものであった。硫酸ニッケルおよびドデシル硫酸ナトリウムは和光純薬製の特級試薬を使用した。電極心材には銅板(ニラコ製)を使用し、対極にはニッケルメッシュ(ニラコ製)を、参照極には銀/塩化銀電極(BAS製)を使用した。電解めっきは、3極で行い、−1V定電圧条件で300秒間めっきを施した。めっき終了後の電極表面は黒く、金属光沢は見られなかった。
【0038】
電極101では、銅板表面の1cm角に凸状構造体102を形成し、残りは絶縁被覆した。凸状構造体102により、電極101の単位表面あたりの比表面積は一般的なNi板より向上していることを確認するため、1M水酸化カリウム水溶液中におけるNiの酸化ピーク電荷量を比較に用いた。Niはアルカリ水溶液中で酸化させると表面に酸化ニッケルの不動体層が形成し、酸化反応が停止する。このためリニアスイープボルタンメトリー法により、開放電位からアノード側にスイープするとNiの酸化ピークが生じる。このピーク電荷量はNi表面積におおむね比例すると考えられるため、電極比表面積の比較に利用できる。
【0039】
電極101の比表面積は、市販のNi板(ニラコ製)の119倍となり、凸状構造体102の形成が比表面積の向上に寄与したことが確認できた。
【実施例2】
【0040】
実施例2では添加剤をトルエンスルホン酸(和光純薬、特級)に変更し、電解めっき処理を行った。電極心材などの材料、および電解めっき条件は実施例1と同様である。図4は、本実施例による電極104の走査型電子顕微鏡による表面観察像である。電極101と同じく、木の葉状の凸状構造体105が形成されていることが確認できた。凸状構造体105の大きさは短軸の長さが5〜20nm程度、長軸の長さが300〜800nm程度であった。ピーク電荷量測定による電極比表面積は、市販のNi板(ニラコ製)の97倍となり、凸状構造体105の形成が比表面積の向上に寄与したことが確認できた。
【0041】
〔比較例1〕
比較例1では、一般的なNi電解めっき処理として、ワット浴を使用した。浴組成は硫酸ニッケル250g/L,塩化ニッケル45g/L,ほう酸30g/Lである。すべて和光純薬製特級試薬を使用し、自ら調製した。電極心材は実施例1と同様の銅板を使用した。電解めっき条件は、2A・dm2定電流条件とした。めっき終了後の電極表面は、くすんだ金属光沢が観察された。ピーク電荷量測定による電極比表面積は、市販のNi板(ニラコ製)の2.5倍であった。
【0042】
〔比較例2〕
比較例2では、高電流密度での電解めっき処理により粗化Ni表面を形成した。浴組成は0.5M硫酸ニッケル(和光純薬、特級)である。電極心材は実施例1と同様の銅板を使用した。電解めっき条件は、20A・dm2定電流条件とした。めっき終了後の電極表面は、黒色であり、わずかに金属光沢が観察された。ピーク電荷量測定による電極比表面積は、市販のNi板(ニラコ製)の47倍であった。
【0043】
〔比較例3〕
比較例3では、微細孔直径が平均30nm、孔深さが10μmの陽極酸化アルミナを鋳型としてNiめっきを行うことにより、微細なNi柱状構造体を作製した。作製方法としては、まず電解めっき用のシード層として陽極酸化アルミナ表面にNiを無電解めっきにより約20nm程度析出させた。無電解めっき浴液は上村工業製のNPR−4液を使用した。次に比較例1で使用したワット浴により、陽極酸化アルミナの微細孔内部にNiを析出させた。めっき条件は比較例1と同様である。その後、陽極酸化アルミナを1M水酸化カリウム水溶液により溶解させ、微細柱状構造をとるNi電極を製造した。めっき終了後の電極表面は、金属光沢を有し、柱状構造に起因する光の干渉が観察された。ピーク電荷量測定による電極比表面積は、市販のNi板(ニラコ製)の35倍であった。
【実施例3】
【0044】
実施例3では、電極心材をNiメッシュ(ニラコ製)とした。電解めっき条件は実施例1と同様である。めっき終了後の電極表面は実施例1と同様に黒く、金属光沢は見られなかった。表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、実施例1と同様の木の葉状の凸状構造体が表面全体に不規則に配列していることが確認できた。凸状構造体の大きさは短軸の長さが30〜60nm程度、長軸の長さが300〜1200nm程度であった。
【0045】
水素製造装置用の電極としての性能を確認するため、任意の電流密度における過電圧を測定した。測定は3極式とし、対極にはニッケルメッシュ(ニラコ製)を、参照極には銀/塩化銀電極(BAS製)を使用した。溶液には1M水酸化カリウム水溶液を用いた。電流密度0.7A/cm2における過電圧は電極心材であるNiメッシュ単体に比べ0.6V低下した。また0.01A/cm2から1.0A/cm2までの電流密度領域で繰り返し使用したが、めっき膜の剥離は確認できなかった。
【実施例4】
【0046】
実施例4では、電極心材をNiメッシュ(ニラコ製)とした。電解めっき条件は実施例2と同様である。めっき終了後の電極表面は実施例1と同様に黒く、金属光沢は見られなかった。表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、実施例2と同様の木の葉状の凸状構造体が表面全体に不規則に配列していることが確認できた。
【0047】
水素製造装置用の電極としての性能を確認するため、任意の電流密度における過電圧を測定した。測定は3極式とし、対極にはニッケルメッシュ(ニラコ製)を、参照極には銀/塩化銀電極(BAS製)を使用した。溶液には1M水酸化カリウム水溶液を用いた。電流密度0.7A/cm2における過電圧は電極心材であるNiメッシュ単体に比べ0.48V低下した。また0.01A/cm2から1.0A/cm2までの電流密度領域で繰り返し使用したが、めっき膜の剥離は確認できなかった。
【0048】
〔比較例4〕
比較例4では、電極心材をNiメッシュ(ニラコ製)とした。電解めっき条件は比較例2と同様である。水素製造装置用の電極としての性能を確認するため、任意の電流密度における過電圧を測定した。測定は3極式とし、対極にはニッケルメッシュ(ニラコ製)を、参照極には銀/塩化銀電極(BAS製)を使用した。溶液には1M水酸化カリウム水溶液を用いた。電流密度0.7A/cm2における過電圧は電極心材であるNiメッシュ単体に比べ0.32V低下した。また0.7A/cm2までの電流密度測定でめっき膜は剥離し、繰り返し試験を行うことはできなかった。
【実施例5】
【0049】
実施例5では、電極心材をNi多孔体(ニラコ製)とした。電解めっき条件は実施例1と同様である。めっき終了後の電極表面は実施例1と同様に黒く、金属光沢は見られなかった。表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、実施例1と同様の木の葉状の凸状構造体が表面全体に不規則に配列していることが確認できた。凸状構造体の大きさは短軸の長さが20〜50nm程度、長軸の長さが200〜1000nm程度であった。
【0050】
水素製造装置用の電極としての性能を確認するため、任意の電流密度における過電圧を測定した。測定は3極式とし、対極にはニッケルメッシュ(ニラコ製)を、参照極には銀/塩化銀電極(BAS製)を使用した。溶液には1M水酸化カリウム水溶液を用いた。電流密度0.7A/cm2における過電圧は電極心材であるNi多孔体単体に比べ0.4V低下した。また0.01A/cm2から1.0A/cm2までの電流密度領域で繰り返し使用したが、めっき膜の剥離は確認できなかった。
【実施例6】
【0051】
実施例6は、本発明のアルカリ水溶液の電気分解水素製造装置に用いる電極を使用した電気分解水素製造装置の一例である。
【0052】
図5に水素製造装置の模式図を示す。電気分解水素製造装置201は水素極202と酸素極203、それぞれに接続するブスバー204,205および筐体206,隔壁207から成る。電解質水溶液208は1M水酸化カリウム水溶液を使用した。水素極202と酸素極203には実施例3で作製した電極を採用し、ニッケル板で出来たブスバー204および205と複数箇所でスポット接合した。隔壁207は自作したポリイミド不織布、筐体206はポリプロピレン製である。
【0053】
ブスバー204および205を直流電源につなぎ、電圧を印加したところ電気分解が起こり、それぞれ水素と酸素を得ることができた。電流密度は最大1.0A/cm2であった。また0.01A/cm2から1A/cm2までの電流密度領域で繰り返し使用したが、水素極202と酸素極203ともにめっき膜の剥離は確認できなかった。なお本装置では、ブスバーを使用せず水素極202および酸素極203を直接直流電源に接続しても同様の効果が得られた。
【実施例7】
【0054】
実施例7は、本発明のアルカリ水溶液の電気分解水素製造装置に用いる電極を使用し、かつ電極部に気液分離機能を備えた電気分解水素製造装置の一例である。
【0055】
図6に水素製造装置の模式図を示す。水素製造装置301は水素極302と酸素極303、それぞれの電極に接着した疎水層304,305、さらに集電極306,307および筐体308から成る。電解質309は1M水酸化カリウム水溶液を使用した。水素極302と酸素極303には実施例3で作製した電極を採用した。それぞれの電極の片面にカーボンブラックとPTFEディスパージョンの混合液を塗布,乾燥した後、ホットプレスすることにより疎水層304,305を形成した。電極で発生した水素および酸素は疎水層によりガスと液体に分離され、ガス成分のみ集電極306,307に設けられた貫通孔より筐体308内部のガス室310,311に放出される。ガス室310,311内部の水素ガスおよび酸素ガスは筐体308に設けられたガス放出孔312,313を通り外部に供給される。
【0056】
集電極306,307を直流電源につなぎ、電圧を印加したところ電気分解が起こり、ガス室310,311にそれぞれ水素ガスと酸素ガスを得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の電気分解用電極の断面模式図。
【図2】本発明の電極の走査型電子顕微鏡による表面観察像。
【図3】本発明の電極の透過型電子顕微鏡による断面観察像。
【図4】本発明の電極の走査型電子顕微鏡による表面観察像。
【図5】本発明の電気分解水素製造装置の模式図。
【図6】本発明の気液分離機能を備えた電気分解水素製造装置の模式図。
【符号の説明】
【0058】
101,104 電極
102,105 凸状構造体
103 電極心材
201,301 電気分解水素製造装置
202,302 水素極
203,303 酸素極
204,205 ブスバー
206,308 筐体
207 隔壁
208,309 電解質水溶液
304,305 疎水層
306,307 集電極
310,311 ガス室
312,313 ガス放出孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液を電気分解するための電極において、
基板となる電極心材と、前記電極心材表面に形成された複数の凸状構造体を有し、
前記凸状構造体は木の葉状の形状を有しており、それぞれが電極心材表面から隆起していることを特徴とする電気分解用電極。
【請求項2】
請求項1において、前記凸状構造体が主にNiからなることを特徴とする電気分解用電極。
【請求項3】
請求項1において、前記電極心材がCu,Ni,Feの少なくともひとつよりなることを特徴とする電気分解用電極。
【請求項4】
請求項1において、前記凸状構造体は、木の葉状形状の短軸の長さが5〜100nmであり、長軸の長さが50〜5000nmであり、高さが100〜10000nmであることを特徴とする電気分解用電極。
【請求項5】
請求項1において、前記電極心材の形状が平板,波板,金網,多孔体,線材,管材,フィルムのいずれかであることを特徴とする電気分解用電極。
【請求項6】
請求項1において、前記凸状構造体が前記電極心材の両面に形成されたことを特徴とする電気分解用電極。
【請求項7】
請求項1において、前記電極心材と前記凸状構造体が金属結合により接合していることを特徴とする電極。
【請求項8】
電解液を電気分解するための電極において、基板となる電極心材と電極心材表面に形成された凸状構造体からなり、前記凸状構造体が電解めっきにより形成されたことを特徴とする電気分解用電極。
【請求項9】
請求項8において、電解めっきに使用する電解めっき液が、ひとつ以上のスルホン酸基を有する炭化水素系添加剤,脂肪族系添加剤,芳香族系添加剤を少なくとも1種含み、添加剤濃度が前記電解めっき液全量に対し0.01〜10重量%であることを特徴とする電気分解用電極。
【請求項10】
請求項8において、前記電極心材の形状が平板,波板,金網,多孔体,線材,管材,フィルムのいずれかであることを特徴とする電気分解用電極。
【請求項11】
請求項8において、前記凸状構造体が電極心材の両面に形成されたことを特徴とする電気分解用電極。
【請求項12】
請求項8において、前記電極心材の形状が金網もしくは多孔体のいずれかであり、前記凸状構造体が電極心材の両面に形成されたことを特徴とする電気分解用電極。
【請求項13】
請求項8において、前記電極心材と前記凸状構造体が金属結合により接合していることを特徴とする電気分解用電極。
【請求項14】
電解液を電気分解するための電極の製造方法において、電極心材表面の任意の場所に凸状構造物を形成することが可能な電解めっき液により電解めっき処理を施し、電極心材表面に凸状構造体を形成することを特徴とする電極の製造方法。
【請求項15】
前記電解めっき液がそれぞれ少なくともひとつのスルホン酸基を有する炭化水素系添加剤,脂肪族系添加剤,芳香族系添加剤を少なくとも1種含み、添加剤濃度が前記電解めっき液全量に対し0.01〜10重量%であることを特徴とする電極の製造方法。
【請求項16】
対向して配置した水素極及び酸素極と、前記水素極と酸素極との間に供給される電解液とを有する水素製造装置であって、前記水素極及び酸素極が請求項1に記載の電気分解用電極であることを特徴とする水素製造装置。
【請求項17】
請求項16に記載の水素製造装置において、前記水素極及び酸素極が電解液に接している面と、気体に接している面を有し、かつ気液分離機能を有していることを特徴とする水素製造装置。
【請求項18】
請求項16に記載の水素製造装置において、前記電解液がアルカリ性の水溶液であることを特徴とする水素製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−144214(P2009−144214A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324162(P2007−324162)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】